説明

獣類侵入防止柵

【課題】頻繁な除草の手間が不要で、碍子にも通電でき、飛び越え、跳躍力をもち、あるいはよじ登ってくるなどの獣類の行動特性に対応しうる機能を持つ柵を提供する。
【解決手段】支柱に支持された地面に設置されるワイヤーメッシュなど一定の高さを持った導電性素材の防護柵の上部に位置するように、絶縁性の管を支柱に取り付け、この絶縁性の管に導電性の碍子を介して着脱自在に電気線を配した。この碍子はばね性を有し、絶縁性の管を挟み込むグリップ部と、グリップ部に連結された電気線などを支持する保持部からなる。侵入防止用具を電気線から導電性もしくは非導電性のネットに容易に交換することができることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣類接近エリア側から侵入禁止エリア側へ侵入しようとする獣類に対し、ワイヤーメッシュや金網などの導電性の防護柵(以下、地面の上に直接設置する下部の柵を「防護柵」と表記する。)の上部に、絶縁性の管を支柱に取り付け、この管に簡易に接続可能な導電性の器具を碍子として用いて電気線を配線し、ここを越えようとする個体が接触して電気的ショックを与えて撃退させることができる簡易な獣類侵入防止柵に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、イノシシのほかクマやシカ、外来生物のアライグマなどの野生獣類による農作物被害等が各地で発生し、社会問題となっている。
このような獣害を防止するため、各種の侵入防止柵が設置されているが、柵の設置コスト、設置労力、施設の効果を持続させるための維持管理労力などに一長一短があり、必ずしも十分な効果を発揮し得ていない。農山村地域の過疎化・高齢化が進行する中で、侵入防止効果に加えて、低コストで維持管理労力が軽減でき、侵入しようとする獣類の種類によって機能の変更が容易な侵入防止柵の開発が必要とされている。
【0003】
ワイヤーメッシュ・金網などの防護柵は、跳躍力やよじ登る能力など獣種ごとの行動特性、あるいは獣類接近エリア側の地形や植生の繁茂状況によっては侵入を試み易くなり、侵入禁止エリア側に侵入する場合が発生する。
【0004】
一般的な電気柵(地面に所定間隔ごとに立設される支柱に配線される電気線に、電圧発生器から発生させた衝撃電圧を送り、侵入しようとする獣類を感電により撃退させるもの)においては、雑草が電気線に接触すると漏電し衝撃電圧が低下するため、刈払い機等を用いた除草作業が頻繁に必要とされ、機能保持のための維持管理労力に負担が大きい。
【0005】
また、イノシシやクマなど獣種によっては、無通電部位である絶縁性碍子に損傷を与え、侵入禁止エリア側に侵入する場合がある。
【0006】
さらに、イノシシ・クマ・シカなど複数種の獣類が進入禁止エリア側への侵入しようとしている場合、獣種ごとの行動特性により、設置する柵の種類を変更する必要が生じる。この状況において、より確実な侵入防止を図るために2種類の柵を並列して設置する場合、一方が電気柵であれば漏電防止のための頻繁な維持管理の課題は解消されることはなく、設置コストが二重にかかるとともに、立地条件等によっては並列設置が困難な場合も生じる。
【0007】
例えば特許文献1に示されるような電気柵は、下部の防護柵本体と上部の裸電線とが一体となっており、着脱自在の使用を想定しておらず、相互を固定する部位が多く、高齢化した農家等には設置に要する労力的な負担が大きい。また、侵入しようとする獣類の種類によって、防護柵の上部構造の交換が容易にできない。
また、特許文献2に示されるような動物用防護柵は、下部の防護柵の本体が支柱間で独立しており、その上部に電気線が配されているが、これを支持する支柱は地面に固定されているため、防護柵の上部構造の交換が容易にできない。
【0008】
【特許文献1】特開平8−112055号公報
【特許文献2】特開2003−158986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
単純なワイヤーメッシュなどの防護柵は、獣類接近エリア側の地形や植生の繁茂状況によっては、獣類が侵入を試み易くなり、柵をよじ登って越そうとする獣類の場合、被害防止効果は低い。
【0010】
また、一般的な電気柵の場合、雑草の生育に伴う電気線との接触による漏電により、電圧が低下してその機能が果たせなくなるため、短いスパンで頻繁な除草作業が必須条件となる。また、草刈り機等で除草する場合に電気線を切断してしまう可能性もあり、作業に細心の注意を必要とする。
【0011】
