説明

特にはブレードの肉厚の渦電流による測定

【課題】曲率の影響を考慮に入れることができる方法を開発する。
【解決手段】本発明は、ターボ機械のブレード形式の中空部品の、所定の範囲の曲率半径および厚さの少なくとも所定の曲率半径を有する点における壁の厚さを評価するための方法であって、壁へと適用された渦電流検出器(20)によって形成される電気回路のインピーダンス値を割り出すこと、およびそれらの値をニューラルネットワークを備えるデジタル処理ユニットへと挿入することを含み、ネットワークのパラメータが、上記範囲の所定の曲率半径および厚さを有するスペーサについての学習によって、予め定められている方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ機械の分野に関し、特にはタービンのブレードなどの中空部品の肉厚を渦電流によって測定するための装置を主題とする。
【背景技術】
【0002】
高圧タービンのブレードは、特には空気の循環による冷却のための内部通路、内部の仕切り、ならびに変化する曲率を有するますます複雑な形状を有するようになっている。製造後に、通路に一致する外壁の厚さを、機械的強度を確実にするために非破壊の方法によって評価しなければならない。測定の不確実さが小さくなければならない。例えば、0.3mm〜1.2mmの範囲の肉厚について、不確実さが25マイクロメートル未満であるように定められる。
【0003】
知られている方法は、X線断層撮影法である。しかしながら、作業時間が長いという不都合がある。ブレード全体の検査には、数分間の一連のセクションをそれぞれいくつかの高さにおいて行う必要がある。このような解決策は、手順のよい検査のためのものとは考えられず、ましてや所要の測定精度が満足されないならばなおさらである。
【0004】
超音波による他の方法は、材料の異方性によって測定が大きく乱される(精度の目標が達成されないと考えられる)点、および手作業であるという性質ゆえに、適していない。また、作業者の経験、較正、および再現性などの変動要因にもさらされる。
【0005】
渦電流による測定技法は、このような用途、すなわち単結晶材料で作られた部品によく適しており、意図される測定精度の目標を満足する。特に、室温における材料の導電性が、結晶方位によって左右されない。しかしながら、いくつかのパラメータ、すなわち
・ブレードの局所的な曲率、
・測定点の付近における仕切りの存在、および
・検出器と部品との間の相対的な位置、
が測定を乱すため、特にこの種の部品について、幾何学的特徴に注意を払う必要がある。
【0006】
後者の点については、充分に信頼できる精度の機械的構造を使用することによって、解決することができる。
【0007】
本出願人は、仕切りの存在によって引き起こされる乱れを抑制することができる測定手段を、すでに開発済みである。好ましい方向に放射を行う適切なU字形の磁気検出器が、すでに生み出されている。欧州特許第1167917号明細書が、渦電流検出器の2つの磁極であって、直列に接続されたコイルを備える磁極を、仕切りに平行に整列させて壁へと適用すること、壁上で検出器を仕切りに直交する方向に動かすこと、検出器によって生成される信号を記録すること、およびそこから予備的較正に従って肉厚を導出すること、から構成される中空ブレードの肉厚測定方法に関係している。後者は、仕切りを含む試料壁についての測定に基づいて実行される。さらに、これらの較正が、ニューラルネットワークの学習に使用される。このニューラルネットワークは、この学習によってひとたび適切にプログラムされたならば、検出器によってもたらされる測定されたインピーダンスに相当する入力信号が加えられたときに、肉厚についての評価をもたらす。
【0008】
人工ニューラルネットワークは、現実の生体ニューロンの活動によって着想されたデジタル・コンピュータによって運営される演算モデルである。上述の特許出願に記載されているように、入力および出力を介して一体に接続されたニューロンからなる。人工ニューロンNは、より正確には、1つ以上の入力e(重み付けWが組み合わせられる)およびただ1つの出力sへと結びつけられた個々のプロセッサである。出力値は、重み付けされた入力およびバイアスbによって決まり、すなわち式s=f(w.e+b)に従うが、ここでfは、ニューロンNのプログラミングによって決定される活性化関数である。このように、ネットワーク内を移動するデータが、それぞれのニューロンを通過するときにそれぞれのニューロンによって変更される。ニューロンは、連続する各層に分布しており、先の層および後の層のニューロンに結びつけられている。
【0009】
