説明

環境対応型プレコート金属材料用水系表面処理剤、並びに表面処理金属材料及び環境対応型プレコート金属材料

【課題】耐食性、塗装密着性(T曲げ試験における塗装一次密着性及び塗装二次密着性)及び耐コインスクラッチ性に優れるプレコート金属材料を作製するための下地処理剤として有用なノンクロム系水系表面処理剤等の提供。
【解決手段】シランカップリング剤及び/又はシランカップリング剤の縮合物(A)、金属酸化物ゾル(B)、金属化合物(C)及び水分散性シリカ(D)を含有し、金属化合物(C)がV、W、Mo、Al、Sn、Nb、Hf、Y、Ho、Bi、La、Ce及びZnの化合物から選ばれる少なくとも1種であり、(B)/(A)質量比が1/50〜10/1であり、(C)/(A)質量比が1/1000〜4/10であり、(D)/(A)質量比が1/50〜10/1である環境対応型プレコート金属材料用水系表面処理剤、並びにその皮膜を有する金属材料及びノンクロム系プレコート金属材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装密着性、耐食性及び耐コインスクラッチ性に優れるプレコート金属材料を作製するための下地処理剤として有用なノンクロム系水系表面処理剤、並びに表面処理金属材料及び環境対応型プレコート金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
家電用、建材用、自動車用などの部品に、加工後塗装されていた従来のポスト塗装製品はリン酸塩などの前処理が多く施されているが、近年特に家電用に関しては、このような前処理に代わって、着色した有機皮膜を被覆したプレコート金属板が使用されるようになってきている。この金属板は、下地処理を施した金属板やめっき金属板に有機皮膜を被覆したもので、美観を有しながら、加工性を有し、耐食性が良好であるという特性を有している。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定のクロメート処理液を塗布し、水洗することなく乾燥することで端面耐食性を改善したプレコート鋼板が開示されている。このようなクロムを含有する下地処理を施したプレコート鋼板は、クロメート処理、有機皮膜の複合効果によって耐食性と共に、加工性、塗装密着性を有し、加工後塗装を省略して、生産性向上や品質改良を目的としており、現在では汎用的に使用されている。しかしながら、クロメート処理皮膜及びクロム系防錆顔料を含む有機皮膜から溶出する可能性のある6価クロムの毒性問題から、最近ではノンクロム防錆処理、ノンクロム有機皮膜に対する要望が高まっている。
【0004】
プレコート鋼板の下地処理に求められる第1の特性は塗装密着性であり、下層である下地金属及び上層であるプライマー等との2つの界面の両方に良好に密着することが求められる。この塗装密着性は沸騰水に所定時間浸漬後に評価する場合もあり、これを特に塗装二次密着性と呼び、沸騰水に浸漬する前の塗装密着性である塗装一次密着性と区別する。これら1次、2次の密着性とも、後加工により複雑な形状物に加工されることを前提とするプレコート鋼板には必須の極めて重要な特性である。T曲げ試験は極めて厳しい試験として、プレコート鋼板の密着性評価に用いられる。
【0005】
プレコート鋼板の下地処理に求められる第2の特性として、耐コインスクラッチ性が挙げられる。これは密着性のみでなく、下地処理の皮膜硬度などにも影響される特性である。
【0006】
プレコート鋼板の下地処理に求められる第3の特性として、耐食性が挙げられる。プレコート鋼板の場合、通常、鋼板の上に順に、下地処理、プライマー塗布処理、そしてトップコート塗布処理を行う。従来のクロメート処理を施したプレコート鋼板の場合、下地処理層のみでなく、プライマー層にもクロメートを含有する。特に通常0.5μmを越えて使用されることのない下地処理に比べ、3〜10μmと厚く使用されるプライマー層は多くのクロム成分を防錆顔料として含有し、プレコート鋼板に対する耐食性付与の主たる役割を担っている。ところが、クロムを含有しないプレコート鋼板におけるプライマーは、クロム系防錆顔料を含むプライマーに到底及ばない耐食性しか付与できないのが実状である。そのため、ノンクロメートのプレコート鋼板において、下地処理部分は耐食性付与の役割を従来のクロメートシステム以上にむしろ担っていると言える。
【0007】
クロメート処理に代わる非クロム系防錆処理方法として特許文献2には、タンニン酸とシランカップリング剤を含有する水溶液で亜鉛及び亜鉛合金を表面処理することで、耐白錆性及び塗料密着性を向上させる技術が開示されているが、この方法ではプレコート金属板に要求される耐コインスクラッチ性、耐食性を十分には確保することができない。特許文献3には、亜鉛めっき鋼板の表面にシリカ微粒子とポリアクリル酸などの結合剤を含む化成皮膜を形成することが開示されている。しかしこの方法では、プレコート鋼板に要求される塗装密着性及び耐食性が、クロメート処理した場合のそれらには及ばない。
【0008】
特許文献4には、亜鉛めっき鋼板の表面をシリカ微粒子、シランカップリング剤及び樹脂組成物を含有する水溶液で表面処理することで、一次防錆性を付与する技術が開示されている。しかし、この処理剤をプレコート鋼板に転用した場合、厳しい密着性が要求されるプレコート鋼板に対する塗装下地としての性能は十分でない。一時防錆性付与用の処理液によって達成される密着性は、エリクセン押出しレベルの加工密着性であり、T曲げ試験に合格するレベルの加工密着性は達成されない。同様のことが、耐指紋薬剤や潤滑用薬剤をプレコート鋼板の下地処理剤に転用した場合にも言え、厳しいT曲げ密着性試験に耐えられない。
【0009】
