説明

生体の歪み検出装置、検出方法および検出プログラム

【課題】生体の歪みを正確、簡便、且つ客観的に評価することができる生体の歪み検出装置、検出方法および検出プログラムを提供すること。
【解決手段】
検出装置は、測定手段を備え、
前記測定手段が、第1センサ及び第2センサ(SR、SL)から構成され、
前記第1及び第2センサの各々が、前記生体の左右の上腕に取り付けられ、
前記第1及び第2センサの各々が、当該センサ自体の3次元的な姿勢を測定し、
前記生体が両腕を用いた所定動作を終えた状態において、前記測定手段によって得られるデータから、前記生体の左右の腕の姿勢を決定し、
左右の腕の前記姿勢の差違に応じて、上半身の筋肉の強い部位を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の歪みを検出する装置、検出方法および検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体(以下単に「体」とも記す)の歪みは、病気や不調の原因となることが知られている。体のバランスが崩れ、体に歪みが発生すると、腰痛、肩こり、頭痛、冷え性などの原因となる。体の歪みは、日常の動作によって発生する。
【0003】
体の歪みを改善するためには、歪みの発生している部位やその程度に応じた運動が有効である。フィットネスクラブなどにおいては、インストラクタの指導を受けて、会員が体の歪みを改善するための運動を行なっている。
【0004】
生体の歪みを改善するために有効な運動を決定するには、まず、改善の対象である体の歪みを正確に評価することが必要である。下記特許文献1には、カメラで身体を撮像した画像を用いて、身体姿勢の診断を支援するシステムか開示されている。また、下記特許文献2には、健康増進のための運動処方を提供する運動処方作成システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−301号公報
【特許文献2】特開2007−272761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、体の歪みを正確かつ簡便に評価する方法は無かった。多くの場合には、問診や体を触診することによって、医師などが経験的に体の歪みを評価している。従って、評価結果が経験に依存し、評価の客観性が十分に担保されない問題がある。
【0007】
また、上記特許文献1に開示された方法では、大掛かりで高価なシステムが必要となる問題があり、体の歪みを改善する運動を普及させる上でも支障となる。
【0008】
従って、体の歪みが正確かつ簡便に評価できないので、上記特許文献2に記載された運動処方作成システムを利用するとしても、適切な運動処方を容易に作成することはできない。
【0009】
本発明は、上記した課題を解決すべく、生体の歪みを正確、簡便、且つ客観的に評価することができる生体の歪み検出装置、検出方法および検出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、体の左右のバランスが崩れていると、腕を上げるときに腰から腕にある筋肉を助けに使って動作を行なうことに着目し、鋭意研究した結果、本発明をするに至った。図9は、両腕を上に上げる動作における、背面左側の筋肉のバランスを示す図である。矢印は、使われている筋肉の収縮方向と強さを表し(強さは矢印の幅で表されている)、破線は、体軸の歪み具合を表す。(a)は、左右のバランスが良い生体の場合、(b)は、左右のバランスが悪い生体の場合を示す。(b)の場合、腰の位置(骨盤)を左右にずらして手を上げていることが分かる。
【0011】
本発明の目的は、以下の手段によって達成される。
即ち、本発明に係る第1の生体の歪み検出装置は、測定手段(SR、SL)を備えた、生体の歪みを検出する装置であって、
前記生体が両腕を用いた所定動作を終えた状態において、前記測定手段によって得られるデータから、前記生体の左右の腕の姿勢を決定し、
左右の腕の前記姿勢の差違に応じて、上半身の筋肉の強い部位を決定することを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る第2の生体の歪み検出装置は、上記の第1の生体の歪み検出装置において、
前記測定手段が、第1センサ及び第2センサから構成され、
前記第1及び第2センサの各々が、前記生体の左右の上腕に取り付けられ、
前記第1及び第2センサの各々が、当該センサ自体の3次元的な姿勢を測定することを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係る第3の生体の歪み検出装置は、上記の第2の生体の歪み検出装置において、