上述の出願において使用されているモデルは、所望の出力、すなわち厚さをもたらすただ1つのニューロンを有する出力層C2、ならびに渦電流検出器によってもたらされる信号から得られるインピーダンス値、抵抗、および/またはリアクタンスが供給されるいくつかのニューロンからなる隠れ層C1からなる。ニューロンによって運営される関数は、C2については同一性、すなわちf(w.e+n)=w.e+bであり、層C1においては双曲正接、すなわちf(w.e+b)=tanh(w.e+b)である。
【0010】
学習は、厚さが次第に大きくなる平行帯で形成され、後部に仕切りに類似したリブを備えるプレートを含むスペーサについて実行される。渦電流検出器が、インピーダンスに対応する試料信号を得るために、このスペーサへと適用され、そこからニューラルネットワークのパラメータ、重み付け、およびバイアスが定められて調節される。学習は、ネットワークが検出器によってもたらされる信号に従ってスペーサの各点の知られている厚さを出力するように、適切なアルゴリズムによって実行することができる。
【特許文献1】欧州特許第1167917号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、厳しい曲率を有する部品の場合には、考慮しなければならない最後の要因が依然として残されている。検出器の平坦な表面と部品の曲面との間に空隙が形成され、これが測定される信号を乱す。これをなくすことができるようになることが、望ましいと考えられる。
【0012】
本出願人は、曲率の影響を考慮に入れることができる方法を開発するという目的を設定した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、湾曲した表面を有するターボ機械のブレード形式の中空部品の、特には所定の範囲の曲率半径および厚さの少なくとも所定の曲率半径を有する点における壁の厚さを評価するための方法であって、壁へと適用された渦電流検出器によって形成される電気回路のインピーダンス値を割り出すこと、およびそれらの値をニューラルネットワーク形式のデジタル処理ユニットへと挿入することを含む方法が、ニューラルネットワークのパラメータが、上記表面の曲率半径の範囲内の所定の曲率半径と所定の厚さとを有するスペーサについての学習によって、予め定められていることを特徴とする。
【0014】
本発明は、特には、曲率半径が10mm以上かつ100mm未満であって、センサがブレードの圧力側または吸い込み側のどちらに位置するかに応じて曲率が凹または凸であってよいターボ機械のブレードの壁の厚さを評価するために適用される。
【0015】
さらなる特徴によれば、本方法は、ターボ機械のブレードの壁の厚さの評価に適用され、上記厚さが0.1mm〜2mmの範囲にある。
【0016】
材料の性質の関数であると考えられる補正の実行を回避するため、上記スペーサは、好ましくはブレードと同じ材料からなる。
【0017】
他の特徴によれば、本方法が、内部の仕切りを有するターボ機械のブレードなどの部品へと適用され、それぞれの枝部に測定コイルが設けられているU字形の磁気鉄心を有する検出器が使用される。さらに詳しくは、鉄心の枝部が、少なくとも上記仕切りに等しい間隔を有する。
【0018】
次に、添付の図面を参照しつつ、本発明をさらに詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、外壁10が湾曲しており、かつ内部に仕切り12を含む中空のブレード1を示しており、特には仕切り12および壁の間に、冷却空気の循環通路14が画定されている。或る仕切りと他の仕切りとで、配置および厚さは同じではない。数多くの構成が可能である。同じことが、壁の曲率にも当てはまり、壁の曲率が、翼弦の方向および根元と自由端との間の方向の両者において、多少なりとも変化している。すでに説明したように、ブレードが成型によって製造された場合に、あらゆる点におけるブレードの肉厚を知ることができることが重要である。
【0020】
本発明の方法は、渦電流測定法を適用することによって、あらゆる点において壁10の厚さを測定すること、またはあらゆる点において壁10の厚さの評価を少なくとも可能にすることを目的としている。本方法は、交流発電機と、適切な検出器20と、検出器の端子に生成される電圧を記録するための電圧計とを有する回路を生成することからなる。検出器が、壁に当接して配置され、壁によって電気回路のインピーダンスが左右される。電圧計によって測定される値は、回路のインピーダンスを通じ、検出器コイルの電磁誘導によって部品の隣接部分に生じる渦電流に依存して決まる。すなわち、電圧計によって測定される値が、壁の特徴に依存して決まる。次いで、これらの値が処理され、これらの値から厚さが評価される。
