説明

生体関連物質検出デバイスの製造方法、生体関連物質検出デバイス、および生体関連物質の解析方法

【課題】 生体関連物質検出デバイスを、生体関連物質の検出に充分なプローブ固相化量を確保しつつ、低コストに製造可能な製造方法を提供する。
【解決手段】 生体関連物質を検出するためのプローブ物質を含有するプローブ溶液を基材に付着させて、プローブ物質を固相化する生体関連物質検出デバイスの製造方法であって、生体関連物質と該プローブ物質とが特異的な反応体を形成したときに得られる信号強度が所望の値となるプローブ溶液濃度よりも低濃度のプローブ溶液を調製し、該プローブ溶液を基材の同一位置に複数回付着させてプローブ領域を作製することを特徴とする生体関連物質検出デバイスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体関連物質検出デバイスの製造方法、生体関連物質検出デバイス、および生体関連物質の解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検体中の生体関連物質を検出する方法は様々存在するが、近年、支持体となる基材にDNA断片を複数固定させたマイクロアレイと、このマイクロアレイにおいて、検体溶液とDNA断片とをハイブリダイゼーション反応させ、小容量で同時に多検体を検出する方法の開発が活発になっている。
このようなマイクロアレイには、DNAだけでなく、ペプチド、タンパク質、細胞などを固定することもできるため、その応用範囲はきわめて広い。
【0003】
従来、生体関連物質を検出するためのアレイデバイスを製造するには、生体関連物質を検出するためのプローブ物質(プローブ)を一定濃度含むプローブ溶液を調製し、このプローブ溶液を基材に付着させて、プローブを固相化する方法が用いられている。
例えばDNAマイクロアレイの場合、一定濃度に調製されたプローブ溶液を、スポッター等の装置を用いて基材に付着させ、プローブ分子が固相化されたスポットを作製している(例えば、非特許文献1参照。)。スポッターとしては接触型(例えば点着方式)、非接触型(例えば吐出方式)等の各種装置が用いられている。
このとき従来法では、検出感度の確保に充分な物質量のプローブが固相化されるような、確実な固相化反応を行うために、反応に必要とされる溶液濃度よりも高濃度のプローブ溶液が用いられていた。
【非特許文献1】「Proceedings of the National Academy of Sciences(Proc. Natl. Acad. Sci.)」、2004年、第101巻、p.1039−1044
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高濃度のプローブ溶液においては、液量の微かな差異が、プローブの物質量としては大きな差となってしまう。
【0005】
そのため、プローブ溶液を吐出や点着によって基材に付着させるとき、僅かな吐出不良や溶液調製の僅かな誤差によっても、プローブの固相化量(スポットあたりの物質量)の誤差が発生してしまう。
これにより、デバイス製造での品質不良による歩留まりの低下が起こりやすくなっている。また、誤差の抑制を図るために厳密な濃度調製を行えば、溶液調製工程でのコストが増えてしまう。
【0006】
また、アレイデバイスの製造において、スポッターの方式によっては、調製されたプローブ溶液全てをスポット作製に用いることはなく、使用されないプローブ溶液が生じる。特に、微小な領域に多数のスポットが形成されたマイクロアレイデバイスを作製する場合、使用されないプローブ溶液が生じやすい。
例えば点着方式のスポッターあるいはアレイヤーでは、濃度調製したプローブ溶液に点着用のピンを浸し、ガラス基板等の基材にピンを押し当て、プローブを付着させる。この時、一度押し当てた後のピンに残ったプローブ溶液は廃棄される。
また、プローブ溶液を吸引・吐出する方式のスポッターあるいはアレイヤーでは、プローブ溶液を1種につき数十μL準備し、数μLをノズルに吸引した後、付着1回当りnL(ナノリットル=10−3μL)、pL(ピコリットル=10−6μL)の単位で吐出するなどの操作が行われ、準備したプローブ溶液の溶液量を全て使用するわけではない。この時、スポットに使用されずノズル内に残留したプローブ溶液は廃棄される。
【0007】
つまり、高濃度のプローブ溶液を用いると、基材に付着させるプローブ量に大きなバラツキが生じ易くなる事による品質の不良化や、使用されない溶液量に伴う無駄なプローブの物質量が多くなる。そのため製造コストが高くなる問題が生じる。
一方、低濃度のプローブ溶液を用いては、高濃度のプローブ溶液を用いた場合に比べ、上記のような付着させたプローブ量の誤差や不使用プローブの物質量は減少するが、基材に固相化されるプローブ分子の物質量も減少するため検出対象物を測定できなくなる問題が生じる。
【0008】
本発明はこのような問題点に鑑みなされたものであり、生体関連物質検出デバイスを、生体関連物質の検出に充分なプローブ固相化量を確保しつつ、低コストに製造可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の生体関連物質検出デバイスの製造方法は、生体関連物質を検出するためのプローブ物質を含有するプローブ溶液を基材に付着させて、プローブ物質を固相化する生体関連物質検出デバイスの製造方法であって、生体関連物質と該プローブ物質とが特異的な反応体を形成したときに得られる信号強度が所望の値となるプローブ溶液濃度よりも低濃度のプローブ溶液を調製し、該プローブ溶液を基材の同一位置に複数回付着させてプローブ領域を作製することを特徴とする。
【0010】
前記プローブ溶液の濃度は、30μmol/L以下であることが好ましい。
前記付着を、前記プローブ溶液を吸引する手段及び吐出する手段を有する付着装置、または前記プローブ溶液を基材に点着する手段を有する付着装置を用いて行うことを特徴とすることが好ましい。
前記付着させる回数を変更することにより、前記プローブ物質の当該プローブ領域あたり固相化量を制御することが好ましい。
前記プローブ領域を1のプローブ物質あたり複数箇所作製し、該複数箇所のプローブ領域作製における付着回数を、互いに異ならせることが好ましい。
前記プローブ溶液を1種以上準備し、少なくとも1種のプローブ溶液について、前記プローブ領域を複数箇所作製し、該作製を複数箇所に渡り連続して行うことが好ましい。
前記プローブ領域の作製において、前記複数回の付着の間に乾燥工程をさらに行うことが好ましい。
【0011】
前記プローブ物質は、核酸、ペプチド、及びタンパク質から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