特許文献5には、めっき鋼板の表面を水分散性シリカ、シランカップリング剤、ジルコニウム化合物あるいはチタニウム化合物、チオカルボニル基含有化合物、アクリル樹脂及びリン酸を含有する水溶液で処理する、プレコート鋼板における下地処理の技術が開示されている。チオカルボニル基含有化合物、リン酸によるインヒビター作用は不十分であり、プレコート鋼板としての耐食性、特に端面部の耐食性の点において、クロメート処理したプレコート鋼板には及ばない。
【0010】
特許文献6には、めっき鋼板ではないが、鋼材をシランカップリング剤とモリブデン酸アンモニウムを含有する処理温浴中に浸漬し、その後水洗することによって反応処理下地皮膜を形成させ、上層として防食被覆処理を施す、防食被覆鋼材の製造方法が開示されている。この技術は浸漬及び水洗工程を必要とするためプレコート鋼板には適用できない。特許文献7には、亜鉛めっき鋼板等のめっき鋼板の表面を、アルミニウム塩、ホウ素化合物、アルミニウム以外の金属の塩、並びにSiO、SnO、Fe、Fe、MgO、Al、ZrO及びSbのゾルあるいは粉末の少なくとも1種を水に溶解もしくは分散させた液で処理して、耐食性及び塗装密着性を付与する技術が開示されている。しかし、この技術をもってしてもプレコート鋼板における塗装密着性には耐えられない。
【特許文献1】特開平3−100180号公報
【特許文献2】特開昭59−116381号公報
【特許文献3】特開2002−80979号公報
【特許文献4】特開2001−164195号公報
【特許文献5】特開2001−316845号公報
【特許文献6】特開2003−34881号公報
【特許文献7】特開2005−256156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、環境対応型の非クロム系でありながらプレコート鋼板における塗装下地として使用した場合に、塗膜の塗装密着性、耐食性及び耐コインスクラッチ性に優れる水系表面処理剤、並びにそれを用いて得られる表面処理金属材料及び塗装密着性、耐食性及び耐コインスクラッチ性に優れる環境対応型プレコート金属材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、
(1)シランカップリング剤(A)と、金属酸化物ゾル(B)、金属化合物(C)及び水分散性シリカ(D)を含有し、金属化合物(C)がV化合物、W化合物、Mo化合物、Al化合物、Sn化合物、Nb化合物、Hf化合物、Y化合物、Ho化合物、Bi化合物、La化合物、Ce化合物及びZn化合物から選ばれる少なくとも1種であり、成分(A)と成分(B)との割合が(B)/(A)の固形分質量比として1/50〜10/1の範囲であり、成分(A)と成分(C)との割合が(C)/(A)の固形分質量比として1/1000〜4/10の範囲内であり、成分(A)と成分(D)との割合が(D)/(A)の固形分質量比として1/50〜10/1の範囲である環境対応型プレコート金属材料用水系表面処理剤;
(2)金属酸化物ゾル(B)が酸化ジルコニウムゾル、酸化セリウムゾル、酸化アルミニウムゾル、酸化スズゾル、酸化ニオブゾル、酸化亜鉛ゾル、酸化アンチモンゾル、酸化ビスマスゾル、酸化イットリウムゾル及び酸化ホルミウムゾルから選ばれる少なくとも1種である上記(1)の水系表面処理剤;
【0013】
(3)シランカップリング剤(A)の少なくとも5質量%がアミノ性官能基を有するシランカップリング剤である上記(1)又は(2)の水系表面処理剤;
(4)シランカップリング剤(A)がアミノ性官能基を含有するシランカップリング剤と隣り合った炭素原子に結合したエポキシ基を有するシランカップリング剤との当量比50:1〜1:50の混合物である上記(1)又は(2)の水系表面処理剤;
(5)上記(1)〜(4)のいずれか1項の水系表面処理剤からの乾燥皮膜であって、0.01〜1g/mの乾燥皮膜を表面に有する金属材料;並びに
(6)上記(5)の金属材料の表面に、さらに、クロムを含まない上層皮膜を形成させた環境対応型プレコート鋼板
によって達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の環境対応型プレコート金属材料用水系表面処理剤で処理した金属材料に、さらにクロムを含まない上層被覆を施すことにより得られるプレコート金属材料は、被覆層がクロムを含まないにもかかわらず、耐食性、塗装密着性(T曲げ試験後の塗装一次密着性及び塗装二次密着性)及び耐コインスクラッチ性に優れる。したがって、本発明は工業的価値が極めて高い発明である。本発明のプレコート金属材料は、また、耐湿性及び耐薬品性(耐アルカリ性及び耐酸性)にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を以下に詳細に説明する。
本発明の水系表面処理剤は、シランカップリング剤(A)と、金属酸化物ゾル(B)と、V化合物、W化合物、Mo化合物、Al化合物、Sn化合物、Nb化合物、Hf化合物、Y化合物、Ho化合物、Bi化合物、La化合物、Ce化合物及びZn化合物から選ばれる少なくとも1種の金属化合物(C)と、水分散性シリカ(D)とを特定相互比率で含有することを特徴としている。
【0016】
シランカップリング剤(A)は、加水分解することにより生成するシラノール基の−OHの活性が高く、母材である下地金属Mと酸素原子を介し、−Si−O−Mの強固な化学結合をする。この化学結合は、特に下地金属との良好な密着性に寄与する。また、上層に含まれる有機官能基との反応により、上層との密着性向上にも寄与する場合もある。シランカップリング剤の官能基として極性の強いO、Nなどを構成要素とした極性基が導入されている場合、さらに上層との密着性はさらに向上する。
【0017】
