説明

物理蒸着機器及び方法

基板を支持する基板ホルダと、コーティング材料の広がり流れを放出するコーティング材料源とを備える基板を被覆するための物理蒸着装置。コーティング材料の広がり流れは、コーティング材料の発散部分とコーティング材料の指向部分とを含む。本装置は、さらに、コーティング材料源と動作可能に連係するように位置決めされたブラインダ手段であって、コーティング材料の指向部分がブラインダ手段から連続的に出て、略基板ホルダに向かって進むように、コーティング材料の広がり流れを受け止めて衝当させるためのブラインダ手段を備える。コーティング材料の指向部分は、コーティング材料の広がり流れより小さい広がりを呈する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理蒸着(PVD)技法によって材料を堆積する機器及び方法に関する。より詳細には、本発明は、PVDによって基板上に1つ又は複数のコーティング層、特にナノ層コーティングであって、コーティングの周期性の向上及び/又はコーティング層間の鮮明で明瞭な境界を呈するコーティングを堆積する機器及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、PVD技法は、基板上への1つ又は複数のコーティング層の堆積に有用とされてきた。一つの例示的な種類の基板は、適切なコーティング材料で被覆されるとき、(限定なしに)チップフォーミング材料除去用途を含む金属切削(又は他の材料除去)用途における切削工具として有用な基板である。以下の文献は、被覆切削工具を製造するためのPVD技法の使用を開示している:プリッツィ(Prizzi)らに対する「被覆切削工具(Coated Cutting Tool)」についての米国特許第5,879,823号明細書。この特許を特定することに本発明の範囲を限定する意図はなく、単にPVDによるコーティングに好適な代表的物品を示すに過ぎない。この特許は、本明細書によって参照により本明細書に援用される。
【0003】
PVD技法は、コーティング材料のナノ層を堆積するために有用である。典型的には、単一のナノ層は、約100ナノメートル以下に等しい厚さを有する。コーティングナノ層のPVDによる堆積を例示する文献は、ペニッチ(Penich)らに対する「ナノ層を有する被覆切削工具及びその製造方法(Nanolayered Coated Cutting Tool and Method for Making the Same)」についての米国特許第6,660,133号明細書、及びペニッチ(Penich)らに対する「ナノ層を有する被覆切削工具及びその製造方法(Nanolayered Coated Cutting Tool and Method for Making the Same)」についての米国特許第6,884,499号明細書である。これらの特許を特定することに本発明の範囲を限定する意図はなく、単にPVDにより塗布されるナノ層のコーティングの代表例を示すに過ぎない。これらの特許は、本明細書によって参照により本明細書に援用される。
【0004】
PVD法の説明に関して、刊行物「物理蒸着(PVD)処理ハンドブック(Handbook of Physical Vapor Deposition (PVD) Processing)」ドナルド・マトックス(Donald Mattox)著(1998年)(ノイズ・パブリケーションズ(Noyes Publications)発行、米国ニュージャージー州ウェストウッド(Westwood, New Jersey)が、概してPVD法について記載している。一般に、PVD法は原子論的堆積法であり、ここでは材料が固体源又は液体源からイオン、原子又は分子の形態でスパッタ又は気化され、低圧プラズマ環境中を、多くの場合にそれと反応して基板まで輸送され、そこで凝結して成膜する。PVD法を用いて数ナノメートル〜数千ナノメートルの厚さを有する薄膜を堆積させることができる。また、PVD法を用いて、多層膜、漸変組成堆積物、極めて厚い堆積物及びフリースタンディング構造を堆積させることもできる。PVD法を用いて、蒸発材料と雰囲気環境との反応生成物を含む薄膜を堆積させることができる。雰囲気は例えば窒素であり、これは、気化したチタンと反応して基板上に窒化チタンを堆積することができる。
【0005】
ノイズ(Noyes)の刊行物はまた、様々な物理蒸着法についても記載している。これらのPVD法としては、真空蒸着又は真空蒸発;スパッタ堆積、アーク蒸着、及びイオンプレーティングが挙げられる。スパッタ堆積法では、物理的なスパッタリング法によって表面(「ターゲット」)から取り出された粒子を堆積させる。アーク蒸着は、大電流低電圧アークを用いてカソード電極(カソードアーク)又はアノード電極(アノードアーク)を気化し、蒸発材料を基板上に堆積させる。イオンアシスト蒸着(IAD)又はイオン蒸着(IVD)と呼ばれることもあるイオンプレーティングでは、堆積材料は、蒸発、スパッタリングアークエロージョン又は化学蒸気前駆物質の分解のいずれかによって気化され得る。いずれの方法も、堆積膜の同時の、又は周期的なボンバードメントを利用して堆積膜の特性を改変及び制御する。
【0006】
真空蒸着法又は真空蒸発法では、熱蒸発源からのイオン、原子又は分子は、堆積チャンバ内の残留気体分子とほとんど衝突することなく基板に到達する。真空蒸着は、通常10−4トルより高度な真空を必要とする。
【0007】
いずれのPVDコーティング技法も、基板の被覆、さらには多層状の異なる組成を含むコーティング構成による基板の被覆では成功しているが、かかる方法の改良は依然として必要とされている。これは特に、隣接するコーティング層間の境界に生じるコーティング材料のオーバーラップに関して該当する。
【0008】
より具体的には、ターゲットから外れるコーティング材料は、いくらか拡がる形で進むことがあり、例えば、コーティング材料は、余弦則分布(cosinus law distribution)により表されることもあるプルームの形態をとる。結果として、1つのターゲットから放出されるコーティング材料の一部が、ターゲットに垂直な方向から逸れ、別のターゲットからのコーティング材料の堆積範囲にオーバーラップし得ることが、一般的である。ターゲット(又はカソード)が全て同じ材料である場合、各ターゲットからのコーティング材料のオーバーラップにより、あらゆる負荷に対するコーティングの均質化が促進され、従ってこれは望ましい。しかしながら、種々の材料であるターゲットの場合、コーティング材料のオーバーラップによりコーティング材料に有害な混合が生じ、基板上に堆積される実際のナノ層コーティング構成が意図するコーティング構成と一致しないであろうため、望ましくない。
【0009】
本発明者らは、異なるコーティング材料のオーバーラップが発生すると、コーティングの特性が最適ではなくなり得るとともに、コーティング及び被覆物品の性能に影響が及び得ることを見出している。これは特に、コーティングが切削工具の性能(耐用年数を含む)に関して主要な役割を果たす被覆切削工具について該当し得る。理解され得るとおり、コーティング組成が異なると、異なる性能結果がもたらされ得る。
【0010】
さらに、層間の鮮明又は明瞭な境界が、被覆切削工具の特性に影響を及ぼし得る。層間の鮮明又は明瞭な境界は、コーティング層間に強固で明確に画定された境界を有するコーティング構成を形成することができる。こうした強固な境界は、層間で欠陥が移動するのを抑制し、例えば、薄膜の硬さ、薄膜における微小亀裂の発生に対する抵抗性及び/又は亀裂伝播に対する抵抗性などの特性が向上する。同様に、交互に並んだコーティング層の間に明瞭な境界を有し、コーティング構成の各周期の均一な周期性及び一貫性の維持を促進することが有利である。ナノ層薄膜を含み、特にナノ層間に強固で明確に画定された境界を有するコーティング構成は、種々の材料除去用途に非常に好適な種々の特性を呈する広範なコーティング構成を設計する機会を提供する。
【0011】
PVDターゲットの出力/電流設定を増加させると、成膜速度は増加する。しかしながら、出力/電流設定を増加させると、異なる組成のターゲット(すなわち、互いに異なる組成を有するターゲット)からのプルームにおけるオーバーラップが増加し、結果として層が互いに混じり合う。この互いの混合により、境界構造がそれほど明瞭(又は強固)ではなくなり、従って、特にナノ層が求められる場合、層間の特性を明確には区別できなくなる。従ってこの互いの混合により、ナノ層コーティング構造からの利点が制限される。本発明は、特にナノ層構造のコーティングにおける隣接する層の明瞭性を維持しながら、PVDターゲット(コーティング材料源)の高い出力/電流設定を可能にすることにより、この問題に対処する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、コーティング材料、特に異なる組成のコーティング材料をPVD技法によって堆積するための、改良された機器、並びに改良された方法の提供が求められているであろうことが理解され得る。
【0013】
また、特に、異なる組成物が交互に並んだナノ層若しくは順次重ねられたナノ層又はさらにはランダムに編成されたナノ層を含むコーティング構成に関して、材料のナノ層をPVD技法によって堆積するための、改良された機器、並びに改良された方法の提供も求められているといえよう。この点について、かかる機器及び技法により隣接するカソード源からのコーティング材料プルーム間のオーバーラップが低減し、従ってナノ層が、それらの間に強固で明確に画定された境界を呈する場合、有益であろう。また、かかる機器及び技法が、コーティング反応器の他の動作パラメータ(例えば、カソードに対する出力レベル、回転板の回転速度、チャンバ内の圧力及び/又は温度、並びに他の同様のパラメータ)とは独立してナノ層の厚さを制御可能なものである場合も、有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
PVDコーティング法では、各カソードからのコーティング材料プルームが反応器チャンバを通じて拡がり、コーティングが堆積する範囲(すなわち、コーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域)において互いにオーバーラップ(又は干渉)することが一般的である。かかるオーバーラップの程度は、例えば、被覆される基板(例えば、切削工具ブランク)の充填密度、並びにターゲットに対する出力/電流レベル等の動作パラメータなど、多くの要因に依存する。かかるオーバーラップは望ましくないものであり、特に、カソード(又はターゲット)が種々の材料組成を有するとき、そのナノ層コーティング構成が意図するコーティング構成と一致しないため望ましくない。より具体的には、コーティング材料プルームがオーバーラップすると、別個のナノ層間の強固で明確に画定された境界がなくなる。ナノ層間に強固で明確に画定された境界を有しないナノ層では、欠陥がナノ層間を移動することが可能である。ナノ層間に強固で明確に画定された境界を有しないナノ層はまた、厚さに一貫性がないナノ層をもたらし、さらにナノ層コーティング構成の周期性にも一貫性がなくなる。
【0015】
上記の観点から、本発明の基本となる一態様は、コーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域におけるコーティング材料プルームのオーバーラップの程度を、コーティング装置(反応器)の動作パラメータとは独立して低減するPVD機器、並びにPVD方法を提供することである。かかる低減を実現することにより、ナノ層は、それらの間に強固で明確に画定された境界を呈し、ナノ層間での欠陥の移動防止を促進する。さらに、ナノ層は、一貫した制御された厚さ及びナノ層コーティング構成における一貫した周期性を呈し得る。
【0016】
本発明は、その一形態において、基板を被覆するための物理蒸着装置である。本装置は、基板を支持するように構成された基板ホルダを含む。本装置は、さらに、コーティング材料の発散部分とコーティング材料の指向部分とを含むコーティング材料の広がり流れを放出するコーティング材料源を備える。本装置はまた、コーティング材料源と動作可能に連係するように位置決めされたブラインダ手段であって、コーティング材料の指向部分がブラインダ手段から連続的に出て、略基板ホルダに向かって進むように、コーティング材料の広がり流れを受け止めて衝当させるためのブラインダ手段も備える。コーティング材料の指向部分は、コーティング材料の広がり流れより小さい広がりを呈する。
【0017】
本発明は、その別の形態において、コーティング構成を基板に適用するための物理蒸着装置である。本装置は、基板を支持するように構成された基板ホルダを含む。本装置はまた、第1のコーティング材料の第1の発散部分と第1のコーティング材料の第1の指向部分とを含む第1のコーティング材料の第1の広がり流れを放出する第1のコーティング材料源も備える。本装置は、さらに、第1のコーティング材料源と動作可能に連係するように位置決めされた第1のブラインダ手段であって、第1のコーティング材料の第1の指向部分が第1のブラインダ手段から出て、略基板ホルダに向かって進むように、第1のコーティング材料の第1の広がり流れを受け止めて衝当させるための第1のブラインダ手段を備える。第1のコーティング材料の第1の指向部分は、第1のコーティング材料の第1の広がり流れより小さい広がりを呈する。本装置は、さらに、第2のコーティング材料の第2の発散部分と第2のコーティング材料の第2の指向部分とを含む第2のコーティング材料の第2の広がり流れを放出する第2のコーティング材料源を含む。
