説明

生ごみ資源回収装置

【課題】従来の微生物を用いて生ごみから再利用可能な資源を回収する生ごみ資源回収装置において、回収する資源の品質が安定しない、生ごみからの資源の回収率が低く回収されないで残った残渣の廃棄処理が必要、微生物の活性度が把握できないため大量の残渣が発生するという事故が頻発する、微生物生育環境制御のために使われる電力などのエネルギーが無駄に使われる、ならびに、資源回収において分解経過時間に対して生成物の量が把握できないため生成物の回収率を制御できない等の問題があった。
【解決手段】微生物による生ごみの分解過程において生成される生成物をそれぞれ同系列化合物や単一の化合物ごとに分離抽出して回収することを可能とし、分解経過時間に対する生成物の生成速度や反応熱生成速度や処理槽内の熱収支を把握することを可能とし、各生成物の回収率の制御を可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は好気性微生物による生ごみの分解過程で生成される生成物を回収する生ごみ資源回収装置に関わる。
【背景技術】
【0002】
一般家庭や学校や病院やその他各種施設などから排出される食品廃棄物、食品製造・加工業や中食、外食産業から排出される食品廃棄物など、養殖業から排出される魚介類廃棄物などの所謂生ごみの処理の方法の1つとして、微生物の有機物分解作用を利用した生ごみ分解処理方法があり、これを応用した様々な生ごみ処理装置が実用化試験されたり実用化されている。微生物の有機物分解作用を利用した生ごみ処理装置には、主に好気性微生物を利用して、生ごみを堆肥にして取り出し再利用するタイプ(例えば、特許文献1参照)や水や二酸化炭素の無機質まで分解して処理するタイプ(例えば、特許文献2、特許文献3参照)がある。あるいは、また、主に嫌気性微生物の有機物分解作用を利用してメタンや乳酸を資源として回収するタイプ(例えば、非特許文献1、非特許文献2 参照)などがある。
以上の従来の幾つかのタイプの生ごみ処理装置は、生ごみから堆肥、メタンや乳酸などを再利用可能な資源として回収しており、広義には生ごみから再利用可能な資源を回収する生ごみ資源回収装置に属する。
【0003】
従来の生ごみ資源回収装置では、分解処理槽に微生物を定着した微生物定着基材と生ごみを入れ、それらを攪拌して生ごみの分解を促す方法を用いている装置がある。
【0004】
堆肥を回収するタイプや無機質まで分解させるタイプでは、主に好気性微生物の有機物分解作用を利用して生ごみを分解させる。
好気性微生物による生ごみの分解過程では、分解経過時間に応じて段階的に分解されていく。最初に生ごみは生ごみの主成分であるたん白質、脂質、炭水化物、水などに分解され、さらにこれらの中でも比較的分解され易いたん白質などの易分解性有機物が分解され、ポリペプチド、アミノ酸などの中間生成物を経て、アンモニア、二酸化炭素、硫化水素、水などに分解されていく。
従って、分解処理槽には、分解経過時間に応じて、生ごみの断片や生ごみの各分解過程で生成される生成物や難分解性残留物などが混ざり合って存在する。
堆肥を回収するタイプの生ごみ資源回収装置の場合は、微生物が分解しやすい有機物の殆どを分解するまで分解経過時間を経た段階で処理槽中の内容物を取り出し堆肥に供する。
【0005】
また、生ごみを無機質まで分解させるタイプのものは、生ごみからたん白質、脂質、炭水化物、水などの主成分を経て、ポリペプチド、アミノ酸、脂肪酸、などの中間生成物に分解される段階を経て、さらにこれらがアンモニア、二酸化炭素、硫化水素、水などの無機質まで分解されるまで微生物の有機物分解作用を利用する。また、生ごみの分解過程で生じる難分解性物質は微生物によって分解されずに残留する。
従って、生ごみを無機質まで分解するタイプのものは、生ごみから分解された生成物のほとんどは、気体や水として大気中や下水に放出している。
【0006】
また、生ごみから無機質までの分解過程の途中で生ごみや生成される生成物の一部は分解されずに難分解性物質に変質して分解処理槽内に残渣として残留する。このような難分解性物質が分解処理槽に滞留すると、分解処理槽内の微生物の生育環境を劣化させ生ごみの分解性能を低下させる要因となる。特に分解処理槽内に脂肪酸などの粘性を持った中間生成物が分解されずに滞留して微生物の生育環境である菌床等に付着し固化していくと、菌床の空隙に目詰まりを起こしたり微生物への水分や酸素や養分の供給を阻害したりして、その結果微生物の分解性能の劣化を来たし分解されずに分解処理槽内に残留する残渣を増大させる要因となっている。
【0007】
嫌気性微生物を利用してメタンを回収するタイプの生ごみ資源回収装置では、各処理槽において酸生成菌により生ごみを低級脂肪酸などに分解し、低級脂肪酸をメタン菌を利用してメタンを生成し、生成したメタンを回収する。
また同様に嫌気性微生物を利用して乳酸を回収するタイプの生ごみ資源回収装置では、主に糖質からピルビン酸などの低級脂肪酸に分解しそれから乳酸菌などを利用して乳酸を生成し回収する。
【0008】
好気性微生物を利用するタイプの生ごみ資源回収装置では、生ごみの分解を効率良く行わせるため微生物の量と代謝機能、つまり微生物の活性を高く維持するよう分解処理槽の微生物生育環境を適切に保つように装置化している。
【0009】
好気性微生物の場合、微生物の主な生育環境因子としては、温度、水分量や含水率、酸素量、水素イオン濃度(pH)などがある。
従って、微生物の生育環境を適切に保つために、給排気、加熱、攪拌、水分除去などの制御を行い、分解処理槽内の温度、水分量、酸素量などが適切な範囲を保つよう制御を行っていた。
【0010】
一方、微生物の生ごみ分解の化学反応により反応熱を生じたり水分が生成されたりするため、微生物生育環境因子である温度や水分量は、微生物の生ごみ分解作用からも影響を受ける。従って、微生物生育環境因子の温度や水分量は、微生物の分解作用からの影響と給排気、加熱、攪拌、水分除去などの装置機構による微生物生育環境制御からの影響により決まる。
【0011】
従来の生ごみ資源回収装置における分解処理槽の微生物の生育環境制御は、微生物の分解作用による影響をリアルタイムに定量的に把握することが困難であったため、微生物の分解作用による反応熱や水分生成速度を用いて微生物生育環境因子を制御することが難しく、主に、制御が容易な電力などの外部エネルギーを用いて微生物生育環境因子である温度や水分量の制御を行っていた。
【0012】
次に、従来の生ごみ資源回収装置における資源回収タイミング制御は、例えば堆肥を回収する場合、分解処理槽に生ごみを投入してからの経過時間(分解経過時間)を測り、分解処理槽中の内容物が適切な堆肥成分となるまで分解が進んだと経験的に判断される一定の分解経過時間後に堆肥を回収するという方法がとられていた。
【特許文献1】特開平7-33572
【特許文献2】特開2006-281167
【特許文献3】特開2006-289181
【非特許文献1】大杉 匡弘他共著「微生物学」化学同人
【非特許文献2】佐古 猛他著「廃棄物処理・再資源化技術」シーエムシー出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
堆肥を回収するようなタイプ、つまり、微生物による生ごみの分解過程で分解処理槽中に生成された生成物全体を資源として取り出すタイプの従来の生ごみ資源回収装置は、回収する資源が投入した生ごみや分解過程で生成された生成物や滞留物の混合物であり、従って、回収する資源の品質は、投入する生ごみの成分構成や、混合物を構成する成分の混合比率などに影響されるため回収する資源の品質が安定しない、特定の品質を作り出すことが困難など、回収する資源としての品質に問題があった。
【0014】
また、微生物により生ごみを無機質まで分解するタイプの従来のものは、分解過程で生成される生成物のほとんどを下水や大気中に放出し、生ごみから資源を回収せず無駄に廃棄しているという問題があった。加えて、また、生ごみから無機質までの分解過程の途中で生成される中間生成物の一部は難分解性物質に変質し無機質まで分解されずに残渣として滞留する。さらに、この難分解性物質に変質し滞留する物質は微生物の生育環境を阻害する要因となり、微生物による生ごみの分解性能を劣化させ残渣を増加させるという問題があった。
