説明

生体計測装置および生体計測方法

【課題】MEGによるデータをMRI画像上に正しく重ねる。
【解決手段】第1マーカ10は、被験者の頭部に複数個取り付けられる。生体計測装置の撮像部は、第1マーカ10が取り付けられた状態で脳を撮像し、第1マーカ10が投影されたMRI画像を取得する。第2マーカ20は、被験者の頭部に取り付けられ、自ら磁場を発生させる。生体計測装置の磁場計測部は、第1マーカ10が取り付けられていた位置に第2マーカ20を取り付けた状態で、磁場計測部は、SQUID(Superconducting Quantum Interfarence Device)により脳の神経活動にともなって発生する磁場の強度を計測する。一部の第1マーカ10と第2マーカ20は耳穴へ挿入可能に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体から発生する磁場を計測する技術に関し、主には、脳の神経活動にともなって発生する磁場を計測する技術、に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に「脳磁計」とよばれるMEG(Magnetoencephalography)は、超伝導量子干渉素子(SQUID:Superconducting Quantum Interference Device)により、脳の神経活動にともなって発生する微弱磁場を頭皮上から計測できる。MEGは、計測精度において優れており、知覚や感情、学習、言語等の高次な脳機能を解明するためのツールとして期待されている。
【特許文献1】特開2004−160085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、MEGは、磁場が脳のどの部位から発生しているかを正確に特定するのは苦手である。これに対し、MRI(Magnetic Resonance Imaging)は、磁気共鳴の原理により脳の内部を画像化する機能を備える。そこで、MEGによって、脳から発生する磁場の強度分布を示す磁場分布データを取得し、これをMRIによって得られる脳の画像上に重ね合わせれば、脳のどの部位からどの程度の磁場が発生しているかを視覚的に特定しやすくなる。この位置合わせは、通常、以下の様な方法によってなされる。
【0004】
1.被験者の頭部の所定位置にビタミンE錠剤などの水分を含むマーカ(以下、「第1マーカ」とよぶ)を取り付ける。そして、この状態でMRIにより脳の内部を撮像する。このとき、MRIは第1マーカ内の水分を検出するので、MRI画像中には第1マーカが投影される。
2.次に、被験者の頭部の同じ位置に、電磁コイルによって磁場を発生させる別種のマーカ(以下、「第2マーカ」とよぶ)を取り付ける(なお、第1マーカと第2マーカをまとめていうときには、単に、「マーカ」とよぶ)。そして、この状態でMEGにより磁場分布データを取得する。このとき、MEGは、第2マーカが発生する磁場も検出するので、磁場分布データ中には第2マーカが発生する磁場が投影される。
3.磁場分布データ中に現れている第2マーカの位置とMRI画像中に現れている第1マーカの位置が一致するように、磁場分布データをMRI画像中に重ね合わせれば、脳から発生する磁場の強度分布と脳の部位の位置関係を特定できる。いわば、マーカの位置が磁場分布データとMRI画像を重ね合わせるための基準点となっている。
【0005】
磁場分布データとMRI画像を正しく重ね合わせるためには、第1マーカと同じ位置に第2マーカが取り付けられなければならない。通常、第1マーカおよび第2マーカはそれぞれ複数個が頭部に取り付けられ、それらの取り付け位置は、頭のある程度ばらけた各部に設定される。典型的には、マーカは、額に3個、口を開けたときに生じる左右のくぼみ(以下、単に「くぼみ」とよぶ)に1個ずつ、計5個が配置される。本発明者は、このような配置方法においては、特に「くぼみ」に設置されるマーカの位置を一致させるのが困難な点を課題として認識した。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、人体から発生する磁場を計測するときに、その発生部位を正確に特定するための技術、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、人体の内部状態を計測するための装置である。
この装置は、第1マーカと第2マーカという2種類のマーカを使用する。第1マーカと第2マーカは耳穴へ挿入可能に形成されている。
この装置は、人体頭部に第1マーカを取り付けた状態で人体頭部の内部を撮像し、第1マーカが投影された撮像画像を取得する。次に、第1マーカが取り付けられていた位置と同じ位置に自ら磁気を発生させる第2マーカを取り付けた状態で、人体頭部の内部から発生する磁気の分布状態を計測する。
【0008】
耳穴に、いわば、イヤフォンや耳栓のような形状にてマーカを設置するので、「くぼみ」にくらべてマーカを安定して取り付けやすい。また、「くぼみ」と異なり、耳穴の方が取り付け位置を特定しやすいため、第1マーカと第2マーカの位置を一致させやすくなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、人体から発生する磁場を計測するときに、その発生部位を正確に特定しやすくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、MEGの基本原理を説明するための模式図である。
