説明

生体細胞中の時間依存的な発現を防止するための試薬及び方法

本発明は、サンプル内の生体細胞中で、時間依存的に誘発される発現を防止するための試薬に関する。本発明は同様に、この目的のための方法およびこのように処理された細胞プレパラートに関し、ここで、生体外においてサンプル中の生体細胞における時間依存性発現誘導を防止するための前記試薬は、ホルムアルデヒド供与体を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル中の生体細胞内の時間依存的な発現誘導(時間依存的に誘導される発現)を防止するための試薬に関する。また同様に、この目的のための方法およびこの方法にて処理された細胞プレパラート(Cell preparation)に関する。
【背景技術】
【0002】
このタイプの試薬およびこのタイプの方法は、特に分子生物学的解析および医学的診断の分野において、特に腫瘍の診断において必要とされている。
【0003】
多くの検出方法は、mRNAレベルで遺伝子発現を解析することを目標としている。それによって発現遺伝子を特殊な細胞の指標として評価することができる。しかしながら、全てのテストされた遺伝子の発現パターンは、細胞の状態についての結論を引き出すため、あるいは、2つの生体サンプルを比較することによってその違いを特性化するために使用されることもできる。
【0004】
サンプルの採取後にそのサンプルの周囲条件における変化の結果として、サンプル中の転写mRNAの分解が、サンプルの採取とそのサンプルの解析の間に生じうることが記載されている(Becker S. et al., 2004 Clin Chem 50 (4), 785 - 786)。
【0005】
しかしながら驚いたことに、別の深刻な問題が、細胞内mRNAの検出のための処理について記載された方法において発生する。具体的には、生体外(生体外=ヒトまたは動物の体外)でのmRNAの時間依存的な非正統的発現である。サンプルを採取した後、新しいmRNAの発現が誘導されうる。この時間依存的に誘導される発現は解析結果を歪める。本発明はこの問題に関与する。
【0006】
このタイプの非正統的な時間依存的-発現誘導は多数の出版物[例えばBaechler等,Genes Immun. Vol.5,347〜353頁(2004)]に既に記述されている。
【0007】
近代において、例えばEP 02 732 726 A1に示されるように、高感度の解析法が開発されてきている。 EP 02 732 726の方法にかかるヒト血液中の腫瘍細胞の検出は、血液採取時の発現状態が解析まで維持されるという前提に依存している。EP 02 732 726に記載された方法によれば、腫瘍細胞は2以上の抗体により免疫磁性的に濃縮され、そのmRNAは単離され、そして2以上の腫瘍関連mRNAのマーカーの発現を試験する。しかしながら、数時間後でさえ(図3に示された24時間値)、採血時に存在していなかった転写物が、血液サンプルの特別な処理なしで検出された。この非正統的転写は偽陽性の結果をもたらす。
【0008】
単に存在するmRNAの分解を妨げることを目的とする、そしてまた細胞の形態と抗原構造を安定化することを目的とする既知の方法は、EP 02 732 726の方法と併用するのには適していない。例えば、製造業者の使用説明書によれば、サンプルがmRNAの分解に対して安定化される試薬CellSave(登録商標)(Immunicon社,ハンティンドン バリー,ペンシルベニア州,米国)およびCyto-Chex(登録商標)(Streck Laboratories,オマハ,ネブラスカ州,米国)をテストした。しかしながらその結果、EP 02 732 726の方法による腫瘍細胞の検出は、意味のある結果が達成できないので、もはや実行できないことが明らかになった(図5参照)。したがって、時間依存的に誘導される発現(時間依存性発現誘導)の問題は既知の方法では解決されない。
【特許文献1】EP 02 732 726 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、それゆえ、サンプル内の生体細胞中の時間依存的な発現誘導を防止および減少するための試薬および方法並びにその処理された細胞プレパラートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、請求項1にかかる試薬、請求項9にかかる細胞プレパラートおよびさらに請求項15にかかる方法によって達成される。時間依存性発現誘導を妨げるための前記試薬、細胞プレパラートおよび方法の有利な成果は、それぞれの従属請求項にて付与される。
