説明

生体関連分子の非特異的吸着を阻害する方法および生体関連分子検出用キット

【課題】 生体関連分子の担体への非特異的吸着を効果的に抑制し、生体関連分子の相互作用の高感度な検出を可能にする手段を提供する。
【解決手段】 担体に対する生体関連分子の非特異的吸着を阻害する方法であって、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、カルボキシル基、マレイミド基およびアミノ基からなる群から選択される化学修飾基を表面に有する担体に対して、前記担体上の化学修飾基と反応しうる官能基であって、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、メルカプト基およびアミノ基からなる群から選択される官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用いることを特徴とする、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質および核酸等の生体関連分子を担体上に固定化し、固定化された生体関連分子とその他の生体関連分子との特異的結合に基づいて検出を行う系において、生体関連分子の担体上への非特異的吸着を防止する方法、およびそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、核酸、糖鎖、タンパク質などの生体関連分子を担体上に固定化し、それにターゲットとなる生体関連分子を反応させて両分子の相互作用を研究する方法が広く使われている。例えば、分子間の相互作用として抗原抗体反応を利用するイムノブロッティングの一例を以下に示す。
【0003】
まず、抗原タンパク質を担体上に固定化し、抗原特異的抗体(一次抗体)を抗原タンパク質へ結合させ、続いて、標識抗一次抗体(二次抗体)を一次抗体に結合させ、そして、蛍光などの標識によって二次抗体結合部位を可視化することにより検出を行う。また、標識二次抗体の代わりにビオチン化二次抗体を結合させ、さらにこれにビオチン化発色酵素とアビジンの複合体を結合させてシグナルを増幅する方法も知られている。ここで、抗原と一次抗体および一次抗体と二次抗体の結合はどちらも特異的な反応であるが、一次抗体、二次抗体等は、抗原タンパク質の固定化されていない担体表面にも数多く非特異的に吸着する。非特異的に吸着した標識抗体等は、特異的反応によって吸着したものと同様にシグナルを発して検出感度を低下させる。同様の現象が、その他のタンパク質および核酸等の特異的結合の検出においても観察される。
【0004】
従って、この非特異的な吸着を抑えることが、高感度検出のためには重要になる。このような非特異的な吸着を防止するため、従来、担体上に固定化された生体関連分子にこれと相互作用する分子を反応させる前に、生体関連分子が結合していない担体上にブロッキング剤を吸着させて、非特異的吸着を抑制していた。
【0005】
このようなブロッキング剤として、BSA(ウシ血清アルブミン)など相互作用に無関係なタンパク質が用いられてきた(非特許文献1参照)が、非特異的吸着が十分に抑制できない場合もあった。特に、表面が負に帯電した担体、例えば、表面にカルボキシル基を有する担体または該カルボキシル基をさらに活性エステル化した基などを有する担体等を用いる場合(特許文献1〜3参照)、正に帯電したタンパク質の非特異的吸着が問題となるが、BSAは負に帯電しているため、非特異的吸着を防止することが困難であった。また、その他の成分を含むブロッキング剤についても知られているが、これらも担体への吸着が不十分であるなど問題点を有していた。(特許文献4参照)。
【0006】
特許文献5には、ポリアルキレングリコール残基をω−メルカプト脂肪酸残基を介して半導体結晶表面に結合することにより生体物質の非特異的吸着を制御する方法が記載されている。しかし、該方法は、配位子交換反応によりメルカプト基を有するポリアルキレングリコール残基を半導体結晶に配位させるものであるため、担体が金属酸化物等に限定される。また、ポリアルキレングリコール残基を半導体結晶に配位させるための調整も煩雑であるという問題があった。
【0007】
【特許文献1】WO 00/22108
【特許文献2】WO 02/12891
【特許文献3】特開2002−82116号公報
【特許文献4】特開平6−160385号公報
【特許文献5】特開2002−121549号公報
【非特許文献1】新生化学実験講座1、1994年、東京化学同人発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、生体関連分子の担体への非特異的吸着を効果的に抑制し、生体関連分子の相互作用の高感度な検出を可能にする手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、カルボキシル基、マレイミド基およびアミノ基からなる群から選択される化学修飾基を表面に有する担体と、前記担体上の化学修飾基と反応しうる官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤とを組み合わせることにより、生体関連分子の担体への非特異的吸着を効果的に抑制できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)担体に対する生体関連分子の非特異的吸着を阻害する方法であって、
N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、カルボキシル基、マレイミド基およびアミノ基からなる群から選択される化学修飾基を表面に有する担体に対して、
前記担体上の化学修飾基と反応しうる官能基であって、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、メルカプト基およびアミノ基からなる群から選択される官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用いることを特徴とする、前記方法。
【0011】
(2)N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を表面に有する担体に対して、アミノ基またはメルカプト基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用い、
カルボキシル基を表面に有する担体に対して、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、メルカプト基およびアミノ基からなる群から選択される官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用い、
マレイミド基を表面に有する担体に対して、メルカプト基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用い、
アミノ基を表面に有する担体に対して、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用いる、(1)記載の方法。
【0012】
(3)末端に官能基を有するポリアルキレンオキシドが、末端に官能基を有するポリエチレングリコールである、(1)または(2)記載の方法。
【0013】
(4)担体が、表面にカーボン層を有し、該カーボン層上に化学修飾基を有するものである、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0014】
(5)担体が、高分子材料と、カーボンブラックおよび/または黒鉛とを混練して成形したものの表面に化学修飾基を有するものである、(4)記載の方法。
【0015】
