説明

生体組織切片の前処理液及びこれを用いた生体組織中の核酸及び蛋白質の観測方法

【課題】 細胞内の核酸と蛋白質を同時に観測することができるような生体組織切片の前処理液、および上記前処理液を使用して、同一の生体組織切片の核酸と蛋白質を同時に観測する方法を提供すること。
【解決手段】 クエン酸緩衝液、キレート剤、及び下記式(I)で表されるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルを含み、pHが6.5〜7.5である、固定された生体組織切片の前処理液、この前処理液を使用することを特徴とする生体組織切片中の核酸及び蛋白質の同時観測方法。


式中Rは炭素原子数4〜12の直鎖及び/又は分岐鎖のアルキル基であり、nは6〜12である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織切片の前処理液及びこれを用いた生体組織中の核酸及び蛋白質の観測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織中の種々の物質、例えば、核酸や蛋白質の動態を観測するためには、生体組織をホルマリン等の固定液で固定し、エタノール等で脱水後、パラフィン包埋し、ミクロトームで組織を5μm程度の厚さに薄切りし、スライドグラスに載せ、脱パラフィン後、水洗し、目的に合わせて前処理し、変性処理を行い、標識プローブを用いたハイブリダイゼーションや標識抗体を用いた抗原抗体反応等を行い蛍光顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察し、目的の核酸や蛋白質の細胞内における位置情報を観測する。
前処理は細胞内の標的物質を露出させ、外部から供給する反応物質との反応を促進するための処理である。従来このような前処理液としては、緩衝液、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液等が用いられ、あるいは水を用いてオートクレーブ中で加熱加圧処理する方法等が用いられている。このような前処理液として、例えば、特許文献1には、2−メチルマレイン酸無水物(Citraconic anhydride)(CCA)を含有する抗原賦活剤が開示されている。
【0003】
蛋白質を観測する際の前処理液としては、クエン酸緩衝液やこれに界面活性剤を添加したものが使用されている。クエン酸緩衝液は熱処理の際に蛋白質が損傷を受けるのを防止する機能がある。また界面活性剤は細胞内の標的蛋白質を露出させ、外部から供給する反応物質との接触の機会を向上させる機能がある。しかし、オートクレーブの使用は危険を伴い、スライドグラスが割れたり、時間がかかるという問題の他、熱をかけすぎると細胞内の蛋白質の位置が乱れ、画像情報が壊れてしまうという問題がある。
また、核酸を観測する際の前処理液としては、蛋白質分解酵素(プロテアーゼKやトリプシン等)を含むものが用いられている。この処理液は、蛋白質分解酵素で蛋白質を分解して、核酸を露出させ、プローブとのハイブリダイゼーション反応の機会を向上させる機能がある。しかしながら、蛋白質が分解されてしまうため、抗原の観測を行うことは不可能である。
このように従来使用されている前処理液を使用すると、細胞内の核酸と蛋白質を同時に観測することはできなかった。
また、DNAは酸に弱く、RNAはアルカリに弱いため、従来の前処理液ではDNAとRNAを同時に観測することは一般に極めて困難であった。
【0004】
一方、染色体末端構造のひとつであるテロメアは、生体内における細胞分裂寿命を決定する重要な因子のひとつと考えられている。またテロメアは、精子や卵子を作る生殖細胞
以外の体細胞では細胞分裂のたびに短くなり、このテロメアの短縮が生体内における細胞分裂停止・細胞機能低下等の細胞老化を引き起こすと考えられている。同時に、細胞核内におけるテロメアの配置が細胞の分化・機能維持・機能低下に深く関与していることが示されている。従来の手法では細胞レベルでテロメアを観測することは可能であった(例えば、非特許文献1)。しかし、テロメアはTTAGGGの6塩基配列の繰り返し単位を有するため、ハイブリダイゼーションが難しく、このため、生体組織切片中のテロメアを蛍光in situハイブリダイゼーション法(FISH)等の手法により観測し、生体組織切片の形態学的な情報とテロメアの動態を同時に得ることは不可能であった。
【0005】
【特許文献1】特開2002−350430
【非特許文献1】Molenaar, C. et al. Visualizing telomere dynamics in living mammalian cells using PNA probe, EMBO J. 22, 6631-6641 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、細胞内の核酸と蛋白質を同時に観測することができるような生体組織切片の前処理液を提供することである。