【0015】
また、生ごみからメタンや乳酸などを回収するような特定物質を再利用可能資源として回収するタイプの従来の生ごみ資源回収装置では、生ごみの一部しか資源として回収しておらず、残りの残留物は廃棄されるという問題があった。
【0016】
さらにまた、生ごみの微生物による分解過程において、微生物生育環境に影響を与える生ごみの分解過程で生成される反応熱や水分量をリアルタイムに定量的に把握することが困難であったため、微生物生育環境因子である温度や水分量や分解処理槽中の物質の粘度などの微生物生育環境制御に関わる装置稼動に使われる電力などのエネルギーが無駄に使われるという問題があった。
【0017】
加えて、微生物の活性度が把握できない状態で生ごみの分解処理を進めるため、微生物の活性度が低い状態の場合は投入した生ごみがそのまま残渣として残ってしまい大量の残渣の廃棄処理の問題を引き起こしていた。
【0018】
さらにまた、微生物による生ごみの分解過程で生じる生成物の回収において、分解経過時間に対して生成された各物質の生成量が定量的に把握できないため、各々の生成物の回収を行う開始時間や終了時間を適切に決めることが困難という問題並びに分解により生成される各々の物質の総生成量に対する回収比率を制御できないという問題があった。
【0019】
そこで本発明は上記課題を解決するもので、微生物による生ごみの分解過程のそれぞれの過程で生成される生成物をそれぞれ同系列の化合物(脂肪酸同族体のように同一の官能基を有する化合物群)や単一の化学物質毎に分離抽出して回収することを可能としまた、分解経過時間に対して、微生物による投入された生ごみの分解反応における反応熱生成速度や水分生成速度並びに分解反応が起きている処理槽内の熱収支を算定し、生ごみ分解で生じる反応熱や水分を利用して処理槽内容物の温度、水分量などの微生物生育環境を制御すること、並びに、生ごみの分解反応熱生成速度に基づく微生物の活性度を分解経過時間に対してリアルタイムに定量的に測定することを可能とし、さらにまた、処理槽内容物粘度と二酸化炭素排出量データを用いて微生物による生ごみの分解過程で生成される各生成物を回収するタイミングを制御することを可能とした生ごみ資源回収装置を実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は上記目的を以下のように達成する。
請求項1記載発明は、生ごみ資源回収装置において、微生物による生ごみ分解過程で生成され処理槽内容物中に混入している中間生成物のアミノ酸や脂肪酸を溶媒を用いて溶出する手段、前記中間生成物が溶解した溶液に含まれる中間生成物を成分毎に分離抽出する液体成分分離抽出手段、および、微生物の生ごみ分解過程で生成され処理槽気相部に排出される水蒸気や処理槽気相部に浮遊している微小な水滴(ミスト)を水分(液体)として回収する手段を備えたことを特徴とするものである。
本発明は上記構成によって、生ごみの微生物分解過程で生成される生成物を同系列化合物や単一の化合物毎に回収することを可能とした。
【0021】
請求項2記載の発明は、生ごみ資源回収装置において、微生物による生ごみ分解過程で生成され処理槽内容物に混入しているアミノ酸や脂肪酸以外の生成物を溶媒を用いて溶出する手段、前記生成物が溶解した溶液に含まれる生成物を成分毎に分離抽出する液体成分分離抽出手段、および、微生物の生ごみ分解過程で生成され処理槽気相部に排出される水蒸気や処理槽気相部に浮遊する水滴を除く生成物を成分毎に分離抽出する気体成分分離回収手段を備えたことを特徴とするものである。
本発明は上記構成によって、生ごみの微生物分解過程で生成される生成物を同系列化合物や単一の化合物毎に回収し、且つ、生ごみから微生物の分解過程で生成される再利用可能な資源の回収率を高めることを可能とした。
【0022】
請求項3記載の発明は、分解経過時間に対して、微生物による投入された生ごみの分解反応における反応熱生成速度や水分生成速度、並びに分解反応が起きている処理槽内の熱収支を算定し、並びに、処理槽内容物温度測定データから実際に処理槽内で生じている反応熱の生成速度を算定し反応熱生成速度に基づく微生物活性度を評価する微生物活性度評価手段を備えたことを特徴とするものである。
本発明は上記構成によって、分解経過時間に対してリアルタイムに定量的に微生物活性度即ち分解性能を測定することを可能とし、また、生ごみの分解過程で生じる反応熱や水分を利用して処理槽内容物の温度、水分量などの微生物生育環境を制御することを可能とした。
【0023】
請求項4記載の発明は、処理槽気相中の二酸化炭素濃度測定手段、処理槽内容物の粘度を測定する粘度測定手段と前記2つの手段から得られるデータを用いて生成物の回収タイミングを制御する生成物回収タイミング評価手段を備えたことを特徴とするものである。
本発明は上記構成によって、分解経過時間に対して微生物による生ごみの分解過程で生成される生成物の生成速度を算定し、生成される生成物を同系列化合物や単一の化合物毎に生成物の生成速度や全生成量に対する回収比率に基づき回収するタイミングを制御することを可能とした。
【発明の効果】
【0024】
上記のように本発明にあっては、微生物による生ごみの分解過程で生成される生成物をそれぞれ同系列化合物や単一の化合物として分離抽出し回収するため、再資源化物質の品質を安定させ、且つ、品質を高める効果がある。また、回収した資源の再利用性を高める効果がある。
【0025】
また、微生物による生ごみの分解過程における各過程で生成される再利用可能な生成物をそれぞれ同系列化合物や単一の化合物として分離回収することにより、生ごみの再資源化率を高め同時に生ごみ処理に伴う総廃棄物量を減少させ、且つまた、当該生ごみ資源回収装置稼動中に生ごみの分解過程で生成され大気中や下水など装置外に排出する環境負荷物質量を軽減し環境負荷を軽減する効果がある。
また、生ごみの分解過程で生成される生成物の臭気の原因物質であるアンモニアや硫化水素などを回収することにより、生ごみ資源回収装置から排出する排気の臭気を低減する効果がある。
【0026】
さらに、また、微生物の活性度をリアルタイムに定量的に把握することにより、生ごみ投入以降何時でも微生物の活性度の異常が検出されると、微生物の活性度回復措置が取れるため、微生物の分解作用が低下して大量の残渣を発生するという事故を防止したり抑制することができる効果がある。
また、分解経過時間に対して、微生物による生ごみの分解反応により生成される反応熱や水分を利用した微生物生育環境制御を可能とすることにより、温度制御、水分量制御、給排気制御や攪拌制御等微生物生育環境を保つための装置稼動に関わる電力等の消費エネルギーを必要最小限に抑制できる効果がある。
【0027】
また、生成される生成物を生成物の生成速度や全生成量に対する回収比率に基づき回収するタイミングを制御することにより、生成される生成物毎に全生成量に対する回収率を制御できる効果がある。また、回収する生成物の生成量が少量のときにも回収動作をするような無駄な回収動作を抑制し回収コストを抑制する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図1、および図2に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る生ごみ資源回収装置の構成図を示す。
図2は、図1中の操作・表示パネルの一部の詳細を示す。
図1に示すように、生ごみ資源回収装置は、生ごみの分解処理および分解処理で生成された生成物の溶出処理を行う生ごみ処理部1、生ごみ処理部1の溶出処理で生成された溶液を外部へ送り出す制御をするバルブ2、バルブ2の開栓により処理部1から送られてきた前記溶液を成分毎に分離抽出して生成物を回収する液体成分回収部3、生ごみ処理部1で生成した水分(液体)を貯蔵する水回収槽4、生ごみ処理部1の分解過程で生成された気体生成物を成分毎に分離抽出して回収する気体成分回収部5、生ごみ資源回収装置の操作および状態表示を行う操作・表示パネル6、および、生ごみ資源回収装置全体を制御するマイクロコンピュータ、シーケンサ、電気回路等からなる制御部7から主に構成されている。
