説明

理髪用はさみの製造方法及び理髪用はさみ

本発明は理髪用はさみの製造方法に関し、はさみ刃(23、33)にハードメタルによるエッジ(24、34)が形成された理髪用はさみ(1)を製造する方法において、前記理髪用はさみ(1)のはさみ半体(2、3)であって、前記はさみ刃(23、33)と、柄(22、32)と、リング(21、31)と、をそれぞれ有する該はさみ半体(2、3)用に一つの抜板を得る工程と、前記はさみ刃(23、33)を、事前に決定された程度に、前記エッジ(24、34)から背ける方向へ湾曲させる予備成形工程と、前記はさみ刃(23、33)の互いに向き合う面に設けられた溶接ビード(5)により形成されたハードメタル材料を溶接する工程であって、前記エッジ(24、34)用にハードメタル層を形成させ、更に、事前に決定された前記はさみ刃(23、33)の予備成形が該溶接中の熱の影響により実質的に打ち消される溶接工程と、前記エッジ(24、34)を形成するために前記溶接ビード(5)を研削する工程と、前記はさみ半体(2、3)を組合せ、続いてセットする工程と、前記はさみ半体(2、3)を分離し、続いて硬化させる工程と、 前記はさみ半体(2、3)の表面処理を行う工程と、前記はさみ半体(2、3)を再び組合せる工程と、前記理髪用はさみ1をハードセットする工程と、を含んでなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に基づく理髪用はさみの製造方法に関し、更に、請求項8のプレアンブルに基づく理髪用はさみに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のはさみは、2つのはさみ半体がロックを介して連接状態に相互接続されてなり、該2つのはさみ半体及びエッジは、しばしばステンレス又は腐食防止鋼合金により形成されている。しかし、このようなはさみは、比較的短い期間の使用後、エッジ範囲の先鋭度が低下するという欠点を示す。このため、エッジ範囲にハードメタル層を採用することが周知である。これにより、ハードメタルの強度のおかげによりエッジの先鋭度をより長く保ちつつ、はさみの寿命を実質的に延ばすことが可能である。しかし、その一方、ハードメタルは比較的もろく、これが、理髪用はさみをセッティングするための製造工程の実施を、従来のスチール合金製のはさみ刃を用いる場合より困難とする理由となっている。過剰に集中した加工及び変形要因は、エッジのクラックやチッピングの原因となり得る。他方において、この2つのはさみ部品の均一な動き及びスムースな動きは、はさみ刃相互の理想的なセッティングにかかっている。もし、ハードメタルをエッジに採用する場合、それゆえ、エッジ範囲にこの材料を集中させることが実行上好ましい。
【0003】
更に、実際には様々なタイプのはさみが周知であって、それぞれが同様の基本原理に基づくが、しかしながら、各利用法に基づいてそれぞれの要求は明らかに異なっている。したがって、従来の家庭用はさみの場合、ローコストで提供可能であるか、また、紙や布等を満足できるように切断可能であるか、が実質的に重要である。これとは別に、例えば、外科処理において使用される、切断困難な身体組織を切断できる外科用はさみもある。この目的において、てこの原理を好ましく享受できるように、該はさみは、短いエッジを備えた長い柄を慣習上含み、これに加え、特に腐食防止がされ、更に殺菌処理に耐え得る材料で形成されている。実際の使用において、外科用はさみは、特に、硬い又は耐有機性材料の切断特性を確実に発揮できるように、ハードメタルエッジがはさみ刃と結合されるか、又は、ハードメタルエッジを構成するハードメタル小板がはさみ刃に装着されるものとして更に周知であって、特にまた、1回又は複数回の外科手術での完全な使用にも耐え得る。ハードメタルエッジの使用は、この分野で承認可能とされ、特に、外科用はさみは、エッジ範囲において大変高いフレッティング腐食を受けるが、衛生上の理由により殺菌の後にオイル付けをしてはならない。しかしながら、実際の外科手術では切断の必要性は低く、外科用はさみ等のエッジにおける好ましくない摩擦状態は、実際にはそれ程重要ではなく、また、適したてこの状態という観点でもそれ程重要ではない。
