説明

玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法

【課題】前駆体レンズの縁が欠落せずなおかつ縁厚を十分維持しながらも玉型レンズに加工した際の厚みを薄いものにできる前駆体レンズの製造方法を提供すること。
【解決手段】玉型レンズに加工される円形の外形形状を有する前駆体レンズの製造方法であって、加工データ入力工程において予想される玉型形状よりも大きな仮想玉型形状を想定し、その仮想玉型のフレーム形状データ及び縁厚データを含む加工データを入力し、その加工データに基づいて材料ブロックを加工して前駆体レンズを作製する。その際に作製される前駆体レンズの縁厚が仮想玉型の加工データに基づくと所定厚みよりも小さくなってしまう場合には同仮想玉型部分については加工データを反映させて加工するとともに仮想玉型部分の周囲部分においてはサグ量を変化させ前駆体レンズの縁厚を確保するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は玉型レンズを得るために前もって作製されるいわゆる「丸レンズ」と呼称される玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にレンズメーカーではクライアントである眼鏡店からユーザー(装用者)の眼鏡レンズに関する処方データ(注文データ)を入手し、その処方データに基づいて「丸レンズ」と呼称される前駆体レンズを製造し眼鏡店に供給する。眼鏡店ではユーザーの選択したフレームに合わせて前駆体レンズの周囲をカットして玉型レンズを得る(但し、この玉型レンズへの加工までもレンズメーカー側で行う場合もある)。
このように前駆体レンズから玉型レンズのみを残して周囲をカットする技術は周知であるがその一例として特許文献1を示す。
ここに、「玉型レンズ」とは眼鏡フレームの内周形状に対応させたフレーム装着が可能な形状にまで前駆体レンズを加工したレンズをいう。また、「丸レンズ」とは取り扱いの点から円形あるいは楕円形の外形形状に成形されたことから呼称されるに至った前駆体レンズの通称である。
【特許文献1】特開2006−267316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
基本的に玉型レンズは眼鏡フレームへの装着に支障がない限り縁厚は薄い方が好ましい。例えばプラスレンズでは中心厚が縁厚よりも厚くなるため縁厚を薄く設定することで中心厚を薄くして軽くて見栄えのよい玉型レンズを得ることができる。しかしながら、上記のように玉型レンズはその製造工程においてまず前駆体レンズを製造することとなるため、玉型レンズの縁部分の厚みをあまり薄く設定するとそれよりも外側に存在する周囲部分が欠落してしまい前駆体レンズの円形あるいは楕円形の外形形状を維持できないことがある。あるいは円形あるいは楕円形が維持できても縁寄り部分の厚みが非常に薄く形成されてしまうことがある。
【0004】
このような前駆体レンズの縁の欠落、あるいは薄さは前駆体レンズの加工において以下のようないくつかの障害の原因となる。
1)例えば、前駆体レンズを凸面加工後のセミフィニッシュと呼称される前駆体レンズと同径の材料ブロックを切削加工して作製する場合、加工面とは反対側の凸面のみで材料ブロックを吸着固定しなければならない。従って、固定装置の吸着体は固定力を上げるためレンズ面を広く覆うこととなる。そのため前駆体レンズの縁が欠落していると吸着体が加工面側に露出してしまう場合があった。すると切削加工の際に切削工具が吸着体に接触してダメージを受ける可能性があった。
2)1)において切削工具と吸着体の接触を避けるために吸着体が前駆体レンズ(加工前は材料ブロックの状態)に接着する面積を少なくすると前駆体レンズの縁があまり薄い場合には切削の際の応力によってレンズが撓んでしまい加工精度が低下してしまう可能性があった。
3)前駆体レンズの縁があまり薄いと切削の際の応力によってレンズが撓むだけではなく、割れてしまう場合すらあった。その場合にはその割れた破片によってレンズ面が傷ついてしまう場合があった。
4)切削加工後のハードコート液への浸漬工程で前駆体レンズの縁が割れているとその部分にコート液が滞留してしまい、液垂れの原因となってしまう。更に、レンズの割れた破片がコート液に混ざると浸漬の際にレンズ面に破片が貼り付いて製品不良となってしまう可能性がある。
このような緒問題があったために、従来ではクライアントのレンズを薄くしたいという強い要望がない限りは極力前駆体レンズの縁が欠落したり非常に薄くなってしまうことを避け、縁の厚みを確保して前駆体レンズを製造するようにしていた。
【0005】
このようなことから、出願人は上記の課題を解決するために平成19年2月7日付けで前駆体レンズの玉型レンズの外形形状(フレーム形状)よりも外側の部分について玉型レンズの加工データを修正して縁厚を確保させるという技術に関して特許出願をした(特願2007−27430号)。この出願に開示された技術によって前駆体レンズの外形形状を維持しながら玉型レンズを薄くすることが実現可能となっている。
しかしながら、実際はしばしば玉型レンズの外形形状がレンズメーカー側に伝えられていないケースがある。この場合に、仮に小さいフレームが使用されることがわかっていれば、上記出願人の発明を採用することによりどんな条件でも常に非常に薄い玉型レンズを無理なく作製することができるのであるが、大きなフレームが使用される可能性もあるので、小さいフレームを使用する場合と比較すれば相対的に前駆体レンズを厚く作製せざるを得ないわけである。
