説明

生体高分子分析チップ

【課題】より感度の良好な生体高分子分析チップを提供する。
【解決手段】光電変換素子20と、光電変換素子20の受光面側に設けられ、特定の生体高分子62と結合するプローブ61と、光電変換素子20の受光面と離間して設けられ、プローブ61と結合する生体高分子62を標識する蛍光体64に対して励起光Lを集光する励起光集光レンズ54と、を備える生体高分子分析チップ1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体高分子分析チップに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な生物種の遺伝子の発現解析を行うためにDNAチップや抗体チップ等の生体高分子分析チップやその読取装置が開発されている。生体高分子分析チップは、プローブとなる既知の塩基配列のcDNAや抗体をスライドガラス等の固体担体上にマトリックス状に整列固定させたものである(例えば特許文献1参照)。例えば、DNAチップ及びその読取装置を用いた遺伝子の発現解析は次のようにして行う。
【0003】
まず、既知の塩基配列を有した複数種類のcDNA(以下、プローブDNAという)をスライドガラス等の固体担体に整列固定させたDNAチップを準備する。次に、検体からmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、標識物質で標識したものを用意する(以下、標識DNAという)。ここで、標識物質には蛍光体や化学発光基質、あるいは化学発光基質を発光させる酵素等を用いることができる。
次に、標識DNAをDNAチップ上に添加すると、標識DNAが相補的なプローブDNAとハイブリダイズすることによりDNAチップ上に固定される。
【0004】
次いで、DNAチップを読取装置にセッティングし、読取装置にて分析する。読取装置は、DNAチップに対して二次元的に移動する集光レンズ及びフォトマルチプライヤーによってDNAチップを走査する標識物質により発した光を集光レンズで集光させ、光強度をフォトマルチプライヤーで計測することで、DNAチップの面内の光強度分布を計測し、これにより、DNAチップ上の光強度分布が二次元の画像として出力される。出力された画像内で光強度が大きい部分には、プローブDNAの塩基配列と相補的な塩基配列を有した標識DNAが含まれていることを表している。従って、二次元画像中のどの部分の蛍光強度が大きいかによって検体で発現しているmRNAを同定することができる。
【特許文献1】特開2000−131237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複数の光電変換素子を二次元アレイ状に配列してなる固体撮像デバイスの受光面にDNAや抗体等のプローブ分子をスポットした生体高分子分析チップが開発されている。このような生体高分子分析チップでは、スポットに付着した標識DNA等の生体高分子を標識する標識物質により発生する光を各光電変換素子により計測する。固体撮像デバイスの受光面にスポットが点在しており、受光面に付着された生体高分子と光電変換素子との間の距離が近いために標識物質から発した光が殆ど減衰せずに固体撮像デバイスの受光面に入射するため、僅かな光量でも計測が可能であるという利点がある。
【0006】
しかし、上記のような生体高分子分析チップにおいて、標識物質に蛍光体を用いた場合は、スポットに位置する蛍光体を励起する励起光を固体撮像デバイスの受光面の全面に照射せねばならず、スポット以外の部分に照射される励起光が無駄になっていた。また、蛍光体から放出される蛍光には指向性がないため、光電変換素子は標識物質より発した光の一部しか捉えることができず、光電変換素子による信号量が減り、S/N比が低下するという問題があった。また、特許文献1にあるようにステージが二次元的に移動するものでは、マイクロアレイチップとステージの位置ずれ或いはマイクロアレイチップの被検出物が配置されたスポットと励起光源から照射されるビームとの位置ずれが発生する恐れがあるという問題があり、レンズからの光を所望の位置に精度よく集光することが困難であった。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決し、より感度の良好な生体高分子分析チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、光電変換素子と、前記光電変換素子の受光面側に設けられ、特定の生体高分子と結合するプローブと、前記光電変換素子の受光面と離間して設けられ、前記プローブと結合する生体高分子を標識する蛍光体に対して励起光を集光する励起光集光レンズと、を備えることを特徴とする生体高分子分析チップである。