(6)N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、カルボキシル基、マレイミド基およびアミノ基からなる群から選択される化学修飾基を表面に有する担体、および
前記担体上の化学修飾基と反応しうる官能基であって、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、メルカプト基およびアミノ基からなる群から選択される官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤、
を含む、生体関連分子検出用キット。
【0016】
(7)N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を表面に有する担体、およびアミノ基またはメルカプト基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤の組合せ、
カルボキシル基を表面に有する担体、およびN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、メルカプト基およびアミノ基からなる群から選択される官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤の組合せ、
マレイミド基を表面に有する担体、およびメルカプト基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤の組合せ、または
アミノ基を表面に有する担体、およびN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤の組合せ
を含む、(6)記載のキット。
【0017】
(8)末端に官能基を有するポリアルキレンオキシドが、末端に官能基を有するポリエチレングリコールである、(6)または(7)記載のキット。
【0018】
(9)担体が、表面にカーボン層を有し、該カーボン層上に化学修飾基を有するものである、請求項(6)〜(8)のいずれかに記載のキット。
【0019】
(10)担体が、高分子材料と、カーボンブラックおよび/または黒鉛とを混練して成形したものの表面に化学修飾基を有するものである、(9)記載のキット。
【0020】
(11)担体上に生体関連分子をパターン状に固定化する方法であって、
N−ヒドロキシスクシンイミド基、カルボキシル基、マレイミド基およびアミノ基からなる群から選択される化学修飾基を表面に有する担体に、該化学修飾基と反応しうる官能基を有する化合物を目的のパターン状に適用すること、
前記担体上の化学修飾基と反応しうる官能基であって、N−ヒドロキシスクシンイミド基、メルカプト基およびアミノ基からなる群から選択される官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を前記担体に適用すること、および
得られた担体に、生体関連分子を適用すること
を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、生体関連分子の担体への非特異的吸着を効果的に抑制し、生体関連分子の相互作用を高感度に検出する手段が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、担体に生体関連分子を固定化し、この固定化分子と別の生体関連分子との特異的な結合を検出する系において、生体関連分子および標識分子等の担体への非特異的な吸着を阻害すること(以下、ブロッキングと称する場合もある)を目的とする。上記のような系を用いる検出系としては、特に制限されないが、例えば、DNAチップ、ウェスタンブロッティング、サザンブロッティング、ノーザンブロッティング、ELISA(酵素免疫検定法)、免疫凝集法(特開平10−197530号公報)および免疫沈降法などが挙げられる。
【0023】
本発明において、固定化および検出の対象となる生体関連分子は、生体中に存在する分子およびその誘導体である。生体関連分子としては、例えば、一本鎖および二本鎖DNAおよびRNAなどの核酸、ポリペプチド、オリゴペプチド、糖などが挙げられる。PNA(ペプチド核酸)等も包含される。ペプチド核酸とは、DNAやRNAなどの核酸類のデオキシリボースやリボースからなる骨格に代えてペプチド骨格または偽ペプチド骨格、例えば、アミノエチルグリシン主鎖、ならびにポリアミド、ポリチオアミド、ポリスルフィンアミドおよびポリスルホンアミドを含む他の同様の主鎖を有する核酸擬似体であって、該主鎖に結合した核酸塩基を有する化合物を意味する。本発明において、ポリペプチドには、オリゴペプチドおよびタンパク質が包含される。本発明は、生体関連分子としてポリペプチドの相互作用を検出する場合において、その非特異的吸着を阻害する場合に特に好適である。本発明の方法に好適なポリペプチドとして、各種抗原および抗体、酵素、ならびにアビジン、ビオチン等が挙げられる。生体関連分子間の相互作用としては、抗原抗体反応、アビジン−ビオチンの結合反応、酵素と基質の結合反応、核酸相補鎖間のハイブリダイゼーション、リガンドとレセプターの結合反応、核酸と転写因子の結合反応、細胞接着因子の結合反応などが挙げられる。
【0024】
本発明は、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基(−COO−NHS)、カルボキシル基(−COOH)、マレイミド基およびアミノ基(−NH)からなる群から選択される化学修飾基を表面に有する担体を用いることを特徴とする。
【0025】
本発明において使用することができる担体としては、上記化学修飾基を表面に有し、生体関連分子を固定化できるものであれば特に制限されず、当技術分野で通常用いられるものを使用できる。例えば、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、モリブデン、クロム、白金、チタン、ニッケル等の金属;ステンレス、ハステロイ、インコネル、モネル、ジュラルミン等の合金;上記金属とセラミックスとの積層体;シリコン;ガラス、石英ガラス、溶融石英、合成石英、アルミナ、サファイア、セラミクス、フォルステライトおよび感光性ガラス;繊維;木材;紙;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレンーパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化、EFP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(2フッ化、PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(3フッ化、PCTFE)などのフッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコールおよびポリ酢酸ビニルなどのポリオレフィン、ナイロン(例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロンMXD6)などのポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートおよびポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ乳酸、ABS樹脂(Acrylonitrile Butadiene Styrene樹脂)、アクリル樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂ならびにエポキシ樹脂などの高分子材料等の表面に、上記化学修飾基が導入されたものが挙げられる。
