説明

生体の表面または内部で測定するための温度感知器

本発明は、生体の表面または内部で温度測定するための温度感知器(24)に関する。温度感知器(24)は、感知器(24)の測定面(30)上で分散して配置されており、少なくとも1つの直列回路へと電気接続された多数の熱電対を含んでおり、その際、各々の直列回路内で熱電対により形成された熱電接点(16、18)が、空間的に相互に分離された少なくともおよび好ましくは全部で2つのグループに分配され、ここで、温度が変化した際に各々のグループ内では熱電接点(16、18)がそれぞれ一様な電圧変化をもたらすように分配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に熱エネルギーのそばで使用するための、生体の表面または内部で温度測定するための温度感知器に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーのそばでは、組織過熱または皮膚熱傷が繰り返し引き起こされる。そして熱による外科手術では、処置された組織の変性により特定の治療目的を達成するため、処置エネルギーを導入して生物組織を加熱する。熱による外科手術では、特に局所的な組織領域を凝固またはアブレーションすることが目指される。例えば、熱による外科手術により人体または動物の体の心臓での不整脈または頻脈を処置することができる。心臓の表面または内部でのこのような凝固またはアブレーションに際しては、隣接する組織(例えば食道)内で、しばしば望ましくない組織過熱が生じる。
【0003】
高周波電気を用いた熱による外科手術では、モノポーラ型およびバイポーラ型の適用が知られている。両方の処置法では、処置すべき組織領域のすぐ近くに持っていかれた適用電極を介して、処置のために使われる高周波交流が体内に供給される。バイポーラ技術の場合、適用電極から間隔をあけて外側で体の皮膚上に置かれるかまたは貼り付けられる少なくとも1つの平面的な対向電極により、電流回路が閉じられる。対向電極は、中性電極、不関電極、またはリターン電極ともいう。対向電極の有効電極面は、適用電極の有効電極面より大きく、したがって通常の状態では(つまり電極と皮膚の接触が良好な場合)、対向電極での電流密度は低く、つまりそこでは皮膚が炭化する心配はない。
【0004】
この状況は、対向電極が部分的に皮膚から剥がれると変化する。このようなことは、特に処置が数時間にわたる場合に、患者の動きおよび/または発汗によって起こり得る。この場合、対向電極のまだ皮膚と接触している領域内での電流密度が激しく増加し、それに応じて皮膚炭化の危険性が増大する。
【0005】
上述のアブレーション部位または凝固部位に隣接する組織領域(例えば食道)内でも、対向電極のうち皮膚から剥がれていない領域内でも、望ましくない組織過熱はたいてい点状にのみ、つまり比較的小さい面領域内で生じる。しかしながら、生体の表面または内部で測定するための既知の温度感知器は、比較的大きな面積の測定領域の平均温度値または温度感知器周辺の平均温度値しか決定せず、したがって点状の組織過熱を十分な信頼性で捕捉することはできない。
【0006】
望ましくない点状の組織過熱を捕捉するという課題の解決策については、多数の温度センサを使用することが考えられる。しかしながら、多数の温度センサを備えた温度感知器の製造および制御は、技術的に手間がかかり、これに対応して高価である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、生体の表面または内部での点状の組織過熱を高い信頼性で捕捉し、あまり技術的な手間をかけずに製造可能な、生体の表面または内部で温度測定するための温度感知器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために本発明は、感知器の測定面上で分散して配置されており、少なくとも1つの直列回路へと電気接続された多数の熱電対を備えた、生体の表面または内部で温度測定するための温度感知器を提供し、その際、各々の直列回路内で熱電対により形成された熱電接点は、空間的に相互に分離された少なくともおよび好ましくは全部で2つのグループに分配され、ここで、温度が変化した際に各々のグループ内では熱電接点がそれぞれ一様な電圧変化をもたらすように分配されている。
【0009】
