説明

環形蛍光ランプおよび照明器具

【課題】
環形バルブ両端部における被膜の膜厚差などに起因する不具合を低減した環形蛍光ランプおよびこれを備えた照明器具を提供する。
【解決手段】
環形蛍光ランプは、内部が気密になっている環形バルブ1と、少なくとも蛍光体層2bを含み、環形バルブの内面に被着して管軸方向の中央部近傍に最薄部Minがある膜厚分布を有している被膜2と、環形バルブの両端内部に配置された一対の電極3と、環形バルブの内部に封入されたイオン化媒体とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環形バルブの内面に形成される被膜を改良した環形蛍光ランプおよびこれを備えた照明器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の環形蛍光ランプは、直管状のガラス素管の内面に保護膜と蛍光体層とを順次形成し、両端をステムにより閉塞して形成した直管状のバルブを加熱して軟化状態のときに環形に成形している(例えば、特許文献1参照。)。この場合、蛍光体層などの被膜は、両端が開放された直管状のガラス素管の一端から被膜材料の塗布液を内部に導入し、他端から余剰の塗布液を排出させてから、ガラス素管をほぼ垂直に保持して乾燥させ、次に焼成することによって形成される。したがって、被膜は、ガラス素管が直管のときに形成される。
【0003】
【特許文献1】特開平11−162351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の環形蛍光ランプでは、形成された被膜の塗り始め側のバルブ端部と塗り終わり側のバルブ端部との間の膜厚差が大きくなったり、蛍光体の混合比が異なったりしてしまう。このため、以下に示す不具合を生じる。
(1)蛍光ランプとして十分な光量を得ようとする場合、被膜の最薄部を基準にして膜厚を決定するため、膜厚差が大きいと、最厚部では膜厚が大きすぎてしまい、その結果被膜材料の使用量が必要以上に多くなってしまう。
(2)最薄部は、電極付近であるため、黒化が発生した場合、黒化が外観に顕著に現れる。
(3)直管状の素管の内面に被膜を形成してからバルブを環形に成形する場合、管軸の膜厚分布としての膜厚差が大きいと、被膜の亀裂、剥がれ発生の誘因となる。
(4)3波長蛍光体を使用する場合、赤、緑、青の3種類の波長域で発光する蛍光体を配合し、目的とする光を得る。これら3種の蛍光体は、それぞれ蛍光体の粒子径および比重が異なるため、沈降速度が異なる。一般的には緑>赤>青の順番で比重が小さい傾向があり、緑と赤の比重はほぼ同等であるが、青の比重はその他の蛍光体に比べ約20%程度軽い。上述した従来の塗布方法では、上端部は比重の軽い青が、また下端部は緑および赤がそれぞれ分布しやすくなる。したがって、管端部間に色差を生じ、この状態で曲げ加工を行い環形へ整形した場合、両管端部の距離が接近するため、色差が顕著に現れる。
【0005】
本発明は、環形バルブの両端部における被膜の膜厚差を小さくして上述の不具合を低減した環形蛍光ランプおよびこれを備えた照明器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の環形蛍光ランプは、内部が気密になっている環形バルブと;少なくとも蛍光体層を含み、環形バルブの内面に被着して管軸方向の中央部近傍に最薄部がある膜厚分布を有している被膜と;環形バルブの両端内部に配置された一対の電極と;環形バルブの内部に封入されたイオン化媒体と;を具備していることを特徴としている。
【0007】
本発明は以下の態様を許容する。
【0008】
環形バルブは、一部が欠如した円環形状であり、両端部の間に環の欠如部が形成されている。したがって、両端部は、欠如部を挟んで接近した状態で対向している。なお、環形バルブは、材質、管径および管長について特段限定されない。しかし、環形バルブの材質は、好ましくは加工性が良好な軟質ガラスである。管径および管長は、環形蛍光ランプの種類および定格などにより多様であることが許容される。
【0009】
被膜は、少なくとも蛍光体層を含み、所望により保護膜などが付加される。このため、蛍光体層のみの構成や蛍光体層および保護膜からなる構成が主な被膜の具体的な構成である。
【0010】
蛍光体層は、蛍光ランプの発光層であり、層中の蛍光体がイオン化媒体の放電により発生した紫外線により励起されて可視光を放射する。本発明において、蛍光体層を形成する蛍光体は、その組成および粒径などの具体的構成態様について特段限定されない。しかし、好ましくは3波長発光形蛍光体である。
