説明

生体情報取得装置

【課題】心電信号の計測に関し、特に筋電ノイズが乗った場合にも安定して心電信号が検出できる生体情報取得装置を提供する。
【解決手段】生体情報取得装置は、被検体に接触する複数の電極10〜16を備える電極アレイ18と、被検体の心電信号の心電R波を計測し、複数の電極10〜16から心電R波が取れる複数の電極組合せを特定する心電特定手段と、被検体の心電信号の心電R波を計測する心電計測手段と、心電信号の筋電ノイズのないときの心電R波の極性を求める極性検出手段と、心電信号の筋電ノイズがあるときの電極アレイ18内の電極10〜16の組合せによる心電信号の相関値を求める相関値検出手段と、心電R波の極性と相関値とから心電信号の組合せ及びその加減算処理を決定する加減算処理決定手段と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報取得装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の生体情報取得装置としては、上腕部での心電信号の計測に関して開示されている。この発明では心電を取る際の電極と、別途筋肉から発生するノイズを除去するための電極を設け、ECG(心電図)信号の検知が困難な人体の場所から筋電ノイズを検出して、ECG信号に存在する筋電ノイズを除去することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、被検体に接触する面積が異なる複数の電極を用いて比較的周波数の低い体動ノイズと、比較的周波数の高い筋電ノイズを検出し、HPF(ハイパスフィルター)を通すことで筋電ノイズだけを求め、測定したECG信号から減算することで筋電ノイズを除去することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−504917号公報
【特許文献2】特開2006−231020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、上記のように検出した筋電ノイズと、ECG信号に重畳している筋電ノイズとが同一のものとは限らず、効果が得られない虞がある。また、特許文献2では、この方法で検出される筋電ノイズの筋電位は、実際に問題となる筋電位とは同一ではない。よって、差動アンプで筋電ノイズを除去したとしても、効果は小さい虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]被検体に接触する複数の電極を備える電極アレイと、前記電極アレイの各電極間の電位を差動検出することによって前記被検体の心電信号の心電R波を計測し、複数の電極から心電R波が取れる複数の電極組合せを特定する心電特定手段と、前記心電特定手段で特定された前記電極アレイ内の電極の組合せによる電位を差動検出することによって前記被検体の心電信号の心電R波を計測する心電計測手段と、前記心電計測手段による心電R波の計測結果に基づいて、前記心電信号の筋電ノイズのないときの心電R波の極性を求める極性検出手段と、前記心電計測手段による心電R波の計測結果に基づいて、前記心電信号の筋電ノイズがあるときの前記電極アレイ内の電極の組合せによる前記心電信号の相関値を求める相関値検出手段と、前記極性検出手段で求める心電R波の極性と前記相関値検出手段で求める前記相関値とから前記心電信号の組合せ及びその加減算処理を決定する加減算処理決定手段と、を含むことを特徴とする生体情報取得装置。
【0007】
これによれば、複数の電極から計測した心電信号を心電R波の極性と、筋電ノイズがある信号との相関値から演算方法を決定することで、筋電ノイズが除去できる電極の組合せを選択することができ、筋電ノイズの少ない心電信号を得ることができる。言い換えれば、心電信号の検出に関して、複数の電極から計測した心電信号を心電R波の振幅が最も大きくなるように加算することで安定した信号の検出を行うことができる。したがって、心電信号の計測に関し、特に筋電ノイズがある場合にも安定して心電信号が検出できる生体情報取得装置を提供する。
【0008】
具体的には筋電ノイズがないときの心電R波の極性が正の信号と負の信号との電極の組合せA,Bに対して、動作時のA,Bにおける検出信号の相関が正であればA−Bを演算することで、心電R波は加算され、筋電ノイズは除去される(心電R波は符号が同じで、A,Bの検出信号の相関が負でもよい)。
【0009】
[適用例2]上記生体情報取得装置であって、前記加減算処理決定手段は、リアルタイムに実行されることを特徴とする生体情報取得装置。
【0010】
これによれば、筋電ノイズは、筋肉の活動により発生状態が変化するため、上記演算をリアルタイムに実行し、電極の組合せの選択と筋電ノイズ除去の演算を行うことで、さまざまな動作による筋電ノイズを除去できる。
