説明

生体物質固定化能を有する化合物

【課題】タンパク質へのダメージがほとんどない結合を利用してタンパク質を固定化することができる化合物を提供すること。
【解決手段】 下記式(1)で表される化合物又はその塩。
OHC−L−X−(CH(R)CH2O)n−COOH (1)
(式中、Lは炭素数1から10の脂肪族の2価の炭化水素基、又は芳香族の2価の炭化水素基を示し、Xは、−CONH−又は−COO−を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは2から20の整数を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体物質固定化能を有する化合物に関する。より詳細には、タンパク質などの生体物質を固定化することができる化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体物質を固定化する反応は、ナノ粒子に共有結合される分子の生物学的活性に有害作用を及ぼさない条件下で行われるべきである。例えば、タンパク質を粒子に結合するときは、高温、特定の有機溶媒、および高イオン強度溶液のようなタンパク質またはペプチドの変性を起こす条件は避けられるべきである。また、有機溶媒は、反応系から除外され、そしてEDCのような水溶性カップリング試薬が代わりに用いられる。それ以外にも、チオール−マレイミド、アルデヒド−アミンの組み合わせが報告されている。
【0003】
例えば、非特許文献1では、金コロイド粒子表面にアルデヒド基を提示し、糖鎖に存在するアミノ基とシッフ塩基を形成した後に、還元剤を添加し、2級アミンを介した共有結合で安定に固定化できることが報告されている。しかしながら、この手法をタンパク質固定化に利用するとタンパク質内に存在する還元されやすいアミノ酸がダメージを受けたり、還元反応後に生成した求核性の高い2級アミンの副反応が起こるため、タンパク質の失活が懸念される。
【0004】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 123, 8226, (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、タンパク質へのダメージがほとんどない結合を利用してタンパク質を固定化することができる化合物を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行い、(アルデヒド基)−(脂肪族基地又は芳香族基)−(アミド結合又はエステル結合)−(ポリエチレングリコール成分)−(カルボキシル基)という構造を有する化合物を合成することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明によれば、下記式(1)で表される化合物又はその塩が提供される。
OHC−L−X−(CH(R)CH2O)n−COOH (1)
(式中、Lは炭素数1から10の脂肪族の2価の炭化水素基、又は芳香族の2価の炭化水素基を示し、Xは、−CONH−又は−COO−を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは2から20の整数を示す)
【0008】
好ましくは、Lは炭素数1から6のアルキレン基、又はフェニレン基である。
好ましくは、nは2から5の整数である。
好ましくは、本発明の化合物は、下記の何れかの化合物又はその塩である。
【0009】
【化1】

【0010】
本発明の別の側面によれば、上記した本発明の化合物からなる、生体物質固定化剤、粒子被覆剤、並びに粒子分散剤が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明の化合物で被覆された水分散性粒子が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の式(1)で表される化合物は、タンパク質へのダメージがほとんどない結合を利用してタンパク質を固定化することができる。また、本発明の式(1)で表される化合物は、エチレングリコール部分により安定な水分散性を発揮すると同時に、末端のアルデヒド基を利用して金属酸化物粒子上にタンパク質などの生体物質を安定に固定化することができる。また、表面のエチレングリコール部分は、粒子表面上でのタンパク質の疎水吸着を抑制する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の化合物は、下記式(1)で表される化合物である。
OHC−L−X−(CH(R)CH2O)n−COOH (1)
(式中、Lは炭素数1から10の脂肪族の2価の炭化水素基、又は芳香族の2価の炭化水素基を示し、Xは、−CONH−又は−COO−を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは2から20の整数を示す)
【0013】
炭素数1から10の脂肪族の2価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、シクロプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、s−ブチレン基、t−ブチレン基、シクロブチレン基、シクロプロピルメチレン基、ペンチレン基、イソペンチレン基、2−メチルブチレン基、ネオペンチレン基、1−エチルプロピレン基、ヘキシレン基、イソヘキシレン基、4−メチルペンチレン基、3−メチルペンチレン基、2−メチルペンチレン基、1−メチルペンチレン基、3,3−ジメチルブチレン基、2,2−ジメチルブチレン基、1,1−ジメチルブチレン基、1,2−ジメチルブチレン基、1,3−ジメチルブチレン基、2,3−ジメチルブチレン基、1−エチルブチレン基、2−エチルブチレン基などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
芳香族の2価の炭化水素基としては、2価フェニレン基又は2価ナフタレン基などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
本発明の化合物は、遊離したカルボン酸の形態で存在してもよいし、又は塩の形態で存在してもよい。塩としては塩基付加塩が挙げられ、塩基付加塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、若しくはカルシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、又はトリエチルアミン塩若しくはエタノールアミン塩などの有機アミン塩などを用いることができる。さらに、本発明の化合物又はその塩は、水和物又は溶媒和物として存在する場合があるが、これらの物質も本発明の範囲に包含される。また、本発明の化合物は、置換基の種類によっては1個又は2個以上の不斉炭素を有する場合があり、光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する場合がある。純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などはいずれも本発明の範囲に包含される。
【0016】
本発明の式(1)の化合物のうち、Xがアミド(−CONH−)である化合物は、本明細書の実施例にも示す通り、以下の反応経路により合成することができる。
【0017】
【化2】

