説明

球状ペルオキソチタン水和物及び球状酸化チタン並びにそれらの製造方法

【課題】ニオブ等の金属元素を含有した球状ペルオキソチタン水和物及び球状酸化チタンを提供すること。
【解決手段】Nb、Zr、Ta、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、Si、Al、Mo、V、Sb、W及びHfから選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有するペルオキソチタン酸溶液を20℃以下の温度に保持して平均粒子径で0.1〜5μmの金属元素を含有する球状ペルオキソチタン水和物を得る。
さらに得られた球状粒子を加熱処理して金属元素を含有する二酸化チタンを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、化粧料、有色顔料、触媒、光触媒、熱線反射材料、電磁遮蔽、導電材等に有用な金属元素を含有する球状ペルオキソチタン水和物及び該金属元素を含有する球状二酸化チタン並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタンに金属元素を含有することで、有色顔料、光触媒、導電性等の用途で広く利用することができる。例えば、金属元素として、Fe、Cu、Mo、Nbなどをドープする方法として、過酸化水素と混合してなるチタン含有水溶液と金属塩を70〜300℃で加熱処理する方法(特許文献1)、カルボン酸など有機物が配位した有機チタンペロキシ化合物と金属塩を水に溶解後、濃縮してゲル化したものを熱処理する方法(特許文献2)が知られている。また,金属元素としてNb等をドープする方法として、チタン水溶液と金属塩を加え水熱処理する方法や、塩基性物質などの沈殿形成剤の添加による沈殿物やゲル化物を熱処理する方法が知られている(特許文献3)。
【0003】
【特許文献1】特開2006-21991号公報
【特許文献2】特開2000-159786公報
【特許文献3】特開2004-199641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1〜3に開示されている金属ドープの酸化チタンの製造方法では、溶液の加熱処理、有機物含有物のゲル化、沈殿剤の添加による沈殿物やゲル化といった、溶液の加熱にエネルギーを消費する方法、沈殿物やゲル化物の濾過分別に長時間を要しエネルギーを消費する方法である。さらに、沈殿物やゲル化物では金属ドープ酸化チタンとするために、熱処理が必要で、焼結による固い凝集塊が生じ、これを粉砕するためにエネルギーを消費する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、より安価な金属ドープ酸化チタンの製造方法を見出すべく種々検討したところ、Nb、Zr、Ta、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、Si、Al、Mo、V、Sb、W及びHfから選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有するペルオキソチタン酸溶液を20℃以下の温度に保持すると平均粒子径で0.1〜5μmの金属元素を含有する球状ペルオキソチタン水和物が生成すること、さらに得られた球状粒子を加熱処理すると金属元素を含有する二酸化チタンが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、ペルオキソチタン酸溶液を20℃以下の温度に保持してNb、Zr、Ta、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、Si、Al、Mo、V、Sb、W及びHfから選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有する球状ペルオキソチタン水和物を生成させた後、固液分離することを特徴とする金属元素を含有する球状ペルオキソチタン水和物の製造方法である。また、前記球状ペルオキソチタン水和物を加熱処理することを特徴とする金属元素を含有する球状酸化チタンの製造方法である。
すなわち、本発明は、ペルオキソチタン酸溶液に金属元素化合物を添加し、塩基性物質を添加した後、溶液の凝固点以上で20℃以下の温度で保持して球状粒子を生成させ、得られた球状粒子を固液分離し、焼成することを特徴とする金属元素を含有する球状酸化チタンの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の球状酸化チタンの製造方法は、製造時のエネルギー消費量が少なく、工業的に有利に金属元素を含有する球状酸化チタンを製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、金属元素を含有する球状ペルオキソチタン水和物の製造方法であって、Nb、Zr、Ta、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、Si、Al、Mo、V、Sb、W及びHfから選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有するペルオキソチタン酸溶液を20℃以下の温度に保持して球状粒子を生成させた後、固液分離することを特徴とする。
【0009】
