説明

生体活性ガラス組成物

【課題】 均一なガラスをより容易に製造可能な生物活性ガラス組成物を提供。
【解決手段】 生物活性ガラス組成物、方法およびインプラント。ガラス組成物はSiO2、Na2O、K2O、CaOおよびP2O5を含んでいて、その組成は次のようなものである:SiO2 48-52 wt-%、Na2O 9-15 wt-%、K2O 12-18 wt-%、CaO 10-16 wt-%、2O5 1-7 wt-%、TiO2 0.2-2 wt-%、B2O3 0-4 wt-% および MgO 10-6 wt-%、その内 Na2O+K2O > 25 wt-%、MgO + CaO > 14 wt-% および B2O3/P2O5 > 0.3 である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は SiO2、Na2O、K2O、CaO および P2O5 を含む生体活性ガラス組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本明細書においては、生体活性材料とは、生体組織中で特異的な生物活性を誘導するように設計された材料を意味している。生体活性ガラスとは生物活性の特徴を示すガラスを意味している。生体活性ガラスは、それ自体に粘着性はなく、擬似体液またはトリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液などの in vivo および in vitro の環境で適切に暴露させた時、硬組織および軟組織のどちらとも凝集結合を形成できる不定形の固体である。凝集結合は、バイオガラス材料の塊からイオン種が放出されることを通して、ヒドロキシカーボネート・アパタイトでできた表面層が生体活性ガラス上に形成されることによって達成される。
【0003】
外科や整形外科治療、歯科外科の分野において、生体活性ガラスについて、多くの適用が発見されている。
【0004】
種々の生体活性ガラス組成が文献および特許で報告されている。生体活性ガラス組成は、以下の文献に記載されている。
【特許文献1】ヨーロッパ特許第1,405,647号
【特許文献2】ヨーロッパ特許出願第1,655,042号
【特許文献3】国際出願第WO 96/21628号
【特許文献4】国際出願第WO 91/17777号
【特許文献5】国際出願第WO 91/12032号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、既知の生体活性ガラス組成は、製品に成形している間、特に溶融紡糸工程で繊維に成形する時、制御することが本質的に難しいという共通の欠点を有する。そのように制御困難であるということは、例えば、繊維の直径が顕著に変動し、結晶がガラスに析出して繊維を不均一にしたりガラスを失透させたりし、それによって繊維製造工程での収量が低下することを意味している。繊維の直径が変動したり繊維が不均一であると、装置および工程パラメータを、処理された繊維の直径に、少なくとも部分的に基づいて設定しているその後の工程において悪い影響を与える。そのような工程およびパラメータには、焼結工程での焼結温度が含まれる。繊維の直径が変動すると、例えば最終生成物の質にも影響を与える。なぜなら、細い繊維は太い繊維とは異なった振る舞いをするからである。球形の粒子の製造およびコーティングもまた、その製造工程での変動または不均一な振る舞いによって影響を受ける。
【0006】
繊維または他の製品の物理的特性に加えて、いくつかの化学的特徴もまた制御することが困難である。例えば、局所的な酸化物の濃度の変動が起こり、材料の分解プロファイルおよびイオン放出プロファイルにも影響を与える。
【0007】
さらに、例えばるつぼの洗浄および繊維のふるい分けなどの、いくつかの製造に関係する工程を行うことは、困難であり、時間がかかる。
【0008】
既知の生体活性ガラス組成物の他の欠点は、溶融紡糸工程での収量がかなり低いことである。
【0009】
本発明の目的は、新しい生体活性ガラス組成物を提供し、上記の欠点を軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の生体活性ガラス組成物は次の組成によって特徴づけられる:
SiO2 48 - 52 wt-%
Na2O 9 - 15 wt-%
K2O 12 - 18 wt-%
CaO 12 - 18 wt-%
P2O5 0 - 4 wt-%