【0026】
さらに、本発明において用いる担体としては、表面にカーボン層を有し、該カーボン層上に化学修飾基を有するものが好ましい。このような担体としては、基板表面にカーボン層を有し、該カーボン層上に化学修飾基を有するものが挙げられる。ここで、基板の材料としては、上記と同様のものを使用できる。
【0027】
カーボン層には、合成ダイヤモンド、高圧合成ダイヤモンド、天然ダイヤモンド、軟ダイヤモンド(例えば、ダイヤモンドライクカーボン)、アモルファスカーボン、炭素系物質(例えば、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ)のいずれか、それらの混合物、またはそれらを積層させたものを用いることが好ましい。また、炭化ハフニウム、炭化ニオブ、炭化珪素、炭化タンタル、炭化トリウム、炭化チタン、炭化ウラン、炭化タングステン、炭化ジルコニウム、炭化モリブデン、炭化クロム、炭化バナジウム等の炭化物を用いてもよい。本発明においては、カーボン層として軟ダイヤモンド層が好ましい。ここで、軟ダイヤモンドとは、いわゆるダイヤモンドライクカーボン(DLC:Diamond Like Carbon)等の、ダイヤモンドとカーボンとの混合体である不完全ダイヤモンド構造体を総称し、その混合割合は、特に限定されない。本発明の担体には、基板自体がカーボン層で形成されたものも含まれる。
【0028】
基板へのカーボン層の形成は、公知の方法、例えば、マイクロ波プラズマCVD(Chemical Vapor Deposit)法、ECRCVD(Electric Cyclotron Resonance Chemical Vapor Deposit)法、ICP(Inductive Coupled Plasma)法、直流スパッタリング法、ECR(Electric Cyclotron Resonance)スパッタリング法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、EB(Electron Beam)蒸着法、抵抗加熱蒸着法、イオン化蒸着法、アーク蒸着法、レーザ蒸着法などにより行うことができる。
【0029】
高周波プラズマCVD法では、高周波によって電極間に生じるグロー放電により原料ガス(メタン)を分解し、基板上にカーボン層、好ましくはDLC層を合成する。イオン化蒸着法では、タングステンフィラメントで生成される熱電子を利用して、原料ガス(ベンゼン)を分解・イオン化し、バイアス電圧によって基板上にカーボン層を形成する。水素ガス1〜99体積%と残りメタンガス99〜1体積%からなる混合ガス中で、イオン化蒸着法によりカーボン層を形成してもよい。
【0030】
アーク式蒸着法では、固体のグラファイト材料(陰極蒸発源)と真空容器(陽極)の間に直流電圧を印加することにより真空中でアーク放電を起こして陰極から炭素原子のプラズマを発生させ蒸発源よりもさらに負のバイアス電圧を基板に印加することにより基板に向かってプラズマ中の炭素イオンを加速しカーボン層を形成することができる。
【0031】
レーザ蒸着法では、例えばNd:YAGレーザ(パルス発振)光をグラファイトのターゲット板に照射して溶融させ、ガラス基板上に炭素原子を堆積させることによりカーボン層を形成することができる。
【0032】
本発明に用いる上記カーボン層を有する担体としては、前記のように基板の上にカーボン層を形成した構造だけでなく、前記の材料の積層体や複合体(例えば、ダイヤモンドと他の物質との複合体、(例えば2相体))であってもよい。
【0033】
カーボン層を有する基板の一例としては、スライドガラスやシリコン基板に軟ダイヤモンド(DLC)を製膜した基板が挙げられる。このような基板は、DLCが、水素ガス0〜99体積%、残りメタンガス100〜1体積%を含んだ混合ガス中で、イオン化蒸着法により作成したものであることが好ましい。表面処理層の厚みは、1nm〜100μmであることが好ましい。
【0034】
DLC層を形成することにより、高密度に生体関連分子を固定化でき、高いS/N比が得られるため、感度の高い検出が可能になる。また、繰り返し使用することも可能である。
【0035】
担体の形状およびサイズは特に限定されないが、形状としては、平板状、糸状、球状、多角形状、粉末状などが挙げられ、サイズは、平板状のものを用いる場合、通常、幅0.1〜100mm、長さ0.1〜100mm、厚み0.01〜10mm程度である。
【0036】
カーボン層として、高分子材料と炭素系物質とを混練して成形したものを使用することもできる。この場合、担体全体がカーボン層で構成され、その表面に化学修飾基が導入されていることが好ましい。炭素系物質としては、カーボンブラックおよび黒鉛が挙げられる。従って本発明においては、担体として、高分子材料と、カーボンブラックおよび/または黒鉛とを混練して成形したものの表面に化学修飾基を有する担体を使用することができる。炭素系物質は単独で使用してもよく、複数種を混合して使用してもよい。
【0037】
高分子材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレンーパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化、EFP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(2フッ化、PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(3フッ化、PCTFE)などのフッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコールおよびポリ酢酸ビニルなどのポリオレフィン、ナイロン(例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロンMXD6)などのポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートおよびポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ乳酸、ABS樹脂(Acrylonitrile Butadiene Styrene樹脂)、アクリル樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂およびエポキシ樹脂などが挙げられる。カーボンブラックとしては、公知のカーボンブラックを使用でき、例えば、チャンネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛化カーボンブラックなどが挙げられる。黒鉛としては、公知の黒鉛を使用でき、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、土壌黒鉛などが挙げられる。上記高分子材料と、上記カーボンブラックおよび/または上記黒鉛との混練割合は特に限定されるものではない。混練の際に接着剤を添加し、成形してもよい。このように混練した材料は非特異的吸着を抑制できるだけでなく、自家蛍光を抑制でき、ペプチドのみならずDNA等の核酸も固定することができる。
【0038】
N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基(−COO−NHS)、カルボキシル基(−COOH)、マレイミド基およびアミノ基(−NH)からなる群から選択される化学修飾基の担体表面への導入方法は、公知の方法を使用でき、特に制限されない。
【0039】
