説明

物質の酸化還元電位降下法

【課題】食品、化粧品や薬剤等の天然物素材の酸化還元電位降下法を提供する。
【解決手段】新鮮野菜やウコン、エゴマ、大麦若葉などの乾燥物、酵母、乳酸菌などの微生物菌体、魚あるいは動物由来の原料を、湿式条件下で、素材を16kHz〜1MHzの発振周波数で処理する方法。酸化還元電位が+200mV以下のものが好ましく、これを用いれば酸化還元電位が大きく下がり、抗酸化物質としてより効果を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の酸化還元電位降下法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化還元電位は、個々の物質固有のもので、酸化還元反応系における電子のやり取りの際に発生する電位である。即ち、物質の電子の授受のしやすさを定量的に表したものである。
【0003】
健康生活への意識の高まりにより、抗酸化力を持つ天然物が食品、医薬部外品や化粧品の有効成分として使用されている。ヒトは酸化によりエネルギーを獲得しているが、ヒトの体液あるいは臓器内は+200mV〜−500mVの範囲にあり、大部分は還元条件で制御されている。このことは、ヒトは酸化による老化を代償として生命活動を行っていることを示している。
【0004】
植物体は光合成の機能を有し、電子受容体が光エネルギーを取り込み、電子受容体として働いた複合体が低電位となり、初発物質として明反応を嫌気条件で行なっている。この系から炭水化物を生合成する暗反応へと効率的に連携している。低電位から高電位には自然に電子が流れることは周知のとおりである。この反応において、活性酸素などの細胞に害を与えるラジカルイオンの発生はない。好んで、抗酸化力のある食品、化粧品などを買い求めるのは酸化に対する認識が変ってきたことに他ならない。
【0005】
市販されている化粧品、健康食品、還元水など抗酸化力を機能とするものは多く存在するが、採りたての新鮮野菜のように低電位のものは殆どなく、+200〜+100mVの範囲のものが殆どである。還元水にしても、コップに注ぎ数分で+側の電位に酸化されてしまう。抗酸化性の素材が低電位とは限らないが、低電位素材は強い抗酸化力を有している。ヒトの生体内の電位状態から、摂取可能な低電位素材は不可欠と考えられる。現状は、鮮度のよい野菜や魚肉などの食材に依存している。ヒトは、植物体のように光エネルギーを変換する機能がないだけに、有用かつ効率的なエネルギー源として低電位で安定した素材は有用である。その他、種々の分野でも要望されているが、抗酸化性技術の領域にとどまっている。
【0006】
農林水産分野において、農業分野では、土壌殺菌剤による化学消毒から、植物や作物残渣を利用して土壌を還元的に消毒する試みが各地で行われている。江戸時代の農学者、宮崎安貞の「農業全書」によれば、江戸時代の農業において、土を再生するための技術として一般的に行われていた技術である。近年に、蘇った技術であるが、畑作を続けることにより酸化した土壌は団粒性も消失し、風化してしまう。しかし、水田土壌は湛水により、栽培中に−100mV〜−300mVの還元電位まで降下し、土壌が還元状態に制御される。このことにより、殆どの植物病原菌が含まれる好気性微生物の増殖や土壌害虫の生息密度が低下し、嫌気性微生物の増殖により土壌団粒の核部分が形成されることになる。先に述べたように、光合成が嫌気的な反応であることを考えると極めて合理的な方法である。しかし、現在の農業現場では、電位を下げるために多量の作物残渣を圃場に施用しており、経費面、水を確保するための立地条件、湛水還元の時期および残肥量が問題となってきている。
【0007】
また、水産分野では、輸入鮮魚あるいは遠洋漁業において、海水を利用した冷蔵、冷凍技術での鮮度保持および保存性の良否が流通価格および衛生面で大きな課題となっている。
【0008】
