説明

物質の供給方法

【課題】反応工程に冷却による相変化で固化する物質が関与する化合物の製造に好適に使用することができ、容器中に物質を供給するノズルへの物質の付着や管のつまりを防止して、化学物質の製造装置の安定的な稼働を可能とする物質の供給方法を提供する。
【解決手段】容器内に液体及び/又は固体の物質を供給する物質の供給方法であって、該供給方法は、多重管構造を有する供給ノズルを用い、多重管構造を構成する異なる管から物質と該物質とは反応しないガスとを容器内に供給する物質の供給方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の供給方法に関する。より詳しくは、反応工程に冷却による相変化で固化する物質が関与する化合物の製造に好適に使用することができる物質の供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々な化学物質が工業原料として、また、日用品、その他の様々な用途に用いられており、これらの化学物質を工業的に製造する製造装置も、製造する化学物質の性質等に合わせ、様々な形態のものが用いられている。これら工業的に用いられる製造装置においては、容器に原料等の物質を供給する供給管や、容器、蒸留塔等の製造装置を構成する各種装置をつなぐ管に原料や不純物、中間体や生成物等が付着、蓄積することにより、管が閉塞して製造装置の不具合が発生したり、生成物の収率が低下する場合がある。したがって、製造装置の安定的な稼働及び生成物の収率向上のため、これらの不具合の発生を抑制することが必要となる。また、精製工程において、より多くの生成物を回収することができるようにすることも必要となるため、化学物質を工業的に製造する製造装置においては、これらの不具合の抑制や精製工程の効率向上のための様々な方策が取り入れられている。
【0003】
反応生成物の精製工程の効率の向上を目的とした装置として、二重管構造を有する原料導入管を備えた結晶成長装置において、原料導入管の内管の管壁に複数個の孔を設け、外管に不活性ガスを供給してこれを内管の管壁の孔から内管内に導入するものが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、製造装置を構成する管への物質の付着や管のつまり等を防止する方策については、何ら開示されていない。
【0004】
製造装置中の管の物質によるつまりや、容器への付着を防止する方法として、昇華性物質除去部材を備えた製造装置が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この製造装置は、昇華性物質除去のため、反応装置内で前後に作動できる特殊な部材を用いるものであることから、より簡便な方法により物質の管への付着や管のつまりを防止できるようにする工夫の余地があった。
また、2重構造の配管を用いて、反応真空チャンバーを排気する排気系の配管内に反応副生成物が付着するのを防止する配管内付着防止装置が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、容器内における管への物質の付着や管のつまり防止については何ら開示されていないことから、容器中における管への物質の付着や管のつまりを防止できる反応装置とする工夫の余地があった。
【0005】
また、2種類の原料を管から供給する際に、その少なくとも一方をガス供給管出口において不活性ガスで囲まれた状態とする製造方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。しかしながら、この装置は、同一のノズルから供給される2種類の原料がノズル先端部近傍で反応することを防止するための装置であり、反応容器中に存在する物質のノズルへの接近、付着を防止することについては、何ら開示されていない。
更に、反応器本体から突設されたノズルを有する反応器において、ノズルに不活性ガスを供給する酸化反応器が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。しかしながら、この反応装置は、不活性ガスにより、反応容器内における反応ガスの滞留を防止する装置であり、容器に取り付けられた管に物質が付着することを防止することについては、何ら開示されていない。したがって、容器に取り付けられた管への物質の付着、管のつまりを防止することにより、反応装置が安定的に稼働できるようにする工夫の余地があった。
【特許文献1】特開昭59−8694号公報(第1、3頁)
【特許文献2】特開2000−1678号公報(第1−2頁)
【特許文献3】特開2001−226774号公報(第1−2頁)
【特許文献4】特開昭58−161909号公報(第1−2、4頁)
