説明

生体由来移植用組織の石灰化を抑制するための処理方法および処理された組織

【課題】
本発明は、石灰化など、移植における問題を解決した移植用組織を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明者らは、未処理組織に生体適合性高分子を含ませ、これにγ線照射を暴露させることによって、予想外に組織が強化され、石灰化が抑制されたことを見出し、上記課題を解決した。従来、生体由来組織の脱細胞化が石灰化抑制のポイントであるとの認識があったが、γ線照射でも、脱細胞化以上の効果を達成しうることが本発明によって示された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単離された生体由来組織(未処理組織)を強化するための方法およびシステム、ならびにそのような強化方法によって調製された組織、組織グラフトなどを利用した医薬および治療方法に関する。具体的には、本発明は、生体由来移植用組織の石灰化を抑制するための処理方法および処理された組織に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器(例えば、心臓、血管など)の移植に外来性組織を使用する際の主な障害は免疫拒絶反応である。同種異系移植片(または同種移植片、allograft)および異種移植片(xenograft)で起こる変化が最初に記述されたのは90年以上前のことである(非特許文献1〜2および4〜5)。動脈移植片の拒絶反応は、病理学的には移植片の拡張(破裂に至る)または閉塞のいずれかを招く。前者の場合、細胞外マトリクスの分解により生じ、他方で、後者は血管内細胞の増殖により起こるといわれている(非特許文献6)
従来、これらの物質の拒絶反応の軽減を目指して2つの戦略が採用されてきた。ひとつは、宿主の免疫反応を低下させた(非特許文献7;および非特許文献8)。もうひとつは主に架橋結合により同種移植片または異種移植片の抗原性の低下を図った(非特許文献9;および非特許文献10)。細胞外マトリクスの架橋結合は移植片の抗原性を低下させるが、生体工学的機能(非特許文献11;および非特許文献12)が変化し、無機質化に感受性を示すようになる(非特許文献13)。
【0003】
細胞外マトリクス中の細胞は、拒絶反応を引き起こし得る組織適合性クラスIおよびII抗原を有する。また、その他に宿主の免疫系が特定できる細胞由来の糖化タンパク質があり、拒絶反応が引き起こされる。故に、このような物質を細胞外マトリクスから除去すれば、拒絶反応を防ぐことができる。ただ、全ての抗原を完全に除去するのは非常に困難であり実証が難しい。Maloneら(非特許文献15)およびLalkaら(非特許文献16)は、「細胞のない」動脈同種移植片(同種動物への移植片)を移植したマトリクスも免疫応答反応を刺激したが、一方で血管内増殖と内皮細胞の生着も認められたと報告した。つい最近では、O’Brianらが、脱細胞化したブタ組織は心血管移植に応用が可能であり、ヒツジに植込んだ際には超急性拒絶反応を示さなかったと報告した(非特許文献17)。
【0004】
心血管疾患(冠状動脈および末梢血管の疾患を含む)は、手術による置換療法(により処置されている。心血管疾患の症例は、世界中でこのところ増加している。直径が小さな血管の場合は、置換療法を適用することは困難である。直径が小さい場合、バイパス手術では、自己由来の静脈または動脈の移植片が使用される(非特許文献18〜20)。静脈および動脈の移植片が現状ではもっともよい結果が得られているが、複雑な手術を必要とし、ある疾患の患者では適切な血管が得られないといった欠点も存在する。その結果、直径が細い血管に適切な人工血管が必要とされている。自己移植片または同種異系移植片の使用を減少させるために、人工材料の開発に向けた開発がなされた。しかし、人工材料の場合、四肢末梢および冠状動脈のバイパス移植手術に必要な細い直径の動脈(6mm未満)の構築に適切なものはない。他方、心臓血管の場合、天然の組織移植片もまた臨床応用における生体材料としての可能性が試されている。異種移植片および同種異系移植片の組織の使用は、代表的には、化学的または物理的な処理が必要である(例えば、グルタルアルデヒド固定)。架橋技術は、組織のコラーゲンベースの構造を安定化するのに手順も調べられ、理想的な手順であることが見出された(非特許文献21)。
【0005】
しかし、移植には、長期的な視点から石灰化という問題がある。グルタルアルデヒド処理の際の石灰化という有害な副作用は、生体人工心臓弁の欠陥の主な原因である(非特許文献22;および非特許文献23)。天然の組織移植片の別の方法として、完全に無細胞とした組織マトリクスを生産することが試みられている。この生産は、石灰化を促進し、免疫学的応答を惹起すると考えられる細胞成分を特異的に除去することによる。これらの脱細胞化技術としては、化学的手段、酵素学的手段、および機械的手段での細胞成分の除去が挙げられる。この処理によって、本質的に細胞外マトリクス成分から構成される材料が残る。これらの脱細胞化組織は、天然の機械的特性を保持し、再生を促進する。再生は、宿主による新血管形成および再細胞化のプロセスによって生じる。代表的な細胞抽出方法である界面活性剤処理は、生体材料移植片として使用するために完全に脱細胞化された組織を作製する手段として実施されてきた。なぜなら、処理された組織内に残る細胞成分、脂質および残留界面活性剤は、石灰化のような所望されない効果を促進し得るからである(非特許文献24;非特許文献25;非特許文献26;および非特許文献27)。クロロホルム/メタノールまたはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)のいずれかでの処理によるウシ心膜からの脂質除去は、ラットモデルにおいて組織の石灰化を減少させた(非特許文献28)。最近、Sunjayet al.は、脱細胞化血管移植片が内皮前駆体細胞(EPC)により皮質化(cort)したことを実証した。なぜなら、これらの移植片は、十分に保存された細胞外マトリクスおよび動脈を含む天然の血管に類似する機械的特性を有するからである(非特許文献29)。この研究者らは、末梢血から内皮前駆体細胞(EPC)を単離し、そしてこのEPCを脱細胞化ウシ回腸血管に播種した。このEPCを播種した脱細胞化移植片は、130日目までにインビボで新生血管を発達させ、NO媒介される血管弛緩が生じた。
【0006】
石灰化を防止するための別の技術として、未処理組織においてPEG等をin situでUV照射または化学反応によって重合させることにより移植用生体組織の石灰化作用を低減させる試みが最近公開された(WO2005/042044=特許文献4)。この公開公報では、重合反応の例としては、A:ビニルモノマー、架橋モノマーおよび光重合開始剤を混合した上でUV照射を行う方法や、B:アミノ基やチオール基などの求核基を有するPEG等ポリマーと、α,β-不飽和基を有するPEG等ポリマーとを求核反応させる方法などが開示されている。この場合の効果として、初期の炎症反応が抑制されること、および長期にわたって石灰化が抑制されることが開示されている。しかし、炎症反応の抑制は、実際の治療現場を考慮した場合不十分であり、石灰化の抑制もまた不十分でないようであり、この技術には欠点が存在する。
【0007】
また、特許文献4の方法では、free radical initiator (フリーラジカルを発生する重合開始剤)が必要である。一般論として、これらが残留したまま体内に移植されると毒性などを示す可能性があり生体移植されると問題が発生する可能性が高い。
【0008】
特許文献4の10頁においては、各種重合開始剤(initiator)が残存したまま移植された場合の有害性については、おおむね以下のようなものが考えられる。(1)thermalinitiators:温度が上がると周辺のタンパク質が変性し有害となる可能性がある。(2)peroxy compounds:周辺のタンパク質などと徐々に反応して架橋などを起こし有害となる可能性がある。(3)azocompounds:周辺のタンパク質などと徐々に反応して架橋などを起こし有害となる可能性がある。(4)photo initiators:光があたると周辺のタンパク質などと架橋などを起こし有害となる可能性がある。(5)redoxinitiators:酸化還元反応によりラジカル反応を起こし、周辺のタンパク質などと架橋などを起こし有害となる可能性がある。このように重合開始剤には種々の問題が存在し、石灰化の危険性も残存する。
【0009】
このように、当該分野において、石灰化の防止など、生体適合性、生体定着性等を改善させるべく、組織を強化させる必要がある情況も存在することから、さらなる移植用組織の改善が当該分野において求められている。
【特許文献1】特開2002-543950号
【特許文献2】特開2001-78750号
【特許文献3】WO89/05371号
【特許文献4】WO2005/042044
【非特許文献1】CarrelA.,1907,J Exp Med 9:226-8
【非特許文献2】CarrelA.,1912.,J Exp Med 9:389-92
【非特許文献3】新岡俊治、今井康晴、瀬尾和宏ほか;テッシュエンジニアリングによる心血管材料の開発、応用。日心臓血管外会誌2000;29:38
【非特許文献4】CalneRY.,1970,Transplant Proc 2:550
【非特許文献5】Auchincloss1988,Transplantation 46:1
【非特許文献6】UretskyBF,Mulari S,Reddy S,et al.,1987,Circulation 76:827-34
【非特許文献7】Schmitz-RixenT,Megerman J,Colvin RB,Williams AM,Abbot W.,1988,J Vasc Surg 7:82-92
【非特許文献8】Plissonnier D,et al.,1993,Arteriosclerosis Thromb 13:112-9
【非特許文献9】Rosenberg N,et al.,1956,Surg Forum 6:242-6
【非特許文献10】Dumont C,Pissonnier D,Michel JB.,1993,J Surg Res 54:61-69
【非特許文献11】Cosgrove DM,Lytle BW,Golding CC,et al.,1983,J Thorac CardiovascSurgery 64:172-176
【非特許文献12】BroomN,Christie GW.,1982,In:Cohn LH,Gallucci V,editors.Cardiac bioprostheses:Proceedingsof the Second International Symposium.New York:York Medical Books Pages 476-491
【非特許文献13】SchoenFJ,Levy RJ,Piehler HR.,Cardiovasc Pathology 1992;1:29-52
【非特許文献14】J ThoracCardiovasc Surg 1998;115;536-46
【非特許文献15】Malone JM,BrendelK,Duhamel RC,Reinert RL.,1984,J Vasc Surg 1:181-91
【非特許文献16】Lalka SG,OelkerLM,and Malone JM,et al.,1989,Ann Vasc Surg 3:108-17
【非特許文献17】O’Brien MF,etal.,1999(October),Seminars in Thorac and Cardiovasc Surg;111(4),Suppl 1:194-200
【非特許文献18】CanverCC.,1995,Chest 1995;108 1150-1155
【非特許文献19】BarnerHB.,1998,Ann Thorac Surg 66(Suppl 5)S2-5;discussion S25-28
【非特許文献20】Bhan A,GuptaV,Choudhary SK,etal.,1999,Ann Thorac Surg 1999;67 1631-1636)
【非特許文献21】Hilbert SL,Ferrans VJ,Jone M.,1988,Med Prog Technol 89;14,115-163
【非特許文献22】Rao KP,Shanthi C.,1999,Biomatrials Appl 13:238-268
【非特許文献23】Grabenwoger M,Sider J,Fitzal F,et al.,1996,Ann Thorac Surg 62;772-777
【非特許文献24】Valente M,Bortolotti U,Thiene G,,1985,Am J Pathol 119,12-21
【非特許文献25】Maranto AR,Shoen FJ,1988,ASAIO Trans 34,827-830
【非特許文献26】Courtman DW,Pereira CA,Kashef V,McComb D,Lee JM,Wilson GL,1994,J BiomedMater Res 28:655-666
【非特許文献27】Levy RJ,Schoen FJ,Anderson HC,et al.,1991,Biomaterials 12:707-714
【非特許文献28】Jorge-Herrero E,Fernandez P,Gutierrez MP,Castillo-OlivaresJL,1991,Biomaterials 12:683-689
【非特許文献29】Sunjay Kaushal,Gilad E.Amiel,Kristine J.Guleserian,et al.2001,NatureMedicine Vol.9,1035-1040
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の技術によって調製された移植用組織は、石灰化などの面において、問題が残存する。多くの研究者が移植用組織の物理学的特性および生物学的特性を含む多数の有用性を認識している。しかし、現状で入手可能な移植用組織は、石灰化および免疫惹起反応のような欠点が存在し、さらなる改善が必要とされている(Christine E.Schmidt,Jennie M.Baier.,2000,Biomaterials 21:2215-2231)。従って、本発明は、石灰化など、移植における問題を解決した移植用組織を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、未処理組織に生体適合性高分子を含ませ、これにγ線照射を暴露させることによって、予想外に組織が強化され、石灰化が抑制されたことを見出し、上記課題を解決した。本発明者らは、組織を、生体適合性高分子に曝し、かつ、γ線に暴露させることによって、予想外に強い補強効果もまた見出した。従来、生体由来組織の脱細胞化が石灰化抑制のポイントであるとの認識があったが、γ線照射でも、脱細胞化以上の効果を達成しうることが本発明によって示された。
【0012】
このようにして作られた生体由来組織は、石灰化が顕著に抑制されている。本発明の生体由来組織は、例えば、永久に使える人工血管として使用することも可能である。このように、本発明の生体由来組織の有用性は広汎にわたるといえる。
【0013】
しかも、本発明により補強された生体由来組織は、組織強度が予想外に顕著に改善された。このような効果は、従来技術では決して達成することができなかった予想外の効果であり、このように補強された生体由来組織および組織グラフトを提供することができたという事実は、移植医学において格別の進歩をもたらすといえる。
【0014】
従って、本発明は、以下を提供する。
(1)生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織。
(2)上記生体由来組織は、脱細胞化処理を受けていないことを特徴とする、項目1に記載の生体由来組織
(3)細胞外マトリクス成分が少なくとも一部が共有結合で架橋されていることを特徴とする、項目1に記載の生体由来組織。
(4)上記細胞外マトリックス成分は、コラーゲン、エラスチン、ラミニン、フィブロネクチン、テネイシン、グリコサミノグリカンおよびプロテオグリカンからなる群より選択される、項目3に記載の生体由来組織。
(5)上記生体適合性高分子は、上記生体由来組織をコーティングする、項目1に記載の生体由来組織。
(6)上記生体適合性高分子は、上記生体由来組織に架橋されている、項目1に記載の生体由来組織。
(7)上記γ線照射は、10kG〜250kGの間の線量で提供される、項目1に記載の生体由来組織。
(8)上記γ線照射は、25kG〜50kGの間の線量で提供される、項目1に記載の生体由来組織。
(9)上記生体適合性高分子は、生分解性である、項目1に記載の生体由来組織。
(10)上記生体適合性高分子は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、エラスチン、ポリエチレングリコール(PEG)、ゼラチン、コラーゲン、γ-ポリグルタミン酸およびそれらの2つ以上の混合物からなる群より選択される群より選択される高分子を含む、項目1に記載の生体由来組織。
(11)上記生体適合性高分子は、ポリエチレングリコール(PEG)を含む、項目1に記載の生体由来組織。
(12)上記ポリエチレングリコール(PEG)は、分子量1000〜200,000の範囲内にある、項目11に記載の生体由来組織。
(13)上記ポリエチレングリコール(PEG)は、分子量8,000から50,000の範囲内にある、項目11に記載の生体由来組織。
(14)上記生体由来組織は、臨床適用することができる組織強度を有する、項目1に記載の生体由来組織。
(15)上記生体由来組織は、移植したときに石灰化が顕著に抑制される、項目1に記載の生体由来組織。
(16)上記生体適合性高分子は、ランダムに架橋されていることを特徴とする、項目1に記載の生体由来組織。
(17)上記生体由来組織は、膜状組織、弁状組織または管状組織である、項目1に記載の生体由来組織。
(18)上記生体由来組織は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨から選択されるものの組織である、項目1に記載の生体由来組織。
(19)上記生体由来組織は、哺乳動物由来である、項目1に記載の生体由来組織。
(20)上記生体由来組織は、ヒト、ウシまたはブタ由来である、項目1に記載の生体由来組織。
(21)項目1に記載の生体由来組織を含む、移植用の組織グラフト。
(22)上記組織グラフトは、膜状、管状および弁状からなる群より選択される形状を有する、項目21に記載の組織グラフト。
(23)移植用の組織を生産する方法であって、
A)生体由来組織を提供する工程;
B)生体適合性高分子に上記生体由来組織を曝す工程;および
C)上記生体由来組織をγ線照射に曝す工程、
を包含する、方法。
(24)上記γ線照射は、上記生体適合性高分子に化学反応が起こる条件下で行われる、項目23に記載の方法。
(25)上記γ線照射は、10kG〜250kGの間の線量で提供される、項目23に記載の方法。
(26)上記γ線照射は、25kG〜50kGの間の線量で提供される、項目23に記載の方法。
(27)上記γ線照射は、真空、酸素中、窒素中、大気中、水中、両親媒性分子溶液中およびそれらの組み合わせからなる群より選択される環境下で行われる、項目23に記載の方法。
(28)上記γ線照射は、0.5〜240時間の範囲で行われる、項目23に記載の方法。
(29)上記生体適合性高分子は、生分解性である、項目23に記載の方法。
(30)上記生体適合性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エラスチン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、コラーゲン、γ-ポリグルタミン酸およびそれらの2つ以上の混合物からなる群より選択される群より選択される高分子を含む、項目23に記載の方法。
