説明

生体組織処理用の基板、処理装置、処理方法及び処理キット

【課題】生体組織内におけるタンパク質の二次元分布情報、つまり、生体組織内において、どの領域、さらにはどの細胞に特定のタンパク質が分布しているか、という情報、を維持したまま、生体組織中のタンパク質、もしくは前記タンパク質の分解物を基板に固定する。
【解決手段】生体組織中のタンパク質もしくは該タンパク質の分解物を固定するための生体組織処理用の基板であって、前記基板が、前記生体組織との接触面を形成する多孔質体を有し、該多孔質体の孔中に前記生体組織から前記タンパク質もしくは該タンパク質の分解物を得るための酵素を含むと共に、該酵素の作用により得られる前記タンパク質もしくは前記分解物が金属を含有する部材と接触するように構成されている生体組織処理用の基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織処理用基板、処理装置、処理方法、および処理キットに関する。詳しくは、生体組織を分析するための前処理として、生体組織中のタンパク質、もしくはタンパク質の分解物を固定するための生体組織処理用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のゲノム(genome)解析の進展により、生体内に存在する遺伝子産物であるタンパク質の解析の重要性が急速にクローズアップされてきている。中でも、組織切片におけるタンパク質解析の重要性が指摘されている。例えば、癌組織切片から再発や転移に関わるタンパク質を明らかにするといった試みが数多くなされている。これらの解析手法においてよく知られている例として、次の手法がある。
【0003】
即ち、(1)生体組織や細胞からのタンパク質の抽出、(2)タンパク質の分離、(3)タンパク質もしくはタンパク質分解物の分析、(4)得られた分析結果の同定、といった手法である。
【0004】
特表2002−537561号公報では、生体組織中のタンパク質を抽出する手段として、レーザーによって生体組織から集団細胞を抽出し、この集団細胞に含まれるタンパク質を界面活性剤などを含む溶液に可溶化させる方法が用いられている。このようにして可溶化させたタンパク質は単離され、質量分析等により分析される。
【0005】
さらに生体組織切片におけるタンパク質の二次元分布の可視化を目的とした、TOF−SIMS法(飛行時間型二次イオン質量分析法)をベースとする情報取得手法及び装置が国際公開第2005/003715号パンフレットに開示されている。この手法は、インクジェット法などを用い、イオン化促進物質かつ/または消化酵素を上記の生体組織切片に直接付与することを開示する。そして、タンパク質の種類に関する情報(消化酵素により限定分解されたペプチドの情報を含む)を、その位置情報を保持したままTOF−SIMS法により可視化するというものである。
【特許文献1】特表2002−537561号公報
【特許文献2】国際公開第2005/003715号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特表2002−537561号公報では、集団細胞からタンパク質を抽出しているため、この公報に開示の方法は、検出されたタンパク質がどの細胞由来のものかを個別に特定する場合には適さない。また、国際公開第2005/003715号パンフレットに記載の方法によれば、ある組織内におけるタンパク質分布の情報を取得することができる。しかしながら、この方法では、タンパク質の二次元分布情報をより精度良く得たい場合には、消化酵素の処理液を生体組織切片上のより微小な領域に個別に付与する必要がある。
【0007】
生体組織中のタンパク質の分析方法によって、癌細胞など特定の病変細胞中のタンパク質、或いは癌細胞に隣接する細胞中のタンパク質、さらにはその両者の2次元分布をより精度良く解析できれば、診断デバイスや創薬デバイスの開発に寄与できると考えられる。
【0008】
本発明は、生体組織中の個々の細胞内に存在するタンパク質を位置精度よく分析するための技術を提供することを目的とする。特に、生体組織中のタンパク質の分布等を分析する際の前処理として、組織分解物を生体組織内の位置情報を保持したまま、基板に固定するために有用な技術の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明により提供される生体組織処理用の基板は、生体組織中のタンパク質もしくは該タンパク質の分解物を固定するための生体組織処理用の基板であって、前記基板が、前記生体組織との接触面を形成する多孔質体を有し、該多孔質体の孔中に前記生体組織から前記タンパク質もしくは該タンパク質の分解物を得るための酵素を含むと共に、該酵素の作用により得られる前記タンパク質もしくは前記分解物が金属を含有する部材と接触するように構成されていることを特徴とする生体組織処理用の基板である。
【0010】
本発明により提供される処理装置は、生体組織中のタンパク質、もしくは前記タンパク質の分解物を基板に固定する生体組織の処理装置であって、生体組織処理用の基板を保持する基板保持手段と、前記基板保持手段に保持された基板の前記生体組織との接触面を形成する多孔質体の孔内に、前記生体組織から前記タンパク質もしくは前記タンパク質の分解物を得るための酵素を用意するための酵素調製手段と、前記酵素が用意された孔を有する基板の前記接触面に前記生体組織を接触させるための生体組織接触手段と、を有することを特徴とする生体組織の処理装置である。
【0011】
また、本発明により提供される処理方法は、生体組織中のタンパク質、もしくは前記タンパク質の分解物を固定するための生体組織の処理方法であって、本発明に係る基板の生体組織との接触面を形成する多孔質体の有する孔内に、前記生体組織から前記タンパク質もしくは前記タンパク質の分解物を得るための酵素を用意する工程と、前記生体組織を、前記基板の生体組織との接触面に接触させる工程と、を有することを特徴とする生体組織の処理方法である。
【0012】
また、本発明により提供されるキットは、生体組織中のタンパク質、もしくは前記タンパク質の分解物を固定するためのキットであって、多孔質体からなる前記生体組織との接触面を有する基板と、前記多孔質体に付与する酵素と、を有することを特徴とするキットである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(生体組織処理用の基板)
本発明の生体組織処理用の基板は、生体組織中のタンパク質、もしくは前記タンパク質の分解物、いわゆる組織分解物を固定する基板である。この基板は、組織分解物を生体組織中での位置情報を維持しつつ固定可能とする固定領域を有する。この固定領域は生体組織との接触面を有し、この接触面が、少なくとも1種の酵素を含む多孔質体から形成される。酵素は多孔質体の少なくとも孔内に固定され、更に、多孔質体の外表面(生体組織との接触面)に存在していてもよい。
【0014】
