説明

生体活動計測装置

【課題】 刺激呈示に合わせたタイミングで精度高く計測を行うことができる生体活動計測装置を提供すること。
【解決手段】 生体の機能を示す生体活動を非侵襲的に計測する生体活動の計測装置において、計測対象の生体に刺激を呈示する刺激呈示手段と、生体の活動を指標する生体信号を得て、生体活動を計測する生体活動計測手段と、刺激呈示手段に対して刺激の呈示開始を制御する刺激呈示信号を送出すると共に、その刺激呈示信号送出と同期させて、生体活動計測手段に対して生体活動計測開始を制御する計測制御信号を送出する計測制御手段とを設ける。クロック周波数でのTTL出力動作によって、刺激呈示信号と計測制御信号を制御してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳活動など生体の機能を示す生体活動を、非侵襲的に計測する生体活動計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脳活動など生体の機能を示す生体活動を非侵襲的に計測する装置やシステムが種々開発されている。 例えば、核磁気共鳴法(MRI)、磁束計(SQUID)、ポジトロン断層法(PET)等の技術を適用したものが知られている。
【0003】
機能的核磁気共鳴法(fMRI)は空間分解能で、脳磁図(MEG)は時間分解能で、近赤外分光法(NIRS)は使用場所の利便で、それぞれ脳機能の計測手段として優れた特性をもっている。これらの装置を統合的に活用することによって、人の脳活動を、時間的・空間的に正確に解析することができる。
【0004】
図1は、従来の脳活動計測システムの一部概要を示す説明図である。
刺激の生成にあたっては、Windowsなど一般に使用されているOS上で動作するソフトウエアを用い、それに伴うTTL外部出力を、脳活動計測装置の制御信号として利用していた。
このように、従来のOSに対応したソフトウエアや拡張ボードを使用する場合は、通常のOSはリアルタイム制御に特化していないことに起因して、被験者への刺激呈示と被験者の計測との間にタイミングのずれが生じていた。現状では、このOSに起因する時間のずれは、きちんと議論されないままになってしまっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、OSに起因するタイミングのずれの影響を払拭して、計測対象の生体に対する刺激呈示と、生体活動の計測とをリアルタイム制御できる生体活動計測装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、OSとは独立に刺激呈示信号と計測制御信号とを出力するシステム構成によって、リアルタイム制御に特化して課題の解決を図った。
すなわち、本発明の生体活動計測装置は、生体の機能を示す生体活動を非侵襲的に計測する生体活動の計測装置において、計測対象の生体に刺激を呈示する刺激呈示手段と、生体の活動を指標する生体信号を得て、生体活動を計測する生体活動計測手段と、刺激呈示手段に対して刺激の呈示開始を制御する刺激呈示信号を送出すると共に、その刺激呈示信号送出と同期させて、生体活動計測手段に対して生体活動計測開始を制御する計測制御信号を送出する計測制御手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
ここで、計測制御手段を、クロック周波数でのTTL出力動作によって、刺激呈示信号と計測制御信号を制御するものとして、構成の簡素化に寄与してもよい。
【0008】
本発明は、計測対象の生体を人体とし、被験者の脳の活動を計測する脳活動計測装置に有用に用いることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、計測制御手段によって、刺激呈示手段に対する刺激呈示信号送出と、生体活動計測手段に対する計測制御信号送出とを、同期させてリアルタイム制御するので、刺激の呈示に合わせたタイミングで計測を行うことができる。そのため、OS等に起因するタイミングのずれの影響をなくして、精度の高い計測値を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、図面を基に本発明の実施形態を説明する。
図2は、本発明による脳活動計測システムの一部概要を示す説明図である。
本発明の装置は、少なくとも、刺激呈示装置と、生体活動計測装置と、それらを制御する計測制御手段としての統合計測装置とを備える。
【0011】
刺激呈示装置は、人体など、計測対象の生体に対して、その被験者の視覚、聴覚、触覚など五感に訴える刺激を呈示する装置である。統合計測装置から、刺激の呈示開始を制御する刺激呈示信号を入力されて、被験者に刺激を生成呈示する。
【0012】
生体活動計測装置は、生体の活動を指標する生体信号を、人体の脳などから得て生体活動を計測する装置である。統合計測装置から、生体活動計測開始を制御する計測制御信号を入力されて、計測を開始する。
具体的な生体活動計測装置としては、MEG、fMRI、NIRSなどの脳活動計測装置が挙げられる。
【0013】
統合計測装置は、その外部制御ユニット等を介して、刺激呈示装置に対する刺激呈示信号の送出と、生体活動計測装置に対する計測制御信号の送出とのタイミングを合わせて、リアルタイム制御に寄与する装置である。
すなわち、CPUを中心としてクロックと外部入出力機能を備えた外部制御ユニットを構築し、リアルタイム制御可能なシステムとする。
具体的構成としては、例えば、National Instruments社製のPXIシリーズからCPUボード、クロック、ディジタルとアナログ関係のボードを選択し、LabVIEWのリアルタイムモジュールを使用すればよい。
【0014】
