説明

球状結晶質オキシシュウ酸チタン粉末およびその製造方法

【課題】球状の結晶質オキシシュウ酸チタン粉末を提供する。
【解決手段】硫酸チタニルとシュウ酸を特定の条件下において反応させ、湿式熟成することにより、球状であり、メジアン径が0.05〜30μmで、粒度の揃った、式〔1〕で表される球状の結晶質オキシシュウ酸チタンが得られる。すなわち、球状の結晶質オキシシュウ酸チタン粉末およびその製造方法であり、粒度を制御することのできる製造方法。(TiO)2OC24・nH2O〔1〕(式〔1〕において、nは1〜12である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状結晶質オキシシュウ酸チタン粉末およびその製造方法に関するものである。本発明の球状結晶質オキシシュウ酸チタン粉末は、粒度の安定した球状粉末であることから分散性に優れ、分散系で用いられる触媒として優れているうえ、本品を中間原料として用いることで粒度の安定した球状粉末である各種チタン化合物を得ることが可能となり、それらのチタン化合物もまた、分散性に優れたものとして各種用途に好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
オキシシュウ酸チタンは、ポリエステルを製造するための重縮合触媒としての用途が特許文献1に記載されているが、オキシシュウ酸チタンの製造方法については記載がなく、粒度や形状についても記載がなかった。
【0003】
特許文献2には、二酸化チタンの前駆体としての用途の記載があるが、オキシシュウ酸チタン自体の製造方法の記載はなく、粒度や形状についても記載がなかった。
【0004】
オキシシュウ酸チタンの合成方法としては、非特許文献1に水酸化チタンを塩酸に溶かし、これにシュウ酸を加えると得られることが示されている。また、非特許文献2には四塩化チタンと硝酸から調整したオキシ硝酸チタン水溶液をシュウ酸のエタノール溶液に添加し、12時間、60℃で攪拌することで結晶質のオキシシュウ酸チタン得られることが示されている。しかし、球状の形状を有する結晶質オキシシュウ酸チタン粉末は知られていなかった。
【0005】
すなわち、球状の結晶質オキシシュウ酸チタンは未知の課題であり、球状の結晶質オキシシュウ酸チタンを得ることのできる製造方法もまた、知られていなかった。しかし、触媒としてのオキシシュウ酸チタンや、中間体としてのオキシシュウ酸チタンから得られる酸化チタン等の各種チタン化合物が、分散系で使用される用途が多いことを考慮すると、球状で粒度が制御されたものであれば分散性や充填性などに優れたものとなることは明らかであるから、球状の結晶質オキシシュウ酸チタンは、それ自体、およびチタン化合物の中間体としても望ましいものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2001−190963号公報
【特許文献2】特開平2003−252626号公報
【0007】
【非特許文献1】共立出版 1960年発行、化学大辞典2、第62頁
【非特許文献2】Choi,H.−L., Powder Diffraction,9巻 第187−188頁(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、球状の結晶質オキシシュウ酸チタン粉末を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、オキシ硫酸チタニルとシュウ酸を特定の条件下において反応させ、湿式熟成することにより下記式〔1〕で示される球状の結晶質オキシシュウ酸チタン粉末が得られることを見出し、また、上記反応、熟成の条件を限定することによって、球状の結晶質オキシシュウ酸チタン粉末の粒度を制御できることを見出して本発明を完成させた。すなわち、本発明は球状の結晶質オキシシュウ酸チタン粉末およびその製造方法であり、粒度を制御することのできる製造方法である

(TiO)2OC24・nH2O 〔1〕

(式〔1〕において、nは1〜12の整数であり、異なるnのものが含まれてもよい。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の球状結晶質オキシシュウ酸チタン粉末およびその製造方法によれば、球状の結晶質オキシシュウ酸チタンが得られ、それは粒度の制御されたものでもありうる。また、本発明の球状結晶質オキシシュウ酸チタン粉末は各種チタン化合物の中間原料でもあるので、粒度の制御された球状のチタン化合物、特に球状の酸化チタンを与えることができる原料にもなりうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例4で得られたオキシシュウ酸チタン粉末のSEM写真
【図2】実施例4で得られたオキシシュウ酸チタン粉末を粉末X線回折装置で測定したX線回折図形。
【図3】比較例2で得られた粉末を粉末X線回折装置で測定したX線回折図形。
【図4】実施例4で得られたオキシシュウ酸チタン粉末のレーザー回折式粒度分布計による粒度分布図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明について説明する。特に記載のない場合、%は質量%である。
本発明の球状結晶質オキシシュウ酸チタン粉末は、下記式〔1〕で示される球状の化合物結晶である。

