説明

生体反応実行装置および生体反応実行方法、DNAチップ、情報処理装置および情報処理方法、プログラム、並びに、記録媒体

【課題】 DNAチップにおいて、ターゲット遺伝子が含まれた溶液が滴下される流路に電場を発生させ、ターゲット遺伝子を電気泳動させる。
【解決手段】 交流供給部41は、電磁誘導発生部42において電磁誘導を発生させるための交流電流を電磁誘導発生部42に供給する。電磁誘導発生部42は、供給された交流電流により、磁誘導を発生し、装着されたDNAチップ43に設けられている、ターゲット遺伝子を含む溶液が滴下される流路付近に磁場を発生させるとともに、発生される磁場を打ち消すために発生する電場のうちの一方をキャンセルさせ、他方を維持させる。ターゲット遺伝子は電荷を帯びているため、DNAチップ43上に形成された流路内で、電磁誘導発生部42により発生された磁場を打ち消すために発生し、1方向のみ維持される電場により、電気泳動する。本発明は、実験処理装置に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体反応実行装置および生体反応実行方法、DNAチップ、情報処理装置および情報処理方法、プログラム、並びに、記録媒体に関し、特に、ターゲット遺伝子の検出精度を向上させることが出来るようにした、生体反応実行装置および生体反応実行方法、DNAチップ、情報処理装置および情報処理方法、プログラム、並びに、記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DNAチップ、または、DNAマイクロアレイ(以下、本明細書では両者を個々に区別する必要がない場合、まとめて単にDNAチップと称する)の実用化が進んでいる。DNAチップは、多種・多数のDNAオリゴ鎖を、検出用核酸として基板表面に集積して固定したものである。DNAチップを用いて、基板表面のスポットに固定されたプローブと、細胞などから採取したサンプル中のターゲットとのハイブリダイゼーションを検出することにより、採取した細胞内における遺伝子発現を網羅的に解析することができる。
【0003】
DNAチップなどによって得られた遺伝子発現量の解析方法、補正方法などに関する先行文献として、例えば、特許文献1乃至特許文献3がある。
【特許文献1】特開2002−71688号公報
【特許文献2】特表2002−267668号公報
【特許文献3】特開2003−28862号公報
【0004】
従来では、プローブとターゲット遺伝子のハイブリダイズ機会を増やすために、サンプルが滴下された発現解析用反応槽内の溶液を撹拌したり、熱を加えたりしていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プローブとターゲット遺伝子のハイブリダイズ機会を増やすためには、プローブとターゲット遺伝子の会合回数を増やす必要があり、そのためには、発現解析用反応槽内のターゲット遺伝子の移動量が多いほうが好適である。従来では、上述したように、プローブとターゲット遺伝子のハイブリダイズ機会を増やすために、サンプルが滴下された発現解析用反応槽内の溶液を撹拌したり、熱を加えたりしていた。しかしながら、従来の方法では、溶液の拡散の強さや与えられる熱により、サンプルに与えられるエネルギー量の制御が困難であった。
【0006】
また、ターゲット遺伝子の移動量を大きくして、プローブとターゲット遺伝子のハイブリダイズ機会を増やすために、例えば、撹拌を強くしたり、温度を高くした場合、意図していたハイブリダイズ状態を破壊してしまう確率も高くなってしまっていた。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、ターゲット遺伝子の検出精度を向上させるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の生体反応実行装置は、閉じた流路が少なくとも1つ構成されている基板の流路内に設けられた反応領域に固定された第1の生体物質と、第1の生体物質に対して生体反応する第2の生体物質とを生体反応させる生体反応実行装置であって、装着された基板の流路内に滴下された液体に含まれる第2の生体物質を電気泳動させるために、電磁誘導を発生し、流路にそって、所定方向の電場を発生させる電磁誘導発生部を備えることを特徴とする。
【0009】
基板に構成されている流路は、円形であるものとすることができる。
【0010】
第2の生体物質には、第1の生体物質に対して特異的に生体反応する第3の生体物質と、第1の生体物質に対して非特異的に生体反応する第4の生体物質とが含まれ、電磁誘導発生部には、所定方向の電場により流路内の第2の生体物質の電気泳動のために与えられるエネルギーが、第1の生体物質と第3の生体物質との生体反応による接合を解離させず、第1の生体物質と第4の生体物質との生体反応による接合を解離させることが可能なエネルギーとなるように、電磁誘導を発生させるようにすることができる。
【0011】
電磁誘導発生部に交流電圧を供給する交流供給部を更に備えさせるようにすることができ、交流供給部により電磁誘導発生部に供給される交流電圧の電力量は、所定方向の電場により流路内の第2の生体物質の電気泳動のために与えられるエネルギーが、第1の生体物質と第3の生体物質との生体反応による接合を解離させず、第1の生体物質と第4の生体物質との生体反応による接合を解離させることが可能なエネルギーとなるように、電磁誘導を発生させるために必要な電力量であるものとすることができる。
【0012】
電磁誘導発生部には、交流電流の供給を受けて、その交流電流の極性により、2方向に交互に電流を流すコイル状の電導部と、電導部に流れる電流により発生される磁場を打ち消すために発生される2方向の電場のうち、一方のみの電場により発生される電流を許可し、他方の電流を許可しないことにより、一方の電場の発生をキャンセルする電場キャンセル部とを備えさせるようにすることができる。
【0013】
基板に構成されている流路は、円形であるものとすることができ、電導部および電場キャンセル部は、円形の流路を挟んでそれぞれ上下に設けさせることができる。
【0014】
基板には、流路が、同心円状に複数設けられるものとすることができ、電導部および電場キャンセル部は、円形の流路毎に、流路を挟んで上下にそれぞれ設けさせることができ、電導部には、隣り合う電導部とは逆極性の交流電流を導電させるようにすることができ、電場キャンセル部には、同方向の電場をキャンセルさせるようにすることができる。
【0015】
本発明の生体反応実行方法は、基板に滴下される溶液が流れる流路内に設けられた反応領域に固定された第1の生体物質と、第1の生体物質に対して生体反応する第2の生体物質とを生体反応させる生体反応実行装置の生体反応実行方法であって、電磁誘導を発生して、基板に少なくとも1つ構成されている閉じた流路にそって、所定方向の電場を発生させることにより、基板の流路内に滴下された液体に含まれる第2の生体物質を電気泳動させることを特徴とする。
【0016】
本発明の生体反応実行装置および生体反応実行方法においては、電磁誘導が発生されて、基板に少なくとも1つ構成されている閉じた流路にそって、所定方向の電場が発生され、これにより、基板の流路内に滴下された液体に含まれる第2の生体物質が電気泳動する。
【0017】
本発明のDNAチップは、基板に、閉じた形状の凹溝よりなる流路が設けられ、流路内には、第1の生体物質が固定される反応領域が設けられ、第1の生体物質は、流路に滴下される溶液中に含まれる、検出対象となる第2の生体物質と生体反応することができるようになされていることを特徴とする。
【0018】
本発明のDNAチップにおいては、基板に、閉じた形状の凹溝よりなる流路が設けられ、流路内には、検出対象となる第2の生体物質に対して生体反応する第1の生体物質が固定される反応領域が設けられる。
【0019】
本発明の情報処理装置は、閉じた流路が少なくとも1つ構成されている基板の流路内に設けられた反応領域に固定された第1の生体物質と、第1の生体物質に対して生体反応する第2の生体物質とを生体反応させる生体反応実行装置において、流路内に滴下される液体に含まれる第2の生体物質の電気泳動のために与えられるエネルギー量を決定する処理を実行する情報処理装置であって、第2の生体物質として、第1の生体物質に対して特異的に生体反応する第3の生体物質と、第1の生体物質に対して非特異的に生体反応する第4の生体物質とを含むものが流路内に滴下された基板において、異なるエネルギー量が与えられた状態における第3の生体物質と第4の生体物質のそれぞれの生体反応量に対応するパラメータを取得する取得手段と、取得手段により取得されたパラメータを基に、異なるエネルギー量が与えられた状態における第3の生体物質と第4の生体物質のそれぞれの生体反応量を算出する算出手段と、算出手段により算出された生体反応量を基に、第1の生体物質と第3の生体物質との生体反応による接合を解離させず、第1の生体物質と第4の生体物質との生体反応による接合を解離させることが可能なエネルギー量を決定するエネルギー決定手段とを備えることを特徴とする。
【0020】
本発明の情報処理方法は、閉じた流路が少なくとも1つ構成されている基板の流路内に設けられた反応領域に固定された第1の生体物質と、第1の生体物質に対して生体反応する第2の生体物質とを生体反応させる生体反応実行装置において、流路内に滴下される液体に含まれる第2の生体物質の電気泳動のために与えられるエネルギー量を決定する処理を実行する情報処理装置の情報処理方法であって、第2の生体物質として、第1の生体物質に対して特異的に生体反応する第3の生体物質と、第1の生体物質に対して非特異的に生体反応する第4の生体物質とを含むものが流路内に滴下された基板において、異なるエネルギー量が与えられた状態における第3の生体物質と第4の生体物質のそれぞれの生体反応量に対応するパラメータを取得する取得ステップと、取得ステップの処理により取得されたパラメータを基に、異なるエネルギー量が与えられた状態における第3の生体物質と第4の生体物質のそれぞれの生体反応量を算出する算出ステップと、算出ステップの処理により算出された生体反応量を基に、第1の生体物質と第3の生体物質との生体反応による接合を解離させず、第1の生体物質と第4の生体物質との生体反応による接合を解離させることが可能なエネルギー量を決定するエネルギー決定ステップとを含むことを特徴とする。
【0021】
本発明のプログラムおよび本発明の記録媒体に記録されるプログラムは、閉じた流路が少なくとも1つ構成されている基板の流路内に設けられた反応領域に固定された第1の生体物質と、第1の生体物質に対して生体反応する第2の生体物質とを生体反応させる生体反応実行装置において、流路内に滴下される液体に含まれる第2の生体物質の電気泳動のために与えられるエネルギー量を決定する処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、第2の生体物質として、第1の生体物質に対して特異的に生体反応する第3の生体物質と、第1の生体物質に対して非特異的に生体反応する第4の生体物質とを含むものが流路内に滴下された基板において、異なるエネルギー量が与えられた状態における第3の生体物質と第4の生体物質のそれぞれの生体反応量に対応するパラメータの取得を制御する取得制御ステップと、取得制御ステップの処理により取得が制御されたパラメータを基に、異なるエネルギー量が与えられた状態における第3の生体物質と第4の生体物質のそれぞれの生体反応量を算出する算出ステップと、算出ステップの処理により算出された生体反応量を基に、第1の生体物質と第3の生体物質との生体反応による接合を解離させず、第1の生体物質と第4の生体物質との生体反応による接合を解離させることが可能なエネルギー量を決定するエネルギー決定ステップとを含むことを特徴とする処理をコンピュータに実行させる。
【0022】