【0029】
生ごみ処理部1は、処理槽101、処理槽内容物102、この処理槽内容物102を攪拌する攪拌機構103、この攪拌機構103を駆動する駆動モータ部104、外部の空気を取り込み、必要な場合は取り込んだ空気をヒータで加熱した後に処理槽101に送り、処理槽内容物102に空気の供給を行うと共に、処理槽内容物102を加熱することができる給気加熱部105、処理槽101の気相部中の気体を気体成分回収部に送り出す排気ファン106、処理槽101内で生ごみの分解過程で生成される水蒸気や微小の水滴として気相部に浮遊しているミストを水分(液体)として回収する結露器107、生ごみの分解過程で生成される生成物を溶出処理するための溶媒を処理槽101内に散布する散布部108、散布部108に溶媒を送るときに開栓するバルブ109、散布する溶媒を貯蔵しておく溶媒容器110、処理槽内容物102の質量を逐次測定する質量センサ111、処理槽内容物102の温度を逐次測定する温度センサ112、処理槽気相部の二酸化炭素濃度を測定する二酸化炭素濃度測定部113、処理槽内容物102の粘度を測定する粘度測定部114、生ごみの分解反応において生成される反応熱生成速度、水分生成速度や処理槽内の熱収支を算定し、並びに、微生物の活性度をリアルタイムに定量的に評価する微生物活性度評価部115、および生成物の回収タイミングを発生する生成物回収タイミング評価部116から主に構成されている。
【0030】
液体成分回収部3は、処理槽101で生成した溶液を一時貯蔵する液体成分回収槽301、液体成分回収槽301から溶液を取り込み、溶液中に含まれる液体成分を成分毎に分離して抽出する液体成分分離抽出部302から主に構成されている。
【0031】
図2は、操作・表示パネル6の一部を詳細に示す図で、投入した生ごみの質量を設定する投入生ごみ質量設定スイッチ601、投入した生ごみの食品区分の構成比率を設定する投入生ごみ構成比率設定スイッチ602、生ごみが投入されたタイミングを微生物活性度評価部115に知らせ、同時に前記投入生ごみ質量設定スイッチ601、投入生ごみ構成比率設定スイッチ602の設定情報を微生物活性度評価部115に知らせる投入完了ボタン603、および、分解性能の異常が検知されたとき利用者に分解性能の異常を知らせる分解性能異常表示ランプ604から主に構成されている。
【0032】
次に、生ごみ資源回収装置の動作を説明する。
生ごみ処理部1、液体成分回収部3、水回収槽4に水分(液体)を回収する水回収処理、気体成分回収部5、微生物活性度評価部115、並びに生成物回収タイミング評価部116の各動作について順に説明する。
【0033】
以下に「生ごみ処理部1の動作」について説明する。
生ごみ処理部1の動作は、主に生ごみ分解処理と、溶出処理の二つの動作からなる。従って、生ごみ分解処理と、溶出処理の動作について順に説明する。
【0034】
以下に「生ごみ分解処理の動作」について説明する。
生ごみの分解に用いる微生物は微生物の生育環境を保持するため例えば、木チップ、セラミックボールなどの多孔質構造の微生物定着基材に定着させて用いる。この微生物を定着させた微生物定着基材を処理槽101に入れておき、ここに処理対象物である生ごみを投入し、両者を駆動モータ部104に連結している攪拌機構103を用いて攪拌する。
【0035】
生ごみの代表的なものとして、野菜、魚肉類、穀類などがあり、その主成分は、水分、たんぱく質、脂質、炭水化物、灰分などである。したがって、好気性微生物による生ごみの分解過程では、まず分解の初期段階で生ごみの組織、たとえば魚としての形態が分解されることで主成分の水分、たんぱく質、脂質、炭水化物、灰分が生成され、分解の中間段階で主成分からポリペプチド、アミノ酸や脂肪酸などの中間生成物が生成され、分解の最終段階では、中間生成物から水、二酸化炭素、アンモニア、硫化水素などが生成される。
【0036】
また、処理槽101内で生ごみと微生物定着基材とを攪拌する過程で、微生物定着基材に使われる木チップなどの一部は細断化され、さらに粉末化されていき微小な物質となって分解されずに残留していく。微生物定着基材として、セラミックボールを用いた場合は、微生物に分解されず、また、攪拌でも破砕されずに処理槽内に滞留する。
また、生ごみに含まれる金属類や植物性の繊維質等の一部も難分解性物質として処理槽内に残留していく。
【0037】
さらに、また、中間生成物の一部は、処理槽101中の物質と混ぜ合わされ団塊化し、固化して難分解性物質として処理槽内に残留する。
処理槽101において、以上の微生物によって分解され難い物質で長時間処理槽内に滞留する物質を、ここでは総称して難分解残留物と呼ぶ。
【0038】
従って、処理槽内容物102は、分解過程で処理槽101中にある物質で、生ごみ、微生物定着基材、分解により生成された生成物、および難分解残留物の混合物である。
【0039】
前述のように、生ごみの分解処理を繰り返していくと、難分解残留物が処理槽101に蓄積されていく。処理槽101内においては、この難分解残留物もまた、微生物を生育、増殖させる培地として働く。即ち、難分解残留物も微生物定着基材と同様、微生物を担持する働きをする。従って、ここでは、微生物定着基材および難分解残留物を含めて処理槽内で微生物を担持する働きをする物質を総称して菌床と呼称する。
【0040】
微生物による生ごみの分解性能は、生ごみ分解に寄与する微生物の量とその代謝能、即ち、微生物の活性度に比例するが、微生物の活性度は微生物の増殖を左右する微生物の生育環境に左右される。好気性微生物の生育環境因子の中でも特に重要なものに、酸素、水分、温度、水素イオン濃度(pH)などがある。従って、生ごみ処理部1においては、微生物の生育環境を適性に保つ制御を行う。
【0041】
給気加熱部105により、外部の空気を取り込み必要に応じて取り込んだ外気を加熱して、これを処理槽101に送り込む。また、攪拌機構103を用いて処理槽内容物102を攪拌することにより、処理槽101に送り込まれた外気を処理槽内容物102全体に行き渡らせ、菌床に酸素の供給を行うとともに、処理槽内容物102の温度制御を行っている。
【0042】
水分の供給は、生ごみに付着している水分、および生ごみの分解により生成される水分があり、あるいはそれでも不足する場合は、外部から水分の補給を行う。また、水分の減量は、処理槽101内に設置した結露器107により、処理槽101の気相部にある水蒸気やミストを水分(液体)として回収し、その水分(液体)を水回収槽4に取り出すことにより、処理槽101内の水分を減じている。それに加えて、排気ファン106を用いて、処理槽101中の気相部にある水蒸気やミストを含む気体の排出量を制御することにより、処理槽内の水分量を減じる制御を行う。
【0043】
制御部7は、生ごみ処理部1が機能するように生ごみ処理部1の全体を制御している。即ち、駆動モータ部104、給気加熱部105、排気ファン106等を制御することにより、処理槽内容物102の攪拌量や酸素供給、加熱量、排気・除水量の調整等を行い、生ごみの分解処理を制御している。
【0044】
次に以下に「溶出処理の動作」について説明する。
前記の生ごみの分解過程で生成される生成物や分解されずに残った難分解残留物は、菌定着基材や生ごみの断片と混ざり合い、処理槽内容物102を形成し、一部は処理槽101内壁に付着したり、菌床の微細な空隙に滞留する。また、脂肪酸などの粘性の高い物質により菌定着基材や生ごみの断片や生成物、難分解残留物などからなる団塊を形成する。さらに、団塊の一部は固化して難分解残留物として処理槽101内に残留する。
処理槽内容物102中に含まれる生ごみの分解過程で生成される生成物はそれぞれ資源として再利用が可能である。これらの再利用可能な資源として生成物を回収するための第1ステップとして、生ごみ処理部1では、中間生成物の生成量が一定のレベルに達した段階で、生ごみ分解処理から溶出処理に移行する。
【0045】
処理槽101内に生成され処理槽内容物102中に含まれる生成物を他の物質と分離し回収する方法としては、生成物を溶解させその溶液を回収する方法を用いる。
