説明

生体光双方向情報交換システム及び該システムの制御方法

【課題】被検体が特定の刺激を受けたときや所定の行動を起こす際の生体脳の神経活動状態等の生体情報を、長期間に亘って計測可能とし脳機能解析等に有用な情報を提供する。
【解決手段】脳100表面に密着するように生体に埋植されるセンサ部1は、基板10上に、青色の刺激光用LED11、緑色の励起光用LED12、赤色の蛍光を選択的に検出するべく受光部14表面が光学フィルタ15で被覆されたイメージセンサ13、を備える。予め脳100の測定対象部位内の特定細胞に光感受性タンパク質を導入すると共に周囲の細胞を電位感受性色素で染色した上で、センサ部1を装着し計測を行う。LED11から刺激光が出射されると光感受性タンパク質が導入された細胞は活性化され、膜電位の変動に応じた強度の蛍光が電位感受性色素から放出される。従って、イメージセンサで検出された信号に基づいて測定対象部位の神経活動を反映した画像を作成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の実験動物や人間など生物の被検体の脳を始めとする各種生体組織内で発生する情報を収集するとともに、該情報を収集するために又は収集された該情報に基づいて脳やそのほかの生体組織に刺激を与えることが可能な生体光双方向情報交換システム、及び、該システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などのいわゆる知覚や、記憶メカニズムなどを含む心の活動などを医学的又は生理学的に把握する上で、生体脳、特に自由行動が可能な人間や動物の脳の各部の機能をリアルタイムで調べることは非常に重要である。こうした目的に対し、近年、生体脳内の情報を収集するための各種のセンシングデバイスや新しい脳機能イメージング技術が実現されている。
【0003】
従来知られている脳内情報計測用のデバイスの例として、非特許文献1及び2には、脳内に刺入する針状電極を二次元的に配置した多点電極アレイが開示されている。また、非特許文献3及び4には、脳表面に接触する平板状電極を二次元的に配置した多点電極アレイが開示されている。前者は電極を高密度(例えば隣接電極間隔が100μm程度)に配置することができるため、数〜数十個程度の神経組織の活動を或る程度区別して観測することが可能である。しかしながら、脳内に電極を刺入するため脳を損傷するリスクが大きく、長期間に亘る継続的な計測には適さない。また、生体組織に電極を刺入すると、該生体組織内に存在する例えばグリア細胞が電流を発する電極周囲に会合し電極を包囲してしまい、長期間に亘り電極を使用することができない。一方、後者は脳自体を直接傷付けるリスクは小さいものの、センシング能力による制限から、数十から数百個の神経細胞の活動の総和の情報、つまり低空間分解能の情報しか得ることができない。また、脳内に刺入されないものの金属製の電極が用いられており、長期間に亘る使用ではやはり腐食が問題となる。
【0004】
一方、非侵襲型の脳機能計測としては、f−MRI(functional magnetic resonance imaging)や光トポグラフィ、ポジトロン断層撮影装置(PET)などの優れた計測技術が開発され、診断や研究の分野で大きな成果を挙げている。しかしながら、こうした計測はあくまでも外部からの間接的な計測であるという制約があるために、空間分解能や感度などの性能を高めるのが難しい。また、計測装置が大掛かりになるために、自由に行動している動物や人間の脳機能を継続的に計測するには不向きである。
【0005】
これに対し本願出願人は、脳に対する侵襲性を抑えつつ脳神経活動を可視化する脳機能イメージングを行うために、脳内に埋植可能なイメージセンサの開発を進めている(非特許文献5〜7など)。例えば非特許文献6に記載のマウス脳深部計測用CMOSイメージセンサはマウス脳内に埋植して使用されることを意図したものであり、基板上に120×268画素のイメージセンサと励起光照射用のLEDとを備える。マウス脳内に特定物質を投与すると該物質は脳内でのセリンプロテアーゼの産出に伴って分解され、蛍光物質(AMC=7-Amino4-MethylCoumarine)が生成される。そのため、マウス脳内に埋植された上記センサに搭載されたLEDから励起光を発すると、脳内でセリンプロテアーゼ活性に応じた強度の蛍光が生じるから、この蛍光の強度分布をイメージセンサで捉えることにより、マウス脳内のセリンプロテアーゼ活性の状況を観察することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−227155号公報
【特許文献2】特開2006−217866号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ゴールドン・キンドルマン(Gordon Kindlmann)、ほか7名、「イメージング・オブ・ユタ・エレクトロード・アレイ・インプランテド・イン・コクレア・ナーブ(Imaging of Utah Electrode Array, Implanted in Cochlear Nerve)」、ユタ大学(2003年11月7日にNIHシンポジウムにてポスター発表)、(インターネット<URL: http://www.sci.utah.edu/~gk/abstracts/bisti03/>)
【非特許文献2】ノードハウセン(Nordhausen, C.T.)、ほか2名 、「オプティマイジング・レコーディング・ケイパビリティーズ・オブ・ザ・ユタ・イントラコーティカル・エレクトロード・アレイ( Optimizing recording capabilities of the Utah Intracortical Electrode Array」、ブレイン・リサーチ(Brain Research)、1994年、vol.637(1−2)、p.27−36
【非特許文献3】ダエ・ヒョン・キム(Dae-Hyeong Kim)、ほか5名、「ディソルバブル・フィルムズ・オブ・シルク・ファイブロイン・フォー・ウルトラスィン・コンフォーマル・バイオ-インテグレイテッド・エレクトロニクス (Dissolvable films of silk fibroin for ultrathin conformal bio-integrated electronics)」、ネイチャー・マテリアルズ(Nature Materials)9(2010)、p.511−517
【非特許文献4】「頭蓋内電極」、株式会社ユニークメディカル、[平成22年10月25日検索]、インターネット<URL : http://www.mmjp.or.jp/unique-medical/umcatno1136(1-2-3-4).pdf>
【非特許文献5】小黒康裕、ほか5名、「光学的脳神経活動計測用CMOSイメージセンサ試作」、(社)電子情報通信学会、信学技報、2009年10月、p.35−38
【非特許文献6】南裕樹、ほか6名、「自由行動マウス脳深部蛍光観察用CMOSイメージセンサの開発 −デバイスの実装方法とin vivo 蛍光測定系の検討」、(社)映像情報メディア学会技術報告、2009年11月13日、p.27−30
【非特許文献7】宍戸三四郎、ほか5名、「脳機能イメージングのためのマルチファンクショナルCMOSイメージセンサの開発」、(社)映像情報メディア学会技術報告、2009年12月10日、p.1−4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来の生体埋め込み型イメージセンサ及び該センサを用いた計測手法では、ごく限られた特定の脳神経活動の観察は可能であるが、脳機能イメージングにおいては脳内の様々な神経細胞の活動を高い空間分解能で計測できることが望まれている。また、脳内のみならず、例えば眼球、内耳前庭系、鼻粘膜などの各種感覚器官に存在する神経細胞、或いは交感神経、副交感神経、内臓神経などの自律神経を構成する神経細胞などの活動も同様に、高い空間分解能で計測できることが望まれている。こうした汎用的な神経活動の可視化には上述したような従来のセンサや計測手法では十分に対応できない。
【0009】
また、単に神経細胞の活動を高い空間分解能で計測できるだけでなく、特定の神経細胞を選択的に刺激することが可能であれば、単なる生体情報の収集・解析にとどまらず、生体外部から情報の付与を行うことができ、視覚障害等の各種の感覚障害、脊椎損傷等の神経伝達障害など、様々な障害に対する機能補助にもつながり得る。さらには、神経細胞以外の細胞について、その活動を同様に高い空間分解能で計測し、且つ特定の細胞を選択的に刺激することができれば、生物の全身の活動についてより詳細に解析したり、機能補助をすることができる。しかしながら、上述した従来の生体埋め込み型イメージセンサはこうした機能を有していない。例えば特許文献1に記載の生体埋め込み型イメージセンサは、二次元画像を取得するイメージセンサとは別に生体組織に接触する突起電極を備えており、該電極を介して生体組織に電気的な刺激を与えることが可能となっている。しかしながら、こうした電極では前述のように腐食の問題があるほか、特定の神経細胞や狭い部位に選択的に刺激を与えることが難しく、上記のような目的には適合しない。
【0010】
また、刺激に対する細胞の活動をリアルタイムで計測するためには、刺激と同時に計測を行う必要があるが、従来のように電極を用いて電位による刺激と電位の計測を行う場合、刺激と計測とを同時に行うと、それぞれが干渉して正確な計測を行うことができない。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その主な目的とするところは、侵襲性を抑えて被検体への負担の軽減やリスク軽減を図りながら、外部からの刺激に対する生体組織内の細胞の活動状況を把握するのに有用な情報を収集したり、そのようにして収集された情報に基づく局所的な又は選択的な刺激という形式による情報を生体組織内の特定の細胞に与えることが可能な生体双方向情報交換システム及び該システムの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明は、各種の実験動物や人間などの生物である被検体の脳又はその他の生体組織の活動を情報として収集し、さらに、情報としての光刺激を生体組織に与える生体光双方向情報交換システムにおいて、
a)前記生体組織に接するように生体内に埋植されたものであって、
