生体分子サンプル物質の分離デバイスおよび分離方法
本発明は、生体分子物質サンプルとくにタンパク質混合物の分離デバイスおよび分離方法に関する。該デバイスは、分離平面の領域(20)内の物質サンプルの成分の二次元分離、好ましくは電気泳動分離を行えるように設計された分離エレメント(10)を備える。本発明は、分離エレメント(10)が、分離平面を横切る輸送方向で、分離されたサンプル成分を質量分析研究に適合した支持表面(16)上に局所的に正確に転写させるためのチャネルまたは転写構造体(14)を有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求項1および18の前提部分に準拠した、生体分子サンプル物質とくにタンパク質混合物の分離デバイスおよび分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノムの解読、すなわちヒトの全遺伝情報の配列決定は、分子生物学的研究におけて画期的な出来事であった。研究は、現在、ゲノムの機能の解明および遺伝子産物であるタンパク質に集中している。ここでは、特定の細胞集団または特定の組織で発現されるすべてのタンパク質の可能なかぎり完全な描像を得ることが望まれる。タンパク質の同一性および量は、細胞または組織の特定の発生段階または生理学的状態に関連付けられなければならない。したがって、機能描写が行えるようにすべてのタンパク質についてできるかぎり正確かつ定量的な描像を得ることが望まれる。「ポストゲノム」時代のこの研究は、プロテオミクスとも呼ばれる。ゲノムは基本的には静的因子であるが、生きている生物のプロテオームは、温度、栄養環境、およびストレスや薬剤の作用に依存して変化するその能力により特性付けられる。したがって、種々の発育相において特定の環境条件下で細胞または生物の遺伝子により合成されるタンパク質全体が包含される。
【0003】
プロテオミクスでは、すべてのタンパク質を同定および定量することにより、タンパク質の機能、レギュレーション、および相互作用に関する新しい情報を得ることが意図される。とくに、その目標は、正常細胞と「変質」癌細胞との間の定量可能な差異または「疾患」細胞と「健常」細胞との間のタンパク質レパートリーの差異を明らかにすることである。次に、これにより、治療上有効な物質の特定の探索が可能になる。
【0004】
プロテオームを分析するために、タンパク質の全量がその各成分に分離される。すなわち、何千種にも及ぶ各タンパク質が、混合物から物理的に分離される。これは、通常、いわゆる二次元(2-D)電気泳動により達成される。この方法では、細胞集団または組織からの全タンパク質が、できるかぎりに定量的に単離される。また、所要により、全タンパク質のうちの特定の画分(たとえば、ミトコンドリアのような特定の細胞オルガネラからのタンパク質)だけについて詳細に調べることが望まれるのであれば、特定の分別ステップが行われる。
【0005】
次に、等電点電気泳動(IEF)が第1の次元で行われ、pH勾配をもたせた特別のゲル中または固体担体上でそれらの等電点pIに基づいてタンパク質が分離される。タンパク質は電界中を移動し、各タンパク質に特有なそれらのpI位置に集中する。等電点電気泳動のこの第1のステップでは、固定化されたpH勾配を有する膜もしくはストリップまたは両性電解質緩衝剤を有するゲルを保持するための特定の電気泳動装置が必要とされる。等電点電気泳動法は、通常、長時間(24〜48時間)を要する。
【0006】
等電点電気泳動が終了した後、ゲルまたは膜は、通常、第1の装置から取り出され、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含有する電気泳動緩衝液中で平衡化される。次に、各ゲルまたは各膜は、第2のゲル装置中の新しい第2のゲル上に配置される。これらの第2のゲルは、SDS/ポリアクリルアミドよりなる。IEFゲルに垂直な方向に電圧を印加した後、集束タンパク質は、第2のゲル中に移動し、そこでそれらの分子量に従って分離される。この電気泳動分離もまた、長時間(>16時間)を要する可能性がある。
【0007】
次のステップで、このようにして分離されたタンパク質は視覚化される。これは、Coomassie Brilliant Blue、コロイドCoomassie、硝酸銀、または蛍光染料(SYPRO Red, SYPRO Ruby)を用いた染色ステップにより行われる。続いて、染色されたゲルは、通常、ディジタルイメージングシステムで写真撮影される。または染色されたスポットが文書に記録される。より正確な科学的記述を行えるように、染色されたすべてのタンパク質または特定の対象タンパク質(たとえば、その位置および/または量が参照に対して変化したもの)が、同定され特性付けられる。これは、通常、質量分析法により行われる。最もよく使用される方法は、MALDI-TOF(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間)質量分析法による特定のスポットのペプチド断片の分析である。このために、染色された各タンパク質スポットのマルチステップ処理が再び行われる。
【0008】
第1のステップでは、染色されたタンパク質スポットが、できるかぎり少ない体積でゲルから単離される。これは、手作業で行われるかまたは自動のソフトウェア制御スポットピッカーにより行われる。次に、ゲルの少量のタンパク質含有部片(数μlの体積)が緩衝剤と共にインキュベートされ、SDSおよび染料がゲルから確実に除去されるようにする。次に、ゲル部片は乾燥され、プロテアーゼ消化に好適な緩衝液に溶解され、そしてプロテアーゼ(通常はトリプシン)と共にインキュベートされる。これにより、タンパク質はゲル中で既定の断片に切断される。続いて、タンパク質断片(ペプチド)は、洗浄されてゲルから取り出されるかまたは重炭酸アンモニウムで溶出される。
【0009】
次に、各ゲル部片から単離されたペプチドは、質量分析用の支持体に別々に適用され、乾燥および場合により再結晶が行われた後、質量分析(MALDI-TOF)にかけられる。質量分析から得られたデータを用いて、好適なデータベースと比較することにより、タンパク質の明確な同定およびタンパク質の量の相対的定量を行うことができる。
【0010】
質量分析のための処理と共に以上に記載した古典的2-D電気泳動法は、次のようないくつかの欠点を有する:
・比較的大量の全タンパク質(ミリグラム)が必要とされる。この量は、とくに特別な関心が払われている問題を扱う際、たとえば、腫瘍組織について調べる場合、入手できないことが多い。
【0011】
・時間や労力が非常にかかる。
【0012】
・非常に多くのステップが含まれ、いくつかの場合には、手作業でしか行うことができない。
【0013】
・多くの装置(IEF電気泳動装置、SDS-PAGE電気泳動装置、染色装置、イメージャー、スポットピッカー、ゲル部片インキュベーター、乾燥機、自動ピペッターなど)が必要とされる。
【0014】
・IEFに好適なタンパク質の分離が可能であるにすぎない。多くのクラスのタンパク質、とくに特別な関心が払われているタンパク質、たとえば、膜タンパク質/レセプター、細胞核関連またはDNA関連のタンパク質は、IEFにより分離することができないかまたは適切に分離することができない。
【0015】
プロセス全体は、非常に再現性がない。
【0016】
タンパク質の二次元分離用として電気泳動チップが文献または特許出願に記載されているが(US 6214191, US 5599432, EP 977030, WO 0058721; Becker et al., J. Micromech. Microeng. 1988, 8, 24)、それらは製品としてまたはプロトタイプとしてまだ入手できないので、試験を行うことができない。このさらなる処理に対して光学的検出方法が記載されているが、その方法により得られたデータは示されていない。そのようなチップは、ごく少量のタンパク質を分離できるという利点を有するとはいえ、このごく少量を光学的に検出するのは依然としてほぼ不可能であることは当業者には明らかである。
【発明の開示】
【0017】
こうした状況を踏まえて、本発明の目的は、先行技術の欠点を回避すること、および自動化が可能で取り扱いが容易である方法により、確実にかつ非常に正確にごく少量のタンパク質を処理したり分析したりできるように、先に述べたタイプのデバイスおよび方法を改良することである。
【0018】
独立した特許請求項に記載の特徴の組合せにより、この目的を達成することを提案する。
【0019】