TiO2 0 - 2 wt-%
B2O3 1 - 4 wt-% 、および
MgO 0 - 5 wt-% 、そのうち
Na2O + K2O > 25 wt-%
MgO + CaO > 14 wt-% 、および
B2O3 / P2O5 > 0.3
B2O3およびP2O5は、ガラス網目形成体として知られている。なぜならSiO2・P2O5は結晶化を増加させるに従って、ガラス材料の作業温度範囲に悪い影響を及ぼすが、生成する生体活性ガラスの生物活性には良い影響を及ぼすからである。B2O3は最終生体活性ガラス材料の骨結合作用を高めることが示されていて、製造工程でP2O5の負の作用を補うために利用できることが発見されている。特に、B2O3/P2O5の上記比率を採用することにより、両方の酸化物が材料の性質に及ぼす効果が最良となることが発見されている。
【0011】
本発明は、請求項で述べられている組成範囲を有するガラスは、この範囲外のガラスと比較した場合、製造工程において驚くべき良好な性能を有するという、発明者により見出された驚くべき事実に基づいている。
【0012】
本発明の利点は、特に生体活性ガラス繊維の製造において、より制御し易い製造工程が実現されるということである。このことは、ガラスをより容易に製造でき、特にガラスの均一性がより高まり、例えば繊維製造収量が増加し、繊維の性質が向上することを意味している。本発明の他の利点は、ガラスの結晶化やその表面やバルク特性の変化を伴わず、ガラスを繰り返し熱処理できることである。本発明のさらなる利点は、繊維を製造した時の収量が向上することである。この特異的な組成物範囲を有するガラスを使用した時、るつぼの洗浄がより容易であることも認められている。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガラスの適用範囲は、改良された成形特性を持つため広い。それ故、ガラスは異なった方法、例えば球形細粒などを作るためのフレーム溶射などによって成形することができる。例えば肝臓腫瘍の体内放射性核種療法のような、癌治療における放射線治療などでの標的として、球形細粒を使用することができる。罹患組織および感染組織の研磨剤として、および歯の表面を磨いたり滑らかにしたりするために歯科領域で、球形粒子を使用することもできる。
【0014】
本発明のガラスは、例えば圧縮成形または他の既知の方法によって、合成物製品の製造においても使用することができる。
【0015】
より複雑な形を作るための工学グレード・ガラスの分野において知られている種々の吹きつけ法によって、ガラスを成形することができる。さらに、ガラスを、繊維を成形するための紡糸法によって加工することができる。
【0016】
本発明のガラスはまた、例えば三次元の製品に鋳造することもできる。ガラスの固体鋳造物は、例えば損傷を受けた眼窩底の治療のためなどの、外科での支持プレートなどとして使用することができる。
【0017】
本発明のガラスを利用できる上記以外の他の適用も存在する。例えば、生体安定型インプラントのコーティング剤としても使用でき、インプラントの組織接着力を向上させる。
【0018】
ガラス繊維は神経再生のための組織工学に適用できる可能性のある材料である。生体活性ガラス繊維はニューロンのための一時的な足場になり得る。なぜなら、ニューロンは成長してガラス繊維にぴったり接触した時、成長し長い繊維状の構造物を形成するからである。
【0019】
ガラス繊維はおそらく、心筋細胞および他の筋肉細胞を再生するための組織工学に適用できるであろう。
【0020】
さらに、本発明のガラス組成物はいくつかの血管形成作用、すなわち血管の成長を促進させる作用がある。それ故、ガラスは一般に血管組織の組織工学に利用できるはずである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、添付した図を参照しながら本発明をさらに詳細に説明する。
【0022】
本発明の生体活性ガラス組成物は次の組成範囲を有する:
SiO2 48 - 52 wt-%
Na2O 9 - 15 wt-%
K2O 12 - 18 wt-%
CaO 12 - 18 wt-%
P2O5 0 - 4 wt-%
TiO2 0 - 2 wt-%
B2O3 1 - 4 wt-% 、および
MgO 0 - 5 wt-% 、その内
Na2O + K2O > 25 wt-%
MgO + CaO > 14 wt-% 、および
B2O3 / P2O5 > 0.3
