説明

生体内物質搬送システム

【課題】生体組織内に搬送する物質の種類および搬送条件を柔軟に変更可能である生体内物質搬送システムを提供すること。
【解決手段】本発明にかかる生体内物質搬送システムは、内部にルーメンを有し、物質を吐出する二つの吐出口2a,2bが側面に形成され、吐出口2a,2bが形成された部分が生体組織3内に位置し、両方の端部7,8が生体組織3外に位置する態様で配設されるカテーテル1と、カテーテル1の生体組織3外に位置する部分に取り付けられ、該取り付け部分においてルーメンを閉塞する閉塞部材15と、カテーテル1の少なくとも一端に連通した物質送出装置14と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体組織内に物質を搬送する生体内物質搬送システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、人間を含む哺乳動物の生体組織内に物質を搬送するものとして、たとえば、壁面に吐出口が設けられたチューブを患者の組織に縫いつけ、吐出口から活性物質を生体組織内に送達するものが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4129500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、物質の種類および投与条件(特に投与場所)が固定されており、患者の状況に応じて物質の種類や投与条件を柔軟に変更することができなかった。特に、腫瘍に薬剤を投与する場合、投与した薬剤が功を奏し腫瘍の形状が変化した場合に投薬の位置をずらしたい場合、あるいは、腫瘍の中心と周辺で薬効を違えたい場合などに対応できなかった。
【0005】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、生体組織内に搬送する物質の種類および搬送条件を柔軟に変更可能である生体内物質搬送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、生体組織内に物質を搬送する生体内物質搬送システムであって、内部に物質搬送路を有し、物質を吐出する吐出口が側面に少なくとも1つ形成され、前記吐出口が形成された部分が生体組織内に位置し、両端が生体組織外に位置する態様で配設されるカテーテルと、前記カテーテルの生体組織外に位置する部分に取り付けられ、該取り付け部分において前記物質搬送路を閉塞するカテーテル閉塞部材と、前記カテーテルの少なくとも一端に連通した物質送出装置と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記カテーテル閉塞部材は、前記物質搬送路が閉塞するように前記カテーテルを外部から押圧して変形させることを特徴とする。
【0008】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記カテーテルを前記生体組織に固定するアンカーをさらに備えたことを特徴とする。
【0009】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記吐出口は、複数形成され、前記カテーテルは、前記複数の吐出口の間に前記生体組織外に位置する部分がある態様で生体組織に配設され、前記カテーテル閉塞部材は、前記複数の吐出口の間であって前記生体組織外に位置する部分に取り付けられることを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記物質送出装置は、前記カテーテルの一端に対して連通および切り離しが自在であり、前記カテーテルの両端のうち所望の一端に物質送出装置が取り付けられることで、使用する前記吐出口が選択されることを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記カテーテル閉塞部材は、複数あり、前記カテーテル閉塞部材の前記カテーテルへの取付位置、および、使用する前記カテーテル閉塞部材の個数が選択されることで、使用する前記吐出口が選択されることを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記カテーテルの外表面のうち前記カテーテル閉塞部材の取付位置に対応する各部分には、前記取付位置であることを示すマークが付されていることを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記マークは、前記複数の吐出口のうち当該マークが付された部分を閉塞した場合に選択される前記吐出口を示すことを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記カテーテルは、前記カテーテル閉塞部材の取付位置に対応する部分の肉厚が、他の部分よりも薄いことを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記カテーテルは、生体組織内の患部を2回以上貫通するものであることを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記カテーテルが生体組織の患部を1回目に貫通する第1の貫通ルートと、2回目に貫通する第2の貫通ルートとは、それぞれ異なる仮想平面上に含まれることを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記吐出口は、前記生体組織内に前記カテーテルが導入されたときに患部中央部と患部周辺部とに対応する位置にそれぞれ配設されること特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記カテーテルの他の一端に取り付けられ、前記物質送出装置が送出する物質とは異なった物質を送出する第2の物質送出装置をさらに備えたことを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記第2の物質送出装置は、細胞に対して不活性な物質を送出することを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記第2の物質送出装置は、治療効果のある物質を送出するものであることを特徴とする。
【0021】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記カテーテルの他の一端に取り付けられ、前記物質送出装置が送出する物質と濃度が異なる同じ物質を送出する第2の物質送出装置をさらに備えたことを特徴とする。