【0004】
理髪用はさみの場合、対照的に、はさみの容易な動作が極めて重要であり、それは、ヘアードレッサーにとって理髪用はさみは基本的なワーキングツールであるためである。理髪用はさみは、日々の業務において頻繁に使用され、数百又は数千回ものカットが日々行われているに違いない。高いカット頻度の観点において、このような理髪用はさみを用いた業務を許容可能のものにするために、はさみ刃は特に正確にセットされ且つ摩擦が低くなるように設計されているので、1回のカットにかかる力を低く保っている。
【0005】
この目的において、はさみ刃を交差させ、カットが開始されると、2つのエッジが互いに、最大の精度を保持し、常に1点において正確に接触し、やがて、はさみ刃が閉じられていくと、この接触点がはさみの先端方向へ移動するように、はさみ刃を交差させていることが、実務上、特に知られている。そのようなはさみ刃の交差は、一方では、その縦軸方向の捩れによりなされ、また他方では、はさみ刃同士が互いの方向に曲がることによりなされる。この従来の理髪用はさみのセッティングは、硬化固定状態の下で実施され、2つのエッジのスムースな動作は、弱いハンマー打撃を介して、調整され、そして最適化される。しかし、この処理方法には限界があり、もし作業が変形を起こすほど強過ぎる場合には、エッジが損傷を受ける傾向がある。動作の均一性に対する最適化には、おのずと限界があって、また、従来の理髪用はさみにおける2つのはさみ部の良好な動作にも、おのずと限界がある。
【0006】
これに加え、理髪用はさみは、高度な複雑性を持ってのみ製造され得るので、大変高価のものである。更に、理髪用はさみは、また大変センシィティブであって、たとえ1回床に落としただけでも、はさみ刃の変形を生じかねず、これにより、わずかな変形でさえ、2つのエッジの動作特性に多くの障害を生じさせることになる。そして、理髪用はさみの操作は著しくより困難となってしまうので、一般的には、精密障害、動作障害、精度障害による影響がたとえ一度でもあれば、理髪用はさみはもはや使用されない。
【0007】
ハードメタルエッジを備えた理髪用はさみの一例が特許文献1に見受けられる。ここでは、ハードメタルは、サーマルスプレー法によって、ベースマティリアルの層として利用され、その後、スライドフェイスとシェアエッジを得るために研削される。このようなハードメタルの磨耗防止層への利用の結果、エッジは磨耗に敏感ではなくなり、従来の理髪用はさみのようにエッジがすぐに丸くなるようなことはない。それゆえ、長い使用においても、理髪用はさみは、はさみを閉じる際に少ない抵抗力を示し、ユーザーからの必要な力は持続的に低く維持され得る。ハードメタルエッジを備えたこのような理髪用はさみは、例えば紙等の他の材料をカットすることができ、その場合でも髪の毛をカットする能力は失われない。
【特許文献1】独国特許出願公開第19909887号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、床に理髪用はさみを落とすというような構造的な影響による変形は、しかしながら、特許文献1に開示されたハードメタルエッジを備えた理髪用はさみでは、一般的に、もはや使用不能という結果となってしまうが、これは、ベースボディへのハードメタル層の噴き付け結合が、加工後にも許容される十分な安定性を有しないためである。この衝撃によってハードメタル層の破壊や分離が生じなかった部位に、この理髪用はさみのエッジの再セッティングにおける機械的な処置を施すと、往々にしてハードメタル層の離脱を引き起こすことになる。
【0009】
ベースボディへのハードメタル層の不十分な噴き付け接着は、また、従来の理髪用はさみの最初のセッティングをも問題とする原因となっている。欠陥比率を制限するために、細心の注意が必要である。このため、生産コストを全体として許容範囲に抑えるために、最終製品の品質低下が一般に容認されている。
【0010】
特許文献1に基づくハードメタルが被覆された理髪用はさみには、もう一つの欠点があり、すなわち、研削によるエッジの再研削は、一般的に、せいぜい1回のみ可能で、これは、作業中に被覆された材料が除去されてしまい、結果的にエッジは、再び、好ましからざる担体材料のみから形成されることになってしまうためである。