本発明の他の目的は、細胞内のDNAとRNAと蛋白質を同時に観測することができるような生体組織切片の前処理液を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、テロメアDNAとRNAと蛋白質を同時に観測することができるような生体組織切片の前処理液を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、上記前処理液を使用して、同一の生体組織切片の、核酸と蛋白質、DNAとRNAと蛋白質、あるいはテロメアDNAとRNAと蛋白質の位置を同時に観測する方法を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、上記前処理液を使用して、同一の生体組織切片の形態学的な情報とテロメアの動態を同時に観測する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の生体組織切片の前処理液及びこれを用いた生体組織切片中の核酸及び蛋白質の位置を観測する方法を提供するものである。
1.クエン酸緩衝液、キレート剤、及び下記式(I)で表されるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルを含み、pHが6.5〜7.5である、固定された生体組織切片の前処理液。

式中Rは炭素原子数4〜12の直鎖及び/又は分岐鎖のアルキル基であり、nは6〜12である。アルキル基の結合位置は、o−,m−,p−位のいずれでも良いが、好ましくはp−位である。
2.キレート剤がエチレンジアミン四酢酸塩である上記1記載の前処理液。
3.クエン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、及び式(I)においてRが8〜10の直鎖及び/又は分岐鎖のアルキル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルを含み、pHが6.8〜7.0である、上記1記載の前処理液。
4.クエン酸ナトリウム濃度5〜20mM、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム濃度5〜20mM、及び式(I)においてRが8〜10の直鎖及び/又は分岐鎖のアルキル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテル濃度0.01〜0.2質量%、上記3記載の前処理液。
5.式(I)においてRが直鎖及び/又は分岐鎖のオクチル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルと式(I)においてRが直鎖及び/又は分岐鎖のノニル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルを含み、クエン酸ナトリウム濃度10mM、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム濃度10mM、式(I)においてRが直鎖及び/又は分岐鎖のオクチル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルと式(I)においてRが直鎖及び/又は分岐鎖のノニル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルの合計の濃度0.10質量%、pH7.0である、上記3記載の前処理液。
6.式(I)で表されるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルが、式(I)においてRが直鎖及び/又は分岐鎖のオクチル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルと式(I)においてRが直鎖及び/又は分岐鎖のノニル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルの1:1混合物である、上記1〜5のいずれか1項記載の前処理液。
7.上記1〜6のいずれか1項記載の前処理液を使用することを特徴とする生体組織切片中の核酸及び蛋白質の同時観測方法。
8.核酸がDNA及びRNAからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記7記載の方法。
9.核酸がテロメアDNAである上記8記載の方法。
10.蛋白質が抗原蛋白質である上記8記載の方法。
11.生体組織切片が凍結切片である上記7〜10のいずれか1項記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の前処理液を使用すると、生体組織切片中の核酸及び蛋白質、DNA及びRNA及び蛋白質の位置情報を同一の試料を用いて同時に観測することができる。また本発明の前処理液は、凍結された生体組織切片に対しても同様に適用することができる。
また本発明によれば従来観測が極めて困難であった生体組織切片での種々の分化過程にある細胞における核内のテロメアの動態を容易に観測することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の前処理液は、生体組織を固定液で固定し、パラフィン包埋後に生体組織切片を作成した後、これを前処理して、生体組織切片中の標的物質を観測する際の当該前処理に使用される処理液である。
