説明

珪酸カルシウム及び炭素から成る高温に耐えるハイブリッド材料

本発明は、炭素が埋込まれている水酸化カルシウム水和物から成る母材を持つ耐高温セラミックハイブリッド材料に関し、炭素が、主として整然とした黒鉛の格子構造を持つ黒鉛粒子(GP)から成り、40%まで重量割合である。母材が樹枝状ゾノトライト(X)及び/又はトバモライトから成り、珪灰石棒細片及び/又は粒状珪酸塩(SK)を含むことができる。黒鉛小片(GP)の寸法は0.01〜3mmである。ハイブリッド材料は特にNE金属の鋳造装置に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪酸カルシウム水和物から成る母材を持つ高温に耐えるセラミックハイブリッド材料に関する。
【背景技術】
【0002】
このようなハイブリッド材料はドイツ連邦共和国特許第3611493号明細書から公知である。この材料では、母材が、珪灰石に混合されるゾノトライトと、ポリアクリルニトリルから又はピッチにより製造されて炭化されている0.2〜10重量%の量の炭素繊維から成っている。流動性NE金属においてこの公知の材料を好んで使用すると、金属溶湯との接触範囲における熱衝撃により、微細亀裂が生じ、炭素繊維に沿って材料の中へ広がる。これにより大きい破壊仕事が生じる。他方表面が次第にざらざらにされる。滑らかにして表面を目塗りするために、例えば窒化硼素又は黒鉛スラリによる被覆が必要である。油潤滑による鋳造過程例えばピン鋳造の際、油が材料の開孔表面へ侵入し、そこに割れ目を生じることがある。それにより吸収されて割れ目を生じた油は鋳造過程のために不足し、常に更新されねばならない。
【0003】
更にドイツ連邦共和国特許第19928300号明細書から公知の耐熱性セラミック材料は、主寸法が0.5〜6mmの板片状材料が埋込まれている珪酸カルシウム水和物母材から成り、5〜30%の重量割合を持ち、蜂の巣状組織を持つ珪酸アルミニウム−マグネシウムである。この板片状珪酸塩材料は、交番熱負荷の際微小亀裂を限定するのに役立つ。セラミック材料の表面は多孔性であり、平滑化処理にもかかわらずざらざらしているので、流動NE金属中で使用する際、窒化硼素スラリ又は黒鉛スラリのような被覆で滑らかにせねばならず、そのために時間及び費用がかかる。窒化硼素又は黒鉛による被覆は、この場合も更新せねばならない。前記の両方の材料において、被覆は機械的にこすり取られる。前記の材料を使用して油潤滑により行われる鋳造過程において、温度が高くなると、潤滑剤が熱分解し、従ってその機能はもはや存在しない。硫黄及び芳香族化合物のような化合物は、更に材料組織を分解する。サイクル時間及び鋳造速度が限定される。使用中に停止時間が生じる。なぜならば、非常運転特性が悪いか又はないからである。それにより廃物が多くなり、技術的設備、人間、環境保護の余分な費用がかかり、エネルギ需要が高まる。
【0004】
更に欧州特許明細書のドイツ語翻訳第69107219号から公知の材料は、15〜40重量%の石灰、15〜40重量%の二酸化珪素含有成分、15〜50重量%の珪灰石、0〜15%の無機繊維、及びピッチに基く0.5〜5重量%の割合の黒鉛繊維を持つ0.5〜15重量%の有機繊維から製造される。材料の母材は珪酸カルシウム水和物を持っている。ピッチに基く黒鉛繊維は、炭化されているだけでなく更に2000℃で熱処理されて黒鉛化する繊維である。使用される黒鉛繊維は1.63g/cmの密度及び3mmの長さを持っている。この材料も鋳型において使用される黒鉛繊維のため、前述したのと同じ欠点を持っている。
【0005】
ROEMPPオンライン3.6版、炭素繊維の章には、黒鉛繊維の費用のかかる製造方法が記載されており、炭素繊維が、有機繊維及びピッチから前処理により中間形状にされ、保護ガス中で2000℃〜3000℃の温度で大きい密度の高強度形状に移行される。その結果高い費用が生じる。
【0006】