本発明は、サンプル成分の分離に加えてサンプル成分の特定の処理が行えるように構造要素として一体化されたサンプル物質用の三次元輸送構造体を作製するというアイディアに依拠する。したがって、本発明は、分離されたサンプル成分を分離平面と直角な輸送方向で支持表面上に送出するためのチャネル構造体を分離エレメントに配設することを提案する。この結果、方法の観点からみて、本発明により、分離されたサンプル成分を分離平面と直角な方向で分離エレメントから支持表面上に送出することができる。
【0020】
本発明によれば、容易に自動化しうるタンパク質の迅速分離が可能であり、さらに単一の三次元基本エレメントによる支持表面上または基材上への直接的な空間分解能のある送出が可能である。したがって、二次元タンパク質分離に含まれる情報内容を情報損失を伴うことなく第3の次元に転写することが可能である。本発明によれば、他の場合には個別のデバイスで行われる一連のプロセス全体が、単一のエレメント内で組み合わされる。とくに、手作業のステップは、削減されてサンプルの適用だけになる。必要とされる生体物質の量を数桁減少させることができるので、分析にはマイクログラムの量があれば十分である。部分的なステップを単一の構造エレメントに統合することにより、および手作業の中間ステップを省略することにより、プロセス全体として、再現性および制御可能性が著しく増大される。さらに、プロセス全体の所要時間を数時間まで削減することができる。これにより、比較的大量の物質が必要であることが原因でこれまで対象にならなかったまったく新しいタイプの問題に対処できるようになるとともに、生物学的過程をかなり詳細に識別できるようになる。分離エレメントの自由表面上に堆積された物質(たとえば、ペプチド)は、たとえば質量分析により直接分析することができる。場合により、質量分析専用のターゲットプレートが支持基材として提供される。基本的には、たとえば、分離されたタンパク質またはペプチドの活性試験または結合試験を行うための機能アッセイが、他の用途として考えられる。
【0021】
本発明の有利な実施形態およびさらなる改良形態は、従属請求項ならびに以下の適用例の説明および図面から得られる。次に概略図を用いて説明する。
【0022】
図面に示されるプレート形分離エレメント10は、タンパク質物質の二次元分離を行うための分離プレート12と、分離されたサンプル成分を質量分析に好適な支持表面16上に正しく位置決めして送出するための、分離プレートに直角な方向に機能する輸送構造体またはチャネル構造体14と、分離プレート12の両側に界接するカバープレート18およびボトムプレート20と、より本質的になる。
【0023】
図1〜3に示されるように、カバープレート18は、サンプルを適用するためのそれを貫通するスリット形開口22と、分離プレート12の方向に開口するカバーチャンバー24と、カバーチャンバー24中に開口する側方入口開口26と、中央バルブ開口28と、を有する。分離プレート12は、2つの上下に重ねられた領域内に三次元チャネルシステムを形成する。一方の領域は、その底面が、プレート内または分離平面内に位置する上部二次元分離領域30内で、第3の次元の方向に通過させるチャネル構造体14により境界付けられている。ボトムプレート20は、プレート配置を支持し安定化させる役割を果たし、チャネル構造体14の方向に開口する捕集チャンバー32を含む。
【0024】
複合チップとして設計される分離エレメント10の基材材料は、シリコン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、他のポリマー(たとえば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリジメチルシロキサン)、人造樹脂、セラミックス、もしくは金属、またはこれらの材料のさまざまな組合せよりなりうる。基材材料は必要な精度で成形が可能でありかつサンプル処理に使用される物質に適合することが重要である。基材材料は、便宜上、電気泳動分離および場合により効率的な冷却が行えるように、電気絶縁性および熱伝導性でなければならない。分離エレメント10は、たとえば、6×4cmの底面積(従来のマイクロタイタープレートの1/4に相当する)を有する。
【0025】
図4に切り離して示されている分離プレート12は、逐次的2D電気泳動を行うためにプレート平面内に直交した分離通路34, 36を有する。2つの電極対38, 40は、この目的のために提供されており、電気接続ラグを介して好適な直流電圧を印加することができる。
【0026】
電極38間の第1の次元の分離通路34は、細長い凹部42により形成されており、この凹部には、あらかじめ形成されたpH勾配を有するゲルまたは膜ストリップ(図示せず)が、タンパク質分子の等電点電気泳動(IEF)を行うために配置される。この目的のために、電極38の領域内の保存ゾーン44に電気泳動用緩衝液をあらかじめ配置しておくことができる。
【0027】
第2の次元の分離通路は、電極40間に延在する一群の平行チャネル36により形成され、凹部42に沿って分布してそれと直角な方向に分岐する。チャネルの数は、第1の次元の所望の達成可能な分解能または分離効率に依存する。それは、10〜数千、好ましくは50〜500の間にありうる。分子は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含有する電気泳動用緩衝液中におけるポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により、これらのチャネル内で分離される。これに関連して、電極40の領域内の凹部46, 48は、緩衝液リザーバーとして役立ちうる。
【0028】
製造プロセス時、最初に、SDS-PAGE分離ゲルが第2の次元のチャネル36および緩衝液リザーバー46, 48に導入されて光重合される。これに関連して、ゲルタイプの混合を防止するために、IEFゲルストリップ用の凹部42を機械的に分離することができる(セパレーター50)。これはまた、チャネル36の最初の部分を分離ゲルに先行する捕集ゲルで満たす場合に有利である。捕集ゲルを用いれば、タンパク質を捕集して分離ゲルに界接するゾーン内に圧縮することにより、各タンパク質バンドのより鮮明なゾーンを形成することが可能である。
【0029】
図5a, bに最も良好に示されるように、チャネル構造体14は、分離チャネル36の底部に整列された送出チャネル52により形成される。これらは、分離チャネル36全体に及ぶ分離平面に垂直な方向に延在し、分離領域30全体にわたってチャネルマトリックスを形成する。これにより、以下で詳細に説明されるように、分子分離で得られた2Dパターンを忠実な画像として送出することが可能である。1つの分離チャネル36あたりの送出チャネル52の数は、先の場合と同様に、第2の次元の所望の達成可能な分離の分解能に依存する。それは、10〜1000、好ましくは30〜400の間でありうる。送出チャネル52は、好ましくは円錐状にテーパーが付けられ、たとえば、100μmの上部入口直径および50μmの下部開口断面を有する(図5b)。しかしながら、分離が終了した後、できるかぎり損失を少なくして第3の次元でタンパク質を処理するために、他のチャネル幾何学形状を考えることもできる。
【0030】
この目的のために、ボトムプレート20を取り除いて、分離プレートの下側54を、質量分析用に提供された支持プレート56上に、とくにマトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF)用に設計されたターゲットプレート上に、配置することができる。支持プレートは、種々の材料(金属、プラスチック、ポリマー)で構成することができる。材料は後続の質量分析に適合すること、とくにMALDI-TOFにかけるべく導電性であることが重要である。送出チャネル52の二次元分布に合わせて、転写される物質に対して親水性のアンカーゾーン58を支持プレート56の疎水性表面上に配置することができる。これらのアンカーゾーンの位置およびサイズは、溶出された分子断片を直接捕獲することができるようにかつ分離プロセスで達成された幾何学的分解能がターゲットプレート上で本質的に保持されるように、送出チャネルに対して適合化される。
【0031】