熱電対は、特に熱素子であることができる。本発明による温度感知器は、熱電接点の各々で温度変化を捕捉することができる。この温度変化は、温度上昇であっても温度低下であってもよい。すなわち温度が上昇した際に、例えば第1のグループのすべての熱電接点は正の電圧変化を、および第2のグループのすべての熱電接点は負の電圧変化をもたらすということができる。この直列回路により、温度感知器は、温度変化が局所に限定されていても、測定値の振れを(および平均測定値だけでなく)示すので、(例えば1つの熱電接点だけでの)点状の温度変化も認識することができる。さらに、熱電接点を2つのグループに分配することにより、測定面のどの領域内で点状の温度変化が生じているかを捕捉することができる。
【0010】
温度感知器の測定面上での熱電接点の配置は多種多様に考えられる。点状の温度変化をできるだけ高い確率で捕捉するため、熱電接点を測定面上で実質的に均質に分散させることが有利である。特に、熱電接点の少なくとも一部を、測定面上で、正平面充填形の角の頂点に存在するように配置することができる。熱電接点の少なくとも一部が、正三角形、正方形、または正六角形から成る正平面充填形の角の頂点に存在し得ることが好ましい。測定面が円筒形状を有する場合は、正三角形、正方形、または正六角形を、円筒の外面に投影させることができる。さらに、それぞれの熱電接点グループが、実質的に、正平面充填形の角の頂点に存在することができる。
【0011】
熱電対は、第1および第2の異なる導電体を備えていることが好ましい。つまり第1の導電体と第2の導電体は、異なる導電性を示す異なる金属、合金、または半導体であることができる。熱電対の簡単な製造またはグループ分けのため、温度感知器は、少なくとも1つの第1および第2の層を備えた層構造を有することができ、その際、第1の導電体は第1の層内に、および第2の導電体は第2の層内にあり、熱電接点の少なくとも一部は第1の層と第2の層の間に延びている。
【0012】
第1の層と第2の層は、互いに実質的に平行であることが好ましく、その際、熱電接点は、第1の層と第2の層の間に延びている。特に、熱電接点は、第1および第2の層に対して実質的に垂直に延びることができる。用いられる作製方法に応じて、第1および/または第2の導電体の一部が、第1の層と第2の層の間に延びる領域内に存在することができる。これにより、第1の導電体および第2の導電体および熱電接点から成る簡単に作製され得る3次元構造が提供される。この層構造は、測定面を構成する本体、例えば中空体上に存在することが好ましい。
【0013】
好ましい一実施形態では、第1の導体が第1の層内で重なり合うことなく、および第2の導体が第2の層内で重なり合うことなく存在している。これにより、すべての第1の導電体および第2の導電体は、それぞれ1つの作製ステップにおいて製造することができる。さらに、第1の導電体と第2の導電体の間に少なくとも部分的には電気絶縁層を配置することができる。この場合、電気絶縁層は、層構造において第1の層と第2の層の間に配置されている。
【0014】
単位面積当たりの熱電接点の数を多くまたは密度を高くできるように、第1の層および第2の層内にある導電体の一部を相互に重ね合わせることができる。
【0015】
好ましい一実施形態によれば、第1の導電体および第2の導電体および熱電接点は、柔軟な基板上に配置されている。これにより、導体構造を所定の測定面形状に適合させることが容易になる。柔軟な基板は、特に温度感知器の測定面上に貼り付けることができる。
【0016】
温度変化の位置をより正確に決定するため、熱電対を、少なくとも2つの直列回路へと電気接続することができる。こうして、少なくとも2つの直列回路内で接続された熱電対により形成された熱電接点は、直列回路ごとに、空間的に相互に分離された少なくとも2つのグループに分配することができ、ここで、温度が変化した際に各々のグループ内では熱電接点がそれぞれ一様な電圧変化をもたらすように分配することができる。これにより、温度変化を少なくとも4つの空間領域内で捕捉することができる。これに対応してさらなる直列回路により、温度変化の位置特定の精度を高めることができる。
【0017】