前記所定動作が、前記生体の両腕を真直ぐに高く上げる動作であって、
前記動作を終えた状態において、前記両腕の高さが等しく、且つ、前記両腕が前傾している場合、左右両方の大胸筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、前記両腕の高さが等しく、且つ、前記両腕が後傾している場合、左右両方の前鋸筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、前記両腕の高さが等しく、右腕が前傾し、且つ、左腕が後傾している場合、右の大胸筋、左の三角筋、及び、左の僧帽筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、前記両腕の高さが等しく、右腕が後傾し、且つ、左腕が前傾している場合、左の大胸筋、右の三角筋、及び、右の僧帽筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、右腕が左腕よりも高く、且つ、前記両腕が前傾している場合、左右両方の大胸筋、右の前鋸筋、及び、左の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、右腕が左腕よりも高く、且つ、前記両腕が後傾している場合、右の僧帽筋、及び、右の三角筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、右腕が左腕よりも高く、且つ、右腕が前傾し、且つ、左腕が後傾している場合、右の大胸筋、右の僧帽筋、及び、左の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、右腕が左腕よりも高く、且つ、右腕が後傾し、且つ、左腕が前傾している場合、左の大胸筋、右の僧帽筋、及び、右の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、左腕が右腕よりも高く、且つ、前記両腕が前傾している場合、左右両方の大胸筋、左の前鋸筋、及び、右の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、左腕が右腕よりも高く、且つ、前記両腕が後傾している場合、左の僧帽筋、及び、左の三角筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、左腕が右腕よりも高く、且つ、右腕が前傾し、且つ、左腕が後傾している場合、左の大胸筋、左の僧帽筋、及び、右の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、左腕が右腕よりも高く、且つ、右腕が後傾し、且つ、左腕が前傾している場合、右の大胸筋、左の僧帽筋、及び、左の広背筋が強いと判断することを特徴としている。
【0014】
また、本発明に係る第4の生体の歪み検出装置は、上記の第2又は第3の生体の歪み検出装置において、
前記測定手段が、前記生体の胸又は背中に取り付けられた第3センサをさらに有し、
前記第3センサが、当該第3センサ自体の3次元的な姿勢を測定し、
左右の腕の前記姿勢の差違と前記胸の姿勢とに応じて、腹部の筋肉の強い部位を決定することを特徴としている。
【0015】
また、本発明に係る第5の生体の歪み検出装置は、上記の第2〜第4の生体の歪み検出装置の何れかにおいて、
前記測定手段が、前記生体の腰に取り付けられた第4センサをさらに有し、
前記第4センサが、当該第4センサ自体の3次元的な姿勢を測定し、
左右の腕の前記姿勢の差違と前記腰の姿勢とに応じて、腰部の筋肉の強い部位を決定することを特徴としている。
【0016】
本発明に係る第1の生体の歪み検出方法は、
測定手段(SR、SL)を用いて生体の歪みを検出する方法であって、
前記生体が両腕を用いた所定動作を終えた状態において、前記測定手段によって得られるデータから、前記生体の左右の腕の姿勢を決定する第1ステップと、
左右の腕の前記姿勢の差違に応じて、上半身の筋肉の強い部位を決定する第2ステップとを含むことを特徴としている。
【0017】
また、本発明に係る第2の生体の歪み検出方法は、上記の第1の生体の歪み検出方法において、
前記測定手段が、第1センサ及び第2センサから構成され、
前記第1及び第2センサの各々が、前記生体の左右の上腕に取り付けられ、
前記第1及び第2センサの各々が、当該センサ自体の3次元的な姿勢を測定することを特徴としている。
【0018】
また、本発明に係る第3の生体の歪み検出方法は、上記の第2の生体の歪み検出方法において、
前記所定動作が、前記生体の両腕を真直ぐに高く上げる動作であって、
前記第2ステップが、
