説明

生きた細胞をフィルタ上で分離して培養するまたはその細胞の遺伝子材料を抽出するための装置と方法

生きた細胞をフィルタ上で分離して培養するか、その細胞の遺伝子材料を抽出するための装置は、フィルタに固定されたフィルタ支持体(108)と、上方開口部および下方開口部を有する区画(102)と、フィルタ支持体に力を加えてそのフィルタ支持体を解放するために区画に対して移動する移動手段(110)とを備えている。本発明の実施態様によれば、フィルタ支持体は、上記の力が加えられるまで、区画または移動手段にメカニカルに接続されている。この装置は、気密かつ取外し可能に固定されていて、力を加えてフィルタ支持体を解放することを可能にする相対運動を前記移動手段と区画に禁じる取外し可能な先端部(104)を備えることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生きた細胞をフィルタ上で分離して培養するか、フィルタ上で分離された生きた細胞の増幅された遺伝子材料を抽出するための装置と方法に関する。本発明は特に、液体、その中でも特に血液の中に存在する特定の細胞を分離して培養すること、またはその特定の細胞の遺伝子材料を抽出することに応用される。
【背景技術】
【0002】
血液の特定のいくつかの細胞(例えば腫瘍細胞または栄養芽層)は割合が非常に少ないため、それらを数え上げて細胞学的分析を行なう必要がある。しかしそのような細胞は、血液中に存在する他の主要な細胞と比べてサイズが大きい。
【0003】
ホルムアルデヒドをベースとした固定用パッドを血液サンプルに適用して求める細胞を固定した後、得られた液体を多孔性フィルタに通過させることが知られている。次にこのフィルタを利用し、実験室において顕微鏡下で求める細胞をそのフィルタの中に探す。しかしこの手続きでは生きた細胞を得ることはできない。
【0004】
ところで発明者は、生きた細胞が得られると、腫瘍細胞または栄養芽層の中にある遺伝子の異常を診断するために特定のマーカーを同定し、分子生物学の技術、細胞遺伝学の技術、“FISH”(蛍光インサイチュ・ハイブリダイゼーションの略号)の技術をよい条件で適用できるであろうと判断した。
【0005】
本発明は、こうした欠点を解消してこの要求に応え、生きた細胞を実験室でのルーチンの試験に合った条件で回収できるようにすることを目的とする。その細胞は、その後、十分な増殖因子が存在する適切な培地の中で培養される。
【0006】
本発明は、フィルタ上で分離された細胞の増幅された遺伝子材料の抽出と、標的療法または遺伝子の異常に対する感受性と耐性のある遺伝子の突然変異および発現レベルの検出、すなわち遺伝子の異常の検出にも関する。
【0007】
本発明は特に、液体、その中でも特に血液の中に存在する特定の細胞のDNAまたはRNAを回収して一様に増幅することに応用される。
【0008】
例えば文献PCT/FR2006/000562から、ホルムアルデヒドをベースとした固定用パッドを血液サンプルに適用して求める細胞を固定した後、得られた液体を多孔性フィルタを通過させることが知られている。次いでこのフィルタは実験室で分析され、求める細胞を顕微鏡下でそのフィルタの中に探す。その後、フィルタ上でその細胞を採取して分析(例えば遺伝子分析)することができる。
【0009】
しかしこの手続きは、必要とされる時間、材料、作業精度のため、大きなスケールと納得できるコストで再現することができない。ところでこのように大きなスケールで再現することとコストを最少にすることが可能だと、腫瘍細胞と栄養芽層細胞の両方に関して分子生物学的分析ができるであろう。
【0010】
本発明は、こうした欠点を解消してこの要求に応え、細胞材料(特に求める細胞のRNAとDNA)の多くを、実験室でのルーチンの試験に合った条件にて、よい状態で回収できるようにすることも目的とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで第1の特徴によれば、本発明は、フィルタ上で生きた細胞を分離するか、その細胞の遺伝子材料を抽出するための装置であって、
− フィルタに固定されたフィルタ支持体と、
− 上方開口部と下方開口部を有する区画と、
− フィルタ支持体に力を加えてそのフィルタ支持体を解放するために区画に対して移動する移動手段とを備えることを特徴とする装置を目的とする。
【0012】
したがって、フィルタ上の生きた細胞または遺伝子材料の汚染または劣化が完全に回避される。適合した層流式ドラフトで操作を行なうとき、区画の培養物は無菌状態に維持される。したがって細胞を分離して培養するすべてのステップ、またはその遺伝子材料を抽出して分析するすべてのステップは、無菌状態で実行することができる。
【0013】
したがってこの装置により、細胞形態学と細胞遺伝学の特徴を明らかにする実験を行なうための培養に完全に合った条件で、興味の対象である生きた細胞を回収することができる。この回収は、フィルタ上で直接行い、求める細胞が失われることは実質的にない。したがって、求める細胞の多くの割合が、実験室でのルーチンの培養に合った条件にて、よい状態かつ最少コストで回収される。
【0014】
本発明が対象とする装置により、特定の細胞の細胞材料の迅速かつ効率的な回収も、例えば
− その特定の細胞と他の細胞の直径の中間の直径の微細孔を持つフィルタを、液体の大半と前記他の細胞を通過させる濾過ステップと、
− 区画内でDNAおよび/またはRNAを溶解させて増幅するステップと、
− 溶解させた細胞の増幅された遺伝子材料をフィルタ上で回収するステップを実施した後に実現することができる。
【0015】
特別な特徴によれば、本発明が対象とする装置は、気密かつ取外し可能に固定されていて、前記力を加えてフィルタ支持体を解放することを可能にする相対運動を移動手段と区画に禁じる取外し可能な先端部を備えている。
【0016】
このような構成になっているおかげで、フィルタ支持体を確実に所定の位置に保持できる。それに加え、先端部は、フィルタ支持体をしぶきと汚染から保護することができる。
【0017】
したがって濾過の間を通じてフィルタを保持し、次いで先端部を引っ張り、移動手段と区画をそれぞれ動かして力を加えることでフィルタ支持体を解放することにより、フィルタを解放して回収する。
【0018】
特別な特徴によれば、先端部は、吸引システムの圧力低下室に合った下方開口部を有する。
【0019】
このような構成になっているおかげで、圧力低下室の中で吸引することにより、区画の中に存在する興味の対象である細胞よりも小さな細胞と、溶解している可能性のある細胞と、液体の大半を濾過することができる。
【0020】
特別な特徴によれば、フィルタ支持体は、ワッシャの形態を取っている。ここで、ワッシャはリング状のフィルタ支持体であることを思い起こしておく。
【0021】
特別な特徴によれば、フィルタ支持体はPVCからなる。実際、発明者は、疎水性ポリエチレンとは違ってこの材料が浮かぶことはなく、疎水性ポリエチレンよりも堅固であることを確認した。そのため培養ウエルの底でフィルタ支持体を使用する上で有利である。