【特許文献5】特開2003−231661号公報(第1−3、5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、容器中に物質を供給するノズルへの物質の付着や管のつまりを防止して、化学物質の製造装置の安定的な稼働を可能とする物質の供給方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、化学物質の工業的な製造装置において、反応容器等の容器内に物質を供給するノズルに、容器中に存在する原料、中間体、副生成物、生成物等の物質が付着、蓄積することにより、ノズルを閉塞することが製造装置で生じる不具合の原因の1つとなっていることに着目し、ノズルとして多重管構造を有するものを用い、多重管構造を構成する異なる管から物質と該物質とは反応しないガスとを容器内に供給することにより、ノズルに原料や、中間体、副生成物、生成物等の物質が接近することやノズル近傍で原料等の反応が起こることが抑制され、容器中に存在する各種化合物がノズルに付着、蓄積することによるノズルの閉塞が防止されることにより、製造装置の安定的な稼働が可能となることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
このような方法によると、ノズル先端へ容器中の物質が接近、及び/又は、付着することを防止することを目的としてノズルからの原料供給速度を上げることが反応条件等によりできない反応系においても効果的に原料や、中間体、副生成物、生成物等の物質の付着、蓄積によるノズルの閉塞を防止することができることから、本発明の物質の供給方法は、様々な反応条件により反応が行われる各種製造装置において用いることができるものである。
【0008】
すなわち本発明は、容器内に液体及び/又は固体の物質を供給する物質の供給方法であって、該供給方法は、多重管構造を有する供給ノズルを用い、多重管構造を構成する異なる管から物質と該物質とは反応しないガスとを容器内に供給することを特徴とする物質の供給方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明の物質の供給方法は、多重管構造を有する供給ノズルを用い、多重管構造を構成する異なる管から物質と該物質とは反応しないガスとを容器内に供給するものであるが、供給される物質には、化学物質の製造工程において供給され又は生成する、原料、中間体、副生成物、生成物等の製造装置内において存在し、ノズルに付着、蓄積する可能性のある全ての化合物が含まれる。また、容器には、反応容器、貯蔵容器、精製装置に含まれる容器等、製造装置を構成し、ノズルが設置されて化学物質やガス等が供給される場合がある全ての容器が含まれる。
【0010】
上記供給ノズルは、多重管構造を有するものであるが、多重管構造とは、1つの管の内側に別の管が存在する構造が多重に存在することによって構成されている構造のことである。このような構造を有するものである限り、管の数や各管の内径、管の長さ等は特に制限されるものではないが、好ましくは二重管構造を有するものである。
【0011】
本発明の物質の供給方法は、物質と該物質とは反応しないガスとを多重管構造を構成する異なる管から容器内に供給するものであるが、物質と該物質とは反応しないガスとを異なる管から供給するとは、容器内に物質と該物質とは反応しないガスとが別々に容器内に供給されることを意味し、例えば、物質と該物質とは反応しないガスとが最初は別々の管を流れているが、物質を供給する管と、該物質とは反応しないガスを供給する管とが、容器への開口部(先端部)に達するまでの途中で合流して1つの管となり、ノズル先端部から物質と該物質とは反応しないガスとが混合された形態で供給されることになるような形態は含まない。
物質と該物質とは反応しないガスとが異なる管から容器内に供給される限り、いずれの管から供給されるものであってもよく、また、物質、該物質とは反応しないガスのそれぞれが1つの管から供給されるものであってもよく、複数の管から供給されるものであってもよい。
【0012】
上記物質の供給方法は、ノズルの閉塞の原因となる物質がノズルへ接近、及び/又は、付着することを防止するように、少なくともノズルの先端部を該物質とは反応しないガス雰囲気下にするものであることが好ましい。少なくとも供給ノズルの先端部分がガス雰囲気下にあると、供給ノズルから流されるガス流によって、容器中の存在する物質のノズル先端部分への接近が抑制されることになり、効果的に管への物質の付着、管の閉塞が防止されることになる。
【0013】
上記供給ノズルは、先端部が鉛直下向き、又は、鉛直下向き方向に対して45°以下の角度の方向を向いていることが好ましい。供給ノズルがこのような方向を向いていると、特にノズルから供給される物質が液体である場合に、液だれにより供給物質がノズルに付着することが防止されることになる。より好ましくは、先端部が鉛直下向き方向を向いていることである。
【0014】
また上記供給ノズルは、多重管構造の中の少なくとも1つの内管が外管より容器側に突出しない構造を有するものであることが好ましい。このような形態を有するものであると、外管より容器側に突出しない内管の先端部分が外管の先端部より奥にあるため、容器中の物質が直接内管の先端部分に付着することが少なくなり、内管先端部分への容器中の物質の付着、蓄積が抑制されることとなる。
