説明

生体分子の検出方法、生体分子捕捉物質及び生体分子検出装置

【課題】表面プラズモン共鳴励起蛍光を利用した、高感度かつ高精度な生体分子の検出方法生体分子の検出方法、生体分子捕捉物質及び生体分子検出装置を提供することにある。
【解決手段】表面プラズモン共鳴励起蛍光を検出することにより生体分子を検出する方法であって、外力を受けることにより配列を制御することが可能な物質を結合した生体分子捕捉物質を用いることを特徴とする生体分子の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン共鳴励起蛍光を用いた生体分子の検出方法、生体分子捕捉物質及び生体分子検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体分子の相互作用を調べる方法、またそれによって特定の生体分子を検出する方法として、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance、以下SPRとも記す)を使用した分光分析法が知られている。例えば、特許文献1には、表面プラズモン共鳴測定及び蛍光測定によって得られた信号を個別に分析することによって、被検体の固相への結合を判定する装置及びその方法が開示されている。
【0003】
また、下記特許文献2、3、5には、表面プラズモン共鳴を用いた2次元イメージング装置が開示され、特許文献4には、表面プラズモン共鳴測定、及び発生した蛍光が生じる第2のプラズモン共鳴を用いた表面プラズモン蛍光顕微鏡が開示され、特許文献6にはプラズモン共鳴蛍光を用いた生体分子相互作用検出装置及び検出方法が開示されている。
【0004】
これら表面プラズモン共鳴励起蛍光法では、金属基板上に担体や生体分子捕捉物質等を介して固定された蛍光物質に対し、表面プラズモン共鳴によって生じた増強励起光が照射され、発する蛍光を検出する。このとき蛍光物質と金属基板との距離が近いと、励起された蛍光物質から金属基板へとエネルギー移動が起こり、蛍光量子収率が大幅に減少してしまう。微量な生体分子を高感度に検出し、精度よく定量するためには、標識蛍光物質の基盤からの距離を制御することが必要である。
【0005】
金属基板上に生体分子捕捉物質、例えば抗体分子を配列する場合、通常ポリマー層SAAM層を形成し、この上に抗体分子を結合するが、これらを配向性よく配列するのは困難であり、したがってこれに抗原抗体反応によって捕捉される標識蛍光物質の基板からの距離を制御するのも同様にして困難であった。
【特許文献1】特開平10−307141号公報
【特許文献2】特開2001−255267号公報
【特許文献3】特開2002−116149号公報
【特許文献4】特開2004−156911号公報
【特許文献5】特開2004−271337号公報
【特許文献6】特開2006−208069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、表面プラズモン共鳴励起蛍光を利用した、高感度かつ高精度な生体分子の検出方法生体分子の検出方法、生体分子捕捉物質及び生体分子検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の構成によって達成される。
1.表面プラズモン共鳴励起蛍光を検出することにより生体分子を検出する方法であって、外力を受けることにより配列を制御することが可能な物質を結合した生体分子捕捉物質を用いることを特徴とする生体分子の検出方法。
2.前記外力が磁力であることを特徴とする前記1に記載の生体分子の検出方法。
3.前記生体分子捕捉物質が抗体であることを特徴とする前記1または2に記載の生体分子の検出方法。
4.前記生体分子捕捉物質が蛍光標識されていることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の生体分子の検出方法。
5.表面プラズモン共鳴励起蛍光を検出することにより生体分子を検出するのに用いられる生体分子捕捉物質が、外力を受けることにより配列を制御することが可能な物質を結合していることを特徴とする生体分子捕捉物質。
6.外力を受けることにより配列を制御することが可能な物質を結合した生体分子捕捉物質を用い、表面プラズモン共鳴励起蛍光を検出することにより生体分子を検出する生体分子検出装置であって、プリズム、レーザー発生手段、レーザー光検出手段、蛍光検出手段及び外力発生手段を有することを特徴とする生体分子検出装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、表面プラズモン共鳴励起蛍光を利用した、高感度かつ高精度な生体分子の検出方法、生体分子捕捉物質及び生体分子検出装置を提供できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