なお、LabViewとは、National Instruments社で開発されたGraphicalプログラム言語である。LabViewは、計測器の制御のために開発されたもので、VI(仮想装置)と呼ばれるコンピュータのディスプレイ上の装置パネルから、計測の設定や、計測の実行制御、計測データの記録等を行なえる利便がある。
LabViewは、プログラムの拡張性や、デバッグの容易さ、汎用性の利点があるが、他のリアルタイムモジュールも適宜利用可能である。
【0015】
また、外部の個人のPCで動作を設定し、その設定ファイルを含んだプログラムを、最初に個人PCからPXIシステムへ転送してもよい。これによっても、クロックに基づいた厳密な動作が可能になる。
【0016】
本発明による統合計測装置と刺激呈示装置及び生体活動計測装置とのデータ授受関係によると、統合計測装置から、OSとは独立に刺激呈示信号と計測制御信号とを送出できるので、本システムはリアルタイム制御に特化したものといえる。
これにより、動作時に設定したクロック周波数でのTTL出力動作による刺激呈示と計測制御とを、数十分間にわたってミリ秒以下の精度で発生させ制御することが可能になった。
【0017】
統合計測装置の外部制御ユニットに、複数のTTL入出力とアナログ入力とを設けることが容易なので、反応時間などの行動指標や、心拍などの生体信号を取り込むことができる。従来は脳活動計測装置の種類が異なると個別にシステムを設定していたが、本発明装置によると統一的な操作が可能である。
【0018】
なお、TTL(Transistor-Transistor Logic)とは、バイポーラトランジスタのみで構成された論理集積回路(ロジックIC)のことである。TTLはCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)と並んで、デジタルICの構成回路としては最もポピュラーなものの一つである。正論理においては、ON状態を高電圧(通常は5V)で、OFF状態を低電圧(通常は0V)で示す。これによって、一つのTTL信号により1ビットの情報を表現することができる。TTLの振幅は通常は5Vと一定であるが、長さ(パルス幅)は可変である。
【実施例】
【0019】
本発明装置の実施例を3例示す。
BTi社製の148チャンネル全頭計測型のMEGを用いて、脳活動を計測した。
MEGでは、まずデータ取得を開始し、脳から発せられる磁気信号をミリ秒の精度で取り込み開始する。次いで、被写体に刺激を呈示して、磁気信号の変化を捉える。そのため、MEGへの計測制御信号は、マーカーの意味合いをもつ。
パルス幅4msの7bitの状態信号に続けて、パルス幅4msの1bitのトリガー信号を与えて、MEGの動作を確認した。
計測制御信号を数秒毎に繰り返し与えた結果、実際の実験時間にわたって正確な動作が確認され、精度の高い計測値が得られた。
【0020】
Siemens社製の1.5TのfMRIを用いて、脳活動を計測した。
fMRIへの計測制御信号は、撮像開始を指示するものであり、心電同期入力に与えられる。まず1秒に1回の割合でパルスを与えて、外部信号による撮像開始制御動作を確立させる。次いで、パルス幅20msの1bitの撮像開始信号を与えて、fMRIの動作を確認した。
計測制御信号を数秒毎に繰り返し与えた結果、実際の実験時間にわたって正確な動作が確認され、精度の高い計測値が得られた。
【0021】
同様に、NIRSを用いて、脳活動を計測した。
NIRSへの計測制御信号は、MEGと同様にマーカーの意味合いをもつ。サンプリング時間は数十〜数百ミリ秒あるので、サンプリング時間以上のパルス幅をもつマーカー信号を与えて、NIRSの動作を確認した。
計測制御信号を数秒毎に繰り返し与えた結果、実際の実験時間にわたって正確な動作が確認され、精度の高い計測値が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の生体活動計測装置によると、生体活動計測対象に刺激を呈示し、その呈示タイミングに合わせて計測できるので、OS等に起因する時間のずれの影響を抑えられる。
視覚聴覚触覚などの刺激呈示信号と、MEG等の脳活動計測装置への計測トリガー信号とを、数十分間にわたってミリ秒以下の精度で発生させ制御することが可能なので、非侵襲的に脳活動を計測する者にとって必須の装置であり、産業上利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来の脳活動計測システムの一部概要を示す説明図
【図2】本発明による脳活動計測システムの一部概要を示す説明図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の機能を示す生体活動を非侵襲的に計測する生体活動の計測装置において、
計測対象の生体に刺激を呈示する刺激呈示手段と、
生体の活動を指標する生体信号を得て、生体活動を計測する生体活動計測手段と、
刺激呈示手段に対して刺激の呈示開始を制御する刺激呈示信号を送出すると共に、その刺激呈示信号送出と同期させて、生体活動計測手段に対して生体活動計測開始を制御する計測制御信号を送出する計測制御手段と
を備えることを特徴とする生体活動計測装置。
【請求項2】
計測制御手段が、
クロック周波数でのTTL出力動作によって、刺激呈示信号と計測制御信号を制御する
請求項1に記載の生体活動計測装置。
【請求項3】
計測対象の生体が、人体であり、
生体活動計測手段が、被験者の脳の活動を計測する脳活動計測装置である
請求項1または2に記載の生体活動計測装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−87526(P2006−87526A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274009(P2004−274009)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】