説明

生体物質構造体及び生体物質構造体の製造方法、並びに、生体物質担持体、対象物質の精製方法、アフィニティークロマトグラフィー用容器、分離用チップ、対象物質の解析方法、対象物質の解析用分離装置、及び、センサーチップ

【課題】生体物質の反応性を保ったまま、従来よりも多量の生体物質を含有できるようにした生体物質構造体を提供する。
【解決手段】生体物質、及び、該生体物質と結合可能な化合物が結合してなる粒径10μm以下の粒子状塊を結合させた、生体物質構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体物質構造体及びその生体物質構造体の製造方法、並びに、それを利用した生体物質担持体、対象物質の精製方法、アフィニティークロマトグラフィー用容器、分離用チップ、対象物質の解析方法、対象物質の解析用分離装置、及び、センサーチップに関する。
【背景技術】
【0002】
生体物質構造体は、例えば、医療・診断、遺伝子解析、プロテオミクスに用いることができ、特に、アフィニティー精製及び医薬作用解析ツールなどとして用いて好適である。このようなアフィニティー精製及び医薬作用解析ツールへ用いられる構造物はこれまでにいくつか報告がなされている。
【0003】
従来から用いられているアフィニティークロマトグラフィー用担体は、例えば、無機系材料では、多孔質シリカゲル粒子等が挙げられ、天然高分子系では、アガロース、デキストラン、セルロース等の多糖類からなる粒子などが挙げられ、合成高分子では、ポリスチレン、ポリアクリルアミド等からなる粒子などが用いられている。
【0004】
しかしながら、これらの従来のアフィニティークロマトグラフィー担体を用いてアフィニティー精製等を行なった場合には、アフィニティークロマトグラフィー用担体への非特異吸着が抑制できず、さらに精製純度を上げる場合には回収効率が低くなっていた。
【0005】
近年、これらを解決する方法として、特許文献1に記載のように、ラテックス微粒子を用いたアフィニティー精製方法が提案されている。この方法は、ラテックス粒子のブラウン運動を利用するため、目的精製物のラテックス微粒子表面への特異的吸着が効率よく行なわれ、さらに、遠心分離により目的物が吸着したラテックスを回収するため、サンプル量が少なくてすむという利点を有する。
一方、遠心操作を行わず、磁力で分離を行なう技術も提案されていて、これを実現するために、磁性体を内包したラテックスの開発も行われている(特許文献2、非特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開平10−195099号公報
【特許文献2】特開2003−327784号公報
【非特許文献1】阿部正紀, 半田宏, BIO INDUSTRY, Vol.21, No.8, p.7.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、遠心分離操作等が煩雑となり、自動化および無人化するのが困難であり、近年のハイスループットを要求される創薬分野においては、非合理的となりうる。
また、特許文献2及び非特許文献1に記載の技術においては、磁性体を完全にカプセル化し、タンパク質の非特異吸着を抑制する必要があり、また、酸化鉄などを磁性体として利用する場合、鉄イオンなどの溶出を抑える必要がある。加えて、比表面積の大きな磁性体内包ラテックス粒子であるために、分散安定性を保つのが困難となる。また、ラテックス粒子及び磁性体ラテックス粒子とも作製が難しく、工業化に向けた大量生産、品質保持に対して課題が残る。
【0008】
そのため、医療や診断、遺伝子解析、プロテオミクスの分野、特に、アフィニティー精製若しくは医薬作用解析ツールの開発において、非特異吸着が少なく、高効率、短時間で処理ができるアフィニティークロマトグラフィー用担体として使用できる部材の開発が要望されていた。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、生体物質の反応性を保ったまま、従来よりも多量の生体物質を含有できるようにした生体物質構造体及びその生体物質構造体の製造方法、並びにそれを有する生体物質担持体を提供し、これにより、非特異的吸着を抑制して、高効率で分離が容易な対象物質の精製方法及び対象物質の解析方法、並びに、それに用いるアフィニティークロマトグラフィー用容器、分離用チップ、対象物質の解析用分離装置、及び、センサーチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、生体物質と、該生体物質に結合可能な化合物とが結合してなる粒子状塊が集合することによって形成してなる生体物質構造体であって、該生体物質構造体を形成する粒子状塊1つの粒径が10μm以下である生体物質構造体を用いることにより、生体物質が失活することなく、非特異吸着が抑制された生体物質構造体を得ることができること、また、この生体物質構造体を用いれば、高効率なアフィニティー分離を容易に行なうことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、生体物質、及び、該生体物質と結合可能な化合物が結合してなる粒子状塊が互いに結合してなり、該粒子状塊の粒径が10μm以下であることを特徴とする生体物質構造体に存する(請求項1)。これにより、生体物質の反応性を保ったまま、従来よりも多量の生体物質を含有した構造体を提供することができる。また、これを用いれば、溶媒や分散媒などの媒体中で、効率的にアフィニティー精製をすることもできる。
【0012】
また、該粒子状塊同士の間には、空間が形成されていることが好ましい(請求項2)。これにより、この生体物質構造体の比表面積を大きくすることができ、さらに、この空間を、生体物質を有効に作用させることができる反応場として用いることが可能となる。
【0013】
さらに、該生体物質構造体の重量に対する該生体物質の重量の比率は、0.1以上であることが好ましい(請求項3)。これにより、該生体物質構造体中の生体物質含有比をより大きくすることができるようになり、限られた空間の中で、効率よく生体物質と特異的に吸着や相互作用をする物質(対象物質等)とを分離することが可能となる。
【0014】
また、該生体物質構造体は、乾燥状態で30nm以上の径を有することが好ましい(請求項4)。該生体物質構造体の大きさを上記範囲とすることにより、より多くの対象物質などを分離することが可能となる。
【0015】
さらに、該化合物の少なくとも1種は、該生体物質と結合可能な官能基を2点以上有することが好ましい(請求項5)。これにより、容易に該生体物質構造体を形成させることができるようになる。
【0016】
また、該化合物は、無電荷であることが好ましい(請求項6)。これにより、生体物質構造体が、対象物質などの物質と非特異的相互作用を生じることを抑制することができる。ここで、非特異相互作用とは、生体物質構造体を用いて、生体物質と対象物質などとの間に所定の吸着や相互作用を生じさせようとする場合に、目的とする吸着や相互作用以外に生じる相互作用のことをいう。
【0017】
さらに、該化合物は、水に混和しうると共に、少なくとも1種の有機溶媒に混和しうることが好ましい(請求項7)。これにより、該生体物質構造体の製造時に用いることのできる溶媒の幅を広げることができ、該生体物質構造体を様々に設計することができる。また、該生体物質構造体を使用する際に何らかの溶媒や分散媒等を用いる場合には、その用いることができる溶媒や分散媒の種類を増やすことができるため、該生体物質構造体の用途を広げることができるようになる。
【0018】
また、該化合物の分子量は1000以上であることが好ましい(請求項8)。これにより、生体物質構造体の作製時に、該生体物質に対する内部架橋を防止することが可能となり、効率的に生体物質構造体を作製することができるようになる。
【0019】
さらに、該生体物質構造体は、液体中に混和した状態での該化合物の径が、1nm以上であることが好ましい(請求項9)。これによっても、生体物質構造体の作製時に、該生体物質に対する内部架橋を防止することが可能となり、効率的に生体物質構造体を作製することができるようになる。
【0020】
本発明の別の要旨は、上記の生体物質構造体の製造方法であって、上記生体物質と上記化合物とを混合する工程を有することを特徴とする、生体物質構造体の製造方法に存する(請求項10)。これにより、該生体物質構造体を確実に製造することが可能となる。
【0021】
本発明の更に別の要旨は、上記の生体物質構造体が固相担体に固定されてなることを特徴とする、生体物質担持体に存する(請求項11)。これにより、該生体物質構造体について、チップ(基板)、ビーズ、分離膜等へ、その利用形態を広げることが可能となる。
【0022】
また、上記の生体物質担持体においては、該生体物質構造体の厚みが5nm以上であることが好ましい(請求項12)。該生体物質構造体の大きさを上記範囲とすることにより、この生体物質担持担体を用いて分離を行なう際に、より多くの対象物質などを分離することが可能となる。
【0023】
本発明の更に別の要旨は、上記の生体物質構造体と、上記生体物質に特異的に吸着しうる対象物質を含む試料液とを接触させ、上記生体物質構造体と上記試料液とを分離し、上記生体物質構造体に結合した上記対象物質を遊離させることを特徴とする、対象物質の精製方法に存する(請求項13)。これにより、非特異的吸着を抑制して、高効率で分離を容易に行なえるようになり、非特異的吸着を抑制したアフィニティー精製若しくは医薬作用等の解析ツール、さらには診断用解析ツールを実現することができる。
【0024】
本発明の更に別の要旨は、上記の生体物質構造体を保持した流路に、上記生体物質に特異的に相互作用する対象物質を含む試料液を流通させ、上記流路から流出する溶出液のうち、上記対象物質を含む分画を回収することを特徴とする、対象物質の精製方法に存する(請求項14)。これによっても、非特異的吸着を抑制して、高効率で分離を容易に行なえるようになり、非特異的吸着を抑制したアフィニティー精製若しくは医薬作用等の解析ツール、さらには診断用解析ツールを実現することができる。
【0025】
本発明の更に別の要旨は、流体を収納しうる容器本体と、該容器本体内に保持された上記の生体物質構造体とを備えたことを特徴とする、アフィニティークロマトグラフィー用容器に存する(請求項15)。これによっても、非特異的吸着を抑制して、高効率で分離を容易に行なえるようになり、非特異的吸着を抑制したアフィニティー精製若しくは医薬作用等の解析ツール、さらには診断用解析ツールを実現することができる。
【0026】
本発明の更に別の要旨は、流路を形成された基板と、該基板に保持された上記の生体物質構造体とを備えたことを特徴とする、分離用チップに存する(請求項16)。これによっても、非特異的吸着を抑制して、高効率で分離を容易に行なえるようになり、非特異的吸着を抑制したアフィニティー精製若しくは医薬作用等の解析ツール、さらには診断用解析ツールを実現することができる。
【0027】
本発明の更に別の要旨は、上記の生体物質構造体であって、特定の構造を有する物質を特異的に吸着させうる生体物質を用いた生体物質構造体と、対象物質を含有する試料液とを接触させ、上記生体物質構造体と上記試料液とを分離し、上記生体物質に吸着した上記対象物質の量を測定して、上記対象物質の構造を解析することを特徴とする、対象物質の解析方法に存する(請求項17)。これによっても、非特異的吸着を抑制して、高効率で分離を容易に行なえるようになり、非特異的吸着を抑制したアフィニティー精製若しくは医薬作用等の解析ツール、さらには診断用解析ツールを実現することができる。
【0028】
本発明の更に別の要旨は、上記の生体物質構造体であって、特定の構造を有する物質と特異的に相互作用しうる生体物質を用いた生体物質構造体を保持した流路に、対象物質を含む試料液を流通させ、上記流路から流出する溶出液の分画中の上記対象物質の量を測定して、上記対象物質の構造を解析することを特徴とする、対象物質の解析方法に存する(請求項18)。これによっても、非特異的吸着を抑制して、高効率で分離を容易に行なえるようになり、非特異的吸着を抑制したアフィニティー精製若しくは医薬作用等の解析ツール、さらには診断用解析ツールを実現することができる。
【0029】
本発明の更に別の要旨は、流路を形成された基板、及び、該流路に保持され、特定の構造を有する物質と特異的に相互作用しうる生体物質を用いた上記の生体物質構造体を備える分離用チップと、該分析用チップの該流路に、対象物質を含む試料液を流通させる試料液供給部と、該流路から流出する溶出液の分画中の上記対象物質の量を測定する測定部とを備えることを特徴とする、対象物質の解析用分離装置に存する(請求項19)。これによっても、非特異的吸着を抑制して、高効率で分離を容易に行なえるようになり、非特異的吸着を抑制したアフィニティー精製若しくは医薬作用等の解析ツール、さらには診断用解析ツールを実現することができる。
【0030】
本発明の更に別の要旨は、流路を形成された基板、及び、上記流路に保持され、特定の構造を有する物質と特異的に相互作用しうる生体物質を用いた上記の生体物質構造体を備える分離用チップを装着するチップ装着部と、該チップ装着部に上記分析用チップを装着した場合に、上記流路に、対象物質を含む試料液を流通させる試料液供給部と、上記流路から流出する溶出液の分画中の上記対象物質の量を測定する測定部とを備えることを特徴とする、対象物質の解析用分離装置に存する(請求項20)。これによっても、非特異的吸着を抑制して、高効率で分離を容易に行なえるようになり、非特異的吸着を抑制したアフィニティー精製若しくは医薬作用等の解析ツール、さらには診断用解析ツールを実現することができる。
【0031】
本発明の更に別の要旨は、上記の生体物質構造体を備えたことを特徴とする、センサーチップに存する(請求項21)。生体物質構造体をDNAチップ、蛋白チップ等のセンサーに用いることにより、非特異吸着の抑制が可能、且つ、高反応性のセンサーチップを実現することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の生体物質構造体及び生体物質構造体の製造方法並びに生体物質担持体によれば、生体物質の反応性を保ったまま多量の生体物質を含有する構造体を得ることができる。
また、本発明の対象物質の精製方法、アフィニティークロマトグラフィー用容器、分離用チップ、対象物質の解析方法及び対象物質の解析用分離装置によれば、非特異的吸着を抑制して、高効率な分離を容易に行なうことが可能となり、精製や解析を容易且つ高精度に行なうことが可能となる。
さらに、本発明のセンサーチップによれば、非特異的吸着の抑制が可能になると共に分析を高感度に行なうことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態や例示物などに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
【0034】
[I.生体物質構造体の説明]
本発明の生体物質構造体は、図1(a)や図1(b)に示すように、生体物質、及び、この生体物質と結合可能な化合物(以下適宜、「結合用化合物」という)が結合してなる粒子状塊が互いに結合してなるものである。また、この粒子状塊は、通常、図2(a)に示すような生体物質と結合用化合物とが複数結合して図2(b)のように粒子状になったものであり、必ずしも完全な円形となっているとは限らないが、図1(a),(b)においては粒子状塊を模式的に円で示してある。
【0035】
詳しくは、生体物質に対して結合用化合物が結合官能基によって結合し、その構造の繰り返しによって、鎖状及び/又は網目状の構造を内部に持つ粒子状塊が形成される。さらにこの粒子状塊同士の結合も、通常、粒子状塊に含まれる生体物質と結合用化合物との結合によって形成される。
【0036】
よって、本発明の生体物質構造体は、通常、下記式(A)で表される部分構造を2以上有する。
1−R2 式(A)
{上記式(A)において、R1は生体物質を表わし、R2は結合用化合物を表わす。ただし、生体物質構造体が何らかの固相担体に結合している場合、R2は固相担体に直接結合していない結合用化合物を表わす。また、各R1,R2はそれぞれ同じであっても異なっていても良い。}
【0037】
即ち、本発明の生体物質構造体は、上記式(A)のように生体物質と結合用化合物とが結合した部分構造が、直鎖状及び/又は網目状に結合した構造体である。具体的には、上記式(A)のR1はそれぞれ独立に他の1又は2以上のR2に結合し、R2はそれぞれ独立に他の1又は2以上のR1に結合している。ただし、本発明の生体物質構造体は、例えば生体物質R1同士や結合用化合物R2同士が結合した部分構造を含んでいてもかまわない。ここで、R1同士やR2同士の結合とは、分子間引力、疎液相互作用、電気的相互作用等の物理的相互作用による結合を示す。
【0038】
したがって、本発明の生体物質構造体は、結合用化合物同士の間には生体物質が存在し、また、生体物質同士の間には結合用化合物が存在する橋架け構造を少なくとも一部に有しており、生体物質及び結合用化合物の両方によって、生体物質構造体が構成されている。
【0039】
本発明の生体物質構造体において生体物質と結合用化合物が互いに橋架け構造を有しているかどうかは、例えば、結合用化合物を分解しないようにしながら生体物質を分解した場合に、本発明の生体物質構造体では生体物質構造体が大きく崩壊することにより確認することができる。さらに、崩壊したものを調べることにより、生体物質構成要素以外の生体物質構造体を構成する化合物を特定することができる。例えば従来の樹脂ビーズなどに直接生体物質を結合させ、樹脂ビーズが構造体を形成するものを用いた場合は、分解後にその樹脂ビーズが残ることとなる。生体物質の分解方法及び解析方法は後述する方法([3−2.生体物質の含有比率の測定法]等参照)を用いることができるが、上記の目的で用いる場合には、例示物の中で生体物質だけでなく結合用化合物も分解する虞があるものは、上記の橋架け構造の確認が正確に行えなくなる虞があるため、使用は避けるべきである。