そのため、玉型レンズの外形形状がレンズメーカー側に伝えられていない場合においても前駆体レンズの縁が欠落せずなおかつ縁厚を十分維持しながらも玉型レンズに加工した際の厚みが確実に薄くなるような前駆体レンズの製造方法が求められていた。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、前駆体レンズの縁が欠落せずなおかつ縁厚を十分維持しながらも玉型レンズに加工した際の厚みを薄いものにできる前駆体レンズの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために請求項1の発明では、所定の眼鏡フレームに対応するようにその周縁を削除することで玉型レンズに加工される円形あるいは楕円形の外形形状を有し、かつユーザーの処方に対応した下記(1)又は(2)のレンズ特性が付与された玉型レンズを作成するための前駆体レンズの製造方法であって、予想される玉型形状よりも大きな仮想玉型形状を想定し、少なくとも同仮想玉型のフレームサイズデータ及び縁厚データを含む加工データを入力する加工データ入力工程と、同仮想玉型の加工データに基づいて材料ブロックを加工して前記前駆体レンズを製造する前駆体レンズ作製工程とを備え、作製される同前駆体レンズの縁厚が同仮想玉型の加工データに基づくと所定厚みよりも小さくなってしまう場合には同仮想玉型部分については加工データを反映させて加工するとともに同仮想玉型部分の周囲部分について同前駆体レンズの縁厚が所定厚み以上となるように加工データを修正して加工するようにしたことをその要旨とする。
ンズの製造方法。
(1)外面又は内面の少なくとも一方が眼に対する向きを定められた非回転対称の面とされたレンズ。
(2)外面及び内面の両方が回転対称の面であって両面が幾何中心において平行ではないレンズ。
また請求項2の発明では請求項1の発明の構成に加え、ユーザーの処方に対応したレンズ特性が付与された前記(1)の玉型レンズとは下記(a)又は(b)の少なくとも一方の玉型レンズであることをその要旨とする。
(a)レンズ上方に配置された比較的遠方を見るための第1の領域と、第1の領域よりも下方に配置され同第1の領域よりも大きな屈折力を有する第2の領域と、これら領域の間に配置され屈折力が累進的に変化する累進帯を備えたレンズ。
(b)乱視度数が処方されたレンズ。
また請求項3の発明では請求項1又は2の発明の構成に加え、円形の外形形状を有する前記前駆体レンズの前記仮想玉型の面形状は下記(A)及び(B)で定義される弧によって区画される領域を最大領域とすることをその要旨とする。
(A)前記前駆体レンズの幾何中心を通る水平線を基準として同幾何中心から左上下30度方向に延出される2本の直線と同前駆体レンズの縁との2つの交点P1で区画される第1の弧、及び同じく右上下30度方向に延出される2本の直線と同前駆体レンズの縁との2つの交点P2で区画される第2の弧。
(B)前記前駆体レンズの幾何中心を通る垂直線上に存在し、同幾何中心から上下方向にそれぞれ同前駆体レンズの半径の60%に相当する距離だけ離れた位置、あるいは同幾何中心からそれぞれ上下方向に20mm離れた位置のいずれか同幾何中心から遠い一方の位置を通過基準点P3として設定し、上側の同通過基準点P3を通り上側の前記交点P1,P2を結ぶ第3の弧、及び下側の同通過基準点P3を通り下側の前記交点P1,P2を結ぶ第4の弧。
【0007】
また請求項4の発明では請求項1〜3のいずれかの発明の構成に加え、前記材料ブロックには所定の凸面あるいは凹面加工面が前もって形成され、前記前駆体レンズ作製工程においては凸面あるいは凹面加工面と対向する面側に加工を施すようにしたことをその要旨とする。
また請求項5の発明では請求項1〜4のいずれかの発明の構成に加え、前記前駆体レンズ作製工程において加工する面はレンズの内面側であることをその要旨とする。
また請求項6の発明では請求項1〜5のいずれかの発明の構成に加え、前記前駆体レンズ作製工程における非加工面は回転対称形状であることをその要旨とする。
また請求項7の発明では請求項1〜6のいずれかの発明の構成に加え、前記前駆体レンズ作製工程において加工される前記仮想玉型部分の周囲部分については少なくとも同仮想玉型部分に隣接する領域が全方向で連続的であることをその要旨とする。
【0008】
上記のような構成では、加工データ入力工程で前駆体レンズを製造するために、まず予想される玉型形状よりも大きな仮想玉型形状という概念を導入する。そして仮想玉型の想定される加工データを入力する。仮想玉型の加工データは少なくともフレームサイズデータ及び縁厚データを含む。その他の加工データとしては例えば、レンズ中心厚、前駆体レンズのレンズ縁厚、レンズカーブ、累進帯長、加入度数、瞳孔間距離、球面度数、乱視度数、乱視軸の方向等の各データが挙げられる。
メーカー側ではこれら加工データに基づいて前駆体レンズ作製工程において公知の手段で材料ブロックを加工して前駆体レンズを製造する。
ここに、対象とされるレンズに付与されるレンズ特性は
(1)外面又は内面の少なくとも一方が眼に対する向きを定められた非回転対称の面とされたレンズ、あるいは、
(2)外面及び内面の両方が回転対称の面であって両面が幾何中心において平行ではないレンズであることが前提である。
尚、(1)のレンズとしては具体的には累進屈折力レンズや乱視度数の処方されたレンズが該当する。(2)レンズとしてはプリズム処方されたレンズが該当する。これらのレンズ特性は単独あるいは複数備えている場合を含むものとする。
前駆体レンズを製造する際には作製される同前駆体レンズの縁厚が同仮想玉型の加工データに基づくと所定厚みよりも小さくなってしまう場合には同仮想玉型部分については加工データを反映させて加工するとともに同仮想玉型部分の周囲部分について同前駆体レンズの縁厚が所定厚み以上となるように加工データを修正して加工する。