第1の直列回路の両方の熱電接点グループの間にある部位での点状の温度変化も高い信頼性で測定できるように、電気的直列に接続された少なくとも2つの熱電接点の間に、別の直列回路の少なくとも1つの熱電接点を配置することができる。例えば、第1のグループの熱電接点が温度上昇の際に正の電圧変化をもたらし、第2のグループの熱電接点が温度上昇の際に負の電圧変化をもたらす場合、両方のグループの間で点状の温度変化が発生すると、両方の電圧変化が相殺されてゼロになることがあり、したがって温度感知器は、温度上昇にもかかわらずゼロ以外の測定値を示さない。しかしながら、第1の直列回路の両方の熱電接点グループの間に少なくとも1つの熱電接点を配置することにより、このような点状の加熱を捕捉することができる。
【0018】
単位面積当たりの熱電接点の数を多くまたは密度を高くできるように、少なくとも2つの直列回路の熱電対の一部を相互に重ね合わせて測定面上に配置することができる。その代わりに、少なくとも2つの直列回路の熱電対を相互に重なり合わないように測定面上に配置することもできる。
【0019】
すべての熱電対が測定面上に配置されている必要はない。つまり、少なくとも1つのグループの熱電接点の少なくとも一部を直線に沿って配置し、かつ少なくとも1つのさらなるグループの熱電接点の少なくとも一部をこの直線の周りの測定面上に配置することができる。例えば、測定面は筒形状、特に円筒形状を有することができ、その際、1つのグループの熱電接点は筒の中心を通って延びる直線上にあり、さらなるグループの熱電接点は筒の外面に配置されている。このような細長い形状は、食道センサで使用できることが好ましい。
【0020】
温度感知器のユーザは、温度感知器が、温度上昇の際には上昇した測定値を示すことに慣れている。しかしながら上述のように、本発明による温度感知器は、温度上昇の際に負の測定値を示すこともある。この問題を回避するため、温度感知器は、測定値の絶対値を提供する電気回路を備えることができる。直列回路が複数ある場合、電気回路は複数の直列回路の電圧測定値の絶対値を導き出すこともできる。
【0021】
好ましい一実施形態によれば、この温度感知器は、さらに温度値を測定するための温度センサを備えることができる。この実施形態では、温度センサにより測定された(絶対)温度値と測定値の絶対値とを合計するために電気回路を構成することができ、したがって温度感知器のユーザには、温度センサにより測定された温度値に対する相対的な温度上昇が提供される。測定面が筒形状を有する場合、温度センサは測定面の内部に配置できることが好ましく、その際、熱電対は、温度センサの周りにある測定面上に存在している。
【0022】
本発明による温度感知器は、食道センサで使用できることが好ましい。好ましい一実施形態によれば、食道センサは細長い円筒形状を有しており、その際、熱電対の少なくとも一部は円筒の外面に配置されている。食道センサの長さは測定すべき食道の長さに適合される。このため食道センサは、(例えばテレスコープ式装置により)長さを変えられるように形成することができる。
【0023】
本発明による温度感知器は、取外し可能に生体に取り付けることができる平面電極、特に熱による外科手術のための対向電極でも使用できることが好ましい。例えば、温度感知器を平面電極の電気絶縁面または裏面に取り付ける、特に貼り付けることができる。製造費を削減するため、温度感知器を電極の片面に直接蒸着してもよい。
【0024】
以下に、添付した図面に基づいて本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】熱素子の直列回路の概略図である。
【図2】本発明による温度感知器の第1の例示的実施形態の概略図である。
【図3】本発明による温度感知器の第2の例示的実施形態の第1の導体構造の概略図である。
【図4】第2の例示的実施形態の第2の導体構造の概略図である。
【図5】図3および図4の第1の導体構造と第2の導体構造を積み重ねたものの概略図である。
【図6】第2の例示的実施形態に基づく本発明による温度感知器の側面の概略図である。
【図7】本発明による食道センサの第1の例示的実施形態の概略図である。
【図8】図7の食道センサの上面の概略図である。
【図9】本発明による食道センサの第2の例示的実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図では、同じまたは同じ作用のコンポーネントは同じ符号で示されている。
【0027】
図1の例示的実施形態において全体的に10で示された直列回路に基づき、本発明の基本原理を説明する。直列回路10は、第1の導電体12と第2の導電体14の交互の電気的直列回路から成る。導電体12と導電体14は、異なる金属、合金、または半導体である。導体12と導体14の間の接続部、つまり導体接点16および18では、熱電接点が形成されている。