以下では生体活性ガラスは「ガラス」として記載されていることに注意。
【実施例1】
【0023】
5つの異なった組成を有する生体活性ガラスを15バッチ(各組成に対して3バッチ)製造した。組成は計算された理論上の開始組成として示されている。生体活性ガラスの製造のために用いた原材料は分析グレードのNa2CO3、K2CO3、MgO、TiO2、B2O3、CaCO3、CaHPO4・2H2OおよびSiO2であった。原材料を、秤量し、プラスチック容器の中で混合し、その後白金るつぼ中で1360℃で3時間溶融させた。その後、均一なガラスを得るために、成形したガラスを砕いて約1cm3の小片にし、1360℃で3時間再度加熱させた。この方法で、約230gの塊の固体ガラスブロックが得られた。同じ製造方法を用いて、全5つのタイプの生体活性ガラスA,B,C,DおよびEを製造した。表1は成形された生物体性ガラスの組成を示している。
【0024】
本発明の組成物を製造するために、他の既知の工程または装置を使用することができる。各ガラスについて、工程の熱サイクルを最適化することができる。ガラスを砕いたり再加熱したりする必要はないことをに注目すべきである。上記以外の原材料を用いることも可能である。例えば、CaCO3の代わりにCaOを用いることができる。
【0025】
【表1】

ガラスBは本発明による組成を有するが、ガラスA、C、DおよびEは本発明の組成の範囲外である。組成物A、B、CおよびDからなる全てのガラスバッチはきれいな透明なガラスブロックを形成し、その中に結晶性を示すものは無かった。Eの配合で製造されたガラスブロックにおいては、成形されたガラスブロック中に結晶子を見ることができ、ガラスEをその後の工程および分析から外した。
【0026】
次に示すように、繊維を各製造されたガラスブロックから製造した。最初にガラスブロックを、白金るつぼに入れた。この白金るつぼの底には直径3.8mmの7つの孔がある。その後るつぼを、底に開口部を備える炉(LINDBERG/BLUE CF56622C、LINDBERG/BLUE 製、NC、USA)に入れた。各繊維組成物について、異なる温度で紡糸試験をすることにより、紡糸に最適な温度を、この実験の前に見つけ出しておいた。これらのパイロット試験に基づいて、最適紡糸温度は以下の結果となった:ガラスAについては930℃、ガラスBについては810℃、ガラスCについては820℃およびガラスDについては900℃。
【0027】
繊維の製造のためには最適温度は低ければ低いほど良い。なぜなら、繊維がより低い温度でロールに接触するため、ロールのコーティング剤を損傷させる可能性や、繊維がコーティング剤の上に積み重なってロールの周りを動き始め、作業員が繊維を集めることができなくなる可能性が減るからである。
【0028】
最適温度でガラスは溶けて、開口部から流れ始め、その時成形された繊維を紡糸用ロールを使って引き出した。ロールの速さを調節することにより、繊維の直径を制御することが可能であった。紡糸用ロールの速度を、繊維の直径が0.75mmになるように調節した。
【0029】
繊維が順調に引かれている間、紡糸は継続的に行われた。紡糸工程中にカッターを用い、得られたガラス繊維をさらに3±2mmの長さに切断した。
【0030】
繊維を製造した後、この工程での収量を製造された各バッチから評価した。これは得られた繊維の質量を秤量し、その質量を最初に使用したガラスブロックの質量で割ることによって行った。ガラスの収量を表2に示した。
【0031】
【表2】

ガラスB、すなわち本発明によるガラス組成物を用いれば、他のガラス組成物と比較した時顕著に収量が向上することは明白である。
【0032】
製造したガラス繊維をさらに光学顕微鏡(Smartscope flash、Optical Gauging Products Inc.)の下で評価し、繊維の繊維直径分布を調べた。ガラス繊維の各バッチから、無作為に選択した200個の繊維の直径を測定した。測定値に基づいて、各ガラス組成物についての繊維直径分布曲線を作成した。表3は4つのガラス組成物の各々についての調査結果を示している。
【0033】
【表3】

表3に示すように、本発明のガラス組成物、すなわちガラスBの繊維の約80%は直径が73から77μmの範囲内である。一方、ガラスA、CおよびDの繊維では、繊維直径の約80%が70から80μmというずっと広い範囲に分散している。これは繊維直径の分布の深刻な不揃いであり、既知のガラス組成ではなく、本発明のガラス組成を用いた時、繊維製造工程の制御性はずっと良くなることを意味している。
