説明

生体情報処理装置、生体情報処理方法及び生体情報処理用コンピュータプログラム

【課題】生体画像に表された生体情報の歪みを参照用の生体画像を用いずに検出できる生体情報処理装置を提供する。
【解決手段】生体情報処理装置1は、利用者の特定の部位の表面にある生体情報を表した生体画像を複数のブロックに分割する分割部(10)と、そのブロックに写っている生体情報の一部の模様の複雑さを表す事前複雑度を推定する事前複雑度推定部(11)と、複数のブロックのそれぞれについて、そのブロックに写っている生体情報の一部の像の複雑さを表す事後複雑度を算出する事後複雑度算出部(12)と、複数のブロックのそれぞれについて、事後複雑度と事前複雑度とを比較し、事後複雑度と事前複雑度とに差異があるブロックを、そのブロックに写っている生体情報の一部に歪みがある歪みブロックとして検出する歪み検出部(13)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、画像に表された生体情報の歪みを検出する生体情報処理装置、生体情報処理方法及び生体情報処理用コンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、指紋または掌紋などの生体情報を利用して、個人を認証するか否か判定する生体認証技術が開発されている。生体認証技術は、入退室管理システム、ボーダーコントロール用システムまたは国民識別番号を用いたシステムといった登録された利用者の数が多い大規模なシステムから、コンピュータまたは携帯端末といった特定の個人が利用する装置まで、広く利用されている。
【0003】
例えば、生体情報として何れかの指の指紋が利用される場合、生体認証装置は、指紋を表す生体画像を入力生体画像として取得する。そして生体認証装置は、入力生体画像に表された利用者の指紋である入力生体情報を、予め登録された登録利用者の生体画像に表された指紋である登録生体情報と照合する。生体認証装置は、照合処理の結果に基づいて、入力生体情報と登録生体情報が一致すると判定した場合、その利用者を正当な権限を有する登録利用者として認証する。そして生体認証装置は、認証された利用者が生体認証装置が組み込まれた装置または生体認証装置と接続された他の装置を使用することを許可する。
【0004】
指紋または掌紋のように、人体の特定の部位の表面にある生体情報が用いられる場合、センサがその生体情報を読み取る際に、利用者のその部位の表面の状態または性質、あるいは読み取りの際の部位の動きに起因して、生体情報の一部が歪むことがある。例えば、利用者が、センサに対して指を過度に押圧すると、隆線がつぶれてしまい、生体画像に写っている指紋が歪む。このように、一部が歪んだ生体情報を写した生体画像が生体認証に用いられると、生体認証装置は、生体情報の特徴を表す特徴量を正確に抽出できず、その結果として認証精度が低下するおそれがあった。
【0005】
そこで、生体画像上での生体情報の歪みを検出し、または生体情報の歪みを補正する技術が提案されている(例えば、特許文献1〜4を参照)。
【0006】
例えば、特許文献1には、二つの特徴情報の一方から選択した複数の特徴点と他方の特徴情報においてそれら特徴点に対応する複数の特徴点との組を位置合わせ候補として、その一組の特徴点の位置情報を略一致させる位置補正量を算出する技術が開示されている。
また、特許文献2には、照合回数と、登録時の指紋と照合時の指紋間の各照合時の位置ずれ量とに基づいて位置補正量を求める技術が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、指紋の入力画像の幾何学的歪みを補正した後、入力画像を参照画像と位置合わせする画像照合装置が開示されている。この画像照合装置は、入力画像の画像中心から注目ブロックまでの距離に基づいて注目ブロックの基準位置を算出し、注目ブロックに対応する参照画像上の影響ブロックを変位させつつ入力画像との相関値を求める。そしてこの画像照合装置は、その相関値が最大となる影響ブロックの変位量を用いて基準位置を補正する。
さらに、特許文献4には、第1の指紋の特徴点に対して、変形可能なメッシュを形成し、その変形可能なメッシュの状態を変換することにより歪み補正後の第1の指紋を取得し、その歪み補正後の第1の指紋を第2の指紋と照合する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−272568号公報
【特許文献2】特開平04−324582号公報
【特許文献3】特開平09−282458号公報
【特許文献4】特開2008−310814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の各技術では、生体情報の歪みを検出しようとする生体画像と、参照用の他の生体画像とを比較することにより、生体画像上の生体情報の歪み量が求められる。しかしながら、参照用の他の生体画像が存在しなかったり、生体認証装置が、参照用の他の生体画像を特定できないことがある。例えば、ある利用者の生体情報を登録する際には、その登録以前にその利用者の生体情報が記録された生体画像は存在しない。また、生体認証装置が、登録時に得られた登録利用者の生体画像から、照合処理に用いる前に生体情報の歪みを検出しようとしたり、歪みを補正しようとする場合も、その生体画像に対して参照すべき、その登録利用者の他の生体画像は存在しない。そのため、登録の際に得られた生体画像に表された生体情報に歪みがあっても、上記の技術の何れかを用いた生体認証装置は、その歪みを検出したり、その歪みを補正することはできない。
【0010】
また、生体情報を登録する際に生成された生体画像、または照合時に生成された生体画像に表された生体情報に歪みがあるために、生体認証装置が利用者を認証できないことがある。このような場合、生体認証装置は、認証に失敗した理由が、生体画像上の生体情報の歪みに起因するのか、それとも、そもそも照合しようとする利用者が登録利用者と異なっていることに起因するのかを知ることはできない。そのため、上記の技術の何れかを用いた生体認証装置は、生体情報の歪みが抑制された生体画像を再取得するために、生体情報を含む部位の置き方を利用者にガイダンスすることはできない。
【0011】
そこで、本明細書は、生体画像に表された生体情報の歪みを、参照用の生体画像を用いずに検出できる生体情報処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一つの実施形態によれば、生体情報処理装置が提供される。この生体情報処理装置は、利用者の特定の部位の表面にある生体情報を表した生体画像を生成する生体情報取得部と、生体画像を複数のブロックに分割する分割部と、複数のブロックのそれぞれについて、そのブロックに写っている生体情報の一部の模様の方向と、そのブロックに隣接するブロックに写っている生体情報の他の一部の模様の方向との差に基づいて、そのブロックに写っている生体情報の一部の模様の複雑さを表す事前複雑度を推定する事前複雑度推定部と、複数のブロックのそれぞれについて、そのブロックに写っている像の複雑度を表す特徴量に基づいて、そのブロックに写っている生体情報の一部の像の複雑さを表す事後複雑度を算出する事後複雑度算出部と、複数のブロックのそれぞれについて、事後複雑度と事前複雑度とを比較し、事後複雑度と事前複雑度とに差異があるブロックを、そのブロックに写っている生体情報の一部に歪みがある歪みブロックとして検出する歪み検出部とを有する。
【0013】
本発明の目的及び利点は、請求項において特に指摘されたエレメント及び組み合わせにより実現され、かつ達成される。
上記の一般的な記述及び下記の詳細な記述の何れも、例示的かつ説明的なものであり、請求項のように、本発明を限定するものではないことを理解されたい。
【発明の効果】
【0014】
本明細書に開示された生体情報処理装置は、生体画像に表された生体情報の歪みを、参照用の生体画像を用いずに検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】生体情報処理装置の第1の実施形態である生体認証装置の概略構成図である。
【図2】第1の実施形態による処理部の機能ブロック図である。
【図3】指紋が写った生体画像と、ブロックごとの事前複雑度及び事後複雑度と、歪みブロックとの関係の一例を示す図である。
【図4】生体認証処理の動作フローチャートを示す図である。
【図5】第2の実施形態による処理部の機能ブロック図である。
【図6】(a)は、歪みの無い指紋の生体画像の模式図であり、(b)は、歪みの有る指紋の生体画像の模式図である。
【図7】複数の指の指紋が写った生体画像の模式図である。
【図8】スライド式センサが使用される場合において指の表面がセンサに複数回引っかかったときの生体画像から検出される複雑度増加ブロックと複雑度減少ブロックの分布の一例を示す図である。
【図9】(a)は、ガイド部材を持つスライド式指紋センサの概略平面図である。(b)は、(a)の点線Aにおける断面形状を示す図である。(c)は、スライド式指紋センサの略中央に位置合わせされた状態で指を動かした場合に得られる生体画像の模式図である。(d)は、スライド式指紋センサの右側のガイド部材に指を押圧した状態で指を動かした場合に得られる生体画像の模式図である。
【図10】各実施形態またはその変形例による生体情報処理装置が実装された、コンピュータシステムの一例の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図を参照しつつ、様々な実施形態による、生体情報処理装置について説明する。
