説明

琥珀から得られるエンドセリン−1産生抑制剤、SCF産生抑制剤、及びメラニン産生抑制剤並びにその使用

【課題】本願発明は、新規エンドセリン−1産生抑制剤、SCF産生抑制剤、及び/又はメラニン産生抑制剤を調製することを課題とする。更に、本願発明は、琥珀から低級アルコール抽出により調製されたエンドセリン−1産生抑制剤、SCF産生抑制剤、及び/又はメラニン産生抑制剤の使用方法及び用途を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、琥珀から低級アルコールで抽出する工程を含む方法で抽出した抽出物を含むエンドセリン−1産生抑制剤、SCF産生抑制剤、及び/又はメラニン産生抑制剤、琥珀から低級アルコールで抽出する工程を含む方法で抽出した抽出物を含むエンドセリン−1産生抑制剤、SCF産生抑制剤、及び/又はメラニン産生抑制剤を含有する美白用化粧品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、エンドセリン−1の産生を抑制する組成物、SCFの産生を抑制する組成物、及びメラニンの産生を抑制する組成物並びにその使用に係る技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
オゾン層の破壊に伴う紫外線量の増加により、紫外線による皮膚の損傷がますます強く意識されるようになっている。紫外線、特にUV-Bを皮膚に受けると、皮膚の基底層と毛母に存在するメラニンを産生する細胞であるメラノサイトが刺激され、増殖する。また、この刺激により活性化されたメラノサイトでは、細胞内小器官であるメラノソーム内において、チロシナーゼの働きにより、チロシンからドーパキノンを経て、メラニンが産生され、シミやくすみを起こす原因となっている。産生されたメラニンはメラノソームに蓄えられる。メラニンが蓄えられたメラノソームは、メラノサイトの樹状突起からケラチノサイトへと受け渡され皮膚のターンオーバーにより角質層にまで押し上げられる。
【0003】
このようなシミやくすみ対策、いわゆる、美白対策としては、従来から、L−アスコルビン酸及びその誘導体、ハイドロキノン、アルブチン、コウジ酸、システイン、グルタチオンなどが用いられている。ビタミンCには、メラニンを還元し白くする効果もあり、ハイドロキン、アルブチン、コウジ酸、システインは、チロシナーゼを阻害するといわれている。
【0004】
また、より根源的解決を目指し、UV-B照射を受けたメラノサイトが活性化しないように、その活性化経路に介入する手法が検討されている。たとえば、エンドセリン−1やSCF(Stem cell factor、以下「SCF」という。)等の因子は、UV−B照射後に表皮ケラチノサイトから産生され、それらの刺激を受けて表皮メラノサイトが増殖し、メラニン合成能を高めることが報告されている(非特許文献1、非特許文献2)。特に、エンドセリン−1とSCFを共存させると、各々単独に作用させるよりもメラノサイトの増殖、及びチロシナーゼの発現を相乗的に促進させることが報告されている(非特許文献3)。エンドセリンは、21個のアミノ酸で構成される強力な血管収縮ペプチドであり、エンドセリン−1、エンドセリン−2、エンドセリン−3という3種類のペプチド異性体が存在する。肺、腎臓、脳、胎盤など体の様々な組織で産生されるが、エンドセリン−1は特に血管の内皮で非常に多く産生される(非特許文献4)。一方、SCFは、造血の初期に作用するサイトカインであり、273個のアミノ酸で構成される膜結合型SCFと、タンパク質分解酵素の作用により切断されて膜から遊離する分泌型SCFとが存在する。SCFは主に線維芽細胞、骨髄の内皮細胞等で産生される(非特許文献5)。
【0005】
エンドセリン−1及びSCFが関連する情報伝達系を遮断することで、メラニン産生を抑制し、美白効果を奏する物質の開発が盛んに行われている。特に、その最上流側であるエンドセリン−1及びSCF産生を抑制することにより、メラノサイトの増殖を抑え、チロシナーゼの発現を抑制し、メラニン産生を抑制する試みもなされている。
【0006】
現在までに知られているエンドセリン−1及びSCF産生抑制剤としては、白蘭花の抽出物(特許文献1)、ブラックジンジャーの抽出物(特許文献2)、ユッカの抽出物(特許文献3)、クラミドモナス属に属する藻類の抽出物(特許文献4)、西洋サクラソウの抽出物、レモンバーベナの抽出物、キンミズヒキの抽出物、ブルーベリーの抽出物、及びセロリの抽出物(特許文献5)、ビワの花部からの抽出物(特許文献6)、コウカトケンの抽出物(特許文献7)等が報告されている。
【0007】
琥珀とは、主にマツ属植物の樹脂が長期間地下に埋没し凝結してできた化石で、主に樹脂、精油、コハク酸等を含む。そしてエタノールやジエチルエーテル或いはベンゼンに少量溶ける(非特許文献6)。装飾工芸品、宝石、絶縁材料の用途か削りカスをお香にするなどの用途のほかに、19世紀頃には傷薬などに使用されていた(非特許文献7)。
【0008】
近年では、琥珀粉末を化粧品に配合し、肌感触を改善する技術(特許文献8、特許文献9)、琥珀の抽出物を皮膚外用剤に配合する技術(特許文献10、特許文献11)、琥珀熱水抽出物のメラニン産生抑制作用及び/又はグルタチオン産生促進作用を利用する技術(特許文献12)、琥珀抽出画分中の皮膚ターンオーバー促進因子を利用する技術(特許文献13)、琥珀の抽出物中の皮膚のスキンファーミング効果を利用する技術(特許文献14)、琥珀抽出画分中のヒアルロン酸産生促進因子を利用する技術(特許文献15)、琥珀抽出画分中の血管新生促進因子を利用する技術(特許文献16)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009-29708
【特許文献2】特開2009-51790
【特許文献3】特開2009-227619
【特許文献4】特開2010-13413
【特許文献5】特開2010-65009
【特許文献6】特開2010-184967
【特許文献7】特開2010-116350
【特許文献8】特許第3725848
【特許文献9】特開2004-083478
【特許文献10】特許第4034839
【特許文献11】特許第4421718
【特許文献12】特開2010-235551
【特許文献13】特開2007-314522
【特許文献14】特開2008-189669
【特許文献15】特開2008-266260
【特許文献16】特願2011-1106743
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Yukihiro Yada, Kazuhiko Higuchi and Genji Imokawa, Effects of endothelins on signal transduction and proliferation in human melanocytes, The Journal of Biological Chemistry, 266, 18352-18357 (1991).
【非特許文献2】Akira Hachiya, Akemi Kobayashi, Atsushi Ohuchi, Yoshinori Takema and Genji Imokawa, The paracrine role of stem cell factor/c-kit signaling in the activation of human melanocytes in ultraviolet-B-induced pigmentation, The Journal of Investigative Dermatology, 116, 578-586 (2001).
【非特許文献3】Penkanok Sriwiriyanont, Atsushi Ohuchi, Akira Hachiya, Marty O Visscher and Raymond E Boissy, Interaction between stem cell factor and endothelin-1: effects on melanogenesis in human skin xenografts, Laboratory Investigation, 86, 1115-1125 (2006).
【非特許文献4】大喜多守、高岡昌徳、松村靖夫、エンドセリンの産生調節と病態への関与、薬学雑誌、127(9)、1319-1329 (2007).
【非特許文献5】菅村和夫、宮園浩平、宮澤恵二、田中伸幸編、サイトカイン・増殖因子 用語ライブラリー、羊土社 (2005).
