説明

球状セパレータを備えた転がり軸受

本転がりボール(2)軸受(1)は、間でボール(2)が回転軸(X1)のまわりを回転する外輪(7)および内輪(8)と、ボール(2)用の球状セパレータ(3)と、回転軸(X1)のまわりで回転するための球溝(14)であって、それに沿って前記球状セパレータ(3)が回転する球溝とを備える。球溝は、溝型断面部(14)であり、この溝型断面部(14)は、前記輪(7、8)の一方の一部分に固定されるまたは前記輪(7、8)の一方の一部分を形成する要素(13、23)内に形成され、前記球状セパレータ(3)の直径に適合した実質的に準環状の径断面を有し、それによって、横方向に保持され、前記輪(8、7)の他方と接触しない位置にある前記セパレータを収容する。このような転がり軸受は、特に宇宙産業において、非潤滑での使用にとりわけ適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールタイプの、球状セパレータを備えた転がり軸受装置に関する。具体的には、本発明は、傾斜接触を備えた、特に宇宙産業で用いることができるボール軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
特に宇宙産業では、ボール軸受に十分な潤滑をすることが不可能な状況がある。これは具体的には、それを装備するシステム、例えば望遠鏡またはストリップ選択ミラーに潤滑剤による汚染が生じ得る状況である。これはまた、転がり軸受が、例えば液体推進剤ポンプまたはアンモニアポンプの中で、化学媒質に接触する状況である。
【0003】
他の状況として、例えば転がり軸受を使用して微振動させる場合、一般的に潤滑は効果をなさない。
【0004】
非潤滑または潤滑が不十分なボール軸受の場合、ボールとの接触が本質的に摺動となるため、ケージまたはボールセパレータの寿命が大幅に減少する。
【0005】
球状セパレータは、一般に用いられるセパレータの本質的に摺動である接触を、球状の転がり軸受のボールとセパレータの間の転がり接触に置き換えることを可能にする。このことで転がり軸受の寿命を延長することが可能になる。これらの球状セパレータは、特有の補助球溝内でガイドされる。各々の球状セパレータはしたがって、球溝上およびそれが分離する2つの隣接する転がり軸受のボール上で、同時に遊びをもって回転する。
【0006】
従来技術では、このようなセパレータは、その回転軸がボールの回転軸および輪の回転軸(転がり軸受の軸)と可能な限り平行となるように配置される。この必要条件は、外および内輪の張り出しおよび製造という点に、大きな制約を与える。さらに、ボールおよび球状セパレータが、それらのガイド部材に対し有しなければならない前述の遊びのために、この遊びが累積すると、運転時および停止時に、球状セパレータが2つのボールの間を横方向に外れるような状況になることがある。
【0007】
文献EP1022476は、2つの転がり軸受輪の一方に固定された要素に形成された球溝上に載る球状セパレータを備えた転がりボール軸受について記載している。その転がり軸受の形状によると、球状セパレータは、前述の球溝と他方の輪の間の位置に保持される。
【0008】
ボールおよび球状セパレータが必然的に有する遊びのために、運転時に後者の部品は、他方の輪に対して留まるように作られることが必要である。さらに、球状セパレータはボールと反対方向に回転するが、この部品は固定されるかボールと同じ方向に回転する。したがって球状セパレータは、回転軸と平行な軸を有する構成要素に沿って大きく異なる速度の構成要素を有する2つの部品上に載っており、これにより摺動を生じ、それゆえ摩擦およびその結果として摩耗を生じる。
【0009】
さらに球状セパレータは、他の軸受輪と、その縁部または円錐部、すなわち摩耗因子と同等の非常に大きなヘルツ応力の原因になる著しく小さくなった表面に沿って接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】EP1022476
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来技術の球状セパレータの欠点を持たない、具体的には摩擦を最小にしつつ球状セパレータの保持を確実にできる球状セパレータを備えた転がり軸受を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このために、本発明は、外輪および内輪であって、それらの間でボールが回転軸のまわりを回転する、外輪および内輪と、ボール用の球状セパレータと、回転軸のまわりで回転するための球溝であって、それに沿って前記球状セパレータが回転する球溝と、を備えた転がりボール軸受に関連し、球溝が溝型断面部であり、溝型断面部は、前記輪の一方の一部分に固定されるまたは前記輪の一方の一部分を形成する要素内に形成され、前記球状セパレータの直径に適合した実質的に準環状の径断面を有し、それによって、横方向に保持され、前記輪の他方と接触しない位置にある前記セパレータを収容する点で注目に値する。