前記プローブ溶液は、水溶性高分子、糖類、及び多価アルコール類から選ばれる少なくとも1種の物質を含むことが好ましい。
前記プローブ溶液は、水及び有機溶媒を含むことが好ましい。
前記基材は、少なくともプローブ溶液の付着される部位に3次元構造を有し、ナノメートルないしマイクロメートルスケールの空孔構造を有することが好ましい。
【0012】
また本発明の生体関連物質検出デバイスの製造方法は、プローブ物質あたり複数のプローブ領域を、前記付着の回数を互いに異ならせて作製し、該複数のプローブ領域に生体関連物質を含む試料を供給する第一工程、
該複数のプローブ領域について、当該プローブ物質及び該プローブ物質と特異的に反応する生体関連物質からなる反応体の信号を、該プローブ領域の略中心領域の信号を測定することによって測定する第二工程、
プローブ物質について、信号の測定範囲に対して最適なプローブ領域を選定する第三工程、
第三工程で選定された最適なプローブ領域を作製する条件で、基材にプローブ溶液を付着させる第四工程、
を有することが好ましい。
【0013】
本発明の生体関連物質検出デバイスは、上記本発明の生体関連物質検出デバイスの製造方法によって得られることを特徴とする。
【0014】
本発明の生体関連物質の解析方法は、上記本発明の生体関連物質検出デバイスの製造方法で製造された生体関連物質検出デバイスに試料を供給する第一工程と、前記プローブ物質と、該プローブ物質と特異的に結合する生体関連物質とからなる反応体の信号を測定する第二工程とを有し、前記第二工程において、前記プローブ領域の略中心領域の信号を取得することを特徴とする。
【0015】
前記第一工程において、前記生体関連物質検出デバイスが、前記プローブ領域をプローブ物質あたり複数箇所作製し、該複数箇所のプローブ領域作製における付着回数を、互いに異ならせて製造された生体関連物質検出デバイスであり、前記第二工程において、プローブ物質に対応する全プローブ領域の前記信号を測定し、さらに、第三工程として、プローブ物質ごとに、信号検出手段の測定範囲に対し最適なプローブ領域を選定することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、生体関連物質検出デバイスを、生体関連物質の検出に充分なプローブ固相化量を確保しつつ、低コストに製造可能な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<生体関連物質検出デバイスの製造方法>
本発明の生体関連物質検出デバイスの製造方法(以下、「デバイス製造方法」という)は、生体関連物質を検出するためのプローブを含有するプローブ溶液を基材に付着させて、プローブを固相化する生体関連物質検出デバイスの製造方法であって、生体関連物質と該プローブとが特異的な反応体を形成したときに得られる信号強度が所望の値となるプローブ溶液濃度よりも低濃度のプローブ溶液を調製し、該プローブ溶液を基材の同一位置に複数回付着させてプローブ領域を作製することを特徴とする。
(プローブ溶液)
前記プローブ溶液は、生体関連物質を検出するためのプローブ物質(「プローブ」という場合がある)を含有する。
検出が図られる生体関連物質は、特に制限されず、例えば、動物、植物、微生物等の細胞のみならず、これらに寄生しなければ自ら増殖できないウイルス等に由来する物質をも含む。生体関連物質は、これらの細胞等より直接抽出・単離された天然形態のもののみならず、遺伝子工学的手法を利用して生産されたもの、化学的に修飾されたものも含む。より具体的には、ホルモン類、酵素、抗体、抗原、アブザイム、その他のタンパク質、核酸等が例示される。
【0018】
プローブ物質は、何らかの生体関連物質と特異的な反応体を形成可能な物質であればよく、例えば、生体関連物質との関係として、ホルモン等のリガンドとその受容体、酵素とその基質、抗原とその抗体、特定配列を有する核酸とこれに相補的な配列を有する核酸等の関係にある、何れかの物質が含まれる。
前記プローブ溶液に含有されるプローブ物質は、1種であっても2種以上でも構わない。
【0019】
本発明のデバイス製造方法では、プローブ溶液を、生体関連物質と当該プローブ物質とが特異的な反応体を形成したときに得られる信号強度が所望の値となるプローブ溶液濃度(以下、「基準濃度」という)よりも低濃度に調製する。本明細書において、プローブ溶液の濃度は、物質量濃度(プローブ物質の物質量/溶液の体積)で規定する。
このようなプローブ溶液は、例えば、所定の物質量のプローブ物質を溶媒に溶解して調製することができる。この場合、溶媒としては、水、各種緩衝液、有機溶媒、これらの混合溶媒等が例示される。
なお、基準濃度値を得るには、例えば、以下の操作を前記プローブ溶液の調製前に行っておけばよい。すなわち、プローブ物質1種類あたり互いに濃度の異なる複数個のプローブ溶液を準備し、また、当該プローブ物質に特異的な生体関連物質に標識物質を結合したものを濃度を異ならせて複数個準備し、これらプローブ溶液と生体関連物質とを接触させて特異的な反応体を形成させる。上記の標識物質の信号を測定可能な信号検出手段を用いて信号強度の測定を行い、生体関連物質濃度と信号強度の正確な対応、測定可能な生体関連物質濃度範囲等の点で望ましい結果の得られたプローブ溶液濃度を、基準濃度とすればよい。
【0020】
(基材)
本発明においてプローブ溶液の付着される基材は、プローブ溶液が付着可能な部位を有するものであれば特に制限されず、生体関連物質検出デバイスの分野で周知の各種基材を用いることができる。
例えば基板・ビーズ・膜・フィルタ等の各種形態のものを用いることができる。基材の固相用部位の表面積や体積を、2次元または3次元的に変化させることで、プローブ物質の固相化量や密度を制御することができる。
また、基材の材質も、プローブ溶液を繰り返し付着させる事が可能であれば制限されない。一般的にガラス、セラミック等の無機材料、およびアクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリシロキサン、ポリスチレン、ポリサッカライド、ポリアミド、ポリスルホン等の汎用性高分子が、取扱い易さや製造コストといった点から好ましく用いられる。
【0021】
(プローブ領域)
本発明のデバイス製造方法では、前記プローブ溶液を前記基材の同一位置に複数回付着させる。基材に付着されたプローブ溶液のうち、溶媒は蒸発または吸収によって基材表面から除かれ、プローブ物質のみが基材表面に残る。このことにより、プローブ物質が固相化された領域すなわちプローブ領域が形成される。
以下、プローブ固相化量を、プローブ領域あたりの固相化されたプローブ物質量(物質量/1箇所)で規定する。