本発明による生体組織処理用の基板の固定領域の表面、つまり、多孔質体からなる接触面に生体組織を接触させると、多孔質体内に含まれる酵素が生体組織に作用し、組織分解物が抽出される。抽出された組織分解物は孔内に取り込まれ、基板の固定領域内に固定される。そして、本発明の基板においては、分解物が金属を含有する部材と接触するように構成されている。金属を含有する部材とは、TOF−SIMS法(飛行時間型二次イオン質量分析法)でタンパク質を測定する際、金属とタンパク質が接触することで、タンパク質のイオン化効率を高める作用を有するものである。そこで、本発明の基板では分解物がタンパク質のイオン化効率を高める作用のある金属と接触するような構成としている。こうすることによりタンパク質分子に由来する二次イオン種の生成効率を高めることができる。具体的な金属を含有する部材とは、金(Au)や銀(Ag)などの金属を含有する部材であり、支持体上にこれら金属を含有する膜をコーティングしたものや、これら金属粒子を含有する多孔質体自体を挙げることができる。
【0015】
こうした構成をとることにより、生体組織内におけるタンパク質の位置情報を維持したまま、組織分解物をそのイオン化効率が高い状態で、基板上に固定することが可能となる。
【0016】
図1は、支持体110上の上面に生体組織171との接触面を形成する多孔質体112の被覆層を形成し、この多孔質の有する孔111内に酵素120が固定されている基板100の構成を示している。更にこの基板100を用いた組織分解物175の固定プロセスを模式的に示している。図1においては、タンパク質のイオン化効率を高める作用のある金属部材200は、支持体110上に設けられており、該金属部材200上に多孔質体112が設けられている。
【0017】
生体組織171中の細胞170は、孔中の120と接触することで細胞170を構成するタンパク質または組織分解物175として孔中に溶出し、タンパク質または組織分解物175は金属部材200と接触した状態で、基板100上に固定される。
【0018】
よって、本発明による生体組織処理用の基板は、いわゆる、生体組織内のタンパク質解析を行う際の前処理用の基板として、好適に用いることができる。さらに分析機器として、TOF−SIMSを適用すれば、質量分析の結果を高い空間分解能でイメージングできることにより、組織分解物の二次元分布の可視化が可能となる。
【0019】
生体組織は、生物細胞の集団であればどのようなものでもよい。病変組織の切片であっても良い。特に、前記のタンパク質に関する情報を得る部位が、病変組織切片内の特定の細胞であっても良い。
【0020】
本発明によれば、生体組織内におけるタンパク質の位置情報、つまり、生体組織内において、どの領域、さらにはどの細胞に特定のタンパク質が分布しているか、という情報を維持したまま、組織分解物をイオン化しやすい状態で基板に固定することができる。
【0021】
以下に、生体組織処理用の基板を構成する各要素について説明する。
【0022】
(基板の構成)
基板の有する組織分解物の固定領域を形成するための材料は、組織分解物の固定状態を維持するための物性を有するものであれば、いかなるものでも用いることが可能である。よって、基板の構成及び基板を形成するための材料は、組織分解物の固定方法、その後実施される分析方法などの条件によって、適宜決めることができる。
【0023】
基板の構成としては、支持体上に多孔質体(層)を形成した構成及び基板全体が多孔質体である構成が利用できる。なお、支持体(部)と多孔質体(部)とを一体化して形成する場合や基板全体を多孔質体で形成する場合には、その構成材料として酵素の保持にも適した材料を選択するとよい。組織分解物の基板の固定領域への固定方法には静電的相互作用、親水的相互作用、疎水的相互作用などによる物理吸着や、共有結合等の化学吸着、その他いかなる相互作用を用いても良い。
【0024】
例えば、支持体表面を固定領域とし、この固定領域上に多孔質体を積層した構成とする場合、支持体の固定領域となる部分に表面処理を施し、表面を疎水性にしても良い。この基板構成は、例えばタンパク質の分析方法がTOF−SIMSである場合に好適に利用できる。この場合、基板としての機能を考慮した上で、支持体の構成材料として、二次イオン化に好適な金、銀などを用いることが好ましい。さらには、表面が平坦である支持体を用いることにより、検出時の質量分解能をより高くすることが可能である。この場合、支持体全体が、金または銀である必要はなく、適当な基体の平滑面に金や銀を蒸着して得られる支持体を用いることができる。このような構成の支持体はその製造コストの面からより好ましい。また、分析手法が飛行時間型質量分析計(TOF−MS)である場合は、イオン化の観点より、支持体としてカーボンや多孔質シリコン、電顕用のメッシュなどを用いても良い。該カーボンとしては、ブラックカーボンやカーボン粉末を用いることで、TOF−MS検出感度を高めることが知られている。このように、その後用いる分析用途に対して好適な材料を適宜選択することが好ましい。
【0025】
更に、上記の支持体を用いた基板構成では、組織分解物をより効率良く固定する観点から、多孔質体の材料より組織分解物が固定化されやすい、もしくは固定化強度の高い材料を支持体の少なくとも固定領域となる面を構成する材料として用いることが好ましい。
【0026】
上記のとおり基板は、全体が多孔質体である構成(支持体が多孔質体を兼ねた一体型)や支持体表面の所定位置に多孔質体を配置した構成などの構成を採り得る。ただし、タンパク質のイオン化効率を高める金属部材が、酵素の作用で得られるタンパク質もしくは分解物と接触するようにしておく必要がある。支持体上に多孔質体を配置した構成は、支持体と多孔質体を一体化した構成や、支持体が多孔質体に対して分離可能な別体型でも構わない。例えば、顕微鏡観察等その後に用いる分析に基板の平面性が重要でない場合は支持体が多孔質体を兼ねた一体型が好ましく、製法上、そして使用上簡便である。そして、上述のTOF−SIMSのように、基板の平面性が重要である場合は、多孔質体を支持体表面から分離できる別体型が好ましい。さらに、この別体型における支持体は、多孔質体との接触面が平坦であることが好ましい。支持体の表面が平坦であることによって、例えばTOF−MSで分析する際に、質量分解能の高い環境で分析を実施することができる。
【0027】
(多孔質体)
面状に広がる固定領域への組織分解物の固定のための生体組織との接触面は、多孔質体から形成される。先に挙げた支持体が多孔質体を兼ねる一体型では、多孔質体そのものから組織分解物の面状に広がる固定領域が形成される。一方、支持体表面を固定領域として使用する別体型では、多孔質体の孔は、生体組織との接触面側から支持体表面側への組織分解物の移動のための通路としての機能を有する。生体組織から組織分解物を抽出するための酵素は多孔質体の少なくとも孔内に含まれ、多孔質体の外表面に更に存在していてもよい。この多孔質体の役割は、酵素を位置精度良く生体組織に接触させ、組織分解物を位置精度良く、基板の面方向に広がる固定領域に固定させることにある。酵素は、乾燥状態、もしくは、溶液状態で多孔質体に保持されるが、生体組織を処理する際には、水溶液状態で使用される。よって、多孔質体の材料には、耐水性を有し、かつ、酵素の活性を阻害しない、すなわち、阻害がないか、阻害しても実質的な影響を酵素に与えない材料を用いればよい。また、このような材料で多孔質体の表面が被覆されているものでも構わない。多孔質体の構成材料を例示すると、有機材料、無機材料、金属、金属酸化物及びセラミックス、あるいはこれらの2種以上の複合材料などが挙げられるが、これらに限るものではない。さらには、多孔質体の孔表面は、親水性であることが好ましい。親水性にすることにより、液体の導入、保持が容易となり、酵素水溶液状態での使用に好適である。さらに、多孔質体の孔の壁面には、酵素を安定化させる材料が含まれていても良く、酵素を固定するための官能基やリンカーが含まれていても良い。基板が多孔質体のみの一体型の場合、それ自体が組織分解物を固定する支持体となり得るため疎水性であることが好ましい。
