特に骨細胞活性を支持する様に調整されたリン酸カルシウム相の人工安定化組成物
【課題】 本発明は、その上の骨細胞活性を一貫して支持することが可能な形態を提供する生物的に活性な人工安定化焼結組成物に関する。
【解決手段】 組成物は、安定剤の存在下に焼結温度でハイドロキシアパタイトを、不溶化され、安定化したリン酸三カルシウムに変換することにより作製された安定化リン酸カルシウム相を含む。本発明は、骨細胞活性の正常と異常を判定する医用診断において、また骨組織および歯牙組織の置換と修復を含む医学的治療、およびex vivoでの骨移植組織
作製に応用できる。
【解決手段】 組成物は、安定剤の存在下に焼結温度でハイドロキシアパタイトを、不溶化され、安定化したリン酸三カルシウムに変換することにより作製された安定化リン酸カルシウム相を含む。本発明は、骨細胞活性の正常と異常を判定する医用診断において、また骨組織および歯牙組織の置換と修復を含む医学的治療、およびex vivoでの骨移植組織
作製に応用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その上の骨細胞活性を支持することが可能なリン酸カルシウム相の生物的活性を持つ人工安定化焼結組成物に関する。本発明は、骨細胞活性の正常と異常を判定する医用診断において、また骨組織および歯牙組織の置換と修復を含む医学的治療、および生体外(exo vivo)骨移植組織作製に応用できる。
【背景技術】
【0002】
骨は、無機すなわちミネラル相、有機基質相、および水から構成される複雑な鉱物化系である。無機ミネラル相は、結晶リン酸カルシウム塩から構成され、有機基質相は主にコラーゲンとその他の非コラーゲンタンパク質から構成される。骨の石灰化は、鉱物化組織を生成するための有機相と無機相の間の密接な関係に依存している。
【0003】
骨の成長過程は、構造と機能の両者の必要条件を満たす様に調節されている。骨の形成、維持および吸収の過程に関与している細胞は、骨芽細胞、骨細胞、破骨細胞である。骨芽細胞は骨の有機基質、類骨を合成し、これはリン酸カルシウム結晶が成長し、コラーゲンが組み立てられた後に、鉱物化される。骨細胞は、骨のミネラルと細胞外液の間のカルシウムとリン酸塩の流れを調節する。破骨細胞は骨を吸収する働きをし、骨のリモデリング過程に不可欠である。骨形成と骨吸収の自然のバランスが障害されると、種々の骨疾患を引き起こす。破骨細胞活性の上昇は、骨粗鬆症、線維性骨炎、パジェット病に認められる様な骨密度の低下を特徴とする骨疾患を引き起こすことが実証されている。これらの疾患は全て、骨吸収が増加した結果である。
【0004】
骨細胞機能調節に関与する機序を理解するために、正常な骨細胞機能を評価できること、また種々の骨疾患におけるこの活性の障害度も評価できることが重要である。これから、異常な骨細胞活性を正常レベルの範囲内に修復することを目的とした薬物が同定される。異常および正常な骨細胞活性の病因の同定とこの活性の評価と共に、骨組織の欠損を引き起こす、疾病、外科的切除または生理学的損傷の結果としての異常な骨細胞活性を治療するための組成物と方法の開発が望まれ、かつ必要とされている。骨インプラントを利用するような骨組織の置換と修復を行う治療法が非常に望まれている。
【0005】
幾つかの研究グループがin vitroで分離された破骨細胞の活性を直接観察する方法を開発した。骨髄細胞集団から分離された破骨細胞が、マッコウクジラの象牙質(Boyde et al
Brit.Dent.J.156,216,1984)または骨(Chambers et al J. Cell Sci.66,383,1984)等の天然材料の薄い切片上で培養された。後者のグループは、この吸収活性が一連の単
核食細胞から成るその他の細胞にはないことを明らかにすることができた(Chambers & Horton,Calcif Tissue Int.36,556,1984)。破骨細胞の系列を研究するための他の細胞
培養技術を利用するより最近の試みは、皮質骨切片の利用に未だに依存しなくてはならない(Amano et al.and Kerby et al J.Bone & Min.Res.7(3))。その際には、吸収活性
の定量は種々の深さの吸収窩領域の二次元分析または吸収容積の立体マッピングのいずれかに依存している。比較的厚い基質の吸収を評価する場合には、この様な技術の精度はせいぜい約50%である。更に、これらの分析技術は非常に時間もかかり、高度な専門機器と技術を要する。更に、骨または象牙質切片の作製とそれに続く検査は、破骨細胞活性の評価方法としては簡単でもなく、実際的でもない。
【0006】
破骨細胞の培養に基質として人工リン酸カルシウム標本を使用する方法も殆ど成功していない。Jones et al(Anat.Embryol 170,247,1984)は、in vitroでは破骨細胞が合成
アパタイトを吸収すると報告したが、この観察結果を支持する実験的証拠を提示することはできなかった。Shimizu et al(Bone and Mineral 6,261,1989)は、分離された破骨細胞は失活させた骨表面のみを吸収し、合成ハイドロキシアパタイトカルシウムは吸収しないことを報告した。これらの結果は、機能性破骨細胞をin vitroで培養することが困難であることを示すものと思われる。
【0007】
幾つかのグループは骨組織の治療用置換に適した組成物の提供も試みている。米国特許第4,871,578号は、インプラントに利用するのに適したハイドロキシアパタイトの非孔性
平滑コーティングの形成工程を開示している。米国特許第4,983,182号は、酸化ジルコニ
ウムの焼結体とαTCPと酸化ジルコニウムのコーティング、あるいはハイドロキシアパタ
イトと酸化ジルコニウムのコーティングを含んだセラミックインプラントを開示している。米国特許第4,988,362号は、生体セラミックを別の生体セラミックと互いに融合するた
めの組成物を開示している。
【0008】
米国特許第4,990,163号は、αTCPとβTCPからなる生体セラミックの生成に利用するコ
ーティングを開示している。これらの異なる組成物は、インプラント等の生体適合コーティングに利用できるものと思われるが、これらの組成物が、破骨細胞の吸収量と骨芽細胞の骨基質分泌量の比活性を定量測定できるような高い信頼性と再現性で、活性を有する破骨細胞と骨芽細胞の培養に適しているかどうかは実証されていない。更に、開発された従来の組成物はいずれもそれらを処理することによって、組成と形態が共通でin vitroとin
vivoの生物的活性能が同程度の、一連のフィルム、より厚いコーティング、セラミック
塊を高い信頼度で作製することはできない。
【0009】
出願人の公開された国際PCT特許出願WO94/26872は、その上で骨細胞機能が発生する、
リン酸カルシウム相の薄いフィルムを形成する焼結工程を報告している。これは、その上で破骨細胞が高い活性を示し、その上で骨芽細胞が骨基質を分泌できる最初の合成素材の薄いフィルムである。その出願に記載されているように、所望のハイドロキシアパタイト対リン酸三カルシウム比を有する薄いフィルムを供給する際には、種々の因子を考慮すべきである。この様なパラメータとして以下が挙げられる。
【0010】
1)ゾル-ゲルハイドロキシアパタイト基質を調製するための試薬の量。
2)試薬の配合比。
3)ゾル-ゲル調製時の混合時間および混合速度。
4)沈殿および分離の速度および方法。
5)ゾル-ゲル製造時の工程環境条件。
6)薄いフィルムのディップコーティング時のゾル-ゲルからの基質の除去速度。
7)焼結温度。
8)不活性ガス、真空または水蒸気が存在する大気の様な管理された雰囲気における焼結。
9)基質の性質。石英は、安定化酸カルシウム相でコーティングされた透明基質を作製するのに好ましい例である。
【0011】
この初期のPCT特許出願においては、ハイドロキシアパタイト対リン酸三カルシウム比
を広範囲に設定するために、10:90から90:10までの比を達成するために、これらのパラメータの多くを考慮する必要があった。空気雰囲気中の提案された焼結温度は、約800℃か
ら約1100℃であった。800℃では、フィルムはハイドロキシアパタイトが優位を占めるこ
とが確立された。約900℃の焼結温度では約70:30の比が得られた。1000℃では、比は約10:90で、1100℃ではフィルムはリン酸三カルシウムが優位を占めた。1000℃で真空におけ
る焼結は、約66:34の比を生じることも示唆された。現在、好ましい比は50:50から20:80
であることが判明している。至適比は333:666である。これらの比を達成するために、上
記因子の幾つかを検討できる。しかし、上記因子の幾つかにおける変動を最小限にし、厳格な再現性のある方法で、至適フィルム組成物を作製するために望ましい比を達成することが望ましい。驚くべきことに、αリン酸三カルシウムが水溶性と考えられるのに、このフィルムは種々の水性媒質の存在下に安定である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4,871,578号
【特許文献2】米国特許第4,983,182号
【特許文献3】米国特許第4,988,362
【特許文献4】米国特許第4,990,163号
【特許文献5】国際PCT特許出願WO94/26872
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Brit.Dent.J.156,216,1984
【非特許文献2】J. Cell Sci.66,383,1984
【非特許文献3】Calcif Tissue Int.36,556,1984
【非特許文献4】J.Bone & Min.Res.7(3)
【非特許文献5】Anat.Embryol 170,247,1984
【非特許文献6】Bone and Mineral 6,261,1989
【発明の概要】
【0014】
出願人は、安定剤の存在がこの組成物を安定化し、生理学的溶液中でその分解を防止できることを発見した。従って、この組成物のフィルム、コーティング、またはセラミック塊からのリン酸カルシウムの消失は、殆ど破骨細胞の活性に依るもので、溶解過程に依るものではない。この安定化された人工生物的活性組成物は、破骨細胞と骨芽細胞の両者の活性を支持し、両細胞の生理学的活性を高い信頼度で評価できると同時に、診断および治療法を開発できる、この様な組成物としては最初のものである。安定剤は、生理学的溶液中で分解せず、その上の骨細胞活性を支持、促進する細胞適合形態を有するリン酸カルシウム相を形成する、αリン酸三カルシウムの安定型を生成するための焼結工程中に形成されるリン酸カルシウム相中のαリン酸三カルシウムを安定化する。
【0015】
本発明は、診断および治療に広範に応用できる安定化組成物を提供する。安定化組成物は、本発明の一面に従って、表面の球状微細孔と内部の微細孔が共通している、一連の薄いフィルム、コーティング、粉末およびセラミック塊を提供するために利用できる。更に、セラミック塊も、in vivoで認められるものと類似した人工三次元骨組織を提供するた
めに構造内部に微細孔を保持することができる。この組成物は、その形態に関わりなく、その上で培養される骨細胞の活性を促進し、かつ骨移植片として利用するためのex vivo
で作製される人工骨組織の開発も可能とする。
【0016】
本発明の一面に従って、その上の骨細胞活性を一貫して支持することが可能な形態を提供するために、生物的活性を有する人工焼結組成物が提供される。組成物は、安定剤の存在下に、焼結温度でハイドロキシアパタイトを不溶性の安定化されたリン酸三カルシウムに変換することにより作製された安定化リン酸カルシウム相を含んでなる。
【0017】
本発明の別の一面は、その上の骨細胞活性を支持するのに適したリン酸カルシウム相の人工焼結組成物を安定化させるための方法である。その方法は、ハイドロキシアパタイトを焼結により主にαリン酸三カルシウムに変換し、リン酸相内部で形成されたαリン酸三カルシウムを安定化させ、不溶化する安定剤を提供することを含んでなる。
【0018】
本発明の更に別の一面は、骨細胞活性を支持するための焼結人工微細孔多結晶構造である。この構造は、構造内部に相互に結合された微細孔を持つ相互に緩く結合された球状顆粒で形成される球状表面形態を有する、焼結され、安定化されたリン酸カルシウム相を含んでなる。
【0019】
本発明の更に別の一面は、移植可能な石灰化された骨基質であって、a)基質を支持する構造と、b)リン酸カルシウム相を不溶化し、安定化させる安定剤の存在下で、焼結温度でハイドロキシアパタイトをリン酸三カルシウムに変換することにより作製された安定化リン酸カルシウム相の層とc)安定化リン酸カルシウム相の層上に培養された骨芽細胞が沈着させた境界層と、d)この様に培養された骨芽細胞により分泌された鉱物化コラーゲンに富んだ基質とを含んでなる。
【0020】
本発明の別の一面は、機能性骨細胞の培養方法であって、生理的培地に懸濁した骨細胞懸濁液を安定化され、不溶化されたαリン酸三カルシウム複合体から成る基質上の安定化リン酸カルシウム層の人工焼結フィルムに塗布することを含んでなる。
【0021】
本発明の別の一面は、骨細胞の活性を監視し、定量するキットであって、安定化され不溶化されたαリン酸三カルシウムを含む、リン酸カルシウム相の焼結フィルムを有する基質と、基質に付着させたマルチウェル骨細胞培養装置とを含んでなる。
【0022】
本発明の別の一面は、鉱物化コラーゲンに富む基質の体外での組織作製方法であって、
相互に結合された微細孔を有する相互に緩く結合された球状顆粒で形成される球状表面
形態を有する、人工安定化組成物を提供するステップと、 生理的培地中に懸濁された骨
芽細胞懸濁液を組成物に塗布するステップと、 培養の骨芽細胞から分泌された鉱物化さ
れたコラーゲンに富む骨基質をインキュベーションするステップと、 分離されたコラー
ゲンに富む骨基質を患者に移植するステップとを含んでなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、ハイドロキシアパタイトとリン酸三カルシウムの安定性に対するCaOの影響を示す優位面積図である。
【図2】図2は、安定剤であるシリコンの存在下に、本発明のハイドロキシアパタイトの変換により形成されたリン酸カルシウムの相を示す図である。
【図3】図3は、CaOの活性に対するCaO/Al2O3の影響を示す図である。
【図4】図4は、CaOの活性に対するCaO/TiO2およびCaO/B2O3の比の影響を示す図である。
【図5】図5は、グラフ(a)、(b)、(c)を含むものであり、(a)組成物と基質の界面、(b)界面のすぐ上、(c)フィルムの上におけるエネルギー分散エックス線分光写真法の結果を示す。
【図6】図6は、活性骨芽細胞により、本発明の安定化された薄いフィルム組成物の上に沈着された鉱物化コラーゲンに富む骨基質の断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7】図7(a)は、安定化組成物の上に培養された骨芽細胞により生成された蛍光石灰化骨基質の沈着を示す写真である。図7(b)は、安定化された薄いフィルムの組成物上に骨芽細胞が培養されていない対照を示す写真で、蛍光石灰化骨基質は可視化されていない。
【図8】図8は、人工の生物的活性を有する安定化組成物から成る立体固体セラミック塊上の破骨細胞吸収小窩の走査電子顕微鏡写真である。
【図9】図9は、人工の生物的活性を有する安定化組成物の薄いフィルム上の破骨細胞吸収小窩の走査電子顕微鏡写真である。
【図10】図10は、形態を示す、石英基質上の人工の生物的活性を有する安定化組成物の薄いフィルム断面を透過型電子顕微鏡により拡大し顕微鏡写真である。
【図11】図11は、表面微細孔構造を示す、薄いフィルムとして適用された安定化組成物の走査電子顕微鏡写真である。
【図12】図12(a)は、安定剤が存在しない場合の市販の焼結ハイドロキシアパタイトの走査電子顕微鏡写真である。図12(b)は、安定剤存在下における市販焼結ハイドロキシアパタイトの走査電子顕微鏡写真である。