この生体情報処理装置は、利用者の生体情報の登録時または照合時において取得された、生体情報を表す生体画像を複数のブロックに分割する。そしてこの生体情報処理装置は、ブロックごとに、その生体情報が本来持っている複雑さを表す事前複雑度を、隣接するブロック間の模様の変化に基づいて推定する。またこの生体情報処理装置は、ブロックごとに、そのブロックに写っている像の複雑さを表す特徴量に基づいて、そのブロックに写っている生体情報の一部の像の複雑さを表す事後複雑度を求める。そしてこの生体情報処理装置は、事後複雑度と事前複雑度の差があるブロックを、生体画像取得時の指の動きなど、様々な事後要因により複雑度が変化したブロックとして検出することにより、生体画像上の生体情報に生じた歪みを検出する。
【0017】
本実施形態では、生体情報処理装置は、生体認証の対象となる生体情報として何れかの指の指紋を利用する。しかし、生体認証の対象となる生体情報は、掌紋のように、人体の何れかの部位の表面にある他の生体情報であってもよい。
また、本明細書において、「照合処理」という用語は、利用者の生体情報と登録利用者の生体情報の相違度合いまたは類似度合いを表す指標を算出する処理を示すために使用される。また、「生体認証処理」という用語は、照合処理だけでなく、照合処理により求められた指標を用いて、利用者を認証するか否かを決定する処理を含む、認証処理全体を示すために使用される。
【0018】
図1は、生体情報処理装置の第1の実施形態である生体認証装置の概略構成図を示す。図1に示されるように、生体認証装置1は、表示部2と、入力部3と、生体情報取得部4と、記憶部5と、処理部6とを有する。表示部2、入力部3及び生体情報取得部4は、記憶部5と処理部6が収容された筺体とは別個に設けられてもよい。あるいは、表示部2、入力部3、生体情報取得部4、記憶部5及び処理部6は、いわゆるノート型パーソナルコンピュータまたはタブレット型端末のように、一つの筺体に収容されてもよい。
【0019】
生体認証装置1は、生体情報取得部4により生成された利用者の指の指紋を表す生体画像を用いて、その指紋を登録利用者の指紋と照合することにより、生体認証処理を実行する。そして生体認証装置1は、生体認証処理の結果、利用者を登録利用者の何れかとして認証した場合、生体認証装置1が実装された装置をその利用者が使用することを許可する。あるいは、生体認証装置1は、図示しない他の装置へ、利用者が認証された旨を表す信号を送信して、その利用者が他の装置を使用することを許可する。
【0020】
表示部2は、例えば、液晶ディスプレイまたは有機エレクトロルミネッセンスディスプレイなどの表示装置を有する。そして表示部2は、例えば、生体情報取得部4が生体情報の歪みが少ない生体画像を取得できるように、利用者に指を置かせるためのガイドメッセージを利用者に対して表示する。また表示部2は、処理部6により実行された生体認証処理の結果を表すメッセージ、あるいはアプリケーションに関連する各種情報などを表示する。
【0021】
入力部3は、例えば、キーボード、マウス、またはタッチパッドなどのユーザインターフェースを有する。そして入力部3を介して利用者により入力された利用者のユーザ名といったユーザの識別情報あるいはコマンド若しくはデータは、処理部6へ渡される。ただし、利用者が生体情報以外の情報を生体認証装置1に対して入力する必要がない場合、入力部3は省略されてもよい。
【0022】
生体情報取得部4は、例えば、エリアセンサを用いた指紋センサを有する。この指紋センサは、例えば、光学式、静電容量式、電界式または感熱式の何れかの方式を採用したセンサとすることができる。そして生体情報取得部4は、利用者が指紋センサのセンサ面に指を載置している間に、その指の表面を撮影することにより、指紋が表された生体画像を生成する。
なお、生体情報取得部4は、スライド式の指紋センサを有してもよい。この場合、生体情報取得部4は、指紋センサに対して指をスライドさせている間に、所定の時間間隔で順次部分画像を生成する。部分画像には、その指の表面の指紋の一部が写されており、複数の部分画像を生成された時間順に連結することで、その指の指紋全体が写った生体画像が合成される。
【0023】
生体情報取得部4は、生体画像を生成する度に、その生体画像を処理部6へ渡す。
【0024】
記憶部5は、例えば、半導体メモリ、磁気ディスク装置、または光ディスク装置のうちの少なくとも何れか一つを有する。そして記憶部5は、生体認証装置1で使用されるアプリケーションプログラム、少なくとも一人の登録利用者のユーザ名、ユーザ識別番号及び個人設定情報、各種のデータ等を記憶する。また記憶部5は、生体認証処理を実行するためのプログラムを記憶する。さらに記憶部5は、登録利用者それぞれについて、登録利用者の登録生体情報である特定の指の指紋に関するデータを、その登録利用者のユーザ名、パスワードといった登録利用者の識別情報とともに記憶する。この登録生体情報に関するデータは、例えば、登録生体情報に関する特徴量情報を含む。特徴量情報は、例えば、登録生体情報を表す生体画像である登録生体画像から抽出された隆線の端点または分岐点などのマニューシャの種類、位置、局所的な隆線方向を含む。あるいは、登録生体情報に関するデータは、登録生体画像そのものまたは登録生体画像の一部であってもよい。
【0025】
処理部6は、1個または複数個のプロセッサ及びその周辺回路を有する。そして処理部6は、生体情報取得部4から取得した生体画像に表された生体情報の歪みを検出する。そして処理部6は、生体情報の歪みが小さければ、その生体画像を用いた生体認証処理または登録処理を実行する。
【0026】
図2は、処理部6の機能ブロック図である。図2に示されるように、処理部6は、画像分割部10と、事前複雑度推定部11と、事後複雑度算出部12と、歪み検出部13と、特徴量抽出部14と、照合部15と、認証判定部16と、登録部17とを有する。処理部6が有するこれらの各部は、処理部6が有するプロセッサ上で実行されるコンピュータプログラムによって実装される機能モジュールである。あるいは、処理部6が有するこれらの各部は、ファームウェアとして生体認証装置1に実装されてもよい。
【0027】
画像分割部10、事前複雑度推定部11、事後複雑度算出部12、歪み検出部13及び特徴量抽出部14は生体認証処理及び登録処理の両方で使用される。また照合部15及び認証判定部16は、生体認証処理において使用される。一方、登録部17は、登録処理において使用される。
【0028】
画像分割部10は、生体情報取得部4から受け取った生体画像を複数のブロックに分割する。本実施形態では、各ブロックは矩形形状を有し、かつ、各ブロックの縦方向及び横方向のサイズが平均的な隆線の幅の2倍〜10倍となるように、画像分割部10は、生体画像を格子状に、水平方向にM個、垂直方向にN個に分割する(ただし、M,Nは、2以上の整数)。そして画像分割部10は、各ブロックの位置を表す情報、例えば、ブロック間の境界線の座標または各ブロックの左上端及び右下端の座標を事前複雑度推定部11及び事後複雑度算出部12に通知する。
【0029】
事前複雑度推定部11は、ブロックごとに、そのブロックに写っている指紋の一部の模様の複雑さを表す事前複雑度を推定する。
一般に、指紋の渦中心に近いほど、隆線の曲率半径は小さくなるので、指紋の渦中心に近いブロックほど、隣接するブロックの隆線方向に対する隆線方向の変化度合いが大きくなる。一方、指紋の渦中心、あるいは三角州のような特異点から離れたブロックでは、隣接するブロックの隆線方向に対する隆線方向の変化度合いは小さい。このような隆線方向の特性は、指紋といった、生体情報の模様が持つ本来の複雑さを表している。そして、注目するブロックに含まれる指紋に歪みが加わっていても、隆線の方向自体は大きく変化しないので、隣接するブロック間での隆線方向の変化度合いが生体画像上の生体情報の歪みから受ける影響は小さい。
そこで、事前複雑度推定部11は、ブロックごとに生体情報の模様の方向である隆線の方向を求め、隣接するブロック間での隆線方向の変化に基づいて、ブロックごとに事前複雑度を推定する。
【0030】
事前複雑度推定部11は、ブロックごとに隆線方向を求める。そのために、事前複雑度推定部11は、例えば、ブロック内の各画素について、sobelフィルタまたはprewittフィルタといったエッジ検出フィルタを用いて水平方向のエッジ強度∂x(u,v)及び垂直方向のエッジ強度∂y(u,v)を求める。なお、u、vは、それぞれ、ブロック内の画素の水平方向の座標及び垂直方向の座標を表す。
【0031】
そして事前複雑度推定部11は、各ブロックの隆線方向を次式に従って算出する。
【数1】

ただし、i(i=1,2,...,M)、j(j=1,2,...,N)は、それぞれ、生体画像の左端からのブロック数及び生体画像の上端からのブロック数を表す。またbは、各ブロックの水平方向サイズ及び垂直方向サイズ(画素単位)を表す。そしてθ(i,j)は、左端から水平方向にi番目であり、上端から垂直方向j番目のブロック(以下、便宜上、ブロック(i,j)と表記する)の隆線方向を表す。
【0032】
また事前複雑度推定部11は、隆線方向を求める他の様々な方法の何れかを用いてブロックごとの隆線方向を求めてもよい。例えば、事前複雑度推定部11は、ブロックごとに、周波数変換して様々な方向の周波数成分を調べ、隆線の間隔に相当する周波数成分が最も高い方向を求める。隆線の間隔に相当する周波数成分が最も高い方向は、隆線に直交する方向であると推定されるので、事前複雑度推定部11は、隆線の間隔に相当する周波数成分が最も高い方向に直交する方向を、隆線の方向としてもよい。
【0033】
また、隆線と谷線のコントラストが低いために隆線が不鮮明なブロックでは、隆線方向を正確に算出することが難しいことがある。そのため、事前複雑度推定部11は、隆線が不鮮明なブロックの隆線方向を、隣接する他のブロックの隆線方向に基づいて補正してもよい。例えば、事前複雑度推定部11は、注目するブロック及びその周囲のブロックの隆線方向の値についてガウシアンフィルタまたは移動平均フィルタといった平滑化フィルタ処理を行うことにより、注目するブロックの隆線方向を補正してもよい。
