球体の回転検出装置及び方法
【課題】遠心力による加速度の影響を受けずに簡単な構成で回転をともなって飛翔する球体の回転速度及び回転方向を推定できる球体の回転計測装置を提供する。
【解決手段】ボール1を投げて、当該ボール1の重心に設けられた3軸加速度センサ3から検出された3軸の加速度信号が無線送信され、信号処理装置8が受信した加速度信号をA/D変換して得られた加速度データから、演算処理部9において加速度データからボール1が飛翔中の3軸方向の加速度信号を抽出し、3軸の加速度信号の合成加速度信号からオフセット分を除去する前処理を行なってから、連続ウェーブレット変換処理を行って得られた周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定し、抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比の時間変化から球体の回転軸を中心とする回転方向を推定してこれらを表示装置10へ表示する。
【解決手段】ボール1を投げて、当該ボール1の重心に設けられた3軸加速度センサ3から検出された3軸の加速度信号が無線送信され、信号処理装置8が受信した加速度信号をA/D変換して得られた加速度データから、演算処理部9において加速度データからボール1が飛翔中の3軸方向の加速度信号を抽出し、3軸の加速度信号の合成加速度信号からオフセット分を除去する前処理を行なってから、連続ウェーブレット変換処理を行って得られた周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定し、抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比の時間変化から球体の回転軸を中心とする回転方向を推定してこれらを表示装置10へ表示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
回転をともなって飛翔する球体の推定回転速度及び回転方向を算出して表示する球体の回転検出装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野球、ソフトボール、バレーボール、サッカー、テニスなどの球技においては、競技者の競技の質を科学的に分析するうえでボールの回転が重要なファクターとなっている。例えば、野球においては、投手の役割は大きく、投手の出来が勝敗に大きく左右することは知られている。
【0003】
アマチュア、プロを問わず投手を評価する場合、いわゆる球速、制球力、球の切れのよしあしなどで評価される場合が多いが、球の切れは定量的に把握されていない。この球切れは、投球時のボールの単位時間当たりの回転数(回転速度)や回転方向に依存していると考えられる。また、スポーツ医学的な見地からは、怪我をしない正しいフォームで投球しているときの球種に応じた単位時間当たりの回転数や回転方向に関するデータと、無理なフォームで投げたときのデータと比較することにより、監督やコーチが投手の肩や肘に対する負荷を矯正する必要性を説くうえでも望ましい。
【0004】
単位時間当たりの回転数の計測としてはハイスピードカメラによりボールを撮像して回転数を計測する方法もあるが、装置が大がかりになり、画像処理にコストや時間が係る。
また、ゴルフボールの表面に他と反射率の異なるマークを付し、空中に打ち上げられたゴルフボールの反射光量を検出することで回転数を検出する回転数測定装置も提案されている(特許文献1参照)。
また、回転軸が重力方向にない状態で回転する回転体に装着され、回転体の回転接線方向の加速度が検出されて、回転体の角速度や回転数を検出する回転数検出装置も提案されている(特許文献2参照)。
或いは、ボールの球種を判別するため、ボール内の仮想正四面体の頂点部に無線タグ回路素子を内蔵させておき、野球場のフィールド外に設けられた方位角アンテナで検出された仮想正四面体の頂点座標から重心の座標を算出する。これらのデータは、ボールが投球されてから補給されるまでの間サンプリングされメモリに記憶され、姿勢解析並びに運動解析が行なわれて球種の判定が行なわれるようになっている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−68539号公報
【特許文献2】特開2009−42196号公報
【特許文献3】特開2007−80102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のようにボールの回転数を光学的に検出する方法では、投光部よりボールに光照射して得られる反射光を検出する必要があるため、装置構成が大がかりになるうえに、投光領域が限られている場合には、球種によっては投光領域においてボールがほとんど回転しないものがあるため、単位時間当たりの回転数が計測できない場合も想定される。
また、特許文献2のように加速度センサにより回転体の接線方向加速度を測定して測定の原理から回転数を検出することも可能である。しかしながら、投手が投げるボールは、例えば1秒間に40回転するストレート系の高速回転する球種もあれば、フォークボールやナックルボールのようにほとんど回転しない低速回転の球種も様々である。よって、加速度センサの位置が僅かにずれただけでも、重力加速度の変動が大きく作用するため、測定誤差が生じやすい。
また、特許文献3のようなボール内の仮想正四面体の頂点部に無線タグ回路素子を内蔵させることが難しい。また、無線タグ回路素子により検出するデータ量が多く、姿勢解析や運動解析を行なうために複雑な演算処理を伴うため、装置コストも高くなるという課題があった。
【0007】
また回転体の角速度を計測するにはジャイロセンサが用いられる。よってボールの中にジャイロセンサを搭載すれば、回転速度を計測できると推測される。しかしながら、例えばプロ野球選手が投球するボールの回転速度は40rpmに到達することもあるため、かかる高速回転を計測するジャイロセンサは存在しない。
【0008】
投手が捕手に向けてボールを投げると、投球後にボールに作用する加速度としては空気抵抗力による加速度aair とマグナス効果による加速度amagがある。尚、重力加速度を考慮していないが、加速度センサの特性上ボールが飛翔している間は重力加速度を計測できないためである。マグナス効果とは、ボールが粘性を有する流体中を回転しながら移動する際にボールの周りに生じる圧力差が発生する現象であり、例えばストレート系の縦回転のボールの場合には、進行方向に対して垂直な力を受ける。
【0009】
ボールが縦回転しながらX´方向に進んだ際にボールに作用する加速度を図16に示す。図16においてX−Y座標は、運動座標系(センサ軸)、X´‐Y´座標は絶対座標系を示す。
空気抵抗力による加速度aair は、進行方向と逆向きに作用し、マグナス効果による加速度amagは進行方向に対して垂直上向きに作用する。これは、ボールの回転方向に対して上側と下側とで圧力差が発生することによる。ボールに搭載した加速度センサ(X−Y運動座標系)により合成加速度を求めるとボールの回転と同期して方向が変化するため正弦波信号となる。更には、ボールの回転による遠心力の加速度がオフセット分として加わる。
加速度センサによって計測される加速度はオフセットをもつ正弦波信号となり次式で表すことができる。
a=aair+amag+(dω/dt)×r+ω×(ω×r)
このボールの進行方向をX軸、Y軸を鉛直方向とする絶対座標系でボールに作用する加速度を加速度センサにより計測し、X´−Y´方向の合成加速度を求めると、ボールの回転に同期して加速度の向きも変わっていくため、図17に示すような正弦波信号として計測される。このとき、加速度センサがボールの重心よりずれた位置に組み付けられたことに起因する遠心力による加速度(一定値)が重畳される。このように加速度センサの取付半径が大きいと、オフセット信号の値が大きくなるため、測定レンジの大きい加速度センサを用いる必要がある。しかしながら、オフセット信号の値に比べて本来計測すべき正弦波信号の振幅が相対的に小さくなるため、かかる振幅がノイズとして埋もれて計測し難くなる。
【0010】
以下に述べる課題を解決するための手段の目的とするところは、遠心力による加速度の影響を受けずに簡単な構成で回転をともなって飛翔する球体の回転速度及び回転方向を推定できる球体の回転計測装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための代表的な手段は、以下の構成を備える。
回転を伴って飛翔する球体と、該球体の重心若しくは重心近傍に設けられX軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度を検出する加速度検出部と、該加速度検出部により検出された3軸方向の加速度信号を増幅して無線送信する送信機とを備えた加速度検出装置と、前記送信機より無線送信された飛翔中の前記球体に作用した加速度信号を受信機にて受信してアナログ‐デジタル変換して加速度データとして出力する受信回路と、前記受信回路から出力された加速度データを記憶するとともに前記球体が飛翔中の3軸方向の加速度信号を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に連続ウェーブレット変換処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度を推定し、前記抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸位置を算出する演算処理部と、を備えた信号処理装置と、前記演算処理部で算出された球体の回転速度の推定値並びに推定される回転軸を中心とする回転方向を画面表示する表示装置と、を備えたことを特徴とする。
上述した重心近傍は、重心を中心とする微小半径エリアを指し示すものとする。即ち、加速度検出部のX,Y,Z軸方向の3軸方向の加速度センサ自体が基板の中心部に重ねて配置することが現実にはできないため、センサ自体の誤差や球体の重心に配置される際の組み付けによる誤差が現実には発生していることを考慮している。
【0012】
また、前記演算処理部は、球体が飛翔開始から飛翔終了までの間の所定時間内の加速度データから各データの平均値を除いたX,Y,Z軸方向の加速度成分を抽出し、合成加速度から最小二乗近似したものを引くことでオフセット分を除去する前処理を行なってから連続ウェーブレット変換処理を行うことにより、合成加速度の周波数振幅の時間変化から、球体の回転速度及びその時間変化を求めることを特徴とする。
【0013】
また、前記演算処理部は、前記抽出された3軸方向の加速度データの振幅比の時間変化から球体の回転軸を中心とする回転方向を推定することを特徴とする。
また、前記演算処理部は、球体の回転速度の推定値からマグナス力を推定して3軸方向の合成加速度の振幅値より差し引く演算処理を行なって空気抵抗力を推定し、推定された空気抵抗力より球速及びその時間変化を推定することを特徴とする。