【0028】
熱電接点16は温度が上昇した際に正の電圧変化を示し、これに対して熱電接点18は温度が上昇した際に負の電圧変化を示す。すべての熱電接点16および18が同じ温度の場合、測定される電圧Uは0である。点状に、熱電接点16の1つで温度上昇が起こると電圧Uは正になり、これに対して熱電接点18の1つでの点状の温度上昇では負の電圧変化Uが起こる。回路10は、点状の温度変化だけの場合も、はっきり認識できる電圧の振れ、つまり完全な振幅での電圧Uを示す。こうなるのは、点状にのみ生じた温度上昇が、平均値を出すことで覆い隠されないからである。
【0029】
図2は、本発明による温度感知器の第1の例示的実施形態の概略図を示している。図2の直列回路10は、図1の直列回路10とは異なり、熱電接点16と18が、空間的に相互に分離された2つのグループに分配されている。その際、熱電接点16はそれぞれ左に、熱電接点18はそれぞれ右にグループ分けされ、互いに平行な2本の直線に沿って配置されている。ただし、図示した配置はただの例にすぎない。熱電接点16と熱電接点18は、例えば平行な円、平行な円弧、平行な螺旋、または平行な螺旋の弧に沿って配置されてもよい。
【0030】
図2で示した配置により、温度上昇の領域を大まかに位置特定することが可能である。本発明による温度感知器の適用分野の多くにとっては、このような大まかな位置特定で十分である。なぜなら、ユーザはたいてい温度上昇が生じているかどうかの信号を出してほしいだけだからである。食道センサで本発明による温度感知器を使用する場合、ユーザはたいてい、望ましくない組織過熱が生じているという情報だけを得たいのであり、ユーザはそれに基づいて、熱による外科手術の処置を中断することができる。
【0031】
図2の直列回路10は、熱による外科手術のための平面的な対向電極(図示されていない)の片面に取り付けることもできる。皮膚の炭化を回避するため、直列回路10により、対向電極が皮膚から剥がれたかどうかを捕捉することができる。図2に示したような直列回路10を対向電極の片面に取り付ける場合、正の電圧上昇の際には、対向電極の左の領域内で温度上昇が発生したという信号を、対向電極のユーザに出す。これに対応して負の電圧上昇の際には、対向電極の右の領域内で温度上昇が発生したという信号をユーザに出す。したがって、正の電圧変化Uの場合は対向電極の右の領域が、および負の電圧変化Uの場合は対向電極の左の領域が皮膚から剥がれている。
【0032】
図3〜図6は、本発明による温度感知器の第2の例示的実施形態を概略図において示している。その際、図3は第1の平面内に配置された第1の導体構造を示しており、図4は第2の平面内に配置された第2の導体構造を示しており、図5は第1の導体構造と第2の導体構造を重ねて配置して示しており、図6は第1および第2の導体構造の側面の断面図を示している。
【0033】
図3からは、第1の平面20内に配置された第1の導電体構造が明らかである。この場合、それぞれ1つの熱電接点領域16が、それぞれ1つの導電体路12を介して1つの熱電接点領域18と接続されている。導体路12は、第1の平面20内で重なり合わずに配置されている。導体路12は、できるだけ多くの熱電接点領域16および18のための場所を提供するため細く形成されている。これとは逆に、熱電接点領域16および18は、もう1つの平面内にある熱電接点領域16および18と簡単に電気接続できるように、平面的な六角形の形状を有している。六角形の熱電接点領域16および18は例として示されているだけである。その他の形状、特に平面的な形状が考えられる。図3に示したすべての導電体12および熱電接点領域16および18は同じ金属から成る。
【0034】
図4は、第2の平面22内に配置された第2の導体路構造を示している。図3でのように、それぞれ1つの熱電接点領域16が、それぞれ1つの導電体路14を介して1つの熱電接点領域18と接続されており、その際、すべての導電体14および熱電接点領域16および18が、第1の平面20内に配置された金属とは異なる金属から成る。
【0035】
図5および図6からは、重ねて配置された導体路構造、つまり図3と図4の層構造が明らかである。第1の平面20と第2の平面22の熱電接点領域16および18は、ぴったり重なり合うように配置されており、かつ同じ形状を有しており、その際、熱電接点領域16および18内では、それぞれの熱電接点が、第1の導電体12と第2の導電体14の間に形成されている。第1の導電体12と第2の導電体14または熱電接点領域16と18は、電気的に直列に配置されている。
