説明

環状オレフィン二量体及びその製造方法並びに環状オレフィン二量体誘導体の製造方法

【課題】環状オレフィン二量体及びその製造方法並びに環状オレフィン二量体誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】環状オレフィンの二量化構造を有する新規な環状オレフィン二量体、環状オレフィンを触媒の存在下で二量化する新規な環状オレフィン二量体の製造方法、及び、該環状オレフィン二量体から合成される環状オレフィン二量体誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン二量体及びその製造方法に関する。より詳しくは、高分子化合物の原料等として用いられる種々の化合物の原料又は中間体として有用な環状オレフィン二量体及びその製造方法並びに環状オレフィン二量体誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状構造を複数もつ化合物は、単環構造とは異なる興味深い性質を有することになる。例えば、4,4´−ビフェニルジカルボン酸等のビフェニル化合物や4,4´−ビシクロへキシルジカルボン酸等のビシクロへキサン化合物は、耐熱性、高強度を有する高性能なポリエステル樹脂やポリアミド樹脂等種々の高分子化合物の原料等として、工業的に有用なものである。これらの化合物、例えば、4,4´−ビフェニルジカルボン酸は、従来、ベンゼンを700℃以上高温で二量化してのビフェニルを得て、該ビフェニルをアルキル化し、更に該アルキルを酸化してカルボン酸とすることにより製造されてきた。
【0003】
しかしながら、ベンゼンの二量化反応は、副生物である三量体以上の高沸点タール成分の生成を防ぐため反応率を高くすることができず、経済性に充分に優れたものとすることはできなかった。
一方で、ビフェニル化合物やビシクロへキサン化合物の製造方法について、これまでに、種々検討されてきている。例えば、ビフェニル化合物の製造方法に関し、フッ化水素の存在下、アルキルベンゼン類をシクロヘキセン類でアルキル化することによりフェニルシクロヘキサン誘導体を得た後、脱水素してビフェニル骨格を合成することを特徴とするビフェニル化合物の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、アルキル芳香族もしくはアルキル脂環式化合物をオレフィンもしくはジオレフィンで側鎖をアルキル化ないしアルキレン化する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。更に、パラ置換異性体の豊富なアルキレートへの芳香族化合物のアルキル化方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
しかしながら、これらの方法によると、4,4´−ビフェニルジカルボン酸を得るためには、4,4´−ジアルキルビフェニルを直接酸化する必要があることから、経済性に更に有利なものとする工夫の余地があった。
【0005】
ところで、オレフィンの二量化については古くから知られる古典的な反応で、プロピレン、イソブチレンの二量化やブタジエンの環化二量化等が知られている。例えば、オレフィン二量化触媒およびその支持体の製造方法(例えば、特許文献4参照。)や、メソ多孔質酸性触媒、その製造方法及びその使用が開示されている(例えば、特許文献5参照。)が開示されている。しかしながら、オレフィンの二量化反応によって、ビフェニル化合物やビシクロへキサン化合物等が得られたという報告は見当たらず、従来のオレフィンの二量化反応を環状化合物に適用できることを示唆するような文献は存在しない。
従来においては、ビフェニルやビフェニル化合物等が工業的に有用であることは知られていたが、旧来の方法で製造されていたというのが現状である。これをより効率的に、また安全に工業的プロセスに好適に適合できるようにすることができれば、有用な工業原料を経済的で安全に供給することが可能となる。ビフェニルやビフェニル化合物等の工業的な有用性や需要を考えれば、そのようなことが実現できれば工業的に際立ったことであるといえる。
【特許文献1】特開平8−20548号公報(第1−3頁)
【特許文献2】特開平10−309460号公報(第2頁)
【特許文献3】特許第2688430号明細書(第1−2頁)
【特許文献4】特開平5−177142号公報(第1、2頁)
【特許文献5】特許第3486566号明細書(第1−2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、環状オレフィン二量体及びその製造方法並びに環状オレフィン二量体誘導体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、環状オレフィン二量体が環状オレフィンの二量化により得られることを見いだした。反応機構としては、オレフィンの二量化反応を大きく相違するものではないと考えられるが、従来では、環状オレフィンがそのように反応することは想定されておらず、本発明者らは、まさしくこの点を見いだしたものである。なお、環状オレフィン二量体、及び、このような二量体を得るための二量化反応の報告例は存在せず、新規化合物及び新規二量化反応である。
