説明

生体高分子溶液処理用容器及び生体高分子溶液処理方法

【課題】
容器の内部に分注手段であるピペットチップ等が進入し、溶液等の吸引・吐出時の飛沫やエアロゾルの飛散を抑制し、かつ、使用後の溶液の蒸発や転倒時の液の漏れ出しを防止することが可能な容器及び方法にかかる発明を提供すること。
【解決手段】
本発明にかかる生体高分子溶液処理用容器は、液体を保持する容器と、前記容器の上端部にある少なくとも1つの開口部を密封する蓋部材とを含む生体高分子溶液処理用容器であって、前記蓋部材が、開封された後でも少なくとも一回再密封できることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体高分子、特に核酸の処理を対象とする分析や診断に必要な増幅や精製等の操作を行う際に使用する生体高分子溶液処理用容器、及び該生体高分子溶液処理用容器を使用した生体高分子溶液処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感染性のある微生物の検出や特定塩基配列を決定するために、核酸増幅反応が広く利用されている。その中で最も利用されているのは、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR」と称する)である。PCRに代表される核酸増幅反応は1分子からの増幅も可能な高感度な方法である故に、僅かな核酸の汚染によって偽陽性を生ずる場合がある。
【0003】
このような汚染は、容器のキャップの開閉時や分注操作時に発生する溶液の飛沫やエアロゾルに含まれる核酸によるものだと考えられている。操作が行われる容器の外部に溶液の飛沫やエアロゾルが飛散することによって、他の試料、装置、実験室が汚染され、クロスコンタミネーションやキャリーオーバーが発生する。このような汚染を防ぐために、当該分野の研究者らは、反応溶液の調製、増幅反応、検出工程等をそれぞれ物理的に隔てられた空間において、専用の手袋、ピペット等を用いて実施している。
【0004】
しかしながら、この対策は、煩雑であるばかりか、費用、空間の確保という観点からも非常に厳しい制約となる。特に、多数の試料を同時に分析する場合は装置による自動操作が望まれるが、自動装置で物理的に隔てられた空間を確保することは大きな課題である。
【0005】
また、核酸増幅反応は単独で実施されることは少なく、生体試料から鋳型となる核酸を抽出する操作や反応後の未反応物を除去する操作など、核酸を精製する操作と組み合わせて実施されることがほとんどである。核酸の精製には、シリカあるいはイオン交換体など、特定の溶媒組成下で、核酸を可逆的に吸着又は溶出することができる物質を固定した担体を用いる方法が使用されている(特許文献1ないし3参照)。
【0006】
特に、シリカあるいはイオン交換体をコートした磁性ビーズは、液体分注手段による溶媒の置換、磁石による磁性ビーズの捕集によって、一連の操作が成立するため、自動装置の構成を簡略化することが可能である。
【0007】
しかしながら、自動装置で精製を行う場合、各試薬を分注する際の蓋の開閉や攪拌時の汚染が課題である。多くの場合、輸送時の試薬汚染や蒸発を防止するため、容器の上端部にある開口部はアルミシート等の蒸気を通さない物質で覆われている。上端部を覆うシートをカッター等で貫通し、ピペット等の液体分注手段が通過する穴を確保することによって、複雑な蓋の開閉機構を設けることなく、容器内部の液体を吸引又は吐出することができる。
【0008】
しかしながら、円滑に液体分注手段の通過ができる状態では、液体分注手段とシートに形成された穴との間には空間が生じるため、溶液の吸引または吐出による攪拌時に、溶液の飛沫やエアロゾルなどの外部への飛散を防ぐことができない。また、液体分注手段を取り外した後は、シートに形成された穴が開放されたままになるため、残った溶液の蒸発や転倒時の溶液の漏れ出しを防ぐことができない。
【0009】
特に、PCR等の核酸増幅反応を行った溶液及び該溶液と接触した溶液を試料として用いる場合、高濃度の核酸が含まれるため、溶液の飛沫やエアロゾルの飛散は大きな影響を与える。これらの課題を解決する先行技術としては、液体分注手段の吸引または吐出時に開口部を物理的に遮断することによって、溶液の飛沫やエアロゾルの外部への飛散を防止する方法がある。
【0010】