【0040】
[1.生体物質構造体の製造方法]
本発明の生体物質構造体は、生体物質と結合用化合物とを混合する工程(以下適宜、「混合工程」という)を経て製造される。この混合工程においては、生体物質及び結合用化合物は、溶媒又は分散媒などの媒質中において混合され、同一系内に共存するようになることによって生体物質と結合用化合物とが結合し、粒子状塊が形成される。そして、この粒子状塊が複数集合し、結合することによって、本発明の生体物質構造体が形成されるのである。
また、生体物質構造体を効率的に得るため、混合工程の後、媒質を除去する濃縮工程や乾燥工程などを行なうようにしても良い。
さらに、生体物質構造体の製造工程のいずれかの工程において、適宜、添加剤を系内に共存させるようにしてもよい。
【0041】
[1−1.混合工程]
混合工程では、生体物質と結合用化合物との混合を行なう。これにより粒子状塊が得られる。そして、この粒子状塊が集合し、結合することにより、本発明の生体物質構造体が形成される。なお、通常は、生体物質と結合用化合物とが結合して粒子状塊が形成される過程と、粒子状塊が集合して本発明の生体物質構造体が形成される過程とは一連の過程として進行する。
【0042】
(1)生体物質
生体物質は、本発明の生体物質構造体を構成する要素であり、その目的に応じて、本発明の効果を著しく損なわない限り任意の物質を用いることができる。
中でも、本発明の生体物質構造体を対象物質の精製や解析用途に用いる場合には、通常は、生体物質は、所定の物質(以下適宜、生体物質と相互作用する物質を「作用物質」という)と相互作用しうるものを用いるようにする。
【0043】
例えば、本発明の生体物質構造体を対象物質の精製などの用途で用いる場合には、生体物質として作用物質と相互作用できるものを用いるようにし、また、当該作用物質に該当する物質(即ち、生体物質と相互作用しうる物質)を対象物質として用いる。そして、上記の相互作用を利用して、対象物質の分離精製を行なうようにする。
【0044】
また、例えば、本発明の生体物質構造体を対象物質の解析用途に用いる場合にも、生体物質としては上記の作用物質と相互作用できるものを用いる。そして、対象物質と生体物質とが相互作用するかどうかを試し、対象物質と生体物質とが相互作用を生じるようであれば、上記の対象物質は作用物質のうちの1種に該当する、即ち、対象物質が生体物質と相互作用を生じるような特定の構造を有している、と解析することができる。これを利用し、対象物質の構造や、作用物質の構造を解析することが可能である。
【0045】
ここで、生体物質と作用物質との「相互作用」とは、特に限定されるものではないが、通常は、共有結合、イオン結合、キレート結合、配位結合、疎水結合、水素結合、ファンデルワールス結合、及び静電力による結合のうち少なくとも1つから生じる物質間に働く力による作用を示す。ただし、本明細書に言う「相互作用」との用語は最も広義に解釈すべきであり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。また静電力による結合とは、静電結合の他、電気的反発も含有する。
【0046】
さらに、本発明の生体物質構造体を精製や解析用途に用いる場合には、上記の相互作用は精製や解析が可能である限り任意である。その場合の相互作用の具体例としては、抗原と抗体との間の結合及び解離、タンパク質レセプターとリガンドとの間の結合及び解離、接着分子と相手方分子との間の結合及び解離、酵素と基質との間の結合及び解離、アポ酵素と補酵素との間の結合及び解離、核酸とそれに結合する核酸又はタンパク質との間の結合及び解離、情報伝達系におけるタンパク質同士の間の結合及び解離、糖タンパク質とタンパク質との間の結合及び解離、糖鎖とタンパク質との間の結合及び解離、生理活性物質(医薬または医薬候補化合物)とタンパク質等の生体物質との結合及び解離、アビジン系タンパク質とビオチンとの結合及び解離、グルタチオン−S−トランスフェラーゼとグルタチオンとの結合及び解離、マルトース等の糖とアフィニティータグ融合タンパクとの結合及び解離、糖及び糖鎖とウィルスとの結合及び解離などが挙げられる。
なお、精製や解析の方法によっては、対象物質に対して、相互作用の中でも特に吸着が可能であるものを用いるようにする場合もある。
【0047】
生体物質の具体例を挙げれば、酵素、抗体、レクチン、レセプター、プロテインA、プロテインG、プロテインA/G、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、アルブミン、糖タンパク質等のタンパク質、ペプチド、アミノ酸、サイトカイン、ホルモン、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸(DNA,RNA,PNA)、糖、オリゴ糖、多糖、シアル酸誘導体、シアル化糖鎖等の糖鎖、脂質、上述以外の生体物質由来の高分子有機物質、低分子化合物、無機物質、若しくはこれらの融合体、または、ウイルス、若しくは細胞を構成する分子などの生体分子などが挙げられる。
【0048】
また、このほか、細胞等の生体分子以外の物質を生体物質として用いることもできる。
さらに、イムノグロブリンやその派生物であるF(ab’)2、Fab’、Fab、レセプターや酵素とその派生物、核酸、天然あるいは人工のペプチド、人工ポリマー、糖質、脂質、無機物質あるいは有機配位子、ウイルス、細胞等も、生体物質の例として挙げられる。
【0049】
また、上記の生体物質の例の中でも、タンパク質としては、タンパク質の全長であっても、結合活性部位を含む部分ペプチドであってもよい。また、アミノ酸配列、及びその機能が既知のタンパク質でも、未知のタンパク質でもよい。これらは、合成されたペプチド鎖、生体より精製されたタンパク質、あるいはcDNAライブラリー等から適当な翻訳系を用いて翻訳し、精製したタンパク質等でも標的物質として用いることができる。また、合成されたペプチド鎖は、これに糖鎖が結合した糖タンパク質であってもよい。これらのうち好ましくは、精製されたタンパク質である。
【0050】
さらに、上記の生体物質の例の中でも、核酸としては、特に制限はなく、DNA、RNAの他、アプタマー等の核酸塩基、PNA等のペプチド核酸を用いることもできる。また、塩基配列あるいは機能が、既知の核酸でも、未知の核酸でもよい。中でも好ましくは、タンパク質に結合能力を有する、核酸としての機能及び塩基配列が既知のものか、あるいは、ゲノムライブラリー等から制限酵素等を用いて切断単離してきたものを用いることができる。
【0051】
また、上記の生体物質の例の中でも、糖鎖としては、その糖配列あるいは機能が、既知の糖鎖でも未知の糖鎖でもよい。好ましくは、既に分離解析され、糖配列あるいは機能が既知の糖鎖が用いられる。
さらに、上記の生体物質の例の中でも、低分子化合物としては、上記のように相互作用する能力を有する限り、特に制限はない。機能が未知のものでも、あるいはタンパク質に結合する能力が既に知られているものでも用いることができる。
【0052】
なお、本発明の生体物質構造体をアフィニティー精製や解析などのアフィニティー分離技術を利用した分離精製に用いた場合、上記の生体物質が、分離精製対象である対象物質の標的物質となる。
また、生体物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0053】
(2)結合用化合物
結合用化合物は、上記生体物質と結合しうる化合物であれば、任意の化合物を用いることができる。したがって、結合用化合物としては、上記生体物質と結合可能な官能基(以下適宜、「結合官能基」)を有する化合物を任意に用いることができる。
ここで、結合とは、通常、共有結合、イオン結合、キレート結合、配位結合、疎水結合、水素結合、ファンデルワールス結合、静電力による結合のうち一つ以上の結合から成り立つものを指す。ここで、好ましくは共有結合である。
【0054】
結合官能基としては、上記の生体物質に結合可能な官能基であれば他に制限はなく、任意の官能基を用いることができる。通常は、生体物質の種類や本発明の生体物質構造体の用途などに応じて適当なものを選択することが好ましい。
なお、結合官能基は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いても良い。
【0055】
結合官能基は、通常、反応性基として共有結合を介して生体物質と結合するものと、非共有結合を介して生体物質と結合するものとに大別される。
共有結合により結合する場合、結合官能基の具体例としては、スクシンイミド基、エポキシ基、アルデヒド基、マレイミド基、p−ニトロフェニル基等が挙げられる。
【0056】
この場合、結合官能基と共有結合によって結合する生体物質としては、例えば、タンパク質、核酸、糖等が挙げられる。
生体物質がタンパク質である場合、通常は、タンパク質の表層に存在するアミノ基、ヒドロキシル基、チオール基等の基と、結合用化合物の結合官能基とが結合する。この際、例えばアミノ基が結合官能基と結合する場合には、結合官能基の具体例としてはスクシンイミド基、エポキシ基、アルデヒド基等が挙げられる。また、例えばヒドロキシル基が結合官能基と結合する場合には、結合官能基の具体例の具体例としてはエポキシ基等が挙げられる。さらに、例えばチオール基が結合官能基と結合する場合、結合官能基の具体例としてはマレイミド基等が挙げられる。
【0057】
また、生体物質が核酸である場合、通常は、核酸の末端に導入されるアミノ基、ヒドロキシル基、チオール基等の基と、結合用化合物の結合官能基とが結合する。この際、例えばアミノ基が結合官能基と結合する場合には、結合官能基の具体例としてはスクシンイミド基、エポキシ基、アルデヒド基等が挙げられる。また、例えばヒドロキシル基が結合官能基と結合する場合には、結合官能基の具体例としてはエポキシ基等が挙げられる。さらに、例えばチオール基が結合官能基と結合する場合には、結合官能基の具体例としてはマレイミド基等が挙げられる。
【0058】
さらに、生体物質が糖である場合、通常は、糖の側鎖に存在するアミノ基、ヒドロキシル基、チオール基等の基と、結合用化合物の結合官能基とが結合する。この際、例えばアミノ基が結合官能基と結合する場合には、結合官能基の具体例としてはスクシンイミド基、エポキシ基、アルデヒド基等が挙げられる。また、例えばヒドロキシル基が結合官能基と結合する場合には、結合官能基の具体例としてはエポキシ基等が挙げられる。さらに、例えばチオール基が結合官能基と結合する場合には、結合官能基の具体例としてはマレイミド基等が挙げられる。
【0059】
一方、生体物質と結合用化合物とが非共有結合により結合する場合、例えば、錯体形成、生体物質間相互作用などにより結合をさせることができる。
生体物質と結合用化合物とで錯体を形成させて結合させる場合、結合官能基の具体例としては、ボロン酸基等が挙げられる。
また、例えば生体物質間相互作用の中でもアビジン−ビオチン相互作用により結合させる場合には、結合官能基の具体例としては、ビオチン基等が挙げられる。
【化1】

【0060】
さらに、例えば生体物質としてウイルスを用いる場合、結合官能基の具体例としては糖や多糖が挙げられる。
また、例えば生体物質が疎液領域を有している場合には、疎液相互作用による物理吸着により結合させるようにしても良い。
【0061】
また、結合用化合物が結合官能基を有する場合、結合用化合物は、1分子中に通常2点以上、好ましくは3点以上の結合官能基を有しているものを少なくとも1種以上含むことが好ましい。これは、本発明の構造を形成しやすくするためである。具体例を挙げると、1分子中に2点以上の結合官能基を有していれば、容易に生体物質と結合用化合物が結合した粒子状塊を形成させ、さらにそれら粒子状塊同士を結合させることにより、その高次構造である生体物質構造体を形成できるようになる。
【0062】
ただし、本発明の生体物質構造体が、上記の粒子状塊を形成させやすくなるためには、結合用化合物同士の結合が無く、生体物質と結合用化合物との結合が主であることが好ましい。結合用化合物同士の結合がある場合、結合用化合物同士の凝集が形成されやすく、粒子状塊の粒径が大きくなる傾向があり、粒子状塊の粒径を制御し難くなるためである。
また、結合用化合物同士の結合があるときに、高分子を結合用化合物に用いた場合、結合用化合物の内部架橋が起こってしまい、さらに生体物質を固定化しにくくなる。ここで、結合用化合物同士の結合とは、分子間引力、疎液相互作用、電気的相互作用を除く結合を示す。
【0063】
このように結合用化合物同士の結合が無い生体物質構造体を形成させるためには、結合用化合物同士が結合しないような結合官能基を選択し、さらに、結合用化合物同士が結合する状況を排除することが望ましい。そのような官能基は具体的には前述したように、スクシンイミド基、エポキシ基、アルデヒド基、マレイミド基、ボロン酸基、ビオチン基などが挙げられる。結合用官能基同士が結合する状況とは、過度の熱を加えることや、強力な紫外線を照射することを示す。
【0064】
また、生体物質構造体に含まれる結合用化合物同士の結合を調べる方法としては、生体物質構造体中の生体物質を後述の方法で分解した時に、不溶物が形成されることで判断される。若しくは、生体物質構造体を熱分解性ガスクロマトグラフィーで分析することにより、結合用化合物同士の結合を示唆する化合物を検出することで判断される。具体的には、例えば、紫外線照射により生体物質と光反応性基とを有する結合用化合物を結合させる工程において、結合用化合物内の光反応性基(例えば、アジド基)により結合用化合物同士が結合した場合、光反応性基が関与した結合、若しくは残存光反応性基の存在により、結合用化合物同士の結合を推測することができる(「アフィニティークロマトグラフィー」東京化学同人刊、著者:松本勲武、別府正敏、P238〜等参照)。
【0065】
さらに、生体物質の特徴を生かすために、生体物質の活性を維持するためには、生体物質が失活しないよう生体物質の官能基及び結合用化合物の官能基を選択することが好ましい。例えば、タンパク質を生体物質として用い、タンパク質の活性部分にチオール基を有している場合には、チオール基以外の基(例えば、アミノ基)を生体物質の結合官能基として選択し、このアミノ基と結合するために、結合用化合物の結合官能基は、スクシンイミド基、エポキシ基が選択される。
【0066】
さらに、結合用化合物としては、通常は、水と混和しうるものを用いることが望ましい。生体物質構造体の製造時には、通常は、溶媒や分散媒等の媒質として水を用いるためである。詳しくは、生体物質構造体の製造時には、通常、水の存在下で結合用化合物を生体物質と混合し、結合用化合物と生体物質とを結合させて粒子状塊を作製することになるが、そのような場合に生体物質と結合用化合物とを均一に混合し、結合反応をスムーズに行なわせるためである。なお、本明細書においては、混和の形態としては、溶解していても良いし分散していても良い。
【0067】
また、結合用化合物は、少なくとも1種の有機溶媒に混和しうることが好ましい。これにより、結合用化合物の合成時に用いる溶媒の選択の幅を広げることができ、生体物質構造体の構造を様々に設計することができるようになるためである。例えば、結合用化合物が有機溶媒に混和できれば、結合用化合物の合成時に結合官能基を保護することを目的として、合成を有機溶媒中で行なうことができるようになる。
【0068】
さらに、結合用化合物は、水と有機溶媒との両方に混和できるものを用いることがより好ましい。結合用化合物が水と有機溶媒との両方に混和できれば、本発明の生体物質構造体を使用する際に何らかの溶媒を用いる場合に、その用いることができる溶媒の種類を増やすことができるため、用途を広げることができる。
【0069】
また、結合用化合物は無電荷であることが望ましい。結合用化合物が生体物質と同じ電荷(同符号の電荷)を有していると、静電的反発力により、結合用化合物と生体物質との結合が妨げられる虞がある。一方、結合用化合物が生体物質と反対の電荷(逆符号の電荷)を有していると、生体物質と結合用化合物内の電荷を有する部分とが静電的引力により結合してしまい、結合用化合物が有している結合官能基に生体物質が効果的に結合することを妨げる虞がある。また、結合用化合物と生体物質との静電的引力による結合は、本発明の生体物質構造体を分離精製に用いる場合、使用時に用いる溶液のpHや塩などの添加物により、容易に結合が壊れてしまうことが予想され、好ましくない。
【0070】
さらに、本発明の生体物質構造体を用いて対象物質の分離を行なおうとした時に、対象物質が結合用化合物と同じ電荷を有している場合には、生体物質構造体に含まれる生体物質との特異的な相互作用が妨げられる虞があり、また、対象物質と結合用化合物とが反対の電荷を有していた場合には、対象物質と結合用化合物とが電気的引力により非特異吸着を生じることが推測されるためである。
【0071】
なお、結合用化合物が無電荷であるとは、当該結合用化合物が、少なくとも構造式上、非イオン性もしくは両性イオン性(正及び負の両方の電荷を有しており、お互いの電荷が実質打ち消しあっているもの)であれば、当該結合用化合物は無電荷である。ただし、本発明の生体物質構造体の製造過程において、結合官能基の加水分解等により、結合用化合物が電荷をもったとしても、本発明の効果を損なわない限り、このような結合用化合物は好適にもちいることができる。
【0072】
結合用化合物の他の例としては、例えば、有機化合物、無機化合物、有機無機ハイブリッド材料などが挙げられる。
また、結合用化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0073】
さらに、結合用化合物として用いられる有機化合物は、低分子化合物でも、高分子化合物でもよい。