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の生体高分子分析チップであって、前記励起光集光レンズとして、両面共に凸部を持つレンズを用いることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の生体高分子分析チップであって、前記励起光集光レンズとして、励起光入射側のみに凸部を持つレンズを用いることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の生体高分子分析チップであって、前記光電変換素子の受光面側には、前記蛍光体より放出される蛍光を透過しかつ励起光を吸収する励起光吸収層が設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の生体高分子分析チップであって、前記光電変換素子の受光面側には、受光面に前記蛍光体より放出される蛍光を集光する蛍光集光レンズが設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の生体高分子分析チップであって、前記蛍光集光レンズとして、両面共に凸部を持つレンズを用いることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項5に記載の生体高分子分析チップであって、前記蛍光集光レンズとして、蛍光入射側のみに凸部を持つレンズを用いることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項5〜7のいずれか一項に記載の生体高分子分析チップであって、前記蛍光集光レンズは前記蛍光体より放出される蛍光を透過しかつ励起光を吸収することを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の生体高分子分析チップであって、前記プローブは既知の塩基配列を有する一本鎖DNAであることを特徴とする。
【0017】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の生体高分子分析チップであって、前記プローブは特定の抗原と結合する抗体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、より感度の良好な生体高分子分析チップを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0020】
[第1実施形態]
〔1〕生体高分子分析チップの全体構成
図1は、本発明の実施形態に係る生体高分子分析チップ1の概略平面図であり、図2は、図1の切断面II−IIに沿った矢視断面図である。この生体高分子分析チップ1は、DNAを検出するDNAチップである。
【0021】
この生体高分子分析チップ1は、図1、図2に示すように、固体撮像デバイス10と、固体撮像デバイス10の受光面側に設けられた枠状の隔壁51と、蓋53と、固体撮像デバイス10の受光面上に点在した複数のスポット60,60,…と、を具備する。
【0022】
〔2〕固体撮像デバイス
ここで、図1、図2を用いて固体撮像デバイス10について説明する。図1、図2に示すように、固体撮像デバイス10は、透明基板17と、ボトムゲート絶縁膜22と、トップゲート絶縁膜29と、保護絶縁膜32と、励起光吸収層33と、スポット固定層35とを積層してなる。これらの層間に、複数のボトムゲートライン41、ソースライン42、ドレインライン43、トップゲートライン44、及び、ダブルゲートトランジスタ20を形成するボトムゲート電極21、半導体膜23、チャネル保護膜24、不純物半導体膜25,26、ソース電極27、ドレイン電極28、トップゲート電極31が設けられている。
【0023】
透明基板17は、後述する蛍光体が発する光を透過する性質(以下、光透過性という。)を有するとともに絶縁性を有し、石英ガラス等といったガラス基板又はポリカーボネート、PMMA等といったプラスチック基板である。
【0024】
この固体撮像デバイス10においては、光電変換素子としてダブルゲート型電界効果トランジスタ(以下、ダブルゲートトランジスタという。)20が利用され、複数のダブルゲートトランジスタ20,20,…が透明基板17上において二次元アレイ状に特にマトリクス状に配列され、これらダブルゲートトランジスタ20,20,…が窒化シリコン(SiN)等の保護絶縁膜32によってまとめて被覆されている。
なお、図1では2行×2列のマトリクス状の二次元アレイを示すが、さらに多くの行及び列を有していてもよい。
【0025】