これによって例え玉型レンズの形状が確定していなくとも玉型レンズとされる可能性のある仮想玉型部分について薄手に加工できるとともに、前駆体レンズの縁厚は所定以上の厚みを維持できるため、前駆体レンズの縁が欠落したり加工に耐えられないほど薄くなってしまうことがない。
このような工程で製造される前駆体レンズは特に中心厚が縁厚よりも厚くなるプラスレンズで普遍的に利用できる技術であるが、マイナスレンズであってもプリズム量が大きなレンズや加入度の大きな累進屈折力レンズでは利用可能である。
【0009】
ここに「予想される玉型形状よりも大きな仮想玉型形状」とは例えばメーカー側とクライアント側とで了解済みの最大玉型形状を完全に包含する玉型形状を意味する。つまり仮想玉型以上の大きな玉型を作製する場合はないことが了解されているものとする。常に最大玉型形状よりも仮想玉型が大きければレンズとして必要な領域は必ず確保されるからである。
予想される玉型形状として極めて特殊な玉型でなければそれが円形形状を有する前駆体レンズであれば上記(A)及び(B)で定義される弧によって区画される最大領域を仮想玉型形状とすることが計算上有利である。一般的に円形形状の前駆体レンズ径は60〜75mmであるがこの範囲を逸脱するレンズ径を排除するものではない。
【0010】
このような仮想玉型形状を想定する場合に本発明では「外面又は内面の少なくとも一方が眼に対する向きを定められた非回転対称の面とされたレンズ」あるいは「外面及び内面の両方が回転対称の面であっても両面が幾何中心において平行ではないレンズ」のいずれかのレンズを対象としている。実際上の仮想玉型形状を想定する効果が大きいのはこれらのレンズだからである。
一方、「外面及び内面の両方ともが回転対称で幾何中心において平行なレンズ」では幾何中心から等距離位置にあるレンズの厚さは常に一定となる。そのようなレンズでは仮想玉型形状を想定する実際上の効果はない。
これは次のように考えることで理解ができる。
例えば、図11に示すような眼と前駆体レンズと玉型(プラスレンズ)を考える。幾何中心Oから最も遠距離にある点は耳側の横方向の縁E1である。この時に予定される玉型レンズが完全に回転対称で作製されるならば、つまり玉型レンズの内面および外面が回転対称な面で、内面と外面が幾何中心において平行であるならば縁厚が最も薄い点は縁E1である。そして直線距離で縁E1よりも幾何中心に近いすべてのポイントで縁E1におけるレンズ厚みよりもレンズは厚くなる。つまり、幾何中心Oから最も遠距離にある縁位置の厚みさえ最低限確保でき、かつ理論的には前駆体レンズの半径がその距離よりも不必要に大きくなければ前駆体レンズの縁の欠落等の外形形状に影響があることはない。
ところが、予定される玉型レンズが非回転対称で作製される場合には必ずしもそのようにはならない。例えば上下方向にプリズムがある場合を想定する。
レンズ処方 S:+1.00D C:+0.00D P3.0ダウン
とすると、図12のように玉型の上方向の縁E2が最も薄くなってしまう。従って縁E2よりも更に上方寄り、つまり前駆体レンズの上方縁寄りが欠落したり薄過ぎたりしてしまう可能性がある。
本発明を適用することで「外面又は内面の少なくとも一方が眼に対する向きを定められた非回転対称の面とされたレンズ」あるいは「外面及び内面の両方が回転対称の面であっても両面が幾何中心において平行ではないレンズ」についてこのようなケースに確実に対応することができるので前駆体レンズの縁寄りが欠落したり薄過ぎることがなくなる。
【0011】
ここに、前駆体レンズを製造するためのベースとなる材料ブロックには所定の凸面あるいは凹面加工面が形成され、前記前駆体レンズ作製工程においては凸面あるいは凹面加工面と対向する面側に加工を施すようにすることが好ましい。つまり、前駆体レンズ作製工程においては材料ブロックの外面(物体)側の面か内面(眼球)側の面の一方だけに加工を施すことが好ましい。このように前もってレンズ面として加工された面ではないその面と対向した面のみに対して加工することで加工工程が簡略化される。加工する面はレンズの内面側であることが好ましい。
また、前駆体レンズ作製工程において加工される仮想玉型部分の周囲部分については少なくとも仮想玉型部分に隣接する領域が全方向で連続的であることが好ましい。つまり仮想玉型部分はその周囲部分と段差にならないよう、あるいは角ができないように滑らかに接続され、なおかつ周囲部分の仮想玉型部分に隣接する領域全体がそのように滑らかであることが好ましい。そのためには加工データに基づいて加工されるサグ量に付加される周囲部分の少なくとも仮想玉型部分に隣接する領域への修正量は2次以上の関数で表される必要がある。
【発明の効果】
【0012】
上記各請求項の発明では、仮想玉型部分のみを最大玉型と想定してなるべく薄く加工できるとともに、仮想玉型部分の外側の前駆体レンズの縁厚自体は所定以上の厚みを維持できるため、前駆体レンズの縁が欠落したり加工に耐えられないほど薄くなってしまうことがない。そのため従来のように玉型レンズを十分薄くするために縁が欠落したり極端に薄い前駆体レンズを製造したり、逆に前駆体レンズの十分な縁厚を確保するために玉型レンズが非常に厚いものになったりすることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の方法を実施した実施の形態について説明する。
本実施の形態の前駆体レンズは図1に示す「セミフィニッシュ」と呼称される十分な厚みを有する材料ブロック11を図示しないCAM(computer aided manufacturing)装置にて切削加工して得られる。本実施の形態1における材料ブロック11の平面形状は円形とされ、その表面は前もって所定の曲率で球面状に加工された凸状加工面12とされている。裏面は所定の曲率で球面状に加工された凹状加工面13とされている。