上記のような維持管理が十分行われている電気柵においても、獣種によっては無通電部位である絶縁性碍子にぶつかる、引っ張るなど行為により電気柵に損傷を与え、侵入禁止エリアに侵入する場合が発生する。そのため、碍子にも通電させる必要が存在する。
【0012】
さらに、進入禁止エリア側に侵入しようとする獣種が、他の獣種に替った場合、もしくは他の獣種が新たに加わった場合など、飛び越えようとするか、その場合どの程度の跳躍力を持つか、柵をよじ登って越そうとするかなど、当該獣類の行動特性に対応しうる機能を持つ柵への変更を要し、柵の交換もしくは追加設置が必要となる。
【0013】
本発明は、このような多数の問題点を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、次のような解決手段を特徴としている。
【0015】
請求項1に記載の獣類侵入防止柵は、支柱に支持され地面に設置されるワイヤーメッシュなど一定の高さを持った導電性素材の防護柵の上部に位置するように、絶縁性の管を支柱もしくは防護柵本体の上部に取り付け、この絶縁性の管に導電性の碍子を介して着脱自在に電気線を配したことを特徴としている。
【0016】
請求項2に記載の獣類侵入防止柵は、前記の絶縁性の管に取り付ける碍子がばね性を有し、絶縁性の管を挟み込むグリップ部と、グリップ部に連結された電気線などを支持する保持部からなることを特徴としている。
【0017】
請求項3に記載の獣類侵入防止柵は、前記の碍子は、これを取り付ける絶縁性の管の高さが一定範囲で変動するに関わらず、管の位置が定まった時点で、その位置を任意に調整できることを特徴としている。
【0018】
請求項4に記載の獣類侵入防止柵は、防護柵の上部に取り付ける支柱を、絶縁性素材の管を使用して着脱が自在な構造としているため、侵入しようとする獣種によって、上部に取り付ける侵入防止用具を、電気線から導電性もしくは非導電性のネットに容易に交換することができることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の獣類侵入防止柵では、絶縁性の管を使用することによって、接続する下部の導電性素材の防護柵に漏電しないため、防護柵上部における電気線の配線が可能となる。
また、この絶縁性の管に、導電性の碍子を取り付けることにより、碍子部分を押して倒すなどの行為を防ぐことができる。
そして、この碍子として、ダブルクリップなど着脱自在な製品を使用することにより、侵入しようとする獣類の行動特性によって、電気線の配線本数とその間隔を自由に調整できる。
さらに、電気線は、碍子の電気線保持部の空間部を通過させて配線する構造であることから絶縁性の管の区間ごとに独立しておらず、かつ絶縁性の管自体が上部に動き得るため、電気線自体の伸びの融通性が高く、電気線に接触した獣類が感電ショックを受ける時間を長く保つことができる。また、仮に強い力で引っ張られるなどの状況が発生しても、電気線の伸びの融通性から断線されにくく、導電性碍子のグリップ部が絶縁性の管から外れ得ることから、防護柵の上部構造の破壊を防ぐことができる。
【0020】
請求項2に記載の獣類侵入防止柵では、請求項1の絶縁性の管に挟み込む導電性の碍子も着脱自在であり、碍子および碍子に配線する電気線の装着と取り外しが容易であるため、その設置・管理の労力を軽減できる。
【0021】
請求項3に記載の獣類侵入防止柵では、碍子を取り付ける絶縁性の管の高さが一定範囲で変動するに関わらず、その管の位置が定まった時点で、碍子の位置を任意に調整できる。
【0022】
請求項4に記載の獣類侵入防止柵では、侵入しようとする獣種が、防護柵を飛び越える跳躍力を有する場合など、上部に接続する柵の種類を電気線から導電性もしくは非導電性のネットに容易に交換することができる。また、その逆の交換も可能である。
【0023】
これらにより、本発明による獣類侵入防止柵は、防護柵の上部に電気線が配線されているため、草刈りなどの漏電防止のための維持管理に係る労力が軽減できるとともに、侵入しようとする獣種に対応して、上部の柵を容易に交換することが可能である。また、設置管理労力も軽減することができ、上部機能の不使用時の撤去・収納も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、獣類の侵入を防ぐ獣類侵入防止柵であって、支柱1bに支持され地面に設置されるワイヤーメッシュ柵など一定の高さを持った導電性素材の防護柵1aがある。防護柵1aと支柱1bは、番線など止め具1cにより結合される。
支柱1bは、例えば鉄棒が利用でき、防護柵1aは市販されているワイヤーメッシュやガーデン用の金網が利用できる。防護柵1aの目の大きさは、侵入しようとする獣類の種類によるが、イノシシの幼獣・アライグマ・タヌキ等が侵入する可能性があれば、7.5cm以下とすることが望ましい。また、柵の素材は導電性が確保されるよう被覆されておらず金属が露出している方が好ましい。