更に欧州特許第0166789号明細書から、材料及びそれから製造される成形体が公知であり、珪酸カルシウム母材へ7.5μmの大きさを持つ21〜70重量%の黒鉛粒子が入れられる。これらのごく小さい粒子は、5〜150μmの直径の粒子へ球状に入れられ、これらの粒子から結合剤により成形体が製造される。黒鉛粒子は完全にカプセルに入れられ、材料中に不規則に配置されるので、表面に潤滑作用を生じない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、公知のセラミック材料の欠点を回避し、ぬれることがなく、軽金属溶湯及びそのスラグに対して抵抗力があり、油、油−水懸濁液のような分離剤及び滑剤により全く又は僅かしか浸透されず、高度の自己潤滑特性を持つハイブリッド材料を創造することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
黒鉛の結晶構造を持つ炭素粒子は、不規則な構造を持つ炭素粒子より10倍大きい熱伝導率及び導電率を持っている。前者は、金属溶湯に対する高温の境界区域と外側支持又は保持装置との間及び周辺への温度分布を均一にしかつ加速する。更に炭素結晶の層構造は、異なる熱膨張の範囲で母材に対してエネルギを分散する滑りを可能にする。これは、公知のセラミック板片又は炭化される炭素繊維の挙動に対して有利に対立する。
【0009】
整然とした黒鉛の結晶構造を持つ炭素粒子の割合は、全炭素の少なくとも60%であるようにする。粒子寸法はなるべく0.01〜3mmである。実際の実験操作では、0.7mmの平均板片寸法及び0.1〜1mmの寸法ばらつきを持つ市販の炭素が有効なことがわかった。残りの炭素成分は、一層少ない黒鉛化度及び整然としない黒鉛結晶を持っている。その構造はあまり板片状でなく、粒子の寸法より小さい寸法を持つ粒状である。実験において1〜40重量%の炭素割合が予想した使用に応じてよいことがわかった。
【0010】
母材が樹枝晶ゾノトライト及び/又はトバモライトから成るのがよく、強度を高めるため、65重量%まで珪灰石棒細片を混合することができる。これらの棒細編は、少なくとも1:8の長短比を持っているようにする。圧縮強度を高めるため、母材は最大15重量%の粒状珪酸塩材料を含むこともできる。珪酸塩材料は、例えば珪酸ジルコニウム、珪酸リチウムアルミニウム及び/又は珪酸カルシウムマグネシウムである。
【0011】
小片密度及び熱電特性を高める為、20重量%まで、煤のような他の黒鉛質炭素の添加も有利である。
【0012】
一軸圧縮又は二軸圧縮の際、黒鉛粒子は面を互いに平行に向けられる。これによりハイブリッド材料の異方性が生じる。それにより、熱伝導率に関して、熱流を適切に制御する可能性が生じる。
【0013】
これにより多くの使用において、適切な絶縁特性が設定可能である。均衡圧縮の際、すべての空間方向に均一に分布する熱伝導を持つ等方性材料が生じる。
【0014】
新しいハイブリッド材料は滑らかで密な表面を持ち、自己潤滑特性を持っている。これにより、使用の際分離剤及び潤滑剤が大幅に節約され、それにより製造の中断が回避される。連続鋳造方法及びダイカスト方法の生産性を著しく向上することができる。これは改善される停止時間の結果であるか、又は鋳造方法に応じて短縮されるサイクル時間の結果であり、熱伝導率の適切な設定及び改善される機械的安定性に帰着する。
【0015】
新しいハイブリッド材料の別の決定的な利点は、炭素繊維に対する黒鉛粒子の4倍ないし20倍少ない価格から生じる。
【0016】
ハイブリッド材料の特性は、黒鉛粒子の相対割合により適切に影響される。黒鉛のかさ密度は例えば0.08g/cmにすぎない。それによりハイブリッド材料の見掛け密度は、0%の黒鉛割合における1.1g/cmから16%の黒鉛割合における1.0g/cmに減少する。これに反し圧縮強度は11MPaから17MPaに増加し、破壊仕事は5Nmから25Nmに増加し、熱伝導率は500℃において横方向に0.35W/(mK)から1.65W/(mK)に増加し、絶縁抵抗は同様に横方向に前記の黒鉛ドーピングで2.3・1013Ω−cmから265.10Ω−cmに増加する。
【0017】
