説明

生分解性の成形可能材料

イプシロンカプロラクトンのホモポリマーを含む成形可能な、生分解性医療材料。この材料は移植片、特に生体内の生物組織内の不規則な形の腔を充填する移植片として有用である。イプシロンカプロラクトンのホモポリマーはイプシロンカプロラクトンモノマーをチタンアルコキシド触媒の存在下で重合することによって製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に記載の生分解性移植片材料に関するものである。
この種の移植片は一般に生分解性イプシロンカプロラクトンポリマーを含む。
本発明はさらに、イプシロンカプロラクトンポリマーの請求項11の前提部分に記載の製造方法および材料の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
種々の移植片材料は整形外科で使用されることが多い。例えば関節置換術、一般に人工股関節および人工膝関節全置換術に使用可能ないくつかの生体適合性移植片がある。さらに、骨部の置換用および骨欠損の治療用移植片、および、軟組織の治療用、その他の移植片、腱および靭帯を骨に固定するための移植片などもある。このような移植片の例としては、ロッドおよびプレート並びに固定器具、例えばネジ、スパイク、縫合糸、スレッドおよびワイヤが挙げられる。移植片材料はその生分解性によって大きく2つのグループに分けることができる。すなわち、生物学的安定性(非分解性材料)、例えばチタン、外科用鋼および骨セメントのグループと、人体または動物体の生物環境で一部または全部が分解する生分解性のグループである。最も一般的な生分解性移植片材料としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコリド(PGL)およびポリカプロラクトン(PCL)が挙げられる。これらの生分解性材料で製造された市販の移植片の大部分は、現在、予備成形された形、例えばネジ、プレート、ネットまたはスレッド(縫合糸、ワイヤ)で使用されている。
【0003】
骨欠損の治療、骨の除去セグメントの置換、骨基質内の腔の充填用に推奨される現在使用可能な成形可能な自己凝固材料は、例えばカルシウム三リン酸またはヒドロキシアパタイトをベースにしている。これらはネジアンカーまたは固定補助器具として用いるには硬度または剛性が不十分である。最も一般的な自己強化または自己凝固材料である骨セメントは、主として、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)で形成される。その使用に関しては明らかに少なくとも2つの問題がある。すなわち、第1に製造中に毒ガスが放出され、第2に材料の凝固が多量の熱を発生させる発熱反応で、周囲組織に局部損傷を引き起こす可能性があることである。PMMAはいくつかの用途で必要とされる生分解性材料ではない。PMMAは骨より硬いので、生体内で骨に摩耗作用を与える可能性もある。一般に、PMMAは非常に強靭な化合物であるので、取り付け後の矯正作用および硬化は難しい。また、PMMAは非常に硬いため硬化後は穿孔も難しい。
【0004】
生分解性材料は上記目的のために商業的に利用されていない。理由の一つは公知の生分解性材料は厳しい用途に必ずしも十分ではない機械特性および溶融加工性しか有していないためである。従って、不規則な形の孔を充填できるとともに、所望の任意の形状に容易に成形することができる完全かつ制御下に生分解可能な材料に対するニーズが存在している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来法の問題の少なくとも一部を無くした新規な生分解性の移植片と、この移植片に適した材料の製造方法と、この材料の医学用途での使用を提供することにある。
本発明の目的は特に、取り付けるために加熱・可塑化でき、冷却後に機械的耐久性のある中実な移植片へ凝固し、約1カ月から数年の期間後に生物環境中で分解する移植片材料を提供することにある。取り付けた材料の表面層が初期硬化後に容易に再成形できることも重要である。この再成形は周囲組織や他の移植片へ空間を提供する場合や、修正作業の際に必要になる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、イプシロンカプロラクトンのホモポリマーから優れた機械特性と良好な成形性とを有する生分解性の材料を製造できるという発見に基づいている。