植物体もヒトも水を媒体として、電子を移動させている。ヒトも植物も生命活動において、水は不可欠である。ヒトは高電位の水道水を飲料水として摂取している。水道水には殺菌のため塩素が残留しており、水質により異なるが都市部では+600mV以上の高電位となっている。高温期の簡易水道では健康に有害とされる+800mV以上となっている。このような背景から、「水」が販売されて久しく、最も安定した飲料となっている。しかし、原料は天然水であり、水質の低下などの問題が発生している。水源を有効かつ、安全に守る方法は全く行われていないのが現状である。また、農村部での高速道路や農面道路の敷設工事などにより、農業用の地下水の水質が急激に悪化してきている。また、海産鮮魚の保存に使用されている海洋氷の原料として世界各地の海洋水が使用されている。海洋氷が融解後に腐敗するなどの原因で輸入海産物の品質面、衛生面での問題が指摘されており、さらに、海洋水の水銀やカドミウムによる汚染も報告されており、衛生面だけでなく、安全性の面でも問題点として指摘されている。
【0009】
健康食品および化粧品は、ヒト生体の吸収能が最大の課題である。ヒト生体への吸収には電位が関係している。温泉水を例にとると、鬼怒川温泉峡の水質は−300mV以下の低電位であり肌に潤いをもたらす、しかし、鹿児島の温泉郷の水質は逆に酸化側の高電位であり肌がかさかさになる。生体内の電位に近いものは吸収が速やかに行われるのに対して、高電位のものは酸化力が強いためにラジカルが発生し、炎症をおこすためである。従って、健康食品および化粧品に要求される物理的要素として低電位が望ましい。低電位の素材を得ることは、既存の還元処理技術などにより可能であるが、低電位を維持させた商品を製造することは難しく、+200mV前後に維持するため酸化防止剤などの保存剤を添加しているのが一般的である。
【0010】
新鮮野菜やウコン、エゴマ、大麦若葉など の乾燥物、酵母、乳酸菌などの微生物菌体、魚あるいは動物由来の原料は、本来、+200mV以下の固有電位を有している。しかし、時間経過、および、乾燥工程を経ることより、腐敗や酸化を生じ、品質および低電位を維持することは難しい。還元剤による処理は、一時的に電位を降下させるが低電位を維持することは難しい。特に、水溶液の状態では、時間経過とともに電位は上昇する。
【0011】
そこで、種々の物質を酸化還元電位の低い状態にすることが要求されることとなる。物質を低電位にする従来の方法は、特許文献1に示すような水素ガスを吹き込む方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−21146
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記の例のような水素ガスを吹き込む方法は、水素ガスが必要であり、設備費、ランニングコスト共に大きな負担となる。
【0014】
そこで、本発明者は、上記のような欠点がない、物質の酸化還元電位降下法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上のような状況に鑑み、本発明者は鋭意研究の結果、本発明物質の酸化還元電位降下法を完成したものであり、その特徴とするところは、湿式条件下で、素材を16kHz〜1MHzの発振周波数で処理する点にある。
【0016】
ここでいう素材とは、被処理物であり、基本的には何でもよい。
酸化還元電位が+200mV以下のものが好ましく、これを用いれば酸化還元電位が大きく下がり、抗酸化物質としてより効果を発揮する。
更に、天然物がより好ましい。例えば、野菜やウコン、エゴマ、大麦若葉などの乾燥品、酵母、乳酸菌などの微生物菌体、魚あるいは動物由来のものが好適である。しかしながら、本発明は天然原料に限られるものではない。化粧品や薬剤、原料その他の化合物でも可能である。
【0017】
16kHz〜1MHzの発振周波数で処理(ここでは超音波処理という)するとは、被処理物(素材)にこの範囲の周波数の音波を照射することをいう。16kHz以下では、聴覚障害を伴い、1MHz以上では実施が難しい。
装置としては、通常のものでよく、超音波破砕機や超音波洗浄機と同様で、振動素子(振動板等)を高周波振動させればよい。
【0018】
このような高周波振動の機能について述べる。液体や溶液に8W/cm以上の強度の超音波を照射するとキャビテーション(空洞現象)が生じる。空洞現象では、音圧の正負の激しい繰り返しで媒質が引きちぎられる。圧力が低い時に媒質が気化し、次の圧力が高くなる時に、気化した泡がつぶされて強い衝撃波を伴う高圧が発生する。周波数20kHz〜数MHzでは、5000℃、千数百気圧以上の極限反応場(ホットスポット)が溶液中に作りだされる。このことを利用して、環境汚染物質の分解、高分子合成、微粒子合成、殺菌などの研究がおこなわれている。医療分野では、0.5〜2.5W/cmの低強度の超音波が使用されている。食品工業分野では、0.5W/cm以下の低強度の超音波利用が行われている。