(31)上記生体適合性高分子は、ポリエチレングリコールを含む、項目23に記載の方法。
(32)上記ポリエチレングリコールは、分子量1000〜200,000の範囲内にある、項目31に記載の方法。
(33)上記生体適合性高分子は、1%(w/v)〜50%(w/v)の濃度で使用される、項目23に記載の方法。
(34)上記生体由来組織は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨からなる群より選択されるものの組織である、項目23に記載の方法。
(35)上記生体由来組織は、哺乳動物由来である、項目23に記載の方法。
(36)上記生体由来組織は、ヒト、ウシまたはブタ由来である、項目23に記載の方法。
(37)項目27に記載の方法によって得られる、生体由来組織。
(38)組織の再生方法であって、
a)生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織を、生体内に提供する工程;および
b)上記生体内で組織再生が生じるに十分な時間インキュベートする工程、
を包含する、方法。
(39)上記生体由来組織は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨からなる群より選択されるものの組織である、項目38に記載の方法。
(40)組織グラフトを生産する方法であって、
A)生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織を生体内に提供する工程;
B)上記生体由来組織に上記生体の自己細胞を侵入させる工程;および
C)上記細胞の分化が生じるに十分な時間インキュベートする工程、
を包含する、方法。
(41)上記生体由来組織は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨からなる群より選択されるものの組織である、項目40に記載の方法。
(42)上記生体由来組織は、自己由来である、項目40に記載の方法。
(43)上記脱細胞組織は、同種異系宿主由来である、項目40に記載の方法。
(44)上記脱細胞組織は、異種宿主由来である、項目40に記載の方法。
(45)項目40に記載の方法によって生産された、組織グラフト。
(46)組織または臓器移植を必要とするかまたは上記危険にある被験体の処置または予防の方法であって、
A)生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織、または上記生体由来組織を含む組織グラフトを提供する工程;および
B)上記生体由来組織または組織グラフトを被験体に移植する工程、
を包含する、方法。
(47)上記生体由来組織は、上記被験体由来である、項目46に記載の方法。
(48)上記生体由来組織は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨から選択されるものの組織である、項目46に記載の方法。
(49)上記被験体は、哺乳動物である、項目46に記載の方法。
(50)上記被験体は、ヒトである、項目46に記載の方法。
(51)臓器移植のための医薬であって、
A)生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織、または上記生体由来組織を含む組織グラフト、
を含む、医薬。
(52)上記生体由来組織は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨から選択されるものの組織である、項目51に記載の医薬。
(53)上記生体由来組織は、哺乳動物由来である、項目51に記載の医薬。
(54)上記生体由来組織は、ヒト、ウシまたはブタ由来である、項目51に記載の医薬。
(55)上記生体由来組織は、上記移植を必要とする被験体由来である、項目51に記載の医薬。
(56)生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織、または上記生体由来組織を含む組織グラフトの、臓器移植のための医薬を製造するための使用。
【0015】
従って、本発明のこれらおよび他の利点は、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明を読みかつ理解すれば、当業者には明白になることが理解される。
【発明の効果】
【0016】
石灰化が顕著に抑制された生体由来組織が提供される。石灰化の抑制は、UV照射、科学的処理などの他の方法に比べて、γ線照射が顕著に抑制されていた。本発明ではまた、強度が補強、改善または維持された生体由来組織が提供される。従って、本発明は、生体由来組織を補強し、免疫拒絶反応を低減させるという効果を奏する。
【0017】
上記処理方法によって処理された移植用組織は、従来の技術によって調製された移植用生体組織に比べて、石灰化が顕著に抑制されるという有利な効果を示す。
【0018】
作用メカニズムについては、A:PEG等のゲル化による細胞浸潤の阻害、もしくはB:細胞外マトリックス(ECM)を含む生体組織の成分がPEGにより修飾されることによる免疫原生の抑制などが考えられるが、これに限定されない。
【0019】
γ線照射による重合反応が従来の重合反応に比べて有利な理由については、例えば以下のようなものが予想されるが、これに限定されない。
【0020】
従来の重合反応は比較的制御された化学反応であるのに対し、γ線照射では比較的ランダムにPEG分子間に架橋が導入されると考えられ、そのことが石灰化のより効果的な抑制に繋がっていると考えられる。
【0021】
また、従来のfree radical initiator (フリーラジカルを発生する重合開始剤)を利用した処理における欠点、例えば、これらが残留したまま体内に移植されると毒性などを示す可能性が本発明によって、克服された。本発明の方法は、γ線照射による照射誘導性重合開始反応(radiation induced initiators)によるものであり、放射線によりタンパク質などの高分子のラジカルができるが、比較的短時間で消滅するため、ラジカルは全く残留しないようであり、これは、顕著な効果である。
【0022】
照射された生体組織中のラジカルの寿命については、ヒト真皮由来の移植用の脱細胞化組織(商品名Allorderm, Life Cell Corp.)をシンクロトロン放射光で照射して、コラーゲンマトリクスに生じた超寿命のラジカルをEPRで測定したところ、一時間程度以内でほぼ減衰したという報告がある(RadiationResearch 163, 535-543, 2005)。本発明でも同様の寿命であるようであることから、その悪影響を与えるラジカルは、実質的に問題がないという点で顕著な効果があると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に関して、発明の実施の形態を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など、独語の場合の「ein」、「der」、「das」、「die」などおよびその格変化形、仏語の場合の「un」、「une」、「le」、「la」など、スペイン語における「un」、「una」、「el」、「la」など、他の言語における対応する冠詞、形容詞など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0024】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0025】
(再生医療)
本明細書において使用される「再生」(regeneration)とは,個体の組織の一部が失われた際に残った組織が増殖して復元される現象をいう。動物種間または同一個体における組織種に応じて、再生のその程度および様式は変動する。ヒト組織の多くはその再生能が限られており、大きく失われると完全再生は望めない。大きな傷害では、失われた組織とは異なる増殖力の強い組織が増殖し,不完全に組織が再生され機能が回復できない状態で終わる不完全再生が起こり得る。この場合には,生体内吸収性材料からなる構造物を用いて、組織欠損部への増殖力の強い組織の侵入を阻止することで本来の組織が増殖できる空間を確保し,さらに細胞増殖因子を補充することで本来の組織の再生能力を高める再生医療が行われている。この例として、軟骨、骨および末梢神経の再生医療がある。神経細胞および心筋は再生能力がないかまたは著しく低いとこれまでは考えられてきた。近年、自己組織に由来する組織片を用いた再生医療が注目されている。
【0026】
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本発明の方法においては、どのような細胞でも対象とされ得る。本発明で使用される「細胞」の数は、光学顕微鏡を通じて計数することができる。光学顕微鏡を通じて計数する場合は、核の数を数えることにより計数を行う。当該組織を組織切片スライスとし、ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色を行うことにより細胞外マトリクス(例えば、エラスチンまたはコラーゲン)および細胞に由来する核を色素によって染め分ける。この組織切片を光学顕微鏡にて検鏡し、特定の面積(例えば、200μm×200μm)あたりの核の数を細胞数と見積って計数することができる。
【0027】
細胞は、石灰化および免疫反応惹起の原因となり得る。従って、組織または臓器の移植のためには、細胞に由来する石灰化および免疫反応惹起を抑制する必要がある。
【0028】
本明細書において「細胞の置換」とは、脱細胞化された組織内で、もとあった細胞に代わり、別の細胞が侵入し置き換わることをいい、「細胞の浸潤」ともいう。好ましくは、本発明では、細胞の置換は、移植された宿主の細胞によって行われる。
【0029】
本明細書において「組織」(tissue)または「生体組織」とは、細胞生物において、同一の機能・形態をもつ細胞集団をいう。多細胞生物では、通常それを構成する細胞が分化し、機能が専能化し、分業化がおこる。従って、組織とは、細胞の単なる集合体であり得ず、ある機能と構造を備えた有機的細胞集団、社会的細胞集団としての組織が構成されることになる。組織としては、外皮組織、結合組織、筋組織、血管組織、心臓組織、神経組織などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明が対象とする組織は、生物のどの臓器または器官由来の組織でもよい。本発明の好ましい実施形態では、本発明が対象とする組織としては、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨の組織が挙げられるがそれらに限定されない。本発明で例示的に用いられるミセル化していない状態の両親媒性分子は、細胞成分の抽出に類似する機構で作用することから、原理的にはどの器官由来の組織でも本発明の方法によって処理され得る。従って、本発明の生体適合性高分子での処理は、どのような組織であっても対象とすることができることが理解される。
【0030】
本明細書において「生体由来組織」とは、生体から分離された組織またはその組織を処理したものをいい、特に言及しない場合は、脱細胞化処理を経ていない組織をいうと理解される。本明細書では、生体から取り出した後、特に脱細胞化処理をしていない組織を「未処理細胞」ともいう。そのような生体由来組織については、例えば、生体から分離されたままの組織のほか、そのような組織を生体適合性高分子に暴露させたものなどもこの概念に含まれることが理解される。このような生体由来組織は、移植片として利用される。
【0031】
本明細書において「膜状組織」とは、「平面状組織」ともいい、膜状の組織をいう。膜状組織には、心膜、硬膜、角膜などの器官の組織が挙げられる。
【0032】
本明細書において「臓器」または「器官」(organ)とは、互換的に用いられ、生物個体のある機能が個体内の特定の部分に局在して営まれ,かつその部分が形態的に独立性をもっている構造体をいう。一般に多細胞生物(例えば、動物、植物)では器官は特定の空間的配置をもついくつかの組織からなり、組織は多数の細胞からなる。そのような臓器または器官としては、血管系に関連する臓器または器官が挙げられる。1つの実施形態では、本発明が対象とする器官は、虚血性の器官(心筋梗塞を起こした心臓、虚血を起こした骨格筋など)が挙げられる。1つの好ましい実施形態では、本発明が対象とする器官は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨である。別の好ましい実施形態では、本発明が対象とする器官は、心臓弁、心膜および血管である。
【0033】
移植するための適切な移植片を調製するためには、必要に応じて器官培養をすることが望ましくあり得る。器官培養とは、生体から摘出した胚器官あるいは成熟器官の一部あるいは全体を,その構造、機能および分化能を保持したまま、インビトロで培養することをいう。これに対し、一般の組織培養では、細胞増殖を主たる目的とするために、むしろ脱分化を起こしやすい。器官培養としては、時計皿法,ブロックシャーレ法、支持台法、スポンジ基質法、Trowell法などがあるがこれらに限定されない。タンパク質・核酸・酵素 45、2188−2200(2000)に記載されるような大量細胞培養(例えば、ホロファイバー法、固定床型、スピンフィルター、沈降槽型、灌流培養、循環式器官培養法(circulation type organ culture)など)も用いられ得る。本発明の脱細胞化方法によって調製された器官または組織を培養培地にいれ、その器官培養培地に種々の物質を加えることによって、構造、機能および発育分化への調整、ならびに器官対器官の相互作用などの調節を行うことができる。
【0034】
本明細書において「脱細胞(化)」および「脱細胞(化)する」とは、組織または器官から細胞を除去することをいう。好ましくは、脱細胞化はもとの組織または器官の構造および機能を損傷することなく行われ得る。脱細胞化が行われた組織からは、細胞質成分、細胞質ゾル成分、細胞骨格および細胞膜成分は除去されているが、細胞外マトリクス(ECM)成分(例えば、エラスチン、コラーゲン(I型、IV型など)、ラミニンなど)、組織の構造を保持するために必要な細胞の成分は未変性のまま保持されている。したがって、脱細胞化された組織または器官は、組織または器官の形状、力学的強度、弾性、柔軟性などの諸性質は未処理の組織または器官と実質的に同等であることが好ましい。また、移植後には細胞外マトリクスが未変性であるために、レシピエント側の細胞の侵入、接着、増殖、分化形質の発現、維持に好適な環境を提供し、自己細胞により構成される組織に置き換わることが好ましい。脱細胞化の程度は、細胞残存率を指標に測定することができる。
【0035】
従って、本発明の(未処理)生体由来組織は、このような脱細胞化処理を受けていないことが好ましい。
【0036】
脱細胞化された組織は、MHCクラスIおよびIIタンパク質が除去されていることが好ましい。このようなMHCクラスIおよびIIタンパク質は、SDS PAGEおよび/またはウェスタンブロット分析により確認することができる。他の細胞外マトリクスタンパク質もまた、SDS PAGEおよび/またはウェスタンブロット分析により確認することができる。細胞中の構造タンパク質(コラーゲン、エラスチンなど)はアミノ酸分析(例えば、エドマン分解法など、あるいはPE Biosystemsから入手可能なペプチド分析機器による自動分析など)により評価することができる。その結果により、脱細胞化プロセスのECMへの影響を判断することができる。細胞膜および細胞中に含まれる脂質およびリン脂質は、薄層クロマトグラフィーおよびHPLCを用いて分析することができる。糖鎖(例えば、グリコサミノグリカンなど)は、アガロースゲル電気泳動などにより分析することができる。この分析により、細胞外マトリクスのグリコサミノグリカン組成のほか、α−Galなどの存在も分析することができる。
【0037】
従って、脱細胞化されていない組織は、上記脱細胞化による特徴を有していないことを確認することによって判定することができる。特に、脱細胞化されていない組織は、本明細書において(1)生体から取り出したばかりの組織(生組織)に比較して細胞残存率が30%以上のものを脱細胞化されていないか、または(2)生体から取り出したばかりの組織(生組織)に比較して可溶性タンパク質の残存率が50%以上であるか、または(3)生体から取り出したばかりの組織(生組織)に比較してDNAの残存率が50%以上であるものとする。
【0038】
本明細書において「細胞残存率」とは、本発明の方法により組織の脱細胞化を行った後に残る生存細胞の、その組織にもともと存在していた細胞に対する比率をいう。本明細書において細胞残存率を測定する方法は、ヘマトキシリンおよびエオシン染色(H&E染色)による顕微鏡による計数法が代表的に用いられ、この方法は、HE染色により染め分けた核を光学顕微鏡により検鏡により計数することを利用する。従って、この方法は例えば、以下の工程を包含する:サンプルをHE染色により染め分ける工程;このサンプルにおいて100mm×100mmの面積に存在する核の数(=細胞数)を計数する工程;必要に応じて計数を複数(例えば、8回)行い、その平均を取る工程;コントロール(例えば、未処理の組織を100%とする)に対する割合を算出する工程を包含する。コントロールに対する割合は、例えば、未処理組織に対する残存核の割合を細胞残存率とすることができる。従って、この場合、細胞残存率(%)=(処理組織中の核の数)/(未処理組織中の核の数)×100で算出することができる。細胞残存率はまた、残存するDNA量を測定することによっても測定することができる。細胞が有するDNAの量の組織における総量は、一般に組織における細胞数に比例することが知られているからである。DNAを測定する方法は、当該分野において公知であり、例えば、Molecular Probes社のHoechst 33258などの蛍光試薬を用いて組織より抽出したDNA量を定量することができる。具体的には、組織を破砕超音波処理などでゾル化し、緩衝液中DNA成分に特異的に結合し、かつ蛍光能を発生させるHoechst 33258(Ex(励起波長)356、EM(発光波長)492)を反応させ、抽出上清中のDNA量を蛍光強度として測定し、定量することができる。従って、脱細胞化組織との違いに細胞残存率を用いることができ、あるいはγ線照射についてもこの細胞残存率を使用することができる。その場合の目安は、細胞残存率30%を挙げることができる。
【0039】
本明細書において「免疫反応」とは、移植片と宿主との間の免疫寛容の失調による反応をいい、例えば、超急性拒絶反応(移植後数分以内)(β−Galなどの抗体による免疫反応)、急性拒絶反応(移植後約7〜21日の細胞性免疫による反応)、慢性拒絶反応(3カ月以降の細胞性免疫による拒絶反応)などが挙げられる。
【0040】
本明細書において免疫反応を惹起するかどうかは、HE染色などを含む染色、免疫染色、組織切片の検鏡によって、移植組織中への細胞(免疫系)浸潤について、その種、数などの病理組織学的検討を行うことにより判定することができる。
【0041】
本明細書において「石灰化」とは、生物体で石灰質が沈着することをいう。
【0042】
本明細書において生体内で「石灰化する」かどうかは、カルシウム濃度を測定することによって判定することができ、移植組織を取り出し、酸処理などにより組織切片を溶解させ、その溶液を原子吸光度などの微量元素定量装置により測定し、定量することができる。
【0043】
本明細書において「生体内」または「インビボ」(in vivo)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする組織または器官が配置されるべき位置をいう。
【0044】
本明細書において「インビトロ」(in vitro)とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。
【0045】
