説明

環状軌道輪モジュール及びアキシャルローラベアリング

【課題】簡易な分割構造であって取り扱いが容易で、材料ロスを少なく効率的に生産可能な環状軌道輪モジュールを提供すること。
【解決手段】相対向して位置する一対の環状軌道輪とこれら一対の環状軌道輪の間に周方向に等間隔に配設された複数のアキシャルローラとを備えたアキシャルローラベアリングに使用される環状軌道輪モジュール100であって、環状軌道輪が周方向及び/又は径方向に分割された複数の軌道セグメント130から構成される環状軌道プレート120を備えている環状軌道輪モジュール100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、風力発電機の主軸を支持する支持構造、シールド掘削機の回転するカッターディスク、カッタフレームのスラスト荷重を受けつつ支持する支持構造、又はパワーショベル、クレーン等において上部回転部を下部フレームに支持する支持構造などに使用されるような軸方向荷重を受けるアキシャルローラベアリングに装備される環状軌道輪に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、上下水道用トンネル、地下鉄用トンネル等の各種のシールド坑をシールド工法により構築するための掘削装置としてシールド掘削機が実用化されていて、このようなシールド掘削機では先端にカッターディスクのような巨大な掘削装置が回転自在に設置されており、これを支持するためにアキシャルローラベアリングが使用されている。
また、パワーショベル、クレーンのような建設機械では、自走機構を備えた下部構造に対し、ショベルアーム、ブームを備えて下部機構に対して回転自在に設置される上部機構を支持するために、アキシャルローラベアリングが使用されている。
これらの機械に使用されるアキシャルローラベアリングは、アキシャル方向に相当に大きな荷重を支持する必要があるとともに、その支持する対象の大きさゆえに、ローラベアリング自体の半径が相当に大きいものである。
【0003】
通常、アキシャル方向(若しくはスラスト方向)の荷重を支持するアキシャルローラベアリングは、図10に示されるように、例えば、上側軌道輪550及び下側軌道輪560のような一対の軌道輪と、当該一対の軌道輪の間に配置される複数のローラ510と、これら複数のローラ510を保持する保持器520とから構成されていて、それぞれは、単独の部品で形成されている(例えば、特許文献1を参照のこと)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−517239号公報(図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、本願発明が前提とするような大型のアキシャルローラベアリング500の場合には、適用される装置が大型であり、アキシャルローラベアリング500もその径は非常に大径となって、アキシャルローラベアリング500自体に印加される荷重も相当大きくなるが、そこに保持されるそれぞれのローラ510自体はかなり小さく、図10に示されるように、アキシャルローラベアリング500の外径が大径となる割には、ベアリングを構成する上下の軌道輪550、560や保持器520の幅が相対的に小さい点というにおいて、通常のベアリングとは異なる、独特の構造を備えている。
したがって、多数のローラ510がその間を転動する上下の軌道輪550、560も、径が大径である割に板幅、板厚が薄く、変形し易いものとなってしまい、通常のベアリングに使用される軌道輪のように全体を一体として成形すると、その運搬、装着作業時などに変形、破損などが生起し易く、取り扱いに細心の注意を要するものであり、作業者の負担が大きいという問題があった。
また、全体構造としてそのような変形し易い構造であるため、製作においても精度を上げることが難しく加工においても細心の注意を払う必要があり、歩留まりも上がらず作業性を向上し難いという問題があった。
【0006】
さらに、通常、軌道輪はローラと転がり接触するベアリング軌道部分とそれ以外の部分とが一体で形成されているため軌道輪全体をまとめて熱処理することとなり、ベアリング軌道と反対側の面など熱処理の不要な箇所についても区別することなく処理作業を行なわざるを得ないため、エネルギーロスなどコストアップとなるという問題があり、特に大径の軌道輪を成形する場合には、強度を確保する必要上、熱処理などの作業が不要である部分が大きくなり、全体としてかなりのコストとなってしまい、一層問題であった。
【0007】
また、従前、軌道輪を作成するものとして、比較的大判の板状の材料から円環状の素材を打ち抜き、その後熱処理等の加工を施して軌道輪を形成するものもあったが、このような軌道輪はもっぱら小型のベアリングにおいて実行されるものであって大径のベアリングに適用するには好適なものではなく、また、抜き跡として円板状の材料が残るなど廃棄される材料も多くなり、材料の有効利用が図れず高コストとなるという問題があった。