アミノ基は、例えば、アミノ基含有化合物を用いて導入することができる。アミノ基含有化合物としては、非置換のアミノ基(−NH)、または炭素数1〜6のアルキル基等で一置換されたアミノ基(−NHR;Rは置換基)を有する化合物、例えばエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、n−プロピルアミン、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、アリルアミン、アミノアゾベンゼン、アミノアルコール(例えば、エタノールアミン)、アクリノール、アミノ安息香酸、アミノアントラキノン、アミノ基を有するシランカップリング剤(アミノアルキルトリアルコキシシラン)、アミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、プロリン、シスチン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、アニリン、またはこれらの重合体(例えば、ポリアリルアミン、ポリリシン)や共重合体;4,4’,4”−トリアミノトリフェニルメタン、トリアムテレン、スペルミジン、スペルミン、プトレシンなどのポリアミン(多価アミン)が挙げられる。
【0040】
また、表面にカーボン層を有する担体については、例えば、カーボン層をアンモニアガス中で紫外線照射することによりアミノ基を導入できる。または、カーボン層を塩素ガス中で紫外線を照射して塩素化し、さらにアンモニアガス中で紫外線照射することにより実施できる。または、メチレンジアミン、エチレンジアミン等の多価アミン類ガスを、塩素化したカーボン層と反応させることによってアミノ基を導入することもできる。カーボン層をアンモニア雰囲気下でプラズマ法に付すことによってアミノ基を導入することもできる。ここで、プラズマ法とは、真空条件下、直流または交流による放電にプラズマを発生させ、原料ガスとして例えばベンゼンやメタンを用い、イオン化したガスでバイアスを印加した基板を処理する方法である。
【0041】
カルボキシル基の導入は、例えば、上記のように導入されたアミノ基に適当な多価カルボン酸を反応させることにより実施できる。
【0042】
N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基は、例えば、導入されたカルボキシル基を、カルボジイミドまたはジシクロヘキシルカルボジイミド(例えば、1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミド)などの脱水縮合剤およびN−ヒドロキシスクシンイミドと反応させるすることにより実施できる。この処理により、アミド結合を介して炭化水素基の末端に、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基が結合した基を形成することができる(特開2001−139532)。
【0043】
N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基は、ポリペプチドのアミノ基を強固に結合することができるためポリペプチドを効果的に固定化することができる。また、固定化されたポリペプチドの機能が損なわれることもない。さらに、本発明によりブロッキング剤を適用した場合であっても、固定化されたポリペプチドの機能が保持され、相互作用が阻害されることもない。
【0044】
マレイミド基は、例えば、上記のように形成したアミノ基と、マレイミド基を有する化合物とを反応させることにより導入できる。例えば、以下の式II:
【0045】
【化1】

で表される化合物またはその塩を反応させることにより、式III:
【0046】
【化2】

で表されるようなマレイミド基をカーボン層上に形成することができる。
【0047】
式IIまたはIIIにおいて、nは1〜12、好ましくは4〜6の整数、より好ましくは5である。式IIで表される化合物の塩としては特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等を使用できる。ナトリウム塩を使用するのが好ましい。
【0048】
具体的には、アミノ基が導入された担体を、バッファー中に通常0.1〜100mMの濃度で式IIの化合物を含む溶液に浸漬することにより反応させる。バッファーとしては、PBS、トリエタノールアミンバッファー、ホウ酸ナトリウムバッファー等を使用することができる。PBS(pH6〜9)を使用するのが好ましい。反応温度は、通常10〜80℃、好ましくは25〜30℃、反応時間は、通常1〜300分、好ましくは30〜60分である。
【0049】
本発明の担体において、上記マレイミド基は、共有結合によって担体と強固に結合しているため、洗浄や温度変化によっても剥離することがなく、また担体を長期間保存することも可能である。
【0050】
本発明はまた、ブロッキング剤として、前記担体上の化学修飾基と反応しうる官能基であって、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、メルカプト基およびアミノ基からなる群から選択される官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用いることを特徴とする。
【0051】
本発明においてブロッキング剤とは、当技術分野において通常用いられる意味を有する。すなわち、担体に生体関連分子を固定化し、この固定化分子と別の生体関連分子との特異的な結合を検出する系において、生体関連分子および標識分子等の担体への非特異的な吸着を防止するために使用される試薬を意味する。本発明のブロッキング剤は、前記の官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを、水やPBS(リン酸緩衝化食塩水)等の水性溶媒に溶解することにより調製することができる。ブロッキング剤に含まれる前記ポリアルキレンオキシドの濃度は、当業者であれば適宜設定することができ、特に制限されないが、通常0.01〜1000mg/ml、好ましくは10〜1000mg/ml程度である。
【0052】
担体上の化学修飾基と共有結合を形成する官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用いるのが好ましい。
【0053】
好ましくは、
N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を表面に有する担体に対して、アミノ基またはメルカプト基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用い、
カルボキシル基を表面に有する担体に対して、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、メルカプト基およびアミノ基からなる群から選択される官能基、特にアミノ基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用い、
マレイミド基を表面に有する担体に対して、メルカプト基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用い、
アミノ基を表面に有する担体に対して、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用いる。
【0054】
本発明においては、非特異的吸着の阻害効果およびポリペプチド相互作用に対する影響の観点から、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を表面に有する担体に対して、アミノ基またはメルカプト基、特にアミノ基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用いるのが好ましい。