結合用化合物として使用できる低分子化合物の具体例としては、グルタルアルデヒド、ジエポキシブタン、ジエポキシヘキサン、ジエポキシオクタン、ビスマレイミドヘキサン、ビススルホスクシミジルスベレイト、ジスクシミジルグルタレイド、エチレングリコールビススクシミジルスクシネイト、スルホエチレングリコールビススクシミジルスクシネイト、スクシミジル4−N−マレイミドメチルシクロヘキサン1−カルボキシレイト、スクシミジル4−N−マレイミドメチルシクロヘキサン1−カルボキシレイト、スルホスルホスクシミジル4−p−マレイミドフェニルブチレイト、スクシミジル4−p−マレイミドフェニルブチレイト、スルホ−m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスルホスクシミドエステルなどが挙げられる。
【0074】
一方、結合用化合物として高分子化合物を用いる場合、高分子化合物は合成高分子化合物であっても良く、天然高分子化合物であっても良い。
結合用化合物として合成高分子化合物を用いる場合、上記の条件を満たす合成高分子化合物であれば任意のものを用いることができる。ただし、通常は、生体物質と結合することのできるモノマーを有していることが望ましい。また、通常は、合成高分子化合物が水に混和できるようにするために、親水性モノマーを有していることが好ましい。さらに、好ましくは、上記の生体物質と結合することができるモノマーと親水性モノマーとを共重合させた合成高分子化合物を用いることが望ましい。
【0075】
即ち、結合用化合物として使用する合成高分子化合物の合成には、少なくともモノマー種として、生体物質と結合して粒子状塊を形成することができるモノマーと、粒子状塊同士で結合し、鎖状及び/又は網目状に結合した構造(即ち、生体物質構造体の構造)を構築するための結合官能基を有するモノマーとを有することが好ましく、さらに、親水性又は両親媒性の官能基を有するモノマーを用いることがより好ましい。これに加えて、合成高分子化合物が溶液中で形成するミセル等の構造体及び広がりを制御する目的で、疎水性モノマーを含有させるようにすることも、好ましい。なお、ここで挙げたモノマーは、それぞれ異なるモノマーであってもよいが、一つのモノマーが上記の機能のうちの2以上を兼ね備えていてもよい。
【0076】
結合用化合物として使用しうる合成高分子化合物を構成するモノマーの具体例を挙げると、ラジカル重合において用いられるモノマーとしては、スチレン、クロルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン等の重合性不飽和芳香族類;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フタル酸等の重合性不飽和カルボン酸;スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム等の重合性不飽和スルホン酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、N−(メタ)アクリロイロキシスクシンイミド、エチレングリコール−ジ−(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸トリブロモフェニル、2−(メタ)アクリル酸グリコシロキシエチル、2−メタクリロイロキシエチルホスホリルコリン、等の重合性カルボン酸エステル;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクロレイン、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、3−アクリルアミドフェニルボロン酸、N−アクリロイル−N’−ビオチニル−3,6−ジオキサオクタン−1,9−ジアミン、ブタジエン、イソプレン、酢酸ビニル、ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、N−(メタ)アクリロイルモルファリン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル等の不飽和カルボン酸アミド類;重合性不飽和ニトリル類;ハロゲン化ビニル類;共役ジエン類;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のマクロモノマー類、などが挙げられる。
【0077】
また、結合用化合物として使用しうる合成高分子化合物のモノマーとしては、例えば、付加重合で用いられるようなモノマーも使用できる。この付加重合に用いられるモノマーの具体例としては、ジフェニルメタンジイソシアナート、ナフタレンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、テトラメチルキシレンジイソシアナート、キシレンジイソシアナート、ジシクロヘキサンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート等の脂肪族又は芳香族イソシアナート類、ケテン類、エポキシ基含有化合物類、ビニル基含有化合物類などが挙げられる。
【0078】
また、上記化合物群には、活性化水素を有する官能基を備えたモノマーを反応させることも可能である。その具体例としては水酸基又はアミノ基を有する化合物などが挙げられ、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、メチレングリコシド、ショ糖、ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼンのようなポリオール類;エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジイソプロピルメチレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン等のポリアミン類;オキシム類などが挙げられる。
【0079】
さらに、結合用化合物として使用しうる合成高分子化合物には、上述したモノマーの他、架橋剤となりうる多官能性化合物を共存させても良い。多官能性化合物としては、例えば、N−メチロールアクリルアミド、N−エタノールアクリルアミド、N−プロパノールアクリルアミド、N−メチロールマレイミド、N−エチロールマレイミド、N−メチロールマレインアミド酸、N−メチロールマレインアミド酸エステル、ビニル芳香族酸のN−アルキロールアミド(例えばN−メチロール−p−ビニルベンズアミド等)、N−(イソブトキシメチル)アクリルアミド等が挙げられる。
【0080】
さらに、上述したモノマーのうち、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルシクロヘキサン、1,3−ジプロペニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコール、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多官能性モノマー類は、架橋剤としても使用することができる。
架橋剤となりうる多官能性化合物をモノマーとして使用することにより、結合用化合物の媒質中での広がりや硬さを制御することができる。
【0081】
また、前述の生体物質と結合しうる結合官能基を有するモノマーとしては、スクシンイミド基、エポキシ基、アルデヒド基、マレイミド基、p−ニトロフェニル基等を有するモノマーの例として、N−(メタ)アクリロイロキシスクシンイミド、(メタ)アクリル酸グリシジル、アクロレイン、マレイミドアクリレート、p−ニトロフェニルオキシカルボニルポリエチレングリコールメタクリレート、p−ニトロフェニルメタクリレート等が挙げられる。
【0082】
また、結合官能基としてボロン酸基を有するモノマーの例としては、3−アクリルアミドフェニルボロン酸等が挙げられる。
さらに、結合官能基としてビオチン基を有するモノマーの例としては、N−アクリロイル−N’−ビオチニル−3,6−ジオキサオクタン−1,9−ジアミン等が挙げられる。
また、結合官能基として糖や多糖を有するモノマーの例としては、2−(メタ)アクリル酸グリコシロキシエチル等が挙げられる。
【0083】
さらに、親水性モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、マレイン酸、スルホン酸、スルホン酸ソーダ、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、(メタ)アクリロニトリル、N−(メタ)アクリロイルモルファリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−アセトアミド、ポリエチレングリコールモノ−(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸グリシジル、2−メタクリロオキシエチルホスホリルコリン等が挙げられる。
【0084】
また、結合用化合物は、前述のとおり無電荷のものが好ましい。したがって、結合用化合物として用いる合成高分子化合物を無電荷にする場合、この無電荷の合成高分子化合物に使用するモノマーは無電荷であれば特に限定されないが、具体例を挙げると、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、(メタ)アクリロニトリル、N−(メタ)アクリロイルモルファリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−アセトアミド、ポリエチレングリコールモノ−(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸グリシジル、2−メタクリロオキシエチルホスホリルコリン等が挙げられる。
【0085】
ところで、モノマーをラジカル重合させて合成高分子化合物を合成する場合、通常はラジカル重合開始剤を混合することにより重合を開始させるが、その際に用いるラジカル重合開始剤は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。使用できるラジカル系重合開始剤の例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2−メチルプロパンニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルペンタンニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−メチルブタンニトリル)、1,1’−アゾビス−(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−アミジノプロパン)ヒドロクロリド等のアゾ(アゾビスニトリル)タイプの開始剤、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロペルオキシド、過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過硫酸塩(例えば過硫酸アンモニウム)、過酸エステル(例えばt−ブチルペルオクテート、α−クミルペルオキシピバレート及びt−ブチルペルオクテート)等の過酸化物タイプの開始剤などが挙げられる。
【0086】
さらにレドックス系開始剤を混合することにより重合を開始させてもよい。レドックス系開始剤も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができ、その例としては、アスコルビン酸/硫酸鉄(II)/ペルオキシ二硫酸ナトリウム、第三ブチルヒドロペルオキシド/二亜硫酸ナトリウム、第三ブチルヒドロペルオキシド/Naヒドロキシメタンスルフィン酸が挙げられる。なお、個々の成分、例えば還元成分は、混合物、例えばヒドロキシメタンスルフィン酸のナトリウム塩と二亜硫酸ナトリウムとの混合物であってもよい。
【0087】
また、結合用化合物として合成高分子化合物を用いる場合、この合成高分子化合物は、開環重合等で合成される高分子を使用してもよい。その具体例としては、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
さらに、上述した合成高分子化合物は、加水分解等により合成される高分子を使用しても良い。その具体例としては、ポリ酢酸ビニルを加水分解等することにより合成されるポリビニルアルコールなどが挙げられる。
また、上述した合成高分子化合物は、化学修飾により、前述の生体物質と結合する官能基を修飾することにより合成してもよい。
【0088】
さらに、この他、結合用化合物として、市販の合成高分子化合物を用いることができる。その具体例を挙げると、日本油脂社製のSUNBRITシリーズ DE−030AS、DE−030CS、DE−030GS、PTE−100GS、PTE−200GS、HGEO−100GS、HGEO−200GSなどが挙げられる。
【0089】
一方、結合用化合物として天然高分子化合物を用いる場合、その具体例としては、デキストラン、カルボキシメチル−デキストラン、でんぷん、セルロース等の多糖類、アルブミン、コラーゲン、ゼラチンなどのタンパク質、DNA、RNAなどの核酸等が挙げられる。これらの天然化合物は、そのまま使用しても良いし、また、化学修飾してから使用しても良い。
【0090】
なお、合成高分子化合物及び天然高分子化合物などの高分子化合物を結合用化合物として用いる場合、その高分子化合物の形態は任意である。例えば、水溶液中で溶解していても良いし、ミセルやエマルションのような会合体や高分子ラテックスのような微粒子状のものでもかまわない。
【0091】
また、結合用化合物として用いられる無機化合物としては、例えば、金コロイド等の金属粒子、シリカ等の無機微粒子などが挙げられる。さらに、これらの無機化合物を化学修飾することによって、生体物質と結合する官能基を有する結合用化合物としても良い。
【0092】
さらに、結合用化合物として用いられる有機無機ハイブリッドとしては、例えば、コロイダルシリカに高分子を被覆したもの、金属コロイドを高分子で被覆したもの(例えば、金、銀、白金等の粒子を保護コロイドで被覆したもの)、クレイ等の多孔質基体に高分子を吸着させたものなどが挙げられる。なお、これらの有機無機ハイブリッドは公知の方法で合成することが可能である(ポリマー系ナノコンポジット,工業調査会,中條 澄 著などを参照)。
さらに、これらの有機無機ハイブリッドに結合官能基を修飾することによって、結合用化合物として用いることもできる。
【0093】
また、結合用化合物の分子量や構造等は特に制限は無く任意である。したがって、結合用化合物として例えば低分子量の化合物を用いても良いが、その場合、固定化しようとする一つの生体物質内で架橋してしまい、本発明の生体物質構造体を形成できなくなる虞がある。これを防止する観点からは、結合用化合物の分子量としては、通常1000以上、好ましくは10000以上、また、通常100万以下、好ましくは50万以下が望ましい。なお、結合用化合物として合成又は天然の高分子化合物を用いる場合、重量平均分子量が上記範囲に収まることが好ましい。この範囲を下回ると効果的に粒子状塊が集合した生体物質構造が形成できなくなる虞があるためである。
なお、これら分子量の測定には種種の方法が使えるが、例えば、GPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィー)、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)、静的光散乱測定、粘度測定など一般的な測定により、調べることができる。
【0094】
また、結合用化合物の大きさに制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、効果的に生体物質と結合用化合物とを結合させるためには、溶媒や分散媒などの液体(ここでは、媒質)中に混和した状態において、結合用化合物の径は、通常1nm以上、好ましくは2nm以上、より好ましくは、3nm以上であることが望ましい。
【0095】
これらの結合用化合物の大きさの測定には、種種の方法が使用できるが、液体に分散している金属コロイド、無機粒子、ポリマー微粒子などを結合用化合物として用いた場合は、静的光散乱測定法、動的光散乱測定法、光回折法などの一般的な手法により、調べることができる。また、これら金コロイド、無機粒子、ポリマー微粒子などが分散した分散液から反応媒等の液体を取り除いたものをSEM(走査型電子顕微鏡)やTEM(透過型電子顕微鏡)などの電子顕微鏡で観察した場合も、液体中での結合用化合物の径として取り扱っても良い。
【0096】
一方、溶液に溶解している高分子またはミセルなどの会合体を結合用化合物に用いた場合は、静的光散乱測定法、動的光散乱測定法、光回折法などの一般的な手法により、調べることができる。一般に、溶液に溶解している高分子やミセルなどは、測定手段及び解析方法で粒子径に相違が見られるが、いずれかの手段や方法で得られた測定値により、その粒子径を評価することができる。
なお、光学的手法により液中の結合用化合物の径を測定する場合には、結合用化合物の平均粒子径が上記の範囲内に収まるようにすることが、効果的に生体物質と結合用化合物とを結合させるためには望ましい。
【0097】
さらに、結合用化合物が有する結合官能基の量は、特に限定されず、また結合用化合物の種類によって一概には規定できないが、例えば結合用化合物として高分子を用いた場合、結合用化合物に対して、モル%で、通常0.1%以上、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、また、通常90%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下である。この範囲を下回ると結合用化合物が生体物質と効率よく結合できない虞があり、上回ると溶媒や分散媒などに混和できなくなる虞があるためである。
【0098】
(3)媒質
