説明

生体情報測定システム

【課題】被験体に照射したマイクロ波の被験体表面での反射波に基づく信号のレベルを適切に調整しつつ位相差を求めて、被験体の測定対象外の動きに伴うノイズの影響を避け、被験体に係る所望の情報を適切に把握可能とする生体情報測定システムを提供する。
【解決手段】マイクロ波送受信部11によって得られたノイズ成分も含む反射波信号について、調整部12で反射波信号のレベルを一定にする調整を実行し、クオドラチャ検出部13で求められる同相成分信号と直交成分信号における振幅成分の変化を抑え、振幅成分変化が演算部14における位相差の算出に与える影響を排除することから、測定対象の微動に適切に対応する位相差信号を効率よく求められ、この位相差信号を用いて、体表の微動としてあらわれる例えば心拍や呼吸等の状態を正しく測定でき、被験体の状態を正確に評価できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体にマイクロ波を照射して得られる反射波に基づいて、被験体の状態を解析可能な信号を得る生体情報測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波を測定対象物に照射し、測定対象物で反射する電磁波のドップラーシフトを利用して測定対象物の振動状態や変位を求める手法は従来から広く知られているが、マイクロ波−ミリ波帯の電磁波は、誘電体等の媒質を透過する性質も有しており、これらを利用して、人体において振動として現れる心臓の拍動や呼吸の動態を人へのマイクロ波照射で検出しようとする試みが近年提案されている。マイクロ波を用いることで、人体に対し非接触で且つ衣服を着たままでの測定が可能となり、被測定者にかかる負担を最小限に抑えられる効果が得られる。
【0003】
このマイクロ波を用いる測定システムは、単なる心拍数や呼吸数の測定といった人の日常生活における健康状態のモニタの役割にとどまらず、睡眠時無呼吸症候群や車両等運転時の居眠り検知などの人体における異常の発見、また、心拍測定に基づくストレス評価への応用も考えられる。この他、非接触で且つ遠隔位置から人の動きを計測できる特性により、侵入者監視等のセキュリティ対策への適用も期待できる。
【0004】
こうしたマイクロ波を用いる測定システムの一例としては、特開2002−58659号公報や特開2009−55997号公報に開示されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−58659号公報
【特許文献2】特開2009−55997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のマイクロ波を用いた測定システムは前記各特許文献に示されるものとなっており、それぞれマイクロ波を用いて被験者の微小な動きを検出して心拍等の情報を得る仕組みである。詳しくは、照射波に対する反射波の位相変化(位相差)を検出することで、被験者の心拍等測定対象の振動に基づく体表の微動を検出しようとするものであり、こうした位相変化を効率よく検出するために、前記特許文献2に示されるようなクオドラチャ検出(I−Q検出)が用いられる。クオドラチャ検出では、理論上、反射波の振幅成分と位相変化成分を分離できることで位相変化を効率よく算出することができるが、生体のように通常の特に拘束等されていない状態では、静止状態とはなりにくく、常に何らかの動きを伴うものが被験体となる場合、こうした測定対象外の動きがノイズとなって、反射波における振幅成分が大きく変化し、この振幅成分の大きな変化が位相変化の検出に影響を与えて、位相成分を生体の測定対象の動き(微動)に正しく対応したものとして算出できなくなり、得られた位相変化を心拍や呼吸等の測定対象の動きを示すものとして有効に使用できないという課題を有していた。
【0007】
本発明は、前記課題を解消するためになされたもので、被験体に照射したマイクロ波の被験体表面での反射波に基づく信号のレベルを適切に調整しつつ位相差を求めて、被験体の測定対象外の動きに伴うノイズの影響を避け、被験体に係る所望の情報を適切に把握可能とする生体情報測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る生体情報測定システムは、非静止状態の被験体に対しマイクロ波を照射すると共に、当該照射波の被験体表面での反射波を受信し、反射波信号及びクオドラチャ検出用の参照波信号を出力するマイクロ波送受信部と、当該マイクロ波送受信部から出力される反射波信号について、信号出力レベルを調整して所定出力レベルの反射波信号を得る調整部と、当該調整部で調整された反射波信号及び前記参照波信号を用いてクオドラチャ検出処理を行い、反射波と同相成分の信号及び直交成分の信号を得るクオドラチャ検出部と、当該クオドラチャ検出部から出力された前記同相成分信号及び直交成分信号から、照射波と反射波との位相差信号を算出する演算部とを備えるものである。
【0009】
このように本発明によれば、マイクロ波送受信部によって得られた測定対象の動きの成分以外の被験体の動きに伴うノイズ成分も含む反射波信号について、調整部で被験体の測定対象外の動きの影響を受けて大きく変化している反射波信号のレベルを一定にする調整を実行してから、クオドラチャ検出部で同相成分信号と直交成分信号を求め、これら同相成分信号と直交成分信号における振幅成分の変化を抑え、振幅成分変化が演算部における位相差の算出に与える影響を排除することにより、マイクロ波送受信部で得られる反射波信号がノイズ成分を含んで、クオドラチャ検出処理で得られる各信号の振幅成分を大きく変化させ、そのままでは位相差の算出が正常に行えないような場合でも、ノイズの影響なく位相差を算出して測定対象の微動に適切に対応する位相差信号を効率よく求められ、この位相差信号を用いて、体表の微動としてあらわれる例えば心拍や呼吸等の状態を正しく測定でき、被験体の状態を正確に評価できる。
【0010】
また、本発明に係る生体情報測定システムは必要に応じて、前記マイクロ波送受信部が、被験体にマイクロ波を照射する照射用アンテナと、当該照射用アンテナから照射されるマイクロ波を発生させる第一マイクロ波発振器と、前記マイクロ波と所定周波数差となる他のマイクロ波を発生させる第二マイクロ波発振器と、前記各マイクロ波発振器で発生した二つのマイクロ波から差周波数の前記参照波信号を得る参照波用ミキサ部と、反射波を受信する受信用アンテナと、当該受信用アンテナで受信した反射波と前記第二マイクロ発振器からのマイクロ波とから差周波数の前記反射波信号を得る反射波用ミキサ部とを有してなるものである。
【0011】
このように本発明によれば、マイクロ波送受信部を、照射用のマイクロ波の発振器とは別に、これと所定周波数差の他の発振器を参照波信号発生用に用いるヘテロダイン方式の送受信機構とすることにより、二つのマイクロ波発振器を利用して反射波信号や参照波信号を中間周波数の信号とすることができ、各信号の周波数帯域を抑えて測定精度を向上させられると共に、信号レベル調整を行う場合の調整部分で直流成分の増幅を考慮せずに済み、システムの構成を簡略化できる。
【0012】
また、本発明に係る生体情報測定システムは必要に応じて、前記クオドラチャ検出部から出力される前記同相成分信号及び直交成分信号における直流成分を0とする調整を行うオフセット調整手段を備えるものである。
【0013】
このように本発明によれば、クオドラチャ検出で得られた同相成分信号及び直交成分信号における直流成分を0とする調整を行うことにより、マイクロ波送受信部で得られる反射波信号が生体の動きに伴うノイズを多く含んで直流成分を多く含み、直流成分が振幅成分より大きくなって計算に影響を与える状況でも、直流成分による影響を回避して計算等処理を正確に実行して、生体の測定対象となる動きに対応した位相差信号を取得でき、測定対象の動きを正しく評価できる。
【0014】
また、本発明に係る生体情報測定システムは必要に応じて、前記演算部が、クオドラチャ検出部から出力された前記同相成分信号及び直交成分信号における直流成分を0とする調整を行った上で、同相成分信号及び直交成分信号から前記位相差信号を取得するものである。
【0015】
このように本発明によれば、クオドラチャ検出で得られた同相成分信号及び直交成分信号における直流成分を0とする調整を演算部で行うことにより、マイクロ波送受信部で得られる反射波信号が生体の動きに伴うノイズを多く含んで直流成分を多く含み、直流成分が振幅成分より大きくなって計算に影響を与える状況でも、直流成分による影響を回避して計算等処理を正確に実行して、生体の測定対象となる動きに対応した位相差信号を取得でき、測定対象の動きを正しく評価できる。
【0016】
また、本発明に係る生体情報測定システムは必要に応じて、少なくとも前記マイクロ波送受信部と、前記調整部と、前記クオドラチャ検出部とが二系統配設され、二つのマイクロ波送受信部における被験体へのマイクロ波照射及び反射波の受信が、被験体を挟んで対向した箇所でそれぞれ行われ、各系統ごとの前記同相成分信号及び直交成分信号からそれぞれ算出した二つの位相差信号を加算し、当該加算した信号をシステム全体の位相差信号とするものである。