図5cに示されるとくに単純な実施形態では、支持表面16は、分離プレート12自体の自由表面により形成される。支持表面16が送出チャネル52の出口59の周囲にサンプル物質に対して親水性の環状アンカーゾーン58を有し他の部分が疎水性である場合が有利である。これは、適切な化学的誘導体化またはコーティングにより達成することができる。また、送出チャネル52の出口開口の周囲にウェル形凹部を設けることにより、送出されたペプチドを表面16上に確実に堆積させるように改良することができる(図示せず)。この場合にも、分離プロセスで達成された幾何学的分解能が保持されなければならない。次に、表面16上に堆積されたペプチドを有する分離プレート12を質量分析に好適なホルダーに挿入し、そして質量分析にかける。このプロセスでは、ペプチドは、レーザーにより分離エレメントの表面16から直接脱離される。
【0032】
3つの次元のチャネル34, 36, 52は、連続的に直接接続させることもできるし、または一方の次元から他方の次元に移行するときにのみ開放されるバリヤーまたはバルブにより分離することもできる。接続は、機械的に、すなわちチャネルを移動させたり回転させたりすることにより、行うこともできるし、または機械的バリヤーを設けることもできる。また、チャネルは、化学的に、たとえば、所望の時間で溶解されるポリマーにより、分離することもできる。また、浸透性を調節することのできる半透膜により種々の次元のチャネルを分離することも考えられる。
【0033】
図6に示される実施形態では、SDS-PAGE分離ゲル60で満たされた第2の次元の分離チャネル36は、その下端が、互いに流体連通したマイクロ細孔により分離平面と直角な方向にフロースルーチャネル構造体を形成する多孔性ボトム層またはフリット62により境界づけられている。この意味で、互いに非常に近接して位置するボトム層62の多くの細孔は、微視的な送出チャネルであると理解することが可能である。
【0034】
さらに、図7に示される実施例は、第2の次元の分離のために個別の分離チャネルを用いる代わりに、場合によりSDS-PAGE電気泳動に適合した捕集ゲルよりなる中間ストリップを介して、場合によりIEFゲルストリップに側方接合されていてもよいきわめて薄いポリアクリルアミドゲル層64が提供される点が異なる。
【0035】
図8に示されるように、マイクロタイタープレートの寸法を有する質量分析用支持プレート56上の位置決めフレーム66内に4つの分離エレメント10を配置して一緒に処理することができる。この場合、支持プレート56は、転写対象の分子を親水性アンカーゾーン58上に直接転写させることができるように、それぞれのチャネル構造体14の出口面に平行にあらかじめ決められた距離に配置される。
【0036】
したがって、この配置をとれば、保存および前処理のための保存容器68内に分離エレメント10を挿入して、取外し可能なカバーフォイル70によりその中に気密状態で密閉することができる(図9)。ボトムプレート20を取り除きながら位置決めフレーム66内に移動する操作は、好適な摺動機構(図示せず)により単純化または自動化することができる。全分離デバイスは、プロセスシーケンスを制御するための他のユニットを含む。このユニットは、当業者に公知であり、ここで個別に説明する必要もない。
【0037】
分離エレメントまたはチップ10内で処理するために、適切量のサンプル物質が適用開口22を介して第1の分離通路34に導入される。典型的な分離では、1μgの全タンパク質を約50nl〜1μlの体積のキャリヤー流体に加えた形で添加される。好適な緩衝液の存在下で電極38に電圧を印加した後、タンパク質は、それらの等電点に対応する位置まで電界およびpH勾配の中を移動する。時間制御されて約1時間で終了される第1の次元の分離が終了した後、電圧のスイッチを切ることにより等電点電気泳動を終了させる。
【0038】
また、基本的には、タンパク質の疎水性(疎水性相互作用)に基づく方法または特定の物質に対するそれらの親和性に基づく方法(アフィニティー分離)のような他の分離方法も可能である。等電点電気泳動以外に第1の次元で種々の分離方法を行うことができるので、これまで分析の対象にならなかったかまたは非常に不十分な程度でしか処理できなかったタンパク質クラスの分析が可能である。かくして、疎水性相互作用により膜タンパク質を分析することが可能であり、一方、アフィニティー分離またはイオン性相互作用によりDNA結合タンパク質のような他のクラスのタンパク質を分離することが可能である。クロマトグラフィー法では、タンパク質は、液体フロー中を移動し、クロマトグラフィー材料との相互作用に基づいてさまざまな程度で遅延される。安定な平衡状態は、この相互作用時に形成されず、むしろ、分離は動的であるので、一定時間後に停止させなければならない。
【0039】
第2の次元の分離では、第1の次元の分離に使用した緩衝液をタンパク質から除去して第2の次元の分離に好適な緩衝液でタンパク質を再平衡化させることが必要になることもある。これは、オーバー層を設けることによりチャネル42内で直接行うことができる。その場合、カバープレート18を介して新しい緩衝液を添加する。次に、SDS-PAGE緩衝液も、2つの緩衝液リザーバー46, 48に充填する。続いて、2つの電極40に電圧を印加すると、IEFで集束されたタンパク質は、それらが到達した位置に対応するIEFストリップから第2の次元の対応するチャネル36内に移動する。次に、第2の次元のSDSポリアクリルアミド充填チャネル36内のタンパク質の分離が電気泳動により行われ、その間、種々のタンパク質がそれらの分子量に従って分離される。このSDS-PAGEゲル電気泳動は、好適なマーカー物質を添加することによりモニタリングすることが可能であり、約1時間後に終了する。次に、電圧のスイッチを切る。他の選択肢として、当然のことながら、すでに先に記載した第1の次元の分離方法(IEF、疎水性相互作用、アフィニティー、イオン性相互作用)を第2の次元の分離に使用することも可能である。
【0040】
タンパク質を支持表面16から送出させるまでのタンパク質のさらなる処理は、チャネル構造体14を横切る液体フローにより行われる。カバーチャンバー24を介して所要の液体を送り込み、その間、押しのけられた空気をバルブ開口28により排気する。分離平面に垂直にかつ均一な分布をもたせて液体フローを分離領域30に通す。その間、たとえば、ボトムプレート20の捕集チャンバー32に補助真空を適用することにより、推進圧力差を増大させることができる。場合により、チャネル36を覆う有孔プレート(図示せず)により、均一な二次元分布になるように改良することができる。
【0041】
後続の質量分析のための第1の処理ステップでは、ゲルを通って第2の次元のチャネル36内に入るようにSDSを含まない緩衝溶液を誘導する。これにより、タンパク質の位置を変化させることなく、ゲルおよび分離されたタンパク質からSDSを除去する。緩衝溶液は、チャネル構造体14を通ってボトムプレート20の下部捕集チャンバー32内に送出される。続いて、正確な用量のトリプシン溶液を同じようにして添加する。トリプシンは、タンパク質を既定のポリペプチドに切断する。このプロセスでは、有意量の切断産物がゲルからまったく溶出されることなく、できるかぎりに完全にタンパク質が切断されるように、トリプシンの濃度および流量を制御する。
【0042】
このステップの後、廃溶出液を有するボトムプレート20を摺動機構により取り出す。次に、カバープレートを介して既定の体積の溶出緩衝液を添加して分離ゲルを貫流するようなフローを加えることにより、プロテアーゼ切断により生成されたタンパク質断片を送出チャネル52から溶出させる。プロテアーゼ切断により分離タンパク質から生成されたペプチドがチャネル構造体を通って支持表面16上にできるかぎり完全に堆積され、送出チャネル52の出口開口の領域内に局所化されるように、体積を制御する。
【0043】
その結果、分離領域の分子分布の転写画像が、支持表面16上に形成される。したがって、タンパク質の分離および質量分析のための準備処理は、マイクロピペットのような転写器具の外部介入を必要とすることなく最小量の物質を用いてチップ内に統合化することができる。
【0044】
要約すれば、次のように述べることができよう:本発明は、生体分子サンプル物質とくにタンパク質混合物の分離デバイスおよび分離方法に関する。この目的のために、分離平面の領域30内でサンプル物質の成分の二次元分離、好ましくは電気泳動分離を行うための分離エレメント10を提供する。本発明に従って、分離されたサンプル成分を、好ましくは質量分析に好適な支持表面16上に、分離平面に直角な輸送方向で局所的に分解能をもたせて送出するためのチャネル構造体または転写構造体14を、分離エレメント10に配設することを提案する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】プレート形分離エレメントを備えたタンパク質分離・処理デバイスの斜視図および垂直切截図を示す。