本明細書において「エキソビボ」とは、遺伝子導入を行うための標的細胞を被験体より抽出し、インビトロで治療遺伝子を導入した後に、再び同一被験体に戻す場合、一連の動作をエキソビボという。
【0046】
本明細書においてある組織の「正常状態で有する機能」とは、その組織が正常状態で生体内で有する機能をいう。従って、例えば、心臓弁の場合、通常心室から心房または肺動脈および大動脈から心房へ血液の逆流を防ぐ機能を有することから、心臓弁が正常状態で有する機能とは、心室から心房または肺動脈および大動脈から心房へ血液の逆流を防ぐ機能をいう。本発明では、生体適合性高分子に暴露した後γ線照射をしてもこの正常状態で有する機能に実質的な損傷は無かったという点で従来にない格別な効果が示されたといえる。
【0047】
本明細書において「細胞外マトリクス」(ECM)とは「細胞外基質」とも呼ばれ、上皮細胞、非上皮細胞を問わず体細胞(somatic cell)の間に存在する物質をいう。細胞外マトリクスは、組織の支持だけでなく、すべての体細胞の生存に必要な内部環境の構成に関与する。細胞外マトリクスは一般に、結合組織細胞から産生されるが、一部は上皮細胞や内皮細胞のような基底膜を保有する細胞自身からも分泌される。線維成分とその間を満たす基質とに大別され、線維成分としては膠原線維および弾性線維がある。基質の基本構成成分はグリコサミノグリカン(酸性ムコ多糖)であり、その大部分は非コラーゲン性タンパクと結合してプロテオグリカン(酸性ムコ多糖−タンパク複合体)の高分子を形成する。このほかに、基底膜のラミニン、弾性線維周囲のミクロフィブリル(microfibril)、線維、細胞表面のフィブロネクチンなどの糖タンパクも基質に含まれる。特殊に分化した組織でも基本構造は同一で、例えば硝子軟骨では軟骨芽細胞によって特徴的に大量のプロテオグリカンを含む軟骨基質が産生され、骨では骨芽細胞によって石灰沈着が起こる骨基質が産生される。本発明の1つの実施形態では、細胞外マトリクス(たとえば、エラスチン、コラーゲン(例えば、I型、IV型など)、ラミニンなど)は本発明の脱細胞化処理をする前の状態からは実質的に変化していないことが特徴であり得る。
【0048】
本明細書において「組織損傷率」とは、組織または器官の機能を示すパラメータをいい、処理後の組織または器官がどの程度損なわれ傷ついているかの指標であり、その組織または器官の本来の機能を発揮することができるかどうかの指標である。本明細書において組織損傷率を測定する方法は、当該分野において公知であり、例えば、エラスチン断裂部位を計数することによって判定することができる。本明細書において用いられる方法では、一視野を100μm×100μmごとのユニットに区切り、ユニットを単位としてエラスチン断裂部位がある場合にカウントして算出した。一視野あたり24ユニットが存在した。HE染色により組織切片における細胞外マトリクスの検鏡により計数し、未処理組織を0%となるように規定し、損傷率=x/24で算出する。この場合未処理をx=0として規定する。
【0049】
本明細書において「組織強度」とは、組織または器官の機能を示すパラメータをいい、その組織または器官の物理的強度であり、一般に、引っ張り強さを測定することにより判定することができる。そのような一般的な引っ張り試験は周知である。
【0050】
本明細書では、(1)検体を5×30mmの短冊状に切る。(基本的に大動脈基部のwallの部分を長軸方向に長くなるように切る。);(2)引っ張り試験器の固定部分に検体の両端約5mmを固定する。(ORIENTEC社製TENSILON万能試験機RTC-1150Aを使用);および(3)引っ張り開始し破断点まで1cm/minの速度で引っ張る。という作業を行うことによって、破断点における負荷を強度をして採用する。ここでは、破断点負荷および弾性率を測定する。
【0051】
本発明の生体由来組織が有する強度は、通常、最大点荷重が、少なくとも約8N以上、より好ましくは、約10N以上、さらに好ましくは約14N以上であり得る。従来の生体由来組織あるいは天然の組織(例えば、動脈)では、7N程度であることが多かったこと、および脱細胞化処理では、組織強度を増強する効果はないかあってもほとんどないことを考慮すれば、本発明の組織強度強化能力は予想外といえる。
【0052】
好ましい実施形態では、弾性率でみると、本発明の生体由来組織は、通常少なくとも1.2MPa以上の弾性率を有し、好ましくは少なくとも約1.6MPaの弾性率を有するが、本発明の生体由来組織は、使用に耐え得る限り、天然物よりも劣る弾性率(例えば、0.8以上、0.8〜1.0MPaなど)を有していてもよい。
【0053】
伸びの測定は、強度測定で使用した引張試験機(TENSILLON ORIENTEC)で行うことができる。具体的には、幅5mm長さ30mmの短冊状素材を短軸方向に10mm/分の速度で荷重負荷し、破断点負荷および弾性率を測定することができる。具体的には、伸びの測定は、引張り刺激の前後での各方向の長さを測定し、引張り後の長さを引張り前の長さで割り100を乗ずることによって得ることができる。通常、伸びは、縦方向と横方向とを両方測定する。この両方の伸びにばらつきがないほうが好ましいがそれに限定されない。用途に応じて、伸びに関する特性は、例えば、少なくとも120%、好ましくは150%であることが好ましいが、それに限定されない。伸びに関する特性についても、本発明の生体由来組織は、使用に耐え得る限り、天然物よりも劣る伸び(例えば、少なくとも50%など)を有していてもよい。
【0054】
一般的な引っ張り試験によって得られたデータの解析により、破断強度、剛性率、ヤング率などの種々のデータを得ることができ、そのような値もまた、本明細書において組織強度の指標として用いることができる。本明細書において管状組織の場合、組織強度は、剛性パラメータ(β値)で表現することができる。β値は、P−D(圧力−直径)関係を作成した後、
Ln(P/Ps)=β(D/Ds−1) (1)
で算出することができる。PsおよびDsは、100mmHgでの標準値を示す。PおよびD各々のP(圧力)における直径(D)の値を示す。
【0055】
血管などの管状組織の両端をパイプ状のユニットに固定し、生理食塩水中に内室および外室を満たす。この状態から、内室へ圧力を外武装置より加えていくと同時に、その加圧時の外径をモニタリングする。その測定によって得られる圧力と、外径との関係を上記(1)の式に導入して、β値を算出する(Sonoda H,Takamizawa K.,et al.J.Biomed.Matr.Res.2001:266−276)。
【0056】
本明細書において「生体適合性」とは、毒性および免疫学的拒絶能がないために生体内で障害なく存在することができる性質をいう。
【0057】
本明細書において「生体適合性高分子」とは、生体適合性のよい高分子をいい、具体的には、残存しても毒性を生じないことをいう。ある高分子がそのような生体適合性を有しているかどうかを判定する方法は、本明細書においては、ラット等の実験動物皮下への埋植試験等の試験法を使用する。この試験法では、皮下埋植試験の結果、比較的急性の免疫反応やアレルギー反応等が起き、腫れたり、発赤もしくは発熱したりする場合には肉眼的に生体適合性が低いことが解る。さらに人工血管を動物の血管に移植した場合など、特定の患部に移植した場合には、数日から数ヶ月後に、移植箇所を観察し、組織の生着の有無、移植組織周辺の炎症、癒着、血液凝固による血栓形成などの程度を観察して、組織適合性の判定を行う。この他、移植部位の組織切片を作成してヘマトキシリン・エオシン染色その他の染色法にて細胞を染色・観察し、組織適合性の低さの指標としては免疫系を担当する顆粒性の細胞が多く侵入しているかどうか、もしくは従来組織と移植組織の間に両者を隔てる瘢痕組織の形成が認められるか否かを判定する。また、特に生体由来組織の組織適合性の高さの指標としては、血管内皮細胞、繊維芽細胞、平滑筋細胞など各種の細胞が従来組織より侵入し、再細胞化が起きているかどうか(すなわち従来組織と移植組織の境界が明確でない程度に移植組織が生着しているかどうか)を判定する。
【0058】
また、上記の組織や細胞の形状観察による判定以外にも、炎症反応の進行に起因する血液中のサイトカインの濃度、異物として認識された移植組織に対する抗体の濃度(力価)、補体成分の濃度、異物埋入により誘導された薬物代謝酵素(P450等)の酵素量、等の生物化学的な定量値とその移植前後の変動の追跡をもって、組織適合性の指標とする場合もある。
【0059】
医療器具類の材料については、その毒性を評価して医療器具への使用を合理的に規制する為に、細胞毒性試験、感作性試験、刺激性試験、埋植試験、遺伝毒性試験、血液適合性試験、全身毒性試験、などの試験項目があり、厚生労働省のガイドライン、米国のNational Standards、国際的産業基準のISO-10993等により個別の試験法が規定されている。
【0060】
生体適合性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、コラーゲン、γ-ポリグルタミン酸、シリコーン、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリウレタン、セルロース、ポリスチレン、ナイロン、ポリカーボネート、ピリサルホン、ポリアクリロニトリル、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、キチン、キトサン、アルギン酸、デンプン、γ−ポリグルタミン酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸などが挙げられるがそれらに限定されない。ここで、ポリビニルアルコールの中には、未修飾のものの他に、アミノ基、カルボキシル基、アセチル基などにより若干の程度化学修飾されたものもあり、市販されており、これらの改変ポリビニルアルコールもまた本発明において使用することができる。好ましくは、生体適合性高分子は、生分解性であるがそれに限定されない。
【0061】
本明細書において「ポリエチレングリコール(PEG)」とは、エチレングリコールのポリマーをいい、ポリエチレンオキシド(poly (ethylene oxide))ともいわれ、HO−(CHCHO)−Hで表される。ポリエチレングリコールは、種々の企業から市販されており、例えば、Union Carbide(Carbowax)、Dow(Polyglycol E)、Texaco Chemical)Jeffox)、Olin(PolyG)、BASF Wyandotte(Pluracol E)、Hodag、ICI Americas(ATEG)、Nacalai tesque、日本油脂などから市販されている。通常、PEGは、平均分子量が200と200,000との間である。そのようなPEGとしては、Nacalai tesqueのpolyethylene glycol(H(OCHCHOH)#分子量(例えば、200、600、1000、2000、6000、8000、35000、50000)のような製品が挙げられる。本明細書では、通常平均分子量が1,000〜200,000のものが使用され、好ましくはPEGは、平均分子量が10000と100000との間である。別の好ましい実施形態では、PEGは、平均分子量が2000〜50000であり得る。より好ましくは、PEGは、平均分子量が約35000であり得る。あるいは、1)1,000〜200,000であり、(2)好ましくは、4,000〜100,000であり、(3)さらに好ましくは、8,000〜50,000であり得る。このようにPEGは市販されているが、所望の特性を達成するために、適宜合成することもできる。そのような合成方法は当該分野において周知である。なお、本明細書において平均分子量および分子量は、ダルトン(Dalton)であらわす。本発明において使用されるPEGは、分子が均質であることが好ましいが、そのことは必須ではなく、平均分子量が一定範囲にあれば通常使用することができる。本発明の組織を調製するために、PEG以外の化学物質(例えば、酵素(例えばDNaseIなど)、酵素阻害剤などを含むがそれらに限定されない)を加えることができる。PEG以外の化学物質を加えると、加えるべきPEGの量または濃度は、その化学物質の存在量に応じて変動し得る。好ましくは、細胞融合などで用いられる濃度がよく、例えば、1g/ml以上(100%w/w以上)の濃度が好ましいが、それに限定されない。あるいは、PEGは、60%w/v〜100%w/vの間の濃度で使用され得る。ポリエチレングリコールは、本発明において、生体由来組織を調製した後に、その組織を強化する方法においても用いることができる。
【0062】
本明細書においてポリビニルアルコールとは、ポバール(poval)、PVAともいい、ポリ酢酸ビニルの加水分解(正確にはエステル交換)によって得られる高分子をいう。一般式ー(CHC(OH)H)ーとして表される。ニルアルコールは単量体としては存在しないのでポリ酢酸ビニルの加水分解でつくることができる。細胞融合に用いられている。
【0063】
本明細書においてポリビニルピロリドンとは、一般式[−CHCH(CHNO)−]として表される水に可溶の高分子化合物であり、主に薬剤の賦形剤として用いられている。
【0064】
本明細書において「生分解性」とは、物質について言及するとき、生体内で,あるいは微生物の作用により分解される性質をいう。生分解性の高分子は、例えば、加水分解により,水,二酸化炭素、メタンなどに分解され得る。本明細書では、生分解性であるかどうかを判定する方法は、生分解性の一部である生体吸収性に関しては、ラット、ウサギ、イヌなど実験動物への数日間から数年間にわたる埋植試験、微生物による分解の試験に関しては、シート状の高分子の土壌中での数日間から数年間にわたる埋入・崩壊試験などの方法を使用する。移植に関する場合、動物における試験を使用することが好ましい。また、上記の試験方法に準ずるより簡便な代替試験法としては、高分子の非酵素的分解についてはリン酸緩衝液生理食塩水(PBS)などの各種緩衝液を、高分子の酵素分解については当該高分子の加水分解酵素(プロテアーゼ、グリコシダーゼ、リパーゼ、エステラーゼ等)を添加した緩衝液を、それぞれ用いて水溶液中での溶解試験を行うこともある。生分解性の高分子には、天然および合成高分子がある。天然高分子の例としては,コラーゲン,デンプンなどのタンパク質、多糖類が挙げられ、そして合成高分子の例としてはポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリエチレンスクシナートなどの脂肪族ポリエステルが挙げられるがそれらに限定されない。ポリビニルアルコールは、生分解性については、弱い生分解性を示すことから、本明細書では、生分解性を有するものとして認識され得る。
【0065】
本明細書において「高分子」は、「分子」と同様の意味で用いられ、特に分子量を限定しない。高分子について分子量を限定して議論する場合、通常、分子量が500以上のものを指すがそれに限定されない。本発明において用いられる高分子の分子量の上限は、原理的には無限大であるが、本発明では、通常、溶液として取り扱い、分子量を議論できる(動的光散乱、ゲル濾過、遠心分離器による沈降平衡などの分子量測定が適用できるという意味で)のは分子量500万程度までが使用され得るがそれに限定されない。本明細書において、学会および業界での慣例と同様に、「生体高分子」、「生体適合性高分子」という用語は、「バイオマテリアル」、「医療用高分子」等の用語と同義語として使用される。
【0066】
本明細書において「浸す」とは、ある物体をある流体(例えば、液体)の中に入れることをいう。本発明においては、処理すべき組織を、処理のために、界面活性剤、またはミセル化していない状態の両親媒性分子(例えば、ポリエチレングリコールのような1,2−エポキシドポリマー)含有溶液に入れることを「浸す」という。従って、浸す工程は、好ましくは、処理すべき組織が処理のための溶液中に完全に浸透するように行われる。また、浸す工程においては、好ましくは、除去すべき成分の除去を効率的に行うために、物理的な処理(例えば、ガラス棒でしごく)を行ってもよい。
【0067】
本明細書において「曝す」とは、ある物体をある因子(例えば、生体適合性高分子)に接触させることをいう。
【0068】
本明細書において「洗浄する」工程は、本発明において、例えば、生体適合性高分子溶液に浸す工程によって処理された組織からその溶液を取り除くことをいう。従って、好ましくは、洗浄する工程は、液体を用いて行われる。本発明においては、処理された組織は、生体での使用が企図されることから、生理的に受容可能な液体で洗浄されることが好ましい。1つの好ましい実施形態では、洗浄する工程は、PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)を用いて行われ得る。洗浄液には、必要に応じて他の薬剤(例えば、プロテアーゼ阻害剤)が含まれていてもよいが、そのような他の薬剤は、毒性を示さず生体適合性であることが好ましい。
【0069】
本明細書において「化学的処理」とは、広義には、ある物体を化学物質で処理(例えば、浸すことによる)することをいう。ただし、本明細書において使用される場合、化学的処理は、たとえば、生体適合性高分子を含む溶液に浸す工程以外の他の工程(例えば、DNアーゼの処理)を指す。従って、本発明の方法において、例えば、平均分子量が1000〜2000の00ポリエチレングリコール含有溶液に浸す工程の他に化学的処理が施される場合、化学的処理は、平均分子量が1000〜200000のポリエチレングリコール含有溶液以外の溶液(例えば、DNaseI溶液での処理、グルタルアルデヒド溶液、他の平均分子量を有するポリエチレングリコール溶液、他の生体適合性高分子溶液などを含むがそれらに限定されない)に浸す工程を包含する。
【0070】
本明細書において「補強する」とは、組織に関して言及するとき、その組織の組織強度が改善されていることをいう。好ましくは、組織強度は、ある補強処理をする前の状態の少なくとも110%、より好ましくは少なくとも120%、さらに好ましくは少なくとも150%、あるいは少なくとも200%となっていることが好ましい。そのような組織強度は、本明細書では、例えば、引っ張り強度試験において、最大点荷重(例えば、単位N)で示すことができる。
【0071】
本明細書において「ラジカル反応」とは、離基反応ともいい、不対電子が生じ、これが他の分子や残基に反応して起きる化学反応をいう。
【0072】
ラジカル反応としては、例えば、以下が挙げられる:
1)安定な分子の結合が切れて不対電子ができる反応,
たとえば C→CH・+C
2)不対電子と安定な分子とが反応して他の分子と不対電子とができる反応
たとえば CH・+CHCOCH→CH+CHCOCH
3)不対電子に安定な分子が反応して大きい不対電子をつくる反応,
たとえば CH・+C→C
4)不対電子が分解して小さい不対電子と分子とができる反応,
たとえば n−C・→C+CH
5)不対電子どうしの反応,これには、
再結合反応 CH・+CH・→C
不均化反応 C・+C・→C+C
【0073】
本明細書において「γ線」とは、波長が 約0.001 nm よりも短い電磁波をいう。エネルギーで表わせば数 100 keV 以上の光量子であることになる。通常、原子核のエネルギー準位間の遷移の際にγ線が放出される。γ線の放出源としては、γ線源として使用される任意の線源が使用されるが、60Co(コバルト60)、137Cs(セシウム137)の線源が好ましい。生体由来組織の処理に好ましいからである。
【0074】
γ線の照射量は、kGy単位で表示することが多く、照射量は、吸収線量の測定により測定することができる。そのような測定には空洞電離箱、熱量計、フィルム線量計、PMMA線量計、等の測定装置が用いられる。
【0075】