〔生体分子の検出方法〕
本発明の生体分子の検出方法を詳細に説明する。
【0010】
本発明では表面プラズモン共鳴励起蛍光法(Surface Plasmon Fluorescence Spectroscopy、以下SPFSとも記す)を利用して生体分子(以下、被検体とも記す)の検出を行う。
【0011】
表面プラズモン共鳴励起蛍光法の一般的なプロトコルを以下に示す。この方法は、プリズム(A)と、プリズム表面の金属薄膜及び被検体検出層を有する被検体検出手段(B)と、レーザー発生手段(C)と、第1及び第2光検出手段(D、E)とを備えた装置を用い、レーザー発生手段(C)から薄膜に入射されたレーザー光の反射強度を第1光検出手段(D)で検出し、レーザー発生手段(C)から薄膜に入射されたレーザー光によって薄膜裏面に生じるプラズモン光によって励起された蛍光分子が出力する蛍光を、第2光検出手段(E)で検出する、という手順で行われる。
【0012】
次にプラズモン光の特性について以下に説明する。
【0013】
プラズモン光は、レーザー光が金属薄膜に対し全反射条件で照射されたときに、第1光検出手段(D)によって検出される反射光の強度が減衰する入射角領域で薄膜裏面に発生し、その強度はレーザー光の入射角度に依存して変動する。反射光強度の減衰が最大となるときのレーザー光入射角度を第1の入射角度とすると、その近傍でプラズモン光の強度が最大となるが、厳密にはプラズモン光の強度が最大となるときのレーザー光の入射角度(第2の入射角度)は、第1の入射角度よりわずかに低角度となる。この理論値の算出にあたっては、文献:T.Liebermann,W.Knoll,Surface−plasmon field−enhanced fluorescence spectroscopy,Colloids and Surfaces A:Physicochemical and Engineering Aspects 171(2000)115−130やその引用文献等を参考にして算出することができる。また、プラズモン光は近接場光であり、その電場強度は金属薄膜からの距離が離れるほど減衰するという特性を有している。プラズモン光によって蛍光分子を励起するときは、この近接場光が届く範囲に蛍光分子が存在する必要がある。それに加え、蛍光分子が金属薄膜のごく近傍に位置する場合、金属薄膜へと励起エネルギーの遷移が起きてしまう。
【0014】
従って、プラズモン光によって蛍光分子を効率的に励起するためには、蛍光分子の金属基板からの距離を制御する必要があることが分かる。
【0015】
〔外力を受けることにより配列を制御することが可能な物質を結合している生体分子捕捉物質〕
表面プラズモン共鳴励起蛍光法によって生体分子(被検体とも表現する)を検出するためには、一般に生体分子を特異的に認識して吸着する物質(F)(生体分子捕捉物質あるいは被検体捕捉物質ともいう。例えば抗原に対する抗体等が挙げられる。)を利用する。生体分子捕捉物質(F)に蛍光分子を結合することで、蛍光を測定することによって被検体の検出が可能となる。
【0016】
本発明では、生体分子捕捉物質(F)に、外力を受けることで配列を制御することが可能な物質(G)が結合されていることを特徴とする。
【0017】
生体分子としては、例えばDNA、RNA、タンパク質、糖鎖あるいはこれらの分解物等が挙げられる。生体分子捕捉物質とは、これらを特異的に認識し捕捉することのできる相補的なDNAやRNA、抗体、レクチン、あるいはインプリントポリマー等が挙げられる。
【0018】
生体分子を捕捉する方法としては、従来公知のアッセイに従えばよく、文献:バイオ検査薬の開発(株式会社シーエムシー出版)、バイオ診断薬の開発・評価と企業(株式会社シーエムシー出版)やその引用文献、イムノアッセイ講義(WEB情報、http://www.shibayagi.co.jp/IA−LECTURE/Contents.htm)等が参考になる。本発明においてはイムノアッセイが好ましく、またサンドイッチ型のアッセイが好ましい。
【0019】