本発明に適用できるシランカップリング剤として、例えば、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、オクタデシルジメチル〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル〔3−(メチルジメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル〔3−(トリエトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル〔3−(メチルジエトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシランなどを挙げることができる。これらのうち1成分のみ、又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0018】
下地処理剤は多くの場合、多少なりとも上層に塗布するプライマーとの相性があり、組合せによっては性能が期待通りに出現しないケースがある。上記カップリング剤のうちアミノ性官能基を有するものは、上層との相性に左右されにくい。そのため本発明の水系表面処理剤(下地処理剤)においては、シランカップリング剤(A)が、アミノ性官能基を有するものを少なくとも1種含有することが好ましい。ここで、本発明でアミノ性官能基とは第1級アミノ基及び第2級アミノ基から選ばれる少なくとも1種の官能基を言うものとする。アミノ性官能基は、酸性媒体中あるいは塩基性媒体中いずれの場合にも比較的高い反応活性を有する。すなわち、一般に活性水素を持つ有機官能基の中では、溶液の酸塩基性、官能基に隣接した置換基にもよるが、アミノ性官能基は比較的高い反応性(求核性、塩基性)を有する。アミノ性官能基を有するシランカップリング剤は、アミノ性官能基が高い反応性を有するため、上層のプライマーを構成する樹脂の官能基(エステル基、エポキシ基など)と反応し、良好な塗装密着性を発現する。この塗装密着性を向上する効果が、他のシランカップリング剤と比してより高いという効果の複合効果として、耐水性、耐薬品性(アルカリ、酸)、耐湿性などが向上する場合もある。アミノ性官能基を有するシランカップリング剤のうち、シランカップリング剤1分子に1つのアミノ性官能基を有するものが好ましい。アミノ性官能基を有するシランカップリング剤のシランカップリング剤(A)全体に対する使用量は、より高い塗装密着性を発現する観点から、固形分基準として、5質量%以上であるのが好ましく、10質量%以上であるのがより好ましく、20質量%以上であるのがより一層好ましい。
【0019】
シランカップリング剤(A)として2種以上を用いる場合、アミノ性官能基を有するシランカップリング剤とアミノ性官能基と反応し得る官能基、例えば隣り合った炭素原子に結合したエポキシ基(グリシジル基、3,4−エポキシシクロヘキシル基等)を有するシランカップリング剤を用いるのが好ましい。それらのシランカップリング剤の使用割合は、互いの官能基が過不足なく反応する量である必要はなく、アミノ性官能基を有するシランカップリング剤とアミノ性官能基と反応し得る官能基との当量比として、50:1〜1:50の範囲であるのが好ましく、10:1〜1:10の範囲であるのがより好ましく、アミノ性官能基を有するシランカップリング剤と隣り合った炭素原子に結合したエポキシ基を有するシランカップリング剤との組合せ使用の場合、アミノ性官能基を有するシランカップリング剤による上記塗装密着性についての効果に加え、耐食性をさらに向上させることができる。
なお、複数のシランカップリング剤を用いる場合、両者を混合した後、他の成分と混合するのがよい。
【0020】
本発明の水系表面処理剤は、金属酸化物ゾル(B)を含有する。金属酸化物ゾル(B)は、極性基の導入という点から密着性向上に寄与する。ただし、過剰な添加は水の界面への侵入を容易とし、塗装二次密着性が低下する場合がある。また金属酸化物ゾル(B)は、下地皮膜の硬度を上げ、かつ塗装密着性の向上に寄与する結果、耐コインスクラッチ性向上にも効果的に作用する。また、金属酸化物ゾル(B)は、耐薬品性向上にも効果的に作用し、特に耐アルカリ性向上に有効に作用する。
金属酸化物ゾルとしては、酸化ジルコニウムゾル、酸化セリウムゾル、酸化アルミニウムゾル、酸化スズゾル、酸化ニオブゾル、酸化亜鉛ゾル、酸化アンチモンゾル、酸化ビスマスゾル、酸化イットリウムゾル及び酸化ホルミウムゾルから選ばれる少なくとも1種が好ましく、より具体的には、ZrOゾル(ジルコニアゾル)、TiOゾル(チタニアゾル)、CeOゾル、Alゾル(アルミナゾル)、SnOゾル、NbOゾル、ZnOゾル、Sbゾル、Biゾル、Yゾル、Hoゾル等が挙げられる。
【0021】
本発明に用いられる金属酸化物ゾル粒子の粒子径は、一次粒子径として1〜1000nmであることが好ましく、1nm〜500nmであるであることがより好ましく、1nm〜100nmであることがより一層好ましい。これら金属酸化物粒子は、二次凝集、三次凝集して二次粒子径、三次粒子径をもつ場合があるが、凝集していても水中で安定に分散されていればよい。一次粒子径が1nm未満の場合、チクソ性が出現するなど処理剤安定性が悪化する。また、1000nmを超えると、折曲げ密着性が悪化する。
【0022】
金属酸化物ゾル(B)の含有量は、シランカップリング剤(A)に対し、(B)/(A)の固形分質量比として、1/50〜10/1の範囲であることが必要であり、1/30〜4/1の範囲であることが好ましく、1/10〜2/1の範囲であることがより好ましい。上記含有量が1/50未満の場合には耐薬品性及び耐食性が低下する傾向となり、10/1を超える場合にも耐薬品性が低下する傾向となる。
【0023】