【0011】
[適用例3]上記生体情報取得装置であって、前記被検体の身体の少なくとも一部に装着され、駆動信号に基づいて振動する振動子によって力学量を検出することで、該被検体が運動中か否かの判断に用いられる力学量検出部と、前記力学量検出部からの信号を解析する動作解析手段と、を含み、前記動作解析手段は、前記被検体の動きごとに、その時に使用された前記電極の組合せ、演算方法をデータベース化したファイルを生成するとともに、前記生成されたファイルを用いて前記力学量検出部からの信号に基づき前記電極の組合せを選択することを特徴とする生体情報取得装置。
【0012】
これによれば、力学量検出部としての加速度センサー、ジャイロセンサーなどのセンサーを取付け、被検体の動きを推測し、予測された動きと、その時に使用された電極の組合せ、演算方法を記録、データベース化する。データベースが蓄積された際には、各種センサーからの信号に基づき電極の組合せを選択する。例えば、歩行、ランニングなどは、上腕部の動きは単調であり、動きに合わせて筋電ノイズが発生する。データベースとセンサーの信号とから、電極の組合せを選択できる。
【0013】
[適用例4]上記生体情報取得装置であって、前記電極アレイの複数の電極は、前記被検体の上腕部の筋肉の中央部と端部とに配置されていることを特徴とする生体情報取得装置。
【0014】
これによれば、心電信号の心電R波の検出精度を容易に高めることができる。
【0015】
[適用例5]上記生体情報取得装置であって、2つの入力の電位を差動増幅する差動増幅部をさらに含むことを特徴とする生体情報取得装置。
【0016】
これによれば、差動増幅することで、安定して増幅することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施形態に係る心電計測装置のハードウェア構成を示した図。
【図2】第1の実施形態に係る上腕部において4つの電極を二頭筋、三頭筋に配置する構成を示す図。
【図3】第1の実施形態に係る心電計測装置の計測方法を示したフローチャート。
【図4】第1の実施形態に係る心電計測装置の各波形を示した図。
【図5】第2の実施形態に係る心電計測装置のハードウェア構成を示した図。
【図6】第2の実施形態に係る心電計測装置の歩行時の腕振りにより進行方向に対する加速度の波形を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る生体情報取得装置としての心電計測装置のハードウェア構成を示した図である。
【0019】
本実施形態に係る心電計測装置2は、被検体としての人体100(図2参照)に接触する第1電極10〜第4電極16を備える電極アレイ18と、電極アレイ18のうち2つの入力の電位を差動増幅して心電信号を求める差動増幅部としての計装アンプ20と、信号から不要な高域成分を除去するLPF22と、信号を必要な振幅レベルまで増幅する増幅部24と、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部26と、計測した信号を元に心拍数の算出、種々の信号処理、演算制御などのアルゴリズムを実行する制御部28とで構成される。
【0020】
第1電極10〜第4電極16は、心臓の活動に伴う人体100の電位の変化を検知する電極であり、心電波形を得る際に人体100に貼り付けられる電極である。第1電極10〜第4電極16は、人体100の上腕部102に貼り付けられている。電極アレイ18の複数の第1電極10〜第4電極16は、人体100の上腕部102の筋肉の中央部(真ん中)と端部(端)とに配置されている。これにより、心電信号の心電R波の検出精度を容易に高めることができる。第1電極10〜第4電極16はそれぞれ2つの計装アンプ20に接続されている。
【0021】
計装アンプ20は、高い入力インピーダンスを持った差動増幅専用のオペアンプである。計装アンプ20は、第1電極10〜第4電極16のうち2つの入力信号の差分を一定係数(差動利得)で増幅する差動増幅回路である。これにより、差動増幅することで、安定して増幅することができる。計装アンプ20のゲインは例えば21である。計装アンプ20はLPF22に接続されている。
【0022】
LPF22は、フィルター回路の一種で、低周波を良く通し、ナイキスト周波数より高い周波数の帯域を通さないフィルターである。LPF22は、カットオフ周波数fc=40Hzのローパスフィルターであり、計装アンプ20から供給された心電信号の40Hz以上の高周波成分を除去することでサンプリング時の折り返し雑音(エイリアス)を排除して増幅部24に供給する。LPF22は増幅部24に接続されている。
【0023】