【0011】
本発明はそれゆえ、mRNAの新規合成(時間依存的に、誘導される発現)の防止に、初めて適切に対応する。これは少なくとも、高感度な最新の解析法を使用したとき、以前から考えられている標的細胞の表面抗原あるいはmRNAの安定化と全く同じだけの重要性を有する。この方法においてのみ、標的細胞をそのmRNAの発現によって明白に特徴付けることが可能である。
【0012】
驚くべきことに、非常に低濃度、すなわち0.075%(w/v)以下、有利には0.045%(w/v)以下、有利には0.025%(w/v)以下の濃度における、ホルムアルデヒド供与体の生体サンプルへの添加が、時間依存性の非正統的な発現の防止を導くことが見い出された。ホルムアルデヒド供与体として使用されるものとして、イミダゾリジニル尿素(IDU),ジアゾリジニル尿素(DU),ジメチロール-5,5-ジメチルヒダントイン,ジメチロール尿素,2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール(ブロノポール),1,3-ビス(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルイミダゾリジン-2,4-ジオン(DMDM-ヒダントイン),N5-メチル-テトラヒドロ葉酸,N10-メチル-テトラヒドロ葉酸またはその混合物が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
それゆえ、本発明にかかる試薬、およびさらに本発明にかかる方法によって、生体外におけるサンプル中の生体細胞内の時間依存性発現誘導を防止することが初めて可能であり、癌患者の血液サンプルにおける播種性腫瘍細胞の保存を可能にすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この目的のために、血液採取後、必要に応じてリン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解した、および表示された最終濃度で抗凝固EDTAを添加した前記試薬を、直ちに前記血液と混合する。前記サンプルはその後数日間にわたって、サンプル内で発生する非正統的発現なしで、例えば4℃にて少なくとも72時間まで保管することができる。併せて、さらに細胞安定化物質、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)および/またはプロテアーゼ阻害薬などを前記サンプルに添加することができる。
【0015】
本発明にかかる効果を実証するために、以下の実施例において、本発明にかかる添加物の効果を、健康なドナーおよび腫瘍患者の血液サンプルの解析により、腫瘍細胞検出の特異性に関して試験した。さらに、本発明にかかる添加物の効果を、腫瘍細胞が接種された健康なドナーの血液サンプルを解析することによって、腫瘍細胞検出の感度に関して試験した。前記解析は、欧州特許出願EP 02 732 726に記載されているのと同様、先行する細胞選択およびそれに続く発現プロファイル解析によって行われた。この欧州特許出願は、そこに開示された解析方法に関して、本発明でそのまま採用される。
【0016】
さらに、安定化させた乳癌および結腸直腸癌患者の血液サンプルを解析することによって、その臨床的感度を決定した。試験した患者は全て進行期の病気であり(M1)、緩和療法で治療されていた。血液サンプルを採取後すぐに、本発明にかかる添加物を血液サンプルと混合し、直後、並びに4℃で24時間、48時間および72時間貯蔵した後に解析した。
【0017】
以下の実施例は、実際には全て血液サンプルに関するが、本発明にかかる方法は、他の細胞懸濁液または組織サンプルをテストするためにも好適であることを言及しておく。ここで細胞懸濁液は、体液または懸濁液状とした組織細胞、例えば組織片、組織切片などでもよい。
【0018】
続いて記載される全ての実施例において、解析はEP 02 732 726に記載されたように行われた。抗体は、細胞選択のために磁性粒子に結合させられた。続く表1に記載された抗体を、抗体として使用した。
【0019】
【表1】

【0020】