【0014】
他の装置構成としては、回転を伴って飛翔する球体と、該球体の重心若しくは重心近傍に設けられX軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度を検出する加速度検出部と、該加速度検出部により飛翔開始から飛翔終了するまでの間に検出された3軸方向の加速度信号を記憶する記憶部と、を備えた加速度検出装置と、前記記憶部に記憶された加速度信号を取り込んでアナログ‐デジタル変換して加速度データとして出力する信号変換部と、前記信号変換部から出力された加速度データを記憶するとともに前記球体が飛翔中の3軸方向の加速度信号を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に連続ウェーブレット変換処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定し、前記抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸位置を算出する演算処理部と、を備えた信号処理装置と、前記演算処理部で算出された球体の回転速度の推定値並びに推定される回転軸を中心とする回転方向を画面表示する表示装置と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
また、球体の回転計測方法においては、回転を伴って飛翔する球体の飛翔開始から飛翔終了までに当該球体に発生する加速度を、前記球体の重心若しくは重心近傍に設けられたX軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度検出部にて検出し、当該3軸方向の加速度信号を増幅して送信機より無線送信するステップと、前記3軸方向の加速度信号を受信機にて受信してアナログ‐デジタル変換して得られた3軸方向の加速度データを信号処理装置に記憶するステップと、前記信号処理装置の演算処理部が、前記3軸方向の加速度データから前記球体が飛翔中の3軸方向の加速度成分を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に連続ウェーブレット変換処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定し、前記抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸位置を算出するステップと、前記加速度信号の周波数振幅値の時間変化より推定される球体の推定回転速度並びに抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸を中心とする回転方向を表示装置に画面表示するステップと、を含むことを特徴とする。
【0016】
他の方法としては、回転を伴って飛翔する球体の飛翔開始から飛翔終了までに当該球体に発生する加速度を、前記球体の重心若しくは重心近傍に設けられたX軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度検出部にて検出し、検出された3軸方向の加速度信号を記憶部に記憶するステップと、前記記憶部に記憶された3軸方向の加速度信号を信号処理装置に取り込んでアナログ‐デジタル変換し、演算処理部が前記3軸方向の加速度データから前記球体が飛翔中の3軸方向の加速度成分を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に連続ウェーブレット変換処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定し、前記抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸位置を算出するステップと、前記加速度信号の周波数振幅値の時間変化より推定される球体の推定回転速度並びに3軸方向の加速度データの振幅比から推定される回転軸を中心とする回転方向を表示装置に画面表示するステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記球体の回転計測装置及び方法によれば、加速度検出部は球体の重心若しくは重心近傍に設けられているので、当該球体が回転を伴って飛翔すると、X軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度データが加速度検出部により検出され、検出された加速度データが送信機より無線送信される。この加速度データには、遠心力による加速度の影響を可及的に小さくして専ら空気抵抗力やマグナス力により検出される加速度データを収集することができる。尚、加速度検出部は球体の重心に配置するのが望ましいが、遠心力の影響を受けないようにするためには、センサ誤差や組み付け誤差を考慮すると重心近傍の微小半径エリアに設ける必要がある。
また、演算処理部は、加速度データから球体が飛翔中の3軸方向の加速度信号を抽出し、3軸方向の加速度信号の合成加速度信号からオフセット分を除去する前処理を行なってから、連続ウェーブレット変換処理を行って得られた周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定し、抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から回転軸位置を推定する。これにより、簡易な方法で空気抵抗力やマグナス力による球体の回転速度や回転方向が推定できる。
また、表示装置は、演算処理部で算出された球体の回転速度の推定値並びに推定される回転軸を中心とする回転方向を画面表示するので、球の切れのよさを定量的にしかも視覚的に把握することができる。
【0018】
演算処理部は、球体が飛翔開始から飛翔終了までの間の滞空時間内の加速度データを取り出して加速度の値が著しく大きくなる飛翔開始時と飛翔終了時を除くことで、測定の精度を高めることができ、各データの平均値を除いたX,Y,Z軸方向の加速度成分を抽出することで、オフセットの影響を小さくすることができる。
また、オフセット分を除去する前処理に続いて連続ウェーブレット変換処理を行って、3軸方向の加速度成分の所定時間内の周波数振幅値の時間変化を求めることにより、球体の回転速度及びその時間変化をより精細に分析して推定することができる。
また、演算処理部は、抽出された3軸方向の加速度データの振幅比の時間変化から球体の回転軸を中心とする回転方向を推定するので、球体の回転速度とともに球種に応じた回転方向も含めたデータ分析をおこなって、球種に応じた回転特性や球の切れのよさを検証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ボールの回転計測装置のブロック構成図である。
【図2】軟式野球用ボールの断面図である。
【図3】複素Morletウェーブレット波形図である。
【図4】ジャイロセンサと加速度センサを内蔵したバレーボールの断面図である。
【図5】バレーボールを投球し、投球から捕球までのボールに作用する加速度センサに検出された全加速度データを示すグラフ図である。
【図6】バレーボールを投球し、投球から捕球までのボールに作用するジャイロセンサに検出された全加速度データを示すグラフ図である。
【図7】X軸加速度データからオフセット分を除去する前処理前後のグラフ図である。
【図8】加速度センサからの前処理されたX軸加速度データを高速フーリエ変換処理した後のグラフ図である。
【図9】ジャイロセンサからの前処理されたX軸加速度データを高速フーリエ変換処理した後のグラフ図である。
【図10】加速度センサからの前処理されたX軸加速度データを連続ウェーブレット変換処理した後のグラフ図である。
【図11】ジャイロセンサからの前処理されたX軸加速度データを連続ウェーブレット変換処理した後のグラフ図である。
【図12】軟式野球ボールを投球し、投球から捕球までのボールに作用する加速度センサに検出された全加速度データを示すグラフ図である。
【図13】前処理されたX軸加速度データを高速フーリエ変換処理した後のグラフ図である。
【図14】前処理されたX軸加速度データを連続ウェーブレット変換処理した後のグラフ図である。
【図15】連続ウェーブレット変換処理後の3軸方向の合成加速度データの振幅値の時間変化を示すグラフ図である。
【図16】ボールの回転方向とボール作用する加速度の力学的解析図である。
【図17】ボールに発生するX´‐Y´座標系の合成加速度を示す波形説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
先ず、球体の回転計測装置のブロック構成について説明する。
以下では、球体として軟式野球用のボール1を例示して説明するものとし、投手がボール1を投げて捕手が捕球するまでにボール1の単位時間当たりの回転数若しくは回転速度及び回転方向を計測する場合について説明する。
【0021】
図1において、加速度検出装置(センサ回路部)2は、回転を伴って飛翔するボール1(図2参照)と、該ボール1の重心O若しくは重心近傍に設けられX軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度を検出する3軸加速度センサ(加速度検出部)3と、該3軸加速度センサ3により検出された3軸方向の加速度信号を増幅する増幅回路や増幅された加速度信号を無線送信する送信機4を備えている。
尚、重心近傍は、重心Oを中心とする微小半径エリアを指し示すものとする。即ち、3軸加速度センサ3が基板の中心部に実装されているとは限らないため、センサ自体の誤差やボール1の重心Oに配置される際の組み付けによる誤差が現実には発生していることを考慮している。
【0022】
図2において、ボール1は、異なるゴム材1a,1bが2層に積層されて球体に成形されている。このボール1の中空部に発泡材1cが埋め込まれその重心Oをくり抜いて3軸加速度センサ3が埋設されている。このボール1は、一例として軟式野球用のボール1を想定しているがバレーボールなど、競技が異なればボールの構造も異なるため他の組み付け構造であってもよい。
【0023】
受信回路部5は、送信機4より無線送信された飛翔中のボール1に作用した加速度信号を受信する受信機6と、受信機6が受信した加速度信号(アナログ信号)をアナログ‐デジタル変換して加速度データとして出力するA/D変換器7を備えている。
【0024】
信号処理装置8は、A/D変換器7から出力された加速度データを記憶媒体(メモリ、ハードディスク等)に記憶する。信号処理装置8としては、パーソナルコンピュータ(PC)やDSP(Digital Signal Processor)が用いられる。
