球状多成分ガラス微粒子
【課題】シリカをベースとし他の成分を1種以上含むガラスからなるナノレベルの粒子径を有する球状ガラス微粒子及びセラミックスの焼結を容易にするための、そのような球状ガラス粒子よりなる焼結助剤を提供する。
【解決手段】組成として,酸化物換算で,SiO2を40〜97モル%の量で含有し,Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を60モル%以下の量で含有するか, B2O3を40モル%以下の量で含有するか,又はMgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,球状ガラス微粒子。
【解決手段】組成として,酸化物換算で,SiO2を40〜97モル%の量で含有し,Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を60モル%以下の量で含有するか, B2O3を40モル%以下の量で含有するか,又はMgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,球状ガラス微粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,多成分よりなる球状ガラス微粒子に関し,より詳しくは,シリカをベースとし他の成分を1種以上含むガラスからなるナノレベルの粒子径を有する球状ガラス微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
SiO2とそれ以外の成分とを含んだ多成分ガラスの粉末は,例えば,低温同時焼成基板の製造等において,セラミックに混合することで焼結温度を低下させる材料(焼結助剤)として使用されている。しかしながら,そのようなガラス粉末を構成するガラス微粒子の製造は,一般に,溶融,急冷,粉砕及び乾燥という工程を経て行われている。これは,ガラスを液状化する工程を含むため,1000℃以上の高温の溶融工程が必要であり,エネルギー消費が極めて大きい。またガラス原体の粉砕によって得られる粒子は,平均粒子径300nmが実際上の下限であり,これより小さな粒子を得ることは,粒子径の制御の困難性やコストの点から,実質的に不可能である。それに加えて,ガラス原体の粉砕により得られるガラス粒子は,粒子径の分布幅が非常に広いものとなり,粗大な粒子が大きな割合で含まれることとなる。更には,機械的粉砕によって製造される関係上,個々の粗粒子への衝撃の伝播は不均一である結果,得られる粒子は様々な形状のいびつな破砕片である。
【0003】
極薄のシート加工や微細なパターニングの形成が必要となる電子部品を,ガラス粉末を材料に用いて作製する場合,使用するガラス粉末は,粒子径分布の上限が各場合における所定の値より小さくなければならない。これは,より大きなガラス粒子が含まれていると,作製された電子部品の表面からガラス粒子の一部が突出することとなり,その電子部品を不良品にしてしまうからである。しかしながら,従来のガラス粉末では,この要求を満たすことは極めて困難である。また,従来のガラス粒子は形状のいびつな破砕片からなり,各粒子の凸凹が大きいが,このことも,焼結したとき焼結体の表面から突起を飛び出し易くし,電子部品の不良化をもたらす。更には,ガラス粉末と他の材料とを混合するに際して,ガラス粉末の粒子径の分布幅が大きく且つ各粒子の形状がいびつであることは,他の材料中でガラス粒子の分散性を低下させて,ガラス粒子を均一に分散させにくくして,焼結助剤としての効果を不確実にする。
【0004】
このような現状にあって,平均粒子径が十分に小さく,粒子径の分布幅がごく狭く,且つ球状の微粒子からなるものであるガラス粉末を用いることができれば,これを材料として含む焼結体の表面から突起が飛び出すことが実質的になくなると共に,ガラス粒子の表面にかかる親和力が均一となって,分散性の向上も図ることができる筈である。
【0005】
現状では,球状で粒子径の分布幅の極めて狭い多成分粒子であって,粒子径が1000nm以下のものは生産されていない。球状で,平均粒子径が数十〜1000nm未満,特に数十〜数百nmの範囲内にあり,且つ粒子径の分布幅の極めて狭い球状多成分ガラス微粒子を製造することができれば,そのような球状ガラス微粒子は電子デバイスの焼結助剤のみならず,更には化粧品,医薬品,分析試薬等のような分野で,新素材として種々の製品の開発に利用できる可能性を秘めている。
【0006】
一方,シリカのみからなるガラスの球状微粒子については,テトラアルキルシリケートを加水分解することにより得られることが知られている(非特許文献1参照)。しかしながら,シリカのみからなる粒子は,融点が高いため焼結可能温度も高くなり,焼結助剤として用いるには適さない。
【0007】
合成シリカの製造方法としては,テトラアルコキシシランをアンモニウム塩の存在下に塩基性条件下で加水分解することによる方法も知られている(特許文献1参照)。しかしながらこの方法によって得られるシリカ粒子は,径が数十〜150μm程度の大型の粒子であり,ナノレベルの粒子を得ることはできない。
【0008】
更に,シリカ微粒子の製造法として,アルコールと炭化水素とを含む溶媒中で,アルキルシリケート,アンモニア及び水を混合し接触させることによるものが知られている(特許文献2参照)。それによれば,アルコールと炭化水素の混合物を使用することにより,粒子の成長がコントロールされ,且つ粒子の凝集が防止できるとされている。しかしやはり純粋なシリカよりなる粒子であるため,融点及び焼結温度が高く,焼結助剤には適さない。
【0009】
シリカを主体とし不純物として他の金属イオン成分も含んだ粒子については,原料をガス火焔≡と共に竪型炉の上部から炉内に噴射して溶融し球状体を製造する方法が知られている(特許文献3参照)。この方法によれば不純物を含んだシリカの球状粒子が製造できるが,粉砕した原料を火焔中で溶融することによっているため,溶融シリカ粒子の粒径もその粉砕粒子の粒径と炉内での融合により規定され,500μm付近を上限として分布した大きな粒径の粒子しか得ることができない。
【0010】
また,SiO2と,アルミニウムのような価数が配位数より少ない金属の有機金属化合物からなり,抗菌性金属(Ag)のイオンを含有する抗菌性ガラス微小球が知られている(特許文献4参照)。この抗菌性ガラス微小球は,テトラエトキシシランとアルミニウムアルコキシドとを水含有エタノール中で加水分解させ,その後に銀塩とアルカリ触媒を加えて球状化し,乾燥後,1000℃に加熱することにより得られるものである。これにより得られる粒子は1μm以上の粒子径のものである。また1000℃で2時間加熱してガラス化させるものであるため,製造段階で必要な高温での加熱処理は,エネルギー消費が大きく,コスト面及び環境負担の面からも好ましくない。
【0011】
また,SiO2−Na2O微粒子の作製について,乾燥窒素雰囲気中でテトラエトキシシランをエタノール中に加え,pHを調整した水を加えて撹拌し反応させた後,NaOHとエタノールと水の混合溶液を加えることによる方法が知られている(非特許文献2参照)。しかしながらこの方法は,窒素雰囲気下に行われるため,大量生産に適さない。
【0012】
SiO2−Na2O微粒子から,イオン交換によりSiO2−MgO及びSiO2−CaOという2成分系微粒子を作製する方法が知られており(非特許文献3参照),それによれば,エタノール濃度が90%以上の含水エタノール中に硝酸マグネシウム又は硝酸カルシウム及びヒドロキシプロピルセルロースを溶解させ,これにSiO2−Na2O微粒子を添加し40℃にて撹拌することにより,目的の2成分系微粒子が得られる。しかしながらこの方法は,反応溶媒としてエタノールを高濃度で用いているため,大量生産をする上で,溶媒の大量回収を要するなどコスト的に不利であるうえ、イオン交換後にも少なくともNa/Si≒0.1の割合でNaが残存している。
【0013】
更に,エタノール中,ヒドロキシプロピルセルロース存在下でのテトラエトキシシランとNaOHとの反応により製造されるSiO2−Na2O微粒子の平均粒子径について,その水酸化ナトリウム濃度及びヒドロキシプロピルセルロースの分子量に対する依存性が報告されている(非特許文献4参照)。同文献においても,エタノール中でのテトラエトキシシランとNaOHとの反応は,上記非特許文献2と同様,乾燥窒素雰囲気中で行われている。
【0014】
【特許文献1】特公平1−59975号公報
【特許文献2】特公平4−15169号公報
【特許文献3】特開昭58−145613号公報
【特許文献4】特開2001−97735号公報
【非特許文献1】Journal of Colloid and Interface Science, 26: 62-69(1968).
【非特許文献2】Inorganic Materials, Vol. 5, 321-327 (1998).
【非特許文献3】Journal of Non-Crystalline Solids, 255, 178-184 (1999).
【非特許文献4】Journal of Non-Crystalline Solids, 321, 2-9 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記背景において,本発明の一目的は,多成分からなり球状で粒度分布の極めて狭い,粒径が1μmより小さいガラス微粒子(ナノガラス粒子)を提供することである。
本発明の更なる一目的は,そのようなガラス微粒子であって,焼成を要さずに製造することのできるものを提供することである。
本発明のなおも更なる一目的は,セラミックスの焼結を容易にするための,そのような球状ガラス粒子よりなる焼結助剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的のため検討の結果,本発明者らは,(A)大気中において,ホウ酸と少量のアンモニア水とを含有するアルコール(エタノール等)に,テトラエトキシシランを撹拌しつつ加水分解させることにより,酸化ケイ素及び酸化ホウ素からなる球状微粒子が反応液中に形成され,これを取り出して乾燥(例えば100℃以下のような比較的低温条件下に)させるだけで,数十〜1000nmの範囲内,特に数十〜数百nmの範囲内に平均粒子径を有し且つ粒子径分布の極めて狭い球状のガラス粒子が得られることを見出した。
また本発明者らは更に,(B)大気中において,テトラエトキシシランのアルコール(エタノール等)溶液を撹拌しつつ,アルカリ金属水酸化物の溶液を加えることにより,テトラエトキシシランの加水分解反応及び重合反応が促進されそれにより,酸化ケイ素及びアルカリ金属酸化物からなる球状微粒子が得られること,及び更にこの球状微粒子をカルシウム,マグネシウム,バリウム等のアルカリ土類金属の塩(塩酸塩,硝酸塩など)及び/又はホウ酸塩を含む水溶液に分散させることにより,ガラス微粒子中のアルカリ金属イオンと媒質中のアルカリ土類金属イオン及び/又はホウ素イオンとの間でイオン交換が起こり,組成としてSiO2−アルカリ金属酸化物−アルカリ土類金属酸化物−B2O3の所望の組み合わせよりなる酸化物微粒子が反応液中に形成され,これを取り出して乾燥させるだけで,そのような組成の,数十〜1000nmの範囲内,特に数十〜数百nmの範囲内に平均粒子径を有し且つ粒子径分布幅の極めて狭い球状のガラス微粒子が得られることを見出した。
又更に,本発明者らは,上記イオン交換に際して,イオン交換反応における媒質のアルコール含有量が水含有量を超えないように調整しておくことにより,イオン交換が行われやすくなることも見出した。
本発明は,上記発見に基づき,他の成分の配合その他種々の検討を加えて完成させたものである。
【0017】
1.組成として,酸化物換算で,
SiO2を40〜97モル%の量で含有し,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を60モル%以下の量で含有するか, B2O3を40モル%以下の量で含有するか,又はMgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,球状ガラス微粒子。
2.組成として,酸化物換算で,
SiO2を50〜97モル%の量で含有し,
B2O3を30モル%以下の量で含有するか,又は
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を25モル%以下の量で含有するものである,
上記1の球形ガラス粒子。
3.組成として,酸化物換算で,MgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で更に含有するものである,上記2の球状ガラス微粒子。
4.組成として,酸化物換算で,MgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で更に含有するものである,上記1の球状ガラス微粒子。
5.組成として,酸化物換算でB2O3を40モル%以下の量で含有するものである,上記1又は4の球状ガラス微粒子。
6.粒子径の変動係数が30%以下である,上記1ないし5の何れかの球状ガラス微粒子。
7.600〜1200℃の温度で焼結させることができるものである,請求項1ないし7の何れかの球状ガラス粒子。
8.上記1ないし7の何れかの球状ガラス微粒子を含んでなる焼結助剤。
9.ホウ酸イオン,リチウムイオン,ナトリウムイオン及びカリウムイオン,マグネシウムイオン,カルシウムイオン,ストロンチウムイオン及びバリウムイオンよりなる群より選ばれる1種又は2種以上イオンと水酸化アンモニウムとを含有する含水アルコール中でケイ素アルコキシドを撹拌し,該含水アルコール中に生じた微粒子を採取して乾燥させること含んでなる球状ガラス微粒子の製造方法であって,該球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2を50〜97モル%の量で含有し,
B2O3を30モル%以下の量で含有するか,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を25モル%以下の量で含有するか,又は