また、プローブ領域の面積は、基材のうちプローブ物質の付着操作が施された面における面積として規定する。
【0022】
従来は、例えば基準濃度以上のプローブ溶液を必要とし、特に基準濃度より高濃度のプローブ溶液を用いて初めて、所望の固相化量が実現されていたのに対し、本発明のデバイス製造方法では、従来の固相化反応で必要であったプローブ溶液の濃度以下の濃度で調製されたプローブ溶液を、基材の同一位置に複数回付着させることで、従来の固相化方法による固相化量と同程度以上のプローブ物質の固相化量を実現できる。
プローブ溶液を付着させる位置、および、プローブ領域の配置される位置は、基材のうちプローブ溶液の付着された面における座標で規定することができる。
【0023】
基材一つに対して作製するプローブ領域の数は、1箇所であっても複数箇所であっても構わないが、本発明のデバイスの製造方法は、複数箇所のプローブ領域を作製するときに、後述のように、生体関連物質の解析の効率化に特に有利なデバイスを提供し得る。
複数箇所のプローブ領域を作製する場合、各プローブ領域に使用するプローブ溶液は、互いに同一であっても異なる2種以上であってもよい。2種以上の場合、プローブ物質の種類が異なる2種以上であってもよいし、プローブ物質の種類が同一でその濃度が異なる2種以上であってもよい。
【0024】
(デバイス)
本発明のデバイス製造方法により得られるデバイスの形態としては、基材の平面に複数のプローブ領域を所定の配列で配置したアレイデバイスが好ましい。また、本発明のデバイス製造方法は、微小な領域に多数のプローブ領域を配置してマイクロアレイデバイス(マイクロアレイ)を提供する場合に、特に顕著な効果を発揮する。
本発明のデバイス製造方法で製造された生体関連物質検出デバイス(デバイス)は、充分な検出感度の確保されたものとなる。
【0025】
本発明では、基材に付着させるプローブ溶液を上述の通り低濃度に調製しつつ、所望の物質量のプローブ物質を固相化することができるから、デバイスとして所望の検出性能を与えつつ、以下のことが実現できる。すなわち、プローブ溶液の使用量の誤差に伴うプローブ固相化量の誤差を小さくすることができる。また、使用されないプローブ溶液量が同じでも失われるプローブ物質量を削減することができ、付着装置の種類に関らず、準備したプローブ物質を効率よく利用することができる。
したがって、本発明のデバイス製造方法によれば、所望の検出性能を有した生体関連物質を提供し、かつ、デバイス製造の全工程に対して準備するプローブ分子の量を削減し、製造コストを下げることができる。
【0026】
本発明によれば、上述の通り、基準濃度よりも低濃度にプローブ溶液を調製しつつ、所望の信号強度を与えるようなデバイスを製造することができるので、前記プローブ溶液の濃度の下限値は特に規定されない。したがって、製造コストに鑑みたプローブ溶液濃度を適宜設定することができる。また、製造されたデバイスを用いて検出する生体関連物質の量や物性などに応じて、プローブ溶液の濃度を適宜設定することも可能である。
例えば、多量のプローブ物質を固相化する場合、従来は50〜100μmol/Lのプローブ溶液を用いることが多かったが、本発明を適用すれば、その1/3〜1/4の濃度のプローブ溶液で、従来と同程度のプローブ物質固相化量を実現することができる。すなわち、12.5〜30μmol/Lの濃度で、従来と同程度の検出性能を持ったデバイスを製造できる。
よって、本発明のデバイス製造方法において、前記プローブ溶液の濃度は、30μmol/L以下であることが好ましい。
【0027】
本発明によれば、上述の通り、付着装置の種類に関らず、準備したプローブ物質を効率よく利用することができる。したがって、任意の付着装置を用いることができるが、付着量制御の容易さ、装置の汎用性の観点から、前記付着を、前記プローブ溶液を吸引する手段及び吐出する手段を有する付着装置、または前記プローブ溶液を基材に点着する手段を有する付着装置を用いて行うことが好ましい。
【0028】
本発明のデバイス製造方法においては、プローブ溶液を基材に付着させる回数をプローブ領域あたりで変更することにより、前記プローブ物質のプローブ領域あたり固相化量を制御することができる。
例えば、プローブ領域1箇所の作製についてプローブ溶液の付着回数を増やす事により、プローブ物質の固相化量を増加させることができ、すなわちデバイスの生体関連物質検出感度を上げることができる。ここで、プローブ溶液を予め所定の濃度に調製しておけば、プローブ溶液の付着回数の増減のみにより、種々のプローブ固相化量を有するプローブ領域を自在に作製する事ができるので、プローブ物質の使用量ならびに調製工程の削減により、大幅にコストを下げることが可能となる。
付着回数は、デバイスにおいて作製するプローブ領域の数、プローブ物質数、検出対象の生体関連物質、製造時間などの条件により、好適な付着回数を決定することができる。さらに、付着回数を増やすほどプローブ物質の固相化量を増加させることができる。製造の工程数や時間を考慮すると、付着回数は30回以下が望ましい。
【0029】
本発明のデバイス製造方法において、前記プローブ領域をプローブ物質あたり複数箇所作製し、該複数箇所のプローブ領域作製における付着回数を、互いに異ならせれば、生体関連物質の解析の効率化において特に有利なデバイスを提供することができる。
これは、一のデバイスに、プローブ物質あたり複数箇所の、付着回数すなわちプローブ固相化量の異なるプローブ領域を設けることで、解析に際し、検出を図る生体関連物質に対して最適なプローブ固相化量が不明な場合であっても、最適な信号強度を与える固相化量の検討を容易に行うこと、最適なプローブ領域を選択して安定した結果取得を行うこと、また、最適な信号強度を与えるようにデバイスの特性を変更する操作を、付着回数を変更するのみで容易に行うこと、を可能ならしめることができるためである。
例えば同一サンプル中で濃度未知の生体関連物質のうち、高濃度の物質では少なくとも低固相化量のプローブ領域の、低濃度の物質では少なくとも高固相化量のプローブ領域の信号が、信号検出手段の測定可能範囲内の信号として、同時に検出可能となる。露光時間や増感処理等により信号が増強される解析系においても、測定に適切な固相化量のプローブ領域を採用することで、信号検出手段の測定可能範囲内で測定することができる。
【0030】
本発明のデバイス製造方法において、前記プローブ溶液を1種以上準備し、少なくとも1種のプローブ溶液について、前記プローブ領域を複数箇所作製する場合は、該作製を複数箇所に渡り連続して行うことが好ましい。
付着回数の制御やプローブ物質種類の増加に伴い、プローブ領域数、デバイス製造数および製造時間は増加する傾向となる。そこで、1あるいは2以上のデバイスの製造において、プローブ溶液の付着を、同一種のプローブ溶液については複数プローブ領域に渡り連続して行うことで、製造時間を最小限としつつ、より解析に有利なデバイスを与えることができる。