この生成物の溶解に用いる溶媒としては、溶解の対象となるそれぞれの物質の化学的性質に応じて溶媒を選択する。たとえば、用いる溶媒として、極性溶媒を含む水溶液の他、親水性溶媒、疎水性溶媒、両極性溶媒、界面活性剤を含む溶媒、アルカリ条件の溶媒などの溶媒が選択可能である。
【0046】
溶出処理では、バルブ109を開栓し、溶媒容器110中の溶媒を散布部108に導き、溶媒を処理槽101内に散布する。同時に駆動モータ部104、攪拌機構103を用いて、処理槽内容物102と溶媒とを攪拌する。処理槽内容物102は、溶媒と混ざり合ってどろどろした液状になり、溶媒は団塊固化物質中に浸透し、団塊中の物質を付着させていた生成物が溶解することにより、団塊は崩壊し、団塊を形成していた固形の微生物定着基材や生ごみや難分解性残留物がそれぞれ分離してバラバラになる。また、微生物定着基材の空隙に埋もれた生成物も溶出し、微生物定着基材は元の多くの空隙を持った物質に戻る。さらに、また、処理槽101内壁に付着し固化していた物質も溶媒の浸透と攪拌により内壁から剥がされ、剥がされた物質も前記団塊固化物質と同様にそれを形成していた物質に分離してバラバラになる。
従って、溶媒を注入し、処理槽内容物102を攪拌することにより、溶媒に生成物が溶解した溶液となり、団塊固化していた物質は、団塊を形成していた元の固形物質、即ち、微生物定着基材、生ごみ断片、難分解性物質などに分離し、それらの固形物質が前記溶液中に混入した混濁液となる。
【0047】
他方、溶媒により生成物を溶解させることにより、生成物の付着により起こしていた菌床の空隙の目詰まりが解消され、また、生成物の粘性などに起因して固化、団塊化して生成されていた難分解性物質が減少することにより、菌床の微生物生育環境特性の劣化が回復される。
生ごみ処理部1では、溶出処理で処理槽101内の微生物は死滅したり、活性度が低下しているので、処理槽101から溶液を取り除いた後に、処理槽101内の菌床に微生物の定着処理を行い処理槽101内の微生物の活性度を復元させる処置を行い、再び、生ごみ分解処理が可能な状態に復元させる。
【0048】
次に「液体成分回収部3の動作」を説明する。
生成物の回収の第2ステップでは、生ごみ処理部1の溶出処理で処理槽101中に作り出した固形物質を含む混濁液を図示していない濾過器を通して、溶液のみを取り出し、それをバルブ2を開栓して、液体成分回収部3の液体成分回収槽301に移す。
【0049】
第3ステップは、液体成分回収槽301中の溶液を液体成分分離抽出部302に導き、ここで溶液中に含まれる生成物を分離抽出して回収する。溶液中に含まれる成分を分離抽出する方法としては、分配、吸着、分子排斥、イオン交換などの物質の物理化学的特性を利用して分離抽出するクロマトグラフィーや電場のもとでの溶質の移動方向と速度が溶質の大きさ、形状、電荷符号と量によることに基づき分離する電気泳動法などを利用した分離抽出装置を利用して行う。
【0050】
次に「水回収処理および水回収槽4の動作」について説明する。
処理槽101で微生物により生ごみが分解される過程で水分が生成される。生成される水分は生ごみから得られる再利用可能な重要な資源である。生成される水分の一部は、水蒸気やミストの状態にあり、処理槽101内の気相部の気体中に含まれている。
処理槽101の気相部に設置された結露器107の気相部の気体と接触する部分の表面温度を、処理槽101の気相部の気体の温度よりも低く保ち、気相部中の水蒸気を凝縮させたり、ミスト状の微小な水滴同士が集まったより大きな水滴として、結露器107の表面で水(液体)を回収する。結露器107の表面温度を相対的に低く保つ方法として、給気加熱部105で取り込んだ外気の一部を結露器107内部に取り込み結露器表面と熱交換させて結露器表面温度を外気温度に保つ方法がある。結露器107で得た水(液体)をパイプを通して水回収槽4に導くことにより生ごみから生成される水分を回収する。
【0051】
次に「気体成分回収部5の動作」について説明する。
処理槽101において生ごみの分解過程で二酸化炭素、アンモニア、硫化水素などが生成され処理槽101の気相部に放出され、そこで空気と混合された気体を形成する。処理槽101内の気相部の気体は排気ファン106により処理槽101から排出され気体成分回収部5に導かれる。
【0052】
気体成分回収部5で、処理槽101から送り込まれた気体中に含まれる二酸化炭素、アンモニア、硫化水素などを分離抽出する処理を行い、成分毎に回収を行う。
気体成分回収部5での気体中に含まれる成分の分離抽出の方法は、気体流中に薬液を散布して中和反応などの化学反応による反応物質を生成して回収する方法を用いる。気体成分回収部5では、この方法を利用したスクラバー装置などを利用して排気中の生成成分を回収する。また、二酸化炭素を装置外に排出させない方法としては、二酸化炭素の固定化能力の高い生物、例えば珪藻などの培養槽に二酸化炭素を導入し固定化させる方法などがある。
【0053】
以上の構成によれば、微生物による生ごみの分解過程で生成される生成物をそれぞれ同系列化合物や単一の化合物として分離抽出し回収するため、再資源化物質の品質を安定させ、且つ、品質を高める効果がある。また、回収した資源の再利用性を高める効果を発揮する。
また、生ごみの再資源化率を高め、同時に生ごみ処理に伴う総廃棄物量を減少させ、且つまた、当該生ごみ資源回収装置稼動中に生ごみの分解過程で生成され大気中や下水など装置外に排出する環境負荷物質量を軽減し環境負荷を軽減する効果を発揮する。
また、生ごみの分解過程で生成されるアンモニアや硫化水素などを回収することにより、生ごみ資源回収装置から排出する排気の臭気を低減する効果を発揮する。
【0054】
次に、「微生物活性度評価部115の動作」を順を追って説明する。
まず、微生物活性度評価部115の動作原理となっている微生物による有機物分解の物理化学モデルについて説明する。次に、この微生物による有機物分解の物理化学モデルに基づく微生物活性度評価方法を説明する。最後に、以上の微生物による有機物分解の物理化学モデル、並びに、微生物活性度評価方法に基づく微生物活性度評価部115の動作を説明する。
【0055】
以下に、「微生物による有機物分解の物理化学モデル」の説明を行う。
微生物の活性度、即ち、微生物の量とその代謝能は、微生物が営む単位時間当たりの化学反応量、即ち、化学反応速度で見ることができる。化学反応速度は化学反応に伴う反応熱生成速度に比例するので、微生物の活性度は、化学反応に伴う反応熱生成速度で計ることができる。
以下の微生物による有機物分解の物理化学モデルは、処理槽内容物の温度変化速度から有機物の分解反応による反応熱生成速度を求め微生物の活性度をリアルタイムに定量的に測定することが出来ることを示している。
微生物による有機物分解の物理化学モデルは、次の3つのモデルを連携統合したモデルである。即ち、分解化学反応モデル、分解反応熱モデル、処理槽熱収支モデルの3つである。以下順に説明する。
【0056】
以下に「分解化学反応モデル」の説明を行う。
生ごみの分解は微生物の代謝機能により行われる。この考えに基づき、この分解化学反応モデルでは、好気性微生物による生ごみの分解特性を示すものとして、生ごみの主成分であるたんぱく質、脂質、炭水化物等の加水分解/酸化の化学反応式(以下、分解化学反応式)とその化学反応速度式を用いている。
この化学反応速度式により、生ごみ投入後の分解経過時間に対して、分解生成物量や分解生成速度などが定量的に予測できる。
前記化学反応速度式を用いて、実際の生ごみの分解特性の幾つかの実測値と比較検討したところ、このモデルが実際の生ごみの分解特性を良く近似していることが確認されている。
以下、分解化学反応式の概略を説明する。
【0057】
この分解化学反応式は以下の分解反応プロセスに基づいている。
たんぱく質(P)――→アミノ酸(A)――→無機物(DP)
脂質(L)――→脂肪酸(LA)、グリセリン――→無機物(DL)
炭水化物(HC)――→無機物(DHC)
細胞質内水分(W)――→ 自由水(DW)
即ち、たんぱく質は、加水分解により、ポリペプチドを経由して中間生成物、アミノ酸(A)を生成し、アミノ酸は、酸化反応により、無機質(二酸化炭素、水、アンモニア、硫化水素)に分解される。