本発明者等は、また、工業的に有用なビフェニル化合物の製造方法について種々検討したところ、ビフェニルを原料として用いることで製造コストが高くなることに着目し、従来のビフェニルを用いる製造経路とは全く異なる経路、すなわち、環状オレフィン二量体を反応原料又は反応中間体として用いることで、コストパフォーマンス及び安全性に優れる方法とすることができることを見いだした。また、このような方法によると、ビフェニル化合物だけでなく、ビシクロへキサン化合物も製造でき、更に、環状オレフィン二量体が6員環を有する場合だけでなく、環構造を有する場合に広く適用できることを見いだし、種々の環構造を有する化合物を安全で安価に製造する方法とすることができできることも見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。
【0008】
すなわち本発明は、環状オレフィンの二量化構造を有する環状オレフィン二量体である。
本発明はまた、環状オレフィンを触媒の存在下で二量化する環状オレフィン二量体の製造方法でもある。
本発明は更に、上記環状オレフィン二量体を脱水素する環状オレフィン二量体誘導体の製造方法でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明の環状オレフィン二量体は、環状オレフィンの二量化構造、すなわち、2つの環構造が単結合で結合した構造を有する化合物である。このような環状オレフィン二量体は、同一又は異なった構造を有する環状オレフィンを付加させることによって得ることができる。なお、反応機構としては、オレフィンの二量化反応を大きく相違するものではないと考えられる。
本発明における環状オレフィン二量体の形態としては、環状オレフィンがオレフィンの二量化反応によって二量化して得られる構造をもつ形態が通常の形態ということになる。なお、環状オレフィンの二量体であれば、工業原料として有用であることから、上記のような構造を基本構造とする種々の構造が考えられる。これらのものについても本発明の環状オレフィン二量体の範囲内であるといえる。すなわち、環状オレフィン二量体としては、一つの環状オレフィンにもう一つの環状オレフィンが付加して得られるものであり、2つの環が単結合で結合した構造のものであればよい。
【0010】
上記環状オレフィン二量体の環構造としては、環を形成すればよく、例えば、炭素数3〜12の脂環式炭化水素が好適であり、炭素の一部がヘテロ原子(硫黄、酸素、窒素等)で置換されていてもよい。これらの中でも、好ましくは、炭素数5〜8の脂環式炭化水素であり、より好ましくは、6員環の脂環式炭化水素である。すなわち、上記環状オレフィン二量体は、下記一般式(1);
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Rは置換基であり、同一若しくは異なって、水素原子又は有機基を表す。)で表されるものであることがより好ましい。
上記Rとしては、Rのうちの4つが、水素原子、メチル基、COOR及びCHOCORからなる群より選ばれる少なくとも一つであり、残りが水素原子である形態であることが好ましい。
上記Rは置換基であり、同一若しくは異なって、水素原子又はアルキル基(特に炭素数1〜30のアルキル基)、アシル基(カルボキシル基及びその酸塩化物、エステル、アミド、アセタール等を含む)、アリール基、アルコキシ基(特に炭素数1〜30のアルコキシ基)、アリールオキシキ基、アルコキシカルボニル基(特に炭素数1〜30のアルコキシカルボニル基)、アリールオキシキカルボニル基、アルカノイルオキシ基(特に炭素数1〜30のアルカノイルオキシ基)、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子などを好適に挙げることができる。これらの置換基は置換基が有する水素原子がアセチル基又はハロゲン原子で置換されていても構わない。
上記環状オレフィン二量体として、特に好ましくは、下記一般式(2);
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、COOR又はCHOCORを表す。Rは置換基であり、水素原子又は有機基を表す。Rは置換基であり、有機基を表す。)で表される形態である。
上記Rは置換基であり、水素原子又はアルキル基(特に炭素数1〜30のアルキル基)を表す。Rは置換基であり、水素原子又はアルキル基(特に炭素数1〜30のアルキル基)を表す。これらの置換基は置換基が有する水素原子がハロゲン原子、含酸素官能基、含硫黄官能基又は含窒素官能基により置換されているものを含む。
上記環状オレフィン二量体においてRとRの位置としては、特に限定されず、環状オレフィン二量体の用途に応じて適宜設定することができる。このような異性体は、例えば、環状オレフィン二量体の異性化反応により変換することができる。
