説明

環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物及びその成形品

【課題】 熱可塑性樹脂成分として、植物由来樹脂を熱可塑性エラストマー組成物中に25質量%以上含ませることにより環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物として、二酸化炭素の増加防止及び化石資源の節約に貢献するとともに、良好な成形加工性、柔軟性、耐油性及び耐熱性を有する環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】(A)アクリルゴムが40〜70質量部、(B)植物由来樹脂が30〜60質量部の合計100質量部に対して(C)オレフィン系グラフト共重合体1〜15質量部である環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、日用品、事務用機器、建築用、電機電子関連の部品の材料として用いられる、良好な成形加工性を有する環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物に関し、特に、植物由来樹脂を25質量%以上含み、柔軟性、耐油性及び耐熱性を有する成形品を製造可能な環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に熱可塑性エラストマーは、石油などの化石資源を原料として製造されているものが多く、化石資源の節約及び環境汚染の観点から、植物由来樹脂を使用した、環境配慮型熱可塑性エラストマーへの注目が年々高まってきている。
【0003】
天然植物由来の原料からつくられた樹脂の場合、植物はもともと地球上の二酸化炭素を吸って成長したものであるため、たとえ廃棄焼却して二酸化炭素を発生しても、地球上での二酸化炭素の収支は変わらないという特徴を有している。従って、植物由来樹脂は、二酸化炭素増加を防止し地球温暖化対策に貢献し、さらに上記の化石資源の節約にも資するものと考えられる。
【0004】
これまで、柔軟性、耐油性及び耐熱性が要求される場合、使用されうる熱可塑性エラストマーの熱可塑性樹脂原料は、石油などの化石資源を用いるものが一般的であった。
【0005】
例えば、ポリプロピレンとアクリル系ゴムと相溶化剤からなる熱可塑性エラストマー組成物が開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、ポリブチレンテレフタレートとアクリル系ゴムと相溶化剤からなる熱可塑性エラストマー組成物が開示されている(特許文献2参照)。
【0007】
また、100質量部の生分解性ポリマー、1〜40質量部(内割表示:0.01〜28.5質量%)のアクリルゴムなどの熱可塑性エラストマー、0.1〜30質量部の無機充填剤からなる組成物が開示されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2004−2743号公報(第20〜23頁)
【特許文献2】特開2007−45885号公報(第12〜15頁)
【特許文献3】特開2008−63577号公報(第9〜13頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1及び特許文献2に記載の熱可塑性樹脂は、それぞれポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレートであり、植物由来樹脂を使用していないので、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物という点を満足していない。さらに、特許文献3の組成物は、生分解性ポリマー(ポリ乳酸)の配合比率が高く、柔軟性に欠け、また耐油性に劣るという問題がある。
【0009】
そこで、本発明の目的とするところは、熱可塑性樹脂成分として、植物由来樹脂を熱可塑性エラストマー組成物中に25質量%以上含ませることにより環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物として、二酸化炭素の増加防止及び化石資源の節約に貢献するとともに、良好な成形加工性、柔軟性、耐油性及び耐熱性を有する環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明における第1の発明の環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含み、かつ植物由来樹脂を25質量%以上含む環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物であって、前記成分(A)はアクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルの少なくとも1種を主成分とし、かつエポキシ基含有単量体を0.5〜15質量%含む単量体混合物を共重合して得られるアクリルゴムが40〜70質量部であり、前記成分(B)は植物由来樹脂が30〜60質量部であり、前記成分(C)はエチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系重合体セグメントと、少なくともアクリル酸アルキルエステルを含むビニル系単量体から形成されるビニル系共重合体セグメントとからなるグラフト共重合体又はその前駆体であって、かつオレフィン系重合体セグメントとビニル系共重合体セグメントとのうちの一方のセグメントがマトリックス相を形成し、他方のセグメントが前記マトリックス相中に分散相を形成する前記グラフト共重合体又はその前駆体が成分(A)及び成分(B)の合計100質量部に対して1〜15質量部である。
【0011】
第2の発明の環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物は、第1の発明の成分(A)、成分(B)及び成分(C)に、成分(D)としてさらに可塑剤を成分(A)100質量部に対して60質量部以下含有することを特徴とするものである。
【0012】
第3の発明の環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物は、第1または第2のいずれかの発明において、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)からなる環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を、成分(A)の100質量部に対して0.05〜5質量部の架橋剤で動的架橋することによって得られることを特徴とする。
【0013】
第4の発明の成形品は、第1〜3のいずれかの発明において、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を成形したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明は、熱可塑性樹脂成分として、植物由来樹脂を熱可塑性エラストマー組成物中に25質量%以上含むことから、二酸化炭素の増加防止及び化石資源の節約に貢献するとともに、成形加工性、柔軟性、耐油性及び耐熱性を有する環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物である。