MgO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満である,球状ガラス微粒子の製造方法。
10.水酸化リチウム,水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムよりなるアルカリ金属水酸化物の群より選ばれる1種又は2種以上と,ケイ素アルコキシドより選ばれる1種又は2種以上と,水及びアルコールとを混合することを含んでなる,球状ガラス微粒子の製造方法。
11.上記10の製造方法であって,該方法により得られる球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2の含有量が40〜97モル%であり,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を60モル%以下の量で含有するものである,製造方法。
12該球状ガラス微粒子を1種又は2種以上のアルカリ土類金属イオンを含有する水溶液中で撹拌することにより,該球状ガラス微粒子中のアルカリ金属酸化物の少なくとも一部を該アルカリ土類金属酸化物へとイオン交換することを特徴とする,上記10又は11の製造方法。
13.該アルカリ土類金属イオンが,マグネシウムイオン,カルシウムイオン,ストロンチウムイオン及びバリウムイオンよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のイオンである,上記12の製造方法。
14.上記13の製造方法であって,該方法により得られる球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2を40〜97モル%の量で含有し,
MgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,又は更に加えて,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を60モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,製造方法。
15.上記10又は11の球状ガラス微粒子の製造方法であって,得られた球状ガラス微粒子をホウ酸含有水溶液中で撹拌することにより,該球状ガラス微粒子中のアルカリ金属酸化物の少なくとも一部をホウ素酸化物へとイオン交換することを特徴とする,製造方法。
16.上記15の製造方法であって,該方法により得られる球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2を40〜97モル%の量で含有し,
B2O3を40モル%以下の量で含有し,又は更に加えて,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を60モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,製造方法。
17.上記13又は14の製造方法であって,該方法により得られた球状ガラス微粒子をホウ酸含有水溶液中で撹拌することにより,該球状ガラス微粒子中のアルカリ金属酸化物の少なくとも一部をホウ素酸化物へとイオン交換することを特徴とする,製造方法。
18.上記17の製造方法であって,該方法により得られる球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2を40〜97モル%の量で含有し,
MgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,
B2O3を40モル%以下の量で含有し,又は更に加えて,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を60モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,製造方法。
19.上記9ないし18の何れかの製造方法であって,該方法により得られるガラス微粒子の粒子径の変動係数が30%以下であることを特徴とする,製造方法。
20.上記9ないし19の何れかの製造方法であって,該方法により得られるガラス微粒子が,600〜1200℃の温度で焼結させることができるものである,製造方法。
21.上記9ないし20の何れかの製造方法により製造された球状ガラス微粒子を含有してなる,焼結助剤。
【発明の効果】
【0018】
上記構成になる本発明によれば,従来にはなかった,多成分ガラスに基づくナノレベルのサイズの球状微粒子を得ることができる。しかも,得られる球状微粒子は,粒子径の変動係数が非常に小さくすなわち粒子径がよく揃っているため均質性に優れる。また球状であるという特徴を有していることから,分析試薬や医薬組成物等のようなファインケミカルの分野において,目的化合物の担体等としての用途に適した素材を提供することができる。また,球状で且つ粒子径の分布幅が極めて狭い,すなわち粒度がよく揃っているため,例えばセラミックスの焼結助剤として用いるとき,セラミックス粉末との均一な混和が容易である。更に,組成として,SiO2 以外にB2O3,Li2O,Na2O,K2O,MgO,CaO,SrO,BaO,Al2O3の何れか1種又は複数種を含有しており,このためSiO2のみからなるガラスに比して低融点であり,800〜1200℃という比較的低温で焼結させることができるため,セラミックスの焼結助剤として特に優れている。加えて,本発明の球状ガラス微粒子は,粒子径が非常に小さいものとして得ることができるため,特に電子デバイスの製造における焼結助剤として用いる場合,素子のパターンの微細化や薄膜化を妨げることがない。
更に加えて,球状ガラス微粒子はその製造段階で300℃を超えるような高い温度への加熱が不要であるため,製造がエネルギー非消費型であるという利点もある。
また本発明の製造方法は,窒素雰囲気化の工程を含まず,またエタノールを溶媒として90%以上用いる工程も含まないため,量産に適し,工業的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の球状ガラス微粒子において,「球状」とは,必ずしも真球に限らず,電子顕微鏡により観察したとき実質的に球と認められるものをいう。また本発明の球状ガラス微粒子について「多成分」とは,SiO2以外に少なくとも1種の別の成分を含有することをいう。
【0020】
本発明の球状ガラス微粒子の粒子径について,「変動係数(CV)」は,ガラス微粒子の平均粒子径をμ,ガラス微粒子の粒子径の標準偏差をσとしたとき,CV=σ/μ×100(%)として表される値である。
【0021】
本発明の球状ガラス微粒子の成分のうちSiO2の原料としては,ケイ素アルコキシドを用いることが好ましい。ケイ素アルコキシドを用いこれを,本発明の球状ガラス微粒子を構成する他の成分の存在下に,水酸化アンモニウムの存在下に撹拌しつつ加水分解させることにより,ゲル微粒子を形成することができ,これを単に乾燥させることで,20nm以上1000nm未満の範囲,好ましくは40〜800nm,より好ましくは60〜600nmの範囲に平均粒径を有する,粒径の変動係数の小さい,無孔質の球状のガラス粒子として得ることができる。乾燥温度は適宜でよく,100℃以下の温度,例えば50〜70℃等で行うことができる。ケイ素アルコキシドの特に好ましい例としては,メチルシリケート(テトラメトキシシラン等),エチルシリケート(テトラエトキシシラン等),イソプロピルシリケート(テトライソプロポキシシラン等)が挙げられるが,これらに限定されない。
【0022】
本発明の球状ガラス微粒子の組成において,SiO2の含有量は40〜97モル%である必要がある。これはSiO2の含有量が97モル%より高いと,ガラス粒子の融点を1200℃以下とすることが困難となるためであり,又SiO2の含有量が40モル%より低いすなわち微粒子形成の反応に与るケイ素アルコキシド量が少ないと,安定な球状ガラス微粒子とならないからである。SiO2のより好ましい含量量は50〜97モル%であり,特に好ましい含有量は70〜95モル%である。
【0023】
本発明の球状ガラス微粒子の組成において,B2O3は,ガラス形成成分であって,焼結温度を低下させる成分であり,必須ではないが含有させることが好ましい。但しこれを含有させる場合,40モル%以下とすることが好ましく,30モル%以下とすることがより好ましい。これはB2O3の含有量が多すぎると化学的耐久性が低下するからである。特に好ましくは,B2O3の含有量は,20モル%以下である。本発明の球状ガラス微粒子の成分としてB2O3を含ませるときは,その原料としては,ホウ酸が好ましく用いられる。ホウ酸は,ケイ素アルコキシドを加水分解してゾルそしてゲルを形成させる際に,水溶液として反応液中に添加すればよい。代わりとして,B2O3を含まない球状ガラス微粒子を先ず作製し,当該微粒子を,ホウ酸含有水性溶液中で室温にて撹拌することによっても製造することができる。
【0024】
Li2O,Na2O及びK2Oは,何れも焼結温度を低下させる成分であり,それらのうち1種を又は2種以上を,本発明の球状ガラス微粒子の成分として含有させることができる。含有させる場合,合計含有量として60モル%以下とすることが好ましい。これは,それらの合計含有量が60モル%を超えると化学的耐久性が低下するからである。これらのアルカリ金属酸化物の合計含有量は,より好ましくは40モル%以下,更に好ましくは25モル%以下である。本発明の球状ガラス微粒子にそれらの成分を含有させる場合には,それらの金属イオン源としては,それらの金属の無機塩を用いるのが便利である。無機塩としては炭酸塩,炭酸水素塩,塩酸塩,硫酸塩,硝酸等を適宜用いればよい。特に好ましいのは,炭酸塩,硝酸塩及び硫酸塩であるが,それらに限定されない。それら無機塩は,B2O3の場合と同様,ケイ素アルコキシドを加水分解してゾルそしてゲルを形成させる際に,反応液中に添加しておけばよい。また,それらのアルカリ金属とB2O3とを共に含有させる場合には,それらの金属のホウ酸塩(例えば,ホウ酸ナトリウム等)として加えることもできる。代わりとして,アルカリ金属酸化物は,ゾル−ゲル反応時に,例えばNaOH,LiOH,KOHの形で(水酸化アンモニウムの代わりに)反応液に添加することによってもガラス微粒子に含有させることができる。その場合には,それらのアルカリ金属水酸化物が,水酸化アンモニウムに代わり触媒として作用してケイ素アルコキシドの加水分解とそれに続く重合を促進させる。更には,目的のアルカリ金属水酸化物を含有させずに形成したガラス微粒子を,目的のアルカリ金属の硝酸塩,塩化物等を含有する水溶液中で撹拌することにより,イオン交換を起こさせることで,ガラス微粒子中に含有させてもよい。
【0025】
上記ゾル−ゲル反応の触媒として,水酸化アンモニウムの代わりにNaOH等のアルカリ金属水酸化物を用いる場合,アンモニアの混入がないため,製造廃液からのエタノール等の有機溶媒の抽出・再生が容易であり,抽出・再生時のランニングコストを低減させることができる。
【0026】
また,NaOH等のアルカリ金属水酸化物を触媒とする上記ゾル−ゲル反応を行なう場合,反応混合物に予めヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を含有させておくことが好ましい。これは,HPCが分散剤として作用し,形成されたガラス微粒子を懸濁状態で安定化させるのに役立つためである。その結果,懸濁状態が維持できる固形分(ガラス微粒子)含量の上限を,HPCを用いない場合の約1重量%に対し,約4重量%にまで高めることができ,生産コストと環境負荷とを共に引き下げることができる。
【0027】
MgO,CaO,SrO及びBaOは,何れも焼結温度を低下させ,化学的耐久性を増加する成分であり,それらのうち1種を又は2種以上を,本発明の球状ガラス微粒子の成分として含有させることができる。但し含有させる場合,合計含有量として50モル%以下とすることが好ましい,これは,球状ガラス微粒子を作製するためであり,50モル%を超えてアルカリ土類金属酸化物を含有させると,結晶化が生じ,ガラスを作製することができない。アルカリ土類金属酸化物の含有量は,より好ましくは30モル%であり,特に好ましくは15モル%である。本発明の球状ガラス微粒子にそれらの成分を含有させる場合には,それら金属イオン源としては,それらの金属の水溶性の無機塩,水溶性の酸化物や水酸化物,ハロゲン化物等を原料として用いればよい。無機塩としては炭酸塩,炭酸水素塩,塩酸塩,硫酸塩その他の塩のうち水溶性のものを適宜用いればよい。特に好ましいのは,炭酸塩,硝酸塩及び硫酸塩であるが,それらに限定されない。それらの原料の具体例としては,塩化マグネシウム,塩化カルシウム,塩化ストロンチウム,塩化バリウム等が挙げられる。それらの原料は,B2O3の場合と同様,ケイ素アルコキシドを加水分解してゾルそしてゲルを形成させる際に,反応液中に添加しておけばよい。代わりとして,目的のアルカリ土類金属酸化物を含有させずに形成したガラス微粒子を,目的のアルカリ土類金属の硝酸塩,塩化物等を含有する水溶液中で撹拌することにより,イオン交換を起こさせることで,ガラス微粒子中に含有させてもよい。
【0028】
本発明の球状ガラス微粒子は,組成において比較的少量のAl2O3を含有してもよい。但し含有する場合,含有量は5モル%以下に止めることが好ましい,これは,Al2O3の含有量が5モル%を超えると焼結温度が高くなり,且つ,作製時に結晶が生じやすくなるからである。Al2O3を含有させる場合には,その原料としては,例えば,アルミニウムの水溶性の塩(硫酸アルミニウム,硝酸アルミニウム,塩化アルミニウム等)を用いることができる。それらの原料は,ケイ素アルコキシドを加水分解してゾルそしてゲルを形成させる際に,反応液中に添加しておけばよい。
【0029】
ケイ素アルコキシドをホウ酸や金属成分と共に加水分解するときの反応液中の水酸化アンモニウムの濃度は,0.1〜15mol/Lとすることが好ましい。この範囲外ではナノレベルの均質な球状微粒子を得ることが困難となるためである。水酸化アンモニウムの濃度は,より好ましくは1〜10mol/Lである。