また、脂質(L)は、加水分解により、中間生成物、脂肪酸(LA)やグリセリンに分解され、その中間生成物は、酸化反応により、二酸化炭素、水に分解される。また、炭水化物は、一段の分解反応ととらえ、無機質の二酸化炭素、水に分解される。
また、生ごみを構成している食品の細胞質中に含まれる水分、即ち、細胞質内水分(W)は微生物の分解過程で細胞壁が分解されると細胞質外に放出され、細胞質と分離遊離した水分、即ち、自由水(DW)が生成される。
以上の分解反応プロセスにおいて、生ごみ成分のたんぱく質、脂質、炭水化物各1モルから生成される生成物の生成量(モル)はそれぞれの分解化学反応式から得られる。生成量(モル)の代表例を表1に示す(たんぱく質は典型的な組成式量を用いている)。
【0058】
【表1】

【0059】
また、分解経過時間に対する分解反応プロセス毎の生成物量を求める方法として、分解に寄与する微生物群の生物的特性をブラックボックスとして、分解経過時間に対して生成物量を実験で求め、得られた生成物量曲線を近似する関数形を求める方法がある。この考えに基づき次のような生成物量曲線を近似する関数形を用い、その関数形のパラメータを実験で得られた生成物量曲線にフィットするよう設定することにより、実際の生成物量を良く近似できることを確かめた。
即ち、
1段の分解反応における反応物量Rおよび生成物量Eの分解経過時間tに対する関係は、指数関数exp()を用いて、
R=R0exp(-a*t)
E=R0(1-exp(-a*t))
但し、
ROは初期投入反応物量
aは分解反応速度定数
また、2段の分解反応の場合は、
R=R0exp(-a1*t)
M=R0*(f1exp(-a1*t)-f2exp(-a2*t))
E=R0*(f3exp(-a1*t)-f4exp(-a2*t))
但し、
Mは、中間生成物量、
a1、a2は、それぞれ、1段目、2段目の分解反応速度定数、
f1,f2,f3,f4は、パラメータa1、a2から導かれる定数
この関数形を用いて、生ごみから生成される各生成物の生成物量曲線を示す関数、即ち、分解生成量式を以下のように表記する。
但し、関数表記 f(t;a1,a2,a3,・・・)は、tが変数、a1,a2,a3,・・・は、パラメータを示すものとする。
P(t)=P(t;p0、k1);たんぱく質残量
A(t)=A(t;p0、k1、k2);アミノ酸生成量
DA(i)(t)=DA(i)(t;p0、k1、k2);たんぱく質から生成される無機質(i)量
L(t)=L(t;l0、m1);脂質残量
LA(t)=LA(t;l0、m1、m2);脂肪酸生成量
DL(i)(t)=DL(i)(t;l0、m1、m2);脂質から生成される無機質(i)量
HC(t)=HC(t;hc0、n);炭水化物残量
DHC(i)(t)=DHC(i)(t;hc0、n);炭水化物から生成される無機質(i)量
W(t)=W(t;w0、p);生ごみ中の細胞質内水分残量
DW(t)=DW(t;w0、p);細胞質内水分から生成される自由水生成量
CO2(t)=DA(CO2)(t)+DL(CO2)(t)+DHC(CO2)(t);二酸化炭素生成量
H2O(t)=DA(H2O)(t)+DL(H2O)(t)+DHC(H2O)(t)+DW(H2O)(t);水分生成量
NH3(t)=DA(NH3)(t);アンモニア生成量
H2S(t)=DA(H2S)(t);硫化水素生成量
但し、tは分解経過時間、p0、l0、hc0、w0は、投入された生ごみ中に含まれるたんぱく質、脂質、炭水化物、細胞質内水分の初期質量、k1、k2、m1、m2、n、pは、それぞれの成分が分解されるときの分解反応速度定数で、サフィックスの数字は、1が前段の分解(加水分解)、2が後段の分解(酸化反応)の定数を示す。
分解反応速度定数は、実際に生ごみ分解に使用している微生物群を用いて生ごみ分解の実験を行い実測から求める。
【0060】
また、分解生成速度式は、上記の分解生成量式の時間微分をとることにより導出される。従って、ここでは、たとえばアミノ酸の分解生成速度をdA/dtと表記する。
【0061】
また、投入された生ごみからその生ごみに含まれる食品成分構成は、概算、次のようにして求めることが出来る。
即ち、生ごみを野菜類、魚肉類、穀類、水分に区分し、それぞれの食品区分毎に、それに属する食品を複数種類選定し、これをその食品区分を代表する食品とする。選定した各区分の代表食品のそれぞれ100g中に含まれる食品成分量は公開されている食品標準成分表などから求め、その平均値をその食品区分の食品成分量と定める。このようにして求めた食品区分別食品成分の例を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
従って、この食品区分食品成分表を用いて、投入する生ごみの総量と前述した食品区分の構成比(以下 食品区分構成比率)が解ると、投入する生ごみ中に含まれる食品成分量、即ち、p0、l0、hc0、w0が求まる。
【0064】
以上より、投入する生ごみの総量(S)、その食品区分構成比率(Sp:Sl:Shc:Sw)、および、6つの分解反応速度定数(k1、k2、m1、m2、n、p)により、分解反応速度式を用いて、生ごみの分解特性、即ち、生ごみの減少速度や分解により生成される生成物の生成速度などを定量的に算定できる。
【0065】
次に「分解反応熱モデル」について説明する。
生ごみが微生物により分解される過程において、分解反応により自由エネルギー変化が生じ、その一部は微生物の生育や増殖に利用され、その一部は分解反応熱として外部に放出され、その一部は処理槽内容物102との間で熱交換が行われ処理槽内容物102の温度を上昇させる。一般に、生ごみ分解において微生物の活性度が高く、従って生ごみの分解効率が高い場合には、処理槽内容物の温度上昇も大きくなる。他方、微生物の活性度が低い場合には、生ごみの分解があまり進まず、且つ、処理槽内容物の温度上昇も小幅に留まる傾向にある。従って、分解反応熱による処理槽内容物の温度変化は、生ごみの分解における微生物の活性度を推し量る上の重要な手がかりとなる。
【0066】
各分解反応プロセスにおけるモル当りの典型的な反応熱を表3に示す。この表3のモル当りの反応熱と前述の分解生成量式および分解反応速度式から、分解経過時間に対する分解反応熱量式H(t)と分解反応熱生成速度式dH(t)/dtが求まる。
【0067】
【表3】

【0068】
以上の分解反応熱モデルに基づき、投入する生ごみの総量と、生ごみの食品区分構成比率から、分解反応熱量式H(t)と分解反応熱生成速度式dH(t)/dtを用いて、分解経過時間tに対して、微生物による生ごみの分解に伴う反応熱量や反応熱生成速度が算定できる。
【0069】
次に「処理槽熱収支モデル」の説明を行う。
前述したように処理槽内容物102の温度上昇や温度上昇速度は、微生物の活性度と相関をもっているが、処理槽内容物102の温度を決める熱要素は、分解反応熱以外にも色々な熱要素があり、その総合的な結果として決まる。即ち、処理槽内容物102と熱交換を行う熱要素としては、分解反応熱以外に、給気加熱部105により外気を取り込み、そのまま、あるいは外気を加熱後、処理槽101気相部に送り込む空気によってもたらされる熱量、排気ファン106により処理槽101気相部の気体を外部に排出することに伴う排熱、並びに、処理槽101内の水蒸気の凝縮熱や水(液体)の蒸発熱などがある。
従って、処理槽内容物102の実測温度から微生物の反応熱量を推定する場合、処理槽内容物102の温度を決定する熱要素のうちから、分解反応熱以外の熱要素の影響を除外する必要がある。
微生物による有機物分解の物理化学モデルでは、処理槽熱収支モデルを用いて処理槽内容物102の実測温度から、分解反応熱以外の熱要素の影響を除外して、処理槽内容物102の温度上昇に寄与した分解反応熱生成速度を算出している。
【0070】
以上述べたように、処理槽101中の処理槽内容物102の温度に影響する熱要素としては次のものがある。
(1)単位時間当たりの分解反応熱(HB(t))
一般的に微生物生体内反応と生命維持に利用されるエネルギーは、微生物代謝反応で得られるエネルギーの60%であるとされているので、生体外へ排出されるエネルギーは分解反応熱速度式から求められる熱量の40%となる。
(2)単位時間当たりの処理槽内容物102の熱交換量(HR(t))(HR(t)>0の場合、処理槽内容物102が周囲から吸熱する)