【0013】
本発明によって、実質的に準環形状の断面および球状セパレータの直径に適合した直径を有する溝型断面部は、セパレータに関して、以下を同時に可能とする囲繞形状を有する。
- 停止時または運転時に、機能上の遊びならびに重力および/または遠心力の影響下でセパレータが離脱することを防ぐために、球状セパレータの横方向の保持機能を確実にする。
- この保持機能を確実にするために、大きく異なる速度を有する他の部品とセパレータとの接触を防止する。
- 球状セパレータと溝型断面部の間に結果として生じる接触面によるヘルツ応力を最小にする。
【0014】
本発明による転がり軸受では、各々の球状セパレータは半径方向の軸のまわりを回転する構成要素および軸方向の軸のまわりを回転する構成要素を有し、それによって回転のその瞬間軸が非常に顕著に連続的に変化する。そのため、隣接するボールとの溝型断面部に対するセパレータの接触点は、同じ円上に留まること無くセパレータの表面上を移動し、それによって接触がセパレータの広い接触面で生じ、セパレータの摩耗がそれにより減少される。摩耗は、またより適切に分散され、セパレータは長期間にわたり実質的に球形状を維持する。転がり軸受の寿命はそのことにより延長される。
【0015】
本発明はまた、単独または組み合わせが考えられる以下の特徴の1つまたはいくつかのものを備える転がり軸受に関する。
- セパレータは、60°以下、好ましくは30°以下の半径方向オフセット角を有し、前記角度は半径方向平面内で測定され、回転軸の同じ側にある前記半径方向平面内の前記ボールおよび前記セパレータのそれぞれの中心である符号を結ぶ一方の直線部分と、他方の前記回転軸との間の角度である。
- 溝型断面部は、回転時に外輪または別法として内輪に固定される要素によって支持される。
- 溝型断面部を支持する要素は、前記輪と一体となっている、または別法として前記輪に締結固定された環状部である。
- 転がり軸受は、傾斜接触角をもつ転がり軸受である。
【0016】
本発明はまた、宇宙船のためおよび/または非潤滑での、上に定義した転がり軸受の使用に関する。
【0017】
本発明の他の独自性および利点は、限定しない例に関連し、下記の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による転がり軸受のための第1の実施形態の、図2の切断線I-Iに沿った概略軸断面図である。
【図2】図1の切断線II-IIに沿った、図1の転がり軸受の横断面図である。
【図3】本発明による転がり軸受のための第2の実施形態の、図1のものと同様の片側軸断面図である。
【図4】半径方向オフセット角の測定法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示された実施形態で、本発明による転がり軸受1は、転がりボール2軸受1である。転がり軸受は、回転の長手方向軸X1に関して実質的に対称である。
【0020】
転がり軸受のボールは、分離するボール3により互いに隔離されている。以下の説明では、簡略化のために、転がり軸受のボール2をボール2と呼び、分離するボール3をセパレータ3と呼ぶ。
【0021】
図1の平面は、すなわち回転軸X1を含む軸平面である。図1の平面は、図示された直径方向に対向する2つのボール2の正中面である。図示されたセパレータ3は、図2の平面の前方にあり、図1の平面で正投影によりそこに示される。
【0022】
転がり軸受1は、ボール2のための外側球溝11および内側球溝12を各々それぞれ形成する外輪7および内輪8を備える。転がり軸受1は、傾斜接触をもつ転がり軸受であり、すなわち転がり軸受のボール2は、回転軸X1と非直角の接触角A2を形成する接触軸X2に沿って球溝上に載っている。
【0023】
その軸方向端部の1つ17で、外輪7は、軸X1に向かって実質的に半径方向に延在する延長部13を備える。この延長部13は、セパレータ3の回転のための溝型断面部14と呼ぶ補助球溝を形成する。溝型断面部は、セパレータのガイドを可能にし、外側球溝11に関するセパレータの位置、したがってセパレータが分離するボールに関するそれらの位置を画定する。溝型断面部は、回転軸X1のまわりを回転し、実質的に準環状の断面、すなわち実質的には半環形状を有する。
【0024】