(TiO)2OC24・nH2O 〔1〕

(式〔1〕において、nは1〜12の整数であり、異なるnのものが含まれてもよい。)
【0013】
本発明の結晶質オキシシュウ酸チタンは、粉末X線回折図形で確認することができる。その回折図形は、ASTM File No.48−1164および非特許文献2に記されており、d値で3.352(100)、4.621(90)、3.221(78)、6.475(65)、4.236(62)、2.844(45)、1.885(44)、2.595(36)、4.189(26)、7.763(24)である。()内の数字は、各d値におけるX線回折強度を、d=3.352のX線回折強度を(100)とした場合の相対強度として示した数字である。なお、d値はオングストローム単位での結晶面間隔を表す物理的数値であるが、単位オングストロームは慣用的に省略される。
【0014】
粉末X線回折図形において、酸化チタンはd値=3.464に特徴的な回折ピークを示すことは特許文献2に記載があるが、本発明において、オキシシュウ酸チタン結晶の特徴的な回折ピークであるd値=3.352(CuKα線で測定した場合、回折角2θ=26.57°に相当する)のX線回折強度は、酸化チタンを示すd値=3.464(CuKα線で測定した場合、回折角2θ=25.72°に相当する)の回折強度に対して1,000倍以上の回折強度を有することが好ましく、さらに好ましくは3,000倍以上である。常識的な測定条件である、40kv/150mAで、CuKα線を用いて測定した場合のX線回折強度cpsの絶対値で表現すると、回折角2θ=26.57°において3000cps以上が好ましく、さらに好ましくは4000cps以上であり、同時に酸化チタンの示す2θ=25.72°のX線強度は100cps以下であることが好ましい。
【0015】
この測定条件で2θ=26.57°におけるX線回折強度が3000cps未満となる場合は、結晶性が低いか、または他の生成物の混入することで純度が低下している可能性があるが、好ましいのは物性の安定した単一結晶質であるので好ましくは3000cps以上である。また、酸化チタンが混入していると、単にオキシシュウ酸チタン結晶の割合が減るだけでなく、オキシシュウ酸チタン結晶の化学反応性が低下するので、酸化チタンを示す回折角2θ=25.72°のX線強度は、100cps以下となることが好ましい。
【0016】
本発明の結晶質オキシシュウ酸チタン粉末は球状である。球は完全な真球状に制御することは難しく、SEM観察においては、やや扁平していたり多少の表面凹凸があるような「略球状」を呈しているものも含む。本発明の製造方法以外では球状は得ることが難しく、楕円体〜円柱状、円環状、破砕状、不定形などの形状となる。これらの形状の分別は走査電子顕微鏡(SEM)で観察すれば一目瞭然であるが、本発明における球状の定義としては、どの方向から見ても円形に見えることであり、粒子の表面の任意の点aから、異なる点bまでの線の長さをxとし、xが最大値となる点aから点bまでを結んだ線を粒子長軸と、xが最小値となる点aから点bまでを結んだ線を粒子短軸と定義したとき、粒子群中において、粒子短軸の粒子長軸に対する長さの比が0.5〜1の範囲内にある粒子が全粒子の60%以上を占めるものである。粒子短軸の粒子長軸に対する比が0.5以下の場合は楕円体、そして粒子長軸の端面に表面積の3面積%以上97%以下の平面領域を有する場合は円柱状と定義する。
【0017】
粒径は、測定原理によって若干異なる数値を与えるが、本願発明における粒径および粒度の数値については、一般的なレーザー回折式粒度分布計に基づくものであり、体積基準で算出されたメジアン径を、粉末を代表する粒径として定義することができる。本発明の製造方法によれば、メジアン径で0.05〜30μmの球状結晶質オキシシュウ酸チタン粉末を得ることができる。好ましい粒径としては0.1〜20μmであり、より好ましくは0.3〜15μmであり、粒度の均一性や形状の安定性の良好なものが得られやすい。
【0018】
本発明の球状結晶質オキシシュウ酸チタン粉末の粒度は、合成条件により制御することが可能であり、例えば攪拌力や昇温速度、熟成温度などによってメジアン径の大小や粒度分布の状態を変える事ができる。メジアン径が同じでも、粒度分布が広すぎて粗大粒子や微小粒子が多いものは樹脂等に添加して射出成形するときに、粗大粒子が狭い金型に引っかかったり、粘度が高すぎて流動性が悪くなる、あるいは繊維状に加工する時の糸切れが激しくなるなどの傾向があるので、本発明で好ましいのは粒度分布幅の狭いものであり、式〔2〕で定義される粒度分布のσ値が1以上3.5以下のものが好ましい。