【0055】
本発明においてポリアルキレンオキシドは、(−R−O−)で表される繰り返し単位を含むポリマーを意味する。ホモポリマー、ブロックコポリマーおよびランダムコポリマーも包含される。上記繰り返し単位においてRは、直鎖または分岐鎖アルキレン基、好ましくは炭素数2〜10、より好ましくは2〜6のアルキレン基を表し、ポリマー鎖中に異なる種類のRが含まれていてもよい。好ましくは重量平均分子量200〜100000、より好ましくは1000〜50000のホモポリマーである。最も好ましくは、ポリエチレングリコールである。
【0056】
本発明の末端に官能基を有するポリアルキレンオキシドにおいて、官能基はいずれの末端に存在していてもよく、両末端に存在していてもよいが、好ましくは片方の末端に存在する。その場合、担体上の化学修飾基と反応しうる官能基が存在しない側の末端基は、特に制限されず、ヒドロキシル基でもよく、あるいは、アルキルエーテル、好ましくはメチルエーテルおよびエチルエーテル、アリールエーテル、好ましくはフェニルエーテル、アルキルエステル、好ましくはメチルエステルおよびエチルエステル等の形態をとりうる。
【0057】
本発明において、ポリアルキレンオキシドは、好ましくは、一般式I:
−L−(−R−O−)−L−X (I)
【0058】
[式中、
Xは、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、メルカプト基およびアミノ基からなる群から選択される官能基であり、
は、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜10、好ましくは1〜6のアルキル基、炭素数10以下のアリール基、炭素数1〜10、好ましくは1〜5のアルコキシ基および炭素数1〜10、好ましくは1〜5のアシル基からなる群から選択され、
は、炭素数2〜6、好ましくは2〜4のアルキレン基であり、
およびLは、直接結合または連結基であり、
nは、4〜2300、好ましくは23〜1200の自然数である]
で表される化合物である。
【0059】
およびLにおける連結基は、好ましくは、−O−、−S−、−CO−、−C−、−SO−、−SO−、−NHCO−および−COO−から選択される二価の基により、好ましくは−O−により1もしくは2以上の箇所で中断されていてもよい総原子数1〜30、好ましくは2〜10のアルキレン基であることができる。このようなアルキレン基は、分岐していてもよい。
【0060】
およびLの具体例としては、−(CH−、−CO−(CH−、−COO−C−および−(CH−NHCO−(CH−などが挙げられる。ここでa〜dは、それぞれ独立して、1〜5の整数、より好ましくは1〜3の整数である。
【0061】
におけるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等の炭素数3以下のアルキル基、更に好ましくはメチル基またはエチル基、最も好ましくはメチル基である。Rにおけるアリール基の具体例としては、フェニル基、トルイル基(モノメチルフェニル基)、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、ビニルフェニル基、ピリジル基、モノメチルピリジル基、ジメチルピリジル基等が挙げられ、好ましくはフェニル基またはピリジル基である。Rにおけるアシル基の具体例としては、アセチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、クロトノイル基、マレオイル基等が挙げられ、好ましくはアセチル基である。Rは好ましくは、ヒドロキシル基である。
【0062】
の具体例としては、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、n−ペンチレン基、シクロペンチレン基、n−ヘキシレン基、シクロヘキシレン基等が挙げられ、水溶性の点で好ましくはエチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基等の炭素数2〜4のアルキレン基が、更に好ましくはエチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基等の炭素数2または3のアルキレン基が、最も好ましくはエチレン基が使用される。一般式Iにおいて、1分子中に複数種のRが混在していてもよく、この場合の共重合順序(シークエンス)にも制限はない。
【0063】
−L−は、好ましくはHO−である。
【0064】
−L−Xは、好ましくは、−(CH−NH、−(CH−COO−NHS、−(CH−SH、−CO−(CH−COO−NHS、および−(CH−NHCO−(CH−マレイミドである。
【0065】
本発明で使用できる末端に官能基を有するポリアルキレンオキシドの具体例としては、(株)日本油脂製、SUNBRIGHTシリーズが挙げられる。
【0066】
本発明において上記ブロッキング剤を用いた非特異的吸着の阻害は、当技術分野において一般に使用されているブロッキング剤と同様に使用することができる(例えば、分子生物学実験プロトコール、平成9年、丸善株式会社発行参照)。一実施形態として、担体にポリペプチドを固定化してこれと相互作用するポリペプチドを検出する方法を以下に説明する。
【0067】
まず、ポリペプチド溶液を、好適な担体上にブロッティングすることにより固定化する。その後、当該担体を自然乾燥または減圧乾燥し、室温で約1時間静置する。続いて、使用した担体を好適なブロッキング剤に浸して1時間ほど振とうする。このときの浸漬温度は、0〜100℃、好ましくは20〜60℃である。その後、水で洗浄し、遠心乾燥して、通常、0〜100℃、好ましくは60〜100℃で乾燥させる。または、通常、10〜60℃、好ましくは15〜30℃で減圧乾燥させる。このようにブロッキング処理をした後、担体上に固定化されたポリペプチドと相互作用するポリペプチドを含有する溶液を添加する。
【0068】
生体関連分子間の相互作用は、当技術分野で通常用いられる標識によって検出することができる。このような標識としては、放射性同位元素、酵素、例えば、アルカリホスファターゼ、酸性ホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼおよびルシフェラーゼ、ならびに蛍光剤、例えば、フルオレセイン、ローダミン、Cy3、Cy5、化学発光分子等が挙げられる。
【0069】
あるいは、相互作用した後の担体を、そのままレーザ脱離/イオン化−飛行時間型質量分析等で分析することもできる。イオン化法の様式としては、マトリックス補助レーザ脱着(MALDI)法が好ましい。
【0070】
本発明はまた、上記のようなブロッキング方法を用いて生体関連分子を検出するためのキット関する。本発明の生体関連分子検出用キットは、
N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、カルボキシル基、マレイミド基およびアミノ基からなる群から選択される化学修飾基を表面に有する担体、および
前記担体上の化学修飾基と反応しうる官能基であって、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、メルカプト基およびアミノ基からなる群から選択される官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を含む。担体およびブロッキング剤については、上記のとおりである。
【0071】
本発明のキットは、上記担体およびブロッキング剤を含むことを除き、公知公用のキットに用いられている各要素によって構成することができる。例えば、生体分子を分解するための酵素、緩衝液、マトリックス溶媒、洗浄バッファー、試料希釈液、反応停止液、標準物質等を含みうる。更に本発明のキットには、アッセイ方法を説明するためのインストラクションマニュアルを組み合せることもできる。