【図2】プレート形分離エレメントを備えたタンパク質分離・処理デバイスの斜視図および垂直切截図を示す。
【図3】図1に記載の分離エレメントを貫通する垂直断面図を示す。
【図4】分離エレメントの中間プレートすなわち分離プレートの斜視図を示す。
【図5a】図4に記載の分離プレートとその底面に隣接するチャネル構造体の一部分を示す上面図を示す。
【図5b】支持プレートがチャネル構造体に接合された状態の図5aのラインb-bに沿った断面図を示す。
【図5c】分離プレート上に直に支持表面を有する実施形態の部分破断斜視図を示す。
【図6】分離エレメントのさらなる実施形態の断面斜視図を示す。
【図7】分離エレメントのさらなる実施形態の断面斜視図を示す。
【図8】いくつかの分離エレメントを質量分析用支持プレートに連結するための位置決めフレームを示す絵図を示す。
【図9】分離エレメントを保存・処理するための保持ユニットの垂直断面図を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求項1および18の前提部分に準拠した、生体分子サンプル物質とくにタンパク質混合物の分離デバイスおよび分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノムの解読、すなわちヒトの全遺伝情報の配列決定は、分子生物学的研究におけて画期的な出来事であった。研究は、現在、ゲノムの機能の解明および遺伝子産物であるタンパク質に集中している。ここでは、特定の細胞集団または特定の組織で発現されるすべてのタンパク質の可能なかぎり完全な描像を得ることが望まれる。タンパク質の同一性および量は、細胞または組織の特定の発生段階または生理学的状態に関連付けられなければならない。したがって、機能描写が行えるようにすべてのタンパク質についてできるかぎり正確かつ定量的な描像を得ることが望まれる。「ポストゲノム」時代のこの研究は、プロテオミクスとも呼ばれる。ゲノムは基本的には静的因子であるが、生きている生物のプロテオームは、温度、栄養環境、およびストレスや薬剤の作用に依存して変化するその能力により特性付けられる。したがって、種々の発育相において特定の環境条件下で細胞または生物の遺伝子により合成されるタンパク質全体が包含される。
【0003】
プロテオミクスでは、すべてのタンパク質を同定および定量することにより、タンパク質の機能、レギュレーション、および相互作用に関する新しい情報を得ることが意図される。とくに、その目標は、正常細胞と「変質」癌細胞との間の定量可能な差異または「疾患」細胞と「健常」細胞との間のタンパク質レパートリーの差異を明らかにすることである。次に、これにより、治療上有効な物質の特定の探索が可能になる。
【0004】
プロテオームを分析するために、タンパク質の全量がその各成分に分離される。すなわち、何千種にも及ぶ各タンパク質が、混合物から物理的に分離される。これは、通常、いわゆる二次元(2-D)電気泳動により達成される。この方法では、細胞集団または組織からの全タンパク質が、できるかぎりに定量的に単離される。また、所要により、全タンパク質のうちの特定の画分(たとえば、ミトコンドリアのような特定の細胞オルガネラからのタンパク質)だけについて詳細に調べることが望まれるのであれば、特定の分別ステップが行われる。
【0005】
次に、等電点電気泳動(IEF)が第1の次元で行われ、pH勾配をもたせた特別のゲル中または固体担体上でそれらの等電点pIに基づいてタンパク質が分離される。タンパク質は電界中を移動し、各タンパク質に特有なそれらのpI位置に集中する。等電点電気泳動のこの第1のステップでは、固定化されたpH勾配を有する膜もしくはストリップまたは両性電解質緩衝剤を有するゲルを保持するための特定の電気泳動装置が必要とされる。等電点電気泳動法は、通常、長時間(24〜48時間)を要する。
【0006】
等電点電気泳動が終了した後、ゲルまたは膜は、通常、第1の装置から取り出され、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含有する電気泳動緩衝液中で平衡化される。次に、各ゲルまたは各膜は、第2のゲル装置中の新しい第2のゲル上に配置される。これらの第2のゲルは、SDS/ポリアクリルアミドよりなる。IEFゲルに垂直な方向に電圧を印加した後、集束タンパク質は、第2のゲル中に移動し、そこでそれらの分子量に従って分離される。この電気泳動分離もまた、長時間(>16時間)を要する可能性がある。
【0007】
次のステップで、このようにして分離されたタンパク質は視覚化される。これは、Coomassie Brilliant Blue、コロイドCoomassie、硝酸銀、または蛍光染料(SYPRO Red, SYPRO Ruby)を用いた染色ステップにより行われる。続いて、染色されたゲルは、通常、ディジタルイメージングシステムで写真撮影される。または染色されたスポットが文書に記録される。より正確な科学的記述を行えるように、染色されたすべてのタンパク質または特定の対象タンパク質(たとえば、その位置および/または量が参照に対して変化したもの)が、同定され特性付けられる。これは、通常、質量分析法により行われる。最もよく使用される方法は、MALDI-TOF(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間)質量分析法による特定のスポットのペプチド断片の分析である。このために、染色された各タンパク質スポットのマルチステップ処理が再び行われる。
【0008】
第1のステップでは、染色されたタンパク質スポットが、できるかぎり少ない体積でゲルから単離される。これは、手作業で行われるかまたは自動のソフトウェア制御スポットピッカーにより行われる。次に、ゲルの少量のタンパク質含有部片(数μlの体積)が緩衝剤と共にインキュベートされ、SDSおよび染料がゲルから確実に除去されるようにする。次に、ゲル部片は乾燥され、プロテアーゼ消化に好適な緩衝液に溶解され、そしてプロテアーゼ(通常はトリプシン)と共にインキュベートされる。これにより、タンパク質はゲル中で既定の断片に切断される。続いて、タンパク質断片(ペプチド)は、洗浄されてゲルから取り出されるかまたは重炭酸アンモニウムで溶出される。
【0009】
次に、各ゲル部片から単離されたペプチドは、質量分析用の支持体に別々に適用され、乾燥および場合により再結晶が行われた後、質量分析(MALDI-TOF)にかけられる。質量分析から得られたデータを用いて、好適なデータベースと比較することにより、タンパク質の明確な同定およびタンパク質の量の相対的定量を行うことができる。
【0010】
質量分析のための処理と共に以上に記載した古典的2-D電気泳動法は、次のようないくつかの欠点を有する:
・比較的大量の全タンパク質(ミリグラム)が必要とされる。この量は、とくに特別な関心が払われている問題を扱う際、たとえば、腫瘍組織について調べる場合、入手できないことが多い。
【0011】
・時間や労力が非常にかかる。
【0012】
・非常に多くのステップが含まれ、いくつかの場合には、手作業でしか行うことができない。
【0013】
・多くの装置(IEF電気泳動装置、SDS-PAGE電気泳動装置、染色装置、イメージャー、スポットピッカー、ゲル部片インキュベーター、乾燥機、自動ピペッターなど)が必要とされる。
【0014】
・IEFに好適なタンパク質の分離が可能であるにすぎない。多くのクラスのタンパク質、とくに特別な関心が払われているタンパク質、たとえば、膜タンパク質/レセプター、細胞核関連またはDNA関連のタンパク質は、IEFにより分離することができないかまたは適切に分離することができない。
【0015】
プロセス全体は、非常に再現性がない。
【0016】
タンパク質の二次元分離用として電気泳動チップが文献または特許出願に記載されているが(US 6214191, US 5599432, EP 977030, WO 0058721; Becker et al., J. Micromech. Microeng. 1988, 8, 24)、それらは製品としてまたはプロトタイプとしてまだ入手できないので、試験を行うことができない。このさらなる処理に対して光学的検出方法が記載されているが、その方法により得られたデータは示されていない。そのようなチップは、ごく少量のタンパク質を分離できるという利点を有するとはいえ、このごく少量を光学的に検出するのは依然としてほぼ不可能であることは当業者には明らかである。