増幅部24は、入力された心電信号を増幅する電子回路である。増幅部24はA/D変換部26に接続されている。
【0024】
A/D変換部26は、増幅部24で増幅されて出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する回路である。A/D変換部26は、高周波成分が除去された心電信号を所定のサンプリング周波数でデジタル信号に変換して制御部28に供給する。A/D変換部26は制御部28に接続されている。
【0025】
制御部28は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備えたマイクロコンピューターである。制御部28が、ROMに記憶されているプログラムを実行すると、A/D変換部26から入力されるデジタル信号を解析して心電図を表示部30に表示する機能や、求めた心電図を示すデータを生成し、生成したデータを記憶部32に記憶させる機能が実現する。制御部28では、取得した心電信号の保存、解析した心電波形の心電R波から心拍数の算出などが行われる。
【0026】
本実施形態において、制御部28では心電特定手段、心電計測手段、極性検出手段、相関値検出手段、及び加減算処理決定手段が実現される。上記各部は、制御部28がA/D変換部26からの心電信号を所定のプログラムを処理することで実現される。
【0027】
心電特定手段は、電極アレイ18の各電極間の電位を差動検出することによって人体100の心電信号を計測し、複数の電極から心電R波が取れる複数の電極組合せを特定する。例えば、最も大きな振幅でR波を計測した複数の電極組合せを特定する。
【0028】
心電計測手段は、心電特定手段で特定された電極アレイ18内の電極の組合せによる電位を差動検出することによって人体100の心電信号の心電R波を計測する。
【0029】
極性検出手段は、原心電信号に筋電ノイズが発生していないときの原心電信号の心電R波の極性を求める。極性検出手段は、電極アレイ18の全ての第1電極10〜第4電極16の組合せについて差動検出することによって人体100の心電波形の心電R波を計測している。
【0030】
相関値検出手段は、原心電信号に筋電ノイズが発生しているときの原心電信号の組合せの相関値を求める。
【0031】
加減算処理決定手段は、心電R波の極性と相関値とから原心電信号の組合せ及びその加減算処理を決定する。加減算処理決定手段は、リアルタイムに実行されてもよい。これにより、筋電ノイズは、筋肉の活動により発生状態が変化するため、上記演算をリアルタイムに実行し、第1電極10〜第4電極16の組合せの選択と筋電ノイズ除去の演算を行うことで、さまざまな動作による筋電ノイズを除去できる。
【0032】
表示部30は、画像を表示する表示デバイス(例えば、液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ)を有しており、制御部28の制御の下、心電図の画像や、心電計測装置2を操作するための画面及び文字列などを表示する。
【0033】
記憶部32は、不揮発性メモリーを有しており、制御部28の制御の下、制御部28が生成したデータを記憶する。
【0034】
操作部34は、心電計測装置2を操作するためのボタン等の操作子を複数有しており、制御部28に接続されている。操作子がユーザーによって操作されると、操作された操作子を示す信号が制御部28へ供給される。制御部28は、この信号をもとに操作者の行った操作や操作者からの指示を特定し、各部を制御する。
【0035】
本実施形態では、上腕部102において、心電信号には2つの異なる信号が伝わってきており、計測部位により信号の大きさが異なる。上腕部102を円周上に一周覆うような電極アレイ18を配置させ、最適な電極アレイ18の電極を選択することにより、安定した心電波形の心電R波を計測することができる。
【0036】
上腕部102において、心電信号は異なる複数の信号が伝わってきており、電極10〜16の配置方法により心電R波の極性は変化する。本実施形態では、上腕部102に点在するように電極アレイ18を配置し、各々の第1電極10〜第4電極16で検出した信号を適切に加減算することにより、人体100が力を入れたり、動作したりした際に発生する筋電ノイズを除去し、安定した心電波形を測定できる。
【0037】
本実施形態では、筋電ノイズが発生していない時の心電R波の極性が異なる信号Aと信号Bとを使用する。動作時(筋電ノイズが発生している)の信号Aと信号Bとの相関関係を調べる。相関値がプラスである正の相関関係において、信号Aと信号Bとの差をとる。信号Aと信号Bとは心電R波の極性が異なるため、信号Aと信号Bとの差をとることにより、心電R波は加算され強めあう。信号Aと信号Bとは正の相関関係があり、信号Aと信号Bとに発生する筋電ノイズは、極性が一致しているので信号Aと信号Bとの差をとることにより、筋電ノイズは引き算され除去される。