【0018】
先ず、Cl−(CH(R)CH2O)n−H(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは2から20の整数を示す)で表される化合物、フタルイミドカリウム、及びヨウ化カリウムを乾燥DMFに溶解し、反応させる。反応温度は特に限定されないが70から100℃程度で行うことができ、反応は数時間から48時間程度行うことができる。反応終了後、飽和食塩水を加え、酢酸エチルで抽出を行い、無水硫酸ナトリウムで乾燥した溶液を減圧留去することにより、無色透明オイル状化合物が得られる。
【0019】
次に、上記で得られた化合物、及びヨウ化カリウムを乾燥THFに溶解させ、反応温度を0℃に設定する。その後、水素化ナトリウムを加え、攪拌した後に、ブロモ酢酸tert-ブチルエステルを滴下後、反応系を室温に戻して、攪拌する。反応終了後、飽和クエン酸水溶液を加え、酢酸エチルで抽出を行い、有機相を分取し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧去し、黄色オイル状物が得られる。
【0020】
次に、上記で得られた化合物をメチルアミン−メタノール溶液に溶解させ、室温で攪拌して反応させる。反応終了後、溶媒を減圧去し、黄色オイル状物が得られる。
【0021】
次に、上記で得られた化合物、テレフタル酸アルデヒド、WSC・HCl、 DIPEAを乾燥DMFに溶解し、室温で攪拌して反応させる。反応終了後、クエン酸水溶液を加え、酢酸エチルで抽出を行い、有機相を分取し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧去し、黄色オイル状物が得られる。
【0022】
最後に、上記で得られた化合物を塩化メチレンに溶解させ、トリフルオロ酢酸を加え、室温で攪拌して反応させる。反応終了後、溶媒を減圧去し、目的化合物である、本発明の式(1)の化合物のうちXがアミド(−CONH−)である化合物が得られる。
【0023】
本発明の式(1)の化合物のうち、Xがエステル(−COO−)である化合物は、以下の反応経路により合成することができる。
【0024】
【化3】

【0025】
先ず、HO−(CH(R)CH2O)n−H(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは2から20の整数を示す)で表される化合物、及びヨウ化カリウムを乾燥THFに溶解させ、反応温度を0℃に設定する。その後、水素化ナトリウムを加え、攪拌した後に、ブロモ酢酸ベンジルエステルを滴下後、反応系を室温に戻して、攪拌する。反応終了後、飽和クエン酸水溶液を加え、酢酸エチルで抽出を行い、有機相を分取した後に、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧去し、黄色オイル状物が得られる。
【0026】
次に、上記で得られた化合物、及びテレフタル酸アルデヒドをトルエンに溶解させ、硫酸を数滴加える。その後、還流しながら攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧去し、黄色オイル状物が得られる。
【0027】
次に、上記で得られた化合物をジクロロメタンに溶解させ、エチレングリコールとトシル酸を加え、室温で攪拌して反応させる。反応終了後、溶媒を減圧去し、黄色オイル状物が得られる。
【0028】
次に、上記で得られた化合物をメタノールに溶解させ、パラジウムカーボン(10 %)を加え、水素雰囲気下、室温で攪拌して反応させる。反応終了後、溶媒を減圧去し、黄色オイル状化合物が得られる。
【0029】
最後に、上記で得られた化合物を塩化メチレンに溶解させ、トリフルオロ酢酸を加え、室温で攪拌して反応させる。反応終了後、溶媒を減圧去し、目的化合物である、本発明の式(1)の化合物のうちXがエステル(−COO−)である化合物が得られる。
【0030】
本発明の式(1)の化合物のうち、Lがアルキレン(−CH2−CH2-)である化合物は、以下の反応経路により合成することができる。
【0031】
【化4】