【発明の開示】
【0017】
こうした状況を踏まえて、本発明の目的は、先行技術の欠点を回避すること、および自動化が可能で取り扱いが容易である方法により、確実にかつ非常に正確にごく少量のタンパク質を処理したり分析したりできるように、先に述べたタイプのデバイスおよび方法を改良することである。
【0018】
独立した特許請求項に記載の特徴の組合せにより、この目的を達成することを提案する。
【0019】
本発明は、サンプル成分の分離に加えてサンプル成分の特定の処理が行えるように構造要素として一体化されたサンプル物質用の三次元輸送構造体を作製するというアイディアに依拠する。したがって、本発明は、分離されたサンプル成分を分離平面と直角な輸送方向で支持表面上に送出するためのチャネル構造体を分離エレメントに配設することを提案する。この結果、方法の観点からみて、本発明により、分離されたサンプル成分を分離平面と直角な方向で分離エレメントから支持表面上に送出することができる。
【0020】
本発明によれば、容易に自動化しうるタンパク質の迅速分離が可能であり、さらに単一の三次元基本エレメントによる支持表面上または基材上への直接的な空間分解能のある送出が可能である。したがって、二次元タンパク質分離に含まれる情報内容を情報損失を伴うことなく第3の次元に転写することが可能である。本発明によれば、他の場合には個別のデバイスで行われる一連のプロセス全体が、単一のエレメント内で組み合わされる。とくに、手作業のステップは、削減されてサンプルの適用だけになる。必要とされる生体物質の量を数桁減少させることができるので、分析にはマイクログラムの量があれば十分である。部分的なステップを単一の構造エレメントに統合することにより、および手作業の中間ステップを省略することにより、プロセス全体として、再現性および制御可能性が著しく増大される。さらに、プロセス全体の所要時間を数時間まで削減することができる。これにより、比較的大量の物質が必要であることが原因でこれまで対象にならなかったまったく新しいタイプの問題に対処できるようになるとともに、生物学的過程をかなり詳細に識別できるようになる。分離エレメントの自由表面上に堆積された物質(たとえば、ペプチド)は、たとえば質量分析により直接分析することができる。場合により、質量分析専用のターゲットプレートが支持基材として提供される。基本的には、たとえば、分離されたタンパク質またはペプチドの活性試験または結合試験を行うための機能アッセイが、他の用途として考えられる。
【0021】
本発明の有利な実施形態およびさらなる改良形態は、従属請求項ならびに以下の適用例の説明および図面から得られる。次に概略図を用いて説明する。
【0022】
図面に示されるプレート形分離エレメント10は、タンパク質物質の二次元分離を行うための分離プレート12と、分離されたサンプル成分を質量分析に好適な支持表面16上に正しく位置決めして送出するための、分離プレートに直角な方向に機能する輸送構造体またはチャネル構造体14と、分離プレート12の両側に界接するカバープレート18およびボトムプレート20と、より本質的になる。
【0023】
図1〜3に示されるように、カバープレート18は、サンプルを適用するためのそれを貫通するスリット形開口22と、分離プレート12の方向に開口するカバーチャンバー24と、カバーチャンバー24中に開口する側方入口開口26と、中央バルブ開口28と、を有する。分離プレート12は、2つの上下に重ねられた領域内に三次元チャネルシステムを形成する。一方の領域は、その底面が、プレート内または分離平面内に位置する上部二次元分離領域30内で、第3の次元の方向に通過させるチャネル構造体14により境界付けられている。ボトムプレート20は、プレート配置を支持し安定化させる役割を果たし、チャネル構造体14の方向に開口する捕集チャンバー32を含む。
【0024】
複合チップとして設計される分離エレメント10の基材材料は、シリコン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、他のポリマー(たとえば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリジメチルシロキサン)、人造樹脂、セラミックス、もしくは金属、またはこれらの材料のさまざまな組合せよりなりうる。基材材料は必要な精度で成形が可能でありかつサンプル処理に使用される物質に適合することが重要である。基材材料は、便宜上、電気泳動分離および場合により効率的な冷却が行えるように、電気絶縁性および熱伝導性でなければならない。分離エレメント10は、たとえば、6×4cmの底面積(従来のマイクロタイタープレートの1/4に相当する)を有する。
【0025】
図4に切り離して示されている分離プレート12は、逐次的2D電気泳動を行うためにプレート平面内に直交した分離通路34, 36を有する。2つの電極対38, 40は、この目的のために提供されており、電気接続ラグを介して好適な直流電圧を印加することができる。
【0026】
電極38間の第1の次元の分離通路34は、細長い凹部42により形成されており、この凹部には、あらかじめ形成されたpH勾配を有するゲルまたは膜ストリップ(図示せず)が、タンパク質分子の等電点電気泳動(IEF)を行うために配置される。この目的のために、電極38の領域内の保存ゾーン44に電気泳動用緩衝液をあらかじめ配置しておくことができる。
【0027】
第2の次元の分離通路は、電極40間に延在する一群の平行チャネル36により形成され、凹部42に沿って分布してそれと直角な方向に分岐する。チャネルの数は、第1の次元の所望の達成可能な分解能または分離効率に依存する。それは、10〜数千、好ましくは50〜500の間にありうる。分子は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含有する電気泳動用緩衝液中におけるポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により、これらのチャネル内で分離される。これに関連して、電極40の領域内の凹部46, 48は、緩衝液リザーバーとして役立ちうる。
【0028】
製造プロセス時、最初に、SDS-PAGE分離ゲルが第2の次元のチャネル36および緩衝液リザーバー46, 48に導入されて光重合される。これに関連して、ゲルタイプの混合を防止するために、IEFゲルストリップ用の凹部42を機械的に分離することができる(セパレーター50)。これはまた、チャネル36の最初の部分を分離ゲルに先行する捕集ゲルで満たす場合に有利である。捕集ゲルを用いれば、タンパク質を捕集して分離ゲルに界接するゾーン内に圧縮することにより、各タンパク質バンドのより鮮明なゾーンを形成することが可能である。
【0029】
図5a, bに最も良好に示されるように、チャネル構造体14は、分離チャネル36の底部に整列された送出チャネル52により形成される。これらは、分離チャネル36全体に及ぶ分離平面に垂直な方向に延在し、分離領域30全体にわたってチャネルマトリックスを形成する。これにより、以下で詳細に説明されるように、分子分離で得られた2Dパターンを忠実な画像として送出することが可能である。1つの分離チャネル36あたりの送出チャネル52の数は、先の場合と同様に、第2の次元の所望の達成可能な分離の分解能に依存する。それは、10〜1000、好ましくは30〜400の間でありうる。送出チャネル52は、好ましくは円錐状にテーパーが付けられ、たとえば、100μmの上部入口直径および50μmの下部開口断面を有する(図5b)。しかしながら、分離が終了した後、できるかぎり損失を少なくして第3の次元でタンパク質を処理するために、他のチャネル幾何学形状を考えることもできる。
【0030】
この目的のために、ボトムプレート20を取り除いて、分離プレートの下側54を、質量分析用に提供された支持プレート56上に、とくにマトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF)用に設計されたターゲットプレート上に、配置することができる。支持プレートは、種々の材料(金属、プラスチック、ポリマー)で構成することができる。材料は後続の質量分析に適合すること、とくにMALDI-TOFにかけるべく導電性であることが重要である。送出チャネル52の二次元分布に合わせて、転写される物質に対して親水性のアンカーゾーン58を支持プレート56の疎水性表面上に配置することができる。これらのアンカーゾーンの位置およびサイズは、溶出された分子断片を直接捕獲することができるようにかつ分離プロセスで達成された幾何学的分解能がターゲットプレート上で本質的に保持されるように、送出チャネルに対して適合化される。