【図13】図13は、自然の吸収小窩を示す自然骨上の破骨細胞の走査電子顕微鏡写真である。
【図14】図14は、本発明の方法により作製されたセラミック塊の球状表面形態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
リン酸カルシウムの組成物は、出願人の同時継続出願により発行されたPCT出願WO94/26872に報告されている方法に従って提供された組成物である。この工程により、一貫して
、ハイドロキシアパタイト対αリン酸三カルシウム比が50:50から20:80の望ましい比の範囲内にある、リン酸カルシウム相の薄いフィルムが提供される。現在、安定剤の存在により、リン酸カルシウム相内部のαTCPを顕著に予想外に安定化させ、骨芽細胞と破骨細胞
の両活性を支持、促進し、かつ,この様な活性の定量を高い再現性で定量することを可能
にする生物的活性を有する組成物が提供され、また骨組織の欠損の診断および治療法の開発が可能となる。
【0025】
「安定化」という言葉は、in vivoまたはin vitroで環境条件または生理学的環境に置
かれた時に、一貫した結晶および化学構造を維持する、ハイドロキシアパタイトの変換により形成されたリン酸カルシウム相を示すことが理解される。
【0026】
「生物的活性」と言う言葉は、正常の骨代謝回転に極めて近似した過程において、本発明の組成物から殆ど、あるいは専ら作製された構造上、あるいは構造全体を通して、骨芽細胞の骨成長を支持し、同時に破骨細胞による組成物の自然に制御された細胞外吸収を促進し、かつ非特異的化学的および/または細胞性溶解および/または分解を行わない能力を示すことも理解される。この様な生物的活性は、骨細胞が存在すれば、この物質をin vitroおよびin vivoで利用する際に認められる。「リン酸カルシウム相」と言う言葉は、焼
結生成物の中に、ハイドロキシアパタイト、αTCP、βTCP、リン酸八カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸二カルシウム等の種々のリン酸カルシウム類を含めることを意図している。
【0027】
最初、in vitroで骨細胞活性を支持するには、適切なリン酸カルシウム生成物は、純粋または本質的に純粋なハイドロキシアパタイトでなくてはならないと考えられ、フィルム作製に最良のリン酸カルシウムと考えられていた。現在、ハイドロキシアパタイトが優位を占める材料は破骨細胞と骨芽細胞の正常機能を促進しないことが明らかにされており、事実、破骨細胞の存在下に活性は殆ど認められない。しかし、ハイドロキシアパタイトとαリン酸三カルシウムを含むリン酸カルシウム相の混合物を提供することにより、吸収度が促進され、その程度はαリン酸三カルシウムが優位を占めるフィルムは吸収度が最も高く、ハイドロキシアパタイトが優位を占めるフィルムは殆ど吸収は認められないという様に広い範囲にわたっている。αリン酸三カルシウムの存在に関しては、この事実が、現在開発されているリン酸カルシウム材料がこの様な材料上で培養された骨細胞において機能特性を促進する理由を一部示唆している。この性質は、例えば、光または反射光を透過できる薄いフィルムの形態で安定化されたリン酸カルシウム相を提供するという点で、この様なフィルムで培養された骨細胞の幾つかの機能特性を評価する診断法の実施を可能としている。
【0028】
驚くべきことに、ハイドロキシアパタイトゾル-ゲル物質の調製を標準化し、非常に特
異的な焼結温度範囲を選択すると、所望の比を達成できるだけでなく、ゾル-ゲル工程に
より調製されるハイドロキシアパタイトのαリン酸三カルシウムへの変換により至適組成物が形成されることが明らかとなることが見いだされた。βリン酸三カルシウムはこれらの好ましい至適フィルム組成物においては、全くまたは殆ど検出されなかった。別の相のハイドロキシアパタイトとαリン酸三カルシウム調製品の混合物を調製する必要はない。それよりも、公開されたPCT出願WO94/26872に記載されている方法は、ゾル-ゲルハイドロキシアパタイトの調製に十分である。pHを高めた媒質中でこの様なハイドロキシアパタイトを作製するための化学反応は以下の通りである。
【0029】
5Ca(NO3)2+ 3NH4H2PO4 + 7NH4OH → Ca5(PO4)3OH + 10NH4NO3 + 6H2O
開始溶液は、反応物質が完全に溶解され、十分混合できる水性溶液から成る。ハイドロキシアパタイトは、懸濁液中に微細粒子として生じ、その大きさは光散乱実験により、調製後24時間ゾル-ゲル物質を放置すると、平均約0.3μmから1μm以上に成長する。
【0030】
ハイドロキシアパタイトは、中性および/またはアルカリ性媒質中で安定である。好ま
しくは、反応媒質は通常約12あたりにpHを上昇させる。最初のリン酸溶液は、もう一つのカルシウム溶液に滴下して加え、三リン酸一水素四カルシウムの形成を防止し、これによって所望のハイドロキシアパタイトを得る。ゾル-ゲル物質を濾過し、粉末として乾燥し、1000℃のアルミナるつぼでか焼、焼成し、通常の大気湿度の条件で安定なカルシウムハイドロキシアパタイト相を形成する。1200℃以上の焼結温度でこの相は、主にαリン酸三カルシウムに変換され、βTCP、八リン酸カルシウム、リン酸四カルシウムまたはリン酸二カルシウム等の他の相も少量形成される。他の「混入」物質も焼結安定化リン酸カルシウム相中に形成されることは、本技術に精通する者にとって明らかである。この様な物質が焼結前にハイドロキシアパタイトに添加される可能性もある。好ましくは、この様な混入物質の存在または添加は、安定化組成物の組成と形態に、その上の骨細胞活性の支持に影響するような方法で、影響を及ぼさない。
【0031】
焼結工程に関して、ハイドロキシアパタイトの乾燥フィルムの焼結は、オーブン内の環境を調節を必要とせず、標準型高温オーブン内で実施できる。新しいオーブンを使用する場合、あるいは他の目的で前に利用したためオーブンが汚染されている場合には、オーブンを空にした状態で焼結温度で数回運転するのが好ましい。この様なオーブンの予備調整により、揮発物質を除去し、使用の準備をする。更なるステップの追加は必要ない。大気の存在が本方法を障害せず、所望の比率の一定の結果を生じるならば、分解時、およびコーティングされた物質を焼結するための通常利用時にオーブン内に大気が存在してもよい。これらの条件において、石英基質の存在下に50:50から20:80までの所望の比率を提供する場合、焼結温度は920℃から1100℃までが可能である。温度が上昇するにつれ、ハイドロキシアパタイトのαリン酸三カルシウムへの変換率も増えることが見いだされている。920℃から950℃までの焼結温度において、比率は50:50から333:666に向かって変化する可能性がある。950℃から1000℃の選択された焼結温度で、比率は約333:666である。温度が1000℃以上から1100℃まで上昇すると、変換率は上昇し、333:666から20:80の範囲の比率の組成物が生成される。333:666の比率が達成される場合、好ましい焼結温度は約975℃である。
【0032】
ハイドロキシアパタイトからリン酸三カルシウムへの変換は反応
2Ca5(OH)(PO4)3→3Ca3(PO4)2+CaO+H2O
によって起こり、どの温度においても変換率は周囲環境の水の分圧と、CaO濃度を変化させる因子によって影響される。
【0033】
形成されるリン酸三カルシウムの性質は重要である。Ca/P比が1.5〜1.60の不定比化合
物のハイドロキシアパタイトに関して(Nakamura,Thermochimica Acta,Vol.165,1990)、また多くの市販のハイドロキシアパタイト粉末(Aldrich Chem CO.)に関して,粉末が1100℃に加熱され、1000℃以下に冷却されると、通常βリン酸三カルシウムが形成される。βTCPは、鉱物性Whitlockiteとして天然に存在する安定した不溶性化合物である。ここに記載されている様に水性溶液から形成されるゾル-ゲルから誘導されるハイドロキシアパタイトにおいて、また別の沈殿反応から形成されるカルシウムハイドロキシアパタイト粉末において、安定剤の存在下にαリン酸三カルシウムの形成が1000℃以下の温度で促進されることが認められている。リン酸カルシウムを基剤とするコーティングの開発において、比較的溶解度が高いため生理学的溶液中で分解するため、また1250℃以上の温度で純粋なハイドロキシアパタイトの高温変換によってのみ生じるという事実から、αTCPは大いに注目される問題ではなかった。
【0034】
変換式から、この系のCaOの活性を調節する因子が温度とハイドロキシアパタイト変換
の可逆性を変えるものと予想される。SiO2の様な安定剤を添加すると、反応式
CaO+SiO2→CaSiO3
によりCaOが反応するものと考えられ、これによって変換を低温に移動させる。
【0035】
この反応は、反応で生成される1モルのCaOあたり1モルのSiO2で釣り合うはずである。CaO/SiO2比が異なる別のケイ酸塩形成反応も可能である。
【0036】
シリカがケイ酸カルシウムを形成する作用によりCaOが除去されると、TCP相を形成する温度は、図1に示す様に、調製されたハイドロキシアパタイト組成物の変換から得られた
データと一致する温度まで低下する。ケイ素の添加により変換の線は右に、すなわち低温に移動し、主にαTCPが形成される。
【0037】
シリカが、βリン酸三カルシウムの様な他の相よりも、αリン酸三カルシウムの形成を促進する直接的な役割を果たすことに関して提唱されている機序は、ケイ素がハイドロキシアパタイト結晶構造に入り、βよりもα相を安定化させるというものである。現在、好ましい例によれば、開始ハイドロキシアパタイト物質の性質と、シリカの添加方法が重要であることも実証されている。粉末形態のシリカを市販の純粋ハイドロキシアパタイト粉末に添加し、混合を促すために共に製粉するとすると、1000℃以上の高い焼結温度で観察された変換生成物はβTCPであった。これに反して、本発明に従って調製された粉末に金
属-有機溶液としてシリカを添加すると、950℃の線で図2に示す様に低温で保持される安
定化されたαリン酸三カルシウム相に主に変換される。この変換は可逆性でない。高温において、安定剤を添加された粉末は、純粋粉末に関しては、1200℃以上から約950℃への
低下を示した。記載されているように、この作製はケイ酸カルシウムの形成によるものと考えられており、これによって、生成された安定化相組成物は冷却により低温で保持される。
【0038】
本発明に従って、安定剤を加えて調製された粉末が、所望の表面形態と内部微細孔構造を持つ再現性の高い安定した相組成物を有する理由は、ハイドロキシアパタイトが最初非常に微細な粒子としてゾル-ゲル工程により調製されたためである。金属有機溶液の形態
でケイ素の様な安定剤を添加することにより、これらの粒子がそれぞれケイ素の相と緊密に接触することが可能となり、十分混合される。焼結時、シリカは変換反応で遊離されたCaOに非常に近接している。それぞれの粒子表面でケイ酸カルシウムが形成されることに
より、反応の可逆性が制限され、水性生理的培地中でαリン酸三カルシウムの溶解性を阻害するものと提唱されている。
【0039】
ケイ素と同様に、チタン、アルミニウム、ホウ素は変換温度を低下させるものと考えられ、従って安定剤、すなわち添加剤として使用できる。図3および4は、CaO/Al/Ti/Ba複合体の形成による温度低下を示している。これらの金属をハイドロキシアパタイトからCaO
を除去するために使用し、安定化αTCPを生成することができる。安定剤(添加剤)と、安
定剤を分散させる化合物の選択に重要な因子は、(a)安定したカルシウム化合物を形成す
る、形成されたCaOと相互作用しなくてはならない、(b)好ましくは、新しく形成される粒子の対面を取り囲む様に、ゾル-ゲル物質全体に均質に分散されることが可能でなくては
ならない、(c)リン酸カルシウム系内部に望ましくない相を安定化させてはならない、(d)生物学的応用のために組み入れられた際、毒性があってはならない。本発明での使用に適した安定剤は、酸化物、好ましくは、金属酸化物を形成する安定剤である。好ましい金属酸化物は、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、クロム、バナジウム、ニオブの酸化物の様な、所望の組成と形態を生成する選択された物で、より好ましくは、ケイ素とチタンの酸化物から選択される。この様な安定剤の混合物も有用であることが証明されている。
【0040】
焼結は、安定剤の存在下に行われる。安定剤は、焼結工程中ハイドロキシアパタイトを通して基質からの拡散により、あるいは焼結前にハイドロキシアパタイトに安定剤を添加することにより供給できる。拡散であれ、添加であれ、安定剤は、薄いフィルム、粉末、厚いコーティング、セラミック塊、その中に大きな孔を持つセラミック塊の形態のリン酸カルシウム相を安定化させるのに十分な量が供給される。好ましくは、骨細胞活性の支持と促進には、その結果得られる独自の表面形態と内部微細構造であり、これらは再現性があり、焼結工程中の安定剤の存在によって左右される。
【0041】
提案された利用法に応じて、組成物は、診断用の薄いフィルム、あるいは骨または歯牙インプラントに使用するためのより厚いコーティング等の形態で提供することができる。この場合、薄いフィルムは、0.1ミクロンから5ミクロンの厚さを持つフィルムとして、より厚いコーティングは別の基質に適用するためにデザインされた5ミクロン以上の厚さを
持つものとして記載されている。セラミック塊は、より大きな三次元構造を指し、基質とは機能的に独立している。
【0042】
好ましい実施例は、石英基質面上のハイドロキシアパタイトのフィルムを焼結することによって提供される。石英基質は、リン酸カルシウム相全体に拡散し、十分なケイ素含有量を達成できる、十分量のケイ素供給源を提供する。図5(a)、組成物と基質の界面、図5(b)界面のすぐ上、図5(c)フィルムの上に示す用に、ケイ素はフィルム組成物全体で利用され得る。焼結期間中、ケイ素は石英の表面から遊離され、ハイドロキシアパタイト相の表面を通って拡散する。好ましいハイドロキシアパタイト対αリン酸三カルシウム比の範囲内でハイドロキシアパタイトがαリン酸三カルシウムに変換する間、ケイ素はCaOと反応
し、ケイ酸カルシウムを形成し、これはαリン酸三カルシウムと安定な複合体を形成する。焼結時に安定剤を生成されつつあるリン酸カルシウム相の中に遊離するその他の基質または添加剤も、本発明に従って利用できることは、本技術に精通する者にとって明らかである。安定剤は、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、ホウ素、チタン、ゲルマニウム、クロム、バナジウム、ニオブ、およびその混合物等の金属および非金属の酸化物から選択できる。アルミニウム、ジルコニウム、ホウ素、チタン、およびこれらの成分の種々の混合物を含む、あるいはそれらから作製される基質も、安定剤の供給源として適していると思われる。
【0043】
本発明に従って、適切な支持体の上に提供される薄いフィルムは、骨細胞の機能特性の研究と理解を大きく前進させる。本発明に従って提供される安定化フィルムの構造は、その上の多種類の骨細胞の培養を可能にする。表面構造は、破骨細胞活性の研究において、フィルム材料のリン酸カルシウムの吸収を高度から僅かな程度まで促進するように調整することができる。同様に、骨芽細胞活性も、石灰か骨基質の蓄積を検出することによって研究することができる。破骨細胞による吸収が、吸収されたリン酸カルシウムの消失により検出できる程十分に薄いフィルムを供給できることによって、従来の技術と比較すると
簡単で安価な分析方式が提供される。石英やガラス等の透明な支持基質上にフィルムを供給できる利点により、自動機器記録を含む診断方法の評価が容易となる。
【0044】