信号処理装置8は演算処理部9(例えばCPU,MPUなど)を備え、演算処理部9は加速度データからボール1が飛翔中の3軸方向の加速度信号を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に周波数解析処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定し、抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から回転軸位置を推定する。
【0025】
表示装置10は信号処理装置8の演算処理部9で算出されたボール1の単位時間当たりの回転数又は回転速度の推定値並びに回転軸を中心とする回転方向を画面表示する。表示装置10は、パーソナルコンピュータ(PC)に接続される液晶ディスプレイなどが用いられる。また、受信回路部5は、信号処理装置8に外部接続されていてもよいが、信号処理装置8に内蔵されてアンテナにより受信する構成でもよい。
【0026】
また、演算処理部9は、ボール1が投球開始(飛翔開始)から捕球される(飛翔終了)までの間の所定飛翔時間内の加速度データを取り出して信号処理するので、加速度の値が著しく大きくなる飛翔開始時と飛翔終了時を除くことで、測定の精度を高めることができ、各データの平均値を除いたX,Y,Z軸方向の加速度成分を抽出することで、オフセットの影響を小さくすることができる。
演算処理部9は、上記オフセット分を除去された加速度データに連続ウェーブレット変換(CWT)処理を行って、3軸方向の加速度成分の所定時間間隔内の周波数振幅値の時間変化を観察することにより、より精細にボール1の回転速度(単位時間当たりの回転数)及びその時間変化が推定される。
【0027】
また、演算処理部9は、抽出された3軸方向の加速度データの振幅比から推定される回転軸ベクトルの方向を演算し、当該回転軸ベクトルを中心とした回転方向を推定する。これにより、回転数若しくは回転速度とともに球種に応じた回転方向も含めたデータ分析をおこなって、球種に応じた回転特性や球の切れのよさを検証することができる。
【0028】
ここでフーリエ変換とウェーブレット変換の相違の概要について説明する。フーリエ変換では定常の信号を様々な周波数の正弦波に分解し、信号の周波数のみの解析を行なうが、周波数の時間的変化を知ることはできない。これに対して、ウェーブレット変換ではマザーウェーブレットと呼ばれる基本的な関数を拡大縮小させることにより信号の時間−周波数両面での解析が可能である。よって、周波数が時間変化するような非定常的な信号を解析する場合に有効な解析方法である。飛翔するボールの回転速度は一定ではなく空気抵抗力やマグナス力などの影響により変動すると考えられるため、ウェーブレット変換は有効な解析方法であると思料される。連続ウェーブレット変換は、解析対象である信号f(t)とマザーウェーブレットφ(t)によって(数式1)に示す式で定義される。
(数式1)
ここで、aはスケールパラメータであり、マザーウェーブレットφ(t)の拡大縮小の比率を決定する正の実数である。また、bはシフトパラメータでありマザーウェーブレットφ(t)の時間方向へのシフト量を示す正の実数である。また、1/a(1/2)は正規化するための係数である。本実施形態では、マザーウェーブレットφ(t)として(数式2)に示す複素Morletウェーブレットを使用した。
(数式2)
ここでfbは中心周波数、fcは帯域幅である。複素Morletウェーブレットの外形を図3に示す。
【0029】
以下では、本実施形態の球体の回転計測装置及び方法を用いてボール1の単位時間当たりの回転数(回転速度)を計測した実験結果について、図4乃至図15を参照しながら説明する。
実験では、真の値と加速度センサによるデータとの比較する必要性から、図4に示すように、バレーボール1の中心付近に加速度センサ及びジャイロセンサを埋め込んで計測結果を対比した。
バレーボールはモルテン株式会社製の5号検定球を用い、加速度センサとジャイロセンサはマイクロストーン社製の8ch無線6軸モーションレコーダと高容量3軸ジャイロセンサを無線式に改良して使用した。8ch無線6軸モーションレコーダには3軸加速度センサ及び送信機1eと3軸ジャイロセンサ1fの3つが内蔵されているが、内蔵ジャイロセンサは角速度の検出範囲が狭く今回の実験では必要な要求を満たさなかった。そこで、内蔵ジャイロセンサは使用せず、高容量3軸ジャイロセンサ1fをモーションレコーダに外部接続して使用した。そして加速度信号と角速度信号を無線でサンプリング時間5[msec]パーソナルコンピュータに送信した。実験装置は、図4に示すように、センサとボールのほかに発砲材1cと100×70×40[mm]のプラスチックケース1dによって構成され、半分に切断されたボールの中に発砲スチロールを詰め、2つのセンサを入れたプラスチックケース1dを固定した。
【0030】
投球実験は、投手と捕手との間に約7mの距離を設けて投球実験を行なった。投球は図15に示すストレートを意識して投球した。このときの加速度信号を図5に示し、ジャイロセンサの角速度信号を図6に示す。
図5に示すX,Y軸加速度信号は一定のオフセットを持つ正弦波信号として計測される。また、Z軸加速度信号がほとんど振動していないことからZ軸付近を回転軸として回転したと考えられる。これは、図6において、Z軸角速度がX,Y軸角速度と比べて大きな値を示していることから読みとれる。
【0031】
次に周波数解析を行なうために、これらの加速度信号データからボールが滞空中のデータを抽出する。投球直前と捕球直後は加速度が急激に変化していることが分かる。このことから、加速度の微分値を利用し、投球開始時と捕球直後を判別した。先ず、測定データを前半と後半に分割する。次に前半部分ではX,Y,Z軸加速度それぞれについて加速度の微分値が最大、最小となる時刻を求め、その中で最も遅い時刻を投球開示時とする。また後半部分についても同様の方法で捕球時を特定する。
次に投球時の50[ms]後から捕球時の50[ms]前のデータを抽出し、この計170点のデータを使用して周波数解析を行なった。
【0032】
また、加速度データにオフセット信号が含まれていると、オフセットによる低周波の影響で周波数解析が困難となる。そこでオフセットを除去する前処理を行なう。この前処理としては、滞空中のボールの加速度データを最小二乗近似し、その近似データをもとの加速度データから引くことによってオフセット信号を除去する。更に、カットオフ周波数100[Hz]の二次ローパスフィルタを通した信号を求める。X軸加速度に対して上記前処理を施したデータを図7に示す。図7において、破線波形はX軸加速度、黒実線がX軸加速度を最小二乗近似したもの、黒実線波形がオフセット除去後のX軸加速度である。
【0033】
次に、前処理が行われた加速信号に対して高速フーリエ変換(FFT)処理と連続ウェーブレット変換(CWT)処理を行って、回転速度を求め、ジャイロセンサから得られた回転速度と比較して有効性の検証を行う。ここで、ジャイロセンサから得られた回転速度とは、ジャイロセンサのX,Y,Z軸回転速度を合成した回転軸周りの回転速度のことを言う。
【0034】
先ず高速フーリエ変換(FFT)処理を行なって回転速度を求める。高速フーリエ変換処理を行なう際のデータ数は2のべき乗である必要があるため、170点のデータの後に0を86点追加して計256点(28)のデータに対してFFTを適用する。X軸加速度信号にFFTを適用した結果を図8に示す。尚、FFT処理は、オフセット信号の影響を小さくするため加速度信号の平均値を除いた脈動する加速度信号に対して行ない、ハミング窓を用いた窓処理をおこなった。
図8のスペクトルピーク値から求められた回転速度と、ジャイロセンサから得られた回転速度図9に示す。図9よりFFTによってほぼ正しいボールの回転速度が求められていることが確認できる。
しかし僅かながら偏差が生じている。この偏差が生じた原因としては、解析するデータが1秒に満たないため、周波数分解能が低くなってしまったことが考えられる。一方、ジャイロセンサから得られた回転速度は振動しながらも0.4[s]付近から微妙に減少している。高速フーリエ変換では時間情報が失われるため、回転速度は時刻によらず一定な値を示しており、回転速度変化の推定は難しい。
【0035】
次に連続ウェーブレット変換処理により回転速度を求める。回転速度の推定にはオフライン処理によりMathWorks社のMATLABのWavelet Tool BoxのCWTコマンドを使用した。X軸加速度信号にCWTを適用した結果を図10に示す。ここで、横軸は時間[s]、縦軸は回転速度[rps]、色の濃淡はスペクトル値の強度を表している。図10より約7[rps]付近でスペクトル値が大きくなっていることが分かる。図10のスペクトルのピーク値から求めた回転速度とジャイロセンサから得られた回転速度を図11に示す。図11に示すように、連続ウェーブレット変換(CWT)においてもボールの回転速度が求められていることが確認できる。また、CWTでは時間周波数解析が可能であるため、FFTでは求められなかった周波数の時間変化も求められる。図10において、多少振動的ではあるものの回転速度の微妙な変化(減少)を求められることが分かる。よって、ボールの回転速度を時間変化とともにより精細に推定することが可能になる。また、CWT変換によりボールの回転速度の平均値を表示することができるうえに、投球開始直後の初速と捕球直前の終速を各々表示することも可能になる。
【0036】
次に、野球ボールに加速度センサを搭載して投球実験を行なって回転速度の推定実験を行なった。
ボール1は、軟式野球用B級マルエスボール(ダイワマルエス株式会社製)を用い、3軸加速度センサ3として、ワイヤレステクノロジー社製のワイヤレス3軸加速度センサを用いた。3軸加速度センサ3は図2に示すように、ボール1を2分割して中空部に発泡材1cを詰めて重心O付近へ組み込んだ。センサ回路部2からは5[ms]間隔サンプリングを行なって加速度信号が信号処理装置8へ送信される。投球実験は、投手と捕手が約10[m]程度の距離をとって投球を行なった。このとき、ボール1の球種はストレートを意識して投球した。このとき測定されたX,Y,Z軸の3軸方向の加速度データ図12に示す。
更にバレーボールを用いた投球実験と同様に滞空中の加速度信号データを抽出し、オフセット分を除去する前処理が行われた加速信号に対して高速フーリエ変換(FFT)処理と連続ウェーブレット変換(CWT)処理を各々行って、回転速度を推定した。
【0037】
図13にX軸加速度信号の連続ウェーブレット変換(CWT)によって求められた回転速度を示す。更に図13のスペクトルの最大値から求めた回転速度と高速フーリエ変換(FFT)によって求められた回転速度を図14に示す。図14よりボールは約13[rps]の回転速度で回転していることが分かる。
【0038】