本実施の形態では材料ブロック11の形状データをCAM装置に入力するとともに、加工データに基づいて凸状加工面12側を固定装置に固定し凹状加工面13側を加工する。切削加工された材料ブロック11には更に切削面にスムージング加工及びポリッシング加工を施し滑らかな加工面を形成させ前駆体レンズ15を得る。更に、この前駆体レンズ15に対して既知の表面コーティングを施す。本実施例ではハード膜を形成させた後その外側にマルチ膜を形成させて表面コーティングとする。
【0014】
このような加工工程で得られる前駆体レンズ15は次のような手段によって形状データを計算し上記加工が施される。
図2に示すように、レンズ外方からレンズのフィッティングポイント(幾何中心としてもよい)に向かう所定の数の直線を設定し、各直線にて切断したレンズ断面の所望の形状データをシミュレートする。
例えば、ある直線Pについて説明する。図3に示すように、直線P上では少なくとも材料ブロック11の外縁A、仮想玉型の縁位置Bをそれぞれプロットするとともに、幾何中心からの所定の直線P上にあるいくつかの点C・・・をプロットする。そして、直線Pについてその断面の形状データを得ると同様に他のレンズの幾何中心に向かう直線上の断面形状の形状データを得る。そして隣接する断面形状間については既知の補完計算を行い、レンズ有効領域11の形状データと併せて全体として立体的なレンズ裏面形状のデータを得る。この得られた形状データに基づいてCAM装置にて切削及び研削加工する。
この際に、仮想玉型の外縁よりも外側部分については仮想玉型外縁位置を基点としてサグ量に変位量を付加するような関数式を与える。この式は全面を滑らかに接続させるため複次関数が好ましく、例えば2次関数であれば一般式をf(x)=ax+bx+cと置くことができ、3次関数であれば一般式をf(x)=ax+bx+cx+dと置くことができる。
【0015】
また、仮想玉型については本実施例では図4(a)及び(b)に示すように以下の弧R1〜R4で包囲される領域を仮想玉型とする。
(1)前駆体レンズ15の幾何中心Oを通る水平線を基準として同幾何中心Oから左上下30度方向に延出される2本の直線と前駆体レンズ15の縁との2つの交点P1で区画される第1の弧R1
(2)同じく右上下30度方向に延出される2本の直線と前駆体レンズ15の縁との2つの交点P2で区画される第2の弧R2
(3)前駆体レンズ15の幾何中心Oを通る垂直線上に存在し、幾何中心Oから同前駆体レンズ15の半径長さの60%の長さをそれぞれ上下方向にプロットした位置、あるいは幾何中心Oからそれぞれ上下方向に20mm離れた位置のいずれか同幾何中心Oから遠い一方の位置を通過基準点P3として設定し、上側の同通過基準点P3を通り上側の前記交点P1,P2を結ぶ第3の弧R3
(4)同じく下側の同通過基準点P3を通り下側の前記交点P1,P2を結ぶ第4の弧R4
ここで、第1及び第2の弧R1,R2は前駆体レンズ15の縁であるため一義的に特定できるものの、第3及び第4の弧R3,R4の形状は一義的とはいえない。しかし、第3及び第4の弧R3,R4はそれほど厳密に曲線の形状が決定される必要はないため、ここでは第3の弧R3として通過基準点P3を通り上側の交点P1,P2を結ぶ外側に凸な曲線の上の点であれば足りる。第4の弧R4も同様である。更に、仮想玉型を簡略化する場合には第3及び第4の弧R3,R4上の点は通過基準点P3と交点P1,P2を結ぶ直線よりも少なくとも外側の近傍にあるという条件だけを課すようにしてもよい。
【0016】
次に、実施の形態に基づいて実行される具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
実施例1では乱視度数のあるプラスのSV(シングルヴィジョン)レンズを製造する際において本発明を適用する場合を説明する。
実施例1では玉型の外形形状(フレーム形状)が分からないために仮想玉型を設定している。実施例1では以下のような加工データと前駆体レンズの設定条件に基づいて縁厚を確保した前駆体レンズ15を製造するものとする。AX:180なのでこの前駆体レンズ15は上下縁が最も薄肉の内面がトーリック面とされたレンズとされる。比較例1及び2も同様である。
<基本的な加工データ>
・レンズ処方 S:+0.00D C:+3.00D AX:180
・表面カーブの曲率半径 86.6mm
・仮想玉型の縁のフィッティングポイントからの距離 耳側:31mm 鼻側:31mm 上側:20mm 下側:20mm(本実施例1では前駆体レンズの直径は62mmなので上記通過基準点P3として20mmを採用する)
<実施例1の前駆体レンズの設定条件>
・素材屈折率 1.6
・前駆体レンズの直径 直径62mm
・前駆体レンズの中心厚 2.1mm
・仮想玉型の縁厚 耳側:2.2mm 鼻側:2.2mm 上側:1.2mm 下側:1.2mm
・前駆体レンズの縁厚 耳側:2.2mm 鼻側:2.2mm 上側:0.6mm 下側:0.6mm
【0017】
次に実施例1の上記加工データと前駆体レンズの設定条件を同じにして縁厚を確保するような修正をしない場合を比較例1としてシミュレートした。
<比較例1の前駆体レンズの設定条件>
・前駆体レンズの直径 直径62mm
・前駆体レンズの中心厚 2.1mm
・仮想玉型の縁厚 耳側:2.2mm 鼻側:2.2mm 上側:1.2mm 下側:1.2mm
・前駆体レンズの縁厚 耳側:2.2mm 鼻側:2.2mm 上側:−0.4mm 下側:−0.4mm
つまり、上記レンズ処方に基づいてなおかつ中心厚を薄く設定して加工をすると縁厚を確保するような修正をしないと前駆体レンズの上下縁が欠落してしまうことを意味している。