【0030】
ケイ素のアルコキシドをホウ酸や金属成分と共に加水分解するときの反応温度に特に制限はなく,室温で行えばよいが,加熱下や冷却下で行うこともできる。反応時間は,温度その他の条件により異なるが,室温では通常数時間〜24時間程度である。反応液中に形成された微粒子の採取は,濾過,遠心,媒質の留去その他適宜の手段で行うことができる。採取した微粒子を乾燥させることにより得られる球状ガラス微粒子は,相互に緩く付着しているがボールミルや乳鉢等で軽く容易に解砕してそれぞれ分離した球状ガラス微粒子にすることができる。また,ジェットミルなどの粉砕装置を用いて容易に解砕することもできる。粒子径はよく揃っており,特段の分級操作なしに,粒子径の変動係数が30%以内の球状ガラス微粒子を得ることができ,更には,変動係数が20%以内の球状ガラス微粒子を得ることも可能である。
【0031】
本発明において,平均粒子径の調節は,アンモニア濃度や反応温度を制御することにより可能である。例えば,アンモニア濃度を増加させれば,平均粒子径は大きくなり,反応温度を高くすれば,平均粒子径は小さくなることがわかっているため,データを基に作製条件を微調整することにより平均粒径を調整することができる。
【0032】
また,NaOH等のアルカリ金属水酸化物を触媒とする上記ゾル−ゲル反応により球状ガラス微粒子を製造する場合の一般的手順は次のとおりである。すなわち,ケイ素アルコキシド(例えば,テトラエトキシシラン等)をSiO2の原料とし,分散剤としてヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を溶解させたアルコール(例えば,エタノール等)に加えて撹拌し,均一化させる(A液)。別に,アルカリ金属水酸化物をアルコール及び水の混液に溶解させる(B液)。A液とB液とを混合し(C液),40〜60℃にて通常6時間以上撹拌することで,SiO2−アルカリ金属酸化物よりなる2成分系の球状ガラス微粒子が得られる。この場合,得られる球状ガラス微粒子の平均粒子径は,アルカリ金属水酸化物濃度,ケイ素アルコキシド濃度,エタノール濃度,及び/又はHPC分子量の増減に相関して増減し,反応温度の増減には逆相関して減少又は増大する。従って,これらの条件を適宜調節することにより,望みの平均粒子径を有する球状ガラス微粒子を容易に製造することができる。
【0033】
また,シリカ−アルカリ金属酸化物よりなる2成分系の球状ガラス微粒子のイオン交換により多成分系の球状ガラス微粒子を製造する場合の一般的手順は次のとおりである。すなわち,SiO2−アルカリ金属酸化物よりなる2成分球状ガラス微粒子を,アルコール(例えばエタノール)又は含水アルコールに加え,超音波分散又は撹拌その他適宜な分散方法により均一に分散させる(A液)。別に,球状ガラス微粒子に含ませようとするアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩化物,硝酸塩,又はホウ酸若しくはホウ酸塩を水,又はアルコール(例えば,エタノール)を含んだ水に溶解させる(B液)。A液とB液とを混合する(C液)。A液及びB液の量比は,C液のアルコール濃度が,好ましくは5〜50重量%,より好ましくは5〜30重量%,特に好ましくは5〜15重量%(例えば約10重量%)となるように適宜調節することができる。このように,C液中のアルコール含有量を水含有量以下とすることにより,先行技術(特許文献3)のようにアルコール含有量が水含有量より多い場合に比して,イオン交換が行われやすくなる。C液を室温にて通常2時間以上撹拌することで,用いた材料に対応する多成分系球状ガラス微粒子が得られる。
【0034】
上記イオン交換反応において,シリカ−アルカリ金属酸化物よりなる2成分系のガラス微粒子において,交換反応中における媒質中のアルカリ土類金属イオン濃度がアルカリ金属イオン濃度より高くなるようにしておくことで,ガラス微粒子中の全てのアルカリ金属イオンをアルカリ土類金属イオンに交換することが可能である。また,媒質中のアルカリ土類金属イオン濃度をその他の範囲で調節することにより,アルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物とを任意の割合で含有する球状ガラス微粒子を得ることができる。また,もとのシリカ−アルカリ金属酸化物系のガラス微粒子におけるアルカリ金属酸化物比率を高めておくことにより,イオン交換後の球状ガラス微粒子中のアルカリ土類金属含量を高めることができる。こうして,もとのシリカ−アルカリ金属酸化物系のガラス微粒子中におけるアルカリ金属酸化物の含量比率を調節し,且つ,イオン交換時における媒質中のアルカリ土類金属イオン濃度を上記のように調節することにより,所望の組成比率を有する多成分系の球状ガラス微粒子を製造することができる。
【0035】
上記イオン交換反応において,ガラス微粒子は,凝集や沈殿を起こすことがないよう,十分量の媒質中に分散させておくことが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下,実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが,本発明がそれら実施例に限定されることは意図しない。なお,実施例においては,加水分解反応は何れも室温にて行った。
【0037】
〔実施例A1〕
混合後の組成比が,SiO2 86mol%,B2O3 14mol%になるように,イオン交換水4.3mLに,撹拌しながらホウ酸0.19gを加えて溶解させ,撹拌しながら28質量%アンモニア水21mLを更に加えることによりA液を調製し,別に,エタノール15.1mLに,撹拌しながらテトラエトキシシラン(TEOS)2.14mLを加えることによりB液を調製した。A液を撹拌しつつこれにB液を加え,30分間撹拌した。これに更に,28質量%アンモニア水30mLとイオン交換水20mLとの混合溶液を加え,18時間撹拌した。続いて孔径20μmのフィルターで濾過し,異常凝集した粒子をとり除いた。孔径300nmのメンブランフィルターで濾過して固形分と液体とを分離し,メンブランフィルター上に残った微粒子を60℃で12時間乾燥させ,乳鉢で解砕することにより,2成分(SiO2−B2O3)ガラスの球状微粒子を得た。この球状ガラス微粒子の走査型電子顕微鏡写真を図1に,また,粒子径分布を表すグラフを図2に示す。得られた微粒子は球状でありその平均粒子径は306nm,粒子径の変動係数は9.1(%)であった。この球状ガラス微粒子の粒径分布が極めて狭いもので,粒径がよく揃っていることが分かる。
【0038】
〔実施例A2〕
混合後の組成比が,SiO2 86mol%,B2O3 14mol%になるように,イオン交換水4.3mLに,撹拌しながらホウ酸0.19gを加えて溶解させ,撹拌しながら28質量%アンモニア水21μLを更に加えることによりA液を調製し,別に,エタノール15.1mLに,撹拌しながらテトラエトキシシラン(TEOS)2.14mLを加えることによりB液を調製した。A液を撹拌しつつこれにB液を加え,30分間撹拌した。これに更に,28質量%アンモニア水30mLとイオン交換水20mLとの混合溶液を加え,18時間撹拌した。続いて孔径20μmのフィルターで濾過し,異常凝集した粒子をとり除いた。反応混合物を10000×gで15分間遠心し,微粒子を沈降させることにより,固形分を液体から分離し,沈降した微粒子を60℃で12時間乾燥させ,乳鉢で解砕することにより,実施例A1と同様のガラス微粒子を得た。
【0039】
〔実施例A3〕
混合後の組成比が,SiO2 86mol%,B2O3 14mol%になるように,イオン交換水4.3mLに,撹拌しながらホウ酸0.19gを加えて溶解させ,撹拌しながら28質量%アンモニア水21mLを更に加えることによりA液を調製し,別に,エタノール15.1mLに,撹拌しながらテトラエトキシシラン(TEOS)2.14mLを加えることによりB液を調製した。A液を撹拌しつつこれにB液を加え,30分間撹拌した。これに更に,28質量%アンモニア水30mLとイオン交換水20mLとの混合溶液を加え,18時間撹拌した。続いて孔径20μmのフィルターで濾過し,異常凝集した粒子をとり除いた。反応混合物よりエバポレーターでアンモニアとエタノールとを留去した後,凍結乾燥を行うことによって液体を除去し,60℃で12時間乾燥させ,乳鉢で解砕することにより,実施例A1と同様のガラス微粒子を得た。
【0040】
〔実施例A4〕
混合後の組成比が,SiO2 86mol%,B2O3 14mol%になるように,イオン交換水4.3mLに,撹拌しながらホウ酸0.19gを加えて溶解させ,撹拌しながら28質量%アンモニア水21mLを更に加えることによりA液を調製し,別に,エタノール15.1mLに,撹拌しながらテトラエトキシシラン(TEOS)2.14mLを加えることによりB液を調製した。B液を撹拌しつつこれにA液を加え,30分間撹拌した。これに更に,28質量%アンモニア水30mLとイオン交換水20mLとの混合溶液を加え,18時間撹拌した。続いて孔径20μmのフィルターで濾過し,異常凝集した粒子をとり除いた。孔径300nmのメンブランフィルターで濾過して固形分と液体とを分離し,メンブランフィルター上に残った微粒子を60℃で12時間乾燥させ,乳鉢で解砕することにより,実施例A1と同様のガラス微粒子を得た。
【0041】
〔実施例A5〕
混合後の組成比が,SiO2 86mol%,B2O3 14mol%になるように,イオン交換水4.3mLに,撹拌しながらホウ酸0.19gを加えて溶解させ,撹拌しながら28質量%アンモニア水21mLを更に加えることによりA液を調製し,別に,エタノール15.1mLに,撹拌しながらテトラエトキシシラン(TEOS)2.14mLを加えることによりB液を調製した。容器Cを攪拌しながら,その中に,A液とB液を同時に入れ,30分間撹拌した。これに更に,28質量%アンモニア水30mLとイオン交換水20mLとの混合溶液を加え,18時間撹拌した。続いて孔径20μmのフィルターで濾過し,異常凝集した粒子をとり除いた。孔径300nmのメンブランフィルターで濾過して固形分と液体とを分離し,メンブランフィルター上に残った微粒子を60℃で12時間乾燥させ,乳鉢で解砕することにより,実施例A1と同様のガラス微粒子を得た。
【0042】
〔実施例A6〕
混合後の組成比が,SiO2 80.2mol%,B2O3 13.1mol%,Li2O 6.7mol%になるように,イオン交換水4.3mLに,撹拌しながらホウ酸0.19g及び硝酸リチウム0.11gを加えて溶解させ,撹拌しながら28質量%アンモニア水4mLを更に加えることによりA液を調製し,別に,エタノール15.1mLに,撹拌しながらテトラエトキシシラン(TEOS)2.14mLを加えることによりB液を調製した。A液を撹拌しつつこれにB液を加え,30分間撹拌した。これに更に,28質量%アンモニア水30mLとイオン交換水20mLとの混合溶液を加え,18時間撹拌した。続いて孔径20μmのフィルターで濾過し,異常凝集した粒子をとり除いた。孔径300nmのメンブランフィルターで濾過して固形分と液体とを分離し,メンブランフィルター上に残った微粒子を60℃で12時間乾燥させ,乳鉢で解砕することにより,3成分(SiO2−B2O3−Li2O)ガラスの球状微粒子を得た。得られた微粒子は球状でありその平均粒子径は200nmであった。
【0043】
〔実施例A7〜A9〕
実施例A1と同様の方法で,組成比が,SiO2 93.3mol%,B2O3 6.7mol%になるよう球状ガラス微粒子を作製したときの,平均粒径,標準偏差,変動係数を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
〔実施例A10〕
実施例A1で作製した球状ガラス微粒子0.05gを白金容器に入れ,1200℃で焼成すると,焼結したガラスが得られた。
【0046】
〔実施例A11〕
実施例A6で作製した球状ガラス微粒子0.1gとアルミナ粉末0.1gを直径10mmのプレス金型内で1MPaの圧力でプレスしたものをアルミナ基板上に置き,1200℃で焼成すると焼結し,セラミックスが得られた。
【0047】
〔実施例B1〕
エタノール44.8mlにヒドロキシプロピルセルロース(HPC)0.05gを加えて溶解させ、攪拌しながらテトラエトキシシラン4.3mlを更に加えることによりA液を調製した。別に,エタノール44.8mlにHPC0.05gと水酸化ナトリウム0.6gを加えて溶解させ、攪拌しながらイオン交換水3.5mlを更に加えることによりB液を調製した。A液、B液の液温を40℃に保ちつつ、A液を攪拌しつつこれにB液を加え、18時間大気中で攪拌した。続いて孔径20μmのフィルターで濾過し、異常凝集した粒子をとり除いた。反応混合物を10000×gで30分間遠心し、微粒子を沈降させることにより、固形分を液体から分離し、沈降した微粒子を60℃で12時間乾燥させ、乳鉢で解砕することにより、2成分(SiO2−Na2O)ガラスの球状微粒子を得た。
【0048】
この微粒子の走査型電子顕微鏡写真を図4に、また、粒子径分布を表すグラフを図5に示す。得られた微粒子は球状でありその平均粒子径は133.0nm、粒子径の変動係数は23.2(%)であった。また組成分析により得られた粒子の組成比は、SiO2 93.3mol%、Na2O 6.7mol%であった。
【0049】
〔実施例B2〕
エタノール44.8mlにHPC0.05gを加えて溶解させ、攪拌しながらテトラエトキシシラン4.3mlを更に加えることによりA液を調製した。別に,エタノール44.8mlにHPC0.05gと水酸化ナトリウム0.8gを加えて溶解させ、攪拌しながらイオン交換水3.5mlを更に加えることによりB液を調製した。A液、B液の液温を40℃に保ちつつ、A液を攪拌しつつこれにB液を加え、18時間大気中で攪拌を続け攪拌した。続いて孔径20μmのフィルターで濾過し、異常凝集した粒子をとり除いた。反応混合物を10000×gで30分間遠心し、微粒子を沈降させることにより、固形分を液体から分離し、沈降した微粒子を60℃で12時間乾燥させ、乳鉢で解砕することにより、2成分(SiO2−Na2O)ガラスの球状微粒子を得た。