理想的には、フィルムの厚さは0.1ミクロンである。なぜならば、フィルムの厚さが0.1ミクロンより薄いと、不連続な空隙を生じることなく、均質なフィルムを得るのが困難なためである。フィルムの厚さの上限は、その最終用途に応じて所望の厚さが可能である。後に検討されるように、吸収の程度は、光透過性により検出され、光透過性の見地からフィルムの厚さは10ミクロン未満でなくてはならない。基質は石英製で、石英は必要な焼結温度に容易に耐えられ、フィルム材料からのリン酸カルシウムの吸収量を決定するための光透過性試験が可能な所望の透過度を有する。
【0045】
作製された薄いフィルムは、骨細胞活性を評価するためのキット等に利用できる。フィルムは、付着性のリン酸カルシウムの薄いフィルムで予めコーティングされた石英基質を含む「キット」の形態で組み入れることができ、これは、混合された骨細胞集団の培養に適した系として、細胞培養容器(恐らく、任意で滅菌された24ウェルのマルチウェルプレ
ート、すなわち直径15mm)の中で使用することができる。この装置は簡単で、使用するに
は単に通常の検査機器および技術だけが必要で、定量分析に適しており、安価に作製できるが、通常の取り扱いに耐えられる十分な強度を持ち、ロットとして包装することができ、(例えば)24検体1つのプラスチック製包装箱に包装することもできる。薄いフィルム表面は、規定された再現可能な化学的性質を持ち、適切な包装材料を使用すれば、輸送に十分耐えられる物理的強度を有する。
【0046】
どの様な場合でも、培養条件は、破骨細胞は、単核形態であれ、多核形態であれ、機能している状態で生存し、フィルムの人工リン酸カルシウムを吸収すると予想できるような条件である。同様に、骨芽細胞もこの様な培養条件下に、石灰化骨基質を活発に分泌できる。
【0047】
これらの基質は、破骨細胞の吸収活性を評価し、また疾病過程の結果として、あるいは培養培地内に破骨細胞の吸収活性に直接あるいは間接的に影響すると思われる薬物等の物質が含まれた結果として認められるこのレベルの吸収活性の変化を監視するために利用することができる。基質は、その上の骨基質の分泌を観察、評価するために、またin vivo
移植のために、沈着が生じ、鉱物化された基質を使用するために、活性骨芽細胞の培養にも適している。図6に認められるように、鉱物化コラーゲンに富む基質10は、石英基質14
の上に供給された安定化された薄いフィルム12の上に培養された骨芽細胞によって沈着が生じている。セメントラインに類似している十分に完全な境界層16が示されており、これはin vivoで新しい骨と古い骨の間の界面で骨芽細胞により形成される同じタイプのセメ
ントラインと類似している。これは、圧安定化組成物により、生理学的骨芽細胞活性が重要なリモデリング製品生成物としての安定化組成物の役割を更に支持することが可能となることを明らかに示唆している。
【0048】
この装置は、破骨細胞の吸収活性または破骨細胞の活性による骨様物質の蓄積を定量する手段として利用できる。この様な活性分析は、連続リアルタイムモニタリング、こま抜きまたは終点測定により行うことができる。骨細胞活性を確立するステップは、骨細胞(
動物またはヒト)が特定の条件で、1つ以上の装置において培養される点で、上記のモニタリング案計画全てに共通である。培養期間は数時間から数日間で、好ましくは2日から10
日間で(至適時間は細胞種とプロトコールに依存する)、この間破骨細胞活性の程度を連続モニタリングするか、定期的にモニタリングするか、または終点で測定を行い、途中経過はモニタリングしない。同様に骨芽細胞活性も、石灰化骨基質の蓄積の程度を測定することにより観察することができる。図7に示す様に、本発明の安定化フィルムでコーティン
グされ、同時に骨芽細胞と共に培養された石英ディスク(a)は蛍光性が高く、鉱物化され
た骨基質の存在を示している。これに反して、媒質のみの存在下に石英の上にコーティングされた安定化されたフィルム(b)は、蛍光を全く示さない。石灰化骨基質の量は、放射
された測定可能な蛍光に直接比例している。テトラサイクリンは自然の蛍光物質である。細胞がテトラサイクリンを取り込むと、テトラサイクリンは代謝され、その代謝産物が分泌され、新たに形成された骨基質の中に取り込まれる。テトラサイクリンは骨芽細胞により代謝された時にのみ蛍光を発する。これは、骨芽細胞が安定化組成物の上で活発に骨基質を分泌していることを実証している。
【0049】
一旦、ゾル-ゲルハイドロキシアパタイトが調整されれば、種々の技術により所望の基
質に薄いフィルムとして塗布できる。例えば、ディップコーティング法(C. J.Brinker et al.,Fundamentals of Sol-Gel Dip Coating,Thin Solid Films,Vol.201,No.1,97-108,1991)は一連の方法、すなわち、一定の速度で基質をゾルまたは溶液から取り出し、コーティングされた液体フィルムを適切な温度で乾燥し、フィルムを最終セラミックに焼成する方法から成る。
【0050】
スピンコーティングでは、遠心力により溶液を均質に分布できる十分な速度で回転しているプレートにゾル-ゲルを滴下する。その後の処理はディップコーティングと同じであ
る。
【0051】
ゾル-ゲルの薄いフィルムを基質に塗布するために利用できるその他の多様な方法があ
ることは明らかである。その他の方法には、ゾル-ゲルをスプレイする、ゾル-ゲルのローラー塗布する、ゾル-ゲルを散布する、ゾル-ゲルを塗る等がある。
【0052】
同じ大きさの別々のディスクをコーティングする代替法は、大きくした基質にゾル-ゲ
ルのフィルムをコーティングする。次に、基質上のフィルム全体を焼結する。次に、格子の様な器具をフィルムの上に当てて、複数の別々のテストゾーンに分ける。
【0053】
これらのゾル-ゲルを塗布するこれらの種々の方法において、形成されるフィルムの厚
さと質(有孔性、微細構造、結晶状態および均質性)は、多くの因子によって影響される。これらの因子には、物理特性、組成、開始ゾルの濃度、基質表面の清浄度、基質を引き上げる速度、および焼成温度が含まれる。一般に、厚さは、ディップコーティング処理工程の引き上げ速度とゾルの粘度に主に依存している。大きな孔と亀裂の形成はゾルの不均質性に起因しているので、コーティング作業は、クリーンルームで行い、ゾルの粒子汚染を予防すべきである。熱処理ステップでは、必要な微細構造と所望のハイドロキシアパタイト体αリン酸三カルシウム比を得るために高温が必要である。
【0054】
ディップコーティング法をリン酸カルシウムフィルムの作製に利用する目的は2つある
。すなわち、(a)要求される質(均質性、厚さ、有孔性、その他)のフィルムを作製するた
め、(b)生物実験のために透明な基質の上に半透明のリン酸カルシウムフィルムを作製す
るためである。
【0055】
本発明の安定化人工組成物は、薄いフィルムとより厚いコーティングだけでなく、粉末とセラミック塊の作製にも適している。セラミックは、所望の安定化ハイドロキシアパタイト及びαリン酸三カルシウム相混合物を作製するためにシリカを添加し、ここに記載されているゾル法により調製された焼結粉末から調製される。一実施例において、0.5〜1mmの厚さのディスクを作製するのに十分な量の焼結粉末を細かくすりつぶしてから、保持しておいた同じ添加組成物であるゾル-ゲル一滴と混合し、粒子をまとめる助けとなる湿っ
た粉末を作製する。湿った粉末を実験室のダイで約5トン/cm2の圧力で一軸に圧縮する。
得られた塊材料は、優れた未焼結強度を示し、空気中で1000℃にて1時間焼成される。こ
の様なセラミックは、薄いフィルムまたはコーティングとして使用される安定化組成物と
同じ特性を全て保持している。SiO2により安定化された組成物に関しては、エックス線回折は、最初の粉末と最終セラミックの相組成に殆ど変化を示さなかった。図8に認められ
る様に、平面図は図9に示される石英基質にコーティングされた組成と著しく類似してい
る。薄いフィルムとセラミック塊の上の破骨細胞の吸収能は非常に類似している。破骨細胞の吸収は、セラミック塊上の吸収小窩18として観察され、薄いフィルム上に観察される吸収小窩18と類似している(図8および9)。
【0056】
本技術に精通する者にとって明らかな様に、より大きなセラミック塊片を、所望の適用例に使用するためにセラミックを塊片に成形することによって、作製することができる。作製された塊片は、所望の安定化リン酸カルシウム相と微細球状表面形態、および内部微細孔構造を保持しており、この両者はその上の骨細胞活性を促進する。
【0057】
生物学的適用に使用するためのセラミック製品の特殊な一面は、生物的活性を引き起こす微細な球状表面の微細孔と、内部構造の50〜1000μmまたはそれ以上の大きさのより大
きな構造の孔である。これは、生理学的in vivo骨リモデリングにより近似した骨リモデ
リングを促進する。この様な孔で、大きさが範囲の下限の孔は、骨の迅速な内部への成長が望ましい適用に特に適しており、範囲の上限の孔は、骨移植片の体外組織作製等に利用できるように細胞が内部にアクセスできる。シリカの様な安定剤を添加し、使用前に焼結した粉末を使用し、所望の大きさのスチレンボールとこの様な粉末を混合することにより、多孔性セラミックを作製することができる。湿った添加剤を加えた粉末をスチレンボールと共に必要な圧で圧縮後、約400℃〜600℃の温度で熱分解によりスチレンを除去する。
【0058】
次に、多孔性セラミックを既述の通常の方法で1000℃まで焼成する。この方法により、外部微細球状構造、その下の内部微細孔構造、および内部の大きな孔構造を持つセラミック塊が得られ、これによって細胞はセラミック塊全体に移動し、機能することが可能となる。
【0059】
スチレンに類似した材料をセラミック構造内部の大きな孔を作製するために使用できることは、本技術に精通する者にとって明らかである。通常の焼結温度以下の温度の熱分解が可能なその他の材料も、大きな孔構造を形成するのに有用である。使用される材料は毒性残留物を残してはならない。物理的に穴を開ける、レーザーまたは発泡剤を使用する等の他の方法を用いて大きな構造を形成できることも理解できる。
【0060】
本発明の重要な点は、ハイドロキシアパタイトとαリン酸三カルシウム相の混合物と、ゾル-ゲルハイドロキシアパタイトから形成された安定剤を添加された粉末から形成され
る表面形態の組み合わせであることから、本技術に精通する者は、この粉末からフィルム、コーティング、塊構造を作製するその他の方法を理解できる。これには、プラズマまたは熱スプレイまたは電気泳動蓄積等の公知の技術の利用が含まれる。
【0061】
図10を参照すると、断面のTEM顕微鏡写真は石英基質(a)、小さな粒子から成る界面相(b)、球状微細孔構造を提供する顆粒が埋め込まれた小さな晶子から成るフィルムの表面を
含む上層(c)の形態の層の勾配を示す。焼結工程時に、石英(a)からケイ素が遊離され、ハイドロキシアパタイトを通過して拡散し、その時ハイドロキシアパタイトはαリン酸三カルシウムに変換され、焼結された薄い層を形成する。界面相(b)は、リン酸カルシウム相
のより大きな多結晶顆粒を持つ表面よりも小さな結晶構造を持つ。
【0062】
人工焼結組成物の形態は独特で、過去には報告も提示もされていない。現在、我々は、相互に結合された微細孔の構造を有する丸い顆粒の相互に緩く結合された球状構造を示す表面形態を発見した。本発明の好ましい面に従って、この形態は機能性破骨細胞と骨芽細胞の培養を良好に支持する。
【0063】
コーティングの表面形態は、珊瑚に似た緩く相互に結合された球状構造を持つ特徴的な形態を有する(図11)。顆粒の側方向への大きさは約0.5〜1μmの幅がある。コーティング
は、基質に対して垂直に孔を有し、基質付近よりも表面付近の二次元密度が高い。この形態は、液体媒質とコーティング内のその他の生理学的溶液の濾過が可能にするものと思われる。これに反して、その他の共沈法から調製されたハイドロキシアパタイトの表面形態は、本発明により提供されるような微細孔構造は生じない。図12(a)および12(b)に認められるように、安定剤を添加せず(a)また添加して(b)この様に調製されたハイドロキシアパタイトフィルムの表面形態は、図11に認められるように本発明は組成物と比べ微細孔は少ない。更に、合成多結晶ハイドロキシアパタイトは破骨細胞により吸収されないことが報告されている(Shimizu,Bone and Minerology,Vol.6,1989)。
【0064】
球状表面形態は、骨形成を生じるプロセスにおいて骨芽細胞により最初に作られる凝集沈殿に大きさが匹敵する丸い顆粒から構成される。本組成物は、in vivoで細胞が遭遇す
ると考えられるタイプの形態と一致する表面形態を提供する。
【0065】
典型的な破骨細胞による吸収小窩が図13に示されており、ここでは基質は骨である。図9に提示されているように、本人工組成物上の破骨細胞20により形成される吸収小窩18は
、図13の天然骨に認められるものと極めて類似しており、破骨細胞が2つの系において同
様に機能していることを示唆している。これは、人工焼結組成物の表面形態が、細胞がin
vivoで遭遇すると思われるタイプの形態と一致することを暗示している。
【0066】
安定化組成物の大量の微細孔により、人工材料の表面付近のカルシウムまたはリン酸イオン濃度は、ハイドロキシアパタイト、コラーゲン、およびその他の線維性組織から構成される天然骨において、細胞が遭遇する限界値の範囲内に確実に納まる様になるものと思われる。吸収に至る破骨細胞により仲介される細胞外溶解過程において、この複雑な材料は溶解産物の局所濃度を特定の値にする。完全に無機質の人工ハイドロキシアパタイトまたはαTCPの溶解または吸収時に、特定の細胞行動にとってその結果生じた濃度の限界値
は狭い範囲で規定されており、天然骨上の活性と同等の人工表面上の活性を骨が発揮するには、カルシウムの様な元素の局所濃度レベルを調節するための方法がなくてはならない。組成物の孔により、媒質の流れまたは拡散によりこれが可能となる。
【0067】
本発明の安定化した生物的活性を有する人工組成物は、独特の化学組成と共に、今まで提示されたことがない独特の表面形態と内部微細孔構造を提供する。in vivoとin vitro
で一定の骨細胞生物的活性を示し、in vitroで容易に、正確に、高い再現性で定量できる組成物は、過去に報告されていない。安定化組成物の性質は、粉末、薄いフィルム、厚いコーティング、セラミック塊片または大きな孔を持つセラミック塊片として提供できる点で、多目的に利用できる。どの場合でも、独特の表面形態と内部微細孔は、安定化リン酸カルシウム相組成物と同等に十分維持されている。図14に認められるように、微細孔を持つ表面の形態は、本発明の安定化組成物から調製されるセラミック塊において維持されている。
【0068】
本発明の安定化組成物は、異常な骨細胞の機能の特徴を大規模な自動化された方法で明らかにするためのin vitro診断に理想的である。安定化した人工組成物は、組織の再生と修復を促進するために、骨および歯牙インプラントのコーティングとしても容易に適用できる。組成物の構造は、in vivoの骨組織と細胞に非常に類似しており、従って一致して
おり、異物の拒絶反応の問題は回避できるであろう。
【0069】
本組成物は、例えば股関節、膝関節の置換手術、骨折、歯科用インプラントなど、in vivoの骨組織の再生と修復と同時に、in vivoのインプラントを提供するなど広範囲の治療
応用に利用可能であるために必要な物理特性とin vivo硬組織との親和性/適合性を持っている。本組成物は、骨組織の置換、再生、修復のためにin vivoに骨移植片として埋め込
まれる人工骨原料を提供するために体外で実施される種々の組織作成への応用にも利用可能である。組織の拒絶反応の可能性を軽減することによって完全な適合性を持つ骨移植片を作成するために本組成物上で培養するための破骨細胞および骨芽細胞を患者から供給することも可能である。あるいは、提供者の骨細胞をこの目的で利用することも可能である。このような移植片は組織置換の目的で、骨組織を形成するために利用された細胞とともに、あるいは細胞を除去して作成することが出来る。しかし、細胞を含む移植片は組織拒絶反応に伴う問題を最小限にするため自己由来であることが望ましい。