例えば、検出層に用いるセンサー基板として金基板を選び、サンドイッチイムノアッセイを行う場合には、金基板にカルボキシル基やアミノ基等の反応性基(または反応性基に変換可能な官能基)を有するアルカンチオールを作用させてSAM膜を形成し、これに適宜ポリマー等を介し、一次抗体を作用させ固定化する。また、1次抗体に対する反応性基(または反応性基に変換可能な官能基)を備えたポリマーを直接金基板上に固定化し、その上に1次抗体を固定化してもよい。各種反応性基を利用して抗体やポリマーを結合させる際には、スクシンイミジル化を経たアミド化縮合反応や、マレイミド化を経た付加反応等が一般的である。このようにして構成した検出層に抗原を含む溶液を流すことで、固定化した1次抗体によって抗原を捕捉することが可能である。これに対し、さらに標識した二次抗体を含む溶液を作用させることで捕捉された抗原を標識することができる。なお予め抗原と二次抗体とを反応させておいてから1次抗体を作用させてもよい。
【0020】
本発明の外力とは、例えば磁力(磁気的引力、磁気的斥力)、クーロン力(電気的引力、電気的斥力)、浮力等の、装置がその物質に接触することなしに働きかけることのできる力であり、扱いやすさから磁力が好ましい。
【0021】
外力を受けることで配列を制御することが可能な物質とは、例えば外力が磁力の時は磁性体(常磁性体、強磁性体、超常磁性体等)であり、具体的には酸化鉄・酸化クロム・コバルト・フェライト、ネオジム等を含む粒子型の磁性体や分子性磁性体等を用いることができる。また外力がクーロン力の場合には、多原子イオンやクラスターイオン等の電荷を持つ物質を用いることができる。外力として浮力を利用する場合には、溶媒よりも比重の軽い粒子、あるいは比重の軽い物質を封入した粒子等を用いることができる。
【0022】
これに対し外力を与えるものが必要となるが、外力に磁力を用いる場合は、永久磁石や電磁石等が利用でき、外力にクーロン力を用いる場合には電極等が利用できる。
【0023】
通常の蛍光法では基板平面に対して垂直方向から検出するので、磁石や電極を配置すると検出を阻害する場合があるが、例えば透明な磁石や電極を用いたり、検出窓を用意してその両側に磁石を配置したり、あるいは蛍光の検出を横方向から行うといった手段をとることにより解決することができる。
【0024】
本発明において、外力を受けることで配列を制御することが可能な物質は、基板に固定する被検体捕捉物質や蛍光分子を結合する(あるいは結合した)被検体捕捉物質、被検体捕捉物質に結合された蛍光分子に、結合させて用いる。このとき蛍光分子自身が外力によって配列を制御することが可能な物質であっても構わない。
【0025】
結合する場合は共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等を利用して結合すればよく、適当な高分子材料や低分子材料を介して結合することができる。
【0026】
外力によって蛍光分子の配列を制御する方法としては、例えば基板から、SAM膜、コーティング層等を介し、被検体を捕捉する物質(被検体捕捉物質ともいう)を結合しておき、これに被検体を捕捉させ、その後、蛍光分子と外力によって配列を制御することが可能な物質を結合した被検体捕捉物質を加えて、基板に固定された被検体を捕捉する。通常のアッセイの場合、被検体を捕捉した鎖状の分子群は、さまざまな方向を向いていたり、折れ曲がっていたりするため、基板からの距離も分子群の鎖長に対してきわめて短かったり、ばらつきも大きい。本発明では被検体を捕捉した物質に結合された、外力を受けることで配列を制御することが可能な物質に対して、外力を加えてその位置を制御する。例えば検出層の上部に磁石を配置し、磁気的引力を利用することで、磁性体を上方向に持ち上げることができ、結合した被検体を捕捉した鎖状の分子群を引き伸ばすことが可能となり、結合された蛍光分子の基板からの距離を制御することができる。またこの時、吸着力の差異を利用して、ノイズの原因となる被検体を捕捉していない被検体捕捉物質のみをプラズモン光の届く範囲から遠ざけることもできる。
【0027】
〔生体分子検出装置〕
以下、本発明の生体分子検出装置の構成例を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0028】
図1は、本発明の実施の形態に係る生体分子検出装置の概略構成を示すブロック図である。本実施の形態に係る生体分子検出装置は、プリズム1、プリズム1の上に形成された、検出対象の生体分子(以下、被検体と記す)を含む試料を保持する被検体検出部(以下、検出部と記す)2と、レーザー発生装置3と、レーザー発生装置3から出力されるレーザー光Lの光路上に配置された偏光板41、絞り42、シャッタ43、回転ミラー44及びレンズ45で構成される光制御部4と光検出手段である第1及び第2CCDカメラ5、6と、第1及び第2フィルター7、8とを備えている。
【0029】