図3はダブルゲートトランジスタ20を示す平面図であり、図4は図3のIV−IV矢視断面図である。図3、図4に示すように、ダブルゲートトランジスタ20,20,…は何れも、受光部である半導体膜23と、半導体膜23上に形成されたチャネル保護膜24と、ボトムゲート絶縁膜22を挟んで半導体膜23の下に形成されたボトムゲート電極21と、トップゲート絶縁膜29を挟んで半導体膜23の上に形成されたトップゲート電極31と、半導体膜23の一部に重なるよう形成された不純物半導体膜25と、半導体膜23の別の部分に重なるよう形成された不純物半導体膜26と、不純物半導体膜25に重なったソース電極27と、不純物半導体膜26に重なったドレイン電極28と、を備え、半導体膜23において受光した光量に従ったレベルの電気信号を出力するものである。
【0026】
ボトムゲート電極21は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに透明基板17上に形成されている。また、透明基板17上には横方向に延在する複数本のボトムゲートライン41,41,…が形成されており、横方向に配列された同一の行のダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれのボトムゲート電極21が共通のボトムゲートライン41と一体となって形成されている。ボトムゲート電極21及びボトムゲートライン41は、導電性及び遮光性を有し、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0027】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のボトムゲート電極21及びボトムゲートライン41,41,…はボトムゲート絶縁膜22によってまとめて被覆されている。すなわち、ボトムゲート絶縁膜22は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。ボトムゲート絶縁膜22は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン(SiN)又は酸化シリコン(SiO2)からなる。
【0028】
ボトムゲート絶縁膜22上には、複数の半導体膜23がマトリクス状に配列するよう形成されている。半導体膜23は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立して形成されており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20においてボトムゲート電極21に対して対向配置され、ボトムゲート電極21との間にボトムゲート絶縁膜22を挟んでいる。半導体膜23は、平面視して略矩形状を呈しており、受光した蛍光の光量に応じた量の電子−正孔対を生成するアモルファスシリコン又はポリシリコンで形成された層である。
【0029】
半導体膜23上には、チャネル保護膜24が形成されている。チャネル保護膜24は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立してパターニングされており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20において半導体膜23の中央部上に形成されている。チャネル保護膜24は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。チャネル保護膜24は、パターニングに用いられるエッチャントから半導体膜23の界面を保護するものである。半導体膜23に光が入射すると、入射した光量に従った量の電子−正孔対がチャネル保護膜24と半導体膜23との界面付近を中心に発生するようになっている。この場合、半導体膜23側にはキャリアとして正孔が発生し、チャネル保護膜24側には電子が発生する。
【0030】
半導体膜23の一端部上には、不純物半導体膜25が一部、チャネル保護膜24に重なるようにして形成されており、半導体膜23の他端部上には、不純物半導体膜26が一部、チャネル保護膜24に重なるようにして形成されている。不純物半導体膜25,26は、ダブルゲートトランジスタ20ごとに独立してパターニングされている。不純物半導体膜25,26は、n型の不純物イオンを含むアモルファスシリコン(n+シリコン)からなる。
【0031】
