説明

環状オレフィン系重合体フィルムの製造方法

【課題】ダイラインがなく、光学的に均一な環状オレフィン系重合体からなるフィルムを押出し成形により製造する方法を提供する。
【解決手段】以下の条件(1)−(4)を満たす環状オレフィン系重合体フィルムの製造方法。条件(1):タッチロール5が、弾性変形可能な金属製無端ベルトからなる外筒7と、該外筒の内部に弾性変形可能な弾性体からなるロール6とを有し、かつ前記外筒と弾性体ロールとの間が温度調節用媒体により満たされてなる構造のロール。条件(2):シート状に押し出された溶融状環状オレフィン系重合体9よりも巾の狭いタッチロール5を用いて、前記溶融状環状オレフィン系重合体の中央部のみを挟圧する。条件(3):キャスティングロール4とタッチロール5により溶融状環状オレフィン系重合体を挟圧する距離が3〜30mmである。条件(4):タッチロールの表面温度が40℃以上(Tg−20)℃以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系重合体フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィンモノマー由来の構成単位を含む重合体からなるフィルムは、耐熱性、透明性、低吸湿性、耐薬品性、低複屈折性などの諸特性に優れることから、光学材料、特に液晶パネル構成部材である位相差フィルムや偏光板保護フィルムなどとして広く用いられている。
【0003】
環状オレフィン系重合体からなるフィルムを光学用途において使用する場合には、極めて均一な光学特性が求められる。そのため光学フィルムは、光学的に均一なフィルムを製造しやすい溶剤キャスト法により製造されることが多い。しかしながら溶剤キャスト法では有機溶剤を大量に使用するため、作業環境の問題や、大型のフィルム製造設備が必要であるという問題がある。そのため押出し成形によって環状オレフィン系重合体からなる光学フィルムを製造する方法が検討されている。しかしながら押出し成形によって環状オレフィン系重合体からなるフィルムを製造した場合には、ダイラインと呼ばれるフィルム押出し方向に沿ったキズが生じやすいという問題があった。
【0004】
ダイラインは、Tダイのダイリップ部分に付着した樹脂のヤケや、押出過程で発生するメヤニが原因であると考えられている。ダイラインのない環状オレフィン系重合体からなるフィルムを製造する方法としては、Tダイのダイリップを溶融状態の環状オレフィン樹脂との剥離強度が75N以下となる特殊な材料でメッキする方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら前記の方法では、ダイラインの原因である樹脂のヤケやメヤニなどが徐々に生じるため、長時間押出し成形を行うと徐々にダイラインが増加してしまう。ダイラインの少ない環状オレフィン系重合体からなるフィルムの他の製造方法としては、ダイより溶融押出された溶融体を、表面が鏡面である二本のキャスティングロールでニップして挟圧し、ニップ部分にバンクと呼ばれる樹脂だまりを形成して成形する方法がある。しかしながらこの方法では、溶融体がニップ部分を通過するときに配向が生じるため、得られるフィルムは配向が大きい、すなわち位相差の大きいフィルムになるという問題があった。さらに成形中にバンクの大きさが変動する場合には、バンクの大きさに応じた配向がフィルムに発生するため、得られるフィルムは位相差にムラのあることがあった。
【0006】
押出し成形により環状オレフィン系重合体からなるフィルムを製造する他の方法としては、金属製のキャストドラムにその周方向にそって圧接するように設けられた金属製の無端ベルトとキャストドラムの間で狭圧し、成形する製造方法である。特許文献2には、複数の保持ロール群によって保持されてなる厚さ1mmの金属製無端ベルトとキャストドラムを用いて環状オレフィン系重合体フィルムを成形する方法が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−280315号公報
【特許文献2】特開2000−280268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら特許文献2に記載されたように1mm厚の金属製無端ベルトを用いた場合には、通常1000mmφ以上のロールにて駆動させることが必要となる。このように大きなロールを使用すると、ダイとロールとの間の距離が大きくなり、ダイとロールとの間で溶融状樹脂に引き落としがかかるため、得られるフィルムは配向が大きくなり、位相差が大きくなるという問題があった。さらにダイとロールとの間での引き落としによる配向は、フィルムの巾方向に均一ではないため、得られるフィルムは巾方向に位相差が均一ではない、すなわち位相差ムラが生じ、光学的に均一なフィルムとはいえないものであった。