図2は、プリズム1の上に形成される検出部2の構成の一例を示す断面図である。プリズム1には、高屈折率の45度直角プリズムを用いることができる。検出部2は、プリズム1の表面にスパッター法あるいは蒸着法により30〜60nm(望ましくは40〜60nm、より望ましくは43〜53nm)の厚さに形成された金薄膜21と、金薄膜21表面上にスペーサ23によって周囲を囲まれて形成された、抗原と反応させる抗体を含む被検体検出層(以下、検出層ともいう)24と、石英基板25と、これらを固定する固定具22とを備えている。ここで、スペーサ23、検出層24及び石英基板25によって、バッファ空間27が形成されており、石英基板25には貫通孔によって流路26a、26bが形成されている。流路26a、26bは、試料溶液をバッファ空間27に注入するために使用され、例えば、試料溶液を、流路26aからチューブ(図示せず)を介してバッファ空間27に注入し、流路26bから別のチューブ(図示せず)を介してバッファ空間27から排出させる。検出層24には、抗体を結合させた高分子材料を用いることができる。抗体は高分子材料の一方の端部に結合されており、高分子材料の他方の端部は、直接若しくは間接に金薄膜21表面に固定されている。高分子材料は複数種類が介在していてもよい。高分子材料としては例えばポリエチレングリコール(polyethylene glycol、以下PEGと記す)やMPCポリマー等が挙げられる。これは用時に調製しても、予めこれらを結合させた基板を用いてもよい。
【0030】
第1CCDカメラ5は、金薄膜による反射レーザー光を観測するためのものであり、第1フィルター7を介して反射レーザー光を受光可能な位置に配置されている。一方、第2CCDカメラ6は、検出層24に含まれている蛍光分子からの蛍光を検出するためのものであり、観測波長に適した蛍光用高感度CCDカメラと第2フィルター8とが、検出部2の上方に設置されている。ここで、第1CCDカメラ5は、少なくとも反射光強度を測定することができればよく、2次元撮像ができなくてもよく、フォトダイオードであってもよい。
【0031】
レーザー発生装置3には、例えば、He−Neレーザーを使用することができる。また、回転ミラー44は、ミラーの角度を変更することが可能であり、レーザー光Lの金薄膜21への入射角θを、例えば、θ=28〜62(度の範囲で変化させることができる。なお、図1において、レーザー光Lが通過するプリズム表面での光路の屈曲は省略している。
【0032】
レーザー発生装置3から出力されるレーザー光Lは、偏光板41によってP偏光され、絞り42を通過し、シャッタ43が開いている間、回転ミラー44、レンズ45及びプリズム1を介して検出部2の金薄膜21に入射され、その反射光が、レンズ45及びフィルター7を介して第1CCDカメラ5で測定される。また、検出層24内の蛍光分子からの蛍光は、第2CCDカメラ6で測定される。
【0033】
〔生体分子の検出方法の詳細な説明〕
次に、本生体分子の検出装置を用いた生体分子の検出方法を、具体例を挙げて説明するが本発明はこれに限定されない。
【0034】
まず検出部2のバッファ空間27に、PBS(あるいはその他の緩衝液)溶液を注入する。
【0035】
レーザー発生装置3から出力されるレーザー光Lを、回転ミラー44のミラー表面の角度を固定し、上記のようにプリズム1を介して検出部2の金薄膜21に入射させ、その反射光を第1CCDカメラ5で測定し、反射強度を記録する。周知のように、偏光板41を介してP偏光されたレーザー光Lは、金薄膜21中の電子振動とカップリングしてSPR現象を生じた場合、反射光の強度が減少する。この反射光の強度が最低値になるように回転ミラーの角度を調整する。(ここからプラズモン光が最大となる入射角となるようにミラー角度を変更しても構わない。)
バッファ空間27中の検出層24には予め抗体を固定しておき、これに対する抗原を含む溶液を流した後、蛍光分子と磁性粒子とを結合させた二次抗体を含む溶液を流す。
【0036】
これによって、SPRによるプラズモン光によって、検出層24内の蛍光分子が励起され、蛍光を発生するが、この時上部から磁石を近づけることによって、二次抗体によって捕捉された抗原とそれに結合した抗体が上部に伸長し、蛍光強度を強めることができる。
【0037】
発生した蛍光を、検出部2の上方に位置する第2CCDカメラ6で測定、即ち2次元撮像する。得られた2次元画像における各画素の輝度が、検出層上の各場所での蛍光強度に対応する。
【0038】
以上のように、第2CCDカメラ6による蛍光強度の測定によって、検出層24に注入した溶液中の抗原を高感度、高精度に検出することができる。