多量のラクチドモノマーおよび/またはグリコリドモノマーを含む生分解性材料でコモノマーとしてイプシロンカプロラクトンモノマーを使用すること自体は公知であるが、イプシロンカプロラクトンのホモポリマーそのものを骨および骨欠損の置換移植片として使用することおよび骨および軟組織の欠損の治療で成形可能かつ硬化可能な移植片材料に適しているということを示唆するものは従来技術には全く存在しない。
【0007】
本発明では、イプシロンカプロラクトンのホモポリマーをベースにした移植片材料が提供される。このホモポリマーは一般に固有粘度が0.4〜1.9dL/gである。特に好ましい実施例で成形可能な生分解性移植片材料として用いられるホモポリマーは固有粘度が0.7〜1.0dL/gである。
【0008】
本発明のポリマーはイプシロンカプロラクトンモノマーを高温で液相中でチタンアルコキシド触媒と接触させる方法で製造できる。本発明の移植片材料は種々の医学および獣医学の用途で有用である。特に重要なのは不規則な形の孔(腔、キャビティー)を充填するための新規材料としての使用と、生物材料中、例えば骨中の他の移植片の支持体材料としての使用である。
【0009】
本発明の成形可能な生分解性移植片は主として請求項1の特徴部分によって特徴付けられる。
本発明方法は請求項11の特徴部分によって特徴付けられる。
本発明の使用は請求項15の特徴部分によって特徴付けられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明には多くの利点がある。すなわち、本発明の新規材料は、以下で詳細に説明するように、容易に成形が可能で、材料を使用直前に成形する必要がある用途で使用することができる。また、本発明の新規材料はネジやプロテーゼの支持体材料として使用することが可能な優れた機械特性を有する。本発明材料は大量生産が容易であるので、成形可能な硬化支持体材料として人体または動物の従来の外部医療用石こう(プラスター)の代わりに使用するのにも適している。
【0011】
本発明の新規移植片は溶融相で注入または拡布することで取り付け(apply)でき、冷却すると硬化する。本発明材料の硬度および弾性はポリマーの分子量および分子量分布を調節することで調整できる。さらに、本発明の移植片の生体適合性、空隙率および生体液中および生物環境中での溶解度/溶解性は生体活性ガラス、可溶性繊維、抗生物質、その他の生物学的適合活性材料等を移植片本体中に混和することによって変えることができる。
以下、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明材料を骨の孔の充填に使用した場合の概略図で、ネジやピン等の整形外科用固定手段を取付けるのに適した基質(マトリッイクス)が提供される。
【図2】分子量(Mn)をモノマー/触媒比の関数で表したグラフ。
【図3】多分散性指数(PDI)をモノマー/触媒比の関数で表したグラフ。
【図4】ポリカプロラクトンサンプルからの移植片の引抜き強度と分子量との関係を示すグラフ。
【図5】子羊の骨からの移植片ネジの引抜き強度を示す棒グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の成形可能な生分解性医療材料はイプシロンカプロラクトンのホモポリマーから成る。
本発明の一つの実施例のイプシロンカプロラクトンポリマーは固有粘度が低いホモポリマーである。このホモポリマーの固有粘度は少なくとも約0.4dL/g、特に少なくとも0.7dL/gである。特に重要な適用例は固有粘度が約0.8〜1.0dL/gのホモポリマーである。
【0014】
本発明の別の実施例のイプシロンカプロラクトンポリマーは適度に広い分子量分布を有するホモポリマーである。すなわち、このホモポリマーはポリマー分散指数が少なくとも約1.2、特に少なくとも約1.4であるのが好ましい。特に重要な適用例はPDIが1.5以上、有利には1.55以上、好ましくは約1.6〜5のホモポリマーである。
【0015】
本発明の第3の実施例のイプシロンカプロラクトンポリマーは上記の低固有粘度と適度に広い分子量分布との両方を有するホモポリマーである。