このような実施例1と比較例1について図5に図示する。図5においてかっこ内が比較例1のデータである。
【0018】
更に、仮想玉型を設定せずに単にレンズ処方に基づいてサグ量を設定し縁厚を確保した従来の前駆体レンズを比較例2として次のようにシミュレートした。
<比較例2の前駆体レンズの設定条件>
・前駆体レンズの直径 直径62mm
・前駆体レンズの中心厚 3.2mm
・前駆体レンズの縁厚 耳側:3.3mm 鼻側:3.3mm 上側:0.7mm 下側:0.7mm
この比較例2のレンズを図6として図示する。比較例2では前駆体レンズの上下縁厚を確保するために全体に非常に厚い肉厚となっている。
【0019】
ここに、仮想玉型の外側の部分についてどの程度の変位量とするかは変位させない場合をシミュレートしてその差分から変位量を決定させることができる。以下、フィッティングポイントから下側(上側も同様である)に延出された直線上の断面形状の具体的なシミュレーションについて説明する。
表1に示すように、比較例1では、中心から20mm下方では1.2mmの厚さ、31mm下方(つまり前駆体レンズの縁位置)では−0.4mmの厚さ(つまり縁が欠落する)となる。そのため実施例1では31mm下方の厚みを0.6mmとするためには比較例1よりも1.0mm厚くするように変位させることが必要条件となる。
この条件に加えて本実施例では仮想玉型の縁のフィッティングポイントからの距離は20mmなので、ここまでは比較例1の前駆体レンズと同様の設定とする。そしてそれよりも下側の長さ分の11mmで0.6mmの厚さとなるようにサグ量を調節する。
本実施例ではこのサグ量に滑らかに変位量を付加するための式として、まずf(x)=ax+bx+cを考える。仮想玉型とその周囲を滑らかに接続させるためにはまず中心Oから20mm下方位置をx=0とすると、b=c=0を導きだせる。ここで31mm下方はx=11であるためf(11)=a×11×11=1.0であるので、結果としてa=0.00826となる。つまり、f(x)=0.00826xとすることができる。本実施例ではこの変位量を付加する式f(x)に基づいて加工される前駆体レンズ15を実施例1−aとする。
また、サグ量に滑らかに変位量を付加するための次の式として、まずf(x)=ax+bx+cx+dを考える。f(x)もf(x)と同様玉型レンズとその周囲部分との境界部分を滑らかに接続させるためにここではb=c=d=0とする。f(x)と同じようにしてaを求めるとa=0.000751となる。つまり、f(x)=0.000751xとすることができる。本実施例ではこの変位量を付加する式に基づいて加工される前駆体レンズ15を実施例1−bとする。
尚、シミュレーションにおいては他の方向についても同様に変位量を与え、上記のように 玉型レンズの周囲部分変位量を付加するようにし、そして隣接する断面形状間について上記のように補完計算を行う。
【0020】
【表1】

【0021】
(実施例2)
実施例2ではダウンプリズムが処方されたプラスのSVレンズを製造する際において本発明を適用する場合を説明する。P:3.0ダウンなのでこの前駆体レンズ15は上縁が最も薄肉のプリズムレンズとされる。比較例3及び4も同様である。
<基本的な加工データ>
・レンズ処方 S:+2.00D C:+0.00D P:3.0ダウン
・表面カーブの曲率半径 86.6mm
・仮想玉型の縁のフィッティングポイントからの距離 耳側:35mm 鼻側:35mm 上側:21mm 下側:21mm(本実施例2では前駆体レンズの直径は70mmなので上記通過基準点P3として半径の60%を採用する)
<実施例2の前駆体レンズの設定条件>
・素材屈折率 1.6
・前駆体レンズの直径 直径70mm
・前駆体レンズの中心厚 2.8mm
・仮想玉型の縁厚 耳側:0.7mm 鼻側:0.7mm 上側:1.0mm 下側:2.7mm
・前駆体レンズの縁厚 耳側:0.7mm 鼻側:0.7mm 上側:0.6mm 下側:2.6mm
【0022】
次に実施例2の上記加工データと前駆体レンズの設定条件を同じにして縁厚を確保するような修正をしない場合を比較例3としてシミュレートした。
<比較例3の前駆体レンズの設定条件>
・前駆体レンズの直径 直径70mm
・前駆体レンズの中心厚 2.8mm
・仮想玉型の縁厚 耳側:0.7mm 鼻側:0.7mm 上側:1.0mm 下側:2.7mm
・前駆体レンズの縁厚 耳側:0.7mm 鼻側:0.7mm 上側:−1.0mm 下側:2.6mm
つまり、上記レンズ処方に基づいてなおかつ中心厚を薄く設定して加工をすると縁厚を確保するような修正をしないと前駆体レンズの上縁が欠落してしまうことを意味している。
このような実施例2と比較例3について図7に図示する。図7においてかっこ内が比較例3のデータである。
【0023】
更に、仮想玉型を設定せずに単にレンズ処方に基づいてサグ量を設定し上側縁厚を確保した従来の前駆体レンズを比較例4として次のようにシミュレートした。
<比較例4の前駆体レンズの設定条件>
・前駆体レンズの直径 直径70mm
・前駆体レンズの中心厚 4.7mm
・前駆体レンズの縁厚 耳側:2.6mm 鼻側:2.6mm 上側:0.7mm 下側:4.5mm
この比較例4のレンズを図8として図示する。比較例4では前駆体レンズの上縁厚を確保するために全体に非常に厚い肉厚となっている。
【0024】
ここに、仮想玉型の外側の部分についてどの程度の変位量とするかは変位させない場合をシミュレートしてその差分から変位量を決定させることができる。以下、フィッティングポイントから上側に延出された直線上の断面形状の具体的なシミュレーションについて説明する。