【0022】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記物質送出装置は、リザーバとポンプとを備え、前記カテーテル閉塞部材は、電磁弁であり、前記ポンプ、前記リザーバおよび前記カテーテル閉塞部材の少なくとも1つと接続し、接続した前記ポンプ、前記リザーバまたは前記カテーテル閉塞部材を制御する制御手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0023】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、生体組織内に配設される構成部品と、生体組織外に配設される構成部品とを電気的または機械的に着脱可能なコネクタをさらに備え、前記制御手段は、前記コネクタを介して前記ポンプ、前記リザーバまたは前記カテーテル閉塞部材の少なくとも1つと接続することを特徴とする。
【0024】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、生体センサーをさらに備え、前記制御手段は、前記生体センサーの出力信号に基づいて前記ポンプ、前記リザーバおよび前記カテーテル閉塞部材を制御し、前記生体組織内への物質の搬送を制御することを特徴とする。
【0025】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記物質送出装置は、前記カテーテルの両端にそれぞれ接続され、前記制御手段は、各物質送出装置の送出動作および前記カテーテル閉塞部材の閉塞動作を制御して、物質搬送路を切り替えることを特徴とする。
【0026】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記カテーテルの吐出口周辺には血栓防止薬が配置されることを特徴とする。
【0027】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記カテーテルの外表面のうち前記吐出口周囲は、他の部分とは異なる表面形状を有することを特徴とする。
【0028】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記カテーテルの外表面のうち前記吐出口周囲には、該吐出口を示すマーカが設けられていることを特徴とする。
【0029】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記吐出口は、直径は50μm以上200μm以下であることを特徴とする。
【0030】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、生体組織内に物質を搬送する生体内物質搬送システムであって、内部に物質搬送路を有し、物質を吐出する吐出口が側面に少なくとも1つ形成され、前記吐出口が形成された部分が生体組織内に位置し、両端が生体組織外に位置する態様で配設されるカテーテルと、前記カテーテルの少なくとも一端に連通した物質送出装置と、を備え、前記カテーテルの生体組織外に位置する部分は、前記物質搬送路を閉塞可能である材料で形成されることを特徴とする。
【0031】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記カテーテルの生体組織外に位置する部分は、熱が加えられた場合に収縮する材料で形成されることを特徴とする。
【0032】
また、この発明にかかる生体内物質搬送システムは、上記の発明において、前記カテーテルの生体組織外に位置する部分は、電流が加えられた場合に変形する導電性材料で形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
この発明にかかる生体内物質搬送システムは、内部に物質搬送路を有し、物質を吐出する吐出口が側面に少なくとも1つ形成され、吐出口が形成された部分が生体組織内に位置し、両端が生体組織外に位置する態様で配設されるカテーテルと、カテーテルの生体組織外に位置する部分に取り付けられ、該取り付け部分において物質搬送路を閉塞するカテーテル閉塞部材と、カテーテルの少なくとも一端に連通した物質送出装置と、を備え、カテーテル閉塞部材の取付位置と、物質送出装置が送出する物質の種類とを選択することによって、生体組織内に搬送する物質の種類および搬送条件を柔軟に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、実施の形態1にかかる生体内物質搬送システムを示す模式図である。
【図2】図2は、実施の形態1にかかる生体内物質搬送システムの物質搬送処理を説明する模式図である。
【図3】図3は、実施の形態1にかかる生体内物質搬送システムの物質搬送処理を説明する模式図である。
【図4】図4は、図3に示すカテーテルおよび閉塞部材を軸方向に切断した断面図である。
【図5】図5は、実施の形態1にかかる生体内物質搬送システムの物質搬送処理を説明する模式図である。
【図6】図6は、実施の形態1にかかる生体内物質搬送システムの物質搬送処理を説明する模式図である。
【図7】図7は、実施の形態1にかかる生体内物質搬送システムの物質搬送処理を説明する模式図である。
【図8】図8は、実施の形態1にかかる生体内物質搬送システムの他の例を示す模式図である。
【図9】図9は、実施の形態1にかかる生体内物質搬送システムの他の例を示す模式図である。
【図10】図10は、実施の形態1にかかる生体内物質搬送システムの他の例を示す模式図である。
【図11】図11は、実施の形態1にかかる生体内物質搬送システムの他の例を示す模式図である。
【図12】図12は、図11に示す生体内物質搬送システムの物質搬送処理を説明する模式図である。
【図13】図13は、図11に示す生体内物質搬送システムの物質搬送処理を説明する模式図である。
【図14】図14は、実施の形態1にかかる生体内物質搬送システムの他の例を示す模式図である。
【図15】図15は、図14に示す生体内物質搬送システムの物質搬送処理を説明する模式図である。
【図16】図16は、図11に示すカテーテルの一部を示す図である。
【図17】図17は、実施の形態1にかかる生体内物質搬送システムの他の例を示す模式図である。
【図18】図18は、実施の形態1にかかる生体内物質搬送システムの他の例を示す模式図である。
【図19】図19は、図1に示すカテーテルの吐出口を含む一部を示す図である。
【図20】図20は、図1に示すカテーテルの吐出口を含む一部の他の例を示す図である。
【図21】図21は、図1に示すカテーテルの吐出口を含む一部の他の例を示す図である。
【図22】図22は、図1に示すカテーテルの吐出口を含む一部の他の例を示す図である。
【図23】図23は、図1に示すカテーテルの吐出口を含む一部の他の例を示す図である。
【図24】図24は、図8に示すカテーテルの取外しを説明する模式図である。
【図25】図25は、図4に示す閉塞部材の他の例を説明する断面図である。
【図26】図26は、図4に示す閉塞部材の他の例を説明する断面図である。
【図27】図27は、実施の形態2にかかる生体内物質搬送システムのブロック図である。
【図28】図28は、実施の形態3にかかる生体内物質搬送システムを示す模式図である。