本発明に用いられる金属酸化物ゾル(B)の市販品としては、ジルコニアゾルとしてナノユースZR40BL、ナノユースZR30BS、ナノユースZR30BH、ナノユースZR30AL、ナノユースZR30AH(日産化学(株)製)、ZSL−20N、ZSL−10T、ZSL−10A(第一希元素化学工業(株)製)、イットリウムゾルとしてYSL−10(第一希元素化学工業(株)製)、スズゾルとして酸化スズゾル(第一希元素化学工業(株)製)、アンチモンゾルとしてSBSL−50(第一希元素化学工業(株)製)、セリウムゾルとしてCESL−15N(第一希元素化学工業(株)製)、ビスマスゾルとしてNanotek Bi(シーアイ化成(株)製)、ホロニウムゾルとしてNanotek Ho(シーアイ化成(株)製)、チタニアゾルとしてNanotek TiO(シーアイ化成(株)製)、亜鉛ゾルとしてNanotek ZnO(シーアイ化成(株)製)、アルミナゾルとしてはアルミナゾル100、アルミナゾル200、アルミナゾル520(日産化学(株)製)、NanoTek Al(シーアイ化成(株)製)などが挙げられる。
【0024】
本発明の水系表面処理剤は、金属化合物(C)を含有する。金属化合物(C)はV化合物、W化合物、Mo化合物、Al化合物、Sn化合物、Nb化合物、Hf化合物、Y化合物、Ho化合物、Bi化合物、La化合物、Ce化合物及びZn化合物から選ばれる少なくとも1種である。金属化合物(C)はインヒビター(腐食抑制物質)として作用し、耐食性を向上させる。金属化合物(C)の耐食性向上へのメカニズムは明確ではないが、価数をいくつか取り得ることがポイントとなっているようである。また、価数変化のない場合は、pHの変化によってヘテロポリ酸としての存在形態を取り得る場合もある。ヘテロポリ酸は、表面処理剤中のシランカップリング剤(A)または金属酸化物ゾル(B)への物理的あるいは化学的作用によって従来もっていた作用を変性させる場合もある。そのため、耐食性向上に加え、耐薬品性、耐湿性などが向上する場合もある。
【0025】
金属化合物(C)としては、上記金属の炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、フッ化物、フルオロ酸もしくはその塩、オキソ酸塩、有機酸塩などが挙げられる。金属化合物(C)が酸化物である場合、ゾル形態にあるものを除くものとする。
具体的化合物として、V化合物としては、五酸化バナジウム(V)、三酸化バナジウム(III)、二酸化バナジウム(IV)、水酸化バナジウム(II)、水酸化バナジウム(III)、硫酸バナジウム(II)、硫酸バナジウム(III)、オキシ硫酸バナジウム(IV)、フッ化バナジウム(III)、フッ化バナジウム(IV)、フッ化バナジウム(V)、オキシ三塩化バナジウムVOCl、三塩化バナジウムVCl、ヘキサフルオロバナジウム酸(III)もしくはその塩(カリウム塩、アンモニウム塩等)、メタバナジン酸(V)もしくはその塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩等)、バナジルアセチルアセトネート(IV)VO(OC(=CH)CHCOCH、バナジウムアセチルアセトネート(III)V(O−C(=CH)CHCOCH、リンバナドモリブデン酸H15−X[PV12−XMoO40]・nH2O(6<X<12,n<30)などが挙げられる。
【0026】
W化合物としては、酸化タングステン(IV)、酸化タングステン(V)、酸化タングステン(VI)、フッ化タングステン(IV)、フッ化タングステン(VI)、タングステン酸(VI)HWOもしくはその塩(アンモニウム塩、ナトリウム塩等)、メタタングステン酸(VI)H[H1240]もしくはその塩(アンモニウム塩、ナトリウム塩等)、パラタングステン酸(VI)H10[W124610]もしくはその塩(アンモニウム塩、ナトリウム塩等)などが挙げられる。
Mo化合物としては、リンバナドモリブデン酸H15−X[PV12−XMoO40]・nH2O(6<X<12,n<30)、酸化モリブデン、モリブデン酸HMoO、モリブデン酸アンモニウム、パラモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブドリン酸化合物(例えば、モリブリン酸アンモニウム(NH[POMo1236]・3HO、モリブドリン酸ナトリウムNa[POMo1236]・nHO等)などが挙げられる。
【0027】
Al化合物としては、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム、リン酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムなど;Sn化合物としては、酸化スズ(IV)、スズ酸ナトリウムNaSnO、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、硝酸スズ(II)、硝酸スズ(IV)、ヘキサフルオロスズ酸アンモニウム(NH)SnFなど;Nb化合物としては、五酸化ニオブ(Nb)、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO)、フッ化ニオブ(NbF)、ヘキサフルオロニオブ酸アンモニウム(NH)NbFなどが挙げられる。
【0028】
Hf化合物、Y化合物、Ho化合物、Bi化合物、La化合物としては、酸化ハフニウム、ヘキサフルオロハフニウム水素酸、酸化イットリウム、イットリウムアセチルアセトネート、酸化ホロミウム、酸化ビスマス、酸化ランタンなどが挙げられる。
Ce化合物としては、酸化セリウム、酢酸セリウムCe(CHCO、硝酸セリウム(III) もしくは(IV)、硝酸セリウムアンモニウム、硫酸セリウム、塩化セリウムなど;Zn化合物としては、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、亜鉛酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0029】
金属化合物(C)の含有量は、シランカップリング剤(A)に対し、(C)/(A)の固形分質量比として、1/1000〜4/10の範囲であることが必要であり、1/300〜2/10の範囲であることが好ましく、1/100〜1/10の範囲であることがより好ましい。上記含有量が1/1000より少ない場合には、耐食性向上効果が生ぜず、4/10を超える場合には、上層に塗布するプライマーの種類によっては特に塗装二次密着性の低下を招く場合がある。