このような内管が外管より容器側に突出しない構造を有する多重管としては、外管の径(直径)をd、内管の径(直径)をd、管の鉛直方向に対する傾きをθ(0<θ≦45)、内管のオフセット距離(外管の先端部に対して内管の先端部がどれだけ奥にあるか)をXとすると、下記式の位置関係を満たすものが好ましい。
0≦X≦|(d/2)−(d/2)|/tanθ
なお、
[(d/2)−(d/2)]<|(d/2)−(d/2)|/tanθ<∞]
である。
【0015】
一般的に、ガスを管から供給すると、管の先端部から離れる程、ガスが管の外側方向に拡散しながら流れてゆき、ガス流が弱くなるが、外管より容器側に突出しない内管、及び、該内管より容器側に突出した外管と該内管との間のいずれか一方にノズルから供給される物質、他方に該物質とは反応しないガスを流通させると、物質を供給する管の先端部付近において、該物質とは反応しないガスが広い範囲に拡散することなく、大半が物質の供給方向に吹き出すことになるため、物質を供給する管の先端部分付近に充分なガス流が存在することになり、特に内管の先端部分において、容器内にある原料や、中間体、副生成物、生成物等の物質が接近することや、先端部分付近で反応が起こること、及び、相変化することに起因する物質の付着、蓄積を効果的に抑制することが可能となる。
【0016】
本発明の物質の供給方法は、多重管構造を有するノズルを用いて、多重管構造の中の少なくとも1つの内管に物質を流し、内管と外管との間にガス流体を流すものであることが好ましい。このような構成とすると、容器内に存在する物質が物質供給ノズルへ接近することが抑制されるだけでなく、供給される物質がその外側にあり、物質の供給方向と同じ方向のガス流によって囲まれた状態で容器に供給されることになることから、供給される物質が供給ノズルの先端部から充分に離れるまで容器中の物質と供給される物質との接触が妨げられる。このため、ノズル近傍で反応が起こることが充分に抑制され、反応生成物がノズル先端部に付着することも効果的に抑制することができる。
より好ましくは、供給ノズルが上述した多重管構造の中の少なくとも1つの内管が外管より容器側に突出しない構造を有し、外管より容器側に突出しない内管にノズルから供給される物質を、該内管より容器側に突出した外管と該内管との間に該物質とは反応しないガスを流通させることである。このような形態とすると、内管、外管いずれの先端部分についても、原料や、中間体、副生成物、生成物等の物質が接近することや、先端部分付近で反応が起こること、及び、相変化することに起因する物質の付着、蓄積が効果的に抑制されることになる。
【0017】
本発明の物質の供給方法に用いられるノズルは、多重管構造を有し、多重管構造を構成する異なる管から物質と該物質とは反応しないガスとを容器内に供給するものであるが、物質供給ノズルへの物質の付着や管のつまりが防止され、かつ、物質と該物質とは反応しないガスとが管の先端部から反応容器内に供給される前に混合されて容器に供給される形態でない限り、別の形態のノズルを用いた供給方法も用いることができる。
【0018】
上記別の形態のノズルを用いた供給方法としては、例えば、物質供給ノズルとは別のノズルから物質供給ノズルに向かって該物質とは反応しないガスを吹きつけるようにして供給する形態等がある。この場合、物質とは反応しないガスを供給するノズルは、物質供給ノズルの外側に設置され、該ガス供給ノズルの先端部が物質供給ノズルの先端部近傍にある形態であってもよく、該物質とは反応しないガスを供給するノズルが物質供給ノズルの外側からノズルの側面を貫通して内部に導入されており、該ガス供給ノズルの先端部が物質供給ノズルの先端部近傍にある形態であってもよい。
また、ガス供給ノズルは1つであっても、2つ以上であってもよく、ノズルの向き、物質供給ノズルとの位置関係等は特に制限されない。
【0019】
上記別の形態のノズルを用いた供給方法は、少なくとも先端部分が供給される物質とは反応しないガスの雰囲気下にあることが好ましい。ノズルの先端部分がガス雰囲気下にあると、ノズルの先端部分に原料や、中間体、副生成物、生成物等の物質が接近することや、先端部分付近で反応が起こることに起因する物質の付着、蓄積を効果的に抑制することができる。なお、先端部分がガス雰囲気下にあることになる限り、その他の部分もガス雰囲気下にあってもよい。
【0020】
上記別の形態のノズルを用いた供給方法において、物質供給ノズルは、先端部が鉛直下向き、又は、鉛直下向きに対して45°以下の角度の方向を向いていることが好ましい。供給ノズルがこのような方向を向いていると、特にノズルから供給される物質が液体である場合に、液だれにより供給物質がノズルに付着することが防止されることになる。より好ましくは、先端部が鉛直下向き方向を向いていることである。
また、ガス供給ノズルの向きは、特に制限されないが、物質供給ノズルに対して0°(並行)〜90°(垂直)の範囲であることが好ましい。
【0021】