【0022】
特別な特徴によれば、フィルタ支持体は堅固なPVCからなる。そうなっていることで、細胞形態学と細胞遺伝学の分析中にフィルタを操作することができる。
【0023】
特別な特徴によれば、フィルタ支持体は、カバーガラスの形態を取っている。
【0024】
特別な特徴によれば、フィルタ支持体は、カバーガラスと同じかそれよりも大きなサイズである。そうなっていることで、フィルタをガラス板とカバーガラスの間に取り付けることができる。
【0025】
特別な特徴によれば、フィルタ支持体の厚さは0.4mm以下であり、0.3mm以下であることが好ましい。
【0026】
このような構成になっているおかげで、フィルタ支持体を顕微鏡下で用い、倍率が大きいときでさえ、フィルタ支持体を横方向に移動させるときにリスクなしに顕微鏡の一部に触ることができる。
【0027】
特別な特徴によれば、フィルタ支持体は、エッペンドルフ管の少なくとも一部の形態を取っている。
【0028】
特別な特徴によれば、フィルタ支持体は、上部内側において、エッペンドルフ管の上部内側の形態を再現している。
【0029】
このような構成になっているおかげで、フィルタ支持体の上部開口部をエッペンドルフ管の栓で閉じることができる。
【0030】
特別な特徴によれば、フィルタ支持体は、下部内側において、エッペンドルフ管の下部内側の形態を再現している。
【0031】
特別な特徴によれば、フィルタは直径が5mm以下であり、3.5mm以下が好ましい。そうなっていると、細胞を溶解させることと遺伝子材料をあらかじめ増幅することが容易になる。
【0032】
したがってエッペンドルフ管の下部内面を真似ることができる。
【0033】
特別な特徴によれば、フィルタ支持体は、上部外側において、エッペンドルフ管の上部内側の形態を再現している。
【0034】
このような構成になっているおかげで、フィルタ支持体は、エッペンドルフ管の上部に嵌まることができる。
【0035】
したがってフィルタ支持体の上部外側とエッペンドルフ管の上部内側の間を気密にすることができる。
【0036】
上に示した最後の3つの構成のおかげで、フィルタ支持体はカラム機能を有する。
【0037】
特別な特徴によれば、フィルタ支持体はポリカーボネートを含んでいる。
【0038】
このような構成になっているおかげで、フィルタの孔は、溶解用パッドと遺伝子材料を増幅するための反応物質を保持する。
【0039】
特別な特徴によれば、フィルタ支持体は、力が加えられるまで区画にメカニカルに接続されている。
【0040】
特別な特徴によれば、フィルタ支持体は、力が加えられるまで移動手段にメカニカルに接続されている。
【0041】
第2の側面によれば、本発明は、生きた細胞をフィルタ上で分離するか、その細胞の遺伝子材料を抽出するための方法であって、
− フィルタに固定されたフィルタ支持体を、上方開口部と下方開口部を有する区画と一体化するか、その区画に対して移動する移動手段と一体化するステップと、
− フィルタ支持体に力を加えてそのフィルタ支持体を解放するため、移動手段と区画をそれぞれ運動させるステップを含むことを特徴とする方法を目的とする。
【0042】
特別な特徴によれば、運動ステップにおいてフィルタ支持体を培養ウエルに直接移行させる。
【0043】
したがってフィルタ上の生きた細胞、または抽出された遺伝子材料の汚染または劣化が完全に回避される。こうした各構成のおかげで、層流式ドラフトのもとで操作するときに区画の内容物は無菌状態に維持される。したがってすべてのステップが、細胞の培養または遺伝子材料の抽出に適した無菌条件で実施される。
【0044】
この方法の特別な利点、目的、特徴は、本発明が対象とする装置(例えば上に簡単に説明した装置)と同様であるため、ここに再現することはしない。
【0045】
したがって本発明が対象とする方法により、細胞材料を迅速かつ効率的に回収することができる。一般に、本発明を実行して回収した細胞材料は、細胞の遺伝子材料である。したがって本発明が対象とする方法により、稀な細胞の遺伝子材料を、分離された1個の細胞まで、損失なくフィルタ上で直接回収することができる。したがって対象とする細胞の遺伝子材料の多くの割合が、ルーチンの実験室での実験に合った条件にて、よい状態で回収される。
【0046】
特別な特徴によれば、本発明が対象とする方法(例えば上に簡単に説明した方法)は、溶解ステップの後、DNAおよび/またはRNAの増幅ステップを含んでおり、回収ステップにおいて、溶解した細胞の増幅された遺伝子材料を回収する。
【0047】
特別な特徴によれば、溶解と増幅のステップにおいて、DNAとRNAの定量的な側面を維持する一様な増幅を実行する。
【0048】
特別な特徴によれば、本発明が対象とする方法(例えば上に簡単に説明した方法)は、増幅されたDNAをマトリックスとして利用し、少なくとも1つの標的療法に対する感受性または耐性のある遺伝子の少なくとも1つの突然変異を検出するステップをさらに含んでいる。
【0049】
特別な特徴によれば、本発明が対象とする方法(例えば上に簡単に説明した方法)は、増幅されたDNAをマトリックスとして利用し、標的療法に対する感受性または耐性のある遺伝子の発現レベルの変化を検出するステップをさらに含んでいる。
【0050】
特別な特徴によれば、本発明が対象とする方法(例えば上に簡単に説明した方法)は、RNAをcDNAに変換し、そのcDNAを利用して標的療法に対する感受性または耐性のある遺伝子の発現レベルを検出するステップをさらに含んでいる。
【0051】
特別な特徴によれば、検出ステップにおいて、リアルタイム定量PCR(“ポリメラーゼ連鎖反応の略号”)を利用する。
【0052】
特別な特徴によれば、検出ステップにおいて、少なくとも一対のセンス・プライマとアンチ−センス・プライマを利用して興味の対象である所定の配列を増幅する。
【0053】
特別な特徴によれば、検出ステップにおいて、少なくとも一対のプローブを利用する。
【0054】
特別な特徴によれば、一対のプローブの少なくとも2つのプローブは異なる2種類の蛍光色素と結合しており、一方が突然変異した配列を認識し、他方が正常な配列を認識するようにされている。
【0055】
特別な特徴によれば、少なくとも一対のプライマと一対のプローブは、エルロチニブとゲフィチニブに耐性のあるK−ras遺伝子の突然変異G12Dを検出することができる。
【0056】
特別な特徴によれば、少なくとも1つのプライマは、配列AGGCCTGCTGAAAATGACTGAATATの少なくとも80%を含んでいる。
【0057】
特別な特徴によれば、少なくとも1つのプライマは、配列TCGTCCACAAAATGATTCTGAATTAGCTの少なくとも80%を含んでいる。
【0058】
特別な特徴によれば、少なくとも1つのプローブは、配列TTGGAGCTGGTGGCGTの少なくとも80%を含んでいる。
【0059】
特別な特徴によれば、少なくとも1つのプローブは、配列TGGAGCTGATGGCGTの少なくとも80%を含んでいる。