【非特許文献6】中薬大辞典 第二巻 上海科学技術出版社(江蘇新医学院「中薬大辞典」編集部)小学館編)公知文献1参照
【非特許文献7】K.Kaiserling Pathloge, 22(4), 285-286 (2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、美白のために、エンドセリン−1及びSCF産生抑制剤を開発する試みがあり、例としては、白蘭花の抽出物(特許文献1)、ブラックジンジャーの抽出物(特許文献2)、ユッカの抽出物(特許文献3)、西洋サクラソウの抽出物、レモンバーベナの抽出物、キンミズヒキの抽出物、ブルーベリーの抽出物、セロリの抽出物(特許文献5)、ビワの花部からの抽出物(特許文献6)、コウカトケンの抽出物(特許文献7)などがあげられる。しかしながら、これらは遺伝子レベルにおいてはエンドセリン−1及びSCFのmRNA発現上昇抑制を確認しているもののタンパク質レベルでは、エンドセリン−1及びSCFの産生抑制を確認していないか、具体的にエンドセリン−1及びSCF産生抑制をタンパク質レベルで確認されていても、最終的な目的であるメラニンの産生抑制については確認していない。また、琥珀熱水抽出物について、種々の効能のひとつとして、メラニン産生抑制作用に言及する報告はあるものの、その抑制作用は、30−40%程度の抑制に過ぎないものであった。
【0012】
そこで、本願発明は、琥珀の抽出物について、具体的にメラニン産生を抑えることが確認できるエンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤を開発することを第1の課題とする。
本願発明は、琥珀由来のより効果的なメラニン産生抑制剤を開発することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者等は、新規なエンドセリン−1及びSCF産生抑制剤を探索していたところ、琥珀抽出物をカラムクロマトグラフィー又は二相分離により分画した特定の画分から、エンドセリン−1及びSCF産生抑制剤を見出した。さらに、本願発明者らは、これらのエンドセリン−1及びSCF産生抑制剤が有意なメラニン産生抑制能を有することを確認して、本願発明を完成させたものである。
【0014】
本願発明は以下の発明を包含する。
1. 琥珀から低級アルコールで抽出する工程を含むエンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤の製造方法。
2. 琥珀を粉砕後疎水性有機溶媒により洗浄する工程、低級アルコールで抽出する工程、及びカラムクロマトグラフィーで分画する工程を含む、エンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤の製造方法。
3. カラムクロマトグラフィーが、炭化水素が化学結合したシリカゲルを充填剤とする、上記2記載の方法。
4. 琥珀を粉砕後疎水性有機溶媒により洗浄する工程、低級アルコールで抽出する工程、及び二相分離により分画する工程を含むエンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤の製造方法。
5. 前記二相分離により分画する工程が、低級エーテル及び水相による二相分離により分画する工程であって、水相に酸性の水溶液及び塩基性の水溶液を用いて、それぞれ塩基性の水溶性成分及び酸性の水溶性成分を除去して中性画分を得る工程を含む上記4記載の方法。
6. 前記二相分離により分画する工程が、低級エーテル及び水相による二相分離により分画する工程であって、水相に塩基性の水溶液を用いて酸性の水溶性成分を抽出し、次に再度有機溶媒で逆抽出して酸性画分を得る工程を含む上記4記載の方法。
7. 低級アルコールでの抽出を微温ないし室温で7日以上行なう上記1〜6いずれかに記載の方法。
8. 疎水性有機溶媒が、ベンゼン、ヘキサン及びクロロホルムからなる群から選択される1種以上の有機溶媒である上記2〜7いずれかに記載のエンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤の製造方法。
9. 低級アルコールが、エタノール、メタノール、プロパノールもしくはブタノール又はこれらのアルコールからなる群から選ばれる2種以上のアルコール混合物である上記1〜8いずれかに記載の方法。
10. 琥珀から抽出した抽出物を含むエンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤。
11. 上記1〜9いずれかに記載の方法により得られるエンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤。
12. 琥珀から低級アルコールで抽出する工程を含む方法で抽出した抽出物を含むメラニン産生抑制剤。
13. 上記1〜9いずれかに記載の方法により得られるエンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤を含むメラニン産生抑制剤。
14. 上記12又は13記載のメラニン産生抑制剤を含む美白用化粧料。
【発明の効果】
【0015】
本願発明は、琥珀成分中から、新規なエンドセリン−1及びSCF産生抑制剤並びにメラニン産生抑制剤を提供するという極めて優れた効果を奏する。また、本発明に係る新規なエンドセリン−1及びSCF産生抑制剤並びにメラニン産生抑制剤はエタノールに溶解するため、ざらつき感を与えることなく化粧品に配合できる。更に、本願発明の新規なエンドセリン−1及びSCF産生抑制剤並びにメラニン産生抑制剤の製造は、40℃程度〜室温のエタノールに約1か月浸漬するだけでも可能で、高エネルギーを発する機材を用意しなくても調製できて簡便である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1−1】琥珀エタノール抽出物、F2画分、N画分、及びA画分について、UV-B照射後のHaCaTを用いたエンドセリン−1 mRNA発現の結果を示す。
【図1−2】琥珀エタノール抽出物、F2画分、N画分、及びA画分について、UV-B照射後のHaCaTを用いたSCF mRNA発現の結果を示す。
【図2】琥珀エタノール抽出物、F2画分、N画分、及びA画分による、UV-B照射後のHaCaTのエンドセリン−1タンパク質産生に対する影響を示す。
【図3】琥珀エタノール抽出物、F2画分、及びN画分による、HaCaT細胞と正常マウスメラノサイトとの共培養を用いたメラニン産生に対する影響を示す。
【図4】琥珀エタノール抽出物、F2画分、N画分、及びA画分による、正常ヒト皮膚3次元モデルにおけるメラニン産生に対する影響を示す。
【図5】琥珀エタノール抽出物、F2画分、N画分及びA画分のSCFタンパク質発現抑制に対する影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.はじめに
1−1.琥珀
琥珀とは主にマツ属植物の樹脂が長期間地下に埋没し凝結してできた化石で、主に樹脂、精油、コハク酸等を含む。エタノールやジエチルエーテル或いはベンゼンに少量溶ける(非特許文献1)。琥珀そのものを装飾工芸品、宝石、絶縁材料に用いたり、琥珀の削りカスをお香にするなどの用途のほかに、19世紀頃にはキズ薬などに使用されていた(非特許文献2)。さらに老化に伴う種種の病気に対する防止効果が言い伝えられてきた(ヤマノビューティメイトHP http://www.yamanobeautymate.com)。
【0018】
1−2.エンドセリン
