説明

生分解性樹脂を利用した土壌浄化方法

【課題】 中間生成物が残留して蓄積することなく、安定的に効率良く汚染物質の分解除去を行なうことを可能とした生分解樹脂を利用した土壌浄化方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 有機塩素系化合物或いは石油系炭化水素からなる汚染物質を含有した汚染土壌に生分解性樹脂を供給し、前記汚染物質を土壌中の微生物の作用により分解除去する生分解性樹脂を利用した土壌浄化方法において、前記生分解性樹脂が少なくとも嫌気性条件下で分解する中・高分子量の生分解性樹脂であり、且つ汚染土壌への水素供給剤の供給50日後のトリクロロエチレン量が、供給直後のトリクロロエチレン量の10〜80%ととなる生分解性樹脂を用い、好適には前記生分解性樹脂の粒状体13を土壌に埋設して浄化壁14を形成してHを汚染土壌に供給する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機塩素系化合物或いは石油系炭化水素からなる汚染物質を含有した汚染土壌を微生物の浄化作用により浄化する方法に関し、特に水素供給剤・微生物の栄養基質として生分解性樹脂を土壌中に注入し、微生物による汚染物質の分解を促進するようにした生分解性樹脂を利用した土壌浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境破壊の要因又は生物体に対して悪影響を及ぼす要因となる汚染物質が地下水を含む土壌中において検出されており、これらの物質による環境汚染が問題とされている。汚染土壌の浄化には様々な方法が用いられており、従来は汚染土壌を掘削、吸引、或いは揚水して外部で水や溶媒により洗浄又は熱処理して無害化する方法等の物理化学的方法が多く用いられていた。しかし、このような物理化学的方法ではコストが高く、操作性が低いため、高濃度でかつ狭域の汚染帯の浄化に限られていた。
また、汚染土壌の上に操業中の施設がある場合は、土壌を掘削するなどの方法が不可能な場合も多々ある。
汚染地域が広範囲に亘る場合にはオンサイトでの処理が望まれており、近年は汚染物質で汚染された土壌の浄化方法として、安価でかつ簡単に浄化処理が可能である生物処理が提案、実用化されている。
【0003】
生物学的な浄化方法は、微生物の化学物質分解能力を利用して汚染土壌を修復する浄化技術でありバイオレメディエーションと呼ばれる。これは、汚染土壌、地下水中に元々存在する微生物を利用して、科学的な監視の下で汚染物質を自然減衰させるMNA(Monitored Natural Attenuation)、又は水素供給剤等を土壌、地下水中に供給して元々土壌中に存在していた微生物を活性化し、汚染物質の自然減衰を促進させるENA(Enhanced Natural Attenuation)等が知られている。
このバイオレメディエーションは、汚染土壌の掘削や汚染物質の抽出の必要がなく、原位置において土壌を浄化できることから低コストで広範囲に利用できるため汚染土壌の浄化に有効な技術として近年注目されている。
【0004】
バイオレメディエーションでは、土壌中の汚染物質の還元反応に寄与する電子供与体、微生物の増殖及び生存に必要な栄養源などを土壌中に継続的に注入するなどして、汚染土壌に土着している微生物の分解活性を高めることにより効率良く汚染物質の分解除去を行なえることが判っている。
特に、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン等の塩素化脂肪族炭化水素(CAHs)による土壌汚染に対しては、水素供与体を与えて嫌気性微生物の自然浄化機能を高めることが有効である。
特許文献1(特開平11−262751号公報)には、このバイオレメディエーションを利用した土壌の浄化方法が開示されている。これは、微生物の栄養源として炭素源と、無機還元剤を利用するとともに、高分子吸水性樹脂または保水性樹脂を土壌中に注入するようにし、嫌気的処理の諸条件を確保するとともに汚染の拡散を防止するようにしている。
【0005】
しかし、このように微生物の栄養基質、水素供給剤を汚染土壌に供給しながら土壌浄化を行なう場合、微生物による汚染物質の分解には長時間を要するため、栄養源、水素供給剤を短期的に繰り返し注入したり連続注入する必要があった。また、余剰の栄養源、水素供給剤が汚染土壌の周辺地域一帯に流出し、2次汚染を引き起こす惧れもあった。