あるいは、事前複雑度推定部11は、隆線方向の流れを考慮して各ブロックの隆線方向がその周囲の隆線方向の流れに沿うように隆線方向を補正してもよい。隆線方向の流れを考慮してブロックごとの隆線方向を補正する方法は、例えば、Yi Wang他、"A Fingerprint Orientation Model Based on 2D Fourier Expansion (FOMFE) and Its Application to Singular-Point Detection and Fingerprint Indexing"、IEEE TRANSACTIONS ON PATTERN ANALYSIS AND MACHINE INTELLIGENCE、2007年、第29巻、第4号に開示されている。
【0034】
各ブロックの隆線方向が求められると、事前複雑度推定部11は、ブロックごとに、隣接するブロックの隆線方向に対するそのブロックの隆線方向の差θ'(i,j)を求める。例えば、ブロック(i,j)についての隆線方向の差θ'(i,j)は、ブロック(i,j)の隆線方向θ(i,j)と、隣接する8個のブロック(i+k,j+l)(k,l=-1,0,1)の隆線方向θ(i+k,j+l)とのそれぞれの差の絶対値のうちの最大値とすることができる。あるいは、事前複雑度推定部11は、ブロック(i,j)の隆線方向θ(i,j)と、隣接する8個のブロック(i+k,j+l)の隆線方向θ(i+k,j+l)との差の絶対値の平均値をθ'(i,j)としてもよい。
そして事前複雑度推定部11は、次式に従って、各ブロックの事前複雑度Cp(i,j)を求める。
【数2】

ただし、max(θ'(i,j))は、全てのブロックについての隣接ブロックの隆線方向の差θ'(i,j)のうちの最大値を表す。(2)式から明らかなように、本実施形態では、各ブロックの事前複雑度Cp(i,j)は、最も隆線方向の変化の最大値で正規化された隆線方向の変化の度合いを表し、0〜1の間の値を持つ。
事前複雑度推定部11は、各ブロックの事前複雑度Cp(i,j)を歪み検出部13に渡す。
【0035】
事後複雑度算出部12は、ブロックごとに、そのブロックに写っている指紋の一部の像の複雑さを表す事後複雑度を、そのブロックごとに写っている像の複雑さを表す特徴量に基づいて求める。例えば、事後複雑度算出部12は、特徴量として、コントラスト、ピーク周波数、または輝度値の分散といった輝度値の統計量から算出された値を求める。
【0036】
コントラストは、例えば、ブロック内の輝度値の最大値と輝度値の最小値の差として算出される。また、ピーク周波数は、例えば、ブロックをフーリエ変換といった周波数変換することにより求められた各周波数成分のうちで、0次の周波数成分以外で最も強度が高い周波数成分として求められる。
また、ブロックについて算出した輝度値の分散に基づく特徴量は、例えば次式に従って算出される。
【数3】

ここでVar(i,j)は、ブロック(i,j)について算出された輝度値の分散を表し、F(i,j)は、ブロック(i,j)の特徴量を表す。指紋が不明りょうなブロックでは、隆線と谷線の区別が明りょうでなく、ブロック内の各画素の輝度値の差が小さく、その結果分散も小さくなる。そこで、(3)式によれば、特徴量の値は、輝度値の分散が小さいほど大きな値となる。
あるいは、事後複雑度算出部12は、各ブロックのテクスチャ特徴量、例えば、エントロピーまたはエネルギーに基づいて、そのブロックの特徴量を算出してもよい。ただし、特徴量は、ブロック内に写っている指紋の像が複雑であるほど高くなる値であることが好ましい。
【0037】
事後複雑度算出部12は、各ブロックについて、例えば次式に従って事後複雑度を算出する。
【数4】

ここで、F(i,j)は、ブロック(i,j)について算出された特徴量である。またFmax、Fminは、それぞれ、各ブロックについて算出された特徴量のうちの最大値、最小値を表す。そしてCa(i,j)は、ブロック(i,j)の事後複雑度を表す。(4)式から明らかなように、本実施形態では、各ブロックの事後複雑度Ca(i,j)は、最も複雑な像が写ったブロックの特徴量で正規化されたそのブロックの複雑さの度合いを表し、0〜1の間の値を持つ。
事後複雑度算出部12は、各ブロックの事後複雑度Ca(i,j)を歪み検出部13に渡す。
【0038】
生体画像上の指紋の像に歪みが無ければ、隆線方向が大きく変化するブロックほど、その像は複雑となるので、像の複雑度が相対的に高いブロックと、隆線の模様の複雑度が相対的に高いブロックは同一となる可能性が高い。
そこで、歪み検出部13は、ブロックごとに、事後複雑度Ca(i,j)と事前複雑度Cp(i,j)とを比較し、事前複雑度Cp(i,j)と事後複雑度Ca(i,j)との差異があるブロックを、そのブロックに写っている指紋の一部に歪みの有る歪みブロックとして検出する。例えば、歪み検出部13は、差Δ(i,j)(=Ca(i,j)-Cp(i,j))が所定の閾値α以上であるブロックを、生体画像取得時の指の動きといった事後要因に起因して複雑度が増加した複雑度増加ブロックとして検出する。一方、歪み検出部13は、差Δ(i,j)が所定の閾値β以下であるブロックを、事後要因に起因して複雑度が減少した複雑度減少ブロックとして検出する。複雑度減少ブロック及び複雑度増加ブロックは、それぞれ、歪みブロックである。そして歪み検出部13は、差Δ(i,j)が閾値βよりも大きく、かつ閾値αよりも小さいブロックを、そのブロックに写っている指紋の一部に歪みの無いブロックとする。
なお、閾値αは、正の値であり、例えば、各ブロックの特徴量の最大値Fmaxと最小値Fminとの差(Fmax-Fmin)に0.2〜0.3を乗じた値に設定される。また閾値βは、負の値であり、例えば、各ブロックの特徴量の最大値Fmaxと最小値Fminとの差(Fmax-Fmin)に0.2〜0.3を乗じた値に設定される。
【0039】
あるいは、歪み検出部13は、事前複雑度に対する事後複雑度の比(Ca(i,j)/Cp(i,j))が閾値Tha以下となるブロックを複雑度減少ブロックとして検出し、その比(Ca(i,j)/Cp(i,j))が閾値Thb以上となるブロックを複雑度増加ブロックとして検出してもよい。この場合、閾値Thaは、0より大きく、かつ、1未満の値、例えば、0.6〜0.8に設定される。また閾値Thbは、1より大きい値、例えば、1.2〜1.6に設定される。
【0040】
なお、歪み検出部13は、複雑度減少ブロックに隣接する何れのブロックも複雑度減少ブロックでなければ、その複雑度減少ブロックを歪みの無いブロックとしてもよい。同様に、歪み検出部13は、複雑度増加ブロックに隣接する何れのブロックも複雑度増加ブロックでなければ、その複雑度増加ブロックを歪みの無いブロックとしてもよい。これにより、歪み検出部13は、例えば、センサの表面に残った指の脂による残留指紋が生体画像に写ったり、ノイズなどの影響により事後複雑度が増加または減少したブロックが歪みブロックと判定されることを防止できる。
【0041】
図3は、指紋が写った生体画像と、ブロックごとの事前複雑度及び事後複雑度と、歪みブロックとの関係の一例を示す図である。図3において、生体画像300からブロックごとに求めた隆線方向は、例えば、矢印の集合301で表される。その集合301において、各矢印は、その矢印の位置に相当する局所的な隆線方向を表す。
生体画像300をブロック単位で表したブロック画像310は、各ブロックの事前複雑度を表す。ブロック画像310内の一つの矩形が一つのブロックに対応する。そしてブロック画像310において、ブロックの濃度が高いほど、そのブロックの事前複雑度も高いことを表す。
この例では、生体画像300の中心近辺に渦中心が写っている。そのため、画像中心よりも少し上に位置する領域311に含まれるブロック及び画像中心よりも少し下に位置する領域312に含まれるブロックにおいて、隣接するブロックの隆線方向に対する隆線方向の変化が相対的に大きくなる。そのため、領域311に含まれるブロック及び領域312に含まれるブロックの事前複雑度が他のブロックの事前複雑度よりも高くなっている。
【0042】
一方、生体画像300をブロック単位で表したブロック画像320は、各ブロックの事後複雑度を表す。ブロック画像320内の一つの矩形が一つのブロックに対応する。そしてブロック画像320において、ブロックの濃度が高いほど、そのブロックの事後複雑度も高いことを表す。
生体画像300の右上側では、隆線間隔が狭くなっている。そのため、生体画像300の右上側の領域321に含まれる各ブロックの特徴量は相対的に大きな値となるので、事後複雑度も高くなる。一方、生体画像300の左下側では、隆線間隔が広くなっている。そのため、生体画像300の左下側の領域322に含まれる各ブロックの特徴量は相対的に小さな値となるので、事後複雑度も低くなる。
【0043】
ブロック画像330は、生体画像300を分割した複数のブロックのそれぞれが歪みブロックか否かを表す。ブロック画像330において、事後複雑度が事前複雑度に対して相対的に高い領域331に含まれるブロックは、歪みブロックのうちの複雑度増加ブロックとなる。一方、事後複雑度に対して事前複雑度が相対的に高い領域332に含まれるブロックは、歪みブロックのうちの複雑度減少ブロックとなる。
このように、事後要因で複雑度が変化したブロックが、歪みブロックとして検出されることになる。
【0044】