【0011】
本発明は、それゆえ、動作良好な理髪用はさみを製造し得る方法を提供する目的においてなされ、更に該理髪用はさみは、寿命が長く、せん断エッジの研削を繰り返し実施可能なように高いメカニカル強度を有している。また、本発明はこのような理髪用はさみを提供することにもある。
【0012】
本発明の目的は、請求項1に記載された特徴に基づいた方法によって達成され得る。さらに、本発明の他の目的は、請求項8に記載された特徴を有する理髪用はさみによって達成され得る。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の本発明に係る理髪用はさみの製造方法によれば、以下の工程、すなわち、はさみ刃、柄、及びリングをそれぞれ有した理髪用はさみのはさみ半体のために各々一つの抜板(blank)を得る工程と、前記はさみ刃を、所定の曲率で、エッジから背ける方向へ湾曲させる予備成形(プレシェイピング)工程と、前記エッジにハードメタル層を形成するために、前記はさみ刃の互いに向かい合う面に、溶接ビードの形状とされたハードメタル材料を溶接する工程であって、前記はさみ刃の所定の前記予備成形が該溶接中の熱の影響により実質的に打ち消される溶接工程と、前記エッジを形成するために前記溶接ビードを研削する工程と、前記はさみ半体を組合せ、続いてセットする工程と、前記はさみ半体を分離し、続いて硬化させる工程と、前記はさみ半体の表面処理を行う工程と、前記はさみ半体を再び組合せる工程と、前記理髪用はさみをハードセットする工程と、を含んでなされている。
【0014】
ここで、本発明によれば、理髪用はさみは、そのはさみ刃への高い品質要求にもかかわらず、ハードメタル材料による溶接又は表面硬化処理をエッジの素材に施すことが可能であって、その際、溶接処理中の熱の影響による抜板の変形が明確に考慮されなければならない。これは、本発明によれば、はさみ刃の予備成形により達成され、すなわち、このようなプレセッティングは確かに実行可能であって、溶接がはさみ刃の前面側におけるすべての表面に適用されるので、一の方向に熱放射及び湾曲を生じさせることとなる。従って、溶接処理中の熱の影響による抜板の湾曲習性は、あらかじめ十分に決定され得る。この予備成形は、続いての溶接工程において実質的に打ち消され、相当の応力(ストレス)ははさみ刃の素材内に残留せず、それにもかかわらず、はさみ刃を研削して形成され得るエッジは、はさみ半体の冷却された状態における適した相対的配置を有している。このようにして成形されたはさみ刃は、はさみ刃全体の肉厚を上回るエッジを有し、該エッジは塊状の構成要素となっている。従って、複数回繰り返され得るエッジの再研削が実施可能である。
【0015】
従って、本発明に係る理髪用はさみは、長期にわたりその鋭さを維持し、又は、その動作中において大変容易に再研削可能であり、これは、このようなハードメタルはお互いの動作中にほとんど摩擦を生じさせないためである。特に、本発明の理髪用はさみにおいて、エッジを極めて鋭い角度、要求されるならばかみそりの刃のようにすることも可能である。軟らかい材料でなるエッジの場合、切断角の先端は極めて磨耗しやすく、急速に先鋭度の低下が生じるが、本発明によれば、肉厚の材料により形成された理髪用はさみのハードメタルエッジを用いることにより、エッジが互いに交差する際に微小片が削り取られるのを確実に防止することが可能である。従来の理髪用はさみでは、このようなはさみは習慣的に使用不能とされ、それは、生じたへこみや凸凹のために、欠陥箇所が反対側のエッジを損傷させるからである。この一連の問題は、ハードメタルエッジを有する本発明の理髪用はさみを用いることで回避することが可能である。
【0016】
更に、本発明に係る理髪用はさみでは、エッジは低い摩擦を受けることに特徴があり、同一の切断能力を維持する持久力を延長させることが可能である。更にまた、連続的なハードメタル層は、腐食を抑える傾向があり、その持久力をも同様に向上させる。従って、切断特性を損なうことなく、異物を切断することもまた可能である。これらは、細いワイヤ、紙、又は同様の素材であって、エッジにおける不整列又は損傷は、連続的なハードメタル層のおかげによって回避され得、又は、再研削及び任意の再調整によって回復し得る。