図15は連続ウェーブレット変換後の3軸加速度信号の合成加速度の振幅値の時間変化を示す。加速度信号の振幅値は、空気抵抗力とマグナス効果によるマグナス力との合成により得られる。マグナス力は球体の回転速度に依存し、空気抵抗力は球体の進行方向速度(球速)に依存するという相関関係を有する。図15では3軸加速度の合成加速度の振幅値が時間変化とともに減少しているがこれは空気抵抗力とマグナス力が減少した結果である。マグナス力は球体の回転速度から推定可能であり、振幅値からその力を差し引くと空気抵抗力となる。空気抵抗力は球速に対応するので、結果として球速が推定できる。さらに、振幅値の時間変化は球速の時間変化にも関連しており、マグナス効果による力成分を補正すれば球速の時間変化が推定できる。よって、スピードガンでは平均的な球速値しか計測できないのに対して、この方法の応用では加速度信号の振幅値から球速及び球速の時間的変化を推定することができる。具体的には、図1のブロック構成図において、演算処理部9は、球体の回転速度の推定値からマグナス力を推定して3軸方向の合成加速度の振幅値より差し引く演算処理を行なって空気抵抗力を推定し、推定された空気抵抗力より球速及びその時間変化を推定できる。
【0039】
以上説明したように、実施形態に説明した球体の回転計測装置及び方法を用いれば、球体が回転を伴って飛翔すると、X軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度信号が加速度検出装置(センサ回路部)2により時々刻々検出され、検出された加速度信号は送信機4より無線送信される。この加速度データには、遠心力による加速度の影響を可及的に小さくして専ら空気抵抗力やマグナス力により検出される加速度信号を収集することができる。
また、信号処理装置8において加速度信号を受信しA/D変換して得られた加速度データは、演算処理部9においてボール1が飛翔中の3軸方向の加速度信号を抽出し、3軸方向の加速度信号の合成加速度信号からオフセット分を除去する前処理を行なってから、連続ウェーブレット変換処理を行って得られた周波数振幅値の時間変化からボール1の回転速度(単位時間当たりの回転数)及びその時間変化を推定し、抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から回転軸位置を推定する。これにより、空気抵抗力やマグナス力によるボール1に作用する加速度の周波数変化を周波数解析として高速フーリエ変換(FFT)よりも連続ウェーブレット変換を用いることで、より高精度にボール1の回転速度及びその時間変化を推定することができる。
また、演算処理部9は、球体の回転方向は、抽出された3軸方向の加速度データの振幅比から回転軸を中心とした回転方向を推定して表示装置10に表示するので、回転速度とともに球種に応じた回転方向も含めたデータ分析をおこなって、球種に応じた回転特性や球の切れのよさを検証することができる。
【0040】
次に球体の回転計測装置及び方法の他例について説明する。
回転計測装置の概略構成は、前述した装置構成と同様であり、異なる点を中心に説明する。ボール1にデータ記憶装置(記憶部)を内蔵しておき、加速度センサ3により飛翔開始から飛翔終了するまでの間に検出された3軸方向の加速度信号をデータ記憶装置に記憶するようにしてもよい。データ記憶装置としては、例えばフラッシュメモリ等が用いられる。上記データ記憶装置に記憶されたデータは、増幅されて一括して送信機4により信号処理装置8へ無線送信されてもよいし、或いは接続端子を設けて有線送信により信号処理装置8へ取り込んでもよい。有線通信による場合には、送信機4と受信機6の無線通信可能な範囲にとらわれずに、任意の距離で飛翔中の球体の回転計測を行なうことができる。
【0041】
上記データ記憶装置に記憶された3軸方向の加速度信号を取り込んで信号変換部でアナログ‐デジタル変換して得られた3軸方向の加速度データは、信号処理装置8に記憶される。また、信号処理装置8の演算処理部9は、3軸方向の加速度データからボール1が飛翔中の3軸方向の加速度成分を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に周波数解析処理(連続ウェーブレット変換処理)を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定する点や、抽出された3軸方向の合成加速度信号の振幅比から推定される回転軸を中心とする回転方向を表示装置に画面表示する点は前述した実施形態と同様である。
【0042】
以上の実施形態はバレーボール、軟式野球のボールの回転計測について説明したが、公式野球のボールや、ソフトボール、サッカーボール、テニスボールなどの他の球技に使用される球体の回転計測に応用することも可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 ボール
1a,1b ゴム材
1c 発泡材
1d プラスチックケース
1e 3軸加速度センサ及び送信機
1f 3軸ジャイロセンサ
2 加速度検出装置(センサ回路部)
3 3軸加速度センサ
4 送信機
5 受信回路部
6 受信機
7 A/D変換器
8 信号処理装置
9 演算処理部
10 表示装置
【技術分野】
【0001】
回転をともなって飛翔する球体の推定回転速度及び回転方向を算出して表示する球体の回転検出装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野球、ソフトボール、バレーボール、サッカー、テニスなどの球技においては、競技者の競技の質を科学的に分析するうえでボールの回転が重要なファクターとなっている。例えば、野球においては、投手の役割は大きく、投手の出来が勝敗に大きく左右することは知られている。
【0003】
アマチュア、プロを問わず投手を評価する場合、いわゆる球速、制球力、球の切れのよしあしなどで評価される場合が多いが、球の切れは定量的に把握されていない。この球切れは、投球時のボールの単位時間当たりの回転数(回転速度)や回転方向に依存していると考えられる。また、スポーツ医学的な見地からは、怪我をしない正しいフォームで投球しているときの球種に応じた単位時間当たりの回転数や回転方向に関するデータと、無理なフォームで投げたときのデータと比較することにより、監督やコーチが投手の肩や肘に対する負荷を矯正する必要性を説くうえでも望ましい。
【0004】
単位時間当たりの回転数の計測としてはハイスピードカメラによりボールを撮像して回転数を計測する方法もあるが、装置が大がかりになり、画像処理にコストや時間が係る。
また、ゴルフボールの表面に他と反射率の異なるマークを付し、空中に打ち上げられたゴルフボールの反射光量を検出することで回転数を検出する回転数測定装置も提案されている(特許文献1参照)。
また、回転軸が重力方向にない状態で回転する回転体に装着され、回転体の回転接線方向の加速度が検出されて、回転体の角速度や回転数を検出する回転数検出装置も提案されている(特許文献2参照)。
或いは、ボールの球種を判別するため、ボール内の仮想正四面体の頂点部に無線タグ回路素子を内蔵させておき、野球場のフィールド外に設けられた方位角アンテナで検出された仮想正四面体の頂点座標から重心の座標を算出する。これらのデータは、ボールが投球されてから補給されるまでの間サンプリングされメモリに記憶され、姿勢解析並びに運動解析が行なわれて球種の判定が行なわれるようになっている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−68539号公報
【特許文献2】特開2009−42196号公報
【特許文献3】特開2007−80102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のようにボールの回転数を光学的に検出する方法では、投光部よりボールに光照射して得られる反射光を検出する必要があるため、装置構成が大がかりになるうえに、投光領域が限られている場合には、球種によっては投光領域においてボールがほとんど回転しないものがあるため、単位時間当たりの回転数が計測できない場合も想定される。
また、特許文献2のように加速度センサにより回転体の接線方向加速度を測定して測定の原理から回転数を検出することも可能である。しかしながら、投手が投げるボールは、例えば1秒間に40回転するストレート系の高速回転する球種もあれば、フォークボールやナックルボールのようにほとんど回転しない低速回転の球種も様々である。よって、加速度センサの位置が僅かにずれただけでも、重力加速度の変動が大きく作用するため、測定誤差が生じやすい。
また、特許文献3のようなボール内の仮想正四面体の頂点部に無線タグ回路素子を内蔵させることが難しい。また、無線タグ回路素子により検出するデータ量が多く、姿勢解析や運動解析を行なうために複雑な演算処理を伴うため、装置コストも高くなるという課題があった。
【0007】
また回転体の角速度を計測するにはジャイロセンサが用いられる。よってボールの中にジャイロセンサを搭載すれば、回転速度を計測できると推測される。しかしながら、例えばプロ野球選手が投球するボールの回転速度は40rpmに到達することもあるため、かかる高速回転を計測するジャイロセンサは存在しない。
【0008】
投手が捕手に向けてボールを投げると、投球後にボールに作用する加速度としては空気抵抗力による加速度aair とマグナス効果による加速度amagがある。尚、重力加速度を考慮していないが、加速度センサの特性上ボールが飛翔している間は重力加速度を計測できないためである。マグナス効果とは、ボールが粘性を有する流体中を回転しながら移動する際にボールの周りに生じる圧力差が発生する現象であり、例えばストレート系の縦回転のボールの場合には、進行方向に対して垂直な力を受ける。
【0009】
ボールが縦回転しながらX´方向に進んだ際にボールに作用する加速度を図16に示す。図16においてX−Y座標は、運動座標系(センサ軸)、X´‐Y´座標は絶対座標系を示す。
空気抵抗力による加速度aair は、進行方向と逆向きに作用し、マグナス効果による加速度amagは進行方向に対して垂直上向きに作用する。これは、ボールの回転方向に対して上側と下側とで圧力差が発生することによる。ボールに搭載した加速度センサ(X−Y運動座標系)により合成加速度を求めるとボールの回転と同期して方向が変化するため正弦波信号となる。更には、ボールの回転による遠心力の加速度がオフセット分として加わる。
加速度センサによって計測される加速度はオフセットをもつ正弦波信号となり次式で表すことができる。
a=aair+amag+(dω/dt)×r+ω×(ω×r)
このボールの進行方向をX軸、Y軸を鉛直方向とする絶対座標系でボールに作用する加速度を加速度センサにより計測し、X´−Y´方向の合成加速度を求めると、ボールの回転に同期して加速度の向きも変わっていくため、図17に示すような正弦波信号として計測される。このとき、加速度センサがボールの重心よりずれた位置に組み付けられたことに起因する遠心力による加速度(一定値)が重畳される。このように加速度センサの取付半径が大きいと、オフセット信号の値が大きくなるため、測定レンジの大きい加速度センサを用いる必要がある。しかしながら、オフセット信号の値に比べて本来計測すべき正弦波信号の振幅が相対的に小さくなるため、かかる振幅がノイズとして埋もれて計測し難くなる。