本発明の情報処理装置および情報処理方法、並びに、プログラムにおいては、第2の生体物質として、第1の生体物質に対して特異的に生体反応する第3の生体物質と、第1の生体物質に対して非特異的に生体反応する第4の生体物質とを含むものが流路内に滴下された基板において、異なるエネルギー量が与えられた状態における第3の生体物質と第4の生体物質のそれぞれの生体反応量に対応するパラメータが取得され、このパラメータを基に、異なるエネルギー量が与えられた状態における第3の生体物質と第4の生体物質のそれぞれの生体反応量が算出されて、これを基に、第1の生体物質と第3の生体物質との生体反応による接合を解離させず、第1の生体物質と第4の生体物質との生体反応による接合を解離させることが可能なエネルギー量が決定される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ターゲットとなる生体物質(例えば、ターゲット遺伝子)と、基板に固定された生体物質(例えば、プローブとして用いられている遺伝子)とを会合させることができ、特に、ターゲットとなる生体物質と、基板に固定された生体物質とを効果的に会合させることができる。
【0024】
他の本発明によれは、生体反応により所定の生体物質を検出するためのDNAチップを提供することができ、特に、流路に流れる溶液中の生体物質に所定のエネルギーが与えられた場合、ターゲットとなる生体物質と、基板に固定された生体物質とを効果的に会合させることができる。
【0025】
また、他の本発明によれば、電気泳動される生体物質(例えば、ターゲット遺伝子)に与えられるエネルギーが求められ、特に、ターゲットとなる生体物質(例えば、ターゲット遺伝子)と、遺伝子と基板に固定された生体物質(例えば、プローブとして用いられている遺伝子)との会合回数を増やし、かつ、非特異的な生体反応(ハイブリダイズ)を解離させるために必要なエネルギーが求められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、請求項に記載の構成要件と、発明の実施の形態における具体例との対応関係を例示すると、次のようになる。この記載は、請求項に記載されている発明をサポートする具体例が、発明の実施の形態に記載されていることを確認するためのものである。したがって、発明の実施の形態中には記載されているが、構成要件に対応するものとして、ここには記載されていない具体例があったとしても、そのことは、その具体例が、その構成要件に対応するものではないことを意味するものではない。逆に、具体例が構成要件に対応するものとしてここに記載されていたとしても、そのことは、その具体例が、その構成要件以外の構成要件には対応しないものであることを意味するものでもない。
【0027】
更に、この記載は、発明の実施の形態に記載されている具体例に対応する発明が、請求項に全て記載されていることを意味するものではない。換言すれば、この記載は、発明の実施の形態に記載されている具体例に対応する発明であって、この出願の請求項には記載されていない発明の存在、すなわち、将来、分割出願されたり、補正により追加される発明の存在を否定するものではない。
【0028】
請求項1に記載の生体反応実行装置(例えば、図2のハイブリダイズ部22)は、閉じた流路(例えば、図4の発現解析用反応槽81により構成される円形流路、または、図16に示される多角形の流路)が少なくとも1つ構成されている基板(例えば、図2のDNAチップ43)の流路内に設けられた反応領域(例えば、図4のスポット83)に固定された第1の生体物質(例えば、図8のプローブ141)と、第1の生体物質に対して生体反応する第2の生体物質(例えば、図8のPMターゲット遺伝子142およびMMターゲット遺伝子143)とを生体反応させる生体反応実行装置であって、装着された基板の流路内に滴下された液体に含まれる第2の生体物質を電気泳動させるために、電磁誘導を発生し、流路にそって、所定方向の電場を発生させる電磁誘導発生部(例えば、図2の電磁誘導発生部42)を備えることを特徴とする。
【0029】
第2の生体物質には、第1の生体物質に対して特異的に生体反応する第3の生体物質(例えば、図8のPMターゲット遺伝子142)と、第1の生体物質に対して非特異的に生体反応する第4の生体物質(例えば、図8のMMターゲット遺伝子143)とが含まれ、電磁誘導発生部は、所定方向の電場により流路内の第2の生体物質の電気泳動のために与えられるエネルギーが、第1の生体物質と第3の生体物質との生体反応による接合(例えば、ハイブリダイゼーション)を解離させず、第1の生体物質と第4の生体物質との生体反応による接合を解離させることが可能なエネルギーとなるように、電磁誘導を発生させることができる。
【0030】
電磁誘導発生部に交流電圧を供給する交流供給部(例えば、図2の交流供給部41)を更に備えることができ、交流供給部により電磁誘導発生部に供給される交流電圧の電力量は、所定方向の電場により流路内の第2の生体物質の電気泳動のために与えられるエネルギーが、第1の生体物質と第3の生体物質との生体反応による接合を解離させず、第1の生体物質と第4の生体物質との生体反応による接合を解離させることが可能なエネルギーとなるように、電磁誘導を発生させるために必要な電力量であるものとすることができる。
【0031】
電磁誘導発生部は、交流電流の供給を受けて、その交流電流の極性により、2方向に交互に電流を流すコイル状の電導部(例えば、図5の磁場発生用電導部111)と、電導部に流れる電流により発生される磁場を打ち消すために発生される2方向の電場のうち、一方のみの電場により発生される電流を許可し、他方の電流を許可しないことにより、一方の電場の発生をキャンセルする電場キャンセル部(例えば、図5の電場キャンセル部113)とを備えることができる。
【0032】
請求項8に記載の生体反応実行方法は、基板(例えば、図2のDNAチップ43)に滴下される溶液が流れる流路内に設けられた反応領域(例えば、図4のスポット83)に固定された第1の生体物質(例えば、図8のプローブ141)と、第1の生体物質に対して生体反応する第2の生体物質(例えば、図8のPMターゲット遺伝子142およびMMターゲット遺伝子143)とを生体反応させる生体反応実行装置(例えば、図2のハイブリダイズ部22)の生体反応実行方法であって、電磁誘導を発生して、基板に少なくとも1つ構成されている閉じた流路(例えば、図4の発現解析用反応槽81により構成される円形流路、または、図16に示される多角形の流路)にそって、所定方向の電場を発生させることにより、基板の流路内に滴下された液体に含まれる第2の生体物質を電気泳動させることを特徴とする。
【0033】
請求項9に記載のDNAチップ(例えば、図2または図4のDNAチップ43)は、基板に、閉じた形状の凹溝よりなる流路が設けられ、流路内には、第1の生体物質(例えば、図8のプローブ141)が固定される反応領域が設けられ、第1の生体物質は、流路に滴下される溶液中に含まれる、検出対象となる第2の生体物質(例えば、図8のPMターゲット遺伝子142)と生体反応することができるようになされていることを特徴とする。
【0034】
請求項10に記載の情報処理装置(例えば、図2の取得部23および発現量推定部24、または、図17の生体情報処理装置401)は、閉じた流路(例えば、図4の発現解析用反応槽81により構成される流路、または、図16に示される多角形の流路)が少なくとも1つ構成されている基板(例えば、図2のDNAチップ43)の流路内に設けられた反応領域(例えば、図4のスポット83)に固定された第1の生体物質(例えば、図8のプローブ141)と、第1の生体物質に対して生体反応する第2の生体物質(例えば、図8のPMターゲット遺伝子142およびMMターゲット遺伝子143)とを生体反応させる生体反応実行装置(例えば、図2のハイブリダイズ部22)において、流路内に滴下される液体に含まれる第2の生体物質の電気泳動のために与えられるエネルギー量を決定する処理を実行する情報処理装置であって、第2の生体物質として、第1の生体物質に対して特異的に生体反応する第3の生体物質(例えば、図8のPMターゲット遺伝子142)と、第1の生体物質に対して非特異的に生体反応する第4の生体物質(例えば、図8のMMターゲット遺伝子143)とを含むものが流路内に滴下された基板において、異なるエネルギー量が与えられた状態における第3の生体物質と第4の生体物質のそれぞれの生体反応量に対応するパラメータ(例えば、蛍光強度)を取得する取得手段(例えば、図2の取得部23、または、図17の蛍光強度取得部422)と、取得手段により取得されたパラメータを基に、異なるエネルギー量が与えられた状態における第3の生体物質と第4の生体物質のそれぞれの生体反応量を算出する算出手段(例えば、図2の発現量推定部24または図17のハイブリダイズ量推定部424)と、算出手段により算出された生体反応量を基に、第1の生体物質と第3の生体物質との生体反応による接合を解離させず、第1の生体物質と第4の生体物質との生体反応による接合を解離させることが可能なエネルギー量を決定するエネルギー決定手段(例えば、図2の供給電力量決定部28または図17の供給電力量決定部431)とを備えることを特徴とする。
【0035】
請求項11に記載の情報処理方法は、閉じた流路(例えば、図4の発現解析用反応槽81により構成される流路、または、図16に示される多角形の流路)が少なくとも1つ構成されている基板(例えば、図2のDNAチップ43)の流路内に設けられた反応領域(例えば、図4のスポット83)に固定された第1の生体物質(例えば、図8のプローブ141)と、第1の生体物質に対して生体反応する第2の生体物質(例えば、図8のPMターゲット遺伝子142およびMMターゲット遺伝子143)とを生体反応させる生体反応実行装置(例えば、図2のハイブリダイズ部22)において、流路内に滴下される液体に含まれる第2の生体物質の電気泳動のために与えられるエネルギー量を決定する処理を実行する情報処理装置(例えば、図2の取得部23および発現量推定部24、または、図17の生体情報処理装置401)の情報処理方法であって、第2の生体物質として、第1の生体物質に対して特異的に生体反応する第3の生体物質(例えば、図8のPMターゲット遺伝子142)と、第1の生体物質に対して非特異的に生体反応する第4の生体物質(例えば、図8のMMターゲット遺伝子143)とを含むものが流路内に滴下された基板において、異なるエネルギー量が与えられた状態における第3の生体物質と第4の生体物質のそれぞれの生体反応量に対応するパラメータ(例えば、蛍光強度)を取得する取得ステップ(例えば、図21のステップS125の処理)と、取得ステップの処理により取得されたパラメータを基に、異なるエネルギー量が与えられた状態における第3の生体物質と第4の生体物質のそれぞれの生体反応量を算出する算出ステップ(例えば、図21のステップS126の処理)と、算出ステップの処理により算出された生体反応量を基に、第1の生体物質と第3の生体物質との生体反応による接合を解離させず、第1の生体物質と第4の生体物質との生体反応による接合を解離させることが可能なエネルギー量を決定するエネルギー決定ステップ(例えば、図21のステップS127の処理)とを含むことを特徴とする。
【0036】