【0016】
本発明者は、イプシロンカプロラクトンのホモポリマーは低温度で成形でき、しかも、凝固後の硬化材料は強靭性および強度を有し、この両者を組み合わせた特性によって特に生分解性充填材料としての使用の可能性が広がるということを見出した。
【0017】
適切な材料の平均分子量(Mn)は約10,000〜200,000g/モル、特に約20,000〜100,000g/モル、好ましくは20,000〜80,000g/モル、さらに適切には約25,000〜約65,000g/モル、有利には約35,000〜60,000g/モルである。60℃で約1,000〜2,000Pasの好ましい粘度(下記参照)を有する材料にするには平均分子量を約30,000〜60,000g/モルにするのが特に好ましい。
【0018】
本発明材料は一般に直鎖ポリマーであり、重合度は分子量に対応し、約50〜2,000、特に約100〜1,000、好ましくは約200〜500である。
【0019】
本発明のさらに好ましい実施例では、本発明材料は非対称の分子量分布を有する。実際には低分子量ポリマー部分が高分子量ポリマー部分より多いポリマーが好ましい。
【0020】
本発明のさらに別の好ましい実施例では、ポリカプロラクトンは広い分子量分布を有する。実際には少なくとも5モル%のポリカプロラクトンは分子量が25,000g/モル以下で、少なくとも5モル%のポリカプロラクトンは分子量が60,000g/モル以上である。本発明のこの実施例では非常に広い分子量分布(Mnの間隔が114g/モル〜200,000g/モル)を有することができる。一般に、ポリカプロラクトン(PCL)では低分子量のPCL部分、例えば平均分子量が<25,000g/モル以下のPCL部分の与える良好な成形性と、高分子量を有するPCL(例えばPCL>60,000g/モル)の良好な機械的耐久性とが組み合わされる。
【0021】
本発明の新規材料はその機械特性と生分解性の両方の特性で重要である。本発明材料は一般に60℃以下の温度で手で成形できる。本発明の一つの実施例では、本発明移植片は約57〜70℃の温度で溶融相で取り付け(塗布)され、約35〜43℃の生物学的温度で機械的耐久性のある中実な移植片へ硬化する。本発明移植片の取り付けは手または器具、例えば注入器を用いて行うことができる。
【0022】
本発明の別の実施例では、本発明移植片を約55〜60℃の温度で溶融相で取り付ける(塗布する)。溶融塗布の場合、60℃での(動的)粘度は10,000Pas以下、好ましくは5,000Pas以下にしなければならない。特に好ましいほ粘度範囲は1,000〜2,000Pasである。これは0.7〜1.0dL/gの固有粘度に対応する。
【0023】
本発明はさらに、ポリマー分散指数が1.5以上のイプシロンカプロラクトンのホモポリマーの製造方法に関するものである。本発明方法はチタンイソプロポキシド触媒の存在下でイプシロンカプロラクトンモノマーを重合する段階を含む。上記の平均分子量が少なくとも10,000g/モル、好ましくは平均分子量が約10,000〜200,000g/モルのポリマーが得られるまで重合反応を続けるのが好ましい。
【0024】
従来法と同様に、移植片材料として生物環境中で使用する前にイプシロンカプロラクトンのホモポリマーを滅菌する必要がある。滅菌それ自体は公知で、熱処理、照射または化学的に行うことができる。滅菌は材料の使用直前に行うか、ポリマー材料を適切なパッケージ内に密封し、パッキング後に滅菌することができる。
【0025】
本発明で用いられる材料は従来の重合方法で製造できる。すなわち、イプシロンカプロラクトンモノマーを高温で均一系触媒と接触させる従来の塊重合で溶融相または液相でモノマーを重合して行うことができる。広い分子量分布を有する材料を製造するためにはチタン金属アルコキシドを含む触媒を用いるのが好ましい。1〜6の炭素原子を有する遷移金属チタンアルコキシドにするのが適切である。アルコキシド基の好ましい例はイソプロポキシドおよびn−ブトキシドである。一つの特に重要な触媒はチタンイソプロポキシドである。この触媒は他の環状ヒドロキシ酸モノマーの重合で使用でき、例えばラクチドホモポリマーの製造でも使用できる。適切な触媒の別の例はチタンn−ブトキシドである。
【0026】