【0028】
尚、上述のように、多孔質体は、支持体を兼ねた一体型であっても、支持体に対して分離可能な別体型でも構わない。
【0029】
一体型である場合は、多孔質体表面に組織分解物が固定される。よって、多孔質体表面は、組織分解物の固定に適した材料であることが好ましい。しかし、酵素の作用で得られる分解物のイオン化効率を高める金属部材と、組織分解物とが接触するようにしておく必要がある。そのためには多孔質自体を金属を含有する部材で構成する必要がある。
【0030】
一方、別体型として構成する場合は、組織分解物は多孔質体の孔内を通過して支持体上に形成された金属層上に固定される。よって、多孔質体表面は、支持体上の金属層よりも、組織分解物が固定化しにくい表面であることが望ましい。後者の場合(別体型の場合)、多孔質体中を組織分解物が通過して、その下部に位置する金属層表面に到達して固定されるような多孔質構造の多孔質体を用いる。
【0031】
また、多孔質体の孔径は、100nmから10μmの範囲であることが好ましい。孔径が100nm以上であれば、酵素を効率的に孔中に導入することができる。そして、孔径が10μmを超える場合は、細胞サイズに対して孔径が同等以上になる場合が生じ、複数の細胞から抽出された組織分解物が一つの孔内を通る可能性が高くなる。より好ましい孔径は、液体を孔に注入することを考慮すれば、1μmから10μmの範囲とされる。
【0032】
多孔質体の孔構造は、酵素を位置精度良く生体組織に接触させ、さらに組織分解物を位置精度良く基板の固定領域に固定させることができれる構造であればよい。上記の別体型であれば、多孔質体の上面(この「上面」とは、生体組織が接触する側の接触面を称する。)から多孔質体と金属層の接触面に至るまで貫通していればよく、いかなる構造も使用可能である。多孔質体の設置態様に応じた基板の各種構成例を、基板の厚さ方向の模式的断面図として図2に示す。例えば、図2(A)の多孔質体112は、連続的な網目状構造の薄板あるいは薄層(薄膜)の形態を有し、支持体110に形成された金属層200上に設けられたものである。111は多孔質体を構成する孔である。
【0033】
このような構造であっても、十分に密な構造または、多孔質体が充分薄い形状であれば、組織分解物が、多孔質体内で2次元平面方向に拡がり過ぎる前に、組織分解物を支持体上の金属層上に固定することが可能である。さらには、孔構造は各孔が独立に存在する構造であることがより好ましい。図2(B)のように、各孔が連結せずに独立に存在すれば、さらに2次元平面方向への拡がりを抑え位置情報の精度を上げることが可能である。
【0034】
さらには、図2(C)のように、孔が支持体の厚さ方向に伸びている、すなわち支持体の表面に対して交差する方向に、特には平面としての支持体表面に対して垂直またはほぼ垂直であることが望ましい。垂直またはそれに近い角度の孔であれば、組織分解物の支持体への到達時間も速く、また位置情報の精度もさらに上げることができる。
【0035】
以上説明したような多孔質体は、一般的なパターニング技術により形成することが可能である。例えば、フォトリソグラフィー、電子線リソグラフィー、X線リソグラフィー等のいわゆる半導体加工技術や、レーザー加工技術、機械加工技術等をもちいることが可能である。更には、これらトップダウン方式の技術だけでなく、ポリマーや無機物の相分離を利用して微細なパターンを形成する技術、金属の陽極酸化により孔を形成する技術、水滴や界面活性剤ミセル等鋳型を利用して孔を形成する技術等、種々の方法が利用できる。また、図2(D)のように微粒子等の凝集体を多孔質体112として用い、その粒界の空間を孔111として使用することも可能である。逆に、図2(E)のように、球状の孔111を持つ多孔質体112を使用することも可能である。さらには、図2(F)のように、多孔質体と支持体ともに全て同一形状の孔からなるもの(基板全体が多孔質体となっている)でもよい。図2(G)のように、支持体110として孔のあいた金属部材200を用い、この上に異なるサイズの孔を有する多孔質体を配していてもよい。また、基板上に微粒子を並べて固定したものを多孔質材料層の上から押し付けることによって孔を作製する微粒子インプリント法などで作製できる。この場合、図2(H)のような規則的な多孔質体を形成することもできる。
【0036】
このような多孔質体の孔内に液体が存在する場合、下記に示す酵素の活性を維持する観点から、保存および搬送時の状態として、冷凍状態であることが好ましい。
【0037】
(酵素)
多孔質体に含有させる酵素は、生体組織から組織分解物を抽出するために利用できる酵素であればよい。例えば、生体組織の成分を分解する酵素であればいかなるものでもよい。好ましくはタンパク質分解酵素、あるいは脂質分解酵素であり、そのことによって細胞膜成分の大多数を占めるタンパク質あるいは脂質を分解することができるため、液中においては組織分解物を抽出することができる。
【0038】
なかでも、酵素は、エンドペプチダーゼであることがより好ましい。このような態様によれば、細胞膜が分解されなくても、膜タンパク質の細胞膜表面に露出した部分の分解が可能となる。ちなみに、エンドペプチダーゼとは、ペプチド鎖の内部のペプチド結合に作用し、これを断片化するペプチダーゼの総称であり、末端アミノ酸残基を含むペプチド結合にも作用しうるものもある。通常、活性部位の触媒残基の種類により、次の四群に分類されている。
(1)セリンプロテアーゼ(トリプシン、キモトリプシンなど)。
(2)システインプロテアーゼ(パパイン、ブロメライン、カテプシンBなど)。
(3)アスパラギン酸プロテアーゼ(ペプシン、キモシン、カテプシンDなど)。
(4)メタロプロテアーゼ(サーモリシンなど)。
【0039】
なお、エンドペプチダーゼの中にはこれらのうち二群以上にまたがる性質のものもある。
【0040】
さらには、脂質分解酵素とタンパク質分解酵素を組み合わせること、が好ましく、タンパク質の分解が促進できるため、生体組織処理に関する時間を短縮することができる。
【0041】
脂質分解酵素としては、リパーゼ、ホスホリパーゼ、コレステロールエステラーゼ、スフィンゴミエリナーゼ及び各種のエステラーゼが挙げられる。これらのうちリパーゼとしては、位置選択性に優れたリゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucour)属、脂肪酸特異性を有するジオトリケム(Geotrichum)属、特異性を示さないキャンディダ(Candida) 属、シュードモナス (Pseudomonas) 属、ペニシリウム(Penicillium)属、クロモバクテリウム(Chromobacterium)属等の微生物起源のリパーゼ及びすい臓リパーゼ等の動物リパーゼが挙げられる。これらのうち、特に合成活性の増加し易いリパーゼとしては中鎖以上のアルキル基に活性の強いリゾプス属、ムコール属、クロモバクテリウム属起源のいずれかのリパーゼが一層好ましい。コレステロールエステラーゼの例としては、キャンディダ(Candida)属等の微生物起源の物が挙げられる。また、ホスホリパーゼの例としては、キャベツ、ピーナッツ、ニンジン等の植物由来の物、及びストレプトマイセス属等の微生物起源の物、苔類由来の物等が挙げられる。
【0042】