【0070】
粉末状の安定化された組成物は医学的治療にも応用され得る。安定化された粉末は、組織と適合し毒性を持たないポリマー物質内で混合懸濁され、骨組織内の欠損部を充填するためにin vivoで使用される。
【0071】
本組成物が利用可能な応用は全て、本組成物がどのような形態でも、破骨細胞および骨芽細胞の両者が活発に機能し、in vivoで見られるのとよく似た骨組織系を提供するとい
う利点を持つ。本発明による人工生物的活性組成物は、正常の組織修復と再生を可能にすると同時に、正常の骨組織リモデリングの過程において人工材料が吸収されることを可能にして、骨誘導と吸収の両者を促進する。
【実施例】
【0072】
以下の手順は、安定化されたリン酸カルシウムを含み、また、骨細胞活性の支持機能を有する独自の形態を持つ、生物的活性人工焼結組成物を提供するという本発明の特性を例示するものである。
【0073】
手順1.ハイドロキシアパタイトゾル-ゲル物質の調整
以下の手順は、製品化目的に関する十分量のゾル-ゲルハイドロキシアパタイトの調整
に基づくものである。溶液Aは硝酸カルシウム4水和物を含み、溶液Bはアンモニウム2水素オルソリン酸塩(単塩基)を含む。所望のゾル-ゲルである溶液Cを製造するために溶液Aは
溶液Bと混合される。溶液Aは2回蒸留した蒸留水40mlを4.722gの硝酸カルシウムCa(NO3)2
に加えて調整される。本溶液は硝酸カルシウムの全量が溶解するのに十分な時間(通常3分程度である)中等度の速度で撹拌される。
【0074】
この溶液に水酸化アンモニウム(NH4OH)3mlを加えさらに約3分間撹拌する。溶液のpHを測定する。約12のpHが望ましい。この溶液に37mlの2回蒸留した蒸留水を加えて全溶液量を約80mlとする。この溶液をさらに7分間撹拌し蓋をする。
【0075】
溶液Bは、1.382gのNH4H2PO4を含む250mlのビーカーに2回蒸留した蒸留水60mlを加えて調整する。ビーカーに蓋をして全量のNH4H2PO4が溶解するまで中等度の速度で3ないし4分間撹拌する。この溶液に71mlのNH4OHを加え、次にビーカーに蓋をしさらに約7分間撹拌を続ける。溶液のpHを測定する。約12のpHが望ましい。これにさらに2回蒸留した蒸留水61mlを加え、全溶液量を192mlとして蓋をする。次にこの溶液をさらに7分間撹拌して蓋をす
る。
【0076】
次に溶液Bと溶液Aを組み合わせて所望のゾル-ゲルを調整する。溶液A全量を500ml試薬
瓶に入れる。中等度の速度で撹拌を開始し、溶液Bを溶液Bの全量192mlが溶液Aと混合されるまで約1時間当たり256mlの速度で試薬瓶に注ぐ。余った溶液Bは、250mlビーカー内あるいは溶液を移す過程で利用されるチューブ内に残る溶液の補正を行うために使用することができる。この添加と溶液Aと溶液Bの配合が完了してから、作成された溶液を中等度の速度で約23ないし24時間撹拌を続ける。作製された溶液に異常な沈殿あるいは凝集が見られ
ないかを監視する。もし異常な沈殿あるいは凝集が起こった場合には、その溶液を廃棄し、もう一度調整を開始する。次に、最初の試薬瓶の壁に付着している可能性がある粒子状の凝集を入れないようにして、ゾルを注意深く別の500ml試薬瓶に移す。約240mlの溶液C
、すなわち作成されたゾル-ゲルを遠心分離用瓶に移し、室温で約500rpmで20分間遠心分
離する。遠心分離後、沈殿物を乱さないように180mlの上清を廃棄する。沈殿物を約30分
間滑らかに回転させて再度丁寧に懸濁する。次にゾル-ゲルの粘度を測定する。20ないし60cpが望ましい。ここで、ゾル-ゲルは選択された基質あるいは他の応用に関してディップコーティングの準備が完了したことになる。
【0077】
手順2.シリカ添加ハイドロキシアパタイトの調整
シリカ溶液は以下の手順で調製する。決定された量は約0.168gのSiO2/4mlの溶液を調製する。4mlのシリカ溶液を、手順1で作成し、遠心分離したハイドロキシアパタイトゾル-
ゲル物質60mlに加え、転換反応にて調製した0.168gのCaOと反応させる。
【0078】
シリコン溶液成分
テトラプロピルオルトケイ酸塩 Si(OC3H7)4 7.32gm2-メトキシエタノール CH3OCH2CH2OH 34.5gm焼結中の転換に際して調製されるCaO1モルに対してSiO21モルとなるような比率
のSiO2濃度となるように、シリカ溶液を手順1で調製したハイドロキシアパタイトに加え
る。
【0079】
手順3.薄いフィルムフォーマットの調製
基質の性質によって、薄いフィルムの調製にはハイドロキシアパタイトゾル-ゲル物質
の調製に関して手順1あるいは手順2を利用することが可能である。もし、フィルムの焼結に必要な安定剤が基質によって供給されるならば手順1を採用することができる。もし、
そのような安定剤が基質によって供給されないならば、安定剤を添加する手順2が必要と
なる。
【0080】
基質に薄いフィルムを塗布する前に、フィルムの被覆が十分となるように基質を完全に洗浄する必要がある。石英基質の場合には、ガラス製ビーカー内にディスクを置きクロム酸洗浄液をディスク全体を覆うように満たして洗浄することが可能である。次にビーカーに蓋をする。次に、ディスクを水浴中で1時間音波処理する。酸は水道水で20分間洗い流
す。残留する水道水は2回蒸留した蒸留水を3回交換して除去する。2回蒸留した蒸留水を
最後に交換してから、各ディスクを糸屑の出ないタオルで乾燥し、石英表面に傷が無いかを確認する。表面の粒子の残留は圧搾窒素あるいは圧搾空気を利用して除去する。ディスクは無菌環境で蓋のついたトレイに貯蔵する。この方法はどのタイプの石英の洗浄にも利用できる。
【0081】
石英ディスク基質、あるいは他の適当な組成の基質を手順1で調整したゾル-ゲルに浸す。ディスクは表面に接触するのを避けるため縁を把持する。ディスクをゾルに浸すのは、機械を使用するのが望ましい。ディスクは規定された速度でゾルから取り出す。ディスクの片面のコーティングを除去する。コーティングされた基質を次に清潔なペトリ皿に入れ、蓋をして、室温で乾燥する。焼結前に形成されたフィルムは、亀裂、凝集、間隙が無く、均質でなくてはならない。ディスクの面に適用されるディップコーティング処理工程は、石英の平らな方形基質の様な他のどの様な形態にも適用できる。
【0082】
手順4.乾燥ハイドロキシアパタイト粉末の調製
手順1または2で調製したゾル-ゲルを100℃で約8時間乾燥する。次に、乳棒と乳鉢、あ
るいは微細粉末をすりつぶし、調製できるその他の器具を用いて、乾燥物質をすりつぶす。次に、粉末をるつぼの中で焼結してから、冷却後再度すりつぶす以外は、手順7に記載
されている標準焼結工程に従って、粉末を焼結できる。安定剤を添加した、あるいは安定
化されたハイドロキシアパタイトの調製も、同じ手順に従って可能である。
【0083】
手順5.セラミック塊片の作製
セラミック(立体の塊片)は、以下に従って、シリカを添加したハイドロキシアパタイト粉末から作製した。シリカを添加したゾル-ゲルは、手順2に従って作製した。ゾル-ゲル
の一部を保存し、残りを濾過した。この粉末を120℃で乾燥し、すりつぶして微細粉末を
調製した。約0.09gの粉末をプラスチック製の皿に入れた。ガラス製スポイトを使用して
、最初のゾル-ゲルを一滴形成し、これは粉末と混合する際、約0.055gの重量であった。
ゾル-ゲルを粉末と混合し、湿っているが、濡れてはいないペーストを形成した。湿った
ペーストを、直径6.25mmのステンレススチール製ダイの中に詰め、2トンで1分間プレスした。押し型機から塊片を取り出し、風乾し、手順7に従って、蓋をしたアルミナるつぼの
中で焼成した。図14に示す様に、表面形態は、人工の焼結した薄いフィルムと非常に類似していた。
【0084】
手順6.大きな構造の孔を持つセラミック塊片の作製
手順2の様にシリカ等の安定剤を添加し、1000℃で焼結したハイドロキシアパタイトか
ら調製した粉末を、所望のサイズのスチレンボールと混合し、ゾル-ゲルを追加して粉末
を湿らせ、スチレンを押し出さない様に約1トン/cm2の圧力でプレスする。保存しておい
たゾル-ゲルと2.5重量%のポリビニルアルコール溶液の湿った混合物を使用することにより、この様にプレスされた粉末/スチレン凝集物において、未焼結物質の強度が増強され
る。空気中または酸素中で550℃に加熱して熱分解することにより、スチレンを除去する
。次に、大きな孔を持つセラミックを、手順7に記載されている通常の焼結方法に従って
、1000℃まで焼成する。
【0085】
手順7.ハイドロキシアパタイトの焼結
以下の焼結工程は、Lindbergモデル51744または894-Blue M の様な、環境温度から少なくとも1100℃までの温度で運転可能で、特に800℃から1100℃の間で正確かつ安定した内
部温度を維持するように設計された種々のサイズの実験用炉において実施できる。(Lindbergオーブンにおいて一般的に行われている様に)、手順3、4、5または6によって調製された成分を注意を払って標準セラミックプレートに移す。焼結工程中は、炉から複数の基質を出し入れし易い様に、運搬用にセラミックプレートを使用する。炉の温度は所望のハイドロキシアパタイト対αTCP比を得るために必要な温度に設定する。作製されたハイドロ
キシアパタイトとαリン酸三カルシウムの勾配層を通して、シリコンが確実に望ましい状態で拡散される様に、Lindbergモデル894-Blue Mの様なプログラム可能な炉を利用して、炉を最長1時間、通常は920℃から1100℃の範囲から選択される、所望の温度で維持されるようにプログラムすることができる。プログラムできない炉の場合には、別にタイマーを使用して、選択された温度で必要な焼結時間が終了した地点で、操作者に炉のスイッチを切るように警告することもできる。炉の内部温度が許容できる触っても安全な約60℃の温度まで下がったらいつでも、焼結された基質を運ぶセラミックプレートを取り出す。次に、個々の基質を最終使用のために、保存または包装する。
【0086】
この工程に従って、一貫性を確実にするために種々の処理工程パラメータの変動を最小限に抑えれば、ハイドロキシアパタイト/αリン酸三カルシウムの薄いフィルムまたは厚
いコーティングを所望の組成で一貫して作製することができる。
【0087】
本発明の好ましい実施例はここに詳細に記述されているが、本発明の精神または添付の請求項に逸脱しなければ、種々の変更を加えてよいことは本技術に精通する者にとって明らかであろう。
【技術分野】
【0001】
本発明は、その上の骨細胞活性を支持することが可能なリン酸カルシウム相の生物的活性を持つ人工安定化焼結組成物に関する。本発明は、骨細胞活性の正常と異常を判定する医用診断において、また骨組織および歯牙組織の置換と修復を含む医学的治療、および生体外(exo vivo)骨移植組織作製に応用できる。
【背景技術】
【0002】
骨は、無機すなわちミネラル相、有機基質相、および水から構成される複雑な鉱物化系である。無機ミネラル相は、結晶リン酸カルシウム塩から構成され、有機基質相は主にコラーゲンとその他の非コラーゲンタンパク質から構成される。骨の石灰化は、鉱物化組織を生成するための有機相と無機相の間の密接な関係に依存している。
【0003】
骨の成長過程は、構造と機能の両者の必要条件を満たす様に調節されている。骨の形成、維持および吸収の過程に関与している細胞は、骨芽細胞、骨細胞、破骨細胞である。骨芽細胞は骨の有機基質、類骨を合成し、これはリン酸カルシウム結晶が成長し、コラーゲンが組み立てられた後に、鉱物化される。骨細胞は、骨のミネラルと細胞外液の間のカルシウムとリン酸塩の流れを調節する。破骨細胞は骨を吸収する働きをし、骨のリモデリング過程に不可欠である。骨形成と骨吸収の自然のバランスが障害されると、種々の骨疾患を引き起こす。破骨細胞活性の上昇は、骨粗鬆症、線維性骨炎、パジェット病に認められる様な骨密度の低下を特徴とする骨疾患を引き起こすことが実証されている。これらの疾患は全て、骨吸収が増加した結果である。
【0004】
骨細胞機能調節に関与する機序を理解するために、正常な骨細胞機能を評価できること、また種々の骨疾患におけるこの活性の障害度も評価できることが重要である。これから、異常な骨細胞活性を正常レベルの範囲内に修復することを目的とした薬物が同定される。異常および正常な骨細胞活性の病因の同定とこの活性の評価と共に、骨組織の欠損を引き起こす、疾病、外科的切除または生理学的損傷の結果としての異常な骨細胞活性を治療するための組成物と方法の開発が望まれ、かつ必要とされている。骨インプラントを利用するような骨組織の置換と修復を行う治療法が非常に望まれている。
【0005】
幾つかの研究グループがin vitroで分離された破骨細胞の活性を直接観察する方法を開発した。骨髄細胞集団から分離された破骨細胞が、マッコウクジラの象牙質(Boyde et al
Brit.Dent.J.156,216,1984)または骨(Chambers et al J. Cell Sci.66,383,1984)等の天然材料の薄い切片上で培養された。後者のグループは、この吸収活性が一連の単
核食細胞から成るその他の細胞にはないことを明らかにすることができた(Chambers & Horton,Calcif Tissue Int.36,556,1984)。破骨細胞の系列を研究するための他の細胞
培養技術を利用するより最近の試みは、皮質骨切片の利用に未だに依存しなくてはならない(Amano et al.and Kerby et al J.Bone & Min.Res.7(3))。その際には、吸収活性
の定量は種々の深さの吸収窩領域の二次元分析または吸収容積の立体マッピングのいずれかに依存している。比較的厚い基質の吸収を評価する場合には、この様な技術の精度はせいぜい約50%である。更に、これらの分析技術は非常に時間もかかり、高度な専門機器と技術を要する。更に、骨または象牙質切片の作製とそれに続く検査は、破骨細胞活性の評価方法としては簡単でもなく、実際的でもない。
【0006】
破骨細胞の培養に基質として人工リン酸カルシウム標本を使用する方法も殆ど成功していない。Jones et al(Anat.Embryol 170,247,1984)は、in vitroでは破骨細胞が合成
アパタイトを吸収すると報告したが、この観察結果を支持する実験的証拠を提示することはできなかった。Shimizu et al(Bone and Mineral 6,261,1989)は、分離された破骨細胞は失活させた骨表面のみを吸収し、合成ハイドロキシアパタイトカルシウムは吸収しないことを報告した。これらの結果は、機能性破骨細胞をin vitroで培養することが困難であることを示すものと思われる。
【0007】
幾つかのグループは骨組織の治療用置換に適した組成物の提供も試みている。米国特許第4,871,578号は、インプラントに利用するのに適したハイドロキシアパタイトの非孔性
平滑コーティングの形成工程を開示している。米国特許第4,983,182号は、酸化ジルコニ
ウムの焼結体とαTCPと酸化ジルコニウムのコーティング、あるいはハイドロキシアパタ
イトと酸化ジルコニウムのコーティングを含んだセラミックインプラントを開示している。米国特許第4,988,362号は、生体セラミックを別の生体セラミックと互いに融合するた
めの組成物を開示している。
【0008】
米国特許第4,990,163号は、αTCPとβTCPからなる生体セラミックの生成に利用するコ
ーティングを開示している。これらの異なる組成物は、インプラント等の生体適合コーティングに利用できるものと思われるが、これらの組成物が、破骨細胞の吸収量と骨芽細胞の骨基質分泌量の比活性を定量測定できるような高い信頼性と再現性で、活性を有する破骨細胞と骨芽細胞の培養に適しているかどうかは実証されていない。更に、開発された従来の組成物はいずれもそれらを処理することによって、組成と形態が共通でin vitroとin
vivoの生物的活性能が同程度の、一連のフィルム、より厚いコーティング、セラミック