a1)所定の光を受けて活性化又は不活性化する光感受性及び所定の光によって励起され電位に応じた光を発する電位感受性が導入された前記生体組織に存在する細胞の光感受性を刺激するための第1の波長を有する刺激光を前記生体組織に向けて出射する刺激光照射手段と、
a2)前記細胞の電位感受性による発光を励起するための、前記第1の波長とは異なる第2の波長を有する励起光を前記生体組織に向けて出射する励起光照射手段と、
a3)前記励起光の照射を受けて励起された細胞の電位感受性の作用によって放出される前記第1及び第2の波長とは異なる第3の波長の光を検出するための、受光素子を含む検出手段と、
を有する生体内光学的インターフェイス手段と、
b)前記検出手段で得られた検出信号に基づいて、前記刺激光照射手段から出射する刺激光の照射条件を決定する情報処理手段と、
c)該情報処理手段により決定された照射条件に従って前記刺激光照射手段を制御する刺激光制御手段と、
を備えることを特徴としている
【0013】
また、本発明に係る生体光双方向情報交換システムの制御方法は、各種の実験動物や人間などの生物である被検体の脳又はその他の生体組織の活動を情報として収集し、さらに、情報として光刺激を生体組織に与える生体光双方向情報交換を可能とする方法であって、前記生体組織に存在する細胞には、所定の光を受けて活性化又は不活性化する光感受性、及び所定の光によって励起され電位に応じた光を発する電位感受性が導入され、前記生体内光学的インターフェイス手段は前記生体組織に接するように生体内に埋植されており、
前記刺激光照射手段により刺激光を前記生体組織に向けて出射するステップと、
前記励起光照射手段により励起光を前記生体組織に向けて出射するステップと、
前記刺激光を受けて光感受性の作用により活性化又は不活性化された細胞の活動状況に応じて電位感受性を有する細胞が発する光の強度を前記検出手段により取得するステップと、
前記検出手段が取得した検出信号に基づいて、前記刺激光照射手段の出射する刺激光の照射条件を決定するステップと、
決定された照射条件に従って前記刺激光照射手段を制御するステップと、
を含むことを特徴としている。
【0014】
本発明の生体光双方向情報交換システム又は該システムの制御方法において情報交換の対象となる生体組織は、脳に限られず、心臓などにも適用することができる。また細胞は、透光性を備えた細胞であればよく、神経細胞や筋細胞などに適用することができる。さらに、神経細胞は特に限定されず、例えば、ヒトを含む脊椎動物の脳及び脊髄を構成する神経細胞、眼球、内耳前庭系、鼻粘膜、舌などの感覚器官に存在する神経細胞、運動・感覚などを司る末梢神経を構成する神経細胞、交感神経、副交感神経、内臓神経などの自律神経を構成する神経細胞、昆虫などの無脊椎動物の神経細胞など、を含む。その中でも特に、脳の神経細胞への適用が好ましい。また、心臓の心筋に適用することもでき、例えば心臓ペースメーカとして用いることができる。
【0015】
生体内光学的インターフェイス手段は、脳などの生体組織の表面に計測面が接するように埋植すればよく、生体組織に密着させることもできる。生体組織に刺入する態様でないため、生体組織に対する侵襲性を極めて低減することができ、生体に与える影響が小さく長期間に亘る計測であってもリスクが低い。さらに、本発明に係る生体光双方向情報交換システムは露出した金属部分がないので、長期間に亘る使用を行ったとしても腐食の問題が発生しない。
【0016】
本発明に係る生体光双方向情報交換システムを利用して脳などの生体組織に存在する細胞の活動状況を観察したい場合には、その生体組織に存在する細胞に、光を受けて活性化する又は不活性化する光感受性を導入する操作を行う。また、電位感受性を導入する操作を行う。細胞への光感受性及び電位感受性の導入は例えば、光感受性又は電位感受性を備えたタンパク質を所望の細胞に導入し発現させる方法、電位感受性色素で細胞を染色する方法などが挙げられる。
【0017】
光感受性の導入には例えば、チャネルロドプシン、ハロロドプシン、光活性化アデニル酸シクラーゼなどの光感受性タンパク質を用いることが好適である。こうした光感受性タンパク質は、例えば周知の遺伝子導入法(特許文献2参照)などを用いて細胞に導入することが可能である。一方、電位感受性の導入には例えば、スチリル系色素、サイアニン系やオキソノル系色素、ローダミン誘導体などの電位感受性色素を用いることができる。その場合、いわゆる染色操作により電位感受性を細胞に導入することができる。また、電位感受性の導入のために電位感受性タンパク質を用い、上記と同様の遺伝子導入法により細胞に導入することもできる。
【0018】
細胞に対し上記のような操作がなされた生体組織に生体内光学的インターフェイス手段が埋植された状態において、光感受性の種類に応じた波長の刺激光が刺激光照射手段より出射されると、その光を受けた光感受性の作用により細胞が活性化又は不活性化する。即ち、刺激光の照射によって、その生体組織中の細胞の活動を制御することができる。細胞の活動状態に応じてその膜電位が変化するところ、電位感受性の作用により、細胞は励起光照射手段から出射された励起光を受けて上記膜電位に応じた強度の光を放出する。したがって、細胞が活発に活動している部分とそうでない部分とでは光強度が相違する。検出手段はこの二次元的な光強度の分布を検出する。細胞に導入された電位感受性の作用により放出される光は、検出手段の受光素子に応じて選択することができ、検出の容易性から蛍光であることが好ましい。
【0019】
刺激光、励起光、及び電位感受性の作用により放出される光(以下「放出光」という)としてはそれぞれ異なる波長帯の光を用いることが必要である。光の波長帯は単純化すると、短波長側から紫外(380nm以下)、紫(380〜450nm)、青(450〜495nm)、緑(495〜570nm)、黄(570〜590nm)、橙(590〜620nm)、赤(620〜750nm)、赤外(750nm以上)、となる。例えば、刺激光が青、励起光が緑、放出光が赤である、それぞれの波長帯の光とすることができる。各光の組み合わせは、他の波長帯においても可能である。各光の波長は離れた波長帯の光であってもよく、隣接した波長帯の光であってもよく、紫外光や赤外光であってもよい。例えば、刺激光が緑、励起光が紫外、放出光が青である組み合わせも可能である。さらに、刺激光として、2種類の光を用いることもできる。例えば導入する光感受性タンパク質としてチャネルロドプシン及びハロロドプシンの2種類を用いた場合、刺激光を青(チャネルロドプシン刺激用)と橙(ハロロドプシン刺激用)とし、励起光を赤、蛍光を赤外とする組み合わせが可能である。この場合、刺激光照射手段としての発光素子は2種類の波長のものを用い、励起光照射手段としての発光素子は1種類の波長のものを用いることとなる。
【0020】
刺激光照射手段は、1つの生体内光学的インターフェイス手段において、光源(発光素子)が1つであっても複数であってもよい。これは、励起光照射手段も同様である。光源が複数の場合、光源は二次元的又は三次元的に配列することができる。発光素子は、その発光波長を制御することができるものを用いてもよい、それにより、1つの発光素子から複数の波長の光を発光させることができる。例えば、発光光源として1つの発光素子を用い、その発光波長を制御することで、青色発光、橙色発光による刺激を同じ発光素子により行うことができる。検出手段も同様に、1つの生体内光学的インターフェイス手段において、受光素子が1つであっても複数であってもよい。受光素子が複数の場合、受光素子は二次元的又は三次元的に配列することができる。
【0021】
情報処理手段は、前記検出手段が取得した検出信号に基づいて、前記刺激光照射手段から出射する刺激光の照射条件を決定する。刺激光の照射条件とは例えば、刺激光の強度条件、時間条件、空間条件などである。より具体的に、強度条件とは例えば刺激光の光の強さや点灯・不点灯であり、時間条件とは例えば照射の時間間隔、照射の継続時間などである。また空間条件は例えば、刺激光制御手段が複数の刺激光照射手段又は刺激光光源を制御する場合の照射位置(照射位置情報パターン)などである。これらの各照射条件を組み合わせることで、多彩な情報を外部から生体に提供することができる。
【0022】
本発明に係るシステム及びその制御方法では、上記刺激光の照射条件の決定と同様に、励起光の照射条件を決定することができる。励起光の照射条件は、前記検出信号が取得した検出信号に基づいて決定される。励起光の照射条件の決定は刺激光と同じ情報処理手段で行ってもよく、また情報処理手段が刺激光決定用情報処理手段と励起光決定用情報処理手段の2つを含んでいてもよい。いずれにしても、励起光を決定する情報処理手段を備えれば、発光を検出したい細胞又は領域を選択的に励起することができる。
【0023】
情報処理手段及び刺激光制御手段は、所定の刺激パターンを予め又はリアルタイムで作成し、そのパターンに従って刺激光を制御することができる。刺激パターンは、本発明に係るシステムを使用して収集した検出データを基に作成することができる。或いは、本発明に係るシステムを使用せずに収集したデータを基に作成し、本発明に係るシステムでその刺激パターンを使用することができる。刺激パターンは、刺激光を与えた生体の活動に応じて適宜修正することができる。こうした刺激パターンの修正にも、本発明に係るシステムの情報処理手段及び刺激制御手段を使用することができる。本発明に係るシステム又は方法によれば、リアルタイムで刺激パターンを生成・修正することができるので、生体の状況に応じた的確な刺激を生体に与えることができる。
【0024】
前記刺激光照射手段により刺激光を前記生体組織に向けて出射するステップと、前記励起光照射手段により励起光を前記生体組織に向けて出射するステップとは、同時に実行されてもよいが、それぞれ異なった時点で実行されてもよい。上記両ステップを同時に実行することで、細胞の刺激に対する活動をリアルタイムで計測することができる。本発明に係るシステム及び方法では、刺激と活動計測とを行うために刺激光、励起光と蛍光発光としていずれも光を用い、それら光の波長をそれぞれ異なるものとすることで、それぞれの光が干渉することなく刺激と計測とを同時に行うことができる。
【0025】