また、タンパク質分解酵素としては、上記の他に、プラスミン、カリクレイン、トロンビン、第Xa因子、アクロシン、エンテロペプチダーゼ、ウロキナーゼ、コクナーゼ、プレモノフェノールモノオキシゲナーゼ活性化酵素、E. coliプロテアーゼII、キモトリプシンA、キモトリプシンB、キモトリプシンC、MeiridiumプロテイナーゼA、E. coliプロテアーゼI、カテプシンG、エラスターゼ、α−リティクプロテアーゼ、サーモマイコリン、プロテイナーゼK、Streptomyces griseusプロテアーゼ3、Staphylococcalプロテイナーゼ、Tenebrio α−プロテイナーゼ、Arthrobacterセリンプロテイナーゼ、好熱性Streptomycesアルカリプロテイナーゼ、Alternariaエンドペプチダーゼ、Candida lipolylicaアルカリプロテイナーゼ、サブチリシン、マウス顎下腺プロテアーゼ、その他の微生物セリンプロテアーゼ、ヘビ毒トロンビン様酵素などのセリンプロテアーゼ、例えばカテプシンB1、パパイン、フィシン、プロメライン、キモパパイン、Clostridium histolylicumプロテイナーゼB、Streptococcalプロテイナーゼ、カテプシンL、酵母プロテイナーゼB、発芽トウモロコシの胚乳中のプロテアーゼ、カテプシンS、PZ−ペプチダーゼなどのチオールプロテアーゼ、例えばペプシンA,B,C、カテプシンD、レニン、キモシン、酵母プロテイナーゼA、カテプシンE、ペニシロペプシン、その他の微生物カルボキシルプロテアーゼなどのカルボキシルプロテアーゼ、例えばコラゲナーゼ、Sepia officinalisプロテアーゼ、腎中性エンドペプチダーゼ、ヘビ毒プロテイナーゼ、Bacillus subtilisおよびBacillus thermoproteolyticusプロテアーゼ、A. Myxobacter AL−1プロテアーゼII、B. Armilliaria melleaプロテアーゼ、その他の微生物金属プロテアーゼ、ウニの孵化酵素などの金属プロテアーゼ、例えばその他の細胞内プロテアーゼ、Bacillus sphaericusプロテアーゼ、Russell’s viper venom第X因子活性化酵素、Echis carinalusvenomプロトロンビン活性化酵素、post−proline cleaving enzyme、セミニンなどのその他のエンドペプチダーゼ、例えばロイシンアミノペプチダーゼ、particulateアミノペプチダーゼ、アミノペプチダーゼB、小腸表面アミノプペチダーゼ、酵母アミノペプチダーゼI、Aspergillusアミノペプチダーゼ、アミノアシルプロリンアミノペプチダーゼ、Bacillus stearothermophilusアミノペプチダーゼ、Clostridium histolyticumアミノペプチダーゼ、Aeromonasアミノペプチダーゼ、Streptomyces griseusアミノペプチダーゼ、Trilirachium album LimberアミノペプチダーゼK、アシルアミノ酸遊離酵素、ピロリドニルペプチダーゼなどのアミノペプチダーゼ、例えばカルボキシペプチダーゼC、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB、ファセオライン、カルボキシペプチダーゼY、Aspergillus酸性カルボキシペプチダーゼ、プロリンカルボキシペプチダーゼ(アンギオテンシナーゼC)、カテプシンA、カテプシンB2、カルボキシペプチダーゼN、ペニシロカルボキシペプチダーゼ、Streptomyces griseus K1カルボキシペプチダーゼ、発芽オオムギカルボキシペプチダーゼ、ワタ種子カルボキシペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼPなどのカルボキシペプチダーゼ、例えばアンギオテンシン−I変換酵素、E.coliジペプチジルカルボキシペプチダーゼ、カテプシンC(ジペプチジルアミノペプチダーゼI)、X−プロリル−ジペプチジルアミノペプチダーゼ、ジペプチジルアミノペプチダーゼII、ジペプチジルアミノペプチダーゼIIIなどのジペプチジルペプチダーゼなどが挙げられる。
【0043】
特に好ましくはフィシン、プロメライン、ペプシン、パラペプシンI、パラペプシンII、パパイン、トリプシン、キモトリプシン、プラスミン、オリエンターゼ、ニューラーゼ、プロチンA、デナプシン、プロテアーゼ、キモシン、レンニン、パンクレアチン、エラスターゼ、カルボキシペチダーゼ、アミノペプチダーゼその他の酸性プロテアーゼ、アルカリプロテアーゼなどのプロテアーゼなどが挙げられる。なお、酵素の組合せは、以上に限定されない。
【0044】
多孔質体に含まれる酵素は、液体に溶けた状態でも良いし、乾燥状態にあっても良い。酵素が液体に溶けた状態で孔中に含まれているときは、そのまま生体組織を接触することで、生体組織を処理することができるため、操作が非常に簡便である。
【0045】
酵素を乾燥状態で含ませる方法はいかなる方法を用いても良い。例えば、後述の注入方法など何らかの方法で酵素溶液を孔中に導入後、凍結乾燥を行うことにより、乾燥した状態で孔中に保存することができる。このように酵素が乾燥状態で保存された生体組織処理用の基板は非常に安定性に富むため、長期保存が可能である。酵素が孔中に乾燥状態で含まれているときは、孔中に直接液滴を注入し、酵素を機能させて使用すれば良い。
【0046】
液滴の発生手段は、後述の酵素の注入方法と同様の方法を用いても良い。
【0047】
孔内の酵素濃度は、生体組織処理後のタンパク質の検出に影響がない程度であれば、いかなる濃度でも良く、多孔質の大きさや深さ、反応時間等から決定すればよい。組織分解物に比べて酵素濃度が高い場合は、処理後の検出でノイズを大きくする原因となるので注意が必要である。
【0048】
また、多孔質体に複数の酵素を有する場合、図3のように、支持体110上の多孔質体112内の位置的に離れた領域の孔111内に異なる酵素(液)113、114を含んでいてもよく、同一基板上の異なる領域で複数のペプチド断片を得ることができる。図4のように、支持体110上の多孔質体112の各孔111の中に複数種類の酵素120、121を含んでいても良く、生体組織を複数の方法で同時に分解できる。
【0049】
(生体組織処理装置)
本発明の生体組織処理装置は、生体組織中の組織分解物を、上述した構成の基板に固定するための生体組織の処理装置である。この処理装置は、表面に多孔質体からなる部分を備えた基板を保持する手段と、保持された基板に液体を付与する手段と、を有する。
【0050】
このような態様によれば、基板の有する多孔質体が酵素を含んでいない場合、液体を付与する手段によって、酵素溶液を基板の有する多孔質体部分に付与することができる。また、基板が酵素を乾燥状態で含んでいる場合、液体を付与する手段によって、生体組織の処理に適した液体に多孔質体に保持された酵素を溶解させることができる。よって、前記のいずれの基板を用いた場合においても、液体を付与する手段によって、生体組織を処理することが可能な基板を準備することができる。さらに、質量分析用の前処理であれば、感度向上に必要なマトリックス、増感剤などの液体を付与する手段を利用して基板に付与することにより、分析に必要な成分を予め揃えておくことが可能となる。
【0051】
本発明の生体組織処理装置は、基板の画像情報を読み取り、位置情報を記録する手段、を有することが好ましい。この態様によれば、処理装置の保持手段により保持された生体組織処理用の基板の孔を認識することが可能である。画像情報を読み取る手段として、具体的には光学顕微鏡やCCDカメラなどが挙げられるが、以上に限定されない。また、位置情報を記録する手段としては、パーソナルコンピュータのようなものでもよい。