生体物質と結合用化合物とを混合する際には、溶媒や分散媒等の媒質を共存させ、その媒質の存在下において生体物質と結合用化合物とを結合させることが好ましい。なお、上記の通り、生体物質と結合用化合物とは必ずしも化学反応を生じて結合するわけではないが、本明細書においては、生体物質と結合用化合物とが結合する際の場を形成する物質を「媒質」と広義に呼ぶものとする。
【0099】
媒質としては、本発明の生体物質構造体の製造が可能な限り任意のものを用いることができるが、通常は、生体物質及び結合用化合物並びに適宜用いられる添加剤が混和しうるものを用いることが望ましい。この際、生体物質、結合用化合物及び添加剤の混和状態は任意であり、溶解状態であっても分散状態であってもよいが、生体物質と結合用化合物とを安定して結合させるためには、生体物質及び結合用化合物が媒質中において溶解状態で存在していることが好ましい。
【0100】
媒質としては、通常は液体を用いる。この際、媒質は、生体物質と結合用化合物とが結合する場を形成することになり、生体物質や結合用化合物等の活性や構造の安定性などに影響を与えることがあるため、その影響を考慮して選択することが好ましい。通常は、媒質として水を用いる。
【0101】
また、媒質としては水以外の液体を用いても良く、例えば、有機溶媒を用いることができる。さらに、有機溶媒の中でも、両親媒性溶媒、即ち、水に混和しうる有機溶媒が好ましい。水以外の媒質の具体例としては、メタノール、エタノール、1−ブタノールなどのアルコール系溶媒の他に、THF(テトラヒドロフラン)、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、NMP(N−メチルピロリドン)、DMSO(ジメチルスルホオキシド)、ジオキサン、アセトニトリル、ピリジン、アセトン、グリセリンなどが挙げられる。
【0102】
また、これらの媒質として液体を用いる際には、この媒質に塩を加えても良い。塩の種類は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、具体例としては、NaCl、KCl、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウムなどが挙げられる。また、用いる塩の量に制限は無く、用途に応じて任意の量の塩を用いることができる。
【0103】
さらに、媒質として水を用いている場合、水としては、純水のほか、生体物質や結合用化合物以外の溶質を溶解した水溶液を用いることもできる。その例としては、各種緩衝液を挙げることができ、その具体例としては、炭酸バッファー、リン酸バッファー、酢酸バッファー、HEPESバッファー、TRISバッファーなどが挙げられる。
なお、媒質は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0104】
(4)添加剤
生体物質構造体の製造工程のいずれかの工程においては、生体物質、結合用化合物及び媒質、並びに、これらを混合した混合物などに対して、本発明の効果を著しく妨げない限り、任意の添加剤を共存させてもよい。添加剤の例としては、上記の塩の他、酸、塩基、バッファー、グリセリン等の保湿剤、生体物質の安定剤としての亜鉛等の金属イオン、消泡剤、変性剤などを挙げることができる。
また、添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0105】
(5)混合の操作
本発明の生体物質構造体を製造する際には、媒質の存在下、上述した生体物質と結合用化合物とを混合し、媒質中に少なくとも生体物質と結合用化合物とを含有する混合物を調製する。これにより得られる混合物は、媒質の存在下、生体物質、及び、上記生体物質と結合可能な結合用化合物とを共存させたものであり、この混合物中において、生体物質と結合用化合物とが結合して粒子状塊が調製される。また、混合物中において、生体物質及び結合用化合物は溶媒に混和していることが好ましい。
【0106】
混合に際し、生体物質、結合用化合物、媒質、添加剤等は、本発明の生体物質構造体の製造が可能である限りどのような状態で用意をしてもよい。ただし、生体物質に関しては、通常は、何らかの溶媒や分散媒に生体物質を溶解又は分散させた溶液や分散液として用意する。この場合、生体物質を希釈させる溶媒や分散媒は、生体物質の活性や構造の安定性等を考慮して調整することが好ましく、例えば、混合に用いる上記の媒質と同様のものを溶媒や分散媒として用いることができる。
【0107】
用意した生体物質、結合用化合物、媒質、添加剤等を混合する際の具体的な操作も任意である。例えば、生体物質の溶液(水溶液など)又は分散液と結合用化合物の溶液(水溶液など)又は分散液とを混合してもよく、生体物質の溶液又は分散液と固体状の結合用化合物とを混合してもよく、固体状の生体物質と結合用化合物の溶液又は分散液とを混合してもよく、固体状の生体物質及び結合用化合物と溶媒とを混合してもよい。また、後述する固相担体に本発明の生体物質構造体を固定する目的で、固相担体上でこの混合物を調製することができる。
【0108】
(6)混合時の組成
混合する際の生体物質、結合用化合物、媒質、添加剤等の混合比率は、本発明の生体物質構造体を得ることができる限り任意である。ただし、「(生体物質の重量)/{(生体物質の重量)+(結合用化合物の重量)}」で表される混合比率の値は、通常0.1以上、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、特に好ましくは0.7以上が望ましい。これを下回る混合比では、形成される生体物質構造体中の生体物質の組成が低くなり、十分に結合用化合物を生体物質で覆うことができなくなって、非特異吸着を引き起こす虞がある。
【0109】
また、媒質中における生体物質及び結合用化合物の割合(濃度)も本発明の生体物質構造体を得ることができる限り任意であるが、生体物質及び結合用化合物の合計濃度が、通常0.1g/L以上、好ましくは1g/L以上、より好ましくは10g/L以上とすることが望ましい。この範囲を下回ると、粒子状塊及び生体物質構造体が生成しにくくなる虞があるためである。
【0110】
(7)生体物質構造体の形成メカニズム
生体物質と結合用化合物とを混合することによって粒子状塊が形成され、この粒子状塊が集合することにより、本発明の生体物質構造体が構成される。
本発明の生体物質構造体の形成過程は明らかではないが、以下のように推測できる。即ち、生体物質と結合用化合物とを共存させた混合物を調製すると、混合物中において生体物質と結合用化合物とが結合し(図2(a)参照)、図2(b)に示すような粒子状塊が生成される。このような生体物質構造体が形成される過程での粒子状塊の確認は、動的光散乱測定などによって行うことができる。例えば、10nm程度のタンパク質と10nm程度の結合用化合物とを溶液中で混合した場合、サブミクロンオーダーの粒子状塊が確認されることがある。この粒子状塊は、さらに粒子状塊同士が集合することによって、図1(a),(b)に示すように、粒子状塊が鎖状及び/又は網目状に集合した構造を有する生体物質構造体を形成するものと推測される。
【0111】
また、この際には、結合する粒子状塊は、互いに有する生体物質及び結合用化合物が結合することによって、粒子状塊同士が互いに結合して生体物質構造体を形成することもあるものと推測される。この場合、生体物質構造体はより安定になるため、広い環境や用途への適用が可能となり、好ましい。
【0112】
[1−2.濃縮工程及び乾燥工程]
混合工程の最中や混合工程の後において、適宜、上記の混合物から媒質を除去する濃縮工程や乾燥工程を行なうようにしても良い。
【0113】
上記の混合物中の溶媒の量が多い場合などにおいては、混合物中に粒子状塊又は生体物質構造体が生成しにくい場合や、生成しない場合がある。これらの場合には、混合物を濃縮することで、粒子状塊を効率的に形成させ、生体物質構造体を効率的に製造することができる。
さらに、上記の混合物が粒子状塊又は生体物質構造体の断片を含んでいる場合においても、濃縮により、粒子状塊、又は生体物質構造体を更に形成させることができる。したがって、このような粒子状塊や生体物質構造体の成長のために、濃縮を行なってもよい。
【0114】
ただし、均一な生体物質構造体を形成するためには、混合物調製の初期の段階においては、媒質中で生体物質と結合用化合物とを均一に混合することが好ましい。したがって、一旦比較的大量の媒質中に生体物質及び結合用化合物を共存させ、それを濃縮することにより粒子状塊を生成させて、生体物質構造体を製造することが好ましい。
【0115】
また、生体物質構造体の形成後、媒質を乾燥除去してもよい。なお、通常は、混合物を乾燥させる過程において混合物は濃縮されるので、濃縮と乾燥とは一連の操作として行なうことができる。
混合物を乾燥、濃縮する方法は任意であるが、例えば、限外濾過、減圧乾燥などが挙げられる。また、このほか、単に常圧下での蒸発により乾燥や濃縮を行なうようにしてもかまわない。
【0116】
上記混合物を乾燥、濃縮する際の温度条件は任意であるが、生体物質の変性等を避ける観点から、通常25℃以下、好ましくは10℃以下で行なうことが望ましい。
また、混合物を乾燥、濃縮する際の圧力条件も任意であるが、通常は、常圧以下に減圧して行なうことが望ましい。
【0117】
さらに、混合物の濃縮は、生体物質と結合用化合物とが接触する確率を上げて粒子状塊を形成させやすくすること、または、それら粒子状塊同士が接触する確率を上げて本発明の生体物質構造体を構成させやすくすることを目的とする。そのため、濃縮の前、最中又は後において、遠心分離によって混合物を沈殿させたり、貧溶媒を添加したり、硫酸アンモン等の添加物を加えたりして、粒子状塊や生体物質構造体を沈殿させるようにしてもよい。
【0118】
[1−3.その他の工程]
また、本発明の生体物質構造体の製造方法においては、上述した以外の工程を行なっても良い。
例えば、生体物質構造体の製造後、その生体物質構造体中の生体物質に対して、所望の官能基を修飾するようにしてもよい。
また、例えば、本発明の生体物質構造体を何らかの固相担体に固定させ、生体物質担持体を作製するようにしてもよい。
【0119】
[2.生体物質構造体の構造]
本発明の生体物質構造体は、生体物質、及び、該生体物質と結合可能な化合物が結合してなる粒子状塊が互いに結合してなる構造体である。さらに、本発明の生体物質構造体においては、上記の粒子状塊の粒径は10μm以下となっている。
【0120】
具体的には、本発明の生体物質構造体は、図2(a),(b)に模式的に示すように、生体物質と結合用化合物とが結合した、10μm以下の粒径を有する粒子状塊が単一ユニットとして、図1(a),(b)に模式的に示すように、互いに鎖状及び/又は網目状に結合した構造体となっている。
【0121】
本発明の生体物質構造体は、このように生体物質及び結合用化合物の両方によって形成された粒子状塊が集合及び/または結合することによって形成する構造を有している。このため、生体物質の比率を高めることが可能であり、したがって、本発明の生体物質構造体では、従来よりも多量の生体物質を保持することができる。なお、従来の生体物質を固相担体等に固定する技術では、アフィニティー精製などに用いられる場合、樹脂微粒子などの固相担体の表面に結合させるために、生体物質の固定化量は所定の上限値で制限され(通常、タンパク質の単層吸着は、せいぜい0.3〜1.0μg/cm2)、多量の生体
物質を保持することができなかった。
【0122】
さらに、生体物質構造体を構成する粒子状塊は、集合して、粒子状塊同士の引力によって接触しあったり、その炭素鎖が絡まりあったりすることなどにより、互いに結合して生体物質構造体を構成している。例えば、ただ分子間引力により粒子状塊同士が結合して生体物質構造体が形成されたり、粒子状塊が結合用化合物の官能基と生体物質との結合により結合して生体物質構造体を形成したり、或いは、上記の両方の要因が組み合わさって粒子状塊同士が結合して生体物質構造体が形成されたりしている。ここで、結合とは、通常、共有結合、イオン結合、キレート結合、配位結合、疎水結合、水素結合、ファンデルワールス結合、静電力による結合のうち一つ以上の結合から成り立つものを指し、中でも好ましくは共有結合である。この場合、粒子状塊の一部のみが結合しあっている状態でもよいが、できるだけ多くの粒子状塊が結合しあっていることが好ましく、全ての粒子状塊が結合しあって生体物質構造体が構成されることがより好ましい。
なお、通常は、粒子状塊は、絡まりあいや結合など、複数の要因により集合して生体物質構造体を構成しているものと推察される。
【0123】
また、生体物質構造体を構成する粒子状塊は、その粒径が通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下である。粒子状塊の粒径が大きいと、分離精製に用いた時、十分な比表面積が得られず、アフィニティー分離などに用いた場合に高効率な分離精製結果が得られない虞がある。
さらに、粒子状塊の粒径を個別に測定する場合には、生体物質構造体中の粒子状塊のうち、少なくとも一部の粒子状塊が上記の範囲の粒径を有していればよいが、できるだけ多くの粒子状塊が上記範囲の粒径を有していることが好ましく、全ての粒子状塊が上記範囲の粒径を有していることがより好ましい。
【0124】
ここで粒子状塊の粒径は、光学顕微鏡、SEMやTEM等の電子顕微鏡、AFM(原子間力顕微鏡)などの顕微鏡で観察することにより測定できる。なお、顕微鏡で観察した場合、粒子状塊の形状は、粒子状のほか、生体物質構造体から房状に張り出した形状として観察される場合もあるが、この房状の塊部分(房状塊)は生体物質構造体から粒子状塊が張り出して形成されたものと推察されるため、この房状の塊部分の径(通常は、短径)が上記の範囲内であればよい。
【0125】
粒子状塊の存在を調べる一つの方法として、前記AFMにより測定した画像からPower Spectral Density(パワースペクトル密度)を解析する場合を例に挙げてさらに詳述する。パワースペクトルを用いた解析は、物体表面の微小な凸凹を評価するのに用いられ、凹凸に起因する変化量(例えば、高さ、深さ等)を波形に分解してフーリエ変換を行なうことに基づく解析法の一つである。
【0126】
AFM測定には、市販のAFM装置を使用することができるが、好ましくは、Digital Instruments社製のNanoScopeIIIa等が用いられる。また、プローブは先端半径Rが5nm以下のものが好ましく、具体的には、東陽テクニカ社製のSSS−NCH等が好ましい。さらに、測定は試料表面を傷つけないよう、タッピングモードで測定することが望ましい。測定は、大気中でも液中でもかまわないが、良い像を得るためには、好ましくは大気中で、さらに好ましくは乾燥した状態で行なう。
【0127】
また、Power Spectral Density解析に用いるアルゴリズムは、表面形状の解析用としてASTM E42.14 STM/AFM分科委員会勧告に準じるものが好ましく、特に好ましいのは、Digital Instruments社製のNanoScopeIIIaに付属のPower Spectral Density機能を用いることである(参照文献:NanoScope コマンドリファレンスマニュアル)。
【0128】
これらの装置及びアルゴリズムを用いて本発明の生体物質構造体の解析を行なった場合、例えば、1μm×1μmの視野でAFMによる測定を行なって、得られるAFM像からPower Spectral Density(PSD)解析を行なった場合には、2D isotropic PSDの値が100(nm4)以上であって、かつ、波長100nm未満の値を除いたパワースペクトルの和(Ic)とトータルパワースペクトル(It)との割合Ic/Itが通常30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上であるとき、サブミクロンオーダーの粒子状塊の存在を確認することができる。パワースペクトルは、物体の表面の凹凸を表わすものであり、その比率Ic/Itが上記範囲であれば、粒子状塊の構造に起因する凹凸が生体物質構造体の表面に確認できるからである。
【0129】
また、粒子状塊の粒径は、光散乱、X線、中性子散乱等の分光学的手法により確認することもできる。この場合、測定される平均粒径が上記の範囲内にあればよい。粒子状塊の平均粒径が上記範囲内にある場合も、粒径が上記範囲内にある場合と同様の利点を得ることができる。
ここで、一例として、静的光散乱測定法による粒子状塊の確認の方法をさらに詳述する。例えば、生体物質構造体の前方光散乱光強度測定をすることより、相関長を求めることで、粒子状塊を評価することができる。この方法は、生体物質構造体を透過した光の、散乱強度の散乱角依存性を測定し、デバイ−ブージェ(Debye−Bueche)の理論に基づき、(光の強度)(-1/2)を波数の2乗(={(4πn/光の波長)×sin(散乱角度/2)}2)に対してプロットした傾きを求め、(傾き/切片)2から相関長を求める。ここでnは媒体の屈折率である。測定に用いる光散乱装置は市販のものを使用することができるが、好ましくはDYNA3000である。生体分子構造体は、乾燥状態でも液体中で膨潤させても良いが、好ましくは液体中での測定である。
【0130】
また、本発明の生体物質構造体では、通常は粒子状塊同士は完全に密着せず、各粒子状塊同士の間には空間(空隙)が形成される。この空間には、生体物質構造体を用いてアフィニティー分離などを行なう際に、生体物質と相互作用させる対象物質が侵入することが可能であり、通常はこの空間において生体物質と対象物質との相互作用が生じることになる。したがって、3次元的な構造を有する本発明の生体物質構造体であっても、その中(内部)に含まれる生体物質は対象物質等と相互作用することが可能である。即ち、本発明の生体物質構造体は、3次元的に多くの生体物質を備えることができるにもかかわらず、その生体物質は活性を失わず相互作用をすることが可能であり、このため、本発明の生体物質構造体は、生体物質の反応性を保ったまま、従来よりも多量の生体物質を含有させることが可能となっている。