表2に示すように、比較例3では、中心から21mm上方では1.0mmの厚さ、35mm上方(つまり前駆体レンズの上縁位置)では−1.0mmの厚さ(つまり縁が欠落する)となる。そのため実施例では35mm上方での厚みを0.6mmとするためには比較例3よりも1.6mm厚くするように変位させることが必要条件となる。
この条件に加えて本実施例では仮想玉型の上縁のフィッティングポイントからの距離は21mmなので、ここまでは比較例3の前駆体レンズと同様の設定とする。そしてそれよりも上側の長さ分の14mmで0.6mmの厚さとなるようにサグ量を調節する。
本実施例ではこのサグ量に滑らかに変位量を付加するための式として、まずf(x)=ax+bx+cを考える。仮想玉型とその周囲を滑らかに接続させるためにはまず中心Oから21mm上方位置をx=0とすると、b=c=0を導きだせる。ここで35mm上方はx=14であるためf(14)=a×14×14=1.6であるので、結果としてa=0.00816となる。つまり、f(x)=0.00816xとすることができる。本実施例ではこの変位量を付加する式f(x)に基づいて加工される前駆体レンズ15を実施例2−aとする。但し、式f(x)では幾何中心Oの上方29〜33mmにかけてレンズ厚さが0.4mmと薄肉になってしまう領域ができる。これを避けるために補正をすることが可能である。例えば幾何中心Oの上方31mmでの変位量を1.0mmとしてf(10)=a×10×10=1.0よりa=0.01とするわけである。つまり、変位量を変更して適宜薄肉の発生を防止するように修正するわけである。この場合では表2に示すように前駆体レンズの上縁は1.0mmと変更される。本実施例ではこの変位量を付加する式に基づいて加工される前駆体レンズ15を実施例2−bとする
【0025】
また、サグ量に滑らかに変位量を付加するための次の式として、まずf(x)=ax+bx+cx+dを考える。f(x)もf(x)と同様玉型レンズとその周囲部分との境界部分を滑らかに接続させるためにここではc=d=0とする。そしてaとbの連立方程式を立てることで解くことができる。本実施例では、
中心Oから31mm上方での変位量を1.0mmとして、f(10)=a×10+b×10=1.0
中心Oから35mm上方での変位量を1.6mmとして、f(14)=a×14+b×14=1.6
としてaとbに関する連立方程式を得た。これを解いてa=−0.000459、b=0.0146が求められる。つまり、f(x)=−0.000459x+0.0146xとすることができる。本実施例ではこの変位量を付加する式に基づいて加工される前駆体レンズ15を実施例2−cとする。
尚、シミュレーションにおいては他の方向についても同様に変位量を与え、上記のように 玉型レンズの周囲部分変位量を付加するようにし、そして隣接する断面形状間について上記のように補完計算を行う。
【0026】
【表2】

【0027】
(実施例3)
実施例3では内面累進屈折力レンズを製造する際において本発明を適用する場合を説明する。加入度2.00Dなのでこの前駆体レンズ15は下縁が最も薄肉のプリズムレンズとされる。実施例3では以下のデータのようにダウンプリズムが設定されている。これは玉型の上下の縁厚のバランスを取るためであって特に加入度が大きい場合に意味がある。比較例5及び6も同様である。
<基本的な加工データ>
・レンズ処方 S:+2.00D C:+0.00D 加入度:2.00D P:0.3ダウン
・表面カーブの曲率半径 100.6mm
・仮想玉型の縁のフィッティングポイントからの距離 耳側:31mm 鼻側:31mm 上側:20mm 下側:20mm(本実施例1では前駆体レンズの直径は62mmなので上記通過基準点P3として20mmを採用する)
<実施例3の前駆体レンズの設定条件>
・素材屈折率 1.6
・前駆体レンズの直径 直径62mm
・前駆体レンズの中心厚 2.1mm
・仮想玉型の縁厚 耳側:1.8mm 鼻側:1.8mm 上側:1.3mm 下側:1.1mm
・前駆体レンズの縁厚 耳側:1.8mm 鼻側:1.8mm 上側:0.6mm 下側:0.6mm
【0028】
次に実施例3の上記加工データと前駆体レンズの設定条件を同じにして縁厚を確保するような修正をしない場合を比較例5としてシミュレートした。
<比較例5の前駆体レンズの設定条件>
・前駆体レンズの直径 直径62mm
・前駆体レンズの中心厚 2.1mm
・仮想玉型の縁厚 耳側:1.8mm 鼻側:1.8mm 上側:1.3mm 下側:1.1mm
・前駆体レンズの縁厚 耳側:1.8mm 鼻側:1.8mm 上側:0.2mm 下側:−0.7mm
つまり、上記レンズ処方に基づいてなおかつ中心厚を薄く設定して加工をすると縁厚を確保するような修正をしないと前駆体レンズの下縁が欠落し、上縁では欠落はしないものの非常に薄肉となってしまうことを意味している。
このような実施例3と比較例5について図9に図示する。図9においてかっこ内が比較例1のデータである。
【0029】
更に、仮想玉型を設定せずに単にレンズ処方に基づいてサグ量を設定し縁厚を確保した従来の前駆体レンズを比較例6として次のようにシミュレートした。
<比較例6の前駆体レンズの設定条件>
・前駆体レンズの直径 直径62mm
・前駆体レンズの中心厚 3.5mm
・前駆体レンズの縁厚 耳側:3.2mm 鼻側:3.2mm 上側:1.7mm 下側:0.7mm
この比較例2のレンズを図10として図示する。比較例6では前駆体レンズの下縁厚を確保するために非常に厚い肉厚となっている。
【0030】
ここに、仮想玉型の外側の部分についてどの程度の変位量とするかは変位させない場合をシミュレートしてその差分から変位量を決定させることができる。以下、フィッティングポイントから上下に延出された直線上の断面形状の具体的なシミュレーションについて説明する。まず下側のシミュレーションについて説明する。