本明細書において、γ線照射がなされたかどうかを組織上にて確認する方法としては、例えば、従って、γ線照射によって生成した生成物の検索から、そこにどのような不対電子が生成しかつ反応したかを知ることができる。ラジカルは、化学的方法および電子スペクトル、常磁性共鳴吸収などの測定法の進歩によって確認することができる。きわめて寿命の短いラジカル(例えば、・OH)についても閃光光分解法(電子線パルスラジオリシス法および閃光分光測定法)、剛体溶媒法、マトリクス単離法などによって存在を確認することができる。ただし、遷移金属錯体の金属原子が1個または複数個の不対電子を持つ場合は、通常ラジカルとは呼ばない。
【0076】
γ線照射の確認方法としては、以下を挙げることができる。
【0077】
(1)γ線照射により直接または間接作用(水分子の解裂によるH-radical OH-radical からの転移)を経て、タンパク質のアミノ酸残基や糖鎖上には、不対電子(ラジカル)が生じる。ラジカルが再転移するといろいろな残基上を動き回ることになるが、タンパク質ではエネルギー的に安定な芳香族アミノ酸(チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン等)や含硫アミノ酸(システイン、メチオニン)にラジカルが集まりやすい傾向があり、最終的には有る確率でポリペプチド鎖や糖鎖の架橋や切断を引き起こすことが知られている。。
【0078】
(A)検知方法その1:比較的長寿命の高分子ラジカルが組織中に残っていれば、常磁性共鳴吸収(EPR)などで確認できる(RadiationResearch 163, 535-543, 2005)。
【0079】
(B)検知方法その2:牛乳中のタンパク質カゼインを、多糖類のカルボキシメチルセルロース、PEGなどとともにγ線照射して架橋薄膜を作製したときに、アミノ酸の一種であるチロシン(tyrosine)が2量体化してbityrosineという構造ができ、蛍光を発するので架橋部位の定量になるという報告がなされており(J. Agric. Food. Chem. 46,1618-1623, 1998)、これを使用することができる。
【0080】
本明細書において「真空」とは、1×10−1Pa以下の圧力をいう。本明細書において「減圧」下とは、1×10−1Pa〜1×10Paの範囲の圧力をいう。
【0081】
本明細書において「大気」とは、通常用いられる意味で用いられ、通常、組成として窒素78%,酸素21%,アルゴン1%,二酸化炭素0.03%,水蒸気約0.3%となっているものが使用される。
【0082】
本明細書において「酸素中」とは、大気よりも酸素濃度が高い環境をさす。好ましくは、酸素中は、実質的に100%の酸素の存在をいう。
【0083】
本明細書において「水中」とは、実質的にHOのみからなる媒体中における反応をいう。水としては、水道水の他、蒸留水、イオン交換水などが用いられるがそれらに限定されない。
【0084】
本明細書においてラジカル反応が行われる「生体適合性分子」としては、両親媒性分子溶液が用いられ得るが、それ以外の異なるものが用いられてもよい。
【0085】
本明細書において「生理活性物質」(physiologically active substance)とは、細胞または組織に作用する物質をいう。生理活性物質には、サイトカインおよび増殖因子が含まれる。生理活性物質は、天然に存在するものであっても、合成されたものでもよい。好ましくは、生理活性物質は、細胞が産生するものまたはそれと同様の作用を有するものである。本明細書では、生理活性物質はタンパク質形態または核酸形態あるいは他の形態であり得るが、実際に作用する時点においては、サイトカインは通常はタンパク質形態を意味する。
【0086】
本明細書において使用される「サイトカイン」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、細胞から産生され同じまたは異なる細胞に作用する生理活性物質をいう。サイトカインは、一般にタンパク質またはポリペプチドであり、免疫応答の制禦作用、内分泌系の調節、神経系の調節、抗腫瘍作用、抗ウイルス作用、細胞増殖の調節作用、細胞分化の調節作用などを有する。本明細書では、サイトカインはタンパク質形態または核酸形態あるいは他の形態であり得るが、実際に作用する時点においては、サイトカインは通常はタンパク質形態を意味する。
【0087】
本明細書において用いられる「増殖因子」または「細胞増殖因子」とは、本明細書では互換的に用いられ、細胞の増殖を促進または制御する物質をいう。増殖因子は、成長因子または発育因子ともいわれる。増殖因子は、細胞培養または組織培養において、培地に添加されて血清高分子物質の作用を代替し得る。多くの増殖因子は、細胞の増殖以外に、分化状態の制御因子としても機能することが判明している。
【0088】
サイトカインには、代表的には、インターロイキン類、ケモカイン類、コロニー刺激因子のような造血因子、腫瘍壊死因子、インターフェロン類が含まれる。増殖因子としては、代表的には、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)のような増殖活性を有するものが挙げられる。
【0089】
サイトカインおよび増殖因子などの生理活性物質は一般に、機能重複現象(redundancy)があることから、他の名称および機能で知られるサイトカインまたは増殖因子であっても、本発明に使用される生理活性物質の活性を有する限り、本発明において使用され得る。また、サイトカインまたは増殖因子は、本明細書における好ましい活性を有してさえいれば、本発明の治療法または医薬の好ましい実施形態において使用することができる。
【0090】
本明細書において「分化」とは、細胞、組織または器官のような生物の部分の状態の発達過程であって、特徴のある組織または器官を形成する過程をいう。「分化」は、主に発生学(embryology)、発生生物学(developmental biology)などにおいて使用されている。1個の細胞からなる受精卵が分裂を行い成体になるまで、生物は種々の組織および器官を形成する。分裂前または分裂が十分でない場合のような生物の発生初期は、一つ一つの細胞や細胞群が何ら形態的または機能的特徴を示さず区別することが困難である。このような状態を「未分化」であるという。「分化」は、器官のレベルでも生じ、器官を構成する細胞がいろいろの違った特徴的な細胞または細胞群へと発達する。これも器官形成における器官内での分化という。従って、本発明における再生では、細胞の分化とは、その細胞が処理前には持っていなかった何らかの形態的または機能的な特徴を有するようになることをいう。そのような例としては、心臓弁の場合、細胞として幹細胞(例えば、胚性幹細胞または組織幹細胞)を提供したとき、心臓弁に存在する細胞または組織と少なくとも部分的に同様の形態または機能をその細胞が有するようになることが挙げられる。
【0091】
本明細書において「移植片」、「グラフト」および「組織グラフト」は、交換可能に用いられ、身体の特定部位に挿入されるべき同種または異種の組織または細胞群であって、身体への挿入後その一部となるものをいう。移植片としては、例えば、臓器または臓器の一部、血管、血管様組織、皮片、心臓弁、心膜、硬膜、角膜骨片、歯などが挙げられるがそれらに限定されない。従って、移植片には、ある部分の欠損部に差し込んで欠損を補うために用いられるものすべてが包含される。移植片としては、そのドナー(donor)の種類によって、自己(自家)移植片(autograft)、同種移植片(同種異系移植片)(allograft)、異種移植片が挙げられるがそれらに限定されない。
【0092】
本明細書において自己移植片または自家移植片とは、ある個体についていうとき、その個体に由来する移植片をいう。本明細書において自己移植片というときは、広義には遺伝的に同じ他個体(例えば一卵性双生児)からの移植片をも含み得る。
【0093】
本明細書において同種移植片(同種異系移植片)とは、同種であっても遺伝的には異なる他個体から移植される移植片をいう。遺伝的に異なることから、同種異系移植片は、移植された個体(レシピエント)において免疫反応を惹起し得る。そのような移植片の例としては、親由来の移植片などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0094】
本明細書において異種移植片とは、異種個体から移植される移植片をいう。従って、例えば、ヒトがレシピエントである場合、ウシ、ブタからの移植片は異種移植片という。
【0095】
本明細書において「レシピエント」(受容者)とは、移植片または移植体を受け取る個体といい、「宿主」とも呼ばれる。これに対し、移植片または移植体を提供する個体は、「ドナー」(供与者)という。
【0096】
本発明の組織処理技術を用いれば、どのような移植片も使用することができる。なぜなら、本発明の方法により補強された移植片(例えば、組織、器官など)は、治療目的に障害のない程度に免疫障害が減少するからである。従って、従来自己移植片にしか用いることができなかった状況においても、同種異系移植片または異種移植片を用いることが可能になったことは、従来技術では達成することができなかった本発明の格別の効果の一つといえる。
【0097】
本明細書において「被験体」とは、本発明の処置が適用される生物をいい、「患者」ともいわれる。患者または被験体は好ましくは、ヒトであり得る。
【0098】
本発明の方法または組織グラフトで必要に応じて使用される細胞は、同系由来(自己(自家)由来)でも、同種異系由来(他個体(他家)由来)でも、異種由来でもよい。拒絶反応が考えられることから、自己由来の細胞が好ましいが、拒絶反応が問題でない場合同種異系由来であってもよい。また、拒絶反応を起こすものも必要に応じて拒絶反応を解消する処置を行うことにより利用することができる。拒絶反応を回避する手順は当該分野において公知であり、例えば、新外科学体系、心臓移植・肺移植 技術的,倫理的整備から実施に向けて(改訂第3版)に記載されている。そのような方法としては、例えば、免疫抑制剤、ステロイド剤の使用などの方法が挙げられる。拒絶反応を予防する免疫抑制剤は、現在、「シクロスポリン」(サンディミュン/ネオーラル)、「タクロリムス」(プログラフ)、「アザチオプリン」(イムラン)、「ステロイドホルモン」(プレドニン、メチルプレドニン)、「T細胞抗体」(OKT3、ATGなど)があり、予防的免疫抑制療法として世界の多くの施設で行われている方法は、「シクロスポリン、アザチオプリン、ステロイドホルモン」の3剤併用である。免疫抑制剤は、本発明の医薬と同時期に投与されることが望ましいが、必ずしも必要ではない。従って、免疫抑制効果が達成される限り免疫抑制剤は本発明の再生・治療方法の前または後にも投与され得る。
【0099】
本発明で用いられる細胞は、どの生物(例えば、脊椎動物、無脊椎動物)由来の細胞でもよい。好ましくは、脊椎動物由来の細胞が用いられ、より好ましくは、哺乳動物(例えば、霊長類、齧歯類など)由来の細胞が用いられる。さらに好ましくは、霊長類由来の細胞が用いられる。最も好ましくはヒト由来の細胞が用いられる。
【0100】
本発明が対象とする被験体と、生体由来組織との組合せとしては、例えば、心疾患(例えば、虚血性心疾患)を起こした心臓への移植、心膜パッチ、脳外科手術時の硬膜移植、心筋梗塞、下肢、上肢などへの血管移植、骨折、骨欠損を有する患者への骨の移植、損傷した角膜を有する患者に本発明の角膜を移植することなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0101】
本発明が対象とする組織は、生物のどの臓器または器官でもよく、また、本発明が対象とする組織は、どのような種類の生物由来であってもよい。本発明が対象とする生物としては、脊椎動物または無脊椎動物が挙げられる。好ましくは、本発明が対象とする生物は、哺乳動物(例えば、霊長類、齧歯類など)である。より好ましくは、本発明が対象とする生物は、霊長類である。最も好ましくは、本発明はヒトを対象とする。
【0102】
自己細胞または組織を用いた血管再生療法が注目されており、組織を移植する方法自体は当該分野において周知のとおり実施することができる。心臓血管外科領域では多種の人工弁または人工血管などが用いられているが、その耐久性または抗凝固療法の必要性とそれに付随する出血傾向、易感染性など多くの問題が挙げられており、再生医工学に期待が寄せられている。新岡らは肺動脈欠損症の4歳の女児に対して、患者の足の静脈より得られた血管平滑筋細胞を生体内吸収性高ポリマー上に培養して再生血管を作製し、再生血管移植を行った(新岡俊治、今井康晴、瀬尾和宏ほか;テッシュエンジニアリングによる心血管材料の開発、応用。日心臓血管外会誌2000;29:38)。心血管系における組織工学(tissue engineering)では、移植された細胞、構造物が血管内の血液に直接接触が可能で、移植直後から酸素、栄養物の供給が得られ有利な条件であると考えられている。特に、自己細胞化(細胞置換)することの利点は以下のように多岐にわたる。
【0103】
1.拒絶反応の可能性を除去。
【0104】
2.ドナーを考慮する必要がない。
【0105】
3.生きた組織のため長い耐久性が期待できる。
【0106】
4.細胞が細胞外間質を完成させた時点で足場としてのポリマーが完全に生分解され移植後長期的に異物が全く残存しない。
【0107】
5.最終的内皮で覆われるため抗血栓性にもすぐれており、移植後、抗凝固療法を必要としない。
【0108】
6.自己組織のため成長が期待できる、などが考えられる。
【0109】
主に肺動脈圧程度の血圧範囲内で右心系において用いられているが、大動脈圧内での使用、または弁組織、ACバイパス用動脈グラフト、腱索組織などへの応用も当業者が適宜おこなうことができる(循環器疾患の最新治療2002−2003;南江堂p29、2002年発行)。
【0110】
人工弁の一般的使用は、当該分野において周知であり、本発明もまたこの周知事項に基づいて実施することができる。例えば、ステントレス異種生体弁について知られている。異種生体弁では、ステントの存在で有効な弁口面積が小さくなり、また弁葉の石灰化や変性が問題であった。最近、ブタ大動脈基部の形態を生かし、ステントを用いないステントレス異種生体弁が大動脈弁位の人工弁として注目されている(Gross C et al、Ann Thorac Surg 68:919,1999)。ステントがないことで、小さいサイズの弁を使用せざるを得ない場合でも弁を介した圧較差が少なく、術後の左心室肥大に対しても有効であると考えられている。また大動脈の基部の弾性が維持され、弁尖にかかるストレスが少なくステント付き生体弁に比較して耐久性の向上も期待できる。さらに、感染による心内膜炎、人工弁感染時にも使用が可能である。現在欧米でのステントレス異種生体弁の中期術後成績は十分に満足できる報告がなされており、長期成績にも期待できる(GrossC et al、AnnThorac Surg 68:919,1999)。
【0111】
(好ましい実施形態)
以下に本発明の最良の形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0112】
1つの局面において、本発明は、生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織を提供する。生体適合性高分子は、生体由来組織にどのような状態で含まれていても良いが、好ましくは、共有結合で結合されていることが有利である。従って、当業者は、当該分野において周知の技術を用いて、含まれるべき状態に応じて、適宜、生態的合成高分子を生体由来組織に含ませることができる。そのような結合は、γ線照射によって達成されていてもよい。本発明において生体適合性高分子が含まれるべき生体由来組織は、好ましくは脱細胞化処理を受けていないものである。本発明は、生体適合性高分子を生体由来組織に含ませ、γ線照射を受けさせることによって、予想外に顕著に石灰化が減少し、組織強度を上昇させることを見出したからである。従って、本発明の生体適合性高分子は、従来石灰化および強度の問題から適用ができなかった用途においても、用いることができる可能性を提供する。特に、γ線照射によって、他のラジカル反応(例えば、UV照射、化学物質を使用したラジカル反応)またはグルタルアルデヒドなどの架橋剤によっては達成できなかった程度の石灰化の抑制が達成された。例えば、本発明によって認められた効果の例としては、長期(ラット等の小動物では2ヶ月程度であり、ブタ等の大動物では6〜12ヶ月程度である)の動物体内への移植実験の結果、石灰化による機能不全が生じない効果などがある。これはグルタルアルデヒド処理時には全く認められない効果である。定量的にも顕著な効果が観察された。例えば、一つの例では、長期(2ヶ月)ラット移植実験の結果、採り出した移植心膜1mgあたりのカルシウム量が、グルタルアルデヒド処理時には1.6(μg/mg)であったのが本件方法による処理時には0.15〜0.2(μg/mg)程度にまで減少した。
【0113】
本発明の組織処理によって得られる強度の補強は、好ましくは、生体適合性高分子またはγ線照射のない状態に比べて、例えば、101%以上、さらに好ましくは110%以上、さらに好ましくは120%以上、さらに好ましくは150%以上、最も好ましくは200%以上であり得る。
【0114】
理論に束縛されることを望まないが、γ線照射によって、石灰化の原因が取り除かれることが明らかになった。なお、自己由来以外の組織を移植する場合は、残存する細胞が所望されない免疫反応を惹起する可能性があることから、本発明の生体由来組織では、生体内において免疫反応を惹起するレベルより低くある必要がある。本発明ではまた、生体適合性高分子の処理を受けた組織が、顕著に補強されるという点にも1つの効果がある。
【0115】
好ましい実施形態では、γ線照射を受けたかどうかは、細胞外マトリクス成分が少なくとも一部、好ましくは実質的に全部が共有結合で架橋されていること確認することによって判定することができる。従って、本発明は、この実施形態において、細胞外マトリクス成分が少なくとも一部が共有結合で架橋されていることを特徴とする、生体由来組織を提供する。好ましくは、この細胞外マトリックス成分としては、コラーゲン、エラスチン、ラミニン、フィブロネクチン、テネイシン、グリコサミノグンカンおよびプロテオグリカンを挙げることができるがそれらに限定されない。さらに好ましくは、この架橋は、側鎖に遊離アミノ基またはカルボキシル基を有しない2以上のアミノ酸の間に形成される。この場合、好ましくは、架橋は、カルボキシル基、ヒドロキシル基およびアミノ基以外の基(例えば、スルフヒドリル基)において形成されていることを特徴とする。
【0116】
コラーゲン、エラスチン、ラミニン、フィブロネクチンおよびテネイシン等の細胞外マトリックス由来タンパク質、ならびにグリコサミノグリカン(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸およびヘパラン硫酸等)およびプロテオグリカン等の細胞外マトリックス由来多糖/糖タンパク質に対してγ線照射を行うと、架橋反応と分解反応とが混合して起こり得ることが知られている。
【0117】
γ線照射を受けたかどうかは、一つの実施形態において、溶出タンパク質が実質的に存在しないことにより確認することができる。従って、本発明は、この実施形態において、溶出タンパク質が実質的に存在しないことを特徴とする、γ線照射処理による生体由来組織を提供する。本明細書において「溶出タンパク質が実質的に存在しない」とは、既知の方法で脱細胞組織からタンパク質抽出液を調整し、Bio−Rad Proteinasssay等の一般的な定量法でタンパク質を検出した場合、検量線から計算される理論値(タンパク質重量/生体由来組織重量)が0.5mg/mg以下であり、より好ましくは0.2mg/mg以下であり、さらに好ましくは0.1mg/mg以下であることをいう。
【0118】
本発明において、細胞外マトリックス由来タンパク質にγ線照射を行う実験を行ったところ、酸素と水が存覆する条件では、架橋反応が起こりやすいようであった。また照射した試料はポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供しても、照射前と異なりポリアクリルアミドゲルの中に入らなくなった。従って、溶出タンパク質は実質的に存在していないことが明らかになった。