前記情報処理手段は、検出手段で得られた検出信号に基づいて、前記生体組織中の細胞の活動状況を反映した画像を作成して出力する画像生成手段を含むものとすることができる。画像生成手段は、検出手段で得られた検出信号を用いて画像を生成することにより、細胞の活動状況を可視化することができる。例えば信号強度に応じて表示色を設定したカラースケールに照らして画像を作成することができる。これにより、刺激光の刺激に応じた生体組織の細胞の活動状況を可視化することができるから、その結果を利用して例えば脳などの生体組織の機能の把握や解析が可能となる。また、刺激光を決定する際により柔軟に対応することができる。この点は、例えば脳活動の研究段階での本発明に係るシステムの使用における重要な利点となる。さらに、そうして得られた画像を用いて、情報処理手段は刺激光のパターンを決定することができる。
【0026】
また本発明に係る生体光双方向情報交換システムでは、前記検出手段は、二次元的に配列された複数の受光素子を含む構成とすることができる。検出手段に複数の受光素子が配置されている構成を採れば、1つの生体内光学的インターフェイス手段を生体組織に対して用いることで、情報処理手段により二次元画像を得ることができる。これにより、多数の生体内光学的インターフェイス手段を生体内に埋植することに比べて、生体への侵襲性を低減することができる。
【0027】
前記情報処理手段及び刺激光制御手段は、高集積化して生体内光学的インターフェイス手段と一体化してもよく、あるいは別体として生体内に埋植、生体外である外界に設置されていてもよい。別体として外界に設置する場合、情報処理手段及び刺激光制御手段を生体自身が携帯してもよく、或いは無線通信などを利用することにより、該通信のキャリアが到達し得る範囲で生体内光学的インターフェイス手段が埋植されている生物とは離れて設置されていてもよい。
【0028】
本発明に係る生体光双方向情報交換システムの一態様として、前記生体内光学的インターフェイス手段は、前記刺激光照射手段、前記励起光照射手段、及び前記検出手段が同一計測面上に配置され一体化された集積部品である構成とすることができる。ここでいう集積部品とは、1チップの半導体集積回路部品、複数の半導体集積回路や半導体素子を一体化したモジュール、などである。
【0029】
また本発明に係る生体光双方向情報交換システムの別の態様として、前記生体内光学的インターフェイス手段は、前記刺激光照射手段及び前記励起光照射手段を有する第1集積部品と、前記検出手段を有する第2集積部品とからなる構成としてもよい。
【0030】
この構成では、例えば刺激光や励起光が生体組織の深部から表面側に向かって進むように第1集積部品を生体組織内に挿入させる一方、第2集積部品を生体組織の表面に固定するとよい。或いは、脳に適用する場合、第1、2集積部品をそれぞれ異なる脳溝に埋植し、脳組織を挟み込むようにすることもできる。これにより、生体組織の深部に刺激光及び励起光を照射し、それに応じて該生体組織中の細胞から発せられる光を効率良く検出することができる。
【0031】
また本発明に係る光双方向情報交換システムでは、前記生体内光学的インターフェイス手段は、前記刺激光照射手段及び前記励起光照射手段の光の出射を制御する制御信号と、前記検出手段で得られた検出信号とを無線で送受する送受信手段をさらに備える構成とするとよい。これにより、計測対象である動物等の体外に設置した情報処理手段と、体内に埋埴された生体内光学的インターフェイス手段との間で相互に信号を送受信可能であるので、その動物等の自由な行動を阻害することなく、目的とする生体組織中の細胞の活動状況を反映した画像をリアルタイムで得ることができる。
【0032】
また本発明に係る生体光双方向情報交換システムでは、前記刺激光照射手段は、複数の発光部が二次元的に配置され、その各発光部が、前記検出手段の各受光素子又は隣接する複数の受光素子からなる受光素子群に対応付けられている構成とすることができる。発光部(光源)及び受光素子は、生体内光学的インターフェイス手段に搭載可能な程度に微小である必要がある。生体内光学的インターフェイス手段の大きさは、適用する生体組織や適用箇所などに応じて適宜定めることができる。
【0033】
この構成によれば、二次元的に配置された複数の発光部が個別に点灯駆動されることにより、生体組織の中で生体内光学的インターフェイス手段が装着された範囲全体ではなく、特定の1乃至複数の微小領域に対して光刺激を与えることができる。それにより、特定の微小領域に存在する神経細胞を活性化又は不活性化させて、その神経細胞の機能などを詳細に調べることができる。
【0034】
また上記のように刺激光照射手段が複数の発光部が二次元的に配置されたものである光双方向情報交換システムにおいては、前記情報処理手段は、前記生体組織が刺激光又はそのほかの外部からの刺激を受けたときに前記検出手段で得られた検出信号に基づいて作成される画像に基づいて、特定の神経活動を惹起する又は特定の神経活動を抑制する二次元的な刺激パターンを求めることができる。また、刺激光制御手段はその刺激パターンに従って前記刺激光照射手段の発光部を駆動して刺激光を照射する構成とすることができる。このような刺激パターンは例えば、検出信号に基づいてリアルタイムに作成したり、前もって蓄積したデータから刺激パターンを求め状況に応じて必要な刺激パターンを選択的に用いたりすることができる。
【0035】
具体的には例えば、前記情報処理手段は、特定の刺激が与えられたときに得られる画像に基づいて、刺激に対する神経活動における1つの神経細胞とその周囲の神経細胞との同期性を調べ、その結果に基づいて複数の神経細胞の集団単位での機能を推定し、その推定に従って特定の神経活動を惹起する又は特定の神経活動を抑制する二次元的な刺激パターンを求める構成とすることができる。
【0036】
複数の神経細胞の集団毎の機能が或る程度解明されれば、或る機能、例えば視覚等を発揮させるために特定の複数の神経細胞に対し刺激光により同期的に刺激を与えて神経回路網を形成したり、逆に、或る機能を抑制するために特定の神経細胞に対し刺激光により刺激を与えて神経回路網の同期性を乱したりすることが可能となる。そこで、そうした神経回路網の形成や神経回路網の同期性の撹乱に有効な二次元的な刺激パターンを作成し、刺激光照射手段を介して刺激を所定の生体組織に与えることにより、例えば視覚や味覚などの感覚、記憶、運動、情動、発語などの補助が可能となる一方、逆に過剰な又は異常な神経活動による様々な疾病症状や痛覚等の不快症状の軽減などが可能となる。
【0037】
また、前述のように、特定の微小領域に存在する神経細胞を活性化又は不活性化させるために二次元的に発光部が配置された刺激光照射手段を用いる代わりに、目的とする特定の細胞に選択的に光感受性を導入することにより、生体組織の或る程度広い範囲に刺激光を照射してもその範囲の中の特定の細胞のみを選択的に刺激することができる。
【0038】
即ち、本発明に係る生体光双方向情報交換システムの制御方法においては、所定の光感受性が特定の神経細胞にのみに選択的に導入され、その特定の神経細胞が存在する部位と存在しない部位とを含む範囲に対し前記刺激光照射手段により刺激光を出射するとともに前記励起光照射手段により励起光を出射し、前記特定の神経細胞のみを選択的に活性化又は不活性化させ、それに対応した生体組織中の神経細胞の活動状況を反映した画像を取得するようにすることができる。
【0039】
例えば、光感受性タンパク質であるチャネルロドプシン(ChR2)を興奮性神経細胞(抑制性神経細胞でなく)や心筋細胞(心臓線維芽細胞でなく)など、複数種の細胞が混在する組織において特定の性質をもつ細胞でのみ発現する遺伝子や、ある器官、組織、細胞種で領域特異的に発現する遺伝子等のプロモータ制御下で発現させることにより、目的とする特定の細胞でのみ選択的にチャネルロドプシンを発現させ、刺激することができる。これによれば、刺激光照射手段は必ずしも複数の発光部を二次元的配置した構成とする必要がなく、生体内光学的インターフェイス手段の構成が簡単になる。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係る生体光双方向情報交換システム及び該システムの制御方法によれば、自由行動可能な実験動物や人間の脳やそのほかの生体組織における神経活動に関する情報をリアルタイムで且つ高い分解能で収集し、神経活動状況を可視化することができる。それにより、従来のシステムや手法では得られにくかった、脳機能やそのほかの生体組織の機能の解析に有用な情報を得ることができる。
【0041】
また本発明に係る生体光双方向情報交換システムにおいて、生体内に埋植される生体内光学的インターフェイス手段は低侵襲性であって腐食等のリスクも小さいので、長期間に亘って生体内に埋植した状態を維持することができる。それによって、生体内光学的インターフェイス手段を交換するための繰り返しの手術の必要がなくなり、生体に与える影響を抑えることができる。さらに、本発明に係る生体光双方向情報交換システム及び該システムの制御方法によれば、収集した情報の解析結果に基づいて生体組織に特異的な刺激を与え、それに対応する神経活動を反映した情報を取得して評価することができ、神経活動をより一層正確に把握することができる。
【0042】
また本発明に係る生体光双方向情報交換システム、該システムの制御方法、及び生体光双方向情報交換方法によれば、生体組織の細胞活動の情報の収集と提供とをリアルタイムで行うことにより、生体組織の細胞と外部との双方向による情報のやり取りを実現することができる。さらに、細胞活動の可視化、及び与えた刺激に対する評価を行うことができるので、目的に応じたより緻密な情報交換を生体と外界との間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施例である生体光双方向情報交換システムの全体構成図。
【図2】第1実施例の生体光双方向情報交換システムにおけるセンサ部の概略平面図(a)及び概略断面図(b)。
【図3】図2に示したセンサ部を生体脳に装着した状態を示す概略図。
【図4】図2に示したセンサ部における刺激光用LEDからの出射光、励起光用LEDからの出射光、及び細胞から発せられる蛍光のそれぞれのスペクトル、並びに、光学フィルタの波長透過特性を示す図。
【図5】第1実施例の生体光双方向情報交換システムを用いた神経活動計測及び情報交換の手順の一例を示すフローチャート。
【図6】第1実施例の生体光双方向情報交換システムにおけるセンサ部により生体大脳皮質における、人為的刺激に対する神経活動の電位イメージングが可能であることを実験的に検証した結果を示す図。