塊を高い信頼度で作製することはできない。
【0009】
出願人の公開された国際PCT特許出願WO94/26872は、その上で骨細胞機能が発生する、
リン酸カルシウム相の薄いフィルムを形成する焼結工程を報告している。これは、その上で破骨細胞が高い活性を示し、その上で骨芽細胞が骨基質を分泌できる最初の合成素材の薄いフィルムである。その出願に記載されているように、所望のハイドロキシアパタイト対リン酸三カルシウム比を有する薄いフィルムを供給する際には、種々の因子を考慮すべきである。この様なパラメータとして以下が挙げられる。
【0010】
1)ゾル-ゲルハイドロキシアパタイト基質を調製するための試薬の量。
2)試薬の配合比。
3)ゾル-ゲル調製時の混合時間および混合速度。
4)沈殿および分離の速度および方法。
5)ゾル-ゲル製造時の工程環境条件。
6)薄いフィルムのディップコーティング時のゾル-ゲルからの基質の除去速度。
7)焼結温度。
8)不活性ガス、真空または水蒸気が存在する大気の様な管理された雰囲気における焼結。
9)基質の性質。石英は、安定化酸カルシウム相でコーティングされた透明基質を作製するのに好ましい例である。
【0011】
この初期のPCT特許出願においては、ハイドロキシアパタイト対リン酸三カルシウム比
を広範囲に設定するために、10:90から90:10までの比を達成するために、これらのパラメータの多くを考慮する必要があった。空気雰囲気中の提案された焼結温度は、約800℃か
ら約1100℃であった。800℃では、フィルムはハイドロキシアパタイトが優位を占めるこ
とが確立された。約900℃の焼結温度では約70:30の比が得られた。1000℃では、比は約10:90で、1100℃ではフィルムはリン酸三カルシウムが優位を占めた。1000℃で真空におけ
る焼結は、約66:34の比を生じることも示唆された。現在、好ましい比は50:50から20:80
であることが判明している。至適比は333:666である。これらの比を達成するために、上
記因子の幾つかを検討できる。しかし、上記因子の幾つかにおける変動を最小限にし、厳格な再現性のある方法で、至適フィルム組成物を作製するために望ましい比を達成することが望ましい。驚くべきことに、αリン酸三カルシウムが水溶性と考えられるのに、このフィルムは種々の水性媒質の存在下に安定である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4,871,578号
【特許文献2】米国特許第4,983,182号
【特許文献3】米国特許第4,988,362
【特許文献4】米国特許第4,990,163号
【特許文献5】国際PCT特許出願WO94/26872
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Brit.Dent.J.156,216,1984
【非特許文献2】J. Cell Sci.66,383,1984
【非特許文献3】Calcif Tissue Int.36,556,1984
【非特許文献4】J.Bone & Min.Res.7(3)
【非特許文献5】Anat.Embryol 170,247,1984
【非特許文献6】Bone and Mineral 6,261,1989
【発明の概要】
【0014】
出願人は、安定剤の存在がこの組成物を安定化し、生理学的溶液中でその分解を防止できることを発見した。従って、この組成物のフィルム、コーティング、またはセラミック塊からのリン酸カルシウムの消失は、殆ど破骨細胞の活性に依るもので、溶解過程に依るものではない。この安定化された人工生物的活性組成物は、破骨細胞と骨芽細胞の両者の活性を支持し、両細胞の生理学的活性を高い信頼度で評価できると同時に、診断および治療法を開発できる、この様な組成物としては最初のものである。安定剤は、生理学的溶液中で分解せず、その上の骨細胞活性を支持、促進する細胞適合形態を有するリン酸カルシウム相を形成する、αリン酸三カルシウムの安定型を生成するための焼結工程中に形成されるリン酸カルシウム相中のαリン酸三カルシウムを安定化する。
【0015】
本発明は、診断および治療に広範に応用できる安定化組成物を提供する。安定化組成物は、本発明の一面に従って、表面の球状微細孔と内部の微細孔が共通している、一連の薄いフィルム、コーティング、粉末およびセラミック塊を提供するために利用できる。更に、セラミック塊も、in vivoで認められるものと類似した人工三次元骨組織を提供するた
めに構造内部に微細孔を保持することができる。この組成物は、その形態に関わりなく、その上で培養される骨細胞の活性を促進し、かつ骨移植片として利用するためのex vivo
で作製される人工骨組織の開発も可能とする。
【0016】
本発明の一面に従って、その上の骨細胞活性を一貫して支持することが可能な形態を提供するために、生物的活性を有する人工焼結組成物が提供される。組成物は、安定剤の存在下に、焼結温度でハイドロキシアパタイトを不溶性の安定化されたリン酸三カルシウムに変換することにより作製された安定化リン酸カルシウム相を含んでなる。
【0017】
本発明の別の一面は、その上の骨細胞活性を支持するのに適したリン酸カルシウム相の人工焼結組成物を安定化させるための方法である。その方法は、ハイドロキシアパタイトを焼結により主にαリン酸三カルシウムに変換し、リン酸相内部で形成されたαリン酸三カルシウムを安定化させ、不溶化する安定剤を提供することを含んでなる。
【0018】
本発明の更に別の一面は、骨細胞活性を支持するための焼結人工微細孔多結晶構造である。この構造は、構造内部に相互に結合された微細孔を持つ相互に緩く結合された球状顆粒で形成される球状表面形態を有する、焼結され、安定化されたリン酸カルシウム相を含んでなる。
【0019】
本発明の更に別の一面は、移植可能な石灰化された骨基質であって、a)基質を支持する構造と、b)リン酸カルシウム相を不溶化し、安定化させる安定剤の存在下で、焼結温度でハイドロキシアパタイトをリン酸三カルシウムに変換することにより作製された安定化リン酸カルシウム相の層とc)安定化リン酸カルシウム相の層上に培養された骨芽細胞が沈着させた境界層と、d)この様に培養された骨芽細胞により分泌された鉱物化コラーゲンに富んだ基質とを含んでなる。
【0020】
本発明の別の一面は、機能性骨細胞の培養方法であって、生理的培地に懸濁した骨細胞懸濁液を安定化され、不溶化されたαリン酸三カルシウム複合体から成る基質上の安定化リン酸カルシウム層の人工焼結フィルムに塗布することを含んでなる。
【0021】
本発明の別の一面は、骨細胞の活性を監視し、定量するキットであって、安定化され不溶化されたαリン酸三カルシウムを含む、リン酸カルシウム相の焼結フィルムを有する基質と、基質に付着させたマルチウェル骨細胞培養装置とを含んでなる。
【0022】
本発明の別の一面は、鉱物化コラーゲンに富む基質の体外での組織作製方法であって、
相互に結合された微細孔を有する相互に緩く結合された球状顆粒で形成される球状表面
形態を有する、人工安定化組成物を提供するステップと、 生理的培地中に懸濁された骨
芽細胞懸濁液を組成物に塗布するステップと、 培養の骨芽細胞から分泌された鉱物化さ
れたコラーゲンに富む骨基質をインキュベーションするステップと、 分離されたコラー
ゲンに富む骨基質を患者に移植するステップとを含んでなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、ハイドロキシアパタイトとリン酸三カルシウムの安定性に対するCaOの影響を示す優位面積図である。
【図2】図2は、安定剤であるシリコンの存在下に、本発明のハイドロキシアパタイトの変換により形成されたリン酸カルシウムの相を示す図である。
【図3】図3は、CaOの活性に対するCaO/Al2O3の影響を示す図である。
【図4】図4は、CaOの活性に対するCaO/TiO2およびCaO/B2O3の比の影響を示す図である。
【図5】図5は、グラフ(a)、(b)、(c)を含むものであり、(a)組成物と基質の界面、(b)界面のすぐ上、(c)フィルムの上におけるエネルギー分散エックス線分光写真法の結果を示す。
【図6】図6は、活性骨芽細胞により、本発明の安定化された薄いフィルム組成物の上に沈着された鉱物化コラーゲンに富む骨基質の断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7】図7(a)は、安定化組成物の上に培養された骨芽細胞により生成された蛍光石灰化骨基質の沈着を示す写真である。図7(b)は、安定化された薄いフィルムの組成物上に骨芽細胞が培養されていない対照を示す写真で、蛍光石灰化骨基質は可視化されていない。
【図8】図8は、人工の生物的活性を有する安定化組成物から成る立体固体セラミック塊上の破骨細胞吸収小窩の走査電子顕微鏡写真である。
【図9】図9は、人工の生物的活性を有する安定化組成物の薄いフィルム上の破骨細胞吸収小窩の走査電子顕微鏡写真である。
【図10】図10は、形態を示す、石英基質上の人工の生物的活性を有する安定化組成物の薄いフィルム断面を透過型電子顕微鏡により拡大し顕微鏡写真である。
【図11】図11は、表面微細孔構造を示す、薄いフィルムとして適用された安定化組成物の走査電子顕微鏡写真である。
【図12】図12(a)は、安定剤が存在しない場合の市販の焼結ハイドロキシアパタイトの走査電子顕微鏡写真である。図12(b)は、安定剤存在下における市販焼結ハイドロキシアパタイトの走査電子顕微鏡写真である。
【図13】図13は、自然の吸収小窩を示す自然骨上の破骨細胞の走査電子顕微鏡写真である。
【図14】図14は、本発明の方法により作製されたセラミック塊の球状表面形態を示す走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
リン酸カルシウムの組成物は、出願人の同時継続出願により発行されたPCT出願WO94/26872に報告されている方法に従って提供された組成物である。この工程により、一貫して
、ハイドロキシアパタイト対αリン酸三カルシウム比が50:50から20:80の望ましい比の範囲内にある、リン酸カルシウム相の薄いフィルムが提供される。現在、安定剤の存在により、リン酸カルシウム相内部のαTCPを顕著に予想外に安定化させ、骨芽細胞と破骨細胞
の両活性を支持、促進し、かつ,この様な活性の定量を高い再現性で定量することを可能
にする生物的活性を有する組成物が提供され、また骨組織の欠損の診断および治療法の開発が可能となる。
【0025】
「安定化」という言葉は、in vivoまたはin vitroで環境条件または生理学的環境に置
かれた時に、一貫した結晶および化学構造を維持する、ハイドロキシアパタイトの変換により形成されたリン酸カルシウム相を示すことが理解される。
【0026】
「生物的活性」と言う言葉は、正常の骨代謝回転に極めて近似した過程において、本発明の組成物から殆ど、あるいは専ら作製された構造上、あるいは構造全体を通して、骨芽細胞の骨成長を支持し、同時に破骨細胞による組成物の自然に制御された細胞外吸収を促進し、かつ非特異的化学的および/または細胞性溶解および/または分解を行わない能力を示すことも理解される。この様な生物的活性は、骨細胞が存在すれば、この物質をin vitroおよびin vivoで利用する際に認められる。「リン酸カルシウム相」と言う言葉は、焼
結生成物の中に、ハイドロキシアパタイト、αTCP、βTCP、リン酸八カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸二カルシウム等の種々のリン酸カルシウム類を含めることを意図している。
【0027】
最初、in vitroで骨細胞活性を支持するには、適切なリン酸カルシウム生成物は、純粋または本質的に純粋なハイドロキシアパタイトでなくてはならないと考えられ、フィルム作製に最良のリン酸カルシウムと考えられていた。現在、ハイドロキシアパタイトが優位を占める材料は破骨細胞と骨芽細胞の正常機能を促進しないことが明らかにされており、事実、破骨細胞の存在下に活性は殆ど認められない。しかし、ハイドロキシアパタイトとαリン酸三カルシウムを含むリン酸カルシウム相の混合物を提供することにより、吸収度が促進され、その程度はαリン酸三カルシウムが優位を占めるフィルムは吸収度が最も高く、ハイドロキシアパタイトが優位を占めるフィルムは殆ど吸収は認められないという様に広い範囲にわたっている。αリン酸三カルシウムの存在に関しては、この事実が、現在開発されているリン酸カルシウム材料がこの様な材料上で培養された骨細胞において機能特性を促進する理由を一部示唆している。この性質は、例えば、光または反射光を透過できる薄いフィルムの形態で安定化されたリン酸カルシウム相を提供するという点で、この様なフィルムで培養された骨細胞の幾つかの機能特性を評価する診断法の実施を可能としている。
【0028】
驚くべきことに、ハイドロキシアパタイトゾル-ゲル物質の調製を標準化し、非常に特
異的な焼結温度範囲を選択すると、所望の比を達成できるだけでなく、ゾル-ゲル工程に
より調製されるハイドロキシアパタイトのαリン酸三カルシウムへの変換により至適組成物が形成されることが明らかとなることが見いだされた。βリン酸三カルシウムはこれらの好ましい至適フィルム組成物においては、全くまたは殆ど検出されなかった。別の相のハイドロキシアパタイトとαリン酸三カルシウム調製品の混合物を調製する必要はない。それよりも、公開されたPCT出願WO94/26872に記載されている方法は、ゾル-ゲルハイドロキシアパタイトの調製に十分である。pHを高めた媒質中でこの様なハイドロキシアパタイトを作製するための化学反応は以下の通りである。
【0029】
5Ca(NO3)2+ 3NH4H2PO4 + 7NH4OH → Ca5(PO4)3OH + 10NH4NO3 + 6H2O
開始溶液は、反応物質が完全に溶解され、十分混合できる水性溶液から成る。ハイドロキシアパタイトは、懸濁液中に微細粒子として生じ、その大きさは光散乱実験により、調製後24時間ゾル-ゲル物質を放置すると、平均約0.3μmから1μm以上に成長する。
【0030】
ハイドロキシアパタイトは、中性および/またはアルカリ性媒質中で安定である。好ま
しくは、反応媒質は通常約12あたりにpHを上昇させる。最初のリン酸溶液は、もう一つのカルシウム溶液に滴下して加え、三リン酸一水素四カルシウムの形成を防止し、これによって所望のハイドロキシアパタイトを得る。ゾル-ゲル物質を濾過し、粉末として乾燥し、1000℃のアルミナるつぼでか焼、焼成し、通常の大気湿度の条件で安定なカルシウムハイドロキシアパタイト相を形成する。1200℃以上の焼結温度でこの相は、主にαリン酸三カルシウムに変換され、βTCP、八リン酸カルシウム、リン酸四カルシウムまたはリン酸二カルシウム等の他の相も少量形成される。他の「混入」物質も焼結安定化リン酸カルシウム相中に形成されることは、本技術に精通する者にとって明らかである。この様な物質が焼結前にハイドロキシアパタイトに添加される可能性もある。好ましくは、この様な混入物質の存在または添加は、安定化組成物の組成と形態に、その上の骨細胞活性の支持に影響するような方法で、影響を及ぼさない。
【0031】
焼結工程に関して、ハイドロキシアパタイトの乾燥フィルムの焼結は、オーブン内の環境を調節を必要とせず、標準型高温オーブン内で実施できる。新しいオーブンを使用する場合、あるいは他の目的で前に利用したためオーブンが汚染されている場合には、オーブンを空にした状態で焼結温度で数回運転するのが好ましい。この様なオーブンの予備調整により、揮発物質を除去し、使用の準備をする。更なるステップの追加は必要ない。大気の存在が本方法を障害せず、所望の比率の一定の結果を生じるならば、分解時、およびコーティングされた物質を焼結するための通常利用時にオーブン内に大気が存在してもよい。これらの条件において、石英基質の存在下に50:50から20:80までの所望の比率を提供する場合、焼結温度は920℃から1100℃までが可能である。温度が上昇するにつれ、ハイドロキシアパタイトのαリン酸三カルシウムへの変換率も増えることが見いだされている。920℃から950℃までの焼結温度において、比率は50:50から333:666に向かって変化する可能性がある。950℃から1000℃の選択された焼結温度で、比率は約333:666である。温度が1000℃以上から1100℃まで上昇すると、変換率は上昇し、333:666から20:80の範囲の比率の組成物が生成される。333:666の比率が達成される場合、好ましい焼結温度は約975℃である。