本発明は、強度の超音波を利用するものである。周波数が高くなると、振動加速度が高くなり、強力なキャビテーションを発生させる。しかし、振動伝達距離が短くなり、大量処理が困難となる。工業的な大量製造には、16kHz〜100kHzが実用的である。天然物を原料とする場合、熱的作用による影響を軽減するため、20kHz〜40kHzが適している。
【0019】
また、振幅は特に限定はしないが、10μm以上が好ましく、20〜100μmがより好ましい。
【0020】
湿式条件下とは、被処理物質を水溶液にする、エマルジョンにする、懸濁液にする等水中で処理するという意味である。
その濃度としては、5〜30重量%(好ましくは5〜25重量%、より好ましくは8〜12重量%)が好適である。
【0021】
本発明の天然物(生物由来のもの)原料以外の用途について述べる。
ケイ酸カルシウム、酵母及び水分調整材からなる低電位素材を水に分散させ、超音波処理後に密閉保存した結果、2日後に−500mV以下の低電位水を得ることができる。更に、同上の素材を含む海水あるいは水道水を20kHz〜40kHzの超音波で3分間照射を行なうことにより、72〜96時間後の溶液は、−500mV以下の低電位となる。この系においては、電位差による水の電気分解に類似の現象が生じている。低電位素材と水との電位差により、素材近傍が−300mV前後になると分解で生じた水素が発生する。この現象は、燃料電池における陰極燃料としての水素を発生させる装置として応用することも可能である。
【0022】
その他の分野での利用について、
1 低電位及び周波数による腐敗微生物の殺菌と低電位による抗酸化性を利用した加工水、海水氷用水の前処理、
2 皮膚への親和性と低電位及び周波数による殺菌性を利用した皮膚病(水虫等)の治療、
3 低電位素材によるアレルギー性鼻炎の治療、
4 低電位素材を利用した切り花の保存、
5 廃水処理への還元処理法としての応用が考えられる。
【0023】
廃水処理における重金属類の還元分離は、現行設備の建設及びランニングコストの低減において有効な手段となる。廃水からの重金属処理は、酸化、中和沈殿法が主流である。本発明の技術は、還元分離技術に関するものである。コンパクトな還元設備で短時間に廃水あるいは海水から易還元性の金属イオンを液体から除去する方法である。例えば、鉄含量の多い用水を使用すると、鉄が完全に溶液から分離され、素材表面に吸収される。この素材から重金属を回収することも可能である。
【0024】
この低電位水及びその製造方法は、種々の用水処理にも利用できる。畜産及び農業において、用水中の重金属含有量が問題となっている場合が多い。また、特殊な陽イオン物質を低濃度に含有する場合などの還元分離処理に有効に利用できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、次のような大きな効果がある。
(1) 簡単に酸化還元電位が降下できる。
(2) 被処理物に悪影響がない。
(3) 非常に安価に処理できる。
(4) 危険性のない安全な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下実施例に沿ってより詳細に説明する。
【実施例】
【0027】
被処理物(素材)として、酵母菌体処理物を使用した。酸化還元電位は、−137mVであった。これは、乾燥酵母菌体を水熱反応処理(反応条件:160〜180℃、18〜19気圧、20分)したものである。濃度としては、10重量%の水懸濁液である。
この懸濁液5Lを、振幅:42μm、周波数:20kHz、出力:650Wで10分間処理した。この結果を表1に示す。
【表1】

【0028】
表1から、電位が大きく降下していることがわかる。時間的にも、3分程度で十分であり(1〜5分が好適)、それ以上は必要ないことも分かった。
更に、この処理物を、通常雰囲気で密閉し保管した。デッドスペースは通常の空気である。この状態で、1週間低電位を維持した。このことも本発明方法の大きな効果である。試料酵母として、酵母細胞壁水熱反応物(反応条件:180〜190℃、19気圧、20分)を吸水させた珪藻土粉末を使用しても同様の結果であった。