脳内には数億ともいわれる神経細胞があり、神経細胞の興奮によって脳は情報処理を行っている。神経興奮にともなって軸索30からシナプス間隙32、細胞体34に向けての電位が変化すると、磁力線38が発生する。磁力線38の一部は、頭表面36を突き抜けて頭外にも現れる。MEGとしての機能を備える生体計測装置100は、この磁力線38を検出して、脳内の神経活動を計測するための装置である。
【0011】
生体計測装置100は、複数個のセンサ装置40を頭表面36の外に配置する。センサ装置40は、脳の各部から発生する磁力線38を検出する。センサ装置40は、磁束検出コイル42とSQUID44を含む。磁束検出コイル42は、外部からの磁界の影響を排除しつつ、脳から発生する磁場をSQUID44に導く。SQUID44は、この磁場の強度を検出する。生体計測装置100は、複数のセンサ装置40から検出される磁場の強度を集計して、脳から発生する磁場の強度分布を示す磁場分布データを取得する。この磁場分布データは、等磁力線図として図形化されてもよい。
【0012】
MEGは、時間分解能と空間分解能の双方において優れた計測装置である。そのため、MEGは、脳の臨床診断はもちろん、人間の心のメカニズムを解明するための有効なツールとして期待されている。ただし、MEGは、磁場の分布を求めるための装置であり、脳の画像そのものを取得する装置ではない。したがって、MEGによって検出される磁場が、脳のどの部位から発生した磁場であるかを正確に特定する必要がある。
【0013】
広く利用されているMRIは、核磁気共鳴現象を利用して生体内部を画像化することができる計測装置である。そこで、MEGによって計測される磁場分布データをMRI画像に重ね合わせれば、磁場の発生源を視覚的に特定しやすくなる。このとき、MRI画像と磁場分布データを重ね合わせるとき、その位置合わせの基準点を定める必要がある。この基準点を決めるために、後述の第1マーカ10および第2マーカ20を用いることになる。以下においては、まず、生体計測装置100の機能ブロックについて説明した後に、MRI画像と磁場分布データを重ね合わせ方法について説明する。
【0014】
図2は、生体計測装置の機能ブロック図である。
ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0015】
第1マーカ10は、内部に水分を含むマーカであり、被験者の頭部の所定位置に設置される。撮像部110は、被験者の脳をMRIの原理により撮像する。このとき、第1マーカ10の水分が撮像部110により検出されるので、MRI画像中には第1マーカ10が投影される。画像データ保持部114はMRI画像のデータを保持する。
【0016】
第2マーカ20は、内蔵の電磁コイルにより自ら磁場を発生させるマーカであり、第1マーカ10が設置されていた位置と同じ位置に設置される。磁場計測部112は、MEGの原理により、被験者の脳から発生する磁場の強度分布を示す磁場分布データを取得する。磁場分布データ保持部116は磁場分布データを保持する。
【0017】
ユーザインタフェース処理部128は、ユーザからの入力処理やユーザに対する情報表示のようなユーザインタフェース全般に関する処理を担当する。データ処理部120は、ユーザインタフェース処理部128や画像データ保持部114、磁場分布データ保持部116等から取得されたデータを元にして各種のデータ処理を実行する。データ処理部120は、ユーザインタフェース処理部128、画像データ保持部114、磁場分布データ保持部116、撮像部110および磁場計測部112の間のインタフェースの役割も果たす。
【0018】
データ処理部120は、第1マーカ検出部122、第2マーカ検出部124および位置調整部126を含む。
第1マーカ検出部122は、MRI画像から第1マーカ10の位置を検出する。第2マーカ検出部124は、磁場分布データから第2マーカ20の位置を検出する。位置調整部126は、MRI画像に投影されている第1マーカ10と磁場分布データに投影されている第2マーカ20を位置合わせることにより、MRI画像と磁場分布データを位置対応させる。
【0019】
図3は、マーカの取り付け位置を示す図である。
典型的には、マーカは、被験者の額に3個、「くぼみ」に各1個の計5個が取り付けられる。しかし、「くぼみ」は、第1マーカと第2マーカの取り付け位置を一致させることがむずかしい。そこで、本実施例においては、「くぼみ」のかわりに耳穴をマーカの設置位置としている。
【0020】
したがって、本実施例では、同図に示す設置位置50a〜50eの5つの場所に、各マーカが設置される。まずは、第1マーカ10aが設置位置50a、第1マーカ10bが設置位置50b、・・・、第1マーカ10eが設置位置50eに設置される。このうち、第1マーカ10aと第1マーカ10eは、イヤフォン型の形状をしており、そのまま、耳穴に挿入可能である。一方、設置位置50b〜設置位置50dは、額上の所定位置であり、第1マーカ10b〜第1マーカ10dはテープによって貼り付けられる。5つの第1マーカ10が設置された後、撮像部110はMRI画像を撮像する。撮像が完了すると、第1マーカ10は取り外される。
【0021】
次に、第2マーカ20aが設置位置50a、第2マーカ20bが設置位置50b、・・・、第2マーカ20eが設置位置50eに設置される。このうち、第2マーカ20aと第2マーカ20eも、イヤフォン型の形状をしており、そのまま、耳穴に挿入可能である。一方、設置位置50a〜設置位置50cには、第2マーカ20a〜第2マーカ20cがテープによって貼り付けられる。5つの第2マーカ20が設置された後、磁場計測部112は磁場分布データを取得する。