【0039】
なおこの測定において蛍光分子としては、レーザー光の波長等を考慮して適切な蛍光分子を使用すればよい。例えば、光源として波長632.8nmのHe−Neレーザーを使用する場合、Cy5、Alexa Fluor647等を使用することができる。
【0040】
また、上記では、PEGを用いる場合を説明したが、これに限定されず、端部に蛍光分子及び抗体を結合させることができ、長さが数〜数十nmの柔らかい鎖状の高分子材料であればよい。使用する抗体や蛍光分子に応じて適切な高分子材料を使用することができ、例えば、ポリグルタミン酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、あるいは2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等を使用することができる。
【0041】
また、プリズム表面に形成される薄膜は、金薄膜に限定されず、その他の金属(銀等)や、金属酸化物(SiO、TiO、Al、AgO等)の薄膜であってもよい。
【0042】
また、上記では、流路を有する石英基板及びスペーサを備えた検出部を説明したが、これに限定されない。金薄膜表面上に被検体検出層が形成され、被検体の生体分子を保持することができる構造であればよい。
【0043】
また、上記では1つの検出層を備える場合を説明したが、金薄膜上に、異なる抗体を含む複数の検出層をアレイ状に配列して検出部を形成してもよい。
【0044】
また、上記においては、1種類の蛍光分子を用いる場合を説明したが、これに限定されず、複数種類の抗体と、抗体の種類毎に、蛍光波長の異なる蛍光分子を結合させて検出部を形成してもよい。この場合、SPR測定及びSPFS測定は、蛍光分子の種類に応じた波長の異なる複数のレーザー光あるいは各種フィルターを挿入したランプを用いて行う。
【0045】
また、第一光検出手段はCCDカメラに限定されず、所定の波長のレーザー光を測定可能なものであればよい。例えばフォトダイオード等を用いることができる。同様に第2光検出手段も、上記したCCDカメラに限定されず、所定の波長の蛍光を測定可能なものであればよい。例えば光電子増倍管等を用いてもよい。
【0046】
照射する光源としては直進性のある形で光線を取り出せる光源であればよく、半導体レーザーでもLEDでもランプでも構わない。
【0047】
照射光を走査する方法としては、回転ミラーに限定されず、光源そのものをステージコントローラー等で走査させてもかまわない。
【0048】
プリズムの形状としては、90度の三角プリズムに限定されず、60度の三角プリズムや半円柱のプリズムを用いてもよい。
【実施例】
【0049】
本発明を、具体例を挙げて説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0050】
実施例1
(検出部の作製)
図2に示したように、プリズム1として、高屈折率の45度直角プリズムであるSCHOTT GLASS社製のLaSFN9(屈折率n=1.85)を用い、その底面にスパッター法により膜厚約48nmの金薄膜21を形成し、流路26a、26bが形成された石英基板25を、厚さ2mmのシリコンゴムのスペーサ23で挟んで金薄膜21の上に設置した。これに、ポンプを用いて、PBS緩衝液(りん酸緩衝液、pH=7.2)を注入した。このときのセル容積はおよそ160μlであった。
【0051】
次にHS−PEG−COOH(MW5000、nanocs社)の0.5mM PBS緩衝液を調製し、このPBS緩衝液をポンプにより、石英基板25を形成した段階の検出部に注入して1夜放置し、金薄膜21の表面に自己組織化膜を形成させた。
【0052】
(本発明の標識抗体溶液の調製)
磁性を持った粒子であるnanomag−D−spio(登録商標、PEG−COOH、50nm、5mg/ml、コアフロント株式会社製)を100mlと、N−ヒドロキシスクシンイミドが50mM、WSC(1−Ethyl−3−(3−dimethylaminopropyl)carbodiimide,hydrochloide、縮合剤)が100mMとなるように調製したPBS緩衝液を5ml加え、20分攪拌した後に、抗AFPモノクローナル抗体(1D5、2.5mg/ml、日本医学臨床検査研究所販売)を40μl、1M炭酸水素ナトリウム水溶液を10μl、AlexaFluor647 NHS esterを0.5mg混合したものを加え、2時間反応を行うことで、磁性粒子と蛍光色素が結合された本発明の標識抗体のPBS緩衝液を得た。
【0053】
(比較の標識抗体溶液の調製)