歪み検出部13は、生体画像に対して検出された複雑度増加ブロックの総数Nextend及び複雑度減少ブロックの総数Nshrinkを求める。そして歪み検出部13は、複雑度増加ブロックの総数Nextendまたは複雑度減少ブロックの総数Nshrinkが所定の閾値Thよりも大きい場合、生体画像上の指紋に歪みがあると判定する。そして歪み検出部13は、利用者に対して、再度指紋を撮影する旨のメッセージを表示部2に表示させる。なお、閾値Thは、例えば、歪みブロックによる照合精度の低下が許容限度となる歪みブロック数の1/2、例えば、生体画像上で指紋が写っている指紋領域と少なくとも一部が重なるブロックの総数の10%〜20%に設定される。生体画像上で指紋が写っていない背景領域に含まれる画素の輝度値は、指紋領域に含まれる画素の輝度値よりも非常に低いか、あるいは非常に高い。そのため、指紋領域は、例えば、生体画像を2値化することにより求められる。例えば、背景領域に含まれる画素の輝度値が指紋領域に含まれる画素の輝度値よりも低い場合、歪み検出部13は、生体画像の各画素のうち、所定の2値化閾値よりも輝度値の高い画素を指紋領域に含まれる画素とすることができる。2値化閾値は、例えば、背景領域に含まれる画素の輝度値の最大値に相当する輝度値、例えば、10に設定される。
【0045】
また、歪み検出部13は、指紋に歪みがあると判定した場合、複雑度増加ブロックの重心と複雑度減少ブロックの重心との差に基づいて、指が過度に押圧された方向を推定してもよい。そのために、歪み検出部13は、複雑度増加ブロックの重心Gextendから複雑度減少ブロックの重心Gshrinkへ向かうベクトルDirection(=Gshrink-Gextend)を求める。そして歪み検出部13は、表示部2に、ベクトルDirectionの方へ指を押し付け過ぎていることを示すメッセージを表示させてもよい。また歪み検出部13は、そのメッセージとともに、表示部2に、得られた生体画像と、ベクトルDirectionの方向を向く矢印を重ね合わせた画像を表示させてもよい。
【0046】
なお、歪み検出部13は、複雑度増加ブロックの重心Gextendと複雑度減少ブロックの重心Gshrink間の距離ΔGが所定の閾値未満である場合には、再度指紋を撮影する旨のメッセージを表示部2に表示させなくてもよい。所定の閾値は、例えば、指紋領域の水平方向幅または垂直方向長さの1/10〜1/5に設定される。重心間距離ΔGが所定の閾値未満である場合、生体画像上の生体情報に生じた歪みは、指表面の凹凸に起因するものであり、指紋を再撮影することによっても歪みブロックの数が減少しない可能性が高いためである。
【0047】
一方、歪み検出部13は、複雑度増加ブロックの総数Nextend及び複雑度減少ブロックの総数Nshrinkが閾値Th以下である場合、生体画像上の指紋の歪みが照合精度に与える影響は許容限度内であると判定する。この場合、歪み検出部13は、各歪みブロックの生体画像上の位置及び歪みブロックの種類(複雑度増加ブロックか複雑度減少ブロックか)を記憶部5に記憶する。
なお、歪み検出部13は、歪みブロックの総数(Nextend+Nshrink)が閾値Thの2倍よりも多い場合に、生体画像上の指紋に歪みが有ると判定してもよい。
【0048】
特徴量抽出部14は、歪み検出部13により生体画像上の指紋の歪みが照合精度に与える影響が許容限度内であると判定されると、その生体画像から指紋の特徴量を抽出する。
特徴量抽出部14は、特徴量として、例えば、指紋の隆線の分岐点及び端点といった特徴的な指紋の構造であるマニューシャの位置を求める。そのために、特徴量抽出部14は、例えば、生体画像の各画素の輝度値を2値化して、隆線を表す画素と谷線を表す画素とを区別する。2値化のための閾値は、例えば、生体画像の輝度値の平均値とすることができる。次に特徴量抽出部14は、2値化された生体画像について、隆線に相当する輝度値を持つ画素に対して細線化処理を行うことにより、隆線を表す画素が連結した線を、例えば1画素幅を持つ線に細線化する。そして特徴量抽出部14は、隆線の分岐点または端点に対応する2値パターンを持つ複数のマスクパターンを用いて細線化された生体画像を走査することにより、何れかのマスクパターンと一致するときの、生体画像上の位置を検出する。そして特徴量抽出部14は、検出された位置の中心画素を、マニューシャとし、かつ一致したマスクパターンが表すマニューシャの種類(すなわち、分岐点または端点)を、検出されたマニューシャの種類とする。
【0049】
なお、特徴量抽出部14は、隆線の端点または分岐点をマニューシャとして求める公知の他の方法を用いて、生体画像からマニューシャを抽出してもよい。さらに特徴量抽出部14は、生体画像の各ブロックの隆線方向を特徴量としてもよい。この場合、各ブロックの隆線方向は、事前複雑度推定部11が求めた各ブロックの隆線方向とすることができる。
【0050】
特徴量抽出部14は、抽出されたマニューシャの総数、各マニューシャの識別番号、種類及び生体画像上の位置、または隆線方向といった特徴量を含む特徴量情報を生体画像に対応付けて記憶部5に記憶する。なお、各マニューシャに付される識別番号は、例えば、生体画像の左上端から近い方のマニューシャから順に、1から始まる連続番号とすることができる。
【0051】
照合部15は、照合時に取得された利用者の生体画像に表された指紋である入力生体情報と、入力部3を介して入力されたユーザ識別情報により特定される登録利用者の登録生体画像に表された登録利用者の指紋である登録生体情報との類似度を算出する。
照合部15は、例えば、マニューシャマッチングにより類似値を算出する。この場合、照合部15は、例えば、特徴量情報に含まれる、何れかのマニューシャを、登録生体画像から抽出された何れかのマニューシャに位置合わせする。そして照合部15は、特徴量情報に含まれる他のマニューシャと登録生体画像から抽出されたマニューシャとが一致する数を求める。なお、照合部15は、二つのマニューシャ間の距離が、例えば、隆線間隔以下であれば、その二つのマニューシャは一致すると判定する。また照合部15は、二つのマニューシャの種類が一致する場合に限り、その二つのマニューシャが一致すると判定してもよい。
【0052】
照合部15は、位置合わせをするマニューシャの組を変えつつ、利用者の生体画像から抽出されたマニューシャと登録生体画像から抽出されたマニューシャとが一致する数を求める。そして照合部15は、利用者の生体画像から抽出されたマニューシャの総数に対する、一致するマニューシャの数の比を類似度とする。
【0053】
また、照合部15は、類似度を算出する際、一致するマニューシャごとに、そのマニューシャが歪みブロックに含まれるか否かに応じて重み付けを行ってもよい。この場合、照合部15は、例えば、次式に従って照合スコアSを算出する。
【数5】

Nmは、利用者の生体画像から抽出されたマニューシャの総数を表す。またCompareMinutiae(k)は、利用者の生体画像から抽出されたマニューシャのうちのk(=1,2,...,Nm)番目のマニューシャについての登録生体画像上のマニューシャとの一致度を表す。wkは、k番目のマニューシャについて設定される重み係数である。
照合部15は、位置合わせをするマニューシャの組を変えつつ、(5)式に従って照合スコアSを算出し、算出された照合スコアSの最大値を類似度とする。
【0054】
なお、k番目のマニューシャが含まれるブロックが歪みブロックである場合、重み係数wkは、k番目のマニューシャが含まれるブロックが歪みの無いブロックである場合よりも小さな値に設定されることが好ましい。これにより、照合部15は、指紋の読み取り時の指の動きなどによって生じた歪みによる照合精度の低下を抑制できる。例えば、k番目のマニューシャが含まれるブロックが歪みブロックである場合、wkは0.4に設定され、k番目のマニューシャが含まれるブロックが歪みの無いブロックである場合、wkは1に設定される。
【0055】
また、複雑度増加ブロックでは、隆線間の間隔が狭くなること、または指表面の傷などによってアーティファクトが生じる可能性が、複雑度減少ブロックよりも高く、そのアーティファクトが誤ってマニューシャとして検出される可能性がある。そこで、k番目のマニューシャが含まれるブロックが複雑度増加ブロックである場合のwkは、k番目のマニューシャが含まれるブロックが複雑度減少ブロックである場合のwkよりも小さな値に設定されてもよい。
【0056】
また一致度CompareMinutiae(k)は、例えば、利用者の生体画像から抽出されたk番目のマニューシャと一致する登録生体画像上のマニューシャがあれば'100'となり、k番目のマニューシャと一致する登録生体画像上のマニューシャが無ければ'0'となる。あるいは、一致度CompareMinutiae(k)は、例えば、利用者の生体画像から抽出されたk番目のマニューシャの種別と一致する登録生体画像上のマニューシャの種別が同一であれば'100'となり、一方、それら二つのマニューシャの種別が異なれば'50'であってもよい。この場合も、一致度CompareMinutiae(k)は、k番目のマニューシャと一致する登録生体画像上のマニューシャが無ければ'0'となる。
【0057】
あるいは、照合部15は、k番目のマニューシャが含まれるブロックの隆線方向と、そのマニューシャと一致する登録生体画像上のマニューシャが含まれるブロックの隆線方向との角度差が小さいほど、一致度CompareMinutiae(k)を大きな値としてもよい。例えば、二つのブロックの隆線方向の角度差の絶対値がDiffDirectionである場合、照合部15は、一致度CompareMinutiae(k)を(1/(1+DiffDirection))としてもよい。
【0058】