【0017】
このように本発明によれば、マイクロ波送受信部と調整部、並びにクオドラチャ検出部とが二系統配設され、被験体に対してマイクロ波照射及び反射波の受信が、被験体を挟んで対向した二箇所でそれぞれ行われ、各系統ごとに算出された二つの位相差信号を加算して全体の位相差信号とし、被験体の動きに伴って各位置で得られた反射波信号にそれぞれ逆位相で重畳するノイズ成分をキャンセルすることにより、各マイクロ波送受信部で得られる反射波信号が被験体の測定対象外の動きに伴うノイズを多く含んで、単独のシステムでの処理の場合にノイズの影響を受けて位相差信号を測定対象の動きに適切に対応させられない場合でも、二系統で位相差信号を求めて合成することで、信号へのノイズ重畳分を相殺し、確実にノイズ低減を図れ、位相差信号を確実に生体の測定対象となる動きに対応させられ、測定対象の動きとしてあらわれる被験体の状態を正しく評価できる。
【0018】
また、本発明に係る生体情報測定システムは必要に応じて、少なくとも前記マイクロ波送受信部と、前記調整部と、前記クオドラチャ検出部とが二系統配設され、二つのマイクロ波送受信部における被験体へのマイクロ波照射及び反射波の受信が、異なる二箇所でそれぞれ行われ、各系統ごとの前記同相成分信号及び直交成分信号からそれぞれ算出した二つの位相差信号同士の相互相関を求め、相互相関関数の信号を取得し、当該相互相関関数の信号をシステム全体の位相差信号とするものである。
【0019】
このように本発明によれば、マイクロ波送受信部と調整部、並びにクオドラチャ検出部とが二系統配設され、被験体に対するマイクロ波照射及び反射波の受信を異なる二箇所で実行し、各系統ごとに算出された二つの位相差信号が測定対象の動きに対応した波形成分を共通して含むことを利用して、二つの位相差信号の相互相関をとり、得られた相互相関関数を新たな全体の位相差信号とすることから、二つの位相差信号の相関の高さを示す相互相関関数は、測定対象の動きに対応する波形成分に合致する時間関数となり、各マイクロ波送受信部で得られる反射波信号がノイズを含んで、単独のシステムでの処理の場合にノイズの影響を受けて位相差信号を測定対象の動きに適切に対応させられない場合でも、相互相関関数を測定対象の動きに対応する位相差信号として適切に使用でき、位相差信号からノイズの影響を排除して確実に生体の測定対象となる動きに対応させられ、測定対象の動きとしてあらわれる被験体の状態を正しく評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る生体情報測定システムのブロック構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る生体情報測定システムのリサジュー図形に基づくオフセット調整原理と信号出力レベル調整原理の説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る生体情報測定システムの他のブロック構成図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る生体情報測定システムのブロック構成図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る生体情報測定システムのブロック構成図である。
【図6】本発明の生体情報測定システムの実施例1におけるクオドラチャ検出処理で得られた同相成分信号及び直交成分信号のグラフ、及び位相差信号を示すグラフである。
【図7】本発明の生体情報測定システムの実施例1における同相成分信号及び直交成分信号に基づくリサジュー曲線のグラフである。
【図8】本発明の生体情報測定システムの実施例1におけるAGC有りの場合での位相差信号のWavelet変換結果説明図、及びWavelet変換に基づく心拍数変化と心電計に基づく心拍数変化のグラフである。
【図9】本発明の生体情報測定システムの実施例1におけるAGC無しの場合での位相差信号のWavelet変換結果説明図、及びWavelet変換に基づく心拍数変化と心電計に基づく心拍数変化のグラフである。
【図10】本発明の生体情報測定システムの実施例2におけるシステム1の位相差信号を示すグラフ、及びシステム2の位相差信号を示すグラフである。
【図11】本発明の生体情報測定システムの実施例2におけるシステム全体の位相差信号を示すグラフである。
【図12】本発明の生体情報測定システムの実施例2におけるシステム1の同相成分信号及び直交成分信号に基づくリサジュー曲線のグラフ、及びシステム2の同相成分信号及び直交成分信号に基づくリサジュー曲線のグラフである。
【図13】本発明の生体情報測定システムの実施例2におけるシステム1の位相差信号のパワースペクトル図、及びシステム2の位相差信号のパワースペクトル図である。
【図14】本発明の生体情報測定システムの実施例2におけるシステム全体の位相差信号及び心電計で得た心拍信号の各パワースペクトル図である。
【図15】本発明の生体情報測定システムの実施例3におけるシステム1のクオドラチャ検出処理で得られた同相成分信号及び直交成分信号のグラフ、及び位相差信号を示すグラフである。
【図16】本発明の生体情報測定システムの実施例3におけるシステム2のクオドラチャ検出処理で得られた同相成分信号及び直交成分信号のグラフ、及び位相差信号を示すグラフである。
【図17】本発明の生体情報測定システムの実施例3におけるシステム1の同相成分信号及び直交成分信号に基づくリサジュー曲線のグラフ、及びシステム2の同相成分信号及び直交成分信号に基づくリサジュー曲線のグラフである。
【図18】本発明の生体情報測定システムの実施例3における各システムの位相差信号同士の相互相関関数を示すグラフ及びこれを時間軸方向に拡大したグラフである。
【図19】本発明の生体情報測定システムの実施例3におけるシステム1の位相差信号及び心電計で得た心拍信号の各パワースペクトル図、並びに、システム2の位相差信号及び心電計で得た心拍信号の各パワースペクトル図である。
【図20】本発明の生体情報測定システムの実施例3におけるシステム全体の位相差信号及び心電計で得た心拍信号の各パワースペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る生体情報測定システムを前記図1及び図2に基づいて説明する。本実施形態においては、心拍の振動を非接触且つ非拘束状態で測定して心拍を検出するための測定システムの例について説明する。
【0022】
前記各図において本実施形態に係る生体情報測定システム1は、非静止状態の被験体50に対しマイクロ波を照射すると共に、被験体50表面での反射波を受信し、反射波信号及びクオドラチャ検出用の参照波信号を出力するマイクロ波送受信部11と、このマイクロ波送受信部11から出力される反射波信号について、信号出力レベルを調整する調整部12と、調整部12で調整された反射波信号及び前記参照波信号を用いてクオドラチャ検出処理を行い、反射波と同相成分の信号及び直交成分の信号を得るクオドラチャ検出部13と、クオドラチャ検出部13から出力された前記同相成分信号及び直交成分信号から、照射波と反射波との位相差信号を算出する演算部14とを備える構成である。
【0023】
前記マイクロ波送受信部11は、被験体50としての人体に対し、連続するマイクロ波を所定の測定時間にわたって照射する一方、この照射波の被験体50表面での反射波を受信し、人体における測定対象の動き、例えば、心臓の拍動や呼吸等に基づく体表の微動に対応した位相差信号を求めるための反射波信号及び参照波信号をそれぞれ出力するものである。
【0024】
詳細には、マイクロ波送受信部11は、被験体50にマイクロ波を照射する照射用アンテナ11aと、この照射用アンテナ11aから照射されるマイクロ波を発生させる第一マイクロ波発振器11bと、反射波を受信する受信用アンテナ11cと、第一マイクロ波発振器11bで発生したマイクロ波を被験体への照射波と参照波成分に分離する方向性結合器11dと、前記マイクロ波と所定周波数差となる他のマイクロ波を発生させる第二マイクロ波発振器11eと、第二マイクロ波発振器11eで発生した他のマイクロ波を反射波信号生成用成分と参照波信号生成用成分とに分離する方向性結合器11fと、各方向性結合器11d、11fで分離された二つの参照用のマイクロ波から差周波数(中間周波数)の参照波信号を得る参照波用ミキサ部11gと、受信用アンテナ11cで受信した反射波と方向性結合器11fを経た他のマイクロ波とから差周波数(中間周波数)の反射波信号を得る反射波用ミキサ部11hとを備える構成である。
【0025】