【0060】
特別な特徴によれば、少なくとも一対のプライマと一対のプローブは、エルロチニブとゲフィチニブに耐性のあるK−ras遺伝子の突然変異G12Vを検出することができる。
【0061】
特別な特徴によれば、少なくとも1つのプライマは、配列AGGCCTGCTGAAAATGACTGAATATの少なくとも80%を含んでいる。
【0062】
特別な特徴によれば、少なくとも1つのプライマは、配列TCGTCCACAAAATGATTCTGAATTAGCTの少なくとも80%を含んでいる。
【0063】
特別な特徴によれば、少なくとも1つのプローブは、配列TTGGAGCTGGTGGCGTの少なくとも80%を含んでいる。
【0064】
特別な特徴によれば、少なくとも1つのプローブは、配列TTGGAGCTGTTGGCGTの少なくとも80%を含んでいる。
【0065】
特別な特徴によれば、少なくとも一対のプライマと一対のプローブは、エルロチニブとゲフィチニブに耐性のあるK−ras遺伝子の突然変異G13Cを検出することができる。
【0066】
特別な特徴によれば、少なくとも1つのプライマは、配列AGGCCTGCTGAAAATGACTGAATATの少なくとも80%を含んでいる。
【0067】
特別な特徴によれば、少なくとも1つのプライマは、配列TCGTCCACAAAATGATTCTGAATTAGCTの少なくとも80%を含んでいる。
【0068】
特別な特徴によれば、少なくとも1つのプローブは、配列TTGGAGCTGGTGGCGTの少なくとも80%を含んでいる。
【0069】
特別な特徴によれば、少なくとも1つのプローブは、配列TTGGAGCTGGTTGCGTの少なくとも80%を含んでいる。
【0070】
特別な特徴によれば、少なくとも一対のプライマと一対のプローブは、エルロチニブとゲフィチニブに対する感度が増大するEGFR遺伝子の突然変異L858Rを検出することができる。
【0071】
特別な特徴によれば、少なくとも1つのプライマは、配列GCAGCATGTCAAGATCACAGATTTの少なくとも80%を含んでいる。
【0072】
特別な特徴によれば、少なくとも1つのプライマは、配列CCTCCTTCTGCATGGTATTCTTTCTの少なくとも80%を含んでいる。
【0073】
特別な特徴によれば、少なくとも1つのプローブは、配列CAGTTTGGCCAGCCCAの少なくとも80%を含んでいる。
【0074】
特別な特徴によれば、少なくとも1つのプローブは、配列CAGTTTGGCCCGCCCAの少なくとも80%を含んでいる。
【0075】
第3の側面によれば、本発明は、フィルタ上で生きた細胞を分離するための装置であって、
− フィルタに固定されたフィルタ支持体と、
− 上方開口部と、フィルタ支持体とフィルタを保持するのに適した下方開口部とを有する区画と、
− 区画の内側からフィルタ支持体に力を加える手段とを備えることを特徴とする装置を目的とする。
【0076】
この装置により、遺伝子の試験を行なうための培養に完全に適した条件で、興味の対象である生きた細胞を回収することができる。
【0077】
特別な特徴によれば、本発明が対象とする装置(例えば上に簡単に説明した装置)は、区画内に、フィルタ支持体に支持されて、区画内に挿入されるピストンが及ぼす力を受けるようにされた1つの可動部材を備えている。
【0078】
特別な特徴によれば、本発明が対象とする装置(例えば上に簡単に説明した装置)は、下方開口部に、フィルタとフィルタ支持体を保持する先端部を備えている。この先端部は、区画に対して気密かつ取外し可能に固定されている。
【0079】
このような構成になっているおかげで、濾過の間を通じてフィルタが保持され、次いで先端部を引っ張り、区画の内側からフィルタ支持体に力を加えることで、そのフィルタが解放される。
【0080】
特別な特徴によれば、先端部は、圧力低下室に合った下方開口部を有する。
【0081】
このような構成になっているおかげで、圧力低下室の中で吸引することにより、区画の中に存在する興味の対象である細胞よりも小さな細胞と、溶解している可能性のある細胞と、液体の大半を濾過することができる。
【0082】
第4の側面によれば、本発明は、液体中に存在する細胞を回収する方法であって、
− 上方開口部と下方開口部を備えていて内部にフィルタ支持体とフィルタを保持することができる区画にフィルタ支持体を固定するステップと、
− フィルタを通して生きた細胞を含む液体を濾過するステップと、
− 区画の内側からフィルタ支持体に力を加えて区画の外でフィルタを回収するステップを含む方法を目的とする。
【0083】
この方法の特別な利点、目的、特徴は、本発明の第3の側面の装置(例えば上に簡単に説明した装置)と同様であるため、ここに再現することはしない。
【0084】
第5の側面によれば、本発明は、生きた細胞をフィルタ上で分離する方法であって、
− 上方開口部と下方開口部を備えていて、その2つの開口部の間にはフィルタが配置され、そのフィルタの小孔は、特定の細胞と他の細胞の直径の中間の直径を持つ構成にされた区画の上方開口部を通じ、前記生きた細胞を含む液体とフィルタ用パッドをその区画の中に固定剤なしで挿入するステップと、
− 液体の大半と前記他の細胞がフィルタを通過する濾過ステップと
− フィルタと、フィルタ上に残った細胞とを回収するステップを含む方法を目的とする。
【0085】
この方法により、遺伝子の試験を行なうための培養に完全に適した条件で、興味の対象である生きた細胞を回収することができる。この回収はフィルタ上で直接行い、求める細胞が失われることは実質的にない。したがって対象とする細胞の多くの割合が、ルーチンの実験室での培養に合った条件にて、よい状態で回収される。
【0086】
特別な特徴によれば、本発明が対象とする方法(例えば上に簡単に説明した方法)は、濾過ステップの前に、培地と、特定の細胞を含む液体に溶ける物質とからなる固定剤なしで、フィルタ用パッドを取り付けるステップを含んでいる。
【0087】
特別な特徴によれば、濾過ステップにおいて、吸引してフィルタの下方で25ミリバール以下の圧力低下を起こさせる。
【0088】
このような構成になっているおかげで、濾過は効率的かつ迅速に行なわれ、フィルタ上で回収する生きた細胞が傷むことはない。
【0089】
特別な特徴によれば、濾過ステップにおいて、区画の先端部がフィルタをその区画の中に保持し、フィルタ回収ステップにおいて、区画の先端部を引っ張り、区画の中にピストンを導入し、そのピストンでフィルタ支持体に力を加える。
【0090】
この力により、フィルタを区画の下端に有するフィルタ支持体を、したがってフィルタを、区画から取り出すことができる。それに加え、力はフィルタに直接は作用しないため、過剰な圧力が発生することはなく、このフィルタに載った細胞がフィルタの回収時に傷むことはない。
【0091】
特別な特徴によれば、回収ステップにおいて、フィルタを区画からプレートのウエルおよび/または培養容器まで直接移動させる。
【0092】