エンドセリンは、21個のアミノ酸で構成される強力な血管収縮ペプチドであり、エンドセリン−1、エンドセリン−2、エンドセリン−3という3種類のペプチド異性体がある。肺、腎臓、脳、胎盤など体の様々な組織で産生されるが、エンドセリン−1は特に血管の内皮で非常に多く産生されている。エンドセリンの一番重要な作用は、血管収縮であるが、線維芽細胞の活性化、および細胞増殖という作用もある。エンドセリン-1は標的細胞のエンドセリン受容体(ETA受容体及びETB受容体)を介してホスホリパーゼCの活性化、カルシウムチャンネルの開口など多様な細胞内シグナル伝達系を活性化する。その結果、ホルモン・神経伝達物質分泌調節、細胞増殖・分化作用などさまざまな作用が奏される。さらに、エンドセリンはメラノサイトの発生・増殖に必須な物質とされている。
【0019】
1−3.SCF
SCFは、造血の初期に作用するサイトカインであり、273個のアミノ酸で構成される膜結合型SCFと、タンパク質分解酵素の作用により切断されて膜から遊離する分泌型SCFとが存在する。SCFは主に線維芽細胞、骨髄の内皮細胞等で産生される。
【0020】
1−4.エンドセリン−1及びSCFの産生抑制によるメラニン合成刺激の抑制
多くの研究から、UV−B照射後に表皮ケラチノサイトからエンドセリン−1やSCF等の因子が産生され、それらの刺激を受けて表皮メラノサイトが増殖し、メラニン合成能を高めることが報告されている。特に、エンドセリン−1とSCFを共存させると、各々単独に作用させるよりもメラノサイトの増殖、並びにチロシナーゼの発現を相乗的に促進させることが報告されており、これらの因子の下流で働く情報伝達系を遮断することに起因したメラニン産生抑制を介する美白効果を誘導する物質の開発が盛んに行われている。
本願発明者らは、琥珀抽出物からエンドセリン−1及びSCFの産生抑制能を有する組成物を見出した。
【0021】
2.エンドセリン−1産生抑制剤及びSCF産生抑制剤の琥珀からの調製方法
本願発明のエンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤は、琥珀から抽出したエンドセリン−1及び/又はSCF産生の抑制能を有する組成物、具体的には、以下の2−1.及び2−2.でそれぞれ説明される(1)琥珀から抽出されるエンドセリン−1及び/又はSCF産生の抑制能を有する抽出物及び(2)琥珀からのエンドセリン−1及び/又はSCF産生の抑制能を有する抽出物の精製される組成物(粗精製品を含む)が包含される。
【0022】
2−1.琥珀からのエンドセリン−1及び/又はSCF産生の抑制能を有する抽出物の調製
本願発明の琥珀からエンドセリン−1及び/又はSCF産生の抑制能を有する抽出物を抽出する方法には、琥珀から低級アルコールで有効成分を抽出する工程を含んでいる。より具体的には、本願発明は、少なくとも、琥珀から有効成分である抽出物(組成物)を低級アルコールで抽出する工程を含み、好適には、抽出の前処理工程として、琥珀を粉砕する工程、及び、必要に応じて、粉砕された琥珀を疎水性有機溶媒で洗浄処理する工程が含まれる。また、本願発明には、前記琥珀から低級アルコールで抽出する工程により抽出された抽出物を炭化水素結合型シリカゲルカラムで分画する工程を含めることもできる。
【0023】
以下に工程について説明する。
(i)前処理工程
琥珀を溶媒抽出しやすいように、適宜な大きさまで粉砕する。粉砕手段としては、やすり、ジェットミル粉砕機を用いることができる。また、琥珀を宝石として加工する際に出る切りくずを粉砕したものなどを用いることもできる。粉砕する大きさは特に限定されないが、溶媒による抽出効率から見て、例えば、平均粒径が100μmまで、好適には、10〜30μm程度とすることができる。粉砕した琥珀を、必要に応じ、疎水性有機溶媒で、洗浄する。疎水性有機溶媒としては、ヘキサン、ベンゼン、クロロホルム又はこれらの混合物等を用いることができる。この洗浄は、省略することもできる。
【0024】
(ii)抽出工程
琥珀又は前記前処理工程で粉砕若しくは粉砕及び洗浄された琥珀を低級アルコールに浸漬して抽出物を得ることができる。例えば、琥珀又は前記前処理工程で粉砕若しくは粉砕及び洗浄された琥珀を微温もしくは室温で低級アルコールに長期間浸漬して抽出物を得る。具体的には、琥珀又は前記前処理工程で粉砕若しくは粉砕及び洗浄された琥珀を、例えば25℃から50℃の温度で、低級アルコールに、7日以上、好適には15日以上浸漬することにより抽出物を得る。より具体的には、例えば、エタノールの場合には、琥珀又は前記前処理工程で粉砕若しくは粉砕及び洗浄された琥珀を、25℃から50℃の温度で7日以上、好適には40℃で約1ヶ月(15日から30日間)浸漬することにより抽出物を得る。抽出物は、濃縮し、乾固すると、茶褐色あめ状の乾固物となる。なお、低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール又はこれらの混合物などを用いることができる。
【0025】
このようにして得られたエンドセリン−1産生抑制能及び/又はSCF産生抑制能を有する抽出物は、エンドセリン−1産生抑制能及び/又はSCF産生抑制能を有する組成物、或いは、エンドセリン−1産生抑制能及び/又はSCF産生抑制能を増強させる組成物として使用できる。また、本抽出物は、皮膚の美白剤としても使用できる。
【0026】
2−2.エンドセリン−1及び/又はSCF産生抑制能を有する抽出物の粗精製物
上記2−1.で得られたエンドセリン−1及び/又はSCF産生抑制能を有する抽出物をカラムクロマトグラフィー又は二層分離により分画し、粗精製物としての組成物を得ることができる。これらの組成物を本願発明のエンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤とすることができる。
【0027】
2−2−1.カラムクロマトグラフィーによる分画
得られた抽出物(乾固物)を、低級アルコール、例えば、エタノールに溶かし、炭化水素化学結合型シリカゲル、例えばオクタデシルシリル化したシリカゲルを担体としたカラムクロマトグラフィーを行うことにより、溶出液を分画することができる。特に、最初に溶出される無色透明な液(例えば、全溶出量の1〜5体積%)の次に溶出される、濃黄色透明な液でかつ乾固したとき濃黄色あめ状になる画分(例えば、全溶出量の10〜15体積%)は、保存安定性に優れ、エンドセリン−1産生抑制能及び/又はSCF産生抑制能を有している。
【0028】
本分画分を、琥珀からのエンドセリン−1産生抑制能及び/又はSCF産生抑制能を有する成分を含有する組成物の粗精製物として使用できる。本画分であるこのような粗精製物は、エンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤として用いることができる。前記カラムクロマトグラフィーにより精製した抽出物には、以下の実施例におけるF2画分も含まれる。また、本画分は、乾固して又は適切な溶媒、例えば低級アルコール、具体的にはエタノールに溶解して使用できる。
【0029】
また、吸着カラムクロマトグラフィーにより更に、精製することができる。
具体的には、吸着カラムクロマトグラフィーとしては、シリカゲルを担体としたカラムクロマトグラフィーを用いることができる。溶出溶媒としては、例えば、ベンゼン、酢酸エチルの混合液を溶媒として、具体的には、ベンゼン:酢酸エチル=50:1で溶出することができる。
【0030】
2−2−2.二相分離による分画
(i)水溶成分除去
上記2−1.により得られた琥珀の低級アルコール抽出物(乾固物)を、適宜な有機溶媒を用いて、水相と有機溶媒相の二相で更に分画することができる。有機溶媒としては、非極性の有機溶媒、例えば、低級エーテル、ジクロロメタン、ベンゼンなどが挙げられ、具体的には、ジメチルエーテル又はジエチルエーテルが挙げられる。該有機溶媒に、得られた琥珀の低級アルコール抽出物を溶解し、溶け残った成分を除去する。次に、琥珀抽出物を溶解した有機溶媒を水で洗浄する。具体的には、純水、例えば、超純水製造装置で製造された超純水を添加し、水溶性成分を取り除く。必要に応じて、純水を用いる水溶性成分の除去を3〜5度繰り返す。
【0031】
(ii)中性画分(N画分)
