説明

現像ローラ用樹脂シャフト

【課題】溝部での破損を抑制した現像ローラ用樹脂シャフトを提供すること。
【解決手段】周面内に少なくとも1つの、周方向に沿う環状溝を設けた現像ローラ用樹脂シャフトにおいて、環状溝は、シャフトの長手方向にほぼ垂直で幅Wをもって対向する2つの側面と、これら2つの側面に連接する凹状曲面を構成する底面を有し、この底面は、幅Wに等しい長さの長軸または短軸を有する半楕円弧の移動軌跡により形成されることを特徴とする現像ローラ用樹脂シャフト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現像ローラ用樹脂シャフトに係り、特に、周面内に少なくとも1つの環状溝を設けた現像ローラ用樹脂シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンター、ファクシミリ等の電子写真方式に基づく画像形成装置の作像部には、現像ローラが使用されている。従来、そのような現像ローラは、金属製のシャフトの外周に導電性弾性層を設けた構成のものであるが、近年、画像形成装置の小型化、軽量化等の要請により、シャフトを樹脂組成物で形成することが試みられている。例えば、特許文献1および特許文献2には、ポリアミド等の合成樹脂および導電剤と、場合により繊維を含む樹脂組成物からなる非磁性現像ローラが開示されている。また、特許文献3には、ポリアミド樹脂と導電性材料を含む導電性樹脂組成物からなるシャフトを備える現像ローラが開示されている。
【0003】
他方、現像ローラの中に、位置決め等のためにE形止め輪を取り付けたタイプのものが知られている。E形止め輪は、現像ローラのシャフト周面内に設けられた環状溝にはめ込まれる。
【0004】
ところで、現像ローラは、シャフトの外周に導電性弾性材料を押し出し等により被覆した後、シャフトのジャーナル部でシャフトを支持し、被覆した導電性弾性材料を研磨して導電性弾性層を形成する。その場合、現像ローラのシャフトを樹脂系材料で形成し、これに環状溝を設けてあると、導電性材料の研磨の際に、その溝部に応力が集中し、破損するおそれがある。また、そのような溝を有する樹脂シャフトは、誤って床等に落とした場合、その溝部で破損するおそれもある。
【特許文献1】特開2001−215780号公報
【特許文献2】特開2003−195601号公報
【特許文献3】特開2002−40798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、溝部での破損を抑制した現像ローラ用樹脂シャフトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、周面内に少なくとも1つの、周方向に沿う環状溝を設けた現像ローラ用樹脂シャフトにおいて、前記環状溝は、前記シャフトの長手方向にほぼ垂直で幅Wをもって対向する2つの側面と、前記2つの側面に連接する凹状曲面を構成する底面を有し、前記底面は、前記幅Wに等しい長さの長軸または短軸を有する半楕円弧の移動軌跡により形成されることを特徴とする現像ローラ用樹脂シャフトが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の現像ローラ用樹脂シャフトは、導電性材料の研磨時や、落下の際にも溝部で破損するおそれが少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本発明の種々の態様を説明する。
【0009】
図1は、本発明の1つの態様に係る樹脂シャフト20を備える現像ローラ10を示す図であり、図1(A)は、その一部破断概略断面図であり、図1(B)は、図1(A)の部分Bの拡大断面図である。
【0010】
図1(A)に示すように、現像ローラ10は、樹脂シャフト20とその外周面に設けられた導電性弾性層30を備える。樹脂シャフト20は、円柱または円筒状シャフト本体21を有し、シャフト本体21の両端側には、ジャーナル部22aおよび22bが一体に形成されている。導電性弾性層30は、シャフト本体21の外周面全体を覆うように設けられている。
【0011】