また、金属化合物(C)の添加によって、処理剤の液安定性が悪くなる場合などにおいては、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、タンニン酸など、カルボン酸を適宜添加することによって、液安定性を向上させることができる。
【0030】
本発明の水系表面処理剤は、水分散性シリカ(D)を含有する。水分散性シリカ(D)は、極性基の導入という点から密着性向上に寄与する。ただし、過剰な添加は水の界面への侵入も容易となり、塗装二次密着性が低下する場合がある。また水分散性シリカ(D)は、下地皮膜の硬度を上げ、かつ塗装密着性の向上に寄与する結果、耐コインスクラッチ性向上に効果的に作用する。
水分散性シリカ(D)には、気相反応により生成させた気相シリカと液相反応により水に分散した状態で生成させた液相シリカがあり、共に使用可能である。
【0031】
本発明に用いられる水分散性シリカ(D)の粒子径は、一次粒子径として1〜100nmであることが好ましく、2nm〜50nmであるであることがより好ましい。これら水分散性シリカ(D)は、二次凝集、三次凝集して二次粒子径、三次粒子径をもつ場合があるが、凝集していても水中で安定に分散されていればよい。一次粒子径が1nm未満の場合、チクソ性が出現するなど処理剤安定性が悪化する。また、100nmを超えると、折曲げ密着性が悪化する。
【0032】
水分散性シリカ(D)の含有量は、シランカップリング剤(A)に対し、(D)/(A)の固形分質量比として、1/50〜10/1の範囲であることが必要であり、1/30〜4/1の範囲であることが好ましく、1/10〜2/1の範囲であることがより好ましい。上記含有量が1/50未満の場合には塗装密着性及び耐コインスクラッチ性が低下する傾向となり、10/1を超える場合には耐薬品性が低下する傾向となる。
【0033】
本発明に用いられる水分散性シリカ(D)の市販品としては、液相シリカとしてスノーテックスC、スノーテックスO、スノーテックスN、スノーテックスNXS、スノーテックスOS、スノーテックスOUP、スノーテックスOL、スノーテックスPS−MO、スノーテックスPS−S、スノーテックスS、スノーテックスUP、スノーテックスPS−M、スノーテックスPS−L、スノーテックス20、スノーテックス30、スノーテックス40(いずれも日産化学工業(株)製)など;気相シリカとしてアエロジル50、アエロジル130、アエロジル200、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルMOX80、アエロジルMOX170(いずれも日本アエロジル(株)製)などが挙げられる。これらのうち1成分のみ、または複数を組み合わせて使用できる。
【0034】
本発明で用いる水分散性シリカ(D)には、分散安定性の観点から、酸又は塩基を適宜添加してもよい。酸としては無機酸及び有機酸のいずれでもよく、例えば塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸などが挙げられる。また、塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0035】
本発明の水系表面処理剤のpHは、3〜10であることが好ましく、5〜9であることがより好ましい。特にアミノ性官能基を有するシランカップリング(A)を用いる場合、そのpHは7〜9であることが好ましい。
本発明の水系表面処理剤中には、処理剤のpHをコントロールするために適当な酸(例えば、酢酸、リン酸など)やアルカリ(例えば、アンモニア、有機アミンなど)を添加してもよい。
【0036】
本発明の水系表面処理剤は、処理皮膜を柔らかくするための水溶性樹脂、被塗面に均一な皮膜を得るための濡性向上剤と呼ばれる界面活性剤、増粘剤、溶接性の向上のための導電性物質、意匠性向上のための着色顔料等を含有していてもよい。
【0037】
本発明の水系表面処理剤の媒体は水である。本発明の水系表面処理剤における全固形分濃度については特に制限はないが、塗膜形成性や操作性を考慮して、全固形分濃度は1〜20質量%程度であるのが好ましい。
本発明の水系表面処理剤は、シランカップリング剤(A)、金属酸化物ゾル(B)、金属化合物(C)及び水分散性シリカ(D)、並びに使用する場合の他の添加剤を水に添加し、攪拌することによって製造でき、各成分の添加順序について特に制限はない。
【0038】
本発明の水系表面処理剤を塗布する金属材料としては、冷延鋼板、熱延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、溶融合金化亜鉛めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、アルミ−亜鉛合金めっき鋼板、ステンレス鋼板等の鋼板、アルミニウム板、銅板、チタン板、マグネシウム板、その他のめっき金属板などの一般に公知の金属板を始めとする金属材料を用いることができる。
【0039】
本発明の水系表面処理剤を金属材料に塗布するに先立って、任意的に、金属材料を湯洗、アルカリ脱脂、表面調整などの通常の処理に付すことができる。
【0040】
本発明の水系表面処理剤は通常の塗布方法、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬、バーコート、刷毛塗りなどにより、金属材料に塗布することができる。塗布後乾燥させるが、乾燥方法、乾燥温度、乾燥時間には特に制限はなく、水分が蒸散する温度、時間であれば構わない。例えば、オーブン中で、塗布した金属板等の金属材料の最高到達温度を60〜120℃として乾燥させればよい。
【0041】