【0038】
又は、筋電ノイズが発生していない時の心電R波の極性が同じ信号Aと信号Bとを使用する。動作時(筋電ノイズが発生している)の信号Aと信号Bとの相関関係を調べる。相関値がマイナスである負の相関関係において、信号Aと信号Bとの和をとる。信号Aと信号Bとは心電R波の極性が同じであるため、信号Aと信号Bとの和をとることにより、心電R波は加算され強めあう。信号Aと信号Bとは負の相関関係があり、信号Aと信号Bとに発生する筋電ノイズは、極性が異なっているので信号Aと信号Bとの和をとることにより、筋電ノイズは引き算され除去される。
【0039】
図2は、本実施形態に係る上腕部102において4つの第1電極10〜第4電極16を二頭筋104、三頭筋106に配置する構成を示す図である。上腕部102において4つの第1電極10〜第4電極16を二頭筋104、三頭筋106に配置し、図2の矢印で示すような電極の組合せで信号を検出する。この組合せにおいて、心電R波の極性は次のようになる。第1電極10と第4電極16との間の心電R波の極性は正である。第2電極12と第3電極14との間の心電R波の極性は負である。第1電極10と第3電極14との間の心電R波の極性は負である。第2電極12と第4電極16との間の心電R波の極性は正である。第1電極10と第2電極12との間の心電R波の極性は正である。
【0040】
一方、筋電ノイズにおいては上記心電R波とは異なった性質を示している。例えば、挙手した状態における筋電ノイズを検出すると、第1電極10と第4電極16との間と、第2電極12と第3電極14との間とは、同じ極性(相関値)の信号となる。これは上腕部102において、心電信号は2つの異なる信号が伝わってきていることと、筋電ノイズの信号は筋繊維が多いところでより電位を発生するということによるものと考えられる。
【0041】
より具体的には、第1電極10と第2電極12とは上腕部102の中ほど力こぶの辺りに配置されており、第3電極14と第4電極16とはそれぞれ二頭筋104、三頭筋106の端に配置されている。第1電極10と第2電極12との位置の方が第3電極14と第4電極16との位置にくらべ筋肉の活動により発生する電位が大きいため、第1電極10と第4電極16との間と、第2電極12と第3電極14との間とは同じ極性(相関値)となる。また一方、心電信号は二頭筋104と三頭筋106とでは異なる信号が伝わっており、第1電極10と第4電極16との間と、第2電極12と第3電極14との間とは心電R波のピークは常に極性が反対となる。
【0042】
なお、筋肉の活動は動作により異なり、検出する第1電極10〜第4電極16の組合せは固定するのは好ましくなく、検出した複数の信号が同一の筋電ノイズの信号を検出しているか判断し(相関演算で行う)、リアルタイムに変更してもよい。つまり加減算処理決定手段は、リアルタイムに実行されてもよい。
【0043】
本実施形態では上記特徴に注目し、複数の第1電極10〜第4電極16を用いて信号を検出し、検出した心電R波の極性と、筋電ノイズが発生している時の信号と、の相関値から、その後の信号処理を決定する。
【0044】
(相関値の演算式)
n組のデータ変数x,yが式(1)のようであるとする。
【0045】
【数1】

相関値は以下の式で表される。
【0046】
【数2】

例えば、この式(2)のx1〜xnが電極組合せAで測定した心電信号の時系列データ、y1〜ynが電極組合せBで測定した心電信号の時系列データである。
【0047】
具体的には下記のステップを行う。
図3は、本実施形態に係る心電計測装置2の計測方法を示したフローチャートである。先ず、ステップS10で、配置された第1電極10〜第4電極16について、所定の組合せによる心電計測を行い、静止時中の各第1電極10〜第4電極16の組合せにおける心電R波の極性を検出する。
【0048】
次に、ステップS20で、任意の第1電極10〜第4電極16の組合せから心電計測を行う。
【0049】
次に、ステップS30で、信号のRMS(二乗平均)レベルで静止時かどうかの判断を行う。静止時中は演算不要で任意の第1電極10〜第4電極16の組合せから心電R波を検出する(ステップS60)。その後ステップS20に戻り心電計測を行う。動作時中はステップS40へ進む。具体的には、動作時には各検出信号には静止時には混入しない筋電ノイズが入るため、信号の振幅RMS値が大きくなる。なお、静止時かどうかの判断は、絶対値の平均などでもよい。また、はっきりとした心電R波が検出できなくなった時点でもよい。
【0050】