不純物半導体膜25上には、ソース電極27が形成され、不純物半導体膜26上には、ドレイン電極28が形成されている。ソース電極27及びドレイン電極28はダブルゲートトランジスタ20ごとに形成されている。縦方向に延在する複数本のソースライン42,42,…及びドレインライン43,43,…がボトムゲート絶縁膜22上に形成されている。縦方向に配列された同一の列のダブルゲートトランジスタ20,20,…のソース電極27は共通のソースライン42と一体に形成されており、縦方向に配列された同一の列のダブルゲートトランジスタ20,20,…のドレイン電極28は共通のドレインライン43と一体に形成されている。ソース電極27、ドレイン電極28、ソースライン42及びドレインライン43は、導電性及び遮光性を有しており、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0032】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のソース電極27及びドレイン電極28並びにソースライン42,42,…及びドレインライン43,43,…は、トップゲート絶縁膜29によってまとめて被覆されている。トップゲート絶縁膜29は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。トップゲート絶縁膜29は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0033】
トップゲート絶縁膜29上には、複数のトップゲート電極31がダブルゲートトランジスタ20ごとに形成されている。トップゲート電極31は、それぞれのダブルゲートトランジスタ20において半導体膜23に対して対向配置され、半導体膜23との間にトップゲート絶縁膜29及びチャネル保護膜24を挟んでいる。また、トップゲート絶縁膜29上には横方向に延在する複数本のトップゲートライン44,44,…が形成されており、横方向に配列された同一の行のダブルゲートトランジスタ20,20,…のトップゲート電極31が共通のトップゲートライン44と一体に形成されている。トップゲート電極31及びトップゲートライン44は、導電性及び光透過性を有し、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛若しくは酸化スズ又はこれらのうちの少なくとも一つを含む混合物(例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム)で形成されている。
【0034】
ダブルゲートトランジスタ20,20,…のトップゲート電極31及びトップゲートライン44,44,…は保護絶縁膜32によってまとめて被覆され、保護絶縁膜32は全てのダブルゲートトランジスタ20,20,…に共通して形成された膜である。保護絶縁膜32は、絶縁性及び光透過性を有し、窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0035】
保護絶縁膜32の上面には、後述する蛍光体64の励起光を吸収する励起光吸収層33が設けられている。励起光吸収層33は、後述する蛍光体64の蛍光に対して高い透過性を示すものが好ましい。
【0036】
励起光吸収層33の上面には、スポット固定層35が設けられている。スポット固定層35は、スポット60となる後述するプローブと共有結合または静電結合することで、スポットを固定する。スポット固定層35が設けられた側の面が、固体撮像デバイスの撮像面となる。
【0037】
以上のように構成された固体撮像デバイス10は、スポット固定層35の表面を受光面としており、それぞれのダブルゲートトランジスタ20の半導体膜23において受光した光量を電気信号に変換するように設けられている。
【0038】
〔3〕スポット
図1に示すように、固体撮像デバイス10の撮像面にはスポットが形成されている。各スポット60は、プローブとなる既知の塩基配列のcDNA(プローブDNA61)や抗体等の溶液をスポット固定層35上に滴下し、乾燥して形成される。以下ではプローブとして既知の塩基配列のcDNAを用いた場合について説明する。
【0039】
1つのスポット60では同じ塩基配列の一本鎖のプローブDNA61が多数集まった群集が固体撮像デバイス10の撮像面に固定化され、スポット60ごとにプローブDNA61は異なる塩基配列となっている。プローブDNA61としては、既知のmRNAの塩基配列、またはその一部と同一の、あるいは相補的な塩基配列のDNAが用いられる。具体的には、例えば、後述する蛍光標識DNAで用いるのと同じ細胞検体から作成したcDNAライブラリを用いることができる。
【0040】
1つのスポット60はダブルゲートトランジスタ20上に重なるように形成されている。なお、1つのスポット60に重なったダブルゲートトランジスタ20の数は異なっていてもよい。
【0041】
〔4〕隔壁
隔壁51はスポット固定層35上に密着され、固体撮像デバイス10の撮像面にウェル52を形成する。隔壁51は不透明であり、外部から光が入ることを防いでいる。また、ウェル52の高さは隔壁51により固定されている。したがって、励起光集光レンズ54と固体撮像デバイス10との距離は所定の距離に固定され、変化することがない。また、後述する蓋53を固定する為に、隔壁51の上端部の内側には、蓋53の周縁部分と嵌合するための凹部51aが設けられ、凹部51aの外側が凹部51aに対して相対的に上方向に突出した突出部となっている。