【0011】
保護膜は、環形バルブ内面と蛍光体層との間に介在する。そして、例えば環形バルブのガラス中に含まれるナトリウムと環形バルブ内に封入された水銀との反応によって黒褐色の水銀アマルガムが形成され、それが環形バルブの内面に付着して光束維持率が低下するのを抑制する。保護膜の主成分は、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛および酸化チタンなどの金属酸化物から選択された微粒子が主成分であり、結着材として若干量の低融点物質のホウ酸を含有することができる。
【0012】
被膜は、本発明の特徴的構成部分であり、環形バルブの管軸方向における中央部近傍に最薄部のある膜厚分布を有している。この膜厚分布は、次の要領で形成することができる。すなわち、内部に被膜塗布液を滞留可能に素管を予め曲成した曲成管を形成して、この曲成管内に被膜塗布液を注入し、内部に充填してから、曲成管の向きを転置させて曲成管の両端部から余剰の塗布液を排出させ、曲成管の内面に付着した被膜塗布液を乾燥、焼成することにより、管軸方向の中央部近傍に最薄部のある膜厚分布を有している被膜を形成する。次に、これを工程順に詳述する。
【0013】
(1)被膜を形成する前の段階において、環形バルブを形成する前の素管を内部に被膜塗布液を滞留可能なように曲成して曲成管を形成する。この曲成管は例えば環形をなし、被膜塗布液を充填する位置においては両端部が最上部となり、中央部近傍が最下部となり、上記最下部と両端部との間が凹みを形成することなく連続している。また、曲成管は、所定の長さを有する素管を曲成しているので、両端が開放しているとともにほぼ左右対称形状をなしている。
【0014】
(2)被膜塗布液を充填する位置に曲成管を置き、曲成管の内部に被膜塗布液を注入して内部に充填してから、曲成管の向きをほぼ180°反転させて転置する。これにより、曲成管の両端部から余剰の塗布液が同時にほぼ等量排出され、その結果曲成管の内面には被膜塗布液が付着する。
【0015】
(3)曲成管内面に付着した塗布液を常法により乾燥させ、かつ焼成して管内面に被膜を形成する。
【0016】
そうして、曲成管が環形をなしている場合、その両端に例えば電極を備えたステムを封着して、両端部を気密に封鎖すれば、環形バルブが形成される。この環形バルブは、その両管端部における被膜の膜厚がほぼ均等であるとともに、最薄部の膜厚と両管端部のそれとの膜厚差が、従来の直管状の素管の一端から被膜塗布液を導入し、他端から余剰の塗布液を排出して被膜を形成した場合に比較して約半分になる。なお、被膜の膜厚は、中央部近傍の最薄部から両管端部まで順次大きくなっている。
【0017】
上記曲成管の形態としては、環形以外にも多様であることが許容される。一例を示せば、次のとおりである。すなわち、管の両端側に円弧状をなした曲成部を形成し、両端部をその曲成部の両端から直管状に延在させた形態である。なお、この形態の場合、円弧のなす角度が約180°以下において、環形の中央部を左右方向へ展開した形状であり、両円弧の連結部は直線状ないし両端部とは反対の方向へ緩く湾曲した凸状をなしているのがよい。
【0018】
他の一例としては、中間部が円弧状をなし、両端部が直管状をなしている。上記円弧状の部分が半円弧状であれば、両端部は平行に延在する。
【0019】
上記の形態は、そのいずれも両端部を閉鎖したときには、曲成管がまだ環形をなしていないが、被膜形成工程において両端部を下に向ければ、内部に充填した被膜塗布液を両端から排出させることができる。また、上記形態の場合、曲成管の両端部間の距離を大きく設定することができるので、曲成管の両端部に電極を配設して、これらを閉鎖するのが容易になる。なお、曲成管が上述のように非環形である場合には、両端部を閉鎖してから曲成管を軟化点まで再加熱して環形に整形すれば、環形に形成することができる。この場合、整形時の湾曲の程度は、従来の直管状の素間を環形に曲成する場合と比較して著しく少なくなるので、上記整形により被膜がクラックや剥がれ発生の確率は著しく小さくなる。
【0020】