磁性粒子は4×108ビーズ/mlの濃度で使用した(CELLection[登録商標] Pan Mouse IgG Kit,Dynal社)。抗体濃度とそこに結合された抗体の間の比を表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
この方法で調製された磁性粒子は、当量で混合され、サンプル5mlごとに100μlのPBS中で血液(EDTA)に添加された。
【0023】
オーバーヘッドの撹拌機中で30分間インキュベーションした後、細胞-抗体磁性粒子複合体として存在しうる磁性粒子を、磁性粒子コンセントレータ(MPC[登録商標]-S,Dynal社)を用いてPBSで3回洗浄し、その後付着している細胞を、後述のmRNA単離手順に応じて処理した。
【0024】
mRNA単離はオリゴ(dT)-結合磁性粒子,Dynabeads(登録商標)mRNA Direct(登録商標)Micro Kit(Dynal社)を用いて行った。この単離はキットに表示された製造業者の使用説明書に従って行った。
【0025】
mRNAをcDNAに転写する逆転写を、mRNAの単離に続いて行った。
【0026】
【表3】

【0027】
cDNA合成(表3)は37℃で1時間行い、その後95℃で5分間加熱することによって逆転写酵素を不活性化し、その後氷上で冷却した。この目的のために、Sensiscript逆転写酵素キット(Qiagen社,ヒルデン)を、それに表示された手順に従って使用した。
【0028】
mRNAのcDNAへの転写の後、内部標準としてβ-アクチンを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。
【0029】
その際に、表4に記載したオリゴヌクレオチドをcDNAの増幅のためのPCRプライマーとして使用した。
【表4】

【0030】
PCRは表5に表示するバッチを用いて実施した。
【表5】

【0031】
PCRコンディション(サイクル数,サイクルの管理等)を表6に示す;温度変化2℃/sにて実行した。
【表6】

【0032】
このようにして産生されたcDNAの増幅物は、バイオアナライザー2100(Agilent社)によって電気泳動的に分離される。この目的のために、1μlのPCR産物をDNAチップ1000にてバイオアナライザーで分離し、分離結果を電子的に記録した。解析結果は、少なくとも一つの腫瘍マーカーのバンド強度が6.7より大きければ陽性と判定される。Agilent社の単位「ピークレベル」はバンド強度に相当する。レベルが4.0未満のピークは陰性と評価される。レベルが4.0〜6.7のピークは、陽性でも陰性でもないと評価することができる。このようにして図1〜6は作成され評価された。
【0033】
図1は、IDUで処理された血液サンプル中の時間依存的に誘導される転写の検出を示す。
【0034】
ここでトラック1はサイズマーカーによるはしごを示し、トラック2〜11は10人の異なる健康なドナーで検出される腫瘍関連転写物の増幅DNAフラグメントおよび内部標準のβ-アクチンを示す。β-アクチンおよび3つの腫瘍関連転写物GA733-2(384 bp),MUC-1(292 bp)およびHer-2(265 bp)のそれぞれのバンドの位置が図1に示されている。
【0035】
10人の健康なドナーのサンプルを0.045%(w/v)IDUと混合し、その後4℃で24時間貯蔵した。増幅DNAフラグメントは、血液サンプルの解析後に、バイオアナライザー2100(Agilent technologies社)により高電圧キャピラリーゲル電気泳動法を用いて検出した。10人の健康なドナー全ての解析(トラック2〜11のドナー1〜ドナー10)は、陰性(ピークレベルが閾値未満)という結果になることが分かる。これは、非正統的な時間依存性発現誘導が検出されないことを意味する。
【0036】
図2は、同じ試験であるが、今度は前記の10人の健康なドナーのサンプルを48時間貯蔵した後のものを示す。ここでもまた、依然として腫瘍関連転写物の時間依存性発現は検出されなかった。
【0037】
一方、図3は、図1および図2と同じ血液サンプルであるが、0.025%(w/v)IDUを添加しなかったものを示す。腫瘍関連転写物の非正統的発現が、これらの未処理の血液サンプルで発生したことが認められる。
【0038】