【0031】
図5cに示されるとくに単純な実施形態では、支持表面16は、分離プレート12自体の自由表面により形成される。支持表面16が送出チャネル52の出口59の周囲にサンプル物質に対して親水性の環状アンカーゾーン58を有し他の部分が疎水性である場合が有利である。これは、適切な化学的誘導体化またはコーティングにより達成することができる。また、送出チャネル52の出口開口の周囲にウェル形凹部を設けることにより、送出されたペプチドを表面16上に確実に堆積させるように改良することができる(図示せず)。この場合にも、分離プロセスで達成された幾何学的分解能が保持されなければならない。次に、表面16上に堆積されたペプチドを有する分離プレート12を質量分析に好適なホルダーに挿入し、そして質量分析にかける。このプロセスでは、ペプチドは、レーザーにより分離エレメントの表面16から直接脱離される。
【0032】
3つの次元のチャネル34, 36, 52は、連続的に直接接続させることもできるし、または一方の次元から他方の次元に移行するときにのみ開放されるバリヤーまたはバルブにより分離することもできる。接続は、機械的に、すなわちチャネルを移動させたり回転させたりすることにより、行うこともできるし、または機械的バリヤーを設けることもできる。また、チャネルは、化学的に、たとえば、所望の時間で溶解されるポリマーにより、分離することもできる。また、浸透性を調節することのできる半透膜により種々の次元のチャネルを分離することも考えられる。
【0033】
図6に示される実施形態では、SDS-PAGE分離ゲル60で満たされた第2の次元の分離チャネル36は、その下端が、互いに流体連通したマイクロ細孔により分離平面と直角な方向にフロースルーチャネル構造体を形成する多孔性ボトム層またはフリット62により境界づけられている。この意味で、互いに非常に近接して位置するボトム層62の多くの細孔は、微視的な送出チャネルであると理解することが可能である。
【0034】
さらに、図7に示される実施例は、第2の次元の分離のために個別の分離チャネルを用いる代わりに、場合によりSDS-PAGE電気泳動に適合した捕集ゲルよりなる中間ストリップを介して、場合によりIEFゲルストリップに側方接合されていてもよいきわめて薄いポリアクリルアミドゲル層64が提供される点が異なる。
【0035】
図8に示されるように、マイクロタイタープレートの寸法を有する質量分析用支持プレート56上の位置決めフレーム66内に4つの分離エレメント10を配置して一緒に処理することができる。この場合、支持プレート56は、転写対象の分子を親水性アンカーゾーン58上に直接転写させることができるように、それぞれのチャネル構造体14の出口面に平行にあらかじめ決められた距離に配置される。
【0036】
したがって、この配置をとれば、保存および前処理のための保存容器68内に分離エレメント10を挿入して、取外し可能なカバーフォイル70によりその中に気密状態で密閉することができる(図9)。ボトムプレート20を取り除きながら位置決めフレーム66内に移動する操作は、好適な摺動機構(図示せず)により単純化または自動化することができる。全分離デバイスは、プロセスシーケンスを制御するための他のユニットを含む。このユニットは、当業者に公知であり、ここで個別に説明する必要もない。
【0037】
分離エレメントまたはチップ10内で処理するために、適切量のサンプル物質が適用開口22を介して第1の分離通路34に導入される。典型的な分離では、1μgの全タンパク質を約50nl〜1μlの体積のキャリヤー流体に加えた形で添加される。好適な緩衝液の存在下で電極38に電圧を印加した後、タンパク質は、それらの等電点に対応する位置まで電界およびpH勾配の中を移動する。時間制御されて約1時間で終了される第1の次元の分離が終了した後、電圧のスイッチを切ることにより等電点電気泳動を終了させる。
【0038】
また、基本的には、タンパク質の疎水性(疎水性相互作用)に基づく方法または特定の物質に対するそれらの親和性に基づく方法(アフィニティー分離)のような他の分離方法も可能である。等電点電気泳動以外に第1の次元で種々の分離方法を行うことができるので、これまで分析の対象にならなかったかまたは非常に不十分な程度でしか処理できなかったタンパク質クラスの分析が可能である。かくして、疎水性相互作用により膜タンパク質を分析することが可能であり、一方、アフィニティー分離またはイオン性相互作用によりDNA結合タンパク質のような他のクラスのタンパク質を分離することが可能である。クロマトグラフィー法では、タンパク質は、液体フロー中を移動し、クロマトグラフィー材料との相互作用に基づいてさまざまな程度で遅延される。安定な平衡状態は、この相互作用時に形成されず、むしろ、分離は動的であるので、一定時間後に停止させなければならない。
【0039】
第2の次元の分離では、第1の次元の分離に使用した緩衝液をタンパク質から除去して第2の次元の分離に好適な緩衝液でタンパク質を再平衡化させることが必要になることもある。これは、オーバー層を設けることによりチャネル42内で直接行うことができる。その場合、カバープレート18を介して新しい緩衝液を添加する。次に、SDS-PAGE緩衝液も、2つの緩衝液リザーバー46, 48に充填する。続いて、2つの電極40に電圧を印加すると、IEFで集束されたタンパク質は、それらが到達した位置に対応するIEFストリップから第2の次元の対応するチャネル36内に移動する。次に、第2の次元のSDSポリアクリルアミド充填チャネル36内のタンパク質の分離が電気泳動により行われ、その間、種々のタンパク質がそれらの分子量に従って分離される。このSDS-PAGEゲル電気泳動は、好適なマーカー物質を添加することによりモニタリングすることが可能であり、約1時間後に終了する。次に、電圧のスイッチを切る。他の選択肢として、当然のことながら、すでに先に記載した第1の次元の分離方法(IEF、疎水性相互作用、アフィニティー、イオン性相互作用)を第2の次元の分離に使用することも可能である。
【0040】
タンパク質を支持表面16から送出させるまでのタンパク質のさらなる処理は、チャネル構造体14を横切る液体フローにより行われる。カバーチャンバー24を介して所要の液体を送り込み、その間、押しのけられた空気をバルブ開口28により排気する。分離平面に垂直にかつ均一な分布をもたせて液体フローを分離領域30に通す。その間、たとえば、ボトムプレート20の捕集チャンバー32に補助真空を適用することにより、推進圧力差を増大させることができる。場合により、チャネル36を覆う有孔プレート(図示せず)により、均一な二次元分布になるように改良することができる。
【0041】
後続の質量分析のための第1の処理ステップでは、ゲルを通って第2の次元のチャネル36内に入るようにSDSを含まない緩衝溶液を誘導する。これにより、タンパク質の位置を変化させることなく、ゲルおよび分離されたタンパク質からSDSを除去する。緩衝溶液は、チャネル構造体14を通ってボトムプレート20の下部捕集チャンバー32内に送出される。続いて、正確な用量のトリプシン溶液を同じようにして添加する。トリプシンは、タンパク質を既定のポリペプチドに切断する。このプロセスでは、有意量の切断産物がゲルからまったく溶出されることなく、できるかぎりに完全にタンパク質が切断されるように、トリプシンの濃度および流量を制御する。
【0042】
このステップの後、廃溶出液を有するボトムプレート20を摺動機構により取り出す。次に、カバープレートを介して既定の体積の溶出緩衝液を添加して分離ゲルを貫流するようなフローを加えることにより、プロテアーゼ切断により生成されたタンパク質断片を送出チャネル52から溶出させる。プロテアーゼ切断により分離タンパク質から生成されたペプチドがチャネル構造体を通って支持表面16上にできるかぎり完全に堆積され、送出チャネル52の出口開口の領域内に局所化されるように、体積を制御する。
【0043】
その結果、分離領域の分子分布の転写画像が、支持表面16上に形成される。したがって、タンパク質の分離および質量分析のための準備処理は、マイクロピペットのような転写器具の外部介入を必要とすることなく最小量の物質を用いてチップ内に統合化することができる。
【0044】