【図29】図29は、図28に示すカテーテルの一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して、この発明を実施するための形態として、人間を含む哺乳動物の生体組織内に導入される生体内物質搬送システムについて説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付している。
【0036】
(実施の形態1)
まず、実施の形態1について説明する。図1は、本実施の形態1にかかる生体内物質搬送システムを示す模式図であり、実施の形態1にかかる生体内物質搬送システムを構成するカテーテルを生体組織に配設した様子の一例である。
【0037】
図1に示すように、カテーテル1は、内部に物質搬送路となる内腔(ルーメン)を有する細長いチューブ型をしている。カテーテル1は、例えば、シリコン、ポリウレタン、ポリエチレン等の柔軟な材料で形成される。カテーテル1は、耐食鋼等の硬質な材料で形成されてもよい。
【0038】
カテーテル1の側面には、物質搬送路となるルーメンと連通し、物質を吐出する二つの吐出口2a,2bが設けられている。生体内物質搬送システムが搬送し吐出口2a,2bから吐出させる物質として、たとえば、薬剤(例えば抗がん剤)、エタノールなどの細胞に作用をする物質、組織内照射用の微小線源、遺伝子、免疫担当細胞などの治療効果のある物質のほか、細胞に対して不活性な物質(生理食塩水、乳酸リンゲル液)、超音波装置との組み合わせによる癌治療効果が期待されるナノバブル水などがある。
【0039】
図1に示す例では、カテーテル1は、生体組織3の内部にある臓器4の腫瘍5に穿刺されている。カテーテル1は、吐出口2a,2bが形成された部分が生体組織3内に位置し、カテーテル1の両方の端部7,8がともに生体組織3外に位置する態様で、生体組織3に配設される。そして、カテーテル1は、二つの吐出口2a,2bの間に、生体組織3外に位置する部分がある態様で生体組織3に配設される。
【0040】
実施の形態1にかかる生体内物質搬送システムは、カテーテル1を生体組織3に対して固定するアンカー6をさらに備える。アンカー6は、たとえば、チタン、耐食鋼などの金属、ポリメタクリル酸エチル(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(シリコーン)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの高分子材料、または、アルミナ、チタニア、ジルコニア、カルシウムアルミネート(CaO−Al系)、アルミノシリケート(NaO−Al−SiO系)等のセラミック材料など、生体適合性に優れた材料で形成される。また臓器4を傷つけたり、不要に高い圧力で臓器4に接したりしないよう、エッジ部を持たない、たとえば球形状などであることが好適である。このようにアンカー6を備えることで、カテーテル1が安定して生体組織3に固定される。なお、血栓の形成を予防し円滑に投薬が継続できるようにカテーテル1の吐出口2a,2b周辺に血栓防止薬、例えばヘパリン、ウロキナーゼなどを配置してもよい。
【0041】
図1に示す例では、カテーテル1の側面には、吐出口2a,2bの二つの吐出口が形成されている。そして、カテーテル1は、二つの吐出口2a,2bの間に、生体組織3外に位置する部分がある態様で生体組織3に配設される。カテーテルは生体組織への穿刺によるダメージを少なくするため、2Fr〜3Fr(0.7〜1mm)程度以下の細い外形を有することが望ましい。一方、吐出口は組織内においても安定した薬液の送出を可能とし、かつ、カテーテル設置手技の際あるいは留置時の外力に対し十分な強度を維持可能な径である必要がある。具体的には50μm以上200μm以下程度が好ましい。
【0042】
そして、図1に示す状態では、生体組織3にカテーテル1内部には空気が残っている。この状態からカテーテルの一端を閉塞させ、他方から薬剤を送出し始めると、吐出口からはまずカテーテル内の空気が患部に排出される。カテーテル長が長く、多量の空気が細胞内に送出されることは必ずしも好ましい状態でない。そこで、薬剤投入の前にカテーテル内の空気を除去することが望ましい。このため、このカテーテル1内部の空気を取り除く処理について、図2を参照して説明する。
【0043】
図2に示すように、カテーテル1の一方の端部7に、カテーテル1のルーメンに物質を送出する物質送出装置12を取り付ける。物質送出装置12は、不活性物質リザーバ11と、ポンプ10とを有する。不活性物質リザーバ11は、不活性物質を収容する。ポンプ10は、不活性物質リザーバ11の不活性物質をルーメン内に送出して、他方の端部8からルーメン内の空気を取り除く。この物質送出装置12は、カテーテル1の端部7,8のいずれに対しても連通および切り離しが自在である。
【0044】
不活性物質リザーバ11は、不活性物質として、たとえば生理食塩水や乳酸リンゲル液などを収容する。これらの不活性物質が物質送出装置12から送り出されて、カテーテル1内部のルーメンを前進することで、ルーメン内の空気が押し出され、カテーテル1の他方の端部8の先端から矢印のように排出される。カテーテル1のルーメンから空気が取り除かれると、空気に代わって不活性物質がカテーテル1の他方の端部8の先端から排出される。この端部8からの不活性物質の排出状態で、カテーテル1内部の空気の排出が完了したことを判断できる。
【0045】
次に、図3を参照して、図2に示すカテーテル1内にある不活性物質を取り除く処理を説明する。カテーテルの第1の端部7からは、図2で使用した物質送出装置12が取り外される。そして、他方の端部8に物質送出装置14を連通させる。物質送出装置14は、薬剤の収容された薬剤リザーバ13とポンプ10とを有し、カテーテル1の端部7,8のいずれに対しても連通および切り離しが自在である。
【0046】
ポンプ10が薬剤リザーバ13の薬剤をカテーテル1のルーメンに送出する。この結果、この薬剤でカテーテル1のルーメン内にある生理食塩水などの不活性物質が押し出され、カテーテル1の端部7先端から排出される。カテーテル1のルーメン内部から不活性物質が取り除かれると、不活性物質に代わって薬剤がカテーテル1の端部7の先端から排出される。この端部7からの薬剤の排出状態で、カテーテル1内部の不活性物質の排出が完了したことを判断できる。
【0047】
不活性物質の排出が完了した後に、カテーテル1の生体組織3外に位置する部分のうち端部7近辺において、カテーテル1外部から閉塞部材15を取り付けて、取付部分のカテーテル1のルーメンを閉塞する。閉塞部材15は、たとえば、カテーテル1の断面図である図4(1)の矢印のように外部から押圧された場合に、図4(2)に示すように押圧に応じてカテーテル1を押し潰すように変形し、この変形状態を保持することでカテーテル1のルーメン9を閉塞する略管状部材である。閉塞部材15は、押圧に応じて変形し、その変形状態を保持できる材料で形成されている。また、閉塞部材15を構成する略管状部材は、カテーテル1の生体組織3外に位置する部分にカテーテル1の生体組織への配設後に取り付けられるほか、予めカテーテル1の生体組織3外に位置する部分に取り付けられていてもよい。このように、閉塞部材15は、カテーテル1のルーメン9が閉塞するように、カテーテル1を外部から押圧して変形させる。