【0052】
さらに、液体を付与する手段がインクジェットを用いた手段であれば好ましい。この態様によれば、基板上の所望の領域に微小液滴を素早く付与することができる。
【0053】
さらに、生体組織処理用の基板を観察し、その位置情報を記録する手段が存在し、液体を付与する手段がインクジェットを用いた手段であれば、これらの2つの手段を連動させることでより精度良い液体付与を行うことができる。すなわち、生体組織処理用の基板の孔を認識した上で、液滴をより小さな領域に狙いどおりに付与することができる。また、この液体付与手段は、質量分析に必要なマトリックス、増感剤などの付与にも有用に用いることができる。
【0054】
本発明の生体組織処理装置の有する生体組織処理用の基板の表面に生体組織を接触させる手段としては各種構成のものが利用できる。具体的には、マニピュレーターなど生体組織を操作することできる手段を内蔵することで、保持された前記生体組織処理用の基板に、生体組織を任意の位置に接触させる操作を液滴の付与から連続的に行うことができる。
【0055】
生体組織を接触させる手段としては、(1)多孔質体上に生体組織をそのまま接触させる手段、(2)予め転写用別基板に支持させた生体組織を、前記生体組織処理用の基板に転写する手段、などが挙げられるが、以上の手段に限定されない。尚、前記の、生体組織を支持させる基板を、本発明では転写用別基板(以下、転写基板。)と称する。転写基板の材料としては、一般的な高分子材料を使用することができ、LDPE(低密度ポリエチレン)等を例示することができる。従って、前記生体組織を接触させる手段は、転写基板上の生体組織を、生体組織処理用の基板上に接着させる手段であっても良い。そのような態様により、生体組織中のタンパク質を位置精度良く転写し、組織分解物を抽出することができる。また、転写基板の材料として、多孔質体の材料よりも生体組織が吸着しやすい材料を使用すれば、転写を終わると同時に生体組織処理用の基板上から生体組織を略取り除くことができる。よって、ノイズとなる物質が除去できるため、組織分解物を高いS/N比で検出することができる。
【0056】
また、本発明の生体組織処理装置は、温度および/あるいは湿度を制御する手段、を有することがより好ましい。第一の効果としては、処理領域内を、生体組織の処理に関与する酵素の活性に対して至適な温度に保つことで、酵素の機能を最大限に活用することができる。第二の効果としては、微小な液滴を多孔質体の孔に付与した後、一定の湿度に保つことで、液体の蒸発を防ぐことができる。
【0057】
さらに、本発明の生体組織処理装置は、生体組織処理用の基板に備えられる多孔質体を除去する手段、を有することがより好ましい。この手段を用いた除去方法の具体例としては、(1)多孔質体と支持体の剥離による除去、(2)溶剤による多孔質体のみの除去、などが挙げられる。このような態様により、平面性の高い基板上に組織分解物が吸着した試料を供給することができるため、飛行時間型質量分析などで高い質量分解能を得るために有利である。
【0058】
除去方法(1)によれば、多孔質体あるいは支持体のどちらかの表面が、PDMSのような他の基板との密着性に優れる材料で作製されたものであれば、多孔質体と支持体を任意に分離することが可能である。また、除去方法(2)によれば、多孔質体の材料を溶解できるが組織分解物を溶解できないような溶剤、を用いることによって、支持体上に組織分解物を固定したまま、多孔質体を除去できる。そのため、支持体上の組織分解物の二次元分布を維持することができる。上記溶剤の具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アセトン、アミルアルコール、イソプロピルアルコール、イソプロピルエーテル、エタノール、オレイン酸、酢酸アミル、酢酸イソプロピル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸メチル、ジイソプロピルケトン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノール、シクロヘキセン、ジブチルエーテル、ジブチルフタレート、ジベンジルエーテル、ステアリン酸ブチル、セロソルブ、トリクレジルホスフェート、トリブチルホスフェート、トルエン、ヘキサン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられるが、以上に限定されない。また、溶剤が組織分解物を溶解するようなものであっても、吸着表面に対して組織分解物が微小量であり、支持体と組織分解物の結合が解離されるような溶剤でなければ、同様に支持体上の組織分解物の二次元分布を維持することができる。尚、多孔質体の除去方法については、上記に限定されるものではない。
【0059】
また、以上に示した各手段を有することで、生体組織処理用の基板の保持から、多孔質体を除去するまでの操作を行った後、直ちに質量分析に必要なマトリックス、増感剤などの付与ができるため、生体組織処理から分析の試料調製までを連続的に行うことができる。
【0060】
さらに、本発明の生体組織処理装置は、多孔質体の孔内に液体を保持した状態であるとき、生体組織処理用の基板を遠心処理する手段を更に有することが好ましい。また、遠心処理は基板の厚み方向に対してなされることがより好ましい。
【0061】
この態様によれば、生体組織が処理された後、そのまま生体組織処理用の基板を遠心することによって抽出されたタンパク質あるいは抽出されたタンパク質の分解物を基板により早く吸着させることができ、生体組織処理の時間を速めることができる。
【0062】
本発明の生体組織処理装置の一例を図5に示す。
【0063】
図5(A)における生体組織処理装置の容器122中には、生体組織処理用の基板123を保持する手段124が、基板移動手段130に固定されており、基板位置制御手段131によって移動させることが可能である。また、基板123を光学的に観察するための手段132と、光学的に観察した像を記録する手段133を設けたことで、基板123上での孔の位置を認識できる。そして、インターフェイス134で像を画像処理し、液滴を付与する場所を決定することができる。
【0064】
一方、図5(B)に示されるように、基板位置制御手段131によって移動させた基板123上には、液滴付与ヘッド140が存在し、液滴付与ヘッド140は液滴付与ヘッド移動手段141、液滴付与制御手段142に連結されている。インターフェイス134は、基板位置制御手段131、および液滴吐出ヘッド位置制御手段140に接続されており、基板123と液滴付与ヘッド140の位置合わせができる。これにより基板の多孔質体孔中に的確に液滴を付与することができる。この装置では、酵素と、酵素反応用の液体とを多孔質体の少なくとも孔内に用意するための酵素調製手段が、液滴付与ヘッド140は液滴付与ヘッド移動手段141、液滴付与制御手段142を有して構成されている。酵素反応用の液体は、酵素による生体組織からの組織分解物(タンパク質及び/またはタンパク質の分解物)の調製に必要な酵素反応のための環境を付与するためのものである。酵素反応に必要なpHや塩濃度を有し、酵素活性を発現させるための、あるいは酵素活性を増強するための各種成分を必要に応じて含むことができる。この液体としては各種緩衝液などを利用できる。