【0072】
本発明者らはまた、表面に化学修飾基を有する担体に、該化学修飾基と反応しうる官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を適用する前に、該化学修飾基と反応しうる官能基を有する別の化合物をスポッティング等により担体上に部分的に適用すると、担体表面において該化合物を適用した領域ではブロッキング作用が生じないことを見いだした。これは、担体上の化学修飾基に別の化合物に含まれる官能基が結合した結果、ポリアルキレンオキシドが担体に結合できず、ブロッキング作用が阻害されたためと考えられる。
【0073】
従って、担体に生体関連分子を固定化する前に、担体上の化学修飾基と反応しうる官能基を有する別の化合物(末端に官能基を有するポリアルキレンオキシドとは異なる化合物)を部分的に適用し、続いて担体上の化学修飾基と反応しうる官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを適用することにより、化学修飾基と反応しうる官能基を有する別の化合物を適用した部分にのみ生体関連分子を固定化できることが明らかとなった。
【0074】
すなわち本発明は、担体上に生体関連分子をパターン状に固定化する方法であって、
N−ヒドロキシスクシンイミド基、カルボキシル基、マレイミド基およびアミノ基からなる群から選択される化学修飾基を表面に有する担体に、該化学修飾基と反応しうる官能基を有する化合物を目的のパターン状に適用すること、
前記担体上の化学修飾基と反応しうる官能基であって、N−ヒドロキシスクシンイミド基、メルカプト基およびアミノ基からなる群から選択される官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを前記担体に適用すること、
得られた担体に、生体関連分子を適用すること
を含む、前記方法に関する。
【0075】
当該方法は、生体関連分子としてポリペプチドを用いる場合に好適である。
【0076】
すなわち、表面に化学修飾基を有する担体に、目的の生体関連分子、好ましくはポリペプチドを固定化したい部分にのみ該化学修飾基と反応しうる官能基を有する化合物であって、ポリアルキレンオキシド以外の化合物を適用し、その後、該化学修飾基と反応しうる官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを適用し、洗浄後、目的の生体関連分子を担体に適用する。
【0077】
ここで、表面に化学修飾基を有する担体としては、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を表面に有する担体が好ましく、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基と反応しうる官能基を有する別の化合物としては、アミノ基含有化合物、特にポリアリルアミンが好ましく、担体上の化学修飾基と反応しうる官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドとしては、末端にアミノ基を有するポリアルキレンオキシドが好ましい。
【0078】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0079】
(実施例1)ガラス表面に化学修飾基を有する担体
ガラス表面に化学修飾基として、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、カルボキシル基、またはアミノ基を有する担体を以下のように調製した。
(1)25mm×75mmのスライドガラスをアルカリ洗浄し、3−アミノプロピルトリエトキシシランおよびポリアリルアミンで処理することにより、化学修飾基としてアミノ基を有する担体を得た(NH担体)。
(2)(1)で得られた担体をポリアクリル酸で処理することにより、化学修飾基としてカルボキシル基を有する担体を得た(COOH担体)。
(3)(2)で得られた担体を、1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミドとN−ヒドロキシスクシンイミドを溶解した活性化液中に浸漬することによって化学修飾基としてN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を有する担体を得た(NHS担体)。
【0080】
上記で得られた担体を、末端にアミノ基を有するポリエチレングリコール(SUNBRIGHT MEPA−20H、(株)日本油脂製)、末端にN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を有するポリエチレングリコール(SUNBRIGHT ME−020CS、(株)日本油脂製)または末端にメルカプト基を有するポリエチレングリコール(SUNBRIGHT MEPA−020SH、(株)日本油脂製)をそれぞれ含むブロッキング剤(100mg/mlの水溶液)に1時間浸漬した。担体を取り出しPBS(リン酸緩衝化食塩水)で洗浄した後、Cy3標識抗BSA抗体の溶液(PBS中、5μg/ml)に1時間浸漬した。浸漬は、担体上にポリジメチルシロキサン(PDMS)で円状のウェルを作成し、該ウェルにブロッキング剤または蛍光標識抗体溶液を滴下し、湿箱中でインキュベートすることにより行った(図1上)。担体を取り出しPBSで洗浄した後、蛍光画像装置FLA8000(富士写真フイルム製)を用いて蛍光画像を観察した。
【0081】
結果を図1に示す。図1の結果から、本発明により、ポリペプチドの非特異的吸着を効果的に阻害できることが示された。また、化学修飾基としてN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を有する担体(図中、NHS担体と表記)に対しては、末端にアミノ基を有するポリアルキレンオキシド(図中、NH−PEGと表記)を含むブロッキング剤を用いるのが好ましく、化学修飾基としてアミノ基を有する担体(図中、NH担体と表記)に対しては、末端にN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を有するポリアルキレンオキシド(図中、NHS−PEGと表記)を含むブロッキング剤を用いるのが好ましく、化学修飾基としてカルボキシル基を有する担体(図中、COOH担体と表記)に対しては、末端にアミノ基を有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用いるのが好ましいことがわかった。
【0082】
(実施例2)シリコン基板上のカーボン層表面に化学修飾基を有する担体
シリコン基板上のカーボン層表面に化学修飾基として、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、アミノ基またはマレイミド基を有する担体を以下のように調製した。
(1)3mm角のシリコン基板にイオン化蒸着法によって、メタンガス95体積%と水素5体積%を混合したガスを原料として、加速電圧0.5kVでDLC層を10nmの厚みに形成した。その後に、アンモニアガスを5cm/分の割合でチャンバーに挿入した。作動圧を2PaとしてアンモニアプラズマでDLC表面を処理した。
(2)(1)で得られた担体をポリアクリル酸で処理することにより、カルボキシル基を導入し、続いて、1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミドとN−ヒドロキシスクシンイミドを溶解した活性化液中に浸漬することによって化学修飾基としてN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を有する担体を得た(NHS担体)。