このようにすると、フィルタ上の生きた細胞が汚染されたり劣化したりすることが完全に回避される。このような各構成のおかげで、区画の内容物は、細胞を無菌条件で操作できるような層流式ドラフトで操作するとき、無菌状態に維持される。
【0093】
第6の側面によれば、本発明は、液体中に存在する細胞を回収する装置であって、
− 液体とフィルタパッドを、固定剤なしで、上方開口部と下方開口部を有する区画の中に、その区画の上方開口部を通じて挿入する手段と、
− 直径が特定の細胞と他の細胞の直径の中間である小孔を備えていて、区画の2つの開口部の間に位置するフィルタと、
− 液体の大半と前記他の細胞をフィルタにかけて通過させる濾過手段と、
− フィルタと、そのフィルタ上に残った細胞を回収する手段を備える装置を目的とする。
【0094】
この装置の特別な利点、目的、特徴は、本発明の第5の側面が対象とする方法(例えば上に簡単に説明した方法)と同様であるため、ここに再現することはしない。
【0095】
本発明の他の利点、目的、目的は、添付の図面を参照した以下の記述に現われるであろう。なおこの記述は説明を目的としたものであり、本発明がこの記述に限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明が対象とする装置の第1の実施態様を構成する部材の集合を斜めから見た概略図である。
【図2】使用前の装置の第1の実施態様を互いに垂直な軸で切断した断面の概略図である。
【図3−1】本発明が対象とする装置の第1の実施態様を実現するステップの大まかな立面図または断面図である。
【図3−2】本発明が対象とする装置の第1の実施態様を実現するステップの大まかな立面図または断面図である。
【図4】本発明が対象とする方法の特別な第1の実施態様を実行するステップのフロー・チャートである。
【図5】本発明が対象とする装置の特別な第2の実施態様を構成する部材の集合を斜めから見た概略図である。
【図6】装置の第2の実施態様を互いに垂直な軸で切断した断面の概略図である。
【図7−1】本発明が対象とする装置の第2の実施態様を実現するステップの大まかな立面図または断面図である。
【図7−2】本発明が対象とする装置の第2の実施態様を実現するステップの大まかな立面図または断面図である。
【図8】本発明が対象とする装置の第2の実施態様に組み込まれたフィルタ支持体の断面図である。
【図9】本発明が対象とする方法の特別な第2の実施態様を実行するステップのフロー・チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0097】
図1には、リザーバまたは区画102と、先端部104と、接合具106と、フィルタ支持体108と、移動手段110と、接合具112と、栓114が見られる。
【0098】
区画102は全体が円筒形である。その上端は、栓114で塞いで気密にすることができる。区画102の下端は、外面に不連続な複数のリングを有する。その不連続部によって移動手段110の突起部がガイドされる。そのリングの方は、移動手段110の本体をガイドする。
【0099】
この移動手段110は全体が円筒形であり、先端部104に向かって延びる2つの突起部116を有する。これら突起部116は、フィルタ支持体108の直径よりも小さな距離だけ互いに離れた状態でこの方向に狭まっていく。図からわかるように、その後、この特別な形状、特に突起部116が互いの方に向かって曲がっている形状により、移動手段110は、フィルタ支持体108の方に運動するとき、先端部104から取り出した後にフィルタ支持体108を押して区画102から解放することができる。
【0100】
移動手段110の突起部116の端部と区画102の下端は、培養箱または培養ウエルの中に侵入できるようにされている。逆に、区画102の端部の不連続なリングは、培養箱または培養ウエルの縁部に支持されるのに適した直径を有する。
【0101】
区画102の下方開口部には、気密かつ無菌状態かつ取り外し可能に、先端部またはアダプタ104が配置される。この先端部104は区画102の外壁を締め付けており、区画102の直径よりも小さな直径の先細になった下方開口部を有する。
【0102】
先端部104またはアダプタのこの先細になった下方開口部は、圧力が低下しているチェンバーから来るしぶきによって区画102の先端が潜在的に汚染されることを回避するのに十分な長さを有する。
【0103】
先端部104は、区画102の下端にある側方突起部118の形状に合致していて公知のやり方でその突起部を締め付けるための回転による固定手段を有する。したがって先端部104は、濾過ステップの間を通じてフィルタ支持体を確実に所定の位置に保持する。それに加え、先端部104は、フィルタをしぶきや汚染物から保護する。
【0104】
区画102の下端には、組み立て後、フィルタ支持体108によって支持されるフィルタに向かって開いている開口部がある。フィルタ支持体108それ自体は、区画102の下端と先端部104によって所定の位置に保持される。
【0105】
フィルタ支持体108は、第1の実施態様では、リング形のワッシャの形態を取る。フィルタには微細な孔が開けられている。このフィルタはフィルタ支持体108の下に接合され、次いで区画102の下端にワッシャとともに挿入される。
【0106】
フィルタ支持体108はPCVでできていることが好ましく、厚さは0.4mm以下である。厚さは0.3mm以下であることが好ましい。フィルタ支持体の外径は、例えば12.6mmである。フィルタ支持体108に支持されるフィルタの直径は、例えば8.2mmである。
【0107】
区画102、先端部104、移動手段110は、例えばポリプロピレンで実現される。接合具106と112は、例えばシリコーンでできている。
【0108】
図2Aと図2Cは、図1に示した部材が組み立てられた状態の本発明による装置の第1の実施態様を互いに垂直な軸で切断した断面図である。図2Bと図2Dは、それぞれ図2Aと図2Cの一部を拡大した詳細図である。図2A〜図2Dには、図1で説明した要素が再び見られる。
【0109】
図3Aは、装置が保管の構成になっているときの立面図である。図3Bは、栓114を外して区画102に上方開口部から液体(例えば血液)(図示せず)を導入した後、公知のタイプの吸引システム(図示せず)の支持台120の中に配置された装置を示している。図3Cは、図3Bの一部の拡大詳細図である。図3Bと図3Cから、先端部104が部材122の中で所定の位置に保持されていることと、ドーナツ状接合具124が先端部の内部(したがってフィルタ支持体108を通じて区画102の内部)と吸引システムの吸引室の間の接続の気密性を保証していることがわかる。先端部104は吸引室の内部を貫通していることがわかる。
【0110】
吸引時には、区画102の中に存在する液体中の直径がより大きな特定のいくつかの細胞がフィルタに保持されるのに対し、液体の大半、溶解した細胞の中身と壁、回収する細胞よりもサイズが小さい細胞は、フィルタを通じて区画102の外へ吸引される。
【0111】