【0015】
また、第2の発明は、さらに可塑剤を含有することから、第1の発明の効果に加え、成形加工性、柔軟性、耐油性が向上した環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物である。
【0016】
また、第3の発明は、架橋剤を添加し、アクリルゴムを動的架橋することから、第1の発明及び第2の発明に加え、耐油性及び耐熱性が向上した環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物である。
【0017】
また、第4の発明は、第1の発明〜第3の発明の環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を成形して得られる成形品である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0019】
本実施形態の環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物は、良好な成形加工性、柔軟性、耐油性及び耐熱性を有し、植物由来樹脂を熱可塑性エラストマー組成物中に25質量%以上含む組成物である。
【0020】
次に、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物の各成分について順に説明する。
〔成分(A)アクリルゴム〕
アクリルゴムは、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物の成形品に柔軟性(弾力性)、耐熱性及び耐油性を付与する。アクリルゴムは、アクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルの少なくとも1種を主成分として含有する単量体混合物であって、その中にエポキシ基含有単量体が0.5〜15質量%含まれている前記単量体混合物を共重合して得られる。
【0021】
アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−tert−ブチル、アクリル酸−n−ペンチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−n−ヘプチル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル等が挙げられる。優れた柔軟性と耐油性を発揮できるという点で、アルキル基の炭素数が2〜4のアクリル酸アルキルエステルが特に好ましい。
【0022】
アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が2〜4のアクリル酸アルコキシアルキルエステル、例えばアクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸−2−エトキシエチル、アクリル酸−2−ブトキシエチル等が挙げられる。優れた耐油性を発揮できるという点で、アクリル酸−2−メトキシエチルが特に好ましい。これらの単量体は1種又は2種以上が適宜選択して使用される。
【0023】
アクリルゴム中に含まれるアクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルの少なくとも1種の含有量は、85〜99.5質量%であることが好ましい。この含有量が85〜99.5質量%の場合には、柔軟性に優れた成形品を環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物から製造しやすく、アクリルゴムが十分に架橋されやすい。
【0024】
本明細書において、文言「エポキシ基含有単量体」は、分子内にエポキシ基を有するビニル系単量体を意味する。エポキシ基含有単量体として、一般的な全てのエポキシ基含有単量体を使用することができる。その例としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。好ましいエポキシ基含有単量体は、(メタ)アクリル酸グリシジルである。本明細書ではアクリルとメタクリルを(メタ)アクリルと表記する。アクリルゴム中に共重合されるエポキシ基含有単量体の含有量は0.5〜15質量%であり、好ましくは1〜10質量%である。エポキシ基含有単量体の含有量が0.5〜15質量%の場合には、アクリルゴムの架橋が十分にかつ適切に行われやすく、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物から優れた機械的物性を有する成形品を得やすく、良好な成形加工性を有する環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を得やすい。
【0025】
柔軟性、成形加工性、耐油性等の物性を向上させる目的で、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸−2−メトキシエチル、メタクリル酸−2−エトキシエチル等のメタクリル酸アルコキシアルキルエステル;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有単量体;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシル基含有単量体;2−クロロエチルビニルエーテル、モノクロロ酢酸ビニル、アリルクロロアセテート等の活性塩素含有単量体;(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル等のフッ素系(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル;アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のビニルアミド;エチレン、プロピレン、イソブテン等のα−オレフィン類;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン類;二官能性(メタ)アクリレート類、三官能性(メタ)アクリレート類及び酢酸ビニル、塩化ビニル等の共重合性単量体をアクリルゴム中に共重合させることができる。
【0026】
これらの共重合性単量体の共重合量は、アクリルゴム中の共重合性単量体以外の成分の合計量に対して40質量%以下が好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。この共重合量が40質量%以下である場合、柔軟性、耐油性、低温特性、成形加工性等の物性をバランスよく備えたアクリルゴムを得やすい。
【0027】