【0031】
本発明のデバイス製造方法では、プローブ領域の作製において、前記複数回の付着の間に、乾燥工程をさらに行うことが好ましい。
プローブ溶液を同一位置に付着する際、乾燥工程を挟んで複数回付着することにより、基材のうち付着面におけるプローブ溶液の拡散を抑制し、プローブ溶液の使用量に比して、付着面から見たプローブ領域(プローブ物質の固相化された領域)の面積を小さくすることができる。このことにより、単位面積あたりのプローブ分子数すなわちプローブ物質量を増加させることができ、検出性能に優れたデバイスを提供することができる。
これは、製造されたデバイスを用いて生体関連物質の解析を行うにあたり、プローブ領域1箇所あたりの信号強度が同じであれば、プローブ領域の面積が小さいほど、単位面積当りの信号強度は大きくなるためである。
【0032】
乾燥工程は、例えば、プローブ溶液を基材に付着した後に、次回の付着まで所定の時間静置することや、プローブ溶液に含まれる溶媒の沸点以上の温度で基板を保持することで行うことができる。
プローブ領域を複数箇所作製する場合は、プローブ領域ごとに、付着と乾燥を繰り返してもよいし、複数箇所にプローブ溶液を付着させた後に、該複数箇所についてまとめて乾燥工程を行ってもよい。
【0033】
本発明のデバイス製造方法において、前記プローブ物質は、核酸、ペプチド、及びタンパク質から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これは、検出しようとする生体関連物質との対応において、本発明を適用する意義が大きいためである。
【0034】
本発明のデバイス製造方法において、前記プローブ溶液は、水溶性高分子、糖類、及び多価アルコール類から選ばれる少なくとも1種の物質を含むことが好ましい。
このような物質を含ませることで、プローブ溶液に粘性を加え、基材に付着させた際の液滴の広がりを抑える事ができる。液滴の広がりが抑えられることで、プローブ固相化領域が縮小し、単位面積当りのプローブ物質量が増加するから、上記乾燥工程を導入した場合と同様に、低濃度の生体関連物質でも検出可能なデバイスを製造することができる。
同様の理由で、プローブ溶液の粘度は、25℃でのブルックフィールド粘度計(DV−II+)による測定で0.002〜0.1Pa・secが好ましい。
【0035】
水溶性高分子としては、例えばポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン等が挙げられる。糖類としては、例えばグルコース、スクロース、ポリサッカライド等が挙げられる。多価アルコールは1分子内に2以上のヒドロキシ基を含む化合物であり、例えばエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
これらの物質をプローブ溶液に含ませる場合、プローブ溶液における含有率は限定されず、プローブ物質の濃度や物性、分子構造などの条件に応じて適宜調整することができる。
【0036】
本発明のデバイス製造方法において、前記プローブ溶液は、水及び有機溶媒を含むことが好ましい。例えば、上記プローブ溶液の調製で例示した溶媒を、水および有機溶媒の混合溶媒とすることが好ましい。ここで有機溶媒としては、例えばエタノール、アセトン等が挙げられる。
このことにより、プローブ溶液の液部の蒸発時間が短縮される。これにより溶液の乾燥が早まるので、プローブ溶液を基材に複数回付着させても、基材に拡散する溶液の体積は小さい。この体積が小さい事で、プローブ固相化領域の面積(付着面における)が抑制され、単位面積当りのプローブ固相化量が増し、上記乾燥工程を導入した場合や、水溶性高分子等をプローブ溶液に含ませた場合と同様に、低濃度の生体関連物質でも検出可能なデバイスを提供する事が出来る。
プローブ溶液の調製において、例えば溶媒として水および有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、プローブ溶液における有機溶媒の含有率は限定されず、プローブ物質の濃度や物性、分子構造などの条件に応じて適宜調整することができる。
【0037】
本発明のデバイス製造方法において、前記基材は、少なくともプローブ溶液の付着される部位(固相用部位)に3次元構造を有し、ナノメートルないしマイクロメートルスケールの空孔構造を有することが好ましい。
3次元構造を有した基材(例えば多孔質体)は、2次元的な基材に比べて単位面積中の表面積が大きいので、プローブ溶液が付着する面積が大きくなる。また付着溶液が3次元的に展開するため溶液が保持され、安定な反応場を提供するに加え、付着溶液の2次元的な広がりは抑制される。よって付着面に3次元構造を有する基材を本発明に用いると、単位体積あたりのプローブ物質の固相化量を効果的に増加させることができる。
特に付着面に垂直な空孔を有する基材は、さらに2次元的な広がりが抑制される事により、単位面積あたりのプローブ物質量を増やす事が出来る。
【0038】
本発明のデバイス製造方法を、プローブ物質あたり複数のプローブ領域を、前記付着の回数を互いに異ならせて作製し、該複数のプローブ領域に生体関連物質を含む試料を供給する第一工程、該複数のプローブ領域について、当該プローブ物質及び該プローブ物質と特異的に反応する生体関連物質からなる反応体の信号を、該プローブ領域の略中心領域の信号を測定することによって測定する第二工程、プローブ物質について、信号の測定範囲に対して最適なプローブ領域を選定する第三工程、第三工程で選定された最適なプローブ領域を作製する条件で、基材にプローブ溶液を付着させる第四工程、を有する方法とすることが好ましい。
この場合、検出を図る生体関連物質の種類に対応可能なデバイスを、その生体関連物質の検出に充分なプローブ固相化量を確保しつつ、さらに効率よく提供することができ、更なるコストダウンが可能となる。
【0039】
<生体関連物質検出デバイス>
本発明の生体関連物質検出デバイス(デバイス)は、上記本発明のデバイス製造方法により得られることを特徴とする。このデバイスは、設けられたプローブ領域の略中心領域が誤差の低減に貢献し、かつ上述の通り充分な検出感度の確保された優れたデバイスである。
【0040】
<生体関連物質の解析方法>
以上説明した本発明のデバイス製造方法で製造されたデバイスを使用して、生体関連物質を解析を行うには、例えば、このデバイスに試料を供給する第一工程、および、前記プローブ物質と該プローブ物質に特異的に結合する生体関連物質とからなる反応体の信号を測定する第二工程とを有する方法を行えばよい。
以下、解析方法の一態様を例示する。