その後、酸性の水溶液及び塩基性の水溶液を、必要に応じ、複数回添加し、混合することにより、それぞれ塩基性の水溶性成分及び酸性の水溶性成分を、最終的に着色成分が除かれるまで、除去する。まず酸性の水溶液で1回以上、たとえば、3〜5回洗浄し、次に、塩基性の水溶液で、複数回洗浄し、琥珀抽出物を溶解した有機溶媒の着色が除かれるまで、洗浄することが望ましい。酸性の水溶液としては、いずれの酸性の水溶液も使用可能であるが、例えば、塩酸、クエン酸水溶液、及び酢酸が上げられ、より具体的には、pH3.0の希塩酸が挙げられる。塩基性の水溶液としては、いずれの塩基性の水溶液も使用可能であるが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、より具体的には、pH12.0の水酸化ナトリウム水溶液を用いることができる。最後に純水で洗浄する。塩基性溶媒と最後の純水での洗浄後の洗浄液は(A画分)調製用にまとめておく。
【0032】
塩基性の水溶性成分及び酸性の水溶性成分が除去された琥珀抽出物溶解有機溶媒から有機溶媒を揮発させ、エンドセリン−1及び/又はSCF産生の抑制能を有する組成物を得ることができる。
【0033】
上記中性画分(N画分と命名する)は、エンドセリン−1及び/又はSCF産生の抑制能を有する組成物、或いはエンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤として用いることができる。
【0034】
(iii)酸性画分(A画分)
上記(i)で水溶成分が除去後の琥珀抽出物が溶解した有機溶媒を、必要に応じ、まず、酸性の水溶液で洗浄する。本酸性水溶液による洗浄は省略することもできるが、酸性洗浄液で初めに洗浄することが望ましい。次に、塩基性の水溶液で洗浄する。洗浄した後の塩基性の水溶液を集める。さらに、有機溶媒を最後に純水で洗浄した場合はこの洗浄液も上記洗浄後塩基性水溶液に加えることができる。その後、前記した洗浄後塩基性水溶液を酸で中和し、必要に応じ、飽和するまで塩を添加する。ここで加える塩は、上記洗浄で使用した塩基性水溶液とその中和のために添加した酸で生じる塩と同じ塩でよい。たとえば、塩基性水溶液として水酸化ナトリウム水溶液を用い、中和に塩酸を用いた場合は、塩化ナトリウムを塩として飽和まで添加することができる。塩で飽和後、有機溶媒で逆抽出し、有機溶媒を揮発させ、酸性画分を得ることができる。該酸性画分は、エンドセリン−1及び/又はSCF産生の抑制能を有する組成物とすることができる。逆抽出に用いる有機溶媒も、上述(i)と同様に、低級エーテル、低級エーテル、ジクロロメタン、ベンゼンなどが挙げられ、具体的には、ジメチルエーテル又はジエチルエーテルが挙げられる。
【0035】
酸性の水溶液としては、いずれの酸性の水溶液の使用可能であるが、例えば、塩酸、クエン酸水溶液、及び酢酸が挙げられ、より具体的には、pH3.0の希塩酸が挙げられる。塩基性の水溶液としては、いずれの塩基性の水溶液も使用可能であるが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、より具体的には、pH12.0の水酸化ナトリウム水溶液を用いることができる。
【0036】
上記酸性画分(A画分と命名する)は、エンドセリン−1及び/又はSCF産生の抑制能を有する組成物、或いは、エンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤として用いることができる。
【0037】
2−3.エンドセリン−1の産生及びSCF産生のテスト
上記2−1.で得られた琥珀抽出物、2−2−1.で得られたカラムクロマトグラフィーによる粗精製物、並びに2−2−2.で得られたN画分及びA画分などのテストサンプルについて、細胞に対するエンドセリン−1の産生及びSCF産生効果を調べることにより、エンドセリン−1の産生抑制能及びSCF産生抑制能の検定をすることができる。
【0038】
(1)エンドセリン−1
エンドセリン−1の発現量については、たとえば、ヒト皮膚由来の細胞、たとえば、ケラチノサイトに、テストサンプルを与え、その後、全細胞からmRNAを抽出し、たとえば、PCRの市販キットにより、エンドセリン−1のmRNA発現量を調べること事ができる。
【0039】
また、エンドセリン−1の直接的定量は、たとえば、放射線や蛍光、ビオチン、酵素でラベルした抗エンドセリン−1抗体を用いるElisa法で定量することもできる。
【0040】
(2)SCF
SCFの発現量については、たとえば、ヒト皮膚由来の細胞、たとえば、ケラチノサイトに、テストサンプルを与え、その後、全細胞からmRNAを抽出し、たとえば、PCRの市販キットにより、SCFのmRNA発現量を調べること事ができる(Journal of Investigative Dermatology, 116, 578-586 (2001))。
【0041】
また、SCFの直接的定量は、たとえば、放射線や蛍光、ビオチン、酵素でラベルしたSCF抗体を用いるElisa法やウエスタンブロット法で定量することもできる。
【0042】
3.メラニン産生抑制剤
上記2.で記載のエンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤、具体的には、2−1.で得られた琥珀抽出物、2−2−1.で得られたカラムクロマトグラフィーによる粗精製物、並びに2−2−2.で得られたN画分及びA画分は、メラノサイト刺激抑制剤及び/又はメラニン産生抑制剤として使用することができる。
【0043】
3−1.メラニン産生抑制の検定
メラニンの産生量は、ケラチノサイトとメラノサイト若しくはメラノーマ細胞の共培養の系において試料を添加して培養した後、産生されたメラニンを比色法により測定することができる(Fragrance Journal, 33(5), 60-66 (2005))。
【0044】
また、ヒト皮膚細胞を用いて、試料を添加して培養した後、フォンタナ マッソン法にて染色して、その染色程度を比較して検討することもできる。
【0045】
4.医薬製剤又は化粧料
本願発明のエンドセリン−1産生抑制剤、SCF産生抑制剤、及び/又はメラニン産生抑制剤は、適切な賦形剤を用いて、例えば、医薬製剤又は化粧料とすることができる。例えば、乳糖、シリカゲル、結晶セルロース、又はデンプンなどの添加物に吸収させることで、粉体化して製剤とすることもできる。
【0046】
本願発明の医薬製剤又は化粧料には、これらで通常用いられる添加剤を添加することができるが、例えば、牛血清アルブミン、卵白アルブミン、ミルクカゼインなどのタンパク質、マルトース、スクロース、トレハロースなどの糖類、ヘパリン、キトサン、アルギン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、カルボキシメチルセルロースなどの多糖類などを安定化剤として添加することもできる。
【0047】
さらに、増粘剤としては例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、デキストラン、ヒアルロン酸ナトリウム等の水溶性多糖類等が挙げられる。油相の増粘剤として、各種脂肪酸や油脂類等が挙げられる。
保存剤としては例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のアルキルパラベン等が挙げられる。
【0048】
4−1.化粧料
本願発明のエンドセリン−1産生抑制剤、SCF産生抑制剤、及び/又はメラニン産生抑制剤は化粧料に添加することができる。例えば、エンドセリン−1産生抑制能及びSCF産生抑制能を有する琥珀からの抽出物、又は該抽出物から精製した組成物は、美白用の化粧料に添加することができる。より具体的には、(イ)本願発明の琥珀から低級アルコールを用いて抽出したエンドセリン−1産生抑制能及びSCF産生抑制能を有する抽出物、(ロ)琥珀からのエンドセリン−1産生抑制能及び/又はSCF産生抑制能を有する成分を含有する組成物の粗精製物、若しくはF2画分、(ハ)中性画分(N画分)及び/又は(ニ)酸性画分(A画分)を含有する美白用化粧料とすることができる。