成分(A)アクリルゴムのガラス転移温度(Tg)は好ましくは−15℃以下、さらに好ましくは−20℃以下である。このTgが−15℃以下のアクリルゴムを用いた場合、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物の脆化温度は過剰に高くならず、実用的な使用に耐える成形品を得やすい。
【0028】
環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物中に含まれる成分(A)アクリルゴムの含有量は、成分(A)と成分(B)の合計100質量部につき、40〜70質量部である。アクリルゴムの含有量が40〜70質量部の場合、柔軟性、圧縮永久歪み及び成形加工性の優れた環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を得やすい
〔成分(B)植物由来樹脂〕
成分(B)の植物由来樹脂は、本発明の環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性を向上させ、その成形品の耐熱性及び耐油性を発揮させる。植物由来樹脂には、セルロース系、澱粉系、乳酸系、琥珀酸系、酪酸系、グリコール酸系等が挙げられる。この中で、乳酸系のポリ乳酸が最も好ましい。
【0029】
環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物中に含まれる成分(B)植物由来樹脂の含有量は、成分(A)と成分(B)の合計100質量部につき、30〜60質量部である。植物由来樹脂の含有量が30〜60質量部の場合、好ましい成形加工性を有する環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を得やすく、柔軟性及び圧縮永久歪みにおいて優れた成形品を得やすい。
〔成分(C)グラフト共重合体又はその前駆体〕
成分(C)グラフト共重合体又はその前駆体は、前記成分(A)アクリルゴムと成分(B)植物由来樹脂との相溶性(親和性)を有し、成分(A)の機能と成分(B)の機能とを十分にかつ、相乗的に発現させる。このグラフト共重合体又はその前駆体により、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性を維持しながら、良好な成形加工性を付与することができる。係るグラフト共重合体は、エチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系重合体セグメントと、少なくともアクリル酸アルキルエステルを含むビニル系単量体から形成されるビニル系共重合体セグメントとからなり、一方のセグメントがマトリックス相を形成し、他方のセグメントが前記マトリックス相中に分散相を形成しているグラフト共重合体又はその前駆体である。
【0030】
オレフィン系重合体セグメントは、エチレン及び極性単量体から形成されるものであり、その具体例としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸−n−ブチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸ジメチルアミノメチル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレンオキサイド付加物、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体又はエチレン−メタクリル酸共重合体の分子間をナトリウム、亜鉛等の金属イオンで分子間結合したアイオノマー等が挙げられる。
【0031】
オレフィン系重合体セグメントにおける極性単量体の割合は、エチレンと極性単量体の合計100質量部に対して5〜50質量部が好ましく、10〜40質量部がより好ましい。極性単量体の割合が5〜50質量部の共重合体は、柔軟性、耐油性、成形加工性に加え、機械的物性に優れた成形品を得やすい。
【0032】
ビニル系共重合体セグメントは、少なくともアクリル酸アルキルエステルを含むビニル系単量体から形成される。ビニル系共重合体セグメントは、成分(A)アクリルゴムと相溶することによって、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性を向上させ、その成形品について機械的物性を向上させることができる。
【0033】
アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−tert−ブチル、アクリル酸−n−ペンチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−n−ヘプチル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル等が挙げられる。これらの中で、耐油性と成分(A)アクリルゴムとの相溶性の点で特に好ましいのは、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル等のアルキル基の炭素数が2〜4のアクリル酸アルキルエステルである。
【0034】
ビニル系共重合体セグメント100質量部中に含まれるアクリル酸アルキルエステルは20質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましい。アクリル酸アルキルエステルが20質量部以上の場合、グラフト共重合体又はその前駆体とアクリルゴムとの相溶性が十分であり、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物の成形品に機械的物性の低下や外観の悪化が起こりにくい。
【0035】
ビニル系共重合体セグメントはアクリル酸アルキルエステル加えて、1種又は2種以上のビニル系単量体を共重合させることができる。共重合可能なビニル系単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、;(メタ)アクリル酸−2−エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有単量体、;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有単量体、;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシル基含有単量体、;スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロルスチレン等の芳香族ビニル化合物;α−メチルスチレン、α−エチルスチレン等のα−置換スチレン;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル等が挙げられる。これらのビニル系単量体はビニル系共重合体セグメント100質量部中に好ましくは80質量部以下共重合させることができ、より好ましくは70質量部以下共重合させることができる。
【0036】