あるいはまた、照合部15は、利用者の生体画像と登録生体情報が写った登録生体画像との間でパターンマッチングを行うことにより類似度を算出してもよい。この場合、照合部15は、利用者の生体画像と登録生体画像に対する相対的な位置を変えつつ、正規化相互相関係数を求め、その正規化相互相関値の最大値を類似値として算出する。この場合には、特徴量抽出部14は省略されてもよい。
【0059】
照合部15は、類似度を、登録利用者の識別情報とともに、認証判定部16へ渡す。
【0060】
なお、利用者の識別情報が入力されていない場合、照合部15は、各登録利用者について、それぞれ指紋の類似度を求める。そして照合部15は、指紋の類似度が最大となる登録利用者を選択する。
そして照合部15は、類似度の最大値及びその最大値に対応する登録利用者の識別情報を認証判定部16へ渡す。
【0061】
認証判定部16は、類似度を認証判定閾値と比較することで、利用者を登録利用者として認証するか否かを判定する。例えば、認証判定部16は、類似度が認証判定値以上となる場合、生体画像に写った利用者の指紋と登録利用者の指紋は一致すると判定する。そして認証判定部16は、利用者を、その登録利用者として認証する。認証判定部16は、利用者を認証すると、その認証結果を処理部6へ通知する。そして処理部6は、認証された利用者が生体認証装置1が実装された装置あるいは生体認証装置1が接続された装置を利用することを許可する。
【0062】
一方、類似度が認証判定閾値未満となる場合、認証判定部16は、利用者を認証せず、利用者を認証しないことを処理部6へ通知する。この場合、処理部6は、認証されなかった利用者が生体認証装置1が実装された装置あるいは生体認証装置1が接続された装置を使用することを拒否する。また処理部6は、表示部2に、認証に失敗したことを示すメッセージを表示させてもよい。
【0063】
認証判定閾値は、登録利用者本人が利用者である場合にのみ、認証判定部16が認証に成功するような値に設定されることが好ましい。そして認証判定閾値は、登録利用者とは異なる他人が利用者である場合には、認証判定部16が認証に失敗するような値に設定されることが好ましい。例えば、認証判定閾値は、類似度の取りうる最大値と最小値の差に0.7を乗じた値を、類似度の最小値に加えた値とすることができる。
【0064】
登録部17は、登録処理の実行時において、歪み検出部13により生体画像上の生体情報の歪みが照合精度に与える影響が許容限度内であると判定されると、入力部3を介して入力された利用者の識別情報を、特徴量抽出部14により抽出された特徴量情報とともに記憶部5に記憶する。なお、照合部15がパターンマッチングにより類似度を求める場合には、登録部17は、生体画像そのもの、または生体画像上の指紋領域に外接する矩形状の領域を、利用者の識別情報とともに記憶部5に記憶する。これにより、利用者は、生体認証装置1が実装された装置の使用が許可される登録利用者として登録される。
【0065】
図4は、処理部6により実行される生体認証処理の動作フローチャートである。
処理部6が生体情報取得部4から利用者の指紋が表された生体画像を受け取ると、処理部6の画像分割部10は、その生体画像を複数のブロックに分割する(ステップS101)。そして処理部6の事前複雑度推定部11は、ブロックごとに、隣接するブロックとの隆線方向の変化に基づいて、事前複雑度Cp(i,j)を推定する(ステップS102)。また、処理部6の事後複雑度算出部12は、ブロックごとに、ブロックに写っている像の複雑度を表す特徴量に基づいて事後複雑度Ca(i,j)を求める(ステップS103)。
【0066】
その後、処理部6の歪み検出部13は、ブロックごとに、事後複雑度Ca(i,j)と事前複雑度Cp(i,j)の差を求め、その差に基づいて歪みブロックである複雑度増加ブロック及び複雑度減少ブロックを検出する(ステップS104)。そして歪み検出部13は、複雑度増加ブロックの総数Nextend及び複雑度減少ブロックの総数Nshrinkが閾値Th以下か否か判定する(ステップS105)。
【0067】
複雑度増加ブロックの総数Nextendと複雑度減少ブロックの総数Nshrinkのうちの少なくとも一方が閾値Thより大きい場合(ステップS105−No)、歪み検出部13は、生体画像上の指紋に歪みが有ると判定する。そして処理部6は、表示部2に指紋を再撮影する旨のメッセージを表示させる(ステップS106)。そしてそのメッセージが表示されてから所定期間(例えば、3秒〜10秒)が経過した後、処理部6は、生体情報取得部4に利用者の指紋を再撮影させる。そして処理部6は、再撮影された指紋が写った生体画像を生体情報取得部4から受け取る(ステップS107)。その後、処理部6は、ステップS101以降の手順を再実行する。
【0068】
一方、複雑度増加ブロックの総数Nextendと複雑度減少ブロックの総数Nshrinkの両方が閾値Th以下である場合(ステップS105−Yes)、処理部6の特徴量抽出部14は、生体画像上の指紋の特徴を表す特徴量情報を求める(ステップS108)。そして処理部6は、その特徴量情報を処理部6の照合部15に渡す。さらに処理部6は、入力部3を介して利用者の識別情報を取得している場合、その識別情報と一致する識別情報と関連付けられた登録利用者の特徴量情報を記憶部5から読み出して、その特徴量情報を照合部15に渡す。一方、利用者の識別情報が入力されていない場合、処理部6は、全ての登録利用者の特徴量情報を記憶部5から読み出して、各特徴量情報及び対応する登録利用者の識別情報を照合部15へ渡す。
【0069】
照合部15は、利用者の特徴量情報と登録利用者の特徴量情報とに基づいて利用者の指紋と登録利用者の指紋の類似度を算出する(ステップS109)。そして照合部15は、指紋の類似度とともに、登録利用者の識別情報を処理部6の認証判定部16へ渡す。なお、利用者の識別番号が得られていない場合には、照合部15は、各登録利用者について求めた利用者の指紋に対する類似度の最大値を求める。そして照合部15は、その最大値とともに、その最大値に対応する登録利用者の識別情報を認証判定部16へ渡す。
【0070】
認証判定部16は、類似度が認証判定用閾値以上となるか否か判定する(ステップS110)。
類似度が認証判定用閾値以上である場合(ステップS110−Yes)、認証判定部16は、利用者を登録利用者として認証する(ステップS111)。
一方、類似度が認証判定用閾値未満である場合(ステップS110−No)、認証判定部16は利用者を認証しない(ステップS112)。
ステップS111またはS112の後、処理部6は、生体認証処理を終了する。なお、処理部6は、ステップS103とステップS104の実行順序を入れ替えてもよい。
また、処理部6が登録処理を行う場合、上記のステップS109〜S112の手順の代わりに、登録部17が、利用者の識別情報とともに特徴量情報を記憶部5に記憶する手順を実行すればよい。
【0071】
以上に説明してきたように、この実施形態による生体認証装置は、生体画像を分割した複数のブロックのうちの隣接するブロック間での隆線方向の変化に基づいて、ブロックごとに、そのブロックに写っている指紋の一部が持つ本来の複雑度を推定する。またこの生体認証装置は、ブロックごとに、像の複雑さを表す特徴量に基づいて、そのブロックに写っている指紋の一部の複雑度を求める。そしてこの生体認証装置は、ブロックごとに、像の複雑度と推定された指紋本来の複雑度とを比較することにより、事後的な要因に起因して複雑度が変化するブロックを、生体画像上の指紋に歪みのあるブロックとして検出する。そのため、この生体認証装置は、参照用の生体画像を利用することなく、生体画像上の指紋の歪みを検出できる。
【0072】
次に、生体情報処理装置の第2の実施形態による、生体認証装置について説明する。第2の実施形態による生体認証装置は、照合処理の際に利用者の生体画像から抽出されたマニューシャと登録利用者の登録生体画像から抽出されたマニューシャとを位置合わせするために利用される指紋の基準点を求める。そして生体認証装置は、その基準点の位置を検出された歪みブロックに基づいて補正する。
第2の実施形態による生体認証装置は、第1の実施形態による生体認証装置と比較して、処理部により実現される機能のみが異なる。
そこで以下では、第2の実施形態による生体認証装置が有する処理部の各構成要素のうち、第1の実施形態による生体認証装置の処理部の構成要素と相違する点について説明する。第2の実施形態による生体認証装置のその他の構成要素の詳細については、第1の実施形態による生体認証装置の対応する構成要素についての説明を参照されたい。
【0073】
図5は、第2の実施形態による生体認証装置が有する処理部の機能ブロック図である。図5に示されるように、処理部6は、画像分割部10と、事前複雑度推定部11と、事後複雑度算出部12と、歪み検出部13と、特徴量抽出部14と、照合部15と、認証判定部16と、登録部17と、基準点決定部18と、基準点補正部19とを有する。処理部6が有するこれらの各部は、処理部6が有するプロセッサ上で実行されるコンピュータプログラムによって実装される機能モジュールである。あるいは、処理部6が有するこれらの各部は、ファームウェアとして生体認証装置1に実装されてもよい。
なお、図5において、各構成要素には、図2に示された第1の実施形態による処理部の対応する構成要素の参照番号と同一の参照番号を付した。第2の実施形態による生体認証装置の処理部は、基準点決定部18と基準点補正部19とを有する点で、第1の実施形態による生体認証装置の処理部と異なる。
【0074】
基準点決定部18は基準点を求める。例えば、基準点決定部18は、指紋領域の重心、または、事前複雑度推定部11により求められた隣接するブロック間での隆線方向の変化の最大値に対応するブロックの中心を基準点とする。そして基準点決定部18は、求めた基準点の座標を基準点補正部19へ渡す。なお、基準点決定部18は、例えば、歪み検出部13が指紋領域を検出する処理と同様に、生体画像を、背景領域に含まれる画素の輝度値の最大値に相当する2値化閾値を用いて2値化することにより指紋領域を検出する。