(3)(1)で得られた担体をポリアリルアミンで処理することにより、化学修飾基としてアミノ基を有する担体を得た(NH担体)。
(4)(1)で得られた担体をスルホ−EMCS(同仁化学研究所(株))で処理することにより化学修飾基としてマレイミド基を有する担体を得た(マレイミド担体)。
【0083】
上記で得られた担体を、末端にアミノ基を有するポリエチレングリコール(SUNBRIGHT MEPA−20H、(株)日本油脂製)、末端にN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を有するポリエチレングリコール(SUNBRIGHT ME−020CS、(株)日本油脂製)または末端にメルカプト基を有するポリエチレングリコール(SUNBRIGHT MEPA−020SH、(株)日本油脂製)をそれぞれ含むブロッキング剤(100mg/mlの水溶液)に1時間浸漬した。担体を取り出しPBS(リン酸緩化食塩水)で洗浄した後、Cy3標識抗BSA抗体の溶液(PBS中、5μg/ml)に1時間浸漬した。担体を取り出しPBSで洗浄した後、蛍光画像装置FLA8000(富士写真フイルム製)を用いて蛍光画像を観察した。
【0084】
結果を図2に示す。図2の結果から、本発明により、ポリペプチドの非特異的吸着を効果的に阻害できることが示された。また、化学修飾基としてN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を有する担体(図中、NHS担体と表記)に対しては、末端にアミノ基またはメルカプト基を有するポリアルキレンオキシド(図中、NH−PEGまたはSH−PEGと表記)を含むブロッキング剤を用いるのが好ましく、化学修飾基としてアミノ基を有する担体(図中、NH担体と表記)に対しては、末端にN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を有するポリアルキレンオキシド(図中、NHS−PEGと表記)を含むブロッキング剤を用いるのが好ましく、化学修飾基としてマレイミド基を有する担体(図中、マレイミド担体と表記)に対しては、末端にメルカプト基を有するポリアルキレンオキシド(図中、SH−PEGと表記)を含むブロッキング剤を用いるのが好ましいことがわかった。
【0085】
(実施例3)ポリペプチド−ポリペプチド相互作用の検出
実施例2で作成したシリコン基板上のDLC層表面に化学修飾基としてN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、アミノ基またはマレイミド基を有する担体を用いてポリペプチド−ポリペプチド相互作用の検出を行った(図3)。
(1)BSA溶液(PBS中、200μg/ml)を各担体にスポッティングし、1時間反応させた。
(2)担体を各種修飾ポリエチレングリコールを含むブロッキング剤(100mg/mlの水溶液)に1時間浸漬した。化学修飾基としてN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を有する担体は、末端にアミノ基を有するポリエチレングリコール(SUNBRIGHT MEPA−20H、(株)日本油脂製)または末端にメルカプト基を有するポリエチレングリコール(SUNBRIGHT MEPA−020SH、(株)日本油脂製)を含むブロッキング剤に浸漬した。化学修飾基としてアミノ基を有する担体は、末端にN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を有するポリエチレングリコール(SUNBRIGHT ME−020CS、(株)日本油脂製)を含むブロッキング剤に浸漬した。化学修飾基としてマレイミド基を有する担体は、末端にメルカプト基を有するポリエチレングリコール(SUNBRIGHT MEPA−020SH、(株)日本油脂製)を含むブロッキング剤に浸漬した。
(3)担体を取り出しPBSで洗浄し、Cy3標識抗BSA抗体の溶液(PBS中、5μg/ml)またはCy3標識抗IL−2(インターロイキン−2)抗体の溶液(PBS中、5μg/ml)に1時間浸漬した。担体を取り出しPBSで洗浄した後、蛍光画像装置FLA8000(富士写真フイルム製)を用いて蛍光画像を観察した。結果を図4に示す。
【0086】
図4の結果から、本発明により、ポリペプチドの非特異的吸着を効果的に阻害できるととともに、ポリペプチドの機能を阻害することもなく、ポリペプチドの相互作用を正確に検出できることが示された。また、化学修飾基としてN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を有する担体を用いて、末端にアミノ基またはメルカプト基を有するポリアルキレンオキシド、特に末端にアミノ基を有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用いるのが最も効果的であると考えられる。
【0087】
(実施例4)ポリペプチドの部分的な固定化
(1)実施例2で作成した、化学修飾基としてN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を有する担体に、ポリアリルアミン水溶液(1wt%)0.3μlを200μm径でスポットし、80℃で30分間乾燥させた。
(2)末端にアミノ基を有するポリエチレングリコール(SUNBRIGHT MEPA−20H、(株)日本油脂製)の水溶液(100mg/ml)に1時間浸漬した。
(3)担体を取り出しPBSで洗浄した後、Cy3標識BSA溶液(PBS中、5μg/ml)に1時間浸漬した。
(4)担体を取り出しPBSで洗浄した後、蛍光画像装置FLA8000(富士写真フイルム製)を用いて蛍光画像を観察した。結果を図5の上に示す。
【0088】
また、(1)においてポリアリルアミン水溶液をスポットするかわりに、超純水0.3μlを200μm径でスポットしたこと以外は上記工程と同様の工程を実施し、蛍光画像を観察した。結果を図5の下に示す。
【0089】
図5の結果から、アミノ基含有化合物であるポリアリルアミンをスポットした領域にのみBSAが固定化されていることがわかる。従って、ポリアリルアミンをスポットした領域においては、末端にアミノ基を有するポリエチレングリコールの担体への結合が阻害され、ブロッキング作用が失われたことがわかる。
【0090】
(実施例5)炭素系物質と高分子材料とを混練成形した担体
(1)ポリプロピレン(三井ポリプロ製F329T)90部およびカーボンブラック(三菱化学製#3230B)10部を、押出機を用いて200℃にて0.2mm厚にシート成形した。続いて、190℃で1mm厚にプレス成形し、3mm角に切断した。
(2)(1)で得られたチップに、イオン化蒸着法により、作動圧2Paでアンモニアプラズマに曝すことにより表面にアミノ基を導入した。続いて無水コハク酸で処理することによりカルボキシル基を導入し、さらに1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミドとN−ヒドロキシスクシンイミドを溶解した活性化液で処理することによって、化学修飾基としてN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を有する担体を得た(NHS担体)。