【0048】
また、図4(1)に示すように、カテーテル1の閉塞部材15が取り付けられる領域S1は、閉塞部材15によるルーメン9の閉塞を確実化するため、カテーテル1の肉厚は、他の領域と比べて薄くなっている。具体的には、カテーテル1の外表面のうち閉塞部材15が取り付けられる領域S1に窪みを設けて、領域S1の肉厚を他の領域よりも薄くする。そして、この領域S1の窪み部分の角151によって、取り付けられた閉塞部材15の軸方向へのずれも防止できる。
【0049】
端部7近辺で閉塞部材15によってカテーテル1のルーメンが閉塞されると、ルーメン内の圧力が高まり、吐出口2a,2bの双方から薬剤が吐出される。このような薬剤として、臓器4の中の腫瘍5を治療する場合には抗がん剤が投与される。ここでカテーテル内の空気抜きのために薬剤を用いず不活性物質を用いるのは、臓器に対するカテーテルの設置手技の課程においてカテーテルに傷がつくなどして、意図しない位置から送達物質が体内に漏洩しないかを生体に対して安全な不活性物質を用いて確認するためである。したがって、投与する薬剤が正常細胞に対して悪影響を与えないものであるならば、カテーテル内の空気抜きを薬剤で実施してもよい。
【0050】
そして、たとえば図5に示すように、薬効によって臓器4の中の腫瘍5が縮小した場合には、腫瘍5外の吐出口2bの使用を停止する必要がある。この場合、図5に示すように、カテーテル1の吐出口2a,2bの間であって生体組織3外に位置する位置P1にさらに閉塞部材15を取り付ける。この結果、位置P1で、物質送出装置14と連通するカテーテル1のルーメンは閉塞し、位置P1より端部7側には薬剤の送出圧力は印加されなくなり、吐出口2bからの薬剤の吐出は停止する。位置P1より端部8側の吐出口2aからは、端部8に物質送出装置14が連通したままであるため、薬剤の吐出は継続され、腫瘍5の縮小に合わせた薬剤投与を行うことができる。なお、吐出口2bのみから薬剤を吐出させたい場合には、位置P1に閉塞部材15を取り付け、端部8から切り離した物質送出装置14を吐出口2b側の端部7に連通させ、物質送出装置14のポンプ10を稼動させればよい。この場合、端部8には閉塞部材を取り付けることが望ましい。このように、閉塞部材15を、複数の吐出口2a,2bの間であって生体組織3外に位置する部分に取り付け、さらに、カテーテル1の両端のうち所望の一端に物質送出装置14が取り付けられることで、使用する吐出口が選択される。
【0051】
以上より、実施の形態1におけるカテーテル1においては、物質送出装置14が連通された端部から閉塞部材15による閉塞位置までにある吐出口のみが薬剤を吐出する吐出口として機能する。このため、本実施の形態1では、物質送出装置14を取り付けるカテーテル1の端部7,8、閉塞部材15の個数および閉塞部材15の取付位置を選択することによって薬剤を吐出させる吐出口を選択することができ、腫瘍の形状が変化した場合にも投薬の位置をずらすなど、患者の状況に応じて物質の搬送条件を柔軟に変更可能である。
【0052】
また、実施の形態1では、二つの吐出口2a,2bからそれぞれ異なる物質を吐出させることも可能である。図6に示すように、位置P1に閉塞部材15を取り付け、カテーテル1のルーメンを吐出口2a側と吐出口2b側とに二分し、吐出口2aから吐出させたい物質を保持する物質送出装置を吐出口2a側の端部8に連通させ、吐出口2bから吐出させたい物質を保持する物質送出装置を吐出口2b側の端部7に連通させて、各物質送出装置のポンプ10を稼動させればよい。
【0053】
吐出口2aから薬剤を吐出させる場合には、図6に示すように、カテーテル1の端部8に、吐出対象の薬剤を収容する物質送出装置12を連通させる。そして、吐出口2bから不活性物質を吐出させる場合には、カテーテル1の端部7に、吐出対象の不活性物質を収容する不活性物質リザーバ11を有する物質送出装置12を連通させる。この状態で各物質送出装置12,14のポンプ10を稼動させることによって、吐出口2aからは薬剤が吐出され、吐出口2bからは不活性物質が吐出される。
【0054】
ここで、図6のように不活性物質を吐出口2bから投与することで、吐出口2aから吐出された薬剤が、吐出口2bが位置する領域に侵入するのを妨止することができる。抗がん剤は、正常な細胞に対しても毒性を示すことから、たとえば、吐出口2aを腫瘍の中心部に配置し、吐出口2bを腫瘍周辺に配置し、上述のごとく不活性物質を吐出口2bから吐出し薬剤を吐出口2aからそれぞれ吐出することで、腫瘍中心では薬剤濃度を高く、腫瘍周辺部では薬剤濃度を低く投与してもよい。すなわち、腫瘍部に対してのみ薬効を高くでき、周辺の正常部における副作用を低減することができる。
【0055】
もちろん、実施の形態1では、吐出口2aと吐出口2bの双方からそれぞれ異なる薬剤を吐出させて、吐出口近辺の領域の疾患に、より適合した薬剤を投与してもよい。図7に示すように、位置P1に閉塞部材15を取り付け、カテーテル1のルーメンを吐出口2a側と吐出口2b側とに二分し、吐出口2aから吐出させたい薬剤を保持する物質送出装置14を吐出口2a側の端部8に連通させ、吐出口2bから吐出させたい物質を保持する薬剤を保持する薬剤リザーバ13bを備えた物質送出装置14bを吐出口2b側の端部7に連通させて、各物質送出装置のポンプ10を稼動させればよい。この結果、吐出口2a,2bからはそれぞれ異なる所望の薬剤を吐出できる。なお、吐出口2a,2bから吐出させる各薬剤は、異なる種類の薬剤でもよく、同一種類の薬剤で濃度が異なる薬剤でもよい。
【0056】
このように、本実施の形態1では、閉塞部材15の個数および閉塞部材15の取付位置を選択するとともに、カテーテル1の端部7,8に取り付ける薬剤送出装置が保持する薬剤の種類を選択することによって、薬剤を吐出させる吐出口を選択することができ、腫瘍の中心と周辺で投薬する薬剤を変えて薬効を違えるなど、患者の状況に応じて生体組織3内に搬送する物質の種類を柔軟に変更可能である。
【0057】
なお、本実施の形態1におけるカテーテルとして、吐出口が二つ形成されたカテーテル1を例に、吐出口のある部分を生体組織3内に位置し、両端と両吐出口の間の1部分が生体組織3外に位置するような態様でカテーテル1を配設した場合について説明したが、あくまで一例であり、その他様々なレイアウトが可能である。
【0058】