ハイブリッド材料は1100℃まで使用可能である。酸化性雰囲気内において500℃以上で初めて、ここに新たに提案される炭素粒子が表面で酸化し始める。
【0018】
これに反し炭化する炭素繊維は、既に300℃から酸化する。更に新しいハイブリッド材料では、著しく高い炭素割合が存在するので、炭素の酸化は調節される特性に著しく少ない不利な影響しか与えない。良好な熱衝撃安定性は、母材から炭素への組織境界へのエネルギ消散により始まる亀裂成長を黒鉛粒子が停止する、という事実からも生じる。
【0019】
ハイブリッド材料はすばらしく形態付与されかつ加工されるので、それから有利に、ねれない絶縁部品が、流動NE金属合金の流れ制御及び量制御のために、また連続鋳造、ダイカスト及び仕上げ鋳造において使用するために製造される。それはガラス成形方法及びプラスチック成形方法においても有利に使用され、熱設備及び炉建造における備品として使用される。新しいハイブリッド材料の有利な特性のため、電磁遮蔽も望まれる広い産業部門においても使用される。
【0020】
その使用において次の別の利点も生じる。
自己潤滑、分離剤、潤滑剤及び油のような補助物質の消費の減少、それは環境にも有益である、
装置の寿命及び非常運転特性の向上、
溶融装置、溶融適合装置及び非鉄材料特にアルミニウム及びその合金用の成形機におけるプロセス安定性。
【0021】
軽金属及び軽金属鋳造部品から成る半製品の需要は、全世界的に永続的に増大している。部品の形状は多様であり、材料節約の理由から、複雑な形状を持つ薄肉の部品がますます望まれる。それにより、新しいハイブリッド材料により完全に得られる金属溶湯の純度及び安定性に対して高まる要求が生じる。生産性は新しい材料の使用により著しく改善される。
【0022】
ハイブリッド材料及びそれから成る成形部品は、需要に応じて種々のやり方で製造され、そのために母材、黒鉛小片、場合によっては珪灰石棒細片及び/又は粒状珪酸塩の前記成分が混合され、混合物が乾燥プレス、フィルタプレス又は鋳造によりそれぞれ粗板又は粗材に成形され、それからオートクレーブ処理され、続いて乾燥され、板又は成形部品が生じる。
【0023】
その代わりに、前もって母材の材料、酸化カルシウム及び/又は水酸化カルシウムと酸化珪素及び/又は水酸化珪素との混合物から成る母材用のゾノトライト及び/又はトバモライトが、なるべく撹拌オートクレーブにおけるオートクレーブ処理によって製造され、続いて粉末状でかつ/又は母材スラリとして、黒鉛及び場合によっては珪灰石棒細片及び/又は粒状珪酸塩と混合され、湿った状態又は乾燥した状態で板又は成形部品となるように圧縮されるか又は鋳造される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】 16重量%の黒鉛小片を持つハイブリッド材料の100倍拡大図を示す。
【図2】 図1の3倍に拡大した部分を示す。
【図3】 母材の材料を黒鉛小片との間の境界区域の10,000倍拡大図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、大体において平行に向けられた黒鉛小片GPが近似的に正面図で少し変形して見えるように埋込まれている樹枝状ゾノトライトXから成る粗い構造の母材を示す。更に黒鉛粒GK及び丸められた珪酸塩粒SKが母材へはめ込まれている。黒鉛粒GKの所に、ごく小さい黒鉛結晶がその鈍角形状で認められる。
【0026】
図2は、更に拡大して、黒鉛小片GPにある整然とした微細構造を示している。鱗片状に積層された黒鉛小片は、少し斜めの正面図に、それぞれ線束として現れている。
【0027】
図3は、極端な拡大図で、露出した黒鉛小片GPの表面において層状に整然と向けられる構造を示し、その前に約1μmの間隔をおいて、母材のごく小さい樹枝状結晶が無秩序に互いに密にからみ合って存在する。ゾノトライトXのもつれた樹枝状結晶は、1〜2μmの長さで約0.1μmの厚さである。母材と黒鉛小片との間のごく小さい間隙は、熱的及び機械的負荷を受けると、組織応力を少なくする。
【符号の説明】
【0028】
GK 黒鉛粒
GP 黒鉛小片
SK 珪酸塩粒