【0049】
本発明の琥珀抽出物は乾固された状態又は適宜な溶媒に溶解した状態、例えば、エタノールで溶解した状態で、化粧料に添加することができる。本発明のエンドセリン−1産生抑制剤、SCF産生抑制剤、及び/又はメラニン産生抑制剤の含有量は、化粧料全体を100とした場合に、0.0001〜50質量%程度添加することができる。
【0050】
例えば、上記した2−1.の琥珀抽出物、2−2−1.カラムクロマトグラフィーによる分画、及び/又は2−2−2.二相分離による分画、いずれについても、化粧料全体を100とした場合に、0.001〜5.0質量%程度、より好ましくは、0.001〜1.0質量%添加することができる。具体的には、F2画分、N画分、A画分又は前記3種の画分の内2種以上の混合物を、化粧料全体を100とした場合に、0.001〜5.0質量%程度、より好ましくは、0.001〜1.0質量%程度添加することができる。
【0051】
本発明の琥珀から得られたエンドセリン−1産生抑制剤、SCF産生抑制剤、及び/又はメラニン産生抑制剤が添加された化粧料は、その剤形は問わず、乳液,クリーム,軟膏,溶液,ゲル等の剤形や、パック,ローション,パウダー,スティック等が挙げられる。本発明の化粧料には、化粧料の原料として通常用いられるその他の添加剤成分を適宜含有させることができる。また、本発明の化粧料には、通常化粧料原料として用いられるその他の基剤成分を含有させることができる。基剤成分としては、液体油脂(オリーブ油等),固体油脂(シア脂等),ロウ類(ミツロウ等),炭化水素油(流動パラフィン,パラフィン,ワセリン等),高級脂肪酸(ステアリン酸等),高級アルコール(セタノール等),合成エステル油(ミリスチン酸オクチルドデシル等),シリコーン類(メチルポリシロキサン等)等の油性成分,各種の界面活性剤,金属イオン封鎖剤,水溶性高分子(カルボキシビニルポリマー等),増粘剤,各種の粉末成分,香料,水等が挙げられる。
【0052】
4−2.皮膚外用薬
本発明の琥珀から得られたエンドセリン−1産生抑制剤、SCF産生抑制剤、及び/又はメラニン産生抑制剤は、また、皮膚外用薬に添加することもできる。このような皮膚外用薬は、シミ、くすみ対策、又は皮膚の色素沈着の除去、防止などに用いることができる。
【0053】
皮膚外用薬としては、液状、ペースト状、クリーム状、軟膏状、パウダー状、貼付剤など種々の形態に製造できる。さらに皮膚外用薬には、他の通常添加される成分、例えば、鉱物油、高級アルコール、動植物油、ワックス類、シリコーン油などの油剤、保湿剤、湿潤剤、水溶性高分子、低級アルコール、水、抗酸化剤、pH調整剤、色素、顔料、防腐殺菌剤、消炎剤などの薬効剤、キレート剤などを添加することもできる。
【0054】
また、例えば、上記した2−1.の琥珀抽出物、2−2−1.カラムクロマトグラフィーによる分画、及び/又は2−2−2.二相分離による分画、いずれについても、皮膚外用薬全体を100とした場合に、0.001〜5.0質量%程度、より好ましくは、0.001〜1.0質量%添加することができる。具体的には、F2画分、N画分、A画分又は前記3種の画分の内2種以上の混合物を、皮膚外用薬全体を100とした場合に、0.001〜5.0質量%程度、好より好ましくは、0.001〜1.0質量%程度添加することができる。
【実施例】
【0055】
[実施例1]
<琥珀の抽出法>
ロシア・バルト海沿岸産琥珀を100メッシュ程度にまで粉砕し、10gをヘキサン100mLに浸漬し、室温で一週間放置後、ろ紙(No. 2)でろ過し、ろ液は廃棄した。ろ取した粉末をエタノール100mLに浸漬し、40℃の水浴上あるいは恒温機内に一週間放置した後、ろ紙(No. 2)でろ過し、ろ液は暗所で保管した。ろ取した粉末はエタノール50mLに浸漬し、アルミホイル等でフタをして40℃の水浴上あるいは恒温機内に一週間放置した後、ろ紙(No. 2)で再度ろ過した。さらに50mLのエタノールに浸漬することを2回繰り返し、ろ過後、ろ液をすべて合わせた。これをわずかに温めながら(38℃程度)エバポレーターで濃縮・乾固し、茶褐色であめ状の琥珀エタノール抽出物約1.3gを得た。
【0056】
<F2画分の調製>
このエタノール抽出物0.4gをエタノール2mLに溶かし、オクタデシルシリル化シリカゲル(和光純薬工業社製 ワコーゲル100C18)11gを担体とし、メタノール(和光純薬工業社製 試薬特級)を溶媒としたカラムクロマトグラフィー(カラムサイズ: 2.2cm i.d.×4.7cm)を行い、溶出液の色により分取した。通常は紫外線可視分光光度計を用いて特定波長の吸光度で判断し分取するが、琥珀含有成分に関する情報を正確に得ることが困難なため、目視で判断した。溶出液が濃黄色透明である画分(採取量17mL)を集め、エバポレーターで乾固し、濃黄色透明なあめ状画分を330mg得た。この画分をF2とした。
【0057】
<中性(N)画分及び酸性(A)画分の調製>
またF2とは別に、エタノール抽出物0.5gをジエチルエーテル(国産化学社製 試薬特級)20mLに溶かし、溶け残ったものをろ過して除去した後、ろ液を100mL分液ロート(SIBATA社製) に入れ、超純水製造装置(日本ミリポア社製)から採取した超純水5mLを加えて、栓をして振り混ぜ、時々コックを開いて内圧を戻しながら、平衡に達するまで1分程度振り混ぜて抽出した。その後2層に分離するまで5分程静置し、下層を捨てた。再び超純水5mLを分液ロートに加えて抽出を繰り返し、下層を取り除く作業を2回繰り返した。その後、あらかじめ超純水18mLに塩酸(シグマ社製 試薬特級) 2μLを加えて調製しておいたpH 3.0 塩酸を5mL分液ロートに加えて抽出し、下層を取り除く作業を3回繰り返した。再度、超純水5mLを分液ロートに加えて抽出し、下層を捨てた。その後、あらかじめ超純水62mLに水酸化ナトリウム(関東化学社製)45mgを加えて調製しておいたpH 12.0 水酸化ナトリウム水溶液を5mL分液ロートに加えて抽出し、下層を取り除く作業を下層に色がつかなくなるまで6〜12回繰り返した。この時、振り混ぜると2層に分離できなくなることがあったが、その際は一夜放置して分離させた。また、一夜放置しても分離できなかった時は、分液ロートの中身を取り出し、遠心機(KUBOTA社製)で遠心(3,000rpm、30分)して分離させた。このpH 12.0 水酸化ナトリウム水溶液の下層を1つにまとめ、暗所で保管した。これに残った分液ロートに超純水5mLを加えて抽出し、下層を捨てた。分液ロートに残った有機層を集め、エバポレーターで乾固し、薄黄色固体の画分を105mg得た。この画分をNとした。
【0058】
また、暗所で保管しておいたpH 12.0 水酸化ナトリウム水溶液の下層に塩酸を加えて中和させた後、飽和状態になるまで塩化ナトリウム(純正化学社製 試薬特級)を加え、その後100mL分液ロートを用いてこの下層の溶液20mLにつきジエチルエーテル5mLを3回加えて逆抽出した。そして、有機層をすべて合わせてエバポレーターで乾固し、淡黄色固体の画分を233mg得た。この画分をAとした。
【0059】
[実施例2]
<F2画分、N画分及びA画分のGeneChip(商標)による遺伝子解析でのエンドセリン−1遺伝子並びにSCF遺伝子の発現確認>