樹脂シャフト20は、ポリアミド、例えばメタキシリレンジアミンと、アジピン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸等のα,ω−脂肪族ジカルボン酸との重縮合反応により得られる芳香族ポリアミド(メタキシリレンジアミンとアジピン酸とから得られる芳香族ポリアミドは、ポリアミドMXD6として知られている)、ヘキサメチレンジアミン等のポリメチレンジアミンと脂肪族ジカルボン酸との重縮合物であるポリアミド6、ポリアミド6,6等の脂肪族ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン等の樹脂により構成することができる。
【0012】
樹脂シャフト20を形成する樹脂系材料には、上記樹脂材料に加えて、導電性を付与するために導電材が含まれる。そのような導電材としては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラックの粒子状導電材や、炭素繊維等を好適に用いることができる。炭素繊維の直径は、1〜50μmであることが好ましく、またその長さは、0.1〜10mmであることが好ましい。導電材としては、カーボンブラックと炭素繊維を併用することができる。導電材は、樹脂100質量部に対し、0.1〜20質量部の割合で用いることができる。
【0013】
樹脂系材料は、ガラス繊維を含有することができる。ガラス繊維としては、それ自体既知のものを用いることができる。ガラス繊維の直径は、1〜50μmであることが好ましく、またその長さは、0.1〜10mmであることが好ましい。
【0014】
樹脂シャフト20は、130MPa以上の曲げ強度を示すことが好ましい。曲げ強度が130MPa未満であると、シャフトに導電性ゴム等の導電性弾性層を設けた後、その導電性弾性層を砥石等で研削・研磨する際にシャフトに割れ等が発生する場合がある。曲げ強度は、通常、500MPa以下である。
【0015】
樹脂シャフト20は、さらに、70℃以上のガラス転移点を示すことが好ましい。現像ローラは、通常、ユニットとして組み立てられ、応力のかかった状態で60℃程度で保存されることが多い。ガラス転移点が70℃未満であると、上記保存時にたわみが発生する可能性がある。ガラス転移点は、通常、100℃以下である。
【0016】
また、シャフト20は、さらに、1.8以下の比重を示すことが好ましい。比重が1.8を超えると、軽量化の要請に十分に応えることができないおそれがある。比重は、通常、1.0以上である。
【0017】
さらに、樹脂シャフト20は、1×105Ω・cm以下の体積抵抗率を示すことが好ましい。1×105Ω・cmを超える体積抵抗率は、シャフトの外周に設けられる導電性弾性層に必要な抵抗値よりも高くなり、印字に悪影響を及ぼす恐れがある。体積抵抗率は、通常、1×100Ω・cm以上である。
【0018】
シャフト20に上記物性をもたらすために、樹脂シャフトは、芳香族ポリアミド(および任意に脂肪族ポリアミド)および導電材、並びに任意にガラス繊維を含むポリアミド樹脂組成物で形成することが好ましい。このポリアミド樹脂組成物は、通常、芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとの合計100質量部に対し、導電材を0.1〜20質量部の割合で含有する。ガラス繊維は、芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとの合計100質量部に対し、10〜300質量部の割合で用いることができる。芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドの質量比は、100:0〜50:50であることが好ましい。
【0019】
樹脂シャフト20は、上に述べたように、通常、シャフト本体21とシャフト本体の両端に一体的に形成されたジャーナル部22aおよび22bを有するものであり、射出成形等の方法により成形することができる。射出成形用の金型を加工することにより、ジャーナル部とともに所望の溝形状を有する樹脂シャフトを再現性よく低コストで作ることができる。
【0020】
