説明

甘藷蒸切干し製造における中白の発生を防止し澱粉の酵素分解を促進する蒸し方法および装置

【課題】 甘藷蒸切干し製造における中白の発生を防止し澱粉の酵素分解を促進する蒸し方法および装置の提供。
【解決手段】 芋を蒸す際に、蒸器の内部が少し陽圧になるような蒸器の構造にして蒸器の温度を少し高めにし、蒸器に十分水分を含ませ、芋の表面で蒸気が凝縮水になるようにして大量の凝縮熱を発生させる方法で蒸し、芋の中心まで充分に糊化させる。また、蒸しの工程で、55〜75℃の中間温度を長めに維持するように、蒸器の圧力を調節し、澱粉の糊化と酵素(アミラーゼ)による分解を促進させ、甘味のあるアルトースを多く生成させる品質の良い甘藷蒸切干の原料を製造することが出来る蒸し方法および装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農畜水産物およびその加工品を蒸す技術の改良に属する。
【背景技術】
【0002】
伝統的には木製の枠を積み重ねた大型のセイロ(蒸籠)で蒸している。現在の多くは、大型のセイロに甘藷を入れてボイラーの蒸気を下から入れて蒸すか、網製のカゴに大きさ別に甘藷を詰め、厚手のシートでできた袋を被せ、下から蒸気を入れて蒸す方法がとられている。この作業は冬場に屋外で行われることが多いことと、特に後者は開放系であるため温度が上昇しにくく、蒸しに長時間かかり、しかも充分な高温が維持できない。このために中白が発生しやすく、中白の防止も難しい。
【特許文献1】特開2003−47429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者は、蒸器にボイラーの蒸気を直接導入して蒸した場合には中白が多く発生し、ボイラーの蒸気圧を上げたり、蒸気を釜の中の湯に通した場合には中白があまり発生しないと言うことを発見した。この理由は、水を多く含んだ蒸気で蒸した場合には、芋の表面で発生する蒸気の凝縮熱が作用しているのではないかと考えた。また同時に、蒸器内の圧力を調節することによって芋の中のアミラーゼを効果的に作用させることができ、マルトースを多く生成させることが可能であると考えた。この両者を実現するための検討から本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0004】
軽量合金やステンレスなどの金属で作った気密性の良い大型の蒸し装置(図1)によって各段の蒸気の漏れを少なくし、上部の排気口1の調節弁16を調節して少し陽圧がかかる状態で芋を蒸すことによって中白の発生をなくすものである。また、最下部の湯8の入った円筒形の容器(釜:図4)に装着した散気管10を通して蒸気に水分を含ませ、この蒸気で芋を蒸すことによって中白の発生をなくすものである。
さらに、蒸し工程における蒸気圧力の調節によって甘藷に含まれるアミラーゼを効果的に作用させ、マルトースを多く生成させるように、55〜75℃の中間段階の温度を長く保つことが出来るようにするものである。
【0005】
請求項1は、最上部の蓋(図2)と各平型円筒形網底の容器(蒸器:図3)および最下部の水の入った円筒形の容器(釜:図4)に、蒸気漏れがないようにパッキン17を用い、数カ所をクリップ3で迅速に留められ、容易に陽圧にすることができる(図1)。最下部の水容器(釜)には、蒸気を湯に通す散気管10があり、ボイラーからの蒸気を導入するための管を簡単に装脱着できる接続部18がある。水容器(釜)と接続部の構造は図4に示す。
【0006】
請求項2は、最上部の蓋に数個の排気口1があり、任意の数と大きさで備え、排気口調節弁を開閉することにより蒸し装置内部の圧力と温度を調整できる。最下部、中央部および最上部の平型容器内部の温度および芋の中心温度、容器中央部の圧力変化は、記録計12およびそのためのセンサー13、14でモニターし、最適な蒸し条件を作り、それを維持することが出来る。
【発明の効果】