固定液としては、一般的に使用されるホルマリン系固定液、アルコール系固定液が使用できるが、標識済みプローブ等の組織切片への浸透性の点で、アルコール系固定液の方が好ましい。
本発明の前処理液は、クエン酸緩衝液とキレート剤、及び下記式(I)で表されるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルを含み、pHが6.5〜7.5である、固定された生体組織切片の前処理液である。

式中Rは炭素原子数4〜12の直鎖及び/又は分岐鎖のアルキル基であり、nは6〜12である。
クエン酸緩衝液は熱処理時の蛋白質の損傷を防止し、蛋白質の細胞内の位置関係を維持する機能がある。クエン酸緩衝液としては、クエン酸ナトリウム緩衝液が一般的である。クエン酸緩衝液の濃度は1〜100mM、好ましくは5〜20mM、さらに好ましくは8〜12mM、最も好ましくは10mMである。クエン酸緩衝液濃度が1mM未満では蛋白質の損傷を防止する効果が不充分となり、100mMを超えて使用する必要はない。
【0010】
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸塩、プロピレンジアミン四酢酸等のナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられるが、エチレンジアミン四酢酸塩ナトリウムが最も一般的である。キレート剤は、核酸分解酵素阻害剤として機能し、DNAやRNAの分解を防止する。キレート剤の濃度は、試験環境中に存在する核酸の量によっても異なるが、通常は1〜100mM、好ましくは5〜20mM、さらに好ましくは8〜12mM、最も好ましくは10mMである。キレート剤の濃度が1mMより低いと核酸分解酵素阻害機能が不充分であり、100mMを超えて使用する必要はない。
【0011】
本発明の前処理液は上記式(I)で表される特定のノニオン系界面活性剤を含有することを特徴とする。特に好ましい前処理液は、上記式(I)で表される特定のノニオン系界面活性剤を2種以上含むものである。好ましくは式(I)においてRが直鎖及び/又は分岐鎖のオクチル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルと式(I)においてRが直鎖及び/又は分岐鎖のノニル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルの2:1〜1:2(質量比),好ましくは1:1混合物である。
式(I)においてRが直鎖及び/又は分岐鎖のp−オクチル基であり、nが約8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルの具体例としては、トリトンX−100(ナカライテスク株式会社製商品名)が挙げられる。
他方のノニオン系界面活性剤である、式(I)においてRが直鎖及び/又は分岐鎖のp−ノニル基であり、nが約8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルの具体例としては、CAS No.127087−87−0(MSDS No.32822)として登録され、タージトールNP−40(ナカライテスク株式会社製商品名)として市販されているものが挙げられる。
【0012】
2種のノニオン系界面活性剤の濃度は、それぞれ好ましくは0.01〜0.1質量%、さらに好ましくは0.03〜0.07質量%、最も好ましくは0.05質量%である。
ノニオン系界面活性剤の濃度が0.1質量%より高いと、脆い臓器では溶解するおそれがあり、好ましくない。また、理由は不明であるが、2種の界面活性剤の一方が存在しないと核酸や蛋白質の形態及び位置関係が崩れてしまう場合があり、2種の界面活性剤を併用することが望ましい。
【0013】
本発明の前処理液のpHは6.5〜7.5、好ましくは6.7〜7.2、さらに好ましくは、6.8〜7.0、最も好ましくは7.0である。pHが6.5より低いと酸に弱いDNAの観測が困難になり、pHが7.5より高いとアルカリに弱いRNAの観測が困難になる。
【0014】
本発明はさらに、上記前処理液を使用することを特徴とする生体組織切片中の核酸及び蛋白質の同時観測方法を提供するものである。
まず、生体組織を採取し、これを固定液により固定する。固定液としては、ホルマリン固定液や、メタカン固定液(メタノール:クロロホルム:酢酸=6:3:1)等が使用できるが、後者の方が標識済みプローブ等の組織切片への浸透性の点で好ましい。
次に固定した組織をエタノール等で脱水後、常法に従いパラフィン包埋処理し、目的に応じた厚さ例えば、3〜10μm程度の生体組織薄切切片を作成する。上記操作はいずれもDNaseフリーのものを使用する。
【0015】
脱パラフィン後、水洗し、本発明の前処理液中で所定時間、例えば、20〜60分間煮沸湯煎した後、水洗し、前処理液を除去する。
次に、切片に変性液、例えば、70%ホルムアミド・2X SSCをのせ、加熱する。加熱温度、加熱時間、加熱手段は特に制限されないが、例えば、100℃のヒートブロック上で5分間程度の加熱で充分である。