【0009】
本発明は、ダイラインがなく、光学的に均一な環状オレフィン系重合体からなるフィルムを押出し成形により製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上の環状オレフィン系重合体を押出機中で溶融混練し、該押出機に取り付けられたTダイからシート状に押し出した溶融状環状オレフィン系重合体を、キャスティングロールとタッチロールにより狭圧する工程を有する環状オレフィン系重合体フィルムの製造方法であって、以下の条件(1)−(4)を満たす環状オレフィン系重合体フィルムの製造方法である。
条件(1):タッチロールが、弾性変形可能な金属製無端ベルトからなる外筒と、該外筒の内部に弾性変形可能な弾性体からなるロールとを有し、かつ前記外筒と弾性体ロールとの間が温度調節用媒体により満たされてなる構造のロールである
条件(2):シート状に押し出された溶融状環状オレフィン系重合体よりも巾の狭いタッチロールを用いて、前記溶融状環状オレフィン系重合体の中央部のみを挟圧する
条件(3):キャスティングロールとタッチロールにより溶融状環状オレフィン系重合体を挟圧する距離が3〜30mmである
条件(4):タッチロールの表面温度が40℃以上(Tg−20)℃以下である
【発明の効果】
【0011】
本発明の環状オレフィン系重合体からなるフィルムの製造方法によれば、ダイラインがなく、かつ光学的に均一な環状オレフィン系重合体からなるフィルムを押出し成形により製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における環状オレフィン系重合体のガラス転移温度(Tg)は100℃以上であり、好ましくは120℃以上である。ガラス転移温度が低すぎる場合には、カーナビゲーションシステムのモニターの液晶ディスプレーのように耐熱性が要求される用途への使用が制限されるおそれがある。ガラス転移温度の上限は、成形性の観点から200℃以下であることが好ましい。
【0013】
本発明における環状オレフィン系重合体のガラス転移温度(Tg)とは、JIS K7121に従い、示差熱走査型熱量計(DSC)を用いて窒素ガス雰囲気下で測定される値である。サンプルを20℃/分で250℃(Tgより50℃以上高い温度)まで昇温し、10分間保持した後、20℃/分で室温付近まで降温して10分間保持し、その後再び20℃/分で昇温する。2度目に昇温した時のDSC曲線よりTgを求めることができる。
【0014】
本発明における環状オレフィン系重合体は、環状オレフィンモノマー由来の構成単位を30モル%以上含んでなる重合体であり、具体的には、エチレン、及び炭素数3〜12のα−オレフィンからなる群より選択されるモノマーと後述する環状オレフィンモノマーとの付加重合体(重合体[A])、環状オレフィンモノマーの開環単独重合体または2種以上の共重合体(重合体[B])、あるいは重合体[B]の水素添加物(重合体[C])である。
本発明における環状オレフィンモノマーとは、下記式[I]で表される化合物である。

(式中、R7〜R18はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、アミノ基、ホスフィノ基、または炭素原子数1〜20の有機基であり、R16とR17は環を形成してもよい。mは0以上の整数を示す。)
【0015】
炭素原子数1〜20の有機基の具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;アセチル基等のアシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基もしくはアラルキルオキシカルボニル基;アセチルオキシ基等のアシルオキシ基;メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基等のアルコキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基もしくはアラルキルオキシスルホニル基;トリメチルシリル基等の置換シリル基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;カルボキシル基;シアノ基;並びに上記アルキル基、アリール基およびアラルキル基の水素原子の一部が水酸基、アミノ基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、置換シリル基、アルキルアミノ基もしくはシアノ基で置換された基を挙げることができる。