【0042】
〔5〕蓋
蓋53は隔壁51の上部に配置され、ウェル52を蓋する。蓋53には、後述する蛍光体64に出射する励起光に対して高い透過性を示す材料が用いられる。また、蓋53には、スポット60と対応する位置に、励起光集光レンズ54が設けられている。励起光集光レンズ54が設けられた蓋53を、隔壁51の上端部に設けられた凹部51aにはめ込むと、蓋53が凹部51aの外側の突出部に固定され、励起光集光レンズ54とスポット60との位置ずれが起こりにくい。生体高分子分析チップ1をステージ15上に載置した際に、仮に生体高分子分析チップ1がステージに対して載置位置が多少ずれていたとしても、生体高分子分析チップ1がスポット60に加えて励起光集光レンズ54を備えているために、励起光集光レンズ54とスポット60との相対的な位置ずれが生じるわけではない。このため、励起光集光レンズ54は励起光源55から照射された励起光を確実にスポット60上に集光することができる。励起光集光レンズ54の径はスポット60の径よりも大きいため、スポット60に照射される励起光強度を高めることができる。
【0043】
〔6〕分析装置
生体高分子分析チップ1を分析装置70内のステージ15にセッティングして生体高分子分析チップ1を用いるので、まず分析装置70について説明する。図5は分析装置70の構成を示すブロック図である。
【0044】
図5に示すように、分析装置70は、ステージ15上で生体高分子分析チップ1に接続され、固体撮像デバイス10を駆動するトップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75、ドレインドライバ76と、これらを制御するコンピュータ71と、コンピュータ71から出力された信号により出力(表示又はプリント)を行う出力装置77と、コンピュータ71により制御される励起光照射装置73とを備える。
【0045】
生体高分子分析チップ1が分析装置70にセッティングされた場合には、固体撮像デバイス10のトップゲートライン44,44,…がトップゲートドライバ74の端子に、ボトムゲートライン41,41,…がボトムゲートドライバ75の端子に、ドレインライン43,43,…がドレインドライバ76の端子に、それぞれ接続されるようになっている。また、生体高分子分析チップ1が分析装置70にセッティングされた場合、固体撮像デバイス10のソースライン42,42,…が一定電圧源に接続され、この例ではソースライン42,42,…が接地されるようになっている。
【0046】
トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76は、協同して固体撮像デバイス10を駆動するものである。
【0047】
コンピュータ71は、図示しないCPU、RAM、ROM等を備え、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76に制御信号を出力することによって、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76に固体撮像デバイス10の駆動動作を行わせる機能を有する。また、コンピュータ71は入力した二次元の画像データ画像データに従った画像を出力装置77に出力させる機能を有する。
【0048】
また、コンピュータ71はドレインドライバ76から入力した電気信号をA/D変換することで、固体撮像デバイス10の受光面に沿った光強度分布を二次元の画像データとして取得する機能を有する。
【0049】
出力装置77はプロッタ、プリンタ又はディスプレイである。
励起光照射装置73は、後述する蛍光体を励起する励起光を生体高分子分析チップ1に照射する。
【0050】
〔7〕蛍光標識DNAの作成
上記生体高分子分析チップ1で分析する試料としては、DNAを用いることができる。試料となるDNAとしては、任意の細胞検体内で発現しているmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いるRT−PCR反応により得られたcDNAを用いることができる。cDNAは蛍光体で標識する。蛍光体は、励起光照射装置で制御される励起光源から出射される励起光で励起されるものであってその励起光によって蛍光を発するものを選択するが、蛍光体としては、例えばCyDyeのCy2(アマシャム社製)がある。
【0051】
cDNAを蛍光体で標識するには、例えば、蛍光体で標識されたオリゴdTプライマや、標識されたdNTPミックスを用いてRT−PCR反応を実施すればよい。以下では、この標識されたcDNAを蛍光標識DNAという。