生体関連物質を含む試料溶液を準備し、予め該試料溶液に、生体関連物質に標識物質を結合させる処理を施しておく。標識物質としては、蛍光物質、金属粒子、誘電体粒子、酵素反応を特異的に検出可能な酵素、放射性同位元素等が例示される。なお、処理の容易性、コスト、および、検出の容易性を考慮すると、蛍光色素を用いることが好ましい。
【0041】
まず、前記デバイスのプローブ領域に、試料溶液を接触させる。このことで、プローブ領域に固相化されたプローブ物質に特異的な生体関連物質が試料に含まれている場合、この生体関連物質と、これに特異的なプローブ物質とからなる反応体が形成される。
ついで、所望によりデバイス表面を洗浄する操作を行い、反応体を形成していない生体関連物質を除去する。
その後、プローブ領域に対応して、上記の標識物質に特異的な信号の強度を測定する。
【0042】
本発明の生体関連物質解析方法では、前記第二工程において、前記プローブ領域の略中心領域の信号を取得する。略中心領域は、上述のデバイス製造方法において、プローブ溶液の付着点として指定した座標(例えば付着装置に設定した座標)を中心または重心とする、所定の面積領域とする。例えば、該座標を中心とする所定直径の円形領域として設定可能である。
本発明のデバイス製造方法では、基材へのプローブ溶液の付着を複数回繰り返したとき、プローブ物質が完全に同じ位置には分布しない場合がある。この場合、得られたデバイスにおいて、プローブ領域のうち周縁部には、必ずしも全付着回数分のプローブ物質が固相化されているとは限らない。
また、プローブの物質量に比して、付着に用いるプローブ溶液量が多いことにより、プローブ物質の付着面が2次元的に拡大しやすい傾向にあり、プローブ領域が複数箇所作製されている場合、隣接するプローブ領域の信号どうしが重なり合う事で、解析の際にバックグラウンドやノイズの上昇が引き起こされる場合がある。
【0043】
これに対し、プローブ物質が付着した略中心領域は、略均一の密度でプローブ物質が固相化されている。そこで、デバイスの製造において、予め座標指定した付着点にプローブ溶液を複数回付着させ、その座標指定された付着点を中心または重心とした所定面積範囲の信号を測定する事により、付着面積の2次元的な変動や付着点のズレの影響を排除し、隣接したプローブ領域由来の信号の影響を低減することができ、また、プローブ物質濃度がほぼ一定し、安定した反応が起こった領域の信号のみを取得することができる。したがって、プローブ物質と生体関連物質との特異的な反応に由来する信号を、より正確に測定する事ができる。
略中心領域の直径は、検出する生体関連物質の種類、プローブ固相化量等に応じて、適宜設定することができる。
【0044】
本発明の解析方法においては、デバイスとして、前記プローブ領域をプローブ物質あたり複数箇所作製し、該複数箇所のプローブ領域作製における付着回数を互いに異ならせて製造されたものを用い、前記第二工程において、プローブ物質に対応する全プローブ領域の前記信号を測定し、さらに、第三工程として、プローブ物質ごとに、信号検出手段の測定範囲に対し最適なプローブ領域を選定することが好ましい。
信号検出手段の測定範囲に最適なプローブ領域は、そのプローブ領域で得られる信号強度値が測定範囲内に収まりやすいこと、前記反応体の存在量と信号強度との関係に線形性が高いこと、バックグラウンド値が、測定範囲の中央値以下であること等の基準に照らして選定する。
【0045】
解析の後、さらに生体関連物質検出デバイスを製造する場合は、上述のように、プローブ物質あたり、信号検出手段の測定範囲に対し最適なプローブ領域として選定されたのと同一作製条件のプローブ領域のみを作製することが好ましい。
検出を図る生体関連物質の種類が同じであれば、このように、以降のデバイス製造には良好なシグナル強度を呈するプローブ領域のみ配置すれば良く、更なるコストダウンが可能となる。
【実施例】
【0046】
以下、単位「M」はmol/Lを示す。
<試験例1>
基材に付着させるプローブ溶液の濃度及び付着回数を各種設定してアレイデバイスを作製し、プローブ物質の固相化量及びデバイスの作製効率を検討した。
【0047】
− アレイデバイスの作製 −
所定の塩基配列を有するFITC標識DNAプローブを純水に溶解して2.5μMのプローブ溶液を調製した。さらに2.5μMの濃度から2倍ずつ純水で希釈し、図1に示すように濃度2.5μM〜0.02μMのプローブ溶液をそれぞれ調製した。調製されたプローブ溶液を、384ウェルプレートに、1ウェルあたり12μLずつ分注した。
分注されたプローブ溶液を、コンピューター制御のマイクロディスペンサーを用いて4μl吸引し、1回吐出につき約0.3nL吐出して、セラミック製の多孔質基板からなる基材の表面に付着させてプローブ領域を作製した。
プローブ溶液の濃度及び吐出回数について、図1に示すレイアウトに従って、24箇所のプローブ領域を作製した。図1において、円はプローブ領域(以下、「スポット」と呼ぶ)を、円内の数字はプローブ領域番号(スポットNo,)を示す。
各スポットの作製に用いた各濃度のプローブ溶液を、スポットNo,1−8は1回吐出し、No,9−16は5回、No,17−24のスポットは10回吐出した。吐出の際は、同濃度のプローブ溶液を0.4秒間隔で連続的に吐出して3箇所のスポット(例えばスポットNo,1,9,17)を作製し、スポットの間隔は250μmとした。
上記のようにスポットの作製された基板を、マイクロアレイシステム(FD10,Olympus, Tokyo, Japan)用マイクロアレイとして組み立てた。
【0048】
− アレイデバイスの評価 −
作製したマイクロアレイを、上記のマイクロアレイシステム「FD10」に設置した。このマイクロアレイシステムは、多孔質構造を有するマイクロアレイを貫通して溶液を繰り返しマイクロアレイに接触させる操作(液駆動)、温度制御、蛍光の検出、および蛍光スポットの画像の記録を自動的に行なうことが出来るように設計されている。
まず、バッファー(0.75mol/L NaCl、0.5mol/L NaPO、0.05mol/L EDTA)でマイクロアレイを洗浄した。洗浄液を除いた後、バッファーをマイクロアレイ上に展開し、液駆動回数150回で液駆動させた。
液駆動前後の蛍光画像を、「FD10」にて所定の露光時間で撮影した。撮影した画像を用いて、信号強度として蛍光輝度の数値化・解析を行った。なお、液駆動前の蛍光画像はサンプル供給前のマイクロアレイの異常・異物の確認や、バックグラウンド値の採取のために撮像して確認したものである。
【0049】
− 結果 −
図2に、上記で撮影した画像および解析された蛍光輝度値を示す。図2(a)の画像において、各蛍光スポットの配置は、図1に示すスポットの配置に対応している。図2(b)に示される、各スポットの蛍光輝度は、蛍光標識されたプローブの、そのスポットにおける固相化量を反映する。