変性液を除去し、急冷脱水する。急冷脱水は例えば、ドライアイス入りのエタノールにより行うことができる。
【0016】
次いで常法により、標的物質と反応する物質を反応させるか、あるいは標的物質を着色可能な物質で着色する。核酸は、DNA及びRNAからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、核酸の観測は、蛍光物質等で標識した核酸プローブをその場でハイブリダイズさせる(fluorescence in situ hybridization: FISH)。ハイブリダイゼーションは、例えば、蛍光標識した特異プローブを用いて、45℃〜60℃で12〜24時間、例えば、45℃で一晩程度ハイブリダイズさせればよい。
次にクエン酸緩衝液例えば、0.1X SSCにより、45℃で洗浄し、さらにリン酸緩衝液例えば、0.01M−PBSで洗浄する。
次いで、常法により免疫組織化学・核染色を行う。
以上の処理を行った後、標識または着色された切片を蛍光顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡で観測することにより核酸及び蛋白質の位置を容易に観測することができる。
【0017】
本発明は、DNA、RNA、蛋白質(例えば、抗原)を同時に観測できることを特徴とするものであるが、DNA、RNA、蛋白質(例えば、抗原)の1種の観測に適用できることはいうまでもない。
前処理液中の2種のノニオン系界面活性剤のうち一方のみを使用すると、生体組織切片中の核酸や蛋白質の形態(位置)が維持されなくなり、立体的な位置関係の情報が得られなくなることが多い。例えば、トリトンX−100を含むがタージトールNP−40を含まない前処理液を使用すると、核酸に対するアクセス度が低下し、核酸の画像が消滅してしまう傾向がみられる。
【0018】
本発明は特定の緩衝液、キレート剤、特定の界面活性剤、好ましくは特に2種の特定の界面活性剤を組み合わせることにより、細胞内における核酸と蛋白質の立体的な位置情報を維持し、両者を同一の試料を用いて同一の視野内で観測することを可能としたものである。
本発明の方法は、生体、特に哺乳類の臓器を含む全ての組織の切片の観測に適用が可能である。また、凍結した切片を試料として用いることも可能である。
従来、核酸と蛋白質を同時に検出する手法は全く知られておらず、従って、本発明は核酸及び蛋白質の生体細胞内における画期的な動態観測手段を提案するものである。
【0019】
本発明の方法を適用して生体組織切片中のDNA、RNA及び蛋白質(抗原等)を観測する方法においてその観測順序は特に制限されない。しかし、RNAが最も分解し易いのでRNAを最初に観察することが通常は望ましい。次いで、蛋白質、DNA、あるいはDNA、蛋白質の順に観測を行えば良い。
【0020】
実施例1
前処理液の調製
10mMクエン酸ナトリウム、10mM EDTA、0.05質量%タージトールNP40(ナカライテスク)及び0.05質量%トリトンX−100(ナカライテスク)を含む、pH7.0の前処理液を調製した。
【0021】
試験例1
マウス精巣を摘出し、メタカン固定液(メタノール:クロロホルム:酢酸=6:3:1)により固定した。使用した器具はDNaseフリーのものを使用した。
固定した組織をエタノール脱水後、常法に従いパラフィン包埋した。使用した器具はDNaseフリーのものを使用した。
ミクロトームを用いて厚さ5μmの生体組織切片を作成した。使用した器具はDNaseフリーのものを使用した。
脱パラフィン後、水洗し、実施例1で調製した前処理液中で40分間煮沸湯煎した。
水洗し、前処理液を除去した。
切片に変性液(70%ホルムアミド・2X SSC)をのせ、100℃のヒートブロック上で5分間加熱した。
変性液を除去し、ドライアイス入りのエタノールで急冷脱水した。
0.2μg/mlローダミンで蛍光標識したテロメア特異プローブ(TTAGGG)3を用いて、50℃12時間ハイブリダイズした。
0.01X SSC、45℃で洗浄した。
0.01M−PBSで洗浄した。
【0022】
次に上記試料をサイトグリーン(Molecular Probes, USA)により核染色(緑色)を行い、さらに抗PCNAモノクローナル抗体(Oncogene Research Products, USA)及びAlexa Flour(登録商標)633で標識した第2抗体(Molecular Probes, USA)と反応させ免疫組織染色(青色)を行った。
蛍光顕微鏡を用いてマウス精巣におけるテロメア動態を観察し、FISH画像(赤色)を得た。
また、LSM−510共焦点顕微鏡(Carl Zeiss, Germany)により、核染色した画像(緑色)及び免疫組織染色した画像(青色)を得た。
3種の画像(免疫組織染色画像(青色)/FISH画像(赤色)/核染色画像(緑色))を合成した画像を作成したところ、3色の画像に加え、赤色と緑色が合成されて黄色となった部分、緑色と青色が合成されて水色となった部分、青色と赤色が合成されて赤紫色となった部分、これらの中間色の部分が観測された。この試験では全く同一の試料を用いており、これにより、生体組織切片中のテロメアDNAと特定の抗原及び核の位置関係を明瞭に確認することができた。