【0131】
本発明の生体物質構造体が、粒子状塊同士の間に空間を有しているかを調べる方法に制限はないが、例えば、光学顕微鏡、SEMやTEM等の電子顕微鏡、AFMなどの顕微鏡によって確認することができる。また、このほか、光散乱、X線、中性子散乱等の分光学的手法によっても確認することができる。
さらに、本発明の生体物質構造体を乾燥状態における体積と、液体を含ませた時の体積とを比較して、その体積が増加した場合には、上記の空間に液体が侵入したことにより体積が増加したものとして、本発明の生体物質構造体が空間を有していると認識してもよい。なお、これらの体積変化はいかなる方法で確認しても良いが、例えば生体物質構造体が膜状に形成されている場合、乾燥状態の膜厚とそれを液体に浸した時の膜厚とをそれぞれAFM等で測定し、両者を比較して確認することができる。
【0132】
また、本発明の生体物質構造体の大きさに制限は無く任意であるが、何らかの固相担体に結合していない場合には、生体物質構造体が乾燥した状態において、その径が、通常30nm以上、好ましくは40nm以上、より好ましくは50nm以上であることが望ましい。ここで、生体物質構造体の径は、SEM、TEM等の電子顕微鏡、AFMなどの顕微鏡により測定することができる。生体物質構造体の大きさが小さすぎると、アフィニティー分離等に用いた場合に精製分離において生体物質構造体を遠心分離操作等で回収しにくくなるなどの虞がある。
【0133】
さらに、本発明の生体物質構造体は、固相担体に固定して、アフィニティー精製や医薬機能解析ツールとして用いることもでき、さらに、DDS(ドラッグデリバリーシステム)のための薬剤の表面処理、再生医療担体の表面処理、人工臓器の表面処理、カテーテルなどの表面処理等に適用可能である。これら表面処理などに本発明の生体物質構造体を使用する場合、所望の固相担体に、任意の手法によって本発明の生体物質構造体を固定した生体物質担持体を形成し、それを用いることになる。なお、表面処理によって形成される生体物質構造体の厚さ(膜の膜厚)は任意であるが、乾燥状態で、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、さらに好ましくは15nm以上である。これを下回る膜厚では、十分に皮膜形成できない可能性がある。なお、上記の厚さは、SEM、TEM、AFMなどで測定することができる。
【0134】
[3.生体物質構造体の組成]
[3−1.生体物質の含有比率]
本発明の生体物質構造体において、含有される生体物質の比率に制限は無いが、通常は、より多量の生体物質が含有されていることが望ましい。具体的には、「(生体物質の重量)/(生体物質構造体の重量)」で表される生体物質構造体の重量に対する生体物質の重量の比率が、通常0.1以上、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、特に好ましくは0.7以上が望ましい。生体物質の比率がこの範囲を下回る場合、構成される生体物質構造体中の結合用化合物を十分に生体物質で覆うことができなくなり、結合用化合物への非特異吸着を起こす虞がある。また、この生体物質構造体を用いて分離精製を行なう場合に、その分離精製の効率が低下する虞もある。
【0135】
[3−2.生体物質の含有比率の測定法]
上記の生体物質の比率を測定する方法は特に限定されないが、例えば、本発明の生体物質構造体に含まれる生体物質を酵素や薬品等を用いて分解し、生体物質及び結合用化合物由来の物質をそれぞれ各種の方法で定量すればよい。
以下、この方法により生体物質の含有比率を測定する方法を説明する。
【0136】
(1)生体物質の分解方法
この方法により生体物質の比率を測定する場合には、生体物質を分解するための酵素や薬品等は、用いた生体物質や結合用化合物の種類に応じて任意のものを適当に用いればよい。その具体例を挙げると、生体物質が核酸である場合、例えば、リボヌクレアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ等の核酸分解酵素などが挙げられる。
【0137】
また、生体物質がタンパク質である場合、上記の酵素や薬品等としては、例えば、微生物プロテアーゼ、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、レンネット、V8プロテアーゼ等のタンパク質分解酵素、臭化シアン、2−ニトロ−5−チオシアン安息香酸、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウム等のタンパク質分解能を有する化学物質などが挙げられる。
さらに、生体物質が脂質である場合、上記の酵素や薬品等としては、例えば、リパーゼ、ホスホリパーゼA2等の脂質分解酵素などが挙げられる。
【0138】
また、生体物質が糖である場合、上記の酵素や薬品等としては、例えば、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ、セルラーゼ等の糖分解酵素などが挙げられる。
なお、生体物質を分解するための上記の酵素や薬品等は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0139】
(2)生体物質および結合用化合物由来の物質の定量方法
生体物質構造体の分解後、生体物質及び結合用化合物由来の物質を定量する方法に制限は無く任意であるが、具体的な手法としては、例えば、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、質量分析(MS)、赤外分光法、核磁気共鳴法(1H−NMR、13C−NMR、29Si−NMR)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、吸光度測定、蛍光測定などが挙げられる。また、分析に際しては、各測定手法を単独で用いても良く、2種以上を任意に組み合わせて行なってもよい。
【0140】
[II.生体物質構造体を用いたアフィニティー分離の説明]
本発明の生体物質構造体は、アフィニティー分離に用いて好適である。したがって、本発明の生体物質構造体は、例えば、アフィニティー精製や医薬機能解析ツール、さらには診断用解析ツールとして用いることができる。
【0141】
具体的には、例えば、アフィニティー精製を目的とした場合、血清などの中に含まれる微量なタンパク質などの生体物質が精製すべき対象物質となり、それを夾雑物の中から得ることができる。また、例えば生体物質構造体に含まれる生体物質に対する医薬候補化合物の作用機構の分析を目的とした場合、複数の医薬候補化合物が分析すべき対象物質となり、それを生体物質構造体に接触させ、特異的に結合した医薬候補化合物を分析することにより、その医薬候補化合物の選抜もしくは作用機構の解明を行なうことができる。
【0142】
上記のようにアフィニティー分離を行なう場合には、生体物質構造体に含まれる生体物質と対象物質との上述した特異な相互作用を用いることにより、分離精製、構造や機能の解析などを行なう。このとき、まず、生体物質構造体に対象物質を含む検体を接触させ、試料液中の対象物質とその他の物質とを分離させることになる。
【0143】
(1)分離精製の対象となる対象物質
分離精製の対象となる対象物質とは、生体物質と特異的に相互作用する(アフィニティー結合する)作用物質を示す。このような対象物質の例としては、上述の生体物質構造体が有している生体物質と同様のものが使用できる。
具体例としては、医薬の候補となりうる物質(医薬候補物質)を分離する場合には、生体物質として当該医薬候補物質に生じさせたい所望の相互作用を生じうるものを用い、医薬候補物質を含有する可能性がある検体から、上記の医薬候補物質となりうる化合物を対象物質として分離することができる。
【0144】
さらに、診断用解析ツールを目的とした場合、血液、血清、血漿、髄液、尿、糞便、鼻汁、唾液などの体液、細胞、組織やそれらの抽出液に含まれる、生体物質である抗体などに特異的に結合する物質が対象物質となり、その対象物質の量もしくは存在の有無を分析することにより、疾患を診断することが可能となる。
また、生体物質としてタンパク質、DNA、RNAなどの核酸を用いた場合、作用物質として、タンパク質−核酸連結分子を用いたタンパク質のスクリーニング方法及び機能改変方法を提供することができる。この方法は本発明の生体物質構造体を用いて、酵母ツーハイブリッド、TAP、ファージディスプレイ、IVV(in vitro virus)、mRNAディスプレイ、STABLE、リボゾーム・ディスプレイなどの公知の解析技術を用いることができる(例えば、柳川ら、「蛋白 核酸 酵素」、Vol.48、No.11、P1474(2003)等参照)。
【0145】
(2)対象物質を含む試料液
対象物質は、通常は、組成物である検体中に、他の物質と共に共存している。また、検体は気体であることもあるが、通常は、液体として用意される。この際、検体は、何らかの溶媒中に対象物質が含有された溶液や分散液となっていることが多い。なお、以下適宜、溶液や分散液として存在する液体状の検体を「試料液」という。
【0146】
試料液の溶媒や分散媒としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、例えば、生体物質構造体製造時の媒質として上述したものを用いることができる。
また、試料液中の対象物質の濃度も任意であるが、通常1μg/L以上、好ましくは5μg/L以上、より好ましくは10μg/L以上が望ましい。この範囲を下回る濃度であると、精製の効率が低下し、本発明の利点を十分に発揮できなくなる虞がある。
【0147】
さらに、対象物質以外の物質は、試料液中の濃度として、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下が望ましい。この範囲を上回ると試料液の粘度が高くなりすぎ、生体物質構造体の内部まで十分に対象物質が侵入して生体物質と接触することができなくなる虞がある。
【0148】
(3)生体物質構造体と試料液との接触方法
本発明の生体物質構造体に対象物質を含む試料液を接触させる方法は、特に限定されないが、例えば、生体物質構造体を充填したカラムの中に、対象物質を含む試料液を移動相とともに流すことにより接触させる方法が挙げられる。この時、生体物質構造体は乾燥した状態でもかまわないが、試料液を接触させる前に、移動相となる液体で湿潤させることが好ましい。
【0149】
また、別の方法では、例えば、対象物質を含む試料液をマイクロチューブなどの容器に入れ、その中に生体物質構造体を加えることによって接触させたり、逆に、生体物質構造体を入れた容器に対象物質を含む試料液を加えることによって接触させたりすることも可能である。
【0150】
さらに、本発明の生体物質構造体を固相担体に固定化することにより、さらに分離精製の効率を向上させることも可能である。例えば、微小流路の表面に本発明の生体物質構造体を固定化し、その流路に対象物質を含む試料液を送り込むことにより、小型で高効率な分離精製装置を構成することができる。
【0151】
また、生体物質構造体に対象物質を含む試料液を接触させるときは、適宜、如何なる条件に設定するようにしてもよいが、このましくは25℃以下、さらに好ましくは10℃以下で行なうことが望ましい。
さらに、接触させる前、最中、後に適宜、試料液を乾燥、濃縮することも可能である。その際の圧力条件も任意であるが、通常常圧以下が望ましい。
【0152】
(4)対象物質の分離
本発明の生体物質構造体と試料液との接触後にどのようにして対象物質の分離を行なうかは、生体物質や対象物質の種類などに応じて任意である。
例えば、生体物質と対象物質とが特異的に相互作用することにより、対象物質とその他の物質との間でリテンションタイム(保持時間)に違いが生じる場合には、このリテンションタイムの違いを利用して、分画精製し、対象物質をその他の物質から分離することができる(アフィニティークロマトグラフィー)。
【0153】
また、相互作用の中でも特に、対象物質が生体物質に特異的な相互作用によって吸着する場合には、生体物質に対象物質を吸着させ、その状態で試料液を生体物質構造体から分離し、その後対象物質を生体物質から遊離させて回収することにより、対象物質をその他の物質から分離することもできる。対象物質を生体物質から遊離させる方法は特に限定されないが、例えば、添加塩、pH、昇温等のほか、生体物質構造体に分離精製対象物よりも吸着力の強い既知の化学物質や、同等もしくは弱い吸着力だとしても高濃度の化学物質を添加することなどによって、対象物質を生体物質構造体から遊離させ、回収することができる。
【0154】
これら、分離させた対象物質は、目的に応じて、希釈もしくは濃縮することが可能である。例えば、希釈する場合は目的に応じた溶媒を添加すればよく、濃縮する場合は減圧もしくは加温またはその両方を用いて溶媒を蒸発させたり、限外ろ過フィルターを用いたり、凍結乾燥法を用いて溶媒を完全に取り除いたりするようにすればよい。
【0155】
また、本発明の生体物質構造体によって分離された対象物質を分析する場合、その方法は限定されないが、一般的には、例えば、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、質量分析(MS)、赤外分光法、核磁気共鳴法(1H−NMR、13C−NMR、29Si−NMR)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、吸光度測定、蛍光測定などが挙げられる。また、分析に際しては、各測定手法を単独で用いても良く、2種以上を任意に組み合わせて行なってもよい。後述する第2実施形態で生体物質に吸着した対象物質の量を測定したり、第4実施形態で測定部21による分画中の対象物質の量の測定を行なったりする場合には、ここで例示した方法を用いる測定機器を用いることが可能である。
【0156】
(5)生体物質構造体を用いたアフィニティー分離の利点
従来技術によるアフィニティー分離では、その分離に用いるアフィニティークロマトグラフィー用担体の表面に生体物質を固定するため、生体物質の導入量は制限されていた(通常、タンパク質の単層吸着は、0.3〜1.0μg/cm2)。したがって、従来は、アフィニティークロマトグラフィー用担体では、生体物質と対象物質とを相互作用させる場合に、単位体積における相互作用可能な対象物質の量が少なかった。
【0157】
さらに、従来はそのアフィニティークロマトグラフィー用担体を完全に生体物質で覆うことができなかったため、アフィニティークロマトグラフィー用担体への非特異的な相互作用が生じやすく、分離精製効率が低かった。そのため、精製純度を高めるためには、複数回の精製を必要とし、分離精製に時間と手間がかかっていた。
【0158】
これに対して、本発明の生体物質構造体では、生体物質構造体に導入された生体物質の反応性を保つことができる。また、生体物質構造体中の生体物質の比率を高めることにより、生体物質構造体の単位体積における生体物質と特異的に相互作用する対象物質の量を高めることが可能である。さらに、生体物質構造体中に占める生体物質の比率を高めることにより、結合用化合物の比率を低く抑えることが可能であるため、結合用化合物に基づく非特異吸着を抑制することができる。これらにより、従来よりも、非特異吸着が抑制でき、さらに分離精製にかかる所要時間を短縮することが可能となる。
【0159】
また、本発明の生体物質構造体は、任意の固相単体の表面に形成することができ、近年盛んに研究が進められているマイクロチップおよびマイクロ流路等への応用が可能である。したがって、広範な用途へ適用しうることも、本発明の生体物質構造体を用いた場合の利点の一つである。
【0160】
さらに、本発明の生体物質構造体は、特定物質と相互作用する作用物質を検出するセンサーとして好適に使用できる。この際、具体的には、例えば、各センサーに用いるセンサーチップとして、本発明の生体物質構造体を備えたものを用いるようにすればよい。上記のセンサーとしては、例えば、特定物質にDNAやタンパク質又は糖を用いた場合、いわゆるDNAアレイ若しくはDNAチップ、又は、プロテインアレイ若しくはプロテインチップ、さらにウイルス検知用チップ等のアレイやセンサーチップを用いたバイオセンサーや診断用解析ツールなどが挙げられる。
【0161】
このように、本発明の生体物質構造体を適用することができるバイオセンサーの具体例としては、蛍光法、ELISA法、化学発光法、RI法、SPR(表面プラズモン共鳴)法、QCM(水晶発振子マイクロバランス)法、ピエゾ式カンチレバー法、レーザー方式カンチレバー法、質量分析法、電気化学的方式、電極法、電界効果トランジスタ(FET)法、カーボンナノチューブを利用したFET及び/又は単一電子トランジスタ法によるセンサーなどが挙げられる。中でもQCM法及びSPR法による検出は、簡便に検体を無標識で分析することができるため、好適に用いられる。
【0162】
(6)実施形態
以下、生体物質構造体を用いて、試料液から対象物質を分離する実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0163】
(6−1)第1実施形態
本実施形態は、液中に、対象物質(分離対象物質)と、その他の物質とが共存する試料液から、対象物質を分離精製するものである。
また、図3は、本実施形態に用いるアフィニティークロマトグラフィー用容器を模式的に示す断面図である。
【0164】
この実施形態においては、図3に示すような、容器本体1内に生体物質構造体2を保持したアフィニティークロマトグラフィー用容器(以下適宜、「アフィニティー用容器」という)3を用いる。ここで、容器本体1の形状に制限は無く、試料液等の流体を収納しうるものであれば任意である。
【0165】