スポットNo,5−8とNo,19−22の蛍光輝度を比較すると、プローブ濃度0.31〜2.5μMのプローブ溶液を用いて1回の吐出で作製した各スポットの蛍光輝度と、これらのスポットに対してそれぞれ4倍希釈された濃度に相当するプローブ溶液を用いて10回吐出したスポットとの蛍光輝度は、いずれも同程度であった。
この結果から、希釈したプローブ溶液を基材の同一位置に複数回付着させることで、検出感度を落とす事無くスポットを作製できる事が解った。よって、使用されないプローブ溶液(4μL中)に伴うプローブ物質の廃棄量を75%削減できることが示された。
【0050】
さらに、スポットNo,5,13,21に着目すると、同濃度のプローブ溶液を用いてそれぞれ作製されたスポット間で、プローブ溶液の吐出回数に比例して蛍光輝度の上昇が認められた。このことから、プローブ溶液の付着回数の増加により、プローブの固相化量を増加させることができることが明らかになった。
【0051】
No,8,16,24のスポットの蛍光輝度を比較すると、5回および10回吐出したNo,16,24のスポットはシグナルが飽和したのに対し、1回吐出したNo,8のスポットの蛍光輝度は、上記マイクロアレイシステムのシグナル検出手段の測定範囲に適した値を示した。一方、No,2,10,18のスポットにおいて、No,2,10の蛍光輝度はバックグラウンドと同等であったが、No,18は検出可能であった。ここで、以降のデバイス作製において、No,18の条件のスポットのみを作製すれば、測定の感度を確保しつつ、廃棄されるプローブの物質量を最小限とすることができる。
この結果から、プローブ溶液を基材に付着させる回数の増減によりプローブ固相化量を制御したスポットを複数箇所に作製し、検出系の測定範囲に対し適切な信号強度を与えるプローブ領域を有したアレイデバイスを提供できることが示された。
このようなアレイデバイスに試料を供給し、プローブと生体関連物質の反応体に対応した信号を検出したスポットのうち、検出系の測定範囲に対し適切なスポットを選定してその信号を解析する事で、特定の固相化量のスポットではシグナルが飽和する場合にも、プローブ固相量の増減によるダイナミックレンジの拡張を実施でき、正確な測定を可能とできる。同様に、露光時間や増感処理等により信号が増強される検出系においても、検出した信号が検出器の測定範囲内に入るように、アレイデバイスの特性を容易に制御することができ、測定を容易に行うことができる。
【0052】
本試験例において、アレイデバイスを製造するまでに吐出に要する時間は約20分であった。なお、本試験例の連続吐出に代わり、プローブ溶液を交換しながらの非連続吐出を行ったところ、約2時間を要した。このことから、連続吐出する事により製造時間を短縮できることが明らかになった。
【0053】
<試験例2>
− アレイデバイスの作製 −
DNAプローブを、30μMの濃度となるように純水に溶解してプローブ溶液を調製した。このプローブ溶液を、試験例1と同様に384ウェルプレートに分注した。
分注されたプローブ溶液を、コンピューター制御のマイクロディスペンサーを用いて4μl吸引し、1回吐出につき約0.3nL吐出して、セラミック製の多孔質基板からなる基材の表面に付着させてプローブ領域を作製した。このとき、プローブ溶液を付着させる平面において、任意の原点を基準とした付着点の座標を記録した。
吐出回数1回のスポットを、付着点が、任意に設定した原点より160μm間隔で位置するように、10箇所作製した。
同様に、吐出回数10回のスポットを、付着点の間隔160μmで10箇所作製した。吐出回数10回の場合、プローブの付着工程の間に10秒以上の乾燥工程を設けた。
スポットの作製された基板を、「FD10」用マイクロアレイとして組み立て、マイクロアレイ1とした。
【0054】
− 測定・解析 −
上記マイクロアレイ1の作製で用いたDNAプローブと相補的に結合する、FITC標識されたDNAを試料として用い、試料溶液(サンプル溶液)を調製した。
「FD10」に各マイクロアレイを設置した。バッファーでマイクロアレイを洗浄した。バッファーを除いた後、サンプル溶液をマイクロアレイ上にのせ、ハイブリダイゼーション反応を行った。ハイブリダイゼーション前後のアレイ面の蛍光画像を、バッファーで洗浄の後「FD10」にて、所定の露光時間で撮影した。撮影した画像より、図3に示すように、予め記録した付着点となる座標位置を略中心とした直径80μmの円内の範囲(以下、この円内を「略中心領域」と称する)の蛍光輝度、およびスポット(プローブ領域)全体の蛍光輝度を測定した。
【0055】
− 結果 −
表1に、1回吐出によるスポットの略中心領域の蛍光輝度の平均値と、10回吐出によるスポットの略中心領域の蛍光輝度の平均値を示す。
【0056】
【表1】

【0057】
同じサンプル溶液をハイブリダイゼーションしているにも関わらず、同じ多孔質基板の条件で10回吐出して作製したスポットは1回吐出して作製したスポットより高い蛍光輝度を呈した。このように微量サンプルを、より強いシグナルで検出できる事から、プローブ溶液の付着回数を増やす事によって検出感度を向上させたアレイデバイス(この例ではマイクロアレイ)を製造できる事が解った。
【0058】
表2に、上記マイクロアレイ1のうち10回吐出によるスポットについて、蛍光輝度値を、その測定領域ごとに示す。
【0059】
【表2】

【0060】
測定領域による蛍光輝度を比較したところ、スポット全体を測定した場合の方が、直径80μmの略中心領域のみを測定した場合よりも、平均輝度が高かった(表2)。これは、スポット全体を測定した場合、隣接するスポット間で輝度の重なりが発生したためであった。表には10箇所のスポットについて測定した平均値のみを示したが、略中心領域のみを測定した場合の方が、スポット間で輝度値のばらつきが小さく、安定した結果を得ることができた。
【0061】
<実施例1>
− アレイデバイスの作製 −
基材をガラス製の平面基板とし、10回の吐出によるスポットのみ作製した以外は上記試験例2のマイクロアレイ1作製と同様の操作を行い、マイクロアレイ2を作製した。
プローブ溶液を基板に付着させた後に乾燥工程を導入し、10回の吐出によるスポットのみ作製した以外はマイクロアレイ1と同様にして、マイクロアレイ3を作製した。ここでスポット作製においては、吐出と乾燥を交互に行った。
基材をマイクロアレイ2と同様の平面基板とし、マイクロアレイ3と同様に乾燥工程を導入し、かつ、10回の吐出によるスポットのみ作製した以外は、マイクロアレイ1と同様にして、マイクロアレイ4を作製した。
【0062】