【0017】
更に、本発明によれば、特に技術的に有利であって、溶接処理により、特に良好で且つ信頼できる結合が形成され、それは、溶接の範囲において、ハードメタル材料と溶融されたベース素材からなる一種の合金が生じるためである。ここで、素材中の機械的ストレス及び温度によるストレスが回避され、又は、組合わされた素材間での均質転位がされ得る。従って、はさみ刃からエッジの刃毀れを確実に防止することができ、この結果、特に正確なセッティングや細かなトリミングが、ハンマー打撃によっても可能である。これによって、例えば、はさみが地面に落下した後でも、全体的に理髪用はさみは直ちにリセットされ得るようになるに違いない。
【0018】
本発明に係る方法には、別の利点があって、すなわち、溶接ビード、又は、少なくとも2つの側面を研削されたエッジは、ハードメタル中に形成され得る空隙の観点、或いは、他の溶接不良について、検査され得る。従って、このような欠陥が発見されやすいので、この結果、実質的により高い製品品質を保証することが可能となる。
【0019】
更に、予備成形されたはさみ刃を事前に湾曲させる程度の決定は、比較的複雑ではないであろうし、可能という意味において、例えば、各バッチの抜板に試験溶接を実施する。これは、変形の程度がバッチ毎に僅かに変化しうるという考慮に基づいてなされ、また、対応する数値、すなわち、低度な技術の使用における経験値を得ることが可能である。一旦、予備成形が、一連の本発明のはさみタイプにおいて決定されると、この数値は、この抜板のバッチにおける残りのはさみ部品に対しても、転送され得る。
【0020】
従って、本発明に係る方法は、高い信頼性及び相対的に低い技術の使用によって実行され得る。従って、特に有利な特性を有する理髪用はさみを製造することが可能となる。
【0021】
本発明の方法における有利な発展は、従属項である請求項2乃至7の主題となっている。
【0022】
従って、はさみ半体の抜板はこのように形成されてもよく、この際、ハードメタル材料は、はさみ刃の互いに向き合う面に直接適用されてもよい。しかし、別の態様として、請求項2に記載の方法も可能で、すなわち、はさみ刃の予備成形前に、はさみ刃のエッジが形成される互いに向き合う面における異物(マテリアル)の除去を行ってもよい。この異物の除去は、研削又はミリングにより直ちに実行され、ハードメタル材料からなる溶接ビードとして適用され得る改良されたベースとなる。本発明に係る方法は、更に高い信頼性及び安全品質を有して実行され得る。
【0023】
ハードメタル材料の溶接に関し、特に、TIG(テングステン不活性ガス)溶接法は、実践的な試験において受容が確認されており、すなわち、良好な結合及び高品質な溶接ビードを生成し得る。しかしながら、この他に、別の不活性ガスを用いた溶接法を同様に適用してもよい。
【0024】
ハードメタル材料の溶接が、冷却クランピング装置の補助により実施される場合、処理工程はより正確に制御され得、すなわち、特に、はさみ刃を形成する担体材料が受ける熱の影響に起因した障害を回避することが可能となり、且つ、熱の放出の制御を向上させることが可能である。
【0025】
更にまた、理髪用はさみのハードセッティングに、ハンマー打撃によるプレセッティングを含ませることが可能である。この方法は、従来の理髪用はさみに対し実践的に受容可能とされ、既に周知であって、更に、−悪い経験に反し−ハードメタル層上に−肉厚の材料が溶接されたハードメタルエッジが自ら有利であると示され、を含み、これらは、現在の適用者により実施された実践的試験において見出されたものである。この方法によって、2つのエッジの良好且つ均一な動作が、生産技術上比較的低い複雑性を有して実現可能である。
【0026】