たとえば、図8に示すように、1つの吐出口2aを有するカテーテル1aを用い、生体組織3内に吐出口2aが位置するようにカテーテル1aを配設し、一方の端部8に物質送出装置14を連通させ、他方の端部7には閉塞部材15を取り付ける。この場合には、物質送出装置14のポンプ10の稼動によって、薬剤リザーバ13が収容する薬剤が吐出口2aから吐出される。
【0059】
また、図9に示すように、3つの吐出口2a〜2cを有するカテーテル1bを用いてもよい。この場合、生体組織3内に吐出口2a〜2cが位置し、生体組織3外に吐出口2a,2cの間の部分が位置するようにカテーテル1bを配設する。そして、一方の端部7に物質送出装置12を連通させる。他方の端部8には物質送出装置14を連通させる。さらに、吐出口2a,2cの間であって生体組織3外に位置する位置P3に閉塞部材15を取り付け、カテーテル1bのルーメンを吐出口2a側と吐出口2b,2c側とに二分する。この状態で、各物質送出装置12,14のポンプ10を稼動させることによって、吐出口2aから薬剤リザーバ13内の薬剤を吐出でき、吐出口2b,2cから不活性物質リザーバ11内の不活性物質を吐出できる。
【0060】
また、図10に示すように、5つの吐出口2a〜2eを有するカテーテル1cを用いてもよい。この場合、生体組織3内に吐出口2a〜2eが位置し、生体組織3外に吐出口2a,2cの間の部分が位置するようにカテーテル1cを配設する。そして、一方の端部7に物質送出装置12を連通させる。他方の端部8には物質送出装置14を連通させる。さらに、吐出口2a,2cの間であって生体組織3外に位置する位置P4に閉塞部材15を取り付け、カテーテル1cのルーメンを吐出口2a,2d,2e側と吐出口2b,2c側とに二分する。この状態で、各物質送出装置12,14のポンプ10を稼動させることによって、吐出口2a,2d,2eから薬剤リザーバ13内の薬剤を吐出でき、吐出口2b,2cから不活性物質リザーバ11内の不活性物質を吐出できる。
【0061】
もちろん、本実施の形態1におけるカテーテルは、生体組織3内の患部を2回以上貫通するものであってもよい。図11に示すように、3つの吐出口2a,2b,2eが離れて形成されたカテーテル1dを、生体組織3内の患部を2回以上貫通し、生体組織3外に吐出口の間の2箇所の部分が位置するように配設してもよい。図11に示す例では、吐出口2b,2eの間、および、吐出口2a,2eの間の2箇所の部分が生体組織3外に位置するようにカテーテル1cを配設する。この場合には、生体組織3外に位置する2箇所のいずれかを選択して閉塞部材15を取り付けることによって、吐出口2a,2b,2eから吐出する薬剤の切り替えが可能である。
【0062】
具体的に、図11〜図13を参照して、同一のカテーテル配設レイアウトにおいて、閉塞部材15の取り付け位置によって、吐出口から出る物質の種類を変える場合について説明する。なお、図11に示すようにカテーテル1dを配設した場合には、吐出位置を広く分布させることができ、吐出口の選択および切替で患部の領域ごとに吐出内容を変更する場合に有利となる。このように、腫瘍5中央部と腫瘍5周辺部にそれぞれ吐出口2a,2b,2eが位置するようにカテーテル1dを設計するとよい。
【0063】
まず、カテーテル1dの一方の端部7に物質送出装置12を連通させ、他方の端部8には物質送出装置14を連通させる。さらに、カテーテル1dの吐出口2b,2eの間であって生体組織3外に位置する位置P7に閉塞部材15を取り付ける。この結果、カテーテル1dのルーメンを吐出口2b側と吐出口2a,2e側とに二分できる。この状態で、各物質送出装置12,14のポンプ10を稼動させた場合には、吐出口2bから不活性物質リザーバ11内の不活性物質を吐出でき、吐出口2a,2eから薬剤リザーバ13内の薬剤を吐出できる。
【0064】
他には、図12に示すように、カテーテルが生体組織の患部を1回目に貫通する第1の貫通ルートと、2回目に貫通する第2の貫通ルートとは、それぞれ異なる仮想平面上に含まれる吐出口2a,2eの間であって生体組織3外に位置する位置P8に閉塞部材15を取り付けることができる。この結果、カテーテル1dのルーメンを吐出口2b,2e側と吐出口2a側とに二分できる。この状態で、各物質送出装置12,14のポンプ10を稼動させた場合には、吐出口2b,2eから不活性物質リザーバ11内の不活性物質を吐出でき、吐出口2aから薬剤リザーバ13内の薬剤を吐出できる。
【0065】
さらに、図13に示すように、図12に示す状態から、さらに位置P7に閉塞部材15を取り付ける。この結果、吐出口2bと吐出口2eとの間が閉塞部材15によって遮断され薬剤が搬送されないため、吐出口2eからの薬剤の吐出を停止できる。
【0066】
また、図14に示すように、5つの吐出口2a〜2eが形成されたカテーテル1eを、生体組織3内の患部を2回以上貫通し、2箇所の生体組織3外に吐出口の間が位置するように配設した場合も同様に閉塞部材15の取り付け方によって吐出口から2a〜2eから吐出できる薬剤を選択可能である。
【0067】
まず、カテーテル1eの一方の端部7に物質送出装置12を連通させ、他方の端部8には物質送出装置14を連通させる。さらに、吐出口2c,2eの間であって生体組織3外に位置する位置P9に閉塞部材15を取り付ける。この結果、カテーテル1eのルーメンを吐出口2b,2c側と吐出口2a,2d,2e側とに二分できる。この状態で、各物質送出装置12,14のポンプ10を稼動させた場合には、吐出口2b,2cから不活性物質リザーバ11内の不活性物質を吐出でき、吐出口2a,2d,2eから薬剤リザーバ13内の薬剤を吐出できる。これに対し、図14に示す吐出口2a,2eの間であって生体組織3外に位置する位置P10のみに閉塞部材15を取り付けた場合には、カテーテル1eのルーメンを吐出口2a,2d側と吐出口2b,2c,2e側とに二分できるため、この状態で、各物質送出装置12,14のポンプ10を稼動させた場合には、吐出口2b,2c,2eから不活性物質リザーバ11内の不活性物質を吐出でき、吐出口2a,2dから薬剤リザーバ13内の薬剤を吐出できる。
【0068】
そして、図15に示すように、図14に示す状態から、さらに位置P10に閉塞部材15を取り付けた場合には、吐出口2aと吐出口2eとの間が閉塞部材15によって遮断され薬剤が搬送されないため、吐出口2eからの薬剤の吐出を停止できる。
【0069】
そして、本実施の形態1におけるカテーテルの外表面のうち閉塞部材15の取付位置に対応する各部分には、取付位置であることを示すマークが付されている。たとえば、カテーテル1dには、図16(1)に示すように、位置P7には1本のライン状のマークM1が付されており、図16(2)に示すように、位置P8にはマークM1とは異なる2本のライン状のマークM2が付されている。このように閉塞部材15の各取付位置に対応してマークを変えた場合には、各取付位置のマークの種類と、このマークが付された部分に閉塞部材を取り付けて閉塞した場合に選択される吐出口とを対応付けた対応表を用意しておく。物質搬送システムの操作者は、この対応表を確認しながら使用したい吐出口に対応するマークが付された部分を閉塞部材の取付位置として選択することによって、使用したい吐出口を正確に選択できる。したがって、マークは、複数の吐出口のうち当該マークが付された部分を閉塞した場合に選択される吐出口を示すものであるといえる。