− 測定・解析 −
マイクロアレイ1〜4のうち、多孔質基板を用いて作製されたものを、上記のマイクロアレイシステム「FD10」に設置した。試験例2と同様に、サンプル溶液の調製、マイクロアレイの洗浄、洗浄液の除去、バッファーの供給、サンプル溶液の供給、液駆動を行った。液駆動前後の蛍光画像を、「FD10」にて所定の露光時間で撮影した。
平面基板を用いて作製したマイクロアレイは、液駆動を行わず、サンプル溶液をマイクロアレイ上にのせ、充分な時間ハイブリダイゼーションを行った。バッファーで洗浄した後にアレイ面の蛍光画像を、「FD10」と同様の光学系および検出器を備えた蛍光顕微鏡で撮影した。
撮影した画像を用いて、蛍光輝度値、蛍光の確認される領域(蛍光スポット)の直径を解析した。
【0063】
− 結果 −
表3に、基材の種類および乾燥工程の有無が設定されたマイクロアレイ1〜4の、プローブ溶液を10回付着させて作製したスポットにおける、蛍光スポットの直径を示す。この直径は、形成されたスポット(プローブ領域)の基材表面における直径を反映する。
【0064】
【表3】

【0065】
乾燥工程を導入した場合のスポットの直径は、乾燥させていない場合に比べ、小さかった(表3)。
また、平面基板を用いた場合のスポットの直径に比し、多孔質基板を用いた場合のスポットの直径は小さかった(表3)。
スポットあたり蛍光輝度は、乾燥工程の有無に関らず同程度であった。
このように、スポットの輝度は同じであっても、スポット径が小さくなる事によって、単位体積当りの輝度は明るくなっていた。よって、乾燥工程の導入により、プローブ溶液の使用量に対して、スポットの径を小さくすることができ、単位面積あたりのプローブ数を増加させることができた。また、基材として多孔質基板を用いたことにより、同様に、単位面積あたりのプローブ数を増加させることができた。
【0066】
<実施例2>
プローブ溶液の調製において、DNAプローブが30μMの濃度となるように、10%エタノール含有水で調製した。プローブ付着工程の間に乾燥工程を設けず、かつ、10回吐出によるスポットのみ作製した以外は、マイクロアレイ1の作製と同様にして、マイクロアレイ5を作製した。
プローブ溶液の調製において、DNAプローブが30μMの濃度となるように、0.1% poly vinyl alcohol(PVA)含有水で調製した。プローブ付着工程の間に乾燥工程を設けず、かつ、10回吐出によるスポットのみ作製した以外は、マイクロアレイ1の作製と同様にして、マイクロアレイ6を作製した。
マイクロアレイ1、3、5、6について、スポットの蛍光輝度値(1つのスポット全体)の合計および各スポットの直径を計測した。各マイクロアレイの作製方法および測定結果を、表4にまとめて示す。
【0067】
【表4】

【0068】
表4に示すように、蛍光輝度値はいずれのマイクロアレイでも同程度であった。
スポット直径は、マイクロアレイ1では約180μmであったのに対し、マイクロアレイ3、5、6では約160μmであった。すなわち、実施例1で示したとおり、乾燥工程の導入により、スポットの径を小さくすることができた。また、プローブ溶液の作製において純水のみを用いた場合に比し、10%エタノールを用いた場合、0.1% PVAを用いた場合は、それぞれスポットの直径が小さかった。
このように、表4に示した作製方法B、C、Dによれば、スポットの輝度は同じであっても、スポット径が小さくなる事によって、単位体積当りの輝度は明るくなっていた。すなわち、これらの場合は、検出に充分なプローブ固相化量を確保しつつ、低コストにマイクロアレイを製造でき、しかも、単位体積あたりのプローブ量を増やすことができたことが示された。
【0069】
<実施例3>
− アレイデバイスの作製 −
DNAプローブを純水に溶解し、10μMのDNAプローブ溶液を調製した。このDNAプローブ溶液を384ウェルプレートに1ウェルあたり12μLずつ分注した。
分注されたプローブ溶液を、コンピューター制御のマイクロディスペンサーを用いて4μl吸引し、1回吐出につき約0.3nL吐出して、セラミック製の多孔質基板からなる基材の表面に付着させて、プローブ領域を作製した。図4に示すレイアウトに従って、プローブ溶液の付着回数各1、5、10回の3種類のプローブ領域を作製した。図4において、円はスポットを、円内の数字はスポットNo,を示す。スポットの作製された基板を、「FD10」用マイクロアレイとして組み立てた。
【0070】
− 測定・解析 −
DNAプローブと相補的に結合するFITC標識されたDNAを用いて、濃度未知のサンプル溶液を2種類調製し、サンプル溶液1、2とした。
組み立てられたマイクロアレイを「FD10」に2個設置し、バッファーでマイクロアレイを洗浄した。バッファーを除いた後、2つのサンプル溶液を別々のマイクロアレイ上にのせ、ハイブリダイゼーション反応を行った。ハイブリダイゼーション前後のアレイ面の蛍光画像を「FD10」にて所定の露光時間で撮影し、スポットの略中心領域の蛍光輝度を、全スポットについて測定した。
【0071】
画像結果を図5に示す。図5において、各列の蛍光スポットの配置は、図4に示すスポットの配置に対応している。
サンプル溶液1を用いた時、No,3のスポットの輝度は検出範囲を越えて飽和していた(図5左)。しかし、No,1および2のスポット輝度は検出系の測定範囲に対して適切な値を示した。
同様のアレイデバイスを用いて、サンプル溶液2を測定した場合、No,2および3のスポットではシグナルが検出できたが、No,1はバックグラウンドと同程度の輝度となり、シグナルの検出が困難であった(図5右)。
【0072】
そこで、本実施例で用いたDNAプローブについては、5回吐出で作製したNo,2のスポットを、信号検出手段の測定範囲に対し最適なスポットとして選定した。
この選定以降は、上記と同じDNAを含むサンプル溶液であれば、例えサンプル調製による濃度誤差があっても、No,2のスポットのみマイクロアレイに配置すれば、検出系に適した範囲の輝度値を得て解析を行うことができた。よって、さらに製造コストを下げる事ができた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の生体関連物質検出デバイスの製造方法、生体関連物質デバイスおよび生体関連物質解析方法は、例えば、医療の臨床における遺伝子検査等の分野に好適に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】試験例1で作製したアレイデバイスにおける、プローブ領域の種類及び配置を示す平面図である。
【図2】試験例1におけるアレイデバイスの蛍光撮像画像および各スポットの蛍光輝度値である。
【図3】試験例2における、アレイデバイスの面での信号取得範囲を示す概念図である。