特開2001−74751号公報では、ピペットチップが貫通できる板状の蓋体を使用することで、液体の吸引または吐出時に発生する溶液の飛沫やエアロゾルの外部への飛散を防止する方法が開示されている。しかしながら、該方法では、吸引または吐出時の飛散を抑制することができるものの、使用後の開口部は開放状態のままであり、残った溶液の蒸発や転倒時の液の漏れ出しを防止することができない。また、蓋体に付着した液滴がピペットチップの移動の際に飛散する可能性も否定できない。
【0011】
特開2003−329688号公報では、穿刺された孔を自らの弾性によって閉止可能な材料でできたキャップを用いる方法が開示されている。該方法では、液体分注手段と孔との間に隙間がほとんど生じず、使用後は自己の弾性によって密封状態となるため、使用時の液体の飛沫やエアロゾルの飛散、使用後の蒸発、及び転倒時の漏れ出し等を防止することができる。
【0012】
しかしながら、穿刺された孔を自己の弾性で閉止可能な材料を使用する場合、材料の弾性、厚みを高める必要があり、液体分注手段を挿入または除去する際に蓋体との摩擦が大きくなってしまう。そのため、液体分注手段が金属でできたニードル等に制限されてしまう。金属製のニードルはプラスチック製のピペットチップ等と比較して高価であり、交換が難しいなどの欠点があり、僅かな汚染で結果が左右される核酸増幅検査には適していない。
【0013】
一方、特開2006−124035号公報では、放射状のスリットを有する弾性体シートで開口部を覆う方法が開示されている。該方法は、ピペットチップが下降すると弾性体が下方に押し開かれ、容器内部の液体を吸引または吐出することが可能となる。吸引または吐出時には、弾性体がピペットの外周に纏わり付いているため、溶液の飛沫やエアロゾルの外部への飛散を抑制することが可能である。
【0014】
また、ピペットチップを抜き去った際は、下方に押し開かれたシートが弾性によって水平状態に復帰するため、再度、開口部を覆うことが可能となる。しかしながら、該方法では、スリットを有するが故に、わずかな隙間からの蒸発を遮断することができず、また、転倒時には、溶液が漏れ出す可能性がある。
【特許文献1】米国特許第5234809号明細書
【特許文献2】欧州特許第0389063号明細書
【特許文献3】欧州特許第1036082号明細書
【特許文献4】特開2001−74751号公報
【特許文献5】特開2003−329688号公報
【特許文献6】特開2006−124035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前記のように、容器の内部に分注手段であるピペットチップ等が進入し、溶液等の吸引または吐出時の溶液の飛沫やエアロゾルの飛散を抑制し、かつ、使用後の溶液の蒸発や転倒時の液の漏れ出しを防止することが可能な生体高分子溶液処理用容器、及びその容器を用いた核酸等の生体高分子溶液の処理方法が待たれる。
【0016】
そこで、本発明は、容器の内部に分注手段であるピペットチップ等が進入し、溶液等の吸引または吐出時の溶液の飛沫やエアロゾルの飛散を抑制し、かつ、使用後の溶液の蒸発や転倒時の液の漏れ出しを防止することが可能な容器及び方法にかかる発明を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明にかかる生体高分子溶液処理用容器は、液体を保持する容器と、前記容器の上端部にある少なくとも1つの開口部を密封する蓋部材とを含む生体高分子溶液処理用容器であって、前記蓋部材が、開封された後でも少なくとも一回再密封できることを特徴とする。
【0018】
本発明にかかる前記容器を用いる生体高分子溶液処理方法は、液体を保持する容器と、前記容器の上端部にある少なくとも1つの開口部を密封し、かつ開封された後でも少なくとも一回再密封できることを特徴とする生体高分子溶液処理用容器を使用した生体高分子溶液処理方法であって、(1)液体分注手段によって、前記容器の内部に保持されている液体を吸引する又は前記容器の内部に液体を吐出するいずれかの工程と、(2)前記生体高分子溶液処理用容器を加熱する工程と、を含むことを特徴とする。
【0019】
(定義)