このマイクロ波送受信部11では、第一マイクロ波発振器11bと第二マイクロ波発振器11eの二つの発振器を用い、被験体50表面での反射波と第二マイクロ波発振器11eから出力されたマイクロ波とをミキサ部で周波数混合して中間周波数に変換された反射波信号を得、この反射波信号を、第一マイクロ波発振器11bと第二マイクロ波発振器11eの各マイクロ波出力をミキサ部で周波数混合して得られた中間周波数の参照波信号と共に出力するヘテロダイン方式を採用している。二つのマイクロ波発振器を用い、反射波信号と参照波信号をそれぞれ中間周波数としていることで、各信号線路中に挿入されて不要成分を減衰させる帯域通過フィルタ(バンドパスフィルタ)等のフィルタのバンド幅を狭帯域化することができ、これにより各信号における高調波などの不要成分の影響を除去して測定精度を向上させられる。
【0026】
また、マイクロ波送受信部11がヘテロダイン方式で反射波信号と参照波信号をそれぞれ中間周波数に変換した形で出力することで、後段の調整部12は直流成分の増幅を考慮する必要が無く、いわゆるDCアンプ構成としなくて済み、温度変化などのドリフトの影響もなくシステムの安定度を維持しやすい、時間的に安定な装置構成とすることができる。
【0027】
前記調整部12は、マイクロ波送受信部11から出力される反射波信号の信号出力レベルを調整して所定出力範囲の反射波信号を得るものであり、詳細には、ゲイン可変アンプと検出制御部を備え、ゲイン可変アンプからの出力を検出制御部で検出、監視して、あらかじめ設定した一定の出力となるようにゲイン可変アンプのゲインを制御する、いわゆるAGC(自動利得調整)を実行する構成となっている。
【0028】
この調整部12で所定の出力レベルに調整された反射波信号は、参照波用ミキサ部11gからの参照波信号と共にクオドラチャ検出器13に入力され、クオドラチャ検出処理が行われることとなる。なお、調整部12は、ゲイン可変アンプからの出力に基づく調整の他、演算部14に入力される同相成分信号と直交成分信号の各振幅成分が適切な範囲となるように、演算部14から調整部12に制御指示を送信し、信号出力レベルの調整を行うようにすることもできる。
【0029】
この調整部12で反射波信号の出力レベルを一定に調整することで、後段のクオドラチャ検出部13で得られる同相成分信号と直交成分信号における振幅成分が大きく変化することはなくなり、演算部での位相変化の算出が、振幅成分の変化の影響を受けず、適切な値を得られることとなる。
【0030】
なお、この調整部12で反射波信号の出力レベルを一定にする目標値の設定は、後段側の演算部14等の機器の入力特性に応じて、例えば入力を飽和させないよう設定されるが、クオドラチャ検出部13から出力され演算部14で取扱われる同相成分信号と直交成分信号の各振幅成分の大きさを参照しつつ測定条件の変化に対応して動的に変化させるようにしてもよい。
【0031】
また、参照波信号についても、クオドラチャ検出部13での処理が容易となるように、調整部12からの反射波信号の出力レベルに合せて出力レベルを調整するようにしてもよい。
【0032】
前記クオドラチャ検出部13は、調整部12で調整された反射波信号と、マイクロ波送受信部11から出力された参照波信号を用いてクオドラチャ検出処理を行い、一般的なマイクロ波受信回路で得られる反射波信号と同相成分の信号及び直交成分の信号を得るものである。
【0033】
クオドラチャ検出器13では、クオドラチャ検出処理として、参照波信号(Acosωt)と反射波信号(Bcos(ωt+Δφ))とを組合わせて復調することで、位相変化の同相成分信号(ErcosΔφ)と直交成分信号(ErsinΔφ)を得ることができ、これら二つの信号を得ることで、演算部14では容易な演算処理で振幅成分Erと位相差成分Δφを分離して位相差信号を取得できる。なお、振幅成分Erは、参照波信号の振幅Aと反射波信号の振幅Bの積である。
【0034】
また、クオドラチャ検出部13は、前記オフセット調整手段としての機能も備えており、反射波信号のクオドラチャ検出処理に際し、同相成分信号や直交成分信号と共に出力される直流成分を0とする調整を行える仕組みである。このオフセット調整は、検出回路上の差動増幅器やダブルバランスドミキサ(DBM)等を用いて簡易に実行することができる。
【0035】
前記演算部14は、クオドラチャ検出部13から出力された前記同相成分信号及び直交成分信号から、照射波と反射波との位相差信号(位相変化に直接比例する成分)を取得(算出)する構成である。詳細には、クオドラチャ検出器13で得られた位相変化Δφの同相成分信号(ErcosΔφ)と直交成分信号(ErsinΔφ)を用いて、
Δφ=tan-1(ErsinΔφ/ErcosΔφ)
の関係から、Δφに直接比例する成分を算出でき、位相差信号を取得できる。
【0036】
この演算部14は、そのハードウェア構成として、CPUやメモリ、入出力インターフェース等を備えるコンピュータとなっており、メモリ等に格納されるプログラムにより、コンピュータを演算部14として動作させる仕組みである。この演算部14をなすコンピュータは、CPUやメモリ、ROM等を一体的に形成されたマイクロコンピュータとしてもかまわない。
【0037】
演算部14では、前記同相成分信号及び直交成分信号についてその直流成分を0とするオフセット調整の処理も行うことができ、そのオフセット調整の具体的な手法としては、例として、同相成分信号(ErcosΔφ)と直交成分信号(ErsinΔφ)について、x=ErcosΔφ、y=ErsinΔφとして、xy平面上に各値の変化をプロットし、得られた曲線(リサジュー図形)を円の一部とみなしてその円中心を定義し、この円中心をxy平面の原点に一致させる調整処理を行うことができる(図2(A)参照)。調整後の同相成分信号及び直交成分信号を用いることで、位相差信号の算出がより適切に行えることとなる。
【0038】
なお、調整部12で、演算部14に入力される同相成分信号と直交成分信号の各振幅成分の大きさに基づいて信号出力レベルの調整を行う場合においても、同様に演算部14で同相成分信号と直交成分信号の値の変化をxy平面上にプロットし、得られた曲線(リサジュー図形)が、xy平面の第1ないし第4の各象限のうちの複数の象限、望ましくは三つ以上の象限にまたがったものとなるような同相成分信号と直交成分信号の振幅成分を与える程度に、信号出力レベル調整を調整部で行うこともでき(図2(B)参照)、前記オフセット調整の場合と同様、調整後の同相成分信号及び直交成分信号を用いて位相差信号の算出がより適切に行えることとなる。
【0039】
次に、本実施形態に係る生体情報測定システムの使用状態について説明する。前提として、被験体50となる人(被験者)は照射用アンテナ11aと受信用アンテナ11cの近くに位置しており、また、被験体50は拘束されておらず動きが生じる状況(非静止状態)となっているものとする。
【0040】
まず、被験体50としての人体に対し、あらかじめ設定された測定時間(例えば、30秒)の間、マイクロ波送受信部11が、第一マイクロ波発振器11bで発生させた連続のマイクロ波を照射用アンテナ11aから被験体50に対し照射すると共に、被験体50の体表面での反射波を受信用アンテナ11cで受信する。
【0041】
マイクロ波送受信部11は、受信用アンテナ11cで受信した反射波と、第二マイクロ波発振器11eで発生し方向性結合器11fを経た他のマイクロ波とから、反射波用ミキサ部11hで中間周波数の反射波信号を得る。また、第一マイクロ波発振器11bで発生し方向性結合器11dを経た、照射波と同じマイクロ波と、第二マイクロ波発振器11eで発生し方向性結合器11fを経た他のマイクロ波とから、参照波用ミキサ部11gで中間周波数の参照波信号を得る。得られた各信号のうち、反射波信号は調整部12に入力され、参照波信号はクオドラチャ検出部13に入力される。
【0042】
マイクロ波送受信部11から出力された反射波信号は、調整部12でAGCにより所定の出力レベルに調整された後、クオドラチャ検出部13に入力される。クオドラチャ検出部13は、クオドラチャ検出処理として、参照波信号(Acosωt)と反射波信号(Bcos(ωt+Δφ))とを混合して復調し、反射波の同相成分信号(ErcosΔφ)と直交成分信号(ErsinΔφ)を得る。これら同相成分信号と直交成分信号が演算部14に入力され、演算部14ではこれら同相成分信号及び直交成分信号から、照射波と反射波との位相差信号(位相変化に直接比例する成分)が算出される。
【0043】
この演算部14での位相差Δφの算出にあたり、あらかじめ調整部12で反射波信号の出力レベルを一定に調整していることで、クオドラチャ検出部13で得られる同相成分信号と直交成分信号における振幅成分が大きく変化することはなくなり、演算部14での位相差の算出が、振幅成分の変化の影響を受けず、被験体50における測定対象の動きに対応した適切な値を得られることとなる。
【0044】