図3Dからわかるように、濾過後、装置を支持台から引き抜く。次に、図3Eと図3Fに示してあるように、回転させて先端部104を突起部118から解放した後、その先端部104を引き抜く。次に、図3Gと図3Hに示してあるように、区画102の先端を培養箱または培養ウエル130の中に挿入する。
【0112】
上に説明するとともに図3Iに示してあるように、移動手段110の突起部116の互いに近づいていく端部と区画102の下端は、培養箱または培養ウエルの中に侵入するのに適している。逆に、区画102の不連続な端部リングは、培養箱または培養ウエル130の縁部に支持されるのに適した直径を有する。
【0113】
より詳細には、図3Jと図3Kからわかるように、移動手段110は、この位置でまだ区画102の軸線に平行に動くことができる。
【0114】
図3Nと図3Mからわかるように、この運動の際には、操作者の指によって動かされる移動手段の突起部116が、フィルタ支持体108に対して鉛直方向の力を上から下に及ぼし、フィルタ支持体を区画102の下端から解放する。するとフィルタ支持体108は、培養箱または培養ウエル130の中に落ちる。
【0115】
最後に、図3Oからわかるように、区画102と移動手段110を培養箱または培養ウエル130から引き抜く。
【0116】
図4は、このように実施するステップのまとめである。
【0117】
ステップ202では、装置を構成する部材を組み立てる。ステップ204では、装置を吸引システムの支持台120の中に配置する。ステップ206では、栓114を外す。ステップ208では、培養する細胞を含む液体(例えば血液)を区画102の上端から導入する。
【0118】
ステップ210では、吸引システムの圧力低下室の中で吸引することにより、区画102の中に存在する興味の対象となる細胞よりも小さい細胞と、溶解している可能性のある細胞と、液体の大半を濾過する。
【0119】
ステップ212では、装置を支持台から引き抜く。ステップ214では、先端部104を引き抜く。ステップ216では、区画102の先端を培養箱または培養ウエルの中に挿入する。
【0120】
ステップ218では、移動手段と区画をそれぞれ運動させてフィルタ支持体に力を及ぼすことによってそのフィルタ支持体を解放し、フィルタ支持体が培養箱または培養ウエルの中に落ちるようにする。ステップ220では、区画102と移動手段110を培養箱または培養ウエル130から引き抜く。
【0121】
ステップ220では、培養ウエル130の中で公知のようにして培養を実行する。フィルタの上面(その面には、フィルタ上で分離された細胞が載っている)のまわりにフィルタ支持体108が存在することで、細胞がフィルタから離れることを回避できることがわかる。
【0122】
フィルタ上にある興味の対象である生きた細胞を培養するステップでは、フィルタは、例えば、その興味の対象である細胞の増殖に適した因子を含む薄いマトリゲル層で覆う(か、プレートのウエルおよび/または培養容器の底にあらかじめ配置したマトリゲル(登録商標)層の上にフィルタが載って接触した状態にする)。
【0123】
ステップ222において細胞またはその細胞の遺伝子材料を観察したいときには、フィルタ支持体108を掴む。フィルタ支持体108の上面の側方に円筒形の穴が存在することにより、ピンセットでフィルタ支持体を掴むことが容易になる。
【0124】
次に、フィルタ支持体108をガラス板の上に置き、フィルタの自由な上面に合った直径の円板形のカバーガラスをフィルタに押し付ける。次いで、細胞またはその細胞の遺伝子材料の分析を公知のようにして行なう。
【0125】
図5に、リザーバまたは区画302、先端部304、接合具306、フィルタ支持体308、移動手段310、接合具312、栓314が見られる。
【0126】
区画302は全体が円筒形である。その上端は、栓314で塞いで気密にすることができる。区画302の下端は、外面に、側方リブ352の形態でのメカニカルな接続によって接続されるとき以外は区画302の本体と分離している円筒部350を有する。この円筒部350は、移動をガイドするため、移動手段310の本体の内径に対応する外径を有する。円筒部350には、移動手段310の突起部316を侵入させて長手方向に滑らせることのできるスリット354が設けられている。
【0127】
移動手段310は全体が円筒形であり、先端部304に向かって延びる2つの突起部316を有する。これらの突起部316は、フィルタ支持体308の直径よりも小さな距離だけ互いに離れた状態でこの方向に狭まっていく。図からわかるように、その後、この特別な形状、特に突起部316が互いの方に向かって曲がっている形状により、移動手段310は、フィルタ支持体308の方に運動するとき、先端部304から取り出した後にフィルタ支持体308を押して区画302から解放することができる。
【0128】
先端部304は、側方突起部318を有する区画302の下端の形状に合致していて公知のやり方でその突起部を締め付けるための回転による固定手段を有する。したがって先端部304は、濾過ステップの間を通じてフィルタ支持体を確実に所定の位置に保持する。それに加え、先端部304は、フィルタをしぶきや汚染物から保護する。
【0129】
区画302の下端には、組み立て後、フィルタ支持体308によって支持されるフィルタに向かって開いている開口部がある。フィルタ支持体308それ自体は、区画302の下端と先端部304によって所定の位置に保持される。
【0130】
図8からわかるように、フィルタ支持体308は、第2の実施態様では、エッペンドルフ管の形状に合致した形態を取る。
【0131】
特に、
− フィルタ支持体308は、上部内側において、エッペンドルフ管の上部内側の形状を有する。するとこのフィルタ支持体の上方開口部をエッペンドルフ管の栓で閉じることができる。
− フィルタ支持体308は、下部内側において、エッペンドルフ管の下部内側の形状を有する。するとエッペンドルフ管の下部内面を真似ることができる。
− フィルタ支持体308は、下部外側において、エッペンドルフ管の上部内側の形状を有する。するとこのフィルタ支持体308をエッペンドルフ管の上部の中に挿入することができる。
【0132】
それに加え、フィルタ支持体308は、フィルタ上に保持された細胞を溶解させるとともに、フィルタ支持体の細胞ライセートと遺伝子材料をエッペンドルフ管に向かって移すことを可能にするカラム機能を有する。
【0133】
フィルタ支持体308は、PC(ポリカーボネート)でできていることが好ましい。区画302と、先端部304と、移動手段310は、例えばポリプロピレンで実現される。接合具306と312は、例えばシリコーンからなる。
【0134】
図6Aと図6Cは、図5に示した部材が組み立てられた状態の本発明による装置の第2の実施態様を互いに垂直な軸で切断した断面図である。図6Bと図6Dは、それぞれ図6Aと図6Cの一部を拡大した詳細図である。図6A〜図6Dには、図5で説明した要素が再び見られる。
【0135】