【0016】
7〜R18として好ましくは、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、炭素原子数7〜20のアラルキル基、炭素原子数1〜20のアシル基、炭素原子数2〜20のアルコキシカルボニル基、炭素原子数1〜20のアシルオキシ基または炭素原子数1〜20の2置換シリル基である。mは0以上の整数であり、好ましくは0≦m≦3の範囲にある整数である。
【0017】
一般式[I]で表される環状オレフィンモノマーの好ましい例としては、ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−ブチルノルボルネン、5−フェニルノルボルネン、5−ベンジルノルボルネン、テトラシクロドデセン、トリシクロデセン、トリシクロウンデセン、ペンタシクロペンタデセン、ペンタシクロヘキサデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、5−アセチルノルボルネン、5−アセチルオキシノルボルネン、5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−エトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−シアノノルボルネン、8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−メチル−8−テトラシクロドデセン、および8−シアノテトラシクロドデセンを列挙することができる。
本発明の重合体を重合する場合には、式[I]で表される環状オレフィンモノマーのうち1種類のみを用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0018】
本発明の重合体のうち重合体[A]とは、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンからなる群より選択される一種以上のモノマーと式[I]で表される一種以上の環状オレフィンモノマーとの付加型共重合体であり、かつ、ガラス転移温度が100℃以上である重合体である。
【0019】
炭素数3〜12のα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等が挙げられる。得られるフィルムの耐熱性の観点から、α−オレフィンはエチレン、プロピレンまたは1−ブテンであることが好ましい。
【0020】
重合体[A]のガラス転移温度は、エチレンまたは炭素数3〜12のα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合比率により制御することができる。重合体中の各モノマー由来の構成単位の含有量は、1H−NMRスペクトルや13C−NMRスペクトルによって測定することができる。
【0021】
重合体[A]には、エチレンまたは炭素数3〜12のα-オレフィンと、環状オレフィンモノマー以外のビニルモノマーを共重合により導入することもできる。該ビニルモノマーとしては、シクロペンタン、シクロヘキサンなどを置換基に有する脂環式ビニルモノマーや、あるいは、ベンゼン環、ナフタレン環などを置換基に有する芳香族ビニルモノマーなどが挙げられる。これらのうち、ビニルシクロヘキサン、スチレン、ビニルナフタレン、及びそれらの誘導体から選択されるモノマーと、エチレンまたは炭素数3〜12のα-オレフィン、及び環状オレフィンモノマーとを共重合して得られる三元系の環状オレフィン系重合体は、光弾性係数が小さいため光学用途として好ましく用いられる。ビニルモノマーの共重合比率が2〜30mol%である環状オレフィン系重合体は、光弾性係数と耐有機溶剤性のバランスに優れることから好ましく用いられる。
【0022】
本発明の環状オレフィン系重合体のうち重合体[B]とは、式[I]で表される環状オレフィンモノマーを1種または2種以上用いて開環重合して得られる重合体であって、かつガラス転移温度が100℃以上の重合体である。
【0023】
本発明の環状オレフィン系重合体のうち重合体[C]とは、重合体[B]に水素添加して得られる重合体であって、かつガラス転移温度が100℃以上の重合体である。
【0024】