前記動作を終えた状態において、前記両腕の高さが等しく、且つ、前記両腕が前傾している場合、左右両方の大胸筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、前記両腕の高さが等しく、且つ、前記両腕が後傾している場合、左右両方の前鋸筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、前記両腕の高さが等しく、右腕が前傾し、且つ、左腕が後傾している場合、右の大胸筋、左の三角筋、及び、左の僧帽筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、前記両腕の高さが等しく、右腕が後傾し、且つ、左腕が前傾している場合、左の大胸筋、右の三角筋、及び、右の僧帽筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、右腕が左腕よりも高く、且つ、前記両腕が前傾している場合、左右両方の大胸筋、右の前鋸筋、及び、左の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、右腕が左腕よりも高く、且つ、前記両腕が後傾している場合、右の僧帽筋、及び、右の三角筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、右腕が左腕よりも高く、且つ、右腕が前傾し、且つ、左腕が後傾している場合、右の大胸筋、右の僧帽筋、及び、左の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、右腕が左腕よりも高く、且つ、右腕が後傾し、且つ、左腕が前傾している場合、左の大胸筋、右の僧帽筋、及び、右の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、左腕が右腕よりも高く、且つ、前記両腕が前傾している場合、左右両方の大胸筋、左の前鋸筋、及び、右の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、左腕が右腕よりも高く、且つ、前記両腕が後傾している場合、左の僧帽筋、及び、左の三角筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、左腕が右腕よりも高く、且つ、右腕が前傾し、且つ、左腕が後傾している場合、左の大胸筋、左の僧帽筋、及び、右の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、左腕が右腕よりも高く、且つ、右腕が後傾し、且つ、左腕が前傾している場合、右の大胸筋、左の僧帽筋、及び、左の広背筋が強いと判断するステップであることを特徴としている。
【0019】
また、本発明に係る第4の生体の歪み検出方法は、上記の第2又は第3の生体の歪み検出方法において、
前記測定手段が、前記生体の胸又は背中に取り付けられた第3センサをさらに有し、
前記第3センサが、当該第3センサ自体の3次元的な姿勢を測定し、
左右の腕の前記姿勢の差違と前記胸の姿勢とに応じて、腹部の筋肉の強い部位を決定する第3ステップをさらに含むことを特徴としている。
【0020】
また、本発明に係る第5の生体の歪み検出方法は、上記の第2〜第4の生体の歪み検出方法の何れかにおいて、
前記測定手段が、前記生体の腰に取り付けられた第4センサをさらに有し、
前記第4センサが、当該第4センサ自体の3次元的な姿勢を測定し、
左右の腕の前記姿勢の差違と前記腰の姿勢とに応じて、腰部の筋肉の強い部位を決定する第4ステップをさらに含むことを特徴としている。
【0021】
本発明に係る生体の歪み検出プログラムは、コンピュータに、測定手段(SR、SL)を用いて生体の歪みを検出させるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記生体が両腕を用いた所定動作を終えた状態において、前記測定手段によって得られるデータから、前記生体の左右の腕の姿勢を決定する第1機能と、
左右の腕の前記姿勢の差違に応じて、上半身の筋肉の強い部位を決定する第2機能とを実行させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、生体の歪みを正確、簡便、且つ客観的に評価することができる。
従って、歪みを改善する運動処方を、適切かつ容易に決定することができる。また、経験者が評価結果を見て、適切な運動処方を決定することも、経験者を介さずに自動的に、評価結果に応じた適切な運動処方を作成することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る生体の歪み検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した検出装置による、生体の歪み評価機能を示すフローチャートである。