図7Aは、装置が保管の構成になっているときの立面図である。図7Bは、栓314を外して区画302に上方開口部から液体(例えば血液)(図示せず)を導入した後、公知のタイプの吸引システム(図示せず)の支持台320の中に配置された装置を示している。図7Cは、図7Bの一部の拡大詳細図である。図7Bと図7Cから、先端部304が部材322の中で所定の位置に保持されていることと、ドーナツ状接合具324が先端部の内部(したがってフィルタ支持体308を通じて区画302の内部)と吸引システムの吸引室の間の接続の気密性を保証していることがわかる。先端部304は吸引室の内部を貫通していることがわかる。
【0136】
したがって、区画302の中に存在する興味の対象となる細胞よりもサイズが小さい細胞、溶解している可能性のある細胞、液体の大半は、圧力低下室の中で吸引することによって濾過される。
【0137】
図7Dからわかるように、濾過後、装置を支持台から引き抜く。次に、図7Eと図7Fに示してあるように、回転させて先端部304を突起部318から解放した後、その先端部304を引き抜く。次に、図7G、図7H、図7Iに示してあるように、区画302の先端を、エッペンドルフ管330が取り付けられたエッペンドルフ管支持体328の中に挿入する。
【0138】
図7Jと図7Kからわかるように、次に、移動手段310を区画302の軸線に平行に下方に移動させる。この運動の際には、操作者の指によって動かされる移動手段310の突起部316が、フィルタ支持体308に対して鉛直方向の力を上から下に及ぼし、フィルタ支持体を区画302の下端から解放する。するとフィルタ支持体308は、エッペンドルフ管330の中に落ちる。
【0139】
最後に、図7Lからわかるように、区画302と移動手段310を引き抜く。
【0140】
図9には、このように実施するステップのまとめである。
【0141】
ステップ402では、装置を構成する部材を組み立てる。ステップ404では、装置を公知のタイプの吸引システム(図示せず)の支持台320の中に配置する。ステップ406では、栓314を外す。ステップ408では、培養する細胞を含む液体(例えば血液)を区画302の上端から導入する。
【0142】
ステップ410では、吸引システムの圧力低下室の中で吸引することにより、区画302の中に存在する興味の対象となる細胞よりも小さい細胞と、溶解している可能性のある細胞と、液体の大半を濾過する。
【0143】
ステップ412では、装置を支持台から引き抜く。ステップ414では、先端部304を引き抜く。ステップ416では、区画302の先端をエッペンドルフ管の中に挿入する。
【0144】
ステップ418では、移動手段と区画をそれぞれ運動させてフィルタ支持体に力を及ぼすことによってそのフィルタ支持体を解放し、エッペンドルフ管の中に落とす。最後に、ステップ420では、区画302と移動手段310を引き抜き、エッペンドルフ管の栓を再び閉じる。
【0145】
次に、エッペンドルフ管を公知の方法で利用する。そのためには、例えばゲノム全体をあらかじめ増幅した後、遺伝子材料の溶解ステップ、遠心分離ステップ、回収ステップを実施する。
【0146】
ステップ422と424では、エッペンドルフ管125または126で回収された求める細胞の遺伝子材料(特にDNAまたはRNA)の分析を行なう。増幅されたDNAをマトリックスとして用い、標的療法に対する感受性または耐性のある突然変異を検出する。それに加え、またはその代わりに、RTによって変換されて増幅されたRNAに由来するcDNA(“c”は相補的を意味する)をマトリックスとして用い、標的療法に対する感受性または耐性のある遺伝子の発現レベルを検出する。
【0147】
増幅された遺伝子材料(特にDNA)を所定の体積だけ採取した後、対になったセンス・プライマおよびアンチ−センス・プライマと対になったプローブを利用し、定量リアルタイムPCR(“ポリメラーゼ連鎖反応”の略号)で標的療法に対する感受性または耐性のある突然変異を検出する。
【0148】
図示した実施態様では、標的療法に対する感受性または耐性のある突然変異の探索が実行されるが、その原理は以下の通りである。対立遺伝子識別または“SNP遺伝子型アッセイ”(SNPは、一ヌクレオチド多型の略号である)により、遺伝子レベルでの点突然変異の存在または不在を知ることができる。対立遺伝子識別の第1のステップ422は、興味の対象である配列を増幅するための2つのプライマと、2つのプローブ(例えばTaqManタイプ(登録商標))とを用いて実施される定量リアルタイムPCRの反応である。一方のプローブが突然変異した配列を認識し、他方のプローブが正常な配列を認識する。これら2つのプローブは異なる蛍光色素と結合している。その蛍光色素は、例えば正常な配列とハイブリダイズするプローブに関しては“VIC”、突然変異した配列とハイブリダイズするプローブに関しては“FAM”である。第2のステップ424では、蛍光色素FAMおよび/またはVICから出る初期の蛍光と最終的な蛍光を測定する対立遺伝子識別プログラムを利用する。このプログラムにより、各サンプルの中に存在する異なる配列を識別することができる。
− 蛍光VICだけの増加は、正常な配列のホモ接合プロファイルを意味する。
− 蛍光FAMだけの増加は、突然変異した配列のホモ接合プロファイルを意味する。
− 蛍光VICとFAM両方の増加は、ヘテロ接合プロファイルを意味する。
【0149】
突然変異を検出するには、例えばプライマとプローブの配列を以下のようにする(センス配列とアンチ−センス配列、5’から3’へ)。
【0150】
エルロチニブとゲフィチニブに耐性のあるK−ras遺伝子の突然変異G12Dに関しては、
− センス・プライマ(または“順”プライマ)AGGCCTGCTGAAAATGACTGAATAT、
− アンチセンス・プライマ(または“逆”プライマ)TCGTCCACAAAATGATTCTGAATTAGCT、
− “野生型”プローブ、色“VIC”TTGGAGCTGGTGGCGT、
− “突然変異した”プローブ、色“FAM”TGGAGCTGATGGCGT。
【0151】
エルロチニブとゲフィチニブに耐性のあるK−ras遺伝子の(“12”をコードする)突然変異G12Vに関しては、
− センス・プライマ(または“順”プライマ)AGGCCTGCTGAAAATGACTGAATAT、
− アンチセンス・プライマ(または“逆”プライマ)TCGTCCACAAAATGATTCTGAATTAGCT、
− “野生型”プローブ、色“VIC”TTGGAGCTGGTGGCGT、
− “突然変異した”プローブ、色“FAM”TTGGAGCTGTTGGCGT。
【0152】
エルロチニブとゲフィチニブに耐性のあるK−ras遺伝子の突然変異G13Cに関しては、
− センス・プライマ(または“順”プライマ)AGGCCTGCTGAAAATGACTGAATAT、
− アンチセンス・プライマ(または“逆”プライマ)TCGTCCACAAAATGATTCTGAATTAGCT、
− “野生型”プローブ、色“VIC”TTGGAGCTGGTGGCGT、
− “突然変異した”プローブ、色“FAM”TTGGAGCTGGTTGCGT。
【0153】