そうして、本発明によれば、被膜が管軸方向の中央部近傍に最薄部のある膜厚分布を有していることにより、管端部間の膜厚差が小さくなり、(膜厚差)/(最大膜厚)=Tとしたとき、T≦20%の条件を満足して管端色差が目視で目立たなくなった。なお、前述の従来技術ではT≦20%の条件を満足することができなかった。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、少なくとも蛍光体層を含む被膜が環形バルブの内面に被着して管軸方向の中央部近傍に最薄部がある膜厚分布を有していることにより、環形バルブの両管端部における被膜の膜厚がほぼ均等になるとともに、中央部近傍の最薄部と両管端部の最厚部との膜厚差が小さくなる。また、両管端部に形成される蛍光体層の蛍光体分布がほぼ均等になる。その結果、得られた環形蛍光ランプは、その管端色差が小さくなる。また、所要の光量を得るため、最薄部を基準にして膜厚を決定すれば、管軸方向の膜厚差が小さくなるので、被膜材料の無駄が少なくなり使用量を少なくすることができる。さらに、両管端部の膜厚が大きくなるため、黒化が発生した場合であってもそれが外観に顕著に現れにくくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態を説明する。
【0023】
図1ないし図3は、本発明の環形蛍光ランプを実施するための第1の形態を示し、図1は環形蛍光ランプの要部断面正面図、図2は被膜形成工程における曲成管の位置を示す正面図、図3は管軸方向における被膜の膜厚分布を比較例のそれとともに概念的に示しているグラフである。
【0024】
第1の形態において、環形蛍光ランプは、環形バルブ1、被膜2、一対の電極3、3、イオン化媒体および口金4を具備している。
【0025】
環形バルブ1は、環状に湾曲したソーダライムガラス管からなり、曲成管1aの両端にステム1cを封着することにより閉鎖され、内部が気密になっている。また、環形バルブ1は、その両管端部1b、1bの間において環が一部欠如していて、内部に細長い放電空間が形成されている。
【0026】
被膜2は、保護膜2aおよび蛍光体層2bにより構成されており、環形バルブ1の内面側に被着されている。保護膜2aは、αアルミナを主体として構成されていて、環形バルブ1の内面に直接付着して形成されている。蛍光体層2bは、3波長発光形蛍光体を主体として構成されていて、保護膜2aの内表面に形成されている。
【0027】
また、被膜2は、その管軸方向に沿った膜厚分布が図3に示すように、環形バルブ1の管軸方向の中央部近傍に最薄部Minがあり、両管端部1b、1bに最厚部Maxがあり、最薄部aと最厚部bとの間の膜厚が順次変化している。なお、図3は、横軸が環形バルブ1の管軸方向の相対距離(%)、縦軸が相対膜厚(%)、また曲線Aが本発明の膜厚分布、曲線Bが比較例の膜厚分布をそれぞれ示している。
【0028】
図3から理解できるように、本発明においては、被膜2の環形バルブ1の両管端部1b、1bにおけるそれぞれの膜厚が均等であり、しかも最薄部Minと最厚部Maxとの間の膜厚差が比較例のそれの1/2と小さい。これに対して、比較例においては、一方の管端部における膜厚が最薄部Min´で、他方の管端部における膜厚が最厚部Max´であり、しかも最薄部Min´と最厚部Max´との間の膜厚差が本形態におけるそれの2倍と大きい。なお、比較例は、従来方法により被膜が形成された以外は本形態と同様な仕様である。本発明においては、上記に加えて蛍光体層2bの蛍光体粒子の分布が均質になる。
【0029】
電極3は、前記ステム1aに予め支持されているので、ステム1aの環形バルブ1への封着により環形バルブ1の両管端部1b、1bの内部に封装されている。
【0030】
イオン化媒体は、水銀および希ガスからなり、環形バルブ1の内部に封入されている。なお、水銀は、純水銀およびアマルガムのいずれの態様で封入されていてもよい。
【0031】
口金4は、環形バルブ1にその両管端部1b、1b間を橋絡して装着されており、一対の電極3、3に接続した口金ピン4aを備えている。
【0032】
次に、図2を参照して被膜2の形成方法を説明する。図2(a)は被膜塗布液注入時の曲成管1aの位置、図2(b)は被膜塗布液排出時の曲成管1aの位置をそれぞれ示している。
【0033】
すなわち、被膜塗布液注入時には図2(a)に示すように曲成管1aの両端部1a1、1a1を上にして、上記両端部のいずれか一方または両方から被膜塗布液を曲成管1aの内部に注入する。そして、被膜塗布液が曲成管1aの内部に充填されたら、次に曲成管1aの位置を図2(b)に示すように反転させて曲成管1aの両端部部1a1、1a1が下になるように曲成管1aを転置する。この転置により、曲成管1a内部の余剰の被膜塗布液が中央部1a2から図において左右へ分流して両端部1a1、1a1からそれぞれ同時に排出される。上記排出の後には、曲成管1aの内面に被膜塗布液が付着するので、被膜塗布液を乾燥させ、次に曲成管1aを焼成すると、図3に示すような膜厚分布を有する被膜2が形成される。この膜厚分布は、保護膜2aおよび蛍光体層2bのいずれの単独であっても同様な傾向を示す。