要約すれば、次のように述べることができよう:本発明は、生体分子サンプル物質とくにタンパク質混合物の分離デバイスおよび分離方法に関する。この目的のために、分離平面の領域30内でサンプル物質の成分の二次元分離、好ましくは電気泳動分離を行うための分離エレメント10を提供する。本発明に従って、分離されたサンプル成分を、好ましくは質量分析に好適な支持表面16上に、分離平面に直角な輸送方向で局所的に分解能をもたせて送出するためのチャネル構造体または転写構造体14を、分離エレメント10に配設することを提案する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】プレート形分離エレメントを備えたタンパク質分離・処理デバイスの斜視図および垂直切截図を示す。
【図2】プレート形分離エレメントを備えたタンパク質分離・処理デバイスの斜視図および垂直切截図を示す。
【図3】図1に記載の分離エレメントを貫通する垂直断面図を示す。
【図4】分離エレメントの中間プレートすなわち分離プレートの斜視図を示す。
【図5a】図4に記載の分離プレートとその底面に隣接するチャネル構造体の一部分を示す上面図を示す。
【図5b】支持プレートがチャネル構造体に接合された状態の図5aのラインb-bに沿った断面図を示す。
【図5c】分離プレート上に直に支持表面を有する実施形態の部分破断斜視図を示す。
【図6】分離エレメントのさらなる実施形態の断面斜視図を示す。
【図7】分離エレメントのさらなる実施形態の断面斜視図を示す。
【図8】いくつかの分離エレメントを質量分析用支持プレートに連結するための位置決めフレームを示す絵図を示す。
【図9】分離エレメントを保存・処理するための保持ユニットの垂直断面図を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離平面の領域(30)でサンプル物質の成分の二次元分離、好ましくは電気泳動分離を行うための分離エレメント(10)を備える、生体分子サンプル物質とくにタンパク質混合物の分離デバイスであって、該分離エレメント(10)が、該分離平面を横切る輸送方向に、分離されたサンプル成分を支持表面(16)上に送出するためのチャネル構造体(14)を有することを特徴とする、上記分離デバイス。
【請求項2】
前記支持表面(16)が、前記分離エレメント(10)の自由表面によりまたは個別の支持基材(16)により形成されることを特徴とする、請求項1に記載の分離デバイス。
【請求項3】
前記分離されたサンプル成分の相対的な位置が、それらが前記支持表面(16)上に送出されるときに本質的には保持されるように、前記チャネル構造体(14)が、前記分離エレメント(10)の分離領域(30)上に延在することを特徴とする、請求項1または2に記載の分離デバイス。
【請求項4】
前記チャネル構造体(14)が、前記分離エレメント(10)の分離領域(30)上にグリッド状またはマトリックス状に分布しかつ前記分離平面に垂直である複数の送出チャネル(52)を有することを特徴とする、請求項1〜3のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項5】
前記チャネル構造体(14)が、多孔性プレート(62)または層により形成され、かつその細孔が、前記分離平面に垂直である微視的なフロースルー送出チャネルを形成する、請求項1〜4のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項6】
前記チャネル構造体(14)の自由転写表面(54)が、前記支持基材(16)に結合可能であることを特徴とする、請求項1〜5のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項7】
前記支持表面(16)が、質量分析とくにMALDI-TOF分析に適合するように設計されることを特徴とする、請求項1〜6のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項8】
前記支持基材(16)が、質量分析用に設計された支持プレート(56)により、とくにMALDI-TOFターゲットプレートにより、形成されることを特徴とする、請求項1〜6のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項9】
前記支持表面(16)が、前記送出チャネル(52)の出口領域に前記サンプル物質に対して親水性のアンカーゾーン(58)を有することを特徴とする、請求項1〜8のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項10】
前記分離エレメント(10)が、二次元サンプル分離のために、前記分離平面内を通る直交した分離通路(34, 36)を有することを特徴とする、請求項1〜9のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項11】
前記分離通路(34, 36)が、とくに等電点電気泳動(IEF)またはポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により電気泳動分子分離を行うように設計されることを特徴とする、請求項10に記載の分離デバイス。
【請求項12】
第1の次元の分離通路(34)において、第2の次元の一群の隣接した分離通路(36)が横方向に分岐することを特徴とする、請求項10または11に記載の分離デバイス。
【請求項13】
少なくとも前記第2の次元の分離通路(34, 36)が、サンプル物質を溶出させるために直角方向の流動を可能にすることを特徴とする、請求項10〜12のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項14】
前記分離エレメント(10)が、表面上に分布した液体フローの通過を可能にするように前記分離平面に平行にアライメントされた有孔プレートを有することを特徴とする、請求項1〜13のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項15】
前記分離通路(34, 36)が、とくに、キャピラリー状の微視的な分離チャネルによりおよび/またはポリマー材料もしくはポリアクリルアミドゲルなどのゲル材料の分離層により形成されることを特徴とする、請求項10〜14のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項16】
前記第1および第2の次元の分離通路(34, 36)が、バリヤーまたはバルブにより、互いにおよび/または前記チャネル構造体(14)から選択的に分離可能であることを特徴とする、請求項10〜15のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項17】
前記支持基材(16)に対して既定の相対位置で1つ以上の分離エレメント(10)を固定するための位置決めフレーム(66)を特徴とする、請求項1〜16のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項18】
サンプル成分が分離エレメント(10)の分離平面内で好ましくは電気泳動により分離される、生体分子サンプル物質とくにタンパク質混合物の分離方法であって、分離された該サンプル成分が該分離平面と直角な方向で支持表面(16)上に送出されることを特徴とする、上記分離方法。
【請求項19】
前記分離されたサンプル成分が、前記分離平面内のそれらの二次元分布に対応して好ましくはマトリックス状またはグリッド状に前記支持表面上に送出されることを特徴とする、請求項18に記載の分離方法。
【請求項20】
前記サンプル成分が、前記分離平面上にかつそれに直角な方向を向いて分布した複数の送出チャネル(52)により前記支持表面(16)上に転写されることを特徴とする、請求項18または19に記載の分離方法。
【請求項21】
前記サンプル成分が、それらの二次元分離の後で質量分析に直接かけられるように前記分離エレメント(10)内に準備されることを特徴とする、請求項18〜20のうちの1項に記載の分離方法。
【請求項22】
前記分離されたサンプル成分が、前記分離平面と直角な方向にアライメントされた液体フローで処理、とくに、洗浄、切断、かつ/または送出されることを特徴とする、請求項18〜21のうちの1項に記載の分離方法。
【請求項23】
前記分離されたサンプル成分が、前記分離表面を形成する前記分離エレメント(10)の表面に送出され、次に、質量分析により、とくにMALDI-TOF分析により、この表面上で直接分析されることを特徴とする、請求項18〜22のうちの1項に記載の分離方法。