【0023】
試験例2(比較)
試験例1において、実施例1の前処理液の代わりに、1質量%トリトン含有PBSを使用したもの、および前処理液を使用しなかったものでは、テロメアのFISH画像は極めて不明瞭であり、テロメアと、特定の抗原及び核の位置関係を明瞭に確認することはできなかった。
【0024】
試験例1において、マウスの精巣の代わりにマウス胎子脳を使用し、Pax6のmRNAとその遺伝子産物の同定を同時に行った。Pax6・mRNAの存在を示すシグナルはディゴキシゲニン標識した特異プローブを用いたin situ ハイブリダイゼーションによって試行し(疑似カラー・緑色で表示)、Pax6・遺伝子産物(この場合は蛋白質)の存在はPax6に対する特異抗体を用いた免疫組織化学にて試行した(疑似カラー・赤色で表示)。なお、対比核染色としてはDNA染色剤を用いた(疑似カラー・青色で表示)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸緩衝液、キレート剤、及び下記式(I)で表されるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルを含み、pHが6.5〜7.5である、固定された生体組織切片の前処理液。

式中Rは炭素原子数4〜12の直鎖及び/又は分岐鎖のアルキル基であり、nは6〜12である。
【請求項2】
キレート剤がエチレンジアミン四酢酸塩である請求項1記載の前処理液。
【請求項3】
クエン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、及び式(I)においてRが8〜10の直鎖及び/又は分岐鎖のアルキル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルを含み、pHが6.8〜7.0である、請求項1記載の前処理液。
【請求項4】
クエン酸ナトリウム濃度5〜20mM、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム濃度5〜20mM、及び式(I)においてRが8〜10の直鎖及び/又は分岐鎖のアルキル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテル濃度0.01〜0.2質量%、請求項3記載の前処理液。
【請求項5】
式(I)においてRが直鎖及び/又は分岐鎖のオクチル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルと式(I)においてRが直鎖及び/又は分岐鎖のノニル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルを含み、クエン酸ナトリウム濃度10mM、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム濃度10mM、式(I)においてRが直鎖及び/又は分岐鎖のオクチル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルと式(I)においてRが直鎖及び/又は分岐鎖のノニル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルの合計の濃度0.10質量%、pH7.0である、請求項3記載の前処理液。
【請求項6】
式(I)で表されるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルが、式(I)においてRが直鎖及び/又は分岐鎖のオクチル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルと式(I)においてRが直鎖及び/又は分岐鎖のノニル基であり、nが8〜10であるポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテルの1:1混合物である、請求項1〜5のいずれか1項記載の前処理液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の前処理液を使用することを特徴とする生体組織切片中の核酸及び蛋白質の同時観測方法。
【請求項8】
核酸がDNA及びRNAからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項7記載の方法。
【請求項9】
核酸がテロメアDNAである請求項8記載の方法。
【請求項10】
蛋白質が抗原蛋白質である請求項8記載の方法。
【請求項11】
生体組織切片が凍結切片である請求項7〜10のいずれか1項記載の方法。

【公開番号】特開2006−266755(P2006−266755A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−82444(P2005−82444)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】