エルロチニブとゲフィチニブに対する感度が増大したEGFR遺伝子の突然変異L858Rに関しては、
− センス・プライマ(または“順”プライマ)GCAGCATGTCAAGATCACAGATTT、
− アンチセンス・プライマ(または“逆”プライマ)CCTCCTTCTGCATGGTATTCTTTCT、
− “野生型”プローブ、色“VIC”CAGTTTGGCCAGCCCA、
− “突然変異した”プローブ、色“FAM”CAGTTTGGCCCGCCCA。
【0154】
“センス”、“アンチ−センス”、“5’から3’へ”の意味は、当業者に周知である。プローブは、2つのプライマの間でペアになり、付随する蛍光の色から突然変異の存在または不在を明らかにする。参考として、“FAM”という色は青に含まれ、“VIC”という色は緑に含まれることを指摘しておく。PCR装置でそれぞれの色の中の蛍光強度を1回測定すると、正常な遺伝子、突然変異したホモ接合の遺伝子、突然変異したヘテロ接合の遺伝子を識別することができる。増幅サイクルは例えば50回実施する。
【0155】
別の実施態様では、所定の体積の遺伝子材料(特にRT(“逆転写”の略号)によって変換されて増幅されたRNA)を採取した後、対になったセンス・プライマおよびアンチ−センス・プライマと対になったプローブを利用して定量リアルタイムPCR(“ポリメラーゼ連鎖反応”の略号)を例えば50サイクル実施し、標的療法に対する感受性または耐性のある遺伝子の発現レベルを検出する。
【0156】
上に説明したそれぞれの実施態様では、フィルタはポリカーボネートで実現され、表面が親水性処理されている。このようなフィルタを用いることで、細胞を特別に溶解させたとき、特定の細胞の保持率が改善され、他の細胞またはその中身の接着が減る。
【0157】
フィルタは、孔の直径が、固定される同じ細胞(すなわち堅固にされる細胞)のために利用される対応する値よりも例えば1μmだけ小さい値を中心としていることが好ましい。
【0158】
例えば固定された細胞に関して孔の直径が7.5μmを中心としていたとすると、直径は、ここでは、より小さな値(例えば6.5μm)を中心とする。直径は分散しているため、ほとんどどの孔も7μmを超える直径は持たない。
【0159】
本発明を血液細胞に適用する1つの応用では、フィルタは、孔の密度が50,000〜200,000個/cmである。この値は、約100,000個/cmであることが好ましい。
【0160】
ポリカーボネート製のフィルタを用いているおかげで、必要な圧力低下は従来のシステムよりもはるかに小さく、1/4になる。するとフィルタ上で回収しようとする細胞の劣化が回避される。−25ミリバール以下の圧力低下による吸引をフィルタの下方で実現することが好ましい。
【0161】
さまざまな変形例では、フィルタ支持体108または308は、区画を培養ウエルまたはエッペンドルフ管に向かって移動させることによって力を加えてフィルタ支持体を移動手段から解放するまで、移動手段にメカニカルに接続されている。区画102または302の下端と移動手段102または302の役割を逆にし、培養ウエルまたはエッペンドルフ管の中または前でフィルタ支持体を保持するのが後者で、区画の上端に支持されるときフィルタ支持体を解放するのが前者であるようにすることは、上に与えた実施態様の説明をもとにして当業者が容易に実現できる変更である。
【0162】
単一の区画102または302に関して上に説明したことは、共通する1つの支持体(図示せず)によって保持された多数の区画に対して同時に実行することが好ましいことがわかる。
【0163】
さまざまな実施態様では、本発明が対象とする装置の外観は、外側の袋の中に内側の2つの袋が入ったキットの形態を取る。
− 第1の袋は、図2Aまたは図6Aに示したような組み立てられた装置を含んでおり、
− 第2の袋は、培養ウエルと円形板および/またはエッペンドルフ管、またはこの装置を実現する上で役に立つ他のあらゆる付属品を含んでいる。
【0164】
本発明を実施することにより、細胞(例えば羊水の細胞)の危険な採取を回避できる一方で、例えば羊水穿刺のための培養が可能である。それに加え、フィルタ支持体108のリザーバの形状から、このフィルタ支持体の中で免疫細胞化学または蛍光インサイチュ・ハイブリダイゼーション(“FISH”)の反応を実現することができる。
【0165】
さまざまな実施態様(図示せず)では、リングが、注射器の形状になった区画の下方開口部から挿入されて、この区画に押し込められるか貼りついている。ワッシャまたはリングの形態のフィルタ支持体または椀状体がリングの中に配置されてフィルタを保持する。フィルタには微細な孔が開けられていて、椀状体の下に接合された後、椀状体とともに、注射器の形状になった区画の下端に挿入される。
【0166】
区画の下部の内側には、下部の形状が円錐形の下向きの部材が位置している。この部材は、フィルタ支持体の上面に支持される。この部材の下半分は、長さがリングと同じかそれよりも長い。したがって区画とこの部材の間の接続には、区画の軸線に沿って、少なくともフィルタ支持体の上部とリングの下方開口部を隔てる距離にわたって遊びがある。このように、注射器の形状になった区画に挿入されたピストンによってこの部材が軸方向に運動するとき、その部材は、フィルタ支持体がリングから解放されるまで、したがって注射器の形状になった区画から解放されるまで、そのフィルタ支持体を押す。それに加え、ピストンを区画の上方開口部の中に挿入し、円錐形部材に支持されるまでピストンの上部を押すとき、ピストンは、ピストンの外壁と区画の内壁の間を空気を自由に通過させるため、ピストンの移動によって区画内部の圧力が上昇することはない。するとフィルタ上に保持された生きた細胞が傷むリスクが回避される。上記の部材が円錐形になっているおかげで、ピストンはフィルタに支持されず、したがってこのフィルタ上に保持される細胞が傷む危険性がない。同様に、この部材はフィルタ支持体にも支持されていないため、やはりこれらの細胞が傷む危険性がない。
【0167】
ピストンで部材を下方に移動させるために遊びを実現しつつピストンの上部を押し続けると、その部材によってフィルタ支持体がリングと区画から出る。するとこのフィルタ支持体とフィルタは、プレートのウエルおよび/または培養容器の中に落ちる。区画内のピストンの行程はピストンの上方肩部によって制限されるため、行程の終わりにこの肩部が区画の上方開口部に支持されるとき、部材の移動時に遊びが完全に利用された状態であることが好ましい。したがってリングが外れてフィルタの上、および/またはプレートのウエルの中、および/または培養容器の中に落ちるリスクが回避される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタ上で生きた細胞を分離するための装置であって、
− フィルタに固定されたフィルタ支持体(108、308)と、
− 上方開口部と下方開口部を有する区画(102、302)と、