図1〜3にかかるテストにおいて、細胞プレパラート内の細胞における非正統的な時間依存性発現誘導が、表示濃度のホルムアルデヒド供与体によって効果的に抑制されることが明白に認められた。本発明にかかる添加物は高い特異性を有する。
【0039】
一方、図4は、0.045%(w/v)IDUで処理された10人の健康なドナーの血液サンプルにおける乳癌細胞の検出を示す(トラック2〜10)。血液5mlあたり2個の乳癌細胞(MCF7)をこれらのサンプル中に接種した。腫瘍関連転写物Her-2,MUC-1 GA733.2の発現パターンに関する表記のテストは、前記血液サンプルを4℃で48時間以上貯蔵した後実行した。これ以外の全ての解析パラメーターは図1〜3のものに対応する。MCF7乳癌細胞の接種により前記血液サンプル中に導入された腫瘍関連転写物Her-2,MUC-1およびGA733.2が明白に検出されることが認められる。それゆえ図4は、本発明により血液サンプルを処理した場合、非正統的な時間依存的-発現誘導によって検出が妨害されることなく、例えば2cells/5ml血液といった少ない細胞数でさえ48時間後になお検出できることを明白に示す。したがって、求める腫瘍細胞の検出における感度のロスもまた、本発明にかかる方法によって防止される。
【0040】
図5は、Immunicon社による市販の安定化溶液「CellSave」を用いた比較試験を示す。この目的のために5個の乳癌細胞(HCC1954)が健康なドナーの血液5mlにそれぞれ接種された。サンプルのうち2つは0.025%(w/v)IDUを用いて本発明による処理をし、4℃で貯蔵した(トラック2および3)。さらに2つのサンプルは、25℃で貯蔵した以外は同じ方法で処理した(トラック6および7)。さらに2つのサンプルは、製造者の使用説明書に従いCellSave製品を用いて安定化し、4℃で貯蔵した(トラック4および5)。図5に示す最後の2つのサンプル(トラック8および9)は、同様に製造者の使用説明書に従いCellSaveを用いて安定化し、25℃で貯蔵した。
【0041】
図から分かるように、本発明に従って処理されたサンプル(トラック2,3,6,7)では、接種乳癌細胞内の腫瘍マーカーHer-2,MUC-1およびGA733.2の発現並びにマーカーβ-アクチンの発現も検出される。市販の安定化溶液CellSave(トラック4,5,8,9)で安定化されたサンプルでは、マーカーβ-アクチンも腫瘍マーカーHer-2,MUC-1およびGA733.2も高感度な検出は不可能であった。
【0042】
このことは、従来技術に比べて、本発明にかかる処理によって生体サンプル中の発現パターンが非常に効果的に保存されることを示し、これによりその後の解析を高選択的および高感度に実行することが可能となる。
【0043】
図6は、血液サンプルの採取直後、24時間後および48時間後の乳癌患者の血液サンプルの解析を示す。これらのサンプルは全て、血液採取後直ちに0.025%(w/v)のIDUと混合され4℃で貯蔵された。
【0044】
図6のトラック2〜4には、採血直後、採血の24時間後および48時間後の患者の血液サンプルのテスト結果が表示される。発現パターンが広範な時間にわたって同じままであり、したがってIDUの添加が発現パターンの保存につながることが示される。この際、非正統的な時間依存性発現誘導が発生しないということも重要である。これはトラック5〜7にて経時的に追跡した第二患者のサンプルの場合にも当てはまる。これは明らかに血液サンプル中に循環腫瘍細胞を有さない。同じく時間依存的発現誘導も確認されなかった。0.025%(w/v)IDUで処理されたトラック8〜10の患者3のサンプルも、発現パターンの保存が48時間にわたって達成できたことを示す。
【0045】
要約すれば、採取の直後に0.025%(w/v)IDUで処理された乳癌患者の血液サンプルにおける腫瘍細胞の検出は、24時間後および48時間後も一貫した結果を示すことが確認できた。すなわち、採取時に腫瘍細胞が検出できた血液サンプルは、24時間および48時間後にも陽性の腫瘍細胞検出を示し、一方、腫瘍細胞が存在しないサンプルは、24時間および48時間後も陰性のままであった。すなわち生体外における時間依存性発現によって生じうる偽陽性の結果は生じない。テストされる血液サンプルはそれゆえ、48時間にわたってコンスタントな発現パターンを示す。すなわち、最初に陰性であったサンプルは陰性のままであり、陽性のサンプルは陽性のままであった。
【0046】