(3)排気により外部に排出される単位時間当たりの排熱HD(t)(以下排熱と呼称)
(4)分解で生成された水分を含む処理槽内容物102中の水分の気化による単位時間当たりの蒸発熱HV(t)(以下、蒸発熱と呼称)
(5)処理槽101気相部にある水蒸気の液化による単位時間当たりの凝縮熱HM(t)(以下凝縮熱と呼称)
(6)給気加熱部105で外気を取り込み、そのまま、あるいは加熱を行った後、処理槽101内に送り込まれる空気によってもたらされる単位時間当たりの熱量HH(t)(以降 給気熱と呼称)
従って、処理槽101内の熱収支Δ(t)は、
Δ(t)=HB(t)-HR(t)-HD(t)-HV(t)+HM(t)+HH(t)
となる。
ここで、分解反応熱HB(t)は、前述の分解反応熱生成速度式dH(t)/dtから求まる。
前記排熱HD(t)は、排気ファン106による排気により処理槽101気相部から外部に排気される熱量から求まる。
前記蒸発熱HV(t)は、前述の水分生成速度式および処理槽内容物温度T(t)における単位質量当りの蒸発熱量から求まる。
前記凝縮熱HM(t)は、前述の分解による水分生成速度式や処理槽101気相部の気体の温度T(t)における飽和水蒸気量、排気により外部に排出される水分量、および単位質量当りの凝縮熱量などにより求まる。
前記給気熱HH(t)は、外気の空気温度、湿度、給気量、加熱した空気の温度などから求まる。
処理槽101内の熱要素は上記6つの熱要素の他にも、処理槽101外壁とそれに接している外気との間での熱交換などがあるが、上記6つの熱要素以外の熱要素は無視できるとすると、
Δ(t)=0
となる。
【0071】
次に、以下に「微生物活性度の評価方法」について説明する。
前述の処理槽熱収支モデルの処理槽熱収支式Δ(t)を用いると、処理槽内容物102の温度変化は、Δ(t)=0であるので、
HR(t)=HB(t)-HD(t)-HV(t)+HM(t)+HH(t)
から予測できる。
即ち、処理槽内容物102の質量M、処理槽内容物102の比熱c、とすると、処理槽内容物102の前記熱交換量HR(t)から、処理槽内容物102の単位時間当たりの温度上昇ΔT(t)は、
ΔT(t)=HR(t)/(M*c)
となる。
逆に、処理槽内容物102の単位時間当たりの実測温度変化量ΔTm(t)を測定すると、
ΔTm(t)=HRm(t)/(M*c)
から、処理槽内容物102と実際に熱交換した熱交換量の推定値HRm(t)が求まる。HRm(t)が求まると、次式、
HBm(t)=HRm(t)+HD(t)+HV(t)-HM(t)-HH(t)
から、分解経過時間tに対する微生物による単位時間当たりの前記分解反応熱の実際量HBm(t)が推定でき、理論的な単位時間当たりの前記分解反応熱HB(t)と比較して、微生物の活性度を定量的に判定することができる。
【0072】
次に、以上の微生物活性度評価方法に基づく「微生物活性度評価部115の動作」を説明する。
投入された生ごみの質量とその食品区分構成比率を操作・表示パネル6の投入生ごみ質量設定スイッチ601、および投入生ごみ構成比率設定スイッチ602のロータリスイッチを用いて設定後、投入完了ボタン603を押下すると、微生物活性度評価部115は、設定された前記スイッチのデータを読み込み、また、投入完了ボタン603が押下された時刻を読み込む。
微生物活性度評価部115は、読み込んだ投入生ごみ質量とその食品区分構成比率から、前記食品区分別食品成分表を用いて、投入生ごみ中に含まれる食品成分量、即ち、たんぱく質、脂質、炭水化物、水分の各量を計算する。
投入生ごみの食品成分量が解ると、前述の微生物による有機物分解の物理化学モデルを用いて、分解経過時間tに対して、理論的な単位時間あたりの分解反応熱HB(t)を計算する。
一方、分解経過時間tに対して一定の時間間隔で、処理槽内容物102の温度を温度センサ112で測定し、微生物活性度評価部115に処理槽内容物102の実測温度(Tm(t))を記録して置き、それから分解経過時間tにおける単位時間当たりの温度上昇データΔTm(t)を計算する。
ΔTm(t)が求まると、
HRm(t)=ΔTm(t)*M*c
HBm(t)=HRm(t)+HD(t)+HV(t)-HM(t)-HH(t)
を用いて、実際に生成している単位時間あたりの分解反応熱HBm(t)が算出できる。
微生物活性度指標cmpは、分解経過時間tに対して、単位時間当たりの前記分解反応熱の理論値に対する実際値の推定値との比で表す。即ち、
cmp=HBm(t)/HB(t)を計算する。
その値により微生物活性度を判定する。例えば、
cmp≧0.6 を微生物活性度=良
0.6>cmp≧0.4 を微生物活性度=低い(要注意)
cmp<0.4 を微生物活性度=不良
と判定し、
0.6>cmp≧0.4 の場合は、微生物活性度評価部115は操作・表示パネル6の分解性能異常表示ランプ604を半点灯あるいは点滅させ、cmp<0.4の場合は、分解性能異常表示ランプ604を点灯させる。利用者はこの分解性能異常表示ランプ604の半点灯(点滅)や点灯していることにより、生ごみの分解性能が異常な状態にあることを知ることができる。
【0073】
次に、以上の微生物による有機物分解の物理化学モデルに基づく「微生物活性度評価部115の動作」について説明する。
ここで制御対象となる微生物生育環境因子としては、処理槽内容物102の温度と酸素と水分である。
【0074】
温度制御については、用いる微生物群の生育温度域を保つように制御する。例えば、生育温度域が5℃〜55℃で最適温度が37℃前後の中温菌の微生物群を用いた場合の温度制御について説明する。
生ごみが投入されてから、生ごみや分解過程で生成される中間生成物の分解がほぼ終るまでの間は微生物にとっては栄養源が豊富な状態、即ち、高栄養源期間である。大部分の生ごみや中間生成物の分解がほぼ終了してから、次の生ごみが投入されるまでの間は、微生物にとって栄養源が少ない状態、即ち、低栄養源期間となる。
【0075】
低栄養源期間における処理槽内容物102の温度制御の目標は、処理槽内容物102の温度が微生物の生育温度域より下がらないよう生育温度域を保つことである。
処理槽内容物102の温度制御は、給気加熱部105と排気ファン106による処理槽気相部の給排気制御により、前記6つの熱要素の処理槽内容物102の温度への影響を制御して行う。
給気加熱部105を用いて、外気(常温)を取り込み、加熱せずにそのまま外気を処理槽101に送り込み、同時に、処理槽内の気体を排気ファン106を用いて処理槽外に排気する制御(これを以降常温給排気制御と呼ぶ)の場合、
HH(t)-HD(t)<0
となる。
また、処理槽101内では水蒸気の一部が液化するので、
HM(t)-HV(t)<0
そして、低栄養源期間での微生物の活性度は低下していくので、
HR(t)=HB(t)+(HH(t)-HD(t))+(HM(t)-HV(t))<0
となる。
従って、低栄養源期間の常温給排気制御においては、分解経過時間の経過と共に処理槽内容物102の温度は外気温度(常温)に近づく。即ち、外気温が5°C以上の場合は生育温度範囲の低温域(5℃以上)を保つ。
冬季や寒冷地域によっては、外気温度が微生物生育温度域より低い場合がある。この場合は、給気した外気を給気加熱部105で加熱して、加熱した空気を処理槽101内に送り込み、同時に処理槽101内の気体を排気する制御を行う(これを以下、加熱給排気制御と呼ぶ)。これにより処理槽内容物102の温度が生育温度域の低温域に保たれるよう制御する。
【0076】
高栄養源期間における処理槽内容物102の温度制御の目標となる温度は、微生物の生育最適温度域である。高栄養源期間では、生成される分解反応熱は先に述べた理論的分解反応熱にほぼ近い値となり、常温給排気制御において、
HR(t)=HB(t)+(HH(t)-HD(t))+(HM(t)-HV(t))
が最適になるように、すなわち、分解反応熱により一定時間後に処理槽内容物102の温度が微生物の生育最適温度域まで上昇するよう常温給排気制御を行う。
処理槽内容物102の温度が生育最適温度域まで達し、さらに微生物の活性度が高い状態が持続して、分解反応熱により生育最適温度域を超えるまで上昇するような場合は、常温給排気制御における排気風量を段階的に高め生育最適温度域を保つよう制御する。