【0119】
また、γ線照射によるタンパク質の架橋においてどのアミノ酸残基が架橋に関与するかについては、いくつかの報告がある。そしてそれは化学架橋の場合に較べて特異性が低いようである。
【0120】
化学架橋の場合、たとえば、グルタルアルデヒド架橋では側鎖に遊離のアミノ基(一NH2)を持ったアミノ酸同士が架橋するので、必然的にリジン,アルギニン等が架橋点となり得る。その他化学架橋の中には主にカルボキシル基をターゲットとするものもある。よく知られている化学架橋の種類としては幾つかのものがある。例えばNimni ME et a1.,J.Biomed.Matr.Res.21,741−771(1987)に報告があるコラーゲンの数種の架橋パターンの他、多くの架橋パターンの存在が知られている。
【0121】
いっぽうγ線照射において引き起こされる架橋は上記と同様の反応に加えて、多様な反応が起こっているようである。また上記よりも多くの種類のアミノ酸が架橋点になるようである。J.H.Boweseta1.,Radiation Research 16,211−223(1962)は、ウシの真皮から水溶性の成分を洗浄除去した試料について、酸素、窒素の存在下で、乾燥状態および湿潤状態でそれぞれγ線照射を行い、酸で全タンパク質を分解後のアミノ酸の変化を定量したデータを報告している。その結果によると、グリシンやバリンなど、ほとんど減少しないアミノ酸もあるものの、それ以外のアミノ酸は少しずつ減少しており、その減少の程度は様々であった。このことは、γ線によるタンパク質問の架橋が比較的ランダムに様々なアミノ酸において起きていることを示唆しているといえる。
【0122】
すなわち、細胞外マトリックス由来タンパク質に限っていえば、γ線照射において引き起こされる架橋と化学架橋とは、側鎖に遊離のアミノ基若しくはカルボキシル基を持たない二以上のアミノ酸の間において起こっているか否かによって峻別される。すなわち、側鎖に遊離のアミノ基若しくはカルボキシル基を有する二以上のアミノ酸の間においてのみ起こっていればそれは化学架橋によるものであり、それ以外のアミノ酸同士でも起こっていれば、それはγ線照射において引き起きされた架橋であると言える。
【0123】
また多糖については、種々の化学架橋(ビスエポキシドおよびジビニルスルフォン架橋、分子内エステル化、グルタルアルデヒド架橋、カルボジイミド架橋ならびにヒドラジド架橋等)がカルボキシル基、ヒドロキシル基若しくはアミノ基をターゲットとすることから(Laurent,T.C.et al,,Acta Chem.Scand,18,274−275,(1964);Kuo,JW.et a1.,Bioconjug Chem.(4):232−4L(1991);Luo Y.et al.,J Control Release,69(1);169−84.(2000))、カルボキシル基、ハイドロキシル基若しくはアミノ基を除く基(例えば、前記基は、スルフヒドリル基、アルデヒド基、カルボニル基、スルホ基およびニトロ基からなる群より選択される基を含む)の間で起こっているか、または前記架橋は、炭素−炭素結合、エーテル結合およびエステル結合からなる群より選択される結合により形成されるか否かによって峻別される。特に、骨格を形成している炭素間結合、エステル結合などの結合が開裂して新たな結合によって架橋が形成されていることが特徴であり得る。
【0124】
(基の例)
−SH基 スルフヒドリル基
−CHO基 アルデヒド基
C=O基 カルボニル基
−SOH基 スルホ基
−NO基 ニトロ基。
【0125】
(結合の例示)
−C−C− CC結合(炭素−炭素結合)
−O− エーテル結合
−(C=O)O− エステル結合。
【0126】
1つの実施形態において、本発明において使用されるγ線照射の照射量は、通常10〜250kGyである。理論に束縛されることを望まないが、約250kGyを超えると、残留すべき細胞外マトリクスなどの変性が生じ得るからであるが、細胞外マトリクスなどの組織強度の維持に必要な成分の実質的な変性を生じないような照射量であれば、この上限を超えるような照射量であっても使用することができる。理論に束縛されることを望まないが、γ線照射量としては、10kGy以下の量であっても使用することができる。照射時間が著しく長くなることが考えられることが、組織の石灰化抑制の促進が有意に認められる限り、10kGy以下の照射量もまた使用されることができ、これらは本発明の範囲内にあることが当業者に理解される。
【0127】
好ましくは、γ線などの照射量は100kGy以下であることが有利である。理論に束縛されることを望まないが、100kGy以下の範囲では、著しい組織強度の低下がほとんど見られなかったからである。好ましくは下限としては、40kGy以上の照射量を用いることが有利である。
【0128】
より好ましくは、照射量としては、50〜80kGyの照射量が有利に用いられる。理論に束縛されることを望まないが、γ線照射による遺伝子DNA等の生体分子の切断とPEGによる抽出操作の組み合わせにより石灰化の抑制が促進されるものの、組織の機械強度を保つべき細胞外基質タンパク質には著しい損傷を与えないという理由があるからである。
【0129】
1つの実施形態において、本発明で用いられるγ線の照射時間は、総照射量に依存して変動するが、通常、0.5時間〜10日程度であり、好ましくは1時間〜2日程度であることが有利である。より好ましくは、3〜8時間であることが有利である。理論に束縛されることを望まないが、より長い照射時間にすると、石灰化の抑制が促進されるが、従来は弾性に富んだ性質を有するコラーゲン、エラスチンなどの細胞外基質タンパク質が切断もしくは架橋され、折り曲げや引っ張りなどの力学的変形に対して脆くなるので移植用組織としての性質が劣化するであるという背景があるからである。したがって、石灰化の抑制は、総照射量に一部依存することから、強いγ線源を用いて数時間程度で反応させることができる。
【0130】
好ましい実施形態において、本発明において使用されるラジカル反応(例えば、γ線照射)は、真空、酸素中、窒素中、大気中、水中、両親媒性分子溶液中およびそれらの組み合わせからなる群より選択される雰囲気下で行われる。
【0131】
好ましい実施形態において、本発明において用いられる生体適合性高分子は、前記組織をコーティングするように処理される。このようなコーティングは、当該分野において周知の技術によって実施することができ、例えば、そのような生体適合性高分子溶液中に生体由来組織を浸す方法、あるいは、スプレーなどで塗布する方法などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0132】
さらに好ましい実施形態において、本発明の生体適合性高分子は、生体由来組織に架橋されていることが有利である。理論に束縛されることを望まないが、架橋されることによって、生体由来組織の組織性をより強固にするからである。そのような架橋は、γ線照射によって達成されていても良いが、別の手段であってもよい。
【0133】
好ましい実施形態において、本発明において用いられる生体適合性高分子は、生分解性であり得る。そのような生分解性高分子の例としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、ポリ乳酸などが挙げられるがそれらに限定されない。ポリエチレングリコール系ポリマーは親水性が付与された生分解性ポリマーである。ポリマー中のエチレンオキシド含量が増加するにしたがって親水性が増し、水に膨潤する。
【0134】
別の好ましい実施形態において、本発明において用いられる生体適合性高分子は、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エラスチンおよびそれらの2つ以上の混合物からなる群より選択される群より選択される高分子を含み得る。さらに好ましくは、本発明において使用される生体適合性高分子は、ポリエチレングリコールを含む。
【0135】
本発明の好ましい実施形態において用いられるポリエチレングリコールは、通常、平均分子量が200と6000との間である。そのようなPEGとしては、Nacalai tesqueのpolyethylene glycol(H(OCHCHOH)#分子量(例えば、200、600、1000、2000、6000、35000,50000)のような製品が挙げられる。好ましくはPEGは、平均分子量が1000と200000との間である。別の好ましい実施形態では、PEGは、平均分子量が4000と100,000との間であり得る。より好ましくは、PEGは、平均分子量が8,000と50,000との間であり得る。このようにPEGは市販されているが、所望の特性を達成するために、適宜合成することもできる。そのような合成方法は当該分野において周知である。なお、本明細書において平均分子量および分子量は、ダルトン(Dalton)であらわす。本発明において使用されるPEGは、分子が均質であることが好ましいが、そのことは必須ではなく、平均分子量が一定範囲にあれば通常使用することができる。本発明において石灰化の抑制を調製するために、PEG以外の化学物質(例えば、酵素(例えばDNaseIなど)、酵素阻害剤などを含むがそれらに限定されない)を加えることができる。PEG以外の化学物質を加えると、加えるべきPEGの量または濃度は、その化学物質の存在量に応じて変動し得る。好ましくは、細胞融合などで用いられる濃度がよく、例えば、1g/ml以上(100%w/w以上)の濃度が好ましいが、それに限定されない。あるいは、PEGは、60%w/v〜100%w/vの間の濃度で使用され得る。
【0136】
本発明の好ましい実施形態において用いられるポリビニルアルコールは、分子量500〜200,000の範囲内にある。より好ましくは、使用されるポリビニルアルコールは、分子量500〜100,000であり、さらに好ましくは、500〜10,000である。
【0137】
本発明の好ましい実施形態において用いられるポリビニルピロリドンは、分子量500〜200,000の範囲内にある。より好ましくは、使用されるポリビニルピロリドンは、分子量1.000〜100,000であり、さらに好ましくは、10,000〜50,000(例えば、40,000)である。
本発明の好ましい実施形態において使用される生体適合性高分子は、1%(w/v)〜50%(w/v)の濃度で使用される。より好ましくは、その生体適合性高分子は、5%(w/v)〜30%(w/v)の範囲で使用され得、さらに好ましくは、その生体適合性高分子は、10(w/v)〜20%(w/v)の範囲内で使用され得る。
【0138】
本発明の生体由来組織は、移植治療で使用されることから、その組織または器官が正常状態において有していた機能を発揮するのに支障があるような損傷を受けていないことが好ましい。この効果は、本発明のγ線照射によっても実質的に損傷を受けなかった。そのような支障があるかどうかは、その組織の細胞外マトリクスが実質的に変性を受けていないことを確認することにより判定することができる。従って、本発明の組織は、細胞外マトリクスが実質的に機能的に存在していることによっても特徴付けられ得る。細胞外マトリクスの存在の確認は、特異的マーカーによる染色などによって行うことができる。細胞外マトリクスの機能は、それぞれのメンバーによって適切なアッセイを選択して実施することができる。
【0139】
1つの実施形態において、本発明の生体由来組織は、臨床適用することができるような組織強度を有する。十分に強い組織強度は、特に、膜状の組織を臨床適用するとき重要な特性である。組織強度は一般に、引っ張り強さ(例えば、破断強度、剛性率、ヤング率など)を測定することによって判定することができる。ある実施形態において、本発明の生体由来組織は、処理前の正常組織が有していた組織強度の少なくとも約75%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約85%以上、さらに好ましくは約90%以上であり得、あるいは実質的に同じ組織強度を有していてもよく、未処理状態で正常組織がもともと有していた組織強度以上の値(例えば、110%以上、120%以上、150%以上、200%以上)を有していてもよい。ここで、組織が未処理状態での組織強度とは、その組織の処理(例えば、本発明のγ線照射および生体適合性分子での処理)の前(例えば、天然での状態)で有していた組織強度をいう。十分に強い組織強度は、例えば、弁状組織、管状組織で適用する場合にも有することが好ましい特性である。
【0140】
1つの実施形態において、本発明の生体由来組織は、移植したときに石灰化が顕著に抑制される。この抑制の程度としては、例えば、(1)長期(2ヶ月)ラット移植実験の結果、採り出した移植心膜1mgあたりのカルシウム量が、0.5(μg/mg)以下である。または本件方法による処理時の上記カルシウム量/グルタルアルデヒド処理時の上記カルシウム量が0.5以下であることなどを挙げることができるがそれらに限定されない。あるいは、長期(2ヶ月)ラット移植実験の結果、採り出した移植心膜に対してVonKossa染色をした際に、ほとんど染色されないレベルが達成され得る。
【0141】
1つの実施形態において、本発明の生体由来組織は、生体適合性高分子がランダムに架橋されていることを特徴とする。理論に束縛されることを望まないが、本発明のγ線照射による生体由来組織の処理によって、生体適合性高分子がランダムに架橋され、その結果組織強度が強化されていること、石灰化の抑制効果の増強が達成された。
【0142】
管状組織の場合、組織強度は、β値で表すことができる。β値の算出方法は、本明細書の別の場所において詳述した。ある実施形態において、本発明の生体由来組織は、約15以上のβ値の組織強度を有し、好ましくは、約18以上のβ値の組織強度を有し、より好ましくは約20以上のβ値の組織強度を有し、さらに好ましくは約22以上のβ値の組織強度を有する。別の実施形態において、本発明の生体由来組織は、処理前の組織が有していたβ値の少なくとも約75%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約85%以上、さらに好ましくは約90%以上であり得、未処理状態で正常組織がもともと有していたβ値以上の値を有していてもよい。ここで、組織が未処理状態での特性(例えば、β値)とは、その組織の処理(例えば、本発明のγ線処理または生体適合性高分子での処理)の前(例えば、天然での状態)で有していた特性をいう。
【0143】
本発明の生体由来組織は、臨床適用が意図される組織であれば、身体のどのような組織(例えば、弁状組織、管状組織、膜状組織など)であってもよい。ある実施形態では、本発明の生体由来組織は、組織の物理的構造が必要とされる組織であり得る。物理的構造を保持するためには、細胞の骨格などの構造のみが必要であり、細胞質成分などの細胞内の成分は必ずしも必要ないからである。また、必要に応じて、必要とされる細胞は、別途その生体由来組織に提供され得るか、または移植された宿主から内的に供給され得る。ある実施形態では、本発明の生体由来組織は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨から選択される器官に由来する組織であり得る。別の実施形態では、本発明の生体由来組織は、心臓血管系の組織であり得、例えば、血管、血管様組織、心臓弁および心膜から選択される器官に由来し得る。
【0144】
本発明の生体由来組織は、意図される臨床適用に適合していれば、どのような生物由来の組織であってもよい。従って、本発明の組織は、どの生物(例えば、脊椎動物、無脊椎動物)由来の組織でもあってもよい。ヒトへの適用が意図される場合、好ましくは、脊椎動物由来の組織が用いられ、より好ましくは、哺乳動物(例えば、霊長類、偶蹄類、奇蹄類、齧歯類など)由来の組織が用いられる。ヒトへの適用が意図される場合、さらに好ましくは、霊長類由来の組織が用いられる。ヒトへの適用が意図される場合、さらに好ましくは、ブタ由来の組織が用いられる。大きさがヒトに類似しているからである。ヒトへの適用が意図される場合、最も好ましくはヒト由来の組織が用いられる。本発明の生体由来組織または組織グラフトのサイズは、ヒト以外のものを使用する場合、ヒトのものに近いものであることが好ましく、その物理的特性がヒトのものに近いものであることが好ましい(例えば、ブタ)。
【0145】
本発明において、本発明の生体由来組織が適用される部位は、身体中のどのような部位であってもよい。従って、生体由来組織が由来する身体の部分に再度適用されてもよく、あるいは、他の部分に適用されてもよい。実施例などで示されているように、「元に戻す」かどうかに拘わりなく、いずれの部分に生体由来組織を適用しても、本発明は所望の効果(例えば、再生、自己組織化)を達成することが証明された。従って、本発明は、原理的にはどのような移植手術、再生手術にも使用することができるという多大なる有用性を有する。本発明の生体由来組織が適用され得る部位としては、例えば、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、四肢末梢、網膜、弁、上皮組織、結合組織、筋肉組織、神経組織などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0146】
別の局面において、本発明は、本発明の生体由来組織を含む組織グラフトを提供する。この組織グラフトにおいて、上記生体由来組織には、レシピエント由来の細胞が播種され、培養されて、所望の組織の構造が形成されていることが特徴である。本発明の組織グラフトは、臨床適用が意図される組織の組織グラフトであれば、身体のどのような組織への移植を目的としてもよい。ある実施形態では、本発明の組織グラフトは、組織の物理的構造が必要とされる組織であり得る。物理的構造を保持するために、レシピエント由来の細胞が上述の生体由来組織に移植前に提供され得る。レシピエント由来の細胞は、宿主から内的に供給されていてもよい。ある実施形態では、本発明の組織グラフトは、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨から選択される器官に由来する組織の組織グラフトであり得る。別の実施形態では、本発明の組織グラフトは、心臓血管系の組織の組織グラフトであり得、例えば、血管、血管様組織、心臓弁および心膜から選択される器官に由来する組織グラフトであり得る。
【0147】
本発明の組織グラフトは、意図される臨床適用に適合していれば、どのような生物由来の組織を含んでいてもよい。従って、本発明の組織グラフトは、どの生物(例えば、脊椎動物、無脊椎動物)由来の組織でもあってもよい。ヒトへの適用が意図される場合、好ましくは、脊椎動物由来の組織が用いられ、より好ましくは、哺乳動物(例えば、霊長類、齧歯類など)由来の組織が本発明の組織グラフトに用いられる。ヒトへの適用が意図される場合、さらに好ましくは、霊長類由来の組織が本発明の組織グラフトに用いられる。ヒトへの適用が意図される場合、さらに好ましくは、ブタ由来の組織が本発明の組織グラフトに用いられる。大きさがヒトに類似しているからである。ヒトへの適用が意図される場合、最も好ましくはヒト由来の組織が本発明の組織グラフトに用いられる。
【0148】
本発明の組織グラフトに用いられるレシピエントの細胞は、臨床適用に適切であれば、どのような細胞であってもよい。従って、この細胞としては、血管内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、血球ならびにこれらに分化する前駆細胞および体性幹細胞などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、この細胞は、移植される部位において所望の機能を発揮することができる細胞であり得る。
【0149】