【0034】
また、直管状の素管を環形などに曲成してから曲成管に被膜を形成することにより、直管状の素管に被膜を形成した後に環形に曲成する場合のように大きな応力が被膜に作用しないので、被膜にクラックや剥がれが発生しにくくなる。
【0035】
以下、図4および図5を参照して本発明を実施するための第2および第3の形態について説明する。なお、各図において、図2と同一部分については同一符号を付して説明は省略する。
【0036】
図4に示す第2の形態は、曲成管1aが環形の中央部を図において左右方向へ開いて直線状にした形状をなしていて、第1の形態におけるのと同様な手順で被膜を形成する。そして、被膜の形成後に曲成管1aの両端部1a1、1a1を閉鎖し、かつ電極を封装してから、曲成管1aの軟化温度以上に再加熱して整形して図1に示すのと同様な環形バルブを得る。
【0037】
図5に示す第3の形態は、曲成管1aが環形の中央部を残して両端部1a1、1a1側の部位を開いて互いに平行な直線状に延在した形状をなしていて、第1の形態におけるのと同様な手順で被膜2を形成する。そして、被膜2の形成後に曲成管1aの両端部1a1、1a1を閉鎖し、かつ電極3を封装してから、曲成管1aの軟化温度以上に再加熱して整形して環形バルブ1を得る。
【0038】
以上説明した第2および第3の形態は、そのいずれも余剰の被膜塗布液が曲成管の両端部から分流して排出されるので、形成される被膜の膜厚分布が図3に示す膜厚分布と基本的に同様である。
【0039】
図6に示す第4の形態は、曲成管1aが図6(a)に示すように図2のそれと同じ環形であることが許容されるのであるが、被膜塗布液を塗布後における乾燥時の曲成管1aの姿勢が異なる。すなわち、環形の曲成管1aの環面を水平に保持して乾燥する。その結果、曲成管1aの内面に形成される被膜の管軸方向に沿った膜厚分布が一定になる。したがって、環形バルブの両管端部における膜厚および膜の構成が同じになる。なお、曲成管1aの横断面における膜厚は、図6(b)に示すように曲成管1aの環面の下側が最厚部Maxになり、上側が最薄部Minになり、これらの間に位置する側面側が順次変化している。
【0040】
そうして、第4の形態においても、環形バルブ1における両管端部の被膜2の膜厚が等しくなるとともに、膜の構成が同じになるので、前述の本発明の効果を得ることができる。加えて、管軸方向に沿って全長にわたり均一な最厚部Maxが形成されるので、この最厚部Maxが下面になるように照明器具に装着することにより、環形蛍光ランプの下面照度を高くすることができる。また、環形バルブ1内に生じる膜厚差は、管軸に対して直角な横断面において上下部間に現れ、それらの間の距離が小さいので、小さくなる。このため、最薄部Minの膜厚を基準にして蛍光体層の膜厚を決定する場合に蛍光体の使用量を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の環形蛍光ランプを実施するための第1の形態を示す要部断面正面図
【図2】同じく被膜形成工程における曲成管の正面図
【図3】同じく管軸方向における被膜の膜厚分布を比較例のそれとともに概念的に示しているグラフ
【図4】本発明を実施するための第2の形態における曲成管の正面図
【図5】本発明を実施するための第3の形態における曲成管の正面図
【図6】第4の形態における曲成管の正面図
【符号の説明】
【0042】
1…環形バルブ、1a…曲成管、1a1…端部、1a2…中央部、1b…管端部、1c…ステム、2…被膜、2a…保護膜、2b…蛍光体層、3…電極、4…口金、4a…口金ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が気密になっている環形バルブと;
少なくとも蛍光体層を含み、環形バルブの内面に被着して管軸方向の中央部近傍に最薄部がある膜厚分布を有している被膜と;
環形バルブの両管端内部に配設された一対の電極と;
環形バルブの内部に封入されたイオン化媒体と;
を具備していることを特徴とする環形蛍光ランプ。
【請求項2】
照明器具本体と;
照明器具本体に配設された請求項1記載の環形蛍光ランプと;
環形蛍光ランプを点灯する点灯回路と;
を具備していることを特徴とする照明器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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