本発明の水系表面処理剤の塗布量は、乾燥皮膜量として、0.01〜1g/mの範囲であることが必要であり、0.02〜0.4g/mの範囲であるのが好ましく、0.05〜0.2g/mの範囲であるのがより好ましい。皮膜量が0.01g/m未満では皮膜量が少なすぎるため、部位による皮膜量のバラツキが生じやすく、密着性(金属材料及び上層に対する密着性)が不十分となる傾向にある。また皮膜量が1g/mを超える場合には、塗装密着性が不十分となる傾向となり、またコスト面で不利になる。
【0042】
本発明の水系表面処理剤による処理は、通常、以下に説明するように、プレコート金属材料における下地処理として行われるが、ラミネート鋼板における下地処理として行うことも可能である。
【0043】
本発明は、また、プレコート金属材料に関する。本発明のプレコート金属材料は、金属材料に本発明の水系表面処理剤を塗布し乾燥して形成させた皮膜上に、クロムを含まない上層皮膜層を形成させることにより得ることができる。上層皮膜層は、通常、ノンクロメートプライマー層とその上に形成させたトップコート層(トップコート層は、通常、クロムを含まない)からなり、かかる上層皮膜層は、本発明の水系表面処理剤を塗布し乾燥して形成させた皮膜上に、ノンクロメートプライマーを塗布乾燥後、その上にさらにトップコートを塗布することにより形成させることができる。また、上層皮膜層は、トップコート層のみからなっていてもよく、この場合、上層皮膜層は、本発明の水系表面処理剤を塗布し乾燥して形成させた皮膜上に、トップコートを塗布することにより形成させることができる。
【0044】
本発明で使用できる上記ノンクロメートプライマーとしては、プライマーの配合中にクロメート系の防錆顔料を使用しないプライマーであれば、いずれのプライマーも使用できる。ノンクロメートプライマーのベース樹脂は水系、溶剤系、粉体系等のいずれの形態のものでもよい。樹脂の種類としては一般に公知のもの、例えばポリアクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリブチラール系樹脂、メラミン系樹脂等をそのままあるいは組み合わせて使用することができる。防錆顔料としては一般に公知のもの、例えば(1)リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウムなどのリン酸系防錆顔料、(2)モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸バリウムなどのモリブデン酸系防錆顔料、(3)酸化バナジウムなどのバナジウム系防錆顔料、(4)水分散性シリカ、ヒュームドシリカなどの微粒シリカなどを用いることができる。ノンクロメートプライマー全体に対する各成分の固形分基準での配合量については、ノンクロメートプライマー全体に対する防錆顔料の固形分基準での配合量は1〜40質量%であるのが好ましい。防錆顔料の配合量が1質量%より少ないと耐食性が十分でなく、40質量%を超えると加工性が低下する。
【0045】
プライマーの塗布膜厚は乾燥膜厚で1〜30μmであることが好ましい。1μm未満では耐食性が低下し、また30μmを超えると加工時の密着性が低下する。上記ノンクロメートプライマーの焼付け乾燥条件については、特に制限はなく、例えば130〜250℃で10秒〜5分とすることができる。
【0046】
上記トップコートとしては特に制限されず通常の塗装用トップコートのいずれも用いることができる。トップコートのベース樹脂は水系、溶剤系、粉体系等のいずれの形態のものでもよい。樹脂の種類としては一般に公知のもの、例えばポリアクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリブチラール系樹脂、メラミン系樹脂等をそのままあるいは組み合わせて使用することができる。
トップコートには着色顔料を配合してもよく、着色顔料としては、特に制限はなく、チタン白、亜鉛黄、アルミナ白、カーボンブラック、ベンガラ、黄色酸化鉄、モリブデートオレンジ、酸化ジルコニウム(IV)等の無機顔料や、ハンザエロー、ピラゾロンオレンジ、アゾ系顔料等の有機顔料などを用いることができる。また、トップコートには、上述した
防錆顔料を適宜配合してもよく、また、消泡剤、レベリング剤、分散補助剤、塗料粘度を下げるための希釈剤等の添加剤を適宜配合してもよい。
【0047】
トップコートの塗布膜厚は乾燥膜厚で3〜40μmであることが好ましい。3μm未満では耐食性が低下し、また40μmを超えると密着性が低下する上、コスト高となる。上記トップコートの焼付け乾燥条件については、特に制限はなく、例えば160〜350℃で10秒〜20分とすることができる。
【0048】
上記ノンクロメートプライマー及びトップコートの塗布方法ついては、特に制限されず、一般に使用される浸漬法、スプレー法、ロールコート法、エアースプレー法、エアレススプレー法等を用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下に本発明の実施例及び比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
1.試験板の作製
1.1 供試材
・電気亜鉛めっき鋼板(以下記号:EG)
板厚0.6mm、めっき付着量片面当たり20g/m(両面めっき)
・溶融亜鉛めっき鋼板(以下記号:GI)
板厚0.6mm、亜鉛付着量片面当たり50g/m(両面めっき)
・アルミ−亜鉛合金めっき鋼板(以下記号:GL)
板厚0.6mm、めっき付着量片面当たり50g/m(両面めっき)
【0050】
1.2 前処理
アルカリ脱脂剤であるCL−N364S(日本パ−カライジング(株)製)を濃度20g/L、温度60℃の水溶液とし、これに供試材を10秒間浸漬し、純水で水洗した後乾燥した。
【0051】
1.3 表面処理
・実施例1〜33、比較例1〜18