照射波と反射波との位相差信号は心拍に基づく体表の動きを現すものとなっており、位相差信号における各ピークを測定対象の心拍に対応するピークと見なすことができ、心拍間隔測定等の利用に供することが可能となる。そして、心拍間隔に対応する位相差信号のピーク間隔の変動を求めれば、例えばストレス評価を行なうこともできる。すなわち、心電計のR波とR波のピーク間隔から読取った心拍間隔の時間変化を周波数解析し、低周波成分のピーク値LFと、高周波成分のピーク値HFを用い、ストレス評価値としてのLF/HFの値を求める従来のストレス評価手法と同様に、位相差信号のピーク間隔を用いて心拍間隔変動に基づくストレス評価が行え、特に本実施形態のシステムの場合、直接被験者の身体に接触せずに測定を行えることで、被験者へ緊張等与えることなく心拍の間隔を確実に捉えられることとなり、ストレス評価を適切に行え、評価精度を向上させられる。
【0045】
このように、本実施形態に係る生体情報測定システムは、マイクロ波送受信部11によって得られた測定対象の振動成分以外の被験体の動きに伴うノイズ成分も含む反射波信号について、調整部12で被験体の測定対象外の動きの影響を受けて大きく変化している反射波信号のレベルを一定にする調整を実行してから、クオドラチャ検出部13で同相成分信号と直交成分信号を求め、これら同相成分信号と直交成分信号における振幅成分の変化を抑え、振幅成分変化が演算部14における位相差の算出に与える影響を排除することから、マイクロ波送受信部11で得られる反射波信号がノイズ成分を含んで、クオドラチャ検出処理で得られる各信号の振幅成分を大きく変化させ、そのままでは位相差の算出が正常に行えないような場合でも、ノイズの影響なく位相差を算出して測定対象の微動に適切に対応する位相差信号を効率よく求められ、この位相差信号を用いて、体表の微動としてあらわれる例えば心拍や呼吸等の状態を正しく測定でき、被験体の状態を正確に評価できる。
【0046】
なお、前記実施形態に係る生体情報測定システムにおいては、マイクロ波送受信部を、マイクロ波発振器を二つ設けるヘテロダイン方式とする構成としているが、これに限らず、図3に示すように、マイクロ波発振器15を一つのみ使用し、高周波発振器16、パワーデバイダ17、及びアップコンバータ18を併用して照射波や参照波を発生させるヘテロダイン方式を用いる構成とすることもでき、二つのマイクロ波発振器を使用する際の安定度は両者の揺らぎが重畳されたものとなるのに対し、このアップコンバータ18を用いた場合には、安定度は高周波発振器16のみの揺らぎで決定することから、揺らぎ成分を極めて小さくでき、位相測定精度を向上させることができる。さらに、このヘテロダイン方式の他、同一のマイクロ波発振器出力に基づいた反射波と参照波を生じさせて、位相差検出に用いるホモダイン方式を採用することもでき、マイクロ波発振器が一つで済むと共に、発振器周波数の安定性の問題を回避できる。
【0047】
また、前記実施形態に係る生体情報測定システムにおいては、測定対象を心拍とし、体表での反射波から心拍に基づく体表の微動に対応する位相差信号を取得して、心拍の間隔を位相差信号のピーク間隔の形で求められる構成としているが、これに限らず、心拍の他に呼吸のタイミングを測定対象とする構成とすることもでき、呼吸の間隔を位相差信号のピーク間隔として求められることで、例えば、呼吸からのストレス評価を行うことができる。すなわち、呼吸にはストレス時には浅く速くなり、リラックス時には深くゆっくりしたものとなる傾向が見られ、位相差信号には、呼吸に基づいて、ストレス時に振幅が小さく且つ周波数が高くなり、またリラックス時に振幅が大きく且つ周波数が低くなっている振動波形成分が含まれることから、測定した呼吸から適切なストレス評価が行える。また、心拍と呼吸の同時測定も可能であり、この場合、心拍・呼吸変化の両面からストレス評価を行うことができ、心拍と同様にストレスと密接に関係している呼吸を解析・比較し、心拍測定によるストレス評価と並行してストレス評価を行うことで、評価の精度と信頼性が向上する。また、これら心拍変動と呼吸変動のストレス評価に係る関連性も明らかにできる。
【0048】
(本発明の第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態を前記図4に基づいて説明する。本実施形態においても、心拍の振動を非接触且つ非拘束状態で測定して心拍を検出するための測定システムの例について説明する。
【0049】
前記図4において本実施形態に係る測定評価システム2は、前記第1の実施形態同様のマイクロ波送受信部21、25、調整部22、26、及びクオドラチャ検出部23、27を二系統備え、各系統のクオドラチャ検出部23、27から出力された同相成分信号及び直交成分信号から、照射波と反射波との位相差信号をそれぞれの系統ごとに算出し、得られた二つの位相差信号を加算してシステム全体の位相差信号とする処理を実行する演算部24とを備える構成である。
【0050】
前記マイクロ波送受信部21、25は、それぞれ前記第1の実施形態同様のヘテロダイン方式の送受信構成で中間周波数の反射波信号と参照波信号を出力するものであり、詳細な説明を省略する。ただし、一方のマイクロ波送受信部21のうち、少なくとも照射用アンテナ21aと受信用アンテナ21cとが被験体の背面側に配設され、また、他方のマイクロ波送受信部25のうち、少なくとも照射用アンテナ25aと受信用アンテナ25cとが被験体の正面側に配設されて、二つのマイクロ波送受信部21、25における被験体へのマイクロ波照射及び反射波の受信が、被験体を挟んで対向した箇所でそれぞれ行われる仕組みである。これらマイクロ波送受信部21、25で取扱うマイクロ波の周波数は、マイクロ波送受信部ごとに異ならせており、一方の照射用アンテナ21aからの照射波の反射波のみが受信用アンテナ21cで受信され、且つ他方の照射用アンテナ25aからの照射波の反射波のみが受信用アンテナ25cで受信される。
【0051】
前記調整部22、26は、それぞれ前記第1の実施形態同様、AGCとして反射波信号を一定の信号出力レベルに調整するものであり、調整部22は一方のマイクロ波送受信部21から出力される反射波信号の信号出力レベルを調整し、また、調整部26は他方のマイクロ波送受信部25から出力される反射波信号の信号出力レベルを調整する。
【0052】
前記クオドラチャ検出部23、27は、それぞれ前記第1の実施形態同様、反射波信号と参照波信号を用いてクオドラチャ検出処理を行い、反射波と同相成分の信号及び直交成分の信号を得るものである。このうち、一方のクオドラチャ検出部23は、調整部22で調整された反射波信号と、マイクロ波送受信部21から出力された参照波信号を用いてクオドラチャ検出処理を行い、また、他方のクオドラチャ検出部27は、調整部26で調整された反射波信号と、マイクロ波送受信部25から出力された参照波信号を用いてクオドラチャ検出処理を行う。
【0053】
前記演算部24は、一方のクオドラチャ検出部23から出力された同相成分信号及び直交成分信号から前記第1の実施形態同様に位相差信号を算出し、また、他方のクオドラチャ検出部27から出力された同相成分信号及び直交成分信号から前記第1の実施形態同様に位相差信号を算出してから、得られた二つの各系統ごとの位相差信号を加算し、この加算した信号をシステム全体の位相差信号とするものである。
【0054】
この演算部24は、前記第1の実施形態同様、ハードウェアとしてのコンピュータをプログラムにより演算部24として動作させる仕組みである。なお、演算部も、マイクロ波送受信部等と同様にそれぞれの系統ごとに異なる演算部が位相差信号を算出するように二つ配設すると共に、算出された各位相差信号を加算してシステム全体の位相差信号を求める別の演算部を新たに設けるようにしてもよい。
【0055】
次に、本実施形態に係る生体情報測定システムの使用状態について説明する。前提として、被験体50となる人(被験者)は一方の照射用アンテナ21aと受信用アンテナ21cの群と、他方の照射用アンテナ25aと受信用アンテナ25cの群との間に位置しており、また、被験体50は拘束されておらず動きが生じる状況(非静止状態)にあり、さらに正面側のアンテナ25a、25cに少しずつ近付く向きへ移動しているものとする。
【0056】
まず、被験体50としての人体に対し、あらかじめ設定された測定時間(例えば、30秒)の間、マイクロ波送受信部21が、第一マイクロ波発振器21bで発生させた連続のマイクロ波を被験体背面側の照射用アンテナ21aから被験体50に対し照射すると共に、被験体50の体表面での反射波を同じく被験体背面側の受信用アンテナ21cで受信する。また、他方のマイクロ波送受信部25が、第一マイクロ波発振器25bで発生させた連続のマイクロ波を被験体正面側の照射用アンテナ25aから被験体50に対し照射すると共に、被験体50の体表面での反射波を同じく被験体正面側の受信用アンテナ25cで受信する。
【0057】