本発明において、本発明の組織グラフトが適用される部位は、身体中のどのような部位であってもよい。従って、組織グラフトが由来する身体の部分に再度適用されてもよく、あるいは、他の部分に適用されてもよい。実施例などで示されているように、「元に戻す」かどうかに拘わりなく、いずれの部分に組織グラフトを適用しても、本発明は所望の効果(例えば、再生、自己組織化)を達成することが証明された。従って、本発明は、原理的にはどのような移植手術、再生手術にも使用することができるという多大なる有用性を有する。本発明の組織グラフトが適用され得る部位としては、例えば、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、四肢末梢、網膜、弁、上皮組織、結合組織、筋肉組織、神経組織などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0150】
別の局面において、本発明は膜状組織グラフト、弁状組織グラフト、管状組織グラフトなどを提供する。この組織グラフトは、本発明の生体由来組織を含む。ここで、この生体由来組織には、レシピエント由来の細胞が播種され、培養されて、所望の組織の構造が形成されていてもよいが、細胞はなくてもよい。好ましくは自己由来以外の細胞がないことが有利である。免疫拒絶反応を惹起しないからである。
【0151】
他の局面において、本発明は、生体由来組織を生産する方法であって、A)生体由来組織を提供する工程;B)生体適合性高分子に該生体由来組織を曝す工程;およびC)該生体由来組織をγ線照射に曝す工程、を包含する、方法を提供する。生体由来組織は、どのようなものを使用しても良い。
【0152】
1つの実施形態において、使用される生体適合性高分子は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エラスチン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、コラーゲン、γ-ポリグルタミン酸およびそれらの2つ以上の混合物等であり得る。好ましくは、ポリエチレングリコールが使用される。
【0153】
好ましい実施形態において、本発明において用いられ生体適合性高分子に曝す工程は、生体適合性高分子を、架橋するようにγ線照射を行うことを包含する。
【0154】
1つの好ましい実施形態において、本発明において用いられるγ線照射の照射量は、10〜250kGyの範囲内である。より好ましくは、γ線照射量は、50kGy〜100kGyの範囲内にある。理論に束縛されることを望まないが、このような照射量では、組織強度を上昇させるのに適切であるからである。組織強度を維持することができる線量の上限を組織に応じて設定することが適当である。組織強度の観点からは、60kGyの方が100kGyよりもより強い強度が得られている場合も存在するがそれに限定されない。
【0155】
本明細書において、γ線照射は、通常、真空、酸素中、窒素中、大気中、水中、両親媒性分子溶液中およびそれらの組み合わせからなる群より選択される環境下で行われ得るが、それらに限定されない。好ましくは、大気中で行われる。
【0156】
好ましい実施形態において、本発明において用いられるγ線照射は、0.5〜240時間の範囲で行われ、より好ましくは1時間〜24時間、さらに好ましくは3〜8時間である。理論に束縛されることを望まないが、強いγ線源を用いて単位時間当たりの線量をあげれば照射時間が短縮可能であるが、強すぎる場合は組織に悪影響が出ることが可能性があるからである。また、時間を長くするには、弱いγ線源を用いればよい。理論に束縛されることを望まないが、弱すぎると、長時間係り、しかも、組織自体が別の要因で損傷を受ける可能性があるからである。
【0157】
本発明において用いられる生体適合性高分子は、どのようなものでもよい。1つの実施形態では、使用されるPEGの平均分子量は、200と6000との間であり、好ましくはPEGの平均分子量は、200と2000との間である。本発明において用いられるPEGは、このように種々の平均分子量を持ち得、平均分子量に応じて処理時間(浸す時間)を変更して所望の効果(例えば、石灰化の抑制)を達成することができる。1つの好ましい実施形態では、本発明において用いられるPEGの平均分子量は、1000と200000との間である。別の好ましい実施形態では、本発明において用いられるPEGの平均分子量は、4000と100000との間である。別の実施形態では、本発明において用いられるPEGの平均分子量は、8000と50000との間である。あるいは、1つの好ましい実施形態では、35000の平均分子量を有するPEGを用いることが好ましい。
【0158】
本発明の方法において、上記生体適合性高分子を組織に曝すは、生体由来組織と生体適合性高分子とが相互作用するような条件であればどのような条件で行われてもよいが、通常0℃と42℃との間で行われ得、室温(約15℃と約25℃との間)で行われてもよく、37℃で行われてもよい。この工程は、37℃を超える温度で行われてもよい。
【0159】
本発明の方法において、PEGなどの生体適合性高分子は、溶液中にどのような濃度で存在してもよいが、好ましくは、1g/ml以上の濃度で存在することが有利である。理論に束縛されることは望まないが、γ線はラジカルスカベンジャーとしての機能が期待されるからである。あるいは、γ線照射の効率を考慮した場合、PEG溶液の濃度は、どのような濃度のものであってもよいが、約1%〜約50%、約10%〜30%であることが好ましく、例えば、約20%のものが使用されるがそれらに限定されない。
【0160】
ただし、生体適合性高分子の原料試薬としてPEG(例えば、分子量1000)を使用する場合、常温で固体であることから、水溶液とすることが好ましくあり得る。本発明の方法において、生体適合性高分子(例えば、PEG)は、どのような溶媒に溶解していてもよいが、好ましくは、水性媒体に溶解され、より好ましくは、生理食塩水、PBS、または他の塩類などが含有される水溶液などに溶解され得る。生体適合性高分子は、生体適合性を有すると同時に医薬品グレードに用いることが可能な高分子を使用することが好ましく、例えば、PEG、(1)日本油脂製SUNBRIGHT_MEHシリーズの高純度メトキシPEG等(http://www.nof.co.jp/business/dds/product01.html)、(2)重松貿易(株)製ポリエチレングリコール系ポリマー(http://www.shigematsu-bio.com/J/products/ecology/poly/hight.html)を挙げることができるがそれらに限定されない。あるいは、(1)γ線で架橋してゲルになる合成高分子のうち、弁や心膜の補強という今回の目的に最も適していると期待される好ましいものとしてはPEG、PVA、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を挙げることができるがそれらに限定されない。(2)γ線で架橋してゲルになる合成高分子のうち、弁や心膜の補強という今回の目的に適しているか可能性があるものとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、天然ゴム(イソプレン単位を含む)および合成ゴム、ならびに各種ポリアミノ酸(εポリリジン、γポリグルタミン酸等)および各種タンパク質(ゼラチン、コラーゲン、エラスチン、フィブリンアルブミン、ケラチン、カゼイン、フィブロイン等)が挙げられるがそれらに限定されない。(3)多糖類は、一般にγ線照射により架橋よりも分解優位的に反応するようである。従って、フィラーとして上記の架橋性ポリマーと混ぜて使うという使い方ができると考えられる。
【0161】
そのような生体適合性高分子は、例えば、日本薬局方(あるいは、対応する他の国における薬局方)に掲載されているか、または厚生労働省(あるいは、対応する他の国における監督官庁)が認可した高分子であり得る。
【0162】
好ましくは、本発明の方法は、溶液に浸された組織を洗浄する工程、をさらに包含する。この洗浄工程は、生理的に適合する液体(例えば、生理食塩水、PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)など)であれば、どのような液体を用いても行うことができる。好ましい実施形態では、本発明の上記洗浄は、PBSで行われる。洗浄溶液は、滅菌されていることが好ましい。さらに好ましくは、洗浄溶液は、抗生物質(例えば、ペニシリン、セファロスポリン、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、エリスロマイシン、バンコマイシン、シプロフロキサシン、リネズリドなど)を含む。洗浄は、どのような条件で行われてもよいが、通常0℃と42℃との間で行われ得、室温(約15℃と約25℃との間)で行われてもよく、37℃で行われてもよい。洗浄は、37℃を超える温度で行われてもよい。本発明の方法において、洗浄する工程は、処理に使用した溶液(例えば、生体適合性高分子を含む溶液)が十分に除去されれば、どのような期間で行われてもよいが、通常0.5日間〜5日間行われ得る。好ましくは、洗浄する工程において、洗浄溶液(例えば、PBS)は、数回交換されてもよい。
【0163】
本発明の方法において使用される組織は、意図される臨床適用に適合していれば、どのような生物由来の組織であってもよい。従って、本発明の方法において用いられる組織は、どの生物(例えば、脊椎動物、無脊椎動物)由来の組織でもあってもよい。ヒトへの適用が意図される場合、本発明の方法において用いられる組織としては、好ましくは、脊椎動物由来の組織が用いられ、より好ましくは、哺乳動物(例えば、霊長類、齧歯類など)由来の組織が用いられる。ヒトへの適用が意図される場合、本発明の方法において用いられる組織としては、さらに好ましくは、霊長類由来の組織が用いられる。ヒトへの適用が意図される場合、さらに好ましくは、ブタまたはウシ由来の組織が用いられる。大きさがヒトに類似しているからである。ヒトへの適用が意図される場合、最も好ましくはヒト由来の組織が用いられる。
【0164】
本発明の方法において用いられる組織は、臨床適用が意図される組織であれば、身体のどのような組織であってもよい。ある実施形態では、本発明の方法において用いられる組織は、組織の物理的構造または物性が必要とされる組織であり得る。物理的構造または物性を保持するためには、細胞外マトリクスなどの構造のみが必要であり、細胞質成分または細胞膜成分などの細胞内の成分は必ずしも必要ないからである。また、必要に応じて、必要とされる細胞は、別途その生体由来組織に提供され得るか、または移植された宿主から内的に供給され得る。ある実施形態では、本発明の方法において用いられる組織は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨から選択される器官に由来する組織であり得る。別の実施形態では、本発明の方法において用いられる組織は、心臓血管系の組織であり得、例えば、血管、血管様組織、心臓弁および心膜から選択される器官に由来し得る。
【0165】
1つの実施形態において、本発明は、さらに化学的処理を含んでいてもよく、例えば、二官能性分子架橋剤(例えば、グルタルアルデヒドまたはその誘導体)による処理であり得る。二官能性分子架橋剤による処理は、ECMもしくは組織中の細胞を含むタンパク質成分などを化学的に架橋することにより物理的強度を増加させることを目的とする。従って、この目的に使用するのであれば、二官能性分子架橋剤である限りどのようなものでも使用することができる。そのような二官能性分子架橋剤ののなかで実際に組織の固定(弁グラフト)に使用されているものは、例えば、シアンイミド(cyanimide)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)、エポキシ(ポリ(グリシジルエーテル))または光架橋剤PhotoMixTM(Sulzer Carbomedics Co.Ltd.)が挙げられるがそれらに限定されない(参考として、Biomaterials(2000)21:2215−2231を参照のこと)。
【0166】
別の実施形態において、この化学的処理は、DNaseIのようなDNaseなどのヌクレアーゼでの処理を包含し得る。そのようなDNaseでの処理により、移植に好ましくないDNA成分をさらに除去することができることから、このDNaseでの処理は、好ましい。そのようなDNaseはどのようなDNaseでもよいが、好ましくはDNaseIであり得る。DNase処理により荷電性高分子物質であるDNAを除去することができる。DNAは免疫反応を誘起する可能性があることから、DNAをさらに除去することによってさらなる利点を提供することができる。
【0167】
ヌクレアーゼ(例えば、DNase)での処理は、どのような条件で行ってもよいが、加圧条件、攪拌条件などを組み合わせてもよい。濃度としては、例えば、1U/ml〜100U/mlなどが意図され、例示としては、例えば50〜75U/mlが挙げられるがそれらに限定されない。ヌクレアーゼ処理は、例えば、0.5日〜5日程度行うことができ、このうち、最初の数時間(例えば、1〜24時間)は、加圧条件(例えば、100〜1000kPa(例示として500kPa))で行うことが考えられる。その後、攪拌(例えば、100〜500RPM、好ましくは100〜150RPM)条件で行うこともできる。ヌクレアーゼ処理の前後は、上述の洗浄溶液を用いて保存することが好ましい。
【0168】
別の好ましい実施形態において、本発明の生体由来組織の製造法では、細胞を播種する工程をさらに包含していてもよいが、これに限定されない。播種する細胞については、本明細書において上述されるように、情況に応じて当業者が適宜選択することができる。
【0169】
本発明はまた、本発明の方法によって得られる生体由来組織を提供する。この生体由来組織は、好ましくは、上述の細胞残存率および/または組織損傷率および/または組織強度を有し得る。本発明のラジカル反応を用いた処理方法が提供される前は、上述の細胞残存率および/または組織損傷率および/または組織強度を有する生体由来組織を提供することはできなかったことから、本発明の方法は、従来の方法では提供することができなかった石灰化の抑制などの特性を有する生体由来組織を提供するという全く新規の物質を提供するものであり、予想外の利点を提供する。
【0170】
別の局面において、本発明は、組織の再生方法であって、a)生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織を、生体内に提供する工程;およびb)該生体内で組織再生が生じるに十分な時間インキュベートする工程、を包含する。必要に応じて、この細胞の分化を誘導する生理活性物質を提供する工程および/またはこの生体由来組織に細胞を提供する工程を含んでいてもよく、生体由来組織に細胞を提供しなくてもよい。好ましくは、生理活性物質は、目的の組織の維持または分化に必要なものが使用される。生理活性物質は、生体内に由来するものであっても、生体外に由来するものであってもよい。生体内に由来するものの場合は、実質的には何ら操作をすることなく、単に移植後一定時間が経過することによって、適切な生理活性物質への暴露がなされることが理解される。生理活性物質としては、例えば、HGF、VEGF、FGF、IGF、PDGFおよびEGFが挙げられるがそれらに限定されない。
【0171】
好ましくは、この細胞は、血管細胞または血管様細胞であり得る。より好ましくは、この細胞は、レシピエント由来であり得る。あるいは、好ましくは、この組織は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨からなる群より選択されるものの組織であり得る。好ましい実施形態では、この組織とこの細胞とは、同じ宿主由来であり得る。別の実施形態では、この組織とこの細胞とは、同種異系宿主由来であり得る。別の実施形態では、この組織とこの細胞とは、異種宿主由来であり得る。レシピエントと細胞とが同種異系由来または異種由来である場合、拒絶反応が考えられることから、レシピエントと細胞とは同じ宿主由来であることが好ましいが、拒絶反応が問題でない場合同種異系由来または異種由来であってもよい。また、拒絶反応を起こすものも必要に応じて拒絶反応を解消する処置を行うことにより利用することができる。拒絶反応を回避する手順は当該分野において公知であり、例えば、新外科学体系、心臓移植・肺移植 技術的,倫理的整備から実施に向けて(改訂第3版)に記載されている。そのような方法としては、例えば、免疫抑制剤、ステロイド剤の使用などの方法が挙げられる。拒絶反応を予防する免疫抑制剤は、現在、「シクロスポリン」(サンディミュン/ネオーラル)、「タクロリムス」(プログラフ)、「アザチオプリン」(イムラン)、「ステロイドホルモン」(プレドニン、メチルプレドニン)、「T細胞抗体」(OKT3、ATGなど)があり、予防的免疫抑制療法として世界の多くの施設で行われている方法は、「シクロスポリン、アザチオプリンおよびステロイドホルモン」の3剤併用である。本発明は、石灰化を抑制したという点において顕著な効果を奏することから、免疫抑制剤は、本発明の医薬の適用において必要ではないが、投与する場合は同時期に投与されることが望ましいが、必ずしも必要ではない。従って、免疫抑制剤を利用する場合は、免疫抑制効果が達成される限り免疫抑制剤は再生方法を行う前または後にも投与され得る。
【0172】
別の局面において、本発明は、組織グラフトを生産する方法であって、A)生体適合性高分子を含む生体由来組織を生体内に提供する工程;B)該生体由来組織に該生体の自己細胞を侵入させる工程;およびC)該細胞の分化が生じるに十分な時間インキュベートする工程、
を包含する。この場合、本発明の生体由来組織は、細胞をさらに有していても、有していなくてもよい。そのような細胞は、自己由来、同種由来、同種異系由来、異種由来のものであり得る。好ましくは、この細胞は、血管細胞または血管様細胞であり得る。より好ましくは、この細胞は、レシピエント由来であり得る。好ましくは、この組織は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨からなる群より選択されるものの組織であり得る。好ましい実施形態では、この組織とこの細胞とは、同じ宿主由来であり得る。別の実施形態では、この組織とこの細胞とは、同種異系宿主由来であり得る。別の実施形態では、この組織とこの細胞とは、異種宿主由来であり得る。レシピエントと細胞とが同種異系由来または異種由来である場合、拒絶反応が考えられることから、レシピエントと細胞とは同じ宿主由来であることが好ましいが、拒絶反応が問題でない場合同種異系由来または異種由来であってもよい。また、拒絶反応を起こすものも必要に応じて拒絶反応を解消する処置を行うことにより利用することができる。拒絶反応を解消する処置は、本明細書において詳述されている。
【0173】
好ましい実施形態において、本発明の組織グラフトを生産する方法は、D)上記細胞の分化を誘導する生理活性物質を提供する工程、をさらに包含し得る。好ましくは、この生理活性物質は、造血活性を有するサイトカインであり得る。組織グラフトを製造する場合、このサイトカインは、HGF、VEGF、FGFなどであり得る。生理活性物質は、自己由来であっても、外来由来であってもよい。生理活性物質が自己由来の場合は、単に移植後一定時間時間を経過させることによって目的が達成されることに留意すべきである。
【0174】
別の局面において、本発明は、本発明の方法によって生産された、生来由来組織または組織グラフトを提供する。このような生体由来組織または組織グラフトは、組織強度および石灰化抑制率の点で従来存在しなかった特徴を有する。
【0175】