また、ノズルの大きさは、ノズルが取り付けられる容器、形状にもよるが、例えば容器が竪型円筒槽の場合、容器槽径の1〜50%のノズル径が好ましい。より好ましくは1〜10%のノズル径である。このような大きさのノズルにおいては、物質の付着による管の閉塞が起こりやすいことから、本発明の物質の供給方法を用いることにより、物質のノズルへの付着、蓄積による管の閉塞を効果的に抑制することができる。
【0022】
本発明の物質の供給方法において用いられるガスは、物質供給ノズルから供給される物質とは反応しないものである限り特に制限されないが、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、空気、及び、これらの混合物等のガスであることが好ましい。より好ましくは、窒素である。また、物質の反応で副生するガスをリサイクルして用いてもよい。後述するN−アルキルボラジンの製造においては、水素等のガスが副生することになるため、これらのガスをリサイクルして用いることができる。
【0023】
本発明の物質の供給方法は、ノズルへの物質の付着、蓄積に起因する管の閉塞を防止し、製造装置の安定的な稼働を可能とする供給方法であり、各種化学物質の製造装置において好適に用いることができるものである。このような、多重管構造を有する供給ノズルを用いる本発明の物質の供給方法に用いる物質供給ノズル付き容器もまた、本発明の1つである。
また、上記物質供給ノズルと、該物質と反応しないガスを供給する別のノズルとを用いる物質の供給方法に用いる物質供給ノズル付き容器もまた、本発明の1つである。
物質供給ノズル付き容器は、本発明の物質の供給方法に用いられるものである限り、容器の大きさ、ノズルの数や向き等は特に制限されない。また、上記多重管構造のノズルを有するもの、物質供給ノズルと、該物質と反応しないガスを供給する別のノズルとを有するもの、これらの両方を有するもののいずれの形態のものであってもよい。
【0024】
上記物質供給ノズル付き容器において、容器の形式は特に限定されず、貯槽、反応槽、分離槽又は移動槽に用いることができるが、反応槽に好適に用いることができる。
反応槽においては、反応によって新たに生成する物質や副生ガス等に起因して容器内気流の乱れが生じ、閉塞原因物質のノズル先端部分への接近、及び/又は、付着の可能性(確率)が増すと予想されるため、物質供給ノズル付き容器を用いることにより、効果的にノズル先端部分への閉塞原因物質の付着、蓄積を防止することができる。
【0025】
本発明の物質の供給方法においては、0.005m/sec以上の流速でノズルから供給される物質とは反応しないガス流体を流すことが好ましい。ガス流体の流速を0.005m/sec以上とすることで、より効果的に容器中の物質のノズル先端部への接近を防止し、ノズルへの付着、蓄積による管の閉塞を抑制することができる。より好ましくは、0.01m/sec以上である。
【0026】
本発明の物質の供給方法は、ノズルから供給される物質が固体、液体のいずれの形態であっても用いることができるが、固体、液体又は固液混合液のいずれかであることが好ましい。ノズルから供給される物質が固体、液体又は固液混合液のいずれかであると、本発明の物質の供給方法によるノズルへの容器中の物質の付着やノズルの閉塞を防止する作用がより効果的に発揮されることになる。
【0027】
また本発明の物質の供給方法は、ノズルの閉塞の原因となる物質がどのような物質であっても用いることができるが、ノズルの閉塞の原因となる物質は、冷却による相変化で固化する物質であることが好ましい。
冷却による相変化で固化する物質は、冷却される前は液体又は気体の状態にあることから、容器の上部にノズルがある場合でも容易にノズル近傍まで到達し、ノズル近傍で冷却されると、固化してノズルに付着することになる。本発明の物質の供給方法を用いることにより、冷却される前の物質のノズルへの接近を抑制することができるため、冷却による相変化で固化する物質のノズルへの付着、ノズルの閉塞を効果的に抑制することができる。
【0028】
上記冷却による相変化で固化する物質としては、例えば、昇華性物質がある。
本発明の物質の供給方法を好適に用いることができる昇華性物質としては、アルキルアミン塩、ヨウ素、フタル酸、無水フタル酸、シュウ酸、ナフタレン、カテコール、フェノール、ショウノウ、パラジクロロベンゼン、ヒドロキノン等が挙げられる。これらの中でも、メチルアミン塩酸塩に用いられることがより好ましい。
【0029】
本発明の物質の供給方法は、各種反応を行う装置において好適に用いることができるものであるが、N−アルキルボラジン等の製造装置に好適に用いることができる。
N−アルキルボラジンは、水素化ホウ素アルカリとアルキルアミン塩との反応により合成される。
【0030】
上記水素化ホウ素アルカリは、下記一般式(1);
【0031】
ABH (1)
【0032】
(式中、Aは、リチウム原子、ナトリウム原子又はカリウム原子を表す。)で表される化合物である。水素化ホウ素アルカリとしては、水素化ホウ素ナトリウム及び水素化ホウ素リチウムが挙げられる。
【0033】
上記アルキルアミン塩は、下記一般式(2);
【0034】
RNHX (2)
【0035】