本発明でいう「開封された後でも少なくとも一回再密封できること」とは、本来密封状態にある蓋部材が穿刺、貫通されることなどによって開封された後に再度密封の状態になることを意味する。その一例としては、後述するように、蓋部材に配置されているスリットが貫通された後に、前記スリットが配置された蓋部材の表面に設けられている再密封用物質が加熱によって融解され、前記スリットの隙間を閉塞することによって、当該蓋部材を再度密封した状態にすることが挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、容器の内部に分注手段であるピペットチップ等が進入し、溶液等を吸引または吐出する際の溶液の飛沫やエアロゾルの飛散を抑制し、かつ、分注手段を取り外した後の溶液の蒸発や転倒時の溶液の漏れ出しを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明にかかる生体高分子溶液処理用容器及び該生体高分子溶液処理用容器を使用した生体高分子溶液処理方法の好ましい実施の形態について説明する。ただし、本発明の技術的範囲は何らこれに限定されるものではない。
【0022】
本発明にかかる生体高分子溶液処理用容器は、液体を保持する容器と、前記容器の上端部にある少なくとも1つの開口部を密封する蓋部材とを含む生体高分子溶液処理用容器であって、前記蓋部材が、開封された後でも少なくとも一回再密封できることを特徴とする。本発明の第1実施形態は、図1に示すとおりである。
【0023】
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態の断面図が示されている。本実施形態の容器は、生体高分子、特に核酸溶液処理用のもので、液体を保持することが可能な容器であればよく、特に好ましくはウェルである。本実施形態で用いるウェルは、当該技術領域において通常に用いられるウェルプレートを構成する個々の液体保持部(図2の12)であることを意味する。本発明のウェルの材質は、内部に保持する試薬に悪影響を与えなければ特に制限はないが、特にプラスチック製のウェルが好ましい。たとえば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンからなる群から選んだ材料、あるいはそれらの混合物で形成されていることが好ましい。
【0024】
ウェルを単独で使用することもできるが、核酸増幅検査等で行われる操作では多種類の液体を使用することが多いため、複数のウェルが連結したウェルプレートのような容器を用いることが好ましい。図2(a)は2つのウェルを有するウェルプレート11の平面図を、図2(b)はその断面図を示す。ウェルプレート11は、液体を保持することが可能な液体保持部12とその上端部にある開口部13を有するプラスチック製の容器である。
【0025】
ウェルの個数は特に制限されないが、核酸増幅検査等で行われる処理は多数の液体試薬を使用するため、少なくとも2つ以上のウェルが連結されていることが好ましい。また、現代の核酸処理では機械による自動化が進んでいるため、本発明の容器(ウェル)は全自動化もしくは半自動化に対応できるような2以上の容器(ウェル)の集合体を用いることができる。
【0026】
本発明の容器に保持される液体は、生体高分子溶液及び当該生体高分子を処理するために必要とされる全ての試薬である。本発明で処理する生体高分子は、デオキシリボ核酸(DNA:Deoxyribonucleic acid)、リボ核酸(RNA:Ribonucleic
acid)等の核酸、蛋白質、アミノ酸等であり、特に核酸であることが好ましい。
【0027】
生体高分子溶液を処理するために必要とされる試薬とは、処理目的等によって異なるが、たとえば、PCR法で核酸の増幅処理を行うときには、そのために必要な核酸増幅試薬である。すなわち、DNAを増幅する場合、その塩基成分(アデニン、シトシン、グアニン及びチミンの4種)と糖(2-デオキシ-D-リボース)から成る4種のモノヌクレオチド(すなわち、デオキシアデノシン5'―三リン酸、デオキシシチジン5'―三リン酸、デオキシグアノシン5'―三リン酸及びデオキシチミジン5'―三リン酸)(一般に、これら4種のモノヌクレオチドを総称して、「dNTPs」という。)、又は、デオキシイノシン5'―三リン酸等も含んでよい。RNAを合成する場合に必要な試薬は、塩基成分(アデニン、シトシン、グアニン及びウラシルの4種)と糖(リボース)から成る4種のモノヌクレオチドであり得る。
【0028】