【0052】
〔8〕ハイブリダイゼーション
以下、蛍光標識DNAをプローブDNA61とハイブリダイゼーションさせる方法について説明する。まず、作業者が、図6に示すように、蛍光体64で標識した蛍光標識DNA62を含有した溶液65(以下、蛍光標識DNA溶液65という)をウェル52内に注入する。なお、蛍光標識DNA溶液65をウェル52内のスポット60,60,…に順次又は同時に滴下してもよい。このとき、蛍光標識DNA62及びプローブDNA61が一本鎖となるように蛍光標識DNA溶液65は加熱されている。
【0053】
次いで、プローブDNA61と蛍光標識DNA62とがハイブリダイゼーションを引き起こすように、生体高分子分析チップ1のウェル52を所定の温度に冷却する。すると、図7に示すように、ウェル52内に注入された蛍光標識DNA溶液65内の蛍光標識DNA62のうち、スポット60のプローブDNA61と相補的なものは、プローブDNA61とハイブリダイズする。一方、プローブDNA61と相補的ではない蛍光標識DNA62は、そのスポット60には結合しない。
その後、ウェル52内の蛍光標識DNA溶液65を洗浄用バッファー溶液で洗い流し、蛍光標識DNA62のうちプローブDNA61とハイブリダイズしなかったものをウェル52内から除去する。
【0054】
〔9〕サンプルの検出
次に、蛍光標識DNA62の検出方法について図8を用いて説明する。
上記処理を行った後、図8に示すように蓋53を重ねた生体高分子分析チップ1を、分析装置70にセッティングし、トップゲートドライバ74、ボトムゲートドライバ75及びドレインドライバ76をコンピュータ71に接続し、コンピュータ71を起動する。
【0055】
次に、コンピュータ71により励起光照射装置73を制御し、励起光源55から生体高分子分析チップ1に励起光を照射する。ここで、励起光源55は面光源であり、励起光は平行光である。すると、図8に示すように、励起光Lは励起光集光レンズ54に各スポット60上に集光される。 蛍光標識DNA62がプローブDNA61に結合したスポット60からは、励起光Lにより励起された蛍光体64が励起状態から基底状態に遷移するときに蛍光F(主に可視光波長域)が放出される。放出された蛍光Fは励起光吸収層33を透過してダブルゲートトランジスタ20に入射する。
【0056】
蛍光Fが入射したダブルゲートトランジスタ20では電子−正孔対が発生する。なお、励起光Lは励起光吸収層33により吸収されるため、ダブルゲートトランジスタ20に励起光Lが入射して電子−正孔対を発生させることはなく、励起光Lによるノイズを低減することができる。
その後、各ダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれの光量データを取得し、RAMに記憶する。
【0057】
作業者は、RAMに記憶された各ダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれの光量データを出力装置77により出力することで得られた画像データより、各スポット60,60,…におけるハイブリダイゼーションの有無を確認することができる。ハイブリダイゼーションが起きていれば、そのスポット60のプローブDNA61と相補的な塩基配列のmRNAが細胞検体内で生成されていることがわかる。このため、蛍光が検出されたスポット60のプローブDNA61の種類により、検体内でどのような遺伝子が発現しているかを直接確認することができる。
【0058】
このように、本実施の形態に係る生体高分子分析チップ1では、励起光集光レンズ54により励起光源55から照射した励起光をスポットに集光させるため、感度を良好なものとすることができ、励起光照射装置73の出力を低減することができる。また、励起光源55から照射される励起光は平行光であるため、生体高分子分析チップ1を動かす必要がない。
【0059】
<変形例>
次に、本実施の形態の変形例に係る生体高分子分析チップ101について図9を用いて説明する。この生体高分子分析チップ101は、抗原タンパクを検出する抗体チップである。なお、生体高分子分析チップ1と同様の構成については下2桁に同符号を付して説明を割愛する。
【0060】
抗体チップでは、プローブとして、検出する既知のタンパク質や糖鎖等の抗原と結合する抗体(以下、プローブ抗体という)を用いる。
具体的には、図9に示すように、生体高分子分析チップ101のウェル52にプローブ抗体81を含む溶液を滴下し、乾燥してスポット80を形成する。なお、ウェル52に滴下されるプローブ抗体81はそれぞれ異なるタンパク質を抗原とし、同じスポット60を形成するプローブ抗体81は同一の抗原決定基を認識する。プローブ抗体81となる抗体としては、モノクローナル抗体を用いることができる。