【0015】
上記一般式(2)で表される環状オレフィン二量体は、該化合物を脱水素化や水素化等を行うことにより、例えば、4,4´−ビフェニルジカルボン酸等のビフェニル化合物や4,4´−ビシクロへキシルジカルボン酸等のビシクロへキサン化合物を得ることができる。このような方法によると、高価なビフェニルを用いる必要がなく、危険なハロゲン化物を反応中間体とすることがないため、従来の方法より工業的に優れたビフェニル化合物又はビシクロへキサン化合物の製造方法とすることができる。また、このような効果は、環状オレフィン二量体が上記一般式(2)で表される6員環構造を有する場合に限定されず、本発明の環状オレフィン二量体全てについて発揮することができ、環状オレフィン二量体を原料又は中間体として用いることにより、種々の化合物を工業的に有利な方法で製造することができる。
【0016】
本発明はまた、環状オレフィンを触媒の存在下で二量化する環状オレフィン二量体の製造方法である。このような製造方法においては、環状オレフィンは、環状構造を有するものであって、該環構造に不飽和結合を1つ有する化合物であればよい。ただ、二量化して2つの環が単結合で結合した環状オレフィン二量体を製造できるものであることが必要である。上記環状オレフィンとしては、例えば、炭素数3〜12の不飽和結合を1つ有する脂環式炭化水素(シクロアルケン)が好適である。これらの中でも、炭素数5〜8の不飽和結合を1つ有する脂環式炭化水素が好ましく、より好ましくは、炭素数6の不飽和結合を有する単環式炭化水素である。すなわち、上記環状オレフィンは、下記一般式(3);
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、Rは置換基であり、同一若しくは異なって、水素原子又は有機基を表す。)で表されるものであることが好ましい。
上記Rは置換基であり、同一若しくは異なって、水素原子又はアルキル基(特に炭素数1〜30のアルキル基)、アシル基(カルボキシル基及びその酸塩化物、エステル、アミド、アセタール等を含む)、アリール基、アルコキシ基(特に炭素数1〜30のアルコキシ基)、アリールオキシキ基、アルコキシカルボニル基(特に炭素数1〜30のアルコキシカルボニル基)、アリールオキシキカルボニル基、アルカノイルオキシ基(特に炭素数1〜30のアルカノイルオキシ基)、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子などを好適に挙げることができる。これらの置換基は置換基が有する水素原子がアセチル基又はハロゲン原子で置換されていても構わない。
上記一般式(3)で表される環状オレフィンとしては、Rのうちの少なくとも8つが、水素原子であることが好ましい。より好ましくは、上記環状オレフィンは、下記一般式(4);
【0019】
【化4】

【0020】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、COOR又はCHOCORを表す。Rは置換基であり、水素原子又は有機基を表す。Rは置換基であり、有機基を表す。)で表されるものである。
上記Rは置換基であり、水素原子又はアルキル基(特に炭素数1〜30のアルキル基)を表す。Rは置換基であり、水素原子又はアルキル基(特に炭素数1〜30のアルキル基)を表す。これらの置換基は置換基が有する水素原子がハロゲン原子、含酸素官能基、含硫黄官能基又は含窒素官能基により置換されているものを含む。
上記環状オレフィン二量体においてRとRの位置としては、特に限定されず、環状オレフィン二量体の用途に応じて適宜設定することができる。このような異性体は、例えば、環状オレフィン二量体の異性化反応により変換することができる。
このように、上記環状オレフィンは、上記一般式(4)で表される環状オレフィン二量体の製造方法もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0021】
上記一般式(4)で表される環状オレフィンとしては、RがCOORであって、Rが水素原子である3−シクロへキセン1−カルボン酸エステル類及びRがメチル基である3−シクロへキセン1−メチル1−カルボン酸エステル類(以下、単に「シクロヘキセンカルボン酸エステル類」ともいう。)、RがCHOCORであって、Rが水素原子である3−シクロへキセン1−メタノールのエステル類及びRがメチル基である3−シクロへキセン1−メチル1−メタノールのエステル類(以下、単に「シクロヘキセンメタノールのエステル類」ともいう。)である。
【0022】
上記シクロヘキセンカルボン酸エステル類としては、Rは、水素原子又は有機基であり、中でも、Rが、メチル、エチル、プロピル、ブチル等の炭素数1〜12のアルキル基が好適に用いられる。より好ましくは、メチル、エチル、プロピル、ブチル等の炭素数1〜8の低級アルキル基である。またRは水素原子又はメチル基のいずれであってもよい。