また、核酸の精製に必要な物質を核酸精製試薬として含むことができる。たとえば、核酸を可逆的に吸着又は溶出することができる物質を固定した担体を用いる方法の場合に使用するシリカあるいはイオン交換体などが例として挙げられる。
すなわち本発明においては、容器に保持される液体が核酸溶液と、核酸増幅試薬及び核酸精製試薬からなるグループから選択される少なくとも一種類の試薬とであることが好ましい。
【0029】
本発明の前記容器は上端部に開口部を少なくとも1つ有する。当該開口部の形状は特に限定されたものではなく、円形、楕円形、三角形もしくは多角形等であって、ピペットチップ等の液体分注手段による液体の吸引又は吐出等に対して障害にならない形状であればよく、本発明においては特に円形であることが好ましい。
【0030】
本発明においては、蓋を開閉するための煩雑な作業や機構を必要とせず、ピペットチップ等の液体分注手段が容易に容器内部に進入可能とするために、容器の上端部にある前記開口部には、蓋部材を設けることが好ましい。当該蓋部材は、当該容器(ウェル)に保持されている液体を容器(ウェル)の外に漏らさないために、機械的又は化学的な接着によって、本発明の開口部に離脱不可に固定される。
【0031】
本発明では、化学的接着とは、2つの結合部分間に、粘着剤もしくは接着剤、好ましくは液体接着剤を用いて接着することを意味する。一方、機械的接着とは、表面の性質、たとえば、多孔質又は繊維質表面の微視的なかみ合い(たとえば、ベルクロ式閉鎖)で、又は、溶着等の方法で接着させることを意味する。
【0032】
また、当該蓋部材は、輸送や一時的な保存時の蒸発や汚染を防止するため、蒸気を通さない材料であることが好ましい。本実施形態では、当該蓋部材が弾性シート状物質からなる部材であることが好ましい。ここで、当該弾性シートは、使用する試薬を通さない材料であれば良く、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、天然ゴム、シリコーンゴム、ブロモブチルゴム、クロロブチルゴム等からなる群から選んだ材料が好ましい。また、これらの材料の混合物又はこれらの材料の少なくとも2つの異なる層から作製したシートであっても良い。
【0033】
図3(a)は本実施形態で用いる弾性シート21の平面図を、図3(b)はその断面図を示している。本発明において最も好ましい弾性シート21はシリコーンシートである。
【0034】
本実施形態において、前記蓋部材にスリットが設けられていることが好ましい。特に弾性シートに放射状のスリットが設けられていることが好ましい。図3に示すように、弾性シート21は、ウェルプレート11の開口部13と位置が合うように形成されたスリット22を有する。スリット22は、弾性シート21に対する線状の切り込みであり、スリット22が弾性シート21の厚み全体を貫いてもよい。核酸増幅や核酸精製等の処理前に完全密封状態を保持するために、スリット22の深さがシート21の厚さ未満であることが好ましい。また、スリット22がミシン目のような構造となってシート21の上に設けられることもできる。
【0035】
スリット22が完全に貫かない場合では、完全な密封状態を保持するために、放射状のスリット22の線が交差する中心点23を貫通しないことが好ましい。また、後にピペットチップ等の液体分注手段が容易に貫通するためには、放射状のスリット22の線が交差する中心点23のみを貫通してもよい。この場合では、当該貫通された中心点23は、蓋部材である弾性シートの弾性によって、閉止することができるため本発明の容器内に保持されている液体の蒸発や漏れ出しを防ぐことができる。
【0036】
特に、前記ピペットチップ等の液体分注手段が中心点23から当該容器(ウェル)に挿入される場合、弾性シート21が貫通していないスリット22に沿って必要最小限に引き裂かれる。そのため、貫通していないスリット22の切り込みの深さが弾性シート21の厚みの少なくとも50%から90%までであることが好ましい。なお、本実施形態において、スリット22を設けているシート21は液体分注手段によって容易に引き裂かれるため、前記液体分注手段が金属でできたニードルに限定することなく、通常のピペットチップを用いることができる。
【0037】