原料として用いるNb、Zr、Ta、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、Si、Al、Mo、V、Sb、W及びHfから選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有するペルオキソチタン酸溶液は、例えば、金属チタン、酸化チタン等のチタン原料を過酸化水素に溶解させた後、該金属元素の溶液を添加した後、塩基性物質を添加することで得ることができる。本発明においては、金属元素を含有するペルオキソチタン酸溶液の濃度は、Tiのモル濃度で0.01〜1mol/lの範囲が好ましい。金属元素としてはTi原子に対して0.1から50atm%の範囲が望ましい。それより多いと球状粒子が生成し難くなる。添加する塩基性物質としては、アンモニア、モノエタンールアミン、水酸化ナトリウムなどのアルカリを用いることができるが、本発明においてはアンモニアが好ましい。塩基性物質の添加量は、0.1〜10mol/lの範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜5mol/lの範囲である。塩基性物質の添加温度は、5〜30℃の範囲が好ましく、より好ましくは10〜25℃の範囲である。チタン原料を過酸化水素に溶解させた溶液に、金属元素の溶液を添加した後、塩基性物質を添加すると、溶液は透明溶液となり、この状態で、溶液の温度を20℃以下に保持することで、溶液中に金属元素を含有する球状ペルオキソチタン水和物が析出する。保持する時間は、少なくとも24時間は必要であり、好ましくは24〜60時間である。溶液を保持する温度が、上記範囲よりも高いと、粒子の析出が起こらず、ゲル化する。塩基性物質の添加量と析出温度を調整することにより、析出する金属元素を含有する球状ペルオキソチタン水和物の粒子径を制御することができるが、通常は0.2〜5μmの範囲の金属元素を含有する球状ペルオキソチタン水和物を得ることができる。得られた金属元素を含有する球状ペルオキソチタン水和物は、金属イオンと共にペルオキソ基やOH基を含む水和物で、X線回折測定からはアモルファス状態であり、示差熱−重量分析(TG−DTA)から300から350℃付近までOH基等が存在しているものである。
また、金属元素を含有する球状ペルオキソチタン水和物の固液分離は、炉過、水洗、乾燥により行うことができる。本発明の金属元素を含有する球状ペルオキソチタン水和物は、後記の球状酸化チタンを得るための前駆体としての用途のみならず、触媒、光触媒等の用途にも有用なものである。
【0010】
次の本発明はNb、Zr、Ta、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、Si、Al、Mo、V、Sb、W及びHfから選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有する球状酸化チタンの製造方法であって、前記の金属元素を含有する球状ペルオキソチタン水和物を加熱処理することを特徴とする。加熱の温度は、少なくとも150℃の温度があればよく、200〜1000℃の範囲が好ましい。金属元素を含有するペルオキソチタン水和物は非晶質の粒子であるが、このものを150〜400℃の範囲の温度で加熱処理することで該水和物に含まれる結晶水が一部残存したアナタース型の球状酸化チタンが得られる。また、400〜800℃の範囲の温度で加熱処理することでアナタース型の球状酸化チタン、800〜1000℃の範囲の温度で加熱処理することで、ルチル型、或いは、ルチル型とアナタース型の混在した金属元素を含有する球状酸化チタンが得られる。アナタース型の構造を含む球状酸化チタンは触媒、光触媒、導電材に特に有用である。また、ルチル型の構造を含む球状酸化チタンは、塗料、有色顔料、熱線反射材料に特に有用である。本発明においては、上記温度範囲で加熱しても、加熱の前後で粒子形状の変化はほとんどなく、加熱前の球状粒子の形状が維持された金属元素を含有する酸化チタンを得ることができる。
【0011】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はそれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0012】
実施例1
(ペルオキソチタン酸溶液の作成)
酸化チタン4g(PT−301:石原産業株式会社製高純度酸化チタン)に30%の濃度のH水溶液100mlを添加し、金属元素NbとしてNbOCl3を0.20g含む水溶液を添加し、その後、25%の濃度のNH水溶液25mlを添加してpHを10.1に調整した後、15℃温度で保持して酸化チタンを溶解させることで、ペルオキソチタン酸溶液を得た。
(ペルオキソチタン酸溶液の作成)
【0013】
(球状ペルオキソチタン水和物の生成)
得られたペルオキソチタン酸溶液を10℃の温度で36時間保持して球状ペルオキソチタン水和物を生成させた。次いで懸濁液をろ過、水洗、乾燥することで固液分離し本発明の金属元素(Nb)含有の球状ペルオキソチタン水和物(試料A)を得た。(Nb/Ti=0.02)
【0014】
(加熱処理)
得られた球状ペルオキソチタン水和物(試料A)を大気中600℃の温度で2時間加熱処理して本発明の球状酸化チタン(試料B)を得た。
【0015】
実施例2
実施例1のペルオキソチタン酸溶液の作成において、金属元素NbとしてNbOCl3を1.02g含む水溶液を添加すること以外は同様にして、ペルオキソチタン酸溶液を得た。(Nb/Tiの原子比=0.02)。球状粒子の生成と焼成も実施例1と同様にして本発明の球状酸化チタン(試料B)を得た。
【0016】
実施例3