【0008】
本発明は、前述したような従来技術の問題点を解決するものであって、本発明の技術的課題、すなわち本発明の目的は、簡易な分割構造であって取り扱いが容易で、材料ロスを少なく効率的に生産可能な環状軌道輪モジュール及びアキシャルローラベアリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本請求項1に係る発明は、相対向して位置する一対の環状軌道輪とこれら一対の環状軌道輪の間に周方向に等間隔に配設された複数のアキシャルローラとを備えたアキシャルローラベアリングに使用される環状軌道輪モジュールであって、前記環状軌道輪が周方向及び/又は径方向に分割された複数の軌道セグメントから構成される環状軌道プレートを備えていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0010】
請求項2に係る発明の環状軌道輪モジュールは、請求項1に係る発明の構成に加えて、前記環状軌道プレートの軌道セグメントが、それぞれ外周側に大径弧状端部と内周側に前記大径弧状端部と同心円状の小径弧状端部と周方向両端に径方向に伸長する直線状端部とを備える扇面形状を呈していることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0011】
請求項3に係る発明の環状軌道輪モジュールは、請求項2に係る発明の構成に加えて、前記軌道セグメントの直線状端部が、前記アキシャルローラの軸線と交差する角度に形成されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0012】
請求項4に係る発明の環状軌道輪モジュールは、請求項2又は請求項3に係る発明の構成に加えて、前記軌道セグメントの直線状端部が、前記アキシャルローラの軸線と交差する角度の複数の直線状端部から形成されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0013】
請求項5に係る発明の環状軌道輪モジュールは、請求項1乃至請求項4のいずれかに係る発明の構成に加えて、前記環状軌道輪が、前記環状軌道プレートを装着する環状の凹溝を形成した環状ベースプレートを備えていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0014】
請求項6に係る発明の環状軌道輪モジュールは、請求項5に係る発明の構成に加えて、前記環状ベースプレートが、分割された複数のベースセグメントにより構成されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0015】
請求項7に係る発明の環状軌道輪モジュールは、前記請求項6に係る発明の構成に加えて、前記環状軌道プレートの分割線が、前記環状ベースプレートの分割線と同一直線上に位置しないように装着されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【0016】
請求項8に係る発明のアキシャルローラベアリングは、前記環状軌道輪の一方又は双方が請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の環状軌道輪モジュールで構成されていることにより、前述した課題を解決したものである。
【0017】
請求項9に係る発明のアキシャルローラベアリングは、請求項8に係る発明の構成に加えて、前記アキシャルローラが、前記環状軌道輪の間に設けた環状の保持器により保持され、該保持器が分割された複数の保持器セグメントより構成されていることにより、前述した課題をさらに解決したものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明は、相対向して位置する一対の環状軌道輪とこれら一対の環状軌道輪の間に周方向に等間隔に配設された複数のアキシャルローラとを備えたアキシャルローラベアリングに使用される環状軌道輪モジュールであって、環状軌道輪が周方向及び/又は径方向に分割された複数の軌道セグメントから構成される環状軌道プレートを備えていることにより、おのおのの分割された軌道セグメントはサイズも相対的に小さく手頃な大きさとなり、大径、細幅の軌道輪の場合と比べ、切削加工、熱処理などの各作業工程において、それぞれの工程のために専用の大型の加工装置若しくは処理装置を要することなく汎用性のある標準的なサイズの装置を使用して各工程を遂行でき、しかもそれぞれの工程については比較的小型であり変形の虞も小さいため作業自体も簡便となり、さらに、梱包、移送などの作業についても変形の虞が軽減されて作業負担が軽減されるため、製造における従前のような精密な作業を軽減して歩留まりを大幅に改善できるとともに、運搬、移送などの取り扱いにおいても、従前のような、変形が生じないように神経を消耗する作業を大きく低減して、作業性を大きく改善することができる。