そこで、特許文献2(特開2002−370085号公報)及び特許文献3(特開2000−254687号公報)では、生分解性樹脂を土壌中に埋設することにより汚染土壌、地下水の浄化を行なう方法を開示している。さらに、特許文献3では、生分解性高分子を含む浄化壁を汚染土壌中の地下水層に埋設し、地下水の浄化を行なう構成が記載されている。
【0006】
生分解性樹脂は、環境中にいる微生物によって分解され、最終的には水と二酸化炭素に分解される性質を持っており、特許文献2及び3に記載されるように水素供給剤或いは栄養源として生分解性樹脂を用いることにより、安定して水素供給剤或いは栄養源を土壌中に供給することができ、また生分解性樹脂は土壌中で水と二酸化炭素に分解することから土壌中に残留することなく、環境保全の視点からも極めて有益な材料である。
【0007】
【特許文献1】特開平11−262751号公報
【特許文献2】特開2002−370085号公報
【特許文献3】特開2000−254687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、従来より微生物の分解作用を利用して汚染土壌の浄化を行なう方法において生分解性樹脂を水素供給剤等として利用することが提案されているが、生分解性樹脂を利用する場合には以下の点に留意する必要がある。
(1)微生物による汚染物質の分解には長期間を要するため、分解反応に必要とされる水素供給剤或いは栄養基質が土壌中で最低限の濃度を維持するように、これらを長期間に亘って放出する物質であること、及び(2)汚染土壌に供給する際に、最適な形態で供給することができるように成形加工性が容易な物質であること、(3)汚染物質の分解反応に利用されなかった余剰の生分解性樹脂が完全に分解して無害化すること、が挙げられる。
これは、(1)は生分解性樹脂の生分解反応速度が速いと、短期間で繰り返し供給或いは連続供給しなければならないためである。また、(2)は生分解性樹脂を汚染土壌に供給する際に、目的とする汚染土壌のエリアに確実に保持される必要があり、さらに(3)は好気性条件下或いは嫌気性条件下の何れの土壌においても、余剰の生分解性樹脂は最終生成物である二酸化炭素と水まで完全に分解されなければ2次汚染の惧れがあるためである。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、長期間に亘って安定的に生分解性樹脂を供給でき、且つ成形加工性が良好で処理対象である汚染土壌に対して好適な態様で供給することができ、さらに余剰の生分解性樹脂が確実に分解されることが可能である生分解性樹脂を利用した土壌浄化方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、高効率で以って汚染物質を分解するためには、汚染物質の分解反応が短時間で且つ円滑に行なわれる必要がある。分解反応の律速となる中間生成物の反応速度を適正に保つことができないと中間生成物が蓄積されてしまい、環境基準を超過してしまうという問題がある。しかし、従来の生分解性樹脂を利用した汚染土壌の浄化においてはこれらの中間生成物については全く考慮されていないため、中間生成物が蓄積される惧れがあり、またこの中間生成物の蓄積のために微生物環境に悪影響を及ぼし、微生物の活性に阻害を与える惧れがある。
従って、本発明の他の目的として、中間性生物の蓄積を抑制し、汚染物質の完全分解が可能である生分解樹脂を利用した土壌浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、有機塩素系化合物或いは石油系炭化水素からなる汚染物質を含有した汚染土壌に生分解性樹脂を供給し、前記汚染物質を土壌中の微生物の作用により分解除去する生分解性樹脂を利用した土壌浄化方法において、
前記生分解性樹脂は、少なくとも嫌気性条件下で生分解する中・高分子量の生分解性樹脂であり、且つ該生分解性樹脂の供給後に下記数(1)で表される汚染土壌中のトリクロロエチレンの残存率が10〜80%、好ましくは10〜50%であることを特徴とする。
(X/Y)×100 …(1)
X:生分解性樹脂供給後50日目のトリクロロエチレン量
Y:生分解性樹脂供給前(0日目)のトリクロロエチレン量
尚、本発明において中・高分子量とは、約1000以上の数平均分子量を有するものとし、ここで数平均分子量はGPC法により測定した。
【0011】
本発明によれば、中・高分子量の生分解性樹脂を用いているため成形加工性が良好であり、汚染土壌に対して好適な態様で供給することができ、また徐放性の生分解性樹脂であるため、長期間に亘って安定的に生分解反応が行なわれ、汚染土壌中の水素供給剤或いは栄養基質の濃度を適正に維持することが可能である。