【0070】
また、図17に示すように、カテーテル1fが生体組織3の腫瘍5を1回目に貫通するルートがX−Y平面と平行な平面PL1を通るものであり、2回目に貫通するルートが平面PL1とは異なる平面PL2上を通るものとする。すなわち、カテーテル1fが生体組織3の腫瘍5を1回目に貫通する第1の貫通ルートと、2回目に貫通する第2の貫通ルートとは、それぞれ異なる仮想平面上に含まれるようにする。このように1回目の貫通ルートと2回目の貫通ルートを設定した場合には、吐出位置を3次元的に広く分布させることが可能になる。
【0071】
また、本実施の形態1では、閉塞部材15をカテーテルの生体組織3外に位置する部分に取り付けた場合を例に説明したが、もちろん図18に示すように、カテーテル1eの生体組織3内に位置する位置P11に閉塞部材15aを取り付けてもよい。この場合、閉塞部材15aは、生体適合性に優れた材料で形成される。
【0072】
さらに、たとえば、図19に示すように、カテーテル1の吐出口2aの周囲に別部材のキャピラリ17を挿入して該吐出口2aを示すマーカとすることによって、カテーテル1を配設するときに吐出位置を設置者が明瞭に認識できるようにするほか、カテーテルの配設後に外部モーダルの画像上で吐出口を認識できるようにしてもよい。これに限らず、カテーテルの外表面のうち吐出口周囲が他の部分とは異なる表面形状を有するようにしてもよい。たとえば、図20に示すように、カテーテル1の外表面のうち吐出口2a周囲の領域S2を梨地加工してもよく、また、図21に示すようにカテーテル1の外表面のうち吐出口2a周囲の領域S2をディンプル加工してもよい。そして、図22に示すように、カテーテル1の外表面のうち吐出口2a周囲の領域S2に他の部分とは異なる色を付してもよい。また、図23に示すように、カテーテル1の外表面のうち吐出口2a周囲の領域S2にライン状のマーカM3,M4を付してもよい。さらに、図23のマーカM3,M4のように、ラインの本数をカテーテル1の向きに合わせて代えることによって、カテーテル1の方向性を認識できるようにしてもよい。
【0073】
そして、図24を参照して、薬剤投与終了のためにカテーテル1aを生体組織3から抜き出す処理について説明する。まず、図24(1)に示すように、使用している閉塞部材15と物質送出装置14をカテーテル1aの端部7,8からそれぞれ切り離す。
【0074】
次いで、図24(2)に示すように、不活性物質が収容された不活性物質リザーバ11を有する物質送出装置12をカテーテル1aの端部のいずれか(図24(2)においてはたとえば端部7)に連通する。その状態で、物質送出装置12のポンプ10を稼動させ、不活性物質リザーバ11から不活性物質を送出し、カテーテル1a内のルーメンを不活性物質で満たす。この場合、他端8から不活性物質が流出したことを確認できた場合には、カテーテル1a内のルーメンが不活性物質で満たされたものと判断できる。
【0075】
そして、図24(3)に示すように、取外し装置16を用いて、アンカー6が固定されている部分ごとカテーテル1aを切り取ることによってカテーテル1aのアンカー6を生体組織3から取り外す。取外し装置16として、医療用鋏を用いて機械的にカテーテル1aを切断するほか、カテーテル1aの切断部分に熱を加えてカテーテル1aを切断してもよい。その後、図24(4)に示すようにカテーテル1a内の不活性物質を流出させてから、図24(5)に示すように、残りのカテーテル1aを抜き出す。
【0076】
本実施の形態1におけるカテーテル1は、両方の端部7,8が生体組織3外に出ているので、緊急時には、この端部7,8のいずれかに薬剤送出装置12を連通させて薬剤送出装置12のポンプ10を稼動させることによって、カテーテル1のルーメン内を不活性物質で満たすことができる。カテーテルを緊急に抜き出す場合にも、薬剤送出装置12をカテーテル1の端部7,8のいずれかに連通させてカテーテル1のルーメン内を不活性物質で満たすことによって、カテーテル1から薬剤が漏出して正常な生体組織3に薬剤が付着するのを防止しながら抜き出し作業を行うことができる。上述のデバイス撤去手技は、デバイス埋設後の初期の状態でアンカーのコラーゲン線維性結合組織による被包化(カプセル化)が著しくない状態であれば、例えば腹腔鏡のような装置を用いて開腹することなく実施することができ、患者の負担を著しく軽減することができる。
【0077】
なお、本実施の形態1においては、図4に例示した略管状の閉塞部材15を例に説明したが、もちろんこれに限らない。たとえば、図25に示すように、バネ152を縮めながら押圧部154と基部155との間にカテーテル1が挟みこまれた後、基部153と押圧部154とにそれぞれ接続するバネ152の伸張によって押圧部154がカテーテル1を外部から押して変形させる閉塞部材15cでもよい。また、図26に示すように、ネジ穴を有する基部157と基部159との間にカテーテル1を挟みこんだ後、ネジ部材156を回し入れてカテーテル1を外部から押して変形させる閉塞部材15dでもよい。
【0078】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2では、搬送に関与する構成部材に接続する制御装置によって生体組織内への物質の搬送を制御する生体内物質搬送システムについて説明する。
【0079】
図27は、実施の形態2にかかる生体内物質搬送システムのブロック図である。図27に示すように、実施の形態2にかかる生体内物質搬送システムは、カテーテル1eの生体組織3外に位置P9,P10に、閉塞部材として、外部からの制御によってカテーテル1e内のルーメンの閉塞状態と開通状態とを電気機械的に切り替える電磁弁25a,25bを備える。
【0080】
実施の形態2にかかる生体内物質搬送システムは、生体組織3内に設置される生体センサー22をさらに備える。この生体センサー22は、例えば、体温、脈拍、血糖値等の生体情報を検知するものである。
【0081】
また、実施の形態2にかかる生体内物質搬送システムは、生体組織3外に位置する制御装置30を備える。制御装置30は、電磁弁25a,25b,物質送出装置12,14の各ポンプ10,不活性物質リザーバ11,薬剤リザーバ13にそれぞれ接続し、接続した電磁弁25a,25b,各ポンプ10,不活性物質リザーバ11,薬剤リザーバ13を制御する。制御装置は、生体センサー22の出力信号に基づいてポンプ、電磁弁25a,25b,各ポンプ10,不活性物質リザーバ11,薬剤リザーバ13を制御して、生体組織3内への物質の搬送を制御する。
【0082】