【0019】
また、環状軌道プレートを分割した軌道セグメントにより構成したことにより、原材料から円環状の軌道部材を切り出すのではなく、弧状短冊状の軌道セグメントを並べて切り出すように材料取りすることが可能となるため、例えば環状部材を打ち抜いたときに従前発生していた円板状の廃材のような、抜き跡として廃棄せざるを得ない材料の発生を大幅に軽減して、原材料を有効に活用することができる。
さらに、環状軌道プレートの一部が損壊した場合には、損壊した箇所のみ交換すれば再び使用することが可能となるため、保守作業においても、小型の部品を交換するのみでよく、大型の部品を丸ごと廃棄するような材料の無駄がなくなり、一部分の部品を交換することで材料のロスを大幅に低減でき、しかも、保守作業においても、部品交換作業における大型の部品を取り扱う神経の消耗する作業を大幅に低減するなど、保守作業における作業性を大幅に改善することができる。
【0020】
請求項2に係る発明の環状軌道輪モジュールは、請求項1に係る発明が奏する効果に加えて、環状軌道プレートの軌道セグメントが、それぞれ外周側に大径弧状端部と内周側に大径弧状端と同心円状の小径弧状端部と周方向両端に径方向に伸長する直線状端部とを備える扇面形状を呈するものであることにより、それぞれの軌道セグメントを円弧と直線とを組み合わせた加工の容易な形状としたため、軌道セグメントの打ち抜き、切削などの加工作業を簡便化して、高価な工作機械を要することなく、加工作業を簡便にしかも低コストで実行することができる。
【0021】
請求項3に係る発明の環状軌道輪モジュールは、請求項2に係る発明が奏する効果に加えて、軌道セグメントの直線状端部がアキシャルローラの軸線と交差する角度に形成されていることにより、軌道セグメント相互の突き合わせ部とアキシャルローラの軌道面との接触線とが平行になることがなく、環状軌道プレート上をアキシャルローラが転動するときに接触線が段差を乗り越えることがないため、アキシャルローラが環状軌道プレート上を円滑に転動して隣接する軌道セグメントに移動し、衝突による騒音の発生を低減することができるとともに、アキシャルローラの転動面又は環状軌道プレートの表面を損傷する虞を著しく低減して、寿命長く使用することができる。
【0022】
請求項4に係る発明の環状軌道輪モジュールは、請求項2又は請求項3に係る発明が奏する効果に加えて、軌道セグメントの直線状端部がアキシャルローラの軸線と交差する角度の複数の直線状端部から形成されていることにより、軌道セグメント相互の突き合わせ部が小ピッチのジグザグ状となり、当該突き合わせ部とアキシャルローラの軌道面との接触線とが同一直線上となることがなく、環状軌道プレート上をアキシャルローラが転動する際に段差を乗り越えることがないため、アキシャルローラが環状軌道プレート上を円滑に転動して隣接する軌道セグメントに移動し、衝突による騒音の発生を低減することができるとともに、アキシャルローラの転動面又は環状軌道プレートの表面を損傷する虞を著しく軽減して、寿命長く使用することができる。
また、軌道セグメント間に生ずるジグザグ状の突き合わせ部のピッチが小さくなるため、隣接する軌道セグメント間に生ずる虞のある段差をより小さくして、アキシャルローラ及び環状軌道プレートの表面で衝突の生ずる可能性を一層低減することができる。
【0023】
請求項5に係る発明の環状軌道輪モジュールは、請求項1乃至請求項4のいずれかに係る発明が奏する効果に加えて、環状軌道輪が、環状軌道プレートを装着する環状の凹溝を形成した環状ベースプレートを備えていることにより、アキシャルローラベアリングの環状軌道輪を、硬度や表面の加工精度を求められて材料コスト及び加工コストをともに一定のレベルを必要とする環状軌道プレート部分と、全体の強度を保持するために所望の大きさを必要とするが特別の加工を要せず汎用材料で構わない環状ベースプレート部分とにより構成したため、全体として大形の製品であっても、熱処理、精密切削加工などの工程についてはこれらの処理の必要な部分のみに施すようにして加工処理作業を最小限とし、単に強度を維持する部分については安価な材料を使用して材料コストの低減を図るなど、製品全体としてはその機能を維持しつつ、原料コスト及び製作コストを著しく低減することができる。
【0024】
請求項6に係る発明の環状軌道輪モジュールは、請求項5に係る発明の奏する効果に加えて、環状ベースプレートが分割された複数のベースセグメントにより構成されていることにより、前述のように環状軌道プレートのみならず環状ベースプレートについてもセグメント化して、各ベースセグメントの加工を、大径物品を扱う場合のような神経を消耗する作業から解放して簡便化、効率化するとともに、無駄の少ない材料取りが可能となるため、環状ベースプレートについても、製作加工においても専用機械を必要とすることなく、汎用機械を使用して無駄なく効率的に実行することができるとともに、原材料を有効に利用して無駄を大幅に低減することができる。