ダルベッコ変性イーグル培地(DMEM)(インビトロジェン社製)に5%ウシ血清(FETAL BOVINE SERUM、以下FBSとする)(EQUITECH-BIO社製)と1%抗菌剤(Penicillin-Streptomycin Glutamine)(インビトロジェン社製)を添加した培養液(以下、DMEM培地とする)に、ヒト由来不死化表皮角化細胞(以下HaCaTとする)を2.64×106 cells/ mLの濃度で懸濁し、あらかじめDMEM培地を13mL入れておいた直径15cmのディッシュ(Nunc社製)に2mLずつ播種し、95%空気‐5%炭酸ガスの下、37℃で24時間培養した。培養上清を吸引除去後、フェノールレッド不含ダルベッコ変性イーグル培地(インビトロジェン社製)に1%抗菌剤(Penicillin-Streptomycin Glutamine)を入れた培養液(以下、無血清DMEM培地とする)を15mLずつディッシュに入れ、さらに48時間培養した。培養上清を吸引除去後、フェノールレッド不含ダルベッコ変性イーグル培地に0.1%ウシ血清アルブミン(EQUITECH-BIO社製)と1%抗菌剤(Penicillin-Streptomycin Glutamine)を入れた培養液(以下、処理用DMEM培地とする)を10mL入れた。そこへ、終濃度30μg/ mLになるようエタノールに溶解したF2画分及びN画分、A画分をそれぞれ処理用DMEM培地に混ぜたもの(エタノール終濃度: 0.33%)を、5mLずつ添加した。また、処理用DMEM培地にエタノール終濃度0.33%になるようエタノールを添加した培養液を処理したものをcontrolとした。これらのディッシュを95%空気‐5%炭酸ガスの下、37℃で24時間培養した。
【0060】
RNA精製キットRNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて処理した細胞から総RNAを抽出した(産物を以下、total RNAとする)。total RNA量は分光光度計(Nano Drop)を用いて260nmにおける吸光度により求めた。このtotal RNAをGeneChip(商標) Eukaryotic Poly-A RNA Control Kit (AFFYMETRIX社製) 、GeneChip(商標)Expression 3’-Amplification One-Cycle cDNA Synthesis Kit (AFFYMETRIX社製) 、GeneChip(商標) Sample Cleanup Module (AFFYMETRIX社製) 、GeneChip(商標) Expression 3’-Amplification Reagents (AFFYMETRIX社製) を用い、Affymetrix社が推奨するプロトコルに準じてBiotin-Labeledした相補的RNA(以下、cRNAとする) を調製した。GeneChip(商標) Hybridazation Oven 640 (Affymetrix社製) にてcRNAをGeneChip(商標)にハイブリダイゼーションした後、GeneChip(商標) Fluidics Station 450 (Affymetrix社製) で洗浄し、染色後GeneChip(商標) Scanner 3000 (Affymetrix社製) で蛍光強度を読み取った。マイクロアレイデータ解析ソフトウェア GeneSpring GX Ver. 9. 0. 5(アジレント・テクノロジー社製)を用い、得られた画像データを元に発光量の割合を測定し、controlサンプルのエンドセリン−1 mRNA発現量を100とした時のエンドセリン−1 mRNA発現量の比、並びにcontrolサンプルのSCF mRNA発現量を100とした時のSCF mRNA発現量の比を算出した。
【0061】
【表1】

【0062】
結果を表1に示す。HaCaTにおいて、F2画分を添加したときのエンドセリン−1 mRNA発現は、controlサンプルに対して8.4%、またN画分を同様に添加した場合は9.7%、さらにA画分を同様に添加した場合は48.4%と、有意に発現抑制されていることが示唆された。またF2画分を添加したときのSCF mRNA発現は、controlサンプルに対して27.1%、またN画分を同様に添加した場合は12.0%、さらにA画分を同様に添加した場合は28.7%と、有意に発現抑制されていることが示唆された。
【0063】
[実施例3]
<UV-B照射後のHaCaTを用いた琥珀エタノール抽出物並びにF2画分、N画分、及びA画分のエンドセリン−1 mRNA発現抑制並びにSCF mRNA発現抑制確認>
DMEM培地に、HaCaTを9.25×105 cells/ mLの濃度で懸濁し、あらかじめDMEM培地を4.1mL入れておいた直径6.0cmのディッシュ(Nunc社製)に865μLずつ播種し、95%空気‐5%炭酸ガスの下、37℃で24時間培養した。培養上清を吸引除去後、無血清DMEM培地を5.0mLずつディッシュに入れ、さらに48時間培養した。培養上清を吸引除去後、Phosphate-Buffered Saline(以下、PBSとする)を2.0mL入れた。そこへ、302nmにピークを有する6Wの放電管(UVP社製)を取り付けたUVSL-26P 紫外線照射装置(UVP社製)を用いて90mJ/cm2の照射量になるように125μW/cm2のUV-Bを12分間照射し、その後ただちに処理用DMEM培地3.75mLに交換した。次いで、終濃度25μg/ mLになるようエタノールに溶解した琥珀エタノール抽出物及びF2画分、N画分、A画分をそれぞれ処理用DMEM培地に混ぜたもの(エタノール終濃度: 0.25%)を、1.25mLずつ添加した。また、UV-Bを照射せずに処理用DMEM培地にエタノール終濃度0.25%になるようエタノールを添加した培養液を処理したものをUV-B未照射サンプルとした。さらに、UV-B照射後、処理用DMEM培地にエタノール終濃度0.25%になるようエタノールを添加した培養液を処理したものをUV-B照射サンプルとした。これらのディッシュを95%空気‐5%炭酸ガスの下、37℃で24時間培養した。
【0064】
これらを上記の実施例2に示した方法でtotal RNAを抽出し、total RNA量を求めた。次いでこのtotal RNAを元に、PrimeScriptTM RT reagent Kit(TaKaRa社製)を用い、添付文書に従ってRT反応を行った。さらにSYBR(商標)Premix Ex TaqTM II(TaKaRa社製)を用い、添付文書に従って反応液を調製した。この反応液をquantitative RT-PCR法によりエンドセリン−1、SCF及び内部標準であるGAPDHの各プライマー(インビトロジェン社製) と反応させた。そして、UV-B未照射サンプルのエンドセリン−1 mRNA発現量を100としたときの試料添加サンプルにおける相対的な変化を算出した。その際、内部標準であるGAPDHの値で補正した。またSCF mRNA発現量についても同様にして算出した。
【0065】
エンドセリン−1 mRNA発現の結果を図1−1に示す。HaCaTにおいて、UV-B照射後のエンドセリン−1 mRNA発現は、UV-B未照射サンプルに対して147%にまで発現上昇したのに対し、UV-B照射後に琥珀エタノール抽出物を添加した場合は、UV-B未照射サンプルに対して29.1%、またF2画分を同様に添加した場合は31.1%、さらにN画分を同様に添加した場合は32.3%、そしてA画分を同様に添加した場合は60.8%と、UV-Bを照射したにも拘らずエンドセリン−1 mRNA発現が有意に抑制されていることが確認された。
【0066】
次にSCF mRNA発現の結果を図1−2に示す。HaCaTにおいて、UV-B照射後のSCF mRNA発現は、UV-B未照射サンプルに対して120%にまで発現上昇したのに対し、UV-B照射後に琥珀エタノール抽出物を添加した場合は、UV-B未照射サンプルに対して62.3%、またF2画分を同様に添加した場合は63.0%、さらにN画分を同様に添加した場合は62.0%、そしてA画分を同様に添加した場合は88.8%と、UV-Bを照射したにも拘らずSCF mRNA発現が有意に抑制されていることが確認された。
【0067】
[実施例4]
<UV-B照射後のHaCaTを用いた琥珀エタノール抽出物並びにF2画分、N画分、及びA画分のエンドセリン−1タンパク質産生抑制確認>