上記シクロヘキセンカルボン酸エステル類として、特に好ましくは、Rが水素原子であり、Rがメチル基である3−シクロへキセン1−カルボン酸メチルである。このように、下記反応式;
【0023】
【化5】

【0024】
で表される3−シクロへキセン1−カルボン酸メチルを触媒の存在下で二量化する環状オレフィン二量体の製造方法もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0025】
上記シクロヘキセンメタノールのエステル類としては、Rが、水素原子又は有機基であり、中でも、Rが、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基が好ましい。より好ましくは、水素原子、メチル、エチル、プロピル、ブチル等の炭素数1〜12のアルキル基であり、更に好ましくは、水素原子、メチル基である。すなわち、シクロヘキセンメタノールのエステル類としては、3−シクロへキセン1−メタノール又は3−シクロへキセン1−メチル1−メタノールと蟻酸や酢酸等の低級脂肪酸とのエステルであることが好ましい。
【0026】
上記環状オレフィンとしては、種々の方法により製造することができる。例えば、上記一般式(4)で表される環状オレフィンは、下記反応式;
【0027】
【化6】

【0028】
(式中、R及びRは、上記一般式(4)におけるR及びRと同じ。)により得ることができる。
上記反応で表される製造方法は、上記一般式(4)で表される環状オレフィンに限定されるものではなく、広くその他の環状オレフィンの製造においても用いることができる。すなわち、環状構造を有するものであって、該環構造に不飽和結合を1つ有する構造とする反応機構であれば、上記反応式の場合と同様となることは明らかであることから、種々の環状オレフィンの製造に上記反応を好適に適用できる。少なくとも、環状オレフィンの環構造が6員環である場合は、上記反応式の場合と同様となることは明らかであることから、上記反応を好適に適用できる。
なお、上記反応式にしたがって製造することができる種々の環状オレフィンは、本発明の環状オレフィン二量体の製造方法によって製造される環状オレフィン二量体の原料になり得る。したがって、このような環状オレフィンを原料とする環状オレフィン二量体については、実施可能性があるといえることは明らかである。
【0029】
上記環状オレフィンを製造する反応においては、反応温度としては、50〜300℃が好ましく、60〜200℃がより好ましい。反応は、無溶媒或いは溶媒を用いて行うことができる。用いられる溶媒は特に限定されない。また、触媒を用いることも、反応を効率的に行う上では好適である。例えば、3−シクロヘキセン−1−カルボン酸メチルの合成例としては、(1)Toyota Masahiro;Yokota Masahiro;Ihara Masataka;TELEAY,Tetrahedron Lett.(テトラヘドロン・レター),40,8(1999)pp.1551−1554、(2)Davies,Stephen G.;Kelly,Richard J.;Mortimer,Anne J.Price;CHCOFS;Chem.Commun.(ケミカル・コミュニケーション);EN;17(2003)pp.2132−2133等に記載されている反応が知られている。
【0030】
本発明の環状オレフィン二量体の製造方法は、環状オレフィンを触媒の存在下で二量化するものである。
上記触媒としては、環状オレフィンを二量化できるものであれば特に限定されず、例えば、オレフィンの二量化反応に用いることができる触媒等を好適に使用することができる。このような触媒としては、酸触媒が好ましい。具体的には、硫酸、燐酸、硝酸、へテロポリ酸等の鉱酸類、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機スルホン酸類、スルホン酸系イオン交換樹脂、モルデナイト、ゼオライトやシリカ、シリカ/アルミナ等の固体酸、塩化アルミニウム等のルイス酸触媒等が好適に用いられる。このように、環状オレフィンを触媒の存在下で二量化する環状オレフィン二量体の製造方法であって、該触媒は、酸触媒である製造方法もまた、本発明の好ましい形態の一つである。なお、上記酸触媒としては、均一系及び不均一系のいずれであっても好適に用いることができる。
上記触媒の添加量としては、例えば、液相反応の場合、反応液全量を100質量%として、触媒1〜30質量%であることが好ましい。より好ましくは、3〜25質量%である。
【0031】
上記製造方法において、反応形態としては、液相又は気相において行うことができるが、液相が簡便であるため好ましい。また、連続式、回分式又は半回分式のいずれの方法でも実施できる。
上記二量化反応の反応温度は、50〜300℃であることが好ましい。より好ましくは、100〜150℃である。上記反応の反応時間は、用いる触媒や、その触媒量、反応温度等に依存して適宜設定することができ、通常、数時間である。反応溶媒、反応試薬等その他の反応条件についても適宜設定することができる。
【0032】