マイクロ波送受信部21は、受信用アンテナ21cで受信した被験体背面側における反射波と、第二マイクロ波発振器21eで発生し方向性結合器21fを経た他のマイクロ波とから、反射波用ミキサ部21hで中間周波数の反射波信号を得る。また、第一マイクロ波発振器21bで発生し方向性結合器21dを経た、照射波と同じマイクロ波と、第二マイクロ波発振器21eで発生し方向性結合器21fを経た他のマイクロ波とから、参照波用ミキサ部21gで中間周波数の参照波信号を得る。得られた各信号のうち、反射波信号は調整部22に入力され、参照波信号はクオドラチャ検出部23に入力される。
【0058】
同様に、マイクロ波送受信部25は、受信用アンテナ25cで受信した被験体正面側における反射波と、第二マイクロ波発振器25eで発生し方向性結合器25fを経た他のマイクロ波とから、反射波用ミキサ部25hで中間周波数の反射波信号を得る。また、第一マイクロ波発振器25bで発生し方向性結合器25dを経た、照射波と同じマイクロ波と、第二マイクロ波発振器25eで発生し方向性結合器25fを経た他のマイクロ波とから、参照波用ミキサ部25gで中間周波数の参照波信号を得る。得られた各信号のうち、反射波信号は調整部26に入力され、参照波信号はクオドラチャ検出部27に入力される。
【0059】
各マイクロ波送受信部21、25から出力された反射波信号は、それぞれ調整部22、26でAGCにより所定の出力レベルに調整された後、クオドラチャ検出部23、27に入力される。クオドラチャ検出部23は、クオドラチャ検出処理として、マイクロ波送受信部21からの参照波信号と調整部22からの反射波信号とを組合わせて復調し、被験体背面側における反射波の同相成分信号と直交成分信号を得る。これら同相成分信号と直交成分信号が演算部24に入力され、演算部24はこれら同相成分信号及び直交成分信号から、被験体背面側における照射波と反射波との位相差信号を算出する。
【0060】
一方、クオドラチャ検出部27は、クオドラチャ検出処理として、マイクロ波送受信部25からの参照波信号と調整部26からの反射波信号とを組合わせて復調し、被験体正面側における反射波の同相成分信号と直交成分信号を得る。これら同相成分信号と直交成分信号も演算部24に入力され、演算部24はこれら同相成分信号及び直交成分信号から、被験体正面側における照射波と反射波との位相差信号を算出する。
【0061】
さらに、演算部24は、それぞれ算出した被験体正面側における位相差信号と、被験体背面側における位相差信号との加算処理を行う。各系統ごとに算出された位相差信号には、被験体の動きに伴うノイズ成分が重畳しているが、被験体に対してマイクロ波照射及び反射波の受信が、被験体を挟んで対向した二箇所でそれぞれ行われることで、前記二つの反射波信号におけるノイズ成分は互いに逆位相をなす関係となっている。これら二つの反射波信号を加算することにより、信号にそれぞれ逆位相で重畳するノイズ成分をキャンセルでき、加算により得られた信号を新たにシステム全体の位相差信号とすれば、測定対象となる体表の微動に対応する位相差の成分が強調される一方、被験体の測定対象外の動きに伴うノイズを抑えた位相差信号が得られたこととなる。
【0062】
このように、本実施形態に係る生体情報測定システムは、マイクロ波送受信部21、25と調整部22、26、並びにクオドラチャ検出部23、27とが二系統配設され、被験体に対してマイクロ波照射及び反射波の受信が、被験体を挟んで対向した二箇所でそれぞれ行われ、各系統ごとに算出された二つの位相差信号を加算して全体の位相差信号とし、被験体の動きに伴って各位置で得られた反射波信号にそれぞれ逆位相で重畳するノイズ成分をキャンセルすることから、各マイクロ波送受信部21、25で得られる反射波信号が被験体の測定対象外の動きに伴うノイズを多く含んで、単独のシステムでの処理の場合にノイズの影響を受けて位相差信号を測定対象の動きに適切に対応させられない場合でも、二系統で位相差信号を求めて合成することで、信号へのノイズ重畳分を相殺し、確実にノイズ低減を図れ、位相差信号を確実に生体の測定対象となる動きに対応させられ、測定対象の動きとしてあらわれる被験体の状態を正しく評価できる。
【0063】
前記実施形態に係る生体情報測定システムの応用として、建物等の出入り口ないし部屋の動線上の離れた二箇所に、マイクロ波送受信部を向い合わせとなる配置で二系統配設し、人を挟んだ状態での各系統における人からの反射波信号に基づく各位相差信号を合成処理することにより、心拍変化を正しく評価し、緊張状態(例えば不審行動時)の人物検知に利用することができる。また、心拍数およびその変化の確定が不要な場合にも、人の存在による反射波の位相変化が、マイクロ波発振器の揺らぎや周辺環境の微動により生じる位相変化よりも大きいことを利用して、マイクロ波照射範囲における侵入者の存在を検知できるため、非接触で且つ遠隔位置から侵入者の監視を要求されるセキュリティ対策に適用することができる。
【0064】
(本発明の第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態を前記図5に基づいて説明する。本実施形態においても、心拍の振動を非接触且つ非拘束状態で測定して心拍を検出するための測定システムの例について説明する。
【0065】
前記図5において本実施形態に係る測定評価システム3は、前記第2の実施形態同様、マイクロ波送受信部31、35、調整部32、36、及びクオドラチャ検出部33、37を二系統備え、演算部34が各系統のクオドラチャ検出部33、37から出力された同相成分信号及び直交成分信号から、照射波と反射波との位相差信号をそれぞれの系統ごとに算出する構成を備える一方、異なる点として、演算部34が、各系統ごとの同相成分信号及び直交成分信号からそれぞれ算出した二つの位相差信号同士の相互相関を求め、相互相関関数の信号をシステム全体の位相差信号として得る構成を有するものである。
【0066】
前記マイクロ波送受信部31、35は、それぞれ前記第1の実施形態同様のヘテロダイン方式の送受信構成で中間周波数の反射波信号と参照波信号を出力するものであり、詳細な説明を省略する。ただし、一方のマイクロ波送受信部31のうち、少なくとも照射用アンテナ31aと受信用アンテナ31cとが被験体に所定の第一の方向から面する所定の第一の箇所に配設され、また、他方のマイクロ波送受信部35のうち、少なくとも照射用アンテナ35aと受信用アンテナ35cとが前記第一の箇所とは異なる第二の箇所に配設されて被験体に所定の第二の方向から面し、二つのマイクロ波送受信部31、35における被験体へのマイクロ波照射及び反射波の受信が、異なる二箇所で被験体に異なる方向から面してそれぞれ行われる仕組みである。これらマイクロ波送受信部31、35で取扱うマイクロ波の周波数は、マイクロ波送受信部ごとに異ならせており、一方の照射用アンテナ31aからの照射波の反射波のみが受信用アンテナ31cで受信され、且つ他方の照射用アンテナ35aからの照射波の反射波のみが受信用アンテナ35cで受信される。
【0067】
前記調整部32、36は、それぞれ前記第1の実施形態同様、AGCとして反射波信号を一定の信号出力レベルに調整するものであり、調整部32は一方のマイクロ波送受信部31から出力される反射波信号の信号出力レベルを調整し、また、調整部36は他方のマイクロ波送受信部35から出力される反射波信号の信号出力レベルを調整する。
【0068】
前記クオドラチャ検出部33、37は、それぞれ前記第1の実施形態同様、反射波信号と参照波信号を用いてクオドラチャ検出処理を行い、反射波と同相成分の信号及び直交成分の信号を得るものである。このうち、一方のクオドラチャ検出部33は、調整部32で調整された反射波信号と、マイクロ波送受信部31から出力された参照波信号を用いてクオドラチャ検出処理を行い、また、他方のクオドラチャ検出部37は、調整部36で調整された反射波信号と、マイクロ波送受信部35から出力された参照波信号を用いてクオドラチャ検出処理を行う。
【0069】
前記演算部34は、一方のクオドラチャ検出部33から出力された同相成分信号及び直交成分信号から前記第1の実施形態同様に位相差信号を算出し、また、他方のクオドラチャ検出部37から出力された同相成分信号及び直交成分信号から前記第1の実施形態同様に位相差信号を算出してから、得られた二つの各系統ごとの位相差信号同士の相互相関を求め、相互相関関数をシステム全体の位相差信号とするものである。
【0070】
相互相関関数を求める仕組みを説明すると、各位相差信号は、測定対象の周期的微動に対応した波形成分を含むことから、各信号同士で相関の強い箇所が前記波形成分に存在し、相互相関関数には前記波形成分に近い周期変化が現れると予想される。一方、各位相信号に含まれるノイズ成分は時間的にランダムであるため、相関は得られない。よって、相互相関関数はノイズの影響を排除しつつ測定対象の周期的微動に対応した波形成分を有するものとなり、システム全体の新たな位相差信号として用いることができる。
【0071】
ここで、算出された一方の位相差信号をA(t)、他方の位相差信号をB(t)とすれば、相互相関関数C(τ)は次式で定義される。