触媒の量はイプシロンカプロラクトンの容積をベースにて約0.001〜2%である。モノマーと触媒の比を調節することによって材料の機械特性および生物環境中の材料の挙動を制御することができる。
【0027】
本発明で得られた結果から、好ましい触媒であるチタンイソプロポキシドは主として適度に広い分子量分布(PDIが1.5以上)を有するホモポリマーを生成することがわかった。モノマーの添加量を増加することによって分子量分布をさらに広くすることができる。
【0028】
移植片は生体内では非生体部分であるので生分解性は重要な特徴である。しかし、移植片が過度に急速に分解されてはならないことも分かっている。望ましい分解時間は一般に数カ月から数年である。移植片の実際の配置場所に応じて分解時間は6カ月〜36カ月にするのが好ましい。この分解時間は本発明の新規材料を用いることで達成できるということがわかっている。
【0029】
イプシロンカプロラクトンモノマーの重合温度は100℃以上、好ましくは約120〜160℃である。減圧または加圧下でも重合できるが、大気圧下が好ましい。チタン−アルコキシド触媒、例えばチタン−イソプロポキシドを用いて保護ガスなしで、開放した反応容器中で重合できる。重合条件が厳しくないので、重合を手術室で行うこともできる。
【0030】
例えば重合中にイプシロンカプロラクトンモノマーの供給量を制御する公知の重合プロセスを用いることでチタンイソプロポキシド触媒を用いた重合で得られる材料と同様な材料を製造することができる。同様な材料を種々の市販のPCLポリマーを適切に混合することによって得ることもできる。
【0031】
上記材料は生物組織再生促進用の医療移植片で使用できる。この材料は他の成分、例えばポリ乳酸やポリグリコリドと混合することもできる。他のポリマーと一緒に用いた場合またはブロックコポリマーのブロックとして用いた場合、本発明のイプシロンカプロラクトンホモポリマー部分は全材料組成の少なくとも20モル%であり、好ましくは本発明のホモポリマーが移植片材料の少なくとも50モル%、特に、少なくとも75モル%、有利には少なくとも85モル%を占める必要がある。
【0032】
しかし、材料の強度と加工性、特に延性、強靭性、強度と成形性との組み合わせの点では、本発明材料を移植片の唯一の基質(マトリックス)成分として用いることができるということがわかっている。
【0033】
一般的な用途はヒトおよび動物の外科、内科、歯科治療または獣医学治療である。移植片材料は整形外科器具の形に加工でき、必要に応じてネジ、スパイク、ピン、ワッシャー、スレッドまたはワイヤの形に加工できる。本発明材料は以下で説明する生物活性材料と組み合わせて骨の修復用足場として塗布することもでき、また、軟骨、靭帯または腱の修復用弾性マットまたは組織の製造で使用できる。
【0034】
本発明材料はさらに、選択した所定形状に成形することができる中実なブロックまたはスラブの形で提供することもできる。このブロックまたはスラブ状の材料を溶融状態で塗布し、凝固させる。特に重要な例は不規則な形の孔中への充填剤として取り付ける場合で、この場合、本発明材料はネジ、ピン、その他の整形外科の固定および修復手段の固定用の基質として使用できる。
【0035】
添付図面を参照する。プレート3とネジ4を用いた従来の骨折固定具は一般に長い骨の硬い皮質層1のみ(左側の2つの矢印で示す)で支持される。プレート固定法ではネジ固定力がこのように限られるという問題がある(特に、骨粗しょう症の疾患を有する骨2で使用した場合)。
【0036】
これに対して本発明材料を用いることでネジ5の取付け力を大幅に増加させることができる。すなわち、本発明材料は骨1の内部に注入でき、材料は骨の内部腔胴、孔を充填することができる。本発明材料6は硬化後に簡単に穿孔でき、ネジを挿入することができる。この充填物/アンカー移植片6中に他の固定手段を挿入することも当然できる。
【0037】
導入部で説明した種類の他のアンカー法もあるが、それらは非吸収性の材料を使用する。そうした材料は常に再構築され続ける骨の組織内部で有害になることがあり、加工や成形が難しいという問題がある。
【0038】