(式中、Rは、アルキル基を表す。Xは、ハロゲン原子で表す。)で表される化合物である。
なお、上記一般式(2)中、Rで表されるアルキル基は、直鎖、分岐、又は、環状のいずれであってもよい。また、アルキル基の有する炭素数は、特に限定されないが、1〜8であることが好ましい。より好ましくは、1〜4であり、更に好ましくは、1である。
【0036】
上記一般式(2)中、Rで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられるが、これら以外のアルキル基であってもよい。
上記一般式(2)で表されるアルキルアミン塩としては、モノメチルアミン塩酸塩(CHNHCl)、モノエチルアミン塩酸塩(CHCHNHCl)、モノメチルアミンシュウ酸塩(CHNHBr)、モノエチルアミンフッ酸塩(CHCHNHF)等が挙げられる。
【0037】
上記N−アルキルボラジンは、下記一般式(3)で表される化合物である。
【0038】
【化1】

【0039】
式中、Rは、上記アルキルアミン塩におけるRと同じである。
N−アルキルボラジンとしては、N,N’,N”−トリメチルボラジン、N,N’,N”−トリエチルボラジン、N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(iso−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(sec−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(iso−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(tert−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(neo−ペンチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、N,N’,N”−トリシクロヘキシルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−エチルボラジン、N,N’−ジエチル−N”−メチルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−プロピルボラジン等が挙げられる。
【0040】
上記N−アルキルボラジンの製造において使用する水素化ホウ素アルカリ、及び、アルキルアミン塩は、合成するN−アルキルボラジンの構造に応じて選択すればよい。例えば、ボラジン環を構成する窒素原子にメチル基が結合しているN−メチルボラジンを製造する場合には、アルキルアミン塩として、モノメチルアミン塩酸塩等の、Rがメチル基であるアルキルアミン塩を用いればよい。
【0041】
上記N−アルキルボラジンの製造における水素化ホウ素アルカリとアルキルアミン塩との使用量の比は、特に限定されないが、アルキルアミン塩の使用量1モルに対して、水素化ホウ素アルカリの使用量を1〜1.5モルとすることが好ましい。
【0042】
上記N−アルキルボラジンを製造する際の水素化ホウ素アルカリとアルキルアミンとの反応は、溶媒中で行うことができる。その際に用いる溶媒としては、特に限定されないが、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)等が挙げられる。
【0043】
上記水素化ホウ素アルカリとアルキルアミン塩との反応は、50〜150℃に温度制御された条件下で行うことが好ましい。より好ましくは、70〜130℃であり、更に好ましくは、80〜120℃である。反応溶液の温度を上記範囲に制御することによって、短時間に水素ガスが多量に生成することを抑制することができる。なお、反応温度は、K熱電対等の温度センサーを用いて測定することができる。
【0044】
N−アルキルボラジンの製造装置におけるN−アルキルボラジンの具体的な合成方法として、N,N’,N’’−トリメチルボラジンを合成する場合の反応式を以下に示す。
【0045】
【化2】

【0046】
上記N,N’,N’’−トリメチルボラジンの合成反応においては、原料であるメチルアミン塩酸塩、及び、反応中間体であるN−メチルシクロボラザンが昇華性物質である。したがって、これらが反応容器に取り付けられたノズルに付着、蓄積することにより管の閉塞を起こす場合があるが、この反応においては、水素が発生することから、反応容器中の反応溶液の液面上昇を防ぐために、ノズルからの原料供給速度を上げてノズルへの昇華性物質の付着を防止することができない。本発明の物質の供給方法は、このような、反応条件等により、ノズルからの原料供給速度を上げることができない反応を行う製造装置においても好適に用いることができる方法である。
【発明の効果】
【0047】
本発明の物質の供給方法は、上述の構成よりなり、ノズルへの物質の付着、蓄積に起因する管の閉塞による不具合の発生を効果的に抑制し、製造装置の安定的な稼働を可能とする物質の供給方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0049】