【0012】
また、本発明における土壌浄化工程において、汚染物質の分解反応としては好気性微生物による酸化的分解と嫌気性微生物による還元的脱塩素化反応とが行なわれる。有機塩素系化合物においては、好気性微生物による酸化的分解は例えば高次の塩素化合物が分解されにくいため、本発明では嫌気性条件下における還元的脱塩素化反応を優先的に行なうようにし、嫌気性条件下で分解する中・高分子量の生分解性樹脂を用いる。尚、本発明において、嫌気性微生物で脱塩素した後に好気性微生物で完全に分解するという複数段階の反応も含まれることは勿論である。
ところで、嫌気性微生物による脱塩素化反応では、上述したように反応の過程でジクロロエチレン等の分解速度の遅い中間生成物が生成し、汚染物質が完全分解されないという問題があった。
【0013】
そこで、本発明では生分解性樹脂供給後のトリクロロエチレン量の残存率に基づき、生分解性樹脂供給後の汚染物質の分解速度を制御することにより、中間生成物が蓄積することなく最終的な無害化物質まで安定的に反応させることを可能とした。
前記生分解性樹脂は、嫌気性条件下で生分解する徐放性の樹脂であり、且つ上記式(1)を満たす化合物を選定し、さらにその重合度を変化させることにより得られる。
【0014】
また、石油系炭化水素に関しては、好気性条件下において好気性微生物により分解され易いことが広く知られているが、嫌気性条件下においても脱硝酸塩、鉄(III)還元、硫酸塩還元、およびメタン生成等、各種電子受容体を利用しながら石油系炭化水素を分解する嫌気性微生物によって分解される。
従って、前記生分解性オリゴマーを水素供給剤・微生物の栄養基質として土壌中に注入することにより、微生物による土壌中の硝酸塩、鉄(III)、硫酸塩等の還元および石油系炭化水素の分解を促進し、中間生成物を蓄積することなく無害化された最終生成物まで分解することが可能である。
【0015】
また、前記生分解性樹脂は、15日間での好気性条件下における相対生分解率が30%以上、28日間での好気性条件下における相対性分解率が50%以上、或いは120日間での嫌気性条件下における相対生分解率が50%以上の少なくとも何れか一を満たすことが好適である。これにより、汚染物質の分解反応に利用されない余剰の生分解性樹脂が確実に分解され、2次汚染を防止することができる。
さらに、前記生分解性樹脂が粒状体であり、該粒状体を汚染土壌中に埋設することにより反応帯を形成するようにし、前記粒状体の粒径若しくは異なる粒状体の組み合わせにより前記反応帯の透水性を制御するようにしたことを特徴とする。これにより目的とする汚染土壌に確実に生分解性樹脂を供給することができる。また、固体粒子を土壌中に充填した場合、粒子間に間隙が形成されるため透水性となり、地下水が通過可能となるため生分解性樹脂が放出され易いという利点がある。さらにまた、粒状体の粒径の変更や粒径の異なる粒状体の組み合わせにより任意の透水性に調整することが可能であり、周囲の帯水層の透水性に合わせて反応帯の透水性を制御することができる。
さらにまた、上記した土壌浄化方法に用いることを特徴とする生分解性樹脂を提供する。
【0016】
また、前記生分解性樹脂が、ポリエチレンサクシネートを主体とする化合物であることを特徴とする。ポリエチレンサクシネートを主体とする化合物は、嫌気性条件下及び好気性条件下において生分解し、且つ何れの場合でも分解速度が遅いため、本発明に最も適した徐放性を有する生分解性樹脂である。
【発明の効果】
【0017】
以上記載のごとく本発明によれば、水素供給剤・栄養基質として中・高分子量の生分解性樹脂を用いているため成形加工性が良好であり、汚染土壌に対して好適な形態で供給することができ、また徐放性の生分解性樹脂であるため、長期間に亘って安定的に生分解反応が行なわれ、汚染土壌中の水素供給剤・栄養基質の濃度を適正に維持することが可能である。
また、徐放性の生分解性樹脂を用いているため、微生物周辺の水素供給剤・栄養基質の濃度が長時間に亘り十分に維持されるため、微生物の活性化効率が低下することなく、高効率で以って汚染物質の分解を行なうことができ、また、汚染物質分解後に生分解性樹脂は二酸化炭素と水に分解されるため2次汚染の惧れがない。
さらに、前記汚染物質の分解速度を制御するようにしたため、分解過程において反応速度の差により中間性生物が蓄積することなく、反応バランスを適正に保つことができ、無害化された最終生成物まで完全に且つ安定して分解することが可能である。