【0072】
【数1】

ここで、右辺のA(t)はある時間tにおける一方の位相差信号、B(t+τ)は時間tから所定時間τだけ経過した時における他方の位相差信号をそれぞれ表わす。
【0073】
この演算部34は、前記第1の実施形態同様、ハードウェアとしてのコンピュータをプログラムにより演算部34として動作させる仕組みである。なお、演算部も、マイクロ波送受信部等と同様にそれぞれの系統ごとに異なる演算部が位相差信号を算出するように二つ配設すると共に、算出された各位相差信号同士の相互相関を求め、相互相関関数の信号を得る別の演算部を新たに設けるようにしてもよい。
【0074】
次に、本実施形態に係る生体情報測定システムの使用状態について説明する。前提として、被験体50となる人(被験者)は一方の照射用アンテナ31aと受信用アンテナ31cの群と、他方の照射用アンテナ35aと受信用アンテナ35cの群との両方に面する位置にあって、また、被験体50は拘束されておらず動きが生じる状況(非静止状態)にあるものとする。
【0075】
まず、被験体50としての人体に対し、あらかじめ設定された測定時間(例えば、30秒)の間、一方のマイクロ波送受信部31が、第一マイクロ波発振器31bで発生させた連続のマイクロ波を照射用アンテナ31aから被験体50に対し照射すると共に、被験体50の体表面での反射波を受信用アンテナ31cで受信する。また、他方のマイクロ波送受信部35が、第一マイクロ波発振器35bで発生させた連続のマイクロ波を照射用アンテナ35aから被験体50に対し照射すると共に、被験体50の体表面での反射波を受信用アンテナ35cで受信する。
【0076】
一方のマイクロ波送受信部31は、受信用アンテナ31cで受信した被験体表面からの反射波と、第二マイクロ波発振器31eで発生し方向性結合器31fを経た他のマイクロ波とから、反射波用ミキサ部31hで中間周波数の反射波信号を得る。また、第一マイクロ波発振器31bで発生し方向性結合器31dを経た、照射波と同じマイクロ波と、第二マイクロ波発振器31eで発生し方向性結合器31fを経た他のマイクロ波とから、参照波用ミキサ部31gで中間周波数の参照波信号を得る。得られた各信号のうち、反射波信号は調整部32に入力され、参照波信号はクオドラチャ検出部33に入力される。
【0077】
同様に、他方のマイクロ波送受信部35は、受信用アンテナ35cで受信した被験体表面からの反射波と、第二マイクロ波発振器35eで発生し方向性結合器35fを経た他のマイクロ波とから、反射波用ミキサ部35hで中間周波数の反射波信号を得る。また、第一マイクロ波発振器35bで発生し方向性結合器35dを経た、照射波と同じマイクロ波と、第二マイクロ波発振器35eで発生し方向性結合器35fを経た他のマイクロ波とから、参照波用ミキサ部35gで中間周波数の参照波信号を得る。得られた各信号のうち、反射波信号は調整部36に入力され、参照波信号はクオドラチャ検出部37に入力される。
【0078】
各マイクロ波送受信部31、35から出力された反射波信号は、それぞれ調整部32、36でAGCにより所定の出力レベルに調整された後、クオドラチャ検出部33、37に入力される。クオドラチャ検出部33は、クオドラチャ検出処理として、マイクロ波送受信部31からの参照波信号と調整部32からの反射波信号とを組合わせて復調し、被験体の第一の方向における反射波の同相成分信号と直交成分信号を得る。これら同相成分信号と直交成分信号が演算部34に入力され、演算部34はこれら同相成分信号及び直交成分信号から、被験体の第一の方向における照射波と反射波との位相差信号を算出する。
【0079】
一方、クオドラチャ検出部37は、クオドラチャ検出処理として、マイクロ波送受信部35からの参照波信号と調整部36からの反射波信号とを組合わせて復調し、被験体の第二の方向における反射波の同相成分信号と直交成分信号を得る。これら同相成分信号と直交成分信号も演算部34に入力され、演算部34はこれら同相成分信号及び直交成分信号から、被験体の第二の方向における照射波と反射波との位相差信号を算出する。
【0080】
続いて、演算部34は、それぞれ算出した被験体の第一の方向における位相差信号と、被験体の第二の方向における位相差信号との相互相関を求め、測定時間全体にわたる相互相関関数を得る。各系統ごとに算出された位相差信号には、被験体の動きに伴うノイズ成分が重畳しているが、測定対象の微動に対応した波形成分を共に含む位相差信号同士の相関をとり、相互相関関数を取得することにより、測定対象の微動に対応した信号波形成分は抽出されるが、位相差信号同士で相関のないノイズ成分はキャンセルできる。得られた相互相関関数を新たにシステム全体の位相差信号とすれば、測定対象となる体表の微動に対応する位相差の成分が明確化される一方、被験体の測定対象外の動きに伴うノイズを抑えた位相差信号が得られたこととなる。
【0081】
こうして、各マイクロ波送受信部31、35で得られる反射波信号がそれぞれノイズを多く含んでいる場合でも、相互相関関数を取得して位相差信号とすることで、測定対象の微動、すなわち心拍に対応した位相差信号を確実に得られる。
【0082】
このように、本実施形態に係る生体情報測定システムは、マイクロ波送受信部31、35と調整部32、36、並びにクオドラチャ検出部33、37とが二系統配設され、被験体に対するマイクロ波照射及び反射波の受信を異なる二箇所で実行し、各系統ごとに算出された二つの位相差信号が測定対象の動きに対応した波形成分を共通して含むことを利用して、二つの位相差信号の相互相関をとり、得られた相互相関関数の信号を新たな全体の位相差信号とすることから、二つの位相差信号の相関の高さを示す相互相関関数は、測定対象の動きに対応する波形成分に合致する時間的変化を生じることとなり、各マイクロ波送受信部31、35で得られる反射波信号がノイズを含んで、単独のシステムでの処理の場合にノイズの影響を受けて位相差信号を測定対象の動きに適切に対応させられない場合でも、相互相関関数の信号を、測定対象の動きに対応する位相差信号として適切に使用でき、位相差信号からノイズの影響を排除して確実に生体の測定対象となる動きに対応させられ、測定対象の動きとしてあらわれる被験体の状態を正しく評価できる。
【実施例】
【0083】
本発明の生体情報測定システムで、被験者の心拍に基づく体表の微動を測定対象として複数の条件下でそれぞれ測定して得られた各位相差信号について、比較例としての心電計による心拍測定結果と比較して、本システムによる心拍の検出可能性を評価した。
(実施例1)
実施例1として、前記第1の実施形態に係る生体情報測定システムを用いて、自動車の座席に着座した非静止状態の被験者の背中上部にマイクロ波を照射し、心臓の動きに対応する背中側体表の微動を測定した。測定は、被験者の高速道路の運転時に調整部によるAGC有りと無しの両方の場合について行った。測定にあたって、マイクロ波送受信部の照射用アンテナ及び受信用アンテナは、ホーンアンテナ又は平面アンテナを用い、それぞれを座席後側に並べて配置した。
【0084】
マイクロ波発振器で生成されるマイクロ波は、周波数が10GHz、照射強度が150μWである。このマイクロ波が、方向性結合器を経て照射用アンテナから照射される。一方、生体の測定では、非静止状態における身体の動きに伴って、クオドラチャ検出処理後の各信号の振幅成分Erの値が大きく変化し、位相差の検出が困難となる。調整部ではこうした振幅成分Erの変化を制御するため、制御範囲の大きい(例えば、56dB)AGCを使用する。
【0085】
被験者の背中での反射波は、受信用アンテナで受信され、反射波信号がAGC有りの場合は調整部に入力され、一定出力レベルに調整された後、クオドラチャ検出部に入る。反射波信号がAGC無しの場合は、そのままクオドラチャ検出部に入力される。
【0086】
クオドラチャ検出部で反射波の同相成分信号と直交成分信号を得、さらにこれを演算部で処理して、心拍に相当する体表面の微動に対応すると推測される位相差信号が出力される。なお、クオドラチャ検出部において、クオドラチャ検出処理で測定環境に応じて変化してあらわれる同相成分信号や直交成分信号の直流成分をあらかじめ0とするオフセット調整がなされ、測定環境そのものの影響は無視できる。
【0087】
また、比較例として、マイクロ波による測定と同時に、心電計による心拍測定も行った。心電計の電極は一般的な心電図測定同様に被験者の身体複数箇所に直接当接させて測定を実施した。
【0088】
実施例と比較例のいずれも、非静止環境として被験者及び測定システムが自動車内でエンジン振動や路面走行に伴う振動等を加えられる状況下で測定され、その測定時間は30秒となっている。実施例における反射波信号に基づいてクオドラチャ検出部から出力される同相成分信号及び直交成分信号を図6(A)に示す。また、演算部で算出した位相差信号波形を、図6(B)に示す。
【0089】