溝型断面部14の実質的に準環状の断面の直径は、セパレータ3の直径に適合するが、動作上の遊びが溝型断面部内でのセパレータの回転のために設けられる。そのような遊びは、特に組立ての不静定性を回避し、セパレータ中での転がり軸受のプレストレスまたは負荷応力の進行を防ぐことを可能にする。
【0025】
セパレータ3の中心と回転軸X1間の半径方向距離R3は、ボール2の中心と回転軸X1間の半径方向距離R2より小さい。
【0026】
図3に示された転がり軸受1の実施形態は、図1および図2に示された実施形態との相違点のみについて説明する。図1および図3の実施形態の間で、同様の要素には同じ参照符号を付してある。
【0027】
図3で示した例では、溝型断面部14を支持する突起13が無い。この例において、溝型断面部は環状部23によって支持される。環状部は固定入れ子または接着によって内輪8に締結され、それによって内輪8および環状部23が、転がり軸受1の回転時、正常な運転状態において固定される。
【0028】
内輪8は、その軸方向端部の1つ18に環状部23の補足肩部25と協働する肩部24を備え、それによって環状部は、特にボールとセパレータの間の接触応力のもとで、軸方向端部18を乗り越えて移動できない。
【0029】
溝型断面部14は、セパレータ3の中心と回転軸X1の間の半径方向距離R3が、ボール2の中心と回転軸X1の間の半径方向距離R2より大きくなるように、環状部23上に配置される。
【0030】
図4は、転がり軸受が運転時に画定される、ボール2に対するセパレータ3の半径方向オフセット角A3の測定法を示す。図4の平面は半径方向平面P4であり、すなわち回転軸X1を含む平面である。
【0031】
図4において、点T2および点T3は、ボール2およびセパレータ3が回転軸X1の「上方」に位置する平面P4と交差する際の、それぞれボール2およびセパレータ3の中心を表す平面P4内の印を示している。ボールおよびセパレータのそれぞれの周辺を表す印は、それぞれ参照符号2および3として破線で示されている。
【0032】
角度A3は、符号T2およびT3を結ぶ直線部分D23と、軸X1または図4で示されるように平面P4内の軸X1と平行な直線D1との間で測定される。
【0033】
本発明によれば、用語「オフセット角」は実際のオフセット角、すなわち転がり軸受の運転を通じて、遊びならびにボールおよびセパレータに加えられる力、特に遠心力に応じて確立されるオフセット角を意味する。このオフセット角の定義は、本文献全体で有効である。理論的なオフセット角は、特にボールとセパレータの間に存在する遊びを考慮に入れない角度である。理想的には、半径方向オフセット角は実質的に0でないことが求められる。
【0034】
オフセットA3は、図1で示されるように軸X1の方向におよび/または図3および図4で示されるように反対の方向にあることが可能である。
【0035】
はっきりとしたセパレータの軸オフセットは、転がり軸受の半径方向の張り出しを著しく減少することを可能にする。したがって、転がり軸受の組立ては、従来の解決策に対し容易になるが、これは溝型断面部が、その溝型断面部を支持する輪と反対の輪のすぐ近傍にもはやないので、セパレータを溝型断面部内に軸方向に導入することができるためである。
【0036】
1つの好ましい構成(図示されない)において、ボールの平均回転半径は、セパレータの平均回転半径と等しく、すなわちR3=R2の場合となる。この好ましい構成では、理論上、ボールに対するセパレータの半径方向のオフセットは無く、すなわち半径方向のオフセットを測定する理論的な角度は0である。しかしながら、この構成において、実際のオフセット角が30°に達することがある。このオフセット角は、具体的にはR2、R3の回転半径の値、ボールおよびセパレータの直径、溝型断面部の横断面、製造限界および遊びに依存する。この好ましい構成で、半径方向の張り出しが最小になり、特に最適化された配置を可能にする。
【0037】
もちろん本発明は、上述された例に限定されず、本発明の範囲を逸脱することなく多くの改良をこれらの例に加えることができる。
【0038】
特に第1の実施形態に示されるような突部は、外輪によってではなく内輪によって支持することもできる。したがって第2の実施形態で示されるような環状部は、内輪にではなく外輪に締結することができる。
【0039】
少なくとも溝型断面部を支持しない輪の球溝は、溝、好ましくは深溝によって形成されることが好ましい。
【0040】
好ましい実施形態によれば、溝型断面部は内輪によって支持される。この構成において、製造が容易になり動作が向上することが、研究により示されている。
【0041】
本発明は、傾斜接触をもつ転がり軸受に限定されず、直線型の転がり軸受に適用することもできる。
【0042】