【0018】
本発明は、そのさらに別の形態において、コーティング材料の発散部分とコーティング材料の指向部分とを有するコーティング材料の広がり流れを放出するコーティング材料源を有する物理蒸着装置と共に使用するためのブラインダである。このブラインダは、コーティング材料の広がり流れを受け止める近位端を有するブラインダ本体を含む。ブラインダ本体は、さらに、コーティング材料の指向部分が連続的に通過する窓を画定する。ブラインダ本体は、コーティング材料の指向部分がコーティング材料の広がり流れより小さい広がりを呈してブラインダ本体を出る遠位端を有する。
【0019】
ブラインダ/ブラインダ手段に関する本発明の一態様は、ブラインダ/ブラインダ手段が、近似的に、ターゲットとターゲットに対して最接近点にある基板(例えば、切削インサート)との間の距離の少なくとも約50パーセント(50%)の範囲に及ぶことである。より好ましくは、ブラインダ/ブラインダ手段が、近似的に、ターゲットとターゲットに対して最接近点にある基板(例えば、切削インサート)との間の距離の少なくとも約75パーセント(75%)の範囲に及ぶことが望ましい。
【0020】
本発明は、そのさらに別の形態において、物理蒸着により基板の表面を被覆する方法であり、これは、基板を支持するように構成された基板ホルダを提供するステップと;コーティング材料源からコーティング材料の広がり流れを放出するステップであって、コーティング材料の広がり流れがコーティング材料の発散部分とコーティング材料の指向部分とを含む、ステップと;コーティング材料の広がり流れを受け止めるブラインダを提供するステップであって、従ってブラインダによりコーティング材料の発散部分はブラインダから出ることが妨害され、コーティング材料の指向部分はブラインダを出て略基板ホルダに向かって進むことができ、従ってコーティング材料の指向部分はコーティング材料の広がり流れより小さい広がりを呈し、その結果コーティング材料の指向部分のかなり大きな部分が基板に衝突する、ステップとを含む。
【0021】
本発明は、そのさらに別の形態において、物理蒸着により基板の表面を被覆する方法であり、これは、基板を支持するように構成された基板ホルダを提供するステップと;第1のコーティング材料源から第1のコーティング材料の広がり流れを放出するステップであって、第1のコーティング材料の広がり流れが、第1のコーティング材料の発散部分と第1のコーティング材料の指向部分とを含む、ステップと;第1のコーティング材料の広がり流れを受け止める第1のブラインダを提供するステップであって、従って第1のブラインダにより第1のコーティング材料の発散部分は第1のブラインダから出ることが妨害され、第1のコーティング材料の指向部分は第1のブラインダを出て略基板ホルダに向かって進むことができ、従って第1のコーティング材料の指向部分は第1のコーティング材料の広がり流れより小さい広がりを呈し、その結果第1のコーティング材料の指向部分のかなり大きな部分が基板に衝突する、ステップと;第2のコーティング材料源から第2のコーティング材料の広がり流れを放出するステップであって、第2のコーティング材料の広がり流れが、第2のコーティング材料の発散部分と第2のコーティング材料の指向部分とを含む、ステップと;第2のコーティング材料の広がり流れを受け止める第2のブラインダを提供するステップであって、従って第2のブラインダにより第2のコーティング材料の発散部分は第2のブラインダから出ることが妨害され、第2のコーティング材料の指向部分は第2のブラインダを出て略基板ホルダに向かって進むことができ、従って第2のコーティング材料の指向部分は第2のコーティング材料の広がり流れより小さい広がりを呈し、その結果第2のコーティング材料の指向部分のかなり大きな部分が基板に衝突する、ステップとを含む。
【0022】
本発明は、そのさらに別の形態において、物理蒸着被覆物品である。本物品は、表面を呈する基板を含み、基板の表面の少なくとも一部分にコーティングがある。コーティングは複数の元素を含み、元素の各々は、その別個の供給源から物理蒸着によって連続的に放出される。コーティングは、交互ナノ層のコーティングセットを含み、交互ナノ層のある層には、連続的に放出される元素のうちの1つが全く存在せず、交互ナノ層の別の層が、そのある交互ナノ層に存在しない元素を含有する。
【0023】
以下は、本特許出願の一部をなす図面の簡単な説明である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】基板上にコーティング構成を堆積させるための先行技術の装置の機械概略図であり、コーティング構成は、3つの離間されたターゲットを使用して堆積させる多層コーティング構成である。
【図2】基板上に多層コーティング構成を堆積させるための、3つの離間されたカソードを使用して堆積する本発明のPVD装置の第1の特定の実施形態の機械概略図であり、カソードのうちの1つのみが、それに隣接して位置決めされたブラインダのセットを有する。
【図3】図2に表されるコーティング反応器の内部の一部分の等角図であり、(垂直方向に整列した三連カソードのうちの)一対の垂直方向に整列したカソードを示し、カソードの各々に隣接して位置決めされた一対の離間されたブラインダがある。
【図4】図2に表されるコーティング反応器の三次元機械概略図である。
【図5】基板上に多層コーティング構成を堆積させるための、3つの複数の離間されたカソード又はターゲットを使用して堆積する本発明のPVD装置の第2の特定の実施形態の機械概略図であり、ターゲットのうちの1つのみが、対応する円弧状ブラインダのセットを有する。
【図6】316ステンレス鋼の旋削における実施例1A、1B及び1Cについて、ブラインダ間の間隔(ミリメートル単位で記録)が工具寿命(分単位で記録)に与える影響を示す棒グラフである。
【図7】304ステンレス鋼の固体ブロックの正面フライス削りにおける実施例2A、2B及び2Cについて、ブラインダ間の間隔(ミリメートル単位で記録)が、破損基準に達するまでのパス回数に与える影響を示す棒グラフである。
【図8】316ステンレス鋼のGP旋削における実施例3A、3B、3C及び3Dについて、ターゲットに対する電流(「強」(60アンペアの電流に等しい)、又は(「弱」40アンペアの電流に等しいのいずれかとして記録)が工具寿命(分単位で記録)に与える影響を示す棒グラフである。
【図9】チタン−アルミニウム−シリコン−クロム窒化物とチタン−アルミニウム−シリコン−窒化物との交互ナノ層を含むナノ層コーティング構成のEDS(エネルギー分散分光測定)線プロファイルであり、ブラインダがクロムターゲットに隣接し、且つクロムターゲットに対する電流が60アンペアである場合の40ナノメートルに等しい走査範囲に関して、アルミニウム(菱形)、シリコン(四角形)、チタン(三角形)及びクロム(円形)の含有量を原子百分率で示す。
【図10】透過型電子顕微鏡法(TEM)によって実施した図9のナノ層コーティング構成の顕微鏡写真であり、顕微鏡写真は20ナノメートルの凡例を含む。
【図11】予め選択された軸方向長さのブラインダアセンブリと併せて使用するときの、予め選択された寸法及び基板からの距離のコーティング材料源から放出されるコーティング材料の進行を示す機械概略図(すなわち、射出経路図(ray diagram))である。
【図12】軸方向長さが図11の装置より短いブラインダアセンブリと併せて使用するときの、予め選択された寸法及び基板からの距離(これらは図11の装置に対するものと同じ)のコーティング材料源から放出されるコーティング材料の進行を示す機械概略図(すなわち、射出経路図)である。
【図13】図11の装置と同じ軸方向長さのブラインダアセンブリと併せて使用するときの、コーティング材料源から放出されるコーティング材料の進行を示す機械概略図(すなわち、射出経路図)であり、これは、図11の装置のコーティング材料源より幅が小さく、基板から図11の装置と同じ距離に位置するコーティング材料源を有する。
【図14】図12の装置と同じ軸方向長さだが、第2の介在窓を有するブラインダアセンブリと併せて使用するときの、予め選択された寸法及び基板からの距離(図12の装置に対するものと同じ)のコーティング材料源から放出されるコーティング材料の進行を示す機械概略図(すなわち、射出経路図)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図面を参照すると、図1は、アーク気相PVD法を用いて基板上にコーティングを堆積する先行技術の装置の機械概略図を示す。先行技術の装置は、概して50として指示される。図1に示される装置50は、シェ(Hsieh)らによる「非平衡マグネトロンスパッタリングを用いたTiAlN及び多層TiN/TiAlNコーティングの堆積及び特性決定(Deposition and characterization of TiAlN and multi-layered TiN/TiAlN coatings using unbalanced magnetron sputtering)」と題される論文、「表面及び被覆技術(Surface and Coatings Technology)」第108〜109巻(1998年)、132〜137頁所収(参照により本明細書に援用される)に図示及び説明されるとおりの3軸回転ステージ制御式堆積チャンバの構想に従うものである。
【0026】
先行技術のコーティング装置50は、主回転板52(又は同様の構造)を備えるカルーセル装置を備え、主回転板52は、1つ又は複数の基板(例えば、切削工具ブランク)を担持する複数の回動自在な二次回転板(54、56、58)を支持するとともに回転させる。この装置では、主回転板52は、軸60を中心として矢印の方向(図1で見て時計回り)に回転することが可能である。各二次回転板(54、56、58)は、そのそれぞれの軸(62、64、66)を中心として、図1で見て時計回りの方向に回転することが可能である。先行技術の装置10は、三連の固定されたカソード(又はターゲット)(70、72、74)をさらに備える。
【0027】
先行技術のコーティング装置50の動作において、カソード(70、72、74)には電気的バイアスがかけられる。プラズマが発生し、それが各カソードに衝突することによりコーティング材料プルームが放出され、主回転板の範囲に向かって(又は略その方向に)送り込まれる。各コーティング材料プルームは、中心部分と周辺部分とを有する。典型的には、中心部分は、コーティング材料プルームの周辺部分よりコーティング材料の濃度が高い。さらに、以下に記載するとおり、コーティング材料プルームの中心部分は、特定のカソードに関する主被覆領域に向かって送り込まれる。コーティング材料プルームの周辺部分は、主被覆領域の外側を通り、そのカソードに関する隣接する中間被覆領域に向かって、並びにコーティング反応器の反対側の範囲に向かって送り込まれる。
【0028】
カソード70は、概して78として指示されるコーティング材料プルーム(矢印80、82、84、86、88、90、92により表される)を、略カルーセル装置の方向に放出する。コーティング材料プルーム78の中心部分(矢印84、86、88により表される)は、カソード70に関する主被覆領域(矢印94を参照)に向かって放出される。主被覆領域94は、その対応するカソード70によって放出されたコーティング材料プルーム78の中心部分を直接受け取るコーティング反応器の領域である。二次回転板54が主被覆領域にある、すなわち図1によって示される位置にあるとき、コーティング材料プルーム78の中心部分は、二次回転板54により担持される基板に直接衝突する。矢印84、86、88の破線部分によって示されるとおり、コーティング材料プルーム78の中心部分の一部は基板をコーティングチャンバの反対側の範囲に向かって通過する。
【0029】
コーティング材料プルーム78はまた、周辺部分(矢印80、82、90、92により表される)も有する。周辺部分は主被覆領域94の外側を通り、カソード70に関する主被覆領域94の両側に位置する中間被覆領域98及び100を含むコーティングチャンバの他の範囲に至る。二次回転板54が主被覆領域にあるとき、コーティング材料プルーム78の周辺部分は、典型的には、二次回転板54により担持される基板の被覆に直接的には関与しない。
【0030】
カソード72及び74の各々の動作は、カソード70の動作と同じである。カソード72及び74についての説明は、以下の簡単な考察で十分である。
【0031】
カソード72は、概して104として指示されるコーティング材料プルーム(矢印106、108、110、12、114、116、118により表される)を放出する。コーティング材料プルーム104の中心部分(矢印110、112、114により表される)は、カソード72に関する主被覆領域(矢印120を参照)に向かって放出される。コーティング材料プルーム104はまた、主被覆領域120の外側を通り、次にカソード72に関する主被覆領域120の両側に位置する中間被覆領域100及び122を含むコーティングチャンバの他の範囲に至る周辺部分(矢印106、108、116、118により表される)も有する。矢印110、112、114の破線部分によって示されるとおり、コーティング材料プルーム104の中心部分の一部は基板をコーティングチャンバの反対側の範囲に向かって通過する。