【実施例2】
【0034】
実施例1および2に記載したように、ガラス繊維を初めにガラスAおよびBから製造した。製造したガラス繊維から固体の多孔性の足場を形成するために、種々の焼結法を用いることができる。各ガラス組成物について最適焼結温度を見つけるために、次の研究を行った。ガラス組成物から切り取った約2グラムの繊維を無作為にセラミック・プレート上に寄せ集めて置いた。その後、その寄せ集めたものと共にプレートを加熱した炉に入れ、45分間加熱した。
【0035】
各ガラス組成物の最適な温度範囲を見つけるために、炉の温度を変えた。最適な温度範囲において、ガラス繊維は互いにわずかに焼結し、多孔性の足場を形成した。足場とは生きた組織がその中に向かって成長することのできる多孔性構造の装置である。例えば、足場は組織の成長を誘導するものとしての役割を果たす基礎を形成することができる。足場はある程度の気孔率を有している。気孔率とは3次元構造の足場中での空気の容量パーセントを意味している。温度が低すぎると、繊維はそれぞれ単体のままであり、互いに焼結しなかった。温度が高すぎると、繊維は完全に溶けてしまい、その繊維状の形態を失い、固体ガラスの滴が形成された。理想的には、切断したガラス繊維は多孔性のネットワークまたは足場を形成し、その中で個々のガラス繊維はその繊維状の形態を維持するが、個々の繊維が互いに接触する点で、固体結合を形成する。表4はそれぞれのガラスにとって理想的な温度範囲を示している。
【0036】
【表4】

表4から分かるように、ガラスBの温度範囲が最も低い。これは焼結温度がより低いことと、したがって加熱時のエネルギー消費もより低いことを意味している。セラミックのプレートまたは鋳型を用いる時、焼結のためには45分の加熱時間が好ましい時間である。しかし、チタンのプレートまたは鋳型を用いた場合、その時間は20分以下に短縮できる。これはチタンの熱伝導性がより良いことによるものである。
【0037】
ガラス繊維のための本発明の焼結温度は約500℃から約700℃まで、好ましくは約550℃から約650℃まで、最も好ましくは約590℃から約620℃まで変化してもよい。
【0038】
切断した繊維の長さは好ましくは約0.5mmから約10mmであり、より好ましくは繊維の長さはだいたい約1mmから約5mmであることに注目すべきである。繊維の長さを調節することは、焼結された足場の孔のサイズを好ましいレベルに合わせる方法である。
【0039】
ガラスの多孔性焼結の形は、例えば骨補填材または軟組織補填材として使用することができる。粉砕したまたは球形の細粒または他の形のガラスを多孔性足場の形に焼結することも可能である。
【0040】
繊維の直径は通常約0.010mmから約1.0mm、好ましくは約0.030mmから約0.300mmである。繊維の直径を変えることにより、融解速度を調節することができる。より低い焼結温度をより小さい直径の繊維に用いてもよく、足場の気孔率を調節できる。工程パラメータを変えることにより、足場の性質を好ましいレベルに合わせることができ、例えばナイフなどで容易に成形できる足場を作ることができる。
【実施例3】
【0041】
ガラスの足場を実施例1および2に記載したようにガラス組成物BおよびCから製造した。ガラスBから製造した足場を610℃で45分間焼結し、ガラスCから製造した足場を620℃で45分間焼結した。得られた足場を、そのガラス中の結晶形成を分析するために、さらにラマン分光法(Renishaw)で分析した。
【0042】
図1(ガラスB)および図2(ガラスC)に示すラマン・スペクトルのグラフから分かるように、ガラスBは紡糸および焼結工程を通して不定形を維持している。ガラスCから製造した足場中では、ガラス成形の後、ガラスは最初は不定形であるが、繊維製造および焼結段階の後に、構造中の結晶相を示す明瞭なピークが観察できる。
【0043】
言い換えれば、ガラスBはガラスを結晶化することなしに、繰り返し加熱処理することができる。本発明のガラス組成物は、加熱を繰り返しても、その表面特性またはバルク特性を変えないことも発見されている。
【0044】
ガラス繊維を焼結することによって、多孔性の骨伝導足場を形成することができる。骨伝導とは骨の成長および表面上での再形成を受動的に行わせる過程である。骨伝導において、インプラントは、それに沿って骨が移動する生体適合性の接合面を提供する。
【0045】