本発明で用いられる環状オレフィン系重合体は、公知の方法で重合することができる。重合体[A]は、例えば特許第2693596号公報に開示されるようなバナジウム化合物と有機アルミニウム化合部からなる均一系触媒により製造される。重合体[B]は、例えば特許第2940014号公報などで開示されているようなタングステン化合物とデミングの周期律表のIA、IIA、IIB族などの化合物で当該元素−炭素結合を有するものの組合せたメタセシス重合触媒を用いて製造することができる。重合体「C」は、重合体[B]を3〜150気圧下で20〜150℃の反応温度で水素ガスと反応させることにより通常得られる。
【0025】
不飽和結合を有する環状オレフィン系重合体はフィルム成形の際に劣化しやすく、得られるフィルムに異物が生じやすいため、本発明においては重合体[A]、または重合体[C]を用いることが好ましい。
【0026】
前記のような方法で得られる環状オレフィン系重合体は、通常パウダー状である。本発明の環状オレフィン系樹脂フィルムの製造方法においては、パウダー状環状オレフィン系重合体を用いてもよいが、パウダーをペレット状に成形して使用することが取り扱いの観点から好ましい。
【0027】
パウダーをペレット状に成形する際には、公知の単軸押出機や2軸押出機を用いることができる。例えばパウダー状環状オレフィン系重合体を押出機のホッパーより投入し、(Tg+100)℃程度の温度で溶融混練してダイスからストランド状物を押出し、該ストランド状物を水冷などの方法により冷却した後、ペレタイザーにて切断し、ペレットを得ることができる。パウダー状環状オレフィン系重合体をホッパーに投入する際に、必要に応じてフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤などの各種酸化防止剤や、高級脂肪酸アミドや高級脂肪残金属塩などの滑剤などを添加してペレット化してもよい。パウダーは予めTg付近の温度で乾燥することが好ましい。またペレット状に成形する際にはベント付きの押出機を用いて押出機中を吸引しながら成形することが好ましい。
【0028】
環状オレフィン系重合体からなるペレットは、Tg付近の温度で十分乾燥して用いることが好ましい。乾燥時に重合体が酸化されて劣化することを抑制するためには、窒素下で乾燥することが望ましい。
【0029】
環状オレフィン系重合体は、単軸または2軸押出機中で溶融混練されてTダイよりシート状に押出される。通常押出機の温度は、樹脂温度が(Tg+100)℃〜(Tg+200)℃の範囲となるように設定される。また、押出機内での環状オレフィン系重合体の劣化を抑制するために押出機ホッパー部分を窒素シールしたり、フィッシュアイなどの異物の発生を抑制するためにリーフディスクフィルターを使用したり、押出変動を抑制するためにギアポンプを用いてもよい。Tダイは先端部がシャープエッジ(曲率半径R=0.1μm以下)に加工された形状のものを用いることが、メヤニ発生を抑制する観点から好ましい。
【0030】
Tダイからシート状の押し出された溶融状環状オレフィン系重合体は、キャスティングロールとタッチロールにより挟圧される。本発明におけるタッチロールとは、例えばWO97/28950に開示されたような弾性変形可能な金属製無端ベルトからなる外筒と、該外筒の内部に弾性変形可能な弾性体からなるロールとを有し、かつ前記外筒内に温度調節用媒体を圧送する手段を備えてなるロールである。前記金属製無端ベルトは、つなぎ目のないシームレス構造を有し、その厚みは0.1〜0.8mm程度である。前記弾性体ロールの表面硬度は、30〜90°であることが好ましく、60°程度であることがより好ましい。前記したような弾性変形可能なタッチロールを用いて、該タッチロールとキャスティングロールにより溶融状環状オレフィン系重合体を挟圧することにより、バンクを形成することなく、環状オレフィン系重合体フィルムを製造することができる。また、通常の弾性変形しないタッチロールを用いた場合よりも長い距離を挟圧することができるため、ダイラインのないフィルムを得ることができる。本発明においてキャスティングロールとタッチロールにより溶融状環状オレフィン系重合体を挟圧する距離は3〜30mmであり、好ましくは5〜20mmである。挟圧する長さが3mm未満である場合は、得られるフィルムにダイラインなどの外観不良が発生してしまう。また30mmを越える場合は、タッチロールをかなり強くキャスティングロールに押付ける必要があるため、バンクが生じ得られるフィルムに位相差ムラが見られることがある。またロールを傷める原因ともなる。
【0031】
前記タッチロール内の温度調節用媒体としては、水や油などを用いることができる。所定の温度に温度調整した媒体をロール内に供給することにより、タッチロール表面を所定の温度に設定できる。本発明においては、タッチロールの表面温度は40℃以上(Tg−20)℃以下に設定する。これにより、ダイラインがなく、光学的に均一な環状オレフィン系重合体からなるフィルムを得ることができる。