【0061】
次に、サンプルとなる抗原82を含む溶液(以下、サンプル溶液という)をウェル52内に注入する。
プローブ抗体81にサンプル溶液中の抗原82が結合するのに充分な時間が経過した後、ウェル52内のサンプル溶液をバッファー溶液で洗い流し、サンプル溶液とともに抗原82のうちプローブ抗体81と結合しなかったものをウェル52内から除去する。
【0062】
次に、ウェル52に、プローブ抗体81が認識するのと同じ抗原82の異なる抗原決定基を認識する抗体を蛍光体84で標識したもの(以下、蛍光標識抗体83という)の溶液(以下、蛍光標識抗体溶液という)を注入する。
プローブ抗体81に結合した抗原82と蛍光標識抗体83とが結合するのに充分な時間が経過した後、ウェル52内の蛍光標識抗体溶液をバッファー溶液で洗い流し、蛍光標識抗体溶液中の蛍光標識抗体83のうち抗原82と結合しなかったものをウェル52内から除去する。
以後、第1実施形態の〔9〕サンプルの検出と同様にして、分析装置70による光量データの計測動作を行う。
【0063】
図9に示すように、プローブ抗体81に抗原82が結合し、抗原82に蛍光標識抗体83が結合したスポット80では、励起光集光レンズ54によって各スポット80上に集光された励起光Lにより蛍光標識抗体83の蛍光体84が励起される。励起状態の蛍光体84が基底状態に遷移するときに蛍光Fが放出される。放出された蛍光Fは、ダブルゲートトランジスタ20により検出される。
【0064】
作業者は、RAMに記憶された各ダブルゲートトランジスタ20,20,…のそれぞれの光量データを出力装置77により出力することで得られた画像データより、各スポット80,80,…における抗原82の有無を確認することができる。このため、蛍光が検出されたスポット80のプローブ抗体81の種類により、検体内でどのようなタンパク質(抗原82)が生成されているかを直接確認することができる。
【0065】
[第2実施形態]
図10,図11は、本発明の実施形態に係る生体高分子分析チップ201,301の断面図である。図10の生体高分子分析チップ201はプローブDNA61を用いたスポット60により蛍光標識DNA62を検出するDNAチップであり、図11の生体高分子分析チップ301はプローブ抗体81及び蛍光標識抗体83により抗原82を検出する抗体チップである。
なお、第1の実施形態に係る生体高分子分析チップ1と同様の構成については下2桁に同符号を付して説明を割愛する。
【0066】
蛍光体64,84から放出される蛍光Fには指向性がないため、第1実施形態のダブルゲートトランジスタ20に入射する蛍光Fは僅かである。
そこで、本実施形態に係る生体高分子分析チップ201,301では、励起光吸収層133のダブルゲートトランジスタ120,120,…と対応する位置に、蛍光集光レンズ134が設けられている。蛍光集光レンズ134は蛍光体64,84より放出される蛍光Fをダブルゲートトランジスタ120に集光する。このため、蛍光体64,84より放出される蛍光Fをより感度よく検出することができる。したがって、励起光強度を従来よりも弱くすることができ、蛍光体64,84の退色を低減することができる。
【0067】
[第3実施形態]
図12,図13は、本発明の実施形態に係る生体高分子分析チップ501,601の断面図である。図12の生体高分子分析チップ501はプローブDNA61を用いたスポット60により蛍光標識DNA62を検出するDNAチップであり、図13の生体高分子分析チップ601はプローブ抗体81及び蛍光標識抗体83により抗原82を検出する抗体チップである。
なお、第1の実施形態、第2の実施形態に係る生体高分子分析チップ1と同様の構成については下2桁に同符号を付して説明を割愛する。
【0068】
本実施形態に係る生体高分子分析チップ501,601では、励起光吸収層433のダブルゲートトランジスタ420,420,…と対応する位置に、蛍光集光レンズ434が設けられている。蛍光集光レンズ434は蛍光体64,84より放出される蛍光Fをダブルゲートトランジスタ420に集光する。
【0069】
なお、第2実施形態に係る蛍光集光レンズ134は蛍光Fの入射側のみに凸部を有する凸レンズであったが、本実施形態に係る蛍光集光レンズ434は両面ともに凸部を有する凸レンズである。
また、第1実施形態及び第2実施形態に係る励起光集光レンズ54,154は励起光Lの入射側に凸部を有する凸レンズであったが、本実施形態に係る励起光集光レンズ454は両面ともに凸部を有する凸レンズである。
【0070】
本実施形態においても、第2実施形態と同様に、蛍光体64,84より放出される蛍光Fをより感度よく検出することができる。したがって、励起光強度を従来よりも弱くすることができ、蛍光体64,84の退色を低減することができる。