はさみ半体の表面処理は、磨き粉及び磨き糊を使用してはさみ刃及びエッジの内側をコルクディスクに摺合せるといった1工程又は複数工程の細密研削を含むという事に起因して、この方法により製造された理髪用はさみの良好な動作性が、再び実質的に向上され得る。2つのはさみ刃は、より容易に、互いにスライドしあい、これにより、カットに必要な荷重は更に低減され得る。ここで、材料をほんの微少量ずつ除去していくことではさみの良好な最適条件へ徐々にアプローチすることが可能であり、このことは、従来の研削方法、特にハードメタルを被覆したはさみの場合においては不可能であった。
【0027】
はさみ半体の表面処理において、はさみ刃及びエッジの内側を、スコッチディスク(Scotch disc)を用いた方法により艶消し処理をすることは、更に有利な効果をもたらす。細密研削工程後に残る得る僅かな研削跡を除去し、該研削跡ははさみの動作においても感じ得るかもしれず、はさみのスムースな動作に影響を与えない程度に減少させ得る。更に、これにより、表面の強化された侵食力を得ることも可能である。
【0028】
本発明の他の側面によれば、請求項8に記載した特徴を有する理髪用はさみが提供される。この理髪用はさみは、特に、請求項1乃至7に記載の方法により生産される。その特徴は、エッジがはさみ刃の互いに向き合う面に形成された塊状の構成要素としてなり、前記はさみ刃はハードメタルの溶接処理及びその後の研削工程により形成され、はさみ刃全体の肉厚を上回ることにある。
【0029】
従って、本発明に係る理髪用はさみは以下の特徴を有し、すなわち、機械的歪みに対する高い抵抗力を維持したすばらしいカット特性、長い寿命、及び、鋭いカット角においても鋭さを持続的に維持可能な能力、そして、必要に応じて直ちに再研削可能な能力である。本発明の理髪用はさみの更なる利点は、製造方法に関して前述した側面に起因してなる。
【0030】
これは、特にまた、従属項である請求項9及び10に基づいて、適用可能であって、これによれば、はさみ刃及びエッジの内側は、細密研削及び/又は艶消し処理がされ、これにより、理髪用はさみの良好な動作、及び/又は、侵食耐久性が向上する。
【0031】
更に、実践的実験において、特に有利な、エッジ用のハードメタル材料が見出されており、これはコバルトベース合金からなるものである。特に、30%のクローム(Cr)、12%のタングステン(W)、2.5%の炭素(C)、及び残りがコバルト(Co)を含む合金(ステライト1)の試験において、良い結果が得られ、且つ、該合金はHRC硬度値51から58の硬度を有している。この材料を用いることで、本発明に係る理髪用はさみの有利な特性を特に最適化することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は、以下のように、添付した図面を参照しつつ、実施例において詳細に説明される。図1は、閉じた状態における本発明に係る理髪用はさみを示す。図2は、開いた状態における本発明に係る理髪用はさみを示す。図3A乃至図3Cは、一方のはさみ半体を例に用いて理髪用はさみの製造工程を示した図である。
【0033】
図1及び図2に示すように、理髪用はさみ1は、2つのはさみ半体2及び3よりなり、該はさみ半体2及び3はロック4を介して互いに回動可能に結合されている。前記はさみ半体2は、リング21と、柄22と、はさみ刃23と、エッジ24と、を含んでいる。これに加え、ブレード止め25及び指サポート26が、更に、前記リング21に設けられている。前記はさみ半体3は、リング31と、柄32と、はさみ刃33と、エッジ34と、を含んでいる。
【0034】
理髪用はさみ1の製造方法は、図3A乃至図3Cを参照しつつ、近似的に分離したはさみ半体2を例に用いて、以下のように説明される。
【0035】
先ず、2つのはさみ半体2及び3が、周知である伝統的な方法によって準備される。従って、特に、加工の開始時において、リング21及び31の内面の研削及び研磨、はさみ半体2及び3の穿孔の形成、並びに、スレッドの加工及びホルトの形状を有するロック4に対応するねじ孔の座ぐりが実施される。続いて、エッジ24及び34を形成させる実際の各工程が実施される。
【0036】
図3Aに示すように、最初に、はさみ半体2用の抜板が供給される。はさみ刃23は、エッジ24が形成されようとする範囲である。そして、はさみ刃23は、エッジからおよそ図3A中の破線で示された位置まで湾曲するような形状に形作られる。この予備的湾曲の度合は予備試験により事前に決定されており、続いて実施される溶接工程における熱の影響に伴うはさみ刃の変形指数(度合)に対応したものである。