【図4】実施例3で作製したアレイデバイスにおける、プローブ領域の種類及び配置を示す平面図である。
【図5】実施例3におけるアレイデバイスの蛍光撮像画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体関連物質を検出するためのプローブ物質を含有するプローブ溶液を基材に付着させて、プローブ物質を固相化する生体関連物質検出デバイスの製造方法であって、
生体関連物質と該プローブ物質とが特異的な反応体を形成したときに得られる信号強度が所望の値となるプローブ溶液濃度よりも低濃度のプローブ溶液を調製し、該プローブ溶液を基材の同一位置に複数回付着させてプローブ領域を作製することを特徴とする生体関連物質検出デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記プローブ溶液の濃度は、30μmol/L以下であることを特徴とする請求項1に記載の生体関連物質検出デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記付着を、前記プローブ溶液を吸引する手段及び吐出する手段を有する付着装置、または前記プローブ溶液を基材に点着する手段を有する付着装置を用いて行うことを特徴とする請求項1または2に記載の生体関連物質検出デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記付着させる回数を変更することにより、前記プローブ物質の当該プローブ領域あたり固相化量を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生体関連物質検出デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記プローブ領域を1のプローブ物質あたり複数箇所作製し、該複数箇所のプローブ領域作製における付着回数を、互いに異ならせることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の生体関連物質検出デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記プローブ溶液を1種以上準備し、少なくとも1種のプローブ溶液について、前記プローブ領域を複数箇所作製し、該作製を複数箇所に渡り連続して行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の生体関連物質検出デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記プローブ領域の作製において、前記複数回の付着の間に乾燥工程をさらに行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の生体関連物質検出デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記プローブ物質は、核酸、ペプチド、及びタンパク質から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の生体関連物質検出デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記プローブ溶液は、水溶性高分子、糖類、及び多価アルコール類から選ばれる少なくとも1種の物質を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の生体関連物質検出デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記プローブ溶液は、水及び有機溶媒を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の生体関連物質検出デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記基材は、少なくともプローブ溶液の付着される部位に3次元構造を有し、ナノメートルないしマイクロメートルスケールの空孔構造を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の生体関連物質検出デバイスの製造方法。
【請求項12】
プローブ物質あたり複数のプローブ領域を、前記付着の回数を互いに異ならせて作製し、該複数のプローブ領域に生体関連物質を含む試料を供給する第一工程、
該複数のプローブ領域について、当該プローブ物質及び該プローブ物質と特異的に反応する生体関連物質からなる反応体の信号を、該プローブ領域の略中心領域の信号を測定することによって測定する第二工程、
プローブ物質について、信号の測定範囲に対して最適なプローブ領域を選定する第三工程、
第三工程で選定された最適なプローブ領域を作製する条件で、基材にプローブ溶液を付着させる第四工程、
を有することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の生体関連物質検出デバイスの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の生体関連物質検出デバイスの製造方法により得られることを特徴とする生体関連物質検出デバイス。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載の生体関連物質検出デバイスの製造方法で製造された生体関連物質検出デバイスに生体関連物質を含む試料を供給する第一工程と、
前記プローブ物質と、該プローブ物質と特異的に結合する生体関連物質とからなる反応体の信号を測定する第二工程とを有し、
前記第二工程において、前記プローブ領域の略中心領域の信号を取得することを特徴とする生体関連物質の解析方法。
【請求項15】
前記第一工程において、前記生体関連物質検出デバイスが請求項5に記載の製造方法で製造された生体関連物質検出デバイスであり、
前記第二工程において、プローブ物質に対応する全プローブ領域の前記信号を測定し、
さらに、第三工程として、プローブ物質ごとに、信号検出手段の測定範囲に対し最適なプローブ領域を選定することを特徴とする請求項14に記載の生体関連物質の解析方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−47082(P2006−47082A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227751(P2004−227751)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】