次に、ステップS40で、筋電ノイズの検出があった場合には、各第1電極10〜第4電極16の組合せにより得られた信号の相関値を演算する。
【0051】
次に、ステップS50で、各第1電極10〜第4電極16の組合せにおける心電R波の極性と、相関値から、心電R波の極性が逆で相関値が正のものを選択し、2つの検出信号を減算することで心電R波は加算されて大きくなり筋電ノイズは減算されて除去される。又は、心電R波の極性が同じで相関値が負のものも同様であり、2つの信号を加算することで心電R波は加算されて大きくなり筋電ノイズは減算されて除去される。なお、選択時の相関値の具体的な数値は、例えば正:0.6以上、負:−0.6以下としてもよい。
【0052】
次に、ステップS60で、筋電ノイズが除去された第1電極10〜第4電極16の組合せから心電R波を検出する。
【0053】
以降、動作の検出又は筋電ノイズの検出が続いている場合、上記ステップS40〜ステップS50の処理を繰り返し、動作が変わった場合でも最適な第1電極10〜第4電極16の組合せと演算を決定できる。
【0054】
上記の処理において、すべての第1電極10〜第4電極16の組合せを加減算に用いる必要はなく、筋電ノイズの相関値から演算に使用できるかどうかを判断することができ、相関値から信号の相関が低い(相関値が0に近い)場合には、同一の筋電ノイズが乗っていないと判断できるため、加減算の対象から外すことができる。
【0055】
なお、本実施形態では加減算の対象は相関関係が最も高いものを使用するが、相関関係が2番目以降でもよい。また加減算の対象は、1組の信号でもよいし、複数の組の信号の加算値でもよい。またさらに、電極の組み合わせ組数は1組でも複数組でもよい。
【0056】
図4は、本実施形態に係る心電計測装置2の各波形を示した図である。5つの波形のうち図4(A)は、図2における第1電極10と第4電極16との間の信号A35である。信号A35にはノイズがランダムな信号として載っている。図4(B)は、第2電極12と第3電極14との間の信号B36である。信号B36にはノイズがランダムな信号として載っている。図4(C)は、信号A35と信号B36との相関値検出手段の結果を示す波形37である。波形37から信号A35と信号B36とは正の相関を示していることがわかる。図4(D)は、加減算処理決定手段で信号A35から信号B36が引かれた信号の波形38である。波形38には周期的にピークのようなものが出ている。図4(E)は、心電R波のピークのタイミングを知るために測定した心電信号40である。心電信号40のピークと比べると、そのピークが発生する時に波形38のピークが発生している(矢印108で示す)。
【0057】
信号A35,B36単体では筋電ノイズに埋もれて心電R波は判別できない。一方、上述したステップにしたがって処理を行うと、信号A35、信号B36の静止時の信号は、それぞれ心電R波が正、負の極性を示しており、筋電ノイズが発生した信号の相関演算の結果は、正の相関を持っている。
【0058】
上記式(2)には変数nがあり、どれ位の区間で相関値を計算するかを設定する必要がある。図4(C)では0.25秒の区間で相関値を計算したグラフで、正の相関(+1側に分布している)があることがわかる。変数nは、任意に設定することができるが、nを小さくすると演算期間が小さくなるため、電極組合せを変更する頻度を高くでき、動作の追従性が上がる。一方、筋電ノイズ以外の影響により相関値がバラツクというデメリットがある。
【0059】
このことから、信号A35−信号B36の演算を行うこととなる。その結果、筋電ノイズが除去され、図4(D)に示すように、心電R波のピークが判別できる程にS/Nが改善されていることがわかる。
【0060】
上記の説明では、第1電極10〜第4電極16を4つの場合を説明したが、電極は3つでもよく、一つの電極を共通としても、(筋肉の活動によって)効果が得られる。また、4つ以上の電極を用いることも可能で、各電極間の心電R波の極性と筋電ノイズの相関値から加減算の判断をし、筋電ノイズを除去することができる。また、図2に示す電極位置は一例である。
【0061】
本実施形態によれば、複数の第1電極10〜第4電極16から計測した心電信号を心電R波の極性と、ノイズが乗った信号との相関値から演算方法を決定することで、筋電ノイズが除去できる電極の組合せを選択することができ、筋電ノイズの少ない心電信号を得ることができる。言い換えれば、心電信号の検出に関して、複数の第1電極10〜第4電極16から計測した心電信号を心電R波の振幅が最も大きくなるように加算することで安定した信号の検出を行うことができる。
【0062】
具体的には筋電ノイズが発生していないときの心電R波の極性が正の信号と負の信号との電極の組合せA,Bに対して、動作時のA,Bにおける検出信号の相関が正であればA−Bを演算することで、心電R波は加算され、筋電ノイズは除去される(心電R波は符号が同じで、A,Bの検出信号の相関が負でもよい)。