また、実施の形態2にかかる生体内物質搬送システムは、生体組織3内に配設される構成部品と、生体組織外に配設される構成部品とを電気的または機械的に着脱可能なコネクタ21をさらに備える。電磁弁25a,25b,各ポンプ10,不活性物質リザーバ11,薬剤リザーバ13は、接続線26a〜26gによってコネクタ21に接続する。制御装置30は、接続線36を介してコネクタ21と接続し、コネクタ21を介して電磁弁25a,25b,各ポンプ10,不活性物質リザーバ11,薬剤リザーバ13と接続する。
【0083】
物質送出装置12,14は、カテーテル1eの両方の端部7,8にそれぞれ接続されており、制御装置30は、各物質送出装置12,14の物質送出動作および電磁弁25a,25bの閉塞動作を制御して、物質搬送路を切り替える。
【0084】
制御装置30は、制御装置30の構成部および電磁弁25a,25b,各ポンプ10,不活性物質リザーバ11,薬剤リザーバ13を制御する制御部31と、外部からの指示を受け付け入力する入力部32と、第1の薬剤と第2の薬剤との組み合わせごとに薬剤吐出量と薬剤吐出開始時間、薬剤吐出終了時間とが対応付けられた複数の物質吐出パターンや物質吐出プログラムなどを記憶する記憶部33と、制御装置30の薬剤などの物質搬送制御に関する情報を出力する出力部34と、時間を計測する計時部35とを備える。
【0085】
制御部31は、入力部32から入力された物質吐出に対する指示情報をもとに、指示情報に対応する物質吐出プログラムを記憶部33から読み出す。そして、制御部31は、読み出した物質吐出プログラムをもとに、計時部35の計時情報を用いて、電磁弁25a,25b,各ポンプ10,不活性物質リザーバ11,薬剤リザーバ13を制御し、指示された所定の順序で物質の吐出を行う。この場合、制御部31は、生体センサー22によって生体内の情報を検知し、この検知結果に基づいて物質の吐出シークエンスを動的に変更してもよい。
【0086】
このように、電磁弁25a,25b,各ポンプ10,不活性物質リザーバ11,薬剤リザーバ13と接続した生体組織3外部の制御装置30を用いて、物質搬送処理を自動的に制御してもよい。
【0087】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3について説明する。図28は、本実施の形態3にかかる生体内物質搬送システムを示す模式図であり、実施の形態3にかかる生体内物質搬送システムを構成するカテーテルを生体組織に配設した様子の一例である。
【0088】
図28に示すように、実施の形態3にかかるカテーテル201は、内部に物質搬送路となるルーメンを有する細長いチューブ型をしており、側面には、物質搬送路となるルーメンと連通して物質を吐出する一以上の吐出口2a,2bが設けられている。カテーテル201は、実施の形態1,2と同様に、吐出口2a,2bが形成された部分が生体組織3内に位置し、カテーテル201の両方の端部7,8がともに生体組織3外に位置する態様で、生体組織3に配設される。カテーテル201の端部7,8の少なくとも一方には、実施の形態1,2と同様に、物質送出装置12あるいは物質送出装置14が連通および切り離し自在に接続される。さらに、カテーテル201のうち吐出口2a,2bの間であって生体組織3外に位置する領域S3は、カテーテル201のルーメンを閉塞可能である材料で形成される。たとえば、図29に示すように、カテーテル201の領域S3は、熱が加えられた場合に収縮する材料201aで形成される。なお、カテーテル201の領域S3以外の部分は、実施の形態1,2と同様に、例えば、シリコン、ポリウレタン、ポリエチレン等の柔軟な材料201bで形成される。
【0089】
したがって、本実施の形態3においては、カテーテル201を生体組織3に配設した後に、カテーテル201の領域S3の部分に熱を加えてカテーテル201のルーメンを領域S3で閉塞してカテーテル201のルーメンを吐出口2a側と吐出口2b側とに二分することができる。
【0090】
もちろん、カテーテル201の生体組織外に位置する領域S3を、電流が加えられた場合にカテーテル201のルーメンを閉塞するように変形する形状記憶性の導電性材料で形成してもよい。さらに、カテーテル201の領域S3を、外部から与える電流の向きに応じて、カテーテル201のルーメンを閉塞するように変形するか、または、閉塞していたカテーテル201のルーメンを開通するように変形する導電性材料で形成し、与える電流の向きを調整することによって、カテーテル201の閉塞または開通を選択できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1,1a〜1f,201 カテーテル
2a〜2e 吐出口
3 生体組織
4 臓器
5 腫瘍
6 アンカー
7,8 端部
10 ポンプ
11 不活性物質リザーバ
12,14,14b 物質送出装置
13,13b 薬剤リザーバ
15,15a,15c,15d 閉塞部材
16 取外し装置
17 キャピラリ
21 コネクタ
22 生体センサー
25a,25b 電磁弁
26a〜26g,36 接続線
30 制御装置
31 制御部
32 入力部
33 記憶部
34 出力部
35 計時部
152 バネ
153,155,157,159 基部
154 押圧部
156 ネジ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織内に物質を搬送する生体内物質搬送システムであって、
内部に物質搬送路を有し、物質を吐出する吐出口が側面に少なくとも1つ形成され、前記吐出口が形成された部分が生体組織内に位置し、両端が生体組織外に位置する態様で配設されるカテーテルと、
前記カテーテルの生体組織外に位置する部分に取り付けられ、該取り付け部分において前記物質搬送路を閉塞するカテーテル閉塞部材と、
前記カテーテルの少なくとも一端に連通した物質送出装置と、
を備えたことを特徴とする生体内物質搬送システム。
【請求項2】
前記カテーテル閉塞部材は、前記物質搬送路が閉塞するように前記カテーテルを外部から押圧して変形させることを特徴とする請求項1に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項3】
前記カテーテルを前記生体組織に固定するアンカーをさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項4】
前記吐出口は、複数形成され、
前記カテーテルは、前記複数の吐出口の間に前記生体組織外に位置する部分がある態様で生体組織に配設され、
前記カテーテル閉塞部材は、前記複数の吐出口の間であって前記生体組織外に位置する部分に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項5】
前記物質送出装置は、前記カテーテルの一端に対して連通および切り離しが自在であり、