【0075】
基準点補正部19は、基準点の位置を、検出された歪みブロックに応じて移動することで、生体画像に写った指紋に歪みが無い場合に基準点が示す指紋内の位置と移動後の基準点が示す指紋内の位置を一致させる。
【0076】
図6(a)は、歪みの無い指紋の生体画像の模式図であり、図6(b)は、歪みの有る指紋の生体画像の模式図である。図6(a)に示されるように、歪みの無い指紋の生体画像600の指紋領域の重心601が基準点として設定されているとする。
ここで、利用者が生体情報取得部4のセンサ面に対して指の表面を過度に押し付けると、指の表面の一部では指の表面が伸ばされ、隆線間の間隔が広くなる。一方、指の表面の他の部分では、指の表面が伸ばされた部分の影響により逆に指の表面が圧縮され、その結果として隆線間隔が狭くなる。
そのため、図6(b)に示されるように、歪みの有る指紋の生体画像610上では、例えば、隆線間隔が広い部分611と、隆線間隔が狭い部分612とが生じる。その結果、図6(a)における基準点601に対応する生体画像610上の位置613は、基準点601よりも部分612に近い方へずれる。
【0077】
また、隆線間隔が広い部分611に対応するブロックの事後複雑度は低下し、その結果、部分611に対応するブロックは複雑度減少ブロックとなる可能性が高い。一方、指を隆線の間隔が狭い部分612に対応するブロックの事後複雑度は高くなり、その結果、部分612に対応するブロックは複雑度増加ブロックとなる可能性が高い。したがって、基準点の移動方向は、複雑度減少ブロックの重心から複雑度増加ブロックの重心へ向かう方向と推定される。
【0078】
そこで基準点補正部19は、検出された全ての複雑度減少ブロックの重心Gshrinkから検出された全ての複雑度増加ブロックの重心Gextendに向かう方向へ基準点を移動させる。したがって、基準点を移動させる方向の単位ベクトルVdは、次式で表される。
【数6】

【0079】
また、基準点補正部19は、基準点の移動量Mを、例えば、次式のように生体画像についてのブロックの総数Nallに対する歪みブロックの総数(Nextend+Nshrink)の比に基づいて決定する。なお、移動量Δは、例えば、画素単位で表される。
【数7】

ここでMbは、基準移動量であり、例えば、全てのブロックが歪みの無いブロックである場合の基準点に対する、全てのブロックが歪みブロックであるとした場合の基準点の位置変化量であり、画素単位で表される。なお、この基準点の移動量Δは、生体画像に写った指紋の歪みの量の推定値でもある。
【0080】
基準点補正部19は、基準点の位置を、単位ベクトルVdの方向へ、移動量Mだけ移動させる。そして基準点補正部19は、補正後の基準点の位置を特徴量抽出部14に渡す。
【0081】
特徴量抽出部14は、第1の実施形態による特徴量抽出部による処理と同様の処理を行って、マニューシャの位置を求める。そして特徴量抽出部14は、抽出した各マニューシャの位置を補正後の基準点を原点とする座標系で表す。特徴量抽出部14は、各マニューシャの位置と補正後の基準点を含む特徴量情報を生成し、その特徴量情報を記憶部5に記憶する。
【0082】
照合部15は、生体画像に表された利用者の指紋から抽出された各マニューシャと、登録生体画像に表された登録利用者の指紋から抽出された各マニューシャを、補正後の基準点同士を一致させるように位置合わせする。そして照合部15は、補正後の基準点同士が位置合わせされた状態で、例えば、(5)式に従って算出された照合スコアを、利用者の指紋と登録利用者の指紋の類似度とする。
【0083】
この第2の実施形態によれば、生体認証装置は、照合処理を行う際、補正後の基準点に基づいて利用者の指紋から抽出された各マニューシャと、登録生体画像に表された登録利用者の指紋から抽出された各マニューシャを位置合わせする。そのため、この生体認証装置は、照合処理の際に実行する位置合わせの回数を減らせるので、照合処理の演算量を低減できる。さらにこの生体認証装置は、基準点の位置を歪みブロックに基づいて補正するので、指紋の読み取りの際の指の動きなどによって指の表面に偏りが生じても、正確に基準点の位置を決定できるので、照合処理の際に対応するマニューシャ同士を正確に位置合わせできる。そのため、この生体認証装置は、照合精度の低下を抑制できる。
【0084】
なお、第2の実施形態の変形例によれば、生体情報取得部は、エリアセンサを有し、そのエリアセンサによって複数の指の指紋を撮影し、複数の指の指紋が写った1枚の生体画像を生成してもよい。
この場合、基準点決定部は、指ごとに基準点を決定し、基準点補正部は、指ごとに基準点の位置を補正する。基準点決定部は、指ごとに基準点を決定するために、生体画像上で指紋領域を指ごとに区分する。そのために、基準点決定部は、例えば、歪み検出部が指紋領域を検出する処理と同様に生体画像を2値化することにより指紋領域を検出する。そして基準点決定部は、垂直方向の列ごとに、指紋領域に含まれる画素の頻度を求め、その頻度が極小値となる列を、隣接する二つの指の境界とする。そして基準点決定部は、指の境界により複数に区分された指紋領域のそれぞれを、一つの指の指紋領域とする。
【0085】
基準点決定部は、指ごとに、その指の指紋領域の重心をその指の基準点とする。あるいは、基準点決定部は、指ごとに、その指の指紋領域と少なくとも一部が重なるブロックを求め、そのブロックのうちで隣接するブロック間の隆線方向の変化が最も大きいブロックの中心をその指の基準点としてもよい。
【0086】
また、基準点補正部は、指ごとに、その指の指紋領域と少なくとも一部が重なるブロックのうちで複雑度増加ブロックと複雑度減少ブロックを求める。そして基準点補正部は、指ごとに、(6)式及び(7)式に従って、基準点の移動方向の単位ベクトル及び移動量を求めればよい。この場合、注目する指について、(6)式における複雑度増加ブロックの重心Gextendと複雑度減少ブロックの重心Gshrinkは、それぞれ、その注目する指の指紋領域と少なくとも一部が重なるブロックのうちの複雑度増加ブロックの重心及び複雑度減少ブロックの重心である。また、(7)式におけるNallは、注目する指の指紋領域と少なくとも一部が重なるブロックの総数であり、Nextend及びNshrinkは、それぞれ、注目する指の指紋領域と少なくとも一部が重なるブロックのうちの複雑度増加ブロックの数及び複雑度減少ブロックの数である。
【0087】
さらに、特徴量抽出部は、各指の補正された基準点間の距離を、照合処理に用いられる特徴量の一つとして算出してもよい。
図7は、複数の指の指紋が写った生体画像の模式図である。生体画像700には、3本の指の指紋701〜703が写っている。この場合、指紋701についての補正された基準点711と指紋702についての補正された基準点712間の距離d1が特徴量として算出される。同様に、補正された基準点711と指紋703についての補正された基準点713間の距離d2及び補正された基準点712と補正された基準点713間の距離d3が特徴量として算出される。
【0088】
また、第1の実施形態または第2の実施形態の変形例によれば、生体情報取得部は、スライド式の指紋センサを有してもよい。この場合、利用者が指紋センサのセンサ面に対して指を押し付けながら指の長手方向にスライドさせることにより、指紋センサが指紋の一部が写った部分画像を順次生成し、その部分画像が連結されることで指紋全体が写った生体画像が生成される。
【0089】
しかし、利用者が指をセンサ面に対して過度に押し付けると、指の表面が指紋センサに引っかかることがある。このような場合、指の移動方向に沿って指の表面が圧縮されるので、隆線間隔が狭くなる。その結果、指紋センサに引っかかった部分に相当するブロックの事後複雑度は高くなる。一方、その引っかかった部分に近接する部分では、逆に指の表面が伸ばされることになり、その結果、隆線間隔が広くなる。そのため、その表面が伸ばされた部分に相当するブロックの事後複雑度は低くなる。そして指の移動中、数回指の表面が指紋センサに引っかかると、指の移動方向に沿って、複雑度増加ブロックが多い領域と複雑度減少ブロックが多い領域が交互に表れることになる。
【0090】
図8に、指の表面が指紋センサに複数回引っかかったときの生体画像から検出される複雑度増加ブロックと複雑度減少ブロックの分布の一例を示す。
生体画像をブロック単位に分割したブロック画像800の垂直方向は、指の移動方向に対応する。また領域810は、複雑度増加ブロックが含まれる領域であり、一方、領域820は、複雑度減少ブロックが含まれる領域である。図8に示されるように、複雑度増加ブロックが含まれる領域810と複雑度減少ブロックが含まれる領域820は、指紋領域801内で、指の移動方向、すなわち垂直方向に沿って交互に表れる。
【0091】
そこで、歪み検出部は、ブロック単位の水平方向の行ごとに、複雑度増加ブロックの頻度と複雑度減少ブロックの頻度を求める。そして歪み検出部は、複雑度増加ブロックの頻度が極大値となる行と、複雑度減少ブロックの頻度が極大値となる行とを求める。そして歪み検出部は、垂直方向に沿って、複雑度増加ブロックの頻度が極大値となる行と複雑度減少ブロックの頻度が極大値となる行が交互に表れる場合、表示部に、指を過度に押圧し過ぎていることを示すメッセージを表示させる。その後、処理部は、生体情報取得部に、再度指紋を読み取らせる。
【0092】
また、指紋センサの両側端に、指の移動方向と平行な長手方向を持つガイド部材が形成されていてもよい。この場合、利用者は、何れか一方のガイド部材に指を過度に押し付けながら、指を動かすことがある。そのため、生体画像上の指紋に歪みが生じることがある。