【0036】
さらに、第1の平面20と第2の平面22の間に電気絶縁層21が配置されている。電気絶縁層21は、第1の導電体12と第2の導電体14の間の熱電接点を可能にするため、熱電接点領域16および18のところで貫通されている。電気絶縁層21により、第1の導電体12と第2の導電体14を重ねて配置することができ、これにより、測定面上にできるだけ多くの熱電接点を配置することができる。特に、熱電接点領域16および18は、平面20および22内でできるだけ均質に分散されている。これにより、点状の温度上昇を高い確率で捕捉することができる。両方の層20および22内に異なる導体12および14を配置することにより、特に、熱電接点16と18を空間的に分離された2つのグループに分配することが、つまり図3〜図6では熱電接点16を左に、熱電接点18を右にグループ分けすることが、簡単にできる。
【0037】
以下に、図5および図6で概略的に示した3次元の層構造の製造を、例として光リソグラフィー法に基づいて説明する。ただし、他の製造方法も考えられる。
【0038】
この方法は、基本的には3つの作製ステップから成り、これらの作製ステップでは、順に、第1の平面20内で第1の金属構造12、16、18(図3を参照)がコーティングされ、電気絶縁層21(図6を参照)がコーティングされ、そして第2の平面22内で第2の金属構造14、16、18(図5を参照)がコーティングされる。
【0039】
図3で示した第1の金属構造12、16、18を製造するため、薄い膜塗装層の上に配置されたマスクが露光される。このマスクは、図3で黒く描かれた領域の構造を有している。続いて膜塗装層の現像が行われ、これにより膜塗装層の露光された領域12、16、18が除去される。したがって図3で黒く描かれた領域だけが残る。続いて第1の金属層が蒸着される。その後、残っている膜塗装層が除去され、これにより(図3で白く描かれたような)第1の金属構造12、16、18が得られる。
【0040】
次の作製ステップでは、電気絶縁層21が、図3で示した第1の金属構造12、16、18の上に被覆される。その後、電気絶縁層21内で、熱電接点領域16および18のところに空隙が形成される。この空隙は、例えば電気絶縁層21内にエッチングしてもよく、または光リソグラフィー法により形成してもよい。
【0041】
続いて、図4で示した第2の金属構造14、16、18が、電気絶縁層21上に被覆される。これも、図3で示した第1の金属構造12、16、18の製造に使用したような光リソグラフィー法によって行うことができる。その際、図4で黒く描かれた領域の構造を有する別のマスクが使用される。電気絶縁層21上に第2の金属層14、16、18を被覆または蒸着する際、第2の金属は、電気絶縁層21内に形成された空隙を通って第1の金属と接合される。これにより、熱電接点16および18が形成される。
【0042】
したがって上述の製造方法により、実質的に、異なる金属層が2つの平行な平面20および22内に配置され、かつ実質的に、異なる金属層の間の電気的接続部が平行な平面20および22に垂直な平面内に存在する金属層構造が提供される。こうして、あまり作製の手間をかけずに、第1の導電体12および第2の導電体14の交互の直列回路を実現することができる。
【0043】
さらに、層構造20、21、22が複数重なっており、したがって様々な平面内での、電気的直列に接続された複数の熱電接点16、18が、重なって配置されることが考えられる。特に、温度上昇の位置特定をより正確にするため、電気的直列に接続された少なくとも2つの熱電接点の間に、別の直列回路の少なくとも1つの熱電接点を配置することができる。これに対応して、重ねて配置される直列回路の数を増やすことにより、温度上昇の位置特定の精度を改善することができる。
【0044】
図7は、本発明による食道センサ24の第1の例示的実施形態の概略図を示している。食道センサ24は、接続線26を介して評価ユニット28と接続されている。接続線26は、それにより食道センサ24を食道内に挿入することができ、または再び食道から引き抜くことができるケーブルである。
【0045】