【0063】
(第2の実施形態)
図5は、本実施形態に係る心電計測装置のハードウェア構成を示した図である。なお、図5において、第1の実施形態に係る構成要素と同様の構成要素に同一の参照符号を付し、それらの説明は適宜省略する。
【0064】
本実施形態に係る心電計測装置4は、被検体としての人体100の身体の少なくとも一部に装着され、駆動信号に基づいて振動する振動子によって力学量を検出することで、人体100が運動中か否かの判断に用いられる力学量検出部としての加速度センサー42と、加速度センサー42の信号を必要な振幅レベルまで増幅する増幅部44と、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部46と、加速度センサー42からの信号を解析する動作解析手段としての動作解析部43と、を備えている。
【0065】
加速度センサー42は、加速度が与えられる方向である腕を振る方向と水晶管の長手方向が垂直になるように配置されている。加速度センサー42は、人体100の腕や腰等の部分に装着されてもよい。なお、振動子によって力学量を検出する力学量検出装置は、角速度センサー(ジャイロセンサー)であってもよい。
【0066】
増幅部44は、入力された心電信号を増幅する電子回路である。増幅部44はA/D変換部46に接続されている。
【0067】
A/D変換部46は、増幅部44で増幅されて出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する回路である。A/D変換部46は、高周波成分が除去された心電信号を所定のサンプリング周波数でデジタル信号に変換して制御部28に供給する。A/D変換部46は制御部28に接続されている。
【0068】
本実施形態において、制御部28では動作解析部43が実現される。動作解析部43は、制御部28がA/D変換部46からの心電信号を所定のプログラムを処理することで実現される。動作解析部43は、人体100の動きごとに、その時に使用された第1電極10〜第4電極16の組合せ、演算方法をデータベース化したファイルを生成するとともに、生成されたファイルを用いて加速度センサー42からの信号に基づき第1電極10〜第4電極16の組合せを選択している。
【0069】
図1と比較して、加速度センサー42が追加されている。制御部28には加速度センサー42からの信号を元に人体100がどのような動きを行っているかを推測する動作解析部43を設け、動作解析部43により推測された動作と、加速度センサー42の信号、第1の実施形態と同様の方法により決定した第1電極10〜第4電極16の組合せと演算を記録する。制御部28は人体100の動作とその際に決定された第1電極10〜第4電極16の組合せのデータベースをRAM(図示せず)上に構築し、以後同様の動作と判断された場合には、加速度センサー42の出力信号に応じて第1電極10〜第4電極16の組合せを変更する。
【0070】
本実施形態では、人体100に加速度センサー42を取付け、人体100の動きを推測し、予測された動きとその時に使用された第1電極10〜第4電極16の組合せ、演算方法を記録、データベース化する。データベースが蓄積された際には、加速度センサー42で動きを推測し、それにあった第1電極10〜第4電極16の組合せを選択する。例えば、歩行、ランニングなどは、上腕部の動きは単調であり、動きに合わせて筋電ノイズが発生する。そのため、データを蓄積した後は、第1の実施形態の処理を都度行わなくてもデータベースと加速度センサー42との信号とから、第1電極10〜第4電極16の組合せを選択できる。
【0071】
図6は、本実施形態に係る心電計測装置4の歩行時の腕振りにより進行方向に対する加速度の波形を示した図である。なお、図中の前の頂点は腕振りの方向が前方から後方へ切り替わる点で、腕振りの加速度がゼロになる。後の頂点は腕振りの方向が後方から前方へ切り替わる点で、腕振りの加速度がゼロになる。真横は腕が体の横を通過する点で、腕振りの加速度の絶対値が最大になる。
【0072】
第1の実施形態の方法による第1電極10〜第4電極16の組合せが、歩行の腕振りの1周期の中で2つの区間(組合せ1、2)で変更されていたとすると、データベースには動作(歩行)、加速度データの波形パターン、第1電極10〜第4電極16の組合せと演算方法、が記録される。以降、制御部28の動作解析部43により人体100が歩行の動作をしていると判断された場合、加速度データの波形パターンに応じた第1電極10〜第4電極16の組合せと演算方法とが使用される。
【0073】