工程パラメータを最適化することによって、多孔性の度合いを制御することができる。足場の気孔率を約5から約95体積パーセント、好ましくは約20から約80体積パーセントの範囲内にすることができる。
【0046】
本発明の別の実施形態においては、ガラス繊維の焼結は負荷をかけて行い、それは焼結の間に繊維に多少なりとも圧力を加えることを意味している。通常、負荷をかけて焼結すると、より均一な構造の足場が形成される。加圧負荷は、例えば少なくとも約10kPaから1000kPaの範囲内にすることができる。
【0047】
本発明における好ましい焼結時間は約1分から約120分、好ましくは約5分から約30分である。
【実施例4】
【0048】
互いに異なった組成を有する本発明のガラスを、FからUの16バッチ製造し、実施例1に記載したように、繊維をこれらのガラスから製造した。繊維製造工程の収量を各ガラスについて測定した。これらのガラスについての計算により求めた理論的な組成および繊維製造工程での収量を表5に示している。
【0049】
【表5】

表5から分かるように、本発明によるガラス組成物では、例えば表2中の既知のガラス組成物A,CおよびDと比較して高い収率が得られた。
【実施例5】
【0050】
理論的に計算した組成とガラス製造工程後のガラスの組成の間のバラツキを分析するために、異なった組成を有する異なったガラス繊維を3バッチ製造した。製造した各ガラスブロックについて、元素分析を行った。元素分析にはX線分光分析法(Philips PW 2404 RGT)を用いた。表6はガラスV、XおよびYについての理論的計算値および組成分析から得られたデータを示している。組成の理論値と分析値との差はごくわずかである。
【0051】
【表6】

【実施例6】
【0052】
実施例1に記載したように、75μmの通常の直径を有する生体活性ガラス繊維を最初にガラスBから製造した。製造した繊維をさらに、はさみを用いて5mmの通常の長さに手で切断した。その後、P(L/DL)LA 70/30ポリマをアセトンに溶かし、切断した繊維を粘性溶液に加え、ガラス繊維およびP(L/DL)LA 70/30ポリマを含む合成プリフォームを形成させた。その後、アセトンを蒸発させるために、約24時間その溶液を平らな容器に入れて広げた。シート様の合成プリフォームを約1cm×1cmの四角い切片に切断した。次に、合成物切片を真空オーブン中で、常温で3日間乾燥させ、その後確実にアセトンが全て蒸発するように、80℃で16時間乾燥させた。
【0053】
上記のようにして0、10、20、30および40容量パーセントのガラス繊維を含む5つの異なった組成物を製造した。スチール鋳型を備えるピストン射出成形機(SP2 Chippenham、 England)を用いて、切片から合成物ロッドを成形した。ロッドを5つの異なった合成組成物の各々から製造することに成功した。
【0054】
ガラス繊維はまた、インプラントのポリマ・マトリックス中の強化成分としても使用できる。強化合成物インプラントは固定プレート等として使用することができる。
【実施例7】
【0055】
生体活性ガラス組成物F、G、HおよびIを製造し、高温でのその性質を高温顕微鏡を用いて分析した。その分析は焼結、軟化、球形化、半球形化および溶融の特徴的温度の決定を可能にしている。
【0056】
【表7】

表7から分かるように、全ての分析したガラス組成物の焼結温度は590から620℃の範囲内である。加えて、全ての組成物について、特徴的な温度は全て同様で、材料が全て同様の高い温度、特に高温製造の性質よって特徴づけられていることを意味している。
【0057】
本発明の実施形態において、ガラス繊維の焼結によって製造された多孔性足場を、生体適合性のポリマ・フィルムに付着させることができて、足場はその少なくとも一つの側面上でバリア特性を有する。この種の複合構造物は、例えば新しい骨の形成が必要な部位で軟組織の成長を防ぐために、バリア効果が必要な骨誘導再生で利用できる。この複合構造は軟骨組織の再生にも適用される。ガラス繊維から焼結された多孔性足場は、軟骨組織がその中へ成長することのできるマトリックスを形成することができる。ポリマ・フィルムを有する足場の別の側面は、新しく形成された軟骨組織を滑液から分離するバリアとして機能することである。
【0058】