【0010】
以下に述べる課題を解決するための手段の目的とするところは、遠心力による加速度の影響を受けずに簡単な構成で回転をともなって飛翔する球体の回転速度及び回転方向を推定できる球体の回転計測装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための代表的な手段は、以下の構成を備える。
回転を伴って飛翔する球体と、該球体の重心若しくは重心近傍に設けられX軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度を検出する加速度検出部と、該加速度検出部により検出された3軸方向の加速度信号を増幅して無線送信する送信機とを備えた加速度検出装置と、前記送信機より無線送信された飛翔中の前記球体に作用した加速度信号を受信機にて受信してアナログ‐デジタル変換して加速度データとして出力する受信回路と、前記受信回路から出力された加速度データを記憶するとともに前記球体が飛翔中の3軸方向の加速度信号を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に連続ウェーブレット変換処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度を推定し、前記抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸位置を算出する演算処理部と、を備えた信号処理装置と、前記演算処理部で算出された球体の回転速度の推定値並びに推定される回転軸を中心とする回転方向を画面表示する表示装置と、を備えたことを特徴とする。
上述した重心近傍は、重心を中心とする微小半径エリアを指し示すものとする。即ち、加速度検出部のX,Y,Z軸方向の3軸方向の加速度センサ自体が基板の中心部に重ねて配置することが現実にはできないため、センサ自体の誤差や球体の重心に配置される際の組み付けによる誤差が現実には発生していることを考慮している。
【0012】
また、前記演算処理部は、球体が飛翔開始から飛翔終了までの間の所定時間内の加速度データから各データの平均値を除いたX,Y,Z軸方向の加速度成分を抽出し、合成加速度から最小二乗近似したものを引くことでオフセット分を除去する前処理を行なってから連続ウェーブレット変換処理を行うことにより、合成加速度の周波数振幅の時間変化から、球体の回転速度及びその時間変化を求めることを特徴とする。
【0013】
また、前記演算処理部は、前記抽出された3軸方向の加速度データの振幅比の時間変化から球体の回転軸を中心とする回転方向を推定することを特徴とする。
また、前記演算処理部は、球体の回転速度の推定値からマグナス力を推定して3軸方向の合成加速度の振幅値より差し引く演算処理を行なって空気抵抗力を推定し、推定された空気抵抗力より球速及びその時間変化を推定することを特徴とする。
【0014】
他の装置構成としては、回転を伴って飛翔する球体と、該球体の重心若しくは重心近傍に設けられX軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度を検出する加速度検出部と、該加速度検出部により飛翔開始から飛翔終了するまでの間に検出された3軸方向の加速度信号を記憶する記憶部と、を備えた加速度検出装置と、前記記憶部に記憶された加速度信号を取り込んでアナログ‐デジタル変換して加速度データとして出力する信号変換部と、前記信号変換部から出力された加速度データを記憶するとともに前記球体が飛翔中の3軸方向の加速度信号を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に連続ウェーブレット変換処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定し、前記抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸位置を算出する演算処理部と、を備えた信号処理装置と、前記演算処理部で算出された球体の回転速度の推定値並びに推定される回転軸を中心とする回転方向を画面表示する表示装置と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
また、球体の回転計測方法においては、回転を伴って飛翔する球体の飛翔開始から飛翔終了までに当該球体に発生する加速度を、前記球体の重心若しくは重心近傍に設けられたX軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度検出部にて検出し、当該3軸方向の加速度信号を増幅して送信機より無線送信するステップと、前記3軸方向の加速度信号を受信機にて受信してアナログ‐デジタル変換して得られた3軸方向の加速度データを信号処理装置に記憶するステップと、前記信号処理装置の演算処理部が、前記3軸方向の加速度データから前記球体が飛翔中の3軸方向の加速度成分を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に連続ウェーブレット変換処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定し、前記抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸位置を算出するステップと、前記加速度信号の周波数振幅値の時間変化より推定される球体の推定回転速度並びに抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸を中心とする回転方向を表示装置に画面表示するステップと、を含むことを特徴とする。
【0016】
他の方法としては、回転を伴って飛翔する球体の飛翔開始から飛翔終了までに当該球体に発生する加速度を、前記球体の重心若しくは重心近傍に設けられたX軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度検出部にて検出し、検出された3軸方向の加速度信号を記憶部に記憶するステップと、前記記憶部に記憶された3軸方向の加速度信号を信号処理装置に取り込んでアナログ‐デジタル変換し、演算処理部が前記3軸方向の加速度データから前記球体が飛翔中の3軸方向の加速度成分を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に連続ウェーブレット変換処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定し、前記抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸位置を算出するステップと、前記加速度信号の周波数振幅値の時間変化より推定される球体の推定回転速度並びに3軸方向の加速度データの振幅比から推定される回転軸を中心とする回転方向を表示装置に画面表示するステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記球体の回転計測装置及び方法によれば、加速度検出部は球体の重心若しくは重心近傍に設けられているので、当該球体が回転を伴って飛翔すると、X軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度データが加速度検出部により検出され、検出された加速度データが送信機より無線送信される。この加速度データには、遠心力による加速度の影響を可及的に小さくして専ら空気抵抗力やマグナス力により検出される加速度データを収集することができる。尚、加速度検出部は球体の重心に配置するのが望ましいが、遠心力の影響を受けないようにするためには、センサ誤差や組み付け誤差を考慮すると重心近傍の微小半径エリアに設ける必要がある。
また、演算処理部は、加速度データから球体が飛翔中の3軸方向の加速度信号を抽出し、3軸方向の加速度信号の合成加速度信号からオフセット分を除去する前処理を行なってから、連続ウェーブレット変換処理を行って得られた周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定し、抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から回転軸位置を推定する。これにより、簡易な方法で空気抵抗力やマグナス力による球体の回転速度や回転方向が推定できる。
また、表示装置は、演算処理部で算出された球体の回転速度の推定値並びに推定される回転軸を中心とする回転方向を画面表示するので、球の切れのよさを定量的にしかも視覚的に把握することができる。
【0018】
演算処理部は、球体が飛翔開始から飛翔終了までの間の滞空時間内の加速度データを取り出して加速度の値が著しく大きくなる飛翔開始時と飛翔終了時を除くことで、測定の精度を高めることができ、各データの平均値を除いたX,Y,Z軸方向の加速度成分を抽出することで、オフセットの影響を小さくすることができる。
また、オフセット分を除去する前処理に続いて連続ウェーブレット変換処理を行って、3軸方向の加速度成分の所定時間内の周波数振幅値の時間変化を求めることにより、球体の回転速度及びその時間変化をより精細に分析して推定することができる。
また、演算処理部は、抽出された3軸方向の加速度データの振幅比の時間変化から球体の回転軸を中心とする回転方向を推定するので、球体の回転速度とともに球種に応じた回転方向も含めたデータ分析をおこなって、球種に応じた回転特性や球の切れのよさを検証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ボールの回転計測装置のブロック構成図である。
【図2】軟式野球用ボールの断面図である。
【図3】複素Morletウェーブレット波形図である。
【図4】ジャイロセンサと加速度センサを内蔵したバレーボールの断面図である。
【図5】バレーボールを投球し、投球から捕球までのボールに作用する加速度センサに検出された全加速度データを示すグラフ図である。
【図6】バレーボールを投球し、投球から捕球までのボールに作用するジャイロセンサに検出された全加速度データを示すグラフ図である。
【図7】X軸加速度データからオフセット分を除去する前処理前後のグラフ図である。
【図8】加速度センサからの前処理されたX軸加速度データを高速フーリエ変換処理した後のグラフ図である。
【図9】ジャイロセンサからの前処理されたX軸加速度データを高速フーリエ変換処理した後のグラフ図である。
【図10】加速度センサからの前処理されたX軸加速度データを連続ウェーブレット変換処理した後のグラフ図である。