【図7】第1実施例の生体光双方向情報交換システムにおけるセンサ部により生体大脳皮質における、目からの光刺激に対する神経活動を電位感受性色素により電位イメージングすることが可能であることを実験的に検証した結果を示す図。
【図8】第1実施例の生体光双方向情報交換システムにおけるセンサ部が複数である場合に蛍光イメージングが可能であることを実験的に検証した結果を示す図。
【図9】第1実施例の生体光双方向情報交換システムにおけるセンサ部が複数である場合に蛍光イメージングが可能であることを実験的に検証した結果を示す図。
【図10】本発明に係る第2実施例の生体光双方向情報交換システムにおけるセンサ部の概略平面図(a)及び概略断面図(b)。
【図11】本発明に係る第3実施例の生体光双方向情報交換システムにおけるセンサ部を生体脳に装着した状態の概略断面図。
【図12】本発明に係る第4実施例の生体光双方向情報交換システムにおけるセンサ部を生体脳に装着した状態の概略断面図。
【図13】本発明に係る第5実施例の生体光双方向情報交換システムにおけるセンサ部を生体脳に装着した状態の概略断面図。
【図14】本発明に係る生体光双方向情報交換システムを用いた人工視覚システムの概念図。
【図15】ヒトの大脳皮質一次視覚野におけるコラム構造の例を示す図。
【図16】パーキンソン病の発症メカニズムを説明するための脳モデルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0044】
[第1実施例]
以下、本発明に係る生体光双方向情報交換システムの一実施例(第1実施例)、及びこの実施例のシステムの制御方法について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は第1実施例の生体光双方向情報交換システムの全体構成図、図2は第1実施例の生体光双方向情報交換システムにおけるセンサ部の概略平面図(a)及び概略断面図(b)、図3は図2に示したセンサ部を生体脳に装着した状態を示す概略図である。
【0045】
第1実施例の生体光双方向情報交換システムは、生体脳などの計測対象の生体組織に密着するように生体内に埋植されるセンサ部(本発明における生体内光学的インターフェイス手段に相当)1と、該センサ部1において光電変換により得られたアナログ検出信号をデジタルデータに変換するA/D変換部(ADC)2と、A/D変換により得られた検出データを受けて所定のアルゴリズムに従いデータ処理を行ってイメージング画像を作成するとともに所定のデータ解析を実行するデータ処理部(本発明における情報処理手段に相当)3と、センサ部1から刺激光や励起光を出射させるべくセンサ部1を制御する制御部(本発明における刺激光制御手段に相当)4と、を含む。
【0046】
専ら実験的に生体情報を交換するシステムの場合には、データ処理部3や制御部4は例えばパーソナルコンピュータにより具現化することができる。一方、後述する人工視覚システムのようにほぼ常時生体に対して刺激光を与える必要があるシステムの場合には、データ処理部3や制御部4を生体が携帯可能であるものとするか、又はそれ自体を生体に埋植可能なものとするとよい。また、A/D変換部2はセンサ部1と一体化してもよいが、センサ部1とは別に配置してもよい。また、A/D変換部2からデータ処理部3へのデータの伝送(又はセンサ部1からA/D変換部2への信号の伝送)及び制御部4とセンサ部1との信号の送受は有線方式であってもよいが、或る程度長期に亘ってセンサ部1を生体内に置いて計測を行うには無線方式とすることが好ましい。
【0047】
この第1実施例では、センサ部1は1個のモジュール(又は1個のチップ)からなる。図2に示すように、センサ部1は、ポリイミドなどからなる薄い基板10と、その基板10上の一面に配設された、刺激光用の複数のLED11、励起光用の複数のLED12、及び、二次元アレイ状にフォトダイオードが配設された受光部14を含むCMOSイメージセンサ13、を備える。受光部14の上には赤色光及び赤外光を選択的に透過させる光学フィルタ15が設けられている。図3に示すように、このセンサ部1は、刺激光用LED11、励起光用LED12、及びCMOSイメージセンサ13が配置された計測面が脳(又はそのほかの生体組織)100の表面に密着するように生体内に埋植される。
【0048】
図4は、刺激光用LED11からの出射光、励起光用LED12からの出射光、及び、励起光に対して後述する電位感受性色素で染色された神経細胞から発せられる蛍光のそれぞれのスペクトル、並びに、光学フィルタ15の波長透過特性を示す図である。即ち、刺激光用LED11は中心波長が470nmである青色LEDであり、励起光用LED12は中心波長が530nmである緑色LEDである。一方、後述するが、ここでは蛍光の中心波長は近赤外に近い712nmであり、この蛍光を高い効率で透過させるために光学フィルタ15は約640nm以上の長波長域でほぼ100%の透過率を持つ。このように、刺激光、励起光、及び蛍光は互いに主たる波長域が重ならないようにそれぞれの波長が設定されており(つまり波長帯域分割の構成が採られており)、刺激光や励起光の波長成分は光学フィルタ15により遮断されて受光部14には到達しない。
【0049】
第1実施例の生体光双方向情報交換システムを用いて例えば生体脳の神経細胞の活動を観測する際には、予め、光刺激に応じて神経細胞を活性化又は不活性化する機能をもつ光感受性タンパク質を該神経細胞内に導入するとともに、励起光を受けて蛍光を発し且つその蛍光強度が細胞の電位に応じて変化するような電位感受性色素で以て神経細胞を染色する。
【0050】
光感受性タンパク質の導入には既述の特許文献1に開示された手法、即ち、遺伝子導入が利用可能である。利用可能な光感受性タンパク質としては、例えば、プロトンポンプ(イオンポンプ)のチャネル・ロドプシン(Channel Rhodopsin)、クロライドポンプのハロロドプシン(Halorhodopsin)、Gタンパク質伝達系の光活性化アデニル酸シクラーゼなど、が挙げられる。こうした光感受性タンパク質は、特定波長の光に応答してイオンを透過させ、細胞内外のイオン勾配によって膜電位を制御する。したがって、これらタンパク質が導入された神経細胞は、特定波長の光に応答して活性化又は不活性化される。
【0051】
また電位感受性色素の具体的な例としては、ANEPPS類、ANEPEQ類、RH類などのスチリル(Styryl)系色素、DiSC類、DiOC類、DiIC類、DiBAC類、DiSBAC類などのサイアニン(Cyanine)系やオキソノル(Oxonol)系色素、TMRM、TMREなどのローダミン(Rhodamine)誘導体、が挙げられる。なお、電位感受性色素で神経細胞を染色する代わりに、同様の作用をもつ電位感受性タンパク質を光感受性タンパク質と同様の手法で神経細胞に導入するようにしてもよい。
【0052】
即ち、目的とする神経細胞を光刺激により活性化又は不活性化するために光感受性タンパク質が該神経細胞に導入され、また、神経細胞の活動により変化する膜電位を光によりモニタするために、神経細胞は電位感受性色素で染色される。神経細胞に対するこれら操作・処理が本実施例の生体光双方向情報交換システムを用いた細胞活動の計測・観察には必要となる。
【0053】
図6は、図2に示したセンサ部1を用いて生体大脳皮質における神経活動の電位イメージングが可能であることを実験的に検証した結果を示す図である。この実験は、神経細胞への光感受性タンパク質の導入は行わずに、電位感受性色素で染色したマウス大脳の視覚野に対するイメージングを行ったものである。即ち、図6(a)に示すように、マウス大脳皮質の視覚野にセンサ部1の計測面(図2(b)の上面)を密着させ、K+イオンが刺激物として機能する塩化カリウム溶液を大脳に注入することにより刺激を与える。この刺激に対して生じる蛍光強度の空間分布をセンサ部1に搭載されているCMOSイメージセンサ13で検出し、データ処理部3で信号強度をカラー情報に変換して二次元カラー画像として出力している。
【0054】
図6(b−1)は蛍光強度分布ではなく、マウス大脳の視覚野に単に照明光を当てたときのCMOSイメージセンサ13の検出信号に基づく明視野イメージング画像、つまり外観像である。図6(b−2)は低濃度のカリウム溶液を用いて弱い刺激を与えたときのCMOSイメージセンサ13の検出信号に基づく蛍光強度分布イメージング画像であり、 図6(b−3)は高濃度のカリウム溶液を用いて強い刺激を与えたときのCMOSイメージセンサ13の出力に基づく蛍光強度分布イメージング画像である。さらに図(b−4)は、図6(b−1)と図6(b−3)とをマージした画像である。これら画像はいずれも刺激を与える前の基準時点から刺激付与後に所定時間が経過する時点までの蛍光強度の変化量を右端に示したカラースケールに従ってカラー化したものである。
【0055】
図6を見れば、K+イオンの刺激に応じてマウス大脳の視覚野の中で特定の位置の神経細胞の活動が活発になっていることが分かる。これにより、生体脳の神経細胞に何らかの刺激を与えたときにセンサ部1により得られる検出信号に基づいて脳の活動を示す膜電位イメージング画像を作成できること、つまりは神経活動を可視化できることが明らかである。もちろん、光と光感受性タンパク質との組み合わせにより同様の刺激を神経細胞に与えることができることは従来知られているから、神経細胞に光感受性タンパク質を導入した上で刺激光を照射することによって、その刺激に応じた神経活動を可視化できることも明らかである。
【0056】
図7は、図2に示したセンサ部1を用いて生体大脳皮質における神経活動の電位イメージングが可能であることを実験的に検証した結果を示す図である。この実験は、図6と同様に神経細胞への光感受性タンパク質の導入は行わずに、電位感受性色素で染色したマウス大脳の視覚野に対するイメージングを行ったものである。この実験では、マウス大脳皮質の左脳の一次視覚野にセンサ部1の計測面を密着させ、そのマウスの右目に、青色LEDによる光を照射することにより視覚を通じて光刺激を与えるようにした。この刺激に対して生じる蛍光強度の空間分布をセンサ部1に搭載されているCMOSイメージセンサ13で検出し、データ処理部3で信号強度をカラー情報に変換して二次元カラー画像として出力している。
【0057】
ここで、本実験例で使用しているデバイス(センサ部1)の具体的な実装工程を以下に説明する。