食道センサ24は、食道センサ24の測定面を構成する平面的な本体30を有している。この平面的な本体30は円筒形状を有しており、プラスチックから成る。ただし本発明は、円筒の形状およびプラスチックの材料に限定されない。他の形状、特に細長い形状、および他の材料が考えられる。図5および図6で示した温度感知器16、18、20、21、22が湾曲され、平面的な本体30上に貼り付けられた。
【0046】
食道センサ24は、熱電接点16および18に加えて温度センサ32を備えている。温度センサ32は温度を測定し、温度測定値を評価ユニット28に送る。さらに温度感知器16、18、20、21、22の電圧変化測定値が評価ユニット28に送られる。
【0047】
評価ユニット28は、電気回路34、温度表示部36、および警報装置38を備えている。電気回路34は、電圧変化測定値の絶対値を導き出し、この値を温度センサ32の温度測定値に加算する。電気回路34により決定された値は表示装置36に送られ、表示装置により表示される。電気回路34により決定された値が所定の限界値を超えていれば、警報装置38が警戒信号を発する。さらに、評価ユニットが熱による外科手術装置(図示されていない)と接続されており、限界値を超える温度上昇の際には自動的に、熱による外科手術装置のスイッチを切ることが考えられる。これにより、望ましくない組織過熱を回避することができる。
【0048】
図8は、図7の食道センサ24を上面図において概略的に示している。図8から分かるように、熱電接点16および18のグループ化された配置または分配により、食道センサ24のどちらの半分で温度変化が生じているかを認識することができる。これに関しては、例えば内視鏡(図示されていない)を利用しながらケーブル26を回転させることで、食道センサ24を所望の向きに持っていくことができる。
【0049】
しかしながら、点状(つまり小さい面積)の温度上昇が領域S1またはS2の1つにおいて、つまり熱電接点グループ16と18の間の領域内で生じる場合、問題が発生することがある。この場合、熱電接点16および18によって生成された電圧変化が相殺されてゼロになることがあり、したがって温度上昇を捕捉できない。
【0050】
この問題を解決するため、第2の熱電対の直列回路を設けることができる。図9は、熱電対の直列回路を2つ備えた、食道センサ24の第2の例示的実施形態を上面図において概略的に示している。
【0051】
図9の例示的実施形態は、図7および図8の例示的実施形態とは異なり、第1の直列回路の熱電接点16および18の間に、第2の直列回路の熱電接点40および42が配置されている。熱電接点40は温度が上昇した際に正の電圧変化を示し、これに対して熱電接点42は温度が上昇した際に負の電圧変化を示す。図9から分かるように、食道センサ24の測定面30では、熱電接点16と18が相互に最短間隔で直接隣接している部分が、熱電接点40と42が相互に最短間隔で直接隣接している部分に対して90°ずれて配置されている。熱電接点16、18、40、42のこの配置により、4つの測定領域が定義される。これにより、4つの測定領域のどれで温度上昇が生じているかを突き止めることができる。直列回路の数を増やすことで測定領域の数を増やすことができ、これにより温度上昇の位置特定をさらに正確にすることができる。例えば3つの直列回路を重ねて配置した場合、熱電接点が相互に最短間隔で直接隣接している部分を、測定面上で互いに60°ずらして配置することができ、したがって温度上昇は、6つの測定領域において位置を特定することができる。
【0052】
点状の温度上昇が領域S1またはS2の1つにおいて起こる場合、この温度上昇は、領域S1およびS2内に配置された第2の直列回路の熱電接点40または42により捕捉され、これにより第1の直列回路の熱電接点16および18の電圧変化が相互に相殺される場合にも、点状の温度上昇を高い信頼性で捕捉することができる。
【0053】
測定面上での熱電接点16および18の図1〜図8で示した配置はただの例にすぎない。多数の様々な配置が考えられる。したがって例えば、図7〜図9で示した食道センサ24の場合、熱電接点16のグループを円筒30の中心(つまり温度センサ32のところ)に配置することが考えられ、その際、さらなるグループの熱電接点18は円筒30の表面にある。
【0054】