抗AFPモノクローナル抗体(1D5、2.5mg/ml、日本医学臨床検査研究所販売)を40μl、1M炭酸水素ナトリウム水溶液を10μl、AlexaFluor647 NHS esterを0.5mg、PBSを5ml混合、2時間反応を行うことで、蛍光色素のみが結合された比較の標識抗体のPBS緩衝液を得た。
【0054】
(本発明の標識抗体の検出)
実際の測定について説明する。なおレーザーは633nmのHeNeレーザーを用いた。
【0055】
前述のとおりに検出部の作製を行った後に、第1CCDに照射される反射光強度が最小となるようにレーザー入射光角度を調整して、第2CCDを用いて上方から検出部のレーザー照射範囲中心部の0.2mm角を観察し、このときのCCDのカウント値を0点として調整した。
【0056】
その後、検出部にN−ヒドロキシスクシンイミドが25mM、WSCが50mMとなるように調製したPBS緩衝液を注入し30分作用させ、その後、本発明の標識抗体を含むPBS緩衝液を注入し、循環させながら標識抗体の固定化反応を行った。注入から1時間後に0.05質量%Tween−PBS緩衝液で10分洗浄を行い、第2CCDから観察したときのカウント値を計測した。このときのカウント値は8000au(任意単位)であった。なお第2CCDは500000auまでは光強度とカウント値が正比例となることを事前に確認した。
【0057】
次に、市販のネオジムマグネット2個を検出部の3cm上方にセッティングし(上方からの光検出を妨げないようにセルの両脇に固定した)、再び第2CCDのカウント値を確認したところ13000auであり、すなわち観測されたシグナルが1.6倍となった。
【0058】
(比較の標識抗体の検出)
本発明の標識抗体の代わりに比較の標識抗体溶液を用いた以外は上述の本発明の標識抗体の検出と同様の手法で計測を行った。
【0059】
このときのカウント値は9000au(任意単位)であった。
【0060】
次に市販のネオジムマグネット2個を検出部の3cm上方にセッティングし(上方からの光検出を妨げないようにセルの両脇に固定した)、再び第2CCDのカウント値を確認したところ9000auであり、観測されたシグナルに変化はなかった。
【0061】
実施例2
(検出部の作製)
図2に示したように、プリズム1として、高屈折率の45度直角プリズムであるSCHOTT GLASS社製のLaSFN9(屈折率n=1.85)を用い、その底面にスパッター法により膜厚約48nmの金薄膜21を形成し、流路26a、26bが形成された石英基板25を、厚さ2mmのシリコンゴムのスペーサ23で挟んで金薄膜21の上に設置した。これに、ポンプを用いて、PBS緩衝液(りん酸緩衝液、pH=7.2)を注入した。このときのセル容積はおよそ160μL(マイクロリットル)であった。
【0062】
次に、HS−PEG−COOH(MW5000、nanocs社製)の0.5mM PBS緩衝液を調製し、このPBS緩衝液をポンプにより、石英基板25を形成した段階の検出部に注入して1夜放置し、金薄膜21の表面に自己組織化膜を形成させた。
【0063】
これにN−ヒドロキシスクシンイミドが25mM、WSCが50mMとなるように調製したPBS緩衝液を注入し30分作用させ、その後抗AFP(α−フェトプロテイン)モノクローナル抗体(1D5、20μg/ml、日本医学臨床検査研究所販売)を含むPBS緩衝液を注入し1時間作用させ、1%BSA−PBS緩衝液を注入して1時間作用させ、最後にPBS緩衝液を注入して検出部を作製した。
【0064】
(標識二次抗体の調製)
nanomag−D−spio(登録商標、PEG−COOH、50nm、5mg/ml、コアフロント株式会社製)を100mlと、N−ヒドロキシスクシンイミドが50mM、WSCが100mMとなるように調製したPBS緩衝液を5ml加え、20分攪拌した後に、抗AFPモノクローナル抗体(6D2、2.5mg/ml、日本医学臨床検査研究所販売)を40μl、1M炭酸水素ナトリウム水溶液を10μl、AlexaFluor647 NHS esterを0.5mgを混合したものを加え、3時間反応を行うことで、標識二次抗体PBS緩衝液を得た。
【0065】
(アッセイ)
実際の測定について説明する。なおレーザーは633nmのHeNeレーザーを用いた。
【0066】