生分解性ポリマーの他の構成成分の他に、本発明材料を必ずしも生分解性である必要のない他の生体適合性材料と混合することもできる。そうした生体適合性材料の比率は一般に混合物の全重量をべースにして約0.1〜99%、好ましくは約0.1〜50%、特に約1〜30%である。上記生体適合性材料は骨移植材料、例えば生体活性ガラスやヒドロキシアパタイト、医薬品およびホルモンから成る群の中から選択される生物活性材料にすることができる。生体適合性材料を移植片を強化する不活性材料にすることもできる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【0040】
実施例1
50mlのε−カプロラクトンを140℃で撹拌下に加熱してイプシロンカプロラクトン材料を製造した。130マイクロリットル量のチタンイソプロポキシド(触媒)を加熱したカプロラクトン液相中に直接添加する。重合は5分後に混合物がゲル化し始める段階まで進行する。次いで、ポリマーをオーブンに移し、一晩、100℃に維持して変換率を99%にする。生成物の分子量はMn=60,000〜70,000g/モルで、PDI=1.7〜2.0であった。反応は保護雰囲気中で実施した。
【0041】
実施例2
所定量3mlのε−カプロラクトンを100℃に加熱した。130マイクロリットルのチタンイソプロポキシドを添加し、重合を開始した。さらに、材料を流体の状態に維持するように(約6分間)、47mlのカプロラクトンを徐々に添加した。材料がゲル化した時にオーブンに移し、変換率が99%に上がるまで100℃に維持した。この方法で分子量(Mn)を約60,000g/モルに維持したままPDIを約2に上げることができた。この反応は開放反応容器中で保護ガスなしで実施した。
【0042】
実施例3
所定量の20mlのε−カプロラクトンを100℃に加熱した。65マイクロリットルの量のチタンイソプロポキシドを添加し、重合を開始した。約1分後、65マイクロリットルの別のバッチの触媒を添加した。粘度が急上昇した時にさらに20mlのカプロラクトンを徐々に添加して、材料を流体の状態に維持した。ゲル化後、材料をオーブンに移し、変換率が99%に上がるまで100℃に維持した。この方法で分子量(Mn)を約60,000g/モルに維持したままPDIを2以上に上げることができた。この反応は開放反応容器中で保護ガスなしで実施した。
【0043】
実施例4〜7
実施例1〜3の方法を繰り返して、[表1]に示す特性を有するいくつかのカプロラクトンのホモポリマーを製造した。
【0044】
【表1】

【0045】
全ての実施例で反応温度は100℃にし、反応時間は約30分にした。触媒は同じサイズで3つに分けて2分間隔(0分、2分、4分)で添加した。
【0046】
実施例8
44mlのε−カプロラクトンを140℃で撹拌下(開放)に加熱してイプシロンカプロラクトン材料を製造した。10分間の予熱中に溶液の温度は123℃に上昇し、溶液中の水の量は10ppm以下に減少した。チタンイソプロポキシド(触媒)を140μlの量で加熱したカプロラクトン液相中に直接添加する。重合は蒸留済みまたは非蒸留のモノマーを用いて開始できる。重合中に温度は160℃以上に上昇する。重合は5分で撹拌が停止する段階まで進行する。10分の重合後、モノマーの変換率は95%以上になる。生成物の分子量はMn=57,000g/モルで、PDI=1.52であった。重合操作は種々のモノマー/開始剤比で実施できる。
【0047】
実施例9
10mlのε−カプロラクトンを120℃で撹拌下(開放)に加熱してイプシロンカプロラクトン材料を製造した。チタンn−ブトキシド(触媒)を200μlの量で加熱したカプロラクトン液相中に直接添加する。さらに33mlのカプロラクトンを徐々に添加して材料を流体の状態に維持した。重合は5分で撹拌が停止する段階まで進行する。10分の重合後のモノマーの変換率は96%以上である。生成物の分子量はMn=36,000g/モルで、PDI=1.68であった。
【0048】
実施例10
52mlのε−カプロラクトンを120℃で撹拌下(開放)に加熱してイプシロンカプロラクトン材料を製造した。チタンn−ブトキシド(触媒)を重合を開始するために140マイクロリットルの量で加熱したカプロラクトン液相中に直接添加した。約5分後、200マイクロリットルの別のバッチの触媒を添加した。重合は5分で撹拌が停止する段階まで進行する。20分の重合後、モノマーの変換率は96%以上である。生成物の分子量はMn=34,000g/モルで、PDI=1.75であった。