図7は、DUで処理された血液サンプルにおける、時間依存的に誘導される転写の検出を示す。検出はIDUについて説明した手順に従って行われた。
【0047】
ここでトラック1はサイズマーカーによるはしごを示し、トラック2〜4は1人の健康なドナーで検出される腫瘍関連転写物の増幅DNAフラグメントおよび内部標準のβ-アクチンを示す。トラック5〜7は、0時間、24時間および48時間時点における、腫瘍細胞株Calu-3の接種細胞2個を有するサンプルの転写物を示す。β-アクチンおよび3つの腫瘍関連転写物GA733-2(384 bp),MUC-1(292 bp)およびHer-2(265 bp)それぞれのバンドの位置を図7に示す。
【0048】
ここでサンプルは、接種されたCalu-3細胞2個と0.01%(w/v)DUと混合され、その後4℃で最大48時間貯蔵された。増幅DNAフラグメントは血液サンプルの解析後に、バイオアナライザー2100(Agilent technologies社)により高電圧キャピラリーゲル電気泳動法を用いて検出された。接種細胞なしの全てのサンプル(トラック2〜4)での解析は陰性(ピークレベルが閾値未満)であったことが分かる。これは非正統的な時間依存性発現誘導が検出されないことを意味する。
【0049】
トラック5〜7では、Calu-3腫瘍細胞の接種により血液サンプル中に導入された腫瘍関連転写物が明白に検出されることが理解される。それゆえ図7は、本発明により血液サンプルを処理した場合、非正統的な時間依存性-発現誘導によって検出が妨害されることなく、少ない細胞数でさえ48時間後になお検出できることを明白に示す。したがって、求める腫瘍細胞の検出における感度のロスは、本発明にかかる方法によって防止される。
【0050】
図8は、ブロノポール(2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール)で処理された血液サンプルにおける、時間依存的に誘導される転写の検出を示す。
【0051】
ここでトラック1,4および7は、サイズマーカーによるはしごを示し、トラック2,5および8は、1人の健康なドナーで検出される腫瘍関連転写物の増幅DNAフラグメントおよび内部標準のβ-アクチンを示す。トラック3,6および9は、腫瘍細胞株Calu-3の接種細胞2個を有するサンプルの転写物を示す。β-アクチンおよび3つの腫瘍関連転写物GA733-2(384 bp),MUC-1(292 bp)およびHer-2(265 bp)それぞれのバンドの位置を図8に示す。
【0052】
ここで健康なドナーのサンプルは0.025%(トラック2および3)、0.05%(トラック5および6)および0.075%(w/v)(トラック8および9)のブロノポールと混合され、その後4℃で24時間貯蔵された。増幅DNAフラグメントは血液サンプルの解析後に、バイオアナライザー2100(Agilent technologies社)により高電圧キャピラリーゲル電気泳動法を用いて検出された。3種類の濃度のブロノポール(トラック2,5および8)全てにおける解析は陰性(ピークレベルが閾値未満)であったことが分かる。これは、非正統的な時間依存性発現誘導が検出されないことを意味する。トラック3,6および9は、Calu-3腫瘍細胞の接種により血液サンプル中に導入された腫瘍関連転写物が明白に検出されることを示す。それゆえ図8は、本発明により血液サンプルを処理した場合、非正統的な時間依存性-発現誘導によって検出が妨害されることなく、例えば2個の細胞といった少数の細胞でさえ24時間後になお検出できることを明白に示す。したがって、求める腫瘍細胞の検出における感度のロスもまた、本発明にかかる方法によって防止される。
【0053】
上記の試験結果は、細胞プレパラートの処理において、特に乳癌患者の血液中の播種性腫瘍細胞の処理において、本発明にかかる試薬および本発明にかかる方法の優れた有効性と信頼性を明白に示す。同様の結果が結腸直腸癌の患者のケースで達成された。
【0054】
本試験結果はそれゆえ、生体外においてサンプル内の生体細胞中の時間依存性発現誘導の防止が達成されることを示す。さらに、乳癌および結腸直腸癌の患者の末梢血における播種性腫瘍細胞が、本発明にかかる試薬の添加によって検出できた。時間依存性の転写誘導は、48時間にわたって検出されなかった。しかしながら未処理の血液サンプルでは、非常に顕著な時間依存性の発現誘導が、24時間後でさえ観察された。