【0077】
次に酸素供給制御について説明する。
処理槽内容物102に対する酸素供給の制御は、給気加熱部105と排気ファン106を用いて、処理槽101に外気を送り込み処理槽101内の気体を外部に排気する給排気制御と攪拌機構103による処理槽内容物102の攪拌により行う。
即ち、給排気制御により外気を処理槽101に送り込み、処理槽内容物102を一定時間周期で攪拌することにより、取り込んだ空気(酸素)を処理槽内容物102に均一に供給する。攪拌周期を制御することにより、処理槽内容物102への酸素供給量を制御する。
【0078】
次に水分量制御について説明する。
生ごみ分解処理は、上述の通り、高栄養源期間と低栄養源期間とを組み合わせた期間を1回の生ごみ分解処理サイクルとしてその繰返しにより行う。
生ごみ分解処理サイクル期間の水分量の制御は、微生物が生育に適した水分量、即ち、微生物生育水分量域を保つよう制御する。微生物生育水分量域は、例えば、好気性微生物の場合、微生物の棲家となる菌床の空隙に適量の酸素と水分の両方を供給する必要があり、その条件を表す指標として菌床の含水率を用いることができる。
処理槽内容物102の水分量は、生ごみの分解過程で水分が生成されることにより増える。一方、生ごみ分解で生成された水分や処理槽内容物102中に含まれる水分の一部は、水蒸気やミストの形で処理槽101内の気相部中に含まれ排気に伴い処理槽101内の水分量は減少する。さらにまた結露器107で水(液体)として回収された分だけ処理槽101内の水分量は減少する。
生ごみの分解過程で生成される水分生成速度は、前述の
dH2O(t)/dt
から予測できる。
処理槽101内で生成された水分は、一部は水蒸気として一部はミストとして処理槽101気相部内の気体の排気と共に排出される。また、一部は、結露器107により水(液体)として回収される。従ってその残りが水分(液体)として処理槽内容物102に還流する。
従って、排気ファン106による排気風量制御により処理槽内容物102の含水率を制御することができる。
【0079】
低栄養源期間では、微生物が分解する栄養源が少ないので生成される水分量も少ない。従って、排気風量制御による含水率制御においては、処理槽内容物102からの水分除去量を処理槽内容物中の水分の自然蒸発量に近い量に押さえ、乾燥し過ぎないように含水率を保つよう制御する。
【0080】
高栄養源期間では、生ごみの分解作用が活発に行われ、ほぼdH2O(t)/dtに近い速度で水分量が生成されるので、生成された水分から処理槽内容物102に還流される水分量によって処理槽内容物102の含水率が微生物生育水分量域を超えないよう排気風量を制御する。
【0081】
以上の構成により、微生物生育環境因子の温度、酸素、水分に関して微生物の生育に適した条件を満たした制御を可能とし、それにより微生物の活性度を維持し生ごみの分解を促進する効果を発揮する。
また、微生物の活性度をリアルタイムに定量的に把握することにより、生ごみ投入以降何時でも微生物の活性度の異常が検出されると、微生物の活性度回復措置が取れるため、微生物の分解作用が低下して大量の残渣を発生するという事故を防止したり抑制することができる効果を発揮する。
さらに、また、微生物による生ごみの分解作用による前記分解反応熱や前記生成水分並びに前記給気熱、前記凝縮熱や前記蒸発熱の利用度合いを制御して微生物生育環境の特性値である処理槽内容物102の温度や含水率を分解経過時間毎の目標範囲を保つよう制御すること(以下 この制御を制御Aと称する)を可能とし、前記制御Aによる制御量の過不足により微生物生育環境の特性値が前記目標範囲内から外れる場合は、過不足する制御量を補うよう電力などのエネルギーを用いて微生物生育環境の特性値を制御することを可能とし、これにより微生物生育環境制御に用いる装置稼動のための電力等の消費エネルギーを必要最小限に抑える効果を発揮する。
【0082】
次に「生成物回収タイミング制御の動作」について説明する。
微生物による生ごみの分解は前述の分解化学反応式に従って進行し、主成分や中間生成物など種々の生成物がそれぞれの分解化学反応速度式に従って生成される。従って、分解による生成物の回収に際しては、回収する目的とする生成物毎に、回収に適したタイミングが異なり、従って、回収物毎に適切な回収タイミングを決める必要がある。生ごみ分解における二酸化炭素排出量は分解化学反応式の基本生成物であることから、前述の化学反応速度式を用いて、分解経過時間に対して、二酸化炭素排出量と相関を持つ処理槽101気相部の二酸化炭素濃度から各々の生成物の生成量や生成速度が求められる。また、中間生成物である脂肪酸やアミノ酸の回収を目的とする場合にはこれら中間生成物の処理槽内容物102中の滞留量が増えることにより処理槽内容物102の粘度が上昇することから、処理槽内容物102の粘度(以下、処理槽内容物粘度)で中間生成物の生成量が推定できる。従って、処理槽内容物粘度を回収タイミング制御に用いることが有効である。この処理槽内容物粘度は、攪拌機構103を駆動している駆動モータ部104のモータのトルク値と高い相関を持ち、さらに、モータのトルクとモータの駆動電流値はまた高い相関をもつので、モータの駆動電流値を計測することで処理槽内容物粘度を推定可能である。
【0083】
二酸化炭素濃度測定部113は、処理槽101気相部の二酸化炭素濃度を一定の分解経過時間毎に測定し、そのデータを生成物回収タイミング評価部116に送る。
二酸化炭素濃度を測定する方法として、二酸化炭素濃度に応じて起電力が変動する電解質型二酸化炭素センサなどの二酸化炭素濃度センサや、ガスサンプリング管を通して収集した処理槽101気相部の気体をガスクロマトクラフで濃度測定する方法などが利用できる。
【0084】
粘度測定部114は、一定の分解経過時間毎に駆動モータ部104の駆動電流値を測定し、それから粘度データに換算してその粘度データを生成物回収タイミング評価部116に送る。
粘度とモータの駆動電流との換算は、例えば、予め粘度とモータトルクとそれに対応した駆動モータの電流値との対応を計測し、粘度と駆動モータの電流値とが比例するという経験則から粘度と駆動モータの電流値との換算表を求めておき、この換算表を用いて、駆動モータ部116のモータの測定駆動電流値から粘度データを算出する方法を用いることができる。
【0085】
生成物回収タイミング評価部116は、予め生成物回収タイミング評価部116に回収パラメータ即ち、二酸化炭素回収率、アンモニア回収率、硫化水素回収率を設定しておく。各生成物の分解経過時間に対する生成量曲線および全分解過程で生成される生成量は、前記分解生成速度式から求められる。一方、各生成物が一定の分解生成速度値(分解生成速度閾値)を越えた場合にその生成物の回収動作を行う制御を行う方法を用いると、各生成物の回収率と分解生成速度閾値との対応が求まる。各生成物の分解生成速度閾値が求まると生成量曲線から、分解経過時間に対して各生成物の回収開始、回収終了タイミングが求まる。分解経過時間に対して、各生成物の回収開始、回収終了タイミングが求まると、各生成物の回収開始、回収終了タイミングに対応した二酸化炭素生成速度閾値が求まり、それから処理槽内の二酸化炭素濃度閾値が求まる。以上の計算により、各生成物毎の回収率パラメータに対応する二酸化炭素濃度閾値と前記二酸化炭素濃度測定部113から送られる二酸化炭素濃度とを比較し、その大小関係で、二酸化炭素、アンモニアや硫化水素などのそれぞれの生成物毎の生成物回収開始信号や回収終了信号を発生し、その信号を制御部7に送る。
【0086】
さらに、また、生成物回収タイミング評価部116は、予め粘度と中間生成物の生成量曲線との対応表を実測等で求めておき、また、中間生成物の生成量下限値を中間生成物の回収パラメータとして設定しておく。前記粘度測定部114から送られる粘度データから前記粘度と中間生成物の生成量曲線との対応表を用いて中間生成物の生成量に換算し、粘度測定データから求まる中間生成物の生成量が前記の中間生成物の回収パラメータ値を越えると、溶出処理開始信号を制御部7に送る。