【0032】
ハイドロキシアパタイトからリン酸三カルシウムへの変換は反応
2Ca5(OH)(PO4)3→3Ca3(PO4)2+CaO+H2O
によって起こり、どの温度においても変換率は周囲環境の水の分圧と、CaO濃度を変化させる因子によって影響される。
【0033】
形成されるリン酸三カルシウムの性質は重要である。Ca/P比が1.5〜1.60の不定比化合
物のハイドロキシアパタイトに関して(Nakamura,Thermochimica Acta,Vol.165,1990)、また多くの市販のハイドロキシアパタイト粉末(Aldrich Chem CO.)に関して,粉末が1100℃に加熱され、1000℃以下に冷却されると、通常βリン酸三カルシウムが形成される。βTCPは、鉱物性Whitlockiteとして天然に存在する安定した不溶性化合物である。ここに記載されている様に水性溶液から形成されるゾル-ゲルから誘導されるハイドロキシアパタイトにおいて、また別の沈殿反応から形成されるカルシウムハイドロキシアパタイト粉末において、安定剤の存在下にαリン酸三カルシウムの形成が1000℃以下の温度で促進されることが認められている。リン酸カルシウムを基剤とするコーティングの開発において、比較的溶解度が高いため生理学的溶液中で分解するため、また1250℃以上の温度で純粋なハイドロキシアパタイトの高温変換によってのみ生じるという事実から、αTCPは大いに注目される問題ではなかった。
【0034】
変換式から、この系のCaOの活性を調節する因子が温度とハイドロキシアパタイト変換
の可逆性を変えるものと予想される。SiO2の様な安定剤を添加すると、反応式
CaO+SiO2→CaSiO3
によりCaOが反応するものと考えられ、これによって変換を低温に移動させる。
【0035】
この反応は、反応で生成される1モルのCaOあたり1モルのSiO2で釣り合うはずである。CaO/SiO2比が異なる別のケイ酸塩形成反応も可能である。
【0036】
シリカがケイ酸カルシウムを形成する作用によりCaOが除去されると、TCP相を形成する温度は、図1に示す様に、調製されたハイドロキシアパタイト組成物の変換から得られた
データと一致する温度まで低下する。ケイ素の添加により変換の線は右に、すなわち低温に移動し、主にαTCPが形成される。
【0037】
シリカが、βリン酸三カルシウムの様な他の相よりも、αリン酸三カルシウムの形成を促進する直接的な役割を果たすことに関して提唱されている機序は、ケイ素がハイドロキシアパタイト結晶構造に入り、βよりもα相を安定化させるというものである。現在、好ましい例によれば、開始ハイドロキシアパタイト物質の性質と、シリカの添加方法が重要であることも実証されている。粉末形態のシリカを市販の純粋ハイドロキシアパタイト粉末に添加し、混合を促すために共に製粉するとすると、1000℃以上の高い焼結温度で観察された変換生成物はβTCPであった。これに反して、本発明に従って調製された粉末に金
属-有機溶液としてシリカを添加すると、950℃の線で図2に示す様に低温で保持される安
定化されたαリン酸三カルシウム相に主に変換される。この変換は可逆性でない。高温において、安定剤を添加された粉末は、純粋粉末に関しては、1200℃以上から約950℃への
低下を示した。記載されているように、この作製はケイ酸カルシウムの形成によるものと考えられており、これによって、生成された安定化相組成物は冷却により低温で保持される。
【0038】
本発明に従って、安定剤を加えて調製された粉末が、所望の表面形態と内部微細孔構造を持つ再現性の高い安定した相組成物を有する理由は、ハイドロキシアパタイトが最初非常に微細な粒子としてゾル-ゲル工程により調製されたためである。金属有機溶液の形態
でケイ素の様な安定剤を添加することにより、これらの粒子がそれぞれケイ素の相と緊密に接触することが可能となり、十分混合される。焼結時、シリカは変換反応で遊離されたCaOに非常に近接している。それぞれの粒子表面でケイ酸カルシウムが形成されることに
より、反応の可逆性が制限され、水性生理的培地中でαリン酸三カルシウムの溶解性を阻害するものと提唱されている。
【0039】
ケイ素と同様に、チタン、アルミニウム、ホウ素は変換温度を低下させるものと考えられ、従って安定剤、すなわち添加剤として使用できる。図3および4は、CaO/Al/Ti/Ba複合体の形成による温度低下を示している。これらの金属をハイドロキシアパタイトからCaO
を除去するために使用し、安定化αTCPを生成することができる。安定剤(添加剤)と、安
定剤を分散させる化合物の選択に重要な因子は、(a)安定したカルシウム化合物を形成す
る、形成されたCaOと相互作用しなくてはならない、(b)好ましくは、新しく形成される粒子の対面を取り囲む様に、ゾル-ゲル物質全体に均質に分散されることが可能でなくては
ならない、(c)リン酸カルシウム系内部に望ましくない相を安定化させてはならない、(d)生物学的応用のために組み入れられた際、毒性があってはならない。本発明での使用に適した安定剤は、酸化物、好ましくは、金属酸化物を形成する安定剤である。好ましい金属酸化物は、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、クロム、バナジウム、ニオブの酸化物の様な、所望の組成と形態を生成する選択された物で、より好ましくは、ケイ素とチタンの酸化物から選択される。この様な安定剤の混合物も有用であることが証明されている。
【0040】
焼結は、安定剤の存在下に行われる。安定剤は、焼結工程中ハイドロキシアパタイトを通して基質からの拡散により、あるいは焼結前にハイドロキシアパタイトに安定剤を添加することにより供給できる。拡散であれ、添加であれ、安定剤は、薄いフィルム、粉末、厚いコーティング、セラミック塊、その中に大きな孔を持つセラミック塊の形態のリン酸カルシウム相を安定化させるのに十分な量が供給される。好ましくは、骨細胞活性の支持と促進には、その結果得られる独自の表面形態と内部微細構造であり、これらは再現性があり、焼結工程中の安定剤の存在によって左右される。
【0041】
提案された利用法に応じて、組成物は、診断用の薄いフィルム、あるいは骨または歯牙インプラントに使用するためのより厚いコーティング等の形態で提供することができる。この場合、薄いフィルムは、0.1ミクロンから5ミクロンの厚さを持つフィルムとして、より厚いコーティングは別の基質に適用するためにデザインされた5ミクロン以上の厚さを
持つものとして記載されている。セラミック塊は、より大きな三次元構造を指し、基質とは機能的に独立している。
【0042】
好ましい実施例は、石英基質面上のハイドロキシアパタイトのフィルムを焼結することによって提供される。石英基質は、リン酸カルシウム相全体に拡散し、十分なケイ素含有量を達成できる、十分量のケイ素供給源を提供する。図5(a)、組成物と基質の界面、図5(b)界面のすぐ上、図5(c)フィルムの上に示す用に、ケイ素はフィルム組成物全体で利用され得る。焼結期間中、ケイ素は石英の表面から遊離され、ハイドロキシアパタイト相の表面を通って拡散する。好ましいハイドロキシアパタイト対αリン酸三カルシウム比の範囲内でハイドロキシアパタイトがαリン酸三カルシウムに変換する間、ケイ素はCaOと反応
し、ケイ酸カルシウムを形成し、これはαリン酸三カルシウムと安定な複合体を形成する。焼結時に安定剤を生成されつつあるリン酸カルシウム相の中に遊離するその他の基質または添加剤も、本発明に従って利用できることは、本技術に精通する者にとって明らかである。安定剤は、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、ホウ素、チタン、ゲルマニウム、クロム、バナジウム、ニオブ、およびその混合物等の金属および非金属の酸化物から選択できる。アルミニウム、ジルコニウム、ホウ素、チタン、およびこれらの成分の種々の混合物を含む、あるいはそれらから作製される基質も、安定剤の供給源として適していると思われる。
【0043】
本発明に従って、適切な支持体の上に提供される薄いフィルムは、骨細胞の機能特性の研究と理解を大きく前進させる。本発明に従って提供される安定化フィルムの構造は、その上の多種類の骨細胞の培養を可能にする。表面構造は、破骨細胞活性の研究において、フィルム材料のリン酸カルシウムの吸収を高度から僅かな程度まで促進するように調整することができる。同様に、骨芽細胞活性も、石灰か骨基質の蓄積を検出することによって研究することができる。破骨細胞による吸収が、吸収されたリン酸カルシウムの消失により検出できる程十分に薄いフィルムを供給できることによって、従来の技術と比較すると
簡単で安価な分析方式が提供される。石英やガラス等の透明な支持基質上にフィルムを供給できる利点により、自動機器記録を含む診断方法の評価が容易となる。
【0044】
理想的には、フィルムの厚さは0.1ミクロンである。なぜならば、フィルムの厚さが0.1ミクロンより薄いと、不連続な空隙を生じることなく、均質なフィルムを得るのが困難なためである。フィルムの厚さの上限は、その最終用途に応じて所望の厚さが可能である。後に検討されるように、吸収の程度は、光透過性により検出され、光透過性の見地からフィルムの厚さは10ミクロン未満でなくてはならない。基質は石英製で、石英は必要な焼結温度に容易に耐えられ、フィルム材料からのリン酸カルシウムの吸収量を決定するための光透過性試験が可能な所望の透過度を有する。
【0045】
作製された薄いフィルムは、骨細胞活性を評価するためのキット等に利用できる。フィルムは、付着性のリン酸カルシウムの薄いフィルムで予めコーティングされた石英基質を含む「キット」の形態で組み入れることができ、これは、混合された骨細胞集団の培養に適した系として、細胞培養容器(恐らく、任意で滅菌された24ウェルのマルチウェルプレ
ート、すなわち直径15mm)の中で使用することができる。この装置は簡単で、使用するに
は単に通常の検査機器および技術だけが必要で、定量分析に適しており、安価に作製できるが、通常の取り扱いに耐えられる十分な強度を持ち、ロットとして包装することができ、(例えば)24検体1つのプラスチック製包装箱に包装することもできる。薄いフィルム表面は、規定された再現可能な化学的性質を持ち、適切な包装材料を使用すれば、輸送に十分耐えられる物理的強度を有する。
【0046】
どの様な場合でも、培養条件は、破骨細胞は、単核形態であれ、多核形態であれ、機能している状態で生存し、フィルムの人工リン酸カルシウムを吸収すると予想できるような条件である。同様に、骨芽細胞もこの様な培養条件下に、石灰化骨基質を活発に分泌できる。
【0047】
これらの基質は、破骨細胞の吸収活性を評価し、また疾病過程の結果として、あるいは培養培地内に破骨細胞の吸収活性に直接あるいは間接的に影響すると思われる薬物等の物質が含まれた結果として認められるこのレベルの吸収活性の変化を監視するために利用することができる。基質は、その上の骨基質の分泌を観察、評価するために、またin vivo
移植のために、沈着が生じ、鉱物化された基質を使用するために、活性骨芽細胞の培養にも適している。図6に認められるように、鉱物化コラーゲンに富む基質10は、石英基質14
の上に供給された安定化された薄いフィルム12の上に培養された骨芽細胞によって沈着が生じている。セメントラインに類似している十分に完全な境界層16が示されており、これはin vivoで新しい骨と古い骨の間の界面で骨芽細胞により形成される同じタイプのセメ
ントラインと類似している。これは、圧安定化組成物により、生理学的骨芽細胞活性が重要なリモデリング製品生成物としての安定化組成物の役割を更に支持することが可能となることを明らかに示唆している。
【0048】
この装置は、破骨細胞の吸収活性または破骨細胞の活性による骨様物質の蓄積を定量する手段として利用できる。この様な活性分析は、連続リアルタイムモニタリング、こま抜きまたは終点測定により行うことができる。骨細胞活性を確立するステップは、骨細胞(
動物またはヒト)が特定の条件で、1つ以上の装置において培養される点で、上記のモニタリング案計画全てに共通である。培養期間は数時間から数日間で、好ましくは2日から10
日間で(至適時間は細胞種とプロトコールに依存する)、この間破骨細胞活性の程度を連続モニタリングするか、定期的にモニタリングするか、または終点で測定を行い、途中経過はモニタリングしない。同様に骨芽細胞活性も、石灰化骨基質の蓄積の程度を測定することにより観察することができる。図7に示す様に、本発明の安定化フィルムでコーティン
グされ、同時に骨芽細胞と共に培養された石英ディスク(a)は蛍光性が高く、鉱物化され
た骨基質の存在を示している。これに反して、媒質のみの存在下に石英の上にコーティングされた安定化されたフィルム(b)は、蛍光を全く示さない。石灰化骨基質の量は、放射
された測定可能な蛍光に直接比例している。テトラサイクリンは自然の蛍光物質である。細胞がテトラサイクリンを取り込むと、テトラサイクリンは代謝され、その代謝産物が分泌され、新たに形成された骨基質の中に取り込まれる。テトラサイクリンは骨芽細胞により代謝された時にのみ蛍光を発する。これは、骨芽細胞が安定化組成物の上で活発に骨基質を分泌していることを実証している。
【0049】
一旦、ゾル-ゲルハイドロキシアパタイトが調整されれば、種々の技術により所望の基
質に薄いフィルムとして塗布できる。例えば、ディップコーティング法(C. J.Brinker et al.,Fundamentals of Sol-Gel Dip Coating,Thin Solid Films,Vol.201,No.1,97-108,1991)は一連の方法、すなわち、一定の速度で基質をゾルまたは溶液から取り出し、コーティングされた液体フィルムを適切な温度で乾燥し、フィルムを最終セラミックに焼成する方法から成る。
【0050】
スピンコーティングでは、遠心力により溶液を均質に分布できる十分な速度で回転しているプレートにゾル-ゲルを滴下する。その後の処理はディップコーティングと同じであ
る。
【0051】
ゾル-ゲルの薄いフィルムを基質に塗布するために利用できるその他の多様な方法があ
ることは明らかである。その他の方法には、ゾル-ゲルをスプレイする、ゾル-ゲルのローラー塗布する、ゾル-ゲルを散布する、ゾル-ゲルを塗る等がある。
【0052】
同じ大きさの別々のディスクをコーティングする代替法は、大きくした基質にゾル-ゲ
ルのフィルムをコーティングする。次に、基質上のフィルム全体を焼結する。次に、格子の様な器具をフィルムの上に当てて、複数の別々のテストゾーンに分ける。
【0053】
これらのゾル-ゲルを塗布するこれらの種々の方法において、形成されるフィルムの厚
さと質(有孔性、微細構造、結晶状態および均質性)は、多くの因子によって影響される。これらの因子には、物理特性、組成、開始ゾルの濃度、基質表面の清浄度、基質を引き上げる速度、および焼成温度が含まれる。一般に、厚さは、ディップコーティング処理工程の引き上げ速度とゾルの粘度に主に依存している。大きな孔と亀裂の形成はゾルの不均質性に起因しているので、コーティング作業は、クリーンルームで行い、ゾルの粒子汚染を予防すべきである。熱処理ステップでは、必要な微細構造と所望のハイドロキシアパタイト体αリン酸三カルシウム比を得るために高温が必要である。
【0054】
ディップコーティング法をリン酸カルシウムフィルムの作製に利用する目的は2つある
。すなわち、(a)要求される質(均質性、厚さ、有孔性、その他)のフィルムを作製するた