【0032】
カソード74は、概して126として指示されるコーティング材料プルーム(矢印128、130、132、134、136、138、140により表される)を放出する。コーティング材料プルーム126の中心部分(矢印132、134、136により表される)は、カソード74に関する主被覆領域(矢印144を参照)に向かって放出される。コーティング材料プルーム126はまた、主被覆領域144の外側を通り、次にカソード74に関する主被覆領域144の両側に位置する中間被覆領域98及び122を含むコーティングチャンバの他の範囲に至る周辺部分(矢印128、130、138、140により表される)も有する。矢印132、134、136の破線部分によって示されるとおり、コーティング材料プルーム126の中心部分の一部は基板をコーティングチャンバの反対側の範囲に向かって通過する。
【0033】
主回転板52により基板(二次回転板によって担持される)が回転し、主被覆領域及び中間被覆領域を出たり入ったりしながら進む。基板が主被覆領域にあるとき、基板は主に、当該の主被覆領域に対応するカソードによって放出されるコーティング材料プルームの中心部分により被覆される。しかしながら、先行技術のコーティング装置50では、各主被覆領域にある基板はまた、他のカソードにより放出されるコーティング材料プルームの周辺部分によっても被覆される。例えば、二次回転板56により担持される基板は、カソード72からのコーティング材料プルーム104の中心部分(110、112、114)によって直接被覆される。これらの基板はまた、コーティング材料プルーム126の周辺部分(矢印128を参照)及びコーティング材料プルーム78の周辺部分(矢印92を参照)によっても(間接的に)被覆される。従って、基板が主被覆領域にあっても、他のカソードから放出されたコーティング材料プルームがオーバーラップし得ることが理解され得る。
【0034】
基板が中間被覆領域に位置するとき、基板はコーティング材料プルームの中心部分のいずれによっても直接的には被覆されず、しかしコーティング材料プルームの主部分の延長部分、並びに周辺部分による間接的な被覆を受ける。例えば、基板が中間領域122にあるとき、基板は、コーティング材料プルーム104の周辺部分(矢印116、118を参照)、コーティング材料プルーム126の周辺部分(矢印128、130を参照)及びコーティング材料プルーム78の延長部分によって被覆され得る。基板が中間被覆領域にあるときに基板上に堆積するコーティング層は、中間被覆領域に起こるコーティング材料プルームの互いの混合に起因して、異なる組成を呈し得る。
【0035】
図1の先行技術の装置によって理解され得るとおり、ターゲットから外れるコーティング材料は、いくらか拡がる形で進み得る。例えば、ターゲットから外れたコーティング材料は、余弦則分布により表されることもあるプルームの形態をとり得る。結果として、1つのターゲットから放出されるコーティング材料の一部が、ターゲットに垂直な方向から逸れ、別のターゲットからのコーティング材料の堆積範囲にオーバーラップし得ることが、一般的である。ターゲット(又はカソード)が全て同じ材料である場合、各ターゲットからのコーティング材料のオーバーラップにより、あらゆる負荷に対するコーティングの均質化が促進され、従ってこれは実際のところ望ましい特徴である。
【0036】
しかしながら、種々の材料であるターゲットの場合、コーティング材料のオーバーラップの発生によってコーティング材料に有害な混合が生じ得る。かかるコーティング材料の有害な混合は、基板上に堆積される実際のナノ層コーティング構成が意図するコーティング構成と一致しないであろうため、望ましくない。コーティング材料プルームがオーバーラップすると、ナノ層間の強固で明確に画定された境界がなくなる。層間に強固で明確に画定された境界を有しないナノ層では、欠陥がナノ層間を移動することが可能である。層間に強固で明確に画定された境界を有しないナノ層はまた、厚さに一貫性がないナノ層をもたらし、さらにナノ層コーティング構成の周期性にも一貫性がなくなる。
【0037】
発明者らは、異なるコーティング材料のオーバーラップが発生すると、コーティングの特性が最適ではなくなり得るとともに、コーティング及び被覆物品の性能に影響が及び得ることを見出している。この発生は特に、コーティングが切削工具の性能(耐用年数を含む)に関して主要な役割を果たす被覆切削工具について該当し得る。理解され得るとおり、コーティング組成が異なると、異なる性能結果がもたらされ得る。
【0038】
以下の考察から明らかになるとおり、本発明は、主被覆領域、並びに中間被覆領域におけるコーティング材料プルームのオーバーラップの程度を、コーティング装置(反応器)の動作パラメータとは独立して低減するPVD機器、並びにPVD方法を提供する。かかる低減を実現することにより、ナノ層は、それらの間に強固で明確に画定された境界を呈し、ナノ層間での欠陥の移動防止が促進される。さらに、ナノ層は、一貫した制御された厚さ及びナノ層コーティング構成における一貫した周期性を呈する。
【0039】
図2を参照すると、機械概略図の形態で、概して150として指示されるPVD(アーク気相PVD方法)コーティング装置(すなわち、基板を被覆するための物理蒸着装置)の特定の一実施形態が示される。コーティング装置150は、概してシェ(Hsieh)らの論文に開示されるカルーセル装置の構想に従うものであり、カルーセルとブラインダとカソードとを含むコーティングチャンバがある。コーティング装置150は、中心軸Aを中心に矢印R(図2に示されるとき時計回り)の方向に回転する主回転板(又はステージ)152を備え、従って1つ又は複数の回転板はカソードに対して動くことが可能である。主回転板152は、三連の回動自在な二次回転板(又はステージ)154、156、及び158を担持し、二次回転板の各々は、被覆される1つ又は複数の基板(例えば、切削工具ブランク)を担持する。各二次回転板(154、156、158)は、そのそれぞれの軸を中心として時計回りの方向(図2で見たとき)に回転する。
【0040】
コーティング装置150は、さらに、三連の固定されたカソード又はターゲット(すなわち、コーティング材料源)160、162、164を備え、カソード164は、それに関連するブラインダアセンブリを有する。コーティング材料源は円形表面積を呈することが典型的であり、そこから供給源はコーティング材料プルーム(又はコーティング材料の広がり流れ)を放出する。従って、図11〜図14を参照したコーティング材料源の幅についての記載は、より小さい幅が、コーティング材料源のより小さい表面積に関連付けられることを意味する。
【0041】
本出願人は、2つ以上のカソードが、それに関連するブラインダアセンブリを有してもよいことを企図する。本出願人はまた、コーティング装置が二次回転板を使用しなくともよく、代わりに、主回転板が被覆される1つ又は複数の基板を直接担持してもよいことも企図する。1つ又は複数の基板を担持する構造(例えば、主回転板又は二次回転板)は、1つ又は複数の基板を支持するように構成された基板ホルダと見なされ得ることが理解されなければならない。
【0042】
さらに図2を参照すると、外周リップ部161を有するカソード160が、概して166として指示されるコーティング材料プルーム(矢印168、170、172、174、176、178、180により表される)を、略カルーセル装置の方向に放出する。コーティング材料プルーム166の中心部分(矢印172、174、176により表される)は、カソード160に関する主被覆領域(矢印184を参照)に向かって放出される。主被覆領域は、対応するカソードによって放出されるコーティング材料プルームの中心部分を直接受け取るコーティング反応器の領域である。二次回転板154が主被覆領域にあるとき、すなわち、図2によって示される位置にあるとき、コーティング材料プルーム166の中心部分は、二次回転板154により担持される基板に直接衝突する。この状況は、基板がコーティング材料源と動作可能に整列した状態にあるものとして特徴付けることができる。矢印の破線部分によって示されるとおり、コーティング材料プルームの中心部分の一部は、基板をコーティングチャンバの反対側の範囲に向かって通過する。
【0043】
コーティング材料プルーム166はまた、周辺部分(矢印168、170、178、180により表される)も有する。周辺部分は主被覆領域184の外側を通り、次にカソード160に関する主被覆領域184の両側に位置する中間被覆領域186及び188を含むコーティングチャンバの他の範囲に至る。二次回転板154が主被覆領域にあるとき、コーティング材料プルームの周辺部分は、典型的には、二次回転板154により担持される基板の被覆に直接的には関与しない。
【0044】
外周リップ部163を有するカソード162は、概して190として指示されるコーティング材料プルーム(矢印192、194、196、198、200、202、204により表される)を、略カルーセル装置の方向に放出する。コーティング材料プルーム190の中心部分(矢印196、198、200により表される)は、カソード162に関する主被覆領域(矢印210を参照)に向かって放出される。主被覆領域は、対応するカソードによって放出されるコーティング材料プルームの中心部分を直接受け取るコーティング反応器の領域である。二次回転板158が主被覆領域にあるとき、すなわち、図2によって示される位置にあるとき、コーティング材料プルーム190の中心部分は、二次回転板158により担持される基板に直接衝突する。矢印の破線部分によって示されるとおり、コーティング材料プルームの中心部分の一部は、基板をコーティングチャンバの反対側の範囲に向かって通過する。
【0045】
コーティング材料プルーム190はまた、周辺部分(矢印192、194、202、204により表される)も有する。周辺部分は、主被覆領域210の外側を通り、次にカソード162に関する主被覆領域210の両側に位置する中間被覆領域188及び212を含むコーティングチャンバの他の範囲に至る。二次回転板158が主被覆領域にあるとき、コーティング材料プルームの周辺部分は、典型的には、二次回転板158により担持される基板の被覆に直接的には関与しない。
【0046】
さらに図2を参照すると、外周リップ部165を有するカソード164が、概して220として指示されるコーティング材料プルーム(矢印222、224、226、228、230、232、234により表される)を、略カルーセル装置の方向に放出する。コーティング材料プルーム220の中心部分(矢印226、228、230により表される)は、カソード164に関する主被覆領域(矢印238を参照)に向かって放出される。コーティング材料の進む方向はいくらか広いため、コーティング材料プルーム220はコーティング材料の広がり流れと考えることができる。しかしながら、コーティング材料の広がり流れ(すなわち、コーティング材料プルーム)は、略基板ホルダ(例えば、カルーセル装置)の方向である。
【0047】
コーティング材料の広がり流れは2つの基本的な部分、すなわち、コーティング材料の発散部分とコーティング材料の指向部分とを有すると考えることができる。コーティング材料の発散部分は、コーティング材料源(例えば、カソード164)から放出されるコーティング材料のうち、ブラインダに衝突又は衝当する部分であり、これは以下に説明する。図2では、矢印222、224、232及び234が、コーティング材料の発散部分に相当する。コーティング材料の指向部分は、コーティング材料源から放出されるコーティング材料のうち、ブラインダに衝突又は衝当せず、代わりにブラインダをコーティング反応器の主被覆領域に向かって連続的に通過する部分である。矢印226、228及び230が、コーティング材料の指向部分に相当する。
【0048】
主被覆領域は、対応するカソードによって放出されるコーティング材料プルームの中心部分(又はコーティング材料の広がり流れのうちのコーティング材料の指向部分)を直接受け取るコーティング反応器の領域である。二次回転板156が主被覆領域にあるとき、すなわち、図2によって示される位置にあるとき、コーティング材料プルーム220の中心部分は、二次回転板156により担持される基板に直接衝突する。矢印の破線部分によって示されるとおり、コーティング材料プルームの中心部分の一部は、基板をコーティングチャンバの反対側の範囲に向かって通過する。
【0049】
カソード164は、それと動作可能に連係するように位置決めされたブラインダ手段を有する。ブラインダ手段は、コーティング材料の指向部分がブラインダ手段を連続的に出て、略基板ホルダに向かって進むように、コーティング材料の広がり流れを連続的に受け止めて衝当させる機能を果たす。ブラインダ手段は、概して240として指示されるブラインダ装置を含み、このブラインダ装置は、カソード164の近傍又は周囲に位置決めされた隣接するブラインダ242、244からなる。ブラインダとして使用するのに好ましい材料は、ステンレス鋼及び他の高温合金である。コーティング層が種々の組成を有するコーティング構成では、ブラインダ装置は、コーティング構成において最も軟質のコーティング層であるコーティング層を生成するターゲット(すなわち、コーティング材料源)を囲んでいる(又はそれと動作可能に連係している)ことが好ましい。この点について、最も軟質のコーティング層が、典型的にはコーティング構成において最も狭い(又は最も薄い)コーティング層である。しかしながら、ブラインダアセンブリはターゲットのいずれの1つ又は複数と動作可能に連係してもよいことが理解されるべきである。