表3に示すように、比較例5では、中心から20mm下方では1.1mmの厚さ、27mm下方では0.00mm、31mm下方(つまり前駆体レンズの縁位置)では−0.7mmの厚さ(つまり27mmより下方では縁が欠落する)となる。そのため実施例3では31mm下方での厚みを0.6mmとするためには比較例5よりも1.3mm厚くするように変位させることが必要条件となる。
この条件に加えて本実施例3では仮想玉型の下縁のフィッティングポイントからの距離は20mmなので、ここまでは比較例3の前駆体レンズと同様の設定とする。そしてそれよりも下側の長さ分の11mmで0.6mmの厚さとなるようにサグ量を調節する。
本実施例ではこのサグ量に滑らかに変位量を付加するための式として、まずf(x)=ax+bx+cを考える。仮想玉型とその周囲を滑らかに接続させるためにはまず中心Oから20mm下方位置をx=0とすると、b=c=0を導きだせる。ここで31mm下方はx=11であるためf(11)=a×11×11=1.3であるので、結果としてa=0.010744となる。つまり、f(x)=0.010744xとすることができる。本実施例ではこの変位量を付加する式f(x)に基づいて加工される前駆体レンズ15を実施例3−aとする。
また、サグ量に滑らかに変位量を付加するための次の式として、上記実施例1と同様にf(x)=ax+bx+cx+dを考えることもできる。上記と同様b=c=d=0とする。f(x)と同じようにしてaを求めるとa=0.000977となる。つまり、f(x)=0.000977xとすることができる。本実施例ではこの変位量を付加する式に基づいて加工される前駆体レンズ15を実施例3−bとする。
【0031】
次に上側のシミュレーションについて説明する。
表4に示すように、上側では31mm上方での厚みをで0.6mmとするためには比較例5よりも0.4mm厚くするように変位させることが必要条件となる。
本実施例3では仮想玉型の上縁のフィッティングポイントからの距離は20mmなので、上記と同じ様なf(x)=ax+bx+cの計算式を作るとf(11)=a×11×11=0.4であるので、結果としてa=0.000331となる。つまり、f(x)=0.000331xとすることができる。本実施例ではこの変位量を付加する式f(x)に基づいて加工される前駆体レンズ15を実施例3−aとする。同様にf(x)=ax+bx+cx+dの計算式による場合ではa=0.000301となる。つまりf(x)=0.000301xとすることができる。本実施例ではこの変位量を付加する式に基づいて加工される前駆体レンズ15を実施例3−bとする。
尚、シミュレーションにおいては他の方向についても同様に変位量を与え、上記のように 玉型レンズの周囲部分変位量を付加するようにし、そして隣接する断面形状間について上記のように補完計算を行う。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
以上のように構成することで本実施の形態では次のような効果が奏される。
(1)従来ではレンズ処方に基づいて前駆体レンズを製造しようとすると、非常に厚くなるかあるいは縁部分が欠落したり薄くなるすぎたりする場合が生じてしまう。ところが、実施例1〜3の例に示すように本実施の形態のように構成すれば玉型レンズを薄くできるとともに前駆体レンズ15の必要な縁厚も確保することが可能となる。
(2)実施例1−aと1−b、実施例2−aと2−b、実施例3−aと3−bを比較すると、aよりもbのほうが玉型付近での変位量が少なく、玉型付近での形状変化を抑制するような設定となっている。一方でbのほうが全体の肉厚はaよりも均一で強度の点で有利である。つまり、前駆体レンズ15の必要な縁厚を確保するとともに用途に応じてその変位量の特性を自在に変更することが可能となっている。例えば実施例2の2−cのように部分的に修正を加えて変位量の偏りを是正するようなことも可能となる。
(3)前駆体レンズ15の周囲部分は全体に滑らかで角部や段差部がまったくないので切削工程の後のハード膜を形成させる段階でコート液に漬けても液が滞留して液垂れの原因になったりすることがない。
【0035】
尚、この発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
・上記実施の形態ではシミュレートするための直線はレンズ外方からレンズのフィッティングポイント(あるいは幾何中心)を目指すような設定であったが、必ずしもそれらの点である必然性はない。つまり計算の基準とすべき任意の点であれば足りるものである。
・上記実施例では乱視度数のあるSVレンズ、プリズムのあるSVレンズ、累進屈折力レンズをそれぞれ実施例として独立して挙げたがこれらの特性を複数備えたレンズに応用することも自由である。
・累進屈折力レンズでは仮想玉型の外側部分について上下方向を修正するようなシミュレーションであったが、加入度によっては下方側だけの修正であっても構わない。
・表面側を加工面とすることも可能である。
・前駆体レンズはメーカー側で製造し、これをクライアント側で加工して玉型レンズを得るようにしても、メーカー側で玉型レンズの加工まで行うようにしてもどちらでも構わない。
・上記実施の形態では形状データはCAM装置に直接入力するようになっていたが、他の操作端末(コンピュータ)に入力してCAM装置に出力するようにしても構わない。
・その他、本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態に使用される材料ブロックの正面図。