ビニル系共重合体セグメントとなるビニル系共重合体の数平均重合度は、通常5〜10,000、好ましくは10〜5,000、最も好ましくは100〜2,000である。この数平均重合度が5〜10,000であると、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物の成形性は向上し、ビニル系共重合体セグメントが成分(A)アクリルゴムと相溶しやすく、成形品の外観が悪化しにくい。また、ビニル系共重合体セグメントの溶融粘度が低いため、成形加工性の高い環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を得やすい。
【0037】
グラフト共重合体又はその前駆体100質量部中に含まれるオレフィン系重合体セグメントの割合は、通常5〜95質量部、好ましくは20〜90質量部、最も好ましくは30〜85質量部である。従って、ビニル系共重合体セグメントの割合は、通常5〜95質量部、好ましくは10〜80質量部、最も好ましくは15〜70質量部である。オレフィン系重合体セグメントの割合が5〜95質量部の場合には、成形加工性の高い環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を得やすい。
【0038】
前述のように、グラフト共重合体又はその前駆体は、一方のセグメントがマトリックス相を形成し、他方のセグメントが前記マトリックス相中に分散相を形成している多相構造体である。分散相を形成するセグメントはマトリックス相中に平均粒子径0.001〜10μmの微細な粒子として存在する。この平均粒子径が分散相の平均粒子径が0.001〜10μmである場合、成分(C)グラフト共重合体又はその前駆体と成分(A)アクリルゴムとが相溶しやすく、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物の成形品の機械的物性や外観は悪化しにくい。
【0039】
グラフト共重合体を製造する際のグラフト化法は、一般に知られている連鎖移動法、電離性放射線照射法等いずれの方法でもよいが、下記の方法が最も好ましい。その理由は、製造方法が簡便で、グラフト効率が高く、熱によるビニル系重合体セグメントの二次的凝集が起こらず、成分(C)グラフト共重合体を成分(A)アクリルゴムや成分(B)植物由来樹脂と混合しやすくなるためである。
【0040】
以下に、そのようなグラフト共重合体又はその前駆体の製造方法を説明する。水中に懸濁させたエチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系重合体に、少なくともアクリル酸アルキルエステルを有するビニル系単量体を含むビニル系単量体、下記の一般式(1)又は(2)で表されるラジカル重合性有機過酸化物の1種又は2種以上の混合物及びラジカル重合開始剤を含浸させる。その後、ビニル系単量体とラジカル重合性有機過酸化物とをエチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系重合体中で共重合させて、グラフト化前駆体を得る。グラフト共重合体は、このグラフト化前駆体を溶融混練することにより得ることができる。
【0041】
グラフト化前駆体は、エチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系重合体の各粒子中に、少なくともアクリル酸アルキルエステルを有するビニル系単量体を含むビニル系単量体とラジカル重合性有機化酸化物との共重合体が分散した構造体である。グラフト化前駆体は、その中に分散されているビニル系単量体とラジカル重合性有機過酸化物の共重合体が、活性酸素として0.003〜0.73質量%を含有していることが好ましい。活性酸素量が0.003〜0.73質量%の場合、グラフト化前駆体のグラフト化能が適切であり、グラフト化の際にゲルが生じにくい。この場合の活性酸素量は、グラフト化前駆体から溶剤抽出によりビニル系共重合体を抽出し、このビニル系共重合体の活性酸素量をヨードメトリー法により求めることができる。
【0042】
本明細書において、文言「ラジカル重合性有機過酸化物」は、エチレン性不飽和基と過酸化結合基とを有する単量体である。下記一般式(1)又は(2)で示される化合物はラジカル重合性有機過酸化物として好ましい。
【0043】
【化1】

【0044】
(式中、Rは水素原子又は炭素数1又は2のアルキル基、Rは水素原子又はメチル基、R及びRはそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を示す。mは1又は2である。)
【0045】
【化2】

【0046】
(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、Rは水素原子又はメチル基、R及びRはそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、R10は炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を示す。nは0、1又は2である。)
一般式(1)で表されるラジカル重合性有機過酸化物としては、例えばtert−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、tert−アミルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ヘキシルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、tert−アミルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ヘキシルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート等が挙げられる。
【0047】
一般式(2)で表されるラジカル重合性有機過酸化物としては、例えばtert−ブチルペルオキシアリルカーボネート、tert−アミルペルオキシアリルカーボネート、tert−ヘキシルペルオキシアリルカーボネート、tert−ブチルペルオキシメタリルカーボネート、tert−アミルペルオキシメタリルカーボネート、tert−ヘキシルペルオキシメタリルカーボネート等が挙げられる。好ましいラジカル重合性有機過酸化物は、tert−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、tert−ブチルペルオキシアリルカーボネート又はtert−ブチルペルオキシメタリルカーボネートである。
【0048】
成分(C)グラフト共重合体は、グラフト化前駆体を溶融混練することにより得ることができる。溶融混練中の加熱により、ビニル系共重合体中の過酸化結合が開裂し、生成したラジカルがオレフィン系重合体に対して水素引き抜き反応を行い、それに引き続くグラフト化反応によりグラフト共重合体が製造される。溶融混練する際の混練機としては、具体的には、バンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー、加圧ニーダー、単軸押出機、二軸押出機、ロール等が使用される。混練温度は通常100〜300℃、好ましくは120〜280℃の範囲である。混練温度が100〜300℃の場合、グラフト化前駆体は完全に溶融され、低い溶融粘度で十分に混合されるため、グラフト共重合体の相分離や層状剥離を防止することができ、グラフト化時の分解やゲル化も防止できる。