【0065】
さらに、図5(C)のように、基板123を光学観察手段134で観察できる位置に再度移動させ、生体組織を接触させるための手段143を用い、光学観察手段132を用いて状況を観察しながら基板123上に生体組織144を接触させることが可能である。生体組織を接触させるための手段143は、いかなるものでも良いが、マニピュレーターなど微小物体を操作できるようなものが好ましい。
【0066】
なお、図5には、基板保持手段124が光学観察手段132の下と液体付与手段140の下との間を移動可能とした構成を示した。基板保持手段124が固定され、光学観察手段132と液体付与手段140とが移動して同様の動作を可能とする構成としても良い。
【0067】
さらに、本発明の好ましい生体組織処理装置を図6に示す。図6に示される生体組織処理装置は、生体組織処理用の基板123とは別の転写基板150を使用する場合に必要な転写手段を有する。転写手段は、転写基板150を保持する手段151、移動手段152、位置制御手段153を有する。
【0068】
図6中の基板123、転写基板150、それらの保持手段124、151、および移動手段130、152が実線で示されたものは、処理の最初の工程の状態である。転写手段と、生体組織処理用の基板123を保持する前記基板保持手段124を接近させることにより、酵素によって組織分解物が孔中に抽出される。そのとき生体組織全体は、転写基板に接着した状態であるため、上述したようにノイズとなる不純物が入る可能性が低く、組織分解物が高いS/N比で検出される。
【0069】
また、図6の装置では、図5で示した上述の装置態様に加え、前記液滴付与方法がインクジェット法であり、多孔質体を除去する手段を有し、生体組織処理装置の容器内に温度と湿度を制御する手段を有する。
【0070】
上記の付加した各手段により得られる効果は以下の通りである。
【0071】
液滴吐出方法をインクジェットとすることにより、より小さな領域にも液滴を狙いどおりに付与することが可能となる。すなわち、インクジェットヘッド154、インクジェットヘッド移動手段160、液滴付与制御手段142が連結されている。そしてインターフェイス134によって制御された生体組織処理用の基板123とインクジェットヘッド154の位置合わせができる。
【0072】
転写基板150上の生体組織144は、生体組織を接触させるための手段143により基板123上に配置されてこれと接触する。この容器122内には、温度を制御する手段163及び湿度を制御する手段164が設けられている。
【0073】
処理装置内に、多孔質体を除去する手段を有することにより、組織分解物を吸着後、直ちに多孔質体を除去することができる。具体的には、図6のように多孔質体の材料を溶解する手段161が挙げられる。この手段161に溶剤を入れ、既に組織分解物を吸着させた生体組織処理用の基板を所要時間浸すことにより、多孔質体の材料を溶解する。
【0074】
このとき、多孔質体の材料を良く溶かし、組織分解物を溶かさない、あるいは、組織分解物と支持体の間の吸着に影響を及ぼさない溶剤を使用すると、以上の処理後、支持体に吸着した組織分解物162は支持体上に残存している。
【0075】
他の多孔質体を除去する手段としては、多孔質体と支持体を剥離する手段、レーザーによる分解手段、多孔質体を物理的に上部から削る手段、などが挙げられる。
【0076】
生体組織処理装置の容器内に温度と湿度を制御する手段63、64を有することにより、生体組織の処理に関する酵素の機能を最大限に活用することができる。さらに、前記処理用の基板上に付与した微小な液滴を蒸発させることなく、液体状態を保持することが可能である。
【0077】
図5及び図6で示す装置における生体組織を基板に接触させるための構成以外の構成を用いることで、生体組織を接触させるために用いる基板の製造装置を構成することができる。
【0078】
(生体組織処理方法)
本発明の生体組織処理方法は、本発明に係る基板の生体組織との接触面を形成する多孔質体の有する孔内に、酵素を用意する工程と、生体組織を、基板の生体組織との接触面に接触させる工程と、を有する。
【0079】
このような態様により、生体組織を処理し、前記生体組織中の組織分解物を支持体に固定することができる。
【0080】
生体組織を接触させる方法は、(1)多孔質体上に生体組織をそのまま接触させる方法、(2)転写基板に支持させた生体組織を前記生体組織処理用の基板に転写する方法、などが挙げられるが、以上の方法に限定されない。
【0081】
また、本発明の生体組織処理方法は、生体組織処理用の基板に液体を付与する工程、を有することが好ましい。このような態様によれば、酵素が乾燥状態である生体組織処理用の基板を保持する場合、生体組織の処理に適した液体に前記酵素を溶解させることができる。さらには、孔内に酵素を含まない多孔質体を用いた場合は、酵素溶液を付与し、生体組織処理用の基板を作成することができる。また、別の効果としては、質量分析に必要なマトリックス、増感剤などを生体組織処理後に付与することも可能であり、分析を有利に行うことができる。
【0082】
多孔質体の孔中への酵素の注入方法は、どのような方法を用いても良いが、例えば、スプレー、ディスペンサー、あるいはインクジェットにより液滴を噴射する方法がある。好ましくはインクジェットであり、より微小の液滴を付与することが可能である。前記液滴付与手段は、連続噴射方式、機械的加圧パルス方式(ピエゾ)、静電吸引方式、電気熱変換体による膜沸騰方式(バブルジェット)等がある。しかし、このような注入方法は、前記多孔質体上の特定の小さな領域に付与する場合に優位に用いられる。
その他、酵素溶液を孔中に誘導する方法としては、多孔質表面を酵素溶液に接触させた状態で、溶液を攪拌しながら注入する物理的方法、帯電性の支持体に電流を流して酵素を孔中に導入する電気的方法、などが挙げられるが、この限りではない。
【0083】
また、本発明の生体組織の処理方法は、組織分解物を支持体に吸着後、前記組織分解物が検出できるものであれば、多孔質体は除去されなくても良い。さらに、多孔質体に組織分解物が吸着した場合においても、前記組織分解物が検出できれば、多孔質体は除去されなくても良い。
(生体組織処理用キット)
本発明の生体組織処理用キットは、生体組織中のタンパク質、もしくは、タンパク質の分解物を固定するためのキットであって、生体組織処理用の基板と、この基板の有する多孔質体に付与する酵素と、を有する。
【0084】
この構成により、多孔質体から形成される生体組織との接触面を有する基板と、生体組織処理時にこの多孔質体内に含有させる酵素と、を別個に供給することができ、酵素をより安定な状態で供給することが可能である。上記したように、インクジェット等により多孔質体の孔内へ酵素溶液を付与することが可能である。なお、本発明の生体組織処理用キットは、前述の支持体、多孔質体、および酵素を使用することができる。
【実施例】
【0085】
(実施例1)
本実施例では、シリコンウエハ上に金を蒸着したものを支持体とし、フォトリソグラフィーによりフォトレジストを材料とした多孔質体(孔径3μm)を作製し、孔中にホスホリパーゼA2とトリプシンを含ませた生体組織処理用の基板を作製する。細胞膜脂質が分解することによってタンパク質が抽出する。前記タンパク質を分解することによって得られたタンパク質分解物は金表面に吸着する。フォトレジスト材料を除去後、タンパク質分解物をTOF−SIMS分析により検出する。