【0071】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0072】
例えば、上記実施形態では、プローブとして既知の塩基配列の一本鎖DNAや抗体を用いたが、その他の既知の生体高分子や低分子等を用いてもよい。例えば、抗原となるペプチドやタンパク、糖鎖、低分子リガンド、既知の細胞等を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施形態に係る生体高分子分析チップ1の概略平面図である。
【図2】図1の切断面II−IIに沿った矢視断面図である。
【図3】ダブルゲートトランジスタ20を示す平面図である。
【図4】図3のIV−IV矢視断面図である。
【図5】分析装置70の構成を示したブロック図である。
【図6】蛍光標識DNAをプローブDNA61とハイブリダイゼーションさせる方法についての説明図である。
【図7】蛍光標識DNAをプローブDNA61とハイブリダイゼーションさせる方法についての説明図である。
【図8】蛍光標識DNAの検出方法についての説明図である。
【図9】生体高分子分析チップ101を示す断面図である。
【図10】生体高分子分析チップ201を示す断面図である。
【図11】生体高分子分析チップ301を示す断面図である。
【図12】生体高分子分析チップ501を示す断面図である。
【図13】生体高分子分析チップ601を示す断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1,101,201,301,501,601 生体高分子分析チップ
10,110,410 固体撮像デバイス
20,120,420 ダブルゲートトランジスタ
33,133,430 励起光吸収層
54,154,454 励起光集光レンズ
60,80 スポット
61 プローブDNA
62 蛍光標識DNA
64,84 蛍光体
81 プローブ抗体
82 抗原
83 蛍光標識抗体
134,434 蛍光集光レンズ
F 蛍光
L 励起光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換素子と、
前記光電変換素子の受光面側に設けられ、特定の生体高分子と結合するプローブと、
前記光電変換素子の受光面と離間して設けられ、前記プローブと結合する生体高分子を標識する蛍光体に対して励起光を集光する励起光集光レンズと、
を備えることを特徴とする生体高分子分析チップ。
【請求項2】
前記励起光集光レンズとして、両面共に凸部を持つレンズを用いることを特徴とする請求項1に記載の生体高分子分析チップ。
【請求項3】
前記励起光集光レンズとして、励起光入射側のみに凸部を持つレンズを用いることを特徴とする請求項1に記載の生体高分子分析チップ。
【請求項4】
前記光電変換素子の受光面側には、前記蛍光体より放出される蛍光を透過しかつ励起光を吸収する励起光吸収層が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の生体高分子分析チップ。
【請求項5】
前記光電変換素子の受光面側には、受光面に前記蛍光体より放出される蛍光を集光する蛍光集光レンズが設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の生体高分子分析チップ。
【請求項6】
前記蛍光集光レンズとして、両面共に凸部を持つレンズを用いることを特徴とする請求項5に記載の生体高分子分析チップ。
【請求項7】
前記蛍光集光レンズとして、蛍光入射側のみに凸部を持つレンズを用いることを特徴とする請求項5に記載の生体高分子分析チップ。
【請求項8】
前記蛍光集光レンズは前記蛍光体より放出される蛍光を透過しかつ励起光を吸収することを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の生体高分子分析チップ。
【請求項9】
前記プローブは既知の塩基配列を有する一本鎖DNAであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の生体高分子分析チップ。
【請求項10】
前記プローブは特定の抗原と結合する抗体であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の生体高分子分析チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−175712(P2008−175712A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9976(P2007−9976)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】