【0093】
図9(a)は、ガイド部材を持つスライド式指紋センサの概略平面図である。図9(b)は、図9(a)の点線Aにおける断面形状を示す図である。また図9(c)は、スライド式指紋センサの略中央に位置合わせされた状態で指を動かした場合に得られる生体画像の模式図である。図9(d)は、スライド式指紋センサの右側のガイド部材に指を押圧した状態で指を動かした場合に得られる生体画像の模式図である。
スライド式センサ900は、横方向に長いセンサ面901と、センサ面901の両側端に設けられたガイド部材902、903を有する。ガイド部材902、903は、センサ面901の長手方向(すなわち、横方向)と略直交する方向(すなわち、縦方向)に沿って形成されている。ガイド部材902、903の上端は、それぞれ、センサ面901よりも高くなっており、そのため、ガイド部材902とガイド部材903で挟まれた部分が溝状となっている。利用者が指をガイド部材902とガイド部材903の間を縦方向に移動させることで、センサ面901の上方を指紋全体が通るので、スライド式指紋センサ900は、指紋が写った生体画像を生成できる。
【0094】
利用者が指を適切に移動させれば、図9(c)に示されるように、歪みの無い指紋911が写った生体画像910が生成される。しかし、利用者が、例えば、指の右側をガイド部材902に過度に押圧しながら指を動かすと、指の表面の右側は圧縮されるので、隆線間隔が狭くなる。一方、指の表面の左側は伸ばされ、その結果として指の表面の左側の隆線間隔は広くなる。そのため、図9(d)に示されるように、歪みのある指紋912が写った生体画像920が生成される。この場合、生体画像920の右側に多数の複雑度増加ブロックが存在し、一方、生体画像920の左側に多数の複雑度減少ブロックが存在することになる。
【0095】
そこで、歪み検出部は、例えば、複雑度減少ブロックの重心Gshrinkから複雑度増加ブロックの重心Gextendへ向かう方向を求める。歪み検出部は、その方向が指紋センサのセンサ面に対する指の移動方向に対して45°以上の角度をなしていれば、指をガイド部材に過度に押圧していると判定する。そして歪み検出部は、表示部に、指をガイド部材に過度に押圧し過ぎていることを示すメッセージを表示させる。その後、処理部は、生体情報取得部に、再度指紋を読み取らせる。
【0096】
また、他の変形例によれば、事後複雑度算出部は、指紋領域と少なくとも一部が重なるブロックについてのみ、特徴量及び事後複雑度を算出してもよい。これにより、指紋が写っていない領域から算出される特徴量による、事後複雑度に対する影響をなくせるので、事後複雑度算出部は、より正確に各ブロックの事後複雑度を評価できる。同様に、事前複雑度推定部も、指紋領域と少なくとも一部が重なるブロックについてのみ、事前複雑度を算出してもよい。
【0097】
さらに、本明細書に開示された生体情報処理装置及び生体情報処理方法は、利用者が何らかの操作を行うために、利用者の生体情報と、予め登録された生体情報間で生体認証処理を実行する、各種の装置またはシステムに適用可能である。
【0098】
図10は、上記の各実施形態またはその変形例による生体情報処理装置が実装された、コンピュータシステムの一例の概略構成図である。
例えば、コンピュータシステム100は、少なくとも1台の端末110とサーバ120とを有する。そして端末110とサーバ120は、有線または無線の通信ネットワーク130を介して接続される。なお、図10において、コンピュータシステム100が有する構成要素のうち、図1に示した生体認証装置1が有する構成要素の何れかと対応する構成要素には、生体認証装置1が有する構成要素の参照番号と同じ参照番号を付した。
【0099】
このシステムでは、端末110は、例えば、携帯電話機またはタブレット型端末といった携帯端末、あるいは、固定的に設置される端末であり、表示部2、入力部3及び生体情報取得部4を有する。さらに、端末110は、記憶部21と、画像取得制御部22と、インターフェース部23とを有する。
記憶部21は、例えば、半導体メモリ回路を有し、生体情報取得部4により生成された生体画像を一時的に記憶する。また画像取得制御部22は、一つまたは複数のプロセッサとその周辺回路とを有し、端末110の各部を制御し、かつ、端末110で動作する各種のプログラムを実行する。そして画像取得制御部22は、生体情報取得部4により生成された生体画像を、端末110を通信ネットワーク130と接続するためのインターフェース回路を有するインターフェース部23を介してサーバ120へ送信する。さらに画像取得制御部22は、入力部3を介して入力されたユーザ識別情報もサーバ120へ送信してもよい。
【0100】
サーバ120は、記憶部5と、処理部6と、サーバ120を通信ネットワーク130と接続するためのインターフェース回路を有するインターフェース部24とを有する。サーバ120の処理部6は、インターフェース部24を介して受信した生体画像を用いて、上記の各実施形態の何れかまたはその変形例による処理部が有する各機能を実現することにより、生体認証処理を実行する。そしてサーバ120は、認証に成功したか否かの判定結果をインターフェース部24を介して端末110へ返信する。
【0101】
あるいは、端末110の画像取得制御部22が、上記の各実施形態による処理部の機能のうち、画像分割部、事前複雑度推定部、事後複雑度算出部、歪み検出部、基準点検出部、基準点補正部及び特徴量抽出部の処理を実行してもよい。この場合、端末110からサーバ120へ、利用者の生体画像から抽出された特徴量情報と利用者の識別情報がサーバ120へ送信されてもよい。一方、サーバ120の処理部6は、上記の各実施形態による処理部の機能のうち、照合部、認証判定部及び登録部の処理のみを実行する。これにより、サーバ120の負荷が軽減されるので、同時に多数の生体認証処理が実行されても、コンピュータシステム100は、利用者に対する待ち時間を抑制できる。
【0102】
また、上記の各実施形態による処理部の機能をコンピュータに実現させる命令を有するコンピュータプログラムは、磁気記録媒体、光記録媒体あるいは不揮発性の半導体メモリといった、記録媒体に記録された形で提供されてもよい。
【0103】
ここに挙げられた全ての例及び特定の用語は、読者が、本発明及び当該技術の促進に対する本発明者により寄与された概念を理解することを助ける、教示的な目的において意図されたものであり、本発明の優位性及び劣等性を示すことに関する、本明細書の如何なる例の構成、そのような特定の挙げられた例及び条件に限定しないように解釈されるべきものである。本発明の実施形態は詳細に説明されているが、本発明の精神及び範囲から外れることなく、様々な変更、置換及び修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。
【0104】
以上説明した実施形態及びその変形例に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
利用者の特定の部位の表面にある生体情報を表した生体画像を生成する生体情報取得部と、
前記生体画像を複数のブロックに分割する分割部と、
前記複数のブロックのそれぞれについて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の模様の方向と、当該ブロックに隣接するブロックに写っている前記生体情報の他の一部の模様の方向との差に基づいて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の模様の複雑さを表す事前複雑度を推定する事前複雑度推定部と、
前記複数のブロックのそれぞれについて、当該ブロックに写っている像の複雑度を表す特徴量に基づいて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の像の複雑さを表す事後複雑度を算出する事後複雑度算出部と、
前記複数のブロックのそれぞれについて、前記事後複雑度と前記事前複雑度とを比較し、前記事後複雑度と前記事前複雑度とに差異があるブロックを、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部に歪みがある歪みブロックとして検出する歪み検出部と、
を有する生体情報処理装置。
(付記2)
前記歪み検出部は、前記歪みブロックのうちの前記事前複雑度よりも前記事後複雑度が小さいブロックの第1の重心を求め、かつ、前記歪みブロックのうちの前記事前複雑度よりも前記事後複雑度が大きいブロックの第2の重心を求め、前記第1の重心から前記第2の重心へ向かう方向に基づいて、前記利用者が前記生体情報取得部に対して前記部位を押圧した方向を推定する、付記1に記載の生体情報処理装置。
(付記3)
前記生体画像における前記歪みブロックのうちの前記事前複雑度よりも前記事後複雑度が小さいブロックの数及び前記事前複雑度よりも前記事後複雑度が大きいブロックの数の少なくとも一方が第1の閾値よりも多い場合、前記生体情報取得部は前記利用者の前記生体情報を再度撮影して前記生体画像を再生成する、付記1または2に記載の生体情報処理装置。
(付記4)
前記生体画像における前記歪みブロックの数が第2の閾値よりも多い場合、前記生体情報取得部は前記利用者の前記生体情報を再度撮影して前記生体画像を再生成する、付記1または2に記載の生体情報処理装置。
(付記5)
登録利用者の前記特定の部位の生体情報が写った登録生体画像から抽出された、当該生体情報の少なくとも一つの第1の特徴点の位置を記憶する記憶部と、
前記生体画像から前記利用者の前記特定の部位の生体情報の少なくとも一つの第2の特徴点の位置を抽出する特徴量抽出部と、