【0049】
このようにして得られる成分(C)グラフト共重合体又はその前駆体は、そのオレフィン系重合体セグメントが成分(B)植物由来樹脂に配向し(相溶性を示し)、ビニル系重合体セグメントが成分(A)アクリルゴムに配向する(相溶性を有する)ものと考えられる。そして、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物中において、成分(A)と成分(B)とが成分(C)によって相溶化され、成分(A)及び成分(B)の機能が相乗的に発現されるものと推測される。
【0050】
環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物中に含まれる成分(C)グラフト共重合体又はその前駆体の割合は、成分(A)アクリルゴムと成分(B)植物由来樹脂の合計100質量部に対し1〜15質量部である。グラフト共重合体又はその前駆体の割合が1〜15質量部の場合、成形加工性は十分に改良され、耐油性の優れた成形品を得ることができる。
〔成分(D)可塑剤〕
環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物には可塑剤を含ませることができる。可塑剤としては、フタル酸系、アジピン酸系、アゼライン酸系、セバシン酸系、リン酸系、トリメリット酸系、ピロメリット酸系、エポキシ系、ポリエステル系又はポリエーテルエステル系或いはそれらの混合物を可塑剤として含ませることができる。可塑剤を含ませることによる具体的な利点は、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性、柔軟性、耐油性及び耐寒性が向上する点にある。好ましい可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソノニルフタレート等のフタル酸系、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート等のアジピン酸系、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート等のアゼライン酸系、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のセバシン酸系、トリブチルホスフェート、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート等のリン酸系が挙げられる。この中で特に好ましいのは、ジヘプチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソノニルフタレート等のフタル酸系、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート等のアジピン酸系が挙げられる。これらの可塑剤は、1種又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0051】
可塑剤の配合量は、成形品の機械的強度の点から、成分(A)アクリルゴム100質量部に対して60質量部以下であることが好ましい。可塑剤の配合量が60質量部を越える場合、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形品の機械的強度の低下が大きくなる傾向にある。
〔架橋剤〕
環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を得るために使用する架橋剤は、アクリルゴムのエポキシ基と共有結合することによりアクリルゴムを架橋する。係る架橋剤としては、エポキシ基と反応する官能基を有するものであれば使用可能である。例えば、ポリアミン、ポリオール、ポリカルボン酸、酸無水物、有機カルボン酸アンモニウム塩、ジチオカルバミン酸塩、ブロックカルボン酸、イソシアヌル酸、フェノール樹脂等を挙げることができ、この中で特に好ましいのはポリカルボン酸、酸無水物、フェノール樹脂である。
【0052】
ポリカルボン酸の具体例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、ドデセニルコハク酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、シクロペンタントリカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸、フタル酸、トリメット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等が挙げられる。酸無水物の具体例としては、これらのポリカルボン酸の酸無水物が挙げられる。
【0053】
架橋剤の使用量は、選択する架橋剤の種類によって異なるが、一般的に成分(A)アクリルゴム100質量部に対して0.05〜5質量部の範囲で決められる。架橋剤量が0.05〜5質量部の場合、架橋が過剰でなくかつ十分に行われて、機械的強度や耐油性に優れた成形品が得やすく、良好な成形加工性を有する環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を得やすい。
〔添加剤〕
環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物には、上記の成分以外に種々の添加剤を適する量で含ませることができる。そのような添加剤として例えば、フェノール系、アミン系等の酸化防止剤、ヒンダードアミンのような紫外線安定剤、結晶核剤、充填剤、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ワックス類、アクリル系高分子、目ヤニ防止剤、張力向上剤、低分子量ポリエチレン類、発泡剤、粘着防止剤、粘着付与剤、二酸化チタンのような着色剤及び顔料等の加工助剤が挙げられる。添加剤の配合量は、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対してそれぞれ10質量部以下であることが好ましい。
【0054】
また、カーボンブラック、ホワイトカーボン、クレー、マイカ、炭酸カルシウム、タルク、シリカ等に代表される充填剤が挙げられる。充填剤の表面は、ステアリン酸、オレイン酸、パルチミン酸またはそれらの金属塩、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはそれらの変性物、有機シラン、有機ボラン、有機チタネート等を使用して表面処理を施すことが好ましい。水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等に代表される無機難燃剤、ハロゲン系及びリン系に代表される有機難燃剤等の難燃剤が挙げられる。充填剤、難燃剤の配合量は、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対して70質量部以下であることが好ましい。