X ゾノトライト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
40重量%までの炭素が埋込まれている水酸化カルシウム水和物から成る母材を持つ耐高温セラミックハイブリッド材料であって、炭素の60%以上が、鱗片状に積層して設けられる黒鉛の格子構造を持つ黒鉛粒子(GP)から成り、かつ0.7mmの平均主寸法を持ち、そうでない場合炭素が煤状に微結晶で角の丸い黒鉛粒(GK)から成り、黒鉛小片(GP)より大きい寸法を持っていないことを特徴とする、ハイブリッド材料。
【請求項2】
ハイブリッド材料において黒鉛小片(GP)が互いに面を平行に向けられていることを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッド材料。
【請求項3】
黒鉛小片(GP)が0.01〜3mmの寸法及び0.05〜0.5g/cmのかさ密度を持ち、黒鉛粒(GK)がこれより大きい寸法を持っていないことを特徴とする、請求項1〜2の1つに記載のハイブリッド材料。
【請求項4】
母材が樹枝晶ゾノトライト(X)及び/又はトバモライトから成り、65重量%まで珪灰石を含んでいることを特徴とする、先行する請求項の1つに記載のハイブリッド材料。
【請求項5】
母材が、別の粒状珪酸塩(SK)として、珪酸ジルコニウム、珪酸リチウムアルミニウム及び/又は珪酸カルシウムマグネシウムを最大15重量%まで含んでいることを特徴とする、先行する請求項の1つに記載のハイブリッド材料。
【請求項6】
ハイブリッド材料から、流動NE金属合金の流れ挙動を監視する部品、又はNE金属、ガラス又はプラスチックの連続鋳造、ダイカスト又は型鋳造用被覆、又は炉建造又は設備建造における機能部品又は構造部品、又は電磁遮蔽用部品が製造されている、ことを特徴とする、先行する請求項の1つに記載のハイブリッド材料の使用。
【請求項7】
母材の前記成分及び炭素及び場合によっては珪灰石棒細片及び/又は粒状珪酸塩が混合され、混合物が乾燥プレス、フィルタプレス又は鋳造によりそれぞれ粗板又は粗部品に成形され、それからオートクレーブで処理され、続いて乾燥作され、その際板又は成形部品が生じることを特徴とする、請求項1〜5の1つに記載のハイブリッド材料を製造する方法。
【請求項8】
母材用ゾノトライト及び/又はトバモライトが、酸化カルシウム及び/又は水酸化カルシウムと酸化珪素及び/又は水酸化珪素との混合物から、オートクレーブ又は撹拌オートクレーブにおけるオートクレーブ処理により製造され、それから粉末にされかつ/又は母材スラリにおいて炭素及び場合によっては珪灰石棒細片及び/又は粒状珪酸塩と混合され、それから湿った状態又は乾いた状態で板又は成形部品に圧縮成形又は鋳造されることを特徴とする、請求項1〜5の1つに記載のハイブリッド材料を製造する方法。
【請求項9】
板又は成形部品が、本来の場所又は焼なまし炉において、使用に応じた温度で熱処理を受け、その際500℃〜1000℃以上の温度が与えられていると、還元性雰囲気又は真空が供給されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
板又は成形部品が、本来の場所又は焼なまし炉において、使用に応じた温度で熱処理を受け、その際500℃〜1000℃以上の温度が与えられていると、還元性雰囲気又は真空が供給されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−517195(P2013−517195A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548339(P2012−548339)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【国際出願番号】PCT/DE2011/000034
【国際公開番号】WO2011/085723
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(512181983)
【Fターム(参考)】