め、(b)生物実験のために透明な基質の上に半透明のリン酸カルシウムフィルムを作製す
るためである。
【0055】
本発明の安定化人工組成物は、薄いフィルムとより厚いコーティングだけでなく、粉末とセラミック塊の作製にも適している。セラミックは、所望の安定化ハイドロキシアパタイト及びαリン酸三カルシウム相混合物を作製するためにシリカを添加し、ここに記載されているゾル法により調製された焼結粉末から調製される。一実施例において、0.5〜1mmの厚さのディスクを作製するのに十分な量の焼結粉末を細かくすりつぶしてから、保持しておいた同じ添加組成物であるゾル-ゲル一滴と混合し、粒子をまとめる助けとなる湿っ
た粉末を作製する。湿った粉末を実験室のダイで約5トン/cm2の圧力で一軸に圧縮する。
得られた塊材料は、優れた未焼結強度を示し、空気中で1000℃にて1時間焼成される。こ
の様なセラミックは、薄いフィルムまたはコーティングとして使用される安定化組成物と
同じ特性を全て保持している。SiO2により安定化された組成物に関しては、エックス線回折は、最初の粉末と最終セラミックの相組成に殆ど変化を示さなかった。図8に認められ
る様に、平面図は図9に示される石英基質にコーティングされた組成と著しく類似してい
る。薄いフィルムとセラミック塊の上の破骨細胞の吸収能は非常に類似している。破骨細胞の吸収は、セラミック塊上の吸収小窩18として観察され、薄いフィルム上に観察される吸収小窩18と類似している(図8および9)。
【0056】
本技術に精通する者にとって明らかな様に、より大きなセラミック塊片を、所望の適用例に使用するためにセラミックを塊片に成形することによって、作製することができる。作製された塊片は、所望の安定化リン酸カルシウム相と微細球状表面形態、および内部微細孔構造を保持しており、この両者はその上の骨細胞活性を促進する。
【0057】
生物学的適用に使用するためのセラミック製品の特殊な一面は、生物的活性を引き起こす微細な球状表面の微細孔と、内部構造の50〜1000μmまたはそれ以上の大きさのより大
きな構造の孔である。これは、生理学的in vivo骨リモデリングにより近似した骨リモデ
リングを促進する。この様な孔で、大きさが範囲の下限の孔は、骨の迅速な内部への成長が望ましい適用に特に適しており、範囲の上限の孔は、骨移植片の体外組織作製等に利用できるように細胞が内部にアクセスできる。シリカの様な安定剤を添加し、使用前に焼結した粉末を使用し、所望の大きさのスチレンボールとこの様な粉末を混合することにより、多孔性セラミックを作製することができる。湿った添加剤を加えた粉末をスチレンボールと共に必要な圧で圧縮後、約400℃〜600℃の温度で熱分解によりスチレンを除去する。
【0058】
次に、多孔性セラミックを既述の通常の方法で1000℃まで焼成する。この方法により、外部微細球状構造、その下の内部微細孔構造、および内部の大きな孔構造を持つセラミック塊が得られ、これによって細胞はセラミック塊全体に移動し、機能することが可能となる。
【0059】
スチレンに類似した材料をセラミック構造内部の大きな孔を作製するために使用できることは、本技術に精通する者にとって明らかである。通常の焼結温度以下の温度の熱分解が可能なその他の材料も、大きな孔構造を形成するのに有用である。使用される材料は毒性残留物を残してはならない。物理的に穴を開ける、レーザーまたは発泡剤を使用する等の他の方法を用いて大きな構造を形成できることも理解できる。
【0060】
本発明の重要な点は、ハイドロキシアパタイトとαリン酸三カルシウム相の混合物と、ゾル-ゲルハイドロキシアパタイトから形成された安定剤を添加された粉末から形成され
る表面形態の組み合わせであることから、本技術に精通する者は、この粉末からフィルム、コーティング、塊構造を作製するその他の方法を理解できる。これには、プラズマまたは熱スプレイまたは電気泳動蓄積等の公知の技術の利用が含まれる。
【0061】
図10を参照すると、断面のTEM顕微鏡写真は石英基質(a)、小さな粒子から成る界面相(b)、球状微細孔構造を提供する顆粒が埋め込まれた小さな晶子から成るフィルムの表面を
含む上層(c)の形態の層の勾配を示す。焼結工程時に、石英(a)からケイ素が遊離され、ハイドロキシアパタイトを通過して拡散し、その時ハイドロキシアパタイトはαリン酸三カルシウムに変換され、焼結された薄い層を形成する。界面相(b)は、リン酸カルシウム相
のより大きな多結晶顆粒を持つ表面よりも小さな結晶構造を持つ。
【0062】
人工焼結組成物の形態は独特で、過去には報告も提示もされていない。現在、我々は、相互に結合された微細孔の構造を有する丸い顆粒の相互に緩く結合された球状構造を示す表面形態を発見した。本発明の好ましい面に従って、この形態は機能性破骨細胞と骨芽細胞の培養を良好に支持する。
【0063】
コーティングの表面形態は、珊瑚に似た緩く相互に結合された球状構造を持つ特徴的な形態を有する(図11)。顆粒の側方向への大きさは約0.5〜1μmの幅がある。コーティング
は、基質に対して垂直に孔を有し、基質付近よりも表面付近の二次元密度が高い。この形態は、液体媒質とコーティング内のその他の生理学的溶液の濾過が可能にするものと思われる。これに反して、その他の共沈法から調製されたハイドロキシアパタイトの表面形態は、本発明により提供されるような微細孔構造は生じない。図12(a)および12(b)に認められるように、安定剤を添加せず(a)また添加して(b)この様に調製されたハイドロキシアパタイトフィルムの表面形態は、図11に認められるように本発明は組成物と比べ微細孔は少ない。更に、合成多結晶ハイドロキシアパタイトは破骨細胞により吸収されないことが報告されている(Shimizu,Bone and Minerology,Vol.6,1989)。
【0064】
球状表面形態は、骨形成を生じるプロセスにおいて骨芽細胞により最初に作られる凝集沈殿に大きさが匹敵する丸い顆粒から構成される。本組成物は、in vivoで細胞が遭遇す
ると考えられるタイプの形態と一致する表面形態を提供する。
【0065】
典型的な破骨細胞による吸収小窩が図13に示されており、ここでは基質は骨である。図9に提示されているように、本人工組成物上の破骨細胞20により形成される吸収小窩18は
、図13の天然骨に認められるものと極めて類似しており、破骨細胞が2つの系において同
様に機能していることを示唆している。これは、人工焼結組成物の表面形態が、細胞がin
vivoで遭遇すると思われるタイプの形態と一致することを暗示している。
【0066】
安定化組成物の大量の微細孔により、人工材料の表面付近のカルシウムまたはリン酸イオン濃度は、ハイドロキシアパタイト、コラーゲン、およびその他の線維性組織から構成される天然骨において、細胞が遭遇する限界値の範囲内に確実に納まる様になるものと思われる。吸収に至る破骨細胞により仲介される細胞外溶解過程において、この複雑な材料は溶解産物の局所濃度を特定の値にする。完全に無機質の人工ハイドロキシアパタイトまたはαTCPの溶解または吸収時に、特定の細胞行動にとってその結果生じた濃度の限界値
は狭い範囲で規定されており、天然骨上の活性と同等の人工表面上の活性を骨が発揮するには、カルシウムの様な元素の局所濃度レベルを調節するための方法がなくてはならない。組成物の孔により、媒質の流れまたは拡散によりこれが可能となる。
【0067】
本発明の安定化した生物的活性を有する人工組成物は、独特の化学組成と共に、今まで提示されたことがない独特の表面形態と内部微細孔構造を提供する。in vivoとin vitro
で一定の骨細胞生物的活性を示し、in vitroで容易に、正確に、高い再現性で定量できる組成物は、過去に報告されていない。安定化組成物の性質は、粉末、薄いフィルム、厚いコーティング、セラミック塊片または大きな孔を持つセラミック塊片として提供できる点で、多目的に利用できる。どの場合でも、独特の表面形態と内部微細孔は、安定化リン酸カルシウム相組成物と同等に十分維持されている。図14に認められるように、微細孔を持つ表面の形態は、本発明の安定化組成物から調製されるセラミック塊において維持されている。
【0068】
本発明の安定化組成物は、異常な骨細胞の機能の特徴を大規模な自動化された方法で明らかにするためのin vitro診断に理想的である。安定化した人工組成物は、組織の再生と修復を促進するために、骨および歯牙インプラントのコーティングとしても容易に適用できる。組成物の構造は、in vivoの骨組織と細胞に非常に類似しており、従って一致して
おり、異物の拒絶反応の問題は回避できるであろう。
【0069】
本組成物は、例えば股関節、膝関節の置換手術、骨折、歯科用インプラントなど、in vivoの骨組織の再生と修復と同時に、in vivoのインプラントを提供するなど広範囲の治療
応用に利用可能であるために必要な物理特性とin vivo硬組織との親和性/適合性を持っている。本組成物は、骨組織の置換、再生、修復のためにin vivoに骨移植片として埋め込
まれる人工骨原料を提供するために体外で実施される種々の組織作成への応用にも利用可能である。組織の拒絶反応の可能性を軽減することによって完全な適合性を持つ骨移植片を作成するために本組成物上で培養するための破骨細胞および骨芽細胞を患者から供給することも可能である。あるいは、提供者の骨細胞をこの目的で利用することも可能である。このような移植片は組織置換の目的で、骨組織を形成するために利用された細胞とともに、あるいは細胞を除去して作成することが出来る。しかし、細胞を含む移植片は組織拒絶反応に伴う問題を最小限にするため自己由来であることが望ましい。
【0070】
粉末状の安定化された組成物は医学的治療にも応用され得る。安定化された粉末は、組織と適合し毒性を持たないポリマー物質内で混合懸濁され、骨組織内の欠損部を充填するためにin vivoで使用される。
【0071】
本組成物が利用可能な応用は全て、本組成物がどのような形態でも、破骨細胞および骨芽細胞の両者が活発に機能し、in vivoで見られるのとよく似た骨組織系を提供するとい
う利点を持つ。本発明による人工生物的活性組成物は、正常の組織修復と再生を可能にすると同時に、正常の骨組織リモデリングの過程において人工材料が吸収されることを可能にして、骨誘導と吸収の両者を促進する。
【実施例】
【0072】
以下の手順は、安定化されたリン酸カルシウムを含み、また、骨細胞活性の支持機能を有する独自の形態を持つ、生物的活性人工焼結組成物を提供するという本発明の特性を例示するものである。
【0073】
手順1.ハイドロキシアパタイトゾル-ゲル物質の調整
以下の手順は、製品化目的に関する十分量のゾル-ゲルハイドロキシアパタイトの調整
に基づくものである。溶液Aは硝酸カルシウム4水和物を含み、溶液Bはアンモニウム2水素オルソリン酸塩(単塩基)を含む。所望のゾル-ゲルである溶液Cを製造するために溶液Aは
溶液Bと混合される。溶液Aは2回蒸留した蒸留水40mlを4.722gの硝酸カルシウムCa(NO3)2
に加えて調整される。本溶液は硝酸カルシウムの全量が溶解するのに十分な時間(通常3分程度である)中等度の速度で撹拌される。
【0074】
この溶液に水酸化アンモニウム(NH4OH)3mlを加えさらに約3分間撹拌する。溶液のpHを測定する。約12のpHが望ましい。この溶液に37mlの2回蒸留した蒸留水を加えて全溶液量を約80mlとする。この溶液をさらに7分間撹拌し蓋をする。
【0075】
溶液Bは、1.382gのNH4H2PO4を含む250mlのビーカーに2回蒸留した蒸留水60mlを加えて調整する。ビーカーに蓋をして全量のNH4H2PO4が溶解するまで中等度の速度で3ないし4分間撹拌する。この溶液に71mlのNH4OHを加え、次にビーカーに蓋をしさらに約7分間撹拌を続ける。溶液のpHを測定する。約12のpHが望ましい。これにさらに2回蒸留した蒸留水61mlを加え、全溶液量を192mlとして蓋をする。次にこの溶液をさらに7分間撹拌して蓋をす
る。
【0076】
次に溶液Bと溶液Aを組み合わせて所望のゾル-ゲルを調整する。溶液A全量を500ml試薬
瓶に入れる。中等度の速度で撹拌を開始し、溶液Bを溶液Bの全量192mlが溶液Aと混合されるまで約1時間当たり256mlの速度で試薬瓶に注ぐ。余った溶液Bは、250mlビーカー内あるいは溶液を移す過程で利用されるチューブ内に残る溶液の補正を行うために使用することができる。この添加と溶液Aと溶液Bの配合が完了してから、作成された溶液を中等度の速度で約23ないし24時間撹拌を続ける。作製された溶液に異常な沈殿あるいは凝集が見られ
ないかを監視する。もし異常な沈殿あるいは凝集が起こった場合には、その溶液を廃棄し、もう一度調整を開始する。次に、最初の試薬瓶の壁に付着している可能性がある粒子状の凝集を入れないようにして、ゾルを注意深く別の500ml試薬瓶に移す。約240mlの溶液C
、すなわち作成されたゾル-ゲルを遠心分離用瓶に移し、室温で約500rpmで20分間遠心分
離する。遠心分離後、沈殿物を乱さないように180mlの上清を廃棄する。沈殿物を約30分
間滑らかに回転させて再度丁寧に懸濁する。次にゾル-ゲルの粘度を測定する。20ないし60cpが望ましい。ここで、ゾル-ゲルは選択された基質あるいは他の応用に関してディップコーティングの準備が完了したことになる。
【0077】
手順2.シリカ添加ハイドロキシアパタイトの調整
シリカ溶液は以下の手順で調製する。決定された量は約0.168gのSiO2/4mlの溶液を調製する。4mlのシリカ溶液を、手順1で作成し、遠心分離したハイドロキシアパタイトゾル-
ゲル物質60mlに加え、転換反応にて調製した0.168gのCaOと反応させる。
【0078】
シリコン溶液成分
テトラプロピルオルトケイ酸塩 Si(OC3H7)4 7.32gm2-メトキシエタノール CH3OCH2CH2OH 34.5gm焼結中の転換に際して調製されるCaO1モルに対してSiO21モルとなるような比率
のSiO2濃度となるように、シリカ溶液を手順1で調製したハイドロキシアパタイトに加え
る。
【0079】
手順3.薄いフィルムフォーマットの調製
基質の性質によって、薄いフィルムの調製にはハイドロキシアパタイトゾル-ゲル物質
の調製に関して手順1あるいは手順2を利用することが可能である。もし、フィルムの焼結に必要な安定剤が基質によって供給されるならば手順1を採用することができる。もし、
そのような安定剤が基質によって供給されないならば、安定剤を添加する手順2が必要と
なる。
【0080】
基質に薄いフィルムを塗布する前に、フィルムの被覆が十分となるように基質を完全に洗浄する必要がある。石英基質の場合には、ガラス製ビーカー内にディスクを置きクロム酸洗浄液をディスク全体を覆うように満たして洗浄することが可能である。次にビーカーに蓋をする。次に、ディスクを水浴中で1時間音波処理する。酸は水道水で20分間洗い流
す。残留する水道水は2回蒸留した蒸留水を3回交換して除去する。2回蒸留した蒸留水を
最後に交換してから、各ディスクを糸屑の出ないタオルで乾燥し、石英表面に傷が無いかを確認する。表面の粒子の残留は圧搾窒素あるいは圧搾空気を利用して除去する。ディスクは無菌環境で蓋のついたトレイに貯蔵する。この方法はどのタイプの石英の洗浄にも利用できる。
【0081】
石英ディスク基質、あるいは他の適当な組成の基質を手順1で調整したゾル-ゲルに浸す。ディスクは表面に接触するのを避けるため縁を把持する。ディスクをゾルに浸すのは、機械を使用するのが望ましい。ディスクは規定された速度でゾルから取り出す。ディスクの片面のコーティングを除去する。コーティングされた基質を次に清潔なペトリ皿に入れ、蓋をして、室温で乾燥する。焼結前に形成されたフィルムは、亀裂、凝集、間隙が無く、均質でなくてはならない。ディスクの面に適用されるディップコーティング処理工程は、石英の平らな方形基質の様な他のどの様な形態にも適用できる。
【0082】
手順4.乾燥ハイドロキシアパタイト粉末の調製
手順1または2で調製したゾル-ゲルを100℃で約8時間乾燥する。次に、乳棒と乳鉢、あ