1つのみの溝型断面部を有する代わりに、本発明による転がり軸受は、各々の側に1つずつ、2つの溝型断面部を備えることができ、それによって隣接する転がり軸受のボールの各対が、ボール対の軸方向両側に配置された1対の球状セパレータによって分離される。
【0043】
溝型断面部を支持する環状部に伴う補足肩部は無くてもよい。実際、入れ子または接着による環状部を支持する輪上への環状部の締結により、軸方向応力を十分受けることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 転がり軸受
2 ボール
3 セパレータ
7 外輪
8 内輪
11 外側球溝
12 内側球溝
13 延長部、要素
14 溝型断面部
17 軸方向端部の1つ
18 軸方向端部の1つ
23 環状部、要素
24 肩部
25 補足肩部
A2 接触角
A3 半径方向オフセット角
D1 直線
D23 直線部分
P4 半径方向平面
R2 半径方向距離
R3 半径方向距離
T2 点
T3 点
X1 回転軸
X2 接触軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がりボール(2)軸受(1)であって、
外輪(7)および内輪(8)であって、それらの間で前記ボール(2)が回転軸(X1)のまわりを回転する、外輪(7)および内輪(8)と、
前記ボール(2)用の球状セパレータ(3)と、
前記回転軸(X1)のまわりで回転するための球溝(14)であって、それに沿って前記球状セパレータ(3)が回転する球溝(14)と、を備えた転がりボール軸受において、
前記球溝が溝型断面部(14)であり、前記溝型断面部(14)は、前記輪(7、8)の一方の一部分に固定されるまたは前記輪(7、8)の一方の一部分を形成する要素(13、23)内に形成され、前記球状セパレータ(3)の直径に適合した実質的に準環状の径断面を有し、それによって、横方向に保持され、前記輪(8、7)の他方と接触しない位置にある前記セパレータを収容することを特徴とする、転がりボール軸受。
【請求項2】
前記セパレータが、60°以下の半径方向オフセット角(A3)を有し、前記角度(A3)は、半径方向平面(P4)内で測定され、前記回転軸(X1)の同じ側にある前記半径方向平面内の前記ボール(2)および前記セパレータ(3)のそれぞれの中心である符号(T2、T3)を結ぶ一方の直線部分(D23)と、他方の前記回転軸(X1)との間の角度であることを特徴とする、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記オフセット角が、30°以下であることを特徴とする、請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記溝型断面部(14)は、回転時に、前記外輪(7)に固定された要素(13)によって支持されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記溝型断面部(14)は、回転時に、前記内輪(8)に固定された要素(23)によって支持されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記要素(13)が、前記輪(7、8)と一体になっていることを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の転がり軸受。
【請求項7】
前記要素が、前記輪(7、8)に締結固定される環状部(23)であることを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の転がり軸受。
【請求項8】
傾斜接触角(A2)をもつ転がり軸受であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の転がり軸受。
【請求項9】
宇宙船のための請求項1から8のいずれか一項に記載の転がり軸受の使用。
【請求項10】
非潤滑である請求項1から8のいずれか一項に記載の転がり軸受の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2011−519002(P2011−519002A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506758(P2011−506758)
【出願日】平成21年4月29日(2009.4.29)
【国際出願番号】PCT/FR2009/050792
【国際公開番号】WO2009/138695
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(500201613)センタ・ナショナル・デチュード・スパティアレ (5)
【Fターム(参考)】