〔その他配合材料〕
環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物には、上記の成分以外に種々の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、架橋ゴムを適する量で含ませることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体等のオレフィン系樹脂;ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリウレタン;ポリ塩化ビニル;ポリアミド6、66、11、12等のポリアミド系樹脂;ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレン等のポリアセタール系樹脂;ポリフェニレンエーテル;ポリ塩化ビニリデン;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等を挙げることができる。
【0055】
熱可塑性エラストマーとしては、ポリプロピレンとエチレン−プロピレン−ジエンゴム等とのブレンド、又はゴム成分の部分又は完全架橋物等のオレフィン系熱可塑性エラストマー;スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、及びこれらの水素添加物等のスチレン系熱可塑性エラストマー;ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー;結晶性ポリエステルと非晶性ポリエステルのブロック共重合体等のポリエステル系熱可塑性エラストマー;ポリアミドとポリエステル又はポリオールをソフトセグメントとしたブロック共重合体等のポリアミド系熱可塑性エラストマー;ポリエステル又はポリエーテルとイソシアナートとの反応により得られる共重合体等のポリウレタン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0056】
架橋ゴムとしては、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム及びその水素添加物、塩素化ポリエチレン、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等を挙げることができる。
〔環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物〕
環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物は、前記各成分よりなる組成物について溶融混練を行うことによって製造される。溶融混練を行う装置としては、バンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー、加圧ニーダー、単軸押出機、二軸押出機、ロール等を使用することができる。また架橋剤の添加による動的架橋は、成分(A)アクリルゴム、成分(B)植物由来樹脂、成分(C)グラフト共重合体又はその前駆体及び成分(D)可塑剤を植物由来樹脂の融点より高い温度で溶融混練し、混練中に高剪断の下でアクリルゴムのエポキシ基を架橋することを意味する。通常、こうして動的に架橋されたアクリルゴムは、植物由来樹脂のマトリックス相に微分散される。このような相構造を形成することにより、アクリルゴムが架橋されているにも関わらず、エラストマー組成物は熱可塑性を有する。従って、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物は、押出成形法、射出成形法、ブロー成形法、圧縮成形法等のような従来の熱可塑性樹脂の成形方法(加工技術)及び成形装置により加工及び再加工することができる。
【0057】
環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を製造する際には、グラフト共重合体ではなく、そのグラフト化前駆体を材料として使用することもできる。なぜならば、グラフト化前駆体は環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を製造する過程の溶融混練によってグラフト化反応を起こし、グラフト共重合体となるからである。つまり、グラフト化前駆体を使用することによって、グラフト化反応工程と動的架橋工程を同時に行うことができる。このようにグラフト化前駆体を使用して熱可塑性エラストマー組成物を製造する方法は、製造工程の簡略化という面から好ましい。
【0058】
前記架橋反応は溶融混練中に架橋剤を添加することによって進行する。架橋剤は、成分(A)アクリルゴム、成分(B)植物由来樹脂、成分(C)グラフト共重合体又はその前駆体及び成分(D)可塑剤とともに混練機へ同時に投入して動的架橋を行うことができる。多くの場合、アクリルゴム、植物由来樹脂、グラフト共重合体又はその前駆体及び可塑剤を混練機に投入し、十分に溶融、混練を行った後に架橋剤を投入して動的架橋を行う方が有効である。但し、反応速度の遅い架橋剤又は遅効性架橋剤を使用するような場合には、アクリルゴム、植物由来樹脂、グラフト共重合体が十分に溶融、混練される前に架橋剤を添加することができる。架橋剤を添加して架橋反応が開始されると、組成物の粘度が上昇し、粘度が一定となったときが架橋反応の完了である。一定値となるまでの粘度の変化は様々であるが、例えば粘度の最大値を迎えた後に下降して一定値になる場合、上昇し続けて一定値になる場合等がある。
【0059】
一般的に、種々の添加剤は、架橋剤を添加する前に組成物中に十分に混合(ブレンド)されていることが好ましい。それは、架橋反応の途中や反応が終了した後に種々の添加剤を添加すると、添加剤が組成物中に分散されにくいからである。従って、種々の添加剤は混練の最初又は途中から添加し、組成物中に十分に混合された後に架橋剤を添加する方法が好ましい。
【0060】
溶融、混合及び動的架橋を行う温度としては、植物由来樹脂の融点からアクリルゴムの分解開始温度に相当する100〜350℃の範囲が適当である。この温度はより好ましくは130〜300℃であり、特に好ましくは150〜250℃である。
【0061】
好ましい実施形態によれば以下の利点が得られる。
【0062】
実施形態の環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)のアクリルゴム、成分(B)の植物由来樹脂及び成分(C)のグラフト共重合体又はその前駆体からなる組成物を、溶融混練することによって得られるものである。この環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物は、成分(B)植物由来樹脂中に成分(A)のアクリルゴムが分散され、成分(C)グラフト共重合体又はその前駆体が、成分(A)と成分(B)の双方の成分に相溶性を有するように存在している。そのため成分(A)及び成分(B)の機能が十分に、かつ相乗的に発現される。したがって、良好な成形加工性を発揮することができるとともに、得られる成形品が柔軟性に富み、耐熱性、耐油性を発揮することができる。