スリット22は、弾性シートの厚さ方向に対して、図7のように斜めに入っていれば、切断面の接触面積を増大することができる。すなわち、ピペットチップ等の液体分注手段によって引き裂かれたスリット22と当該ピペットチップとの間の密封性と、又は引き裂かれたスリット22が水平状態に復元した際の密封性とを高めることができるため、斜めの切断面はより好ましい形態である。
【0038】
スリット22は、ピペットチップ等の液体分注手段の進入の障壁とならずに容易に通過でき、かつ、水平状態に復元した際に密封性を保つことができれば、特に制限されないが、少なくとも2本が各スリットの中点で交差し、放射状に形成されていることが好ましい。また、押し下げられた弾性シート21と液体分注手段との間に生じる間隙を最小限にするため、3本以上のスリット22を有することがより好ましい。本実施形態は、図3に示すようにスリットが4本で構成されている。スリット22が2本以上ある場合は、それぞれのスリット22の線が同じ長さであってもよく、異なる長さであってもよい。
【0039】
スリット22の線の長さは液体分注手段が通過できれば特に制限はないが、密封性を保つためには、開口部13の内径よりも小さいことが好ましい。また、放射状のスリット22を有する弾性シート21は単独で使用してもよいが、スリット22の間の僅かな隙間を塞ぐため、複数枚を重ねて使用しても良い。この際、各弾性シート21のスリット22同士が中心点23以外は重ならないように配置することが好ましい。
【0040】
本発明の好ましい蓋部材の厚さは、通常の分注手段であるピペットチップを容易に挿入することができるぐらいの厚さであればよい。たとえば、弾性シートを用いる場合に、スリット22との関係で、ピペットチップが容易に挿入するぐらいの厚さであればよい。本実施形態では、150μm以下であり、好ましくは40μmから100μmまでであることが好ましい。
【0041】
本実施形態では、弾性シート21の上にさらにクランプ31を設けることが好ましい。図4(a)はクランプ31の平面図を、図4(b)はその断面図を示している。クランプ31は分注手段であるピペットチップ進入または除去時の核酸処理容器の浮き上がりの防止、及びスリット22を閉塞する後述する再密封用物質の固定に使用される。
【0042】
クランプ31はウェルプレート11の開口部13と位置が合うように形成された空孔32を有する。空孔32の内径はピペットチップで分注する際の妨げとならなければ特に制限されないが、開口部13の内径と同じであることが好ましい。また、クランプ31は製作コストを考えると、プラスチック製であることが好ましいが、鉄、アルミニウム等の金属製であっても良い。
【0043】
前記液体分注手段は汚染されない工夫が施されていることが好ましく、液体が直接に接触する部分は交換可能であることが好ましい。具体的には、分注機に設けられたノズルからの着脱が可能なピペットをノズルに装着して用いることが好ましく、本実施形態は、プラスチック製のピペットチップを介して分注が行われることが好ましい。特に、分注機本体の汚染を防止するため、エアロゾル耐性ピペットチップを用いることが好ましい。
【0044】
蓋部材(弾性シート21)の少なくとも1つの表面に前記蓋部材を再密封する再密封用物質4が設けられているので、蓋部材(弾性シート)が開封された後でも少なくとも一回再密封することができる。液体分注手段による吸引または吐出操作によって、スリット22の一部もしくは全部が貫通されることによる溶液蒸発や転倒時の溶液の漏れ出しを防止するために、再密封用物質4はスリット22を物理的に閉塞し、弾性シート21を再密封する。
【0045】
本実施形態では、貫通されたスリット22によって開封された弾性シート21を少なくとも一回再密封させる。よって、液体分注手段による吸引または吐出操作後に溶液蒸発や転倒時の溶液の漏れ出しを防止する。図5(a)は再密封用物質4の平面図を、図5(b)はその断面図を示している。
【0046】
本実施形態では、再密封物質4を予め所定の形状に加工する。再密封用物質4の形状加工は、再密封用物質4を融点以上に加熱した後、所望の形状に成型可能な型に流し込んだ後に、再密封用物質4の融点以下に冷却することで達成し、また、切削等の他の方法によって行っても良い。
【0047】