σ=(D1/D20.5 〔2〕

(D1:体積基準で累積84%の時の粒径であり、D2:体積基準で累積16%の時の粒径である。)

さらに好ましくはσ値が1以上2.5以下であり、より好ましくは1以上2以下である。なお、本発明の球状結晶質オキシシュウ酸チタン粉末は化学成分が均一であるから、真密度は一定であり、体積基準と質量基準の粒度分布は同じ値となる。
【0019】
本発明の球状結晶質オキシシュウ酸チタン粉末に含まれる結晶水は、式〔1〕におけるnで1〜12であり、通常は水溶液中で12水塩が生成するが、その後、加熱等の方法で乾燥することにより、一般的な乾燥条件ではnが2〜5程度のものが得られやすい。
【0020】
本発明における球状結晶質オキシシュウ酸チタン粉末の製造方法に限定はないが、チタン水溶液をシュウ酸の水溶液と特定の配合比で混合後、特定の条件で熟成する製造方法で得ることができ、好ましい製造方法である。
【0021】
チタン水溶液には、オキシ硫酸チタニルを水に溶解して使用する。オキシ硫酸チタニル水溶液の濃度は水温にもよるが、0.1〜5モル/L(リットル)濃度で可能であり、生産性などを考慮すると1〜5モル/Lが好ましく、さらに好ましくは2〜4モル/Lである。もう一方の原料であるシュウ酸は無水でも2水和物でも使用可能である。シュウ酸水溶液の濃度も水温によるが、0.1〜5モル/Lの濃度範囲で可能であり、好ましくは0.5〜2モル/Lである。オキシ硫酸チタニルの質量を1とした場合のシュウ酸の質量配合比率は、0.4〜0.65で可能であり、0.42〜0.6が好ましく、0.45〜0.55がより好ましい。
【0022】
シュウ酸と硫酸チタニルの混合順序に制限は無く,シュウ酸に硫酸チタニルを滴下混合してもよく、硫酸チタニルにシュウ酸を滴下混合してもよく、または同時に滴下混合してもよい。滴下時間および滴下温度に制限はないが、滴下時間は1分から10時間以内が好ましく、さらに好ましくは5分から1時間の間である。好ましい滴下温度は100℃以下であり、さらに好ましくは操作性や粒径の制御度合いの良好である1℃以上80℃以下であり、より好ましくは10℃以上50℃以下である。
【0023】
原料の滴下が終了した後は、溶液のまま加熱熟成することでオキシシュウ酸チタンの結晶化が進行し、粉末が析出する。好ましい熟成の温度は,50℃〜100℃である。50℃以下では結晶性が得られないか、得られるまでに長時間を必要とするし、高温、特に100℃を超えると大気圧中では水が沸騰するため加圧反応器が必要となり経済的でないため、さらに好ましくは60℃〜80℃である。60℃〜80℃の熟成温度であれば、数時間〜十数時間でオキシシュウ酸チタン粉末が得られる。また、温度が低いほど微粒子のオキシシュウ酸チタン粉末が得られる。得られたオキシシュウ酸チタン懸濁液は、セラミックフィルターや洗浄ろ過を繰り返す等の方法で脱イオン水によって洗浄することができる。ろ液の電気伝導度が500μS(ジーメンス)以下になるまで水洗すると、不純物が十分に除かれるので好ましい。
【0024】
本発明の球状結晶質オキシシュウ酸チタン粉末は、粒度の制御された球状であることから、これを原料にして合成したチタン化合物は、球状または均一で球状のものが得られやすく、特に球状の酸化チタンを容易に得ることができる。目的とするチタン化合物の合成条件にあわせて、本発明の球状オキシシュウ酸チタンは、水分散液や湿粉、乾燥粉末等の形で提供することができる。また、たとえば、酸化チタンの合成の場合は、本発明の球状オキシシュウ酸チタンを高温で加熱処理することで、球状の形態と粒度を保ったままの酸化チタンを得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
XRD回折強度は粉末X線回折装置により測定条件40kv/150mAでCuKα線によって測定した場合の特定反射角(結晶性オキシシュウ酸チタン化合物を示す代表的なピークである2θ=26.57°)でのX線回折強度の測定値である。球状の形状確認には、走査型電子顕微鏡(SEM)により、数千倍から1万倍の倍率で観察した。メジアン径および最大粒径は、レーザー回折式粒度分布計を用いて測定し、体積基準によって解析した値である。
【0026】
<実施例1>
容量1リットルのガラスフラスコに脱イオン水200mLとオキシ硫酸チタニル0.5モルを加え、加温して40℃で溶解した。脱イオン水250mLにシュウ酸2水和物0.25モルを加え溶解した50℃の水溶液を、20分かけて滴下した。滴下終了後、1500rpm、60℃で8時間攪拌した。その後、得られた沈殿物を脱イオン水でよく洗浄し、120℃で4時間乾燥後、乳鉢で軽く解砕することでオキシシュウ酸チタン粉末を合成した。