DMEM培地に、HaCaTを5.40×106cells/ mLの濃度で懸濁し、あらかじめDMEM培地を2mL入れておいた6穴プレート(TPP社製) に83μLずつ播種し、95%空気‐5%炭酸ガスの下、37℃で24時間培養した。培養上清を吸引除去後、無血清DMEM培地を2mLずつ入れ、さらに48時間培養した。培養上清を吸引除去後、PBSを2.0mL入れた。そこへ、302nmにピークを有する6Wの放電管を取り付けたUVSL-26P 紫外線照射装置を用いて30mJ/cm2の照射量になるように125μW/cm2のUV-Bを4分間照射し、その後ただちにPBSを抜いた。そこへ終濃度25、50μg/ mLになるようそれぞれエタノールに溶解した琥珀エタノール抽出物及びF2画分、N画分、A画分をそれぞれ処理用DMEM培地に混ぜたもの(エタノール終濃度: 0.25%)を、1.5mLずつ入れた。また、UV-B照射後、処理用DMEM培地にエタノール終濃度0.25%になるようエタノールを添加した培養液を処理したものをcontrolとした。これらのプレートを95%空気‐5%炭酸ガスの下、37℃で24時間培養し、その後培養上清中に産生されたエンドセリン−1量を、Endothelin-1 Human ELISA Kit(R&D Systems社製)を用いたELISA法により測定した。そしてcontrolサンプルにおけるエンドセリン−1産生量を100としたときの、試料添加サンプルにおけるエンドセリン−1産生量の割合を算出した。
【0068】
結果を図2に示す。UV-B照射後のHaCaTにおいて、琥珀エタノール抽出物を終濃度25μg/ mLになるよう添加したときのエンドセリン−1産生量は、controlサンプルに対して62.2%、またF2画分を同様に添加した場合は51.4%、さらにN画分を同様に添加した場合は50.9%、そしてA画分を同様に添加した場合は74.4%にそれぞれ抑制されていたことから、琥珀エタノール抽出物及びF2画分、N画分、A画分は有意なエンドセリン−1産生抑制能を有することが確認された。また、琥珀エタノール抽出物、F2画分、N画分及びA画分は、濃度依存的にエンドセリン−1産生を抑制することがわかった。
【0069】
[実施例5]
<HaCaT細胞と正常マウスメラノサイトとの共培養を用いた琥珀エタノール抽出物並びにF2画分及びN画分のメラニン産生抑制確認>
RPMI1640培地(インビトロジェン社製)に10%FBS、1%抗菌剤(Penicillin-Streptomycin Glutamine)、0.1mM β−メルカプトエタノール(シグマアルドリッチジャパン社製)、及び200nM 12-O-テトラデカノイルホルボール 13-アセタート(TPA)(ロシュ社製)を添加した培養液(以下、RPMI1640培地とする)に、正常マウスメラノサイト(以下、Melan-Aとする)を1.27×106cells/mLの濃度で懸濁し、あらかじめRPMI1640培地を821μL入れておいた6穴プレート(TPP社製) に79μLずつ播種した。またこれとは別に、DMEM培地にHaCaTを3.01×106cells/mLの濃度で懸濁し、あらかじめDMEM培地を333μL入れておいたセルカルチャーインサート(ファルコン社製)に17μLずつ播種したものを用意し、先ほどの6穴プレートの上に重ねた。これを95%空気‐5%炭酸ガスの下、37℃で24時間培養した。培養上清を吸引除去後、フェノールレッド不含RPMI1640培地(インビトロジェン社製)に1%抗菌剤(Penicillin-Streptomycin Glutamine)を添加した培養液(以下、無血清RPMI1640培地とする)を6穴プレートには900μLずつ、セルカルチャーインサートには350μLずつ入れ、さらに48時間培養した。培養上清を吸引除去後、フェノールレッド不含RPMI1640培地に0.1%ウシ血清アルブミン(EQUITECH-BIO社製)と1%抗菌剤(Penicillin-Streptomycin Glutamine)を入れた培養液(以下、処理用RPMI1640培地とする)を6穴プレートに対して900μLずつ入れた。さらに、終濃度30μg/ mLになるようエタノールに溶解した琥珀エタノール抽出物、F2画分、及びN画分をそれぞれ処理用RPMI1640培地に混ぜたもの(エタノール終濃度: 0.25%)を、セルカルチャーインサートに対して350μLずつ入れた。また、処理用RPMI1640培地にエタノール終濃度0.25%になるようエタノールを添加した培養液を処理したものをcontrolとした。
【0070】
上記のプレートを95%空気‐5%炭酸ガスの下、37℃で24時間培養したのち、Melan-Aのみをトリプシン-EDTA(免疫生物研究所社製)を用いて回収し、細胞数をカウントした後、1% IGEPAL CA-630(シグマアルドリッチジャパン社製)、0.1mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(和光純薬工業社製)、及び0.1mM フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)(ロシュ社製)を添加した10mM リン酸緩衝液(pH 6.8)を20μL加え、遠心機(KUBOTA社製)で遠心(18,000rpm、5分)した。上清を吸引した後、ジエチルエーテル(国産化学社製)100μLを加えてさらに遠心(12,000rpm、5分)し、上清を吸引した。そこへ、1 cellあたり8μLの0.85 N KOHを加えて沈殿物を溶解し、マルチラベルカウンター(パーキンエルマージャパン社製)にて405 nmにおける吸光度を測定した。controlサンプルにおけるメラニン産生量を100としたときの、試料添加サンプルにおけるメラニン産生量の割合を算出した。
【0071】
結果を図3に示す。HaCaTにおけるメラニン産生量は、controlサンプルに対して琥
珀エタノール抽出物を終濃度30μg/ mLになるよう添加したときは、22.2%、またF2画分を同様に添加した場合は35.2%、さらにN画分を同様に添加した場合は49.3%にそれぞれ抑制されていたことから、琥珀エタノール抽出物、F2画分、及びN画分は有意なメラニン産生抑制能を有することが確認された。
【0072】
[実施例6]
<正常ヒト皮膚3次元モデルを用いた琥珀エタノール抽出物並びにF2画分、N画分及びA画分のメラニン産生抑制確認>
正常ヒト皮膚3次元組織モデルMEL-300A(クラボウ社製)を95%空気‐5%炭酸ガスの下、37℃で1時間培養した。その後302nmにピークを有する6Wの放電管を取り付けたUVSL-26P 紫外線照射装置を用いて30mJ/cm2の照射量になるように125μW/cm2のUV-Bを4分間照射した。次いで、終濃度25、50μg/ mLになるようそれぞれエタノールに溶解した琥珀エタノール抽出物及びF2画分、N画分、A画分を、それぞれHanks' Balanced Salt Solutions(以下、HBSSとする)(インビトロジェン社製)に混ぜたもの(エタノール終濃度: 0.25%)を、100μLずつ組織の上に添加した。また、UV-B照射後、HBSSにエタノール終濃度0.25%になるようエタノールを添加した溶液を組織の上に添加したものをcontrolとした。さらに、UV-B照射後、組織の上に何も投与せずに培養したものを陰性controlとした。これらを95%空気‐5%炭酸ガスの下、37℃で15日間培養した。その際、1日おきにEPI-100-LLMM維持培地(クラボウ社製)の交換と琥珀エタノール抽出物、F2画分、N画分、及びA画分の添加を行った。
【0073】
結果を図4に示す。フォンタナ・マッソン染色によりメラニンを黒色に染色したとき
、controlであるエタノール処理組織(b)では黒色の染色像が多く認められたのと比較して、琥珀エタノール抽出物、F2画分、N画分及びA画分を終濃度25μg/ mL、50μg/mLになるようそれぞれエタノールに溶解した液を処理した組織(c, e, g, 及びi [25μg/ mL];d, f, h, 及びj [50μg/ mL])では、いずれも容量依存的な黒色染色像の低下が認められた。以上の結果から、琥珀エタノール抽出物及びF2画分、N画分、A画分は、メラニン産生抑制活性を有していることがわかった。