(1)多孔質体の作製
シリコンウエハ上にチタンを5nm蒸着し、続けて金を100nm蒸着したものを支持体とする。市販のフォトレジスト材料をスピンコートした後、フォトレジスト材料層をフォトリソグラフィー法によりパターニングし、およそ3μmの孔を規則的に有する多孔質体を作製する。前記孔は、フォトレジスト多孔質体の上面から支持体である金表面まで貫通させる。作製された多孔質体の断面を電子顕微鏡観察すると、図2(C)のような形態が観察される。フォトレジスト多孔質体の基板表面および孔表面は、UVオゾン処理を施すことにより親水化する。
(2)生体組織処理用の基板の作製
光学顕微鏡で多孔質体の孔の位置を確認した後、酵素溶液をインクジェットヘッドリザーバーに入れ、インクジェットヘッドから孔の中に酵素溶液を滴下し、孔内を充填する。酵素溶液としては、細胞の脂質膜を分解するホスホリパーゼA2、およびタンパク質を分解するトリプシンをそれぞれ10μg/mLずつを混合し溶解したリン酸緩衝溶液(pH7.4)を準備しておく。孔中の酵素溶液を凍結後、水分を昇華させることによって、図4のように、ホスホリパーゼA2(図4中の符号120)、トリプシン(図4中の符号121)が孔114中に粉末状態で保存され、本発明に係わる生体組織処理用の基板が作製される。
(3)生体組織試料の調製
リン酸緩衝液(pH7.4)をインクジェットヘッドリザーバーに入れ、インクジェットヘッドから図4に示される生体組織処理用の基板の孔に滴下し、図7の182に示すように孔内を充填する。光学顕微鏡で確認しながら、生体内から取り出した生体組織を図8のように接触させる。生体組織の細胞膜脂質は孔中に存在するホスホリパーゼA2によって分解され、細胞膜が分解されることによって孔中に抽出されたタンパク質はトリプシンによって分解される。所定時間経過後、支持体を外側に向けた状態で、生体組織処理用の基板を遠心操作することで、タンパク質分解物は、孔底の金表面に強く付着する。大部分の生体組織を除去後、孔中の水分を蒸発させ、前記生体組織処理用の基板をアセトン酢酸ブチル中に浸すことで、フォトレジスト多孔質体を除去する。表面にタンパク質分解物が付着した略平面の基板表面を得ることができる。
(4)組織分解物のTOF−SIMSイメージング
前記多孔質シリコン表面を下記条件でTOF−SIMS分析後、前記タンパク質分解物のピークを選択しイメージングすると、図8において多孔質体の孔が存在した部分に、前記タンパク質の質量ピークのシグナル181が図9のように検出される。そのとき、病変細胞が存在した孔の位置には特徴的なペプチド断片のピークが強く検出されるが、正常細胞が存在した孔の位置には同様のピークが弱く検出される。その結果、ペプチド断片の質量ピークを選択してイメージングすると、図8で病変細胞が存在する位置を中心に、前記シグナルが図9のように強く検出される。
上記分析は金基板上にマーキングを施した上で、ION TOF社製TOF−SIMS IV型装置を用いて下記条件により分析される。もしくは、図5または図6に示される装置によって分析することもできる。測定条件を以下に示す。
一次イオン:25kV Ga+、1.6pA(パルス電流値)、ランダムスキャンモード
一次イオンのパルス周波数:7.5kHz(150μs/shot)
一次イオンパルス幅:約1ns
一次イオンビーム直径:約3μm
測定領域:200μm×200μm
二次イオン像のpixel数:128×128
積算回数:64
以上のような条件で正および負の二次イオン質量スペクトルを測定する。また、ペプチド断片の二次元分布状態を反映することで、二次元イメージングを取得することができ、病変細胞の数や位置関係を同定することができる。
【0086】
(実施例2)
本実施例では、支持体であるシリコンウエハの表面に金蒸着し、この蒸着面に対して一面に整列したコロイダルシリカによるインプリンティングにより形成される金多孔質体(平均孔径1μm)を多孔質体として用いる。金表面の2つの独立した領域に、各々、トリプシン、キモトリプシンを含ませた生体組織処理用の基板を作製する。予め転写基板に接触し支持された生体組織を、前記生体組織処理用の基板に転写する。そして、生体組織の細胞膜タンパク質が酵素分解することによって抽出され、多孔質層に吸着した組織分解物をTOF−SIMS分析により検出する(本実施例では、多孔質体は除去されない)。
(1)生体組織処理用の基板の準備
シリコンウエハ上に金を1μm蒸着し、1cm角に切断する。へき開したマイカ基板上に、平均粒子径1μmのシリカ微粒子を自己組織的に並べて圧着する。前記のマイカ基板のシリカ微粒子面を、前記金蒸着基板に押し付けた後、マイカ基板を取り除く。埋め込まれたシリカ微粒子を水/エタノール中で超音波処理することで除去する。以上の操作により、金多孔質体が作製され、断面を電子顕微鏡観察すると図2(H)のような形態が観察される。硫酸:過酸化水素=7:3(容量比)で洗浄する。前記金多孔質体表面は、光学顕微鏡で孔の位置を確認し、位置情報を記録しておく。一方、2つのインクジェットカートリッジを用意する。1つのカートリッジには10μMトリプシン(シグマアルドリッチ社製)のリン酸緩衝溶液(pH7.4)、もう1つのカートリッジには10μMキモトリプシン(シグマアルドリッチ社製)のリン酸緩衝溶液(pH7.4)を注入する。確認した前記基板の多孔質領域A(図3の基板上左側の領域)の各孔にトリプシン溶液、多孔質領域B(図3の基板上右側の領域)の各孔にキモトリプシン溶液を各カートリッジの有するヘッドから付与する。このようにして、2種類の酵素領域を有する生体組織処理用の基板Bが作製される。
(2)生体組織の処理
ヒトの皮膚から取り出した生体組織を図10(A)のように転写基板に一旦塗布し、前記生体組織処理用の基板B上に転写した後、30分間静置する。基板表面に接触した生体組織の一部の細胞は、孔中あるいは基板表面に存在するトリプシン、あるいはキモトリプシンによって膜タンパク質が分解され、ペプチド断片が抽出される。所定時間静置することで、孔中に存在するペプチド断片が金多孔質体表面に吸着する。
(3)組織分解物のTOF−SIMSイメージング
金多孔質体表面を下記条件によりTOF−SIMS分析後、前記ペプチド断片の質量シグナルを選択してイメージングすると、多孔質体の孔が存在し、病変細胞が存在した位置に特徴的なペプチド断片のピークが検出される。検出されるピークはトリプシン溶液の領域とキモトリプシン溶液の領域で異なる。図10(B)のように生体組織が転写された部分に、2つの前記質量シグナルが図11のように検出される。また、あるタンパク質由来の分解物の質量シグナルを選択してイメージングすると、図10において病変細胞が存在する位置を中心に、前記シグナルが図11のように検出されていることがわかる。
上記分析は金基板上にマーキングを施した上で、ION TOF社製TOF−SIMS IV型装置を用いて下記条件により分析される。もしくは、図5または図6に示されるような装置によって分析することもできる。測定条件を以下に示す。
一次イオン:25kV Ga+、1.6pA(パルス電流値)、ランダムスキャンモード
一次イオンのパルス周波数:7.5kHz(150μs/shot)
一次イオンパルス幅:約1ns
一次イオンビーム直径:約3μm
測定領域:200μm×200μm
二次イオン像のpixel数:128×128
積算回数:64
以上のような条件で正および負の二次イオン質量スペクトルを測定する。また、ペプチド断片の二次元分布状態を反映することで、二次元イメージングを取得することができ、病変細胞の数や位置関係を同定することができる。