また、AGC有りの場合で、クオドラチャ検出処理で得られた同相成分信号(ErcosΔφ)と直交成分信号(ErsinΔφ)について、x=ErcosΔφ、y=ErsinΔφとしてxy平面上に各値の変化をプロットし、得られたリサジュー曲線を図7に示す。図7から、図中の曲線を円の一部と見なしたときのその円中心はxy平面の原点にほぼ一致する状態であることがわかり、調整部でのAGCにより位相差が適切に演算部で算出できる状態が見て取れる。
【0090】
ここで、調整部でのAGC有りと無しの各位相差信号について、心拍の検出可能性を評価するため、信号のWavelet変換を行う。このWavelet変換結果をAGC有りの場合を図8(A)に、AGC無しの場合を図9(A)に示す。Wavelet変換の結果、位相差信号の時間・周波数スペクトルが表示されることとなる。図8(A)の縦軸が周波数の値、横軸が時間で、濃淡が強さを示す。図8(A)では、時間60〜86(s)の間、周波数約1.1Hzにピークが見られ、このピークが少しずつ変化していることがわかる。こうしてあらわれたピークの時間的変化、すなわち瞬時心拍数の時間的変化の波形を抽出し、この波形を心電計から得られた心拍数の時間的変化の波形と比較する。この心拍数の時間的変化の波形を、位相差信号のWavelet変換結果に基づくものと、比較例の心電計から得られたものを並記したグラフを、AGC有りは図8(B)に、AGC無しは図9(B)にそれぞれ示す。
【0091】
図9(B)に示すように、AGC無しの場合では、Wavelet変換結果に基づく心拍数の時間変化と、心電計から得られた心拍数の時間変化とは、大きく異なっており、マイクロ波による測定で心拍を適切に捉えているとは言えないのに対し、図8(B)に示すAGC有りの場合では、Wavelet変換結果に基づく心拍数の時間変化と、心電計から得られた心拍数の時間変化とは、3%程度の誤差で良く一致しており、マイクロ波でも精度良く心拍測定ができていることがわかる。AGC有りの場合は、AGC無しの場合と比較して、測定確度の大きな改善が得られていることは明らかである。
【0092】
(実施例2)
次に、実施例2として、前記第2の実施形態に係る生体情報測定システムを用いて、非静止状態の被験者の正面及び背面にマイクロ波を照射し、心臓の動きに対応する体表の微動を測定した。測定は、立って前後に動きのある状態の被験者に対し行った。
【0093】
測定にあたって、マイクロ波送受信部、調整部、及びクオドラチャ検出部は二系統配置し、各系統のクオドラチャ検出部から出力された同相成分信号及び直交成分信号から、演算部で、照射波と反射波との位相差信号をそれぞれの系統ごとに算出し、得られた二つの位相差信号を加算してシステム全体の位相差信号とする処理を実行する。各マイクロ波送受信部の照射用アンテナ及び受信用アンテナは、ホーンアンテナを用い、一方のマイクロ波送受信部における照射用アンテナと受信用アンテナを被験体の背面側に配設し、また、他方のマイクロ波送受信部における照射用アンテナと受信用アンテナを被験体の正面側に配設して、被験体へのマイクロ波照射及び反射波の受信が、被験体を挟んで対向した箇所で行えるようにした。なお、便宜上、被験体背面側に配設した照射用アンテナと受信用アンテナの系統をシステム1、被験体正面側に配設した照射用アンテナと受信用アンテナの系統をシステム2と呼称する。
【0094】
また、これらマイクロ波送受信部で使用するマイクロ波の周波数は、被験体の正面側では9.7GHz、背面側では10GHzである。また、照射強度は、被験体の正面側では419μW、背面側では366μWとしている。一方、各調整部におけるAGC特性や、クオドラチャ検出部における同相成分信号と直交成分信号の出力、演算部における各系統の位相差信号の算出は、いずれも同じ条件で実施例1と同様である。
【0095】
演算部で各系統ごとに位相差信号を算出したら、さらに演算部は二つの位相差信号を加算することで、心拍に相当する体表面の微動に対応すると推測される、システム全体としての位相差信号が出力される。
【0096】
一方、比較例として、マイクロ波による測定と同時に、心電計による心拍測定も行った。心電計の電極は一般的な心電図測定同様に被験者の身体複数箇所に直接当接させて測定を実施した。
【0097】
実施例と比較例のいずれも、被験者が非静止状態にある中で測定され、その測定時間は30秒となっている。本実施例における各マイクロ波送受信部で得た反射波信号に基づいて演算部で算出した位相差信号波形を、システム1のものを図10(A)に、システム2のものを図10(B)にそれぞれ示す。また、演算部で二つの位相差信号を加算した位相差信号波形を、図11に示す。ただし、前記各図の位相差信号波形は、ハイパスフィルタで位相差信号の不要な周波数成分(0.7Hz以下)を除去した後のものであり、直流分を含んだ低周波成分が無くなったことで時間波形の振幅が0を中心に分布している。
【0098】
また、クオドラチャ検出処理で得られた同相成分信号(ErcosΔφ)と直交成分信号(ErsinΔφ)について、x=ErcosΔφ、y=ErsinΔφとしてxy平面上に各値の変化をプロットし、得られたリサジュー曲線を、システム1の場合を図12(A)に、システム2の場合を図12(B)にそれぞれ示す。
【0099】
そして、実施例の各系統ごとに得られた位相差信号と、これらを加算したシステム全体としての位相差信号について、心拍の検出可能性を評価するため、高速フーリエ変換による周波数解析を行い、各周波数帯域ごとのパワースペクトルを求めて、心電計の測定結果から同様に得られたパワースペクトルと比較した。被験体背面側(システム1)で得られた位相差信号、被験体正面側(システム2)で得られた位相差信号の各パワースペクトルを図13(A)、(B)に、加算されたシステム全体としての位相差信号のパワースペクトルを、比較例の心電計から得られたものと共に示した図を、図14に示す。
【0100】
図13に示すように、各系統ごとに得られた位相差信号のパワースペクトルは、心電計での測定から得られたパワースペクトル(図14参照)とは、いずれも大きく異なっているものの、図14に示すように、加算により得られたシステム全体の位相差信号のパワースペクトルは、心電計からのものと良く一致しており、位相差信号の加算により心拍の検出が心電計による測定同様に精度良く行えることがわかる。
【0101】
(実施例3)
続いて、実施例3として、前記第3の実施形態に係る生体情報測定システムを用いて、自動車の座席に着座した非静止状態の被験者の背中に、異なる二箇所からマイクロ波を照射し、心臓の動きに対応する背中側体表の微動を測定した。測定は、自動車が停止してアイドリング状態にある場合の被験者に対し行った。
【0102】
測定にあたって、マイクロ波送受信部、調整部、及びクオドラチャ検出部は二系統配置し、各系統のクオドラチャ検出部から出力された同相成分信号及び直交成分信号から、演算部で、照射波と反射波との位相差信号をそれぞれの系統ごとに算出し、得られた二つの位相差信号同士の相互相関を求め、相互相関関数の信号をシステム全体の位相差信号とする処理を実行する。各マイクロ波送受信部の照射用アンテナ及び受信用アンテナは、ボウタイアンテナを用い、一方のマイクロ波送受信部における照射用アンテナと受信用アンテナを座席背面部のほぼ中間の高さ位置に並べて配設し、また、他方のマイクロ波送受信部における照射用アンテナと受信用アンテナを座席背面部の上部に並べて配設し、被験体へのマイクロ波照射及び反射波の受信が、被験体に対し異なる二箇所で行えるようにした。なお、便宜上、座席背面部のほぼ中間の高さ位置に配設した照射用アンテナと受信用アンテナの系統をシステム1、座席背面部の上部に配設した照射用アンテナと受信用アンテナの系統をシステム2と呼称する。
【0103】
また、これらマイクロ波送受信部で使用するマイクロ波の周波数は、システム1では10GHz、システム2では9.7GHzである。また、照射強度は、システム1では366μW、システム2では419μWとしている。一方、各調整部におけるAGC特性や、クオドラチャ検出部における同相成分信号と直交成分信号の出力、演算部における各系統の位相差信号の算出は、いずれも同じ条件で前記実施例1、2と同様である。
【0104】
演算部で各系統ごとに位相差信号を算出したら、さらに演算部は二つの位相差信号同士の相互相関を求め、相互相関関数を取得して、これを、心拍に相当する体表面の微動に対応すると推測される、システム全体の位相差信号として出力する。
【0105】
一方、比較例として、マイクロ波による測定と同時に、心電計による心拍測定も行った。心電計の電極は一般的な心電図測定同様に被験者の身体複数箇所に直接当接させて測定を実施した。
【0106】
実施例と比較例のいずれも、被験者が非静止状態にある中で測定され、その測定時間は30秒となっている。本実施例におけるシステム1の反射波信号に基づいてクオドラチャ検出部から出力される同相成分信号及び直交成分信号を図15(A)に示す。また、演算部で算出したシステム1の位相差信号波形を、図15(B)に示す。一方、システム2の反射波信号に基づいてクオドラチャ検出部から出力される同相成分信号及び直交成分信号を図16(A)に示す。そして、演算部で算出したシステム2の位相差信号波形を、図16(B)に示す。