まず、設計されたフレキシブルなポリイミド基板(太洋工業社製)にエポキシ樹脂(製品名「Z-1」、日新レジン社製)でCMOSイメージセンサ(LSIチップ)を固定し、ウェッジボンダ(製品名「7600C」、米国West Bond社製)を用いてポリイミド基板とCMOSイメージセンサのI/Oパッド間をAlワイヤでボンディングした。ポリイミド基板のサイズは設計により自由に変更可能であり、また設計後もエキシマレーザ加工機(製品名「ATLEX-300-SI」、独国ATL Lasertechnik社製)によりCMOSセンサチップ周囲の不要なポリイミド基板やエポキシ樹脂を切断することで外形加工して使用するようにした。今回実験に使用したポリイミド基板のサイズは縦40又は70mm、横10mm、厚さ100±10μmであり、これを加工機により横幅1.8±0.5mm程度に切断して使用した。次いで、蛍光をセンサで選択的に受光するために、スピンコーター(製品名「1H-D7」、ミカサ社製)を用いてCMOSイメージセンサの画素アレイ面に長波長の光(>約600nm)を透過させる特性の液体レッドフィルタ(富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ株社製)を塗布し、発光素子としてLEDをCMOSイメージセンサ近傍のポリイミド基板上にウェッジボンダを用いて取り付けた。また、防水のため、CMOSイメージセンサ全体をパリレン又はエポキシ樹脂によりコートした。
【0058】
一方、大脳皮質の染色には電位感受性色素であるRH795(Invitrogen社製)を用いた。励起光源は図6に示した測定では発光ピーク波長525nmの日亜化学工業社製LEDを用い、図7〜9に示した測定では発光ピーク波長470nmの台湾Epister社製LEDを用いた。RH795の最適励起波長は530nmであるが、470nmのLEDであっても励起可能であることを、RH795と似た励起波長特性をもつ蛍光ビーズ(Invitrogen社製のF8841:Ex/Em=540/560nm、F21012:Ex/Em=565/580nm)を用いた撮像検証により確認した。LEDのサイズは日亜化学工業社製:縦及び横300μm、高さ60μm、Epister社製:縦305±25μm、横280±25μm、高さ90±10μmであり、基板上に図6の例では3個、図7〜9の例では9個設置した。受光素子は、設計した回路データをもとに、0.35μm 2-Poly 4-Metalの標準CMOSプロセス(Austria Micro Systems社)を用いて試作した。これは設計によりサイズを自由に変更でき、また設計後もD-RIE(製品名「HCL-3100ST」、HOYA社製)によりチップの外形加工が可能である。なお、今回使用しているチップのサイズは縦3.5mm、横1mm、高さ150μmであり、ポリイミド基板上に1個のみ設置した。センサ部(生体内インターフェイス手段)のサイズは、用いる部品のサイズに依存するため、用いる部品によってnmオーダーのものを作製することができる。センサ部の作製手法としてはMEMS技術の手法を用いることができる。サイズは体内への埋植技術と装置関連技術との兼ね合いによって適宜設定することができる。後述する図7及び図8の実験例においても、同じセンサ部を用いた。
【0059】
青色LEDによる視覚を通じた光刺激のため、マウスにマスクを装着して光源である青色LEDを固定し、青色LEDによる光照射以外の視覚を通じた刺激を遮断した上で、照射(ON)、休止(OFF)を3分間隔で交互に行った。図7中の「OFF」は光刺激を与えていないときの神経活動の電位状態、「ON」は光刺激を与えているときの神経活動の電位状態を示している。光刺激を与えている場合には電位が高くなっており、神経細胞の活動が活発になっていることが分かる。このように、生体脳の神経細胞に生体外部から視覚的刺激を与えたときにセンサ部1により得られる検出信号に基づいて脳の活動を示す膜電位イメージング画像を作成でき、その結果、生体脳の神経細胞に生体外部からの刺激を与えたときの生理反応による神経活動の可視化を行えることが確認できた。
【0060】
図8は、図2に示したセンサ部1を複数用いて生体大脳皮質における神経細胞の膜電位ステータスの蛍光イメージングが可能であることを実験的に検証した結果を示す図である。この実験では、マウスの生体脳の大脳皮質を電位感受性色素により染色し、左右それぞれの視覚野(図8(a)中の<1>及び<2>)に別々のセンサ部1の計測面を密着させた。このような配置において、各センサ部1に搭載されているLEDから励起光を与えることにより、各センサ部1に搭載されているCMOSイメージセンサ13により左右の視覚野における神経細胞が発する様々な強度の蛍光を2つのセンサ部から同時に検出することができた(図8(b)及び(c)参照)。このような手法を用いることにより、複雑な構造の組織であっても、湾曲した組織面に沿って複数のセンサ部を装着することで広い視野を、またセンサ部を組織内部に埋植することで三次元的な解析を、いずれもリアルタイムで行うことが可能である。
【0061】
このセンサ部は微小であり、生体内に埋植して長期間稼働させることが可能であることから、自由行動下の動物による行動、学習実験とそのときの脳活動のイメージングデータとを結びつけ、動物の行動を規定する神経活動を明らかにし、脳の機能解析を行うための新規な方法を提供する。具体的には次のような使用例が考えられる。例えば動物に何らかの映像を見せ、映像が表示されると同時に電気刺激などを与える。これを反復試行して動物に学習させることで、映像が表示されると電気刺激があるのではないかと動物は考えて震えるなどして身構えるようになる(フィアーコンディショニング)。次に動物に映像を見せたときの左右の視覚野における神経活動をセンサ部によりイメージングして活動領域をマッピングする。得られたマッピングデータに基づいて同様の活動を引き起こすようにセンサ部から視覚野の神経細胞に対して光刺激を与える。これにより動物が震えるなどして身構える行動をとるならば、人為的な刺激により脳に直接視覚情報を与えることに成功したことを意味する。このように自由行動下で動物の視覚野において光双方向情報交換システムを活用するという技術は、より高機能な脳刺激型人工視覚デバイスを提供するための基礎技術にもなる。こうした使用例については、後述の具体例においてもいくつか挙げる。
【0062】
図9は、図8と同様に図2に示したセンサ部1を複数用いて生体大脳皮質における神経細胞の膜電位ステータスの蛍光イメージングが可能であることを実験的に検証した結果を示す図である。この実験では、マウスの生体脳の大脳皮質を電位感受性色素により染色し、左右の視覚野(図9(a)中の<1>及び<2>)及び体性感覚野(図9(a)中の<3>)のそれぞれに別々のセンサ部1の計測面を密着させた。このような配置において、各センサ部1に搭載されているLEDから励起光を与えることにより、各センサ部1に搭載されているCMOSイメージセンサ13により左右の視覚野及び体性感覚野の神経細胞が発する様々な強度の蛍光を同時に検出することができた(図9(b)参照)。このように複数のセンサ部を異なる脳部位において使用し、得られた神経活動情報を複合的に解析することにより、外部環境からの特定の刺激に応じた神経活動の伝播過程を経時的にマッピングすることができる。また同時にセンサ部から神経細胞に対して刺激を与えることで、その再現性や途中の経路からの伝播過程を随意的に反復解析することを可能にしている。
【0063】
以上の結果から分かるように、本方法は従来の脳機能イメージング技術と比較して、検証して再現が可能であるという点において、高い精度と信頼性でそれぞれの領野間の相関関係を明らかにすることができるほか、神経回路の作用機序やその活動様式をプロファイリングすることで、脳の機能領域の同定に寄与する。また、このような手法を用いることで、大脳皮質の発生、発育、発達過程における領域特異化機構や、臨界期における神経ネットワークの可塑化、リモデリングや記憶のメカニズムを解明するために利用することができる。究極的には情動などの高次脳機能解析を行うことにより、精神、心という概念をもたらす神経活動の実体を解明するための基礎技術を提供する。本デバイスは光双方向情報交換技術を用いて脳活動をデコードすると同時にエンコードすることが可能であり、儀体を制御して外部情報を得るなどオプトサイバネティクスを実現可能とするものでもある。
【0064】
次に、第1実施例の生体光双方向情報交換システムを用いて、生体脳内の特定の神経活動に対する活動パターン(どの領域が活発に活動しておりどの領域が活動していないのかを示す二次元位置情報)を取得する計測方法、及び該計測結果を利用してさらに脳に刺激情報を与える情報交換方法の一例について、図5示すフローチャートに従って説明する。
【0065】
まず、測定者は測定対象である被検体(例えばマウス)の生体脳を手術により露出させた上で計測対象である所定領域中の特定の神経細胞に光感受性タンパク質を導入する(ステップS1)。例えば或る神経細胞種でのみ発現している遺伝子のプロモータ配列の下流に発現させたい光感受性タンパク質を組み込むことで、その光感受性タンパク質を特定種の神経細胞でのみ発現させることが可能である。より具体的には、例えば光感受性タンパク質であるチャネルロドプシン(ChR2)を興奮性神経細胞や心筋細胞など、複数種の細胞が混在する組織において特定の性質をもつ細胞でのみ発現する遺伝子や、ある器官、組織、細胞種で領域特異的に発現する遺伝子等のプロモータ制御下で発現させることにより、目的とする特定の細胞でのみ選択的にチャネルロドプシンを発現させ刺激することができる。
【0066】
さらにまた、計測対象である所定領域中の特定の神経細胞を含むその周辺の神経細胞を電位感受性色素で染色する(ステップS2)。そして、光感受性タンパク質の導入動作及び電位感受性色素での染色操作を施した生体脳100に対し、図3に示すようにセンサ部1を装着し、頭部の切開箇所を閉じる(ステップS3)。もちろん、必要に応じてセンサ部1を複数使用してもよい。また、ステップS1、S2の操作の順序は逆でもよい。以上が計測の準備段階である。
【0067】