【図11】ジャイロセンサからの前処理されたX軸加速度データを連続ウェーブレット変換処理した後のグラフ図である。
【図12】軟式野球ボールを投球し、投球から捕球までのボールに作用する加速度センサに検出された全加速度データを示すグラフ図である。
【図13】前処理されたX軸加速度データを高速フーリエ変換処理した後のグラフ図である。
【図14】前処理されたX軸加速度データを連続ウェーブレット変換処理した後のグラフ図である。
【図15】連続ウェーブレット変換処理後の3軸方向の合成加速度データの振幅値の時間変化を示すグラフ図である。
【図16】ボールの回転方向とボール作用する加速度の力学的解析図である。
【図17】ボールに発生するX´‐Y´座標系の合成加速度を示す波形説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
先ず、球体の回転計測装置のブロック構成について説明する。
以下では、球体として軟式野球用のボール1を例示して説明するものとし、投手がボール1を投げて捕手が捕球するまでにボール1の単位時間当たりの回転数若しくは回転速度及び回転方向を計測する場合について説明する。
【0021】
図1において、加速度検出装置(センサ回路部)2は、回転を伴って飛翔するボール1(図2参照)と、該ボール1の重心O若しくは重心近傍に設けられX軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度を検出する3軸加速度センサ(加速度検出部)3と、該3軸加速度センサ3により検出された3軸方向の加速度信号を増幅する増幅回路や増幅された加速度信号を無線送信する送信機4を備えている。
尚、重心近傍は、重心Oを中心とする微小半径エリアを指し示すものとする。即ち、3軸加速度センサ3が基板の中心部に実装されているとは限らないため、センサ自体の誤差やボール1の重心Oに配置される際の組み付けによる誤差が現実には発生していることを考慮している。
【0022】
図2において、ボール1は、異なるゴム材1a,1bが2層に積層されて球体に成形されている。このボール1の中空部に発泡材1cが埋め込まれその重心Oをくり抜いて3軸加速度センサ3が埋設されている。このボール1は、一例として軟式野球用のボール1を想定しているがバレーボールなど、競技が異なればボールの構造も異なるため他の組み付け構造であってもよい。
【0023】
受信回路部5は、送信機4より無線送信された飛翔中のボール1に作用した加速度信号を受信する受信機6と、受信機6が受信した加速度信号(アナログ信号)をアナログ‐デジタル変換して加速度データとして出力するA/D変換器7を備えている。
【0024】
信号処理装置8は、A/D変換器7から出力された加速度データを記憶媒体(メモリ、ハードディスク等)に記憶する。信号処理装置8としては、パーソナルコンピュータ(PC)やDSP(Digital Signal Processor)が用いられる。
信号処理装置8は演算処理部9(例えばCPU,MPUなど)を備え、演算処理部9は加速度データからボール1が飛翔中の3軸方向の加速度信号を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に周波数解析処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定し、抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から回転軸位置を推定する。
【0025】
表示装置10は信号処理装置8の演算処理部9で算出されたボール1の単位時間当たりの回転数又は回転速度の推定値並びに回転軸を中心とする回転方向を画面表示する。表示装置10は、パーソナルコンピュータ(PC)に接続される液晶ディスプレイなどが用いられる。また、受信回路部5は、信号処理装置8に外部接続されていてもよいが、信号処理装置8に内蔵されてアンテナにより受信する構成でもよい。
【0026】
また、演算処理部9は、ボール1が投球開始(飛翔開始)から捕球される(飛翔終了)までの間の所定飛翔時間内の加速度データを取り出して信号処理するので、加速度の値が著しく大きくなる飛翔開始時と飛翔終了時を除くことで、測定の精度を高めることができ、各データの平均値を除いたX,Y,Z軸方向の加速度成分を抽出することで、オフセットの影響を小さくすることができる。
演算処理部9は、上記オフセット分を除去された加速度データに連続ウェーブレット変換(CWT)処理を行って、3軸方向の加速度成分の所定時間間隔内の周波数振幅値の時間変化を観察することにより、より精細にボール1の回転速度(単位時間当たりの回転数)及びその時間変化が推定される。
【0027】
また、演算処理部9は、抽出された3軸方向の加速度データの振幅比から推定される回転軸ベクトルの方向を演算し、当該回転軸ベクトルを中心とした回転方向を推定する。これにより、回転数若しくは回転速度とともに球種に応じた回転方向も含めたデータ分析をおこなって、球種に応じた回転特性や球の切れのよさを検証することができる。
【0028】
ここでフーリエ変換とウェーブレット変換の相違の概要について説明する。フーリエ変換では定常の信号を様々な周波数の正弦波に分解し、信号の周波数のみの解析を行なうが、周波数の時間的変化を知ることはできない。これに対して、ウェーブレット変換ではマザーウェーブレットと呼ばれる基本的な関数を拡大縮小させることにより信号の時間−周波数両面での解析が可能である。よって、周波数が時間変化するような非定常的な信号を解析する場合に有効な解析方法である。飛翔するボールの回転速度は一定ではなく空気抵抗力やマグナス力などの影響により変動すると考えられるため、ウェーブレット変換は有効な解析方法であると思料される。連続ウェーブレット変換は、解析対象である信号f(t)とマザーウェーブレットφ(t)によって(数式1)に示す式で定義される。
(数式1)
ここで、aはスケールパラメータであり、マザーウェーブレットφ(t)の拡大縮小の比率を決定する正の実数である。また、bはシフトパラメータでありマザーウェーブレットφ(t)の時間方向へのシフト量を示す正の実数である。また、1/a(1/2)は正規化するための係数である。本実施形態では、マザーウェーブレットφ(t)として(数式2)に示す複素Morletウェーブレットを使用した。
(数式2)
ここでfbは中心周波数、fcは帯域幅である。複素Morletウェーブレットの外形を図3に示す。
【0029】
以下では、本実施形態の球体の回転計測装置及び方法を用いてボール1の単位時間当たりの回転数(回転速度)を計測した実験結果について、図4乃至図15を参照しながら説明する。
実験では、真の値と加速度センサによるデータとの比較する必要性から、図4に示すように、バレーボール1の中心付近に加速度センサ及びジャイロセンサを埋め込んで計測結果を対比した。
バレーボールはモルテン株式会社製の5号検定球を用い、加速度センサとジャイロセンサはマイクロストーン社製の8ch無線6軸モーションレコーダと高容量3軸ジャイロセンサを無線式に改良して使用した。8ch無線6軸モーションレコーダには3軸加速度センサ及び送信機1eと3軸ジャイロセンサ1fの3つが内蔵されているが、内蔵ジャイロセンサは角速度の検出範囲が狭く今回の実験では必要な要求を満たさなかった。そこで、内蔵ジャイロセンサは使用せず、高容量3軸ジャイロセンサ1fをモーションレコーダに外部接続して使用した。そして加速度信号と角速度信号を無線でサンプリング時間5[msec]パーソナルコンピュータに送信した。実験装置は、図4に示すように、センサとボールのほかに発砲材1cと100×70×40[mm]のプラスチックケース1dによって構成され、半分に切断されたボールの中に発砲スチロールを詰め、2つのセンサを入れたプラスチックケース1dを固定した。
【0030】
投球実験は、投手と捕手との間に約7mの距離を設けて投球実験を行なった。投球は図15に示すストレートを意識して投球した。このときの加速度信号を図5に示し、ジャイロセンサの角速度信号を図6に示す。
図5に示すX,Y軸加速度信号は一定のオフセットを持つ正弦波信号として計測される。また、Z軸加速度信号がほとんど振動していないことからZ軸付近を回転軸として回転したと考えられる。これは、図6において、Z軸角速度がX,Y軸角速度と比べて大きな値を示していることから読みとれる。
【0031】
次に周波数解析を行なうために、これらの加速度信号データからボールが滞空中のデータを抽出する。投球直前と捕球直後は加速度が急激に変化していることが分かる。このことから、加速度の微分値を利用し、投球開始時と捕球直後を判別した。先ず、測定データを前半と後半に分割する。次に前半部分ではX,Y,Z軸加速度それぞれについて加速度の微分値が最大、最小となる時刻を求め、その中で最も遅い時刻を投球開示時とする。また後半部分についても同様の方法で捕球時を特定する。
次に投球時の50[ms]後から捕球時の50[ms]前のデータを抽出し、この計170点のデータを使用して周波数解析を行なった。
【0032】
また、加速度データにオフセット信号が含まれていると、オフセットによる低周波の影響で周波数解析が困難となる。そこでオフセットを除去する前処理を行なう。この前処理としては、滞空中のボールの加速度データを最小二乗近似し、その近似データをもとの加速度データから引くことによってオフセット信号を除去する。更に、カットオフ周波数100[Hz]の二次ローパスフィルタを通した信号を求める。X軸加速度に対して上記前処理を施したデータを図7に示す。図7において、破線波形はX軸加速度、黒実線がX軸加速度を最小二乗近似したもの、黒実線波形がオフセット除去後のX軸加速度である。
【0033】
次に、前処理が行われた加速信号に対して高速フーリエ変換(FFT)処理と連続ウェーブレット変換(CWT)処理を行って、回転速度を求め、ジャイロセンサから得られた回転速度と比較して有効性の検証を行う。ここで、ジャイロセンサから得られた回転速度とは、ジャイロセンサのX,Y,Z軸回転速度を合成した回転軸周りの回転速度のことを言う。
【0034】
先ず高速フーリエ変換(FFT)処理を行なって回転速度を求める。高速フーリエ変換処理を行なう際のデータ数は2のべき乗である必要があるため、170点のデータの後に0を86点追加して計256点(28)のデータに対してFFTを適用する。X軸加速度信号にFFTを適用した結果を図8に示す。尚、FFT処理は、オフセット信号の影響を小さくするため加速度信号の平均値を除いた脈動する加速度信号に対して行ない、ハミング窓を用いた窓処理をおこなった。
図8のスペクトルピーク値から求められた回転速度と、ジャイロセンサから得られた回転速度図9に示す。図9よりFFTによってほぼ正しいボールの回転速度が求められていることが確認できる。