【0032】
本発明では、Tダイからシート状に押し出された溶融状環状オレフィン系重合体よりも巾の狭いタッチロールを用い、該タッチロールにより、前記溶融状環状オレフィン系重合体の中央部のみを挟圧する。すなわちタッチロールとキャスティングロールにより挟圧された溶融状環状オレフィン系重合体は、両端がタッチロールよりはみ出した状態となる。タッチロールの巾は、溶融状環状オレフィン系重合体よりも3mm以上狭いものを用いることが好ましく、5mm以上狭いものを用いることがより好ましい。ここでタッチロールの巾を決定する基準となる溶融状環状オレフィン系重合体の巾とは、Tダイから押し出された溶融状環状オレフィン系重合体、キャスティングロールまたはタッチロールのいずれかと最初に接した地点での巾である。Tダイより押し出された溶融状環状オレフィン系重合体は、通常両端が中央部よりも厚い。このような溶融状環状オレフィン系重合体を、該溶融状環状オレフィン系重合体の巾以上のタッチロールを用いてキャスティングロールと挟圧した場合には、溶融状環状オレフィン系重合体の中央部を圧する力が弱くなり、得られるフィルムにダイラインが発生してしまう。一方タッチロールの巾が狭すぎると、狭圧されない部分が増加し生産性が低下するため、タッチロールの巾の下限は(溶融状環状オレフィン系重合体の巾−50)mm以下であることが好ましく、(溶融状環状オレフィン系重合体の巾−30)mm以下であることがより好ましい。
【0033】
本発明の製造方法において、Tダイのリップから押し出された溶融状環状オレフィン系重合体が前記タッチロールとキャスティングロールに接触するまでの長さ(エアーギャップ)は30〜150mmであることが好ましく、70〜130mmであることがより好ましい。このような条件で製造することにより、特に無配向で光学的均一性に優れるフィルムを得ることができる。エアーギャップは、前記タッチロールとキャスティングロールの径、Tダイ先端部の形状、キャスティングロール、タッチロールおよびTダイの位置関係によりその値を決めることができる。
【0034】
本発明で用いるタッチロールとキャスティングロールの径は、通常200〜600mmφであり、好ましくは200〜400mmφである。通常タッチロールは、キャスティングロールの径以下の径のものを用いる。径の大きいタッチロールやキャスティングロールを用いるとエアーギャップが大きくなり、径の小さいロールを用いると、溶融状環状オレフィン系重合体の冷却が不十分となることがある。
【0035】
キャスティングロールおよびタッチロールの表面は、鏡面仕上げであることが好ましい。キャスティングロールの表面温度の下限値は、タッチロールの表面温度以上であって、かつ50℃以上であることが好ましく、上限値は(Tg−20)℃以下であることが好ましい。キャスティングロールの表面温度が低すぎると、溶融状環状オレフィン系重合体が急激に冷却されて大きく収縮することがあり、このような場合には得られるフィルムの巾方向に波状の皺が発生してしまう。キャスティングロールの表面温度が高すぎると溶融状環状オレフィン系重合体がロールから剥がれにくくなる。
【0036】
タッチロールとキャスティングロールにより挟圧されて冷却固化された環状オレフィン系重合体フィルムは、引取機にて引き取られ、シートの端部をスリットして取り除いた後巻取り機にてロール状に巻き取られる。引取機のニップロールを利用して、保護フィルムを貼合することもできる。保護フィルムとしては市販のエチレン-酢酸ビニル共重合体からなるフィルムなどが使用することができ、環状オレフィン系重合体フィルムの片面、または両面に貼合することができる。
【0037】
本発明の製造方法で得られる環状オレフィン系重合体からなるフィルムの厚みは、通常0.05〜0.3mmである。
【0038】
本発明で得られる環状オレフィン系重合体からなるフィルムは、多層フィルムであってもよい。多層フィルムである場合、環状オレフィン系重合体からなる層を一層以上有しておればよい。本発明で得られるフィルムを光学製品に用いる場合には、全ての層が環状オレフィン系重合体からなる多層フィルムであることが好ましい。本発明によって多層フィルムを製造する場合には、マルチマニホールド式のTダイやフィードブロック式のTダイを用いることができる。各層の厚みを正確に制御しやすいため、マルチマニホールド方式のTダイを用いることが好ましい。
【0039】