これにより、加速度センサー42を取付け、人体100の動きを推測し、予測された動きと、その時に使用された第1電極10〜第4電極16の組合せ、演算方法を記録、データベース化する。データベースが蓄積された際には、加速度センサー42からの信号に基づき第1電極10〜第4電極16の組合せを選択する。例えば、歩行、ランニングなどは、上腕部102の動きは単調であり、動きに合わせて筋電ノイズが発生する。データベースと加速度センサー42の信号とから、第1電極10〜第4電極16の組合せを選択できる。
【0074】
また、第1の実施形態では、複数の第1電極10〜第4電極16の組合せについて信号を検出していたが、制御部28の動作解析部43による動作解析を行うことで、実際に動作させる第1電極10〜第4電極16の組合せを減らすことができ、消費電力を削減できる。
【0075】
なお、加速度センサー42の信号から過去の動作と一致させられない場合や、連続して心電R波が検出できない場合は、通常モードとして第1の実施形態のような動作に戻すことも可能である。また、制御部28の動作解析部43での制御を正確にするために、人体100に歩行、走行、エアロバイクなど、運動の種類を設定させるようにしてもよい。
【0076】
なお、本実施形態では、心電計測装置2,4を上腕部102に装着したが、人体100の大腿部に装着して計測を行ってもよい。
【符号の説明】
【0077】
2,4…心電計測装置(生体情報取得装置) 10…第1電極(電極) 12…第2電極(電極) 14…第3電極(電極) 16…第4電極(電極) 18…電極アレイ 20…計装アンプ(差動増幅部) 22…LPF 24…増幅部 26…A/D変換部 28…制御部 30…表示部 32…記憶部 34…操作部 35…信号A 36…信号B 37,38…波形 40…心電信号 42…加速度センサー 43…動作解析部(動作解析手段) 44…増幅部 46…A/D変換部 100…人体(被検体) 102…上腕部 104…二頭筋 106…三頭筋 108…矢印。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に接触する複数の電極を備える電極アレイと、
前記電極アレイの各電極間の電位を差動検出することによって前記被検体の心電信号の心電R波を計測し、複数の電極から心電R波が取れる複数の電極組合せを特定する心電特定手段と、
前記心電特定手段で特定された前記電極アレイ内の電極の組合せによる電位を差動検出することによって前記被検体の心電信号の心電R波を計測する心電計測手段と、
前記心電計測手段による心電R波の計測結果に基づいて、前記心電信号の筋電ノイズのないときの心電R波の極性を求める極性検出手段と、
前記心電計測手段による心電R波の計測結果に基づいて、前記心電信号の筋電ノイズがあるときの前記電極アレイ内の電極の組合せによる前記心電信号の相関値を求める相関値検出手段と、
前記極性検出手段で求める心電R波の極性と前記相関値検出手段で求める前記相関値とから前記心電信号の組合せ及びその加減算処理を決定する加減算処理決定手段と、
を含むことを特徴とする生体情報取得装置。
【請求項2】
請求項1に記載の生体情報取得装置において、
前記加減算処理決定手段は、リアルタイムに実行されることを特徴とする生体情報取得装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の生体情報取得装置において、
前記被検体の身体の少なくとも一部に装着され、駆動信号に基づいて振動する振動子によって力学量を検出することで、該被検体が運動中か否かの判断に用いられる力学量検出部と、
前記力学量検出部からの信号を解析する動作解析手段と、
を含み、
前記動作解析手段は、前記被検体の動きごとに、その時に使用された前記電極の組合せ、演算方法をデータベース化したファイルを生成するとともに、前記生成されたファイルを用いて前記力学量検出部からの信号に基づき前記電極の組合せを選択することを特徴とする生体情報取得装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の生体情報取得装置において、
前記電極アレイの複数の電極は、前記被検体の上腕部の筋肉の中央部と端部とに配置されていることを特徴とする生体情報取得装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の生体情報取得装置において、
2つの入力の電位を差動増幅する差動増幅部をさらに含むことを特徴とする生体情報取得装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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