生体適合性フィルムは、例えばポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ-β-ヒドロキシ酪産、ポリジオキサノン、ポリビニルアルコール、ポリエステルアミン、それらのコポリマ類またはそのポリマ・ブレンド類で製造することができる。他の吸収性または非吸収性生体適合性ポリマも生体適合性フィルムの製造に利用できる。
【0059】
本適用のさらに別の実施形態において、焼結の前にガラス繊維を最初に生体適合性ポリマ相でコーティングする。繊維を切断し、コーティングした繊維を焼結し三次元の足場を作成した。そのような場合は、足場には適度の弾性があり、足場の弾性が要求されるような場合に適用できる。適切な生体適合性ポリマ類には、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ-ヒドロキシ酪産、ポリジオキサノン、ポリビニルアルコール、ポリエステルアミン、それらのコポリマ類またはそのポリマ・ブレンド類が含まれる。ポリマでコーティングしたガラス繊維の焼結のための本発明の焼結時間は、約1分から約120分、好ましくは約5分から約30分である。
【0060】
生体適合性ポリマ類でコーティングした繊維を焼結する場合は、焼結温度は被膜ポリマの軟化点に依存している。生体適合性ポリマ類を用いる場合は、焼結温度は約50℃から約300℃、好ましくは約100℃から約200℃である。
【0061】
繊維上のポリマ・コーティングの厚さは約1から約200μm、好ましくは約5から約30μmである。
【0062】
本発明の別の実施形態では、生物活性薬剤を本発明の組成で出来た装置と共に使用することができ、新しい組織、例えば骨の形成を促進させる。そのような場合、ガラスで出来た多孔性の足場は生物活性薬剤のための担体として機能できる。生物学的に活性のある薬剤を、次の薬剤より成るグループから選択することができる、すなわち抗炎症薬、抗菌薬、抗寄生虫薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗腫瘍薬、鎮痛薬、麻酔薬、ワクチン、中枢神経系薬、成長因子、ホルモン、抗ヒスタミン薬、骨誘導薬、心臓血管薬、抗潰瘍薬、気管支拡張薬、血管拡張薬、避妊薬、妊娠促進薬、およびポリペプチド類。好ましくは、生物活性薬剤はOP-1、BMP-2、BMP-4、およびBMP-7などの骨形成蛋白質(BMP)またはピロリドン類である。本発明で利用可能なピロリドン類には、可塑性または溶解性を有し、組織障害作用または毒性作用を有しない従来の化学技術で知られているピロリドンが含まれる。そのようなピロリドンには、1-メチル-2-ピロリドン(NMP)、1-エチル-2-ピロリドン(NEP)、2-ピロリドン(PB)および1-シクロヘキシル-2-ピロリドン(CP)などのアルキルまたはシクロアルキル置換ピロリドン類が含まれ、NMPおよびNEPは好ましい例である。さらに、ポリビニルピロリドン類などのピロリドン主体のポリマ類も本発明の材料の中で使用してもよい。例えば、ここで参照として記載しているWO 2005/084727の実施例1に開示されている方法を用いて、ピロリドンを組成の中に入れることができる。
【0063】
工学の発展に伴い、本発明の概念は色々の方法で実施できるということは、当業者には自明なことである。本発明およびその実施形態は上記実施例に限られたものではなく、請求項の範囲内で変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明による生体活性ガラス組成物のラマン・スペクトルを示す図である。
【図2】従来技術の生体活性ガラス組成物のラマン・スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の組成、すなわち
SiO2 48 -52wt-% 、
Na2O 9 - 15 wt-% 、
K2O 12 - 18 wt-% 、
CaO 12 - 18 wt% 、
P2O5 0 - 4 wt-% 、
TiO2 0 - 2 wt-% 、
B2O3 1 - 4 wt-% 、および
MgO 0 - 5 wt-% 、その内
Na2O + K2O > 25 wt-% 、
MgO + CaO > 14 wt-% 、および
B2O3 / P2O5 > 0.3
を特徴とする、SiO2、Na2O、K2O、CaO および P2O5 を含む生体活性ガラス組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の生体活性ガラス組成物において、次の組成、すなわち
SiO2 50 - 51 wt-% 、