請求項12に記載のプログラムは、閉じた流路(例えば、図4の発現解析用反応槽81により構成される流路、または、図16に示される多角形の流路)が少なくとも1つ構成されている基板(例えば、図2のDNAチップ43)の流路内に設けられた反応領域(例えば、図4のスポット83)に固定された第1の生体物質(例えば、図8のプローブ141)と、第1の生体物質に対して生体反応する第2の生体物質(例えば、図8のPMターゲット遺伝子142およびMMターゲット遺伝子143)とを生体反応させる生体反応実行装置(例えば、図2のハイブリダイズ部22)において、流路内に滴下される液体に含まれる第2の生体物質の電気泳動のために与えられるエネルギー量を決定する処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、第2の生体物質として、第1の生体物質に対して特異的に生体反応する第3の生体物質(例えば、図8のPMターゲット遺伝子142)と、第1の生体物質に対して非特異的に生体反応する第4の生体物質(例えば、図8のMMターゲット遺伝子143)とを含むものが流路内に滴下された基板において、異なるエネルギー量が与えられた状態における第3の生体物質と第4の生体物質のそれぞれの生体反応量に対応するパラメータ(例えば、蛍光強度)の取得を制御する取得制御ステップ(例えば、図21のステップS125の処理)と、取得制御ステップの処理により取得が制御されたパラメータを基に、異なるエネルギー量が与えられた状態における第3の生体物質と第4の生体物質のそれぞれの生体反応量を算出する算出ステップ(例えば、図21のステップS126の処理)と、算出ステップの処理により算出された生体反応量を基に、第1の生体物質と第3の生体物質との生体反応による接合を解離させず、第1の生体物質と第4の生体物質との生体反応による接合を解離させることが可能なエネルギー量を決定するエネルギー決定ステップ(例えば、図21のステップS127の処理)とを含むことを特徴とする処理をコンピュータに実行させる。
【0037】
以下に本明細書において使用する用語の意味を説明する。
【0038】
プローブとは、DNAチップなどのバイオアッセイ用の基板に固定された生体物質であって、ターゲットと生体反応するものをいう。
【0039】
ターゲットとは、DNAチップなどのバイオアッセイ用の基板に固定された生体物質に生体反応する生体物質をいう。
【0040】
生体物質とは、蛋白質、核酸、糖などの生体内において生成される物質の他、相互に相補的な塩基配列を有する遺伝子またはそれから派生する物質を含む。
【0041】
生体反応とは、2以上の生体物質が生化学的に反応することをいう。その代表例は、ハイブリダイゼーションである。
【0042】
ハイブリダイゼーションとは、相補的な塩基配列構造を備える核酸間の相補鎖(二本鎖)形成反応をいう。
【0043】
以下、図を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0044】
遺伝子発現量の定量的な測定は、図1に示される実験処理装置1により行われる。
【0045】
実験処理装置1は、調整部21、ハイブリダイズ部22、取得部23、発現量推定部24、標準化部25、出力部26、および記憶部27、並びに、供給電力量決定部28により構成されている。このうち、取得部23、発現量推定部24、標準化部25、出力部26および記憶部27、並びに、供給電力量決定部28が、図17を用いて後述する生体情報処理装置401により構成されている。
【0046】
調整部21は、ターゲットの調整を行うとともに、後述するDNAチップを用いたハイブリダイズの準備を行う。ハイブリダイズ部22は、プローブとターゲットとのハイブリダイズを行う。ハイブリダイズ部22の詳細は、図3を用いて後述する。取得部23は、ハイブリダイズされたプローブとターゲットとに結合されたインターカレータにレーザ光を照射し、その反射光としてインターカレータの蛍光強度を取得する。発現量推定部24は、取得された蛍光強度を基に、ハイブリダイズ量を推定して、目的とする遺伝子の発現量の推定処理を行う。標準化部25は、データの標準化を行う。出力部26は、発現プロファイルデータを出力する。記憶部27は、発現プロファイルデータを記憶する。
【0047】
また、供給電力量決定部28は、発現量推定部24により供給される発現量の推定結果を基に、図20を用いて後述する事前作業の処理において、図18を用いて後述する実験過程の処理でハイブリダイズ部22が用いるべき電力値を算出し、ハイブリダイズ部22に供給する。ハイブリダイズ部22は、供給された電力値を用いて、実験過程の処理を実行する。
【0048】
取得部23、発現量推定部24、標準化部25、出力部26、および、記憶部27、並びに、供給電力量決定部28の詳細については、図17を用いて生体情報処理装置401として後述する。
【0049】
図2は、図1のハイブリダイズ部22の詳細な構成例を示すブロック図である。ハイブリダイズ部22は、交流供給部41、電磁誘導発生部42で構成され、ハイブリダイズ処理のため、電磁誘導部42にDNAチップ43が装着されるようになされている。DNAチップ43上には、ターゲット遺伝子が含まれる溶液が滴下される、凹溝状の流路が設けられている。DNAチップ43の構成の詳細については、図4を用いて後述する。
【0050】
交流供給部41は、電磁誘導発生部42において電磁誘導を発生させるための交流電流の発生を制御して、電磁誘導発生部42に供給する。交流供給部41の詳細は、図3を用いて後述する。
【0051】
電磁誘導発生部42は、交流供給部41から供給された交流電流により、電磁誘導を発生し、装着されたDNAチップ43上に設けられているターゲット遺伝子が含まれる溶液が滴下される流路付近に、DNAチップ43の流路に沿った磁場を発生させるとともに、発生される磁場を打ち消すために発生する電場のうちの一方をキャンセルさせ、他方を維持させる。ターゲット遺伝子は電荷を帯びているため、DNAチップ43上に形成された流路内で、電磁誘導発生部42により発生された磁場を打ち消すために発生する電場の力を受けて電気泳動する。電磁誘導発生部42の詳細については、図5乃至図7を用いて後述する。
【0052】
図3は、交流供給部41の構成を示すブロック図である。
【0053】
周波数設定部61は、発振器62による発振周波数を設定する。発振器62は、電磁誘導発生部42において電磁誘導を発生させるために、周波数設定部61により設定された周波数の信号を発振する。
【0054】
RFパワー・アンプ63は、発振器62により発振された所定周波数の信号を増幅し、Eクラス・アンプ64に供給する。Eクラス・アンプ64は、可変電源67により電圧値が制御された交流電圧の供給を受けて、電力設定部65により設定された電力値であり、かつ、RFパワー・アンプ63から供給された信号の周波数の交流電圧となるように増幅し、電力計(SWRメータ)68に供給する。
【0055】
電力設定部65は、後述する事前作業の処理により定められる、目的とする(特異的な)ターゲット遺伝子とプローブとのハイブリダイズを解離させずに、目的としていない(非特異的な)ターゲット遺伝子とのハイブリダイズのみを解離させるために、DNAチップ43において、ターゲットが含まれる溶液を電気泳動させるために与えられるエネルギーに対応する電力値を設定し、Eクラス・アンプ64に、電力設定値を供給する。
【0056】
AC100V供給部66は、例えば、コンセント入力や所定のバッテリなどにより、交流100V電圧を、可変電源67に供給する。可変電源67は、AC100V供給部66から供給された100Vの交流電圧を、電力計68から供給されるEクラス・アンプ64の出力電圧の測定値に基づいて、0V乃至120Vの所定の電圧に変圧して、Eクラス・アンプ64に供給する。
【0057】
電力計68は、電波の伝送線路に生じる定在波の最大値と最小値の比であるSWR(Standing Wave Ratio:定在波比、一般に、マッチングとも称される)を測定する。SWRを測定するためには、一般に電圧値が測定され、SWR=Vmax(最大値)/Vmin(最小値)である。電力計68は、測定結果を可変電源67に供給するとともに、供給された交流電圧を、電磁誘導発生部42(電磁誘導コイルの形状を有する、後述する磁場発生電導部111)に供給する
【0058】
次に、図4を用いて、DNAチップ43について説明する。
【0059】
DNAチップ43には、複数の閉じた円形の凹溝が同心円状に構成されており、この円形の凹溝は、発現解析用反応槽81−1および発現解析用反応槽81−2として用いられる。換言すれば、凹溝により構成される流路には始点も終点もなく、連続している。以下、発現解析用反応槽81−1および発現解析用反応槽81−2を特に区別する必要のない場合、単に発現解析用反応槽81と称するものとする。
【0060】
また、発現解析用反応槽81の位置を特定するための図示しないガイド(後述する図17のガイド413)が、DNAチップ43上の、発現解析用反応槽81の位置を特定するために好適な位置に設けられている。
【0061】
発現解析用反応槽81には、反応領域としての複数のスポット83が形成されており、各スポット83には、異なる遺伝子配列を持つ生体物質(第1の生体物質)としてのハイブリダイズ検証用プローブが固定されている。観測対象となる生物の細胞が調整されて取り出されたターゲット遺伝子を含むサンプルが発現解析用反応槽81に滴下された場合、ハイブリダイズ検証用プローブには、その塩基と相補的構成を有する塩基を有する生体物質(第2の生体物質)としてのターゲットがハイブリダイズする。また、発現解析用反応槽81のスポット83には、必要に応じて、発現標準化用コントロールプローブを、予め定められた所定の複数の位置に分散して配置するようにしてもよい。発現標準化用コントロールプローブには、その塩基と相補的構成の塩基を有する生体物質(第2の生体物質)としてのターゲットがハイブリダイズする。
【0062】
ここでは、発現解析用反応槽81−1および発現解析用反応槽81−2の2つの円形流路が備えられている場合について説明したが、発現解析用反応槽81の円形流路の数は、1つであっても、3つ以上のいかなる数であっても良いことは言うまでもない。
【0063】
次に、図5乃至図7を用いて、図2の電磁誘導発生部42の構成について説明する。まず、図5は、電磁誘導発生部42にDNAチップ43が装着された状態における断面図(装着されたDNAチップ43の直径に対応する直線において切断した場合の断面図)である。ここでは、発現解析用反応槽81−1および発現解析用反応槽81−2の2つの円形流路が備えられているDNAチップ43が装着可能なようになされている電磁誘導発生部42を例として説明する。
【0064】
電磁誘導発生部42は、DNAチップ43が装着された状態において、電磁誘導部101−1および電磁誘導部101−2が、発現解析用反応槽81−1および発現解析用反応槽81−2の2つの円形流路を挟んだ上下に位置されるようになされている。すなわち、電磁誘導発生部42にDNAチップ43が装着された状態において、発現解析用反応槽81−1を挟んだ上下に、発現解析用反応槽81−1と同様な円形の形状を有する電磁誘導部101−1が位置し、発現解析用反応槽81−2を挟んだ上下に、発現解析用反応槽81−2と同様な円形の形状を有する電磁誘導部101−2が位置するようになされている。
【0065】
電磁誘導部101−1は、発現解析用反応槽81−1の上面に、磁場発生用電導部111−1、絶縁部112−1、および、電場キャンセル部113−1が設けられ、発現解析用反応槽81−1の下面に、磁場発生用電導部111−3、絶縁部112−3、および、電場キャンセル部113−3が設けられるように構成されている。また、電磁誘導部101−2は、発現解析用反応槽81−2の上面に、磁場発生用電導部111−2、絶縁部112−2、および、電場キャンセル部113−2が設けられ、発現解析用反応槽81−2の下面に、磁場発生用電導部111−4、絶縁部112−4、および、電場キャンセル部113−4が設けられるように構成されている。磁場発生用電導部111−1および磁場発生用電導部111−3、絶縁部112−1および絶縁部112−3、並びに、電場キャンセル部113−1および電場キャンセル部113−3は、発現解析用反応槽81−1と同様な円形の形状を有し、磁場発生用電導部111−2および磁場発生用電導部111−−4、絶縁部112−2および絶縁部112−4、並びに、電場キャンセル部113−2および電場キャンセル部113−4は、発現解析用反応槽81−2と同様な円形の形状を有している。
【0066】