【0037】
図3Bに示すように、ハードメタル材料が、はさみ刃23の結合される面に、TIG溶接法によって、溶接ビード5として形成される。この溶接ビード5から、研削工程を経た後に、エッジ24が形成される。隣接するはさみ刃23とエッジ24との表面は一体的に研削され、整列状態で遷移している。エッジ24をはさみ刃23の内側に向けて形成させることは特に重要であって、これにより、これらの表面同士は互いにスライド可能となる。理髪用はさみ1の平面図において、エッジ24の幅は、平均的にはさみ刃23の約半分の幅となっている。
【0038】
このように製造されたはさみ半体2において、はさみ刃23及びエッジ24は密接に結合され、しかも、はさみ刃23を形成する軟らかい材料は理髪用はさみ1の組立時における正確なセッティングを可能とし、且つ、エッジ24を形成するハードメタル材料は、持続的に良好なカット特性を維持しつつ長期の使用を可能にしている。
【0039】
セッティングの目的において、2つのはさみ半体2及び3はねじ留めされて結合され、そして一体的にセットされる。このセッティング工程は、特に、エッジ24及び34と、はさみ刃23及び33との動作並びに形状に関係し、更に、リング21及び31と、ブランチとにも関係する。ここで、リングはまた、手の中に良好に収まるように、所望の形状に、且つ、はさみの主要面に対して所望の角度に曲げられている。最後に、はさみ半体2及び3は、互いのつながりを確認するために番号付けがされ、続いて、理髪用はさみ1の形状の全体的な予備研削がされる。これに際し、はさみ半体2及び3は再び分離され、約80℃の超音波浴で洗浄され、続いて水によるすすぎ洗いがされる。
【0040】
この後、はさみ半体2及び3は焼入(硬化処理)がなされる。続いて、コルクディスク上で、はさみ刃23及び33の内側を磨き糊を用いて研磨し、同様に、2つのはさみ半体2及び3のロック4をも研磨する。次に、これらは順番に互いに結合され、続いて、ハードセッティングが実施される。ここで、動作面が研磨され、はさみの形状は、特に、2つのはさみ刃23及び33の相対的位置の観点、並びに、リング21及び31の位置の観点において最適化される。続いて、はさみは、全体的に予備研削がされ、更に研磨され、この際、粒子サイズ400番又は600番が使用される。
【0041】
次の工程として、2つのはさみ刃23及び33が再び分離され、更にもう一回、ブラシディスク及びブラシパウダーを用いたブラッシングによる表面処理が行われる。続いて、部品のクリーニング工程に移行する。そして、はさみ刃23及び33はウォブル・ディスク及び仕上げ粉を用いて仕上げられ、はさみ刃23及び33の内側は艶消し処理がされる。このような仕上げ工程の結果、表面は均質化され、視覚的に魅力ある外観に仕上げられることになる。
【0042】
次に、はさみ刃23及び33のクリーニング工程の更新(繰り返し)、並びに、部品の関連番号に基づいた組合せの更新がなされる。続いて、理髪用はさみ1のセッティングが完了し、ロック4としてのボルトが、ボルトの柄がスレッドに噛合って持続的に固定されるように、良好に締め付けられ、動作面(ランニング・サーフェイス)がセットされる。この後、必要に応じて、ハードメタルにより形成されたエッジ24及び34の再研削並びに再研磨、且つ、部品のクリーニングが実施される。
【0043】
本実施例において、次に、理髪用はさみ1の部品を金メッキする工程が行われ、金メッキされる部分は粘着テープ等で覆われ、ボルトはフェルト・ホィールを用いて研磨及び研削され、そして、ボルト並びにはさみ半体2及び3は、別のクリーニング工程の後に金メッキ処理が施される。
【0044】
この後に、ブレード止め25と指サポート26とが適用され、再動作確認、及び、任意のエッジ24及び34の再研削が実施される。次に、完成品としての、カッティング確認及び品質確認がなされ、続いて、腐食を防止するために油差し及び拭き取りがなされ、パッケージがなされて出荷の準備が整う。
【0045】