上記製造方法により得られる環状オレフィン二量体は、通常、複数の異性体の混合物として得られることとなり、用いる環状オレフィン、触媒、反応条件等により異性体の種類や割合が異なる。例えば、3−シクロへキセン1−カルボン酸エステルを触媒の存在下で二量化して環状オレフィン二量体を製造する場合、下記式;
【0033】
【化7】

【0034】
で表される生成物Iと、下記式;
【0035】
【化8】

【0036】
で表される生成物IIの混合物が得られる。
上記混合物は、二量化反応後に異性化反応により望ましい生成物に変換することが可能である。
【0037】
本発明は更に、上記環状オレフィン二量体を脱水素することにより得られる脱水素化物である環状オレフィン二量体誘導体の製造方法でもある。
上記製造方法においては、上述した環状オレフィン二量体のいずれを用いてもよい。例えば、用いる環状オレフィン二量体が6員環を2つ有する環状オレフィン二量体、すなわち、シクロヘキサンとシクロヘキセンを有する環状オレフィン二量体を好適に用いることができる。この場合、少なくとも一つの環に不飽和結合が導入されて、シクロヘキサジエン、シクロヘキセンや芳香族化合物等を環構造として有する二量体が得られることになる。得られる二量体の2つの環構造が、共に芳香族化合物である場合、耐熱性、高強度を有する高性能なポリエステル樹脂やポリアミド樹脂等の原料や、これらの樹脂等の性能を改質するための添加剤等として好適に用いることができる。このように、6員環を2つ有する環状オレフィン二量体を脱水素して芳香族化合物を得ることが好ましく、上記環状オレフィン二量体を脱水素する芳香族化合物の製造方法もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0038】
上記脱水素化物の製造方法においては、反応条件は、用いる環状オレフィン二量体や脱水素化の程度によって適宜設定することができる。例えば、(1)Trost Barry M.;Metzner Patric J.;JACSAT,J.Am.Chem.Soc.(ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー),102,10(1980)pp.3572−3577、(2)Hoare John H.;Policastro Peter P.;Berchtold Glenn A.;JACSAT,J.Am.Chem.Soc.(ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー),105,20(1983)pp.6264−6267、(3)Rigby James H.;Maharoof Umar S. M.;Mateo Mary E.; JACSAT,J.Am.Chem.Soc.(ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー),122,28(2000)pp.6624−6628等に示された合成例などを参考に設定すればよい。
【0039】
上記環状オレフィン二量体は、水素化、還元、加水分解等を行うことにより、種々の化合物とすることができる。例えば、シクロヘキサンとシクロヘキセンとを有する環状オレフィン二量体を水素化する場合、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂等の改質剤等として好適に用いることができるビシクロへキサン化合物が得られることになる。また、還元、加水分解等を行うことにより、例えば、環状オレフィン二量体の環に結合する置換基を所望の置換基とすることができ、各種用途に好適な化合物を得ることができる。例えば、環状オレフィンとしてシクロヘキセンカルボン酸エステル類を用いた場合について、下記式を参照して説明する。
【0040】
【化9】

【0041】
まず、シクロヘキセンカルボン酸エステル類を二量化させ、シクロヘキサンとシクロヘキセンとを有する環状オレフィン二量体が得られる。この環状オレフィン二量体を脱水素化すると芳香族化合物(ビフェニル化合物)が得られ、該芳香族化合物を還元すると、芳香環に結合したカルボン酸エステルがオキシメチル(−CHOH)に還元され、オキシメチルを2つ有するビフェニル化合物(ジベンジルアルコール)が得られる。得られたビフェニル化合物を必要に応じて更に異性化することで、例えば、4,4´−ジベンジルアルコール等を得ることができる。
また上記カルボン酸エステルを有する芳香族化合物を加水分解すると、カルボン酸エステルがカルボン酸となり、ビフェニルジカルボン酸が得られる。得られたビフェニル化合物は、異性化により、例えば、置換基が4,4´に結合した4,4´−ビフェニルジカルボン酸(4,4´−二安息香酸)とすることができ、種々の用途に好適に用いることができる。
【0042】