【0050】
ブラインダ242、244は、それらの間に連続的な窓246(すなわち、連続的に開放されている、又は通過可能である窓又は開放部)を画定する。この実施形態において、窓はブラインダ242、244の遠位端又は終端に位置する。矢印226、228、230により表されるコーティング材料プルーム220の中心部分(又はコーティング材料の広がり流れのうちのコーティング材料の指向部分)は、コーティング装置が図2の状態にあるとき、窓246を主被覆領域238に向かって連続して通過し(又はブラインダアセンブリから連続して出て)、二次回転板156により担持される基板に衝突する(すなわち、それを直接被覆する)。
【0051】
ブラインダ242、244は、コーティング材料プルーム220の周辺部分の進行を連続的に阻止又は妨害するバリアとして機能することにより、コーティング材料プルーム220の拡散を制限する。この点について、ブラインダ242は、概して矢印222、224、232及び234により表されるとおりの、コーティング材料プルーム220の周辺部分(又はコーティング材料の広がり流れのうちのコーティング材料の発散部分)の一部の進行を連続的に阻止する。この実施形態において、コーティング材料の広がり流れは、ブラインダ242、244の平坦な表面と略平行な中心長手方向軸を有する。ブラインダは同じ形状及び寸法であることが典型的である。従って、図11〜図14を参照したブラインダの幅についての記載は、より小さいブラインダ間の幅が、コーティング材料のより小さい通過面積に関連付けられることを意味する。
【0052】
ブラインダ(242、244)は、平坦な表面がコーティング材料の広がり流れの中心長手方向軸と平行にならないような向きにされ得ることを理解すべきである。図2はまた、ブラインダ242、244が基板ホルダに対するよりコーティング材料源に対してより近いことも示している。
【0053】
コーティング材料プルームの周辺部分(又はコーティング材料の発散部分)の進行を連続的に阻止又は妨害することにより、ブラインダは、カソード(すなわち、コーティング材料源)により放出されるコーティング材料プルーム間の干渉又はオーバーラップの防止又は低減を促進する機能を果たす。例えば、プルーム220の周辺部分の一部(矢印232及び234により表される)が進んでカソード162からのコーティング材料プルーム190とオーバーラップ又は干渉することが、ブラインダ244によって妨害される。プルーム220の周辺部分の一部(矢印222及び224により表される)が進んでカソード160からのコーティング材料プルーム166とオーバーラップ又は干渉することが、ブラインダ242によって妨害される。コーティング材料プルームの干渉又はオーバーラップの低減は、本明細書に記載される利点及び利益をもたらす。
【0054】
略円形形状のカソード164の外周リップ部165は、コーティング材料プルームの拡散を制限するようには機能しないことが理解されなければならない。コーティング材料プルーム230は、図2で矢印222、224、232及び234によって示されるとおりの大きい広がりを有する。図2で矢印222、224、232及び234によって示されるとおり、外周リップ部165にはコーティング材料プルーム230の一部分を制限する効果はない。従って、カソード164の外周リップ部165はブラインダではない。これはまた、本明細書における他の特定の実施形態のカソード(コーティング材料源又はターゲット)についても当てはまる。
【0055】
図3は、図2に示した、概して150として指示されるコーティング反応器の内部の等角図である。この図では、コーティング反応器150は一対のカソード(164、164A)を備え、カソードは、図面(図3)に示されるとき垂直に整列している。カソード164は外周リップ部165を備える。カソード164Aもまた、外周リップ部165Aを備える。カソード164は対応するアノード248を有し、カソード164Aは対応するアノード248Aを有する。カソード164は、それに隣接して位置決めされた一対のブラインダ242、244を有する。ブラインダ242、244は互いに略平行であり、カソード164により発生し、且つ基板に送り込まれて衝突するコーティング材料プルームの経路の進行方向とも略平行である。カソード164Aは、それに隣接して位置決めされた一対のブラインダ(242A、244A)を有し、これらのブラインダはブラインダ242及び244の機能と同様に機能する。
【0056】
図4を参照すると、概して150として指示されるコーティング反応器が、機械等角図の形態で示される。この実施形態では、4つの直立した垂直壁(250、252、254、256)があり、壁のうち3つ(250、252、254)は、各々、垂直方向に整列した三連カソードを含む。この点について、壁252はカソード164、164A、164Bを含む。カソード164は、それに隣接して位置決めされたブラインダ242及び244を有する。カソード164Aは、それに隣接して位置決めされたブラインダ242A及び244Aを有する。カソード164Bは、それに隣接して位置決めされたブラインダ242B及び244Bを有する。壁254はカソード162、162A及び162Bを含み、壁250はカソード160、160A及び160Bを含む。コーティング反応器150が4つの壁を有するという事実は、本発明の範囲を限定するものではない。本出願人は、コーティング反応器が用途に応じて様々な数の壁を有し得ることを企図する。この点について、コーティング反応器は6つの壁又は8つの壁を有し得る。
【0057】
図5を参照すると、概して260として指示されるPVD(アーク気相PVD方法)コーティング装置の別の特定の実施形態が、機械概略図の形態で示される。コーティング装置260は、シェ(Hsieh)らの論文に開示されるカルーセル装置の構想に従う。図5は、ブラインダ(296、298)と回転板(264)とを伴うカソード(又はコーティング材料源)270を詳細に示していることを理解すべきである。しかしながら、図5は、他のカソード267、268については概略的な表示のみを示し、材料プルームは図示していない。この点について、他のカソード(267、268)の各々の動作は図2のカソード70及び74の動作と同じであり、従って他のカソードについての説明は、カソード70及び74の説明で十分である。
【0058】
コーティング装置260は、中心軸の周りに矢印(図5に示されるとき時計回り)の方向に回転する主回転板262を備える。主回転板262は複数の二次回転板を担持しているが、図5では二次回転板264のみを示し、この二次回転板264は軸266を中心に時計回り方向に回転する。図2の実施形態と同様に、コーティング装置260は複数の固定されたカソードを有する。本出願人はカソード270のみを示しており、これは、それに関連するブラインダを有するカソードである。図2のコーティング装置と同様に、主回転板は、各カソードに対応する主被覆領域と、隣接する主被覆領域の間にある中間被覆領域とを有する。
【0059】
カソード270は、概して272として指示されるコーティング材料プルーム(矢印274、276、278、280、282、284、286により表される)を、略カルーセル装置の方向に放出する。図2の実施形態に関連する記載の全般的な構想に従えば、コーティング材料プルーム270は、コーティング材料の発散部分とコーティング材料の指向部分とを有するコーティング材料の広がり流れであると考えることができる。コーティング材料プルーム272の中心部分(矢印278、280、282により表される)(又はコーティング材料の指向部分)は、カソード270に関する主被覆領域(矢印290を参照)に向かって放出される。コーティング装置150に関連して記載したとおり、主被覆領域は、対応するカソードによって放出されるコーティング材料プルームの中心部分を直接受け取るコーティング反応器の領域であり、従って主被覆領域にある基板は、コーティング材料プルームの中心部分により直接被覆される。
【0060】
コーティング材料プルーム272はまた、周辺部分(矢印274、276、284、286により表される)又はコーティング材料の発散部分も有する。ブラインダによって妨害されない限り、周辺部分は主被覆領域の外側を通過し、次にカソードに関する主被覆領域の両側に位置する中間被覆領域を含むコーティングチャンバの他の領域に至ることになる。しかしながら、ブラインダ手段であるブラインダ装置294が、コーティング材料の広がり流れを連続的に受け止めて衝当させる機能を果たし、それによりブラインダ装置からはコーティング材料の指向部分が連続的に出る。
【0061】
概して294として指示されるブラインダ装置は、主被覆領域290の近傍又は周囲に位置決めされた隣接する円弧状のブラインダ296、298からなる。ブラインダとして使用するのに好ましい材料は、ステンレス鋼及び他の高温合金である。ブラインダ296、298は、それらの間に連続的な窓300(すなわち、連続的に開放されている、又は通過可能である窓又は開放部)を画定する。窓300はブラインダ296、298の遠位端又は終端にある。矢印278、280、282により表されるとおりのコーティング材料プルーム272の中心部分は、コーティング装置が図5の状態にあるとき、窓300を主被覆領域290に向かって通過し、二次回転板264により担持される基板に衝突する。
【0062】
ブラインダは、コーティング材料プルームの周辺部分(又はコーティング材料の発散部分)の進行を連続的に阻止するバリアとして機能することにより、コーティング材料プルームの拡散を制限する。この点について、円弧状のブラインダ296は、矢印274及び276により表されるコーティング材料プルームの周辺部分の一部の進行を連続的に阻止する。円弧状のブラインダ298は、矢印284及び286により表されるコーティング材料プルームの周辺部分の一部の進行を連続的に阻止する。図2のコーティング装置に関連して上記に記載したとおり、コーティング材料プルームの周辺部分の進行を連続的に阻止することにより、円弧状のブラインダは、カソード(すなわち、コーティング材料源)により放出されるコーティング材料プルーム間の干渉又はオーバーラップの防止又は低減を促進する機能を果たす。
【0063】
オーバーラップを低減するためには、コーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域におけるコーティング材料の指向部分の幅(又は大きさ)を制御可能であることが有益である。限定なしに、コーティング装置の構成要素のサイズ及び位置を含む全体的な幾何学的形状は、コーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域におけるコーティング材料の指向部分の大きさに影響を与える。コーティング材料の指向部分をより狭く、又はより集束させるほど、隣接するコーティング材料源からのコーティング材料間のオーバーラップが低減することになるため、1つ又は複数の基板が衝突するコーティング材料の指向部分の大きさは重要である。この影響をより分かり易く説明及び記載するため、図11〜図14に4つの異なるコーティング装置を機械概略図の形態で表す。図11〜図14は二次元図面ではあるが、コーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域における三次元のコーティング材料の指向部分の大きさに対し、コーティング装置(これが三次元のコーティング材料の広がり流れを生成する)の全体的な幾何学的形状が影響を与える原理及び過程を説明するものである。
【0064】
図11は、概して400として指示されるコーティング装置の一部分を表す機械概略図(すなわち、射出経路図)である。図11は、予め選択された軸方向長さのブラインダアセンブリと併せて使用するときの、予め選択された寸法であり、且つ1つ又は複数の基板から予め選択された距離にあるコーティング材料源から放出されるコーティング材料の進行を示す。コーティング装置400は、表面404を有するコーティング材料源(例えば、カソード)402を備える。コーティング材料源402は外周リップ部403を有する。外周リップ部403の高さは、図11に示されるとおりHPLに等しい。コーティング材料源の表面の幅はWT1である。コーティング材料源の幅(WT1)は、ブラインダの幅(WB1)に等しい。
【0065】
装置400は、さらに、コーティング材料源に近接した近位端408と、コーティング材料源から離れた遠位端410とを有する第1のブラインダ406を備える。ブラインダ406は内表面412を有する。この装置は、さらに、コーティング材料源に近接した近位端416と、コーティング材料源から離れた遠位端418とを有する第2のブラインダ414を備える。ブラインダ414は内表面420を有する。ブラインダ406及び414は、等しい軸方向長さLB1である。外周リップ部403を考慮すると、ブラインダ406、414は、コーティング材料源402の表面404から距離LB1+HPLだけ延在する。