【図3】生体の両肩にセンサを取り付けた場合に適用される判断基準と評価結果との関係の一例を示すテーブルである。
【図4】生体の両肩および胸にセンサを取り付けた場合に適用される判断基準と評価結果との関係の一例を示すテーブルである。
【図5】生体の両肩および胸にセンサを取り付けた場合に適用される判断基準と評価結果との関係の一例を示すテーブルである。
【図6】生体の両肩および腰にセンサを取り付けた場合に適用される判断基準と評価結果との関係の一例を示すテーブルである。
【図7】生体の両肩および腰にセンサを取り付けた場合に適用される判断基準と評価結果との関係の一例を示すテーブルである。
【図8】生体の腰にセンサを取り付けて片足立ちの動作を行なう場合の、判断基準と評価結果との関係の一例を示すテーブルである。
【図9】腕を上に上げる動作における、背面左側の筋肉のバランスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施の形態を、添付した図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る生体の歪み検出装置(以下、単に「検出装置」とも記す)の概略構成を示すブロック図である。本検出装置は、生体に取り付けられる複数のセンサSR、SLと、演算処理部1と、一時記憶部2と、記録部3と、操作部4と、表示部5と、入出力インタフェース部6(以下、入出力IF部6と記す)と、通信インタフェース部7(以下、通信IF部7と記す)と、これら各部間でデータを交換するための内部バス8と、を備えて構成されている。これらのうち、センサを除いた部分を「本体」とも記す。
【0025】
複数のセンサSR、SLは、生体(以下「被験者」とも記す)の所定箇所に取り付けられる。図1では、2つのセンサを使用する場合を示している。例えば、センサSRが右肩(正確には右上腕の右肩近傍)に、センサSLが左肩(正確には左上腕の左肩近傍)に取り付けられることができる。各センサは、例えば3軸角度センサであり、センサ自体の「姿勢ベクトル」(3軸方向の角度)を出力する。従って、センサの出力データは、センサが取り付けられた部位の「姿勢ベクトル」と解釈できる。出力データは、例えば無線通信によって、通信IF部7に送信される。通信IF部7によって受信されたデータは、記録部3に記録される。
【0026】
操作部4は、演算処理部1に対する指示やデータを入力するための手段である。表示部5は、演算処理部1による処理結果などを表示する。入出力IF部6は、操作部4および表示部5との、インタフェースを担う。
【0027】
検出装置の本体を、例えばコンピュータを利用して構成する場合、演算処理部1、一時記憶部2、および記録部3には、それぞれCPU、RAM、およびハードディスクドライブを用いることができる。また、操作部4には、コンピュータ用のキーボード、マウス、タッチパネルなどを使用することができる。入出力IF部6には、操作部4に応じたシリアル若しくはパラレルインタフェースを採用すればよい。また、入出力IF部6は、ビデオメモリおよびデジタルアナログ変換部を備え、表示部5のビデオ方式に応じたアナログ信号を出力することができる。これによって、表示部5に情報を提示するための画像が表示される。
【0028】
図2は、検出装置の機能、即ち、生体の歪みを検出する機能を示すフローチャートである。以下、図2を参照して、生体の歪みを検出する機能について説明する。
【0029】
以下においては、特に断らない限り、検出装置の演算処理部1が行う処理として説明する。演算処理部1は、操作部4が操作されて、通信IF部6を介してデータ(操作情報)を取得して記録部3に記録し、適宜記録部3からデータを一時記憶部2に読み出し、所定の処理を行った後、その結果を記録部3に記録する。また、演算処理部1は、操作部4の操作を促す画面データや処理結果を表示する画面データを生成し、入出力IF部6のビデオRAMを介して、これらの画像を表示部5に表示する。
【0030】
また、上記したように、予め被験者には、右肩にセンサSRが、左肩にセンサSLが取り付けられているとする。また、各センサは、センサ自体の「姿勢ベクトル」を常時(所定の時間間隔で)測定し、出力していることとする。センサの「測定値」とは、センサから出力される「姿勢ベクトル」を意味する。姿勢ベクトルを成分表記するときの3軸は、被験者の前方向をX軸の正方向、左手方向をY軸の正方向、上方向をZ軸の正方向とする。そして、センサSRの姿勢ベクトルをDR=(dRx,dRy,dRz)、センサSLの姿勢ベクトルをDL=(dLx,dLy,dLz)と表記する。
【0031】