また、生分解性物質の粒状体を汚染土壌中に埋設して浄化壁を形成するようにしたため、地下水の透水性の制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成については特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
本実施例では、処理対象を地下水部位を含む土壌とし、汚染の原因となる汚染物質は、例えばテトラクロロエチレン(PCE)、トリクロロエチレン(TCE)、シス-1,2-ジクロロエチレン(trans-1,2-ジクロロエチレン)、1,1-ジクロロエチレン(1,1-DCE)、塩化ビニル(VC)等の塩素化エチレン、1,1,1-トリクロロエタン(MC又は1,1,1-TCA)、1,1,2-トリクロロエタン(1,1,2-TCA)、1,2-ジクロロエタン(EDC)等の塩素化エタン、四塩化エタン、四塩化炭素(CT)、クロロホルム(CF)、ジクロロメタン(DCM)等の有機塩素系化合物、又はナフサ、灯油、LPG、ガソリン等の石油製品に代表される石油系炭化水素とする。
【0019】
また、本実施例では汚染土壌の浄化に際して、該汚染土壌に生分解性樹脂を供給する構成としている。この生分解性樹脂は、少なくとも嫌気性条件下にて分解する中・高分子量の高分子化合物である。尚、本実施例において中・高分子量とは、約1000以上の数平均分子量を有するものとし、数平均分子量はGPC法により測定した。
具体的には前記生分解性樹脂は、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリエステルカーボネート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン及びポリ(2−オキセタノン)、デンプン、変性デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、大豆タンパク、コラーゲン、ケラチン及び天然ゴム、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール及びポリリンゴ酸などが挙げられる。
【0020】
更に、市販されている生分解性樹脂としては、例えば、昭和高分子社製の商品名「ビオノーレ」、三菱化学社製の商品名「GSPla」、日本合成化学工業社製の商品名「マタービー」、島津製作所社製の商品名「ラクティ」、三菱ガス化学社製の商品名「ユーペック」、カーギルダウ社製の商品名「ネーチャーワークス」、三井東圧化学社製の商品名「レイシア」、ダイセル化学工業社製の商品名「セルグリーン」及び「プラセル」、モンサント社製の商品名「バイオポール」、BASF社製の商品名「エコフレックス」、デュポン社製の商品名「バイオマックス」、イーストマンケミカル社製の商品名「イースターバイオ」、日本触媒社製の商品名「ルナーレ」、チッソ社製の商品名「ノボン」、三菱ガス化学社製の商品名「ビオグリーン」、カネボウ合繊社製の商品名「ラクトロン」、大日本インキ化学工業社製の商品名「プラメート」及び「CPLA」、東洋紡績社製の商品名「バイオエコール」、トヨタ自動車社製の商品名「トヨタエコプラ」、ダウ社製の商品名「TONE」、Ire Chemical社製の商品名「Enpol」、クラレ社製の商品名「ポバール」、日本合成化学工業社製の商品名「ゴーセノール」、アイセロ社製の商品名「ドロンVA」、帝人社製の商品名「セルロースアセテート」、アイセロ化学社製の商品名「ドロン」、Novamont社製の商品名「Mater−Bi」、日本食品化工社製の商品名「プラコーン」、日本コーンスターチ社製の商品名「エバーコーン」などが挙げられる。
尚、本実施例においては、上述のごとき生分解性樹脂を2種類以上ブレンドして用いることができる。
【0021】
本実施例に用いる生分解性樹脂は、少なくとも嫌気性条件下で生分解し、水素供与体・微生物の栄養基質として適度の徐放性を有することが必要である。
また本実施例では、前記生分解性樹脂は、該生分解性樹脂の汚染土壌への供給後に下記数(1)で表される汚染土壌中のトリクロロエチレンの残存率が10〜80%、好ましくは10〜50%であるものとする。
(X/Y)×100 …(1)
X:生分解性樹脂供給後50日目のトリクロロエチレン量
Y:生分解性樹脂供給前(0日目)のトリクロロエチレン量
このように、生分解性物質により汚染物質の分解速度を制御するようにしたため、分解過程において反応速度の差により中間性生物が蓄積することなく、反応バランスを適正に保つことができ、無害化された最終生成物まで完全に且つ安定して分解することが可能である。
【0022】