侵入しようとする獣類の跳躍力等の行動特性、並びに草刈りなどを考慮すると、防護柵1aの高さは、0.5m〜1.5mが好ましく、支柱1bはそれよりも30cm〜50cm程度高い方が好ましいが、この数値に限るものではない。
【0025】
この防護柵1aの上部に位置するように、絶縁性の管2bを支柱に取り付ける。この管2bは、防護柵1aがワイヤーメッシュの場合、防護柵上部の骨線1a1に取り付けることも可能である。絶縁性の管2bは、例えば塩化ビニール管などが利用できる。管2bは、防護柵1aと支柱1bが止め具1cにより結合されているため、これより下方に滑り落ちることはない。
そして、この支柱1bに差し込む絶縁性の管2bに、着脱自在な導電性の碍子2cを介して自在に電気線2aを配線する。
侵入しようとする獣類の種類により、図2に示すように、電気線2aを、導電性もしくは非導電性のネット3aとすることができる。
【0026】
このような構成において、電気線2aには電圧発生器2dから9,000V程度を印加し、地面をアースする。しかし、より好ましくは、地面に設置される防護柵1aもしくは支柱1b等の導電性素材に、2eのとおりアースを直接配線した方がよい。
【0027】
碍子2cは、電気線2aを着脱自在に支持するので、例えばダブルクリップが有効活用できる。これは、図3および図4に示すように、ばね性を有し、絶縁性の管を挟み込むグリップ部2c1と、グリップ部2c1に連結された電気線2aを支持する保持部2c2からなる。このような取り付けは、高齢者であっても設置が容易であって、通常はこれによりショートの心配もなく、獣類の侵入に際して仮に強い力で引っ張られるなどの状況が発生しても、絶縁性の管2bの区間ごとに電気線2aが独立していないため柔軟性を持つので、電気柵機能が停止する可能性は少ない。
【0028】
電気線2aは、図3および図4に示すように、碍子2cの電気線保持部2c2を獣類接近エリア側に開いた状態で、その中央の空間部を通過させて配線する。
この場合、侵入しようとする獣類の行動特性に応じて、電気線2aの配線数と配線間隔を決定し、絶縁性の管2bにグリップ部2c1を固定するため電気線保持部2c2を摘んで装着し、その後に電気線2aを電気線保持部2c2の空間部を通過させて配線する。配線後の配線間隔の調整や変更の場合においても、グリップ部2c1を摘んで容易に行い得る。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本方式により防護柵の上部に電気線を配線した複合柵は、草の生育による漏電が起こりにくいなどの特性から、家畜を利用した耕作放棄地の省力的な草地管理などを行なうための放牧柵としても有効に機能し得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明実施例の図である。
【図2】本発明の他の実施例の図である。
【図3】本発明実施例の碍子で電気線を支持している立面図である。
【図4】本発明実施例の碍子で電気線を支持している平面図である。
【符号の説明】
【0031】
1a 防護柵
1a1 防護柵上部の骨線
1b 支柱
1c 止め具
2a 電気線
2b 絶縁性の管
2c 導電性の碍子
2c1 導電性の碍子のグリップ部
2c2 導電性の碍子の電気線保持部
2d 電圧発生器
2e アース


【特許請求の範囲】
【請求項1】
獣類の侵入を防ぐ獣類侵入防止柵であって、支柱に支持され地面に設置されるワイヤーメッシュ柵などの一定の高さを持った導電性素材の防護柵の上部に位置するように、絶縁性の管を支柱に取り付け、この支柱の絶縁性の管に導電性の碍子を介して着脱自在に電気線を配線したことを特徴とする獣類侵入防止柵。
【請求項2】
前記碍子は、ばね性を有し、絶縁性の管を挟み込むグリップ部と、グリップ部に連結された前記電気線などを支持する保持部からなることを特徴とする請求項1の獣類侵入防止柵。
【請求項3】
前記碍子は、これを取り付ける絶縁性の管の高さが一定範囲で変動するに関わらず、管の位置が定まった時点で、その位置を任意に調整できることを特徴とする請求項1の侵入防止柵。
【請求項4】
侵入しようとする獣類の種類により、前記の電気線を、ネットとしたことを特徴とする獣類侵入防止柵。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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