ステップS1において、オペレータの指示に従って、被験者が、自己の限界まで両腕を真直ぐに高く上げる動作(以下「バンザイ動作」とも記す)を行なう。動作を行なう前には、被験者の腕は鉛直下方(Z軸の負方向)を向いているので、初期のセンサの姿勢ベクトル方向がZ軸の負方向になるように、センサを被験者に取り付ける。「腕の高さ」は、Z軸の負方向と、動作を終えた状態の腕の方向との成す角度θで表すこととする。従って、腕が最も高くなるのは、腕が鉛直上方(Z軸の正方向)に上げられているときであり、θ=180°となる。
【0032】
ステップS2において、被験者が動作を終えた状態、即ち限界まで腕を上げて静止した状態で、センサからの信号を受信し、記録部3に記録する。センサからの信号を測定値として取得するタイミングは、例えば、オペレータが操作部4を操作して演算処理部1に指示される。受信された測定値は、各センサを特定する情報と対応させて、記録部3に記録される。どのセンサから受信したデータであるかは、各センサで使用する無線チャンネルで区別することができる。
【0033】
ステップS3において、ステップS2で取得されて記録されたデータを記録部3から読み出し、その値を用いて、被験者の体の歪みを評価する。体の歪みは、具体的には、筋肉の強い部位として特定される。
【0034】
判断基準と評価結果の関係の一例を、図3にテーブル形式で示す。図3には、2つの判断基準(判断基準Aおよび判断基準B)と、それらをセンサの測定値の関係で具体的に表現した条件式を示している。センサの測定値が、特定の行に示された条件式を満たす場合、その特定の行に列記されている筋肉が強いと判断する。このテーブルは、予め記録部3に記録されている。従って、記録部3から、例えば1行毎に判断基準A及びBが読み出されて、測定値がそれらの基準を満たすか否かを判断する。なお、センサの初期姿勢が異なる場合には、条件式は異なる。但し、その場合でも、言葉で記載した判断基準A及びBは変わらない。
【0035】
判断基準Aは、左右の腕の傾斜角度θの違いである。上記したように、腕の傾斜角度θは、姿勢ベクトルとZ軸の負方向との成す角度である。従って、まず、姿勢ベクトルDR、DLから、それぞれの傾斜角度θR、θRを求める。
【0036】
判断基準Bは、左右の腕が前傾しているか後傾しているかである。腕の前傾、後傾は、姿勢ベクトルのX成分dRx、dLxの正負で判断する。dRx>0、dLx>0の場合、前傾(腕が体の前方向に上がっている状態)していると判断し、dRx<0、dLx<0の場合、後傾(腕が体の後ろ方向に上がっている状態)していると判断する。
【0037】
従って、図3の各行は次のことを意味する。
第1行: 所定の誤差範囲内(例えば1°)でθR=θLであり、且つ、dRx>0及びdLx>0であれば、大胸筋が強いと判断する。
第2行: 所定の誤差範囲内でθR=θLであり、且つ、dRx<0及びdLx<0であれば、前鋸筋が強いと判断する。
第3行: 所定の誤差範囲内でθR=θLであり、且つ、dRx>0及びdLx<0であれば、大胸筋右、三角筋左、僧帽筋左が強いと判断する。
第4行: 所定の誤差範囲内でθR=θLであり、且つ、dRx<0及びdLx>0であれば、大胸筋左、三角筋右、僧帽筋右が強いと判断する。
【0038】
ここで、右の大胸筋を大胸筋右と表記し、左の大胸筋を大胸筋左と表記している。単に大胸筋と表記する場合には、左右両方の大胸筋を意味する。他の筋肉名の表記も同様である。
第5行: θR>θLであり、且つ、dRx>0及びdLx>0であれば、大胸筋、前鋸筋右、及び、広背筋左が強いと判断する。
第6行: θR>θLであり、且つ、dRx<0及びdLx<0であれば、僧帽筋右および三角筋右が強いと判断する。
第7行: θR>θLであり、且つ、dRx>0及びdLx<0であれば、大胸筋右、僧帽筋右、及び、広背筋左が強いと判断する。
第8行: θR>θLであり、且つ、dRx<0及びdLx>0であれば、大胸筋左、僧帽筋右、及び、広背筋右が強いと判断する。
【0039】
第9行〜第12行の意味も同様であるので、説明を省略する。
【0040】
上記によって得られた強い筋肉の情報は、記録部3に記録される。例えば、図3のテーブルが予め記録部3に記録されているので、行番号のみを記録すればよい。
【0041】
以上のステップS1〜S3の処理によって、センサから得られた測定値を用いて、強い筋肉を判断することができる。判断結果は、画像として表示部5に提示されてもよい。表示形態は種々の形態が可能であり、例えば、人体を表す画像上で、強いと判断された筋肉を着色して表示することができる。
【0042】
以上では、バンザイ動作を行なう場合を説明したが、これに限定されない。例えば、上腕を回旋させる動作や、前屈(上体を前に倒す動作)、後屈(上体を後ろに倒す動作)、左右の側屈(上体を左右に倒す動作)、脚上げ(繰り返し、大腿がほぼ水平になるまで、左右の脚を引き上げる動作)などの動作であってもよい。