また、本実施形態のアフィニティー用容器3では、容器本体1の内部表面に生体物質構造体2を固定してあり、これにより、容器本体1の外部に生体物質構造体2が出ないよう、容器本体1内に保持されている。ただし、生体物質構造体2は容器本体1に固定せず、単に容器本体1内に収納するのみであっても構わない。
さらに、本実施形態に用いる生体物質構造体2の生体物質と、精製の対象である対象物質とは、特異的に相互作用することにより、対象物質は生体物質に特異的に吸着できるようになっているものとする。
【0166】
このアフィニティー用容器3を用いて試料液から対象物質を分離する場合、まず、アフィニティー容器3内に試料液を注入する。これにより、生体物質構造体2が試料液と接触し、生体物質に対象物質が吸着する。
次に、試料液と生体物質構造体2とを分離すべく、試料液をアフィニティー用容器3の外へ排出する。これにより、試料液内に含まれていた対象物質以外の成分は排出される。一方、対象物質は生体物質構造体2の生体物質に吸着することにより、アフィニティー用容器3内に保持される。
そして、例えば対象物質と生体物質との相互作用を弱めうる所定のpHに調整した回収用溶液をアフィニティー用容器3に注入することなどにより対象物質を生体物質構造体2から遊離させ、遊離した対象物質を上記の回収用溶液と共に回収する。
【0167】
以上のようにすれば、試料液中の対象物質を分離精製することができる。また、この際、生体物質として対象物質と特異的に相互作用するものを用いており、しかも、本発明の生体物質構造体は活性を保った生体物質を非常に多量に含有するものであるために、非特異的吸着を抑制して、高効率な分離精製を容易に行なうことが可能である。
【0168】
さらに、これを利用して、ある所定の相互作用を上記の生体物質との間に生じさせる作用物質が不明である場合に、どのような物質が上記生体物資と相互作用するかをスクリーニングする場合にも、本実施形態の技術を適用することができる。即ち、例えば、上記実施形態において、何らかの相互作用を生じせしめる物質を含有した試料液を用いるようにすれば、試料液中の他の物質とは分離精製して得られた物質(対象物質)は上記の相互作用を生じさせる作用物質であるから、上記のスクリーニングを適切に行なうことができる。
なお、本実施形態の構成において生体物質構造体2を容器本体1に固定していない場合には、試料液の排出前に遠心分離機を用いて生体物質構造体2を集めておくと、作業効率や回収効率が向上するため、好ましい。
【0169】
(6−2)第2実施形態
本実施形態は、液中に対象物質(解析対象物質)を含有する試料液において、その対象物質を分離精製することにより、対象物質の解析を行なうものである。
なお、本実施形態も第1実施形態と同様に図3を用いて説明するが、本実施形態において、第1実施形態と同様の部位は、同様の符号を用いて示す。
【0170】
この実施形態において用いるアフィニティー用容器3は、生体物質構造体2が有する生体物質として、ある特定の構造(分子構造)を有する物質(作用物質)と特異的に相互作用することにより、当該物質を特異的に吸着させるものを用いているものとする。
また、これ以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0171】
このアフィニティー用容器3を用いて試料液中の対象物質の解析を行なう場合、第1実施形態と同様に、アフィニティー容器3内に試料液を注入して生体物質構造体と試料液とを接触させ、次いで、生体物質構造体2と試料液とを分離すべく試料液をアフィニティー用容器3の外へ排出する。これにより、対象物質が、生体物質と特異的に相互作用しうる特定の構造を有している場合には、対象物質は生体物質構造体2の生体物質に吸着されることにより、アフィニティー用容器3内に保持される。また、逆に、対象物質が上記の特定の構造を有していない場合には、対象物質は試料液とともにアフィニティー容器3の外部に排出される。
【0172】
したがって、生体物質に対象物質が吸着しているか否か、即ち、アフィニティー用容器3内に対象物質が残留しているか否かを調べることにより、対象物質が上記の特定の構造を有しているか否かが判明する。
上記の生体物質に対象物質が吸着しているか否かという点を調べるには、具体的には、生体物質に吸着している対象物質の量を測定すればよい。例えば、第1実施形態と同様に、対象物質と生体物質との相互作用を弱めうる所定のpHに調製した回収用溶液をアフィニティー用容器3に注入することなどにより対象物質を生体物質構造体2から遊離させ、その回収用溶液を回収し、回収した回収用溶液中に含まれる対象物質の量を上述した測定法等により測定すればよい。
【0173】
以上のようにすれば、試料液中の対象物質が、少なくとも生体物質に対応した特定の構造を有しているか否か、という解析を行なうことが可能である。
さらに、これを利用して、生体物質と相互作用をするために作用物質が有しているべき分子構造を調べる場合にも、本実施形態の技術を適用することができる。即ち、例えば、生体物質と相互作用することにより、ある一群の物質(対象物質)が他の物質から分離された場合には、当該一群の物質が共通の分子構造を有していれば、その分子構造が生体物質との相互作用をするために作用物質が有しているべき分子構造であると推測することができる。
【0174】
また、本発明の生体物質構造体は、第1実施形態と同様に、非特異的吸着を抑制して高効率な分離精製を容易に行なうことが可能なものであるために、対象物質の解析を正確に且つ高感度に行なうことが可能である。
なお、本実施形態は、第1実施形態と同様に変形することも可能である。
【0175】
(6−3)第3実施形態
本実施形態は、液中に、対象物質(精製対象物質)と、その他の物質とが共存する試料液から、対象物質を分離精製するものである。
また、図4は、本実施形態に用いるアフィニティークロマトグラフィー装置の概要を模式的に示す図である。
【0176】
この実施形態においては、図4に示すようなアフィニティークロマトグラフィー装置(以下適宜、「アフィニティークロマト装置」という)10を用いる。このアフィニティークロマト装置10は、タンク11と、ポンプ12と、オートインジェクタ13と、アフィニティー分離用チップ14と、流路切替弁15と、回収瓶16,17と、制御部18とを備えている。
【0177】
タンク11は、移動相となるキャリア液を貯蔵してあるものである。
また、ポンプ12は、制御部18の制御にしたがって、タンク11に貯蔵されたキャリア液を所定の流速で流すためのものである。
さらに、オートインジェクタ13は、制御部18の制御にしたがって、試料液をキャリア液の流れに注入するものである。
したがって、タンク11に貯蔵されたキャリア液は、ポンプ12によってオートインジェクタ13を経てアフィニティー分離用チップ14へと所定の速度で供給され、また、このキャリア液には、オートインジェクタ13によって試料液が注入されるようになっている。よって、タンク11、ポンプ12及びオートインジェクタ13によって、試料液をアフィニティー分離用チップ14の流路14Bに流通させる試料液供給部19が構成されていることになる。
【0178】
また、アフィニティー分離用チップ14は、基板14Aに流路14Bが形成されたものであり、この流路14Bには、生体物質構造体(図示省略)が充填されている。ここで、本実施形態で用いる生体物質構造体の生体物質と、精製の対象である対象物質とは、特異的に相互作用することにより、流路14Bを流通する対象物質のリテンションタイムを変化するようになっているものとする。なお、流路14Bの下流端部には生体物質構造体の流出を防止するためのフィルタ(図示省略)が形成されていて、これにより、生体物質構造体は流路14B内に確実に保持されるようになっている。
【0179】
したがって、供給されたキャリア液(試料液を注入されたものを含む)は、生体物質構造体が充填された流路14Bを流通するようになっている。また、この流路14Bから溶出したキャリア液(以下適宜、流路14Bから流出する液体は「溶出液」という)は、下流の流路切替弁15へと送られるようになっている。
【0180】
ところで、本実施形態では、アフィニティー分離用チップ14はアフィニティークロマト装置10に対して着脱可能になっているものとする。具体的には、アフィニティークロマト装置10がアフィニティー分離用チップ14を装着するチップ装着部14Cを備えていて、使用時にはチップ装着部14Cにアフィニティー分離用チップ14を装着して、分離を行なうようになっている。
【0181】
流路切替弁15は、制御部18の制御にしたがって流路を切り替えて、アフィニティー分離用チップ14から送られてきた溶出液を、回収瓶16及び回収瓶17のいずれに回収させるか切り替えるものである。したがって、アフィニティー分離用チップ14の流路14Bからの溶出液は、流路切替弁15により分画されて、回収瓶16,17のいずれかに回収されるようになっている。
また、本実施形態では、対象物質を含むキャリア液は回収瓶16に回収し、含まないキャリア液は回収瓶17に回収されるようになっているものとする。
【0182】
また、制御部18は、ポンプ12、オートインジェクタ13及び流路切替弁15の制御を行なうものであり、本実施形態においては、コンピュータに制御用のプログラムを読み込ませて構成されている。
さらに、この制御部18には、本実施形態で用いた生体物質構造体が有する生体物質と対象物質との相互作用によるリテンションタイムの情報が記録されていて、この情報に基づいて、オートインジェクタ13から試料液を注入した後の、供給したキャリア液の量や、経過した時間などに応じて、流路切替弁15の切替時機を制御するようになっている。
なお、図4において、制御部18による制御は、一点鎖線の矢印で示す。
【0183】
このアフィニティークロマト装置10を用いて試料液から対象物質を分離する場合、まず、チップ装着部14Cにアフィニティー分離用チップ14を装着し、そして、制御部18がポンプ12を稼動させる。ただし、流路切替弁15は、当初は溶出液を回収瓶17に回収するように切り替えてあるものとする。この場合、タンク11内のキャリア液は下流に向けて流れ出し、オートインジェクタ13、アフィニティー分離用チップ14の流路14B、及び、流路切替弁15を通り、回収瓶17に回収される。
その後、制御部18は、オートインジェクタ13を制御して、オートインジェクタ13に試料液をキャリア液中に注入させる。また、制御部18は、注入と同時に時間のカウントを開始する。
【0184】
注入された試料液は、流路14Bに流入し、流路14Bを流通する。この際、試料液は、流路14B内の生体物質構造体と接触し、生体物質と対象物質とが相互作用して、対象物質の流通速度が低下する。したがって、試料液中の対象物質以外の成分はキャリア液と共にそのまま流路14Bを流通するが、対象物質は相互作用によるリテンションタイムの変化分だけ遅れて流路14Bから流出する。このため、流路14Bから流出する溶出液のうち、対象物質以外の成分が流路切替弁15を通過する時刻よりも後の、対象物質のリテンションタイムに対応した分画には、キャリア液と、対象物質とが含まれ、分離の対象としないその他の成分は含まれない。
【0185】
そこで、制御部18は、カウントしている時間によって、対象物質以外の成分が流路切替弁15を通過する時刻よりも上記の相互作用によるリテンションタイムの変化分だけ後に、流路切替弁15を切り替えて対象物質を含有する分画を回収瓶16に回収するようにする。
【0186】
その後、連続して分離精製を行なう場合には、制御部18は、対象物質を含有しない溶出液の分画を回収瓶17に回収させるように流路切替弁15を再度切り替え、上記と同様の操作を行なう。また、分離精製を停止する場合には、制御部18はポンプ12を停止させ、キャリア液の供給を止める。
【0187】
以上のようにすれば、試料液中の対象物質を分離精製することができる。また、この際、生体物質として対象物質と特異的に相互作用するものを用いており、しかも、本発明の生体物質構造体は活性を保った生体物質を非常に多量に含有するものであるために、非特異的相互作用を抑制して、高効率な分離精製を容易に行なうことが可能である。
【0188】
さらに、これを利用して、第1実施形態と同様に、ある所定の相互作用を上記の生体物質との間に生じさせる作用物質が不明である場合に、どのような物質が上記生体物質と相互作用するかをスクリーニングすることもできる。
なお、本実施形態の構成においても、第1実施形態のようにアフィニティー分離用チップ14に生体物質構造体を固定するようにしてもよい。
【0189】
また、上記のアフィニティークロマト装置10においては、アフィニティー分離用チップ14をアフィニティークロマト装置10に対して着脱可能に構成したが、適宜、アフィニティー分離用チップ14をアフィニティークロマト装置10と一体に組み込んで構成するようにしてもよい。
【0190】
(6−4)第4実施形態
本実施形態は、液中に対象物質(解析対象物質)を含有する試料液において、その対象物質を分離精製することにより、対象物質の解析を行なうものである。
また、図5は、本実施形態に用いるアフィニティークロマトグラフィー装置の概要を模式的に示す図である。ただし、図5において、図4と同様の部位は、図4と同様の符号で示す。
【0191】
この実施形態においては、図5に示すようなアフィニティークロマト装置20を用いる。このアフィニティークロマト装置20は、タンク11と、ポンプ12と、オートインジェクタ13と、アフィニティー分離用チップ14と、制御部18と、測定部21とを備えている。
【0192】
試料液供給部19、即ち、タンク11、ポンプ12及びオートインジェクタ13は、それぞれ第3実施形態と同様である。
また、アフィニティー分離用チップ14は、生体物質構造体が有する生体物質として、ある特定の構造(分子構造)を有する物質(作用物質)と特異的に相互作用することにより、流路14Bを流通する対象物質のリテンションタイムを変化させるものを用いている以外は、第3実施形態と同様である。
さらに、制御部18は、本実施形態のアフィニティークロマト装置20が切替弁を有していないために、切替弁の制御を行なわない以外は、第3実施形態と同様である。
【0193】
さらに、アフィニティークロマト装置20は、アフィニティー分離用チップ14の下流に、流路14Bからの溶出液の分画中の検出対象物質の量を測定する測定部21を備えている。具体的には、この測定部21は、溶出液中の対象物質の量を時間を追って測定することにより、各時刻において測定部21へ流入する溶出液をそれぞれ分画として、各分画に含まれる対象物質の量を測定するようになっている。なお、測定部21の具体例としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
【0194】
このアフィニティークロマト装置20を用いて試料液中の対象物質の解析を行なう場合、第3実施形態と同様に、チップ装着部14Cにアフィニティー分離用チップ14を装着し、そして、制御部18がポンプ12を稼動させてタンク11内のキャリア液を流れさせる。この際、測定部21も、溶出液中の対象物質の測定を始める。
その後、制御部18は、第3実施形態と同様、オートインジェクタ13に試料液をキャリア液中へ注入させる。注入された試料液は、キャリア液と共に流路14Bに流入し、流路14Bを流通する。この際、試料液は、流路14B内の生体物質構造体と接触する。
そして、流路14Bから流出する溶出液は、測定部21に流入する。そして、測定部21において、溶出液の各時刻の分画に含まれる対象物質の量が測定される。
【0195】
ここで、生体物質構造体と試料液とが接触した場合、対象物質が上記の特定の構造を有していれば、流路14B内において対象物質のリテンションタイムは変化し、これに伴い、流路14Bから対象物質が流出する時刻は遅れることになる。一方、対象物質が上記の特定の構造を有していなければ、対象物質のリテンションタイムは変化しない。
【0196】
したがって、溶出液の分画のうち、どの分画で対象物質がどれだけの量だけ検出されたかによって、対象物質が特定の構造を有しているか否か、及び、その量がどれだけあるかを解析することができる。
即ち、リテンションタイムに変化が生じない場合に観測されるべき時刻の分画において対象物質が測定されれば、対象物質は上記の特定の構造を有していないものと判定することができる。
【0197】
また、リテンションタイムに変化が生じない場合に観測されるべき時刻よりも後の分画において対象物質が測定されれば、対象物質は上記の特定の構造を有しているものと判定することができる。さらに、リテンションタイムの変化がどれだけ大きかったか(即ち、どれだけ後になって測定されたか)を測定することにより、上記の相互作用の大きさを感知し、対象物質が有する上記の特定の構造の数も解析可能である。これに加えて、対象物質が2以上の種類のものを含む場合、分画毎に含まれる対象物質の量を測定すれば、どの対象物質がどれだけの特定の構造を有しているかを判定することも可能となる。
【0198】
以上のように、本実施形態のアフィニティークロマト装置20によれば、試料液中の対象物質が、生体物質に対応した特定の構造を有しているか否か、という解析を行なうことが可能である。また、本発明の生体物質構造体は、第3実施形態と同様に、非特異的相互作用を抑制して高効率な分離精製を容易に行なうことが可能なものであるために、対象物質の解析を正確に且つ高感度に行なうことが可能である。
さらに、これを利用して、第2実施形態と同様に、生体物質を相互作用をするために作用物質が有しているべき分子構造を調べることも可能である。
【0199】
また、上記の測定部21の測定結果を、上記の解析を行なう解析部に出力し、当該解析部において対象物質の解析を行なわせることも可能である。例えば、測定部21から出力された測定結果を解析部が読み込み、解析部が、上述したような、リテンションタイムに変化が生じない場合に観測されるべき時刻の分画において対象物質が測定されたか否かによって対象物質が特定の構造を有しているか否か判定するように構成することが可能である。ただし、この場合、解析部には生体物質構造体の種類、それに対応した特定の構造、並びに判定に用いるリテンションタイムの情報などを記憶した記憶部を設けることが好ましい。なお、解析部は、ハードウェアとしては、例えば、コンピュータに当該コンピュータを解析部として機能させるプログラムを読み込ませることなどによって構成することができる。