さらに、これまでの例示的実施形態は、熱による外科手術の際の望ましくない組織過熱(つまり温度上昇)だけに関している。しかしながら本発明は、寒冷療法の場合、特にいわゆる「凍結技術」、つまり冷凍による生体組織のアブレーションの場合にも使用することができる。これに対応して、本発明による温度感知器により、生体組織の望ましくない温度低下を捕捉することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の表面または内部で温度測定するための温度感知器(24)であって、
前記感知器(24)の測定面(30)上で分散して配置されており、少なくとも1つの直列回路(10)へと電気接続された多数の熱電対を備えており、その際、
各々の直列回路内で前記熱電対により形成された熱電接点(16、18)が、空間的に相互に分離された少なくともおよび好ましくは全部で2つのグループに分配され、ここで、温度が変化した際に各々のグループ内では前記熱電接点(16、18)がそれぞれ一様な電圧変化をもたらすように分配されている温度感知器。
【請求項2】
前記熱電接点(16、18)が前記測定面(30)上で実質的に均質に分散して配置されている、請求項1に記載の温度感知器。
【請求項3】
各々の熱電対が、第1(12)および第2(14)の異なる導電体を備えており、前記温度感知器が、少なくとも1つの第1(20)および第2(22)の層を備えた層構造を有しており、その際、前記第1の導電体(12)が前記第1の層(20)内に、および前記第2の導電体(14)が前記第2の層内にあり、前記熱電接点(16、18)の少なくとも一部が前記第1の層(20)と前記第2の層(22)の間に延びている、請求項1または2に記載の温度感知器。
【請求項4】
前記第1の導体(12)が前記第1の層(20)内で重なり合うことなく、および前記第2の導体(14)が前記第2の層(22)内で重なり合うことなく存在している、請求項3に記載の温度感知器。
【請求項5】
前記第1の層(20)内にある前記導体(12)と前記第2の層(22)内にある前記導体(14)の一部が相互に重なり合っている、請求項4に記載の温度感知器。
【請求項6】
前記熱電対(16、18、40、42)が、少なくとも2つの直列回路へと電気接続されている、前記請求項のいずれか一項に記載の温度感知器。
【請求項7】
電気的直列(10)に接続された少なくとも2つの熱電接点(16、18)の間に、別の直列回路の少なくとも1つの熱電接点(40、42)が配置されている、請求項6に記載の温度感知器。
【請求項8】
前記少なくとも2つの直列回路の熱電対(16、18、40、42)の一部が、相互に重なり合って前記測定面(30)上に配置されている、請求項6または7に記載の温度感知器。
【請求項9】
前記少なくとも2つの直列回路の熱電対(16、18、40、42)が、相互に重なり合わないように前記測定面(30)上に配置されている、請求項6または7に記載の温度感知器。
【請求項10】
少なくとも1つのグループの熱電接点(16)の少なくとも一部が直線に沿って配置され、かつ少なくとも1つのさらなるグループの熱電接点(18)の少なくとも一部が前記直線の周りの前記測定面(30)上に配置されている、前記請求項のいずれか一項に記載の温度感知器。
【請求項11】
前記温度感知器(24)の測定値の絶対値を導き出すための電気回路(34)を備えた前記請求項のいずれか一項に記載の温度感知器。
【請求項12】
温度値を測定するための温度センサ(32)を備えており、前記電気回路(34)が、前記温度センサ(32)により測定された温度値と測定値の絶対値とを合計することができる、請求項11に記載の温度感知器。
【請求項13】
前記請求項のいずれか一項に記載の装置を備えた食道センサ(24)。
【請求項14】
請求項1から12のいずれか一項に記載の温度感知器を備えた、熱による外科手術のための、取外し可能に生体に取り付けることができる平面電極、特に対向電極。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2012−531982(P2012−531982A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518756(P2012−518756)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【国際出願番号】PCT/EP2009/005012
【国際公開番号】WO2011/003432
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(512006170)
【Fターム(参考)】