【0025】
請求項7に係る発明の環状軌道輪モジュールは、請求項6に係る発明の奏する効果に加えて、環状軌道プレートの分割線が前記環状ベースプレートの分割線と同一直線上に位置しないように装着されていることにより、環状軌道プレートの分割線と環状ベースプレートの分割線とが一致することにより生起する虞のある環状軌道輪の分解や、当該分割線の重なった箇所における段差の拡大を予防するため、大径のアキシャルローラベアリングの軌道輪を構成する環状軌道プレート及び環状ベースプレートを複数のセグメントにより構成することにより生じ易い環状軌道輪の強度低下を防止し、またアキシャルローラが段差のある軌道面を転動する際に発生する虞のある騒音の上昇やアキシャルローラ転動面又は軌道輪表面の損耗を未然に防止することができる。
【0026】
請求項8に係る発明のアキシャルローラベアリングは、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の環状軌道輪モジュールを備えることにより、これらの請求項のいずれかに記載の環状軌道輪モジュールと同様の効果を奏するアキシャルローラベアリングを形成することができるとともに、本発明のような複数のセグメントにより構成される環状軌道輪を従前のアキシャルローラベアリングに適用して構成するため、従前より稼働中のアキシャルローラベアリングについても順次、本発明のような製作効率の高く、メンテナンス性に優れたものと改善してゆくことができる。
【0027】
請求項9に係る発明のアキシャルローラベアリングは、請求項8に記載のアキシャルローラベアリングの奏する効果に加えて、アキシャルローラが環状軌道輪の間に設けた環状の保持器に保持されて保持器が分割された複数の保持器セグメントより構成されていることにより、アキシャルローラベアリングを構成する部品を全てセグメント化して小型の部品で構成するため、アキシャルローラベアリングの全体について、簡単な構造であって、作業性に優れ、歩留まり高く効率的に製作することができるとともに、保持器の一部が損壊した場合には損壊した箇所のみ交換すれば再び使用することが可能となって、保守作業における作業性を大幅に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施例である環状軌道輪モジュールの全体斜視図。
【図2】図1に示す環状軌道輪モジュールの一部分解斜視図。
【図3】図1に示す環状軌道輪モジュールに使用される軌道セグメントの平面図。
【図4】本発明の第2実施例である環状軌道輪モジュールの一部分解斜視図。
【図5】図4に示す環状軌道輪モジュールに使用される環状軌道セグメントの平面図。
【図6】本発明の第3実施例である環状軌道輪モジュールの一部分解斜視図。
【図7】図6に示す環状軌道輪モジュールに使用される軌道セグメントの平面図。
【図8】本発明の第4実施例である環状軌道輪モジュールの全体斜視図。
【図9】図8に示す環状軌道輪モジュールの一部分解斜視図。
【図10】従来技術のアキシャルローラベアリングの一部分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、相対向して位置する一対の環状軌道輪とこれら一対の環状軌道輪の間に周方向に等間隔に配設された複数のアキシャルローラとを備えたアキシャルローラベアリングに使用される環状軌道輪モジュールであって、環状軌道輪が周方向及び/又は径方向に分割された複数の軌道セグメントから構成される環状軌道プレートを備えていて、簡易な分割構造であって取り扱いが容易で、材料ロスを少なく効率的に生産可能なものであれば、その具体的な態様はいかなるものであっても何ら構わない。
【0030】
すなわち、環状軌道輪を形成する環状軌道プレートの材料は、大径ベアリングのような高負荷に耐え、通常のローラベアリングに使用されているような、加工精度を高くできて耐摩耗性の高いものであれば、高・中炭素合金鋼、浸炭鋼、軸受鋼、耐食軸受鋼、炭素鋼、などで構わない。
また、アキシャルローラとの転がり摩擦における耐摩耗性を向上する上で、表面に、熱硬化、含浸硬化、高周波焼入などの硬化処理を施すことが好ましい。
環状軌道プレートを支持するベースプレートの材料は、この部分自体は直接耐摩耗性などの特性を要しないので、一般構造部材に使用される圧延鋼材や、炭素鋼材を使用して構わない。
【0031】
また、軌道セグメント相互、又はベースセグメント相互については、アキシャルローラを設置する箇所に並べて装着するだけでも構わないが、表面の平面性を改善したり強度を向上したりするよう、セグメント相互に溶接、ろう付けなどの方法で接合してもよい。
【0032】