上記式において、シクロヘキサンとシクロヘキセンとを有する環状オレフィン二量体を水素化すると、ジシクロヘキサン化合物(ジシクロヘキサンのジカルボン酸エステル)が得られる。このジシクロヘキサン化合物を還元すると、カルボン酸エステル部分がオキシメチルとなり、加水分解すると、カルボン酸エステル部分がカルボン酸となる。これらは、用途に応じて異性化して、例えば、4,4´位に置換基を有する形態等することができ、4,4´−ビシクロへキシルジメタノールや、4,4´−ビシクロへキシルジカルボン酸が得られる。
【0043】
上記式は、環状オレフィンが、シクロヘキセンカルボン酸エステル類である場合について説明したが、このような反応は、本発明の環状オレフィンであれば好適に適用することができる。すなわち、環状構造を有するものであって、該環構造に不飽和結合を1つ有する化合物で、二量化して2つの環が単結合で結合した環状オレフィン二量体を製造できる環状オレフィンであれば、好適に適用することができ、このような環状オレフィンを二量化して得られる環状オレフィン二量体を用いて、ジシクロアルカン類等の水素化物、ビスフェノール類等の脱水素化物、ジアルコール類、ジカルボン酸類等の種々の環状オレフィン二量体誘導体を製造することができる。このように、上記環状オレフィン二量体を水素化する水素化物の製造方法、上記環状オレフィン二量体を還元するジアルコール類の製造方法、上記環状オレフィン二量体を加水分解するジカルボン酸類の製造方法もまた、本発明の好ましい形態の一つである。なお、上例えば記環状オレフィン二量体を加水分解する方法としては、例えば、環状オレフィン二量体がエステルである場合、好適に用いることができる。
【0044】
上記環状オレフィン二量体の水素化物の製造方法においては、上述した環状オレフィン二量体であれば、いずれも好適に用いることができるが、中でも、環状オレフィン二量体が脂環式炭化水素であることが好ましい。このように、上記環状オレフィン二量体が脂環式炭化水素であり、該脂環式炭化水素を水素化する水素化物の製造方法もまた、本発明の好ましい形態の一つである。
【0045】
上記ジアルコール類の製造方法としては、反応温度、反応時間、触媒、溶媒、反応試薬等の反応条件は、適宜設定することができる。類似反応例としては、Scheideman Matthew;Shapland Peter;Vedejs Edwin;JACSAT,J.AM.Chem.Soc.(ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー),125,35(2003)pp.10502−10503が挙げられる。
【0046】
上記環状オレフィン二量体誘導体の製造方法において、種々の環状オレフィン二量体に適用することができるが、中でも、4,4´−ビフェニルジカルボン酸や、4,4´−ビシクロへキシルジカルボン酸等の環状オレフィン二量体誘導体の反応中間体として好適に適用することができる。本発明の製造方法によると、下記式で示す従来の製造方法に比べて、コスト、安全性の面で有利なものとすることができる。
4,4´−ビフェニルジカルボン酸は、耐熱性、高強度を有する高性能なポリエステル樹脂やポリアミド樹脂等の原料として有用な化合物であり、これまでは、下記反応式のようにして得られている。
【0047】
【化10】

【0048】
このような製造方法では、原料であるビフェニルが、ベンゼンを700℃以上で二量化して得られる高価なものであることから、コストが高くなる。また、ビフェニルをアルキル化して酸化したり、クロロメチル化して酸化する方法が用いられているが、工程が煩雑であり、安全性が充分でなく、経済的に充分に満足のいくものではなかった。
本発明の方法によると、このような高温での二量化反応や酸化反応を必要とすることがないため、安全に、コストパフォーマンスに優れた方法で目的化合物を得ることができる。
【0049】
例えば、1,3−ブタジエンとアクリル酸エステルとから、原料である環状オレフィン(3−シクロへキセン1−カルボン酸エステル)を得る場合、更に、該環状オレフィンを二量化することにより、環状オレフィン二量体が得られる。このような二量化反応は、ベンゼン二量化のように高温とする必要がなく、上述したようなマイルドな反応条件で行うことができるため、低いコストで環状オレフィン二量体を得ることができる。また、従来のビフェニルをアルキル化して酸化したりする方法に比べて、環状オレフィン二量体を脱水素化してビフェニル化合物を得る方法の方が、安価に行うことができ、4,4´−ビフェニルジカルボン酸等の目的化合物を経済的に有利な方法で得ることができる。
【発明の効果】
【0050】
本発明の環状オレフィン二量体及びその製造方法並びに環状オレフィン二量体誘導体の製造方法は、上述の構成よりなり、高分子化合物の原料等として用いられる種々の化合物の原料又は中間体として有用な環状オレフィン二量体及びその製造方法並びに環状オレフィン二量体誘導体の製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0052】
実施例1