得られたオキシシュウ酸チタンのXRD回折測定により、結晶性不純物の有無とオキシシュウ酸チタン化合物を示す2θ=26.57°におけるX線強度を調べた。SEM観察で形状などを確認し、レーザー回折式粒度分布計で粒度およびメジアン径を測定した結果を表1に示した。なお、酸化チタンを示す2θ=25.72°の回折ピークは認められなかった。
【0027】
<実施例2>
容量1リットルのガラスフラスコに脱イオン水200mLとオキシ硫酸チタニル0.45モルを加え、30℃で溶解した。脱イオン水250mLにシュウ酸2水和物0.25モルを加え溶解した30℃の水溶液を20分で滴下した。滴下終了後、1000rpm、80℃で6時間攪拌した。その後、得られた沈殿物を脱イオン水でよく洗浄し、120℃で4時間乾燥後、解砕することによりオキシシュウ酸チタンを合成した。
得られたオキシシュウ酸チタンのXRD回折測定により、結晶性不純物の有無とオキシシュウ酸チタン化合物を示す2θ=26.57°におけるX線強度を調べた。SEM観察で形状などを確認し、レーザー回折式粒度分布計で粒度およびメジアン径を測定した結果を表1に示した。なお、酸化チタンを示す2θ=25.72°の回折ピークは認められなかった。
【0028】
<実施例3>
容量1リットルのガラスフラスコに脱イオン水250mLとシュウ酸2水和物0.25モルを加え、30℃で溶解した。脱イオン水250mLにオキシ硫酸チタニル0.5モルを加え溶解した30℃の水溶液を20分で滴下した。滴下終了後、1000rpm、95℃で6時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で4時間乾燥後、解砕することでオキシシュウ酸チタンを合成した。
得られたオキシシュウ酸チタンのXRD回折測定により、結晶性不純物の有無とオキシシュウ酸チタン化合物を示す2θ=26.57°におけるX線強度を調べた。SEM観察で形状などを確認し、レーザー回折式粒度分布計で粒度およびメジアン径を測定した結果を表1に示した。なお、酸化チタンを示す2θ=25.72°の回折ピークは認められなかった。
【0029】
<実施例4>
脱イオン水200mLにオキシ硫酸チタニル0.45モルを加え、20℃で溶解した。脱イオン水250mLにシュウ酸2水和物0.25モルを加え溶解した30℃の水溶液を20分で滴下した。滴下終了後、2000rpm、80℃で6時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で4時間乾燥後、解砕することですることによりオキシシュウ酸チタンを合成した。
得られたオキシシュウ酸チタンのXRD回折測定により、結晶性不純物の有無とオキシシュウ酸チタン化合物を示す2θ=26.57°におけるX線強度を調べた。SEM観察で形状などを確認し、レーザー回折式粒度分布計で粒度およびメジアン径を測定した結果を表1に示した。なお、酸化チタンを示す2θ=25.72°の回折ピークは認められなかった。
【0030】
実施例4で得られた球状結晶質オキシシュウ酸チタンの粒度分布図は図4であり、体積基準で累計16%となる粒径は2.8μmであり、累計84%の粒径は6.1μmであったことからσ値は1.5と算出された。他の例についても同様にσ値を算出して表1に示した。
【0031】
<実施例5>
脱イオン水200mLにオキシ硫酸チタニル0.5モルを加え、20℃で溶解した。脱イオン水250mLにシュウ酸2水和物0.25モルを加え40℃で溶解した。脱イオン水300mLにオキシ硫酸チタニル水溶液とシュウ酸水溶液を30分で同時に滴下した。滴下終了後、2000rpm、60℃で6時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で4時間乾燥後、解砕することですることによりオキシシュウ酸チタンを合成した。
得られたオキシシュウ酸チタンのXRD回折測定により、結晶性不純物の有無とオキシシュウ酸チタン化合物を示す2θ=26.57°におけるX線強度を調べた。SEM観察で形状などを確認し、レーザー回折式粒度分布計で粒度およびメジアン径を測定した結果を表1に示した。なお、酸化チタンを示す2θ=25.72°の回折ピークは認められなかった。
【0032】
<実施例6>
脱イオン水200mLにオキシ硫酸チタニル0.5モルを加え、20℃で溶解した。脱イオン水350mLにシュウ酸2水和物0.25モルを加え溶解した20℃の水溶液を120分で滴下した。滴下終了4時間後、2時間かけて60℃まで昇温し、さらに12時間、2000rpmで攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で4時間乾燥後、解砕することでオキシシュウ酸チタンを合成した。