環状軌道プレートを分割する仕方は、大径で幅が狭い場合には周方向に分割することが適切であるが、環状軌道プレートが径方向に広幅である場合には、周方向ではなく径方向に分割して構成してもよい。
また、分割する形態としては、同形のセグメントを活用する場合には、扇面状が好適であるが、さらに巨大な軸受を形成する場合には、正方形、長方形などの形状で形成して、軌道面にタイルを敷き詰めるようにして形成してもよい。
また、側端部の形状についても、直線、ジグザグ状とする他に、弧状、らせん状などの形状としてもよいが、隣接するセグメントどうしの間に段差が生じないように留意する必要がある。
さらに、隣接する軌道セグメントどうしを隙間なく配置してもよいし、間に潤滑材を流通させる細溝を構成するような隙間を設けて配置してもよい。
【実施例1】
【0033】
以下、本発明の第1実施例である環状軌道輪モジュール100について、図1乃至図3を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施例である環状軌道輪モジュール100の全体斜視図であり、図2は、図1に示す環状軌道輪モジュール100の一部分解斜視図であり、図3は、図1に示す環状軌道輪モジュール100に使用される軌道セグメント120の平面図である。
【0034】
本第1実施例の環状軌道輪モジュール100は、図1に示すように、基部を構成してベアリングの強度を保持する環状ベースプレート110と、当該環状ベースプレート110に刻設された環状の凹溝に装着される環状軌道プレート120とから構成されている。
環状軌道プレート120は、複数の軌道セグメント130に分割されていて、本第1実施例では、6枚の軌道セグメント130から構成されている。
当該軌道セグメント130の幅は、原則として、軌道セグメント130を並設して形成される環状軌道プレート120の表面を転動するアキシャルローラの軸方向長さに合わせ、アキシャルローラの転動範囲に相当する幅とする。
【0035】
環状ベースプレート110と軌道セグメント130とは異なる材料で形成され、軌道セグメント130は、耐摩耗性に優れた高炭素クロム鋼などを使用していて、アキシャルローラが転動する表面は精度高く加工され、適宜の硬化処理が施されている。
他方、環状ベースプレート110は、ベアリングの完成時においてアキシャル加重を支持することとなるので、環状軌道プレート120よりは幅、厚さともに大形に形成されているが、精度の高い加工や硬化処理などの熱処理を施す必要がないので、比較的安価な圧延鋼材などで形成されている。
なお、環状ベースプレート110に求められる大きさや強度については、形成されるアキシャルローラベアリングを取り付ける対象部位の強度などに依存し、取り付け箇所の強度が大きくない場合には相当強度の高い構造にする必要があるが、取り付け箇所の強度が充分大きい場合には、環状ベースプレート110を小さくすることができ、場合によっては、環状ベースプレート110なしで環状軌道プレート120のみで構成してもよい。
軌道セグメント130の大きさは、原則としてアキシャルローラから印加される押圧力や、アキシャルローラの転動速度などに基づいて、その厚さ、幅などが決定される。
【0036】
図3に示されるように、それぞれの軌道セグメント130は、大径の外周弧状部131、小径の内周弧状部132及び両側の直線状端部133を備える扇面状の形状を呈するもので、製作においては、円弧状の加工、及び直線状の加工により製作できるので、加工工程を著しく簡便化することができる。
また、6枚の軌道セグメント130をそのまま環状に材料取りする必要はなく、長方形状の原材料の板面に並列に材料取りして円板状の抜き跡が生じないようにし、かつ、各セグメント間の間隔をなるべく小さくすれば、抜き跡を小さくして、原材料を無駄なく有効に活用することができる。
そして、各セグメントを加工に適した程度の大きさとすることができるので、特別に大型の熱処理炉や工作機械を用意することもなく、比較的身近に存在する熱処理炉や工作機械で使用することができるため、大寸法の材料について慣れない加工作業を行うことなく、作業の容易な大きさの材料について、普段の作業の延長で作業を遂行することができて、製作作業の作業効率を向上することができる。
【0037】
以上のようにして得られた本発明の第1実施例の環状軌道輪モジュール100は、環状軌道輪が周方向に分割された複数の軌道セグメント130から構成される環状軌道プレート120を備えていることにより、大径の環状軌道輪を製作するに際して、個々の軌道セグメント130は加工、処理に適した手頃な分割体として、加工、処理作業における作業性を改善して製作効率を大幅に向上できるとともに、運搬、移送などの取り扱いにおいても、煩瑣な作業を大きく低減して、作業性を改善することができる。
さらに、効率的な材料取りを可能として、原材料を最大限に有効活用することができるとともに、保守作業において、破損した箇所を部分的に交換することで、メンテナンス時の無駄を低減し、大型で変形し易い部品を取り扱うこともなく保守作業の効率化を図ることができるなど、その効果は甚大である。