【図2】実施の形態における周方向の形状データの入手方法を説明する説明図。
【図3】実施の形態における玉型レンズの断面方向の形状データの入手方法を説明する説明図。
【図4】(a)及び(b)は仮想玉型の領域の画定方法の一例を説明する一連の説明図。
【図5】前駆体レンズにおける実施例1と比較例1の各種データの数値をレンズ面上で比較して説明した説明図。
【図6】比較例2の各種データの数値をレンズ面上で説明した説明図。
【図7】前駆体レンズにおける実施例2と比較例3の各種データの数値をレンズ面上で比較して説明した説明図。
【図8】比較例4の各種データの数値をレンズ面上で説明した説明図。
【図9】前駆体レンズにおける実施例3と比較例5の各種データの数値をレンズ面上で比較して説明した説明図。
【図10】比較例6の各種データの数値をレンズ面上で説明した説明図。
【図11】乱視度数やプリズムのない単純なSVレンズを適用した前駆体レンズの縁厚形状を説明する説明図。
【図12】ダウンプリズムが処方されたSVレンズを適用した前駆体レンズの縁厚形状を説明する説明図。
【符号の説明】
【0037】
11…材料ブロック、15…前駆体レンズ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の眼鏡フレームに対応するようにその周縁を削除することで玉型レンズに加工される円形あるいは楕円形の外形形状を有し、かつユーザーの処方に対応した下記(1)又は(2)のレンズ特性が付与された玉型レンズを作成するための玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法であって、
予想される玉型形状よりも大きな仮想玉型形状を想定し、少なくとも同仮想玉型のフレームサイズデータ及び縁厚データを含む加工データを入力する加工データ入力工程と、
同仮想玉型の加工データに基づいて材料ブロックを加工して前記前駆体レンズを作製する前駆体レンズ作製工程とを備え、
作製される同前駆体レンズの縁厚が同仮想玉型の加工データに基づくと所定厚みよりも小さくなってしまう場合には同仮想玉型部分については加工データを反映させて加工するとともに同仮想玉型部分の周囲部分について同前駆体レンズの縁厚が所定厚み以上となるように加工データを修正して加工するようにしたことを特徴とする玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
(1)外面又は内面の少なくとも一方が眼に対する向きを定められた非回転対称の面とされたレンズ。
(2)外面及び内面の両方が回転対称の面であって両面が幾何中心において平行ではないレンズ。
【請求項2】
ユーザーの処方に対応したレンズ特性が付与された前記(1)の玉型レンズとは下記(a)及び(b)の少なくともいずれか一方の玉型レンズであることを特徴とする請求項1に記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
(a)レンズ上方に配置された比較的遠方を見るための第1の領域と、第1の領域よりも下方に配置され同第1の領域よりも大きな屈折力を有する第2の領域と、これら領域の間に配置され屈折力が累進的に変化する累進帯を備えたレンズ。
(b)乱視度数が処方されたレンズ。
【請求項3】
円形の外形形状を有する前記前駆体レンズの前記仮想玉型の面形状は下記(A)及び(B)で定義される弧によって区画される領域を最大領域とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
(A)前記前駆体レンズの幾何中心を通る水平線を基準として同幾何中心から左上下30度方向に延出される2本の直線と同前駆体レンズの縁との2つの交点P1で区画される第1の弧、及び同じく右上下30度方向に延出される2本の直線と同前駆体レンズの縁との2つの交点P2で区画される第2の弧。
(B)前記前駆体レンズの幾何中心を通る垂直線上に存在し、同幾何中心から上下方向にそれぞれ同前駆体レンズの半径の60%に相当する距離だけ離れた位置、あるいは同幾何中心からそれぞれ上下方向に20mm離れた位置のいずれか同幾何中心から遠い一方の位置を通過基準点P3として設定し、上側の同通過基準点P3を通り上側の前記交点P1,P2を結ぶ第3の弧、及び下側の同通過基準点P3を通り下側の前記交点P1,P2を結ぶ第4の弧。
【請求項4】
前記材料ブロックには所定の凸面あるいは凹面加工面が前もって形成され、前記前駆体レンズ作製工程においては凸面あるいは凹面加工面と対向する面側に加工を施すようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
【請求項5】
前記前駆体レンズ作製工程において加工する面はレンズの内面側であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
【請求項6】
前記前駆体レンズ作製工程における非加工面は回転対称形状であることを特徴とする1〜5のいずれかに記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
【請求項7】
前記前駆体レンズ作製工程において加工される前記仮想玉型部分の周囲部分については少なくとも同仮想玉型部分に隣接する領域が全方向で連続的であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−209431(P2008−209431A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43252(P2007−43252)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】