以下、電磁誘導部101−1および電磁誘導部101−2を特に区別する必要のない場合、単に電磁誘導部101と称し、磁場発生用電導部111−1乃至磁場発生用電導部111−4を特に区別する必要のない場合、単に、磁場発生用電導部111と称し、絶縁部112−1乃至絶縁部112−4を特に区別する必要のない場合、単に、絶縁部112と称し、電場キャンセル部113−1乃至電場キャンセル部113−4を特に区別する必要のない場合、単に、電場キャンセル部113と称するものとする。
【0067】
磁場発生用電導部111は、発現解析用反応槽81−1と同様の円形の形状を有するコイル状の電気伝導部(電磁誘導コイル)であり、交流供給部41により発生された交流電圧の供給を受けることにより、磁場を発生する。そして、発生した磁場を打ち消すために、DNAチップ43の発現解析用反応槽81の円形流路の形状に合致した形状の円形電場が発生する。
【0068】
次に、図6および図7を用いて、電場キャンセル部113について説明する。図6および図7は、電場キャンセル部113を、装着されたDNAチップ43の平面に対して垂直な方向から観察した状態を示す図である。
【0069】
電場キャンセル部113は、複数の金属部121と複数のダイオード122から構成されている。図6および図7においては、電場キャンセル部113は、左回りの電流を許可して電場形成をキャンセルすることが出来るようになされている。
【0070】
図6を用いて、電場のキャンセルについて説明する。
【0071】
電磁誘導によって、例えば、電場キャンセル部113の円形平面に対して垂直に、図中、手前から向こうに向かって(図6における紙面上の上から下へ向かって)磁場が形成されると、この磁場をキャンセルするように、電場キャンセル部113には、左回りの電流が流れる。これによって、電磁誘導に伴う電場形成をキャンセルすることができる。
【0072】
次に、図7を用いて、電場がキャンセルされない場合、すなわち、電場が維持される場合について説明する。
【0073】
電磁誘導によって、例えば、電場キャンセル部113の円形平面に対して垂直に、図中、向こうから手前に向かって(図7における紙面上の下から上へ向かって)磁場が形成されると、この磁場をキャンセルするように、右回りの電場が形成されるが、電場キャンセル部113においては、ダイオード122により、右回りの電流が流れないようになされている。したがって、電磁誘導に伴う電場形成はキャンセルされずに維持される。
【0074】
すなわち、磁場発生用電導部111に、交流供給部41により発生された交流電圧が供給されることにより、DNAチップ43の発現解析用反応槽81の円形流路に沿って、流路の流れに対して垂直方向に磁場が発生し、円形流路の形状に合致した形状の円形電場が、右回り、左回りと交互に発生するが、左回りの電場のみが、電場キャンセル部113に発生する左回りの電流のためにキャンセルされる。したがって、DNAチップ43の発現解析用反応槽81の円形流路には、右回り方向の電場のみが発生される。
【0075】
図6および図7においては、電場キャンセル部113は、左回りの電流を許可して電場形成をキャンセルすることが出来るようになされているが、ダイオード122の接続方向が逆になっている場合、電場キャンセル部113によって、右回りの電流が許可されて、電場形成がキャンセルされる、すなわち、左回りの電場のみが発生されるようになされる。すなわち、電場キャンセル部113においては、ダイオード122の接続方向に基づいた方向の電場がキャンセルされて、発現解析用反応槽81の円形流路に発生する電場の方向が制御されるようになされている。
【0076】
なお、電場キャンセル部113の回路(ダイオード122による円形の導電路)は、DNAチップ43の発現解析用反応槽81の円形流路のそれぞれに異なる方向の電場を許可させることが出来るようにするために、発現解析用反応槽81と同数設けられる。
【0077】
次に、図8を用いて、ハイブリダイズについて説明する。
【0078】
発現解析用反応槽81の円形流路において、スポット83に設けられるプローブ141は、目的とするターゲット遺伝子であるPM(Perfect match)ターゲット遺伝子142とハイブリダイズするのみならず、目的としていなかったMM(Mismatch)ターゲット遺伝子143と非特異的にハイブリダイズする場合もある。
【0079】
すなわち、PMターゲット遺伝子142は、測定対象とするmRNAであり、MMターゲット遺伝子143は、PMターゲット遺伝子142を想定してハイブリダイズするように作成したプローブ141とのハイブリダイズ確率が、PMターゲット遺伝子142を除いて一番大きい、発現が予想されるmRNAのことである。
【0080】
図9を用いて、PMターゲット遺伝子142とプローブ141とのハイブリダイズ、および、MMターゲット遺伝子143とプローブ141とのハイブリダイズをそれぞれ解離させるために必要なエネルギーについて説明する。
【0081】
プローブ141にPMターゲット遺伝子142がハイブリダイズされている場合であっても、目的としていなかったMMターゲット遺伝子143がハイブリダイズされている場合であっても、外部から高いエネルギーが与えられることにより、ハイブリダイズが解離されてしまうことがある。ハイブリダイズ状態に与える外部エネルギーによって、ターゲットとプローブとが解離する確率が変化する。図9に示されるように、縦軸をターゲットとプローブとの解離確率とし、横軸を外部から与えられるエネルギーとして、PMターゲット遺伝子142とのハイブリダイズにおける解離確率曲線161、および、MMターゲット遺伝子143とのハイブリダイズにおける解離確率曲線162を示すと、PMターゲット遺伝子142とのハイブリダイズを解離するには、非特異的にハイブリダイズされているMMターゲット遺伝子143を解離するよりも多くのエネルギーが必要となる。
【0082】
ここでは、解離確率は、プローブ141とPMターゲット遺伝子142、または、MMターゲット遺伝子143におけるTm(Melting temperature)値を中心としたガウス分布になると考えて、ハイブリダイズ量が、Tm値における場合の1/4、3/4となる温度を計測することにより、図9に示されるような確率分布を推定することができる。Tm値とは、2本鎖DNAの50%が一本鎖DNAに解離する温度のことである。そして、PMターゲット遺伝子142、および、MMターゲット遺伝子143のそれぞれの解離確率分布において、あるエネルギーより大きい部分における積分値の差が最大となる点を、PMターゲット遺伝子142とのハイブリダイズを解離させずに、MMターゲット遺伝子143とのハイブリダイズのみを解離させるために発現解析用反応槽81に与えられるべき分離エネルギーとすることができる。
【0083】
また、PMターゲット遺伝子142とのハイブリダイズを解離させずに、MMターゲット遺伝子143とのハイブリダイズのみを解離させるために発現解析用反応槽81に与えられるべき分離エネルギーは、より単純に、PMターゲット遺伝子142とMMターゲット遺伝子143とのTm値の平均値としても良い。
【0084】
このようにして、必要な分離エネルギーが求められるので、ハイブリダイズ処理(電気泳動)時に、発現解析用反応槽81により構成される流路を電気泳動するターゲット遺伝子にかかる力が、PMターゲット遺伝子142とのハイブリダイズを解離させずに、MMターゲット遺伝子143とのハイブリダイズのみを解離させるために発現解析用反応槽81に与えられるべき分離エネルギーになるように調整されると、ターゲット遺伝子、すなわち、PMターゲット遺伝子142の検出精度を高めることが出来る。
【0085】
換言すれば、図10に示されるように、縦軸をハイブリダイズ率、横軸を磁場発生用電導部111に供給される電力としたとき、PMターゲット遺伝子142とプローブ141とのハイブリダイズ率を示す曲線181の極大値、および、MMターゲット遺伝子143とプローブ141とのハイブリダイズ率を示す曲線182の極小値に対応する電力値が、交流供給部41から電磁誘導発生部42へ供給される電力値となる。
【0086】
または、実験によって、プローブ141とPMターゲット遺伝子142およびMMターゲット遺伝子143とのハイブリダイズを直接行い、外部からの電磁誘導の強度に対する、各々のプローブ141に対するハイブリダイズ分布を、次の式(1)に示すような結合強度行列とし、式(4)を用いて、ターゲット遺伝子とプローブ間の特異性を最大化する電磁誘導の強度を求めても良い。
【0087】
【数1】

・・・・・(1)
【0088】
ただし、式(1)においては、次の式(2)および式(3)が成り立っている。
【0089】
【数2】

・・・・・(2)
【0090】
【数3】

・・・・・(3)
【0091】
式(1)においては、各プローブへのハイブリダイズが結合強度行列により表されている。すなわち、各々のプローブ141が配置されているスポット83にインターカレータが結合されて得られる蛍光強度ベクトル(p1,p2,p3,・・・pn)は、標準化パラメータs、a11乃至anmで表される結合強度行列、および、遺伝子発現量ベクトル(g1,g2,g3,・・・gm)を乗算したものとして表すことができる。
【0092】
【数4】

・・・・・(4)
【0093】
ただし、式(4)においては、次の式(5)および式(6)が成り立っている。
【0094】
【数5】

・・・・・(5)
【0095】
【数6】

・・・・・(6)
【0096】
すなわち、式(1)の結合強度行列の一般逆行列を求め、プローブ位置におけるハイブリダイズ量から、各々の遺伝子発現量を推測することができる。式(4)は、結合強度行列の行成分を取ったときの分散と、列成分を取ったときの分散の和であり、これを最大化するような電磁誘導強度が、PMターゲット遺伝子142とプローブ141間の特異性を最大化する条件となる。
【0097】
図11および図12を用いて、磁場発生用電導部111への交流の供給と、電磁誘導による電界の発生について説明する。
【0098】
図11Aに示されるように、磁場発生用電導部111のそれぞれには、例えば、図11Aに示されるような交流電流が供給されるので、右回りと左回りの電流が、それぞれ交互に流れ、それにより、磁場が発生されるようになされている。交流供給部41から電磁誘導発生部42の磁場発生用電導部111−1および磁場発生用電導部111−3に供給されている交流電流に対して、電磁誘導発生部42の磁場発生用電導部111−2および磁場発生用電導部111−4には、その逆極性の交流電流が供給されるようになされているものとする。
【0099】
まず、交流供給部41から電磁誘導発生部42の磁場発生用電導部111−1および磁場発生用電導部111−3に供給されている交流電流が右回りである状態について、図11Bを用いて説明する。一方、電磁誘導発生部42の磁場発生用電導部111−2および磁場発生用電導部111−4には、その逆極性(すなわち、左回り)の交流電流が供給されるようになされている。したがって、磁場発生用電導部111−1乃至磁場発生用電導部111−4によって発生される、発現解析用反応槽81により構成される流路に対して垂直方向の磁場は、それぞれ打ち消されることはない。
【0100】
そして、磁場発生用電導部111−1乃至磁場発生用電導部111−4によって発生される磁場を打ち消す方向に電場が発生する。例えば、電場キャンセル部113−1乃至電場キャンセル部113−4において、左回りの電流が流れるようになされている場合、磁場発生用電導部111−1および磁場発生用電導部111−3により発生される電場はキャンセルされ、磁場発生用電導部111−2および磁場発生用電導部111−4により発生される電場のみが維持される。すなわち、図11Bに示される状態では、発現解析用反応槽81−2にのみ、右回りの電場が形成され、ターゲット遺伝子の電気泳動が行われる。
【0101】
次に、図12Aの実線に示されるように、交流供給部41から電磁誘導発生部42の磁場発生用電導部111−1および磁場発生用電導部111−3に供給されている交流電流が左回りである状態について、図12Bを用いて説明する。ここでも、電磁誘導発生部42の磁場発生用電導部111−2および磁場発生用電導部111−4には、磁場発生用電導部111−1および磁場発生用電導部111−3に供給されている交流電流の逆極性の交流電流が供給されるので、発現解析用反応槽81により構成される流路に対して垂直方向の磁場は、それぞれ打ち消されることはない。