【実施例2】
【0038】
次に、本発明の第2実施例である環状軌道輪モジュール200について、図4及び図5を参照して説明する。
図4は、本発明の第2実施例である環状軌道輪モジュール200の一部分解斜視図であり、図5は、図4に示す環状軌道輪モジュール200に使用される軌道セグメント230の平面図である。
なお、本第2実施例の環状軌道輪モジュール200は、第1実施例の環状軌道輪モジュール100と比べ、軌道セグメント230の形状のみを異にするが、その他の構造については特に異なるところがないので、その他の共通する事項については下2桁を共通する200番代の符号を付すのみとして詳細な説明を省略する。
【0039】
本第2実施例の環状軌道輪モジュール200は、6枚の軌道セグメント230を備える点では第1実施例の環状軌道輪モジュール100と同様である。
第2実施例の備える軌道セグメント230は、大径の外周弧状部231、小径の内周弧状部232と、側面側の一端に、環状軌道プレートの中心から放射状に延長した直線と角度Xで交差する直線状端部233を有し、他端に、これと当接可能な角度の直線状端部233を有していることに特徴を有するものであり、これら軌道セグメント230を並設して環状軌道プレート220を形成すると、隣接する軌道セグメント230相互の間に、前述した放射状直線と交差するように突き合わせ部を形成することとなる。
【0040】
一方、環状軌道プレート220の軌道面を転動するアキシャルローラは、環状軌道プレート220の中心から放射状にその軸線を有していて、アキシャルローラの転動面と環状軌道プレート120の表面との接触線は軸線と同様に放射状の直線となるので、軌道セグメント230相互の当該突き合わせ部は、アキシャルローラの接触線と同一線となることはなく、交差することとなる。
これにより、アキシャルローラが環状軌道プレート220上を転動して先の環状セグメント230から次の環状セグメント230に移行する際にも、突き合わせ部において衝撃を受けることなく滑らかに転動移動することが可能となる。したがって、この部分においてアキシャルローラと軌道セグメント230の直線状端部233とが衝突することもなく、大きな騒音が発生することを防止できるとともに、軌道セグメント230の端部やアキシャルローラの転動面を損傷する虞を格段に減殺し、これらを長寿命化することができる。
【実施例3】
【0041】
同様に、本発明の第3実施例である環状軌道輪モジュール300について、図6及び図7を参照して説明する。
図6は、本発明の第3実施例である環状軌道輪モジュール300の一部分解斜視図であり、図7は、図6に示す環状軌道輪モジュール300に使用される軌道セグメント330の平面図である。
なお、本第3実施例の環状軌道輪モジュール300は、第2実施例の環状軌道輪モジュール200と比べ、軌道セグメント330の形状のみを異にするが、その他の構造については特に異なるところがないので、その他の共通する事項については下2桁を共通する300番代の符号を付すのみとして詳細な説明を省略する。
【0042】
本第3実施例の環状軌道輪モジュール300は、6枚の軌道セグメント330を備える点では第2実施例の環状軌道輪モジュール200と同様である。
第3実施例の備える軌道セグメント330は、大径の外周弧状部331、小径の内周弧状部332と、側面側の一端に、環状軌道プレート320の中心から放射状に延長した直線と角度Yで交差する2つの直線で構成されるV字状の直線状端部333、334を有し、他端に、前述した一端と当接可能な角度の同じく逆V字状の直線状端部333、334を有していることに特徴を有するもので、この軌道セグメント330を並設して環状軌道プレート320を形成すると、隣接する軌道セグメント330相互の間に、前述した放射状直線と交差するV字状の突き合わせ部を形成することとなる。
【0043】
これにより、アキシャルローラが環状軌道プレート320の軌道面を転動して先の環状セグメント330から次の環状セグメント330に移行する際にも、突き合わせ部において衝撃を受けることなく滑らかに転動移動することが可能となるので、軌道セグメント330の端部333や、アキシャルローラの転動面を損傷する虞をさらに減殺して、これらを長寿命化することができる。
特に、V字状の突き合わせ部として、突き合わせ部の周方向寸法を小さくして両者の間に生ずる段差をより小さくするとともに、仮に段差が生じたとしても1ヶ所ではなく2ヶ所でアキシャルローラが乗り上げて移行するため、軌道セグメント330端面又はアキシャルローラの転動面に発生する衝撃をよい小さくすることができる。
なお、2つの直線状端部が形成する角度Yは、同じ角度であってもよいし、異なる角度であってもよい。
【0044】