【0007】
蒸器に温度モニターを設置し、芋の中心温度の経過をモニターしながら蒸す方法について検討した。その結果、図6のように釜の湯に蒸気を導入し、その蒸気が蒸器の上段に達するとともに、最上段である5段目の蒸器内温度が概ね90℃以上になり、小さい芋の中心温度が概ね50℃に達した時点で、ボイラーからの蒸気の圧力を下げ、50分程度その状態を維持する。その後、糊化促進と中白防止を目的とした98℃以上の蒸し環境に必要なボイラーの圧力をゲージ圧0.8kgf/cmに上げる2段加熱での制御が干芋の品質向上に有効であることを確認した。
【実施例】
【0008】
蒸し装置は、図1のように組み上げる。原料の甘藷は先ず水で洗浄し、大きさ別に選別する。蒸し装置の平型円筒形網底の容器に大きさ別に芋15を収納して(図3)大きいものから順番に重ね、途中からの蒸気の漏れをパッキン17により防止しつつ下から蒸気を通して蒸し上げる。一定時間を経て蒸し上がったものを、上から順に容器を蒸し装置から外し、芋を剥皮工程に移す。蒸し上がっていないものの容器は更に蒸しを継続する。
【0009】
蒸し装置の平型円筒形網底の容器を図1のように例えば5段積み上げるとして、下から大きい順に収納する。原料甘藷は中間の大きさのものが多くなるので、「泉13号」を例にとると、下から850〜950gの芋が1段、600〜850gが2段、450〜600gが1段、350〜450gが1段というように収納する。原料芋の品種によって大きさの分布は異なるので、原料品種によって選別時の大きさの区分を考える必要がある。
【0010】
選別した原料芋を重量別に容器に収納し、これを積み重ねた後、蒸し装置の最下部の水容器(図4)に湯を入れ、ボイラーからの配管を最下部の容器の接続口18に接続し、ゲージ圧を0.8kgf/cm以上の条件で散気管10を通して蒸気を湯に吹き込む。蒸気が円筒形容器の上まで登ってきたことを温度モニターで観察しながら、最上部の円筒形容器内の芋の中心温度が50℃付近に達したことを確認したら、排気口の調節弁16を開いてゲージ圧を下げ、さらに、蒸気圧測定ゲージ7を見ながら、蒸気圧調節弁6を調節し蒸気を絞りゆっくりと80℃付近まで温度が上昇するよう50分間ほどその状態を維持する。その後、温度が80℃を越えたら、排気口の調節弁16を閉め、蒸気圧調節弁6を調節し圧力を元のレベルにまで上げ、蓋に取り付けた蒸気圧力ケージがやや陽圧になるようにし、この状態を維持して芋を蒸し上げる。
【0011】
蒸気のゲージ圧を再度0.8kgf/cm以上にまで上げ、それぞれの大きさの芋を収納している円筒形容器内の芋の中心温度が98℃に達してから、それぞれの大きさに対応する必要時間維持して蒸し上げる。蒸し工程が終了した蒸し容器は上から取り外し、蒸し上がった芋は剥皮工程に移す。
【0012】
【表1】

【0013】
表1は、ボイラーのゲージ圧を0.8kgf/cmから1.1kgf/cmに高めることで、芋の中心温度が98℃に到達してから中白の発生がなくなるまでの経過時間について比較試験を行った結果である。また、0.8kgf/cmの蒸気を釜の湯の中に通過させてから蒸器に導入することで、中白の発生が抑えられるかについても検討した。このとき供試した甘藷は、最も量的に多い600gのものを用いた。
ゲージ圧1.1kgf/cmで蒸器中に直接蒸気を送った場合、0.8kgf/cmの場合より短時間で中白が消えることを確認した。また、ゲージ圧0.8kgf/cmの蒸気であっても、釜の湯の中に通過させることによって、蒸し時間をさらに短縮することができた。この結果から、より低いゲージ圧の蒸気で甘藷を蒸し上げられる条件として、蒸気を釜の中の湯を通過させ、水蒸気を多く含ませる方式が良いことを確認した。
【0014】
【表2】

【0015】
表2に示すように、0.8kgf/cmの蒸気を湯に通して蒸器に導入した場合には、芋の重量に対してその1/10の値に10分を加えた加熱時間維持すれば、概ね中白が消えることが判る。このようにして、それぞれの大きさの芋を入れた容器の必要蒸し時間を算定する。