樹脂シャフト本体21の外周面を覆って形成される導電性弾性層30は、弾性ポリマー材料をベースとし、これにカーボンブラック、金属粉末等の導電性付与剤を配合した導電性の弾性ポリマー材料により形成することができる。ベースの弾性ポリマー材料としては、シリコーンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコーン変性エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム等の合成ゴム材料、または熱可塑性ウレタン樹脂等の熱可塑性エラストマーを用いることができる。好ましいベースポリマー材料は、合成ゴム材料である。また、導電性付与剤は、導電層14が102 〜1010Ω・cmの体積抵抗値を示すような量的割合でベースポリマー材料に配合することが好ましい。さらに、導電層14は、20゜〜60゜のJIS A硬度を有することが好ましい。
【0021】
あるいは、導電性弾性層30は、予め硬化させた導電性ゴムチューブにより構成することもできる。予め硬化させた導電性ゴムチューブを拡径させながら、樹脂シャフト20を該チューブ内に圧入する。
【0022】
さて、シャフト本体21の両端側に形成されたジャーナル部22aおよび22bのうちの一方のジャーナル部22aには、それぞれ位置決めのためのE形止め輪をはめ込むための環状溝23および24が設けられており、環状溝23に隣接してもう一つの溝25が設けられている。この環状溝25にもE形止め輪がはめ込まれる。また、他方のジャーナル部22bにも環状溝26が設けられている。この環状溝26は、環状溝26の外側部分に、プリンター本体の電極と接する導電性樹脂キャップをはめるときのキャップの脱落防止用の爪を受けるためのものである。本発明において、E形止め輪を嵌め込むための環状溝(図1の場合、環状溝23、24および25)を半楕円弧の移動軌跡により構成される曲面とすることが好ましい。
【0023】
環状溝23〜25は、同様の形状を有するものであり、図1(A)の部分Bの拡大断面図である図1(B)を参照して以下説明する。環状溝24は、シャフトの周方向に沿うものであって、シャフトの長手方向にほぼ垂直で幅Wをもって対向する2つの側面241、242と、これら2つの側面241、242に連接する凹状の曲面を構成する底面243を有する。底面243は、溝幅Wに等しい長さの長軸または短軸である第1の軸aを有する半楕円弧の移動軌跡により形成される(曲面は、曲線の移動軌跡である)。溝24の底面243の最深部は、第1の軸aと共に楕円Eの形状を規定する第2の軸b(楕円Eの短軸または長軸)の長さの1/2に相当する深さである。第1の軸aは、既述のように、溝幅Wに等しい長さを有し、E形止め輪をはめ込む場合には、0.6mm〜1.6mm程度である。楕円は、第1の軸aを長軸とする楕円(第2の軸bは短軸となる)と、第1の軸a軸を短軸とする楕円(第2の軸bは長軸となる)を含む。円は長軸と短軸の長さが等しいという楕円の特殊な形態であり、本発明において、楕円には円も含まれる。第1の軸aの長さと第2の軸bの長さの比(a:b)は、1:0.4〜0.4:1(a/b=2.5〜0.4であることが好ましい。a/bの値が2.5を超えると、環状溝の底面と側壁との境界部分に応力が集中して樹脂シャフトの破損が生じる場合があり、他方a/bの値が0.4未満であると、環状溝の底面最深部付近に応力が集中してやはり樹脂シャフトの破損が生じる場合がある。第1の軸aの長さと第2の軸bの長さの比は、1:0.4〜1:1であることが好ましい。
【0024】
図2は、図1の現像ローラの樹脂シャフトの環状溝25、23および24にE形止め輪40、41および42をはめ込んだ状態を示す斜視図である。E形止め輪としては、例えば、JIS B2805(1978)に規定されているものを用いることができる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0026】
実施例1〜4および比較例1
芳香族ポリアミドとして三菱エンジニアリングプラスチック社製ポリアミドMXD6を80質量部、脂肪族ポリアミドとして三菱エンジニアリングプラスチック社製ノバミッド(登録商標)1007Jを20質量部、カーボンブラックとして三菱化学社製#3050Bを12重量部からなるポリアミド樹脂組成物を調製し、これらポリアミド樹脂組成物から樹脂シャフトを射出成形して樹脂シャフトを得た。この樹脂シャフトは、図1に示す構造と類似の構造を有するものであり、ジャーナル部を除くシャフト本体21の軸方向長さ(弾性層30の長さ)が234mmであり、シャフト本体の外径が14mmであり、ジャーナル部22aの長さが28.3mmであり、他方のジャーナル部22bの長さが19.2mmであった。本実験では、本発明の効果を確認するために、導電性弾性層の研磨の際に最も応力の掛かるシャフト本体に最も近接する位置にある環状溝24のみを設け、他の環状溝23、25および26は設けなかった。環状溝24は、幅が0.7mmであり、半楕円弧の移動軌跡によりなされる曲面の底面を有し、対応する楕円の第1の軸a(長さ0.7mm)と第2の軸bの比は、表1に示すとおりであった。なお、比較例1として、底面をフラットにした(軸a:軸b=1:0)溝を設けた樹脂シャフトを同様に作製した。