また、生分解性樹脂の徐放性は以下の条件のうち少なくとも一を満たすことが好ましい。徐放性の尺度としては、生分解性樹脂の分解速度を用いる。
(I)15日間での好気性条件下での相対生分解率が30%以上。
(II)28日間での好気性条件下での相対性分解率が50%以上。
(III)120日間での嫌気性条件下での相対生分解率が50%以上。
詳細には、分解速度とはISO14851、ISO14852及び化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)の生分解性試験(MITI法)の何れかの試験法で試験したとき、標準対象物質であるアニリンの所定時間における生分解率を100としたとき、相対生分解率が、(I)15日の生分解率で30%以上、好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上であり、(II)28日の生分解率で50%以上、好ましくは60%以上、更に好ましくは80%以上である。また、嫌気性条件下での生分解率は、ISO14853、ISO15985及びASTM D.5511−94の何れかの試験法で試験した時、(III)標準対象物質であるセルロースの120日における生分解率を100とした時の相対生分解率が50%以上、好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上である。
【0023】
本実施例に係る土壌中での使用において、これらの生分解性樹脂が有すべき好適条件としては、(1)土壌中での嫌気下で分解を受け易いこと、(2)生分解性樹脂が余剰となって地下水や河川等に流れ出しても環境中に蓄積されないために好気下でも分解を受け易いこと、を挙げることができる。したがって、上述のごとく、嫌気下または好気下での生分解性に優れていることが好ましい。
一方、生分解性樹脂には、加工性や経済性、大量に入手できることなども要求され、これらの点からは上述の生分解性樹脂の中でも、脂肪族ポリエステルが好ましく、更に好ましくは、炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸成分と炭素数2〜4の脂肪族グリコール成分から得られる脂肪族ポリエステルである。
また、生分解性の点からは、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート/アジペートが更に好ましい。好気下、嫌気下の何れでも分解され、活性汚泥中でも良好な生分解性を示すポリエチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート/アジペートは特に好適である。
【0024】
さらに、生分解性樹脂とデンプン、変性デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、大豆タンパク、コラーゲン、ケラチンなどの天然物とのブレンド物も好適である。
さらにまた、上述のごとき生分解性樹脂の分子量は、数平均で1000〜3000000であるが、好ましくは10000〜200000、更に好ましくは20000〜200000、更に好ましくは50000〜200000である。
数平均分子量が3000000より大きい場合は、加工性が不十分となることがある。
【0025】
本実施例では、汚染土壌に供給する生分解性樹脂として、中・高分子量の生分解性樹脂を用いているため成形加工性が良好であり、汚染土壌に対して好適な形態で供給することができ、また徐放性の生分解性樹脂であるため、長期間に亘って安定的に生分解反応が行なわれ、汚染土壌中の水素供給剤・栄養基質の濃度を適正に維持することが可能である。また、水素供給後に二酸化炭素と水に分解されるため2次汚染の惧れがない。
【0026】
ここで、上記した生分解性物質を用いた場合の汚染土壌浄化設備の具体的構成の一例につき説明する。
図1は本実施例に係る汚染土壌の浄化設備(注入井)の構成を示す概略図、図2は図1に示した浄化設備の平面図、図3は図1の他の実施例に係る汚染土壌の浄化設備(浄化壁)の構成を示す概略図である。
図1及び図2に示されるように、処理対象とする汚染土壌は、上層から盛土層20、粘度層21、玉石混じり砂礫層22、粘土層23の順に堆積した土壌であり、前記玉石混じり砂礫層22が地下水の流れる帯水層となっている。この汚染土壌に、帯水層まで到達する注入井11を複数掘削し形成する。そして、前記注入井11に液体状若しくは固体状の生分解性樹脂10を注入/充填する。地下水の流れによって注入井11に注入/充填された生分解性樹脂からH12が徐々に放出され、このH12により注入井周辺の汚染物質が微生物の作用によって還元脱塩素化反応により分解、除去される。好適には、粒状の生分解性樹脂を利用すると良い。この構成によれば、生分解性樹脂の再充填が可能であり、繰り返し同じ注入井11を利用して生分解性樹脂を供給できる。