【0050】
この微粒子の走査型電子顕微鏡写真を図6に、また、粒子径分布を表すグラフを図7に示す。得られた微粒子は球状でありその平均粒子径は248.2nm、粒子径の変動係数は15.0(%)であった。また組成分析により得られた粒子の組成比は、SiO2 71.7mol%、Na2O 28.3mol%であった。
【0051】
〔実施例B3〕
実施例B1で作製したSiO2-Na2O微粒子0.5gをエタノール5mLに超音波を用いて分散させた。次に、塩化カルシウム濃度が1mol/Lとなるように調整した水溶液50mlに、攪拌しながら、このスラリーを添加し攪拌を行った。大気中、常温で攪拌を続け6時間後、この溶液を孔径20μmのフィルターで濾過し、異常凝集した粒子をとり除いた。反応混合物を10000×gで15分間遠心し、微粒子を沈降させることにより、固形分を液体から分離し、沈降した微粒子を60℃で12時間乾燥させ、乳鉢で解砕することにより、2成分(SiO2−CaO)ガラスの球状微粒子を得た。
【0052】
この微粒子の走査型電子顕微鏡写真を図8に、また、粒子径分布を表すグラフを図9に示す。得られた微粒子は球状でありその平均粒子径は144.2nm、粒子径の変動係数は16.4(%)であった。また組成分析により得られた粒子の組成比は、SiO2 88.6mol%、CaO 11.4mol%であった。
【0053】
〔実施例B4〜B6〕
実施例B1及びB2と同様の方法で作製し組成制御を行ったSiO2-Na2O微粒子を用いて、また実施例B3と同様の方法で1mol/L塩化カルシウム水溶液を用いたSiO2-CaOの組成制御の結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
〔実施例B7〕
実施例B1で作製したSiO2-Na2O微粒子0.5gをエタノール5mlに超音波を用いて分散させた。次に、硝酸バリウム濃度が0.25mol/Lとなるように調整した水溶液50mLに、攪拌しながら、このスラリーを添加し攪拌を行った。大気中、常温で攪拌を続け6時間後、この溶液を孔径20μmのフィルターで濾過し、異常凝集した粒子をとり除いた。反応混合物を10000×gで15分間遠心し、微粒子を沈降させることにより、固形分を液体から分離し、沈降した微粒子を60℃で12時間乾燥させ、乳鉢で解砕することにより、2成分(SiO2−BaO)ガラスの球状微粒子を得た。得られた微粒子は球状でありその平均粒子径は170.5nm、粒子径の変動係数は10.9(%)であった。また組成分析により得られた粒子の組成比は、SiO2 91.1、mol%、BaO 8.9mol%であった。
【0056】
〔実施例B8〜B10〕
実施例B1及びB2と同様の方法で作製し組成制御を行ったSiO2-Na2O微粒子を用いて、実施例B7と同様の方法で0.25mol/L硝酸バリウム水溶液を用いたSiO2−BaOの組成制御の結果を表3に示す。
【表3】
【0057】
〔実施例B11〕
実施例B2で作製したSiO2-Na2O微粒子0.5gをエタノール5mLに超音波を用いて分散させた。次に、塩化カルシウム濃度が0.1mol/L、塩化バリウムが0.1mol/L、ホウ酸が0.05mol/Lとなるように調整した水溶液50mLに、攪拌しながら、このスラリーを添加し攪拌を行った。大気中、常温で攪拌を続け6時間後、この溶液を孔径20μmのフィルターで濾過し、異常凝集した粒子をとり除いた。反応混合物を10000×gで15分間遠心し、微粒子を沈降させることにより、固形分を液体から分離し、沈降した微粒子を60℃で12時間乾燥させ、乳鉢で解砕することにより、4成分(SiO2-BaO-CaO-B2O3)ガラスの球状微粒子を得た。この微粒子の走査型電子顕微鏡写真を図10に、また、粒子径分布を表すグラフを図11に示す。得られた微粒子は球状でありその平均粒子径は253.2nm、粒子径の変動係数は13.6(%)であった。分析値はSiO2 67.7mol%、BaO 13.3mol%、CaO 11.1mol%、B2O3 7.9mol%であった。
【0058】
〔実施例B12〕
X線回折装置にて実施例B1〜B11の多成分ガラス微粒子を測定すると、ガラス構造を形成しているセラミックスに特徴的なハローのみが観測された。従って,得られた球状ガラス微粒子は,結晶を含まないことが確認された。
【0059】
〔実施例B13〕
実施例B2で得られたSiO2−Na2O微粒子のTG-DTA測定を行い、1000℃まで昇温し熱特性を調べた。その結果を図12に示す。ゾルゲル法により得られた微粒子の特性は溶融法で得られる熱特性とほぼ同じ挙動を示し、約880℃で液相温度に達していることが判明した。
【0060】
〔実施例B14〕
実施例B5で作製した球状ガラス微粒子0.05gを白金容器に入れ、1200℃で焼成すると、焼結したガラスが得られた。
【0061】
〔実施例B15〕
実施例B5で作製した球状ガラス微粒子0.1gとアルミナ粉末0.1gを直径10mmのプレス金型内で1MPaの圧力でプレスしたものをアルミナ基板上に置き、1200℃で焼成すると焼結し、セラミックスが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の微粒子は,多成分ガラスよりなる,粒径分布の極めて狭い球状のガラス粒子であり800〜1200℃で焼結が可能であるため,セラミック等の焼結助剤とし広く利用することができる。また,粒子径の分布幅が極めて狭く且つ形状が球状であるため,分析試薬の担体や化粧品,医薬組成物の原料としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例A1の球状ガラス微粒子の操作型電子顕微鏡写真
【図2】実施例A1の球状ガラス微粒子の粒子径分布を表すグラフ
【図3】実施例A6の球状ガラス微粒子のX線回折パターンを示すグラフ
【図4】実施例B1の球状ガラス微粒子の操作型電子顕微鏡写真
【図5】実施例B1の球状ガラス微粒子の粒子径分布を表すグラフ
【図6】実施例B2の球状ガラス微粒子の操作型電子顕微鏡写真
【図7】実施例B2の球状ガラス微粒子の粒子径分布を表すグラフ
【図8】実施例B3の球状ガラス微粒子の操作型電子顕微鏡写真
【図9】実施例B3の球状ガラス微粒子の粒子径分布を表すグラフ
【図10】実施例B11の球状ガラス微粒子の操作型電子顕微鏡写真
【図11】実施例B11の球状ガラス微粒子の粒子径分布を表すグラフ
【図12】実施例B2の球状ガラス微粒子のTG−DTA曲線を表すグラフ
【技術分野】
【0001】
本発明は,多成分よりなる球状ガラス微粒子に関し,より詳しくは,シリカをベースとし他の成分を1種以上含むガラスからなるナノレベルの粒子径を有する球状ガラス微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
SiO2とそれ以外の成分とを含んだ多成分ガラスの粉末は,例えば,低温同時焼成基板の製造等において,セラミックに混合することで焼結温度を低下させる材料(焼結助剤)として使用されている。しかしながら,そのようなガラス粉末を構成するガラス微粒子の製造は,一般に,溶融,急冷,粉砕及び乾燥という工程を経て行われている。これは,ガラスを液状化する工程を含むため,1000℃以上の高温の溶融工程が必要であり,エネルギー消費が極めて大きい。またガラス原体の粉砕によって得られる粒子は,平均粒子径300nmが実際上の下限であり,これより小さな粒子を得ることは,粒子径の制御の困難性やコストの点から,実質的に不可能である。それに加えて,ガラス原体の粉砕により得られるガラス粒子は,粒子径の分布幅が非常に広いものとなり,粗大な粒子が大きな割合で含まれることとなる。更には,機械的粉砕によって製造される関係上,個々の粗粒子への衝撃の伝播は不均一である結果,得られる粒子は様々な形状のいびつな破砕片である。
【0003】
極薄のシート加工や微細なパターニングの形成が必要となる電子部品を,ガラス粉末を材料に用いて作製する場合,使用するガラス粉末は,粒子径分布の上限が各場合における所定の値より小さくなければならない。これは,より大きなガラス粒子が含まれていると,作製された電子部品の表面からガラス粒子の一部が突出することとなり,その電子部品を不良品にしてしまうからである。しかしながら,従来のガラス粉末では,この要求を満たすことは極めて困難である。また,従来のガラス粒子は形状のいびつな破砕片からなり,各粒子の凸凹が大きいが,このことも,焼結したとき焼結体の表面から突起を飛び出し易くし,電子部品の不良化をもたらす。更には,ガラス粉末と他の材料とを混合するに際して,ガラス粉末の粒子径の分布幅が大きく且つ各粒子の形状がいびつであることは,他の材料中でガラス粒子の分散性を低下させて,ガラス粒子を均一に分散させにくくして,焼結助剤としての効果を不確実にする。
【0004】
このような現状にあって,平均粒子径が十分に小さく,粒子径の分布幅がごく狭く,且つ球状の微粒子からなるものであるガラス粉末を用いることができれば,これを材料として含む焼結体の表面から突起が飛び出すことが実質的になくなると共に,ガラス粒子の表面にかかる親和力が均一となって,分散性の向上も図ることができる筈である。
【0005】
現状では,球状で粒子径の分布幅の極めて狭い多成分粒子であって,粒子径が1000nm以下のものは生産されていない。球状で,平均粒子径が数十〜1000nm未満,特に数十〜数百nmの範囲内にあり,且つ粒子径の分布幅の極めて狭い球状多成分ガラス微粒子を製造することができれば,そのような球状ガラス微粒子は電子デバイスの焼結助剤のみならず,更には化粧品,医薬品,分析試薬等のような分野で,新素材として種々の製品の開発に利用できる可能性を秘めている。
【0006】
一方,シリカのみからなるガラスの球状微粒子については,テトラアルキルシリケートを加水分解することにより得られることが知られている(非特許文献1参照)。しかしながら,シリカのみからなる粒子は,融点が高いため焼結可能温度も高くなり,焼結助剤として用いるには適さない。
【0007】
合成シリカの製造方法としては,テトラアルコキシシランをアンモニウム塩の存在下に塩基性条件下で加水分解することによる方法も知られている(特許文献1参照)。しかしながらこの方法によって得られるシリカ粒子は,径が数十〜150μm程度の大型の粒子であり,ナノレベルの粒子を得ることはできない。
【0008】
更に,シリカ微粒子の製造法として,アルコールと炭化水素とを含む溶媒中で,アルキルシリケート,アンモニア及び水を混合し接触させることによるものが知られている(特許文献2参照)。それによれば,アルコールと炭化水素の混合物を使用することにより,粒子の成長がコントロールされ,且つ粒子の凝集が防止できるとされている。しかしやはり純粋なシリカよりなる粒子であるため,融点及び焼結温度が高く,焼結助剤には適さない。
【0009】
シリカを主体とし不純物として他の金属イオン成分も含んだ粒子については,原料をガス火焔≡と共に竪型炉の上部から炉内に噴射して溶融し球状体を製造する方法が知られている(特許文献3参照)。この方法によれば不純物を含んだシリカの球状粒子が製造できるが,粉砕した原料を火焔中で溶融することによっているため,溶融シリカ粒子の粒径もその粉砕粒子の粒径と炉内での融合により規定され,500μm付近を上限として分布した大きな粒径の粒子しか得ることができない。
【0010】
また,SiO2と,アルミニウムのような価数が配位数より少ない金属の有機金属化合物からなり,抗菌性金属(Ag)のイオンを含有する抗菌性ガラス微小球が知られている(特許文献4参照)。この抗菌性ガラス微小球は,テトラエトキシシランとアルミニウムアルコキシドとを水含有エタノール中で加水分解させ,その後に銀塩とアルカリ触媒を加えて球状化し,乾燥後,1000℃に加熱することにより得られるものである。これにより得られる粒子は1μm以上の粒子径のものである。また1000℃で2時間加熱してガラス化させるものであるため,製造段階で必要な高温での加熱処理は,エネルギー消費が大きく,コスト面及び環境負担の面からも好ましくない。
【0011】
また,SiO2−Na2O微粒子の作製について,乾燥窒素雰囲気中でテトラエトキシシランをエタノール中に加え,pHを調整した水を加えて撹拌し反応させた後,NaOHとエタノールと水の混合溶液を加えることによる方法が知られている(非特許文献2参照)。しかしながらこの方法は,窒素雰囲気下に行われるため,大量生産に適さない。
【0012】
SiO2−Na2O微粒子から,イオン交換によりSiO2−MgO及びSiO2−CaOという2成分系微粒子を作製する方法が知られており(非特許文献3参照),それによれば,エタノール濃度が90%以上の含水エタノール中に硝酸マグネシウム又は硝酸カルシウム及びヒドロキシプロピルセルロースを溶解させ,これにSiO2−Na2O微粒子を添加し40℃にて撹拌することにより,目的の2成分系微粒子が得られる。しかしながらこの方法は,反応溶媒としてエタノールを高濃度で用いているため,大量生産をする上で,溶媒の大量回収を要するなどコスト的に不利であるうえ、イオン交換後にも少なくともNa/Si≒0.1の割合でNaが残存している。
【0013】
更に,エタノール中,ヒドロキシプロピルセルロース存在下でのテトラエトキシシランとNaOHとの反応により製造されるSiO2−Na2O微粒子の平均粒子径について,その水酸化ナトリウム濃度及びヒドロキシプロピルセルロースの分子量に対する依存性が報告されている(非特許文献4参照)。同文献においても,エタノール中でのテトラエトキシシランとNaOHとの反応は,上記非特許文献2と同様,乾燥窒素雰囲気中で行われている。
【0014】
【特許文献1】特公平1−59975号公報
【特許文献2】特公平4−15169号公報
【特許文献3】特開昭58−145613号公報
【特許文献4】特開2001−97735号公報
【非特許文献1】Journal of Colloid and Interface Science, 26: 62-69(1968).