【0055】
本発明にかかる試薬および本発明にかかる方法は、このようにサンプル(特に生体外で)において、生体細胞中の時間依存性発現誘導を防止することができ、加えて癌患者の末梢血中の播種性腫瘍細胞を保存することができる。したがって、これによりサンプルの採取とサンプルの解析の間にかなり長い輸送およびかなり大きな時間的間隔をつくることが可能になるので、これらは高い運搬上および診断上の価値を有する。本発明にかかる試薬および本発明にかかる方法は、それゆえ、採血システムにおいて使用するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、採取後24時間のIDU-処理血液サンプル中の時間依存性転写誘導の検出を示す。
【図2】図2は、採取後48時間のIDU-処理血液サンプル中の時間依存性転写誘導の検出を示す。
【図3】図3は、非処理血液サンプル中の時間依存性転写誘導の検出を示す。
【図4】図4は、IDU-処理血液サンプル中の2個の乳癌細胞の検出を示す。
【図5】図5は、様々な系統で処理された血液サンプル中の乳癌細胞の検出を示す。
【図6】図6は、乳癌患者のIDU-処理血液サンプルにおける播種性腫瘍細胞の検出の代表実施例である。
【図7】図7は、DU-処理血液サンプル中の時間依存性転写誘導の検出を示す。
【図8】図8は、ブロノポール-処理血液サンプル中の時間依存性転写誘導の検出を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体外においてサンプル内の生体細胞中の時間依存的な発現誘導を防止するための試薬であって、
ホルムアルデヒド供与体を含有することを特徴とする試薬。
【請求項2】
前記試薬におけるホルムアルデヒド供与体の量および/または濃度が、前記サンプルと前記試薬の混合物が前記ホルムアルデヒド供与体を0.075%(w/v)以下の濃度にて含有するよう調節されていることを特徴とする、請求項1に記載の試薬。
【請求項3】
前記サンプルと試薬の混合物における前記ホルムアルデヒド供与体の濃度が、0.045%(w/v)以下、好ましくは0.025%(w/v)以下であることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の試薬。
【請求項4】
前記試薬が、前記ホルムアルデヒド供与体を5%(w/v)以下、好ましくは2%(w/v)以下、好ましくは1%(w/v)以下、好ましくは0.05%(w/v)以下の濃度にて含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の試薬。
【請求項5】
前記ホルムアルデヒド供与体が、イミダゾリジニル尿素、ジアゾリジニル尿素、ジメチロール-5,5-ジメチルヒダントイン、ジメチロール尿素、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、1,3-ビス(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルイミダゾリジン-2,4-ジオン(DMDM-ヒダントイン)、N5-メチル-テトラヒドロ葉酸、N10-メチル-テトラヒドロ葉酸もしくはその混合物であるか、またはそれを含有するものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の試薬。
【請求項6】
前記試薬が固形状であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の試薬。
【請求項7】
前記試薬が溶媒中に溶解していることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の試薬。
【請求項8】
前記溶媒が緩衝液、生理食塩水あるいはそれらに類似するものであることを特徴とする、請求項7に記載の試薬。
【請求項9】
生体サンプルの生体細胞、請求項1〜8のいずれか1項に記載の試薬、および任意に液体を含有する細胞プレパラートであって、
ホルムアルデヒド供与体を含有することを特徴とする細胞プレパラート。
【請求項10】
前記細胞プレパラート中の前記ホルムアルデヒド供与体の濃度が、0.075%(w/v)以下であることを特徴とする、請求項9に記載の細胞プレパラート。
【請求項11】