加熱時に容器内部の液体から発生する蒸気のことを考えると、再密封用物質4は、融点が低い物質であることが好ましい。また、特別に冷却が必要な試薬を用いる場合は除くが、液体の分注は通常、室温管理された環境(20〜25℃)で行われることが多いことから、再密封用物質4は少なくとも26℃以上の融点を有する物質であることが好ましい。本発明においては、特に融点が27℃〜30℃の物質を用いることが好ましい。これらの性質を有する物質としては、例えば、ポリオレフィン系ワックス、パラフィン系ワックスなどの比較的低い融点を有するワックスが挙げられ、これらのうちの一種類の物質またはこれらの物質の混合物を使用することも可能である。
【0048】
再密封用物質4は、固体の状態でウェルプレート11の弾性シートの外表面に具備され、加熱で融解されスリット22に沿ってスリットの交差中心点23に到達してスリットを閉塞させる状態となれば、加熱を続ける必要はない。融解後に加熱を止め、融点以下とすることで、再び凝固し固体状態となり、弾性シート21の表面に凝固した固体状の膜を形成することができる。また、本実施形態において、再密封用物質4を融解させるための加熱は、再密封用物質4が設けられている弾性シート21の表面、又はウェルの上端部に対して直接的もしくは間接的に加熱することが好ましい。
【0049】
再密封用物質4は、液体分注手段による溶液の吸引または吐出操作の障害とならず、また、操作終了後にスリット22を閉塞させる部位に配置されることが好ましい。たとえば、弾性シート21の外表面(ウェルプレート11に向いていない表面)の、スリット22の外径と開口部13の内径との間に配置されることが好ましい。また、図5に示しているようなドーナツ状であることが好ましい。ドーナツ状に加工した再密封用物質4は、その外周が空孔32の内壁に接する位置に配置されることが好ましい。
【0050】
また、弾性シート21を2枚以上使用する場合に、再密封用物質4を当該2枚重ねの弾性シート21の間に設けることができる。ただし、この場合において、本発明で処理する生体高分子溶液及びそのための試薬が再密封用物質4と接触しないように、再密封用物質4は弾性シート21間でも、図5に示しているように、ドーナツ状に配置されることが好ましい。
【0051】
弾性シート21の外表面に配置された再密封用物質4と弾性シート21とを保護するため、さらにその外側(上層)に保護シートなどが配置されても良い。本実施形態において、その保護シートはアルミシートを用いることができるが、それに限定されたものではない。図6(a)はアルミシート5の平面図を、図6(b)はその断面図を示す。アルミシート5は、表面を保護することが可能であり、ピペットチップ等の分注手段で容易に貫通することが可能であれば、アルミシートに限定されない。
【0052】
本発明にかかる当該容器を用いる生体高分子溶液処理方法は、液体を保持する容器と、前記容器の上端部にある少なくとも1つの開口部を密封し、かつ開封された後でも少なくとも一回再密封できることを特徴とする生体高分子溶液処理用容器を使用した生体高分子溶液処理方法であって、(1)液体分注手段によって、前記容器の内部に保持されている液体を吸引する又は前記容器の内部に液体を吐出するいずれかの工程と、(2)前記生体高分子溶液処理用容器を加熱する工程と、を含むことを特徴とする。
また、(1)の工程が前記密封用物質の融点未満で行われること、かつ、(2)の工程の加熱する温度が前記再密封用物質の融点以上であることが好ましい形態である。
【0053】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態は、第1実施形態で説明した生体高分子溶液処理用容器を用いる生体高分子溶液処理方法であり、(1)液体分注手段によって、前記容器の内部に保持される液体を吸引するもしくは吐出するいずれかの工程と、(2)前記生体高分子溶液処理用容器を加熱する工程とを含む生体高分子溶液処理方法である。
【0054】
第2実施形態において、前記液体分注手段が分注機に設けられたノズルに装着されるピペットチップを介して行われることが好ましく、また当該ピペットチップは前記ノズルから着脱可能であることが好ましい。特に全自動化もしくは半自動化に対応できるピペットチップ、又は、全自動化もしくは半自動化に対応できるノズルから着脱可能なピペットチップであることが好ましい。
【0055】