【非特許文献2】Inorganic Materials, Vol. 5, 321-327 (1998).
【非特許文献3】Journal of Non-Crystalline Solids, 255, 178-184 (1999).
【非特許文献4】Journal of Non-Crystalline Solids, 321, 2-9 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記背景において,本発明の一目的は,多成分からなり球状で粒度分布の極めて狭い,粒径が1μmより小さいガラス微粒子(ナノガラス粒子)を提供することである。
本発明の更なる一目的は,そのようなガラス微粒子であって,焼成を要さずに製造することのできるものを提供することである。
本発明のなおも更なる一目的は,セラミックスの焼結を容易にするための,そのような球状ガラス粒子よりなる焼結助剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的のため検討の結果,本発明者らは,(A)大気中において,ホウ酸と少量のアンモニア水とを含有するアルコール(エタノール等)に,テトラエトキシシランを撹拌しつつ加水分解させることにより,酸化ケイ素及び酸化ホウ素からなる球状微粒子が反応液中に形成され,これを取り出して乾燥(例えば100℃以下のような比較的低温条件下に)させるだけで,数十〜1000nmの範囲内,特に数十〜数百nmの範囲内に平均粒子径を有し且つ粒子径分布の極めて狭い球状のガラス粒子が得られることを見出した。
また本発明者らは更に,(B)大気中において,テトラエトキシシランのアルコール(エタノール等)溶液を撹拌しつつ,アルカリ金属水酸化物の溶液を加えることにより,テトラエトキシシランの加水分解反応及び重合反応が促進されそれにより,酸化ケイ素及びアルカリ金属酸化物からなる球状微粒子が得られること,及び更にこの球状微粒子をカルシウム,マグネシウム,バリウム等のアルカリ土類金属の塩(塩酸塩,硝酸塩など)及び/又はホウ酸塩を含む水溶液に分散させることにより,ガラス微粒子中のアルカリ金属イオンと媒質中のアルカリ土類金属イオン及び/又はホウ素イオンとの間でイオン交換が起こり,組成としてSiO2−アルカリ金属酸化物−アルカリ土類金属酸化物−B2O3の所望の組み合わせよりなる酸化物微粒子が反応液中に形成され,これを取り出して乾燥させるだけで,そのような組成の,数十〜1000nmの範囲内,特に数十〜数百nmの範囲内に平均粒子径を有し且つ粒子径分布幅の極めて狭い球状のガラス微粒子が得られることを見出した。
又更に,本発明者らは,上記イオン交換に際して,イオン交換反応における媒質のアルコール含有量が水含有量を超えないように調整しておくことにより,イオン交換が行われやすくなることも見出した。
本発明は,上記発見に基づき,他の成分の配合その他種々の検討を加えて完成させたものである。
【0017】
1.組成として,酸化物換算で,
SiO2を40〜97モル%の量で含有し,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を60モル%以下の量で含有するか, B2O3を40モル%以下の量で含有するか,又はMgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,球状ガラス微粒子。
2.組成として,酸化物換算で,
SiO2を50〜97モル%の量で含有し,
B2O3を30モル%以下の量で含有するか,又は
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を25モル%以下の量で含有するものである,
上記1の球形ガラス粒子。
3.組成として,酸化物換算で,MgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で更に含有するものである,上記2の球状ガラス微粒子。
4.組成として,酸化物換算で,MgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で更に含有するものである,上記1の球状ガラス微粒子。
5.組成として,酸化物換算でB2O3を40モル%以下の量で含有するものである,上記1又は4の球状ガラス微粒子。
6.粒子径の変動係数が30%以下である,上記1ないし5の何れかの球状ガラス微粒子。
7.600〜1200℃の温度で焼結させることができるものである,請求項1ないし7の何れかの球状ガラス粒子。
8.上記1ないし7の何れかの球状ガラス微粒子を含んでなる焼結助剤。
9.ホウ酸イオン,リチウムイオン,ナトリウムイオン及びカリウムイオン,マグネシウムイオン,カルシウムイオン,ストロンチウムイオン及びバリウムイオンよりなる群より選ばれる1種又は2種以上イオンと水酸化アンモニウムとを含有する含水アルコール中でケイ素アルコキシドを撹拌し,該含水アルコール中に生じた微粒子を採取して乾燥させること含んでなる球状ガラス微粒子の製造方法であって,該球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2を50〜97モル%の量で含有し,
B2O3を30モル%以下の量で含有するか,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を25モル%以下の量で含有するか,又は
MgO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満である,球状ガラス微粒子の製造方法。
10.水酸化リチウム,水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムよりなるアルカリ金属水酸化物の群より選ばれる1種又は2種以上と,ケイ素アルコキシドより選ばれる1種又は2種以上と,水及びアルコールとを混合することを含んでなる,球状ガラス微粒子の製造方法。
11.上記10の製造方法であって,該方法により得られる球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2の含有量が40〜97モル%であり,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を60モル%以下の量で含有するものである,製造方法。
12該球状ガラス微粒子を1種又は2種以上のアルカリ土類金属イオンを含有する水溶液中で撹拌することにより,該球状ガラス微粒子中のアルカリ金属酸化物の少なくとも一部を該アルカリ土類金属酸化物へとイオン交換することを特徴とする,上記10又は11の製造方法。
13.該アルカリ土類金属イオンが,マグネシウムイオン,カルシウムイオン,ストロンチウムイオン及びバリウムイオンよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のイオンである,上記12の製造方法。
14.上記13の製造方法であって,該方法により得られる球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2を40〜97モル%の量で含有し,
MgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,又は更に加えて,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を60モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,製造方法。
15.上記10又は11の球状ガラス微粒子の製造方法であって,得られた球状ガラス微粒子をホウ酸含有水溶液中で撹拌することにより,該球状ガラス微粒子中のアルカリ金属酸化物の少なくとも一部をホウ素酸化物へとイオン交換することを特徴とする,製造方法。
16.上記15の製造方法であって,該方法により得られる球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2を40〜97モル%の量で含有し,
B2O3を40モル%以下の量で含有し,又は更に加えて,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を60モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,製造方法。
17.上記13又は14の製造方法であって,該方法により得られた球状ガラス微粒子をホウ酸含有水溶液中で撹拌することにより,該球状ガラス微粒子中のアルカリ金属酸化物の少なくとも一部をホウ素酸化物へとイオン交換することを特徴とする,製造方法。
18.上記17の製造方法であって,該方法により得られる球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2を40〜97モル%の量で含有し,
MgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,
B2O3を40モル%以下の量で含有し,又は更に加えて,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を60モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,製造方法。
19.上記9ないし18の何れかの製造方法であって,該方法により得られるガラス微粒子の粒子径の変動係数が30%以下であることを特徴とする,製造方法。
20.上記9ないし19の何れかの製造方法であって,該方法により得られるガラス微粒子が,600〜1200℃の温度で焼結させることができるものである,製造方法。
21.上記9ないし20の何れかの製造方法により製造された球状ガラス微粒子を含有してなる,焼結助剤。
【発明の効果】
【0018】
上記構成になる本発明によれば,従来にはなかった,多成分ガラスに基づくナノレベルのサイズの球状微粒子を得ることができる。しかも,得られる球状微粒子は,粒子径の変動係数が非常に小さくすなわち粒子径がよく揃っているため均質性に優れる。また球状であるという特徴を有していることから,分析試薬や医薬組成物等のようなファインケミカルの分野において,目的化合物の担体等としての用途に適した素材を提供することができる。また,球状で且つ粒子径の分布幅が極めて狭い,すなわち粒度がよく揃っているため,例えばセラミックスの焼結助剤として用いるとき,セラミックス粉末との均一な混和が容易である。更に,組成として,SiO2 以外にB2O3,Li2O,Na2O,K2O,MgO,CaO,SrO,BaO,Al2O3の何れか1種又は複数種を含有しており,このためSiO2のみからなるガラスに比して低融点であり,800〜1200℃という比較的低温で焼結させることができるため,セラミックスの焼結助剤として特に優れている。加えて,本発明の球状ガラス微粒子は,粒子径が非常に小さいものとして得ることができるため,特に電子デバイスの製造における焼結助剤として用いる場合,素子のパターンの微細化や薄膜化を妨げることがない。
更に加えて,球状ガラス微粒子はその製造段階で300℃を超えるような高い温度への加熱が不要であるため,製造がエネルギー非消費型であるという利点もある。
また本発明の製造方法は,窒素雰囲気化の工程を含まず,またエタノールを溶媒として90%以上用いる工程も含まないため,量産に適し,工業的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の球状ガラス微粒子において,「球状」とは,必ずしも真球に限らず,電子顕微鏡により観察したとき実質的に球と認められるものをいう。また本発明の球状ガラス微粒子について「多成分」とは,SiO2以外に少なくとも1種の別の成分を含有することをいう。
【0020】
本発明の球状ガラス微粒子の粒子径について,「変動係数(CV)」は,ガラス微粒子の平均粒子径をμ,ガラス微粒子の粒子径の標準偏差をσとしたとき,CV=σ/μ×100(%)として表される値である。
【0021】
本発明の球状ガラス微粒子の成分のうちSiO2の原料としては,ケイ素アルコキシドを用いることが好ましい。ケイ素アルコキシドを用いこれを,本発明の球状ガラス微粒子を構成する他の成分の存在下に,水酸化アンモニウムの存在下に撹拌しつつ加水分解させることにより,ゲル微粒子を形成することができ,これを単に乾燥させることで,20nm以上1000nm未満の範囲,好ましくは40〜800nm,より好ましくは60〜600nmの範囲に平均粒径を有する,粒径の変動係数の小さい,無孔質の球状のガラス粒子として得ることができる。乾燥温度は適宜でよく,100℃以下の温度,例えば50〜70℃等で行うことができる。ケイ素アルコキシドの特に好ましい例としては,メチルシリケート(テトラメトキシシラン等),エチルシリケート(テトラエトキシシラン等),イソプロピルシリケート(テトライソプロポキシシラン等)が挙げられるが,これらに限定されない。
【0022】
本発明の球状ガラス微粒子の組成において,SiO2の含有量は40〜97モル%である必要がある。これはSiO2の含有量が97モル%より高いと,ガラス粒子の融点を1200℃以下とすることが困難となるためであり,又SiO2の含有量が40モル%より低いすなわち微粒子形成の反応に与るケイ素アルコキシド量が少ないと,安定な球状ガラス微粒子とならないからである。SiO2のより好ましい含量量は50〜97モル%であり,特に好ましい含有量は70〜95モル%である。
【0023】