前記カテーテルの両端のうち所望の一端に物質送出装置が取り付けられることで、使用する前記吐出口が選択されることを特徴とする請求項4に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項6】
前記カテーテル閉塞部材は、複数あり、
前記カテーテル閉塞部材の前記カテーテルへの取付位置、および、使用する前記カテーテル閉塞部材の個数が選択されることで、使用する前記吐出口が選択されることを特徴とする請求項4に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項7】
前記カテーテルの外表面のうち前記カテーテル閉塞部材の取付位置に対応する各部分には、前記取付位置であることを示すマークが付されていることを特徴とする請求項6に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項8】
前記マークは、前記複数の吐出口のうち当該マークが付された部分を閉塞した場合に選択される前記吐出口を示すことを特徴とする請求項7に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項9】
前記カテーテルは、前記カテーテル閉塞部材の取付位置に対応する部分の肉厚が、他の部分よりも薄いことを特徴とする請求項1に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項10】
前記カテーテルは、生体組織内の患部を2回以上貫通するものであることを特徴とする請求項1に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項11】
前記カテーテルが生体組織の患部を1回目に貫通する第1の貫通ルートと、2回目に貫通する第2の貫通ルートとは、それぞれ異なる仮想平面上に含まれることを特徴とする請求項10に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項12】
前記吐出口は、前記生体組織内に前記カテーテルが導入されたときに患部中央部と患部周辺部とに対応する位置にそれぞれ配設されること特徴とする請求項4に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項13】
前記カテーテルの他の一端に取り付けられ、前記物質送出装置が送出する物質とは異なった物質を送出する第2の物質送出装置をさらに備えたことを特徴とする請求項4に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項14】
前記第2の物質送出装置は、細胞に対して不活性な物質を送出することを特徴とする請求項13に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項15】
前記第2の物質送出装置は、治療効果のある物質を送出するものであることを特徴とする請求項13に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項16】
前記カテーテルの他の一端に取り付けられ、前記物質送出装置が送出する物質と濃度が異なる同じ物質を送出する第2の物質送出装置をさらに備えたことを特徴とする請求項4に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項17】
前記物質送出装置は、リザーバとポンプとを備え、
前記カテーテル閉塞部材は、電磁弁であり、
前記ポンプ、前記リザーバおよび前記カテーテル閉塞部材の少なくとも1つと接続し、接続した前記ポンプ、前記リザーバまたは前記カテーテル閉塞部材を制御する制御手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項18】
生体組織内に配設される構成部品と、生体組織外に配設される構成部品とを電気的または機械的に着脱可能なコネクタをさらに備え、
前記制御手段は、前記コネクタを介して前記ポンプ、前記リザーバまたは前記カテーテル閉塞部材の少なくとも1つと接続することを特徴とする請求項17に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項19】
生体センサーをさらに備え、
前記制御手段は、前記生体センサーの出力信号に基づいて前記ポンプ、前記リザーバおよび前記カテーテル閉塞部材を制御し、前記生体組織内への物質の搬送を制御することを特徴とする請求項17に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項20】
前記物質送出装置は、前記カテーテルの両端にそれぞれ接続され、
前記制御手段は、各物質送出装置の送出動作および前記カテーテル閉塞部材の閉塞動作を制御して、物質搬送路を切り替えることを特徴とする請求項17に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項21】
前記カテーテルの吐出口周辺には血栓防止薬が配置されることを特徴とする請求項1に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項22】
前記カテーテルの外表面のうち前記吐出口周囲は、他の部分とは異なる表面形状を有することを特徴とする請求項1に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項23】
前記カテーテルの外表面のうち前記吐出口周囲には、該吐出口を示すマーカが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項24】
前記吐出口は、直径は50μm以上200μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項25】
生体組織内に物質を搬送する生体内物質搬送システムであって、
内部に物質搬送路を有し、物質を吐出する吐出口が側面に少なくとも1つ形成され、前記吐出口が形成された部分が生体組織内に位置し、両端が生体組織外に位置する態様で配設されるカテーテルと、
前記カテーテルの少なくとも一端に連通した物質送出装置と、
を備え、
前記カテーテルの生体組織外に位置する部分は、前記物質搬送路を閉塞可能である材料で形成されることを特徴とする生体内物質搬送システム。
【請求項26】
前記カテーテルの生体組織外に位置する部分は、熱が加えられた場合に収縮する材料で形成されることを特徴とする請求項25に記載の生体内物質搬送システム。
【請求項27】
前記カテーテルの生体組織外に位置する部分は、電流が加えられた場合に変形する導電性材料で形成されることを特徴とする請求項25に記載の生体内物質搬送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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