【0022】
図4は、MRI画像と磁場分布データの対応関係を示す模式図である。
MRI画像60には、第1マーカ10が設置されていた設置位置50a〜設置位置50eが投影されている。磁場分布データ70は、等磁力線図として図形化されており、第2マーカ20が発生する磁場が投影されている。第1マーカ10と第2マーカ20は同じ位置に設置されるので、MRI画像60に現れる設置位置50a〜設置位置50eと磁場分布データ70に現れる設置位置50a〜設置位置50eが一致するように重ねれば、磁場分布データ70とMRI画像60を正しく重ね合わせることができる。
【0023】
図5は、ユーザインタフェース画面の画面図である。
ユーザインタフェース処理部128は、ユーザインタフェース画面200にてMRI画像60を表示させる。同図においては、さまざまな角度から脳を輪切りにしたMRI画像60が表示されている。ここで、同図において第1マーカ10の位置は四角形のマークにて示されており、第2マーカ20の位置は十字形のマークで示されている。位置合わせボタン202がクリックされると、位置調整部126は、磁場分布データ70をMRI画像60上に重ねて表示させる。
【0024】
以上、実施例に基づいて本発明を説明した。
本実施例によれば、「くぼみ」ではなく耳穴をマーカとするため、第1マーカ10と第2マーカ20を同じ位置に取り付けやすくなる。また、耳穴を対象とすることにより、被験者が自分でマーカを取り付けやすくなる。そのため、被験者が女性や乳幼児である場合には、特に、有効である。また、市販のイヤフォンにビタミンE錠剤や電磁コイルを内蔵させるだけなので、製造の容易さもメリットである。
【0025】
なお、本実施例においては、MRIにより脳の内部の画像を取得するとして説明したが、撮像部110は、X線やPET(Positron Emission Tomography)など、脳の内部を画像化するための他の既知の手段により、脳を撮像してもよい。そして、こうして得られた脳画像に対してMEGによる磁気分布データを重ね合わせてもよい。
【0026】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0027】
また、請求項に記載の各構成要件が果たすべき機能は、本実施例において示された各機能ブロックの単体もしくはそれらの連係によって実現されることも当業者には理解されるところである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】MEGの基本原理を説明するための模式図である。
【図2】生体計測装置の機能ブロック図である。
【図3】マーカの取り付け位置を示す図である。
【図4】MRI画像と磁場分布データの対応関係を示す模式図である。
【図5】ユーザインタフェース画面の画面図である。
【符号の説明】
【0029】
10 第1マーカ、 20 第2マーカ、 30 軸索、 32 シナプス間隙、 34 細胞体、 36 頭表面、 38 磁力線、 40 センサ装置、 42 磁束検出コイル、 44 SQUID、 50 設置位置、 60 MRI画像、 70 磁場分布データ、 100 生体計測装置、 110 撮像部、 112 磁場計測部、 114 画像データ保持部、 116 磁場分布データ保持部、 120 データ処理部、 122 第1マーカ検出部、 124 第2マーカ検出部、 126 位置調整部、 128 ユーザインタフェース処理部、 200 ユーザインタフェース画面、 202 位置合わせボタン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体頭部に取り付けられる第1マーカと、
前記第1マーカが取り付けられた状態で前記人体頭部の内部を撮像し、前記第1マーカが投影された撮像画像を取得する撮像部と、
前記人体頭部に取り付けられ、自ら磁場を発生させる第2マーカと、
前記第1マーカが取り付けられていた位置に前記第2マーカを取り付けた状態で、前記人体頭部の内部から発生する磁場の強度を計測する磁場計測部と、を備え、
前記第1マーカと前記第2マーカは耳穴へ挿入可能に形成されていることを特徴とする生体計測装置。
【請求項2】
前記磁場計測部は、SQUID(Superconducting Quantum Interfarence Device)により脳の神経活動にともなって発生する磁場の強度を計測することを特徴とする請求項1に記載の生体計測装置。
【請求項3】
前記撮像部は、磁気共鳴方式によって前記人体頭部の内部を撮像することを特徴とする請求項1または2に記載の生体計測装置。
【請求項4】
耳穴に挿入可能な第1マーカが取り付けられた状態で人体頭部の内部を撮像し、前記第1マーカが投影された撮像画像を取得するステップと、
前記人体頭部から発生する磁場の強度分布を示す磁場分布データの前記撮像画像に対する位置関係を特定するために、前記磁場分布データ中のマーカとなるように自ら磁場を発生させる第2マーカを前記第1マーカと同様に耳穴に挿入した状態で、前記人体頭部の内部から発生する磁場の強度を計測するステップと、
を備えることを特徴とする生体計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−181564(P2007−181564A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1695(P2006−1695)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】