【0102】
磁場発生用電導部111−1乃至磁場発生用電導部111−4に交流電流が流れることによって発生される磁場を打ち消す方向に電場が発生する。例えば、電場キャンセル部113−1乃至電場キャンセル部113−4において、左回りの電流が流れるようになされている場合、磁場発生用電導部111−2および磁場発生用電導部111−4により発生される左回りの電場はキャンセルされ、磁場発生用電導部111−1および磁場発生用電導部111−3により発生される右回りの電場のみが維持される。すなわち、図12Bに示される状態では、発現解析用反応槽81−1にのみ、右回りの電場が形成され、ターゲット遺伝子の電気泳動が行われる。
【0103】
図11および図12を用いて説明したように、発現解析用反応槽81−1および発現解析用反応槽81−2には、それぞれ、電場キャンセル部113によって、左回りの誘導電場がキャンセルされ、右回りの誘導電場が脈打つような形(交流の半波整流波形と同様の形)で形成される。ターゲット遺伝子は、マイナスチャージを持っているため、右回りの誘導電場により、左回りに電気泳動する。図13に示されるように、発現解析用反応槽81の流路には端がないため、磁場発生用電導部111−1乃至磁場発生用電導部111−4に交流電流が与えられている間、所定のエネルギーを受けて電気泳動するPMターゲット遺伝子142およびMMターゲット遺伝子143は、流路を一方の方向(ここでは、左方向)に回り続け、流路内に設置されているプローブ141と会合していく。
【0104】
このとき、図9を用いて説明したようなエネルギーが、電気泳動するPMターゲット遺伝子142およびMMターゲット遺伝子143に与えられるように、図10を用いて説明したような供給電力量が、電磁誘導発生部42に与えられていた場合、所定のプローブ141と目的とするPMターゲット遺伝子142とがハイブリダイズしても、その結合は解離されないが、所定のプローブ141と目的としないMMターゲット遺伝子143とがハイブリダイズした場合、その結合は、与えられたエネルギーにより解離される。したがって、図13に示される、流路内の溶液中に含まれるターゲット遺伝子301乃至304は、所定のエネルギーを与えられることにより、電気泳動中に、順次、至適なプローブとのハイブリダイズが行われ、交流供給部41から電磁誘導発生部42の磁場発生用電導部111に交流の供給が開始されてから十分時間が経過した後のハイブリダイズの状態は、非常に良好なものとなる。
【0105】
分子量が異なるターゲット遺伝子が電気泳動された場合、図14に示されるように、分子量が小さいターゲット遺伝子は早く回転し、分子量が大きくなるにつれて、ターゲット遺伝子の回転速度が遅くなる。例えば、図14のaを出発点とすると、分子量の小さいターゲット遺伝子301は早く、分子量の大きいターゲット遺伝子304は遅く、流路内を移動する。また、その他のターゲット遺伝子302および303においても、分子量に応じた速度で流路内を移動するが、発現解析用反応槽81の流路には端がないため、所定のエネルギーを受けて電気泳動するそれぞれのターゲット遺伝子301乃至304は流路を回り続け、交流供給部41から電磁誘導発生部42の磁場発生用電導部111に交流の供給が開始されてから十分な時間が経過する間に、流路内に設置されているプローブ141のうちの最適なものと会合する。
【0106】
なお、DNAチップの流路は、例えば、円形である以外にも、図15に示すDNAチップ341のように、直線であっても良い。この場合、流路には始端と終端が発生してしまうため、図中に示される電気泳動されるターゲット遺伝子301乃至303は、泳動し続けない。このため、円形流路である場合と比較して、スポット83−1乃至83−10に設けられている複数のプローブ141と対応するPMターゲット遺伝子との会合率が低下してしまう。しかしながら、図9を用いて説明したようなエネルギーが、電気泳動するPMターゲット遺伝子142およびMMターゲット遺伝子143に与えられるように、図10を用いて説明したような供給電力量を電磁誘導発生部42に与えるようにすることにより、プローブ141に正しくハイブリダイズされたPMターゲット遺伝子142を解離させることなく、プローブ141に非特異的にハイブリダイズされたMMターゲット遺伝子143のみを解離させることが可能となる。
【0107】
更に、DNAチップの発現解析用反応槽81により構成される流路は、例えば、円形以外の形状であっても、閉じた流路であると好適である。例えば、図16Aに示すDNAチップ361のように、閉じた三角形の流路を有していたり、図16Bに示すDNAチップ381のように、閉じた四角形の流路を有しているものであっても良い。また、DNAチップに設けられる閉じた流路の形状は、それ以外の多角形であっても、曲線を含んで構成されている形状であってもよい。発現解析用反応槽81により構成される流路を閉じた形状とすることにより、電気泳動されるターゲット遺伝子301乃至303は、目的となるプローブ141とハイブリダイズされるまで泳動し続け、プローブ141に非特異的にハイブリダイズされたMMターゲット遺伝子143は解離されるので、交流供給部41から電磁誘導発生部42の磁場発生用電導部111に交流の供給が開始されてから十分時間が経過した後のハイブリダイズの状態は、非常に良好なものとなる。
【0108】
なお、図16Aに示すDNAチップ361や図16Bに示すDNAチップ381を装着可能な電磁誘導発生部42は、それぞれの流路の形状に合致した形状の電磁誘導部101を有するようになされることは言うまでもない。
【0109】
上述したように、DNAチップ43においてハイブリダイズした(生体反応した)生体物質としてのプローブとターゲットには、インターカレータが結合される。インターカレータは、励起光が照射されると蛍光を発生する。
【0110】
図17は、生体情報処理装置401の構成例を表している。この生体情報処理装置401は、ピックアップ部421、蛍光強度取得部422、励起光強度計算部423、ハイブリダイズ量推定部424、発現量計算部425、標準化部426、出力部427、発現プロファイルデータ記憶部428、表示部429Aを有するユーザインターフェース(UI)部429、および、蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式記憶部430、および、供給電力値決定部431により構成されている。
【0111】
図1を用いて説明した実験処理装置1の取得部23、発現量推定部24、標準化部25、出力部26および記憶部27、並びに、供給電力量決定部28が、図17の生体情報処理装置401により構成されている。具体的には、取得部23は、ピックアップ部421、蛍光強度取得部422、励起光強度計算部423、および、蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式記憶部430により構成され、発現量推定部24は、ハイブリダイズ量推定部424、および、発現量計算部425により構成され、標準化部25は標準化部426により構成され、出力部26は出力部427により構成され、記憶部27は発現プロファイルデータ記憶部428により構成され、供給電力量決定部28は、供給電力量決定部431により構成される。
【0112】
所定の位置に設置または装着された、ハイブリダイズ処理終了後のDNAチップ43において、ハイブリダイズした(生体反応した)生体物質としてのプローブ141とターゲット(PMターゲット遺伝子142またはMMターゲット遺伝子143)には、インターカレータが結合されている。インターカレータは励起光が照射されると蛍光を発生する。
【0113】
図17のピックアップ部421は、蛍光強度取得用ピックアップ441、ガイド信号取得用ピックアップ部442、コントロール部443、対物座標計算部444、および畳み込み展開部445で構成されている。
【0114】
蛍光強度取得用ピックアップ441は、DNAチップ43の発現解析用反応槽81の画像を取得するピックアップである。これに対して、ガイド信号取得用ピックアップ部442は、ガイド413を読み取るためのピックアップである。
【0115】
蛍光強度取得用ピックアップ441は、対物レンズ451、プリズム452、半導体レーザ453、およびフォトダイオード454を有している。半導体レーザ453より出射されたレーザ光(励起光)は、プリズム452を介して対物レンズ451に入射され、対物レンズ451は、入射されたレーザ光をDNAチップ43(スポット83)上に照射する。対物レンズ451はまた、スポット83からの光を、プリズム452を介してフォトダイオード454に入射する。各スポット83には、複数のプローブが固定されており、プローブとターゲットがハイブリダイゼーションした場合、更に両者にはインターカレータが結合されている。すなわち、プローブとターゲットがハイブリダイゼーションしていない場合には、両者の間にインターカレータは存在せず、ハイブリダイゼーションした場合においてのみ、両者の間にインターカレータが存在する。インターカレータは、励起光が照射されると蛍光を発生する。対物レンズ451により集光された蛍光はプリズム452により励起光と分離されて、フォトダイオード454に入射される。
【0116】
ハイブリダイゼーションしている量が多ければ、それだけインターカレータの量も多く、したがって、そこから発生する蛍光量も多い。したがって、蛍光の強度に基づいて、ハイブリダイゼーションの状態を測定する(ハイブリダイゼーションの情報を得る)ことが可能となる。
【0117】
コントロール部443は、半導体レーザ453の電流制御を行い、その励起光の強度を調整する。また、コントロール部443は、フォトダイオード454の出力(電流量変化)を読み取る。
【0118】
畳み込み展開部445は、フォトダイオード454より出力された電流量変化に基づく信号をコントロール部443から受け取り、ピクセル単位の画像データを生成する。
【0119】
ガイド信号取得用ピックアップ442は、対物レンズ461、プリズム462、半導体レーザ463、およびフォトダイオード464により構成されている。半導体レーザ463は、コントロール部443からの制御に基づいて、レーザ光を発生する(このレーザ光は、ガイド検出光として機能する)。プリズム462は、半導体レーザ463からのレーザ光を対物レンズ461に入射し、対物レンズ461はこのレーザ光をDNAチップ43に照射する。対物レンズ461は、DNAチップ43からの反射光を受光し、プリズム462はこの反射光を照射光から分離してフォトダイオード464に出射する。フォトダイオード464は、プリズム462より入射された反射光を光電変換し、ガイド信号としてコントロール部443に出力する。コントロール部443は、フォトダイオード464より入力されたガイド信号を対物座標計算部444に出力する。ガイド413は、DNAチップ43の他の領域に較べて反射率が高く(または低く)なるように形成されている。対物座標計算部444は、コントロール部443を介して、ガイド信号取得用ピックアップ442より供給されたガイド信号のレベルに基づいて、ガイド413の位置、並びに、ガイド信号取得用ピックアップ442の位置(座標)を計算する。
【0120】
コントロール部443は、対物座標計算部444により計算されたガイド信号取得用ピックアップ442の位置に基づいて、蛍光強度取得用ピックアップ441(対物レンズ451)の位置を制御する。ガイド信号取得用ピックアップ442と蛍光強度取得用ピックアップ441は、相互に所定の位置関係に固定されている。
【0121】