さらに、図11の(A)および(B)では、同じタンパク質が異なる酵素で分解されたときのTOF−SIMS分析を行い、それぞれ別々の質量ピークに基づくイメージングプロファイルを示している。両方のプロファイルとも病変細胞が存在する位置を中心に高いシグナルを得られるため、酵素によって切断されるタンパク質のデータベースを構築し、イメージングプロファイルのパターン数を組み合わせることにより、生体組織分析の信頼性向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の生体組織処理の概要図である。
【図2】本発明の支持体および多孔質体の説明図である。
【図3】2種類の酵素溶液が別々の孔に存在する本発明の生体組織処理用の基板の(A)上面図及び(B)断面図である。
【図4】2種類の酵素が各孔に存在する本発明の生体組織処理用の基板の(A)上面図及び(B)断面図である。
【図5】本発明の生体組織処理装置の説明図である。
【図6】本発明の生体組織処理装置の説明図である。
【図7】図4の生体組織処理用の基板が緩衝液で満たされた状態の上面図である。
【図8】図7の生体組織処理用の基板に生体組織が塗布された状態の上面図である。
【図9】酵素分解された生体組織から溶出したタンパク質のMSイメージングプロファイルである。
【図10】(A)は生体組織が接着し支持された転写基板の上面図である。(B)は、転写基板に支持された生体組織を転写した生体組織処理用の基板の上面図である。
【図11】(A)はトリプシンによって分解されたタンパク質分解物のSIMSイメージングプロファイルである。(B)はキモトリプシンによって分解されたタンパク質分解物のSIMSイメージングプロファイルである。
【符号の説明】
【0088】
100 基板
110 支持体
111 孔
112 多孔質体(あるいは多孔質ハニカム膜)
113 酵素溶液A
114 酵素溶液B
120 酵素C
121 酵素D
122 生体組織処理装置の容器
123 生体組織処理用の基板
124 生体組織処理用の基板を保持する手段
130 生体組織処理用の基板を移動させる手段
131 処理用の基板位置制御手段
132 光学的観察手段
133 光学的に観察した像を記録する手段
134 インターフェイス
140 液滴吐出ヘッド
141 液滴吐出ヘッド移動手段
142 液滴付与制御手段
143 生体組織を接触させるための手段
144 生体組織
150 転写基板
151 転写基板を保持する手段
152 移動手段
153 位置制御手段
154 インクジェットヘッド
160 インクジェットヘッド移動手段
161 多孔質体の材料を溶解する手段
162 支持体に吸着した抽出物
163 温度を制御する手段
164 湿度を制御する手段
170 細胞
171 生体組織
172 正常細胞
173 病変細胞
174 酵素Aによる分解物の質量ピーク強度を示すシグナル
175 タンパク質もしくはタンパク質分解物
180 酵素Bによる分解物の質量ピーク強度を示すシグナル
181 溶出したタンパク質の質量ピーク強度を示すシグナル
182 緩衝液で満たされた孔
200 金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織中のタンパク質もしくは該タンパク質の分解物を固定するための生体組織処理用の基板であって、
前記基板が、前記生体組織との接触面を形成する多孔質体を有し、該多孔質体の孔中に前記生体組織から前記タンパク質もしくは該タンパク質の分解物を得るための酵素を含むと共に、該酵素の作用により得られる前記タンパク質もしくは前記分解物が金属を含有する部材と接触するように構成されていることを特徴とする生体組織処理用の基板。
【請求項2】
前記酵素が、タンパク質分解酵素あるいは脂質分解酵素である請求項1に記載の基板。
【請求項3】
前記酵素が、エンドペプチダーゼである請求項2に記載の基板。
【請求項4】
支持体上に、前記接触面としての多孔質体を設けた構造を有し、該多孔質体が、その上面から前記支持体の接触面に至るまで貫通する孔を有する請求項1乃至3のいずれかに記載の基板。
【請求項5】
前記多孔質体が、前記金属を含有する部材を構成する請求項1乃至4のいずれかに記載の基板。
【請求項6】
支持体上に、前記接触面としての多孔質体を設けた構造を有し、該多孔質体と前記支持体間に、前記金属を含有する部材が存在する請求項1乃至3のいずれかに記載の基板。
【請求項7】
前記多孔質体は、その上面から前記金属を含有する部材に接触する面に至るまで貫通する孔を有する請求項6に記載の基板。
【請求項8】
前記金属を含有する部材は、金または銀を含有する請求項1乃至7のいずれかに記載の基板。
【請求項9】
前記多孔質体の孔の径が、100nm以上10μm以下の範囲にある請求項1乃至8のいずれかに記載の基板。
【請求項10】
生体組織中のタンパク質、もしくは前記タンパク質の分解物を基板に固定する生体組織の処理装置であって、
生体組織処理用の基板を保持する基板保持手段と、
前記基板保持手段に保持された基板の前記生体組織との接触面を形成する多孔質体の孔内に、前記生体組織から前記タンパク質もしくは前記タンパク質の分解物を得るための酵素を用意するための酵素調製手段と、
前記酵素が用意された孔を有する基板の前記接触面に前記生体組織を接触させるための生体組織接触手段と、
を有することを特徴とする生体組織の処理装置。
【請求項11】
前記酵素調製手段が、前記酵素が予め付与されている孔内に酵素反応用の液体を付与するか、あるいは酵素と、前記液体とを含む酵素溶液を前記孔に付与するための液体付与手段を有する請求項10に記載の処理装置。
【請求項12】
前記基板の生体組織との接触面の画像情報を読み取り、前記液体付与手段での液体の付与に関する位置情報を記録する手段を更に有する請求項11に記載の処理装置。
【請求項13】
前記液体を付与する手段が、インクジェット法による液体付与手段を有する請求項11または12に記載の処理装置。
【請求項14】
前記基板が、支持体上に前記接触面を形成する多孔質体を設けた構成を有し、該多孔質体を該支持体上から除去する手段を更に有する請求項10乃至13のいずれかに記載の処理装置。
【請求項15】
生体組織中のタンパク質、もしくは前記タンパク質の分解物を固定するための生体組織の処理方法であって、
請求項1乃至9のいずれかに記載の基板の生体組織との接触面を形成する多孔質体の有する孔内に、前記生体組織から前記タンパク質もしくは前記タンパク質の分解物を得るための酵素を用意する工程と、
前記生体組織を、前記基板の生体組織との接触面に接触させる工程と、
を有することを特徴とする生体組織の処理方法。
【請求項16】
生体組織中のタンパク質、もしくは前記タンパク質の分解物を固定するためのキットであって、
多孔質体からなる前記生体組織との接触面を有する基板と、
前記多孔質体に付与する酵素と、
を有することを特徴とする生体組織処理用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−143551(P2007−143551A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301512(P2006−301512)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】