【0016】
甘藷に含まれるβ-アミラーゼは比較的熱に強く、50〜60℃でも高い活性を示し、70℃以上でも活性のあることが知られている。しかしながら、甘藷を蒸す場合、一般には良好な活性状態を持続できる温度範囲に芋の温度を長時間維持することは難しいと考えられる。実際の加工工場の現場における木製の大型蒸器を用い、最も小さい400gの芋を最上段の5段目に収納して蒸したところ、芋の中心温度が50℃から70℃を経過する時間は約10分間であった。
【0017】
甘藷のβ-アミラーゼ粗酵素の加温時間を5分間、15分間、30分間、60分間とし、40℃から80℃まで10℃間隔の温度における生成マルトースの量を検討した結果、マルトースの生成量は、図5に示すように、50℃で最大を示し、40℃から60℃の間で良好な活性を示すことが確認された。また、70℃ではその活性が急激に低下して半減し、80℃では失活することが確認された。甘藷澱粉は、55〜65℃の温度で糊化を開始することが知られている。そこで、甘藷の甘みを蒸し工程で増加させるには、55℃から75℃の温度帯を長く維持する工夫が有効であることが明らかになった。
【0018】
実際の大型蒸器を用いた蒸し工程でどの程度マルトースが蓄積する可能性があるかを確認するため、55℃から75℃の温度帯での滞留時間を検討した。温度測定には、それぞれ約400g、600g、800gの芋を用いた。この結果、一番小さな400gの甘藷を収納した下から5段目のものでは、55℃から75℃の温度域を通過する時間はわずか12分間であり、充分なマルトースの蓄積効果が得られないことが考えられた。
また、蒸器の1段目、3段目、5段目の芋の中心温度測定において、400gの芋の場合では約12分間、600gでは24分間、800gでは35分間の通過時間が得られることを確認した。澱粉のマルトース転換に必要な時間と比較すると、600g、800gでは概ね必要時間は確保されているものの、400gの場合、この滞留時間を長くする必要があると考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に関わる蒸し装置の構成を示す外観図である。
【図2】蒸し装置の蓋の図である。
【図3】蒸し装置の平型円筒形網底の容器(蒸器)の図である。
【図4】蒸し装置の円筒形の水容器(釜)の図である。
【図5】甘藷中のβ‐アミラーゼ粗酵素を使って澱粉溶液を加水分解した時のマルトース生成の適正加熱温度と時間を説明する図である。
【図6】ゲージ圧0.8kgf/cmで湯通し蒸気を導入する方式で蒸しあげたときの芋の中心温度と各段の蒸器温度の履歴
【符号の説明】
【0020】
1…排気口
2…蓋
3…クリップ
4…底網
5…容器つば
6…蒸気圧調節弁
7…蒸気圧測定ゲージ
8…湯
9…釜底
10…散気管
11…水位計
12…記録計
13…温度センサー(容器内)
14…温度センサー(芋中心)
15…甘藷芋
16…排気口の調節弁
17…パッキン
18…ワンタッチ接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湯の入った密封性のある円筒形の容器を任意の段数に積み重ね、容器の下部から、水分を多く含ませた蒸気を導入し甘藷を蒸しあげることによって中白の発生を防止する蒸し方法および装置。
【請求項2】
請求項1の蒸しあげ初期において、蒸器内部の蒸気圧力を下げ、55〜75℃の温度帯を通過する時間を長くすることにより、澱粉の糊化および酵素分解を促進して、中白の発生を防止する蒸し方法および装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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