【0066】
一対のブラインダ406、414は、それらの間に、それらの遠位端にある窓422を画定する。領域424は、コーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突するコーティングチャンバの領域である。コーティング材料源の表面とコーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域との間の距離はDに等しい。
【0067】
コーティング材料源402の動作時、コーティング材料源からコーティング材料の広がり流れが連続して放出される。矢印430、432、434及び436が、コーティング材料の広がり流れを概略的に表す。コーティング材料の広がり流れはコーティング材料の指向部分を有し、この指向部分は、矢印434及び436により表されるとおりの境界又は外周の範囲内にあるコーティング材料を含む。これらの矢印434及び436は、コーティング材料源の角部から対向するブラインダの遠位端まで延在し、従って、ブラインダアセンブリを出るコーティング材料の指向部分の外周に相当する。この外周の向きは、ブラインダの内表面に対して発散角度βをなしている。理解され得るとおり、βは、コーティング材料の広がり流れの全体の発散角度より小さい。コーティング材料の広がり流れはまた、コーティング材料の発散部分も含む。コーティング材料の発散部分は、コーティング材料源から放出されてブラインダに衝突するコーティング材料を含む。矢印430及び432により表されるとおりのコーティング材料が、コーティング材料の発散部分の範囲内にある。
【0068】
前述のとおり、1つ又は複数の基板に衝突するコーティング材料の指向部分の大きさは重要である。図11に示されるような装置では、寸法WMAX1が、コーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域におけるコーティング材料の指向部分の全体の大きさに相当する。この大きさが大きくなるとオーバーラップがより多くなる点で、この大きさは重要である。当然ながら、この大きさが小さくなると、オーバーラップは少なくなる。この装置は対称であるため、ブラインダの幅(WB1)の両側における距離はαに等しい。従って、コーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域におけるコーティング材料の指向部分の全体の大きさ(WMAX1)は、WB1+α+αに等しい。三角法の式を用いると、コーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域におけるコーティング材料の指向部分の大きさの間に、以下の関係式が導かれる:WMAX1=WB1+2(D−(LB1+HPL))・(WB1/(LB1+HPL))。
【0069】
上記の関係式は、コーティング材料の広がり流れの指向部分の大きさが1つ以上のパラメータの関数であることを示す。これらのパラメータは、コーティング材料源の幅、コーティング材料源の表面とコーティング材料が基板に衝突する領域との間の距離、及びブラインダの軸方向長さである。コーティング材料の指向部分の大きさは、以下のうちの1つ又は複数に応じて減少し、又は狭くなる:(1)コーティング材料源の幅の減少、(2)コーティング材料源の表面とコーティング材料が基板に衝突する領域との間の距離の減少、及び/又は(3)ブラインダの軸方向長さの増加。予想されるとおり、コーティング材料の指向部分の大きさは、上記のパラメータのいずれか1つ又は複数を逆にすると、増加し、又は広がる。従って、これらのパラメータ、並びに他の幾何学的パラメータを変えることにより、特定のコーティング用途に適合する所望の大きさのコーティング材料の指向部分を実現することができる。典型的には、コーティング材料の指向部分の射出発散角度について、その外周のかなり大きな部分が、基板ホルダによって支持された1つ又は複数の基板の表面に衝突するような角度となる条件を実現することを想定して試行が行われ得る。
【0070】
図12〜図14に示される他のコーティング装置は、コーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域におけるコーティング材料の指向部分の大きさが幾何学的パラメータによって影響を受ける過程を表す。この点について、図12は、概して500として指示されるコーティング装置の一部分を表す機械概略図(すなわち、射出経路図)である。図12は、予め選択された軸方向長さのブラインダアセンブリと併せて使用するときの、予め選択された寸法であり、且つ1つ又は複数の基板から予め選択された距離にあるコーティング材料源から放出されるコーティング材料の進行を示す。
【0071】
コーティング装置500は、表面504を有するコーティング材料源(例えば、カソード)502を備える。コーティング材料源502は外周リップ部503を有する。外周リップ部503の高さはHPLに等しい。コーティング材料源の表面の幅はWT1であり、これは図11の実施形態におけるコーティング材料源402の幅と同じである。
【0072】
装置500は、さらに、コーティング材料源に近接した近位端508と、コーティング材料源から離れた遠位端510とを有する第1のブラインダ506を備える。ブラインダ506は内表面512を有する。この装置は、さらに、コーティング材料源に近接した近位端516と、コーティング材料源から離れた遠位端518とを有する第2のブラインダ514を備える。ブラインダ514は内表面520を有する。ブラインダ506及び514は、等しい軸方向長さLB2である。外周リップ部503を考慮すると、ブラインダ506、514は、コーティング材料源502の表面504から距離LB2+HPLだけ延在する。
【0073】
この点で、ブラインダ506、514の軸方向長さ(LB2)は、図11の実施形態におけるブラインダ406、414の軸方向長さ(LB1)より短いことが理解されなければならない。一対のブラインダ506、514は、それらの間に、それらの遠位端にある窓522を画定する。領域524は、コーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域である。コーティング材料源の表面とコーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域との間の距離はDに等しく、これは図11の実施形態におけるコーティング材料源の表面とコーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域との間の距離に等しい。
【0074】
コーティング材料源502の動作時、コーティング材料源からコーティング材料の広がり流れが連続して放出される。矢印530、532、534及び536が、コーティング材料の広がり流れを概略的に表す。コーティング材料の広がり流れはコーティング材料の指向部分を有し、この指向部分は、矢印534及び536により表されるとおりのコーティング材料流れの境界又は外周の範囲内にあるコーティング材料を含む。これらの矢印534及び536は、コーティング材料源の角部から対向するブラインダの遠位端まで延在し、従って、ブラインダアセンブリを出るコーティング材料の指向部分の外周に相当する。この外周の向きは、ブラインダの内表面に対して発散角度βをなしている。コーティング材料の広がり流れはまた、コーティング材料の発散部分も含む。コーティング材料の発散部分は、コーティング材料源から放出されてブラインダに衝突するコーティング材料を含む。矢印530及び532により表されるとおりのコーティング材料が、コーティング材料の発散部分の範囲内にある。
【0075】
図11の実施形態についての前述の式に従い、適用される式は、WMAX2=WB1+2(D−(LB2+HPL))・(WB1/(LB2+HPL))である。ブラインダの軸方向長さが変化すると、結果としてコーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域におけるコーティング材料の指向部分の大きさが変わる。例えば、コーティング材料の指向部分の大きさについて図11の実施形態と図12の実施形態とを比較すると(すなわち、WMAX1とWMAX2との比較)、ブラインダの軸方向長さがLB1からLB2に減少し(他の要素は同じままである)、その結果、コーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域におけるコーティング材料の指向部分の大きさがWMAX1からWMAX2に増加している。
【0076】
図13は、概して600として指示されるコーティング装置の一部分を表す機械概略図(すなわち、射出経路図)である。図13は、予め選択された軸方向長さのブラインダアセンブリと併せて使用するときの、予め選択された寸法であり、且つ1つ又は複数の基板から予め選択された距離にあるコーティング材料源から放出されるコーティング材料の進行を示す。
【0077】
コーティング装置600は、表面604を有するコーティング材料源(例えば、カソード)602を備える。コーティング材料源602は外周リップ部603を有する。外周リップ部603の高さはHPLに等しい。コーティング材料源の表面の幅はWT2であり、これは図11の実施形態におけるコーティング材料源402の幅(WT1)より小さい。
【0078】
装置600は、さらに、コーティング材料源に近接した近位端608と、コーティング材料源から離れた遠位端610とを有する第1のブラインダ606を備える。ブラインダ606は内表面612を有する。この装置は、さらに、コーティング材料源に近接した近位端616と、コーティング材料源から離れた遠位端618とを有する第2のブラインダ614を備える。ブラインダ614は内表面620を有する。ブラインダ606及び614は、等しい軸方向長さLB1である。この点で、ブラインダ606、614の軸方向長さは、図11の実施形態におけるブラインダ406、414の軸方向長さと等しいことが理解されなければならない。外周リップ部603を考慮すると、ブラインダ606、614は、コーティング材料源602の表面604からLB1+HPLに等しい距離だけ延在する。
【0079】
一対のブラインダ606、614は、それらの間に、それらの遠位端にある窓622を画定する。領域624は、コーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突するコーティングチャンバの領域である。コーティング材料源の表面とコーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域との間の距離はDに等しく、これは、図11の実施形態におけるコーティング材料源の表面とコーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域との間の距離に等しい。
【0080】
コーティング材料源602の動作時、コーティング材料源からコーティング材料の広がり流れが連続して放出される。矢印630、632、634及び636が、コーティング材料の広がり流れを概略的に表す。コーティング材料の広がり流れはコーティング材料の指向部分を有し、この指向部分は、矢印634及び636により表されるとおりの境界又は外周の範囲内にあるコーティング材料を含む。これらの矢印634及び636は、コーティング材料源の角部から対向するブラインダの遠位端まで延在し、従って、ブラインダアセンブリを出るコーティング材料の指向部分の外周に相当する。この外周の向きは、ブラインダの内表面に対して発散角度βをなしている。コーティング材料の広がり流れはまた、コーティング材料の発散部分も含む。コーティング材料の発散部分は、コーティング材料源から放出されてブラインダに衝突するコーティング材料を含む。矢印630及び632により表されるとおりのコーティング材料が、コーティング材料の発散部分の範囲内にある。
【0081】
図11の実施形態についての前述の式に従い、基板に衝突する領域におけるコーティング材料の指向部分の大きさは、WMAX3=WB2+2(D−(LB1+HPL))・(WB2/(LB1+HPL))である。コーティング材料源の幅(又は寸法)が変化すると、結果としてコーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域におけるコーティング材料の指向部分の大きさが変わる。例えば、コーティング材料の指向部分の大きさについて図11の実施形態と図13の実施形態とを比較すると(WMAX1対WMAX3)、コーティング材料源の幅がWT1からWT2に減少し(他の要素は同じままである)、その結果、コーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域におけるコーティング材料の指向部分の大きさが減少している。図11〜図13を検討すると、様々なパラメータがコーティング材料の指向部分の大きさに与える影響が示される。窓422、522及び622は、遠位範囲を有し、且つコーティング材料源の表面から遠位距離だけ離間されている遠位窓であり、コーティング材料の指向部分が、以下に示すもの、すなわち遠位距離の増加及び遠位範囲の減少のうちの一方又は双方によって広がりの低減を示すことは明らかであることに留意されたい。
【0082】