実際の計測に際しては、制御部4の制御の下にセンサ部1において刺激光用LED11が点灯駆動され、青色の刺激光が生体脳の所定領域ほぼ全体に照射される。同時に、励起光用LED12が点灯駆動され、緑色の励起光が生体脳の所定領域ほぼ全体に照射される(ステップS4)。上記のように特定の神経細胞に導入された(換言すれば特定の神経細胞で発現する)光感受性タンパク質は上記刺激光による刺激を受けてその神経細胞を活性化する。電位感受性色素は励起光の照射を受けて蛍光を発するが、その蛍光強度は細胞の膜電位に依存する。神経細胞の活性化により細胞の膜電位が変化するため、活性化の度合いが大きい神経細胞では、発する蛍光の強度変化が大きくなる。したがって、刺激光に対する神経細胞の活動状態に応じた強度分布を示す蛍光が発せられる。CMOSイメージセンサ13はこの蛍光を検出し、その蛍光強度分布を反映した検出信号がセンサ部1からA/D変換部(ADC)2に送られ、デジタル化された蛍光強度データがデータ処理部3に送られる(ステップS5)。
【0068】
データ処理部3は得られた蛍光検出データに基づいて、蛍光強度分布を反映した、つまりは刺激光に対する神経活動状況を反映したイメージング画像を作成する(ステップS6)。これにより、特定の神経活動に対して、生体脳の所定領域内の位置情報と強度情報(活動度)とを示す活動パターンが得られる(ステップS7)。この活動パターンを解析することにより、例えば特定の神経活動に関与する神経細胞のネットワーク網を調べることができる。具体的には、光感受性タンパク質を導入した或る特定の神経細胞の周囲に存在する別の神経細胞の活動の状況を、上記或る特定の神経細胞の活動との同期の観点から解析し、神経細胞群として機能推定を行うことができる。さらにデータ処理部3は、ステップS7で得られた活動パターンから、ステップS4で行う刺激光照射のための刺激光の照射条件を決定する(ステップS8)。決定された照射条件に基づいて速やかに脳の刺激を与える場合には、ステップS8からS4へと戻り、制御部4は照射条件に基づいた制御信号を生成してセンサ部1に送り、センサ部1においてはこの制御信号により刺激光用LED11が点灯駆動されて刺激が与えられる。また、ステップS8で決定された刺激光の照射条件は一旦記憶部などに格納され、必要に応じてその後の任意の時点で読み出されて脳に対する刺激に利用されることもある。
【0069】
以上のように、第1実施例の生体光双方向情報交換システムを用いることにより、各種実験動物やヒトの脳内或いは他の器官の神経活動について神経細胞単位の詳細な情報を、自由に行動可能な状態の下で或る程度長期間に亘り取得し続けることが可能となる。具体的には、例えば生体脳中の或る領域に存在する特定の神経細胞に対して刺激が加えられたときの該神経細胞やその周囲の神経細胞の活動状態をイメージング画像として可視化することができる。具体的な解析例やそうした解析結果を利用して特定の目的を達成するシステムの例については後述する。
【0070】
[第2実施例]
次に、本発明に係る別の実施例(第2実施例)による生体光双方向情報交換システム及びこの実施例のシステムの制御方法について、添付図面を参照して説明する。
第1実施例の生体光双方向情報交換システムでは、センサ部1において比較的広い範囲に刺激光を照射しており、これを受ける生体組織中の特定の神経細胞に光感受性タンパク質を導入するようにしていた。これに対し、この第2実施例による生体光双方向情報交換システムでは、種類に応じて選択的に神経細胞中に光感受性タンパク質を導入する代わりに、センサ部1において多数の刺激光用微小LEDを二次元アレイ状に配列した二次元LEDアレイを用い、各微小LEDの点灯・消灯の制御により特定の二次元的な光照射パターンを形成し、生体組織中の特定位置に存在する神経組織に刺激光を照射するようにしている。
【0071】
図7は、第2実施例の生体光双方向情報交換システムにおけるセンサ部1の概略平面図(a)及び概略断面図(b)である。この例では、センサ部1においては、基板40上に、複数の刺激用LEDアレイ41、複数の励起光用LEDアレイ42、及び、蛍光受光用のフォトダイオードアレイ44が整然と配列され、刺激用LEDアレイ41、励起光用LEDアレイ42、及びフォトダイオードアレイ44はそれぞれ二次元的に配置されている。第1実施例と同様に、受光部であるフォトダイオードアレイ44の上には赤色光及び赤外光を選択的に透過させる光学フィルタ45が設けられている。各刺激用微小LED、各励起光用微小LEDはそれぞれ独立に点灯・消灯が可能となっている。なお、励起光は或る程度広い範囲に照射されても構わないため、励起光用微小LEDは上記のようなアレイ状である必要はなく、第1実施例と同様に、測定対象範囲全体に励起光が照射される構成としてもよい。
【0072】
この第2実施例の生体光双方向情報交換システムを用いて、生体脳内の特定の神経活動に対する活動パターンを取得する計測方法、及び該計測結果を利用してさらに脳に刺激情報を与える情報交換方法の一例を以下に説明する。第1実施例の生体光双方向情報交換システムを用いた計測方法及び情報交換方法と共通する処理については特に説明を簡略化する。
【0073】
まず、測定者は測定対象である被検体の生体脳を手術により露出させた上で計測対象である所定領域中の神経細胞に光感受性タンパク質を導入するとともにそれら神経細胞を電位感受性色素で染色する。第1実施例によるシステム利用時との大きな差異は、ここでは必ずしも特定種の神経細胞にのみ光感受性タンパク質を導入する必要はないという点であり、比較的広い範囲に存在する異なる種類の神経細胞に光感受性タンパク質を導入してしまっても問題はない。そして、光感受性タンパク質の導入動作及び電位感受性色素での染色操作を施した生体脳に対しその表面にセンサ部1の計測面が密着するように該センサ部1を装着し、被検体の頭部の切開箇所を閉じる。
【0074】
被検体に対し或る刺激(刺激光に限らない)を与えたり被検体が所定の行動をとったりすると特定の神経活動が起こる。こうした神経活動の際の活動パターンを調べる場合には、被検体に或る刺激を与えたとき又は被検体が所定の行動を起こしたときに、制御部4の制御の下にセンサ部1において励起光用LEDアレイ42を点灯駆動させ、緑色の励起光を生体脳の所定領域ほぼ全体に照射する。この励起光照射により各神経細胞の電位感受性色素から励起発光される蛍光を光学フィルタ45を通してフォトダイオードアレイ44で検出する。生体脳の測定領域の中で上記の刺激又は所定の行動によって活動が促進される神経細胞からの蛍光強度が強くなるから、センサ部1からA/D変換部2を通して得られた検出データをデータ処理部3において処理すると、上記の刺激又は所定の行動によって惹起される特定の神経活動に対する活動パターンを示すイメージング画像が得られる。
【0075】
次に、上記手順で得られた特定の刺激や行動に対する生体脳の活動パターンの的確性を検証するために、制御部4はその活動パターンと同じ又は既知の情報に基づくアルゴリズムで変換して得られた特定の位置パターン(二次元分布)で以て刺激用LEDアレイ41を点灯させ、刺激光を生体脳の測定領域に照射する。この刺激光の照射を受けた神経細胞は導入されている光感受性タンパク質の作用により活性化(又は不活化)される。また、このとき同時に励起光用LEDアレイ42を点灯させ、測定領域全体に励起光を照射する。これにより、フォトダイオードアレイ44では、特定の位置パターンに従った刺激光の照射に対応した神経活動状況を反映した蛍光強度分布が検出されるから、データ処理部3ではこれに対応したイメージング画像が作成される。そして、このときのイメージング画像と元の活動パターンとを比較することにより、目的とする神経活動の活動パターンの解析評価を行ったり実際の位置パターンの修正、或いは上述したアルゴリズムの修正などを行うことができる。こうして、或る刺激への応答や行動が人為的に引き起こされるような位置パターンや人為的に抑制されるような位置パターンを見い出すことができる。
【0076】
例えば、上記のような手順で様々な刺激に対する神経活動の活動パターンや行動を起こす際の神経活動の活動パターン、或いは、それら活動パターンに基づく刺激のための位置パターンを蓄積していくことにより、本生体光双方向情報交換システムを様々な別のシステムに応用・展開することが可能である。例えば、蓄積した活動パターンテーブルに従って、特定のパターンで以て強度の異なる刺激を人為的に生体脳内の視覚野に加えることにより、弱視や視野一部欠損患者の視覚情報を補正、補強、補綴、増強することが可能である。
【0077】
図11は本発明に係る生体光双方向情報交換システムを用いた人工視覚システムの概念図である。この例では、被検体が或る物体Pを見たときに該被検体の脳内の視覚野に現れる神経活動の活動パターンを本システムを用いて取得する。そして、この活動パターンに基づいて刺激のための位置パターンを作成し、被検体の脳に装着したセンサ部を用いて視覚野に位置パターンに基づく刺激光を与える。この刺激を受けて脳内の特定の神経細胞が活性化され、このとき実際には被検体は物体Pを見ていないにも拘わらず物体Pを見たときと同じ視覚情報を得る。ここで、物体Pを見る被検体と刺激によって物体Pの視覚情報を脳が得る被検体とは必ずしも同一である必要はない。そこで、例えば物体Pを見る被検体をヒト以外の動物、刺激によって物体Pの視覚情報を脳が得る被検体をヒトとすれば、動物からの視覚情報を利用して視覚障害をもつヒトに視覚を与えることも可能である。もちろん、ヒトと動物とでは視覚野における神経回路網の構造が相違するが、本システムを利用することによりそうした相違の解析も可能であるから、その解析結果に基づいて動物で得た神経活動のパターンをヒト(特定の患者)の刺激用位置パターンに変換するアルゴリズムを求めることも可能である。
【0078】
さらに上記のような手法は視覚野に限らず、嗅覚、聴覚、味覚、触覚などの全ての感覚野と運動野に対して用いることができるし、リハビリなどにも応用が可能である。この場合、視覚野等の脳内の特定部位のみならず、視覚野と運動野など、複数の脳部位に装着したセンサ部において連動した刺激を与えることで、効果的にリハビリを行えるなど臨床的な効果が期待できる。また、単に既知の位置パターンで脳を刺激をするだけでなく、複数の神経活動パターン同士を比較検証してその差から、異常な神経回路を抑制する一方、正常な神経回路を刺激するなど、個々の患者に対して臨機応変により効果的な刺激を与えるようにすることができる。また、記憶メカニズム、トラウマ、情動といった心の活動など、高次脳機能全般に対して上記手法を適用することができる。さらにまた、本手法を発展させれば、被検体の生体脳から情報を取得し、該情報に基づいて外部の装置(例えばコンピュータ、ゲーム、車輌など)を制御することも可能である。
【0079】
[第3実施例]
次に、センサ部1の構造が第2実施例とは相違する別の実施例(第3実施例)による生体光双方向情報交換システム及びこのシステムの制御方法について、添付図面を参照して説明する。図8はこの第3実施例のセンサ部を生体脳に装着した状態の概略断面図である。