制御部7は、前記生成物回収開始信号や生成物回収終了信号や溶出処理開始信号を受けると、それぞれ、気体成分回収部5、生ごみ処理部1や液体成分回収部3を制御して、生成された気体成分や固体の中間生成物の成分毎の回収処理を制御する。
【0087】
上記の構成により、目的とする回収物に応じた回収タイミングを決めることが可能となる。また、予め設定している回収パラメータの値、即ち、二酸化炭素回収率、アンモニア回収率、硫化水素回収率と、前記の微生物による有機物分解の物理化学モデルから、分解により生成されるそれぞれの生成物量に対する回収比率が求まり、回収率パラメータを変更することにより、それぞれの生成物の回収比率を制御することを可能とする効果を発揮する。また、前記の回収タイミング制御を行うことにより、各生成物の分解生成速度がパラメータで設定された分解生成物速度値を越えた場合にのみ回収動作を行わせることを可能とし、生成物の生成量が少ない場合にも回収動作を行うなどの効率の悪い回収動作を抑制でき、回収コストを抑制できる効果を発揮する。
【0088】
以上の本発明の実施例では、再利用可能な資源として回収するために、生成物を溶解するために用いた溶媒は、生成物を含む溶液中から生成物を分離抽出した後廃棄しているが、溶液中から溶媒を分離回収して再利用するよう構成しても良い。
【0089】
以上の本発明の実施例では、処理槽で生ごみの分解処理とその過程で生成された生成物の溶出処理の両方を行ったが、前記両処理をそれぞれ専用の処理槽、例えば、分解処理槽と溶出処理槽に分けても良い。
さらに、また、分解処理槽や溶出処理槽に関しても、それぞれ複数設けて、分解処理や溶出処理を分割並行処理するよう構成しても良い。
【0090】
以上の本発明の実施例では、微生物活性度評価部115に投入生ごみの質量データを入力する手段として、操作パネルのロータリスイッチで投入生ごみの質量データを設定する方法を用いているが、これに限らず、他の手段を用いても良い。たとえば、操作パネルに生ごみ投入前質量測定ボタンと、生ごみ投入直後質量測定ボタンを用意し、質量センサ111を用いて、処理槽の生ごみ投入前質量と生ごみ投入直後質量を測定し、その差分として投入生ごみ質量データを得る方法を用いても良い。
また、生ごみ処理部に投入する生ごみ量が毎回ほぼ一定量であるような使用例では、微生物活性度評価部115に投入生ごみ質量データをプログラムのパラメータとして予め与えておいても良い。
また、投入生ごみの食品区分構成比率のデータについても、毎回投入する生ごみの食品区分構成比率がほぼ一定している場合や、1週間の生ごみ投入総量の食品区分構成比率がほぼ一定している場合には、同様に微生物活性度評価部115のプログラムのパラメータとして予め与えておいても良い。
【0091】
以上の本発明の実施例では、微生物の活性度の指標として、微生物の生ごみ分解における反応熱生成速度を用いたが、これに限らず、微生物の生ごみ分解における化学反応式においてリアルタイムに定量的に観測可能な生成物の生成速度を用いるように構成しても良い。また、前記の複数の指標を併用するよう構成しても良い。例えば、このような生成物の生成速度としては、処理槽気相部中の二酸化炭素やアンモニアの生成速度等がある。
【0092】
以上の本発明の実施例では、当該生ごみ資源回収装置を制御するために必要なセンサ情報、測定情報やスイッチ情報等の各種情報を当該生ごみ資源回収装置に内蔵している微生物活性度評価部、生成物回収タイミング評価部、および最終的には制御部に取り込み、それらの情報に基づき制御部で制御信号を発生して、当該生ごみ資源回収装置全体の運転制御を行う構成としているが、当該生ごみ資源回収装置において得た前記各種情報を当該生ごみ資源回収装置から遠隔地にある集中監視制御センターに通信手段を用いて伝送し、前記集中監視制御センターで、当該生ごみ資源回収装置の稼動状況を監視すると共に、当該微生物活性度評価部、当該生成物回収タイミング評価部、並びに、当該制御部で行っているのと同等の処理を行いそれから得られた制御信号を通信手段を用いて当該生ごみ資源回収装置に伝送することにより、前記集中監視制御センターから当該生ごみ資源回収装置全体あるいは一部の運転制御を行うよう構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施形態を示す生ごみ資源回収装置の構成図
【図2】図1中の操作・表示パネル6の一部の詳細図
【符号の説明】
【0094】
1 生ごみ処理部
2 バルブ
3 液体成分回収部
4 水回収槽
5 気体成分回収部
6 操作・表示パネル
7 制御部
101 処理槽
102 処理槽内容物
103 攪拌機構
104 駆動モータ部
105 給気加熱部
106 排気ファン
107 結露器
108 散布部
109 バルブ
110 溶媒容器
111 質量センサ
112 温度センサ
113 二酸化炭素濃度測定部
114 粘度測定部
115 微生物活性度評価部
116 生成物回収タイミング評価部
301 液体成分回収槽
302 液体成分分離抽出部
601 投入生ごみ質量設定スイッチ
602 投入生ごみ構成比率設定スイッチ
603 投入完了ボタン
604 分解性能異常表示ランプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生ごみから資源を回収する生ごみ資源回収装置において、微生物による生ごみ分解過程で生成され処理槽内容物中に混入している中間生成物のアミノ酸や脂肪酸を溶媒を用いて溶出する手段、前記中間生成物が溶解した溶液中に含まれる中間生成物を成分毎に分離抽出する液体成分分離抽出手段、および、微生物の生ごみ分解過程で生成され処理槽気相部に排出される水蒸気や処理槽気相部に浮遊する水滴を水分(液体)として回収する手段を備え、生ごみからアミノ酸、脂肪酸、水(液体)を分離回収することを特徴とする生ごみ資源回収装置
【請求項2】
請求項1記載の生ごみ資源回収装置において、微生物による生ごみ分解過程で生成され処理槽内容物に混入しているアミノ酸や脂肪酸以外の生成物を溶媒を用いて溶出する手段、前記生成物が溶解した溶液に含まれる生成物を成分毎に分離抽出する液体成分分離抽出手段、および、微生物の生ごみ分解過程で生成され処理槽気相部に排出される水分や処理槽気相部に浮遊する水滴を除く生成物を成分毎に分離抽出する気体成分分離回収手段を備え、生ごみからたんぱく質、ポリペプチド、炭水化物、金属類、燐化合物、アンモニア、硫化水素、二酸化炭素を分離回収することを特徴とする生ごみ資源回収装置
【請求項3】
請求項1記載の生ごみ資源回収装置において、投入する生ごみの重量とその食品区分構成比率データ、および生ごみを投入した時刻を入力する手段、処理槽内容物の温度を測定する温度測定手段、処理槽内容物の質量を測定する質量測定手段、および、分解経過時間に対して、微生物による投入された生ごみの分解反応における反応熱生成速度や水分生成速度、並びに分解反応が起きている処理槽内の熱収支を算定し、且つ、前記処理槽内容物温度測定データから求まる反応熱生成速度と、前記算定による反応熱生成速度との比較によりリアルタイムに定量的に微生物活性度を評価する微生物活性度評価手段を備え、前記微生物活性度評価に基づきリアルタイムに生ごみの分解性能を定量的に検出し、並びに、前記、反応熱生成速度、水分生成速度および処理槽内熱収支等の算定データを利用して処理槽内容物の温度、水分量などの微生物生育環境を制御することを特徴とする生ごみ資源回収装置
【請求項4】
請求項3記載の生ごみ資源回収装置において、処理槽気相中の二酸化炭素濃度測定手段、処理槽内容物の粘度を測定する粘度測定手段と前記2つの手段から得られるデータを用いて生成物の回収タイミングを制御する生成物回収タイミング評価手段を備えたことを特徴とする生ごみ資源回収装置

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−302335(P2008−302335A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153794(P2007−153794)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(305006521)
【Fターム(参考)】