図14は、概して700として指示されるコーティング装置の一部分を表す機械概略図(すなわち、射出経路図)である。図14は、予め選択された軸方向長さのブラインダアセンブリと併せて使用するときの、予め選択された寸法であり、且つ基板から予め選択された距離にあるコーティング材料源から放出されるコーティング材料の進行、並びにコーティング材料が連続して通過する近位窓と遠位窓とを提供するブラインダアセンブリを示す。近位窓と遠位窓とは、近位窓が遠位窓に対するよりコーティング材料源に対してより近くなるように、ブラインダアセンブリの長手方向軸に沿って離間される。以下の記載から明らかになるであろうとおり、コーティング材料の発散部分の一部及びコーティング材料の指向部分は近位窓を連続して通過し、コーティング材料の指向部分は遠位窓を連続して通過する。
【0083】
コーティング装置700は、表面704を有するコーティング材料源(例えば、カソード)702を備える。コーティング材料源702は外周リップ部703を有する。図14に示されるとおり、外周リップ部703の高さはHPLに等しい。コーティング材料源の表面の幅はWT1であり、これは図12の実施形態におけるコーティング材料源502の幅に等しい。
【0084】
装置700は、さらに、コーティング材料源に近接した近位端708と、コーティング材料源から離れた遠位端710とを有する第1のブラインダ706を備える。ブラインダ706は内表面712を有する。ブラインダ706はまた、内表面712から内側に突出する内部バリア714も含む。内部バリア714はまた、表面716も備える。
【0085】
この装置は、さらに、コーティング材料源に近接した近位端720と、コーティング材料源から離れた遠位端722とを有する第2のブラインダ718を備える。ブラインダ718は内表面724を有する。ブラインダ706及び718は、等しい軸方向長さLB2である。この点で、ブラインダ706、718の軸方向長さは、図12の実施形態におけるブラインダ506、514の軸方向長さに等しいことが理解されなければならない。外周リップ部703を考慮すると、ブラインダ706、718は、コーティング材料源702の表面704から距離LB2+HPLだけ延在する。ブラインダ718はまた、内表面724から内側に突出する内部バリア726も含む。内部バリア726はまた、表面728も備える。内部バリアの表面(716、728)は、概してそれらの対応するブラインダ(706、718)の内表面(712、724)と略垂直である。これらの表面(716、728)は、ブラインダに対して異なる角度をなす向きであってもよいことが理解されなければならない。加えて、内部バリアとコーティング材料源との間の距離は異なり得る。
【0086】
一対のブラインダ706、718は、それらの間に一対の窓を画定する。それらの窓のうちの一方が、近位窓730である。近位窓730は、遠位窓732と比べてコーティング材料源により近い。内部バリア714及び726が、それらの間に近位窓730を画定する。他方の窓は遠位窓732である。ブラインダ706及び718が、それらの間に、それらの遠位端において遠位窓732を画定する。領域734は、コーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域である。コーティング材料源の表面とコーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域との間の距離はDに等しく、これは、図12の実施形態におけるコーティング材料源の表面とコーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域との間の距離に等しい。
【0087】
コーティング材料源702が動作しているとき、コーティング材料源からコーティング材料の広がり流れが連続して放出される。矢印740〜750が、コーティング材料の広がり流れを表す。コーティング材料の広がり流れはコーティング材料の指向部分を有し、この指向部分は、矢印748及び750により表されるとおりの境界又は外周の範囲内にあるコーティング材料を含む。これらの矢印(748、750)は、コーティング材料源の角部から対向するブラインダの遠位端まで延在すると同時に、近位窓730も通過する。従って、これらの矢印748、750は、ブラインダアセンブリを出るコーティング材料の指向部分の外周を画定する。コーティング材料の指向部分は、ブラインダの内壁に対して発散角度βを有する。
【0088】
コーティング材料の広がり流れはまた、コーティング材料の発散部分も含む。コーティング材料の発散部分は、コーティング材料源から放出されて内部バリアを含むブラインダに衝突するコーティング材料を含む。矢印740、742、744及び746により表されるとおりのコーティング材料が、コーティング材料の発散部分の範囲内にある。コーティング材料源に対するブラインダの軸方向長さに沿った内部バリア(714、716)の位置を考慮すると、コーティング材料の発散部分の一部は近位窓730を通過する。矢印744及び746が、コーティング材料の発散部分のその部分を表す。ブラインダは、矢印744及び746により表されるとおりのコーティング材料がなおブラインダに衝突して遠位窓732は通過しないように、内部バリア(及び近位窓)を越えて十分な距離だけ延在する。
【0089】
ブラインダアセンブリに内部バリアのセットを組み込むと、結果としてコーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域におけるコーティング材料の指向部分の大きさが低減される。例えば、コーティング材料の指向部分の大きさについて図12の実施形態と図14の実施形態とを比較すると(WMAX4対WMAX2)、内部バリアを使用することにより(他の要素は同じままである)、結果としてコーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域におけるコーティング材料の指向部分の大きさが減少する。内部バリアはブラインダの内表面に着脱可能に連結されてもよいことが理解されなければならない。着脱可能な内部バリアを使用するかかる装置では、内部バリアを取り外すか、又はサイズ若しくは内側への突出が異なる内部バリアを使用することにより、コーティング材料が1つ又は複数の基板に衝突する領域におけるコーティング材料の指向部分の大きさを変化させることができる。
【0090】
図11〜図14に示される実施形態の各々において、コーティング材料源は、ブラインダ間の幅に等しい幅を有する。コーティング材料源の幅がブラインダ間の幅より小さい実施形態もあり得ることが理解されなければならない。
【0091】
以上に記載されるとおり、本発明の一態様は、ブラインダが、近似的に、基板がターゲットに対して最接近点にあるときのターゲット(すなわち、コーティング材料源)と基板(例えば、切削インサート)との間の距離の少なくとも約50パーセント(50%)、より好ましくは少なくとも約75パーセント(75%)の範囲に及ぶことである。図12を参照すると、図12の装置の構成要素の位置は、基板(又は切削インサート)のターゲット(又はカソード又はコーティング材料源)に最も接近した点が、図12において点550に示されるように設定することができる。従って、ターゲット502の表面504とターゲット502に対して最接近点にある基板との間の距離は、Dである。この特定の実施形態において、ブラインダ506、514は、ターゲット502の表面504からLB2+HPLに等しい距離まで延在し、これは距離Dの約52%に等しく、近似的には距離Dの少なくとも約50%である。従って、この特定の実施形態では、コーティング材料源から離れる方に延在し、且つコーティング材料源から遠位距離だけ離れた位置にある遠位端で終端となるブラインダ手段(すなわち、ブラインダアセンブリ)があることが分かる。基板は、基板がコーティング材料源から最接近距離だけ離れた状態にある。遠位距離は、この最接近距離の少なくとも約50パーセントに等しい。
【0092】
図11を参照すると、図11の装置の構成要素の位置は、基板(又は切削インサート)のターゲット(又はカソード又はコーティング材料源)に最も接近した点が、図11において点450に示されるように設定することができる。従って、ターゲット402の表面404とターゲット対して最接近点にある基板との間の距離は、Dである。この特定の実施形態において、ブラインダ406、414は、ターゲット402の表面404からLB1+HPLに等しい距離まで延在し、これは距離Dの約78%に等しく、近似的には距離Dの少なくとも約75%である。従って、この特定の実施形態では、コーティング材料源から離れる方に延在し、且つコーティング材料源から遠位距離だけ離れた位置にある遠位端で終端となるブラインダ手段(すなわち、ブラインダアセンブリ)があることが分かる。基板は、基板がコーティング材料源から最接近距離だけ離れた状態にある。遠位距離は、この最接近距離の少なくとも約75パーセントに等しい。
【0093】
本明細書で使用されるとき、ブラインダに関連して用いられる用語「〜の範囲に及ぶ(cover)」、並びにその任意の文法上の変形は、ブラインダがコーティング流れの少なくとも一部の進行を阻止する機能を果たすことを意味し、ここでコーティング流れの少なくとも一部はブラインダに衝突する。例として、図12の実施形態では、コーティング流れの一部は、近似的には距離Dの少なくとも約50%(これは、ターゲット502から基板のターゲットに最も接近した点(550)までのLB2+HPLに等しい)についてブラインダ506、514に衝突する。高さHPLを有する外周リップ部503は、コーティング材料プルームに対して本質的に影響を有しないことは理解され得る。
【0094】
本出願人は、結果としてもたらされる切削インサートの利点及び特性を実証する多くの具体例を提供する。それらの例を以下に記載する。
【0095】
<実施例>
実施例1A、1B及び1Cは、被覆切削インサートスタイルCNMG432MPを含んだ。基板はコバルト焼結タングステンカーバイドのケナメタル・インコーポレーテッド(Kennametal Inc.)K313グレードで、これは、6重量パーセントのコバルト、少量のクロム(炭化クロムとして添加)及び残りの炭化タングステン並びに不純物を含んだ。コーティング構成は交互ナノ層を含み、一方のナノ層はアルミニウムチタン窒化物を含み、他方のナノ層はアルミニウムチタンクロム窒化物を含んだ。
【0096】
コーティング構成の適用に関して、これらの実施例1A〜1Cの各々のコーティングは、メタプラス(Metaplas)により製造されるメタプラス(Metaplas)ユニットMZR323を使用したアーク蒸発法により行った。図4は、ターゲットの全体的な配置を示し、ここでターゲット160〜160Bはチタンであり、ターゲット162〜162Bはアルミニウムであり、及びターゲット164〜164Bはクロムであった。ブラインダ242〜242B及び244〜244Bは、図4に示されるとおり、対応するクロムターゲットの両側に位置決めした。実施例1A〜1Cの間の違いは、ブラインダ(binder)間の距離のみであった。以下の表1に、ブラインダ間の距離(ミリメートル単位)を示す。
【0097】
【表1】

実施例1A、1B及び1Cでは、ターゲットからターゲットに対して最接近点にあるインサートまでの距離は約15センチメートル(cm)であった。ブラインダの高さは約11.4cmであった。従って、ブラインダは、ターゲットとターゲットに対して最接近点にあるインサートとの間の距離の約76パーセント(76%)の範囲に及んだ。上述したとおり、ターゲットの外周リップ部は、コーティング材料プルームに対して本質的に影響を及ぼさない。これらの実施例1A、1B及び1Cでは、外周リップ部は0.5cmに等しい高さを有し、従って小さ過ぎるため、コーティング材料プルームに影響を与えることはない。
【0098】
図6は、実施例1A〜1Cを用いた金属切削試験の結果を示す。旋削試験パラメータは、以下のとおりであった:316ステンレス鋼のワーク、毎分650フィートの周速(毎分213.3メートルの周速)に等しい速度、1回転当たり0.008インチ(0.203ミリメートル)(ipr)に等しい送り量、0.100インチ(2.54ミリメートル)に等しい切込み深さdoc、リード角がマイナス5度のCNMG432MPの切削インサートスタイル及び浸水式クーラント。
図6から分かるとおり、分単位で計測したときの旋削用途についての工具寿命は、ブラインダ間の間隔が最も近い場合に最長であった。より具体的には、旋削用途についての工具寿命は、クロムターゲットにおけるブラインダ間の間隔が最小(40mm)のPVD装置で被覆した切削インサートについて最長であった。クロムターゲットにおけるブラインダ間の最小間隔が50mm又は60mmのいずれかであったPVD装置により被覆した切削インサートに関しては、旋削用途についての工具寿命は略同じであった。
【0099】
実施例2A、2B及び2Cは、被覆切削インサートスタイルOFKT07L6AFENGBを含んだ。基板は、約9.75重量パーセントのコバルト及び残りが炭化タングステン並びに不純物を含む公称組成を有するコバルト焼結タングステンカーバイドのケナメタル・インコーポレーテッド(Kennametal Inc.)K322グレードであった。コーティング構成は交互ナノ層を含み、ここで一方のナノ層は式AlTiNのアルミニウムチタン窒化物を含み、他方のナノ層は式AlTiNのアルミニウムチタン窒化物を含んだ。x:yの比は交互ナノ層間で異なった。