【0043】
また、以上では、左右の肩にセンサを取り付ける場合を説明したが、さらに胸(生体の前面側)、腰(生体の背面側)などにセンサを取り付けてもよい。胸や腰にセンタを取り付けることによって、腹部、腰部の筋肉に関しても、強い部位を判断することができる。この場合、判断基準および強いと判断される筋肉は上記とは異なる。
【0044】
両腕に取り付けた2つのセンサ、及び、胸に取り付けた1つのセンサから得られる測定値を用いる場合の一例を、図4、5に示す。また、両腕に取り付けた2つのセンサ、及び、腰に取り付けた1つのセンサから得られる測定値を用いる場合の一例を、図6、7に示す。胸に取り付けたセンサから得られるデータを、添え字Cを付して示し、腰に取り付けたセンサから得られるデータを、添え字Wを付して示す。図4〜7に示した胸および腰に関するデータ(dCx、dWxなど)は、胸および腰に取り付けられたセンサの初期の姿勢が、何れも鉛直上方(Z軸の正方向)を向いているとした場合のデータである。従って、センサの初期姿勢が異なる場合には、条件式は異なる。但し、その場合でも、言葉で記載した判断基準は変わらない。
【0045】
図4〜7のテーブルにおいて、各行の記載の意味は、図3に関して説明したものと同様である。図4、5のテーブルでは、新たに判断基準Cが設定され、図6、7のテーブルでは、新たに判断基準Dが設定されているが、判断基準A、Bは、図3のテーブルと同じである。従って、図6、7においては、判断基準A、Bと上半身の筋肉の判断結果との対応関係は、図3と同じであるので、省略している。
【0046】
また、胸部、腰部に関する前傾、後傾の意味も、腕の場合と同様である。「回旋」とは、生体の左右方向への変位を意味し、測定値(姿勢ベクトル)のY成分で表される。従って、両腕に取り付けた2つのセンサを使用する場合と同様に、バンザイ動作を行なうことで各センサから得られた測定値が、図4、5の各行に示された判断条件を満たすか否かを判断することによって、強い筋肉を特定することができる。
【0047】
なお、4つのセンサ(両腕に2個、胸および腰に各1個)を取り付ける場合には、図3〜7に示したテーブルの全ての評価が可能である。
【0048】
これらの4つのセンサを使用する場合には、腕の動作以外の動作で、体の歪みを評価することができる。例えば、前屈、後屈、左右の側屈などの動作や、左右の脚上げ(繰り返し、大腿がほぼ水平になるまで引き上げる動作)などの動作を採用することができる。
【0049】
さらに、別の動作の一例として、片脚立ち(大腿がほぼ水平になるまで右脚又は左脚を引き上げて静止した状態)に関して、判断基準と判断結果(筋肉が強い部位)との対応関係を図8に示す。図8において、「骨盤」とは上記の「腰部」と同じ意味である。図8の各行の意味は、図3〜7と同様であるので、説明を省略する。
【0050】
センサの取り付け位置は、胸の代わりに背中であってもよく、腰の背面側の代わりに前面側(腹部)であってもよい。
【0051】
また、上記では、3軸角度センサを使用する場合を説明したが、センサはこれに限定されず、生体の所定部位の姿勢の情報を得ることができるものであればよい。また、センサを使用せずに、動作の前後で被験者を撮像して得られた画像を使用してもよい。例えば、動作の前後において、3軸の各方向から撮像した画像(合計6枚)から、各部位の姿勢を求めてもよい。各部位の姿勢ベクトルが得られれば、上記したように、筋肉の強い部位を判断することができる。
【0052】
また、本発明の検出装置によって得られた体の歪みの評価結果を用いて、歪みを改善する運動処方を作成してもよい。運動処方の作成において、経験者が評価結果を見て、適切な運動処方を決定してもよいが、経験者によらずに、コンピュータに、評価結果に応じた適切な運動処方を作成させてもよい。
【0053】
コンピュータに運動処方を作成させる場合、筋肉毎または複数の筋肉の組合せ毎に対応させて、所定の運動(複数の運動であってもよい)を設定したテーブルを、予め記録しておけばよい。そして、本発明の検出装置によって評価結果(強い筋肉)が得られた場合、コンピュータにその結果を入力し、予め記録された運動のテーブルを参照し、強い筋肉に対応する運動を特定すればよい。
【0054】
また、コンピュータに運動処方を作成させる場合、本発明の検出装置によって得られた体の歪みの評価結果に加えて別の情報(例えば、対象者の年齢、性別、関節の稼動範囲、傷病歴など)を考慮して、運動を特定させてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 演算処理部
2 一時記憶部
3 記録部
4 操作部
5 表示部
6 入出力インタフェース部(入出力IF部)
7 通信インタフェース部(通信IF部)