蛍光強度取得部422は、蛍光強度取得用ピックアップ441のフォトダイオード454が出力した各スポット83(その座標(x,y))からの蛍光強度(pfx,y)の入力を受け、この蛍光強度に関するデータをハイブリダイズ量推定部424に出力する。蛍光強度取得部422はまた、蛍光強度取得用ピックアップ441の対物レンズ451のDNAチップ43上の対物座標(x,y)、対物面積半径(r)、並びに励起光強度を制御する制御信号をコントロール部443に出力する。コントロール部443は、この制御信号に基づいて対物レンズ451を制御する。これにより、対物レンズ451がDNAチップ43上の所定の座標(x,y)に配置され、対物レンズ451より出射されるレーザ光の照射範囲の半径(対物面積半径)(r)が所定の値に制御され、そのレーザ光の強度(励起光強度)が所定の値に調整される。
【0122】
蛍光強度取得部422は、コントロール部443から供給された蛍光強度を、励起光強度計算部423に出力する。励起光強度計算部423は、蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式記憶部430に記憶されている変換式や、その他の必要なパラメータに基づいて、最適な励起光強度を計算し、その計算して得られた励起光強度を蛍光強度取得部422に出力する。蛍光強度取得部422は、この励起光強度計算部423からの励起光強度に基づいて半導体レーザ453の電流を制御し、所定の強さの励起光を半導体レーザ453より出射させる。
【0123】
ハイブリダイズ量推定部424は、蛍光強度取得部422より供給された蛍光強度に基づく画像データ、または発現プロファイルデータ記憶部428に予め記憶されている発現プロファイルデータなどの画像情報の入力を受け、必要に応じて励起光強度を推定する処理を行う。また、ハイブリダイズ量推定部424は、蛍光強度からハイブリダイズ量を一義的に決定するための変換式を作成したり、供給された画像データを処理する。
【0124】
更に、ハイブリダイズ量推定部424は、処理済の画像データを基に、ハイブリダイズ量を算出する。また、ハイブリダイズ量計算部85は、図20を用いて後述する事前作業において、事前作業用のDNAチップ43におけるPMターゲット遺伝子142およびMMターゲット遺伝子143のそれぞれのハイブリダイズ率を算出し、供給電力量決定部431に供給する。
【0125】
ユーザインターフェース部429は、ハイブリダイズ量推定部424より入力された処理済の画像データに対応する画像を表示部429Aに表示する。
【0126】
発現量計算部425は、ハイブリダイズ量推定部424からの出力に基づいて、プローブに対するターゲットの結合強度を求めることで、蛍光強度に対応する発現量を推定する。標準化部426は発現標準化用コントロールプローブを利用した標準化処理を行う。出力部427は標準化されたデータを発現プロファイルデータ記憶部428に供給する。発現プロファイルデータ記憶部428は、出力部427より供給されたデータを、発現プロファイルデータとして記憶する。発現プロファイルデータ記憶部428に記憶されたデータは、必要に応じて、ユーザインターフェース部429に供給され、表示部429Aに表示される。発現量計算部425より出力されたデータも必要に応じて、表示部429Aに表示される。
【0127】
蛍光強度−ハイブリダイズ量変換式記憶部430は、蛍光強度とそれに対応するハイブリダイズ量との関係を一義的に決定する変換式(必ずしも式を構成せずとも、変換のためのデータであってもよい)を予め記憶している。
【0128】
供給電力量決定部431は、図20を用いて後述する事前作業において、ハイブリダイズ量計算部85により計算された、事前作業用のDNAチップ43におけるPMターゲット遺伝子142およびMMターゲット遺伝子143のそれぞれのハイブリダイズ率を基に、図18を用いて後述する実験過程の処理で実行されるハイブリダイズにおいて、交流供給部41が発生し、電磁誘導発生部42に供給するべき交流電圧の供給電力値を決定し、ハイブリダイズ部41の交流供給部41に供給するようになされている。
【0129】
次に、図3の実験処理装置1により実行される実験過程の処理を、図18のフローチャートを参照して説明する。
【0130】
最初に、ステップS11において、調整部21は、ターゲットを調整する。具体的には、細胞が含まれるサンプルが取り出され、その中から蛋白質を変性させて除去する処理が行われ、RNA(ribonucleic acid)の抽出および断片化、並びに、DNA(deoxyribonucleic acid)の抽出および断片化により、PMターゲット遺伝子412やMMターゲット遺伝子413などを含むターゲットが調整される。
【0131】
ステップS12において、図19を用いて後述するハイブリダイズ処理が実行される。
【0132】
ステップS13において、取得部23は、蛍光強度を取得する。具体的には、蛍光強度取得部422は、コントロール部443を介して蛍光強度取得用ピックアップ441を駆動し、半導体レーザ453にレーザ光を励起光として出射させる。この励起光は、プリズム452を介して対物レンズ451に入射され、対物レンズ451は、この励起光をDNAチップ43上の発現解析用反応槽81に照射する。
【0133】
上述したように、インターカレータは、ハイブリダイズされた(生体反応した)生体物質としてのプローブ141とターゲット(PMターゲット遺伝子142またはMMターゲット遺伝子143)に結合し、蛍光強度取得用ピックアップ441から照射された励起光を受けて、蛍光を発生する。この蛍光が、対物レンズ451により集光され、プリズム452を介してフォトダイオード454に入射される。フォトダイオード454は、入射された蛍光に対応する電流を出力する。コントロール部443は、この電流に対応する信号を畳み込み展開部445により画像信号に変換させ、変換により生成された蛍光強度に対応する信号を、蛍光強度取得部422に出力する。
【0134】
コントロール部443は、対物レンズ451の位置をガイド413の位置を基に移動させる。このとき、ガイド信号取得用ピックアップ442の半導体レーザ463が出射するガイド検出光としてのレーザ光が、プリズム462を介して対物レンズ461に入射され、対物レンズ461がこのガイド検出光をDNAチップ43に照射する。ガイド検出光の反射光の強度は、ガイド413に照射されたとき強く(または、弱く)なる。この反射光が対物レンズ461を介してプリズム462に入射され、プリズム462からフォトダイオード464に入射される。対物座標計算部444はコントロール部443を介してフォトダイオード464からのガイド信号を取得し、この信号に基づいて、ガイド信号取得用ピックアップ442(したがって、それと一体化している蛍光強度取得用ピックアップ441)がDNAチップ43のガイド413のいずれの位置に位置するのか、その座標を計算する。コントロール部443はその座標に基づいてガイド信号取得用ピックアップ442(蛍光強度取得用ピックアップ441)を一定の速度で移動させる(走査させる)。
【0135】
このようにして、蛍光強度取得用ピックアップ441が、所定の速度で発現解析用反応槽81を走査するように移動され、各座標における画像信号が蛍光強度取得用ピックアップ441より出力される。
【0136】
ステップS14において、発現量推定部24は、取得された蛍光強度を基に、発現量推定処理を実行する。この処理によりハイブリダイズ量と信頼度の計算が行われ、遺伝子の発現量が計算される。
【0137】
すなわち、ハイブリダイズ量推定部424により、蛍光強度取得部422より供給された蛍光強度に基づく画像データが処理されて、ハイブリダイズ量が推定され、発現量計算部425により、プローブに対するターゲットの結合強度を基に、蛍光強度に対応する遺伝子の発現量が推定される。
【0138】
次に、ステップS15において、標準化部25(標準化部426)は、発現解析用反応槽81内のスポット83の位置によるハイブリダイゼーションのばらつきを補正するために、データを標準化する処理を実行する。この標準化には、例えば、発現標準化用コントロールプローブによる標準化がある。具体的には、例えば、発現解析用反応槽81の予め定められた所定の複数の位置に分散して配置されている発現標準化用コントロールプローブにおけるハイブリダイゼーション量(実験に用いられる溶液には、後述する図19のステップS61において、発現標準化用コントロールプローブに対するターゲットであるコントロール用ターゲットが予め加えられている)に対応する蛍光値に基づいて、補正値が求められ、その補正値によって得られる蛍光値により各ピクセルの蛍光値を割り算することで、正規化が行われる。この正規化により、発現解析用反応槽81内のスポット83の位置によるハイブリダイゼーションのばらつきが補正される。
【0139】
更に、ステップS16において、出力部26(出力部427)は、発現プロファイルデータを出力し、処理が終了される。具体的には、以上のようにして得られた画像データが、出力部26(出力部427)から記憶部27(発現プロファイルデータ記憶部428)に供給され、記録される。
【0140】
このような処理により、サンプル中に含まれる遺伝子発現を網羅的に解析することができる。そして、このとき、プローブ141に対して、MMターゲット遺伝子143がハイブリダイズしておらず、PMターゲット遺伝子142ができるだけ確実にハイブリダイズしている状況であれば、ターゲット遺伝子の検出精度が向上する。
【0141】
次に、図19のフローチャートを参照して、図18のステップS12において実行される、ハイブリダイズ処理について説明する。
【0142】
ステップS61において、調整部21は、ステップS11の処理で調整されたPMターゲット遺伝子412などが含まれる溶液に、発現標準化用コントロールプローブに対するターゲットであるコントロール用ターゲットを加える。
【0143】
ステップS62において、調整部21は、ハイブリダイズ部22に装着されるDNAチップ43の発現解析用反応槽81の流路に、ターゲットおよびコントロール用ターゲットが含まれた溶液を滴下し、DNAチップ43を、ハイブリダイズ部22の電磁誘導発生部42に装着する。
【0144】
ステップS63において、ハイブリダイズ部22は、DNAチップ43の発現解析用反応槽81内に滴下された溶液内のPMターゲット遺伝子142とMMターゲット遺伝子143を、所定方向に電気泳動させる。
【0145】
すなわち、ハイブリダイズ部22は、図9および図10、または、式(1)乃至式(6)を用いて説明した、プローブ141とPMターゲット遺伝子142とのハイブリダイズを解離させずに、プローブ141とMMターゲット遺伝子143とのハイブリダイズのみを解離させるために発現解析用反応槽81に与えられるべき分離エネルギーに対応する電力値を有する交流を、交流供給部41から電磁誘導発生部42に供給する。そして、図5乃至図7を用いて説明したように、電磁誘導により、DNAチップ43の発現解析用反応槽81の流路の所定方向に電場が形成されて、DNAチップ43の発現解析用反応槽81内に滴下された溶液内のPMターゲット遺伝子142とMMターゲット遺伝子143が、所定方向に電気泳動する。
【0146】
例えば、図4を用いて説明した閉じた円形の流路を形成する発現解析用反応槽81、または、図16を用いて説明したような、多角形の閉じた流路を形成する発現解析用反応槽81においては、流路に終端がないため、電気泳動されるPMターゲット遺伝子142は、目的となるプローブ141とハイブリダイズされるまで泳動し続け、プローブ141に非特異的にハイブリダイズされたMMターゲット遺伝子143は与えられるエネルギーにより解離されるので、交流供給部41から電磁誘導発生部42の磁場発生用電導部111に交流の供給が開始されてから十分時間が経過した後のハイブリダイズの状態は、非常に良好なものとなる。
【0147】
ステップS64において、ハイブリダイズ部22は、交流供給部41から電磁誘導発生部42の磁場発生用電導部111に交流の供給が開始されてから十分時間が経過した後、ハイブリダイズにより固定されなかったプローブ、すなわち、一本鎖プローブとターゲットとを、洗浄によってDNAチップ43から除去する。