【0021】
使用される検出器20は、好ましくは、図2に示され、本出願人の名義である欧州特許第1167917号明細書に記載の方法においてすでに使用されている形式の検出器である。正方形または矩形の断面を有するU字形の高透磁率の磁気鉄心22を含む。2つのコイル23および24が、鉄心の枝部に配置されており、電気的に直列に接続されている。したがって、検出器は好ましい方向に放射を行い、仕切りの影響が軽減される。
【0022】
2つの極の間の磁気回路の幅は、仕切りの幅に近く、あるいは仕切りの幅よりも大きい。検出器20が、その場その場のやり方で測定点へと動かされ、2つのU字形の極によって形成される線が、仕切りの方向と平行に保たれる。
【0023】
U字形の磁気回路を備えるセンサの構造ゆえ、「U字」の2つの極によって形成される線に基本的に平行な磁界を生成することができる。上述の特許の教示から分かるように、それぞれの測定点において、センサの2つの極を仕切りと平行に向けることによって、渦電流が仕切りに直交して仕切りを大きくは貫かないため、仕切りによって大きく乱されることがない信号を得ることができる。一方で、直交整列の場合には、仕切りに対する感受性が高くなる。この場合には、このセンサが、好ましくは「平行」モードで使用される。必要であれば、後述されるとおり、仕切りを備えた湾曲スペーサを有することによって、評価の精度を改善することができる。
【0024】
1mm×1mmの正方形の極を備え、極間の間隔が1mmであるセンサによって、テストを実行した。
【0025】
しかしながら、本発明が、或る曲率半径を有するが必ずしも下方に仕切りが位置してはいない壁の厚さを割り出すために適用されるため、他の任意の検出器の使用も本発明の文脈に含まれることに、気が付くであろう。
【0026】
全ての測定点が確実に掃引されること、および検出器が測定対象の表面に対して正確かつ確実に直角であることを保証するため、検出器は、多軸の、好ましくは5軸の機械的構造によって支持される。掃引は、好都合には点から点へと行われる。各点において信号が記録され、その後に、検出器が次の測定点へと動かされる。
【0027】
電圧計によって測定される電圧がVであり、コイルを通過する電流の強度がIである場合、Z=V/I+R+jXなる関係が与えられ、ここでZは、部品が存在しない場合の回路のインピーダンスであり、Rは抵抗であり、Xはリアクタンスであり、j=−1である。同じやり方で、検出器が部品へと適用されたときには、Z=V/I=R+jXである。
【0028】
厚さは、逆モデルを有するデジタル処理手段によって評価される。「逆モデル」は、原因から結果へと進む直接モデルと異なり、結果を原因へときわめて大まかに結びつける数学的モデルを意味する。本出願においては、逆モデルが、インピーダンス(厚さ、およびブレードの他のパラメータの結果)から肉厚(原因)をもたらす。この種のモデルは、測定に基づいてパラメータを推定するという問題を解くために知られている。この場合において行われるように、データベースによって生み出すことが可能である。このモデルは、検出器のインピーダンス、好ましくは標準化されたインピーダンスを入力データとして有し、推定による厚さを出力として有する。
【0029】
したがって、逆モデルは、求めようとする厚さおよび曲率の範囲を包含するスペーサについてなされた測定に由来する渦電流データに基づいてパラメータが設定される数学的関数であり、好都合にはニューラルネットワークまたは多項式モデルである。
【0030】
図3および図4が、ニューラルネットワークの学習に使用されるスペーサ30を示している。スペーサ30は、円形の断面を有する円筒の一部分、特には半円筒の形状を有し、円形の断面の半径が、曲率半径を表すとともに、ブレードの曲率半径の範囲内で選択されている。スペーサの壁は、複数の厚さ31、32、33、などで形成されている。厚さは、自身の軸に沿って段階的に増加している。厚さもまた、測定対象の厚さの範囲に従って選択されている。スペーサは、凹および凸の位置で使用される。好都合には、スペーサを形成している材料は、測定対象の部品の材料と同じであり、あるいは少なくとも同じ導電率である。しかしながら、部品とは異なる導電率を有するスペーサについて測定を行うことを、妨げるものではない。具体的には、上述の特許において定められるような標準化されたインピーダンスは、σおよびfによってのみ依存して積の形で決定される。その後、導電率の誤差を、スペーサについての取得周波数を後に部品について使用される周波数に関して変更することによって、補償することができる。