【0027】
得られたシャフト本体の曲げ強度、ガラス転移点、比重、体積抵抗を測定した。曲げ強度は、東洋精機製作所社製ストログラフV10−Cにより、ガラス転移点は、島津製作所社製熱分析装置DSC−60により、比重は、アルファミラージュ社製電子比重計MD−200Sにより、体積抵抗は、アドバンテスト社製抵抗計R8340により、それぞれ測定した。その結果、各樹脂シャフト本体は、いずれも、150MPaの曲げ強度、70℃のガラス転移点、1.4の比重、3×102Ω・cmの体積抵抗を示した。
【0028】
他方、カーボンブラックが配合された未硬化シリコーンゴム材料(東レ・ダウコーニング社製DY32−4036)をチューブ状に押出し成形し、400℃で2分間硬化(一次硬化)させた後、所定の長さに切断し、200℃で4時間硬化(二次硬化)させて、内径が14mmで外径が20.6mmのシリコーンゴムチューブを得た。
【0029】
上記シリコーンゴムチューブを圧縮空気で拡径しながら、これに上記樹脂シャフトを圧入した後、表面を研磨し、外径が20mmの現像ローラを作製しようとした。導電性シリコーンゴムの体積抵抗率は106 Ω・cmであり、JIS A硬度は45゜であった。
【0030】
シリコーンゴムチューブの研磨の際、樹脂シャフトが上記溝を設けた部分で破損したどうかを観察した。結果を表1に併記する。
【表1】

【0031】
この結果からわかるように、本発明に従う底面を有する溝を形成することにより、樹脂シャフトの破損が有効に防止される。
【0032】
以上本発明のいくつかの形態に則して説明したが、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。E形止め輪をはめ込む環状溝は、位置決めのためには、シャフトの片側に2つ設けるだけで十分である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一態様に係る樹脂シャフトを備える現像ローラを示す概略断面図。
【図2】図1の現像ローラの樹脂シャフトにE形止め輪をはめ込んだ状態を示す概略斜視図。
【符号の説明】
【0034】
10…現像ローラ
20…樹脂シャフト
21…シャフト本体
22a、22b…ジャーナル部
23、24、25、26…環状溝
30…導電性弾性層
241、242…環状溝の側壁
243…環状溝の凹状底面
a…楕円の第1の軸
b…楕円の第2の軸
E…楕円

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周面内に少なくとも1つの、周方向に沿う環状溝を設けた現像ローラ用樹脂シャフトにおいて、前記環状溝は、前記シャフトの長手方向にほぼ垂直で幅Wをもって対向する2つの側面と、前記2つの側面に連接する凹状曲面を構成する底面を有し、前記底面は、前記幅Wに等しい長さの長軸または短軸に相当する第1の軸を有する半楕円弧の移動軌跡により形成されることを特徴とする現像ローラ用樹脂シャフト。
【請求項2】
前記楕円の第1の軸の長さと該楕円の短軸または長軸に相当する第2の軸の長さとの比が、1:0.4〜0.4:1であることを特徴とする請求項1に記載の現像ローラ用樹脂シャフト。
【請求項3】
前記樹脂シャフトが、130MPa以上の曲げ強度を有することを特徴とする請求項1または2に記載の現像ローラ用樹脂シャフト。
【請求項4】
前記溝が、E形止め輪をはめ込むためのものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の現像ローラ用樹脂シャフト。

【図1】
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【図2】
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