【0100】
コーティング構成の用途に関して、これらの実施例2A〜2Cの各々のコーティングは、メタプラス(Metaplas)により製造されるメタプラス(Metaplas)ユニットを使用したアーク蒸発法により行った。図4は、ターゲットの全体的な配置を示す; しかしながら、ターゲットは2セットしかなく、ここでターゲットの一方のセットはチタンであり、ターゲットの他方のセットはアルミニウムであった。ブラインダは、対応するアルミニウムターゲットの両側に位置決めした。実施例2A〜2Cの間の違いは、ブラインダ(binder)間の最小距離のみであった。表2に各実施例のその距離を示す。
【0101】
【表2】

図7は、実施例2A〜2Cを用いたフライカットフライス削り試験の結果を示す。304ステンレス鋼の固体ブロックの正面フライス削りについての試験パラメータは、毎分650フィートの周速(毎分213.3メートルの周速)に等しい速度、1回転当たり0.008インチ(0.203mm)(ipr)に等しい送り量、0.100インチ(2.54mm)に等しい切込み深さdoc、3インチ(7.62センチメートル)に等しい径方向切込み深さ(rdoc)、0.1インチ(2.54mm)に等しい軸方向切込み深さ(adoc)、24インチ(60.96センチメートル)に等しいパス長さであり、クーラントは乾式であった。切削インサートスタイルは、リード角が45度に等しいOFKT07L6AFENGB型であった。
【0102】
図7は、ブラインダ間の間隔が最も大きく離れているときにフライスパス回数が最大となったことを示す。より具体的には、フライス加工用途についての工具寿命は、クロムターゲットにおけるブラインダ間の間隔が最大(60mm)のPVD装置で被覆した切削インサートについて最長であった。クロムターゲットにおけるブラインダ間の間隔が50mm又は40mmのいずれかであったPVD装置により被覆した切削インサートに関しては、フライス加工用途についての工具寿命は略同じであった。
【0103】
これらの試験について、所与のブラインダ長さについて最良の金属切削性能を実現するのに適切なブラインダ間隔が、金属切削用途に依存することは明らかである。例えば、フライス加工用途では、より広いブラインダ間隔が最良のように思われ、一方、旋削用途では、より狭いブラインダ間隔が最良であるものと思われる。
【0104】
実施例3A、3B、3C及び3Dは、各々、被覆切削インサートスタイルCNMG432MPを含んだ。基板はケナメタル・インコーポレーテッド(Kennametal Inc.)K313グレードであった。コーティング構成は交互ナノ層を含み、ここで一方のナノ層はアルミニウムチタンシリコン窒化物を含み、他方のナノ層はアルミニウムチタンシリコンクロム窒化物を含んだ。
【0105】
コーティング構成の適用に関して、これらの実施例3A〜3Dの各々のコーティングは、メタプラス(Metaplas)ユニットを使用したアーク蒸発法により行った。図4は、ターゲットの全体的な配置及びブラインダに対するクロムターゲットを示す。特定の装置では、関連するブラインダを備えたクロムターゲットが2つある。
【0106】
図8により提供される試験結果に関して、実施例3A及び3Bでは、40アンペアに等しい電流(「弱」として指示される)をクロムターゲットに印加し、実施例3C及び3Dでは、60アンペアに等しい電流(「強」として指示される)をクロムターゲットに印加した。このPVD装置には、6つのさらなるターゲットが存在し、ここで各ターゲットは60原子百分率のアルミニウム、30原子百分率のチタン、及び10原子百分率のシリコンを含んだ。これらの6つのAlTiSiターゲットの各々に印加された電流は、75アンペア〜90アンペアに等しかった。
【0107】
図8は、実施例3A〜3Dを使用した金属切削試験の結果を示す。旋削試験パラメータは、316ステンレス鋼のワーク、毎分650フィートの周速(毎分213.3メートルの周速)に等しい速度、1回転当たり0.008インチ(0.203mm)(ipr)に等しい送り量、0.100インチ(2.54mm)に等しい切込み深さdoc、リード角がマイナス5度のCNMG432MPの切削インサートスタイル及び浸水式クーラントであった。
【0108】
分単位で計測したときの工具寿命は、クロムターゲットに印加した電流が最大の場合に最長であった。より具体的には、工具寿命は、クロムターゲットに対してより高い出力/電流レベル(すなわち、60アンペア)を使用して被覆した切削インサートについて、クロムターゲットに対してより低い出力/電流レベル(すなわち、40アンペア)を使用する場合と比較してより長くなった。
【0109】
図8に提供される結果は、ブラインダ、特により小さい最小限の間隔のブラインダを使用すると、工具寿命が延びることを示す。この点について、これまで、ターゲットに対してより高い電流を使用すると、結果として良好なコーティング特性が得られるものの、より高い電流レベルはまた、一層不利なオーバーラップにもつながっていた。しかしながら、本発明では、ブラインダの使用によりオーバーラップの程度が低減されており、従ってターゲットレベルに対してより高い電流を使用することが可能である。
【0110】
図9は、クロムターゲットに印加された電流が60アンペアに等しいものであった場合の実施例3C又は3Dのいずれかと同様のコーティング構成についての40ナノメートルに等しい走査範囲に関して、アルミニウム(菱形)、シリコン(四角形)、チタン(三角形)及びクロム(円形)の含有量を原子百分率で示すEDS線プロファイルである。図9は、交互ナノ層の複数のコーティングセットを有するコーティング構成を示す。クロム含量は周期的にゼロになる。クロム含量の変動をふまえると、交互層のうちの一方にはクロムが全く存在しないことは明らかである。それと交互に並ぶ層にはクロムが存在するため、このコーティングが、一方の交互層には不在の金属元素、すなわちクロムを含有する交互層を有することは明らかである。
【0111】
図10は、TEM(透過型電子顕微鏡法)により実施した図9のコーティング構成の顕微鏡写真であり、20ナノメートルの凡例を含む。
【0112】
表3に示されるターゲットにより窒素/窒化雰囲気を有するメタプラス(Metaplas)ユニットを使用して窒化物ナノ層を形成するように生成したナノ層コーティング構成の最大微小硬さ及び密着性を評価するため、実施例4〜8に関する試験を行った。上記の実施例のコーティングの基板との密着性を、押込み密着性荷重試験を用いたコーティング密着性について試験した。この点について、コーティングと基板との間の密着性は、押込み密着性試験により、ロックウェル硬度計を使用してロックウェルAスケールブレール(Brale)円錐形ダイヤモンド圧子により15kg、30kg、45kg、60kg、100kg及び150kgの選択荷重範囲で測定した。密着強度は、コーティングに剥落及び/又は剥離が生じる最小荷重として定義した。実施例4〜8は、以下の表3に示すとおりのコーティング構成を含んだ。
【0113】
以下の表3は、最大微小硬さ(kg/mm)及び密着性(kg)についてのそれらの結果を提供する。
【0114】
【表3】

【0115】
表3はまた、列見出し「ターゲット」の欄に、各実施例のターゲット組成も提供する。この点について、各実施例のコーティングは複数のナノ層コーティングセットを含み、ここで各ナノ層コーティングセットは、表3に示されるターゲットにより生成される一対の異なるコーティング組成を含んだ。表3は、さらに、各実施例についてのコーティングのマイクロメートル(μm)単位での全体的な総厚さを提供する。
【0116】
本発明は、壁に取り付けられたカソードを有する任意のコーティングシステム、例えばカソードアークシステム、並びにスパッタリングシステムにおける使用に好適である。本発明と併せて広範囲の種々のコーティング組成を使用することができる。
【0117】
本明細書に記載する全ての実施例において、メタプラス(Metaplas)ユニットを使用した。メタプラス(Metaplas)ユニットでは、カソードは各壁に取り付けられ、ここで壁は互いに直交している。本発明は、1つの壁を有するシステムであって、全てのカソードが1つの壁に取り付けられているシステム、例えば、全てのカソードが互いに平行に1つの壁に取り付けられているシステムにおいて有用であることが理解されなければならない。さらに、本発明は、1つの壁を有するシステムであって、異なる組成物のカソードが単一の壁に取り付けられているシステムにおいて有用であることが理解されなければならない。
【0118】
PVD技法によって材料を堆積させるための改良されたコーティング装置(すなわち機器)、並びに改良された方法が発明されていることは明らかである。また、本出願人が、異なる種類の材料組成の複数のターゲット(カソード)を使用して堆積させるための改良された機器、並びに改良された方法であって、材料のナノ層の堆積に用途がある機器及び方法を発明したことも明らかである。また、本出願人の機器及び方法が、反応性の環境における使用に好適であることも明らかである。
【0119】
さらに、本出願人が、PVD技法によって材料を(特に異なる材料組成を、交互に並んだ、又は順次重ねれらた、又はランダムな、ナノ層を含む層として)堆積させるための改良された機器、並びに改良された方法であって、コーティング材料プルームからのコーティング材料のオーバーラップの程度が、特に従来の技法と比較して最小限に抑えられ、従ってナノ層が、それらの間に強固で明確に画定された境界を有する、機器及び方法を発明したことは明らかである。
【0120】
また、本発明が、PVD技法によってナノ層を堆積させるための改良された機器、並びに改良された方法であって、ナノ層の厚さを、コーティング反応器の他の動作パラメータ(例えば、カソードに対する出力レベル、回転板の回転速度、チャンバ内の圧力及び/又は温度、並びに他の同様のパラメータ)とは独立して制御することが可能となり得る機器及び技法を提供することも明らかである。
【0121】
本明細書に特定される特許及び他の文献は、本明細書によって参照により本明細書に援用される。
【0122】
本発明の他の実施形態は、本明細書を考察し、又は本明細書に開示される発明を実施することにより、当業者には明らかであろう。本明細書及び例はあくまでも例示的なものであることが意図され、本発明の範囲を限定することは意図していない。本発明の真の範囲及び趣旨は、以下の特許請求の範囲により示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を被覆するための物理蒸着装置であって、
前記基板を支持するように構成された基板ホルダと、
コーティング材料の発散部分とコーティング材料の指向部分とを含むコーティング材料の広がり流れを放出するコーティング材料源と、
前記コーティング材料源と動作可能に連係するように位置決めされたブラインダ手段であって、前記コーティング材料の指向部分が前記ブラインダ手段から出て、略前記基板ホルダに向かって進むように、前記コーティング材料の広がり流れを受け止めて衝当させるためのブラインダ手段と、
を含み、
前記コーティング材料の指向部分が、前記コーティング材料の広がり流れより小さい広がりを呈する、物理蒸着装置。
【請求項2】
前記ブラインダ手段が、前記コーティング材料の指向部分が連続して通過する窓を画定するブラインダアセンブリを含む、請求項1に記載の物理蒸着装置。
【請求項3】
前記ブラインダアセンブリが略平坦な表面を呈し、前記コーティング材料の発散部分の少なくとも一部分が前記略平坦な表面に衝当する、請求項2に記載の物理蒸着装置。
【請求項4】
前記コーティング材料の広がり流れが中心長手方向軸を有し、前記略平坦な表面が前記コーティング材料の広がり流れの前記中心長手方向軸と略平行である、請求項3に記載の物理蒸着装置。
【請求項5】
前記コーティング材料の広がり流れが中心長手方向軸を有し、前記略平坦な表面が前記コーティング材料の広がり流れの前記中心長手方向軸と略平行でない、請求項3に記載の物理蒸着装置。
【請求項6】
前記ブラインダアセンブリが、前記基板ホルダより前記コーティング材料源に対してより近い、請求項2に記載の物理蒸着装置。
【請求項7】
前記ブラインダアセンブリが前記コーティング材料源より前記基板ホルダに対してより近い、請求項2に記載の物理蒸着装置。
【請求項8】
前記ブラインダアセンブリが略円弧状の表面を呈し、前記コーティング材料の発散部分の少なくとも一部分が前記略円弧状の表面に衝当する、請求項2に記載の物理蒸着装置。
【請求項9】
前記ブラインダ手段が、遠位端を有するブラインダアセンブリを含み、前記ブラインダアセンブリがその前記遠位端に隣接して遠位窓を含み、前記コーティング材料の指向部分が前記遠位窓を連続して通過する、請求項1に記載の物理蒸着装置。
【請求項10】
前記遠位窓が前記コーティング材料源から遠位距離のところに位置決めされ、前記遠位窓が遠位範囲を提供し;及び前記コーティング材料の指向部分が、以下に示すもの、すなわち遠位距離の増加及び遠位範囲の減少のうちの一方又は双方に応じて広がりの低減を示す、請求項9に記載の物理蒸着装置。
【請求項11】