前処理後の供試材の表面(片面)に、表1〜3に示す組成の表面処理剤を、表4〜6に示すように供試材を選定して、ロールコーターを用いて乾燥皮膜量が0.1g/mとなるように塗布し、熱風乾燥炉中において到達板温度80℃の条件下で乾燥した。
・塗布型クロメート処理(比較例19、20)
前処理後の供試材の表面(片面)に、塗布型クロメート薬剤であるZM−1300AN(日本パ−カライジング(株)製)を、ロールコーターを用いてCr付着量が40mg/mとなるように塗布し、熱風乾燥炉中において到達板温度80℃の条件下で乾燥した。
【0052】
1.4 下塗り塗料及び上塗り塗料の塗布
1.3で作製した各表面処理板の処理表面上に、下記の2通りの組合せで、プライマー及びトップコートを塗布した。
<上層A>:市販のプライマー塗料(大日本塗料(株)製、Vニット#200)を塗布した(乾燥膜厚5.5μm)後、200℃で焼き付け、ついで、焼付け表面にさらにトップコート塗料(大日本塗料(株)製、Vニット#500)を塗布した(乾燥膜厚17μm)後、220℃で焼き付けて試験板を作製した。
<上層B>:市販のプライマー塗料(日本ペイント(株)製、フレキコート600)を塗布した(乾燥膜厚5.0μm)後、200℃で焼き付け、ついで、焼付け表面にさらにトップコート塗料(日本ペイント(株)製、フレキコート5030)を塗布した(乾燥膜厚15μm)後、225℃で焼き付けて試験板を作製した。
【0053】
2.評価試験
2.1 耐食性
作製した各試験板の塗膜に、カッターで金属素地に達する傷を入れ、JIS−Z2371に規定された塩水噴霧試験を480時間実施した。判定基準はカット部からの塗膜膨れ幅(片側最大値)を測定した。また、端面耐食性は、端面からの塗膜膨れ幅(最大値)を測定した。
<評価基準−カット部>
◎:2mm未満
○:2mm以上6mm未満
△:6mm以上10mm未満
×:10mm以上
<評価基準−端面>
◎:4mm未満
○:4mm以上6mm未満
□:6mm以上8mm未満
△:8mm以上12mm未満
×:12mm以上
【0054】
2.2 折曲げ密着性試験
2.2.1 一次折曲げ密着性試験(塗装一次密着性)
JIS−G3312の試験法に準じて、各試験板について、内側間隔板を2枚とした2T折曲げ試験を20℃で行い、テープ剥離後の塗膜の剥離状態を肉眼で観察し、下記の判定基準に従って塗装密着性の評価を行った。
<評価基準>
◎:剥離なし
○:剥離面積10%未満
□:剥離面積10%以上50%未満
△:剥離面積50%以上80%未満
×:剥離面積80%以上
【0055】
2.2.2 二次折曲げ密着性(塗装二次密着性)
試験板を沸水中に2時間浸漬した後、一日放置し、ついで一次折曲げ密着性試験と同じ試験を行った。判定基準は以下の通りである。
<評価基準>
◎:剥離なし
○:剥離面積10%未満
□:剥離面積10%以上50%未満
△:剥離面積50%以上80%未満
×:剥離面積80%以上
【0056】
2.3 耐コインスクラッチ性
各試験板に対して45°の角度に10円硬貨を設置し、塗膜を3Kgの荷重、一定速度でこすり、塗膜の傷つき度を肉眼で観察し、下記の判定基準に従って耐コインスクラッチ性の評価を行った。なお、以下の評価において、トップコートのみの剥がれによりプライマーが露出した箇所については、下地処理皮膜に起因しない傷付きとして、素地の露出面積には含めなかった。
<評価基準>
◎:素地の露出が0%(プライマーのみが露出した場合も含む)
○:素地の露出が10%未満
□:素地の露出が10%以上50%未満
△:素地の露出が50%以上80%未満
×:素地の露出が80%以上
【0057】
2.4 耐アルカリ性
試験板を5%の水酸化ナトリウム水溶液に室温で24時間浸漬した後、ブリスターの発生数と発生密度の評価を行った。判定基準は以下の通りである。
◎:ブリスターなし
○:1つのブリスターが0.2mm以下でかつ発生密度もFである。
□:1つのブリスターの大きさが0.2mm〜1mm程度でかつ発生密度がFであるか、又は1つのブリスターの大きさが0.2mm〜0.4mm程度でかつ発生密度がMである。
△:1つのブリスターの大きさが1mm〜1.5mm程度でかつ発生密度がFであるか、1つのブリスターの大きさが0.4mm〜1mm程度でかつ発生密度がMであるか、又は1つのブリスターの大きさが0.2mm以下でかつ発生密度がMDである。
×:1つのブリスターの大きさが1.5mm以上であるか、ブリスターの大きさが0.2mm以上で発生密度がMDであるか、又はブリスターの大きさに関わらず発生密度がDである。
なお、上記耐アルカリ性及び下記耐酸性の評価試験において、F、M、MD、Dは以下の意味を表す。F
F:ブリスター発生個数がごく僅かである。
M:ブリスター発生個数が少ない。
MD:ブリスター発生個数が多い。
D:ブリスター発生個数が非常に多い。
【0058】
2.5 耐酸性
試験板を5%の硫酸水溶液に室温で24時間浸漬した後、ブリスターの発生数と発生密度の評価を行った。判定基準は以下の通りである。
◎:ブリスターなし
○:1つのブリスターが0.2mm以下でかつ発生密度もFである。
□:1つのブリスターの大きさが0.2mm〜1mm程度でかつ発生密度がFであるか、又は1つのブリスターの大きさが0.2mm〜0.4mm程度でかつ発生密度がMである。
△:1つのブリスターの大きさが1mm〜1.5mm程度でかつ発生密度がFであるか、1つのブリスターの大きさが0.4mm〜1mm程度でかつ発生密度がMであるか、又は1つのブリスターの大きさが0.2mm以下でかつ発生密度がMDである。
×:1つのブリスターの大きさが1.5mm以上であるか、ブリスターの大きさが0.2mm以上で発生密度がMDであるか、又はブリスターの大きさに関わらず発生密度がDである。
【0059】
2.6 耐湿性
試験板の塗膜に、カッターで金属素地に達する傷を入れ、湿度98%、温度40℃の雰囲気下1000時間放置した。判定基準はカット部からの塗膜膨れ幅(片側最大値)を測定した。