本発明の球状ガラス微粒子の組成において,B2O3は,ガラス形成成分であって,焼結温度を低下させる成分であり,必須ではないが含有させることが好ましい。但しこれを含有させる場合,40モル%以下とすることが好ましく,30モル%以下とすることがより好ましい。これはB2O3の含有量が多すぎると化学的耐久性が低下するからである。特に好ましくは,B2O3の含有量は,20モル%以下である。本発明の球状ガラス微粒子の成分としてB2O3を含ませるときは,その原料としては,ホウ酸が好ましく用いられる。ホウ酸は,ケイ素アルコキシドを加水分解してゾルそしてゲルを形成させる際に,水溶液として反応液中に添加すればよい。代わりとして,B2O3を含まない球状ガラス微粒子を先ず作製し,当該微粒子を,ホウ酸含有水性溶液中で室温にて撹拌することによっても製造することができる。
【0024】
Li2O,Na2O及びK2Oは,何れも焼結温度を低下させる成分であり,それらのうち1種を又は2種以上を,本発明の球状ガラス微粒子の成分として含有させることができる。含有させる場合,合計含有量として60モル%以下とすることが好ましい。これは,それらの合計含有量が60モル%を超えると化学的耐久性が低下するからである。これらのアルカリ金属酸化物の合計含有量は,より好ましくは40モル%以下,更に好ましくは25モル%以下である。本発明の球状ガラス微粒子にそれらの成分を含有させる場合には,それらの金属イオン源としては,それらの金属の無機塩を用いるのが便利である。無機塩としては炭酸塩,炭酸水素塩,塩酸塩,硫酸塩,硝酸等を適宜用いればよい。特に好ましいのは,炭酸塩,硝酸塩及び硫酸塩であるが,それらに限定されない。それら無機塩は,B2O3の場合と同様,ケイ素アルコキシドを加水分解してゾルそしてゲルを形成させる際に,反応液中に添加しておけばよい。また,それらのアルカリ金属とB2O3とを共に含有させる場合には,それらの金属のホウ酸塩(例えば,ホウ酸ナトリウム等)として加えることもできる。代わりとして,アルカリ金属酸化物は,ゾル−ゲル反応時に,例えばNaOH,LiOH,KOHの形で(水酸化アンモニウムの代わりに)反応液に添加することによってもガラス微粒子に含有させることができる。その場合には,それらのアルカリ金属水酸化物が,水酸化アンモニウムに代わり触媒として作用してケイ素アルコキシドの加水分解とそれに続く重合を促進させる。更には,目的のアルカリ金属水酸化物を含有させずに形成したガラス微粒子を,目的のアルカリ金属の硝酸塩,塩化物等を含有する水溶液中で撹拌することにより,イオン交換を起こさせることで,ガラス微粒子中に含有させてもよい。
【0025】
上記ゾル−ゲル反応の触媒として,水酸化アンモニウムの代わりにNaOH等のアルカリ金属水酸化物を用いる場合,アンモニアの混入がないため,製造廃液からのエタノール等の有機溶媒の抽出・再生が容易であり,抽出・再生時のランニングコストを低減させることができる。
【0026】
また,NaOH等のアルカリ金属水酸化物を触媒とする上記ゾル−ゲル反応を行なう場合,反応混合物に予めヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を含有させておくことが好ましい。これは,HPCが分散剤として作用し,形成されたガラス微粒子を懸濁状態で安定化させるのに役立つためである。その結果,懸濁状態が維持できる固形分(ガラス微粒子)含量の上限を,HPCを用いない場合の約1重量%に対し,約4重量%にまで高めることができ,生産コストと環境負荷とを共に引き下げることができる。
【0027】
MgO,CaO,SrO及びBaOは,何れも焼結温度を低下させ,化学的耐久性を増加する成分であり,それらのうち1種を又は2種以上を,本発明の球状ガラス微粒子の成分として含有させることができる。但し含有させる場合,合計含有量として50モル%以下とすることが好ましい,これは,球状ガラス微粒子を作製するためであり,50モル%を超えてアルカリ土類金属酸化物を含有させると,結晶化が生じ,ガラスを作製することができない。アルカリ土類金属酸化物の含有量は,より好ましくは30モル%であり,特に好ましくは15モル%である。本発明の球状ガラス微粒子にそれらの成分を含有させる場合には,それら金属イオン源としては,それらの金属の水溶性の無機塩,水溶性の酸化物や水酸化物,ハロゲン化物等を原料として用いればよい。無機塩としては炭酸塩,炭酸水素塩,塩酸塩,硫酸塩その他の塩のうち水溶性のものを適宜用いればよい。特に好ましいのは,炭酸塩,硝酸塩及び硫酸塩であるが,それらに限定されない。それらの原料の具体例としては,塩化マグネシウム,塩化カルシウム,塩化ストロンチウム,塩化バリウム等が挙げられる。それらの原料は,B2O3の場合と同様,ケイ素アルコキシドを加水分解してゾルそしてゲルを形成させる際に,反応液中に添加しておけばよい。代わりとして,目的のアルカリ土類金属酸化物を含有させずに形成したガラス微粒子を,目的のアルカリ土類金属の硝酸塩,塩化物等を含有する水溶液中で撹拌することにより,イオン交換を起こさせることで,ガラス微粒子中に含有させてもよい。
【0028】
本発明の球状ガラス微粒子は,組成において比較的少量のAl2O3を含有してもよい。但し含有する場合,含有量は5モル%以下に止めることが好ましい,これは,Al2O3の含有量が5モル%を超えると焼結温度が高くなり,且つ,作製時に結晶が生じやすくなるからである。Al2O3を含有させる場合には,その原料としては,例えば,アルミニウムの水溶性の塩(硫酸アルミニウム,硝酸アルミニウム,塩化アルミニウム等)を用いることができる。それらの原料は,ケイ素アルコキシドを加水分解してゾルそしてゲルを形成させる際に,反応液中に添加しておけばよい。
【0029】
ケイ素アルコキシドをホウ酸や金属成分と共に加水分解するときの反応液中の水酸化アンモニウムの濃度は,0.1〜15mol/Lとすることが好ましい。この範囲外ではナノレベルの均質な球状微粒子を得ることが困難となるためである。水酸化アンモニウムの濃度は,より好ましくは1〜10mol/Lである。
【0030】
ケイ素のアルコキシドをホウ酸や金属成分と共に加水分解するときの反応温度に特に制限はなく,室温で行えばよいが,加熱下や冷却下で行うこともできる。反応時間は,温度その他の条件により異なるが,室温では通常数時間〜24時間程度である。反応液中に形成された微粒子の採取は,濾過,遠心,媒質の留去その他適宜の手段で行うことができる。採取した微粒子を乾燥させることにより得られる球状ガラス微粒子は,相互に緩く付着しているがボールミルや乳鉢等で軽く容易に解砕してそれぞれ分離した球状ガラス微粒子にすることができる。また,ジェットミルなどの粉砕装置を用いて容易に解砕することもできる。粒子径はよく揃っており,特段の分級操作なしに,粒子径の変動係数が30%以内の球状ガラス微粒子を得ることができ,更には,変動係数が20%以内の球状ガラス微粒子を得ることも可能である。
【0031】
本発明において,平均粒子径の調節は,アンモニア濃度や反応温度を制御することにより可能である。例えば,アンモニア濃度を増加させれば,平均粒子径は大きくなり,反応温度を高くすれば,平均粒子径は小さくなることがわかっているため,データを基に作製条件を微調整することにより平均粒径を調整することができる。
【0032】
また,NaOH等のアルカリ金属水酸化物を触媒とする上記ゾル−ゲル反応により球状ガラス微粒子を製造する場合の一般的手順は次のとおりである。すなわち,ケイ素アルコキシド(例えば,テトラエトキシシラン等)をSiO2の原料とし,分散剤としてヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を溶解させたアルコール(例えば,エタノール等)に加えて撹拌し,均一化させる(A液)。別に,アルカリ金属水酸化物をアルコール及び水の混液に溶解させる(B液)。A液とB液とを混合し(C液),40〜60℃にて通常6時間以上撹拌することで,SiO2−アルカリ金属酸化物よりなる2成分系の球状ガラス微粒子が得られる。この場合,得られる球状ガラス微粒子の平均粒子径は,アルカリ金属水酸化物濃度,ケイ素アルコキシド濃度,エタノール濃度,及び/又はHPC分子量の増減に相関して増減し,反応温度の増減には逆相関して減少又は増大する。従って,これらの条件を適宜調節することにより,望みの平均粒子径を有する球状ガラス微粒子を容易に製造することができる。
【0033】
また,シリカ−アルカリ金属酸化物よりなる2成分系の球状ガラス微粒子のイオン交換により多成分系の球状ガラス微粒子を製造する場合の一般的手順は次のとおりである。すなわち,SiO2−アルカリ金属酸化物よりなる2成分球状ガラス微粒子を,アルコール(例えばエタノール)又は含水アルコールに加え,超音波分散又は撹拌その他適宜な分散方法により均一に分散させる(A液)。別に,球状ガラス微粒子に含ませようとするアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩化物,硝酸塩,又はホウ酸若しくはホウ酸塩を水,又はアルコール(例えば,エタノール)を含んだ水に溶解させる(B液)。A液とB液とを混合する(C液)。A液及びB液の量比は,C液のアルコール濃度が,好ましくは5〜50重量%,より好ましくは5〜30重量%,特に好ましくは5〜15重量%(例えば約10重量%)となるように適宜調節することができる。このように,C液中のアルコール含有量を水含有量以下とすることにより,先行技術(特許文献3)のようにアルコール含有量が水含有量より多い場合に比して,イオン交換が行われやすくなる。C液を室温にて通常2時間以上撹拌することで,用いた材料に対応する多成分系球状ガラス微粒子が得られる。
【0034】
上記イオン交換反応において,シリカ−アルカリ金属酸化物よりなる2成分系のガラス微粒子において,交換反応中における媒質中のアルカリ土類金属イオン濃度がアルカリ金属イオン濃度より高くなるようにしておくことで,ガラス微粒子中の全てのアルカリ金属イオンをアルカリ土類金属イオンに交換することが可能である。また,媒質中のアルカリ土類金属イオン濃度をその他の範囲で調節することにより,アルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物とを任意の割合で含有する球状ガラス微粒子を得ることができる。また,もとのシリカ−アルカリ金属酸化物系のガラス微粒子におけるアルカリ金属酸化物比率を高めておくことにより,イオン交換後の球状ガラス微粒子中のアルカリ土類金属含量を高めることができる。こうして,もとのシリカ−アルカリ金属酸化物系のガラス微粒子中におけるアルカリ金属酸化物の含量比率を調節し,且つ,イオン交換時における媒質中のアルカリ土類金属イオン濃度を上記のように調節することにより,所望の組成比率を有する多成分系の球状ガラス微粒子を製造することができる。
【0035】
上記イオン交換反応において,ガラス微粒子は,凝集や沈殿を起こすことがないよう,十分量の媒質中に分散させておくことが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下,実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが,本発明がそれら実施例に限定されることは意図しない。なお,実施例においては,加水分解反応は何れも室温にて行った。
【0037】
〔実施例A1〕
混合後の組成比が,SiO2 86mol%,B2O3 14mol%になるように,イオン交換水4.3mLに,撹拌しながらホウ酸0.19gを加えて溶解させ,撹拌しながら28質量%アンモニア水21mLを更に加えることによりA液を調製し,別に,エタノール15.1mLに,撹拌しながらテトラエトキシシラン(TEOS)2.14mLを加えることによりB液を調製した。A液を撹拌しつつこれにB液を加え,30分間撹拌した。これに更に,28質量%アンモニア水30mLとイオン交換水20mLとの混合溶液を加え,18時間撹拌した。続いて孔径20μmのフィルターで濾過し,異常凝集した粒子をとり除いた。孔径300nmのメンブランフィルターで濾過して固形分と液体とを分離し,メンブランフィルター上に残った微粒子を60℃で12時間乾燥させ,乳鉢で解砕することにより,2成分(SiO2−B2O3)ガラスの球状微粒子を得た。この球状ガラス微粒子の走査型電子顕微鏡写真を図1に,また,粒子径分布を表すグラフを図2に示す。得られた微粒子は球状でありその平均粒子径は306nm,粒子径の変動係数は9.1(%)であった。この球状ガラス微粒子の粒径分布が極めて狭いもので,粒径がよく揃っていることが分かる。
【0038】
〔実施例A2〕
混合後の組成比が,SiO2 86mol%,B2O3 14mol%になるように,イオン交換水4.3mLに,撹拌しながらホウ酸0.19gを加えて溶解させ,撹拌しながら28質量%アンモニア水21μLを更に加えることによりA液を調製し,別に,エタノール15.1mLに,撹拌しながらテトラエトキシシラン(TEOS)2.14mLを加えることによりB液を調製した。A液を撹拌しつつこれにB液を加え,30分間撹拌した。これに更に,28質量%アンモニア水30mLとイオン交換水20mLとの混合溶液を加え,18時間撹拌した。続いて孔径20μmのフィルターで濾過し,異常凝集した粒子をとり除いた。反応混合物を10000×gで15分間遠心し,微粒子を沈降させることにより,固形分を液体から分離し,沈降した微粒子を60℃で12時間乾燥させ,乳鉢で解砕することにより,実施例A1と同様のガラス微粒子を得た。
【0039】
〔実施例A3〕
混合後の組成比が,SiO2 86mol%,B2O3 14mol%になるように,イオン交換水4.3mLに,撹拌しながらホウ酸0.19gを加えて溶解させ,撹拌しながら28質量%アンモニア水21mLを更に加えることによりA液を調製し,別に,エタノール15.1mLに,撹拌しながらテトラエトキシシラン(TEOS)2.14mLを加えることによりB液を調製した。A液を撹拌しつつこれにB液を加え,30分間撹拌した。これに更に,28質量%アンモニア水30mLとイオン交換水20mLとの混合溶液を加え,18時間撹拌した。続いて孔径20μmのフィルターで濾過し,異常凝集した粒子をとり除いた。反応混合物よりエバポレーターでアンモニアとエタノールとを留去した後,凍結乾燥を行うことによって液体を除去し,60℃で12時間乾燥させ,乳鉢で解砕することにより,実施例A1と同様のガラス微粒子を得た。