実施例1のペルオキソチタン酸溶液の作成において、金属元素NbとしてNbOCl3を1.53g含む水溶液を添加すること以外は同様にして、ペルオキソチタン酸溶液を得た。(Nb/Tiの原子比=0.15)。球状粒子の生成と焼成も実施例1と同様にして本発明の球状酸化チタン(試料C)を得た。
【0017】
実施例4
実施例1の焼成において、得られた球状粒子を管状炉内に装入し、N2(25容積%)−H2(75容積%)の混合ガスを2リットル/分で流して、600℃の温度で2時間焼成することで本発明の球状酸化チタン(試料D)を得た。
【0018】
実施例5
実施例3の焼成において、得られた球状粒子を、管状炉内に装入し、N2(25容積%)−H2(75容積%)の混合ガスを2リットル/分で流して、600℃の温度で2時間焼成することで本発明の球状酸化チタン(試料E)を得た。
【0019】
比較例1
実施例1の球状粒子の生成において、保持する温度及び時間を60℃、8時間とした場合には、ゲル化して塊となることから、大気中600℃で焼成後、これを乳鉢で粉砕して比較試料の酸化チタン(試料F)を得た。
【0020】
実施例1〜5及び比較例1で得られた金属元素(Nb)を含有する酸化チタン(試料A、Bの走査型電子顕微鏡写真を撮影し、粒子形状及び平均粒子径を算出した。各試料の走査型電子顕微鏡写真をそれぞれ図1〜7に示した。図1及び2より、本発明の製造方法で得られる金属元素を含有する酸化チタンは、その粒子形状が球状であり、平均粒子径は試料Aは1.56μmであることがわかった。試料B〜Fの平均粒子径は表1に示した。一方、図7として、比較試料(試料F)の酸化チタンでは、ゲル化した塊となることから、焼成後、これを乳鉢で粉砕したものを示した。
なお、試料B〜FとGの結晶形を粉末X線回折により確認したところ、何れもアナターゼ型の構造を有していた。
【0021】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、塗料、化粧料、有色顔料、触媒、光触媒、熱線反射材料、電磁遮蔽、導電材等として有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】試料Aの粒子形状を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】試料Bの粒子形状を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】試料Cの粒子形状を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】試料Dの粒子形状を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】試料Eの粒子形状を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】試料Fの粒子形状を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】試料Gの粒子形状を示す走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nb、Zr、Ta、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、Si、Al、Mo、V、Sb、W及びHfから選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有し、0.2〜5μmの範囲の平均粒子径を有することを特徴とする球状ペルオキソチタン水和物。
【請求項2】
金属元素をチタンに対して0.1〜50atm%含むことを特徴とする請求項1に記載の球状ペルオキソチタン水和物。
【請求項3】
Nb、Zr、Ta、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、Si、Al、Mo、V、Sb、W及びHfから選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有し、0.2〜5μmの範囲の平均粒子径を有することを特徴とする球状酸化チタン。
【請求項4】
金属元素をチタンに対して0.1〜50atm%含むことを特徴とする請求項3に記載の球状酸化チタン。
【請求項5】
Nb、Zr、Ta、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、Si、Al、Mo、V、Sb、W及びHfから選ばれる少なくとも一種の金属元素を含有するペルオキソチタン酸溶液を20℃以下の温度に保持して該金属元素を含有する球状ペルオキソチタン水和物を生成させた後、固液分離することを特徴とする球状ペルオキソチタン水和物の製造方法。
【請求項6】
少なくとも24時間保持することを特徴とする請求項5に記載の球状ペルオキソチタン水和物の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の球状ペルオキソチタン水和物を加熱処理することを特徴とする球状酸化チタンの製造方法。
【請求項8】
200〜1000℃の範囲の温度で加熱処理することを特徴とする請求項7に記載の球状酸化チタンの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−156167(P2008−156167A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347638(P2006−347638)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】