なお、本実施形態は、第3実施形態と同様に変形することも可能である。
【0200】
(7)生体物質担持体
上記の第1〜第4実施形態で用いたアフィニティー用容器やアフィニティー分離用チップなどのように、アフィニティー精製用若しくは医薬作用機構解析用のツールとして本発明の生体物質構造体を用いる場合、条件によっては固相担体に固定して、生体物質担持体として用いることが望ましい。
【0201】
生体物質担持体は、何らかの固相担体に本発明の生体物質構造体を固定したものをいう。この場合、固相担体とは、表面に本発明の生体物質構造体を固定化するための基体となるものである。本発明で用いる固相担体に制限は無く、本発明の生体物質構造体を形成する対象となるものであれば、任意の材質、形状、寸法のものを用いることができる。
【0202】
固相担体の材質の例を挙げると、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、アクリル系樹脂等の各種樹脂材料、ガラス、アルミナ、炭素、金属等の無機材料などが挙げられる。なお、固相担体の材質は1種を単独で用いたものでもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用したものであっても良い。
【0203】
また、固相担体の形状の例を挙げると、平板状、粒子状、繊維状、膜状、シート状などが挙げられる。具体例としては、多数の生体物質を配列させることができるチップ(基板)、スライドガラス、ファイバースライド、マイクロタイタープレート等の平板状部材や、クロマトグラフィー担体やラテックス診断薬としてのビーズ、分離膜として利用されている中空糸繊維や多孔質膜などが挙げられる。
中でも、上記の第3、第4実施形態のような流路を有するチップを形成する場合には、流路の形状や寸法なども用途に応じて任意に形成することができる。ただし、生体物質構造体を基板等に固定化する場合は別段不要であるが、単に流路14B内に生体物質構造体を充填して保持させるようにした場合などにおいては、流路14B内から生体物質構造体が流出することを防止するべく、フィルタ等の流出防止手段を設けることが好ましい。
【0204】
さらに、上記固相担体は、そのまま使用してもよいが、何らかの表面処理を施してから表面に生体物質構造体を形成するようにしても良い。
例えば、金属や金属酸化物などの被覆材料で表面を被覆してから生体物質構造体を形成するようにしても良い。このような被覆処理を行なってもよい固相担体の具体例としては、金属被覆チップ、スライドガラス、ファイバースライド、シート、ピン、マイクロタイタープレート、キャピラリーチューブ、ビーズ等が挙げられる。
【0205】
また、例えば、固相担体と生体物質構造体とを結合させるために、表面処理として官能基を固相担体に導入しても良い。その官能基は任意であるが、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基、アミノアルデヒド基、ヒドラジド基、カルボニル基、ヒポキシ基、ビニル基、アミノ基、スクシンイミド基等の、化学結合により固相担体と生体物質構造体とを結合させる官能基が挙げられる。
【0206】
また、本発明の生体物質構造体製造時に媒質(溶媒)として水を用いる場合には、アルキル基、フェニル基等の疎液相互作用による物理吸着によって固相担体と生体物質構造体とを結合させる官能基を用いることもできる。なお、導入する官能基は1種であってもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0207】
表面処理の具体例を挙げると、例えば、固相担体表面に対して、金で被覆する表面処理を行なった場合には、
【化2】

などを金表面に固定する処理が挙げられる。ただし、上記の構造式において、n1,n2はそれぞれ独立に2以上の整数を表わす。
【0208】
さらに、本発明の生体物質構造体を上述した固相担体と結合させるための具体的な操作も任意である。例えば、あらかじめ生体物質構造体を用意して、それを固相担体と結合させてもよいし、生体物質、結合用化合物等の生体物質構造体の各成分を別々に用意し、固相担体上でそれらを混合させて生体物質構造体を製造しながら、同時に固相担体に結合させても良い。具体的には、例えば、生体物質を含む溶液(水溶液等)と結合用化合物を含む溶液(水溶液等)とを固相担体上に各々供給した後に、固相担体上で両溶液を混合する等により行なうことができる。また、予め混合物を用意しておく場合、供給前の混合物中で前述したコンジュゲート、粒子状塊又は生体物質構造体を作製しておき、その後、混合物を固相担体に供給するようにしても良い。
【0209】
生体物質構造体を固相担体に結合させる方法及び条件は任意であるが、生体物質の変性等を避ける観点から、温度条件は、通常25℃以下、好ましくは10℃以下で行なうことが望ましい。
また、固相担体への固定後の混合物を乾燥、濃縮する場合、その際の圧力条件も任意であるが、通常は、常圧以下が望ましい。
【0210】
さらに、生体物質構造体を固相担体に固定するには、混合物の供給後、所定の時間だけ固相担体を静置することが望ましい。静置の時間は任意であるが、通常24時間以下、好ましくは12時間以下が望ましい。
【実施例】
【0211】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、実施例の説明において、特に断らない限り、「%」は「重量%」を表わす。
【0212】
[固相担体に固定していない生体物質構造体を用いたアフィニティー精製]
(1)結合用化合物(ポリマーA)の合成
モノマーであるN−アクリロイルモルファリン(NAM、KOHJIN社製)1.13重量部及びN−アクリロイロキシスクシンイミド(NAS、ACROS ORGANICS社製)0.33重量部と、溶媒である脱水ジオキサン(和光純薬工業株式会社製)18.03重量部とをよく混合し、50mLの四つ口フラスコにそそぎ入れ、室温で30分間窒素にて脱気を行ない、モノマー溶液を調製した。
【0213】
このモノマー溶液をオイルバスにて60℃に昇温し、重合開始剤アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、キシダ化学株式会社製)0.0016重量部を脱水ジオキサン0.5gに溶かした溶液を入れることにより、重合を開始した。重合は窒素雰囲気下、8時間行なった。
重合後、ポリマーが生成した溶液は、0.5Lのジエチルエーテル(国産化学株式会社製)に滴下することにより再沈殿させた後、溶媒を除去することにより粉末化し、結合用化合物ポリマーAを得た。
【0214】
得られたポリマーAについて、標準ポリスチレンで校正されたSEC(Size Exclusion Chromatography)測定を行なった結果、ポリマーAの重量平均分子量(Mw)が約15
0000と見積もられた。
また、得られたポリマーAに含まれるNASとNAMとのモル比(NAS/NAM)は、1H−NMR測定からNAS/NAM=30/70と見積もられた。
さらに、ポリマーAを蒸留水にて0.2%、0.4%、0.6%の濃度に調整し、光子相関計ALV5000(ALV社製)により、測定角30°、40°、50°及び60°にて、動的光散乱法で測定したところ、ポリマーAの平均の流体力学的半径は6.8nmと見積もられた。
【0215】
(2)生体物質構造体Aの作製
エッペンドルフチューブ(以下適宜、「エッペンチューブ」という)内に、生体物質であるマウスIgG(LAMPREBIOLOGICAL LABORATORIES社製;Mw=150kDa)と結合用化合物ポリマーAとを、両者の重量比率がマウスIgG:結合用化合物ポリマーA=10:1になるようにHEPESバッファー(10mM、pH7.4)で調製した液を500μLいれ、そのまま、常温減圧乾燥により、生体物質構造体を形成した。なお、ここで調製した液中におけるマウスIgG及び結合用化合物ポリマーAの合計濃度は10mg/mLであった。
【0216】
その後、生体物質構造体を濃縮・乾燥した。この生体物質構造体にHEPESバッファー1mLを加え、遠心操作(5000rpm、10分;以下、遠心操作は、特に断りがない限り、本条件で行なった)により、浮遊している生体物質構造体を沈殿させ、上清を取り除いた。
さらに、HEPESバッファー1mL加え、同じ操作をさらに2回行なった。
【0217】
次に、未反応のスクシンイミド基をブロッキングする目的で、1Mのエタノールアミン(pH8.5)1mLを加え、15分間室温で浸漬し、遠心操作にて、上清を取り除いた。
さらに、ポリマーAと共有結合していないマウスIgGを取り除く目的で、1MになるようにKClをHEPESバッファー1mLで調製した溶液(1M KCl−HEPES)を15分間浸漬し、上清を取り除き、さらにグリシンバッファー(10mM、pH1.7)を加え、遠心操作により、上清を取り除いた。最後にHEPESバッファー(pH7.4)を1mL加え、遠心操作により、上清を取り除き、生体物質構造体Aを得た。
【0218】
(3)生体物質構造体Aを用いたアフィニティー精製
ウサギ血清(NRS)(タンパク質濃度約70mg/mL)に、ウサギ血清アンチマウス−Fab’(マウスIgGと特異的相互作用をする精製分離特定対象物質A)(イムノプローブ社製、Mw=約50kDa)の濃度が100μg/mLになるようにウサギ血清アンチマウス−Fab’(4.3mg/mL)を加えた液(混合溶液A)を、前述(2)の生体物質構造体Aを入れたエッペンチューブに1mL加え、30分間浸漬し、遠心操作で上清を分離した(上清A)。
【0219】
さらに、これに1mLのHEPESバッファーを加え、遠心操作にて上清を取り除いた。これをさらに4回繰り返した。
その後、1M KCl−HEPES溶液を1mL加え、遠心操作により洗浄を行なった(洗浄A)。
さらに、特異的に結合した対象物質を回収するために、グリシンバッファー(10mM、pH1.7)水溶液を1mL加え、10分間浸漬した。その後、遠心操作により、上清(精製A)を回収した。
【0220】
その後、これらの、混合溶液A、対象物質A、上清A、洗浄A、精製Aに対して、SDS−PAGEによる電気泳動を行ない、その後、銀染色法により、電気泳動ゲルを染色した。分子量マーカーとしては、フルレンジレインボーマーカーPRN800(アマシャム社製)を用いた。その結果を図6に示す。
精製Aにおいては、対象物質であるFab’に対応するもののみが観測されることから、上記の精製操作により、非特異吸着物質をほとんど混入することなくなく、分離精製することができたことが確認された。
【0221】
[生体物質構造体の構造及び組成の分析]
(4)生体物質構造体基板1の作製
生体物質構造体を担持する固相担体として、大きさが縦2.5cm×横2.5cm×厚さ1.2mmの平板状ポリカーボネート製の基体表面に、厚さ約80nmで金を蒸着したものを用いた。この基板を10mMの16−メルカプトヘキサデカン酸(16−MERCAPTOHEXADECANOIC ACID;ALDRICH社製)エタノール溶液に浸漬させ、室温で12時間反応させ、表面処理を行なった。反応終了後、基板をエタノールで洗浄した。この表面処理は、基板表面に金−硫黄結合を介してカルボキシル基を導入するための処理である。
【0222】
次に、0.1MのN−ヒドロキシスクシイミド(NHS、和光純薬工業社製)水溶液1mLと0.4Mの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC、同仁化学研究所製)水溶液1mLとを混合し、さらに脱塩水18gで希釈した溶液に、上記のカルボキシル基を導入した基板を浸漬させ、15分間反応させた。これは、基板表面に、基板と生体物質構造体とを結合させることができるスクシンイミド基を導入するためである。
【0223】
マウスIgGとポリマーAとを重量混合比10:1(生体物質:結合用化合物)で混合した混合物を、基板の表面に20μLだけスポッテイングした。これを飽和蒸気圧下で30分放置した後、室温にて乾燥し、未反応の活性エステル基をエタノールアミンでブロッキングした。
その後、基板を1M−KClのHEPESバッファーに浸漬し(15分×2回)、さらにグリシンバッファー(10mM、pH1.7)に浸漬し(15分×1回)、未反応のタンパク質を洗浄した。
その後、脱塩水でよく洗浄し、乾燥して、生体物質構造体基板1を得た。
【0224】
(5)生体物質構造体基板1を用いたアフィニティー精製
NRSに、アンチマウスFab’(対象物質1)の濃度が100μg/mLになるようにアンチマウスFab’を添加した溶液(混合溶液1)を、生体物質構造体基板1上に100μL滴下した。飽和蒸気圧下で30分間放置し、サンプルを回収し(Flow through1)、その後生体物質構造体基板1を洗浄した。洗浄は、脱塩水によって予備洗浄し、1M−KClのHEPESバッファーに浸漬した(15分×3回)。
【0225】
さらに、抗原抗体反応で結合したアンチマウスFab’を回収する目的で、生体物質構造体基板1をグリシンバッファー(10mM、pH1.7)に浸漬し、そのグリシンバッファーごとアンチマウスFab’を回収した(精製1)。その後、これらの、混合溶液1、対象物質1、Flow through1、精製1に対して、SDS−PAGEによる電気泳動を
行ない、その後、銀染色法により、電気泳動ゲルを染色した。その結果を図7に示す。精製1において、分離対象対象物質であるFab’が非特異吸着物質が混入することなく、分離精製することができた。
【0226】
(6)生体物質構造体基板1の構造の観察
生体物質構造体基板1の表面に形成されている生体物質構造体の、断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、表面をAFM(原子間力顕微鏡)で観察した。図8にSEMによる観察結果を表わす図面代用写真を示し、図9にAFMによる観察結果を表わす図面代用写真を示す。
図8,9より、得られた生体物質構造体は、生体物質と結合用化合物で形成された粒径100nm以下の粒子状塊が連なって結合した構造となっていることが確認された。
【0227】
(7)生体物質構造体基板1の構造体の成分分析
基板に混合物を1μLずつ40スポットした以外は前述(4)と同様にして、成分分析用生体物質構造体基板を作製した。
そして、成分分析用生体物質構造体基板上の生体物質構造体を塩酸で加水分解し、生じたアミノ酸量からIgGを定量した。さらに、加水分解物中のポリアクリル酸量から、結合用化合物ポリマーAを定量した。
【0228】
具体的には、成分分析用生体物質構造体基板上の生体物質構造体を、6N塩酸、150℃、1hrで加水分解した。その後、塩酸を減圧乾燥し、加水分解物を1%アンモニア水に溶かし、遠心分離(10000rpm、3分)で不溶分を除いた。この加水分解溶液を減圧乾燥後、0.1%アンモニア水1mLに溶かし、100μLをアミノ酸分析、400μLをPAA(ポリアクリル酸)分析に用いた。
【0229】
(アミノ酸分析試料)
上記の加水分解溶液100μLを減圧乾燥し、0.02N塩酸500μLに溶かした。これを遠心式限外ろ過(MWCO:10000、マイクロコンYM−10)し、ろ液10μLをアミノ酸分析した。
【0230】
アミノ酸分析は、以下の表1の条件で行なった。
【表1】

【0231】
(ポリアクリル酸分析試料)
上記の加水分解溶液400μLを遠心式限外ろ過(MWCO:10000)で濃縮し、1%アンモニア水400μLで希釈した。この限外ろ過による希釈−濃縮操作を6回繰り返して低分子成分を除いた。高分子成分を1%アンモニア水で回収し、減圧乾燥してからポリアクリル酸(PAA)分析に供した。
【0232】
PAA分析(反応熱分解GCMS)は、以下の表2の条件で行なった。
【表2】

【0233】
その結果、マウスIgGは390μg、ポリマーAは16.9μg検出され、生体物質構造体中に含まれる生体物質の比率[生体物質の重量/生体物質構造体の重量]は0.958となり、生体物質構造体に含まれる生体物質の重量の比率が極めて高いことが示された。
【0234】
[固相担体に固定した生体物質構造体を用いたアフィニティー精製]
(8)生体物質構造体基板2の作製
マウスIgGをプロテインA(シグマ社製)、HEPESバッファーをリン酸バッファー(pH9)にそれぞれ変更した以外は前述の(4)と同様の方法で、生体物質構造体基板2を作製した。
【0235】
(9)生体物質構造体基板2を用いたアフィニティー精製
NRS(混合溶液2)を、生体物質構造体基板2上に100μL滴下した。飽和蒸気圧下で30分間放置し、サンプルを回収し(Flow through2)、その後生体物質構造体基板2を洗浄した。洗浄は、脱塩水によって予備洗浄し、1M−KClのHEPESバッファーに浸漬した(15分×3回)。さらに、プロテインAに結合したIgGを回収する目的で、生体物質構造体基板2をグリシンバッファー(10mM pH1.7)に浸漬し、そのHCl水溶液ごとアンチマウスIgGを回収した(精製2)。これら、混合溶液2、Flow through2、精製2に対して、SDS−PAGEによる電気泳動を行い、その後、銀染色法により、電気泳動ゲルを染色した。その結果を図10に示す。精製2において、マーカーの分子量が約15万であることから、精製2において得られた物質がIgGであることがわかる。
以上より、対象物質であるIgGが非特異吸着による混入が生じることなく、分離精製することができたことを確認した。
【0236】
[生体物質構造体及び生体物質構造体と相互作用した対象物質の量の測定]
(10)QCM測定