第2実施形態において、生体高分子溶液処理用容器の蓋部材には、再密封用物質4が設けられているため、工程(1)は再密封用物質4の融点未満において行うことが好ましく、具体的には25℃以下で行うことが好ましい。また、工程(2)は容器を再密封するための工程であるので、前記再密封用物質4を融解するために融点以上に加熱する必要がある。よって、工程(2)は26℃以上において行うことが好ましく、特に27℃、28℃、29℃あるいは30℃のいずれかの温度で行うことが好ましい。なお、30℃以上の加熱は本発明から除外されているわけではなく、使用する再密封用物質4によって、適宜に調整することができる。
【0056】
また、本実施形態において、再密封用物質4を融解させるための加熱は、生体高分子溶液処理用容器(ウェル)を加熱する工程によって行われる。特に、再密封用物質4が設けられている弾性シート21の表面、又はウェルの上端部に対して直接的もしくは間接的に加熱することが好ましい。
また、スリットを有する弾性シート21の内側にアルミシート5を設けてもよい。この場合、スリットを有する弾性シート21は再密閉の際の型枠となるので、スリット22は予め貫通している構成であってもよい。
【0057】
第2実施形態における工程(2)の加熱は、核酸等の生体高分子の増幅等における加熱とは異なるものである。たとえば、PCRによる核酸を増幅する場合の加熱工程は、通常再密封用物質4の融点以上で行うため、再密封用物質4を融解させるための加熱工程を別途することなく、PCRの加熱工程と一緒に行うことができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)核酸処理容器の作製
96ウェルPCRプレート(AxyGen社の製品)に超純水200μLを分注した。各ウェルプレートの開口部の位置に合うように、4本のスリットを放射状に形成したシリコーンシートでウェルプレート上端部の開口部を覆った。前記シリコーンシートはウェルプレート側の面に粘着剤を塗布しているため、ウェルプレート上に固定することができる。さらに、ウェルプレートの開口部と同じ位置に空孔を有するプラスチック製のクランプをシート上部から固定した。
【0060】
次に、ドーナツ状に加工されたポリオレフィン系ワックスであるCPAO−1(融点28℃、出光興産(株)社の製品)をクランプの空孔に配置した。ドーナツ状のCPAO−1は、融点以上に加熱されて液体となった状態でドーナツ状を有する型に流し込み、融点以下に冷却することで作製した。ドーナツ状CPAO−1の中心部(図5の点41)とスリットの交差点(図3の点23)が重なるように配置することで、ピペットチップによる吸引または吐出作業時の障害とならないようにした。最後に、表面を保護するためのアルミシートを貼り付け、所望の核酸処理容器を得た。
【0061】
上記手順によって作製した核酸処理容器をピペットチップで貫通し、内部の超純水を攪拌したところ、溶液の飛沫等が容器外部へ飛散することはなかった。また、分注終了後に、核酸処理容器の上端部を30℃に加熱し、CPAO−1を融解することでスリットを閉塞した。スリット閉塞後、室温(25℃)で48時間放置したが、核酸処理容器の重量変化はほとんどなく、内部の溶液の蒸発はほとんど確認されなかった。
【0062】
(実施例2)核酸処理容器を使用した核酸処理方法
実施例1の手順に従い、核酸精製試薬を保持した核酸処理容器を作製した。核酸精製試薬には、ChargeSwitch PCR Clean-Up System(インビトロジェン株式会社の製品)を使用し、PCR反応後の試料の精製操作を行った。使用済みの各ウェルは上部を加熱し、スリットを閉塞した。
【0063】
各試薬を使用する際に、溶液の飛沫が外部へ飛散することは確認されなかった。また、スリット閉塞の後に核酸処理容器の重量はほとんど変化せず、内部の溶液の蒸発はほとんど確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、生体高分子、特に核酸の増幅及び精製などの処理を行う際に好適な容器を提供する。また、当該容器を使用した処理方法を提供する。当該容器及び方法は、前記処理を自動装置で行う場合に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1実施形態における核酸処理容器の構成を示す断面図である。
【図2】(a)は本発明の第1実施形態における核酸処理容器を構成するウェルの平面図、(b)はその断面図である。