【0040】
〔実施例A4〕
混合後の組成比が,SiO2 86mol%,B2O3 14mol%になるように,イオン交換水4.3mLに,撹拌しながらホウ酸0.19gを加えて溶解させ,撹拌しながら28質量%アンモニア水21mLを更に加えることによりA液を調製し,別に,エタノール15.1mLに,撹拌しながらテトラエトキシシラン(TEOS)2.14mLを加えることによりB液を調製した。B液を撹拌しつつこれにA液を加え,30分間撹拌した。これに更に,28質量%アンモニア水30mLとイオン交換水20mLとの混合溶液を加え,18時間撹拌した。続いて孔径20μmのフィルターで濾過し,異常凝集した粒子をとり除いた。孔径300nmのメンブランフィルターで濾過して固形分と液体とを分離し,メンブランフィルター上に残った微粒子を60℃で12時間乾燥させ,乳鉢で解砕することにより,実施例A1と同様のガラス微粒子を得た。
【0041】
〔実施例A5〕
混合後の組成比が,SiO2 86mol%,B2O3 14mol%になるように,イオン交換水4.3mLに,撹拌しながらホウ酸0.19gを加えて溶解させ,撹拌しながら28質量%アンモニア水21mLを更に加えることによりA液を調製し,別に,エタノール15.1mLに,撹拌しながらテトラエトキシシラン(TEOS)2.14mLを加えることによりB液を調製した。容器Cを攪拌しながら,その中に,A液とB液を同時に入れ,30分間撹拌した。これに更に,28質量%アンモニア水30mLとイオン交換水20mLとの混合溶液を加え,18時間撹拌した。続いて孔径20μmのフィルターで濾過し,異常凝集した粒子をとり除いた。孔径300nmのメンブランフィルターで濾過して固形分と液体とを分離し,メンブランフィルター上に残った微粒子を60℃で12時間乾燥させ,乳鉢で解砕することにより,実施例A1と同様のガラス微粒子を得た。
【0042】
〔実施例A6〕
混合後の組成比が,SiO2 80.2mol%,B2O3 13.1mol%,Li2O 6.7mol%になるように,イオン交換水4.3mLに,撹拌しながらホウ酸0.19g及び硝酸リチウム0.11gを加えて溶解させ,撹拌しながら28質量%アンモニア水4mLを更に加えることによりA液を調製し,別に,エタノール15.1mLに,撹拌しながらテトラエトキシシラン(TEOS)2.14mLを加えることによりB液を調製した。A液を撹拌しつつこれにB液を加え,30分間撹拌した。これに更に,28質量%アンモニア水30mLとイオン交換水20mLとの混合溶液を加え,18時間撹拌した。続いて孔径20μmのフィルターで濾過し,異常凝集した粒子をとり除いた。孔径300nmのメンブランフィルターで濾過して固形分と液体とを分離し,メンブランフィルター上に残った微粒子を60℃で12時間乾燥させ,乳鉢で解砕することにより,3成分(SiO2−B2O3−Li2O)ガラスの球状微粒子を得た。得られた微粒子は球状でありその平均粒子径は200nmであった。
【0043】
〔実施例A7〜A9〕
実施例A1と同様の方法で,組成比が,SiO2 93.3mol%,B2O3 6.7mol%になるよう球状ガラス微粒子を作製したときの,平均粒径,標準偏差,変動係数を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
〔実施例A10〕
実施例A1で作製した球状ガラス微粒子0.05gを白金容器に入れ,1200℃で焼成すると,焼結したガラスが得られた。
【0046】
〔実施例A11〕
実施例A6で作製した球状ガラス微粒子0.1gとアルミナ粉末0.1gを直径10mmのプレス金型内で1MPaの圧力でプレスしたものをアルミナ基板上に置き,1200℃で焼成すると焼結し,セラミックスが得られた。
【0047】
〔実施例B1〕
エタノール44.8mlにヒドロキシプロピルセルロース(HPC)0.05gを加えて溶解させ、攪拌しながらテトラエトキシシラン4.3mlを更に加えることによりA液を調製した。別に,エタノール44.8mlにHPC0.05gと水酸化ナトリウム0.6gを加えて溶解させ、攪拌しながらイオン交換水3.5mlを更に加えることによりB液を調製した。A液、B液の液温を40℃に保ちつつ、A液を攪拌しつつこれにB液を加え、18時間大気中で攪拌した。続いて孔径20μmのフィルターで濾過し、異常凝集した粒子をとり除いた。反応混合物を10000×gで30分間遠心し、微粒子を沈降させることにより、固形分を液体から分離し、沈降した微粒子を60℃で12時間乾燥させ、乳鉢で解砕することにより、2成分(SiO2−Na2O)ガラスの球状微粒子を得た。
【0048】
この微粒子の走査型電子顕微鏡写真を図4に、また、粒子径分布を表すグラフを図5に示す。得られた微粒子は球状でありその平均粒子径は133.0nm、粒子径の変動係数は23.2(%)であった。また組成分析により得られた粒子の組成比は、SiO2 93.3mol%、Na2O 6.7mol%であった。
【0049】
〔実施例B2〕
エタノール44.8mlにHPC0.05gを加えて溶解させ、攪拌しながらテトラエトキシシラン4.3mlを更に加えることによりA液を調製した。別に,エタノール44.8mlにHPC0.05gと水酸化ナトリウム0.8gを加えて溶解させ、攪拌しながらイオン交換水3.5mlを更に加えることによりB液を調製した。A液、B液の液温を40℃に保ちつつ、A液を攪拌しつつこれにB液を加え、18時間大気中で攪拌を続け攪拌した。続いて孔径20μmのフィルターで濾過し、異常凝集した粒子をとり除いた。反応混合物を10000×gで30分間遠心し、微粒子を沈降させることにより、固形分を液体から分離し、沈降した微粒子を60℃で12時間乾燥させ、乳鉢で解砕することにより、2成分(SiO2−Na2O)ガラスの球状微粒子を得た。
【0050】
この微粒子の走査型電子顕微鏡写真を図6に、また、粒子径分布を表すグラフを図7に示す。得られた微粒子は球状でありその平均粒子径は248.2nm、粒子径の変動係数は15.0(%)であった。また組成分析により得られた粒子の組成比は、SiO2 71.7mol%、Na2O 28.3mol%であった。
【0051】
〔実施例B3〕
実施例B1で作製したSiO2-Na2O微粒子0.5gをエタノール5mLに超音波を用いて分散させた。次に、塩化カルシウム濃度が1mol/Lとなるように調整した水溶液50mlに、攪拌しながら、このスラリーを添加し攪拌を行った。大気中、常温で攪拌を続け6時間後、この溶液を孔径20μmのフィルターで濾過し、異常凝集した粒子をとり除いた。反応混合物を10000×gで15分間遠心し、微粒子を沈降させることにより、固形分を液体から分離し、沈降した微粒子を60℃で12時間乾燥させ、乳鉢で解砕することにより、2成分(SiO2−CaO)ガラスの球状微粒子を得た。
【0052】
この微粒子の走査型電子顕微鏡写真を図8に、また、粒子径分布を表すグラフを図9に示す。得られた微粒子は球状でありその平均粒子径は144.2nm、粒子径の変動係数は16.4(%)であった。また組成分析により得られた粒子の組成比は、SiO2 88.6mol%、CaO 11.4mol%であった。
【0053】
〔実施例B4〜B6〕
実施例B1及びB2と同様の方法で作製し組成制御を行ったSiO2-Na2O微粒子を用いて、また実施例B3と同様の方法で1mol/L塩化カルシウム水溶液を用いたSiO2-CaOの組成制御の結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
〔実施例B7〕
実施例B1で作製したSiO2-Na2O微粒子0.5gをエタノール5mlに超音波を用いて分散させた。次に、硝酸バリウム濃度が0.25mol/Lとなるように調整した水溶液50mLに、攪拌しながら、このスラリーを添加し攪拌を行った。大気中、常温で攪拌を続け6時間後、この溶液を孔径20μmのフィルターで濾過し、異常凝集した粒子をとり除いた。反応混合物を10000×gで15分間遠心し、微粒子を沈降させることにより、固形分を液体から分離し、沈降した微粒子を60℃で12時間乾燥させ、乳鉢で解砕することにより、2成分(SiO2−BaO)ガラスの球状微粒子を得た。得られた微粒子は球状でありその平均粒子径は170.5nm、粒子径の変動係数は10.9(%)であった。また組成分析により得られた粒子の組成比は、SiO2 91.1、mol%、BaO 8.9mol%であった。
【0056】
〔実施例B8〜B10〕
実施例B1及びB2と同様の方法で作製し組成制御を行ったSiO2-Na2O微粒子を用いて、実施例B7と同様の方法で0.25mol/L硝酸バリウム水溶液を用いたSiO2−BaOの組成制御の結果を表3に示す。
【表3】
【0057】
〔実施例B11〕
実施例B2で作製したSiO2-Na2O微粒子0.5gをエタノール5mLに超音波を用いて分散させた。次に、塩化カルシウム濃度が0.1mol/L、塩化バリウムが0.1mol/L、ホウ酸が0.05mol/Lとなるように調整した水溶液50mLに、攪拌しながら、このスラリーを添加し攪拌を行った。大気中、常温で攪拌を続け6時間後、この溶液を孔径20μmのフィルターで濾過し、異常凝集した粒子をとり除いた。反応混合物を10000×gで15分間遠心し、微粒子を沈降させることにより、固形分を液体から分離し、沈降した微粒子を60℃で12時間乾燥させ、乳鉢で解砕することにより、4成分(SiO2-BaO-CaO-B2O3)ガラスの球状微粒子を得た。この微粒子の走査型電子顕微鏡写真を図10に、また、粒子径分布を表すグラフを図11に示す。得られた微粒子は球状でありその平均粒子径は253.2nm、粒子径の変動係数は13.6(%)であった。分析値はSiO2 67.7mol%、BaO 13.3mol%、CaO 11.1mol%、B2O3 7.9mol%であった。
【0058】
〔実施例B12〕
X線回折装置にて実施例B1〜B11の多成分ガラス微粒子を測定すると、ガラス構造を形成しているセラミックスに特徴的なハローのみが観測された。従って,得られた球状ガラス微粒子は,結晶を含まないことが確認された。
【0059】
〔実施例B13〕
実施例B2で得られたSiO2−Na2O微粒子のTG-DTA測定を行い、1000℃まで昇温し熱特性を調べた。その結果を図12に示す。ゾルゲル法により得られた微粒子の特性は溶融法で得られる熱特性とほぼ同じ挙動を示し、約880℃で液相温度に達していることが判明した。
【0060】
〔実施例B14〕
実施例B5で作製した球状ガラス微粒子0.05gを白金容器に入れ、1200℃で焼成すると、焼結したガラスが得られた。
【0061】
〔実施例B15〕
実施例B5で作製した球状ガラス微粒子0.1gとアルミナ粉末0.1gを直径10mmのプレス金型内で1MPaの圧力でプレスしたものをアルミナ基板上に置き、1200℃で焼成すると焼結し、セラミックスが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の微粒子は,多成分ガラスよりなる,粒径分布の極めて狭い球状のガラス粒子であり800〜1200℃で焼結が可能であるため,セラミック等の焼結助剤とし広く利用することができる。また,粒子径の分布幅が極めて狭く且つ形状が球状であるため,分析試薬の担体や化粧品,医薬組成物の原料としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例A1の球状ガラス微粒子の操作型電子顕微鏡写真
【図2】実施例A1の球状ガラス微粒子の粒子径分布を表すグラフ
【図3】実施例A6の球状ガラス微粒子のX線回折パターンを示すグラフ
【図4】実施例B1の球状ガラス微粒子の操作型電子顕微鏡写真
【図5】実施例B1の球状ガラス微粒子の粒子径分布を表すグラフ
【図6】実施例B2の球状ガラス微粒子の操作型電子顕微鏡写真
【図7】実施例B2の球状ガラス微粒子の粒子径分布を表すグラフ
【図8】実施例B3の球状ガラス微粒子の操作型電子顕微鏡写真
【図9】実施例B3の球状ガラス微粒子の粒子径分布を表すグラフ
【図10】実施例B11の球状ガラス微粒子の操作型電子顕微鏡写真
【図11】実施例B11の球状ガラス微粒子の粒子径分布を表すグラフ
【図12】実施例B2の球状ガラス微粒子のTG−DTA曲線を表すグラフ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成として,酸化物換算で,
SiO2を40〜97モル%の量で含有し,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を60モル%以下の量で含有するか, B2O3を40モル%以下の量で含有するか,又はMgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,球状ガラス微粒子。
【請求項2】
組成として,酸化物換算で,
SiO2を50〜97モル%の量で含有し,
B2O3を30モル%以下の量で含有するか,又は
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を25モル%以下の量で含有するものである,
請求項1の球状ガラス粒子。
【請求項3】
組成として,酸化物換算で,MgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で更に含有するものである,請求項2の球状ガラス微粒子。
【請求項4】
組成として,酸化物換算で,MgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で更に含有するものである,請求項1の球状ガラス微粒子。
【請求項5】
組成として,酸化物換算でB2O3を40モル%以下の量で含有するものである,請求項1又は4の球状ガラス微粒子。
【請求項6】
粒子径の変動係数が30%以下である,請求項1ないし5の何れかの球状ガラス微粒子。