【0107】
また、クオドラチャ検出処理で得られた同相成分信号(ErcosΔφ)と直交成分信号(ErsinΔφ)について、x=ErcosΔφ、y=ErsinΔφとしてxy平面上に各値の変化をプロットし、得られたリサジュー曲線を、システム1は図17(A)に、システム2は図17(B)にそれぞれ示す。図17(A)、(B)から、図中の曲線の変化が小さい上、この曲線を円の一部と見なしたときのその円中心はxy平面の原点にほぼ一致する状態であることがわかり、調整部でのAGCにより位相差が適切に演算部で算出できる状態が見て取れる。
【0108】
さらに、演算部で、各系統ごとの位相差信号同士の相互相関を求め、システム全体の新たな位相差信号として取得した相互相関関数の波形を、横軸を時間、縦軸を相関の大きさ(振幅)としてプロットしたグラフを図18(A)に示し、さらにこれを時間軸方向に拡大表示したものを図18(B)に示す。ただし、各位相差信号は、あらかじめハイパスフィルタで不要な周波数成分(0.8Hz以下)を除去した後、相互相関を求めている。
【0109】
そして、実施例の各系統ごとに得られた位相差信号について、心拍の検出可能性を評価するため、ハイパスフィルタで不要な周波数成分(0.8Hz以下)を除去した後、高速フーリエ変換による周波数解析を行い、各周波数帯域ごとのパワースペクトルを求めて、心電計の測定結果から同様に得られたパワースペクトルと比較した。同様に、位相差信号同士の相互相関を求めて得たシステム全体としての位相差信号について、心拍の検出可能性を評価するため、高速フーリエ変換による周波数解析を行い、各周波数帯域ごとのパワースペクトルを求めて、心電計の測定結果から同様に得られたパワースペクトルと比較した。システム1で得られた位相差信号、システム2で得られた位相差信号、及び相互相関による新たな位相差信号の各パワースペクトルを、それぞれ比較例の心電計から得られたものと共に示した各図を、図19(A)、図19(B)、図20にそれぞれ示す。
【0110】
図19に示すように、各系統ごとに得られた位相差信号のパワースペクトルは、心電計での測定から得られたパワースペクトルと、それぞれ一致するピークを有しており、アイドリング時等の被験者の動きが小さい状況では、AGCによる効果で一系統の位相差信号でも心拍検出の可能性のあることがわかる。しかしながら、図20に示すように、相互相関を求めて得られたシステム全体の位相差信号のパワースペクトルは、心電計からのものとさらに良く一致しており、位相差信号同士の相互相関を求めることにより心拍の検出が心電計による測定同様に精度良く行え、自動車の走行時などさらにノイズの増大する状況でも適切な心拍検出が期待できる。また、システム全体の位相差信号のスペクトル形状は心電計由来のものに近いシンプルなものとなっており、コンピュータによる自動ピーク検出等を行う際にも、誤りが生じにくく、より確実な検出、評価が行える。
【0111】
以上から、反射波信号のAGCによる信号レベル調整や、二つの位相差信号の加算、位相差信号同士の相互相関計算といった処理を経て、最終的な位相差信号を算出することで、パワースペクトルも心電計由来のものに近い波形が得られ、心拍の検出可能性が示されており、非静止環境下での被験者と非接触状態における測定でも、得られた信号に対し上記各処理を適用することで、心電計による測定同様の精度で心拍を測定できることが確認できた。
【符号の説明】
【0112】
1、2、3 生体情報測定システム
11、21、25、31、35 マイクロ波送受信部
11a、21a、25a、31a、35a 照射用アンテナ
11b、21b、25b、31b、35b 第一マイクロ波発振器
11c、21c、25c、31c、35c 受信用アンテナ
11d、21d、25d、31d、35d 方向性結合器
11e、21e、25e、31e、35e 第二マイクロ波発振器
11f、21f、25f、31f、35f 方向性結合器
11g、21g、25g、31g、35g 参照波用ミキサ部
11h、21h、25h、31h、35h 反射波用ミキサ部
12、22、26、32、36 調整部
13、23、27、33、37 クオドラチャ検出部
14、24、34 演算部
15 マイクロ波発振器
16 高周波発振器
17 パワーデバイダ
18 アップコンバータ
50 被験体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非静止状態の被験体に対しマイクロ波を照射すると共に、当該照射波の被験体表面での反射波を受信し、反射波信号及びクオドラチャ検出用の参照波信号を出力するマイクロ波送受信部と、
当該マイクロ波送受信部から出力される反射波信号について、信号出力レベルを調整して所定出力レベルの反射波信号を得る調整部と、
当該調整部で調整された反射波信号及び前記参照波信号を用いてクオドラチャ検出処理を行い、反射波と同相成分の信号及び直交成分の信号を得るクオドラチャ検出部と、
当該クオドラチャ検出部から出力された前記同相成分信号及び直交成分信号から、照射波と反射波との位相差信号を算出する演算部とを備えることを
特徴とする生体情報測定システム。
【請求項2】
前記請求項1に記載の生体情報測定システムにおいて、
前記マイクロ波送受信部が、
被験体にマイクロ波を照射する照射用アンテナと、
当該照射用アンテナから照射されるマイクロ波を発生させる第一マイクロ波発振器と、
前記マイクロ波と所定周波数差となる他のマイクロ波を発生させる第二マイクロ波発振器と、
前記各マイクロ波発振器で発生した二つのマイクロ波から差周波数の前記参照波信号を得る参照波用ミキサ部と、
反射波を受信する受信用アンテナと、
当該受信用アンテナで受信した反射波と前記第二マイクロ発振器からのマイクロ波とから差周波数の前記反射波信号を得る反射波用ミキサ部とを有してなることを
特徴とする生体情報測定システム。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の生体情報測定システムにおいて、
前記クオドラチャ検出部から出力される前記同相成分信号及び直交成分信号における直流成分を0とする調整を行うオフセット調整手段を備えることを
特徴とする生体情報測定システム。
【請求項4】
前記請求項1又は2に記載の生体情報測定システムにおいて、
前記演算部が、クオドラチャ検出部から出力された前記同相成分信号及び直交成分信号における直流成分を0とする調整を行った上で、同相成分信号及び直交成分信号から前記位相差信号を取得することを
特徴とする生体情報測定システム。
【請求項5】
前記請求項1ないし4のいずれかに記載の生体情報測定システムにおいて、
少なくとも前記マイクロ波送受信部と、前記調整部と、前記クオドラチャ検出部とが二系統配設され、
二つのマイクロ波送受信部における被験体へのマイクロ波照射及び反射波の受信が、被験体を挟んで対向した箇所でそれぞれ行われ、
各系統ごとの前記同相成分信号及び直交成分信号からそれぞれ算出した二つの位相差信号を加算し、当該加算した信号をシステム全体の位相差信号とすることを
特徴とする生体情報測定システム。
【請求項6】
前記請求項1ないし4のいずれかに記載の生体情報測定システムにおいて、
少なくとも前記マイクロ波送受信部と、前記調整部と、前記クオドラチャ検出部とが二系統配設され、
二つのマイクロ波送受信部における被験体へのマイクロ波照射及び反射波の受信が、異なる二箇所でそれぞれ行われ、
各系統ごとの前記同相成分信号及び直交成分信号からそれぞれ算出した二つの位相差信号同士の相互相関を求め、相互相関関数の信号を取得し、当該相互相関関数の信号をシステム全体の位相差信号とすることを
特徴とする生体情報測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−50604(P2011−50604A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202981(P2009−202981)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月4日 社団法人電子情報通信学会発行の「EiC 電子情報通信学会 2009年総合大会講演論文集」(DVD−ROM)に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、イノベーション推進事業「大学発事業創出実用化研究開発事業(マイクロ波生体検知システムの開発と応用)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(800000035)株式会社産学連携機構九州 (34)
【Fターム(参考)】