上記に説明した実施例とは別に、本発明は、更なる形態によるアプローチであっても良い。
【0046】
従って、本発明の理髪用はさみ1では、最初にねじ留めされた状態でプリセットされ、従来のハンマーを用いた方法により、動作及び精度におけるある程度の有利な正確性が実現されている。
【0047】
更に、はさみ刃23及び33並びにエッジ24及び34を研削する工程の後に、1回又は複数回の細密研削を施しても良い。この細密研削の工程では、互いに向き合うはさみ刃23及び33と、エッジ24及び34とは、コルクディスクによるポスト処理がなされ、該コルクディスクは、例えば20mmの厚みを有し、1200rpm回転において、特別な、大変細かな磨き粉を用いて前記処理が行われる。
【0048】
これとは別に、更なる工程において、細密研削や研磨工程の後においても残り得る僅かな研削跡を、はさみのスムースな動作に支障がない程度まで除去するように、はさみ刃及びエッジの内側を、スコッチディスクを利用した艶消し処理をしてもよい。
【0049】
また、有利なことに、互いに摺動し合い且つ互いにガイドし合うはさみ半体2及び3におけるロック4の周囲領域に本発明を適用して、本発明方法による研削工程及び/又は艶消し工程を施すことも可能である。
【0050】
上記に説明したTIG溶接法以外に、ハードメタル材料による溶接ビードを形成するために他の溶接法を使用することが可能であって、不活性ガス中におけるTP、MIG、又は、MAG溶接法が好ましい。更に、冷却クランピング機構の補助による、ハードメタル材料のハードプレーティングもまた実施可能である。
【0051】
ハードメタルとしての試験において好ましい結果が得られた材料は、特に、コバルトベースの合金である。この目的において、ステライトが有利に使用可能で、特に、HRC硬度50から60の硬度を有するハードメタルが適している。従って、ステライト1の他に、例えば、ステライト4H又はステライト190等もまた使用可能である。しかし、これ以外に、同等の特性を有する他のハードメタルを使用することもまた可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】閉じた状態における本発明に係る理髪用はさみを示す平面図である。
【図2】開いた状態における本発明に係る理髪用はさみを示す平面図である。
【図3A】一方のはさみ半体を示した第1の平面図である。
【図3B】一方のはさみ半体を示した第2の平面図である。
【図3C】一方のはさみ半体を示した第3の平面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 理髪用はさみ
2、3 はさみ半体
4 ロック
5 溶接ビード
21、31 リング
22、32 柄
23、33 はさみ刃
24、34 エッジ
25 ブレード止め
26 指サポート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
はさみ刃(23、33)にハードメタルによるエッジ(24、34)が形成された理髪用はさみ(1)を製造する方法において、
前記はさみ刃(23、33)、柄(22、32)、及びリング(21、31)をそれぞれ有した理髪用はさみ(1)のはさみ半体(2、3)のために各々一つの抜板を得る工程と、
前記はさみ刃(23、33)を、所定の曲率で、前記エッジ(24、34)から背ける方向へ湾曲させる予備成形(プレシェイピング)工程と、
前記エッジ(24、34)にハードメタル層を形成するために、前記はさみ刃(23、33)の互いに向かい合う面に、溶接ビード(5)の形状とされたハードメタル材料を溶接する工程であって、前記はさみ刃(23、33)の所定の前記予備成形が該溶接中の熱の影響により実質的に打ち消される溶接工程と、
前記エッジ(24、34)を形成するために前記溶接ビード(5)を研削する工程と、
前記はさみ半体(2、3)を組合せ、続いてセットする工程と、
前記はさみ半体(2、3)を分離し、続いて硬化させる工程と、
前記はさみ半体(2、3)の表面処理を行う工程と、
前記はさみ半体(2、3)を再び組合せる工程と、
前記理髪用はさみ1をハードセットする工程と、
を含んでなることを特徴とする理髪用はさみを製造する方法。