本発明の製造方法により得られる環状オレフィン系重合体フィルムは、極めて優れた透明性が要求される用途に用いることができ、例えば液晶パネル構成部材である位相差フィルムや偏光板保護フィルムのような光学製品や、薬用PTPシートのような医療製品などに好適である。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
(1)環状オレフィン系重合体のガラス転移温度(Tg)の測定
環状オレフィン系重合体のガラス転移温度の測定方法は、JIS K7121に従って、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量計DSC220を用いて行なった。サンプル10mg程度をセットし、窒素流量50mL/minの条件下で、20℃/minで室温から250℃まで昇温して10分間保持し(1stスキャン)、次に20℃/minの速度で30℃まで降温して10分間保持し(2ndスキャン)、さらに20℃/minで250℃まで昇温し(3rdスキャン)、DSC曲線を得た。得られた3rdスキャンのDSC曲線から環状オレフィン系重合体のガラス転移温度を求めた。
【0042】
(2)フィルムのダイラインの評価
市販のOHP(オーバーヘッドプロジェクター)を光源とし、スクリーンの正面にOHPを設置する。製造した環状オレフィン系重合体フィルムをA4サイズ(長手方向がMD方向)に切り出したものをOHPとスクリーンを最短で結ぶ線に対し、60度となる位置に固定し、スクリーン上に投影される影を目視で評価した。殆ど影(ダイライン)が確認できない場合を○、影が5本以下の場合を△、6本以上の場合を×とした。
【0043】
(3)位相差ムラの評価
自動複屈折率計KOBRA−CCD(王子計測機器(株)製)を用いて位相差測定を行った。測定は、環状オレフィン系重合体フィルムのTD方向に10mm間隔で合計26点について行なった。これらの値の平均値を算出し、該平均値と最大値および最小値との差が±5nmの場合を○、±5nmより大きい場合を×とした。
【0044】
(4)挟圧長さの測定
環状オレフィン系重合体を挟圧する場合と同じ条件で、タッチロールとキャスティングロールとで富士写真フィルム(株)製感圧紙(FUJIプレスケール超低圧用LLタイプ)を挟圧した。両ロールを離して感圧紙を取り出し、圧力により変色した長さ(ロールの円周方向)を求め、挟圧長さとした。
【0045】
[実施例1]
環状オレフィン系重合体として、ティコナ社製topas6015(Tg=150℃、エチレン/ノルボルネン=47/53モル比)を130℃で5時間乾燥し、スミライザーGP(酸化防止剤)を1500ppm添加したものを用いた。押出機には(株)プラスチック工学研究所製50mmφ押出機を用い、重合体温度が305℃となるように押出機のシリンダー温度を設定した。該押出機に装着されたホッパーに前記環状オレフィン系重合体を投入し、15kg/hの押出量で押出しを行なった。製造方法の概略を図1に示した。押出機(1)中で溶融された溶融状環状オレフィン系重合体は押出機に連続して配置されたリーフディスクフィルター(日本精線(株)製)を経由し、さらに連続して設けられた450mm巾Tダイ(3)から押出した。押し出された溶融状環状オレフィン系重合体(9)を、120℃に温調した400mmφのキャスティングロール(4)と、60℃に温調したタッチロール(5)により挟圧して冷却し、厚さ150μmの環状オレフィン系重合体フィルム(11)を得た。前記タッチロール(5)は、金属製無端ベルト(厚さ0.3mm)からなる外筒(7)とその内部に弾性体ロール(6)(硬度60)を有し、かつ外筒(7)内に温度調整用媒体(温水)を圧送する手段(図示せず)を備えてなるのロールであり、巾350mm(280mmφ)であった。挟圧する際には、溶融状環状オレフィン系重合体の一方の端部が15mm、他方の端部が9mm、タッチロール(5)よりはみ出た状態となるようにした。また、エアーギャップ(10)は125mm、キャスティングロール(4)とタッチロール(5)との間で溶融状環状オレフィン系重合体を挟圧した距離は20mmであった。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【0046】
[比較例1]
実施例1におけるタッチロール(5)の表面温度を15℃とした以外は、同様にして環状オレフィン系重合体フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【0047】
[比較例2]
図2に示すとおり、Tダイから押し出された溶融状環状オレフィン系重合体(9)の引き取りの際にタッチロールを用いず、130℃に温調した250mmφのキャスティングロール(11)のみを用いて成形した以外は実施例1と同様に行い環状オレフィン系重合体フィルムを得た。エアーギャップ(10)は125mmであった。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【0048】