他の局面において、本発明は、組織または臓器移植を必要とするかまたは該危険にある被験体の処置または予防の方法であって、A)生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織、または該生体由来組織を含む組織グラフトを提供する工程;およびB)該生体由来組織または組織グラフトを被験体に移植する工程、を包含する、方法を提供する。この生体由来組織は、必要に応じてさらに細胞を含む。この細胞は、自己由来であっても、同種異系由来であってもよい。好ましくは、この組織は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨からなる群より選択されるものの組織であり得る。好ましい実施形態では、この組織は、被験体由来であり得る。別の実施形態では、この組織は、被験体と同種異系の宿主由来であり得る。別の実施形態では、この組織は、被験体とは異種の宿主由来であり得る。本発明のこの治療/予防方法では、移植に耐え得る程度の組織損傷率に抑えられ、かつ、石灰化抑制が十分に行われた生体由来組織が使用されることから、拒絶反応は生じない。ただし、かりに拒絶反応が生じた場合、またはレシピエント由来以外の細胞が用いられた場合、拒絶反応を起こしたときに、必要に応じて拒絶反応を解消する処置を行うことができる。拒絶反応を解消する処置は、本明細書において詳述されている。1つの実施形態では、本発明の処置または予防する方法において使用される組織は、被験体由来であってもよい。別の実施形態では、本発明の処置または予防する方法において使用される組織は、どの生物(例えば、脊椎動物、無脊椎動物)由来の組織でもよい。好ましくは、ヒトが処置または予防される場合、脊椎動物由来の組織が用いられ、ヒトが処置または予防される場合、より好ましくは、哺乳動物(例えば、霊長類、齧歯類など)由来の組織が用いられる。ヒトが処置または予防される場合、さらに好ましくは、霊長類由来の組織が用いられる。ヒトが処置または予防される場合、別の好ましい実施形態では、ブタまたはウシ由来の組織が用いられる。ブタまたはウシが好ましいのは、ヒトに類似した大きさを有するからである。ヒトが処置または予防される場合、最も好ましくはヒト由来の組織が用いられ得る。
【0176】
別の局面において、本発明は、臓器移植のための医薬を提供する。この医薬は、A)生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織、または該生体由来組織を含む組織グラフト、を含む。
ある実施形態では、本発明の医薬は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨から選択される器官に由来する組織を含む。別の実施形態では、本発明の医薬は、心臓血管系の組織を含み得、例えば、血管、血管様組織、心臓弁および心膜から選択される器官に由来するものを含み得る。
【0177】
本発明の医薬は、意図される臨床適用に適合していれば、どのような生物由来の組織を含んでいてもよい。好ましくは、適用される国の監督官庁が認可した材料を含み得る。従って、本発明の医薬は、どの生物(例えば、脊椎動物、無脊椎動物)由来の組織を含んでいてもよい。本発明の医薬においてヒトへの適用が意図される場合、好ましくは、脊椎動物由来の組織が用いられ、より好ましくは、哺乳動物(例えば、霊長類、齧歯類など)由来の組織が用いられる。本発明の医薬においてヒトへの適用が意図される場合、さらに好ましくは、霊長類由来の組織が用いられる。本発明の医薬においてヒトへの適用が意図される場合、さらに好ましくは、ブタまたはウシ由来の組織が用いられる。大きさがヒトに類似しているからである。本発明の医薬においてヒトへの適用が意図される場合、最も好ましくはヒト由来の組織が用いられる。ただし、ヒト由来の組織を使用する場合は、倫理規定・問題をクリアしていることが必要とされ得る。
【0178】
本発明の医薬、組織グラフトおよび生体由来組織はまた、さらに生体親和性材料を含み得る。この生体親和性材料は、例えば、シリコーン、コラーゲン、ゼラチン、グリコール酸・乳酸の共重合体、エチレンビニル酢酸共重合体、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。成型が容易であることからシリコーンが好ましい。生分解性高分子の例としては、コラーゲン、ゼラチン、α−ヒロドキシカルボン酸類(例えば、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸など)、ヒドロキシジカルボン酸類(例えば、リンゴ酸など)およびヒドロキシトリカルボン酸(例えば、クエン酸など)からなる群より選択される1種以上から無触媒脱水重縮合により合成された重合体、共重合体またはこれらの混合物、ポリ−α−シアノアクリル酸エステル、ポリアミノ酸(例えば、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタミン酸など)、無水マレイン酸系共重合体(例えば、スチレン−マレイン酸共重合体など)のポリ酸無水物などが挙げられる。重合の形式は、ランダム、ブロック、グラフトのいずれでもよく、α−ヒドロキシカルボン酸類、ヒドロキシジカルボン酸類、ヒドロキシトリカルボン酸類が分子内に光学活性中心を有する場合、D−体、L−体、DL−体のいずれでも用いることが可能である。ある実施形態では、グリコール酸・乳酸の共重合体が使用され得る。
【0179】
本発明の医薬、組織グラフトおよび生体由来組織は、さらに他の薬剤を含み得る。そのような薬剤は、薬学分野において公知の任意の薬剤であり得る。当然、本発明の医薬、組織グラフトおよび生体由来組織は、2種類以上の他の薬剤を含んでいてもよい。そのような薬剤としては、例えば、日本薬局方、米国薬局方、他の国の薬局方などの最新版において掲載されているものなどが挙げられる。そのような薬剤は、好ましくは、生物の器官に対して効果を有するものであり得る。そのような薬剤としては、例えば、血栓溶解剤、血管拡張剤、組織賦活化剤が挙げられる。本発明の医薬、組織グラフトおよび生体由来組織において含まれる生理活性物質、他の薬剤および細胞などの量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。
【0180】
別の局面において、本発明は、臓器移植のための医薬を製造するための、本発明の生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織または本発明の生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織を含む組織グラフトの、使用に関する。ある実施形態では、本発明の使用において、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨から選択される器官に由来する組織が使用され得る。別の実施形態では、本発明の使用において、心臓血管系の組織が使用され得、例えば、血管、血管様組織、心臓弁および心膜から選択される器官に由来するものを使用され得る。
【0181】
本発明の使用において、意図される臨床適用に適合していれば、どのような生物由来の組織でも使用することができる。好ましくは、適用される国の監督官庁が認可した材料が使用され得る。従って、本発明の使用において、どの生物(例えば、脊椎動物、無脊椎動物)由来の組織が使用されてもよい。本発明の使用においてヒトへの適用が意図される場合、好ましくは、脊椎動物由来の組織が用いられ、より好ましくは、哺乳動物(例えば、霊長類、齧歯類など)由来の組織が用いられる。本発明の使用においてヒトへの適用が意図される場合、さらに好ましくは、霊長類由来の組織が用いられる。本発明の医薬においてヒトへの適用が意図される場合、さらに好ましくは、ブタまたはウシ由来の組織が用いられる。大きさがヒトに類似しているからである。本発明の使用においてヒトへの適用が意図される場合、最も好ましくはヒト由来の組織が用いられる。ただし、ヒト由来の組織を使用する場合は、倫理規定・問題をクリアしていることが必要とされ得る。
【0182】
本発明の生体由来組織、グラフトおよび医薬の使用は、通常は医師の監督のもとで行われるが、その国の監督官庁および法律が許容する場合は、医師の監督なしに使用することができる。
【0183】
本発明の処置または予防方法において使用される生体由来組織、グラフトおよび医薬の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、被験体の年齢、体重、性別、既往歴、生理活性物質の形態または種類、組織の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。
【0184】
本発明の方法を被験体(または患者)に対して施す頻度もまた、1回あたりの生体由来組織、グラフトおよび医薬の使用量、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日〜数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間〜1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0185】
本明細書では、必要に応じて当該分野で周知の分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法が用いられる。そのような方法は、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、NewYork、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,ColdSpring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
【0186】
別の局面において、本発明の生体由来組織、グラフトおよび/または医薬は、この生体由来組織、グラフトおよび/または医薬を投与する指針を与える指示書を備えるキットという形態で提供され得る。ここで、上記指示書は、生体由来組織、グラフトおよび/または医薬の適切な投与方法を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0187】
本発明の生体由来組織、組織グラフトおよび医薬は、当該分野において周知の技術を用いて移植することができる(外科手術に関しては、標準外科学第9版(医学書院)基本的外科手術手技(p41−p66)、心臓(p349−p398)、血管(p399−428)などを参照のこと)。本発明の生体由来組織は、血管吻合、パッチ閉鎖術、人工血管置換術、人工弁置換術などに使用され得る。したがって、当業者は、処置する状況に応じて、本明細書の開示に従って、本発明の生体由来組織、組織グラフトおよび医薬を、適宜適用することができる。
【0188】
本発明において、本発明の医薬が適用される部位は、身体中のどのような部位であってもよい。従って、医薬が由来する身体の部分に再度適用されてもよく、あるいは、他の部分に適用されてもよい。実施例などで示されているように、「元に戻す」かどうかに拘わりなく、いずれの部分に医薬を適用しても、本発明は所望の効果(例えば、再生、自己組織化)を達成することが証明された。従って、本発明は、原理的にはどのような移植手術、再生手術にも使用することができるという多大なる有用性を有する。本発明の医薬が適用され得る部位としては、例えば、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、四肢末梢、網膜、弁、上皮組織、結合組織、筋肉組織、神経組織などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0189】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0190】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、この発明は以下の例に限定されるものではない。以下の実施例において用いられる試薬などは、例外を除き、Sigma(St.Louis,USA)、和光純薬(大阪、日本)などから市販されるものを用いた。また、動物実験は、大阪大学に規定される規準を遵守して行った。
【0191】
(実施例1)
(材料および方法)
(材料)
(1)チャージ溶液(Charge solution)
・PBS(−)(pH7.4;0.1M リン酸緩衝液(リン酸2水素ナトリウム・2水(リン酸1ナトリウム)NaHPO・2H0 11.84 gおよびリン酸水素2ナトリウム・12水(リン酸2ナトリウム)NaHPO・12H0 116.0 g;作成法:およそ1800mlの蒸留水をとり、リン酸2水素ナトリウムを溶かす(容易に溶ける)。 リン酸水素2ナトリウムを加える(難溶)。完全に溶解したら蒸留水を加えて全量で2000mlにする。)1000 mlにNaClを9 g加える)にて以下を調製した。
20mM EDTA、Protease inhibitors cocktail
0.1%NaN
100U/mlペニシリン
100μg/mlストレプトマイシン(1%)
1.25μg/mlアムホテリシンB(0.5%)
カナマイシン 100mg/l (SIGMA)
(2)リンス溶液浴
・PBS(−)(pH7.4)にて以下を調製した。
0.1%NaN
100U/mlペニシリン 100μg/ml
ストレプトマイシン(1%)
1.25μg/mlアムホテリシンB(0.5%)
カナマイシン 100mg/l
(3)PEG溶液
・PEG(分子量8,000、35,000、50,000)を電子レンジにて溶解し、滅菌ミリQで20%に調整。
【0192】
(γ線照射適用のための生体適合性高分子を用いた処理)
ウシ生体組織(大動脈、大動脈弁、心膜)をHybrid(混合種)(Labo Products Co.Ltd.,Osaka,Japan)から、およびラット大動脈をSDラット(雄性、5週齢、日本動物,Osaka,Japan)から減菌条件下で調製した。動物使用の倫理に関しては,大阪大学の動物実験の倫理に関する規定に従って行った。
【0193】
ウシから心膜を取り出し、生体適合性高分子としてポリエチレングリコールを用いて処理を行った。以下にそのプロトコールを示す。
【0194】
(1)心膜の取り出し
新鮮に収集したウシ心膜は、抗生物質(Gibco BRL,Life Technologies Inc.Rockville,MD,USA)を含む生理食塩水またはPBS(これを本実施例においてPBS(−)とする。Gibco BRL,Life Technologies Inc.Rockville,MD,USA)に入れ、血液成分を洗浄除去した。
【0195】
(2)心膜加工
1)クリーンベンチ内にてチャージ溶液(Charge solution)に入って送られてきた心膜を滅菌バットに移し、脂肪組織や厚い部分を取り除いた。
2)使用する大きさ(現在10cm×5cm)にカットし、rinse solutionで数回washして使用する(洗浄する際の溶液の量は心膜の量により違うが、例えば3〜5枚で10Lの溶液を使用した)。
【0196】
(3)PEGの組織への浸潤
1)20%PEG溶液20mlを滅菌シャーレに入れ、その中に心膜を浸す。浸した後コンラージ棒又はローラーで心膜をしごき、溶液を圧入した。
2)前記心膜を20%PEG溶液とともにハイブリバッグに封入し、できるだけ空気を除去した後、密閉した。
3)前記バックにγ線を照射(25kGyまたは50kGy)した。
4)照射終了後はそのまま4℃にて保存した。
【0197】
(コラーゲン構造)
コラーゲン構造には、pH、イオン強度、溶剤の極性、陰イオン界面活性剤などが影響を与え得ることが示されている(Ripamonti A,et al.,1980,Biopolymers 19:965−975;およびXiao WH,Knight DP,Chapman JA.,1997,Biochimica et Biophysica Acta.1134:327−337)。コラーゲン構造が変化すると生体工学的特性が変化することも知られている。このような問題を回避するために、この実施例では、組織処理プロセスを、マトリクスに影響がないように設計した。コラーゲン構造の組織学的試験および張力強度測定によりマトリクスが全く損なわれていないことを以下の実験で実証した。
【0198】
(組織学的検査)
血管移植片のパラフィン切片(厚さ3μm)を調製し、そしてヘマトキシリン−エオシン染色を行って、細胞外マトリクスの同定を行った。基底膜の成分であるI/IV型コラーゲンを同定するために、免疫組織化学的染色法を用いた。SDラット(雄性、5週齢、Nippon Animal Co.Ltd.東京、日本)の大動脈を4%パラホルムアルデヒドで固定し、凍結保護した。凍結切片(5μm厚)を調製し、PBS(−)で3時間透過性にし、そしてPBS(−)中の1%BSAで1時間室温でブロッキングした。ついで、この切片を一次抗体(抗ラットコラーゲン抗体、コスモバイオ、東京、日本)とともにインキュベートし、そしてFITCと結合体化した二次抗体(抗ヒツジIg抗体;コスモバイオ、東京、日本)とインキュベートした。画像は、Zeiss LSM510共焦点顕微鏡を用いて得た。
【0199】
(von Kossa染色)
von Kossa染色は以下のとおり行った。必要に応じて脱パラフィン(例えば、純エタノールにて)、水洗(蒸留水)を行い、25% 硝酸銀液(間接光下)に2時間浸した。その後、蒸留水水洗し、42% 2% チオ硫酸ナトリウム(ハイポ) に5分浸した。その後、流水水洗を5分行い、次いでケルンエヒテロートに5分浸した。その後、流水水洗を5分行い、脱水し、透徹し、封入した。
【0200】
(カルシウムの定量)
1.サンプル (10 mg)を量りとった。
2.6N HClをサンプルmgあたり50 μl加えた。
3.85℃, 48h インキュベートした。
4.等量の6N NaOH 500 μlを加えた。
5.原子吸光光度計でカルシウム濃度を測定した。
【0201】
(γ線照射)
本実施例では、γ線照射は以下のように実施した。その手順を簡単に示す。
【0202】
PEG処理後の生体由来組織をプラスチック蓋付きのガラス製サンプル瓶(径5cm×高さ8cm程度)に入れ、蓋を閉めた状態(内部には組織+空気)でコバルト60線源によりγ線照射を行った。温度は常温(室温)にて行ったが照射により生じる熱量にて温度がやや上昇し、照射時には25℃から40℃の間であったようである。γ線照射する前に洗浄は行ってもよく、行わなくても良い。
【0203】
理論の束縛されることは望まないが、γ線の効果としては、例えば、石灰化の抑制、γ線により直接的細胞障害作用、γ線の採用によって発生するフリーラジカルの細胞障害作用の両方が考えられる。この場合PEGがスカベンジャーとして作用することが考えられる。
【0204】
次に、γ線照射の種々の条件について検討した。
【0205】
(γ線照射量)
γ線照射量として、なし、20kGy、40kGy、50kGy、80kGy、100kGy、130kGy、250kGyを用いた。
【0206】
(攪拌処理)
上述の条件での攪拌の有無を組み合わせた。
【0207】
(周囲条件)
大気中の他、水中、PEG(平均分子量35000の処理溶液と同様)のものを用いた。
【0208】
(対照実験)
対照として、グルタルアルデヒド化学処理を行った(γ線照射を行っていない)生体由来組織(弁)およびウシ生弁を含めた。
【0209】
(生体組織内での反応の比較)
(方法)
(免疫学的応答)
SDラットの背部皮下に作製した生体適合性高分子処理した生体由来組織を移植し,1週間および2ヶ月後屠殺して、炎症細胞浸潤の程度をスコア化し評価した。本実施例においてコントロールとして上記未処理弁およびウシ生弁と比較検討した。
【0210】
(石灰化)
ラット皮下に移植した検体を1週間および2ヵ月後に採収し、von Kossa染色で石灰沈着を評価した。また、原子吸光分光計(Atomic absorption spectrometry)で組織内Ca濃度を測定した。Ca濃度は、濃塩酸(または濃酸)に組織を入れて、加熱および溶解させる。その後、原子吸光測定を行う。その溶液を希釈し、高温プラズマ中に噴霧し、燃焼時に発生するスペクトルの元素特異的吸収波長(Caは393.366nm)より定量測定を行った。
【0211】