【0074】
[実施例7]
<UV-B照射後のHaCaTを用いた琥珀エタノール抽出物、F2画分、N画分及びA画分のSCF発現抑制確認>
DMEM培地に、HaCaTを8.95×105 cells/ mLの濃度で懸濁し、あらかじめDMEM培地を1.1mL入れておいた直径3.5cmのディッシュ(CORNING社製)に391μLずつ播種し、95%空気‐5%炭酸ガスの下、37℃で24時間培養した。培養上清を吸引除去後、無血清培地を1.5mLずつディッシュに入れ、さらに48時間培養した。培養上清を吸引除去後、PBSを1.0mL入れた。そこへ、302nmにピークを有する6Wの放電管を取り付けたUVSL-26P 紫外線照射装置を用いて90mJ/cm2のUV-Bを1回照射し、ただちに処理用培地1.125mLに交換した。次いで、終濃度25、50μg/ mLになるようエタノールに溶解した琥珀エタノール抽出物、F2画分、N画分及びA画分をそれぞれ処理用培地に混ぜたもの(エタノール終濃度: 0.25%)を、375μLずつ添加した。また、UV-B照射後、処理用培地にエタノール終濃度0.25%になるようエタノールを添加した培養液を処理したものをcontrolとした。
【0075】
上記のディッシュを95%空気‐5%炭酸ガスの下、37℃で48時間培養したのち、超純水に0.1M Tris-HCl (pH7.5) 、0.01%ラウリル硫酸ナトリウム(シグマアルドリッチジャパン社製)、1% NP-40(メルク社製)、コンプリート錠(ロシュ社製)を添加した抽出バッファーを用いて細胞内のタンパク質を抽出した。次いで、常法に従いウェスタンブロッティングを行い、細胞内で発現したSCFタンパク質を検出した。その際、10% SDSポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動を行い、ポリビニリデンジフロリドメンブレン(ミリポア社製)にタンパク質を転写させた。SCFタンパク質の検出を行う際は、1次抗体として抗ヒトSCF(K089)ウサギ抗体(IBL社製)、並びに2次抗体としてホースラディッシュペルオキシダーゼ標識抗ウサギヤギ抗体(ジャクソンイムノリサーチ社製)を用い、内部標準であるGAPDHタンパク質の検出を行う際は、1次抗体として抗ヒトGAPDH マウス抗体(ミリポア社製)、並びに2次抗体としてホースラディッシュペルオキシダーゼ標識抗マウスヤギ抗体(ジャクソンイムノリサーチ社製)を用いた。バンドの検出は、ECLプラスウェスタンブロッティング検出試薬(GEヘルスケア・ジャパン社製)と2次抗体を反応させて化学発光後、ハイパーフィルムECL(GEヘルスケア・ジャパン社製)を感光させ、現像を行った。解析にはImageJソフトウェアを用い、controlサンプルのSCFタンパク質発現量を1.00としたときの試料添加サンプルにおける相対的な変化を算出した。その際、内部標準であるGAPDHの値で補正した。
【0076】
結果を図5に示す。HaCaTにおいて90mJ/cm2のUV-Bを照射した後に琥珀エタノール抽
出物を終濃度25μg/ mLになるよう添加したときのSCFタンパク質の発現は、controlサンプルに対して0.59倍、またF2画分を同様に添加した場合は0.40倍、さらにN画分を同様に添加した場合は0.42倍、そしてA画分を同様に添加した場合は0.56倍にそれぞれ減少していたことから、琥珀エタノール抽出物及びF2画分、N画分、A画分はUV-Bを照射したにも拘らず有意なSCF発現抑制能を有することが確認された。また、琥珀エタノール抽出物、F2画分及びA画分は、濃度依存的にSCFタンパク質の発現を抑制することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本願発明は、エンドセリン−1産生抑制剤、SCF産生抑制剤、及び/又はメラニン産生抑制剤を含む美白用化粧料などの化粧料製造や、さらには同成分を含む肌色改善剤等の医薬の製造に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
琥珀から低級アルコールで抽出する工程を含むエンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤の製造方法。
【請求項2】
琥珀を粉砕後疎水性有機溶媒により洗浄する工程、低級アルコールで抽出する工程、及びカラムクロマトグラフィーで分画する工程を含む、エンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤の製造方法。
【請求項3】
カラムクロマトグラフィーが、炭化水素が化学結合したシリカゲルを充填剤とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
琥珀を粉砕後疎水性有機溶媒により洗浄する工程、低級アルコールで抽出する工程、及び二相分離により分画する工程を含むエンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤の製造方法。
【請求項5】
前記二相分離により分画する工程が、低級エーテル及び水相による二相分離により分画する工程であって、水相に酸性の水溶液及び塩基性の水溶液を用いて、それぞれ塩基性の水溶性成分及び酸性の水溶性成分を除去して中性画分を得る工程を含む請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記二相分離により分画する工程が、低級エーテル及び水相による二相分離により分画する工程であって、水相に塩基性の水溶液を用いて酸性の水溶性成分を抽出し、次に再度有機溶媒で逆抽出して酸性画分を得る工程を含む請求項4記載の方法。
【請求項7】
低級アルコールでの抽出を微温ないし室温で7日以上行なう請求項1〜6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
疎水性有機溶媒が、ベンゼン、ヘキサン及びクロロホルムからなる群から選択される1種以上の有機溶媒である請求項2〜7いずれか1項に記載のエンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤の製造方法。
【請求項9】
低級アルコールが、エタノール、メタノール、プロパノールもしくはブタノール又はこれらのアルコールからなる群から選ばれる2種以上のアルコール混合物である請求項1〜8いずれか1項記載の方法。
【請求項10】
琥珀から抽出した抽出物を含むエンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤。
【請求項11】
請求項1〜9いずれか1項に記載の方法により得られるエンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤。
【請求項12】
琥珀から低級アルコールで抽出する工程を含む方法で抽出した抽出物を含むメラニン産生抑制剤。
【請求項13】
請求項1〜9いずれか1項に記載の方法により得られるエンドセリン−1産生抑制剤及び/又はSCF産生抑制剤を含むメラニン産生抑制剤。
【請求項14】
請求項12又は13記載のメラニン産生抑制剤を含む美白用化粧料。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−240967(P2012−240967A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112736(P2011−112736)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】