前記少なくとも一つの第1の特徴点と前記少なくとも一つの第2の特徴点の一致度合いに応じて、前記登録利用者の前記特定の部位の生体情報と前記利用者の前記特定の部位の生体情報との類似度を求める照合部とをさらに有し、
前記照合部は、前記歪みブロック内に含まれる前記第2の特徴点についての前記第1の特徴点との一致度合いに対する第1の重みを、前記歪みブロック内に含まれない前記第2の特徴点についての前記第1の特徴点との一致度合いに対する第2の重みよりも小さくして前記類似度を求める、
付記1〜4の何れか一項に記載の生体情報処理装置。
(付記6)
前記生体画像に写った前記生体情報内の基準点を決定する基準点決定部と、
前記基準点の位置を前記第1の重心から前記第2の重心へ向かう方向に沿って移動させることにより、前記生体画像に写った前記生体情報に歪みが無い場合に当該基準点が示す前記生体情報内の位置と前記移動後の前記基準点が示す前記生体情報内の位置を一致させる基準点補正部と、
をさらに有する付記2に記載の生体情報処理装置。
(付記7)
利用者の特定の部位の表面にある生体情報を表した生体画像を生成し、
前記生体画像を複数のブロックに分割し、
前記複数のブロックのそれぞれについて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の模様の方向と、当該ブロックに隣接するブロックに写っている前記生体情報の他の一部の模様の方向との差に基づいて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の模様の複雑さを表す事前複雑度を推定し、
前記複数のブロックのそれぞれについて、当該ブロックに写っている像の複雑度を表す特徴量に基づいて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の像の複雑さを表す事後複雑度を算出し、
前記複数のブロックのそれぞれについて、前記事後複雑度と前記事前複雑度とを比較し、前記事後複雑度と前記事前複雑度とに差異があるブロックを、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部に歪みがある歪みブロックとして検出する、
ことを含む生体情報処理方法。
(付記8)
利用者の特定の部位の表面にある生体情報を表した生体画像を複数のブロックに分割し、
前記複数のブロックのそれぞれについて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の模様の方向と、当該ブロックに隣接するブロックに写っている前記生体情報の他の一部の模様の方向との差に基づいて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の模様の複雑さを表す事前複雑度を推定し、
前記複数のブロックのそれぞれについて、当該ブロックに写っている像の複雑度を表す特徴量に基づいて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の像の複雑さを表す事後複雑度を算出し、
前記複数のブロックのそれぞれについて、前記事後複雑度と前記事前複雑度とを比較し、前記事後複雑度と前記事前複雑度とに差異があるブロックを、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部に歪みがある歪みブロックとして検出する、
ことをコンピュータに実行させる生体情報処理用コンピュータプログラム。
【符号の説明】
【0105】
1 生体認証装置(生体情報処理装置)
2 表示部
3 入力部
4 生体情報取得部
5 記憶部
6 処理部
10 画像分割部
11 事前複雑度推定部
12 事後複雑度算出部
13 歪み検出部
14 特徴量抽出部
15 照合部
16 認証判定部
17 登録部
18 基準点決定部
19 基準点補正部
100 コンピュータシステム
110 端末
120 サーバ
130 通信ネットワーク
21 記憶部
22 画像取得制御部
23、24 インターフェース部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の特定の部位の表面にある生体情報を表した生体画像を生成する生体情報取得部と、
前記生体画像を複数のブロックに分割する分割部と、
前記複数のブロックのそれぞれについて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の模様の方向と、当該ブロックに隣接するブロックに写っている前記生体情報の他の一部の模様の方向との差に基づいて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の模様の複雑さを表す事前複雑度を推定する事前複雑度推定部と、
前記複数のブロックのそれぞれについて、当該ブロックに写っている像の複雑度を表す特徴量に基づいて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の像の複雑さを表す事後複雑度を算出する事後複雑度算出部と、
前記複数のブロックのそれぞれについて、前記事後複雑度と前記事前複雑度とを比較し、前記事後複雑度と前記事前複雑度とに差異があるブロックを、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部に歪みがある歪みブロックとして検出する歪み検出部と、
を有する生体情報処理装置。
【請求項2】
前記歪み検出部は、前記歪みブロックのうちの前記事前複雑度よりも前記事後複雑度が小さいブロックの第1の重心を求め、かつ、前記歪みブロックのうちの前記事前複雑度よりも前記事後複雑度が大きいブロックの第2の重心を求め、前記第1の重心から前記第2の重心へ向かう方向に基づいて、前記利用者が前記生体情報取得部に対して前記部位を押圧した方向を推定する、請求項1に記載の生体情報処理装置。
【請求項3】
前記生体画像における前記歪みブロックのうちの前記事前複雑度よりも前記事後複雑度が小さいブロックの数及び前記事前複雑度よりも前記事後複雑度が大きいブロックの数の少なくとも一方が第1の閾値よりも多い場合、前記生体情報取得部は前記利用者の前記生体情報を再度撮影して前記生体画像を再生成する、請求項1または2に記載の生体情報処理装置。
【請求項4】
登録利用者の前記特定の部位の生体情報が写った登録生体画像から抽出された、当該生体情報の少なくとも一つの第1の特徴点の位置を記憶する記憶部と、
前記生体画像から前記利用者の前記特定の部位の生体情報の少なくとも一つの第2の特徴点の位置を抽出する特徴量抽出部と、
前記少なくとも一つの第1の特徴点と前記少なくとも一つの第2の特徴点の一致度合いに応じて、前記登録利用者の前記特定の部位の生体情報と前記利用者の前記特定の部位の生体情報との類似度を求める照合部とをさらに有し、
前記照合部は、前記歪みブロック内に含まれる前記第2の特徴点についての前記第1の特徴点との一致度合いに対する第1の重みを、前記歪みブロック内に含まれない前記第2の特徴点についての前記第1の特徴点との一致度合いに対する第2の重みよりも小さくして前記類似度を求める、
請求項1〜3の何れか一項に記載の生体情報処理装置。
【請求項5】
利用者の特定の部位の表面にある生体情報を表した生体画像を生成し、
前記生体画像を複数のブロックに分割し、
前記複数のブロックのそれぞれについて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の模様の方向と、当該ブロックに隣接するブロックに写っている前記生体情報の他の一部の模様の方向との差に基づいて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の模様の複雑さを表す事前複雑度を推定し、
前記複数のブロックのそれぞれについて、当該ブロックに写っている像の複雑度を表す特徴量に基づいて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の像の複雑さを表す事後複雑度を算出し、
前記複数のブロックのそれぞれについて、前記事後複雑度と前記事前複雑度とを比較し、前記事後複雑度と前記事前複雑度とに差異があるブロックを、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部に歪みがある歪みブロックとして検出する、
ことを含む生体情報処理方法。
【請求項6】
利用者の特定の部位の表面にある生体情報を表した生体画像を複数のブロックに分割し、
前記複数のブロックのそれぞれについて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の模様の方向と、当該ブロックに隣接するブロックに写っている前記生体情報の他の一部の模様の方向との差に基づいて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の模様の複雑さを表す事前複雑度を推定し、
前記複数のブロックのそれぞれについて、当該ブロックに写っている像の複雑度を表す特徴量に基づいて、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部の像の複雑さを表す事後複雑度を算出し、
前記複数のブロックのそれぞれについて、前記事後複雑度と前記事前複雑度とを比較し、前記事後複雑度と前記事前複雑度とに差異があるブロックを、当該ブロックに写っている前記生体情報の一部に歪みがある歪みブロックとして検出する、
ことをコンピュータに実行させる生体情報処理用コンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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