前記細胞プレパラート中の前記ホルムアルデヒド供与体の濃度が、0.045%(w/v)以下、好ましくは0.025%(w/v)以下であることを特徴とする、請求項10に記載の細胞プレパラート。
【請求項12】
前記細胞プレパラート中の前記ホルムアルデヒド供与体の濃度が、0.001%(v/v)以上、好ましくは0.01%(v/v)以上、好ましくは0.025%(w/v)以上であることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか1項に記載の細胞プレパラート。
【請求項13】
前記サンプルが、体液、血液、アルコール、腹水もしくは尿中の細胞懸濁液、組織片、パンチ生検、切片プレパラートもしくはその細胞懸濁液であるか、またはそれを含有するものであることを特徴とする、請求項9〜12のいずれか1項に記載の細胞懸濁液。
【請求項14】
前記液体が、緩衝液、生理食塩水あるいはそれらに類似するものであることを特徴とする、請求項9〜13のいずれか1項に記載の細胞プレパラート。
【請求項15】
生体外においてサンプル内の生体細胞中の時間依存的発現を防止するための方法であって、
前記サンプルが、ホルムアルデヒド供与体を含有する試薬、並びに場合によっては液体と混合されることを特徴とする方法。
【請求項16】
前記サンプルと試薬の混合物が、前記ホルムアルデヒド供与体を0.075%(w/v)以下の濃度で含有することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記サンプルと試薬の混合物中の前記ホルムアルデヒド供与体の濃度が、0.045%(w/v)以下、好ましくは0.025%(w/v)以下であることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ホルムアルデヒド供与体が、イミダゾリジニル尿素,ジアゾリジニル尿素,ジメチロール-5,5-ジメチルヒダントイン,ジメチロール尿素,2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール,1,3-ビス(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルイミダゾリジン-2,4-ジオン(DMDM-ヒダントイン),N5-メチル-テトラヒドロ葉酸,N10-メチル-テトラヒドロ葉酸もしくはその混合物であるか、またはそれを含有するものであることを特徴とする、請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記液体が、緩衝液、生理食塩水、あるいはそれらに類似するものであることを特徴とする、請求項15〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
処理された前記生体細胞を、抗体を用いて、または他の定法により分離することを特徴とする、請求項15〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の試薬が使用されること、および/または請求項9〜14のいずれか1項に記載の細胞プレパラートが作製されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
生体細胞を含むサンプルにおいて時間依存的な発現の誘導を防止するための、
特に組織サンプル由来の細胞を含む、体液、血液、アルコール、腹水、尿において、あるいは組織片もしくは懸濁液において、特にそこに含まれる腫瘍細胞を検出するための、前記請求項のいずれか1項に記載の試薬、細胞プレパラートおよび/または方法の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−533979(P2008−533979A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−502321(P2008−502321)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【国際出願番号】PCT/EP2006/002642
【国際公開番号】WO2006/100063
【国際公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(502175620)アトナーゲン アクチエンゲゼルシャフト (2)
【氏名又は名称原語表記】ADNAGEN AG
【Fターム(参考)】