【0031】
ニューラルネットワークの学習が、検出器が取り入れられてなる回路のインピーダンスに応じて値を測定することによって続けられるが、この回路は、それ自体がスペーサの厚さに依存して決まる部品において生成される渦電流によって変更される。スペーサの厚さを知ることで、そこからネットワークのパラメータの値を、適切な反復アルゴリズムによって導き出すことができる。このアルゴリズムは、例えば、ニューラルネットワークによってもたらされる厚さと該当の測定点におけるスペーサの実際の厚さとの間の誤差勾配の計算に基づくことができる。
【0032】
仕切りに平行に整列したセンサは、仕切りに対する感受性が小さい。したがって、センサの較正のために仕切りを有するスペーサは必ずしも必須ではない。したがって、半円筒形のスペーサを使用すれば充分である。しかしながら、必要であれば、例えば適切に切り出されて度量衡によって特徴付けられているブレードなど、仕切りを備えるスペーサによって、測定精度を向上させることができる。逆モデルは、小さいがゼロではない仕切りの影響を少なくとも部分的に学習して補正する。さらに性能を向上させるため、センサが、先のモードを補うために、仕切りに対して直角に整列して使用される。これら2つのモードにおいて仕切りの影響がきわめて異なるため、ニューラルネットワークは、仕切り付きの湾曲スペーサについての較正の後に、仕切りの影響を特定して補正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】冷却用流体の循環のために内部通路が設けられているターボ機械のブレードの断面図である。
【図2】渦電流による肉厚測定に使用される検出器の例を示す。
【図3】ニューラルネットワークの学習に使用されるスペーサの例を正面図にて示す。
【図4】ニューラルネットワークの学習に使用されるスペーサの例を断面図にて示す。
【符号の説明】
【0034】
1 ブレード
10 外壁
12 仕切り
14 循環通路
20 検出器
22 磁気鉄心
23、24 コイル
30 スペーサ
31、32、33 厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲した表面を有するターボ機械のブレード形式の中空部品の、少なくとも所定の曲率半径および厚さを有する点における壁の厚さを評価するための方法であって、
壁へと適用された渦電流検出器によって形成される電気回路のインピーダンス値を割り出すこと、およびそれらの値をニューラルネットワーク形式のデジタル処理ユニットへと挿入することを含み、
ネットワークのパラメータが、前記表面の曲率半径の範囲内の所定の曲率半径と所定の厚さとを有するスペーサについての学習によって、予め定められている、方法。
【請求項2】
曲率半径が10mm以上かつ100mm未満であって、曲率が凹または凸であってよいターボ機械のブレードの壁の厚さを評価するための、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ターボ機械のブレードの壁の厚さを評価するための方法であって、前記厚さが0.1mm〜2mmの範囲にある、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記スペーサが、ブレードと同じ材料からなる、請求項1、2、または3に記載の方法。
【請求項5】
前記スペーサが、ブレードと同じ材料ではなく、導電率の相違の影響を補正する方法が適用される、請求項1から3の一項に記載の方法。
【請求項6】
内部の仕切りを有するターボ機械のブレードなどの部品へと適用され、それぞれの枝部に測定コイルが設けられているU字形の磁気鉄心を有する検出器が使用される、請求項1から5の一項に記載の方法。
【請求項7】
鉄心の枝部が、少なくとも前記仕切りに等しい間隔を有する、請求項6に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−292769(P2007−292769A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−116745(P2007−116745)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(505277691)スネクマ (567)
【出願人】(593174249)サントル・ナシオナル・ドウ・ラ・ルシエルシユ・シアンテイフイク(セー・エヌ・エール・エス) (4)
【Fターム(参考)】