[比較例3]
図3に示すとおり、Tダイから押し出された溶融状環状オレフィン系重合体(9)を、130℃に温調された250mmφキャスティングロール(11)と120℃に温調された250mmφタッチロール(12)とで挟圧して成形した以外は実施例1と同様に行い環状オレフィン系重合体フィルムを得た。なお使用したタッチロールは表面が弾性変形しないロールであり、その表面は鏡面仕上げであった。エアーギャップ(10)は125mm、キャスティングロールとタッチロールとの間で溶融状環状オレフィン系重合体を挟圧した距離は1mm以下(ロールとロールの接点)であった。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【0049】
[比較例4]
図4に示すとおり、Tダイから押し出された溶融状環状オレフィン系重合体(9)を、1000mmφの4本のロールで保持されてなる厚さ1mm、温度110℃の金属製無端ベルト(14)と200mmφのゴムロール(20)との接点で挟圧し、次に前記金属製無端ベルト(14)と1000mmφ挟圧用ロール(17)とで530mm挟圧して成形した以外は実施例1と同様に行い環状オレフィン系重合体フィルムを得た。エアーギャップ(10)は300mmであった。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
【0050】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の環状オレフィン系重合体フィルムの製造方法の概略図である。
【図2】比較例2に示した環状オレフィン系重合体フィルムの製造方法の概略図である。
【図3】比較例3に示した環状オレフィン系重合体フィルムの製造方法の概略図である。
【図4】比較例4に示した環状オレフィン系重合体フィルムの製造方法の概略図である。
【符号の説明】
【0052】
1: 50mmφ押出機
2: アダプターおよびコンバーター
3: 450mm巾Tダイ
4: 400mmφキャスティングロール
5: 弾性変形可能なタッチロール
6: 弾性体ロール
7: 金属製無端ベルトからなる外筒
8: 環状オレフィン系重合体フィルム
9: 溶融状環状オレフィン系重合体
10: エアーギャップ
11: 250mmφキャスティングフィルム
12: 弾性変形しないタッチロール
13: タッチロールとキャスティングロールの隙間(ロールギャップ)
14: 厚さ1mmの金属製無端ベルト
15: 金属製無端ベルトを保持するロール(1000mmφ駆動ロール)
16: 金属製無端ベルトを保持するロール(1000mmφ温度制御ロール)
17: 1000mmφ挟圧用ロール
18: 金属製無端ベルトを保持するロール(1000mmφガイドロール)
19: 剥離ロール
20: 200mmφゴムロール


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度(Tg)が100℃以上の環状オレフィン系重合体を押出機中で溶融混練し、該押出機に取り付けられたTダイからシート状に押し出した溶融状環状オレフィン系重合体を、キャスティングロールとタッチロールにより狭圧する工程を有する環状オレフィン系重合体フィルムの製造方法であって、以下の条件(1)−(4)を満たす環状オレフィン系重合体フィルムの製造方法。
条件(1):タッチロールが、弾性変形可能な金属製無端ベルトからなる外筒と、該外筒の内部に弾性変形可能な弾性体からなるロールとを有し、かつ前記外筒と弾性体ロールとの間が温度調節用媒体により満たされてなる構造のロールである
条件(2):シート状に押し出された溶融状環状オレフィン系重合体よりも巾の狭いタッチロールを用いて、前記溶融状環状オレフィン系重合体の中央部のみを挟圧する
条件(3):キャスティングロールとタッチロールにより溶融状環状オレフィン系重合体を挟圧する距離が3〜30mmである
条件(4):タッチロールの表面温度が40℃以上(Tg−20)℃以下である

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−192749(P2006−192749A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7341(P2005−7341)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】