【0049】
実施例11
55mlのε−カプロラクトンを120℃で撹拌下(開放)に加熱してイプシロンカプロラクトン材料を製造した。チタンn−ブトキシド(触媒)を200μlの量で加熱したカプロラクトン液相中に直接添加する。重合中に温度は150℃以上に上昇する。重合は10分で撹拌が停止する段階まで進行する。モノマーの変換率は95%以上である。生成物の分子量はMn=51,500g/モルで、PDI=1.69であった。
重合の結果は[図1]および[図2]に示してある。これらの図はモノマー/触媒比に依存する分子量およびPDIの変化を示している(実施例8参照)。
分析によって市販のポリマーはPDIが1.4以下であることがわかった。そうした材料と比較して本発明材料は60℃での成形性が良く(1000Pas以下の粘度)、しかも、25%も高い硬度および引張強度を示している(3×2mmのスティックを伸ばすのに必要な力は400MPa以上)。
【0050】
実施例12
移植片ネジアンカーとしてのポリカプロラクトンの適用性を試験した。ポリカプロラクトンサンプルからの移植片ネジの引き抜き強度をInstron 4411で測定した。ネジはシリンダ形のPCLブロック(直径45mm、厚さ20mm)から10mm/分の一定速度で引き抜いた。ネジは全てポリカプロラクトンシリンダに10mmの深さで挿入した。
引き抜き強度は[図4]に示してある。
[図4]からモル質量が35,000g/モル〜55,000g/モルのポリカプロラクトンで最大引き抜き強度が観察される。これらのサンプルの固有粘度は0.69〜0.91dL/gである。
【0051】
実施例13
移植片ネジアンカーとしてのポリカプロラクトンの適用性を、生物材料(子羊の骨)を用いてさらに試験した。
移植片ネジを注入ポリカプロラクトンで支持し、子羊の骨のサンプルからの引き抜き強度をInstron 4411で測定した。移植片ネジ用の孔を骨にドリルで開け(4.5mm)、セルフスレッディング(ねじ切り)用移植片ネジを孔に差し込んだ。ネジを子羊の皮質骨から10mm/分の一定速度で引き抜いた。
ポリカプロラクトン支持体を用いた実験ではポリカプロラクトンを孔に注入した後にネジを差し込んだ。モル質量が50,000g/モルで、固有粘度が0.9dL/gのポリカプロラクトンを支持体材料として用いた。孔は骨の骨端領域および骨幹領域に開けた。骨端領域の孔は骨の背部の皮質を貫通させなかった。骨幹領域の孔は骨の両皮質を貫通させた。
[図5]は支持体あり、および、支持体なしの移植片ネジの引き抜き強度を示している。左側の棒は移植片ネジを通常方法で差し込んだ時の引き抜き強度を示し、右側の棒はネジ用に開けた孔にポリカプロラクトンを注入してから移植片ネジを差し込んだ時の引き抜き強度を示している。
図から分かるように、本発明のポリカプロラクトン支持体を移植片ネジと一緒に用いることで引き抜き強度は約2倍になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イプシロンカプロラクトンのホモポリマーを含み、且つ平均分子量が20,000g/モル<Mn<100,000g/モルである成形可能な、生分解性医療材料。
【請求項2】
イプシロンカプロラクトンのホモポリマーのポリマー分散指数が1.2以上である請求項1に記載の材料。
【請求項3】
イプシロンカプロラクトンのホモポリマーのポリマー分散指数が約1.5〜5である請求項2に記載の材料。
【請求項4】
平均分子量が20,000g/モル<Mn<80,000g/モル、好ましくは25,000g〜65,000g/モル、特に約35,000〜約60,000g/モルである請求項1〜3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項5】
非対称の分子量分布を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の材料。
【請求項6】
低分子量ポリマー部分が高分子量ポリマー部分より大きい請求項5に記載の材料。
【請求項7】
広い分子量分布を有するポリカプロラクトンを含み、少なくとも5モル%のポリカプロラクトンは分子量が25,000g/モル以下で、少なくとも5モル%のポリカプロラクトンは分子量が60,000g/モル以上である請求項1〜6のいずれか一項に記載の材料。