【請求項24】
前記分離されたサンプル成分が、前記分離エレメント(10)から、前記支持表面(16)を形成する質量分析用支持プレート(56)とくにMALDI-TOFプレートに転写されることを特徴とする、請求項18〜22のうちの1項に記載の分離方法。
【請求項1】
分離平面の領域(30)でサンプル物質の成分の二次元分離、好ましくは電気泳動分離を行うための分離エレメント(10)を備える、生体分子サンプル物質とくにタンパク質混合物の分離デバイスであって、該分離エレメント(10)が、該分離平面を横切る輸送方向に、分離されたサンプル成分を支持表面(16)上に送出するためのチャネル構造体(14)を有することを特徴とする、上記分離デバイス。
【請求項2】
前記支持表面(16)が、前記分離エレメント(10)の自由表面によりまたは個別の支持基材(16)により形成されることを特徴とする、請求項1に記載の分離デバイス。
【請求項3】
前記分離されたサンプル成分の相対的な位置が、それらが前記支持表面(16)上に送出されるときに本質的には保持されるように、前記チャネル構造体(14)が、前記分離エレメント(10)の分離領域(30)上に延在することを特徴とする、請求項1または2に記載の分離デバイス。
【請求項4】
前記チャネル構造体(14)が、前記分離エレメント(10)の分離領域(30)上にグリッド状またはマトリックス状に分布しかつ前記分離平面に垂直である複数の送出チャネル(52)を有することを特徴とする、請求項1〜3のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項5】
前記チャネル構造体(14)が、多孔性プレート(62)または層により形成され、かつその細孔が、前記分離平面に垂直である微視的なフロースルー送出チャネルを形成する、請求項1〜4のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項6】
前記チャネル構造体(14)の自由転写表面(54)が、前記支持基材(16)に結合可能であることを特徴とする、請求項1〜5のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項7】
前記支持表面(16)が、質量分析とくにMALDI-TOF分析に適合するように設計されることを特徴とする、請求項1〜6のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項8】
前記支持基材(16)が、質量分析用に設計された支持プレート(56)により、とくにMALDI-TOFターゲットプレートにより、形成されることを特徴とする、請求項1〜6のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項9】
前記支持表面(16)が、前記送出チャネル(52)の出口領域に前記サンプル物質に対して親水性のアンカーゾーン(58)を有することを特徴とする、請求項1〜8のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項10】
前記分離エレメント(10)が、二次元サンプル分離のために、前記分離平面内を通る直交した分離通路(34, 36)を有することを特徴とする、請求項1〜9のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項11】
前記分離通路(34, 36)が、とくに等電点電気泳動(IEF)またはポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により電気泳動分子分離を行うように設計されることを特徴とする、請求項10に記載の分離デバイス。
【請求項12】
第1の次元の分離通路(34)において、第2の次元の一群の隣接した分離通路(36)が横方向に分岐することを特徴とする、請求項10または11に記載の分離デバイス。
【請求項13】
少なくとも前記第2の次元の分離通路(34, 36)が、サンプル物質を溶出させるために直角方向の流動を可能にすることを特徴とする、請求項10〜12のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項14】
前記分離エレメント(10)が、表面上に分布した液体フローの通過を可能にするように前記分離平面に平行にアライメントされた有孔プレートを有することを特徴とする、請求項1〜13のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項15】
前記分離通路(34, 36)が、とくに、キャピラリー状の微視的な分離チャネルによりおよび/またはポリマー材料もしくはポリアクリルアミドゲルなどのゲル材料の分離層により形成されることを特徴とする、請求項10〜14のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項16】
前記第1および第2の次元の分離通路(34, 36)が、バリヤーまたはバルブにより、互いにおよび/または前記チャネル構造体(14)から選択的に分離可能であることを特徴とする、請求項10〜15のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項17】
前記支持基材(16)に対して既定の相対位置で1つ以上の分離エレメント(10)を固定するための位置決めフレーム(66)を特徴とする、請求項1〜16のうちの1項に記載の分離デバイス。
【請求項18】
サンプル成分が分離エレメント(10)の分離平面内で好ましくは電気泳動により分離される、生体分子サンプル物質とくにタンパク質混合物の分離方法であって、分離された該サンプル成分が該分離平面と直角な方向で支持表面(16)上に送出されることを特徴とする、上記分離方法。
【請求項19】
前記分離されたサンプル成分が、前記分離平面内のそれらの二次元分布に対応して好ましくはマトリックス状またはグリッド状に前記支持表面上に送出されることを特徴とする、請求項18に記載の分離方法。
【請求項20】
前記サンプル成分が、前記分離平面上にかつそれに直角な方向を向いて分布した複数の送出チャネル(52)により前記支持表面(16)上に転写されることを特徴とする、請求項18または19に記載の分離方法。
【請求項21】
前記サンプル成分が、それらの二次元分離の後で質量分析に直接かけられるように前記分離エレメント(10)内に準備されることを特徴とする、請求項18〜20のうちの1項に記載の分離方法。
【請求項22】
前記分離されたサンプル成分が、前記分離平面と直角な方向にアライメントされた液体フローで処理、とくに、洗浄、切断、かつ/または送出されることを特徴とする、請求項18〜21のうちの1項に記載の分離方法。
【請求項23】
前記分離されたサンプル成分が、前記分離表面を形成する前記分離エレメント(10)の表面に送出され、次に、質量分析により、とくにMALDI-TOF分析により、この表面上で直接分析されることを特徴とする、請求項18〜22のうちの1項に記載の分離方法。
【請求項24】
前記分離されたサンプル成分が、前記分離エレメント(10)から、前記支持表面(16)を形成する質量分析用支持プレート(56)とくにMALDI-TOFプレートに転写されることを特徴とする、請求項18〜22のうちの1項に記載の分離方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図5c】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2006−505786(P2006−505786A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−550931(P2004−550931)
【出願日】平成15年11月5日(2003.11.5)
【国際出願番号】PCT/EP2003/012320
【国際公開番号】WO2004/044574
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年11月5日(2003.11.5)
【国際出願番号】PCT/EP2003/012320
【国際公開番号】WO2004/044574
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】
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