しかし僅かながら偏差が生じている。この偏差が生じた原因としては、解析するデータが1秒に満たないため、周波数分解能が低くなってしまったことが考えられる。一方、ジャイロセンサから得られた回転速度は振動しながらも0.4[s]付近から微妙に減少している。高速フーリエ変換では時間情報が失われるため、回転速度は時刻によらず一定な値を示しており、回転速度変化の推定は難しい。
【0035】
次に連続ウェーブレット変換処理により回転速度を求める。回転速度の推定にはオフライン処理によりMathWorks社のMATLABのWavelet Tool BoxのCWTコマンドを使用した。X軸加速度信号にCWTを適用した結果を図10に示す。ここで、横軸は時間[s]、縦軸は回転速度[rps]、色の濃淡はスペクトル値の強度を表している。図10より約7[rps]付近でスペクトル値が大きくなっていることが分かる。図10のスペクトルのピーク値から求めた回転速度とジャイロセンサから得られた回転速度を図11に示す。図11に示すように、連続ウェーブレット変換(CWT)においてもボールの回転速度が求められていることが確認できる。また、CWTでは時間周波数解析が可能であるため、FFTでは求められなかった周波数の時間変化も求められる。図10において、多少振動的ではあるものの回転速度の微妙な変化(減少)を求められることが分かる。よって、ボールの回転速度を時間変化とともにより精細に推定することが可能になる。また、CWT変換によりボールの回転速度の平均値を表示することができるうえに、投球開始直後の初速と捕球直前の終速を各々表示することも可能になる。
【0036】
次に、野球ボールに加速度センサを搭載して投球実験を行なって回転速度の推定実験を行なった。
ボール1は、軟式野球用B級マルエスボール(ダイワマルエス株式会社製)を用い、3軸加速度センサ3として、ワイヤレステクノロジー社製のワイヤレス3軸加速度センサを用いた。3軸加速度センサ3は図2に示すように、ボール1を2分割して中空部に発泡材1cを詰めて重心O付近へ組み込んだ。センサ回路部2からは5[ms]間隔サンプリングを行なって加速度信号が信号処理装置8へ送信される。投球実験は、投手と捕手が約10[m]程度の距離をとって投球を行なった。このとき、ボール1の球種はストレートを意識して投球した。このとき測定されたX,Y,Z軸の3軸方向の加速度データ図12に示す。
更にバレーボールを用いた投球実験と同様に滞空中の加速度信号データを抽出し、オフセット分を除去する前処理が行われた加速信号に対して高速フーリエ変換(FFT)処理と連続ウェーブレット変換(CWT)処理を各々行って、回転速度を推定した。
【0037】
図13にX軸加速度信号の連続ウェーブレット変換(CWT)によって求められた回転速度を示す。更に図13のスペクトルの最大値から求めた回転速度と高速フーリエ変換(FFT)によって求められた回転速度を図14に示す。図14よりボールは約13[rps]の回転速度で回転していることが分かる。
【0038】
図15は連続ウェーブレット変換後の3軸加速度信号の合成加速度の振幅値の時間変化を示す。加速度信号の振幅値は、空気抵抗力とマグナス効果によるマグナス力との合成により得られる。マグナス力は球体の回転速度に依存し、空気抵抗力は球体の進行方向速度(球速)に依存するという相関関係を有する。図15では3軸加速度の合成加速度の振幅値が時間変化とともに減少しているがこれは空気抵抗力とマグナス力が減少した結果である。マグナス力は球体の回転速度から推定可能であり、振幅値からその力を差し引くと空気抵抗力となる。空気抵抗力は球速に対応するので、結果として球速が推定できる。さらに、振幅値の時間変化は球速の時間変化にも関連しており、マグナス効果による力成分を補正すれば球速の時間変化が推定できる。よって、スピードガンでは平均的な球速値しか計測できないのに対して、この方法の応用では加速度信号の振幅値から球速及び球速の時間的変化を推定することができる。具体的には、図1のブロック構成図において、演算処理部9は、球体の回転速度の推定値からマグナス力を推定して3軸方向の合成加速度の振幅値より差し引く演算処理を行なって空気抵抗力を推定し、推定された空気抵抗力より球速及びその時間変化を推定できる。
【0039】
以上説明したように、実施形態に説明した球体の回転計測装置及び方法を用いれば、球体が回転を伴って飛翔すると、X軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度信号が加速度検出装置(センサ回路部)2により時々刻々検出され、検出された加速度信号は送信機4より無線送信される。この加速度データには、遠心力による加速度の影響を可及的に小さくして専ら空気抵抗力やマグナス力により検出される加速度信号を収集することができる。
また、信号処理装置8において加速度信号を受信しA/D変換して得られた加速度データは、演算処理部9においてボール1が飛翔中の3軸方向の加速度信号を抽出し、3軸方向の加速度信号の合成加速度信号からオフセット分を除去する前処理を行なってから、連続ウェーブレット変換処理を行って得られた周波数振幅値の時間変化からボール1の回転速度(単位時間当たりの回転数)及びその時間変化を推定し、抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から回転軸位置を推定する。これにより、空気抵抗力やマグナス力によるボール1に作用する加速度の周波数変化を周波数解析として高速フーリエ変換(FFT)よりも連続ウェーブレット変換を用いることで、より高精度にボール1の回転速度及びその時間変化を推定することができる。
また、演算処理部9は、球体の回転方向は、抽出された3軸方向の加速度データの振幅比から回転軸を中心とした回転方向を推定して表示装置10に表示するので、回転速度とともに球種に応じた回転方向も含めたデータ分析をおこなって、球種に応じた回転特性や球の切れのよさを検証することができる。
【0040】
次に球体の回転計測装置及び方法の他例について説明する。
回転計測装置の概略構成は、前述した装置構成と同様であり、異なる点を中心に説明する。ボール1にデータ記憶装置(記憶部)を内蔵しておき、加速度センサ3により飛翔開始から飛翔終了するまでの間に検出された3軸方向の加速度信号をデータ記憶装置に記憶するようにしてもよい。データ記憶装置としては、例えばフラッシュメモリ等が用いられる。上記データ記憶装置に記憶されたデータは、増幅されて一括して送信機4により信号処理装置8へ無線送信されてもよいし、或いは接続端子を設けて有線送信により信号処理装置8へ取り込んでもよい。有線通信による場合には、送信機4と受信機6の無線通信可能な範囲にとらわれずに、任意の距離で飛翔中の球体の回転計測を行なうことができる。
【0041】
上記データ記憶装置に記憶された3軸方向の加速度信号を取り込んで信号変換部でアナログ‐デジタル変換して得られた3軸方向の加速度データは、信号処理装置8に記憶される。また、信号処理装置8の演算処理部9は、3軸方向の加速度データからボール1が飛翔中の3軸方向の加速度成分を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に周波数解析処理(連続ウェーブレット変換処理)を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定する点や、抽出された3軸方向の合成加速度信号の振幅比から推定される回転軸を中心とする回転方向を表示装置に画面表示する点は前述した実施形態と同様である。
【0042】
以上の実施形態はバレーボール、軟式野球のボールの回転計測について説明したが、公式野球のボールや、ソフトボール、サッカーボール、テニスボールなどの他の球技に使用される球体の回転計測に応用することも可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 ボール
1a,1b ゴム材
1c 発泡材
1d プラスチックケース
1e 3軸加速度センサ及び送信機
1f 3軸ジャイロセンサ
2 加速度検出装置(センサ回路部)
3 3軸加速度センサ
4 送信機
5 受信回路部
6 受信機
7 A/D変換器
8 信号処理装置
9 演算処理部
10 表示装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転を伴って飛翔する球体と、該球体の重心若しくは重心近傍に設けられX軸,Y軸,Z軸の3軸の加速度を検出する加速度検出部と、該加速度検出部により検出された3軸の加速度信号を増幅して無線送信する送信機とを備えた加速度検出装置と、
前記送信機より無線送信された飛翔中の前記球体に作用した加速度信号を受信機にて受信してアナログ‐デジタル変換して加速度データとして出力する受信回路と、
前記受信回路から出力された加速度データを記憶するとともに前記球体が飛翔中の3軸方向の加速度信号を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に連続ウェーブレット変換処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度を推定し、前記3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸位置を算出する演算処理部と、を備えた信号処理装置と、
前記演算処理部で算出された球体の回転速度の推定値並びに推定される回転軸を中心とする回転方向を画面表示する表示装置と、を備えたことを特徴とする球体の回転計測装置。
【請求項2】
前記演算処理部は、球体が飛翔開始から飛翔終了までの間の所定時間内の加速度データから各データの平均値を除いたX,Y,Z軸方向の加速度成分を抽出し、合成加速度から最小二乗近似したものを引くことでオフセット分を除去する前処理を行なってから連続ウェーブレット変換処理を行うことにより、合成加速度の周波数振幅値の時間変化から、球体の回転速度及びその時間変化を求める請求項1記載の球体の回転計測装置。
【請求項3】
前記演算処理部は、前記抽出された3軸方向の加速度データの振幅比の時間変化から球体の回転軸を中心とする回転方向を推定する請求項1又は請求項2に記載の球体の回転計測装置。
【請求項4】
前記演算処理部は、球体の回転速度の推定値からマグナス力を推定して3軸方向の合成加速度の振幅値より差し引く演算処理を行なって空気抵抗力を推定し、推定された空気抵抗力より球速及びその時間変化を推定する請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の球体の回転計測装置。
【請求項5】
回転を伴って飛翔する球体の飛翔開始から飛翔終了までに当該球体に発生する加速度を、前記球体の重心若しくは重心近傍に設けられたX軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度検出部にて検出し、当該3軸方向の加速度信号を増幅して送信機より無線送信するステップと、