【0032】
先ず、Cl−(CH(R)CH2O)n−H(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは2から20の整数を示す)で表される化合物、フタルイミドカリウム、及びヨウ化カリウムを乾燥DMFに溶解し、反応させる。反応温度は特に限定されないが70から100℃程度で行うことができ、反応は数時間から48時間程度行うことができる。反応終了後、飽和食塩水を加え、酢酸エチルで抽出を行い、無水硫酸ナトリウムで乾燥した溶液を減圧留去することにより、無色透明オイル状化合物が得られる。
【0033】
次に、上記で得られた化合物、及びヨウ化カリウムを乾燥THFに溶解させ、反応温度を0℃に設定する。その後、水素化ナトリウムを加え、攪拌した後に、ブロモ酢酸tert-ブチルエステルを滴下後、反応系を室温に戻して、攪拌する。反応終了後、飽和クエン酸水溶液を加え、酢酸エチルで抽出を行い、有機相を分取し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧去し、黄色オイル状物が得られる。
【0034】
次に、上記で得られた化合物をメチルアミン−メタノール溶液に溶解させ、室温で攪拌して反応させる。反応終了後、溶媒を減圧去し、黄色オイル状物が得られる。
【0035】
次に、上記で得られた化合物、3-(4-formylphenyl propanoic acid)、WSC・HCl、 DIPEAを乾燥DMFに溶解し、室温で攪拌して反応させる。反応終了後、クエン酸水溶液を加え、酢酸エチルで抽出を行い、有機相を分取し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧去し、黄色オイル状物が得られる。
【0036】
最後に、上記で得られた化合物を塩化メチレンに溶解させ、トリフルオロ酢酸を加え、室温で攪拌して反応させる。反応終了後、溶媒を減圧去し、目的化合物である、本発明の式(1)の化合物のうちLがアルキレン(−CH2−CH2−)である化合物が得られる。
【0037】
なお、本明細書の実施例には、上記式(1) に包含される化合物の製造方法が具体的に説明されている。従って、この製造方法において用いられた出発原料、反応試薬、及び反応条件などを適宜選択し、必要に応じてこれらの製造方法に適宜の修飾ないし改変を加えることにより、本発明の範囲に包含される化合物はいずれも製造可能である。もっとも、本発明の化合物の製造方法は、実施例に具体的に説明されたものに限定されることはない。
【0038】
式(1)で表される化合物は、タンパク質や抗体などの生体物質を固定化することができることから、生体物質固定化剤として有用である。即ち、本発明によれば、式(1)で表される化合物からなる生体物質固定化剤が提供される。
【0039】
式(1)で表される化合物へのタンパク質の結合は具体的には以下の通り行うことができる。
タンパク質表面に存在するアミノ基を利用して図中の架橋試薬1を反応させ、タンパク質上にカルボキシヒドラジンを生成する。一方、式(1)で表される分散剤で被覆した粒子の表面には、アルデヒド基が提示される。この両者は、中性条件下で混合するだけで、ヒドラゾン結合を介して安定に結合する。
【0040】
【化5】