− 前記フィルタ支持体に力を加えてそのフィルタ支持体を解放するために前記区画に対して移動する移動手段(110、310)とを備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
気密かつ取外し可能に固定されていて、前記力を加えて前記フィルタ支持体(108、308)を解放することを可能にする相対運動を前記移動手段(110、310)と前記区画(102、302)に禁じる取外し可能な先端部(104、304)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記先端部(104、304)が、吸引システムの圧力低下室に合った下方開口部を有することを特徴とする、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記フィルタ支持体(108)がワッシャの形態を取ることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記フィルタ支持体(108)がPVCからなることを特徴とする、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記フィルタ支持体(108)が堅固なPVCからなることを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記フィルタ支持体(108)が、カバーガラスの形態を取ることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記フィルタ支持体(108)が、カバーガラスと同じかそれよりも大きなサイズであることを特徴とする、請求項4〜7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記フィルタ支持体(108)の厚さが0.4mm以下であり、0.3mm以下であることが好ましいことを特徴とする、請求項4〜8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記フィルタ支持体(308)が、エッペンドルフ管(330)の少なくとも一部の形態を取ることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記フィルタ支持体(308)が、上部内側において、エッペンドルフ管(330)の上部内側の形態を再現していることを特徴とする、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記フィルタ支持体(308)が、下部内側において、エッペンドルフ管(330)の下部内側の形態を再現していることを特徴とする、請求項10または11に記載の装置。
【請求項13】
前記フィルタ支持体(308)が、上部外側において、エッペンドルフ管(330)の上部内側の形態を再現していることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
前記フィルタ支持体(308)がポリカーボネートを含むことを特徴とする、請求項10〜13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
前記フィルタ支持体(108、308)が、前記力が加えられるまで前記区画(102、302)にメカニカルに接続されていることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
前記フィルタ支持体(108、308)が、前記力が加えられるまで前記移動手段にメカニカルに接続されていることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
生きた細胞をフィルタ上で分離するか、その細胞の遺伝子材料を抽出するための方法であって、
− フィルタに固定されたフィルタ支持体を、上方開口部と下方開口部を有する区画と一体化するか、その区画に対して移動する移動手段と一体化するステップと、
− 前記フィルタ支持体に力を加えてそのフィルタ支持体を解放するため、前記移動手段と前記区画をそれぞれ運動させるステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
前記運動ステップにおいて前記フィルタ支持体を培養ウエル(130)に直接移行させることを特徴とする、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図3H】
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【図3I】
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【図3J】
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【図3K】
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【図3L】
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【図3M】
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【図3N】
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【図3O】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図7F】
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【図7G】
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【図7H】
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【図7I】
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【図7J】
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【図7K】
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【図7L】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−509407(P2011−509407A)
【公表日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541821(P2010−541821)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際出願番号】PCT/FR2009/000019
【国際公開番号】WO2009/106760
【国際公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(510076100)
【Fターム(参考)】