【請求項2】
前記はさみ刃(23、33)の前期予備成形の前に、前記はさみ刃(23、33)の前記エッジ(24、34)が形成される互いに向かい合う面における異物(マテリアル)の除去を行うことを特徴とする請求項1に記載の理髪用はさみを製造する方法。
【請求項3】
前記ハードメタル材料を溶接する工程は、TIG溶接法により実施されることを特徴とする請求項1又は2に記載の理髪用はさみを製造する方法。
【請求項4】
前記ハードメタル材料を溶接する工程は、冷却クランピング装置の補助により実施されることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の理髪用はさみを製造する方法。
【請求項5】
前記理髪用はさみ1をハードセットする工程は、ハンマー打撃によるプレセッティングを含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の理髪用はさみを製造する方法。
【請求項6】
前記はさみ半体(2、3)の表面処理を行う工程は1工程又は複数工程の細密研削工程を含み、該細密研削工程では、前記はさみ刃(23、33)の内側と、前記エッジ(24、34)の内側と、を磨き糊を用いてコルクディスクに摺合せることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の理髪用はさみを製造する方法。
【請求項7】
前記はさみ半体(2、3)の表面処理を行う工程は、前記はさみ刃(23、33)及び前記エッジ(24、34)の内側をスコッチディスクを用いた艶消し処理を含むことを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の理髪用はさみを製造する方法。
【請求項8】
2つのはさみ半体(2、3)からなる理髪用はさみ(1)であって、該はさみ半体(2、3)が、はさみ刃(23、33)、柄(22、32)、及びリング(21、31)をそれぞれ有すると共に、ロック(4)により互いに関節結合され、且つ、前記はさみ刃(23、33)にハードメタルよりなるエッジ(24、34)が形成されてなる理髪用はさみ(1)において、
前記エッジ(24、34)は、前記はさみ刃(23、33)の全厚を上回る肉厚の構成要素として、前記はさみ刃(23、33)が互いに向き合う面に形成され、更に該エッジは、ハードメタルの溶接処理、及び、その後の研削工程によって形成されることを特徴とする理髪用はさみ。
【請求項9】
前記はさみ刃(23、33)及び前記エッジ(24、34)の内側に細密研削面が形成されていることを特徴とする請求項8に記載の理髪用はさみ。
【請求項10】
前記はさみ刃(23、33)及び前記エッジ(24、34)の内側に艶消し処理された表面が形成されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の理髪用はさみ。
【請求項11】
前記エッジ(24、34)を形成するハードメタルはコバルトベースの合金であって、例えば、クローム(Cr)が30%、タングステン(W)が12%、炭素(C)が2.5%、残りがコバルト(Co)の合金で、更に、HRC硬度が51から58の硬度を有することを特徴とする請求項8乃至10の何れか一項に記載の理髪用はさみ。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−502871(P2006−502871A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−544251(P2004−544251)
【出願日】平成15年10月15日(2003.10.15)
【国際出願番号】PCT/EP2003/011447
【国際公開番号】WO2004/035242
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(505138679)
【出願人】(505138680)テーイーエム・トゥットリンガー−インストゥルメンテン−マヌファクトゥーア・ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】