【0063】
また、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物は、植物由来樹脂を熱可塑性エラストマー組成物中に25質量%以上含むことから、二酸化炭素の増加防止及び化石資源の節約に貢献できる。
【0064】
さらに、可塑剤及び架橋剤を添加した環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物は、良好な成形加工性を有し、その環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物から良好な柔軟性及び耐油性を有する成形品を製造することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。各実施例及び比較例で使用した材料の合成例を以下に示す。
〔合成例1、アクリルゴム(A−1)の製造〕
攪拌機、温度計、冷却器、滴下装置、窒素ガス導入管のついたフラスコにイオン交換水1000g、ドデシル硫酸ナトリウム10g、亜硫酸水素ナトリウム0.5g、硫酸第一鉄0.005g、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.01を仕込んだ後、窒素ガスを吹き込みながら撹拌下に30℃まで昇温させた。その後、重合開始剤として過硫酸アンモニウム5gを添加し、そこへ、単量体混合物(アクリル酸エチル250g、アクリル酸−n−ブチル230g、メタクリル酸グリシジル(GMA)20g)500gを3時間かけて滴下した後、さらに3時間重合を行うことにより乳化液を得た。次に、この乳化液を0.5質量%塩化カルシウム水溶液に1時間かけて滴下することにより塩析を行った。そして十分に水洗した後、80℃で乾燥して、GMAを4質量部含むアクリルゴム(A−1)を得た。このアクリルゴム(A−1)のTgは−27℃であった。
〔合成例2、アクリルゴム(A−2)の製造〕
単量体混合物の組成を、アクリル酸エチル250g、アクリル酸−n−ブチル100g、アクリル酸−2−メトキシエチル130g、GMA20gに変更した以外は合成例1と同様にして、GMAを4質量部含むアクリルゴム(A−2)を製造した。このアクリルゴム(A−2)のTgは−25℃であった。
〔合成例3、アクリルゴム(A−3)の製造〕
単量体混合物の組成を、アクリル酸エチル268.5g、アクリル酸−n−ブチル100g、アクリル酸−2−メトキシエチル130g、GMA1.5gに変更した以外は合成例1と同様にして、GMAを0.3質量部含むアクリルゴム(A−3)を製造した。このアクリルゴム(A−3)のTgは−28℃であった。
〔合成例4、アクリルゴム(A−4)の製造〕
単量体混合物の組成を、アクリル酸エチル190g、アクリル酸−n−ブチル100g、アクリル酸−2−メトキシエチル130g、GMA80gに変更した以外は合成例1と同様にして、GMAを16質量部含むアクリルゴム(A−4)を製造した。このアクリルゴム(A−4)のTgは−21℃であった。
〔合成例5、グラフト化前駆体(C−1)製造〕
容積5リットルのステンレス製オートクレーブに、純水2000g、懸濁剤としてポリビニルアルコール2.5gを溶解させた。この中にエチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体(LOTADER8840、メタクリル酸グリシジル8質量部、ARKEMA(株)製)700gを入れ、攪拌、分散させた。そこへ重合開始剤として、ベンゾイルペルオキシド(日油(株)製、ナイパーBW)2g、tert−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート6g、ビニル系単量体混合物(アクリル酸−n−ブチル150g、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル150g)300gからなる混合単量体を前記オートクレーブ中に投入した。次いで、オートクレーブを60〜65℃に昇温し、2時間攪拌することにより、重合開始剤、ラジカル重合性有機過酸化物及びビニル系単量体をエチレン−アクリル酸エチル共重合体中に含浸させた。次いで、80〜85℃に昇温し、その温度で6時間維持して重合を完結させた後、水洗、乾燥してグラフト化前駆体(c−1)を得た。このグラフト化前駆体(c−1)を走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製)により観察したところ、平均粒子径0.3〜0.5μmの真球状樹脂が均一に分散した多層構造体であった。
〔合成例6、(グラフト化共重合体(C−2)の製造)
オレフィン系重合体をエチレン−アクリル酸エチル共重合体(NUC6570、アクリル酸エチル25質量部、日本ユニカー(株)製)に変更し、ビニル系単量体混合物の組成を、アクリル酸−n−ブチル150g、メタクリル酸グリシジル100g及びスチレン50gに変更した以外は合成例5と同様にして、グラフト化前駆体(c−2)を得た。このグラフト化前駆体(c−2)は、平均粒子径0.3〜0.5μmの真球状樹脂が均一に分散した多層構造体であった。得たグラフト化前駆体(c−2)をラボプラストミル一軸押出機((株)東洋精機製作所)により180℃、回転数100rpmにて押出し、グラフト化反応をさせることによりグラフト共重合体(C−2)を得た。
【0066】
その他の材料として、以下に記載する市販品を使用した。
【0067】
植物由来樹脂:REVODE 101(ポリ乳酸、大神薬化(株))
可塑剤:DINP(大八化学工業(株)製)、BXA(大八化学工業(株)製)
酸化防止剤:イルガノックス1010(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)
架橋剤:リカシッドBT−W(ブタンテトラカルボン酸、新日本理化(株)製)
〔環境配慮型熱可塑性エラストマーの評価〕
次に、環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物の評価方法を以下に記載する。試験片は環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を射出成形(射出温度:200℃ 金型温度:110℃ 冷却時間:1min)によって厚さ2mmのシート状に成形し、各種評価に供した。各種試験方法及び条件を以下に記載する。なお、常態物性は、常温、常圧における物性を意味する。
(引張試験)
JIS K 6301に準拠し、試験速度500mm/minにて引張強度(MPa)、100%応力(MPa)及び伸び(%)を測定した。
(硬さ)
JIS K 6301に準拠し、スプリング硬さ試験機A形によって硬さを測定した。
(耐油性)