また、別の構成として、掘削孔(又は掘削坑)を掘削形成し、生分解性樹脂を該掘削孔に直接注入/充填するようにしても良い。この場合、簡単に生分解性樹脂を土壌中に供給することができ、コストを低減することができる。
【0027】
また図3は、汚染土壌に生分解性樹脂粒状体13を埋設し、ブロック状の反応帯を形成した設備となっている。粘土層23の上端まで掘削したエリアに生分解性樹脂粒状体13の注入により透過性の浄化壁14を設置した。
生分解性樹脂を粒状体として充填すると、粒子間に間隙ができるため透過性となり、注入井11、浄化壁14を地下水が通過することが可能となり、粒子間を地下水が通過する間に汚染物質が分解され浄化される。また、粒状体の粒径の変更や粒径の異なる粒状体の組み合わせにより透水性を制御することが好ましく、これにより周囲の帯水層の透水性の合わせて反応帯の透水性を調整することが可能となる。この構成によれば、浄化壁の形状、配置次第で生分解性樹脂の再充填を可能にできる。
【0028】
また、特に石油系炭化水素に関しては、好気性条件下において好気性微生物により分解され易いことが広く知られているが、嫌気性条件下においても脱硝酸塩、鉄(III)還元、硫酸塩還元、およびメタン生成等、各種電子受容体を利用しながら石油系炭化水素を分解する嫌気性微生物によって分解される。
従って、前記生分解性樹脂を水素供給剤・微生物の栄養基質として土壌中に注入することにより、微生物による土壌中の硝酸塩、鉄(III)、硫酸塩等の還元および石油系炭化水素の分解を促進することが可能である。
また、前記生分解性樹脂の土壌中への注入と合わせて硝酸塩、鉄(III)、硫酸塩等の電子受容体の土壌中への注入を行うことにより、石油系炭化水素の嫌気性微生物による分解を促進する方法も考えられる。
【0029】
次に、本実施例に係る生分解性樹脂の有効性を評価するために、水田土壌におけるトリクロロエチレンの分解に伴う塩素化脂肪族炭化水素(CAHs)の濃度変化について実験を行なった。
(実験内容)
50ml密閉ガラスバイヤルに水田土壌5g、各種有機物からなる水素供給剤0.0135g及び滅菌水を天下し、全量を27mlとしたものに終濃度10ppm(mg/l)となるようにトリクロロエチレン(TCE)を添加して培養を行い、一定期間培養後の気相をガスタイトシリンジで一定量引き抜き、GC/MSにてTCE及び分解生成物質の濃度を測定した。
TCEは、実験開始時(0日目)に添加し、トリクロロエチレン(TCE)、ジクロロエチレン(DCEs)、塩化ビニル(VC)の濃度を測定し、その時系列変化を図4〜図9に示す。
【0030】
比較例1は水素供給剤を添加しない場合(図4)、比較例2は水素供給剤として粉末コーンスティープリカー(オリエンタル酵母工業(株)製)を用いた場合(図5)、比較例3は水素供給剤として酵母エキス(オリエンタル酵母工業(株)製)を用いた場合(図6)、比較例4は水素供給剤として乳清ペプトン(オリエンタル酵母工業(株)製)を用いた場合(図7)である。
一方、実施例1は水素供給剤として中分子量のポリエチレンサクシネート系重合体(日本触媒(株)製、数平均分子量22500)を用いた場合(図8)、実施例2は水素供給剤として中高分子量のポリエチレンサクシネート系重合体(日本触媒(株)製、数平均分子量77900)を用いた場合(図9)である。尚、実施例1及び実施例2で用いられる生分解性樹脂は、少なくとも嫌気性条件下で生分解される化合物であり、且つ図示されるように水素供給剤の供給から50日目のTCEの残存率が、水素供給剤の供給直前(0日目)のTCE量に対して10〜80%の範囲内のものである。
【0031】
(評価結果)
比較例1を除いて比較例2〜比較例4では急速にTCEが低減するが、何れの場合も20日前後でDCEsが急上昇してTCE濃度を大きく上回っており、DCEsの蓄積が懸念される。比較例1については、DCEs濃度は低いもののTCE濃度が高く、TCEの分解反応を含めてCAHsの分解が非常に遅いことが判る。これに対して、実施例1及び実施例2では、水素供給剤の供給後に徐々にTCE濃度が低減し、実施例2では僅かにDCEsが上昇しているものの何れの実施例においてもTCE濃度がDCEs濃度よりも高く、DCEsの濃度上昇を抑制し、バランスよくCAHsの浄化を図ることが可能であることが明らかである。従って、実施例1及び2に示されるような分解速度を有する物質、即ち図8及び図9から明らかなように生分解性樹脂供給前(0日目)から供給後50日目までのTCE濃度が80%以下、好ましくは50%以下となるような分解速度を有する生分解性樹脂を用いることで、中間生成物の蓄積を防止できることがわかる。特に、0日目〜22日目までにTCE濃度が50%以下まで減少しており、この分解速度を有する生分解性樹脂であることが好ましい。