8 内部バス
R、SL センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定手段を備えた、生体の歪みを検出する装置であって、
前記生体が両腕を用いた所定動作を終えた状態において、前記測定手段によって得られるデータから、前記生体の左右の腕の姿勢を決定し、
左右の腕の前記姿勢の差違に応じて、上半身の筋肉の強い部位を決定することを特徴とする検出装置。
【請求項2】
前記測定手段が、第1センサ及び第2センサから構成され、
前記第1及び第2センサの各々が、前記生体の左右の上腕に取り付けられ、
前記第1及び第2センサの各々が、当該センサ自体の3次元的な姿勢を測定することを特徴とする請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記所定動作が、前記生体の両腕を真直ぐに高く上げる動作であって、
前記動作を終えた状態において、前記両腕の高さが等しく、且つ、前記両腕が前傾している場合、左右両方の大胸筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、前記両腕の高さが等しく、且つ、前記両腕が後傾している場合、左右両方の前鋸筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、前記両腕の高さが等しく、右腕が前傾し、且つ、左腕が後傾している場合、右の大胸筋、左の三角筋、及び、左の僧帽筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、前記両腕の高さが等しく、右腕が後傾し、且つ、左腕が前傾している場合、左の大胸筋、右の三角筋、及び、右の僧帽筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、右腕が左腕よりも高く、且つ、前記両腕が前傾している場合、左右両方の大胸筋、右の前鋸筋、及び、左の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、右腕が左腕よりも高く、且つ、前記両腕が後傾している場合、右の僧帽筋、及び、右の三角筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、右腕が左腕よりも高く、且つ、右腕が前傾し、且つ、左腕が後傾している場合、右の大胸筋、右の僧帽筋、及び、左の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、右腕が左腕よりも高く、且つ、右腕が後傾し、且つ、左腕が前傾している場合、左の大胸筋、右の僧帽筋、及び、右の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、左腕が右腕よりも高く、且つ、前記両腕が前傾している場合、左右両方の大胸筋、左の前鋸筋、及び、右の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、左腕が右腕よりも高く、且つ、前記両腕が後傾している場合、左の僧帽筋、及び、左の三角筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、左腕が右腕よりも高く、且つ、右腕が前傾し、且つ、左腕が後傾している場合、左の大胸筋、左の僧帽筋、及び、右の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、左腕が右腕よりも高く、且つ、右腕が後傾し、且つ、左腕が前傾している場合、右の大胸筋、左の僧帽筋、及び、左の広背筋が強いと判断することを特徴とする請求項2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記測定手段が、前記生体の胸又は背中に取り付けられた第3センサをさらに有し、
前記第3センサが、当該第3センサ自体の3次元的な姿勢を測定し、
左右の腕の前記姿勢の差違と前記胸の姿勢とに応じて、腹部の筋肉の強い部位を決定することを特徴とする請求項2又は3に記載の検出装置。
【請求項5】
前記測定手段が、前記生体の腰に取り付けられた第4センサをさらに有し、
前記第4センサが、当該第4センサ自体の3次元的な姿勢を測定し、
左右の腕の前記姿勢の差違と前記腰の姿勢とに応じて、腰部の筋肉の強い部位を決定することを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載の検出装置。
【請求項6】
測定手段(SR、SL)を用いて生体の歪みを検出する方法であって、
前記生体が両腕を用いた所定動作を終えた状態において、前記測定手段によって得られるデータから、前記生体の左右の腕の姿勢を決定する第1ステップと、