【0041】
また、本発明の式(1)で表される化合物は、上記したように生体物質を粒子に固定化することを目的として、粒子に被覆して用いることができる。また、本発明の式(1)で表される化合物を上記のように粒子に被覆して用いる場合、本発明の式(1)で表される化合物は、分子内にポリエチレングリコール成分を含むことから粒子を水に分散させる効果を発揮する。従って、本発明の式(1)で表される化合物は、粒子被覆剤、及び粒子分散剤としても有用である。即ち、本発明によれば、式(1)で表される化合物からなる粒子被覆剤、及び粒子分散剤が提供される。
【0042】
本発明の式(1)で表される化合物による被覆の対象となる粒子の種類は特に限定されず、有機粒子又は無機粒子の何れでもよいが、好ましくは無機粒子であり、さらに好ましくは金属粒子である。また粒子サイズも特には限定されず、ナノ粒子、マイクロ粒子、又はミリ粒子の何れでもよいが、好ましくはナノ粒子である。
【0043】
金属粒子の一例としては、磁性粒子、特に好ましくは磁性ナノ粒子を用いることができる。磁性ナノ粒子としては、本発明の式(1)で表される化合物で被覆することにより、水性媒体に分散又は懸濁することができ、分散液又は懸濁液から磁場の適用により分離することができる粒子であれば任意の粒子を使用することができる。本発明で用いる磁性ナノ粒子としては、例えば、鉄、コバルト又はニッケルの塩、酸化物、ホウ化物又は硫化物;高い磁化率を有する稀土類元素(例えば、ヘマタイト又はフェライト)などが挙げられる。磁性ナノ粒子の具体例としては、例えば、マグネタイト(Fe34)、FePd、FePt、CoPtなどの強磁性規則合金を使用することもできる。本発明では好ましい磁性ナノ粒子は、金属酸化物、特に、酸化鉄およびフェライト(Fe,M)34からなる群から選択されるものである。ここで酸化鉄には、とりわけマグネタイト、マグヘマイト、またはそれらの混合物が含まれる。前記式中、Mは、該鉄イオンと共に用いて磁性金属酸化物を形成することのできる金属イオンであり、典型的には遷移金属の中から選択され、最も好ましくはZn2+、Co2+、Mn2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+などであり、M/Feのモル比は選択されるフェライトの化学量論的な組成に従って決定される。金属塩は固形でまたは溶液状で供給されるが、塩化物塩、臭化物塩、または硫酸塩であることが好ましい。このうち、安全性の観点から酸化鉄、フェライトが好ましい。特に好ましくは、マグネタイト(Fe34)である。
【0044】
本発明の式(1)で表される化合物で被覆された水分散性粒子も本発明の範囲内に含まれる。式(1)で表される化合物で粒子を被覆する方法は特に限定されず、当業者に公知の方法で行うことができる。例えば、粒子の形成中または形成後に、式(1)で表される化合物を、当該粒子を含む液体に添加して混合することにより、当該粒子を式(1)で表される化合物で被覆することができる。また、粒子は遠心分離やろ過などの常法により洗浄、精製後、式(1)で表される化合物を含有する溶媒(好ましくはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2−エトキシエタノールなどの親水性有機溶媒)に分散させて、粒子を式(1)で表される化合物で被覆してもよい。
【0045】
上記のようにして得られる本発明の式(1)で表される化合物で被覆された水分散性粒子が、磁性ナノ粒子である場合には、当該磁性ナノ粒子は、例えば、腫瘍などの温熱療法剤として使用することができる。磁性ナノ粒子を用いて腫瘍の温熱療法を行う場合、磁性ナノ粒子を患者に投与し、電磁波を照射することによって温熱療法を行うことができる。磁性ナノ粒子の投与方法は、特に限定されず、経口投与でも非経口投与でもよいが、好ましくは非経口投与であり、例えば、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉投与、皮下投与など任意の投与経路を選択することができる。磁性ナノ粒子の投与量は、患者の体重、疾患の状態などに応じて適宜設定することができるが、一般的には、1回の投与につき、10μg〜100mg/kg程度を投与することができ、好ましくは、20μg〜50mg/kg程度を投与することができる。磁性ナノ粒子を投与してから一定時間後に、電磁波を照射することにより温熱療法を行うことができる。即ち、本発明の磁性体ナノ粒子を体内に注入し、腫瘍箇所に凝集させた後、電磁波をかけることにより局所的に加熱することが可能である。電磁波としては、高周波磁場を用いることが特に好ましく、特に電磁波としては、周波数が、1KHz〜1MHzの高周波磁場であることが好ましい。1KHzより高い周波数の高周波磁場が好ましい理由は、磁気ヒステリシス加熱の効率が高いからであり、1MHzより低い周波数の高周波磁場が好ましい理由は、誘導電流による生体の発熱を生起させることなく磁性微粒子を加熱することができるからである。前記高周波磁場の周波数は、なかでも5KHz〜200KHzの範囲が好適である。
【0046】
磁性ナノ粒子は、磁性を有するため、磁力により所定の部位に誘導することができる。即ち、本発明の式(1)で表される化合物で被覆された磁性ナノ粒子は体内に投与し、磁力により疾患部位に誘導することができる、また上記のようにして疾患部位に誘導された磁性ナノ粒子は、MRI造影により確認することができる。即ち、本発明の式(1)で表される化合物で被覆された磁性ナノ粒子は、MRI用造影剤として有用である。
【0047】
本発明の式(1)で表される化合物で被覆された磁性ナノ粒子には、所望により薬物(薬学的活性成分)をさらに含ませてもよい。このような磁性ナノ粒子は、上記の方法に従って疾患部位に誘導した後、高周波をあてて加熱し、ナノ粒子に内包した薬学的活性成分を放出させることができる。即ち、本発明の磁性ナノ粒子は、薬物送達剤として有用である。
【0048】
さらに本発明の式(1)で表される化合物で被覆された磁性ナノ粒子は、分析診断用プローブとして使用することもできる。具体的には、粒子表面に様々な生体物質(DNA, タンパク質、抗体など)を固定化可能なので、以下のような解析においてハイスループットなスクリーニングが可能になると期待される。1)薬剤レセプターの単離・同定、2)レセプターの機能解析、3)生体反応制御ネットワークの解析などである。
【0049】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
実施例1:連結部がアミドの場合
【0051】
【化6】