【図3】(a)は本発明の第1実施形態における核酸処理容器を構成する弾性シートの平面図、(b)はその断面図である。
【図4】(a)は本発明の第1実施形態における核酸処理容器を構成するクランプの平面図、(b)はその断面図である。
【図5】(a)は本発明の第1実施形態における核酸処理容器を構成するスリットを閉塞する物質の平面図、(b)はその断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態における核酸処理容器を構成するアルミシートの平面図及び断面図である。
【図7】本発明の第1実施形態における、弾性シートの厚さ方向に対して斜めの貫通していないスリットの切断面である。
【符号の説明】
【0066】
4:再密封用物質
5:アルミシート
11:ウェルプレート
12:液体保持部
13:開口部
21:弾性シート
22:スリット
23:中心点
31:クランプ
32:空孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を保持する容器と、前記容器の上端部にある少なくとも1つの開口部を密封する蓋部材とを含む生体高分子溶液処理用容器であって、前記蓋部材が、開封された後でも少なくとも一回再密封できることを特徴とする生体高分子溶液処理用容器。
【請求項2】
前記容器に保持される液体が核酸溶液と、核酸増幅試薬及び核酸精製試薬からなるグループから選択される少なくとも一種類の試薬とであることを特徴とする請求項1に記載の生体高分子溶液処理用容器。
【請求項3】
前記蓋部材が弾性シート状物質からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の生体高分子溶液処理用容器。
【請求項4】
前記蓋部材に少なくとも1つスリットが設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の生体高分子溶液処理用容器。
【請求項5】
前記蓋部材の少なくとも1つの表面に前記蓋部材を再密封する再密封用物質が設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の生体高分子溶液処理用容器。
【請求項6】
前記再密封用物質の融点は26℃であることを特徴とする請求項5に記載の生体高分子溶液処理用容器。
【請求項7】
前記再密封用物質が、パラフィン系ワックス及びポリオレフィン系ワックスからなるグループから選択される少なくとも一種類の物質であることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の生体高分子処理用容器。
【請求項8】
前記請求項1から請求項7に記載のいずれか1項に記載の生体高分子溶液処理用容器を使用した生体高分子溶液処理方法であって、
(1)液体分注手段によって、前記容器の内部に保持されている液体を吸引する又は前記容器の内部に液体を吐出するいずれかの工程と、
(2)前記生体高分子溶液処理用容器を加熱する工程と
を含むことを特徴とする生体高分子溶液処理方法。
【請求項9】
前記液体分注手段が分注機に設けられたノズルに装着されるピペットチップを介して分注を行うことを特徴とする請求項8に記載の生体高分子溶液処理方法。
【請求項10】
前記ピペットチップは前記ノズルから着脱可能であることを特徴とする請求項9に記載の生体高分子溶液処理方法。
【請求項11】
前記(1)の工程が前記密封用物質の融点未満で行われること、かつ、前記(2)の工程の加熱する温度が前記再密封用物質の融点以上であることを特徴とする請求項8ないし請求項10のいずれかに記載の生体高分子溶液処理方法。
【請求項12】
前記(1)の工程が25℃以下で行われることと、前記(2)の工程の加熱する温度が26℃以上であることとを特徴とする請求項8ないし請求項11のいずれかに記載の生体高分子溶液処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−99036(P2010−99036A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274957(P2008−274957)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】