実施例1
攪拌機、冷却管、原料供給管を備えたハステロイ製の100L反応容器を窒素置換した後、脱水処理したメチルアミン塩酸塩8.38kgとトリグライム30.0kgを仕込み、加熱攪拌しながら150℃まで昇温させた。
150℃に保持しながら水素化ホウ素ナトリウム5.25kgとトリグライム22.19kgとの混合液を7.6時間かけて反応容器の気相部に接続した原料供給管から供給し、反応させた。
この原料供給管は、反応容器気相部に接続された25Aのノズルを外管とし、その内側にφ8mmのSUS製配管を内管として配置した二重管構造とした。
また、その二重管の内管部先端は、反応器と外管となるノズルの接合面よりも5mm反応器内反対側に位置するように配置・接続した。
内管外側と外管内側の間に窒素ガスを0.4L/min(線速0.013m/sec)の通気量で通気しながら、水素化ホウ素ナトリウムとトリグライムの混合液を内管より供給した。
この二重管構造をもつ原料供給管を用い、更に内管と外管との間にNガスを通気することで原料供給管先端部をN雰囲気にすることにより先端部分において固化温度以下になりうる物質の接近及びその析出を防ぎ析出及びその蓄積に起因する配管閉塞を防止し、反応途中における原料供給の中断を防止することができた。
原料滴下後、170℃まで反応溶液を昇温させて、更に170℃で2時間熟成し反応を終了した。
【0050】
比較例1
攪拌機、冷却管、原料供給管を備えたハステロイ製の100L反応容器を窒素置換した後、脱水処理したメチルアミン塩酸塩8.38kgとトリグライム30.0kgを仕込み、加熱攪拌しながら150℃まで昇温させた。
150℃に保持しながら水素化ホウ素ナトリウム5.25kgとトリグライム22.19kgとの混合液を7.6時間かけて反応容器の気相部に接続した原料供給管から供給しようと試みた。
この原料供給管は反応容器気相部に接続させた40Aのノズルに25AのSUS配管を内挿し、その先端部を反応容器内気相部に配置した。
原料供給開始から、6.5時間後に反応容器内に存在する物質が原料供給管の先端部に固化温度まで冷却され、析出及び蓄積し、原料供給管を閉塞したため、反応原料を供給することができず、反応溶液を冷却し反応を停止させた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1における反応容器、原料供給管及び排気配管の構成を示す概念図である。
【図2】比較例1における反応容器、原料供給管及び排気配管の構成を示す概念図である。
【符号の説明】
【0052】
1:排気配管
2:原料供給管(外管:25A)
3:原料供給管(内管:φ8mm)
4:原料供給管(外管:40A)
5:原料供給管(内管:25A)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に液体及び/又は固体の物質を供給する物質の供給方法であって、
該供給方法は、多重管構造を有する供給ノズルを用い、多重管構造を構成する異なる管から物質と該物質とは反応しないガスとを容器内に供給する
ことを特徴とする物質の供給方法。
【請求項2】
前記物質の供給方法は、ノズルの閉塞の原因となる物質がノズルへ接近、及び/又は、付着することを防止するように、少なくとも供給ノズルの先端部を該物質とは反応しないガス雰囲気下にする
ことを特徴とする請求項1記載の物質の供給方法。
【請求項3】
前記ノズルの閉塞の原因となる物質は、冷却による相変化で固化する物質である
ことを特徴とする請求項1又は2記載の物質の供給方法。
【請求項4】
前記供給ノズルは、先端部が鉛直下向き、又は、鉛直下向き方向に対して45°以下の角度の方向を向いている
ことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の物質の供給方法。
【請求項5】
前記供給ノズルは、多重管構造の中の少なくとも1つの内管が外管より容器側に突出しない構造を有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の物質の供給方法。
【請求項6】
前記物質の供給方法は、多重管構造を有するノズルを用いて、多重管構造の中の少なくとも1つの内管に物質を流し、内管と外管との間にガス流体を流すことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の物質の供給方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の物質の供給方法に用いることを特徴とする物質供給ノズル付き容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−114146(P2008−114146A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299190(P2006−299190)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】