以上のように形成した第2実施例の環状軌道輪モジュール200及び第3実施例の環状軌道輪モジュール300は、前述した第1実施例の環状軌道輪モジュール100の奏する効果に加えて、軌道セグメント230、330の直線状端部233、333、334がアキシャルローラの軸線と交差する角度に形成されていることにより、アキシャルローラが環状軌道プレート220、320の軌道面を滑らかに転動移動して、転動の際に発生する騒音を低減することができるとともに、アキシャルローラ及び環状軌道プレート220、320を長寿命化することができる。
【実施例4】
【0045】
さらに、本発明の第4実施例である環状軌道輪モジュール400について、図8及び図9を参照して説明する。
図8は、本発明の第4実施例である環状軌道輪モジュール400の全体斜視図であり、図9は、図8に示す環状軌道輪モジュール400の一部分解斜視図である。
なお、本第4実施例の環状軌道輪モジュール400は、第1実施例の環状軌道輪モジュール100と比べ、ベースプレート410の構造のみを異にするが、その他の構造については特に異なるところがないので、その他の共通する事項については下2桁を共通する400番代の符号を付すのみとして詳細な説明を省略する。
【0046】
本第4実施例の環状軌道輪モジュール400は、環状軌道プレート420を保持する環状ベースプレート410についても複数のベースセグメント440に分割して構成したことに特徴を有するものである。
第1実施例などでは、環状軌道プレートを周方向に分割された扇面形状としていたが、本実施例では、環状軌道プレート420について分割された軌道セグメント430から構成するとともに、環状ベースプレート410についても、図8及び図9に示されるように、例えば周方向に複数に分割されたベースセグメント440の集合体として構成している。
これにより、前述した第1実施例乃至第3実施例の環状軌道プレート120、220、320の場合と同様に、大径のベースプレート410についても、大径の一体に形成したものとして取り扱う必要がなく、各部分を構成する、相対的にサイズの小さく、加工や、移送に手頃な大きさのセグメントとしたため、環状軌道プレート420をセグメント化した場合と同様に、その製作、取り扱いの簡便化や効率化を図ることができる。
【0047】
ここで留意すべきは、環状ベースプレート410と環状軌道プレート420とをともにセグメント化した場合、それぞれのセグメントの突き合わせ部、すなわちそれぞれのプレートの分割線について、同一直線上に位置させないことである。
両者を同一直線上に位置させると、軌道セグメント430とベースセグメント440とが同じ位置で分離し、組み立て後にもばらばらに分離し易くなってしまい、両者を組立てた環状軌道輪モジュール400を一体として取り扱えず、取り扱いにおいて不便となってしまう。また、ベースセグメント440の寸法誤差と軌道セグメント430の寸法誤差とが同じ位置で重なって現出することになり、隣接する軌道セグメント430間に生ずる段差が大きくなって、アキシャルローラが環状軌道プレート420上を転動する際に、当該突き合わせ部において乗り越えるべき段差が大きくなり、この部分で騒音が発生したり、軌道セグメント430の端部やアキシャルローラの転動面に衝撃を与えて損傷する可能性が上昇することも考えられる。
これらのことを考慮して、これらの突き合わせ部、すなわち分割線を重ならないように位置づけるべきである。
この点に関して、軌道セグメント430の直線状端部433の角度をベースセグメント440の直線状端部443の角度とを異なる角度に設定するようにしても、突き合わせ部が近接して位置した場合に生起する、突き合わせ部が同一直線に重ね合わされて分解し易くなる虞や、前述したような寸法誤差が累積して段差を生ずる虞を解消することができる。
【0048】
また、上述した第4実施例の環状軌道輪モジュール400では、環状ベースプレート410及び環状軌道プレート420をそれぞれセグメント化して、構成部品の製作、保守などの簡便化、製作作業の効率化を図っているが、セグメント化の対象としてはこれら2種の部品に限ることはなく、アキシャルローラを保持する保持器についても、多数の部品に分割、セグメント化すると、製作、保守などの効率を向上することができる。
例えば、円環状の保持器についても、上述した軌道セグメントのように扇面形状の部品に分割して構成し、ベアリング製作の最終段階で一体的に組み上げるようにすることによりセグメント化することができる。
これにより、軌道輪を構成する環状ベースプレート410、環状軌道プレート420とあわせて、アキシャルローラベアリングを構成する全ての部品をセグメント化し、大径ベアリングを製作する際に常に問題であった、大径の変形し易い部品を製作したり、梱包、移送したりする際に生ずる煩瑣な作業から解放されて、取り扱い易い手頃な大きさの部品セグメントの状態で、製作、梱包、搬送などを行うことができることとなる。
【0049】