【0029】
上記実験を、種々の周波数で行なった。条件は、表1と同様であり、周波数だけを変えて行なった。時間は3分とした。
処理周波数 酸化還元電位(mV)
処理前 −137
16kHz −380
20kHz −300
40kHz −210
100kHz −138
400kHz +50
600kHz +120
1MHz +130
以上のように、100kHz以下の周波数範囲で電位降下の効果があることが分かった。この理由としては、既存の発振機では周波数が高くなると振幅が低下し、キャビテーションは生じなくなる。いわゆる音圧領域となり別用途に使用される。音圧領域では、ほとんど電位降下が生じなくなる。むしろ、酸化される。しかし、高周波域においても振幅が10μm以上で維持できる設備であれば、電位降下は生じると考えられる。
【0030】
次に試料として、乾燥大麦若葉粉末を用いた。大麦若葉の抗酸化性は知られているが、水懸濁液は+200mV前後の電位を示す。この試料を、前記同様の超音波処理を5分間行った。これも通常の密閉容器で1週間放置した後、測定した結果、−400mVにまで達した。よって、酸化防止剤を添加しないで系で低電位の天然物を提供できることになる。
【0031】
次に試料として、発泡コンクリート(ケイ酸カルシウム)の細孔にビール酵母細胞壁水熱反応物を吸水させた珪藻土微粉末を充填したものを使用した。
これも水中で同様の超音波処理を行なった。
約3分間処理後密閉保存した結果、+100mVの試料が、−500mVにまで降下した。
【0032】
甘藷のペースト、大麦若葉、ウコン粉末、エゴマ粉末を10倍(重量)の水と混合し、上記と同様の超音波処理を行なった。結果を表2に示す。
【表2】

【0033】
表2から、ウコン、エゴマと甘藷の電位による抗酸化性はほぼ同様と推定され、既存のサプリメントと同等品の製造は可能である。大麦若葉は最も低電位を示した。
【0034】
次に、試料としてアサヒフードアンドヘルスケア社製酵母細胞壁を10重量%に調整し、上記同様の超音波処理を施した。試料は+100mVであった。
5分で+20mV、10分で−100mV、18分で−200mVまで降下した。これですでに効果は確認できている。
更に、珪藻土を添加し、乾燥した後、打錠した。対照として、通常の水熱反応処理(190℃、19気圧、25分)を行った酵母細胞壁粉末、及び超音波処理により−200mVまでの低電位に変換した大麦若葉液に同様の珪藻土を添加し、乾燥させて1cm程度のサイズに打錠した。この錠剤を10倍重量の水道水を加えて、6時間後と24時間後の電位を表3に示す。
【0035】
【表3】

(反応条件:160〜180℃、18〜19気圧、20分)
これにより、多大の設備投資を要する水熱反応設備(高圧オートクレーブ)を使用せず、超音波処理で、水反応生成物以上の低電位素材が製造できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明方法は、素材を低電位化することによって、食物の抗酸化性を向上させる、その他、飼料や肥料の低電位化を図るだけでなく、低電位物質を利用した物質の還元や特定物質、金属等の除去にも有用なものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式条件下で、素材を16kHz〜1MHzの発振周波数で処理することを特徴とする物質の酸化還元電位降下法。
【請求項2】
該素材は、酸化還元電位が+200mV以下である請求項1記載の物質の酸化還元電位降下法。
【請求項3】
該素材は、天然物である請求項2記載の物質の酸化還元電位降下法。
【請求項4】
該素材は、酵母である請求項3記載の物質の酸化還元電位降下法。




【公開番号】特開2011−250721(P2011−250721A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125497(P2010−125497)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(510152426)
【出願人】(510152552)
【Fターム(参考)】