【請求項8】
70℃以下の温度、特に57〜70℃で手で成形できる請求項1〜7のいずれか一項に記載の材料。
【請求項9】
不規則な形の腔を充填できるように成形可能な請求項1〜8のいずれか一項に記載の材料。
【請求項10】
滅菌状態で提供される請求項1〜9のいずれか一項に記載の材料。
【請求項11】
固有粘度が0.4〜1.9dL/g、特に0.7〜1.0dL/gである請求項1〜10のいずれか一項に記載の材料。
【請求項12】
イプシロンカプロラクトンのモノマーをチタンアルコキシド触媒の存在下で重合することを含む請求項1〜11のいずれか一項に記載のイプシロンカプロラクトンホモポリマーの製造方法。
【請求項13】
イプシロンカプロラクトンのモノマーを100℃を超える温度、好ましくは120〜160℃で、開放した反応容器中で重合する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
イプシロンカプロラクトンを、イプシロンカプロラクトンの量から計算した0.001〜2%の触媒を用いて、均一系触媒作用によって重合する請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
触媒がチタンイソプロポキシドおよびチタンn−ブトキシドの中から選択される請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の材料を含む、生物組織再生促進用の医療移植片。
【請求項17】
主として請求項1〜11のいずれか一項に記載の材料から成る請求項16に記載の医療移植片。
【請求項18】
人体の外科、内科、歯科治療または動物体の獣医学治療で用いる請求項16または17に記載の医療移植片。
【請求項19】
溶融状態で塗布した後に凝固する材料を溶解して、予め選択した形状に形成できる中実なブロックまたはスラブを含む請求項16〜18のいずれか一項に記載の医療移植片。
【請求項20】
骨および軟骨を含めた人間の組織の不規則な形の腔を充填できるような形にすることができる材料の中実部品を含む請求項19に記載の医療移植片。
【請求項21】
混合物の全重量から計算した、0.1〜99%、好ましくは約1〜50%の生体適合性材料またはこの生体適合性材料と生分解性材料とを混合した混合物を含む請求項16〜20のいずれか一項に記載の医療移植片。
【請求項22】
生体適合性材料が骨移植材料、例えば生体活性ガラスおよびヒドロキシアパタイト、薬物およびホルモンから成る群の中から選択される生物活性材料である請求項21に記載の医療移植片。
【請求項23】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の材料を含む、組織再生中に骨および靭帯を支持するための、または、関節運動へ導くための医療用石こうまたは特注の外部支持体。
【請求項24】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の材料を含む、整形外科用途のネジおよび義眼用支持材料。
【請求項25】
固有粘度が0.4〜1.9dL/g、特に0.7〜1.0dL/gであるイプシロンカプロラクトンホモポリマーを含む請求項25に記載の支持材料。
【請求項26】
下記の段階を含む、生体内の生物組織内の不規則な形の腔を充填する方法:
(1)請求項1〜11のいずれか一項に記載の材料を加熱して成形可能にし、
(2)成形可能な材料を腔に導入し、
(3)腔内部で材料を凝固させる。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−523168(P2010−523168A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500311(P2010−500311)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【国際出願番号】PCT/FI2008/050155
【国際公開番号】WO2008/119889
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(509270524)
【氏名又は名称原語表記】Onbone Oy.
【Fターム(参考)】