以上のように形成される本第4実施例の環状軌道輪モジュール400は、前述した第1実施例乃至第3実施例である環状ベアリングモジュール100、200、300の奏する効果に加えて、ベースプレート410が分割された複数のベースセグメント440により構成されていることにより、ベースプレート410の製作についても、各セグメントを相対的にサイズの小さく加工に手頃な大きさとして、一体の大径の部品を製作するときのような製造における精密な作業を解消して歩留まりを大幅に改善できるとともに、運搬、移送などの取り扱いにおいても、従前のような神経を消耗する作業を大きく低減して、作業性を著しく改善することができる。
【0050】
また、原材料から円環状のベースプレート410を切り出すのではなく、弧状短冊状のベースセグメント440を並べて切り出すように材料取りすることが可能となるため、抜き跡として廃棄せざるを得ない材料の発生を大幅に軽減して、原材料を有効に活用することができ、さらに、環状ベースプレート410の一部が損壊した場合には、損壊した箇所のベースセグメント440のみ交換すれば再び使用することが可能となるため、保守作業においても、大型の部品を丸ごと廃棄するような材料の無駄がなくなり、一部分の部品を交換することで材料のロスを大幅に低減でき、しかも、保守作業における神経の消耗する作業を大幅に低減するなどその効果は甚大である。
【符号の説明】
【0051】
100、200、300、400 ・・・ 環状軌道輪モジュール
110、210、310、410 ・・・ 環状ベースプレート
111、211、311、411 ・・・ 凹溝
120、220、320、420 ・・・ 環状軌道プレート
130、230、330、430 ・・・ 軌道セグメント
131、231、331 ・・・ 外周弧状部
132、232、332 ・・・ 内周弧状部
133、233、333、334 ・・・ 直線状端部
440 ・・・ ベースセグメント
500 ・・・ アキシャルローラベアリング
510 ・・・ (アキシャル)ローラ
520 ・・・ もみぬき保持器
521 ・・・ ポケット
550 ・・・ 上部軌道輪
560 ・・・ 下部軌道輪


【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対向して位置する一対の環状軌道輪とこれら一対の環状軌道輪の間に周方向に等間隔に配設された複数のアキシャルローラとを備えたアキシャルローラベアリングに使用される環状軌道輪モジュールであって、
前記環状軌道輪が、周方向及び/又は径方向に分割された複数の軌道セグメントから構成される環状軌道プレートを備えていることを特徴とする環状軌道輪モジュール。
【請求項2】
前記環状軌道プレートの軌道セグメントが、それぞれ外周側に大径弧状端部と内周側に前記大径弧状端と同心円状の小径弧状端部と周方向両端に径方向に伸長する直線状端部とを備える扇面形状を呈するものであることを特徴とする請求項1に記載の環状軌道輪モジュール。
【請求項3】
前記軌道セグメントの直線状端部が、前記アキシャルローラの軸線と交差する角度に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の環状軌道輪モジュール。
【請求項4】
前記軌道セグメントの直線状端部が、前記アキシャルローラの軸線と交差する角度の複数の直線状端部から形成されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の環状軌道輪モジュール。
【請求項5】
前記環状軌道輪が、前記環状軌道プレートを装着する環状の凹溝を形成した環状ベースプレートを備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の環状軌道輪モジュール。
【請求項6】
前記環状ベースプレートが、分割された複数のベースセグメントにより構成されていることを特徴とする請求項5に記載の環状軌道輪モジュール。
【請求項7】
前記環状軌道プレートの分割線が、前記環状ベースプレートの分割線と同一直線上に位置しないように装着されていることを特徴とする請求項6に記載の環状軌道輪モジュール。
【請求項8】
前記環状軌道輪の一方又は双方が請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の環状軌道輪モジュールで構成されていることを特徴とするアキシャルローラベアリング。
【請求項9】
前記アキシャルローラが、前記環状軌道輪の間に設けた環状の保持器に保持され、該保持器が分割された複数の保持器セグメントより構成されていることを特徴とする請求項8に記載のアキシャルローラベアリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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