【0148】
ステップS65において、ハイブリダイズ部22は、2本鎖結合したプローブ141とターゲットの間にインターカレータを導入し、処理は、図18のステップS12に戻り、ステップS13に進む。
【0149】
なお、ステップS63において、図13乃至図14を用いて説明したように、電磁誘導により、DNAチップ43の発現解析用反応槽81の流路内の、PMターゲット遺伝子142とMMターゲット遺伝子143は、所定のエネルギーを得て電気泳動されるので、プローブ141に、一旦、MMターゲット遺伝子143がハイブリダイズされても、解離するために十分なエネルギーが与えられているため、非特異的なハイブリダイゼーションは解離される可能性が高い。また、PMターゲット遺伝子142は、プローブ141と会合する機会が多くなるため、ハイブリダイズ率が向上する。
【0150】
このような処理により、交流供給部41から電磁誘導発生部42の磁場発生用電導部111に交流の供給が開始されてから十分時間が経過した後のハイブリダイズの状態は、非常に良好なものとなる。したがって、ターゲット遺伝子の検出精度が向上する。
【0151】
なお、上述した実験過程の処理において用いられるDNAチップ43や、発現解析用反応槽81の流路に滴下される溶液は、事前作業によって準備される。更に、図18を用いて説明した実験過程の処理で実行されるハイブリダイズにおいて、交流供給部41が発生し、電磁誘導発生部42に供給するのに最適な交流電圧の供給電力値も、事前作業において決定される。
【0152】
図20のフローチャートを参照して、事前作業の処理について説明する。
【0153】
まず始めに、ステップS91において、DNAチップ43に設けられるプローブ141の設計が行われる。
【0154】
次に、ステップS92において、設計されたプローブ141を、DNAチップ43の発現解析用反応槽81の流路内のスポット83に固定することにより、DNAチップ43の作成が行われる。
【0155】
ステップS93において、蛍光強度-ハイブリダイズ量変換式取得のためのキャリブレーションが行われる。具体的には、PMターゲット142を所定量含むターゲット溶液などを用いて、ハイブリダイゼーションや蛍光強度の取得処理などを行うことにより、実験過程の処理に必要な各種パラメータが取得される。
【0156】
ステップS94において、上述した式(1)乃至式(3)によって示される、発現量推定のためのプローブ-ターゲット結合強度行列の取得が行われる。
【0157】
なお、ステップS93およびステップS94の処理は、例えば、図17を用いて説明した生体情報処理装置401を用いて実行される。
【0158】
ステップS95において、図21を用いて後述する供給電力条件決定処理が実行されて、処理が終了される。
【0159】
このような処理により、実験過程の処理で用いられるDNAチップ43が生成され、蛍光強度を基に発現量を推定するために必要な蛍光強度-ハイブリダイズ量変換式やプローブ-ターゲット結合強度行列が取得され、効率的にハイブリダイズが行われるように、ハイブリダイズ部22の交流供給部41で発生され、電磁誘導発生部42に供給される供給電力条件が決定される。
【0160】
次に、図21のフローチャートを参照して、図20のステップS95において実行される、供給電力条件決定処理について説明する。供給電力条件決定処理は、調整部21、ハイブリダイズ部22、取得部23、および、発現量推定部24、または、これらと同等の処理を行うことが可能な装置を用いて実行される。
【0161】
ステップS121において、PMターゲット遺伝子142およびMMターゲット遺伝子143が用意される。
【0162】
すなわち、PMターゲット遺伝子142は、測定対象とするmRNAであり、MMターゲット遺伝子143は、PMターゲット遺伝子142を想定してハイブリダイズするように作成したプローブ141とのハイブリダイズ確率が、PMターゲット遺伝子142を除いて一番大きい、発現が予想されるmRNAのことである。ここでは、プローブ141とMMターゲット遺伝子143間のハイブリダイズ確率(結合強度)が一番大きくなるようなPMターゲット遺伝子142とMMターゲット遺伝子143のペアが用いられると好適である。
【0163】
ステップS122において、調整部121は、例えば、PMターゲット遺伝子142およびMMターゲット遺伝子143に、例えば、cy3やcy5などの蛍光物質を結合させる。
【0164】
ステップS123において、調整部121は、図19のステップS61およびステップS62を用いて説明した場合と同様にして、生成されたDNAチップ43の発現解析用反応槽81の流路にPMターゲット遺伝子142およびMMターゲット遺伝子143を含む溶液を滴下する。そして、ハイブリダイズ部22にDNAチップ43が装着される。
【0165】
ステップS124において、ハイブリダイズ部22は、複数の値の交流を交流供給部41に発生させて、電磁誘導発生部42に供給させることにより、図13乃至図14を用いて説明したように、電磁誘導により、DNAチップ43の発現解析用反応槽81の流路内の、PMターゲット遺伝子142とMMターゲット遺伝子143を電気泳動させ、それぞれの交流電圧値においてハイブリダイズされたDNAチップ43を得る。そして、ハイブリダイズ部22は、ハイブリダイズにより固定されなかったプローブ、すなわち、一本鎖プローブとターゲットとを、例えば、洗浄などによって、それぞれのDNAチップ43から除去する。
【0166】
ステップS125において、取得部23は、図18のステップS13を用いて説明した場合と同様にして、それぞれの交流電圧値においてハイブリダイズされたDNAチップ43における蛍光強度を取得する。
【0167】
ステップS126において、発現量推定部24、すなわち、ハイブリダイズ量推定部424は、図18のステップS14を用いて説明した場合と同様にして、発現量を推定し、PMターゲット遺伝子142およびMMターゲット遺伝子143と、プローブ141とのそれぞれのハイブリダイズ率を求め、供給電力値決定部431に、与えられた交流電圧値毎の、換言すれば、電気泳動のために与えられるエネルギー量毎の、PMターゲット遺伝子142およびMMターゲット遺伝子143のハイブリダイズ率を供給する。
【0168】
ステップS127において、供給電力値決定部28、すなわち、供給電力値決定部431は、例えば、図9または図10を用いて説明したように、または、式(1)乃至式(6)を用いて説明したようにして、図18を用いて説明した実験過程の処理で実行されるハイブリダイズにおいて、交流供給部41が発生し、電磁誘導発生部42に供給するのに最適な交流電圧の供給電力値、すなわち、プローブ141に正しくハイブリダイズされたPMターゲット遺伝子142を解離させることなく、プローブ141に非特異的にハイブリダイズされたMMターゲット遺伝子143を解離させるために必要なエネルギーを電気泳動されるターゲット遺伝子に与えることができる電力値を決定し、ハイブリダイズ部22の交流供給部41に供給し、処理が終了される。
【0169】
このような処理により、効率的にハイブリダイズが行われるように、ハイブリダイズ部22の交流供給部41で発生され、電磁誘導発生部42に供給される供給電力条件が決定される。
【0170】
以上説明したように、本発明によると、ターゲットを含む溶液が滴下される流路を閉じた形状(円形や多角形など、いかなる形状であっても良い)にすることにより、ターゲット遺伝子とプローブとの会合回数を増やすことが可能となり、交流供給部41から電磁誘導発生部42の磁場発生用電導部111に交流の供給が開始されてから十分時間が経過した後のハイブリダイズの状態は、非常に良好なものとなる。
【0171】
また、プローブ141に正しくハイブリダイズされたPMターゲット遺伝子142を解離させることなく、プローブ141に非特異的にハイブリダイズされたMMターゲット遺伝子143を解離させるために必要なエネルギーが求められ、このようなエネルギーを電気泳動されるターゲット遺伝子に与えるための供給電力量が求められる。ハイブリダイズ処理時に、このようなエネルギーがターゲット遺伝子に与えられることにより、特異的なハイブリダイズを解離させることなく、非特異的なハイブリダイズが解離することから、ターゲット遺伝子の検出精度が向上する。
【0172】
また、例えば、ダイオードなどにより一定方向のみの電流を許可する回路を用いて、交流電流により発生される磁界を打ち消すために発生する電場の一方の方向のみをキャンセルすることができるようにし、他方の方向の電場はキャンセルすることができない(維持される)ようにすることにより、閉じた形状の流路に、所定の強さ(特異的なハイブリダイズを解離させることなく、非特異的なハイブリダイズを解離させるためのエネルギーに対応する強さ)の一定方向の電場を与えることが可能となる。
【0173】
上述した一連の処理は、ハードウエアにより実行させることもできるし、ソフトウエアにより実行させることもできる。この場合、例えば、生体情報処理装置1は、図22に示されるようなパーソナルコンピュータ901により構成される。
【0174】
図22において、CPU(Central Processing Unit)921は、ROM(Read Only Memory)922に記憶されているプログラム、または記憶部928からRAM(Random Access Memory)923にロードされたプログラムに従って各種の処理を実行する。RAM923にはまた、CPU921が各種の処理を実行する上において必要なデータなども適宜記憶される。
【0175】
CPU921、ROM922、およびRAM923は、バス924を介して相互に接続されている。このバス924にはまた、入出力インタフェース925も接続されている。
【0176】
入出力インタフェース925には、キーボード、マウスなどよりなる入力部926、CRT(Cathode Ray Tube)、LCD(Liquid Crystal display)などよりなるディスプレイ、並びにスピーカなどよりなる出力部927、ハードディスクなどより構成される記憶部928、モデムなどより構成される通信部929が接続されている。通信部929は、インターネットを含むネットワークを介しての通信処理を行う。
【0177】
入出力インタフェース925にはまた、必要に応じてドライブ930が接続され、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、あるいは半導体メモリなどのリムーバブルメディア931が適宜装着され、それらから読み出されたコンピュータプログラムが、必要に応じて記憶部928にインストールされる。
【0178】
一連の処理をソフトウエアにより実行させる場合には、そのソフトウエアを構成するプログラムが、専用のハードウエアに組み込まれているコンピュータ、または、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能な、例えば汎用のパーソナルコンピュータなどに、ネットワークや記録媒体からインストールされる。
【0179】
この記録媒体は、図22に示されるように、装置本体とは別に、ユーザにプログラムを提供するために配布される、プログラムが記録されている磁気ディスク(フロッピディスクを含む)、光ディスク(CD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory),DVD(Digital Versatile Disk)を含む)、光磁気ディスク(MD(Mini-Disk)を含む)、もしくは半導体メモリなどよりなるリムーバブルメディア931により構成されるだけでなく、装置本体に予め組み込まれた状態でユーザに提供される、プログラムが記録されているROM922や、記憶部928に含まれるハードディスクなどで構成される。
【0180】