上記の(1)と同様にして、結合用化合物としてポリマー(以下、ポリマーBと呼ぶ)を合成した。この時、NAMは0.564重量部、NASは0.169重量部、ジオキサンは8.75重量部、AIBNは0.008重量部だけ用いた。得られたポリマーBの重量平均分子量(Mw)を測定したところ約86000であり、NASとNAMとのモル比はNA/NAM=30/70であった。
【0237】
上記の(4)で作製した生体物質構造体基板1と同様にして、表面処理したQCM用センサーチップ(イニシアム社製)を用意した。
そのQCM用センサーチップに、(4)で作製した場合と、スポット量を20μLから3μLに変更し、結合用化合物としてポリマーBを使用した以外は同様にして、生体物質としてマウスIgGを有する生体物質構造体をQCM用センサーチップの上に固定した。
【0238】
その後、このQCM用センサーチップを10μg/mLのアンチマウスFab’のHEPESバッファー(10mM,pH7.4)に1時間浸漬した。この際、上記の操作の各段階における吸着挙動を、イニシアム社製QCM AFFNIX Qで測定した。具体的には、表面処理後(即ち、表面処理を行なった後、生体物質構造体を形成する前)、生体物質構造体固定後(即ち、アンチマウスFab’水溶液に浸漬する前)、及びアンチマウスFab’を反応させた後(即ち、アンチマウスFab’水溶液に浸漬した後)のそれぞれについて、測定を行なった。なお、測定はすべて空気中で水分を乾燥させたものを測定値とした。その結果を表3に示す。
【0239】
【表3】

【0240】
生体物質構造体固定後と表面処理後との間の振動数変化量は−42690Hzであり、したがって、生体物質構造体固定後の生体物質構造体の量はQCMセンサーチップ上で約25.6μg/cm2と算出された。
また、アンチマウスFab’反応後と生体物質構造体固定後との間の振動数の変化量は−9306Hzであり、したがって、アンチマウスFab’を反応させた後のQCMセンサーチップ上におけるアンチマウスFab’の吸着量は約5.6μg/cm2と算出され
た。
【0241】
[生体物質構造体を形成させるための条件についての検討]
(11)生体物質構造体基板3の作製
生体物質をマウスIgGからアルブミン(ALBUMIN,PIGシグマ社製)に変更した以外は、前述の(8)と同様の方法で生体物質構造体基板3を作製した。
【0242】
(12)生体物質構造体基板4の作製
生体物質をマウスIgGからストレプトアビジン(PIERCE社製)に変更した以外は、前述の(8)と同様の方法で生体物質構造体基板4を作製した。
【0243】
(13)参照例:グルタルアルデヒドによる参照用基板の作製
ポリマーAに代えてグルタルアルデヒド(東京化成工業社製 分子量100)を用いた以外は前述の(11)と同様にして、参照用の生体物質を担持した基板(参照用基板)を作製した。
【0244】
(14)AFM観察による対比
生体物質構造体基板3,4及び参照用基板をそれぞれAFMによって観察し、その構造を確認した。
さらに、そのAFM像からパワースペクトル解析を行なった。AFM装置はNanoscope IIIa Multimode(Digital Instruments社製)を使用した。測定モードはタッピングモードを使用し、プローブは、SSS−NCH(東陽テクニカ社製 先端半径R<5nm)を用いた。データサンプリング数はx方向512、Y方向512で、大気中で行なった。粒子状塊の確認には、AFM画像500nm×500nmの測定を用いた。パワースペクトル解析には、AFM画像1000nm×1000nmの測定を用いて、解析ソフトにはNanoscope IIIaに付属のPower Spectral Density機能を用いた。
その結果を表わす図面代用写真を図11(a)〜図11(c)に示す。なお、図11(a)は生体物質構造体基板3を観察したものであり、図11(b)は生体物質構造体基板4を観察したものであり、図11(c)は参照用基板を観察したものである。
【0245】
図11(a),(b)ではタンパク質分子よりもはるかに大きい濃淡が観察されている。これにより、図11(a)、(b)のように、適切な条件で結合用化合物を用いた場合には粒子状塊が結合することによって生体物質構造体が形成されることが確認された。
一方、図11(c)で観察される濃淡の大きさはおよそ5〜10nmであり、タンパク質1分子の大きさと同じである。したがって、図11(c)で観察した参照用基板では粒子状塊は見られず、緻密にタンパク質分子がグルタルアルデヒドによって結合された構造となっていることが分かる。これにより、グルタルアルデヒドのような低分子量体の結合用化合物を用いた場合、ポリマーAのような高分子量の結合用化合物を用いた場合とは別の適切な条件で生体物質構造体を調製するようにしなければ粒子状塊を形成することは難しく、したがって、結合用化合物の物性などの条件に応じ、適切な条件で生体物質構造体を調製すべきであることが確認された。
【0246】
また、パワースペクトルの解析結果から、生体物質構造体基板3の波長100nmにおけるパワースペクトルの値は、2D isotropic PSDの値は11300nm4であり、全パワースペクトルの和(It)は39.9nm2であり、波長100nm未満を除いたパワースペクトルの和(Ic)は35.2nm2である。全パワースペクトルの和(It)における、波長100nm未満を除いたパワースペクトルの和(Ic)が占める割合(Ic/It)は、88.2%であることがわかる。
【0247】
生体物質構造体基板4及び参照用基板も同様に測定を行なった。得られた値を表4に示す。この結果から、生体物質構造体基板3及び4ともに波長100nmにおける2D isotropic PSD は100nm4以上あり、波長100nm以上のパワースペクトルの和が全パワースペクトルの30%以上であることがわかるが、参照基板はそれ以下であることが示された。この結果から、生体物質構造体基板3,4の表面には粒子状塊が存在することが確認された。
【0248】
【表4】

【0249】
[膨潤による粒子状塊同士の間の空間の確認]
(15)生体物質構造体基板1の膨潤確認
上記の(7)と同様にして、生体物質構造体基板(以下、生体物質構造体基板6という)を作製し、その代表1スポットに対して、乾燥状態と溶媒による膨潤状態とでの膜厚の測定をAFMにより行なった。溶媒にはHEPESバッファー(10mM、pH7.4)を用い、溶媒浸漬30分後に膜厚を測定した。
その結果、乾燥状態では3.7μmであったものが、溶媒浸漬後は5.2μmに膨潤した。これにより、生体物質構造体基板6上の生体物資構造体においては、粒子状塊の間に空間が形成されていることが確認された。
【0250】
[相関長の測定]
15mlの遠心チューブ内に、アルブミン(ALBUMIN,PIG SIGMA社製)の5重量%溶液(溶媒:pH 9,リン酸バッファー)とポリマーA(実施例1と同手法により合成した。分子量はMw=59500)の5重量%溶液(溶媒:脱塩水)を体積比で20:1,10:1,1:1(アルブミン:ポリマーA)となるように混合した。混合後のリン酸バッファー濃度が10mMとなるように、アルブミンのリン酸バッファー濃度を調整し、さらにトータル体積が550μlとなるようにした。
【0251】
その後、減圧乾燥を行ない、PSAとポリマーAとを反応させ、生体物質構造体を作製した。この生体物質構造体にエタノールアミン水溶液7ml(1M pH8.5)を添加し、ポリマーに含まれる未反応のスクシンイミド基をブロッキングした。
1MのKCl水溶液(10mMリン酸バッファー、pH7.4)7mLで1度洗浄し、さらに脱塩水7mLで2回洗浄を行なった。
【0252】
洗浄したこの生体物質構造体の内部構造を確認するために、静的光散乱測定を行なった。光散乱装置はDyna 3000(大塚電子株式会社)を用いて、脱塩水中で測定を行なった。測定はVv散乱測定で行なった。得られた前方散乱光強度の角度依存性から散乱角依存をデバイ−ブーシェプロットし、その直線性の良いところから、相関長を見積もると、118.5nm(20:1)、70nm(10:1)、118.7nm(1:1)であった。これにより、粒子状塊の構造はサブミクロンオーダーであると見積もることができた。
【産業上の利用可能性】
【0253】
本発明の生体物質構造体及び生体物質構造体の製造方法、並びに、生体物質担持体、対象物質の精製方法、アフィニティークロマトグラフィー用容器、対象物質の解析方法及びセンサーチップは、産業上の任意の分野において使用可能であるが、特に、医療、診断、食品分析、生体分析などの分野に用いて好適である。具体例としては、少量のサンプルで非特異的吸着を抑制したアフィニティー精製もしくは医薬作用等の解析ツールに用いることができる。さらに、例えば、生体物質担持体として、流路などの表面に生体物質構造体を形成したものを用い、この流路に分離精製したい混合溶液を流すことにより、自動化されたアフィニティー精製装置もしくは医薬作用等の解析装置を簡単に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0254】
【図1】(a),(b)は共に、本発明の一実施形態について説明するため、生体物質構造体の構造の例を模式的に示す図である。
【図2】(a),(b)は共に本発明の一実施形態について説明するための図で、(a)は生体物質及び結合用化合物を模式的に示す図、(b)は粒子状塊を模式的に示す図である。
【図3】本発明の一実施形態としてのアフィニティークロマトグラフィー用容器を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態としてのアフィニティークロマトグラフィー装置の概要を模式的に示す図である。
【図5】本発明の一実施形態としてのアフィニティークロマトグラフィー装置の概要を模式的に示す図である。
【図6】本発明の実施例の操作(3)において、マウスIgGを生体物質として作製した生体物質構造体を用いて、ウサギ血清とウサギ血清アンチマウス−Fab’との混合物からアンチマウスFab’をアフィニティー精製した時の各画分のSDS電気泳動パターンを示した図である。
【図7】本発明の実施例の操作(5)において、マウスIgGを生体物質として作製した生体物質構造体基板1を用いて、ウサギ血清とウサギ血清アンチマウス−Fab’との混合物からアンチマウスFab’をアフィニティー精製した時の各画分のSDS電気泳動パターンを示した図である。
【図8】本発明の実施例の操作(6)において、マウスIgGを生体物質として作製した生体物質構造体基板1の断面をSEMにより観察した様子を示した図面代用写真である。
【図9】本発明の実施例の操作(6)において、マウスIgGを生体物質として作製した生体物質構造体基板1の表面をAFMにより観察した様子を示した図面代用写真である。
【図10】本発明の実施例の操作(9)において、プロテインAを生体物質として作製した生体物質構造体基板2を用いて、ウサギ血清からウサギIgGをアフィニティー精製した時の各画分のSDS電気泳動パターンを示した図である。
【図11】(a)〜(c)はいずれも本発明の実施例の操作(14)においてのAFMによる観察結果を表わす図面代用写真であり、(a)は生体物質構造体基板3の表面を観察したものであり、(b)は生体物質構造体基板4の表面を観察したものであり、(c)は参照用基板の表面を観察したものである。
【符号の説明】
【0255】
1 容器本体
2 生体物質構造体
3 アフィニティークロマトグラフィー用容器
10,20 アフィニティークロマトグラフィー装置
11 タンク
12 ポンプ
13 オートインジェクタ
14 アフィニティー分離用チップ
14A 基板
14B 流路
14C チップ装着部
15 流路切替弁
16,17 回収瓶
18 制御部
19 試料液供給部
21 測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体物質、及び、該生体物質と結合可能な化合物が結合してなる粒子状塊が互いに結合してなり、
該粒子状塊の粒径が10μm以下である
ことを特徴とする生体物質構造体。
【請求項2】
該粒子状塊同士の間に空間が形成されている
ことを特徴とする、請求項1に記載の生体物質構造体。
【請求項3】
該生体物質構造体の重量に対する、該生体物質の重量の比率が0.1以上である
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の生体物質構造体。
【請求項4】
乾燥状態で30nm以上の径を有する
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体物質構造体。
【請求項5】
該化合物の少なくとも1種が、該生体物質と結合可能な官能基を2点以上有する
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の生体物質構造体。
【請求項6】
該化合物が無電荷である
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体物質構造体。
【請求項7】
該化合物が、水に混和しうると共に、少なくとも1種の有機溶媒に混和しうる
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の生体物質構造体。
【請求項8】
該化合物の分子量が1000以上である
ことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の生体物質構造体。
【請求項9】
液体中に混和した状態での該化合物の径が1nm以上である
ことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の生体物質構造体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の生体物質構造体の製造方法であって、
上記生体物質と上記化合物とを混合する工程を有する
ことを特徴とする、生体物質構造体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかの1項に記載の生体物質構造体が固相担体に固定されてなる
ことを特徴とする、生体物質担持体。
【請求項12】
該生体物質構造体の厚みが5nm以上である
ことを特徴とする、請求項11に記載の生体物質担持体。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の生体物質構造体と、上記生体物質に特異的に吸着しうる対象物質を含む試料液とを接触させ、
上記生体物質構造体と上記試料液とを分離し、
上記生体物質構造体に結合した上記対象物質を遊離させる
ことを特徴とする、対象物質の精製方法。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の生体物質構造体を保持した流路に、上記生体物質に特異的に相互作用する対象物質を含む試料液を流通させ、
上記流路から流出する溶出液のうち、上記対象物質を含む分画を回収する
ことを特徴とする、対象物質の精製方法。
【請求項15】
流体を収納しうる容器本体と、
該容器本体内に保持された、請求項1〜9のいずれか1項に記載の生体物質構造体とを備えた
ことを特徴とする、アフィニティークロマトグラフィー用容器。
【請求項16】
流路を形成された基板と、
該流路に保持された、請求項1〜9のいずれか1項に記載の生体物質構造体とを備えたことを特徴とする、分離用チップ。
【請求項17】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の生体物質構造体であって、特定の構造を有する物質を特異的に吸着させうる生体物質を用いた生体物質構造体と、対象物質を含有する試料液とを接触させ、
上記生体物質構造体と上記試料液とを分離し、
上記生体物質に吸着した上記対象物質の量を測定して、上記対象物質の構造を解析することを特徴とする、対象物質の解析方法。
【請求項18】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の生体物質構造体であって、特定の構造を有する物質と特異的に相互作用しうる生体物質を用いた生体物質構造体を保持した流路に、対象物質を含む試料液を流通させ、
上記流路から流出する溶出液の分画中の上記対象物質の量を測定して、上記対象物質の構造を解析する
ことを特徴とする、対象物質の解析方法。
【請求項19】
流路を形成された基板、及び、該流路に保持され、特定の構造を有する物質と特異的に相互作用しうる生体物質を用いた請求項1〜9のいずれか1項に記載の生体物質構造体を備える分離用チップと、
該分析用チップの該流路に、対象物質を含む試料液を流通させる試料液供給部と、
該流路から流出する溶出液の分画中の上記対象物質の量を測定する測定部とを備える
ことを特徴とする、対象物質の解析用分離装置。
【請求項20】
流路を形成された基板、及び、上記流路に保持され、特定の構造を有する物質と特異的に相互作用しうる生体物質を用いた請求項1〜9のいずれか1項に記載の生体物質構造体を備える分離用チップを装着するチップ装着部と、
該チップ装着部に上記分析用チップを装着した場合に、上記流路に、対象物質を含む試料液を流通させる試料液供給部と、
上記流路から流出する溶出液の分画中の上記対象物質の量を測定する測定部とを備えることを特徴とする、対象物質の解析用分離装置。
【請求項21】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の生体物質構造体を備えた
ことを特徴とするセンサーチップ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−57518(P2007−57518A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68318(P2006−68318)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】