得られたオキシシュウ酸チタンのXRD回折測定により、結晶性不純物の有無とオキシシュウ酸チタン化合物を示す2θ=26.57°におけるX線強度を調べた。SEM観察で形状などを確認し、レーザー回折式粒度分布計で粒度およびメジアン径を測定した結果を表1に示した。なお、酸化チタンを示す2θ=25.72°の回折ピークは認められなかった。
【0033】
<実施例7>
脱イオン水20Lにオキシ硫酸チタニル50モルを加え、50℃で溶解した。脱イオン水25Lにシュウ酸2水和物25モルを加え溶解した50℃の水溶液を10分で滴下した。滴下終了後、95℃に30分で昇温し、さらに8時間、500rpmで攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で4時間乾燥後、解砕することでオキシシュウ酸チタンを合成した。
得られたオキシシュウ酸チタンのXRD回折測定により、結晶性不純物の有無とオキシシュウ酸チタン化合物を示す2θ=26.57°におけるX線強度を調べた。SEM観察で形状などを確認し、レーザー回折式粒度分布計で粒度およびメジアン径を測定した結果を表1に示した。なお、酸化チタンを示す2θ=25.72°の回折ピークは認められなかった。
【0034】
<比較例1>
脱イオン水200mLにオキシ硫酸チタニル0.5モルを加え、40℃で溶解した。脱イオン水250mLにシュウ酸2水和物0.25モルを加え溶解した40℃の水溶液を20分で滴下した。滴下終了後、1500rpm、40℃で24時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で4時間乾燥後、解砕した。
得られたオキシシュウ酸チタンのXRD回折測定により、結晶性不純物の有無とオキシシュウ酸チタン化合物を示す2θ=26.57°におけるX線強度を調べた。SEM観察で形状などを確認し、レーザー回折式粒度分布計で粒度およびメジアン径を測定した結果を表1に示した。得られた化合物は、結晶性が低く、X線回折ではほとんど回折ピークが表れない無定形のものであった。
【0035】
<比較例2>
脱イオン水200mLにオキシ硫酸チタニル0.5モルを加え、40℃で溶解した。脱イオン水250mLにシュウ酸2水和物0.19モルを加え溶解した50℃の水溶液を20分で滴下した。滴下終了後、1500rpm、80℃で8時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で4時間乾燥後、解砕した。
得られたオキシシュウ酸チタンのXRD回折測定により、結晶性不純物の有無とオキシシュウ酸チタン化合物を示す2θ=26.57°におけるX線強度を調べた。SEM観察で形状などを確認し、レーザー回折式粒度分布計で粒度およびメジアン径を測定した結果を表1に示した。得られた化合物は、形状が球状ではなく、小粒子の凝集物のような凹凸のある凝集塊状であった。また、粉末X線回折図形は、図3に示すように、2θ=26.57°の小さな回折ピークを有するが、図2に示す本発明のオキシシュウ酸チタンのX線回折図形とは全体のパターンが全く異なっていることから、本発明のオキシシュウ酸チタンとは結晶系の異なる化合物であると判断された。なお、酸化チタンを示す2θ=25.72°の回折ピーク強度が210cpsあり、2θ=26.57°のピークとの回折強度比は約13であった。
【0036】
<比較例3>
硝酸水溶液200mLに四塩化チタン0.2モルを加え、40℃で攪拌した。エタノール250mLにシュウ酸2水和物0.1モルを加え溶解した50℃の水溶液を20分で滴下した。滴下終了後、1500rpm、60℃で8時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で4時間乾燥後、解砕した。
得られたオキシシュウ酸チタンのXRD回折測定により、結晶性不純物の有無とオキシシュウ酸チタン化合物を示す2θ=26.57°におけるX線強度を調べた。SEM観察で形状などを確認し、レーザー回折式粒度分布計で粒度およびメジアン径を測定した結果を表1に示した。得られた化合物は、粉末X線解析図形はオキシシュウ酸チタンであったが、形状は円柱状であった。なお、酸化チタンを示す2θ=25.72°の回折ピークは認められなかった。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例1〜7は、表1の結果から球状結晶質オキシシュウ酸チタンが得られたことが確認できた。一方、熟成温度が低い比較例1の生成物は、結晶性が低く形状も球状ではなく、オキシ硫酸チタニルを1とした場合のシュウ酸の配合比率が0.38である比較例2の生成物は、形状が球状ではなく、本願の結晶質オキシシュウ酸チタンとは結晶系の異なるものだった。また、四塩化チタンを原料に用いた既存の製造方法により合成した比較例3の生成物は、結晶質オキシシュウ酸チタンではあったが、形状は球状ではなく円柱状であった。