JIS K 6301に準拠し、ASTM IRM903 oilに70℃、70時間浸漬した後の質量変化率(%)を測定した。
(バイオマスプラスチック度)
熱可塑性エラストマー中に含まれる植物由来樹脂量(バイオマスプラスチック度(%):植物由来樹脂質量/熱可塑性エラストマー質量×100)で示した。
(実施例1)
アクリルゴムA−1を60質量部、REVODE 101を40質量部、グラフト化前駆体C−1を5質量部、DINPを20質量部及びイルガノックス1010を0.5質量部の割合で200℃に加熱したニーダールーダー(モリヤマ(株)社製)に投入した。そして、回転数100rpmにて溶融混練を行った。全ての材料が溶融し、均一に混合されることによってトルクが一定値を示すまで混練した。トルクが一定になったところで、架橋剤としてリカシッドBT−Wを0.5質量部を投入し、混練を続けた。架橋剤を投入した直後からトルクが上昇する様子が観察され、トルクが一定値となったところで混練を終了した。得られた環境配慮型熱可塑性エラストマーを射出成形し、各種評価を実施し、それらの結果を表に示した。
(実施例2及び比較例1、2)
実施例2ではアクリルゴムA−1の代わりに、アクリルゴムA−2を、グラフト化前駆体C−1の代わりに、グラフト化共重合体C−2を、DINPの代わりに、BXAを使用する以外は実施例と1と同様に評価した。比較例1ではアクリルゴムA−1の代わりに、アクリルゴムA−3及び比較例2ではアクリルゴムA−1の代わりに、アクリルゴムA−4を使用し、それ以外は実施例1と同様にして環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして前記各種評価を実施し、それらの結果を表に示した。
【0068】
表に示したように、実施例2では引張強度、100%応力、伸び、硬さ及び耐油性について実施例1に近い結果が得られた。一方、アクリルゴム中のGMA量が本発明の範囲外の少量である比較例1では、シート状成形品の引張強度が劣るとともに、成形品の外観も不良であった。比較例2では、アクリルゴム中のGMA量が本発明の範囲外の過剰量であるため、流動性が悪く、成形性が不良でシートがひび割れており、各種評価を行うことができなかった。
(実施例3、4、5)
実施例3ではアクリルゴムA−1を70質量部、REVODE 101を30質量部、グラフト化前駆体C−1を2質量部、BXAを10質量部及びイルガノックス1010を0.5質量部、リカシッドBT−Wを1質量部とし、実施例4ではアクリルゴムA−2を40質量部、REVODE 101を60質量部、グラフト化共重合体C−2を10質量部、DINPを20質量部及びイルガノックス1010を0.5質量部、リカシッドBT−Wを0.3質量部とし、実施例5では、実施例1のDINPを添加しない、それ以外は実施例1と同様にして環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして前記各種評価を実施し、それらの結果を表に示した。
【0069】
表に示したように、実施例3、4では引張強度、100%応力、伸び、硬さ及び耐油性について良好な結果が得られた。実施例1,2と比較すると、それぞれ低硬度化、高硬度化材料が提供されている。また実施例5では可塑剤を添加していないため、実施例1と比較すると、高硬度な材料となり、耐油性も若干低下している。
(比較例3、4)
比較例3ではアクリルゴムA−1を90質量部、REVODE 101を10質量部、グラフト化前駆体C−1を5質量部、BXAを10質量部及びイルガノックス1010を0.5質量部、リカシッドBT−Wを2質量部とし、比較例4ではアクリルゴムA−1を60質量部、REVODE 101を40質量部、DINPを30質量部及びイルガノックス1010を0.5質量部、リカシッドBT−Wを0.3質量部とし、それ以外は実施例1と同様にして環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を調製した。そして実施例1と同様にして前記各種評価を実施し、それらの結果を表に示した。
【0070】
表に示したように、比較例3の場合には、アクリルゴムの配合量が過剰であるため、流動性が悪く、成形性が不良でシートがひび割れており、各種評価を行うことができなかった。比較例4では、グラフト化共重合体又はグラフト化前駆体を添加しなかっため、アクリルゴムとポリ乳酸が相溶化されず、常態物性が大幅に低下した。
【0071】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含み、かつ植物由来樹脂を25質量%以上含む環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物であって、前記成分(A)はアクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルコキシアルキルエステルの少なくとも1種を主成分とし、かつエポキシ基含有単量体を0.5〜15質量%含む単量体混合物を共重合して得られるアクリルゴムが40〜70質量部であり、前記成分(B)は植物由来樹脂が30〜60質量部であり、前記成分(C)はエチレン及び極性単量体から形成されるオレフィン系重合体セグメントと、少なくともアクリル酸アルキルエステルを含むビニル系単量体から形成されるビニル系共重合体セグメントとからなるグラフト共重合体又はその前駆体であって、かつオレフィン系重合体セグメントとビニル系共重合体セグメントとのうちの一方のセグメントがマトリックス相を形成し、他方のセグメントが前記マトリックス相中に分散相を形成する前記グラフト共重合体又はその前駆体が成分(A)及び成分(B)の合計100質量部に対して1〜15質量部である前記環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記に示す成分(A)、成分(B)及び成分(C)に、成分(D)としてさらに可塑剤を成分(A)100質量部に対して60質量部以下含有することを特徴とする請求項1に記載の環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記に示す成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)からなる環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を、成分(A)の100質量部に対して0.05〜5質量部の架橋剤で動的架橋することによって得られる請求項1または2のいずれかに記載の環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の環境配慮型熱可塑性エラストマー組成物を成形して得られる成形品。

【公開番号】特開2010−254729(P2010−254729A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102690(P2009−102690)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】