(3)(2)で得られた担体を用いてポリペプチド−ポリペプチド相互作用の検出を行った。BSA溶液(PBS中、200μg/ml)を担体にスポッティングし、1時間反応させた。担体を末端にアミノ基を有するポリエチレングリコール(SUNBRIGHT MEPA−20H、(株)日本油脂製)を含むブロッキング剤(100mg/mlの水溶液)に1時間浸漬した。担体を取り出しPBS(リン酸緩化食塩水)で洗浄した後、Cy3標識抗BSA抗体の溶液(PBS中、5μg/ml)またはCy3標識抗IL−2(インターロイキン−2)抗体の溶液(PBS中、5μg/ml)に1時間浸漬した。担体を取り出しPBSで洗浄した後、蛍光画像装置FLA8000(富士写真フイルム製)を用いて蛍光画像を観察した。
【0091】
結果を図6に示す。炭素系物質と高分子材料とを混練成形し化学修飾基を導入して担体として用いた場合も非特異吸着を抑制できることが示された。高分子材料に炭素系物質を練り込むことにより、自家蛍光を抑制でき、ペプチドアレイのみならずDNAアレイ用基板として用いることができることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】実施例1における浸漬方法、および化学修飾基を有するガラス担体を、各種修飾ポリエチレングリコールでブロッキングした後、蛍光標識抗BSA抗体溶液に浸漬し、洗浄後、蛍光画像観察した結果を示す。
【図2】実施例2で、化学修飾基を有するシリコン−DLC担体を、各種修飾ポリエチレングリコールでブロッキングした後、蛍光標識抗BSA抗体溶液に浸漬し、洗浄後、蛍光画像観察した結果を示す。
【図3】実施例3の手順の概要を示す。
【図4】実施例3で、化学修飾基を有するシリコン−DLC担体に、BSA溶液をスポッティングし、各種修飾ポリエチレングリコールでブロッキングした後、蛍光標識抗BSA抗体または蛍光標識抗IL−2抗体の溶液に浸漬し、洗浄後、蛍光画像観察した結果を示す。
【図5】実施例4で、蛍光画像観察した結果を示す。
【図6】実施例5で、蛍光画像観察した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体に対する生体関連分子の非特異的吸着を阻害する方法であって、
N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、カルボキシル基、マレイミド基およびアミノ基からなる群から選択される化学修飾基を表面に有する担体に対して、
前記担体上の化学修飾基と反応しうる官能基であって、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、メルカプト基およびアミノ基からなる群から選択される官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用いることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を表面に有する担体に対して、アミノ基またはメルカプト基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用い、
カルボキシル基を表面に有する担体に対して、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、メルカプト基およびアミノ基からなる群から選択される官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用い、
マレイミド基を表面に有する担体に対して、メルカプト基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用い、
アミノ基を表面に有する担体に対して、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を用いる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
末端に官能基を有するポリアルキレンオキシドが、末端に官能基を有するポリエチレングリコールである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
担体が、表面にカーボン層を有し、該カーボン層上に化学修飾基を有するものである、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
担体が、高分子材料と、カーボンブラックおよび/または黒鉛とを混練して成形したものの表面に化学修飾基を有するものである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、カルボキシル基、マレイミド基およびアミノ基からなる群から選択される化学修飾基を表面に有する担体、および
前記担体上の化学修飾基と反応しうる官能基であって、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、メルカプト基およびアミノ基からなる群から選択される官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤、
を含む、生体関連分子検出用キット。
【請求項7】
N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を表面に有する担体、およびアミノ基またはメルカプト基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤の組合せ、
カルボキシル基を表面に有する担体、およびN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、メルカプト基およびアミノ基からなる群から選択される官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤の組合せ、
マレイミド基を表面に有する担体、およびメルカプト基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤の組合せ、または
アミノ基を表面に有する担体、およびN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤の組合せ
を含む、請求項6記載のキット。
【請求項8】
末端に官能基を有するポリアルキレンオキシドが、末端に官能基を有するポリエチレングリコールである、請求項6または7記載のキット。
【請求項9】
担体が、表面にカーボン層を有し、該カーボン層上に化学修飾基を有するものである、請求項6〜8のいずれか1項記載のキット。
【請求項10】
担体が、高分子材料と、カーボンブラックおよび/または黒鉛とを混練して成形したものの表面に化学修飾基を有するものである、請求項9記載のキット。
【請求項11】
担体上に生体関連分子をパターン状に固定化する方法であって、
N−ヒドロキシスクシンイミド基、カルボキシル基、マレイミド基およびアミノ基からなる群から選択される化学修飾基を表面に有する担体に、該化学修飾基と反応しうる官能基を有する化合物を目的のパターン状に適用すること、
前記担体上の化学修飾基と反応しうる官能基であって、N−ヒドロキシスクシンイミド基、メルカプト基およびアミノ基からなる群から選択される官能基を末端に有するポリアルキレンオキシドを含むブロッキング剤を前記担体に適用すること、および
得られた担体に、生体関連分子を適用すること
を含む、前記方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−308307(P2006−308307A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127938(P2005−127938)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】