前記ブラインダ手段が、前記コーティング材料源から離れる方に延在し、且つ前記コーティング材料源から遠位距離だけ離れた位置にある遠位端で終端となるブラインダアセンブリを含み、前記基板は、前記基板が前記コーティング材料源から最接近距離だけ離れた最接近状態にあり、前記遠位距離が、前記最接近距離の少なくとも約50パーセントに等しい、請求項1に記載の物理蒸着装置。
【請求項12】
前記遠位距離が、前記最接近距離の少なくとも約75パーセントに等しい、請求項11に記載の物理蒸着装置。
【請求項13】
コーティングチャンバをさらに備える物理蒸着装置であって、前記コーティングチャンバが、前記基板ホルダと前記コーティング材料源と前記ブラインダ手段とを含む、請求項1に記載の物理蒸着装置。
【請求項14】
前記ブラインダ手段が、長手方向軸を有するブラインダアセンブリを含み、前記ブラインダアセンブリが、前記ブラインダアセンブリの前記長手方向軸に沿って離間された少なくとも近位窓と遠位窓とを画定し、前記近位窓は前記遠位窓より前記コーティング材料源に対してより近く;及び前記コーティング材料の発散部分の一部及び前記コーティング材料の指向部分が前記近位窓を連続して通過し、前記コーティング材料の指向部分が前記遠位窓を連続して通過する、請求項1に記載の物理蒸着装置。
【請求項15】
前記ブラインダ手段が前記コーティング材料の広がり流れを衝当させ、それにより前記コーティング材料の発散部分が前記ブラインダ手段を通過して抜け出ることを連続的に妨害し、一方、前記コーティング材料の指向部分が前記ブラインダ手段を出て、略前記基板ホルダに向かって進むことは連続的に可能にする、請求項1に記載の物理蒸着装置。
【請求項16】
前記基板ホルダが、前記基板を支持するように構成された少なくとも1つの基板支持領域を含み、前記基板ホルダが前記コーティング材料源に対して移動可能であり、従って前記基板支持域によって支持された前記基板に、前記コーティング材料の指向部分が選択的に衝突する、請求項1に記載の物理蒸着装置。
【請求項17】
前記基板に前記コーティング材料の指向部分が衝突するとき、前記基板が、前記ブラインダ手段を介して前記コーティング材料源と動作可能に整列した状態にある、請求項16に記載の物理蒸着装置。
【請求項18】
前記コーティング材料の指向部分が中心長手方向軸と外周とを有し、前記コーティング材料の指向部分が、前記コーティング材料の指向部分の前記中心長手方向軸に対して射出発散角度をなして前記ブラインダ手段を出る、請求項1に記載の物理蒸着装置。
【請求項19】
前記射出発散角度は、前記コーティング材料の指向部分の前記外周のかなり大きな部分が、前記基板ホルダによって支持された前記基板の前記表面に衝突するような角度である、請求項18に記載の物理蒸着装置。
【請求項20】
前記コーティング材料の指向部分の広がりの大きさが、以下に示すもの、すなわち、前記コーティング材料源の寸法、前記ブラインダ手段の軸方向長さ、及び前記コーティング材料源の表面と前記基板ホルダとの間の距離のうちの1つ又は複数の関数である、請求項1に記載の物理蒸着装置。
【請求項21】
コーティング構成を基板に適用するための物理蒸着装置であって、
前記基板を支持するように構成された基板ホルダと、
第1のコーティング材料の第1の発散部分と第1のコーティング材料の第1の指向部分とを含む第1のコーティング材料の広がり流れを放出する第1のコーティング材料源と、
前記第1のコーティング材料源と動作可能に連係するように位置決めされた第1のブラインダ手段であって、前記第1のコーティング材料の第1の指向部分が前記第1のブラインダ手段から出て、略前記基板ホルダに向かって進むように、前記第1のコーティング材料の第1の広がり流れを受け止めて衝当させるための第1のブラインダ手段と、
第2のコーティング材料の第2の発散部分と第2のコーティング材料の第2の指向部分とを含む第2のコーティング材料の第2の広がり流れを放出する第2のコーティング材料源と、
を含み、
前記第1のコーティング材料の第1の指向部分が、前記第1のコーティング材料の第1の広がり流れより小さい広がりを呈する、物理蒸着装置。
【請求項22】
前記第2のコーティング材料源と動作可能に連係するように位置決めされた第2のブラインダ手段であって、前記第2のコーティング材料の第2の指向部分が前記第2のブラインダ手段を出て、略前記基板ホルダに向かって進むように、前記第2のコーティング材料の第2の広がり流れを受け止めて衝当させるための第2のブラインダ手段、
をさらに含み、
前記第2のコーティング材料の第2の指向部分が、前記第2のコーティング材料の第2の広がり流れより小さい広がりを呈する、請求項21に記載の物理蒸着装置。
【請求項23】
前記第1のコーティング材料の指向部分が第1の中心長手方向軸と第1の外周とを有し、前記第1のコーティング材料の指向部分は、前記第1のコーティング材料の指向部分の前記第1の中心長手方向軸に対して第1の射出発散角度で前記第1のブラインダ手段を出て、及び前記第1の射出発散角度は、前記第1のコーティング材料の指向部分の前記第1の外周のかなり大きな部分が、前記基板ホルダによって支持された前記基板の表面に衝突し、前記第2のブラインダ手段から出る前記第2のコーティング材料の指向部分とオーバーラップする前記第1のコーティング材料の指向部分が最小量となるような角度である、請求項22に記載の物理蒸着装置。
【請求項24】
前記第2のコーティング材料の指向部分が第2の中心長手方向軸と第2の外周とを有し、前記第2のコーティング材料の指向部分は、前記第2のコーティング材料の指向部分の前記第2の中心長手方向軸に対して第2の射出発散角度で前記第2のブラインダ手段を出て、及び前記第2の射出発散角度は、前記第2のコーティング材料の指向部分の前記第2の外周のかなり大きな部分が、前記基板ホルダによって支持された前記基板の表面に衝突し、前記第1のブラインダ手段から出る前記第1のコーティング材料の指向部分とオーバーラップする前記第2のコーティング材料の指向部分が最小量となるような角度である、請求項22に記載の物理蒸着装置。
【請求項25】
前記第1のコーティング材料が前記コーティング構成の第1のコーティング層を形成し、且つ前記第2のコーティング材料が前記コーティング構成の第2のコーティング層を形成し、前記第1のコーティング層は前記第2のコーティング層より軟質である、請求項21に記載の物理蒸着装置。
【請求項26】
コーティング材料の発散部分とコーティング材料の指向部分とを有するコーティング材料の広がり流れを放出するコーティング材料源を有する物理蒸着装置と共に使用するためのブラインダであって、
前記コーティング材料の広がり流れを受け止める近位端を有するブラインダ本体であって、前記コーティング材料の指向部分が連続して通過する窓をさらに画定し、且つ前記コーティング材料の指向部分が前記コーティング材料の広がり流れより小さい広がりを呈して前記ブラインダ本体を出る遠位端を有する、ブラインダ本体、
を含む、ブラインダ。
【請求項27】
前記窓が、前記ブラインダ本体の前記遠位端に隣接して位置する遠位窓を含む、請求項26に記載のブラインダ。
【請求項28】
前記遠位窓が前記コーティング材料源から遠位距離のところに位置決めされ、前記遠位窓が遠位範囲を提供し;及び前記コーティング材料の指向部分が、以下に示すもの、すなわち前記遠位距離の増加及び前記遠位範囲の減少のうちの一方又は双方に応じて広がりの低減を示す、請求項27に記載のブラインダ。
【請求項29】
前記ブラインダ本体が長手方向軸を有し、前記ブラインダ本体が、前記ブラインダ本体の前記長手方向軸に沿って離間された少なくとも近位窓と遠位窓とを画定し、前記近位窓が前記遠位窓より前記コーティング材料源に対してより近く;及び前記コーティング材料の発散部分の一部及び前記コーティング材料の指向部分が前記近位窓を連続して通過し、前記コーティング材料の指向部分が前記遠位窓を連続して通過する、請求項26に記載のブラインダ。
【請求項30】
前記ブラインダ本体が前記コーティング材料の広がり流れを衝当させ、それにより前記コーティング材料の発散部分が前記ブラインダ本体を通過して抜け出ることを妨害し、且つ前記窓が前記コーティング材料の指向部分を通過させる、請求項26に記載のブラインダ。
【請求項31】
物理蒸着により基板の表面を被覆する方法であって、
前記基板を支持するように構成された基板ホルダを提供するステップと、
コーティング材料源からコーティング材料の広がり流れを放出するステップであって、前記コーティング材料の広がり流れがコーティング材料の発散部分とコーティング材料の指向部分とを含む、ステップと、
前記コーティング材料の広がり流れを受け止めるブラインダを提供するステップであって、従って前記ブラインダにより前記コーティング材料の発散部分は前記ブラインダから出ることが妨害され、且つ前記コーティング材料の指向部分は前記ブラインダを出て略前記基板ホルダに向かって進むことができ、従って前記コーティング材料の指向部分は前記コーティング材料の広がり流れより小さい広がりを呈し、その結果前記コーティング材料の指向部分のかなり大きな部分が前記基板に衝突する、ステップと、
を含む、方法。
【請求項32】
物理蒸着により基板の表面を被覆する方法であって、
前記基板を支持するように構成された基板ホルダを提供するステップと、
第1のコーティング材料源から第1のコーティング材料の広がり流れを放出するステップであって、前記第1のコーティング材料の広がり流れが、第1のコーティング材料の発散部分と第1のコーティング材料の指向部分とを含む、ステップと、
前記第1のコーティング材料の広がり流れを受け止める第1のブラインダを提供するステップであって、従って前記第1のブラインダにより前記第1のコーティング材料の発散部分は前記第1のブラインダから出ることが妨害され、且つ前記第1のコーティング材料の指向部分は前記第1のブラインダを出て略前記基板ホルダに向かって進むことができ、従って前記第1のコーティング材料の指向部分は前記第1のコーティング材料の広がり流れより小さい広がりを呈し、その結果前記第1のコーティング材料の指向部分のかなり大きな部分が前記基板に衝突する、ステップと、
第2のコーティング材料源から第2のコーティング材料の広がり流れを放出するステップであって、前記第2のコーティング材料の広がり流れが、第2のコーティング材料の発散部分と第2のコーティング材料の指向部分とを含む、ステップと、
前記第2のコーティング材料の広がり流れを受け止める第2のブラインダを提供するステップであって、従って前記第2のブラインダにより前記第2のコーティング材料の発散部分は前記第2のブラインダから出ることが妨害され、且つ前記第2のコーティング材料の指向部分は前記第2のブラインダを出て略前記基板ホルダに向かって進むことができ、従って前記第2のコーティング材料の指向部分は前記第2のコーティング材料の広がり流れより小さい広がりを呈し、その結果前記第2のコーティング材料の指向部分のかなり大きな部分が前記基板に衝突する、ステップと、
を含む、方法。
【請求項33】
表面を呈する基板であって、前記基板の前記表面の少なくとも一部分にコーティングがある、基板、
を含む物理蒸着被覆物品であって、
前記コーティングが、複数の元素であって、各々が、その別個の供給源から物理蒸着によって連続的に放出される元素を含み、
前記コーティングが、交互ナノ層のコーティングセットを含み、前記交互ナノ層のある層には、前記連続的に放出される元素のうちの1つが本質的に全く存在せず、前記交互ナノ層の別の層が、前記ある交互ナノ層に存在しない前記元素を含有する、被覆物品。
【請求項34】
前記別の交互層が、前記複数の金属元素の各々を含有する、請求項33に記載の被覆物品。
【請求項35】
前記交互層が交互ナノ層を含む、請求項33に記載の被覆物品。
【請求項36】
前記コーティングが前記金属元素のうちの3つを含み、前記3つの金属元素の各々が、その別個の供給源から物理蒸着によって連続的に放出され;及び前記交互層のある層に、前記金属元素のうちの1つが本質的に全く存在せず、且つ前記交互層の別の層が、前記3つの金属元素を含有する、請求項33に記載の被覆物品。
【請求項37】
前記コーティングが前記金属元素のうちの4つを含み、前記4つの金属元素の各々が、その別個の供給源から物理蒸着によって連続的に放出され;及び前記交互層のある層に、前記金属元素のうちの1つが本質的に全く存在せず、且つ前記交互層の別の層が、前記4つの金属元素を含有する、請求項33に記載の被覆物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2012−500339(P2012−500339A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523848(P2011−523848)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【国際出願番号】PCT/US2009/051806
【国際公開番号】WO2010/021811
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(399031078)ケンナメタル インコーポレイテッド (182)
【氏名又は名称原語表記】Kennametal Inc.
【住所又は居所原語表記】1600 Technology Way Latrobe PA 15650−0231, USA
【Fターム(参考)】