第2実施例におけるセンサ部の構造は、刺激光用微小LEDやフォトダイオードなどが基板上に平面的に配置されているため、フォトダイオードの開口率が小さくなる、チップ面積が大きくなる、A/D変換部などの機能をチップ上に搭載しにくい、といったデメリットがある。それに対し、この第3実施例におけるセンサ部は三次元構造を採ることにより、そうしたデメリットを解消したものである。
【0080】
図8に示すように、このセンサ部1は5層構造であり、生体脳(又は他の生体組織)100に密着する第1層は、赤色光及び赤外光を選択的に透過させる光学フィルタ51と、該光学フィルタ15に穿孔された導波路56中に配設された刺激光(青色)用干渉フィルタ57及び励起光(緑色)用干渉フィルタ58とからなる。その上の第2層には、第1層の導波路56に連続した導波路を除き、微小フォトダイオードが二次元的に配置された受光部52が設けられている。その上の第3層は面発光レーザ又は面発光LEDなどの発光層53である。このレーザ又はLEDの発光波長は青色成分と緑色成分とを含んでさえいればよい。なお、この第3層全体を1つの発光層53とした場合には、独立した発光制御が行えなくなるため、特定の位置パターンに従った刺激を与えるには、第1実施例のように、特定神経細胞にのみ光感受性タンパク質を導入する必要がある。そうした手間を省くには、第3層を面発光レーザ又は面発光LEDなどの発光層53とするのではなく、各導波路56に対応して個別のレーザ光源又はLEDを配置すればよい。この場合、青色、緑色といった特定波長のレーザ光源又はLEDを使用すれば、干渉フィルタ57、58は不要である。
【0081】
その上の第4層には、第2層に二次元配置された各フォトダイオードによる信号を読み出すためのスキャナなどの駆動回路やその信号をデジタル化するA/D変換部2などの回路を含む主回路部54が配設されている。さらに最上層には、例えば、外部のデータ処理部3や制御部4との間の信号のやり取りを無線で行うための送受信回路、各種回路に駆動電力を供給するべく外部から無線で供給される電磁波をアンテナを介して受けて電力を生成する電力供給回路、複数のセンサ部が同時に用いられる場合にその複数のセンサ部間で信号のやり取りを行う連携のための回路、さらには、冷却用のペルチエ素子などの付加機能部55が配置される。なお、第1層下にマイクロレンズアレイや二光子顕微鏡のような光学系を組み込むことにより、多光子励起を可能にするようにしてもよい。多光子励起の原理により、空間解像度を高め、所望の組織深内部対象に対してピンポイントで高精度に励起・蛍光観察することができるとともに光刺激を行うことができる。
【0082】
この第3実施例のセンサ部では、生体脳100に対して直接的に光を照射する要素、及び、生体脳100からの光を直接的に受けて光電変換する要素のみが生体脳100に接する計測面に存在している。このため、例えば受光部52の開口率を大きくすることができ、感度を高くすることができるとともに、フォトダイオード数(画素数)を増やして解像度を上げるのに有利である。具体的な構造としては、計測面において、1個のフォトダイオードに対応する光学フィルタ51と、刺激光用干渉フィルタ57が配設された1個の導波路56と、及び励起光用干渉フィルタ58が配設された別の1個の導波路56とを一組の解析単位とし、この解析単位を密に並べるように導波路56や受光部52などの位置や数を決めるようにするとよい。例えば、後述するようにヒトの視覚野の機能コラムを解析するためには、上記の解析単位の大きさをヒトの視覚野の機能コラム単位の大きさである200μm程度以下にするとよい。
【0083】
[第4実施例]
次に、センサ部1の構造が第2、第3実施例とは相違する別の実施例(第4実施例)による生体光双方向情報交換システム及びこのシステムの制御方法について、添付図面を参照して説明する。図9はこの第4実施例のセンサ部を生体脳に装着した状態の概略断面図である。
【0084】
この第4実施例におけるセンサ部の特徴は、上記各実施例では基板上に設けていた刺激光用及び励起光用のLEDの代わりに、刺激光及び励起光を光ファイバ64、65を用いて生体脳100に密着した計測面にまで導き、光ファイバ64、65の端面から出射させた光を直接的に生体脳100に当てている点である。光ファイバ64、65の端面から出射光が通過する導波路63の周囲には、光学フィルタ61が設けられたフォトダイオードである受光部62が二次元的に配置されている。この部分については、第2実施例とほぼ同じ構造である。
【0085】
各光ファイバ64、65は特に刺激光用、蛍光用と決まっているわけではなく、各光ファイバ64、65毎に異なる任意の波長の光を案内して照射することが可能である(ただし、図9では便宜的に励起光を案内する光ファイバを符号64で、刺激光を案内する光ファイバを符号65で示している。)このため、LEDやレーザ光源を用いる場合とは異なり、単純に位置が固定されている刺激光や励起光のオン/オフの切替えのみならず、計測面全体で刺激光又は励起光の一方を照射するなど、同一位置を除き刺激光、励起光をそれぞれ任意の位置パターンとして光を照射することができる。即ち、刺激光のパターンの自由度が大きく、より詳細な神経活動解析に有効である。
【0086】
[第5実施例]
次に、センサ部1の構造が第2〜第4実施例とは相違する別の実施例(第5実施例)による光双方向情報交換システム及びこのシステムの制御方法について、添付図面を参照して説明する。図10はこの第5実施例のセンサ部を生体脳に装着した状態の概略断面図である。
【0087】
上記実施例はいずれもセンサ部を生体脳などの生体組織表面に密着させる形態で計測を行うものである。こうした形態は生体組織の浸襲性を抑えるには有利であるものの、生体組織の深部(表面から遠い位置)における神経活動の観察には不利である。これに対し、図10に示した構成では、刺激光・励起光を照射する発光モジュール70とCMOSイメージセンサ75を搭載した受光モジュール74とを別体とし、特に発光モジュール70は基板71上に刺激光(青色)用、励起光(緑色)用の薄膜発光アレイ72、73を搭載した構成とすることによって薄型化を図っている。
【0088】
基本的な使用形態としては、薄膜発光アレイ72、73の発光面が脳表面側に指向するように発光モジュール70を生体脳100の内部に刺入し、その発光面と対向するように受光モジュール74を生体脳100の表面に装着する。そして、発光モジュール70の発光面から所定の位置パターンで刺激光を照射するとともに励起光を照射すると、刺激を受けた神経細胞から蛍光が発せられ、その蛍光強度を受光モジュール74のCMOSイメージセンサ75の受光部で検出する。この構成では、発光モジュール70、受光モジュール74のそれぞれほぼ全面を発光面及び受光面として利用することができるため、解像度が高い解析が可能となる。
【0089】
以下に、上述した本発明に係る生体光双方向情報交換システムを用いた生体情報計測及び生体情報交換の具体例をいくつか説明する。
【0090】
[具体例1]
本発明による生体光双方向情報交換システムでは、刺激光により神経細胞に刺激を与えることで該神経細胞を活性化し、それによって新しい神経回路の形成を促すことができる。例えば脳内の特定箇所の神経細胞群に対し刺激光により刺激を与えて神経活動を同期させる(つまり(神経発火の発生頻度とタイミングを合わせる)ことで神経回路網を新たに形成したり、既存の神経回路網における神経細胞同士の結合を増強させたりする。或いは逆に、刺激を与えることで特定箇所の神経細胞群の活動の同期を乱し、それにより既存の神経回路網を崩壊させたり既存の神経回路網における神経細胞同士の結合を弱めたりすることもできる。このような刺激による神経回路の制御手法は、例えば海馬において神経回路を増強させるよう働きかけることで或る種の痴呆を軽減したり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)におけるフラッシュバックを軽減したりするのに有益である。例えばフラッシュバックが通覚として生じる場合、患者の安静時にフラッシュバックが生じる瞬間に海馬と感覚野において同期性の活動が認められれば、これを抑制するように人為的刺激を与えればよい。
【0091】
[具体例2]
大脳皮質一次視覚野において、神経細胞は一定の集団として機能することが知られている。このような集団は機能コラムと呼ばれており、一次視覚野は複数の機能コラムで構成されている。また隣接するコラムの果たす役割は近似している。例えば図12(a)に示した方位選択性コラム200はそれぞれ或る特定の角度の物体を見たときにのみ反応する神経集団であり、隣接するコラム201は傾きがそれぞれ僅かに異なる物体に反応する。
【0092】
そこで、本発明による生体光双方向情報交換システムを用い、まず視覚野において神経活動を測定し、活動の同期している各機能コラム領域を特定する。この機能コラムには、上記の方位選択性コラムのほか、図12(b)に示すような眼優位性コラムがある。眼優位性コラムにおける皮質コラム202はそれぞれ片方の眼の受容野の一部を表現する。この測定に際しては、或る神経細胞を光刺激したときに、隣接する神経細胞の活動も測定する。周辺の神経細胞で同期する神経細胞があれば、同一機能コラムの神経細胞である可能性が高い。同一機能コラム内の神経細胞であれば、個々の神経細胞を全て区別して刺激する必要はなく、また機能コラム単位で刺激を加えることで刺激の密度と精度を下げても、目的とする視覚を得易いと想定される。
【0093】
また隣接するコラムの機能を推定した上でそれに応じた光刺激を与えることで、人為的な刺激パターンをより意味のある視覚として認識させ易くすることができる。例えば或るコラムの機能が水平方向の物体に対して活動するものである場合、隣接するコラムは水平から数度程度傾いた物体に対して活動するものと推測できるから、その推定に基づいて刺激パターンを作成したり修正したりすることができる。なお、視覚をもたらす刺激のための位置パターンは、基本的に上述した神経活動の測定結果に基づく推定作業で作成されるが、機能コラム構造や機能的な神経回路は個人毎に配置、構成、伝達経路などが異なるため、さらにサンプリングした多くの測定結果からシュミレーションした結果を反映させ、最終的には、患者との個別のインタビューの結果を用いることによりその精度を高めことが好ましい。