300mlの4つロフラスコに、3−シクロへキセン1−カルボン酸メチルエステル 50gを仕込み、その質量の22質量%にあたるカチオン型イオン交換樹脂(アンバーリスト15)を加え、130℃で3時間反応した。反応後、ガスクロマトグラフィで分析したところ、生成物Iが25.9%、生成物IIが10.1%の収率で得られた。原料の転化率は42.7%で、生成物IとIIをあわせた選択率は84.3%であった。なお、生成物IとIIとは、上述した生成物I及び生成物IIにおいて、Rがメチル基である場合を示す。
【0053】
実施例2〜5
各種酸触媒を用い実施例1と同様な反応を行なった。反応条件と結果を表1に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例6
シリカ担持のリンタングステン酸、すなわち30%担持HPW1240/SiOを触媒に用い、130℃で3Hr反応を行なった。反応後分析したところ、生成物Iが12.9%、生成物IIが29.0%の収率で得られた。原料の転化率52.7%で、生成物IとIIをあわせた選択率は79.5%であった。
【0056】
上述した実施例では、3−シクロへキセン1−カルボン酸メチルエステル及び3−シクロへキセン1−メタノール酢酸エステルを二量化しているが、環状オレフィンである限り、二量化して環状オレフィン二量体を得られるものであれば、二量化する機構は同様である。したがって、環状構造を有するものであって、該環に不飽和結合を1つ有する環状オレフィンを、触媒の存在下で二量化して2つの環が単結合で結合した環状オレフィン二量体を製造できる環状オレフィンであれば、本発明の有利な効果を発現することは確実であるといえる。少なくとも、脂環式炭化水素を必須とする環状オレフィンを二量化して、特にシクロヘキセン環を有する環状オレフィンを二量化して環状オレフィン二量体を製造する場合においては、上述した実施例で充分に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられている。
【0057】
実施例7(脱水素反応)
内径13mmφ、長さ350mmLのガラス製反応管に0.5重量%白金/活性炭触媒4.0gを充填した。反応管を280℃に加熱し、実施例1における反応液を蒸留し分留して得られた環状オレフィン二量体を供給し、脱水素反応を行った。こうして得られた反応液をガスクロマトグラフィーにより分析を行ったところ、ほぼ定量的に反応は進行し、環状オレフィン二量体の脱水素化物が確認された。生成したビフェニル化合物の異性体比は、原料の異性体比と同等であった。
このように、本発明における環状オレフィン二量体を脱水素することによって、脱水素化物である環状オレフィン二量体誘導体を製造することができる。本発明における環状オレフィン二量体であれば、脱水素する機構は同様であることから、本発明における環状オレフィン二量体に対して広く適用することが可能であるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィンの二量化構造を有することを特徴とする環状オレフィン二量体。
【請求項2】
前記環状オレフィン二量体は、下記一般式(1);
【化1】

(式中、Rは置換基であり、同一若しくは異なって、水素原子又は有機基を表す。)で表されることを特徴とする請求項1記載の環状オレフィン二量体。
【請求項3】
前記環状オレフィン二量体は、下記一般式(2);
【化2】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、COOR又はCHOCORを表す。Rは置換基であり、水素原子又は有機基を表す。Rは置換基であり、有機基を表す。)で表されることを特徴とする請求項1又は2記載の環状オレフィン二量体。
【請求項4】
環状オレフィンを触媒の存在下で二量化することを特徴とする環状オレフィン二量体の製造方法。
【請求項5】
前記環状オレフィンは、下記一般式(3);
【化3】

(式中、Rは置換基であり、同一若しくは異なって、水素原子又は有機基を表す。)で表されることを特徴とする請求項4記載の環状オレフィン二量体の製造方法。
【請求項6】
前記環状オレフィンは、下記一般式(4);
【化4】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、COOR又はCHOCORを表す。Rは置換基であり、水素原子又は有機基を表す。Rは置換基であり、有機基を表す。)で表されることを特徴とする請求項4又は5記載の環状オレフィン二量体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の環状オレフィン二量体を脱水素することを特徴とする環状オレフィン二量体誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2007−238490(P2007−238490A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61883(P2006−61883)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】