前記3軸方向の加速度信号を受信機にて受信してアナログ‐デジタル変換して得られた3軸方向の加速度データを信号処理装置に記憶するステップと、
前記信号処理装置の演算処理部が、前記3軸方向の加速度データから前記球体が飛翔中の3軸方向の加速度成分を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に連続ウェーブレット変換処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定し、前記抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸位置を算出するステップと、
前記加速度信号の周波数より推測される球体の推定回転速度並びに抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸を中心とする回転方向を表示装置に画面表示するステップと、を含むことを特徴とする球体の回転計測方法。
【請求項6】
回転を伴って飛翔する球体と、該球体の重心若しくは重心近傍に設けられX軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度を検出する加速度検出部と、該加速度検出部により飛翔開始から飛翔終了するまでの間に検出された3軸方向の加速度信号を記憶する記憶部と、を備えた加速度検出装置と、
前記記憶部に記憶された加速度信号を取り込んでアナログ‐デジタル変換して加速度データとして出力する信号変換部と、前記信号変換部から出力された加速度データを記憶するとともに前記球体が飛翔中の3軸方向の加速度信号を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に連続ウェーブレット変換処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定し、前記抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸位置を算出する演算処理部と、を備えた信号処理装置と、
前記演算処理部で算出された球体の回転速度の推定値並びに推定される回転軸を中心とする回転方向を画面表示する表示装置と、を備えたことを特徴とする球体の回転計測装置。
【請求項7】
回転を伴って飛翔する球体の飛翔開始から飛翔終了までに当該球体に発生する加速度を、前記球体の重心若しくは重心近傍に設けられたX軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度検出部にて検出し、検出された3軸方向の加速度信号を記憶部に記憶するステップと、
前記記憶部に記憶された3軸方向の加速度信号を信号処理装置に取り込んでアナログ‐デジタル変換し、演算処理部が前記3軸方向の加速度データから前記球体が飛翔中の3軸方向の加速度成分を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に連続ウェーブレット変換処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間的変化を推定し、前記抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸位置を算出するステップと、
前記加速度信号の周波数より推測される球体の推定回転速度並びに3軸方向の加速度データの振幅比から推定される回転軸を中心とする回転方向を表示装置に画面表示するステップと、を含むことを特徴とする球体の回転計測方法。
【請求項1】
回転を伴って飛翔する球体と、該球体の重心若しくは重心近傍に設けられX軸,Y軸,Z軸の3軸の加速度を検出する加速度検出部と、該加速度検出部により検出された3軸の加速度信号を増幅して無線送信する送信機とを備えた加速度検出装置と、
前記送信機より無線送信された飛翔中の前記球体に作用した加速度信号を受信機にて受信してアナログ‐デジタル変換して加速度データとして出力する受信回路と、
前記受信回路から出力された加速度データを記憶するとともに前記球体が飛翔中の3軸方向の加速度信号を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に連続ウェーブレット変換処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度を推定し、前記3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸位置を算出する演算処理部と、を備えた信号処理装置と、
前記演算処理部で算出された球体の回転速度の推定値並びに推定される回転軸を中心とする回転方向を画面表示する表示装置と、を備えたことを特徴とする球体の回転計測装置。
【請求項2】
前記演算処理部は、球体が飛翔開始から飛翔終了までの間の所定時間内の加速度データから各データの平均値を除いたX,Y,Z軸方向の加速度成分を抽出し、合成加速度から最小二乗近似したものを引くことでオフセット分を除去する前処理を行なってから連続ウェーブレット変換処理を行うことにより、合成加速度の周波数振幅値の時間変化から、球体の回転速度及びその時間変化を求める請求項1記載の球体の回転計測装置。
【請求項3】
前記演算処理部は、前記抽出された3軸方向の加速度データの振幅比の時間変化から球体の回転軸を中心とする回転方向を推定する請求項1又は請求項2に記載の球体の回転計測装置。
【請求項4】
前記演算処理部は、球体の回転速度の推定値からマグナス力を推定して3軸方向の合成加速度の振幅値より差し引く演算処理を行なって空気抵抗力を推定し、推定された空気抵抗力より球速及びその時間変化を推定する請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の球体の回転計測装置。
【請求項5】
回転を伴って飛翔する球体の飛翔開始から飛翔終了までに当該球体に発生する加速度を、前記球体の重心若しくは重心近傍に設けられたX軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度検出部にて検出し、当該3軸方向の加速度信号を増幅して送信機より無線送信するステップと、
前記3軸方向の加速度信号を受信機にて受信してアナログ‐デジタル変換して得られた3軸方向の加速度データを信号処理装置に記憶するステップと、
前記信号処理装置の演算処理部が、前記3軸方向の加速度データから前記球体が飛翔中の3軸方向の加速度成分を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に連続ウェーブレット変換処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定し、前記抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸位置を算出するステップと、
前記加速度信号の周波数より推測される球体の推定回転速度並びに抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸を中心とする回転方向を表示装置に画面表示するステップと、を含むことを特徴とする球体の回転計測方法。
【請求項6】
回転を伴って飛翔する球体と、該球体の重心若しくは重心近傍に設けられX軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度を検出する加速度検出部と、該加速度検出部により飛翔開始から飛翔終了するまでの間に検出された3軸方向の加速度信号を記憶する記憶部と、を備えた加速度検出装置と、
前記記憶部に記憶された加速度信号を取り込んでアナログ‐デジタル変換して加速度データとして出力する信号変換部と、前記信号変換部から出力された加速度データを記憶するとともに前記球体が飛翔中の3軸方向の加速度信号を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に連続ウェーブレット変換処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間変化を推定し、前記抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸位置を算出する演算処理部と、を備えた信号処理装置と、
前記演算処理部で算出された球体の回転速度の推定値並びに推定される回転軸を中心とする回転方向を画面表示する表示装置と、を備えたことを特徴とする球体の回転計測装置。
【請求項7】
回転を伴って飛翔する球体の飛翔開始から飛翔終了までに当該球体に発生する加速度を、前記球体の重心若しくは重心近傍に設けられたX軸,Y軸,Z軸の3軸方向の加速度検出部にて検出し、検出された3軸方向の加速度信号を記憶部に記憶するステップと、
前記記憶部に記憶された3軸方向の加速度信号を信号処理装置に取り込んでアナログ‐デジタル変換し、演算処理部が前記3軸方向の加速度データから前記球体が飛翔中の3軸方向の加速度成分を抽出し、3軸方向の合成加速度からオフセット分を除去する前処理を行なった後に連続ウェーブレット変換処理を行って得られた3軸方向の加速度信号の所定時間間隔における周波数振幅値の時間変化から球体の回転速度及びその時間的変化を推定し、前記抽出された3軸方向の加速度信号の振幅比から推定される回転軸位置を算出するステップと、
前記加速度信号の周波数より推測される球体の推定回転速度並びに3軸方向の加速度データの振幅比から推定される回転軸を中心とする回転方向を表示装置に画面表示するステップと、を含むことを特徴とする球体の回転計測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−58066(P2012−58066A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201172(P2010−201172)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月16日〜18日 社団法人計測自動制御学会制御部門主催の「第10回 計測自動制御学会 制御部門大会」にて発表
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(591137949)株式会社西澤電機計器製作所 (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月16日〜18日 社団法人計測自動制御学会制御部門主催の「第10回 計測自動制御学会 制御部門大会」にて発表
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(591137949)株式会社西澤電機計器製作所 (7)
【Fターム(参考)】
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