るいは微細粉末をすりつぶし、調製できるその他の器具を用いて、乾燥物質をすりつぶす。次に、粉末をるつぼの中で焼結してから、冷却後再度すりつぶす以外は、手順7に記載
されている標準焼結工程に従って、粉末を焼結できる。安定剤を添加した、あるいは安定
化されたハイドロキシアパタイトの調製も、同じ手順に従って可能である。
【0083】
手順5.セラミック塊片の作製
セラミック(立体の塊片)は、以下に従って、シリカを添加したハイドロキシアパタイト粉末から作製した。シリカを添加したゾル-ゲルは、手順2に従って作製した。ゾル-ゲル
の一部を保存し、残りを濾過した。この粉末を120℃で乾燥し、すりつぶして微細粉末を
調製した。約0.09gの粉末をプラスチック製の皿に入れた。ガラス製スポイトを使用して
、最初のゾル-ゲルを一滴形成し、これは粉末と混合する際、約0.055gの重量であった。
ゾル-ゲルを粉末と混合し、湿っているが、濡れてはいないペーストを形成した。湿った
ペーストを、直径6.25mmのステンレススチール製ダイの中に詰め、2トンで1分間プレスした。押し型機から塊片を取り出し、風乾し、手順7に従って、蓋をしたアルミナるつぼの
中で焼成した。図14に示す様に、表面形態は、人工の焼結した薄いフィルムと非常に類似していた。
【0084】
手順6.大きな構造の孔を持つセラミック塊片の作製
手順2の様にシリカ等の安定剤を添加し、1000℃で焼結したハイドロキシアパタイトか
ら調製した粉末を、所望のサイズのスチレンボールと混合し、ゾル-ゲルを追加して粉末
を湿らせ、スチレンを押し出さない様に約1トン/cm2の圧力でプレスする。保存しておい
たゾル-ゲルと2.5重量%のポリビニルアルコール溶液の湿った混合物を使用することにより、この様にプレスされた粉末/スチレン凝集物において、未焼結物質の強度が増強され
る。空気中または酸素中で550℃に加熱して熱分解することにより、スチレンを除去する
。次に、大きな孔を持つセラミックを、手順7に記載されている通常の焼結方法に従って
、1000℃まで焼成する。
【0085】
手順7.ハイドロキシアパタイトの焼結
以下の焼結工程は、Lindbergモデル51744または894-Blue M の様な、環境温度から少なくとも1100℃までの温度で運転可能で、特に800℃から1100℃の間で正確かつ安定した内
部温度を維持するように設計された種々のサイズの実験用炉において実施できる。(Lindbergオーブンにおいて一般的に行われている様に)、手順3、4、5または6によって調製された成分を注意を払って標準セラミックプレートに移す。焼結工程中は、炉から複数の基質を出し入れし易い様に、運搬用にセラミックプレートを使用する。炉の温度は所望のハイドロキシアパタイト対αTCP比を得るために必要な温度に設定する。作製されたハイドロ
キシアパタイトとαリン酸三カルシウムの勾配層を通して、シリコンが確実に望ましい状態で拡散される様に、Lindbergモデル894-Blue Mの様なプログラム可能な炉を利用して、炉を最長1時間、通常は920℃から1100℃の範囲から選択される、所望の温度で維持されるようにプログラムすることができる。プログラムできない炉の場合には、別にタイマーを使用して、選択された温度で必要な焼結時間が終了した地点で、操作者に炉のスイッチを切るように警告することもできる。炉の内部温度が許容できる触っても安全な約60℃の温度まで下がったらいつでも、焼結された基質を運ぶセラミックプレートを取り出す。次に、個々の基質を最終使用のために、保存または包装する。
【0086】
この工程に従って、一貫性を確実にするために種々の処理工程パラメータの変動を最小限に抑えれば、ハイドロキシアパタイト/αリン酸三カルシウムの薄いフィルムまたは厚
いコーティングを所望の組成で一貫して作製することができる。
【0087】
本発明の好ましい実施例はここに詳細に記述されているが、本発明の精神または添付の請求項に逸脱しなければ、種々の変更を加えてよいことは本技術に精通する者にとって明らかであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結温度において、ケイ素、ゲルマニウム、クロム、バナジウム、ニオブ、チタン、ホウ素、アルミニウム、ジルコニウム、およびそれらの混合物から成るグループから選択される安定剤の存在下に920℃から1100℃の温度で、ハイドロキシアパタイトゾル−ゲル物
質を、生理的溶液に対して不溶性の安定化αリン酸三カルシウムに変換することにより作製される安定化したリン酸カルシウム相を含む、その上にある骨細胞活性を一貫して支持することが可能な形態を提供する生物的に活性のある焼結組成物。
【請求項2】
前記組成物が、粉末、フィルム、厚いコーティング、または立体塊材料である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記フィルムが厚さ0.1μmから10μmである請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
焼結前のハイドロキシアパタイトが、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、バナジウム、チタン、およびそれらの混合物から成るグループから選択される成分を含む基質上に提供される請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記安定剤が、焼結中に前記基質から遊離されるか、あるいは焼結前にハイドロキシアパタイトに溶液として添加される請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は石英基質上にコーティングされ、焼結時にケイ素が石英から、形成されつつあるリン酸カルシウム相の中に遊離され、αリン酸三カルシウムを安定化する請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記ケイ素が焼結前にハイドロキシアパタイトに溶液として添加される請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
前記ケイ素がオルトケイ酸四プロピルである請求項1または請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記リン酸カルシウム相のハイドロキシアパタイト対αリン酸三カルシウムの比が50:50から20:80である請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
ハイドロキシアパタイトゾル−ゲル物質を920℃から1100℃の温度における焼結により
αリン酸三カルシウムに変換するステップと、ケイ素、ゲルマニウム、クロム、バナジウム、ニオブ、チタン、ホウ素、アルミニウム、ジルコニウム、およびそれらの混合物から成るグループから選択される安定剤を提供するステップとを含んでなる、その上にある骨細胞活性を支持するのに適した形態を有するリン酸カルシウム相の人工焼結組成物を安定化するための方法。
【請求項11】
前記組成物が、粉末、フィルム、コーティング、または立体塊材料である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ハイドロキシアパタイトが、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、ホウ素、ゲルマニウム、クロム、バナジウム、ニオブ、およびそれらの混合物から成るグループから選択される成分を含む基質上に提供される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記安定剤が、前記基質から焼結中に作製されるハイドロキシアパタイト相の中に遊離される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ハイドロキシアパタイトは石英基質上に塗布され、焼結時にケイ素が石英から、形成されつつあるリン酸カルシウム相の中に遊離され、αリン酸三カルシウムを安定化する請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記ケイ素が焼結前にハイドロキシアパタイトに溶液として添加される請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記ケイ素がオルトケイ酸四プロピルである請求項10または15に記載の方法。
【請求項17】
前記リン酸カルシウム相のハイドロキシアパタイト対αリン酸三カルシウムの比が、50:50から20:80である請求項10に記載の方法。
【請求項18】
請求項10に記載の方法でつくられた骨細胞活性を支持するための焼結微細孔を有する人工多結晶構造物。
【請求項19】
構造中に相互に結合された微細孔を有する相互に緩く結合された丸い顆粒の球状表面形態を有する焼結安定化αリン酸カルシウム相を含んでなる、骨細胞活性を支持するための焼結された微細孔を有する請求項10に記載の方法により安定化された人工多結晶構造物。
【請求項20】
前記球状顆粒が、0.5〜1μmの範囲の側方向への大きさを有する請求項19に記載の多
結晶構造。
【請求項21】
請求項10に記載の方法により安定化され、生理的溶液に対して不溶化されたαリン酸三カルシウムを含むリン酸カルシウム相の焼結フィルムを有する基質と、
前記基質に付着させたマルチウェル骨細胞培養装置と
を含んでなる骨細胞の活性を監視し、定量するキット。
【請求項1】
焼結温度において、ケイ素、ゲルマニウム、クロム、バナジウム、ニオブ、チタン、ホウ素、アルミニウム、ジルコニウム、およびそれらの混合物から成るグループから選択される安定剤の存在下に920℃から1100℃の温度で、ハイドロキシアパタイトゾル−ゲル物
質を、生理的溶液に対して不溶性の安定化αリン酸三カルシウムに変換することにより作製される安定化したリン酸カルシウム相を含む、その上にある骨細胞活性を一貫して支持することが可能な形態を提供する生物的に活性のある焼結組成物。
【請求項2】
前記組成物が、粉末、フィルム、厚いコーティング、または立体塊材料である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記フィルムが厚さ0.1μmから10μmである請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
焼結前のハイドロキシアパタイトが、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、バナジウム、チタン、およびそれらの混合物から成るグループから選択される成分を含む基質上に提供される請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記安定剤が、焼結中に前記基質から遊離されるか、あるいは焼結前にハイドロキシアパタイトに溶液として添加される請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は石英基質上にコーティングされ、焼結時にケイ素が石英から、形成されつつあるリン酸カルシウム相の中に遊離され、αリン酸三カルシウムを安定化する請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記ケイ素が焼結前にハイドロキシアパタイトに溶液として添加される請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
前記ケイ素がオルトケイ酸四プロピルである請求項1または請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記リン酸カルシウム相のハイドロキシアパタイト対αリン酸三カルシウムの比が50:50から20:80である請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
ハイドロキシアパタイトゾル−ゲル物質を920℃から1100℃の温度における焼結により
αリン酸三カルシウムに変換するステップと、ケイ素、ゲルマニウム、クロム、バナジウム、ニオブ、チタン、ホウ素、アルミニウム、ジルコニウム、およびそれらの混合物から成るグループから選択される安定剤を提供するステップとを含んでなる、その上にある骨細胞活性を支持するのに適した形態を有するリン酸カルシウム相の人工焼結組成物を安定化するための方法。
【請求項11】
前記組成物が、粉末、フィルム、コーティング、または立体塊材料である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ハイドロキシアパタイトが、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、ホウ素、ゲルマニウム、クロム、バナジウム、ニオブ、およびそれらの混合物から成るグループから選択される成分を含む基質上に提供される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記安定剤が、前記基質から焼結中に作製されるハイドロキシアパタイト相の中に遊離される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ハイドロキシアパタイトは石英基質上に塗布され、焼結時にケイ素が石英から、形成されつつあるリン酸カルシウム相の中に遊離され、αリン酸三カルシウムを安定化する請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記ケイ素が焼結前にハイドロキシアパタイトに溶液として添加される請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記ケイ素がオルトケイ酸四プロピルである請求項10または15に記載の方法。
【請求項17】
前記リン酸カルシウム相のハイドロキシアパタイト対αリン酸三カルシウムの比が、50:50から20:80である請求項10に記載の方法。
【請求項18】
請求項10に記載の方法でつくられた骨細胞活性を支持するための焼結微細孔を有する人工多結晶構造物。
【請求項19】
構造中に相互に結合された微細孔を有する相互に緩く結合された丸い顆粒の球状表面形態を有する焼結安定化αリン酸カルシウム相を含んでなる、骨細胞活性を支持するための焼結された微細孔を有する請求項10に記載の方法により安定化された人工多結晶構造物。
【請求項20】
前記球状顆粒が、0.5〜1μmの範囲の側方向への大きさを有する請求項19に記載の多
結晶構造。
【請求項21】
請求項10に記載の方法により安定化され、生理的溶液に対して不溶化されたαリン酸三カルシウムを含むリン酸カルシウム相の焼結フィルムを有する基質と、
前記基質に付着させたマルチウェル骨細胞培養装置と
を含んでなる骨細胞の活性を監視し、定量するキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−367(P2010−367A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184375(P2009−184375)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【分割の表示】特願平9−510716の分割
【原出願日】平成8年8月30日(1996.8.30)
【出願人】(508143845)ワルソー・オーソペディック,インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【分割の表示】特願平9−510716の分割
【原出願日】平成8年8月30日(1996.8.30)
【出願人】(508143845)ワルソー・オーソペディック,インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
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