SDラット(250g)の背部皮下にγ線照射処理ウシ大動脈弁および他のコントロール弁の大動脈壁部分(10×10mm)を移植し2ヵ月後に検体を採収し、Atomic absorption spectorometry(SPS7800:Seiko Instrument Inc.)で組織内Ca濃度(dry weightあたりのCa含量)を測定した(Ozaki S.Pathophysiology of calcification of bioprosthetic heart valves.Acta Biomedical Lovaniensia.2001を参照のこと)。
【0212】
(移植)
本発明のプロセスで得られた大動脈壁組織の一部をイヌ下行大動脈に移植した。
【0213】
(結果)
本実施例の結果を、γ線照射処理ラット皮下移植結果(HE染色の実像;図1)、HE染色(図2)、Von Kossa染色(図3)およびカルシウム定量(図4;未処理弁コントロールを含む)の結果として、ならびにコントロール弁としての未処理弁コントロールの非会食結果(HE染色の実像;図5)を示す。
【0214】
皮下移植の結果の2ヶ月後の結果(図1〜3)に示すように、いずれの照射量(25kGy、50kGy)でも炎症細胞の浸潤は認められず、移植先に定着していることが明らかになった。他方、未処理のウシ生弁は複数層の炎症細胞の浸潤が認められた(図5。他の架橋反応として、グルタルアルデヒド処理をした場合(示さず)、カルシウム沈着が進んでいた(図4を参照)。線量の比較をすると、von Kossa染色で見た場合、25kGyの照射は、ほとんど石灰沈着を認めなかった。50kGyでもほとんど認められなかったことから、両者とも、石灰沈着において顕著な効果が達成されたことが示された。HE染色でみた細胞の浸潤は、いずれの線量でも認められなかった。
【0215】
(実施例3)細胞置換の確認
各弁の生体組織での反応の比較
イヌ大腿大動脈に、実施例1で作製したγ線照射処理ウシの前腕の動脈を移植し,10日後そのウシを屠殺して,炎症細胞浸潤の程度を比較検討する。
【0216】
(結果)
本発明の生体由来組織は、炎症反応はほとんど見られず、全体的な組織構造は損なわれていないことが分かる。さらに、移植組織を観察することによって、処理された組織が自己細胞に置換されることを確認することができる。
【0217】
(実施例4:心筋梗塞ラットモデルでの検証)
次に、実施例1に従って作製した人工心膜をラット梗塞心に移植する。
【0218】
(心筋梗塞ラットモデル)
雄性Lewis系統ラットを本実施例において用いた。National Society for Medical Researchが作成した「Principles of Laboratory Animal Care」、およびInstitute of Laboratory Animal Resourceが作成しNational Intitute of Healthが公表した「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」(NIH Publication No.86−23,1985改訂)に遵って、動物愛護精神に則った世話を動物に対して行う。
【0219】
急性心筋梗塞を文献(Weisman HF, Bush DE, Mannisi JA et al. Cellular mechanism of myocardial infarct expansion. Circulation. 1988;78:186−201)に記載されるように誘導した。簡潔には、ラット(300g、8週齢)をペントバルビタールナトリウムで麻酔をし、陽圧式呼吸を行う。ラットの心筋梗塞モデルを作製するために、左第四肋間で胸郭を開き左冠動脈を根元から3mmの距離で、8−0ポリプロピレン糸で完全に結紮する。
【0220】
(移植)
レシピエントラットを麻酔し、左第五肋間で胸郭を開いて心臓を露出させる。このラットを心筋梗塞領域に投与した物質に従って2群に分ける。C群(無治療群、n=5)とS群(脱細胞心膜移植群、n=5)。脱細胞心膜は左前下降枝結紮2週後に梗塞部位に直接移植する。
【0221】
(ラット心臓の心機能の測定)
梗塞モデル作成2週後、移植後4週、8週後に、心臓超音波(SONOS 5500, Agilent Technologies社製)にて心機能を測定する。12−MHzのtransducerを用い、左側方より、左室が最大径を示す位置で、短軸像を描出する。B−modeにて、左室収縮末期面積(end systolic area)、M−modeにて、左室拡張末期径(LVDd)、左室収縮末期径(LVDs)、左室前壁厚(LVAWTh)を測定し、LVEF、LVFSを算出する。
【0222】
(組織学的分析)
心筋細胞移植後、8W後に心臓を摘出し、短軸にて切断し、10%ホルムアルデヒド溶液につけ、パラフィン固定を行う。切片を作成し、ヘマトキシリンーエオジン染色、マッソン−トリクローム染色を行う。また同時期の凍結切片を作製し、FactorVIII免疫染色を行う。
【0223】
このように、本発明のγ線処理生体由来組織は、処理前の組織が由来する部位以外の部分にも充分に適用できることが明らかになる。
【0224】
(実施例5:硬膜の処理)
次に、ウシから硬膜を取り出し、実施例1に記載のようにポリエチレングリコール溶液で処理し、γ線照射することができる。
【0225】
この硬膜を、実施例2に記載のように、Lewisラットに移植し、炎症細胞の浸潤および石灰化について調べることができる。
【0226】
このように、本発明の方法は、どのような組織を用いても同様の優れた特性を示すγ線照射処理を行うことができることがわかる。
【0227】
(実施例6:他の高分子)
次に、他の生体適合性高分子として、ポリエチレングリコール以外にも、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、γ−ポリグルタミン酸、ゼラチンについて、実施例1と同様の実験を行う。これらの生体適合性高分子は、同程度のγ線照射の条件(濃度10%、同一のガラス瓶とコバルト60線源を利用して、60−100kGy程度の照射)で架橋・ゲル化することから、同様の実施例1と同様の実験を行うことによって、同様の生体由来組織の強化効果を確認することができる。具体的には、最大点加重(N)、最大点伸び(mm表示)、弾性率(MPa)を実施例1に記載のように測定することによって、ポリエチレングリコールのほか、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、γ−ポリグルタミン酸、ゼラチンを用いても、同様の強化効果を確認することができる。
【0228】
(実施例7)
次に、同様の効果が、血管、腸管、心膜、腸間膜、角膜、網膜、骨、尿管の生体由来組織にも現れるかどうかを確認する。実施例1と同様の実験を行う。これらをポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、γ−ポリグルタミン酸およびゼラチンを用いて生体適合性高分子処理およびγ線照射処理をする。この強化生体由来組織について、実施例2〜5と同様の実験を行うことによって、同様の生体由来組織の強化効果を確認することができる。弁以外の血管、腸管、心膜、腸間膜、角膜、網膜、骨、尿管の生体由来組織であっても、同様の石灰化抑制効果および強化効果を確認することができる。
【0229】
(実施例8:最適パラメータの検討)
次に、上記実施例以外にも、種々の処理方法で作製した生体由来組織を、PEGの他の分子量のもの、PVA、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いて強化したときの効果について検証することができる。
【0230】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0231】
本発明により、組織損傷率を臨床適用可能な程度に抑えつつ、組織強度を顕著に上昇させ、石灰化の顕著な抑制を達成する技術の改良法が確立された。この技術によって調製された生体由来組織およびグラフトは、さらに強化されている。従って、このような組織は、産業上で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0232】
【図1】図1は、本発明の生体適合性分子処理およびγ線照射後の生体由来組織のラットへの移植後2ヶ月の様子を示す。本図では、上に25kGyのγ線で重合させたウシ心膜を示し、下に50kGyのγ線で重合させたウシ心膜を示す。左は生体内の様子および右は取り出した生体由来組織を示す。25kGy処理では細胞の浸潤は薄いが、50kGy処理では細胞の顕著な浸潤が認められる。
【図2】図2は、本発明の生体適合性分子処理およびγ線照射後の生体由来組織のラットへの移植後2ヶ月のHE染色図を示す。本図では、上に25kGyのγ線で重合させたウシ心膜を示し、下に50kGyのγ線で重合させたウシ心膜を示す。各図は種々の部位での写真を示した例である。
【図3】図3は、本発明の生体適合性分子処理およびγ線照射後の生体由来組織のラットへの移植後2ヶ月のvon Kossa染色を示す。本図では、上に25kGyのγ線で重合させたウシ心膜を示し、下に50kGyのγ線で重合させたウシ心膜を示す。各図は種々の部位での写真を示した例である。
【図4】図4は、本発明の生体適合性分子処理およびγ線照射後の生体由来組織のラットへの移植後2ヶ月のカルシウム沈着量を示す。グラフでは、左から、25kGyのγ線で重合させたウシ心膜、50kGyのγ線で重合させたウシ心膜およびグルタルアルデヒド処理したウシ心膜を示す。
【図5】図5は、未処理のウシ心膜についての移植2ヶ月のデータを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織。
【請求項2】
前記生体由来組織は、脱細胞化処理を受けていないことを特徴とする、請求項1に記載の生体由来組織
【請求項3】
細胞外マトリクス成分が少なくとも一部が共有結合で架橋されていることを特徴とする、請求項1に記載の生体由来組織。
【請求項4】
前記細胞外マトリックス成分は、コラーゲン、エラスチン、ラミニン、フィブロネクチン、テネイシン、グリコサミノグリカンおよびプロテオグリカンからなる群より選択される、請求項3に記載の生体由来組織。
【請求項5】
前記生体適合性高分子は、前記生体由来組織をコーティングする、請求項1に記載の生体由来組織。
【請求項6】
前記生体適合性高分子は、前記生体由来組織に架橋されている、請求項1に記載の生体由来組織。
【請求項7】
前記γ線照射は、10kG〜250kGの間の線量で提供される、請求項1に記載の生体由来組織。
【請求項8】
前記γ線照射は、25kG〜50kGの間の線量で提供される、請求項1に記載の生体由来組織。
【請求項9】
前記生体適合性高分子は、生分解性である、請求項1に記載の生体由来組織。
【請求項10】
前記生体適合性高分子は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、エラスチン、ポリエチレングリコール(PEG)、ゼラチン、コラーゲン、γ-ポリグルタミン酸およびそれらの2つ以上の混合物からなる群より選択される群より選択される高分子を含む、請求項1に記載の生体由来組織。
【請求項11】
前記生体適合性高分子は、ポリエチレングリコール(PEG)を含む、請求項1に記載の生体由来組織。
【請求項12】
前記ポリエチレングリコール(PEG)は、分子量1000〜200,000の範囲内にある、請求項11に記載の生体由来組織。
【請求項13】
前記ポリエチレングリコール(PEG)は、分子量8,000から50,000の範囲内にある、請求項11に記載の生体由来組織。
【請求項14】
前記生体由来組織は、臨床適用することができる組織強度を有する、請求項1に記載の生体由来組織。
【請求項15】
前記生体由来組織は、移植したときに石灰化が顕著に抑制される、請求項1に記載の生体由来組織。
【請求項16】
前記生体適合性高分子は、ランダムに架橋されていることを特徴とする、請求項1に記載の生体由来組織。
【請求項17】
前記生体由来組織は、膜状組織、弁状組織または管状組織である、請求項1に記載の生体由来組織。
【請求項18】
前記生体由来組織は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨から選択されるものの組織である、請求項1に記載の生体由来組織。
【請求項19】
前記生体由来組織は、哺乳動物由来である、請求項1に記載の生体由来組織。
【請求項20】
前記生体由来組織は、ヒト、ウシまたはブタ由来である、請求項1に記載の生体由来組織。
【請求項21】
請求項1に記載の生体由来組織を含む、移植用の組織グラフト。
【請求項22】
前記組織グラフトは、膜状、管状および弁状からなる群より選択される形状を有する、請求項21に記載の組織グラフト。
【請求項23】
移植用の組織を生産する方法であって、
A)生体由来組織を提供する工程;
B)生体適合性高分子に該生体由来組織を曝す工程;および
C)該生体由来組織をγ線照射に曝す工程、
を包含する、方法。
【請求項24】
前記γ線照射は、該生体適合性高分子に化学反応が起こる条件下で行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記γ線照射は、10kG〜250kGの間の線量で提供される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記γ線照射は、25kG〜50kGの間の線量で提供される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記γ線照射は、真空、酸素中、窒素中、大気中、水中、両親媒性分子溶液中およびそれらの組み合わせからなる群より選択される環境下で行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記γ線照射は、0.5〜240時間の範囲で行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記生体適合性高分子は、生分解性である、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記生体適合性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エラスチン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、コラーゲン、γ-ポリグルタミン酸およびそれらの2つ以上の混合物からなる群より選択される群より選択される高分子を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
前記生体適合性高分子は、ポリエチレングリコールを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
前記ポリエチレングリコールは、分子量1000〜200,000の範囲内にある、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記生体適合性高分子は、1%(w/v)〜50%(w/v)の濃度で使用される、請求項23に記載の方法。
【請求項34】
前記生体由来組織は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨からなる群より選択されるものの組織である、請求項23に記載の方法。
【請求項35】
前記生体由来組織は、哺乳動物由来である、請求項23に記載の方法。
【請求項36】
前記生体由来組織は、ヒト、ウシまたはブタ由来である、請求項23に記載の方法。
【請求項37】
請求項27に記載の方法によって得られる、生体由来組織。
【請求項38】
組織の再生方法であって、
a)生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織を、生体内に提供する工程;および
b)該生体内で組織再生が生じるに十分な時間インキュベートする工程、
を包含する、方法。
【請求項39】
前記生体由来組織は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨からなる群より選択されるものの組織である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
組織グラフトを生産する方法であって、
A)生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織を生体内に提供する工程;
B)該生体由来組織に該生体の自己細胞を侵入させる工程;および
C)該細胞の分化が生じるに十分な時間インキュベートする工程、
を包含する、方法。
【請求項41】
前記生体由来組織は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨からなる群より選択されるものの組織である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記生体由来組織は、自己由来である、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記脱細胞組織は、同種異系宿主由来である、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
前記脱細胞組織は、異種宿主由来である、請求項40に記載の方法。
【請求項45】
請求項40に記載の方法によって生産された、組織グラフト。
【請求項46】
組織または臓器移植を必要とするかまたは該危険にある被験体の処置または予防の方法であって、
A)生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織、または該生体由来組織を含む組織グラフトを提供する工程;および
B)該生体由来組織または組織グラフトを被験体に移植する工程、
を包含する、方法。
【請求項47】
前記生体由来組織は、前記被験体由来である、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記生体由来組織は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨から選択されるものの組織である、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記被験体は、哺乳動物である、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
前記被験体は、ヒトである、請求項46に記載の方法。
【請求項51】
臓器移植のための医薬であって、
A)生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織、または該生体由来組織を含む組織グラフト、
を含む、医薬。
【請求項52】
前記生体由来組織は、血管、血管様組織、心臓弁、心膜、硬膜、角膜および骨から選択されるものの組織である、請求項51に記載の医薬。
【請求項53】
前記生体由来組織は、哺乳動物由来である、請求項51に記載の医薬。
【請求項54】
前記生体由来組織は、ヒト、ウシまたはブタ由来である、請求項51に記載の医薬。
【請求項55】
前記生体由来組織は、前記移植を必要とする被験体由来である、請求項51に記載の医薬。
【請求項56】
生体適合性高分子を含み、γ線照射を受けたことを特徴とする生体由来組織、または該生体由来組織を含む組織グラフトの、臓器移植のための医薬を製造するための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−228744(P2008−228744A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184114(P2005−184114)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(502100138)株式会社カルディオ (13)
【Fターム(参考)】