Na2O 11 - 12 wt-% 、
K2O 16 - 17 wt-% 、
CaO 12 - 14 wt% 、
P2O5 3 - 4 wt-% 、
TiO2 0.5 - 1 wt-% 、
B2O3 1 - 2 wt-% 、および
MgO 3 - 4 wt-% 、その内
Na2O + K2O > 25 wt-% 、
MgO + CaO > 14 wt-% 、および
B2O3 / P2O5 > 0.3
を特徴とする生体活性ガラス組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の生体活性ガラス組成物において、次の組成、すなわち
SiO2 51.0 wt-% 、
Na2O 11.1 wt-% 、
K2O 16.2 wt-% 、
CaO 13.8 wt% 、
P2O5 3.1 wt-% 、
TiO2 0.4 wt-% 、
B2O3 1.3 wt-% 、および
MgO 3.1 wt-% 、
を特徴とする生体活性ガラス組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の生体活性ガラス組成物において、次の組成、すなわち
SiO2 51.1 wt-% 、
Na2O 11.1 wt-% 、
K2O 16.2 wt-% 、
CaO 13.8 wt% 、
P2O5 3.1 wt-% 、
TiO2 0.4 wt-% 、
B2O3 1.2 wt-% 、および
MgO 3.1 wt-% 、
を特徴する生体活性ガラス組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の生体活性ガラス組成物において、次の組成、すなわち
SiO2 50.6 wt-% 、
Na2O 11.8 wt-% 、
K2O 16.3 wt-% 、
CaO 13.0 wt% 、
P2O5 3.3 wt-% 、
TiO2 0.5 wt-% 、
B2O3 1.4 wt-% 、および
MgO 3.1 wt-% 、
を特徴とする生体活性ガラス組成物。
【請求項6】
外科における使用のための焼結足場の形のガラス繊維に関する、請求項1に記載の生体活性ガラス組成物の使用。
【請求項7】
組成物のために原材料を選択し、
該原材料を混合し、
該原材料を均一なガラスに溶融する段階を含む生体活性ガラス組成物製造方法であって、該方法は、
前記均一なガラスが請求項1に記載の組成を有するよう、前記原材料を選択することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の生体活性ガラス組成物を含むインプラント。
【請求項9】
請求項8に記載のインプラントにおいて、該インプラントは請求項1に記載の生体活性ガラス組成物で出来た、少なくとも部分的に多孔性の構造物を有することを特徴とするインプラント。
【請求項10】
請求項9に記載のインプラントにおいて、前記多孔性の構造物が焼結繊維を含んでいることを特徴とするインプラント。
【請求項11】
請求項8ないし10のいずれかに記載のインプラントにおいて、該インプラントはさらにポリマ相を含んでいることを特徴とするインプラント。
【請求項12】
請求項11に記載のインプラントにおいて、該インプラントは少なくとも部分的にポリマ・コーティング剤でコーティングされたガラス組成物を含んでいることを特徴とするインプラント。
【請求項13】
請求項11に記載のインプラントにおいて、該インプラントはポリマ・マトリックスの中に埋め込まれたガラス繊維を含んでいることを特徴とするインプラント。
【請求項14】
請求項11に記載のインプラントにおいて、前記ガラス組成物は該インプラントに生物学的に安定な材料のコーティングを形成していることを特徴とするインプラント。
【請求項15】
請求項8ないし14のいずれかに記載のインプラントにおいて、該インプラントは少なくとも一つのピロリドンを含んでいることを特徴とするインプラント。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−74698(P2008−74698A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218798(P2007−218798)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(506037700)
【氏名又は名称原語表記】INION OY
【Fターム(参考)】