【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の球状結晶質オキシシュウ酸チタンは、粒度の制御された球状であることから、これを原料にして合成したチタン化合物は、球状または均一で球状のものが得やすく、特に球状のチタン化合物が得られるものである。
【符号の説明】
【0040】
図2および図3の縦軸は粉末X線回折測定におけるX線強度(単位:cps)を表す。
図2および図3の横軸はX線の回折角度2θ(単位:°)を表す。
図4の縦軸は全体を100%とした時の、該粒径の粒子の体積分率(単位%)を表す。
図4の横軸は粒径(単位マイクロメートル)を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状の形状を有する、下記式〔1〕で示される結晶質オキシシュウ酸チタン粉末。

(TiO)2OC24・nH2O 〔1〕

(式〔1〕において、nは1〜12である。)
【請求項2】
粉末X線回折図形において、オキシシュウ酸チタン結晶の特徴的な回折ピークであるd値3.352のX線回折強度が、酸化チタン結晶の特徴的な回折ピークであるd値=3.464の回折強度に対して1,000倍以上の回折強度を有する、請求項1に記載の球状結晶質オキシシュウ酸チタン粉末。
【請求項3】
レーザー回折式粒度分布計による体積基準のメジアン径が、0.05〜30μmの範囲にある、請求項1または2に記載の球状結晶質オキシシュウ酸チタン粉末。
【請求項4】
式〔2〕で定義される粒度分布のσ値が1以上3.5以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の球状結晶質オキシシュウ酸チタン粉末。

σ=(D1/D20.5 〔2〕

(D1:体積基準で累積84%のときの粒径であり、D2:体積基準で累積16%のときの粒径である。)
【請求項5】
シュウ酸水溶液とオキシ硫酸チタニル水溶液を混合後、50℃以上に加熱する、請求項1〜4のいずれかに記載の結晶質オキシシュウ酸チタン粉末の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−132129(P2011−132129A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290216(P2009−290216)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】