【0052】
(反応1)
2-[2-(2-クロロエトキシ)エトキシ]エタノール5.0 g、フタルイミドカリウム6.6 g、ヨウ化カリウム0.98 gを50 mL乾燥DMFに溶解し、90℃で24時間攪拌した。反応終了後、飽和食塩水を加え、酢酸エチルで抽出を行い、無水硫酸ナトリウムで乾燥した溶液を減圧留去した。同定は1H-NMRで行い、無色透明オイル状化合物6.6 g(80 %)を得た。
1H-NMR(CDCl3, TMS, r. t.)δ/ ppm = 3.35〜3.36 (m, 8H), 3.77 (t, 2H), 3.91 (t, 2H), 7.73〜7.78(m, 2H), 7.82〜7.89(m, 2H)
【0053】
(反応2)
反応1で得られた化合物3.5 g、ヨウ化カリウム0.34 gを50 mL乾燥THFに溶解させ、反応温度を0℃に設定した。その後、水素化ナトリウム(66% dispersion oil)0.6 gを加え、20分間攪拌した後に、ブロモ酢酸tert-ブチルエステル3.6 mLをゆっくり滴下後、反応系を室温に戻して、3時間攪拌した。反応終了後、飽和クエン酸水溶液を加え、酢酸エチルで抽出を行った。有機相を分取し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧去し、黄色オイル状物を得た。得られたオイル状物をカラムクロマトグラフィー(シリカ、展開組成:酢酸エチル/ヘキサン=1/1〜)により精製し、無色透明液体1.4 g(28%)を得た。
1H-NMR(CDCl3, TMS, r. t.)δ/ ppm = 1.44 (s, 9H), 3.61〜3.72 (m, 8H), 3.76〜3.79 (t, 2H), 3.92(t, 2H), 4.08(s, 2H)7.74〜7.77(m, 2H)、7.85〜7.88(m, 2H)
【0054】
(反応3)
反応2で得られた化合物1.0 gを40 %メチルアミン−メタノール溶液20 mLに溶解させ、室温で30分間攪拌した。反応終了、溶媒を減圧去し、黄色オイル状物1.6 gを得た。ここでは、これ以上の精製は行わず、次の反応に用いた。
【0055】
(反応4)
反応3で得られた化合物200 mg、テレフタル酸アルデヒド78 mg、WSC・HCl 120 mg, DIPEA 220μLを5 mL乾燥DMFに溶解し、室温で3時間攪拌した。反応終了後、5 %クエン酸水溶液を加え、酢酸エチルで抽出を行った。有機相を分取し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧去し、黄色オイル状物を得た。
1H-NMR(CDCl3, TMS, r. t.)δ/ ppm = 1.44 (s, 9H), 3.72 (m, 12H), 3.95 (s, 2H), 7.95〜8.00(m, 2H)、8.00〜8.05(m, 2H),10.07(s, 1H)
【0056】
(反応5)
反応4で得られた化合物1.4 gを塩化メチレン30 mLに溶解させ、トリフルオロ酢酸10 mLを加え、室温で2時間攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧去し、黄色オイル状物1.0 gを得た。1H-NMR(CDCl3, TMS, r. t.)δ/ ppm = 3.60〜3.80 (m, 12H), 4.15 (s, 2H), 7.95(d, 2H)、8.05(d, 2H)、10.07(s, 1H)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物又はその塩。
OHC−L−X−(CH(R)CH2O)n−COOH (1)
(式中、Lは炭素数1から10の脂肪族の2価の炭化水素基、又は芳香族の2価の炭化水素基を示し、Xは、−CONH−又は−COO−を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは2から20の整数を示す)
【請求項2】
Lが炭素数1から6のアルキレン基、又はフェニレン基である、請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
nが2から5の整数である、請求項1又は2に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
下記の何れかの化合物又はその塩。
【化1】

【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の化合物からなる、生体物質固定化剤。
【請求項6】
請求項1から4の何れかに記載の化合物からなる、粒子被覆剤。
【請求項7】
請求項1から4の何れかに記載の化合物からなる、粒子分散剤。
【請求項8】
請求項1から4の何れかに記載の化合物で被覆された水分散性粒子。

【公開番号】特開2008−37799(P2008−37799A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−214520(P2006−214520)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】