左右の腕の前記姿勢の差違に応じて、上半身の筋肉の強い部位を決定する第2ステップとを含むことを特徴とする検出方法。
【請求項7】
前記測定手段が、第1センサ及び第2センサから構成され、
前記第1及び第2センサの各々が、前記生体の左右の上腕に取り付けられ、
前記第1及び第2センサの各々が、当該センサ自体の3次元的な姿勢を測定することを特徴とする請求項6に記載の検出方法。
【請求項8】
前記所定動作が、前記生体の両腕を真直ぐに高く上げる動作であって、
前記第2ステップが、
前記動作を終えた状態において、前記両腕の高さが等しく、且つ、前記両腕が前傾している場合、左右両方の大胸筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、前記両腕の高さが等しく、且つ、前記両腕が後傾している場合、左右両方の前鋸筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、前記両腕の高さが等しく、右腕が前傾し、且つ、左腕が後傾している場合、右の大胸筋、左の三角筋、及び、左の僧帽筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、前記両腕の高さが等しく、右腕が後傾し、且つ、左腕が前傾している場合、左の大胸筋、右の三角筋、及び、右の僧帽筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、右腕が左腕よりも高く、且つ、前記両腕が前傾している場合、左右両方の大胸筋、右の前鋸筋、及び、左の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、右腕が左腕よりも高く、且つ、前記両腕が後傾している場合、右の僧帽筋、及び、右の三角筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、右腕が左腕よりも高く、且つ、右腕が前傾し、且つ、左腕が後傾している場合、右の大胸筋、右の僧帽筋、及び、左の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、右腕が左腕よりも高く、且つ、右腕が後傾し、且つ、左腕が前傾している場合、左の大胸筋、右の僧帽筋、及び、右の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、左腕が右腕よりも高く、且つ、前記両腕が前傾している場合、左右両方の大胸筋、左の前鋸筋、及び、右の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、左腕が右腕よりも高く、且つ、前記両腕が後傾している場合、左の僧帽筋、及び、左の三角筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、左腕が右腕よりも高く、且つ、右腕が前傾し、且つ、左腕が後傾している場合、左の大胸筋、左の僧帽筋、及び、右の広背筋が強いと判断し、
前記動作を終えた状態において、左腕が右腕よりも高く、且つ、右腕が後傾し、且つ、左腕が前傾している場合、右の大胸筋、左の僧帽筋、及び、左の広背筋が強いと判断するステップであることを特徴とする請求項7に記載の検出方法。
【請求項9】
前記測定手段が、前記生体の胸又は背中に取り付けられた第3センサをさらに有し、
前記第3センサが、当該第3センサ自体の3次元的な姿勢を測定し、
左右の腕の前記姿勢の差違と前記胸の姿勢とに応じて、腹部の筋肉の強い部位を決定する第3ステップをさらに含むことを特徴とする請求項7又は8に記載の検出方法。
【請求項10】
前記測定手段が、前記生体の腰に取り付けられた第4センサをさらに有し、
前記第4センサが、当該第4センサ自体の3次元的な姿勢を測定し、
左右の腕の前記姿勢の差違と前記腰の姿勢とに応じて、腰部の筋肉の強い部位を決定する第4ステップをさらに含むことを特徴とする請求項7〜9の何れか1項に記載の検出方法。
【請求項11】
コンピュータに、測定手段(SR、SL)を用いて生体の歪みを検出させるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記生体が両腕を用いた所定動作を終えた状態において、前記測定手段によって得られるデータから、前記生体の左右の腕の姿勢を決定する第1機能と、
左右の腕の前記姿勢の差違に応じて、上半身の筋肉の強い部位を決定する第2機能とを実行させることを特徴とする検出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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