【0094】
前述の方法により、網膜側に障害のある患者や、神経の可塑性(神経同士の結合が容易に組み替わる性質)が保たれているとされる臨界期(ヒトでは6〜14歳程度)を過ぎた中途失明患者でも、視覚を再び獲得することが可能となる。また、視覚野のネットワークは生後環境要因により成熟するが、生まれながらにして全盲であって視覚野のネットワークの形成が未熟な患者であっても、或る程度の視覚情報を得ることができるようになる可能性がある。
【0095】
[具体例3]
神経変性疾患の一つであるパーキンソン病、及びパーキンソン症候群において生じる振戦麻痺は、主に中脳黒質緻密質のドーパミン分泌細胞の変性により線条体においてドーパミン不足となることで生じると考えられている。図13は詳細な神経伝達経路モデルであり、縦の中心線から左側は健常者、右側はパーキンソン患者のモデルを示す。
【0096】
黒質細胞(SN)が変性すると、黒質細胞から背側線条体の被殻(PUT)の興奮性ドーパミン様受容体発現細胞(D1)への刺激性の伝達(図中に実線で表記)と抑制性ドーパミン様受容体発現細胞(D2)への抑制性の伝達(図中に点線で表記)がともに弱くなる。このため、興奮性ドーパミン様受容体発現細胞の淡蒼球内節(GPi)への抑制が弱くなる一方、抑制性ドーパミン様受容体発現細胞の淡蒼球外節(GPe)への抑制が強くなり、これに伴って淡蒼球外節の視床下核(STN)への抑制が弱くなる一方、視床下核の淡蒼球内節への刺激が強くなる。その結果、淡蒼球内節の視床(THA)への抑制が強くなり、視床から大脳皮質の運動前野や補足運動野への刺激が弱くなる。以上がパーキンソ病のメカニズムである。
【0097】
現在パーキンソン患者の運動症状の治療を目的として、電極による脳深部刺激(DSB=deep brain stimulation)が行われている。例えば視床に直接的に刺激を行えば振戦症状に対しては効果が大きいものの、無動症状に対しては効果が少ないことが知られている。これは必ずしも症状が既存の神経ネットワーク経路のみで説明できるとは限らないことを意味する。このように神経ネットワーク経路が或る程度解明されつつあるが、未だ明瞭とは言えないことから、人為的な刺激に対する患者の応答のみならず、実際の神経活性経路を測定しながら患者それぞれの症状に最適化した刺激を行うことが有効であると考えられる。具体的には、本システムのセンサ部を脳内の線条体周辺に複数配置し、各神経径路における神経活動を測定し、また人為的に各神経径路の神経細胞を刺激すると同時にリアルタイムでその伝達経路を測定して追跡することで刺激の評価を行う。このような手法によれば、多数の電極を侵襲的に脳に刺入する方法に比べて、安全且つ効率的にリハビリテーションを行うことができ、患者への負担軽減を図ることができる。
【0098】
なお、上記記載の各実施例や具体例は一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜変形や修正を行っても、本願の特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0099】
1…センサ部
10、40、71…基板
11…刺激光用LED
12…励起光用LED
13…CMOSイメージセンサ
14、52、…受光部
15、45、51、61…光学フィルタ
2…A/D変換部
3…データ処理部
4…制御部
100…生体脳
41…刺激用LEDアレイ
42…励起光用LEDアレイ
44…フォトダイオードアレイ
53…発光層
54…主回路部
55…付加機能部
56…導波路
57…刺激光用干渉フィルタ
58…励起光用干渉フィルタ
64、65…光ファイバ
70…発光モジュール
72、73…薄膜発光アレイ
74…受光モジュール
75…CMOSイメージセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物の生体組織の活動を情報として収集する一方、情報としての光刺激を生体組織に与える生体光双方向情報交換システムにおいて、
a)前記生体組織に接するように生体内に埋植されたものであって、
a1)所定の光を受けて活性化又は不活性化する光感受性及び所定の光によって励起され電位に応じた光を発する電位感受性が導入された前記生体組織に存在する細胞の光感受性を刺激するための第1の波長を有する刺激光を前記生体組織に向けて出射する刺激光照射手段と、
a2)前記細胞の電位感受性による発光を励起するための、前記第1の波長とは異なる第2の波長を有する励起光を前記生体組織に向けて出射する励起光照射手段と、
a3)前記励起光の照射を受けて励起された細胞の電位感受性の作用によって放出される前記第1及び第2の波長とは異なる第3の波長の光を検出するための、受光素子を含む検出手段と、
を有する生体内光学的インターフェイス手段と、
b)前記検出手段で得られた検出信号に基づいて、前記刺激光照射手段から出射する刺激光の照射条件を決定する情報処理手段と、
c)該情報処理手段により決定された照射条件に従って前記刺激光照射手段を制御する刺激光制御手段と、
を備えることを特徴とする生体光双方向情報交換システム。
【請求項2】
請求項1に記載の生体光双方向情報交換システムであって、
前記情報処理手段は、前記検出手段で得られた検出信号に基づいて、前記生体組織中の細胞の活動状況を反映した画像を作成する画像生成手段を含むことを特徴とする生体光双方向情報交換システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の生体光双方向情報交換システムであって、
前記検出手段は二次元的に配列された複数の受光素子を含むことを特徴とする生体光双方向情報交換システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の生体光双方向情報交換システムであって、
前記情報処理手段は、前記検出信号に基づいて、特定の神経活動を惹起する又は抑制する刺激パターンを求め、前記刺激光制御手段は、該刺激パターンに従って前記刺激光照射手段を駆動して刺激光を照射することを特徴とする生体光双方向情報交換システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の光双方向情報交換システムであって、
前記生体内光学的インターフェイス手段は、前記刺激光照射手段、前記励起光照射手段、及び前記検出手段が同一計測面上に配置され一体化された集積部品であることを特徴とする生体光双方向情報交換システム。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の生体光双方向情報交換システムであって、
前記生体内光学的インターフェイス手段は、前記刺激光照射手段及び前記励起光照射手段を有する第1集積部品と、前記検出手段を有する第2集積部品とからなることを特徴とする生体光双方向情報交換システム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の生体光双方向情報交換システムであって、
前記生体内光学的インターフェイス手段は、前記刺激光照射手段及び前記励起光照射手段の光の出射を制御する制御信号と、前記検出手段で得られた検出信号とを無線で送受する送受信手段、をさらに備えることを特徴とする生体光双方向情報交換システム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の生体光双方向情報交換システムであって、
前記刺激光照射手段は、複数の発光部が二次元的に配置され、その各発光部が、前記検出手段の各受光素子又は隣接する複数の受光素子からなる受光素子群に対応付けられていることを特徴とする生体光双方向情報交換システム。
【請求項9】
請求項1に記載の光双方向情報交換システムの制御方法であって、
前記刺激光照射手段により刺激光を前記生体組織に向けて出射するステップと、
前記励起光照射手段により励起光を前記生体組織に向けて出射するステップと、
前記刺激光を受けて光感受性の作用により活性化又は不活性化された細胞の活動状況に応じて電位感受性を有する細胞が発する光の強度を前記検出手段により取得するステップと、
前記検出手段が取得した検出信号に基づいて、前記刺激光照射手段の出射する刺激光の照射条件を決定するステップと、
決定された照射条件に従って前記刺激光照射手段を制御するステップと、
を含むことを特徴とする生体光双方向情報交換システムの制御方法。
【請求項10】
請求項8に記載の光双方向情報交換システムの制御方法であって、
前記刺激光照射手段により刺激光を出射するステップと前記励起光照射手段により励起光を出射するステップとを同時に行うことを特徴とする生体光双方向情報交換システムの制御方法。
【請求項11】
請求項8又は9に記載の生体光双方向情報交換システムの制御方法であって、
前記検出手段が取得した検出信号に基づいて、前記生体組織中の細胞の活動状況を反映した画像を前記情報処理手段により作成して出力するステップを含むことを特徴とする生体光双方向情報交換システムの制御方法。
【請求項12】
請求項1に記載の生体光双方向情報交換システムを用い、外界と生物の生体組織との間で情報交換を行う生体光双方向情報交換方法であって、
生体組織に存在する細胞は、所定の光を受けて活性化又は不活性化する光感受性、及び所定の光によって励起され電位に応じた光を発する電位感受性が導入され、前記生体内光学的インターフェイス手段は前記生体組織に接するように埋植され、
前記刺激光照射手段により刺激光を出射するステップと、
前記励起光照射手段により励起光を出射するステップと、
前記刺激光を受けて光感受性の作用により活性化又は不活性化された細胞の活動状況に応じて電位感受性を有する細胞が発する光の強度を前記検出手段により取得するステップと、
前記検出手段が取得した検出信号に基づいて、前記刺激光照射手段の出射する刺激光の照射条件を決定するステップと、
決定された照射条件に従って前記刺激光照射手段を制御するステップと、
を含むことを特徴とする生体光双方向情報交換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−95803(P2012−95803A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245186(P2010−245186)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】