【請求項7】
600〜1200℃の温度で焼結させることができるものである,請求項1ないし6の何れかの球状ガラス粒子。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れかの球状ガラス微粒子を含んでなる焼結助剤。
【請求項9】
ホウ酸イオン,リチウムイオン,ナトリウムイオン及びカリウムイオン,マグネシウムイオン,カルシウムイオン,ストロンチウムイオン及びバリウムイオンよりなる群より選ばれる1種又は2種以上イオンと水酸化アンモニウムとを含有する含水アルコール中でケイ素アルコキシドを撹拌し,該含水アルコール中に生じた微粒子を採取して乾燥させること含んでなる球状ガラス微粒子の製造方法であって,該球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2を50〜97モル%の量で含有し,
B2O3を30モル%以下の量で含有するか,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を25モル%以下の量で含有するか,又は
MgO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満である,球状ガラス微粒子の製造方法。
【請求項10】
水酸化リチウム,水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムよりなるアルカリ金属水酸化物の群より選ばれる1種又は2種以上と,ケイ素アルコキシドより選ばれる1種又は2種以上と,水及びアルコールとを混合することを含んでなる,球状ガラス微粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項10の製造方法であって,該方法により得られる球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2の含有量が40〜97モル%であり,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を60モル%以下の量で含有するものである,製造方法。
【請求項12】
該球状ガラス微粒子を1種又は2種以上のアルカリ土類金属イオンを含有する水溶液中で撹拌することにより,該球状ガラス微粒子中のアルカリ金属酸化物の少なくとも一部を該アルカリ土類金属酸化物へとイオン交換することを特徴とする,請求項10又は11の製造方法。
【請求項13】
該アルカリ土類金属イオンが,マグネシウムイオン,カルシウムイオン,ストロンチウムイオン及びバリウムイオンよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のイオンである,請求項12の製造方法。
【請求項14】
請求項13の製造方法であって,該方法により得られる球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2を40〜97モル%の量で含有し,
MgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,又は更に加えて,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を60モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,製造方法。
【請求項15】
請求項10又は11の球状ガラス微粒子の製造方法であって,得られた球状ガラス微粒子をホウ酸含有水溶液中で撹拌することにより,該球状ガラス微粒子中のアルカリ金属酸化物の少なくとも一部をホウ素酸化物へとイオン交換することを特徴とする,製造方法。
【請求項16】
請求項15の製造方法であって,該方法により得られる球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2を40〜97モル%の量で含有し,
B2O3を40モル%以下の量で含有し,又は更に加えて,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を60モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,製造方法。
【請求項17】
請求項13又は14の製造方法であって,該方法により得られた球状ガラス微粒子をホウ酸含有水溶液中で撹拌することにより,該球状ガラス微粒子中のアルカリ金属酸化物の少なくとも一部をホウ素酸化物へとイオン交換することを特徴とする,製造方法。
【請求項18】
請求項17の製造方法であって,該方法により得られる球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2を40〜97モル%の量で含有し,
MgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,
B2O3を40モル%以下の量で含有し,又は更に加えて,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を60モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,製造方法。
【請求項19】
請求項9ないし18の何れかの製造方法であって,該方法により得られるガラス微粒子の粒子径の変動係数が30%以下であることを特徴とする,製造方法。
【請求項20】
請求項9ないし19の何れかの製造方法であって,該方法により得られるガラス微粒子が,600〜1200℃の温度で焼結させることができるものである,製造方法。
【請求項21】
請求項9ないし20の何れかの製造方法により製造された球状ガラス微粒子を含有してなる,焼結助剤。
【請求項1】
組成として,酸化物換算で,
SiO2を40〜97モル%の量で含有し,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を60モル%以下の量で含有するか, B2O3を40モル%以下の量で含有するか,又はMgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,球状ガラス微粒子。
【請求項2】
組成として,酸化物換算で,
SiO2を50〜97モル%の量で含有し,
B2O3を30モル%以下の量で含有するか,又は
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を25モル%以下の量で含有するものである,
請求項1の球状ガラス粒子。
【請求項3】
組成として,酸化物換算で,MgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で更に含有するものである,請求項2の球状ガラス微粒子。
【請求項4】
組成として,酸化物換算で,MgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で更に含有するものである,請求項1の球状ガラス微粒子。
【請求項5】
組成として,酸化物換算でB2O3を40モル%以下の量で含有するものである,請求項1又は4の球状ガラス微粒子。
【請求項6】
粒子径の変動係数が30%以下である,請求項1ないし5の何れかの球状ガラス微粒子。
【請求項7】
600〜1200℃の温度で焼結させることができるものである,請求項1ないし6の何れかの球状ガラス粒子。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れかの球状ガラス微粒子を含んでなる焼結助剤。
【請求項9】
ホウ酸イオン,リチウムイオン,ナトリウムイオン及びカリウムイオン,マグネシウムイオン,カルシウムイオン,ストロンチウムイオン及びバリウムイオンよりなる群より選ばれる1種又は2種以上イオンと水酸化アンモニウムとを含有する含水アルコール中でケイ素アルコキシドを撹拌し,該含水アルコール中に生じた微粒子を採取して乾燥させること含んでなる球状ガラス微粒子の製造方法であって,該球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2を50〜97モル%の量で含有し,
B2O3を30モル%以下の量で含有するか,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を25モル%以下の量で含有するか,又は
MgO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満である,球状ガラス微粒子の製造方法。
【請求項10】
水酸化リチウム,水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムよりなるアルカリ金属水酸化物の群より選ばれる1種又は2種以上と,ケイ素アルコキシドより選ばれる1種又は2種以上と,水及びアルコールとを混合することを含んでなる,球状ガラス微粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項10の製造方法であって,該方法により得られる球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2の含有量が40〜97モル%であり,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を60モル%以下の量で含有するものである,製造方法。
【請求項12】
該球状ガラス微粒子を1種又は2種以上のアルカリ土類金属イオンを含有する水溶液中で撹拌することにより,該球状ガラス微粒子中のアルカリ金属酸化物の少なくとも一部を該アルカリ土類金属酸化物へとイオン交換することを特徴とする,請求項10又は11の製造方法。
【請求項13】
該アルカリ土類金属イオンが,マグネシウムイオン,カルシウムイオン,ストロンチウムイオン及びバリウムイオンよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のイオンである,請求項12の製造方法。
【請求項14】
請求項13の製造方法であって,該方法により得られる球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2を40〜97モル%の量で含有し,
MgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,又は更に加えて,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を60モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,製造方法。
【請求項15】
請求項10又は11の球状ガラス微粒子の製造方法であって,得られた球状ガラス微粒子をホウ酸含有水溶液中で撹拌することにより,該球状ガラス微粒子中のアルカリ金属酸化物の少なくとも一部をホウ素酸化物へとイオン交換することを特徴とする,製造方法。
【請求項16】
請求項15の製造方法であって,該方法により得られる球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2を40〜97モル%の量で含有し,
B2O3を40モル%以下の量で含有し,又は更に加えて,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を60モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,製造方法。
【請求項17】
請求項13又は14の製造方法であって,該方法により得られた球状ガラス微粒子をホウ酸含有水溶液中で撹拌することにより,該球状ガラス微粒子中のアルカリ金属酸化物の少なくとも一部をホウ素酸化物へとイオン交換することを特徴とする,製造方法。
【請求項18】
請求項17の製造方法であって,該方法により得られる球状ガラス微粒子が,組成として,酸化物換算で,
SiO2を40〜97モル%の量で含有し,
MgO,CaO,SrO及びBaOよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ土類金属酸化物を50モル%以下の量で含有し,
B2O3を40モル%以下の量で含有し,又は更に加えて,
Li2O,Na2O及びK2Oよりなる群より選ばれる1種又は2種以上のアルカリ金属酸化物を60モル%以下の量で含有し,
平均粒子径が20nm以上1000nm未満であることを特徴とする,製造方法。
【請求項19】
請求項9ないし18の何れかの製造方法であって,該方法により得られるガラス微粒子の粒子径の変動係数が30%以下であることを特徴とする,製造方法。
【請求項20】
請求項9ないし19の何れかの製造方法であって,該方法により得られるガラス微粒子が,600〜1200℃の温度で焼結させることができるものである,製造方法。
【請求項21】
請求項9ないし20の何れかの製造方法により製造された球状ガラス微粒子を含有してなる,焼結助剤。
【図3】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−24582(P2008−24582A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158083(P2007−158083)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000178826)日本山村硝子株式会社 (140)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000178826)日本山村硝子株式会社 (140)
【Fターム(参考)】
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