◎:2mm未満
○:2mm以上4mm未満
□:4mm以上6mm未満
△:6mm以上10mm未満
×:10mm以上
【0060】
3.評価結果
上記評価試験の結果を表4〜6に示す。表4及び5の実施例1〜33は、本発明の水系表面処理剤(表1のNo.1〜29)を塗布後乾燥して皮膜を形成させた金属材料の塗装板(試験板)の性能であり、耐食性(カット部及び端面耐食性)、塗装密着性(T折曲げ試験後、一次、二次)、耐コインスクラッチ性の各性能がいずれも良好であり、比較例19、20のクロメート処理の場合と同等もしくはそれ以上の性能を示した。
また、アミノ性官能基を有するシランカップリング剤を使用した場合、エポキシ基を有するシランカップリング剤を使用した場合に比し、耐薬品性(耐アルカリ性及び耐酸性)及び耐湿性が優れていた(実施例2及び5と実施例18及び19との比較)。また、アミノ性官能基を有するシランカップリング剤とエポキシ基を有するシランカップリング剤とを併用した場合、前者のみを使用した場合に比し、特に塗装密着性及び耐コインスクラッチ性が優れていた(実施例6と実施例31〜33との比較)。
【0061】
一方、本発明の範囲外である表3のNo.30及び32(金属酸化物ゾル(B)及び金属化合物(C)不使用)、No.33及び35(シランカップリング剤(A)及び金属酸化物ゾル(B)不使用)、並びにNo.31及び34(金属酸化物ゾル(B)及び水分散性シリカ(D)不使用)の水系表面処理剤を用いた表6の比較例1〜6においては、耐食性(カット部及び端面耐食性)、塗装密着性(T折曲げ試験後、一次、二次)、耐コインスクラッチ性、耐湿性及び耐薬品性(耐アルカリ性及び耐酸性)の少なくとも3つが劣っていた。No.36、37及び44〜47(金属化合物(C)の使用量が本発明外)の水系表面処理剤を用いた比較例7、8及び15〜18においては、耐食性(カット部及び端面耐食性)、塗装密着性(T折曲げ試験後、一次、二次)、耐コインスクラッチ性及び耐薬品性(耐アルカリ性及び耐酸性)の少なくとも2つが劣っていた。また、No.38(水分散性シリカ(D)の使用量が本発明外)の水系表面処理剤を用いた比較例9においては、耐食性(カット部及び端面耐食性)、耐湿性及び耐薬品性(耐アルカリ性及び耐酸性)が劣っていた。また、No.39〜43(金属酸化物ゾル(D)の使用量が本発明外)の水系表面処理剤を用いた比較例10〜14においては、耐食性(カット部及び端面耐食性)及び耐薬品性(耐アルカリ性及び耐酸性)が劣っていた。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
金属酸化物ゾル(B)
ジルコニアゾル:ナノユースZR30AL(日産化学(株)製)
ゾル:Nanotek Y(シーアイ化成(株)製)
CeOゾル:CESL−15N(第一希元素化学工業(株)製)
SnOゾル:第一希元素化学工業(株)製
ZnOゾル:Nanotek ZnO(シーアイ化成(株)製)
Biゾル:Nanotek Bi(シーアイ化成(株)製)
【0066】
金属化合物(C)
W:メタタングステン酸アンモニウム
Mo:モリブデン酸アンモニウム
Al:水酸化アルミニウム
Ce:酸化セリウム
V:バナジルアセチルアセトネート
【0067】
水分散性シリカ(D)
液相シリカ:スノーテックスN(日産化学工業(株)製)
気相シリカ:アエロジル200(日本アエロジル(株)製)
【0068】
【表4】

【0069】
【表5】

【0070】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シランカップリング剤(A)と、金属酸化物ゾル(B)、金属化合物(C)及び水分散性シリカ(D)を含有し、金属化合物(C)がV化合物、W化合物、Mo化合物、Al化合物、Sn化合物、Nb化合物、Hf化合物、Y化合物、Ho化合物、Bi化合物、La化合物、Ce化合物及びZn化合物から選ばれる少なくとも1種であり、成分(A)と成分(B)との割合が(B)/(A)の固形分質量比として1/50〜10/1の範囲であり、成分(A)と成分(C)との割合が(C)/(A)の固形分質量比として1/1000〜4/10の範囲内であり、成分(A)と成分(D)との割合が(D)/(A)の固形分質量比として1/50〜10/1の範囲である環境対応型プレコート金属材料用水系表面処理剤。
【請求項2】
金属酸化物ゾル(B)が酸化ジルコニウムゾル、酸化セリウムゾル、酸化アルミニウムゾル、酸化スズゾル、酸化ニオブゾル、酸化亜鉛ゾル、酸化アンチモンゾル、酸化ビスマスゾル、酸化イットリウムゾル及び酸化ホルミウムゾルから選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の水系表面処理剤。
【請求項3】
シランカップリング剤(A)の少なくとも5質量%がアミノ性官能基を有するシランカップリング剤である請求項1又は2記載の水系表面処理剤。
【請求項4】
シランカップリング剤(A)がアミノ性官能基を含有するシランカップリング剤と隣り合った炭素原子に結合したエポキシ基を有するシランカップリング剤との当量比50:1〜1:50の混合物である請求項1又は2記載の水系表面処理剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水系表面処理剤からの乾燥皮膜であって、0.01〜1g/mの乾燥皮膜を表面に有する金属材料。
【請求項6】
請求項5記載の金属材料の表面に、さらに、クロムを含まない上層皮膜を形成させた環境対応型プレコート鋼板。

【公開番号】特開2008−127638(P2008−127638A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314797(P2006−314797)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】