このように本実施例によれば、TCEの残存率に基づいてDCEsの分解速度を制御することにより、中間生成物の蓄積を防ぎ、汚染物質を無害化された最終生成物まで安定して完全に分解除去することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施例に係る汚染土壌の浄化設備(注入井)の構成を示す概略図である。
【図2】図1に示した浄化設備の平面図である。
【図3】図1の他の実施例に係る汚染土壌の浄化設備(浄化壁)の構成を示す概略図である。
【図4】比較例1に係り、水素供給剤を添加しない場合の実験土壌におけるCAHs濃度の変化を示すグラフである。
【図5】比較例2に係り、水素供給剤として粉末コーンスティープリカーを用いた場合の実験土壌におけるCAHs濃度の変化を示すグラフである。
【図6】比較例3に係り、水素供給剤として酵母エキスを用いた場合の実験土壌におけるCAHs濃度の変化を示すグラフである。
【図7】比較例4に係り、水素供給剤として乳清ペプトンを用いた場合の実験土壌におけるCAHs濃度の変化を示すグラフである。
【図8】本実施例1に係る中分子量の生分解性樹脂を水素供給剤として用いた場合の実験土壌におけるCAHs濃度の変化を示すグラフである。
【図9】本実施例2に係る高分子量の生分解性樹脂を水素供給剤として用いた場合の実験土壌におけるCAHs濃度の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
10 生分解性樹脂
11 水素供給剤注入井
12 H
13 生分解性樹脂粒状体
14 浄化壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機塩素系化合物或いは石油系炭化水素からなる汚染物質を含有した汚染土壌に生分解性樹脂を供給し、前記汚染物質を土壌中の微生物の作用により分解除去する生分解性樹脂を利用した土壌浄化方法において、
前記生分解性樹脂は、少なくとも嫌気性条件下で生分解する中・高分子量の生分解性樹脂であり、且つ該生分解性樹脂の供給後に下記数(1)で表される汚染土壌中のトリクロロエチレンの残存率が10〜80%であることを特徴とする生分解性樹脂を利用した土壌浄化方法。
(X/Y)×100 …(1)
X:生分解性樹脂供給後50日目のトリクロロエチレン量
Y:生分解性樹脂供給前(0日目)のトリクロロエチレン量
【請求項2】
前記生分解性樹脂は、15日間での好気性条件下における相対生分解率が30%以上、28日間での好気性条件下における相対性分解率が50%以上、或いは120日間での嫌気性条件下における相対生分解率が50%以上の少なくとも何れか一つを満たすことを特徴とする請求項1記載の生分解性樹脂を利用した土壌浄化方法。
【請求項3】
前記生分解性樹脂が粒状体であり、該粒状体を汚染土壌中に埋設することにより反応帯を形成するようにし、前記粒状体の粒径若しくは異なる粒状体の組み合わせにより前記反応帯の透水性を制御するようにしたことを特徴とする請求項1記載の生分解性樹脂を利用した土壌浄化方法。
【請求項4】
前記生分解性樹脂が、ポリエチレンサクシネートを主体とする化合物であることを特徴とする請求項1記載の生分解性樹脂を利用した土壌浄化方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一に記載の土壌浄化方法に用いることを特徴とする生分解性樹脂。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−218456(P2006−218456A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−36813(P2005−36813)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(390023249)国際航業株式会社 (55)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】