前述のとおりに検出部の作製を行った後に、第1CCDに照射される反射光強度が最小となるようにレーザー入射光角度を調整して、第2CCDを用いて上方から検出部のレーザー照射範囲中心部の0.2mm角を観察し、このときのCCDのカウント値を0点として調整した。AFPのPBS緩衝液(10ng/ml、5ml)を注入、30分循環送液しながら反応させ、その後、0.05質量%Tween−PBS緩衝液で10分洗浄を行った。次に標識二次抗体PBS緩衝液、5mlを30分間循環送液させ、再び0.05質量%Tween−PBS緩衝液で洗浄を行った。洗浄開始から20分後の第2CCDから観察したときのカウント値を計測した。このときのカウント値は38000au(任意単位)であった。なお第2CCDは500000auまでは光強度とカウント値が正比例となることを事前に確認した。
【0067】
次に市販のネオジムマグネット2個を検出部の3cm上方にセッティングし(上方からの光検出を妨げないようにセルの両脇に固定した)、再び第2CCDのカウント値を確認したところ53000auであり、すなわち観測されたシグナルが1.4倍となった。
【0068】
また38000auのカウント値を示した時点(洗浄開始から20分後)から前後5分のカウント値の標準偏差は1000auであったが、マグネットをセッティングした後、53000auのカウント値を示した時点から前後5分のカウント値の標準偏差は800auであり、0.8倍となった。本発明の検出法ではカウント値のばらつきが抑えられ、より精度のよい測定であるといえる。
【0069】
実施例3
AFPを混合したPBS緩衝液の代わりに、AFPを混合していないPBS緩衝液を送液した他は実施例2と同一の条件でアッセイを行った。
【0070】
標識二次抗体PBS緩衝液を送液し、洗浄を行ってから20分後の第2CCDのカウント値は5000auであった。その後、実施例1と同様にマグネットをセッティングしたところ、第2CCDのカウント値は3800auを示した。
【0071】
以上のように、本発明を用いることで1つの生体分子当たりの蛍光強度が上がるうえ、そのばらつきも抑えることができ、また非特異吸着によるノイズも軽減することが可能となり、従来のSPFS法に比べて高感度、高精度に生体分子の検出を行うことが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の生体分子検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本実施の生体分子検出装置で使用される検出部の構成の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 プリズム
2 被検体検出部
3 レーザー発生装置
4 光制御部
5 第1CCDカメラ
6 第2CCDカメラ
7 第1フィルター
8 第2フィルター
21 金薄膜
22 固定具
23 スペーサ
24 被検体検出層
25 石英基板
26a、26b 流路
27 バッファ空間
41 偏光板
42 絞り
43 シャッタ
44 回転ミラー
45 レンズ
46 外力発生装置(磁石)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面プラズモン共鳴励起蛍光を検出することにより生体分子を検出する方法であって、外力を受けることにより配列を制御することが可能な物質を結合した生体分子捕捉物質を用いることを特徴とする生体分子の検出方法。
【請求項2】
前記外力が磁力であることを特徴とする請求項1に記載の生体分子の検出方法。
【請求項3】
前記生体分子捕捉物質が抗体であることを特徴とする請求項1または2に記載の生体分子の検出方法。
【請求項4】
前記生体分子捕捉物質が蛍光標識されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体分子の検出方法。
【請求項5】
表面プラズモン共鳴励起蛍光を検出することにより生体分子を検出するのに用いられる生体分子捕捉物質が、外力を受けることにより配列を制御することが可能な物質を結合していることを特徴とする生体分子捕捉物質。
【請求項6】
外力を受けることにより配列を制御することが可能な物質を結合した生体分子捕捉物質を用い、表面プラズモン共鳴励起蛍光を検出することにより生体分子を検出する生体分子検出装置であって、プリズム、レーザー発生手段、レーザー光検出手段、蛍光検出手段及び外力発生手段を有することを特徴とする生体分子検出装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−250960(P2009−250960A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103442(P2008−103442)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】