なお、本明細書において、記録媒体に記録されるプログラムを記述するステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別に実行される処理をも含むものである。
【0181】
また、本明細書において、システムとは、複数の装置(または特定の機能を実現する機能モジュール)が論理的に集合したものを意味し、各装置や機能モジュールが単一の筐体内にあるか否かは問わない。
【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1】実験処理装置の構成例を表すブロック図である。
【図2】図1のハイブリダイズ部の構成例を示すブロック図である。
【図3】図2の交流供給部の構成例を示すブロック図である。
【図4】図2のDNAチップついて説明するための図である。
【図5】図2の電磁誘導発生部について説明するための断面図である。
【図6】電場キャンセル部について説明するための図である。
【図7】電場キャンセル部について説明するための図である。
【図8】プローブとターゲット遺伝子とについて説明するための図である。
【図9】ハイブリダイズ時に与えられるエネルギーについて説明するための図である。
【図10】交流供給部から電磁誘導発生部へ供給される電力値ついて説明するための図である。
【図11】交流の供給と、電磁誘導による電界の発生について説明するための図である。
【図12】交流の供給と、電磁誘導による電界の発生について説明するための図である。
【図13】電気泳動について説明するための図である。
【図14】電気泳動について説明するための図である。
【図15】DNAチップの他の形状の例について説明するための図である。
【図16】DNAチップの他の形状の例について説明するための図である。
【図17】生体情報処理装置の構成例を示すブロック図である。
【図18】実験過程の処理について説明するためのフローチャートである。
【図19】ハイブリダイズ処理について説明するためのフローチャートである。
【図20】事前作業の処理について説明するためのフローチャートである。
【図21】供給電力条件決定処理について説明するためのフローチャートである。
【図22】パーソナルコンピュータの構成例を表すブロック図である。
【符号の説明】
【0183】
1 実験処理装置, 21 調整部, 22 ハイブリダイズ部, 23 取得部, 24 発現量推定部, 25 標準化部, 26 出力部, 27 記憶部, 28 供給電力量決定部, 41 交流供給部, 42 電磁誘導発生部, 43 DNAチップ, 81 発現解析用反応槽, 83 スポット, 111 磁場発生用電導部, 112 絶縁部, 113 電場キャンセル部, 122 ダイオード, 141 プローブ, 142 PMターゲット遺伝子, 143 MMターゲット遺伝子, 161,162 解離確率曲線, 341,361,381 DNAチップ, 401 生体情報処理装置, 431 供給電力値決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉じた流路が少なくとも1つ構成されている基板の前記流路内に設けられた反応領域に固定された第1の生体物質と、前記第1の生体物質に対して生体反応する第2の生体物質とを生体反応させる生体反応実行装置において、
装着された前記基板の前記流路内に滴下された液体に含まれる前記第2の生体物質を電気泳動させるために、電磁誘導を発生し、前記流路にそって、所定方向の電場を発生させる電磁誘導発生部を備える
ことを特徴とする生体反応実行装置。
【請求項2】
前記基板に構成されている前記流路は、円形である
ことを特徴とする請求項1に記載の生体反応実行装置。
【請求項3】
前記第2の生体物質には、前記第1の生体物質に対して特異的に生体反応する第3の生体物質と、前記第1の生体物質に対して非特異的に生体反応する第4の生体物質とが含まれ、
前記電磁誘導発生部は、前記所定方向の電場により前記流路内の前記第2の生体物質の電気泳動のために与えられるエネルギーが、前記第1の生体物質と前記第3の生体物質との生体反応による接合を解離させず、前記第1の生体物質と前記第4の生体物質との生体反応による接合を解離させることが可能なエネルギーとなるように、電磁誘導を発生させる
ことを特徴とする請求項1に記載の生体反応実行装置。
【請求項4】
前記電磁誘導発生部に交流電圧を供給する交流供給部を更に備え、
前記交流供給部により前記電磁誘導発生部に供給される前記交流電圧の電力量は、前記所定方向の電場により前記流路内の前記第2の生体物質の電気泳動のために与えられるエネルギーが、前記第1の生体物質と前記第3の生体物質との生体反応による接合を解離させず、前記第1の生体物質と前記第4の生体物質との生体反応による接合を解離させることが可能なエネルギーとなるように、電磁誘導を発生させるために必要な電力量である
ことを特徴とする請求項3に記載の生体反応実行装置。
【請求項5】
前記電磁誘導発生部は、
交流電流の供給を受けて、その交流電流の極性により、2方向に交互に電流を流すコイル状の電導部と、
前記電導部に流れる電流により発生される磁場を打ち消すために発生される2方向の電場のうち、一方のみの電場により発生される電流を許可し、他方の電流を許可しないことにより、一方の電場の発生をキャンセルする電場キャンセル部と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の生体反応実行装置。
【請求項6】
前記基板に構成されている前記流路は、円形であり、
前記電導部および前記電場キャンセル部は、円形の前記流路を挟んでそれぞれ上下に設けられている
ことを特徴とする請求項5に記載の生体反応実行装置。
【請求項7】
前記基板には、前記流路が、同心円状に複数設けられ、
前記電導部および前記電場キャンセル部は、円形の前記流路毎に、前記流路を挟んで上下にそれぞれ設けられ、
前記電導部は、隣り合う電導部とは逆極性の交流電流を導電し、
前記電場キャンセル部は、同方向の電場をキャンセルする
ことを特徴とする請求項5に記載の生体反応実行装置。
【請求項8】
基板に滴下される溶液が流れる流路内に設けられた反応領域に固定された第1の生体物質と、前記第1の生体物質に対して生体反応する第2の生体物質とを生体反応させる生体反応実行装置の生体反応実行方法において、
電磁誘導を発生して、前記基板に少なくとも1つ構成されている閉じた前記流路にそって、所定方向の電場を発生させることにより、前記基板の前記流路内に滴下された前記液体に含まれる前記第2の生体物質を電気泳動させる
ことを特徴とする生体反応実行方法。
【請求項9】
基板に、閉じた形状の凹溝よりなる流路が設けられ、
前記流路内には、第1の生体物質が固定される反応領域が設けられ、
前記第1の生体物質は、前記流路に滴下される溶液中に含まれる、検出対象となる第2の生体物質と生体反応することができるようになされている
ことを特徴とするDNAチップ。
【請求項10】
閉じた流路が少なくとも1つ構成されている基板の前記流路内に設けられた反応領域に固定された第1の生体物質と、前記第1の生体物質に対して生体反応する第2の生体物質とを生体反応させる生体反応実行装置において、前記流路内に滴下される液体に含まれる前記第2の生体物質の電気泳動のために与えられるエネルギー量を決定する処理を実行する情報処理装置において、
前記第2の生体物質として、前記第1の生体物質に対して特異的に生体反応する第3の生体物質と、前記第1の生体物質に対して非特異的に生体反応する第4の生体物質とを含むものが前記流路内に滴下された前記基板において、異なるエネルギー量が与えられた状態における前記第3の生体物質と前記第4の生体物質のそれぞれの生体反応量に対応するパラメータを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記パラメータを基に、異なるエネルギー量が与えられた状態における前記第3の生体物質と前記第4の生体物質のそれぞれの前記生体反応量を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された前記生体反応量を基に、前記第1の生体物質と前記第3の生体物質との生体反応による接合を解離させず、前記第1の生体物質と前記第4の生体物質との生体反応による接合を解離させることが可能なエネルギー量を決定するエネルギー決定手段と
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項11】
閉じた流路が少なくとも1つ構成されている基板の前記流路内に設けられた反応領域に固定された第1の生体物質と、前記第1の生体物質に対して生体反応する第2の生体物質とを生体反応させる生体反応実行装置において、前記流路内に滴下される液体に含まれる前記第2の生体物質の電気泳動のために与えられるエネルギー量を決定する処理を実行する情報処理装置の情報処理方法において、
前記第2の生体物質として、前記第1の生体物質に対して特異的に生体反応する第3の生体物質と、前記第1の生体物質に対して非特異的に生体反応する第4の生体物質とを含むものが前記流路内に滴下された前記基板において、異なるエネルギー量が与えられた状態における前記第3の生体物質と前記第4の生体物質のそれぞれの生体反応量に対応するパラメータを取得する取得ステップと、
前記取得ステップの処理により取得された前記パラメータを基に、異なるエネルギー量が与えられた状態における前記第3の生体物質と前記第4の生体物質のそれぞれの前記生体反応量を算出する算出ステップと、
前記算出ステップの処理により算出された前記生体反応量を基に、前記第1の生体物質と前記第3の生体物質との生体反応による接合を解離させず、前記第1の生体物質と前記第4の生体物質との生体反応による接合を解離させることが可能なエネルギー量を決定するエネルギー決定ステップと
を含むことを特徴とする情報処理方法。
【請求項12】
閉じた流路が少なくとも1つ構成されている基板の前記流路内に設けられた反応領域に固定された第1の生体物質と、前記第1の生体物質に対して生体反応する第2の生体物質とを生体反応させる生体反応実行装置において、前記流路内に滴下される液体に含まれる前記第2の生体物質の電気泳動のために与えられるエネルギー量を決定する処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記第2の生体物質として、前記第1の生体物質に対して特異的に生体反応する第3の生体物質と、前記第1の生体物質に対して非特異的に生体反応する第4の生体物質とを含むものが前記流路内に滴下された前記基板において、異なるエネルギー量が与えられた状態における前記第3の生体物質と前記第4の生体物質のそれぞれの生体反応量に対応するパラメータの取得を制御する取得制御ステップと、
前記取得制御ステップの処理により取得が制御された前記パラメータを基に、異なるエネルギー量が与えられた状態における前記第3の生体物質と前記第4の生体物質のそれぞれの前記生体反応量を算出する算出ステップと、
前記算出ステップの処理により算出された前記生体反応量を基に、前記第1の生体物質と前記第3の生体物質との生体反応による接合を解離させず、前記第1の生体物質と前記第4の生体物質との生体反応による接合を解離させることが可能なエネルギー量を決定するエネルギー決定ステップと
を含むことを特徴とする処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項13】
請求項12に記載のプログラムが記録されている記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2006−284185(P2006−284185A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100379(P2005−100379)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】